問1 インターネットサービス事業者による総合金融サービスの提供
インターネットサービス事業者による総合金融サービスの提供に関する次の記述を読んで,設問に答えよ。
A 社は,検索サイト事業や EC サイト事業を運営する企業である。積極的なサービス開発と M&A によって,インターネットバンキング(以下,ネットバンキングという)やインターネット証券,インターネット保険などの金融サービス事業や広告事業,旅行仲介事業を傘下に収め,これまで金融市場をはじめとする様々な市場で事業を拡大させてきた。A 社はこうした拡大を将来にわたり継続しながら,今後は顧客のあらゆる経済活動を,A 社グループのサービスを組み合わせたデジタル空間で実現,循環させる,デジタル経済圏(以下,A 経済圏という)の確立を目指している。
J 銀行は,A 社の子会社である。元は大手都市銀行の子会社として設立され,数年前に M&A によって A 社の傘下に加わった,国内ネットバンキングのパイオニアである。シンプルで分かりやすい UI とサービスの安定性によって顧客を集め,インターネット専業銀行として独自の地位を築いている。
〔A 社の戦略〕
近年,A 社は新たなサービスとして QR コード決済サービス(以下,A-Pay という)の提供を開始した。A-Pay は,申込みから利用開始,決済までを全てスマートフォンで完結できる利便性が評価され,多くの利用者を集めている。また,加盟店からは店頭取引に専用の決済端末を必要としない利便性が評価され,QR コード決済サービスの市場で大きなシェアを獲得し,国内キャッシュレス取引の拡大をけん引している。
A 社は,今後の金融サービスは,デジタル空間での取引が中心になると考えており,A-Pay の成功を足掛かりに,“銀行,証券,保険などのあらゆる金融サービス機能を,デジタル空間で統合した総合金融サービス”(以下,A-Include という)を提供することによって,A 経済圏への顧客囲い込みを強化できると考え,次の施策を行うことにした。
A-Pay 利便性強化のための,A-Pay の決済サービスと J 銀行の決済サービス連動 顧客が A-Include を利用するための,スマートフォン用のアプリケーションプログラム(以下,A アプリという)の開発 A-Include の実現に必要となる,J 銀行勘定系システムの再構築 〔A-Pay の利便性強化〕
A-Pay では,次の方式によって QR コード決済サービスを実現している。
① 利用者はスマートフォンを利用し,銀行口座又はクレジットカードを通じて A-Pay 内で使える電子マネー(以下,A ポイントという)を購入する。 ② 利用者は A-Pay 加盟店で商品やサービスを購入する際に,スマートフォンで加盟店が示す QR コードを読み取り,保有する自分の A ポイントで支払う。 ③ 利用者が A ポイントを購入するときは手数料を支払わないが,A ポイントを利用者の銀行口座に預金として払い戻すときは,手数料が差し引かれる。 ④ 加盟店が受け取った A ポイントは 1 か月に 2 回集計され,所定の手数料率による手数料を差し引いた払戻金が,数日後に加盟店の銀行口座に入金される。 A-Pay の利用者からは,クレジットカードなどでは実質的に無料で決済サービスを利用できることと異なり,A-Pay では銀行口座に A ポイントを払い戻すときに手数料が生じる点に不満が寄せられていた。また加盟店からも,売上げから入金までに最大半月程度のタイムラグがあり,資金繰りが悪化するなどの理由で,入金の早期化と手数料率の引下げを求められていた。競合事業者の追上げもあり,これらの状況を放置すれば,シェアの低下を招く懸念があった。
そこで A 社は,J 銀行口座を保有する A-Pay の利用者と加盟店に,表1に示す決済サービスを提供し,J 銀行の決済サービスと A-Pay の決済サービスの相互利用時の利便性を強化することによって,顧客ニーズに対応することにした。
表1 顧客ニーズへの対応
〔A アプリの開発〕
A 社が A-Include の主要な顧客として注目する世代は,1990 年代以降に出生した若者世代である。他の世代と比較して顧客としての継続期間が長い可能性があり,顧客生涯価値が高いことを期待できる。生活においては多様な価値観と効率性を重視し,親世代が経験した経済不況の影響による将来不安を反映して,生活防衛や資産形成に潜在的な関心があると推定されている。
しかし,この世代への金融サービス販売は進んでいない。テストサイトなどを用いた調査の結果,保険や投資などに関心をもって検索する人はいても,どの商品が良いかが分からないなど,多くは契約に至っていないことが分かった。また,申込書類など資料の取り寄せはスマートフォンで行えても,正式な契約手続として,手書きによる契約書の提出や本人確認書類の郵送が,契約の都度必要となるなどの煩雑さも原因と推定された。
このことを踏まえ A 社は,次の機能を備えた A アプリを開発することにした。
① J 銀行のネットバンキング機能をはじめ,A-Pay やインターネット証券,インターネット保険など,A 社グループの全ての金融サービス機能を,A アプリを通じて提供する。これらサービス機能は,サービスの追加に対応して順次追加する。 ② A アプリ内では共通通貨として,多様な決済に A ポイントを利用できる。 ③ 検索サイトや EC サイトなど金融サービス機能以外の A 社グループのサービスも A アプリを通じて提供し,全てのサービスの利用履歴を A アプリに記録する。 ④ 将来のサービスの追加に備え,十分な柔軟性と拡張性を確保する。 ⑤ A アプリに利用者が登録した個人情報などのデータを保存し,利用者の操作によって,以後の A アプリで行う処理に利用できる。 ⑥ AI による家計分析を行い,顧客の志向に沿った生活防衛や資産形成を提案する。 〔J 銀行勘定系システムの再構築〕
J 銀行の勘定系システムは,親会社であった大手都市銀行のソフトウェア資産を流用して構築され,“預金”,“為替”などの業務の間でシステム機能同士が密接に連動しており,これまでもサービスの追加や修正において,影響範囲の特定に多大な時間を要することや,システム改修に多くの費用を要することなどが,構想実現の足かせとなっていた。
そこで A 社は,J 銀行勘定系システムの機能を再編し,細分化して整理した機能を組み合わせて業務を実現する形態にシステムを再構築した上で,A アプリに提供する次の機能を,J 銀行勘定系システムに追加することにした。
“預金”,“為替”などの業務を,API 機能として A アプリに提供する。
顧客の属性や認証データをプロファイルデータとして保管する。API 呼出しによって,保管したプロファイルデータを A アプリに提供する。
J 銀行勘定系システム内で,A ポイント残高に預金残高と等価交換できる価値をもたせ,相互に両替できる。
出題趣旨(IPA)
ITストラテジストには,業種ごとの事業特性を踏まえて,経営戦略の実現に向けたITを活用した事業戦略を策定する能力が求められる。本問では,インターネットサービス事業者による総合金融サービスの提供を題材として,事業環境の下で発生している課題に対して,ITを活用した幾つかの施策と情報システム対策を策定する能力を問う。具体的には,企業グループの経営戦略を支えるための,各事業課題に対する施策とその理由,及びその施策の実現のために必要となる情報システム機能の構築能力を問う。
採点講評(問全体・IPA)
問1では,インターネットサービス事業者による総合金融サービスの提供について出題した。全体として正答率は平均的であった。
ITストラテジストは,対象となる事業・市場環境を分析,評価した上で,経営戦略の実現に向けたITを活用した事業戦略を策定する能力を高めてほしい。
設問と解答例
設問1(1)
35字以内
A 社が A-Include を構築する目的は,A 社のどのような戦略を実現するためか。35 字以内で答えよ。
解答例
デジタル空間において,A経済圏への顧客囲い込みを強化する戦略
解説
本文の根拠
冒頭
今後は顧客のあらゆる経済活動を,A 社グループのサービスを組み合わせたデジタル空間で実現,循環させる,デジタル経済圏(以下,A 経済圏という)の確立を目指している。
〔A 社の戦略〕
A 社は,今後の金融サービスは,デジタル空間での取引が中心になると考えており
〔A 社の戦略〕
を提供することによって,A 経済圏への顧客囲い込みを強化できると考え,次の施策を行うことにした。
A 社が A-Include を提供するのは,それによって「A 経済圏への顧客囲い込みを強化できる」と考えたからである。A 経済圏は,顧客の経済活動を A 社グループのサービスを組み合わせたデジタル空間で実現,循環させるものなので,戦略は「デジタル空間において,A 経済圏への顧客囲い込みを強化する」とまとめられる。
〔A 社の戦略〕の段落が,目的と手段の関係をそのまま書いている。金融サービスはデジタル空間での取引が中心になるという見通しがあり,あらゆる金融サービス機能をデジタル空間で統合した A-Include を出す。その結果として狙うのが顧客囲い込みの強化である。A 経済圏の確立は冒頭で A 社が目指す姿として書かれているが,設問は「どのような戦略」かを問うので,確立という到達点ではなく,そこへ向けて何をするか(囲い込みの強化)を書く。
35字以内。解答例は30字。「デジタル空間」「A 経済圏」「顧客囲い込みの強化」の三つを入れれば,本文の言葉だけで組み立てられる。
設問1(2)
解答欄2つ
A-Include の提供に当たり,A 社が生かすことができると考えた,市場における自社の競争優位性を二つ挙げ,それぞれ 35 字以内で答えよ。
〔①〕解答例
QRコード決済サービスで大きなシェアを獲得していること
〔②〕解答例
銀行,証券,保険などの金融サービス機能を傘下にもつこと
解説
本文の根拠
〔A 社の戦略〕
QR コード決済サービスの市場で大きなシェアを獲得し,国内キャッシュレス取引の拡大をけん引している。
冒頭
インターネットバンキング(以下,ネットバンキングという)やインターネット証券,インターネット保険などの金融サービス事業や広告事業,旅行仲介事業を傘下に収め
〔A 社の戦略〕
“銀行,証券,保険などのあらゆる金融サービス機能を,デジタル空間で統合した総合金融サービス”(以下,A-Include という)
A-Include は銀行,証券,保険などの金融サービス機能をデジタル空間で統合するサービスである。これを始めるときに生かせる A 社の強みは,市場での立ち位置として本文に二つ書かれている。一つは A-Pay が QR コード決済サービスの市場で大きなシェアを獲得していること,もう一つは M&A などで銀行(J 銀行),証券,保険の金融サービス事業を傘下にもっていることである。
前者は「A-Pay の成功を足掛かりに」A-Include を提供するという記述とつながり,多くの利用者と加盟店をすでに抱えている点が出発点になる。後者は A-Include が統合する中身そのものを自社グループで持っている点である。講評が指摘するとおり,“A-Pay の利便性”や“高い評価”だけでは競争優位性にならない。利便性や評価の結果として市場でシェアを獲得していることまで書く。
各35字以内。解答例はどちらも27字。①は「QR コード決済サービス」「大きなシェア」,②は「銀行,証券,保険」「傘下にもつ」を入れる。
採点講評(IPA)
設問1(2)は,正答率は平均的であったが,単に“A-Payの利便性”や“A-PayやJ銀行が利用者から高い評価を受けている”といった解答が散見された。これら利便性や高い評価を背景として,市場でシェアを獲得していることが,市場におけるA社の競争優位性となっていることを理解してほしい。
設問2
解答欄2つ
〔A-Pay の利便性強化〕について答えよ。A-Pay の利便性強化は,どのような顧客ニーズに対応する狙いがあるか。表1中の[ ア ],[ イ ]に入れる適切な字句を,それぞれ 15 字以内で答えよ。
解説
本文の根拠
〔A-Pay の利便性強化〕③
利用者が A ポイントを購入するときは手数料を支払わないが,A ポイントを利用者の銀行口座に預金として払い戻すときは,手数料が差し引かれる。
〔A-Pay の利便性強化〕
A-Pay の利用者からは,クレジットカードなどでは実質的に無料で決済サービスを利用できることと異なり,A-Pay では銀行口座に A ポイントを払い戻すときに手数料が生じる点に不満が寄せられていた。
〔A-Pay の利便性強化〕
売上げから入金までに最大半月程度のタイムラグがあり,資金繰りが悪化するなどの理由で,入金の早期化と手数料率の引下げを求められていた。
表1
受け取った A ポイントを毎日集計し,翌日以降の加盟店が指定した日に払戻金を入金する
表1の各行は,本文に書かれた利用者と加盟店の不満に一つずつ対応している。利用者の行の「手数料を差し引かずに銀行口座に預金として払い戻す」は,払戻し時に手数料が生じる点への不満に応えるもので,ニーズは[ ア ]手数料の無料化である。加盟店の1行目の「毎日集計し,翌日以降の加盟店が指定した日に払戻金を入金する」は,月2回の集計による最大半月のタイムラグへの不満に応えるもので,ニーズは[ イ ]入金の早期化である。
加盟店の要望は「入金の早期化と手数料率の引下げ」の二つで,手数料の側は表1の3行目に“手数料負担の軽減”としてすでに書かれている。残る入金の早期化が[ イ ]に入る。利用者について“無料化”とするのは,比較の相手であるクレジットカードが「実質的に無料」とされ,表1のサービスも手数料を全く差し引かないからである。
各15字以内。解答例は7字と6字。本文の言葉(手数料,入金の早期化)をそのまま使えばよい。
設問3(1)
解答欄2つ
A 社が金融サービスの新たな顧客層として若者世代に注目する理由を二つ挙げ,それぞれ 25 字以内で答えよ。
解説
本文の根拠
〔A アプリの開発〕
他の世代と比較して顧客としての継続期間が長い可能性があり,顧客生涯価値が高いことを期待できる。
〔A アプリの開発〕
親世代が経験した経済不況の影響による将来不安を反映して,生活防衛や資産形成に潜在的な関心があると推定されている。
若者世代に注目する理由は,〔A アプリの開発〕の最初の段落に二つ並んでいる。一つは顧客としての継続期間が長く,顧客生涯価値が高いと期待できること,もう一つは生活防衛や資産形成に潜在的な関心があると推定されていることである。前者は顧客としての価値,後者は金融サービスへの需要の側からの理由になる。
設問は「金融サービスの新たな顧客層として」注目する理由を問うので,金融サービスと結び付く記述を選ぶ。「多様な価値観と効率性を重視」も同じ段落にあるが,これは生活スタイルの説明で,金融サービスの顧客として注目する理由にはならない。
各25字以内。解答例は11字と21字。理由を問われているので,文末を「〜から」で結ぶ。
設問3(2)
解答欄2つ
A 社が次の機能を A アプリに備えることにした目的を,それぞれ 35 字以内で答えよ。(ア)全てのサービスの利用履歴を A アプリに記録 (イ)個人情報などのデータを保存
〔(ア)〕解答例
AIによる分析に基づいた資産形成を,利用者の志向に沿って提案するため
〔(イ)〕解答例
利用者がAアプリ内の契約手続で利用できるようにするため
解説
本文の根拠
〔A アプリの開発〕
保険や投資などに関心をもって検索する人はいても,どの商品が良いかが分からないなど,多くは契約に至っていないことが分かった。
〔A アプリの開発〕⑥
AI による家計分析を行い,顧客の志向に沿った生活防衛や資産形成を提案する。
〔A アプリの開発〕
正式な契約手続として,手書きによる契約書の提出や本人確認書類の郵送が,契約の都度必要となるなどの煩雑さも原因と推定された。
〔A アプリの開発〕⑤
A アプリに利用者が登録した個人情報などのデータを保存し,利用者の操作によって,以後の A アプリで行う処理に利用できる。
本文は,若者世代が契約に至らない原因を二つ挙げている。「どの商品が良いかが分からない」ことと,契約の都度必要になる手続の煩雑さである。(ア)の利用履歴の記録と(イ)の個人情報の保存は,それぞれの原因に対応する機能である。(ア)は,全てのサービスの利用履歴を集めることで⑥の AI による家計分析の材料をそろえ,利用者の志向に沿った資産形成を提案するためである。(イ)は,登録済みの個人情報を契約手続に使えるようにして,契約書の手書きや本人確認書類の郵送といった手間をなくすためである。
(ア)は③の機能だが,それだけでは目的にならない。履歴を何に使うかは⑥に書かれており,③と⑥をつなげて読む。(イ)は⑤の「以後の A アプリで行う処理に利用できる」の処理が何かを,煩雑さの原因として挙げられた契約手続から特定する。
各35字以内。解答例は34字と27字。(ア)は「AI による分析」「志向に沿って」「提案」,(イ)は「A アプリ内の契約手続で利用」を入れる。
設問4(1)
35字以内
A 社が J 銀行勘定系システムに A ポイント残高管理機能を追加した目的は何か。A アプリの機能に着目して,35 字以内で答えよ。
解答例
Aアプリ内で,多様な決済にAポイントを利用できるようにするため
解説
本文の根拠
〔J 銀行勘定系システムの再構築〕③
J 銀行勘定系システム内で,A ポイント残高に預金残高と等価交換できる価値をもたせ,相互に両替できる。
〔A アプリの開発〕②
A アプリ内では共通通貨として,多様な決済に A ポイントを利用できる。
A ポイント残高管理は,A ポイント残高を預金残高と等価で相互に両替できるようにする機能である。これによって A ポイントは A-Pay の中だけで使える電子マネーから,銀行預金と同じ価値をもつものになる。設問は「A アプリの機能に着目して」と指定しているので,A アプリの②「共通通貨として,多様な決済に A ポイントを利用できる」がこの機能の行き先になる。
預金と等価で交換できるからこそ,A アプリで提供する証券や保険など A 社グループの多様な決済に A ポイントを共通通貨として使える。勘定系システムの機能(A ポイント残高管理)とアプリの機能(②)を対応させるのが解き方である。
35字以内。解答例は31字。「A アプリ内で」「多様な決済に」「A ポイントを利用できる」と,②の言葉をそのまま目的の形に直せばよい。
設問4(2)
35字以内
A 社は A 社事業におけるどのような A-Include の将来構想に基づき,J 銀行勘定系システムの再構築を行ったか。35 字以内で答えよ。
解答例
継続的なサービスの追加に対応し,サービス機能を順次追加する構想
解説
本文の根拠
冒頭
A 社はこうした拡大を将来にわたり継続しながら
〔A アプリの開発〕①
これらサービス機能は,サービスの追加に対応して順次追加する。
〔J 銀行勘定系システムの再構築〕
これまでもサービスの追加や修正において,影響範囲の特定に多大な時間を要することや,システム改修に多くの費用を要することなどが,構想実現の足かせとなっていた。
〔J 銀行勘定系システムの再構築〕
J 銀行勘定系システムの機能を再編し,細分化して整理した機能を組み合わせて業務を実現する形態にシステムを再構築した
A 社はサービス開発と M&A による事業の拡大を将来にわたり続ける。A アプリの①も「サービスの追加に対応して順次追加する」としている。A-Include の将来構想は,継続的に増えるサービスに対応して,サービス機能を順次追加していくことである。旧来の勘定系システムは機能同士が密接に連動し,サービスの追加や修正のたびに影響範囲の特定と改修に時間と費用が掛かっていた。これが構想実現の足かせになるので,機能を細分化して組み合わせる形に再構築した。
講評は,“顧客のあらゆる経済活動を A 社サービスの組み合わせで実現,循環させる”といった A 経済圏の説明をそのまま書いた解答が多かったと述べている。問われているのは再構築の根拠になった A-Include の構想であり,再構築で解決する課題(サービスの追加や修正が難しい)と結び付くものを選ぶ。
35字以内。解答例は31字。「継続的なサービスの追加に対応」「サービス機能を順次追加」の二つを入れ,「構想」で結ぶ。
採点講評(IPA)
設問4(2)は,正答率が低く,“顧客のあらゆる経済活動をA社サービスの組み合わせで実現,循環させる”などの解答が散見された。A社はサービス開発とM&Aによる事業拡大を将来にわたり継続しながら,A経済圏を確立する戦略である。このため,A-Includeは,継続的なサービスの追加に対応し,順次サービス機能を追加する構想をもつ。A社の戦略を踏まえたA-Includeの将来構想を理解してほしい。
出典:令和6年度 春期 ITストラテジスト試験 午後Ⅰ 問1(表記を一部改変)
問2 地方新聞社における IT を活用したビジネスモデル変革
地方新聞社における IT を活用したビジネスモデル変革に関する次の記述を読んで,設問に答えよ。
H 社は,K 地域を中心に活動する地方新聞社であり,全国紙に次ぐ購読者数をもっている。K 地域は,古くから発展してきた歴史的な都市や,政財界人を多く輩出する都市,特色のある大学が拠点を置く都市などが散在するが,地域全体としては,1 次,2 次産業が中心であり,人口減少や産業の衰退などが大きな社会課題となっている。H 社は,K 地域に密着して得た多くの記事やコンテンツをもつ点や,K 地域の政財界の各団体や企業,文化人を多く知っており,密接にコミュニケーションを行っている点など,地方紙ならではの強みをもっている。一方で,昨今の地方消滅などと言われる状況は,H 社にとって収益減につながり,経営基盤そのものを揺るがす大きなリスクだと認識している。
〔H 社の現状〕
H 社の収益源は,紙面販売が 6 割,広告収入が 3 割,残りは雑誌や書籍などの出版物販売などである。
H 社の紙面購読者は,昔から継続購読している高齢者が中心であるが,購読者数は漸減しており,若い世代の購読者数も伸びていない。デジタル版も発行しているが,デジタル版ならではのコンテンツは提供できておらず,購読者数の回復には至っていない。若い世代は,歴史や伝統工芸品,K 地域の身近な課題にも興味はあるが,スマートフォンを利用して様々な情報を得ており,リアルタイムな情報とそれに対するフィードバックが返せるような双方向コミュニケーションが人気であり新聞離れが進んでいる。H 社は,一般記事に加え,地域の歴史ある建造物や伝統工芸品などに関する研究内容や史実に関する記事,地域医療や介護,働きやすさなどの社会課題といった地域性の高い記事を多く報道してきている。最近,読者目線で社会課題を捉えたコンテンツを立ち上げ,一般の読者からテーマを募集し,記事の投稿を受け付ける取組を開始した。この取組では,記事投稿者を“トナリのレポーター”(以下,トナレポという)と呼び,トナレポが取り上げたテーマのうち,編集部が注目した一部のテーマは,H 社が詳細な調査やインタビューを行ったり,関連する各団体などに取材を申し入れたりして,その見解もトナレポが投稿した記事に追加して掲載する。K 地域の自治体は,トナレポの投稿記事をきっかけとして,当該テーマを政策検討に取り入れ,子育て世代の流入を増やすといった成果を出した先進自治体として注目を集めている。この取組による成果が評判となり,社会課題の研究者や意識の高い若い世代の購読者数が増加傾向にある。また,同様の社会課題を抱える他地域の自治体や地方新聞社からも問合せが来ている。本取組は,従来型の一方向の情報提供の形をとっているが,双方向コミュニケーションができれば,更に購読者数の増加が期待できる。
H 社は,記事制作を通じて蓄積した地域性の高い情報を生かして,旅行や歴史,伝統工芸品をテーマにした書籍や雑誌を出版し,全国の書店で販売しており,国内での評価は高い。しかし,紙媒体であることや多言語対応ができていないことから,海外では認知されていない。
近年,訪日外国人観光客が増加している。K 地域は,歴史ある建造物などが多く,外国人観光客の人気も高い。旅行会社には,外国人観光客から“母国語の資料があれば是非読みたい”との声も多く寄せられていることから,旅行会社から H 社に対し多言語の出版物や資料の問合せが増加しているが,応えられていない。
紙面版の新聞に掲載する広告は,読者が紙面版の購読者に限定されるので,紙面の販売部数減少とともに広告掲載する企業も減少している。デジタル版はまだ購読者数は少なく広告収入は少ない。H 社が出版する地域の歴史ある建造物や伝統工芸品を特集した雑誌への広告掲載は,全国の購読者への宣伝を狙って,伝統工芸品を扱う企業などからは広告掲載の申込みは多いが,紙面広告と比較すると雑誌の売上げは少なく,H 社の収益改善には余り寄与していない。デジタルを活用した広告機会が増えれば,新たな収益源として期待できるが,実現できていない。
〔アンケート調査〕
現状を踏まえ H 社は,今後の H 社に期待する役割を把握するために,K 地域の様々な人にアンケート調査を行った。
若い世代:“自治体や他の読者との双方向のタイムリーなコミュニケーションを通じて,子育てや働き方,地域の暮らしにおけるウェルビーイング(Well-Being)などに関する若い世代の声を表明する場を提供してほしい。” 伝統工芸品を扱う企業:“お客様に伝統工芸品の魅力を伝え,お客様からの感想や要望を確認するといった,情報発信や交流の場があれば参加し,双方向コミュニケーションの中から新しい顧客やイノベーションを見いだしたい。” 旅行会社:“旅行会社の営業が見込み客に対し,より魅力ある K 地域で活躍する人と触れ合える体験型の旅行を提案するために,旅行前にそれらの人と見込み客とが交流する場を提供してほしい。また,多言語対応を加速してほしい。” その他,アンケート調査の結果からは,H 社に期待する役割は多様化しており,どの領域でも,これまでのような一方向の情報提供ではなく,双方向コミュニケーションによる社会価値共創を期待する人が増えていることが読み取れた。
〔ビジネスモデルの変革に向けた方針〕
自社の現状やアンケート調査の結果を受け H 社は,デジタル化へと大きくかじを切ることにした。そして,目指すべきビジョンを“地域社会を活性化するデジタルメディアになる”と定義した。具体的には,自社の強みを生かして,地域社会におけるコミュニケーションハブとなることによってビジネスモデルを変革する。その上で,次の三つの方針を定めた。
(1) 読者である住民の社会課題検討を促し,K 地域の政財界の各団体や企業,文化人などとの双方向コミュニケーションを通じて K 地域の活性化を実現する。 (2) K 地域に興味をもつ他地域の企業や人々と,K 地域の歴史ある建造物や伝統工芸品との新たな出会いを促し,K 地域の活性化を実現する。 (3) これらの取組を H 社や K 地域だけに閉じるのではなく,全国に広めていくことによって日本の社会課題の解決に貢献する。 〔デジタルメディアの立ち上げ〕
H 社は,新聞記事の紙面販売及びデジタル版販売は継続しつつも,デジタルメディアのプラットフォームを構築することとした。そして,プラットフォームを利用した施策の第一弾として,次の二つのデジタルメディアを立ち上げることとした。これによって,アンケート調査の結果で明らかとなった H 社に期待する役割に対応することができる。また,従来の一方向の情報提供だけでなく,双方向コミュニケーションにも強い地方メディアを体現し,K 地域の活性化に貢献し,個々の読者のニーズに密着した情報を提供していく。今後,構築したプラットフォームは,他地域の地方新聞社にも利用を促し,プラットフォーマーとしての収益獲得も計画している。
(1) トナレポデジタル:デジタル版の読者が利用できるスマートフォンアプリケーションプログラムを使ったデジタルメディア。若い世代をターゲットに紙面版で好評なトナレポの投稿記事に対して,スマートフォン経由で迅速な双方向コミュニケーションを可能とする。 (2) テーマ特化メディア(以下,TM という):K 地域の特色に特化したテーマを扱うデジタルメディア。第一弾では,インバウンド需要の拡大に備え,外国人観光客を主な利用者に想定し観光をテーマとした TM(以下,観光 TM という)を立ち上げる。 〔トナレポデジタル〕
デジタル版の読者と,政財界の各団体や文化人とをつなぐメディアである。
読者は,自身が感じる社会課題の記事をトナレポデジタルへ投稿する。H 社の編集部では投稿された記事の内容を確認し,掲載可能と判断した記事をトナレポデジタルへ掲載する。H 社の編集部は,必要に応じて各団体などへの取材を通じて深掘りした記事や,社会課題の研究者の協力を得て行った共同研究の成果を,投稿記事に併せてトナレポデジタルに掲載する。記事が掲載された読者(以下,投稿者という)は,トナレポデジタル内のコミュニティルームにスレッドを立てることができる。投稿者は,スレッド内で各団体などや他の読者と双方向のタイムリーなコミュニケーションができる。
H 社は,今後はトナレポデジタルの活動で蓄積したノウハウを活用し,双方向コミュニケーションによる社会価値共創の取組を全国に普及させるために他地域の自治体や地方新聞社に対し,有料コンサルティングをしていく計画である。
〔観光 TM〕
観光 TM は,K 地域を模したメタバース空間内のバーチャル地域(以下,V 地域という)で,利用者のアバター同士の交流やショッピング,イベント開催などを行うプラットフォームである。収益モデルは,プラットフォーム利用料や広告収入,販売手数料などである。利用者は,アバターを活用し V 地域を自由に歩き,遠方にいながら K 地域の観光地を巡ることができる。V 地域にはバーチャル展示場(以下,V 展示場という)やバーチャル観光案内所(以下,V 案内所という)を設置する。多言語化された V 展示場では,地域にまつわる伝統工芸品の購入に加え,歴史ある建造物や伝統工芸品に関する研究内容や史実なども照会できる。V 案内所では,観光スポットの紹介のほかに,“K 地域で活躍する工芸家や文化人など”(以下,地域活躍人材という)も紹介する。利用者は,アバターを介して地域活躍人材のアバターと交流を図ることも可能である。AI を活用した逐次翻訳機能によって,外国人でも言葉の壁を感じることなく V 地域の散策や地域活躍人材との交流を行うことができる。旅行会社の営業は,K 地域に実際に訪れたい見込み客を案内し,より充実した旅行プランを一緒に作ることができる。
出題趣旨(IPA)
ITストラテジストには,企業の経営戦略に基づいて,ビジネスモデルにおける特定のプロセスについてITを活用して事業を改革・高度化・最適化するための基本戦略を策定・提案・推進する能力が求められる。本問では,地方新聞社におけるITを活用したビジネスモデル変革を題材として,ITを活用した新たなデジタルメディアを構築し,社会全体の活性化に貢献するための基本戦略の策定・構想を行う能力を評価する。具体的には,新たなビジネスモデルを構築するために今後の新聞社に求める役割の分析,ITを活用したデジタルメディアの構築などについて,実務能力を問う。
採点講評(問全体・IPA)
問2では,地方新聞社におけるITを活用したビジネスモデル変革について出題した。全体として正答率は平均的であった。
ITストラテジストは,対象となる事業を分析した上で,ITを活用した事業戦略を策定し,推進する能力を高めてほしい。
設問と解答例
設問1(1)
25字以内
H 社は施策の第一弾としてデジタルメディアを立ち上げることによって,H 社に期待されているどのような役割を担うことができると考えたか。25 字以内で答えよ。
解答例
解説
本文の根拠
〔アンケート調査〕
H 社に期待する役割は多様化しており,どの領域でも,これまでのような一方向の情報提供ではなく,双方向コミュニケーションによる社会価値共創を期待する人が増えていることが読み取れた。
〔デジタルメディアの立ち上げ〕
これによって,アンケート調査の結果で明らかとなった H 社に期待する役割に対応することができる。
〔デジタルメディアの立ち上げ〕
従来の一方向の情報提供だけでなく,双方向コミュニケーションにも強い地方メディアを体現し
デジタルメディアを立ち上げることで「アンケート調査の結果で明らかとなった H 社に期待する役割に対応することができる」とある。その役割はアンケート調査の結びにまとめられており,一方向の情報提供ではなく「双方向コミュニケーションによる社会価値共創」である。
若い世代,伝統工芸品を扱う企業,旅行会社の回答は,どれも交流や意見表明の「場」を求めている。個別の要望を並べるのではなく,それらをまとめた結びの一文を使う。講評は,従来からの特長である“地域に密着している点”だけを書いた解答が多かったと述べている。地域密着は H 社がもともと持つ強みで,デジタルメディアによって新たに担う役割ではない。
25字以内。解答例は21字で,アンケート調査の結びの言葉をそのまま使っている。
採点講評(IPA)
設問1(1)は,正答率は平均的であったが,従来からの特長である“地域に密着している点”だけの解答が散見された。デジタルメディアの双方向コミュニケーションによって,社会価値共創を実現する,H社の役割を理解してほしい。
設問1(2)
25字以内
H 社がプラットフォームを構築し,他地域の地方新聞社にも利用を促しプラットフォーマーとなることによって目指すことは何か。25 字以内で答えよ。
解答例
解説
本文の根拠
〔デジタルメディアの立ち上げ〕
今後,構築したプラットフォームは,他地域の地方新聞社にも利用を促し,プラットフォーマーとしての収益獲得も計画している。
〔ビジネスモデルの変革に向けた方針〕(3)
これらの取組を H 社や K 地域だけに閉じるのではなく,全国に広めていくことによって日本の社会課題の解決に貢献する。
〔H 社の現状〕(1)
同様の社会課題を抱える他地域の自治体や地方新聞社からも問合せが来ている。
他地域の地方新聞社にプラットフォームを使ってもらうことは,H 社の取組を K 地域の外へ広げることである。方針(3)は,取組を H 社や K 地域だけに閉じず全国に広めることで「日本の社会課題の解決に貢献する」としている。プラットフォーマーになって目指すのはこの方針の実現である。
本文には「プラットフォーマーとしての収益獲得」も書かれているが,これは計画の中身であって,目指すことを問われたときの答えには方針の側を書く。他地域の自治体や地方新聞社から問合せが来ているという記述は,同じ社会課題が全国にあり,広げる意味があることの裏付けになる。
25字以内。解答例は17字。方針(3)の結びの言葉を「〜こと」で結べばよい。
設問2(1)
解答欄2つ
H 社がトナレポデジタルで双方向コミュニケーションを可能とすることによって期待する効果は何か。二つ挙げ,それぞれ 30 字以内で答えよ。
解説
本文の根拠
〔ビジネスモデルの変革に向けた方針〕(1)
読者である住民の社会課題検討を促し,K 地域の政財界の各団体や企業,文化人などとの双方向コミュニケーションを通じて K 地域の活性化を実現する。
〔H 社の現状〕(1)
この取組による成果が評判となり,社会課題の研究者や意識の高い若い世代の購読者数が増加傾向にある。
〔H 社の現状〕(1)
本取組は,従来型の一方向の情報提供の形をとっているが,双方向コミュニケーションができれば,更に購読者数の増加が期待できる。
〔デジタルメディアの立ち上げ〕(1)
トナレポデジタル:デジタル版の読者が利用できるスマートフォンアプリケーションプログラムを使ったデジタルメディア。
効果の一つは地域への効果,もう一つは H 社の事業への効果である。地域の側は方針(1)がそのまま当てはまる。トナレポデジタルは住民である読者が社会課題の記事を投稿し,各団体などと双方向でやり取りする場なので,住民の社会課題検討を促して K 地域の活性化につなげられる。事業の側は購読者数である。紙面のトナレポでも社会課題に関心のある研究者や若い世代の購読者が増えており,双方向コミュニケーションができれば更に増えると本文にある。トナレポデジタルはデジタル版の読者向けなので,増えるのはデジタル版の購読者数である。
〔H 社の現状〕(1)の最後の文「双方向コミュニケーションができれば,更に購読者数の増加が期待できる」が,設問の「双方向コミュニケーションを可能とすることによって期待する効果」と言葉まで対応している。どの層が増えるかは,その直前の「社会課題の研究者や意識の高い若い世代」から取る。
各30字以内。解答例はどちらも24字。①は「社会課題検討を促す」「K 地域の活性化」,②は「社会課題に関心がある層」「デジタル版購読者数の増加」を入れる。
設問2(2)
35字以内
H 社が蓄積したノウハウを活用して他地域の自治体や地方新聞社に対しコンサルティングできると考えた理由は何か。35 字以内で答えよ。
解答例
K地域の自治体が先進自治体として注目を集めているから
解説
本文の根拠
〔H 社の現状〕(1)
K 地域の自治体は,トナレポの投稿記事をきっかけとして,当該テーマを政策検討に取り入れ,子育て世代の流入を増やすといった成果を出した先進自治体として注目を集めている。
〔H 社の現状〕(1)
同様の社会課題を抱える他地域の自治体や地方新聞社からも問合せが来ている。
〔トナレポデジタル〕
双方向コミュニケーションによる社会価値共創の取組を全国に普及させるために他地域の自治体や地方新聞社に対し,有料コンサルティングをしていく計画である。
コンサルティングが売り物になるには,H 社の取組に実績があることが要る。K 地域の自治体は,トナレポの投稿記事をきっかけに政策を検討して子育て世代の流入を増やすという成果を出し,先進自治体として注目を集めている。この実績があるので,同じ社会課題を抱える他地域の自治体や地方新聞社から問合せが来ている。
コンサルティングの相手(他地域の自治体や地方新聞社)と,問合せを寄せている相手が一致している点が手掛かりになる。問合せが来る理由は,その直前の「先進自治体として注目を集めている」である。
35字以内。解答例は26字。「K 地域の自治体」「先進自治体として注目」を入れ,理由なので「〜から」で結ぶ。
設問3(1)
解答欄2つ
観光 TM の立ち上げに利用する H 社の強みは何か。V 展示場と V 案内所の観点で,それぞれ 45 字以内で答えよ。
〔V展示場の観点〕解答例
歴史ある建造物や伝統工芸品などに関する研究内容や史実に関係する記事をもっている点
解説
本文の根拠
〔H 社の現状〕(1)
H 社は,一般記事に加え,地域の歴史ある建造物や伝統工芸品などに関する研究内容や史実に関する記事,地域医療や介護,働きやすさなどの社会課題といった地域性の高い記事を多く報道してきている。
〔観光 TM〕
多言語化された V 展示場では,地域にまつわる伝統工芸品の購入に加え,歴史ある建造物や伝統工芸品に関する研究内容や史実なども照会できる。
冒頭
K 地域の政財界の各団体や企業,文化人を多く知っており,密接にコミュニケーションを行っている点など,地方紙ならではの強みをもっている。
〔観光 TM〕
V 案内所では,観光スポットの紹介のほかに,“K 地域で活躍する工芸家や文化人など”(以下,地域活躍人材という)も紹介する。
V 展示場と V 案内所が提供するものを,H 社がもともと持っているものと突き合わせる。V 展示場では歴史ある建造物や伝統工芸品に関する研究内容や史実を照会できる。H 社はまさにそうした記事を多く報道してきたので,その記事の蓄積が強みになる。V 案内所では工芸家や文化人などの地域活躍人材を紹介する。H 社は K 地域の政財界の各団体や企業,文化人を多く知っているので,その人脈が強みになる。
冒頭には H 社の強みとして「多くの記事やコンテンツをもつ点」と「政財界の各団体や企業,文化人を多く知って」いる点の二つが挙がっている。それぞれを V 展示場と V 案内所に割り当て,展示場の側は〔H 社の現状〕(1)の記事の種類で具体的にする。
各45字以内。解答例は40字と23字。V 展示場は「歴史ある建造物や伝統工芸品」「研究内容や史実」「記事をもっている」,V 案内所は「政財界の各団体や企業,文化人」「多く知っている」を入れる。
設問3(2)
25字以内
旅行会社は,観光 TM を活用することによって,どのような旅行プランを作れるか。25 字以内で答えよ。
解答例
解説
本文の根拠
〔アンケート調査〕
旅行会社の営業が見込み客に対し,より魅力ある K 地域で活躍する人と触れ合える体験型の旅行を提案するために,旅行前にそれらの人と見込み客とが交流する場を提供してほしい。
〔観光 TM〕
利用者は,アバターを介して地域活躍人材のアバターと交流を図ることも可能である。
〔観光 TM〕
旅行会社の営業は,K 地域に実際に訪れたい見込み客を案内し,より充実した旅行プランを一緒に作ることができる。
旅行会社がアンケートで H 社に求めたのは,「K 地域で活躍する人と触れ合える体験型の旅行」を提案するために,旅行前に見込み客とそれらの人が交流する場である。観光 TM では利用者が地域活躍人材とアバターで交流できるので,これがその場になる。旅行会社が作れるのは,地域活躍人材と触れ合える体験型旅行のプランである。
観光 TM の中での交流は,旅行プランを作るための手段である。講評は“事前に触れ合うプラン”のように,観光 TM 内での旅行プランに関係する解答が多かったと述べている。プランは実際に K 地域を訪れる旅行であり,観光 TM はその提案の場として使われる。アンケートの「K 地域で活躍する人」は,観光 TM の段落では「地域活躍人材」と呼ばれている。
25字以内。解答例は17字。「地域活躍人材」「触れ合える」「体験型旅行」を入れる。
採点講評(IPA)
設問3(2)は,正答率は平均的であったが,“事前に触れ合うプラン”など,観光TM内での旅行プランに関係する解答が散見された。ここでは,旅行会社が,体験型の旅行を提案するために旅行前に見込み客と交流する場の提供をH社に期待している点を理解してほしい。
出典:令和6年度 春期 ITストラテジスト試験 午後Ⅰ 問2(表記を一部改変)
問3 旅館の IT 活用による業務改革
旅館の IT 活用による業務改革に関する次の記述を読んで,設問に答えよ。
B 旅館は,N 県にある山海の資源に恵まれた T 温泉にある,創業 100 年を超える従業員 50 名程度の旅館である。B 旅館は,歴史ある建物や独立性の高い居室によって,伝統と格式を感じさせる雰囲気が特長である。
B 旅館は,“お客様と編む時間,一歩先のおもてなし体験”をコンセプトとし,教育が行き届いた仲居を中心とした利用客に寄り添った接客サービスによって,リピータや口コミ経由の利用客を獲得してきた。特に,予約時に聞き取った情報や接客時の会話から得た情報(以下,接客情報という)を用いて,担当する利用客のニーズや好み,宿泊目的などを仲居が把握し,丁寧な気遣いやサプライズ演出を行うことが利用客の顧客体験価値(UX)の向上に大きな貢献をしてきた。接客情報は宿泊するたびに増えていくので,常連客ほど高い UX を得ている。
〔B 旅館における業務改革推進の背景〕
ここ数年の感染症の流行による観光客の減少によって,B 旅館の客室稼働率(以下,稼働率という)が急激に落ち込んだ。売上げが著しく低下したので,経営を維持するためには仲居を含めた従業員の削減も行わざるを得なかった。最近は,感染症の流行も落ち着いて観光客数は回復傾向にあり,遠隔地での休暇と就労を組み合わせるワーケーションを推奨する企業も増えている。B 旅館は,この変化をビジネスチャンスと捉え,感染症の流行前を超える稼働率を実現したいと考えている。
稼働率の向上に対応するためには,今まで以上に人手が必要となるが,一度削減した従業員の補充は思うように進まず,今後の見通しも立っていない。この状況が継続すると,稼働率の向上という目標が達成できないだけでなく,B 旅館の強みが低下して B 旅館の経営に大きく影響するおそれがある。
B 旅館は,現状の従業員を前提とし,B 旅館の強みを更に強化しつつ業務を効率化することによって,稼働率の向上という経営目標を達成するため,IT を活用した業務改革を推進することとした。
〔B 旅館の現状〕
B 旅館の各業務における現状は次のとおりである。
フロント係が表計算ソフトで作成した予約台帳で予約情報を管理している。電話予約や旅行予約サイトなど複数の予約チャネルが存在しているが,予約台帳のメンテナンスは手作業なので時間が掛かる上,予約情報の変更などをリアルタイムに管理することができていない。 仲居は接客情報を他の従業員に連携しなければならないが,他の従業員との情報連携手段は口頭なので時間が掛かり,接客に使える時間が増やせない。 若手仲居の育成は 10 年以上の経験を積んだベテラン仲居が OJT を通して行っており,今の育成方法ではノウハウの継承に早くても 5 年程度掛かる。 従業員削減の影響によって仲居の業務負荷が高まり,ベテラン仲居が若手仲居を育成する時間がとれなくなっている。 仲居は接客情報をサービス向上に役立てている。しかし,接客情報にはアレルギーや身体の状況などの要配慮個人情報が含まれ得ることから,管理に際しては利用客の同意を得た上で,情報の取扱いに常に細心の注意を払う必要がある。 清掃係が行う客室清掃は,客室の状況によって清掃に掛かる時間が異なるので,予定した時間で清掃が終わらない部屋が出てしまうことがある。逆に,時間が余る清掃係もいるが,他の清掃係の状況が分からず,支援に回ることができない。 B 旅館では,春と秋の行楽シーズンは稼働率が高いが,夏と冬は稼働率が下がる傾向にある。 営業係が管理する利用後アンケートでは,家族などの同伴者の誕生日や結婚記念日などのライフイベントが宿泊目的であったという回答が多い。しかし,同伴者のライフイベントの情報は B 旅館としては蓄積,管理できていない。 ワーケーションが認められるようになったので,学校が休みの時期に仕事をしながら家族と長期間宿泊したいが,費用は抑えたいという要望が増えている。 〔B 旅館のアクションプラン〕
B 旅館は,B 旅館の現状や従業員の補充状況を踏まえると,経営目標を達成するためには,業務効率化,集客力向上,若手仲居の育成早期化を実現することが必要と考え,次のアクションプランを作成した。
予約情報を一元管理できる予約台帳とすることによって,予約台帳のメンテナンスに掛かっていた時間を削減したり,予約台帳で予約情報の変更をリアルタイムに管理できるようにしたりする。 接客情報や業務状況を可視化し,全ての従業員で共有することによって,情報連携に要していた時間を削減したり,従業員の空き時間を活用できるようにしたりする。 適切なタイミングで利用客に向けてプロモーションを行う。 通常より料金を抑えた夏季及び冬季限定の長期滞在家族プランを新設する。 ベテラン仲居が暗黙知として保有しているノウハウを形式知化し,若手仲居が学習,実践できるようにする。 実践結果とベテラン仲居からのフィードバックを記録して振り返りを行うとともに,自己学習を可能として育成早期化を図る。 〔旅館管理システムの概要〕
B 旅館は,これらのアクションプランを実現するために,宿泊業向けの SaaS などのクラウドサービスを活用して,旅館管理システムを構築することとした。
旅館管理システムの概要を図1に示す。
図1 旅館管理システムの概要
全ての従業員にタブレットとインカムを持たせ,タブレット経由で旅館管理システムにアクセスする。 従業員は,タブレットを用いて接客情報や業務連絡を社内チャットに登録することができる。 社内チャットのうち,接客情報は,利用客名や部屋番号などをタグとして登録することによって,顧客管理と連携できる。 社内チャットのうち,今後の業務に役立ちそうな内容は,ノウハウとしてナレッジベースに連携できる。 従業員が共同で業務ごとのナレッジやノウハウを追加・編集できる。 OJT に関する実践結果とフィードバックを記録できる。 蓄積されたナレッジやノウハウから AI によってシーン別の問題を作成し,従業員が自己学習することができる。 電話での予約を予約情報として登録できる。 予約情報の変更や削除ができる。 提携している旅行予約サイトと双方向に予約情報を連携できる。 予約管理から,利用客に関する情報を顧客管理に連携できる。 全ての利用客について,接客情報,予約情報,利用後アンケート結果を顧客情報と関連付けて蓄積し,確認できる。 顧客情報と関連付けられた予約情報,利用後アンケート結果を自然言語解析することによって,宿泊目的に関する情報を分析できる。 旅館管理システムで扱う情報の特性を踏まえ,情報の漏えい,改ざん,毀損,滅失などへの対策を強化する。 〔従業員からの意見〕
従業員に対して旅館管理システムの機能説明を行ったところ,仲居から,“採用予定のタブレットとインカムは目立ちすぎて B 旅館の雰囲気にそぐわない”や“常に館内を歩き回っているので,手を使わずに社内チャットに登録できればより効率的になる”という意見が挙がった。これらの意見に対応するために,インカムとタブレットは目立たないサイズや色を選定するとともに,ある機能を追加して社内チャットの登録を効率化することとした。
出題趣旨(IPA)
ITストラテジストには,業務上のニーズ及び欠陥を識別する能力,業務モデルを実現するために,対象業務及び関連する全業務を整理し,業務機能の再構成及び業務プロセスを適切に企画する能力が求められる。本問では,旅館のIT活用による業務改革を題材として,経営改善に向けたIT活用の企画能力を評価する。具体的には,自社の特性や課題の分析,課題の対応策立案,システム化機能に関する整理能力を問う。
採点講評(問全体・IPA)
問3では,旅館のIT活用による業務改革について出題した。全体として正答率は平均的であった。
ITストラテジストは,企業の経営課題や業務課題を適切に捉えた上で,自社の強みを生かすITの活用施策を策定する能力を高めてほしい。
設問と解答例
設問1
30字以内
〔B 旅館における業務改革推進の背景〕について,B 旅館が経営目標を達成するために活用すべき強みは何か。30 字以内で答えよ。
解答例
教育が行き届いた仲居を中心とした利用客に寄り添った接客
解説
本文の根拠
冒頭
教育が行き届いた仲居を中心とした利用客に寄り添った接客サービスによって,リピータや口コミ経由の利用客を獲得してきた。
冒頭
丁寧な気遣いやサプライズ演出を行うことが利用客の顧客体験価値(UX)の向上に大きな貢献をしてきた。
〔B 旅館における業務改革推進の背景〕
B 旅館は,現状の従業員を前提とし,B 旅館の強みを更に強化しつつ業務を効率化することによって,稼働率の向上という経営目標を達成するため
経営目標は稼働率の向上で,それには利用客を集める必要がある。B 旅館が利用客を獲得してきた源は,教育が行き届いた仲居を中心とした,利用客に寄り添った接客サービスである。これによってリピータや口コミ経由の利用客を得てきたので,経営目標の達成に活用すべき強みはこの接客になる。
冒頭には「歴史ある建物や独立性の高い居室によって,伝統と格式を感じさせる雰囲気が特長である」という記述もある。講評は,こうした外形的特長を強みとした解答が散見されたと述べている。〔背景〕は,従業員の補充が進まない状況が続くと「B 旅館の強みが低下」するとしており,人手で左右される強み,つまり仲居の接客が強みだと読める。建物や居室は人手不足で損なわれない。
30字以内。解答例は27字。本文の「教育が行き届いた仲居を中心とした利用客に寄り添った接客」をそのまま使う。
採点講評(IPA)
設問1は,正答率は平均的であった。B旅館の外形的特長を強みとした解答も散見された。教育が行き届いた仲居を中心とした利用客に寄り添った接客という強みによって,リピータを含む顧客獲得につながっていることを理解してほしい。
設問2(1)
35字以内
業務効率化が必要となった背景である B 旅館の従業員の補充状況とはどのような状況か。35 字以内で答えよ。
解答例
従業員の補充が思うように進まず,今後の見通しも立っていない状況
解説
本文の根拠
〔B 旅館における業務改革推進の背景〕
稼働率の向上に対応するためには,今まで以上に人手が必要となるが,一度削減した従業員の補充は思うように進まず,今後の見通しも立っていない。
〔B 旅館における業務改革推進の背景〕
現状の従業員を前提とし
稼働率を上げるには今まで以上の人手が要るが,感染症の流行時に削減した従業員の補充は思うように進まず,今後の見通しも立っていない。人を増やせないので,今いる従業員で回せるよう業務を効率化する必要が生じた。
設問の「従業員の補充状況」は,〔背景〕の第2段落の一文にそのまま書かれている。B 旅館が「現状の従業員を前提とし」て業務改革を進めることにしたのも,この状況を受けてのことである。
35字以内。解答例は31字。「補充が思うように進まず」と「今後の見通しも立っていない」の両方を書く。今の状況だけでなく,先の見通しがないことまで入れて,効率化が避けられない理由になる。
設問2(2)
解答欄2つ
業務効率化によって得られる仲居に関連する時間的なメリットを二つ挙げ,それぞれ 20 字以内で答えよ。
解説
本文の根拠
〔B 旅館の現状〕(2)
仲居は接客情報を他の従業員に連携しなければならないが,他の従業員との情報連携手段は口頭なので時間が掛かり,接客に使える時間が増やせない。
〔B 旅館の現状〕(2)
従業員削減の影響によって仲居の業務負荷が高まり,ベテラン仲居が若手仲居を育成する時間がとれなくなっている。
〔B 旅館のアクションプラン〕①
接客情報や業務状況を可視化し,全ての従業員で共有することによって,情報連携に要していた時間を削減したり
〔B 旅館の現状〕(2)接客には,仲居が時間を取られている問題が二つ書かれている。口頭での情報連携に時間が掛かって「接客に使える時間が増やせない」ことと,業務負荷が高まって「ベテラン仲居が若手仲居を育成する時間がとれなくなっている」ことである。業務効率化で情報連携などの時間が減れば,その分を接客に使え,若手仲居の育成の時間も確保できる。
設問の「仲居に関連する時間的なメリット」は,現状で「時間」が足りないと書かれた箇所を裏返せば出てくる。アクションプラン①の情報連携の時間の削減が,その時間を生み出す手段である。
各20字以内。解答例は16字と18字。「接客業務に使える時間」「若手仲居を育成する時間」と,何に使う時間かをはっきり書く。
設問2(3)
30字以内
長期滞在家族プランを新設する背景となった利用客のニーズを 30 字以内で答えよ。
解答例
費用を抑えつつ仕事をしながら家族と長期間宿泊したいニーズ
解説
本文の根拠
〔B 旅館の現状〕(4)
ワーケーションが認められるようになったので,学校が休みの時期に仕事をしながら家族と長期間宿泊したいが,費用は抑えたいという要望が増えている。
〔B 旅館の現状〕(4)
春と秋の行楽シーズンは稼働率が高いが,夏と冬は稼働率が下がる傾向にある。
〔B 旅館のアクションプラン〕②
通常より料金を抑えた夏季及び冬季限定の長期滞在家族プランを新設する。
長期滞在家族プランの中身(料金を抑える,夏季及び冬季,長期滞在,家族)は,〔B 旅館の現状〕(4)の要望とそのまま対応している。ワーケーションが認められるようになり,学校が休みの時期に仕事をしながら家族と長期間泊まりたいが,費用は抑えたいという要望である。
学校が休みの時期のうち夏休みと冬休みは,B 旅館の稼働率が下がる夏と冬に重なる。プランを夏季と冬季に限ったのは,このニーズで閑散期の稼働率を上げるためだと読める。ただし設問が問うのは利用客のニーズなので,稼働率の話は答えに入れない。
30字以内。解答例は28字。「費用を抑えつつ」「仕事をしながら」「家族と」「長期間宿泊」の要素を落とさずに,「ニーズ」で結ぶ。
設問3(1)
35字以内
社内チャットが仲居の育成早期化に有用である理由を 35 字以内で答えよ。
解答例
ベテラン仲居が保有しているノウハウを形式知化できるから
解説
本文の根拠
〔旅館管理システムの概要〕(2)
社内チャットのうち,今後の業務に役立ちそうな内容は,ノウハウとしてナレッジベースに連携できる。
〔B 旅館のアクションプラン〕③
ベテラン仲居が暗黙知として保有しているノウハウを形式知化し,若手仲居が学習,実践できるようにする。
〔B 旅館の現状〕(2)
今の育成方法ではノウハウの継承に早くても 5 年程度掛かる。
社内チャットには,従業員が接客情報や業務連絡を登録する。そのうち今後の業務に役立ちそうな内容はノウハウとしてナレッジベースに連携できる。これまでベテラン仲居の頭の中にあった暗黙知が,日々のチャットを通じて文字として蓄積され,形式知になる。若手仲居はそれを学習できるので,OJT だけに頼る育成より早くなる。
アクションプラン③の育成早期化は「ベテラン仲居が暗黙知として保有しているノウハウを形式知化」することから始まる。社内チャットの機能のうち,この形式知化に当たるのがナレッジベースへの連携である。ナレッジベースの自己学習の機能(AI による問題作成)はナレッジベース側の機能で,社内チャットが有用な理由ではない。
35字以内。解答例は27字。「ベテラン仲居が保有しているノウハウ」「形式知化できる」を入れ,理由なので「〜から」で結ぶ。
設問3(2)
35字以内
顧客管理において,宿泊目的に関する情報を分析できる機能を実装した目的を 35 字以内で答えよ。
解答例
適切なタイミングで利用客に向けてプロモーションを行うため
解説
本文の根拠
〔B 旅館の現状〕(4)
家族などの同伴者の誕生日や結婚記念日などのライフイベントが宿泊目的であったという回答が多い。しかし,同伴者のライフイベントの情報は B 旅館としては蓄積,管理できていない。
〔旅館管理システムの概要〕(5)
顧客情報と関連付けられた予約情報,利用後アンケート結果を自然言語解析することによって,宿泊目的に関する情報を分析できる。
〔B 旅館のアクションプラン〕②
適切なタイミングで利用客に向けてプロモーションを行う。
利用後アンケートでは,同伴者の誕生日や結婚記念日などのライフイベントが宿泊目的だったという回答が多い。宿泊目的を分析してライフイベントの時期が分かれば,その時期に合わせて利用客にプロモーションを行える。これはアクションプラン②集客力向上の「適切なタイミングで利用客に向けてプロモーションを行う」に当たる。
現状では同伴者のライフイベントの情報を蓄積,管理できていないので,いつ案内すればよいかが分からない。顧客管理の分析機能はこの欠けていた情報を補うものである。なお,講評は設問3(2)について,ナレッジベースの機能に関する解答が散見されたとし,ベテラン仲居のノウハウが形式知として蓄積されることが本質だと述べている。この内容は解答例では設問3(1)(社内チャットが育成早期化に有用な理由)に当たるので,読むときは設問3(1)と合わせて読むとよい。
35字以内。解答例は28字。アクションプラン②の文をそのまま目的の形(〜ため)にする。
採点講評(IPA)
設問3(2)は,正答率がやや低かった。“AIによってシーン別の問題を作成し,従業員が自己学習できる”などのナレッジベースの機能に関する解答が散見された。ベテラン仲居が暗黙知として保有しているノウハウが形式知として蓄積され,集客力向上に利用できることが本質であることを理解してほしい。
設問3(3)
20字以内
客室清掃に関して,タブレットから作業結果を報告できる機能を追加した目的を 20 字以内で答えよ。
解答例
解説
本文の根拠
〔B 旅館の現状〕(3)
逆に,時間が余る清掃係もいるが,他の清掃係の状況が分からず,支援に回ることができない。
〔B 旅館のアクションプラン〕①
接客情報や業務状況を可視化し,全ての従業員で共有することによって,情報連携に要していた時間を削減したり,従業員の空き時間を活用できるようにしたりする。
〔旅館管理システムの概要〕(6)
タブレットから客室清掃の作業結果を報告できる。
客室清掃は部屋によって掛かる時間が違い,予定時間内に終わらない部屋がある一方で,時間が余る清掃係もいる。余った清掃係が支援に回れないのは,他の清掃係の状況が分からないからである。タブレットから作業結果を報告すれば清掃の進み具合が見えるので,時間の余る清掃係を終わっていない部屋の支援に回せる。
アクションプラン①の「業務状況を可視化し,全ての従業員で共有する」「従業員の空き時間を活用できるようにしたりする」が,この機能の狙いを一般的な形で書いている。清掃の現状と組み合わせると,空き時間の活用とは支援に回すことだと分かる。
20字以内。解答例は16字。「時間の余る清掃係」「支援に回す」を入れる。
設問3(4)
20字以内
情報の漏えい,改ざん,毀損,滅失などへの対策を強化する目的を,旅館管理システムで扱う情報の特性を踏まえて 20 字以内で答えよ。
解答例
解説
本文の根拠
〔B 旅館の現状〕(2)
接客情報にはアレルギーや身体の状況などの要配慮個人情報が含まれ得ることから,管理に際しては利用客の同意を得た上で,情報の取扱いに常に細心の注意を払う必要がある。
〔旅館管理システムの概要〕(7)
旅館管理システムで扱う情報の特性を踏まえ,情報の漏えい,改ざん,毀損,滅失などへの対策を強化する。
旅館管理システムでは,社内チャットや顧客管理で接客情報を扱う。接客情報にはアレルギーや身体の状況などの要配慮個人情報が含まれうるので,取扱いに常に細心の注意が要る。対策を強化するのは,この要配慮個人情報を適切に管理するためである。
設問の「旅館管理システムで扱う情報の特性」が何かは,〔B 旅館の現状〕(2)の最後の項目に書かれている。紙や口頭で扱っていた接客情報が,システム化によって全ての従業員で共有され,顧客情報と関連付けて蓄積されるようになるので,管理の重みが増す。
20字以内。解答例は17字。情報の特性を示す「要配慮個人情報」の語を必ず入れる。
設問4(1)
25字以内
タブレットとインカムに目立たないサイズや色を選定した狙いを 25 字以内で答えよ。
解答例
解説
本文の根拠
冒頭
B 旅館は,歴史ある建物や独立性の高い居室によって,伝統と格式を感じさせる雰囲気が特長である。
〔従業員からの意見〕
採用予定のタブレットとインカムは目立ちすぎて B 旅館の雰囲気にそぐわない
仲居から,採用予定のタブレットとインカムは目立ちすぎて B 旅館の雰囲気にそぐわないという意見が出た。目立たないサイズや色を選ぶのは,この意見に応えて B 旅館の雰囲気を損なわないためである。その雰囲気とは,冒頭にある「伝統と格式を感じさせる雰囲気」である。
意見の「B 旅館の雰囲気」を,冒頭の特長の記述で具体的な言葉に置き換える。設問1では外形的特長を強みとしない点が問われたが,ここでは雰囲気そのものを守ることが狙いになる。
25字以内。解答例は19字。「伝統と格式を感じさせる雰囲気」を「守る」と書く。
設問4(2)
25字以内
チャットの登録に関して,どのような機能を追加するか。25 字以内で答えよ。
解答例
解説
本文の根拠
〔従業員からの意見〕
常に館内を歩き回っているので,手を使わずに社内チャットに登録できればより効率的になる
〔旅館管理システムの概要〕(1)
全ての従業員にタブレットとインカムを持たせ,タブレット経由で旅館管理システムにアクセスする。
図1
従業員のインカムからタブレットへ矢印が向かい,タブレットから旅館管理システムへ矢印が向かう。
今の社内チャットは,タブレットを使って登録する。仲居は館内を歩き回っているので,手を使わずに登録したいという意見が出た。従業員はインカムも持っており,図1ではインカムからタブレットを経て旅館管理システムにつながっている。インカムで話した音声をそのまま社内チャットに登録できれば,手を使わずに済む。
手を使わない入力の手段を,本文にある機器から探す。従業員が持つのはタブレットとインカムだけで,手を使わずに使えるのはインカム,つまり音声である。
25字以内。解答例は18字。「音声を」「社内チャットとして登録する」と,何を何に登録する機能かを書く。
出典:令和6年度 春期 ITストラテジスト試験 午後Ⅰ 問3(表記を一部改変)