問1 生産管理システムの再構築
生産管理システムの再構築に関する次の記述を読んで,設問1〜4に答えよ。
A 社は,設備機械メーカである。A 社の製品は,受注生産方式で生産されているが,競合他社に対する優位性を確保するために,生産方式を見直すことになった。それに伴い,システムを再構築することになり,情報システム部を中心にシステム再構築の企画プロジェクトを立ち上げた。
〔生産方式の見直し〕
A 社では現在,顧客からの受注ごとに“製番”と呼ばれる管理番号を付与し,製番単位で製品組立,製品を構成するユニット品の組立て,ユニット品を構成する部品や材料(以下,部品及び材料を資材という)の手配まで管理する方式をとっている。この方式を次の方式に変更することにした。
(1) ユニット品までは,製品をグループ化した機種ごとの販売予測に基づく見込生産方式とする。 (2) 製品組立は,製番で管理する受注生産方式とする。顧客から受注した後,製品組立計画を立案するときにユニット品を引き当てる。 図 1 に製品構成のモデルを示す。
図1 製品構成のモデル
〔現在の業務内容〕
A 社各部門の現在の業務内容は次のとおりである。
営業部門では,販売計画の立案,顧客からの引合対応,見積り,納期回答,受注,出荷,据付けの後の検収確認,売上・請求などの業務を行っている。見積段階で仮の製番が付与され,受注確定時に正式な製番となり,以降の生産に引き継がれていく。現在の営業システムには,見積り,受注,売上・請求の機能がある。
設計・技術部門では,製品の設計,製品製造の工程設計及び製造設備設計の業務を行っている。また,製品を構成するユニット品・資材の情報と,製品・ユニット品組立及び部品加工の製造工程情報を設計仕様書に記載して生産管理部門に渡す。現在の設計システムは,CAD を全面的に活用している。
生産管理部門では,受注状況に基づく製品組立計画の立案,ユニット品及び資材の所要量計画の立案,ユニット品の組立計画及び部品の加工計画の立案の業務を行っている。また,所要量計画の基準となる部品表及び加工計画の基準となる工程表の生成や情報追加は,担当者が設計仕様書の図面などの内容を読み取り,生産管理システムに入力することによって行われている。現在の生産管理システムには,生産計画サブシステム,購買管理サブシステム及び工程管理サブシステムがあり,生産計画サブシステムには,生産管理部門で立案した組立て及び加工計画の登録・更新,ユニット品及び資材の所要量計算,基準情報の維持・管理の機能がある。
購買部門では,資材の所要量計画に基づいて,購入資材の購買先への発注業務を行っている。また,購買先からの受入検収,資材在庫管理,買掛金管理の業務も行っている。現在の購買管理サブシステムには,発注,受入検収,資材在庫管理の機能がある。
製造部門では,製品組立計画,ユニット品組立計画,部品加工計画に基づいて,各製造現場の作業計画立案・作業指示,製造作業,実績収集・作業進捗管理などの業務を行っている。現在の工程管理サブシステムには,作業指示,実績収集,作業進捗管理の機能がある。
〔生産方式の変更に伴う各部門への要求事項〕
プロジェクトチームは,生産方式の変更に伴う各部門への要求事項をまとめた。
A 社では,多様な顧客要求に応じるために,多数の機種を取りそろえている。ユニット品を見込生産するために,機種ごとの販売予測が重要になってくる。営業部門には,その精度を上げることが要求された。
設計・技術部門には,製品を構成するユニット品をできるだけ標準化・共通化することが要求された。また,新製品の設計と既存製品の設計変更の内容を迅速に生産管理部門に提供することが要求された。
ユニット品の生産計画では,機種ごとの販売予測に基づいて,その機種を構成するユニット品の所要量及び在庫量から生産量を決める。
資材所要量計画では,ユニット品の生産計画を基に,ユニット品を構成する資材の所要量を計算し,資材の在庫量を加味した上で,正味の資材所要量を決める。
さらに,製品組立計画の立案では,ユニット品の所要量計算とユニット品在庫の引当てを行う。生産管理部門には,ユニット品の在庫管理や資材所要量計画の精度を上げることと,納期回答のために,製番で管理する製品組立計画の内容やその進捗状況を営業部門に適時にフィードバックすることが要求された。
発注は,資材所要量計画で設定された購入資材が対象になる。購買部門には,購買先への発注に対する納期管理の強化と資材在庫管理の精度を上げることが要求された。
製造部門には,生産管理部門に適時に作業進捗状況を報告することが要求された。
〔システム再構築の方針〕
各部門への要求事項を踏まえ,情報システム部長は次の(1)〜(4)のシステム再構築方針を打ち出した。
(1) システム再構築においては,生産方式の見直しに対応して,生産管理システムを中心に見直し,営業システム,設計システムとの連携の強化を図る。 (2) 生産管理システムに関しては,ユニット品の見込生産化に伴い,資材所要量計画,資材購買及び資材在庫管理を重点的に見直す。 (3) 営業システムに関しては,生産管理システムでの生産計画設定のための,精度の高い情報を適時に提供するとともに,生産管理システムから営業上必要な情報のフィードバックを受けられるようにする。 (4) 設計システムに関しては,生産管理システムで使用する基準情報を迅速かつ適時に提供できるようにする。 〔新生産管理システムの概要〕
プロジェクトチームがまとめた新生産管理システムの概要を表に,新生産管理システムの全体体系を図 2 に示す。
表 新生産管理システムの概要
図2 新生産管理システムの全体体系
出題趣旨(IPA)
顧客満足度の向上や,競合他社に対する競争優位性を保つために,基幹業務の構造を見直すことがある。そのとき,基幹業務を支える情報システムの再構築も併せて行われる。本問は,製造業における生産方式の見直しを題材として,業務改革を踏まえ,生産管理システムの再構築及び関連するシステムとのインタフェースに関し,システムアーキテクトとして全体最適の観点から,システム構造を設計することについて,具体的な記述を求めている。本問では,業務改革における情報システム戦略を正しく理解し,業務モデルの設計,情報システム構造の設計を行う能力を評価する。
採点講評(問全体・IPA)
問1では,生産管理システムの再構築を例にとり,業務改革及び関連システムとの連携を踏まえた情報システム構造設計について出題した。全体として,題意はよく理解されていたようであった。
システムアーキテクトとして,業務要件を理解・把握し,それを実現するシステム機能構造とその機能間の情報関連を明確に定義できるよう心がけてもらいたい。
設問と解答例
設問1
解答欄2つ
生産方式の変更は,受注・出荷における営業上の優位性をもたらす一方,在庫管理上のリスクが発生する。受注・出荷における営業上の優位性と在庫管理上のリスクについて,それぞれ 25 字以内で述べよ。
解説
本文の根拠
〔生産方式の見直し〕
A 社では現在,顧客からの受注ごとに“製番”と呼ばれる管理番号を付与し,製番単位で製品組立,製品を構成するユニット品の組立て,ユニット品を構成する部品や材料(以下,部品及び材料を資材という)の手配まで管理する方式をとっている。
〔生産方式の見直し〕(1)
ユニット品までは,製品をグループ化した機種ごとの販売予測に基づく見込生産方式とする。
〔生産方式の見直し〕(2)
顧客から受注した後,製品組立計画を立案するときにユニット品を引き当てる。
〔生産方式の変更に伴う各部門への要求事項〕(1) 営業部門
ユニット品を見込生産するために,機種ごとの販売予測が重要になってくる。
現在は受注ごとに製番を付け,受注してから製品組立だけでなくユニット品の組立てや資材の手配まで行っている。新しい方式ではユニット品までを販売予測に基づいて前もって作っておき,受注後は製品組立計画でユニット品を引き当てて製品を組み立てるだけになる。ユニット品の組立てと資材の手配を待たずに済むので,受注から出荷までのリードタイムが短くなる。これが営業上の優位性である。
一方,見込生産は販売予測に基づくので,予測が外れれば在庫の過不足が生じる。予測より売れなければユニット品や資材の在庫が余り,予測より売れればユニット品や資材が足りなくなる。本文が営業部門に販売予測の精度を上げること,生産管理部門にユニット品の在庫管理の精度を上げることを求めているのは,このリスクに備えるためである。講評によれば,リスクを在庫過剰か在庫不足のどちらか一方だけで答えた解答が多かった。予測は上にも下にも外れるので,“過不足”と両方を書く。
25字ずつに,優位性は「受注から出荷まで」の期間が縮まること,リスクは「ユニット品,資材」の「在庫過不足」を書く。解答例は「受注から出荷までのリードタイムが短縮できること」で23字,「ユニット品,資材の在庫過不足が発生すること」で21字。
採点講評(IPA)
設問1は,優位性については正答率が高かったが,リスクについては,在庫過剰か在庫不足のどちらか一方の解答が多かった。
設問2(1)
解答欄2つ
営業システムから生産計画サブシステムの製品組立計画及びユニット品生産計画に渡すべき情報は何か。それぞれ 15 字以内で述べよ。
解説
本文の根拠
〔現在の業務内容〕(1) 営業部門
見積段階で仮の製番が付与され,受注確定時に正式な製番となり,以降の生産に引き継がれていく。
〔生産方式の見直し〕(2)
製品組立は,製番で管理する受注生産方式とする。
〔生産方式の変更に伴う各部門への要求事項〕(3) 生産管理部門
ユニット品の生産計画では,機種ごとの販売予測に基づいて,その機種を構成するユニット品の所要量及び在庫量から生産量を決める。
〔システム再構築の方針〕(3)
営業システムに関しては,生産管理システムでの生産計画設定のための,精度の高い情報を適時に提供する
製品組立は製番で管理する受注生産なので,製品組立計画の元になるのは営業部門が受けた注文の情報である。製番は見積段階で仮に付けられ,受注確定時に正式な製番になって生産に引き継がれるので,見積りを提示した段階の情報と受注の情報を渡せば,製品組立計画を早めに立てられる。一方,ユニット品の生産計画は機種ごとの販売予測に基づいて生産量を決めるので,ユニット品生産計画には機種ごとの販売予測情報を渡す。
再構築の方針(3)は,営業システムから生産計画設定のための精度の高い情報を適時に提供するとしている。表でも製品組立計画とユニット品生産計画の両方に“営業システムとのインタフェース”がある。講評によれば,製品組立計画に渡す情報を,受注情報の一部である納期や受注数だけで答えた解答が散見された。受注の情報全体を渡す,と書く。
15字ずつなので,製品組立計画は「見積り提示及び受注の情報」,ユニット品生産計画は「機種ごとの販売予測情報」と名詞でまとめる。解答例はそれぞれ12字と11字。
採点講評(IPA)
設問2(1)は,製品組立計画に渡すべき情報について,受注情報の一部である,納期又は受注数だけの解答が散見された。
設問2(2)
10字以内
生産計画サブシステムの製品組立計画から営業システムに渡す情報は,営業部門のどの業務に必要か。10 字以内で述べよ。
解答例
解説
本文の根拠
〔現在の業務内容〕(1) 営業部門
営業部門では,販売計画の立案,顧客からの引合対応,見積り,納期回答,受注,出荷,据付けの後の検収確認,売上・請求などの業務を行っている。
〔生産方式の変更に伴う各部門への要求事項〕(3) 生産管理部門
納期回答のために,製番で管理する製品組立計画の内容やその進捗状況を営業部門に適時にフィードバックすることが要求された。
生産管理部門への要求事項に,納期回答のために製品組立計画の内容や進捗状況を営業部門にフィードバックすることが挙がっている。製品組立計画から営業システムに渡す情報は,この納期回答に使われる。
営業部門の業務のうち納期回答は,製品がいつ組み上がるかが分からなければ答えられない。見込生産にしたユニット品を引き当てて製品を組み立てる計画は生産計画サブシステムの製品組立計画が持つので,その内容を営業システムへ戻す必要がある。
10字以内で業務名を答える。本文の業務名「納期回答」に「業務」を付けた解答例「納期回答業務」は6字。
設問3(1)
解答欄2つ
設計システムとのインタフェースにおいて,設計システムから受け取る情報は何か。二つ挙げ,それぞれ 25 字以内で述べよ。
解説
本文の根拠
〔現在の業務内容〕(2) 設計・技術部門
製品を構成するユニット品・資材の情報と,製品・ユニット品組立及び部品加工の製造工程情報を設計仕様書に記載して生産管理部門に渡す。
〔現在の業務内容〕(3) 生産管理部門
所要量計画の基準となる部品表及び加工計画の基準となる工程表の生成や情報追加は,担当者が設計仕様書の図面などの内容を読み取り,生産管理システムに入力することによって行われている。
〔システム再構築の方針〕(4)
設計システムに関しては,生産管理システムで使用する基準情報を迅速かつ適時に提供できるようにする。
設計・技術部門は,製品を構成するユニット品・資材の情報と,製品・ユニット品組立及び部品加工の製造工程情報の二つを設計仕様書に書いて生産管理部門に渡している。現在は生産管理部門の担当者がこれを読み取って部品表と工程表を入力している。新しいシステムでは,この二つの情報を設計システムとのインタフェースで直接受け取る。
部品表は所要量計画の基準であり,製品の構成(ユニット品・資材)から作る。工程表は加工計画の基準であり,製造工程情報から作る。再構築の方針(4)が求める“基準情報を迅速かつ適時に提供”は,この二つの情報を手入力を介さずに渡すことで実現する。
25字ずつなので,本文の語句をほぼそのまま使える。解答例は「製品を構成するユニット品・資材の情報」で18字,「製品・ユニット品組立及び部品加工の製造工程情報」で23字。
設問3(2)
解答欄1つ
表中のa に入れる適切な処理を,15 字以内で述べよ。
解説
本文の根拠
〔現在の業務内容〕(3) 生産管理部門
所要量計画の基準となる部品表及び加工計画の基準となる工程表の生成や情報追加は,担当者が設計仕様書の図面などの内容を読み取り,生産管理システムに入力することによって行われている。
表 基準情報管理
・設計システムとのインタフェース ・a ・部品表,工程表への情報追加
表の基準情報管理の機能内容は,設計システムとのインタフェース,空欄a,部品表・工程表への情報追加の順に並んでいる。現在は担当者が設計仕様書を読み取って,部品表と工程表の“生成”と“情報追加”を入力している。このうち情報追加は表の3行目にあるので,空欄aには残る“生成”が入る。設計システムから受け取った情報(設問3(1))を基に部品表と工程表を生成し,その後に情報を追加する流れになる。
講評によれば,この設問は正答率が低かった。設計システムと基準情報管理サブシステムの間で情報をどう連携させようとしているかを読み取ってほしかった,としている。受け取った情報から何を作るかを考えると,現在の業務の記述にある“生成や情報追加”に行き着く。
15字以内の“処理”なので,対象と処理を並べて「部品表,工程表の生成」とする。解答例は10字。
採点講評(IPA)
設問3(2)は,正答率が低かった。設計システムと生産管理システムの基準情報管理サブシステムとの間の情報連携をどのようにしようとしているかを読み取ってほしかった。
設問4(1)
20字以内
製品組立計画モジュールで,受注した製品を構成するユニット品について,その所要量を計算すると同時に,システムで行うべき機能は何か。20 字以内で述べよ。
解答例
解説
本文の根拠
〔生産方式の見直し〕(2)
顧客から受注した後,製品組立計画を立案するときにユニット品を引き当てる。
〔生産方式の変更に伴う各部門への要求事項〕(3) 生産管理部門
さらに,製品組立計画の立案では,ユニット品の所要量計算とユニット品在庫の引当てを行う。
製品組立計画の立案では,ユニット品の所要量計算とユニット品在庫の引当てを行う。表の製品組立計画の機能内容にはユニット品所要量計算はあるが,引当ては書かれていない。所要量を計算すると同時に行うべき機能は,見込生産したユニット品の在庫を受注した製品に引き当てることである。
講評は,製品組立で使うユニット品は見込生産されており,その在庫を引き当てる必要があることに気づいてほしかったとしている。受注生産の製品組立と見込生産のユニット品をつなぐのが引当てであり,これが無いと在庫のユニット品を使う製品が決まらない。
20字以内で「ユニット品在庫」を「引き当てる」機能と書く。解答例「ユニット品在庫を引き当てる機能」は15字。
採点講評(IPA)
設問4(1)は,製品組立で使用するユニット品は,見込生産されており,その在庫を引き当てる必要があることに気づいてほしかった。(2)は,機能モジュール名と考慮すべきことが整合していない解答が散見された。
設問4(2)
解答欄4つ
資材正味所要量計算を行う上で,資材所要量計画モジュールに入力情報を提供する機能モジュールが三つあり,資材所要量計画の精度を上げるために,それぞれにおいて考慮すべきことがある。一つは部品表管理において,設計システムから受け取る情報や,その他の追加情報を部品表に迅速に反映することである。あと二つの機能モジュール名を挙げ,考慮すべきことをそれぞれ 30 字以内で述べよ。
〔①考慮すべきこと〕解答例
販売予測に基づいて,ユニット品生産量を適切に設定すること
〔②考慮すべきこと〕解答例
資材入出庫処理の確実な実施による在庫精度向上を図ること
〔備考〕①,②は順不同
解説
本文の根拠
〔生産方式の変更に伴う各部門への要求事項〕(3) 生産管理部門
ユニット品の生産計画では,機種ごとの販売予測に基づいて,その機種を構成するユニット品の所要量及び在庫量から生産量を決める。
〔生産方式の変更に伴う各部門への要求事項〕(3) 生産管理部門
資材所要量計画では,ユニット品の生産計画を基に,ユニット品を構成する資材の所要量を計算し,資材の在庫量を加味した上で,正味の資材所要量を決める。
〔生産方式の変更に伴う各部門への要求事項〕(4) 購買部門
購買部門には,購買先への発注に対する納期管理の強化と資材在庫管理の精度を上げることが要求された。
表 資材在庫管理
・資材入出庫処理 ・資材棚卸処理 ・資材在庫管理資料作成
資材所要量計画は,ユニット品の生産計画を基に資材の所要量を計算し,資材の在庫量を加味して正味の資材所要量を決める。入力は,所要量計算の基準となる部品表(部品表管理),ユニット品の生産量(ユニット品生産計画),資材の在庫量(資材在庫管理)の三つである。部品表管理は設問文で挙げられているので,残るユニット品生産計画と資材在庫管理を答える。
ユニット品生産計画は機種ごとの販売予測に基づいて生産量を決めるので,販売予測に基づいてユニット品の生産量を適切に設定することが,資材所要量計画の精度につながる。資材在庫管理については,購買部門に資材在庫管理の精度を上げることが求められており,表では資材入出庫処理が資材在庫管理の機能にある。入出庫を確実に処理して在庫を正しく保つことが,正味所要量の精度を上げる。講評によれば,機能モジュール名と考慮すべきことが整合していない解答が散見された。書いたモジュールの機能内容に沿って考慮点を書く。
30字ずつに,何に基づいて何をどうするかを書く。解答例は「販売予測に基づいて,ユニット品生産量を適切に設定すること」で28字,「資材入出庫処理の確実な実施による在庫精度向上を図ること」で27字。①と②は順不同。
採点講評(IPA)
設問4(1)は,製品組立で使用するユニット品は,見込生産されており,その在庫を引き当てる必要があることに気づいてほしかった。(2)は,機能モジュール名と考慮すべきことが整合していない解答が散見された。
出典:平成22年度 秋期 システムアーキテクト試験 午後Ⅰ 問1(表記を一部改変)
問2 債券システムの設計
債券システムの設計に関する次の記述を読んで,設問1〜3に答えよ。
B 銀行は,顧客である機関投資家から債券の売買依頼を受けると,仲介業者などを通して売買相手先を探し,売買相手先が取引する金融機関と中央銀行を通して決済を行う債券業務を行っている。このたび,債券システムの再構築を行うことになった。
再構築後の債券システムは,顧客の売買依頼を受け付ける債券フロントシステムと,会計処理や決済処理などの後方事務を行う債券事務システムから構成される。取り扱う債券は銘柄コードで管理する。債券フロントシステムは,顧客ごとに取引を管理するが,債券事務システムでは,顧客ごとの管理を必要としないので,銘柄コードごとに取引を管理する。再構築後の債券システムの概要図を図 1 に示す。
図1 再構築後の債券システムの概要図
〔債券事務システムの機能概要設計〕
債券フロントシステムの機能を踏まえ,債券事務システムで行うべき主な機能を検討した結果,次のとおりとなった。ただし,資金決済明細作成処理は省略している。
① 窓口担当者は,顧客の売買依頼を受けて,債券フロントシステムに約定日,銘柄コード,取引区分,単価などの取引データを入力する。取引データには,債券システム全体で一意な取引番号が昇順に割り当てられる。 ② 事務担当者が債券フロントシステムの画面から取引データの受入承認を行うと,取引データが債券事務システムに送信される。債券事務システムは,取引データを受信するたびに取引ログ作成処理を起動して取引ログを作成する。 ③ 債券事務システムは,取引ログが作成されるたびに売買明細作成処理及び資金決済明細作成処理を起動して,売買明細と資金決済明細を作成する。 ④ 単価は市場動向によって取引ごとに変動するので,その銘柄の平均単価を移動平均法によって算出するとともに数量残高,残高及び損益を算出して売買明細に保有する。 数量残高及び残高は,同じ銘柄コードの前回取引時点の値に今回の取引分を加減算して求める。それらの値を使って平均単価及び損益を求める。新たな銘柄コード“028”の取引が 3 件成立した時の売買明細テーブルの内容の一部と各値の計算式を図 2 に示す。
図2 売買明細テーブルの内容の一部と各値の計算式
⑤ 事務担当者は,売買明細及び資金決済明細を照会して,売買相手先に取引内容の確認を行う。確認後,債券フロントシステムに対して取引データの確定承認を行う。債券フロントシステムは,確定承認を受け付けると承認データを債券事務システムに送信し,債券事務システムでは,該当する取引ログの承認区分を確定承認にする。 ① 売買相手先との確認で,単価の入力ミスなど,取引内容に誤りがあったことが判明した場合,事務担当者は,確定承認をせず窓口担当者に承認拒否とその内容を知らせる。窓口担当者は,原因調査の上,承認拒否の対象となった取引の取消しと,同一取引番号の正しい取引を入力する。事務担当者は,受入承認を行った後,改めて正しい取引に対する確定承認を行う。 ② 事務担当者の受入承認によって,取引ログテーブルには,取引の取消しによる取引ログと,正しい取引による取引ログが新たに作成される。その後,売買明細テーブルには,取消対象の売買明細の状態区分に取消表示“1”が設定され,同一取引番号で枝番付きの正しい売買明細が作成され,以降の同一銘柄コードの売買明細に対し,残高,平均単価,損益などの変更が行われる。 図 2 の取引番号 168 番の単価を 110 円から 120 円に変更した場合の売買明細テーブルの更新内容の例を図 3 に示す。網掛け部分が追加又は変更箇所である。
図3 取引の取消し・再入力を行ったときの売買明細テーブルの更新内容
① 窓口担当者が当日の業務の終わりに,債券フロントシステムに対して業務の終了を行うと,締めの電文が債券事務システムに送信される。債券事務システムは,締めの電文を受け取ると,当日作成した取引ログの承認区分が確定承認であることのチェックと,取消しの取引ログがある場合は,該当の取消しの売買明細の有無と新たな正しい売買明細が作成されたことのチェックを行う。 ② 債券事務システムは,債券フロントシステムから,当日分の売買が成立した売買取引件数,取消件数,銘柄コードごとの買入数量合計及び売却数量合計を属性とする照合ファイルを受け取る。その後,取引ログ及び売買明細の内容と照合ファイルの属性の値とを照合する。 ③ 締め処理におけるチェック機能及び照合機能の内容を表に示す。表中の項番 1 の承認のチェックでは,取引ログの取消レコードを除く当日レコードの承認区分が確定承認になっていることをチェックする。項番 2 以降の項目についても同様に記述している。
表 締め処理におけるチェック機能及び照合機能の内容
④ 事務担当者は,チェック又は照合で不整合が発生した場合,取引の内容を分析して対処する。不整合がない場合は,債券事務システムに締めを入力する。債券事務システムは,締めの入力によって残高試算表作成処理を実行する。 ① 当日の勘定を計上するため,取消し以外の売買明細を読み込み,仕訳伝票テーブルに仕訳伝票レコードを作成する。一つの売買明細から複数の勘定科目による仕訳が行われるので,仕訳伝票テーブルには,日付,勘定科目別に,金額,取引番号などを保有する。 例えば,100 百万円の買入を行った場合,取引を実行した約定日に有価証券勘定を計上し,債券を授受する受渡日に現金の支払の勘定を計上するので,図 4 に示す仕訳が行われる。図 4 中の仮払金は債券の利息分である。その結果,仕訳伝票テーブルには日付,勘定科目別に 5 レコードが作成される。
図4 仕訳の例
② 仕訳伝票テーブル作成後,当日勘定の仕訳伝票レコードを集計して,当日の残高試算表を作成する。
出題趣旨(IPA)
銀行の債券システムを題材に,フロント業務を担うフロントシステムと,後方事務の業務を担うバックシステムで構成されているシステムを背景としている。本問は,フロントシステムとバックシステムのシステム間連携,及びシステム間の照合についてのシステム設計について,具体的な記述を求めている。本問では,業務機能を把握してシステム化する能力,システム間の整合性の対応,及び処理効率の観点からのシステム設計能力を評価する。
採点講評(問全体・IPA)
問2では,銀行の債券システムを例にとり,窓口業務を担うフロントシステムと,後方事務の業務を担うバックシステム間の連携,及びシステム間の照合について出題した。全体として,題意はよく理解されているようであった。
システムアーキテクトとして,業務要件を理解・把握し,適切な機能設計ができるよう心がけてもらいたい。
設問と解答例
設問1
35字以内
売買明細作成処理で新たな売買明細レコードを作成する場合,取引ログのほかに入力データとして参照する売買明細レコードはどのようなレコードか。35 字以内で述べよ。
解答例
同一銘柄コードで取引番号が一番大きく状態区分が“0”のレコード
解説
本文の根拠
〔債券事務システムの機能概要設計〕(1)①
取引データには,債券システム全体で一意な取引番号が昇順に割り当てられる。
〔債券事務システムの機能概要設計〕(1)④
数量残高及び残高は,同じ銘柄コードの前回取引時点の値に今回の取引分を加減算して求める。
〔債券事務システムの機能概要設計〕(2)②
売買明細テーブルには,取消対象の売買明細の状態区分に取消表示“1”が設定され,同一取引番号で枝番付きの正しい売買明細が作成され
売買明細の数量残高と残高は,同じ銘柄コードの前回取引時点の値に今回の取引分を加減算して求め,平均単価もそれらの値から求める。したがって新しい売買明細を作るときは,同じ銘柄コードの直前の売買明細を読む必要がある。取引番号は昇順に割り当てられるので,同じ銘柄コードで取引番号が一番大きいレコードが直前の取引になる。
ただし取引の取消しがあると,取消対象の売買明細は状態区分に“1”が設定されたまま残り,同じ取引番号で枝番付きの正しい売買明細が作られる。図3では取引番号168に,状態区分“1”の枝番0と,状態区分“0”の枝番1が並んでいる。取消された明細の値を前回値に使ってはいけないので,状態区分が“0”であることを条件に加える。講評によれば,取消レコードを考慮していない解答が散見された。
35字で「同一銘柄コード」「取引番号が一番大きい」「状態区分が“0”」の三つの条件を並べる。解答例は「同一銘柄コードで取引番号が一番大きく状態区分が“0”のレコード」で31字。
採点講評(IPA)
設問1は,取消レコードを考慮していない解答が散見されたが,おおむね理解されているようであった。
設問2(1)
解答欄2つ
表中のa ,b に入れる適切な字句を,それぞれ 35 字以内で述べよ。
〔a〕解答例
当日の取消しの取引ログに対応するレコードの状態区分
〔b〕解答例
当日のレコード件数から当日の取消レコード件数を引いた件数
解説
本文の根拠
〔債券事務システムの機能概要設計〕(2)②
事務担当者の受入承認によって,取引ログテーブルには,取引の取消しによる取引ログと,正しい取引による取引ログが新たに作成される。
〔債券事務システムの機能概要設計〕(2)②
売買明細テーブルには,取消対象の売買明細の状態区分に取消表示“1”が設定され,同一取引番号で枝番付きの正しい売買明細が作成され
表 項番3
当日のレコード件数から当日の取消レコード件数の2倍を引いた件数
空欄aは,売買明細について“取消表示になっていること”を確かめる対象である。取引を取り消すと,取消対象の売買明細の状態区分に取消表示“1”が設定される。そこで,当日の取消しの取引ログに対応する売買明細レコードの状態区分を見て,取消表示になっているかをチェックする。
空欄bは,売買明細の件数を照合ファイルの売買取引件数と比べるための件数である。取消しが1件あると,取引ログには取消しの取引ログと正しい取引の取引ログの2件が増えるので,取引ログ側では取消レコード件数の2倍を引いている。売買明細では,取消対象の明細は新たに作られず状態区分が“1”に変わるだけで,正しい明細が1件増える。したがって当日のレコード件数から当日の取消レコード件数(1倍)を引けば売買取引件数に一致する。
35字ずつ。aは「当日の取消しの取引ログに対応するレコードの状態区分」で25字,bは項番3の取引ログの行にならって「当日のレコード件数から当日の取消レコード件数を引いた件数」で28字。
設問2(2)
解答欄2つ
表中の照合以外にも,銘柄コードごとに,当日作成又は更新された最終の売買明細レコードのある属性の値(x)を,前日以前に作成又は更新された最終の売買明細レコードの同じ属性の値(y)と照合ファイルを用いて照合が可能である。その属性は何か,図 2 中の属性名を用いて答えるとともに,照合の条件を示す等式を,x,y 及び照合ファイルの属性を用いて答えよ。
解説
本文の根拠
〔債券事務システムの機能概要設計〕(3)②
債券事務システムは,債券フロントシステムから,当日分の売買が成立した売買取引件数,取消件数,銘柄コードごとの買入数量合計及び売却数量合計を属性とする照合ファイルを受け取る。
図2 各値の計算式
数量残高:買入のとき“数量残高 = 前回取引時点の数量残高 + 数量”,売却のとき“数量残高 = 前回取引時点の数量残高 - 数量”
照合ファイルには,銘柄コードごとの買入数量合計と売却数量合計がある。図2の計算式で,数量残高は買入なら前回の数量残高に数量を足し,売却なら数量を引いて求める。当日の取引を順に積み上げると,当日最終の数量残高 x は,前日以前の最終の数量残高 y に当日の買入の数量を全部足し,売却の数量を全部引いた値になるはずである。したがって属性は数量残高で,等式は x=y+買入数量合計-売却数量合計となる。
残高や平均単価は単価を使って計算するが,照合ファイルには単価に関する属性が無いので,照合ファイルだけでは照合できない。属性は図2中の属性名で答えるよう指定されているので,“数量残高”と書く。
字数制限は無い。等式は x,y と照合ファイルの属性名(買入数量合計,売却数量合計)だけで書く。解答例は「x=y+買入数量合計-売却数量合計」。
設問2(3)
35字以内
“チェック又は照合で不整合が発生した場合,取引の内容を分析して対処する。”とあるが,照合ファイルによる照合機能では,取引の内容を分析するには不十分であるという指摘を受けた。不十分である理由を 35 字以内で述べよ。
解答例
照合データの値が合計値なので,売買明細の個別の照合ができないから
解説
本文の根拠
〔債券事務システムの機能概要設計〕(3)②
当日分の売買が成立した売買取引件数,取消件数,銘柄コードごとの買入数量合計及び売却数量合計を属性とする照合ファイルを受け取る。
〔債券事務システムの機能概要設計〕(3)④
事務担当者は,チェック又は照合で不整合が発生した場合,取引の内容を分析して対処する。
照合ファイルの属性は,売買取引件数,取消件数,銘柄コードごとの買入数量合計・売却数量合計で,どれも件数か合計値である。照合で不整合が見つかっても,どの取引(売買明細)が食い違っているのかは合計値からは分からない。取引の内容を分析するには,個々の売買明細と突き合わせられる情報が要る。
講評によれば,この設問は正答率が低かった。集計データの照合では,不整合が発生した場合にその原因となる個別の取引が特定できないことを読み取ってほしかった,としている。照合する属性の妥当性など,別の論点を答えた誤りも散見された。問われているのは現状の照合機能で不整合があった場合のことである。
35字で「合計値である」ことと「個別の照合ができない」ことを因果でつなぐ。解答例は「照合データの値が合計値なので,売買明細の個別の照合ができないから」で32字。
採点講評(IPA)
設問2(3)は正答率が低かった。背景記述にある集計データの照合では,不整合が発生した場合,その原因となる個別の取引が特定できないことを読み取ってほしかった。ここでは現状の照合機能で不整合があった場合について問うたが,照合する属性の妥当性などについての誤った解答も散見された。
設問3
解答欄2つ
残高試算表作成処理を短時間に行うために,当該処理の一部の機能を売買明細作成処理に移植することにした。移植すべき機能を 20 字以内で述べよ。また,移植する際,残高試算表作成処理では処理の対象としなかった取消データに関する追加機能が必要である。どのような機能が必要か。35 字以内で述べよ。
〔取消データに関する追加機能〕解答例
同じ取引番号によって作成されている仕訳伝票レコードを削除する機能
解説
本文の根拠
〔債券事務システムの機能概要設計〕(1)③
債券事務システムは,取引ログが作成されるたびに売買明細作成処理及び資金決済明細作成処理を起動して,売買明細と資金決済明細を作成する。
〔債券事務システムの機能概要設計〕(4)①
当日の勘定を計上するため,取消し以外の売買明細を読み込み,仕訳伝票テーブルに仕訳伝票レコードを作成する。
〔債券事務システムの機能概要設計〕(4)①
仕訳伝票テーブルには,日付,勘定科目別に,金額,取引番号などを保有する。
〔債券事務システムの機能概要設計〕(4)②
仕訳伝票テーブル作成後,当日勘定の仕訳伝票レコードを集計して,当日の残高試算表を作成する。
残高試算表作成処理は,締めの入力の後に,①取消し以外の売買明細を読んで仕訳伝票レコードを作成し,②それを集計して残高試算表を作る。売買明細作成処理は取引ログが作成されるたびに起動されるので,①の仕訳伝票レコードの作成をここに移せば,取引のつど仕訳伝票ができ,締めの後は②の集計だけで済む。
残高試算表作成処理は締めの後に取消し以外の売買明細だけを読むので,取消データを考える必要が無かった。移植すると,取り消される取引の仕訳伝票レコードが取消しの前に作られてしまう。仕訳伝票テーブルは取引番号を保有しているので,取消しの取引ログを受けたときに,同じ取引番号で作成済みの仕訳伝票レコードを削除する機能が要る。講評によれば,追加機能について,移植しない集計機能に関する解答が散見された。
20字で「仕訳伝票レコードを作成する機能」(15字),35字で「同じ取引番号によって作成されている仕訳伝票レコードを削除する機能」(32字)が解答例。何を手掛かりに削除するか(取引番号)まで書く。
採点講評(IPA)
設問3は,移植機能についての正答率は高かった。追加機能については,移植すべき機能について問うているにもかかわらず,移植しない集計機能に関する解答が散見された。
出典:平成22年度 秋期 システムアーキテクト試験 午後Ⅰ 問2(表記を一部改変)
問3 固定資産管理システムの改善
固定資産管理システムの改善に関する次の記述を読んで,設問1〜4に答えよ。
C 社は,三つの事業所をもつ中堅のソフトウェア開発企業である。C 社では固定資産管理システムの改善を行うことになった。
〔現行システムの概要〕
C 社の現在の固定資産管理システム(以下,現行システムという)の概要は,次のとおりである。
(1) 管理対象は,C 社が所有するすべての固定資産で,固定資産テーブルで管理している。リース資産や顧客からの預り資産は管理していない。資産は,購入時に一意の資産番号が付与され,固定資産テーブルに登録される。個々の資産には,それぞれ管理責任をもつ部署(以下,管理部署という)及び管理担当者が定められている。 (2) 年 1 回,登録されている資産について,現物を固定資産テーブルの内容と照合する処理(以下,現物照合という)を実施する。現物照合の対象となる機器には,資産番号,資産名,取得日及びバーコード化した資産番号が印刷されたシール(以下,資産シールという)をはり付けて管理している。対象機器で,シールがはられていない機器は存在しない。 (3) PC の本体とモニタのように物理的に複数に分かれた資産を購入したり,複数台を一括で購入したりする場合,固定資産テーブルには 1 件分として登録してあり,資産シールは同一のものを複数枚作成している。 (4) 資産には,サーバなど場所を固定して設置してある機器(以下,固定機器という)と,ノート PC など持ち運び可能な機器(以下,携帯機器という)がある。固定機器について,同一資産番号をもつ資産の設置場所は同一の場所である。 (5) 固定資産テーブルには,管理担当者名,設置場所名などの属性があり,これらに変更が生じた場合には,固定資産テーブル変更画面から変更を行っている。現行システムの固定資産テーブルの主な属性を表 1 に示す。 なお,携帯機器の設置場所名には空白がセットされている。
表1 現行システムの固定資産テーブルの主な属性
〔現物照合業務の概要〕
C 社は現在,現物照合業務を次のとおり実施している。
(1) それぞれの部署では,自部署が管理している資産を固定資産テーブルから抽出し,設置場所名,管理担当者名,資産番号で昇順に並んだ固定資産一覧表を印刷する。 (2) 印刷された固定資産一覧表を基に現物照合を行い,固定資産一覧表に記載されている資産があったら,ハンディスキャナでバーコードをスキャンする。 (3) スキャンによって作成された現物照合レコードを当日中に管理サーバにアップロードし,固定資産テーブルに現物照合完了区分と現物照合実施日(以下,現物照合情報という)を書き込む。 (4) 同一の資産シールが複数枚ある場合は,スキャンがシール枚数分の回数行われたときに照合されたものとしている。 (5) 客先や開発の再委託先など遠隔地に設置してあり,バーコードをスキャンできない場合は,管理担当者が電話などで当該資産が存在していることを確認し,確認した旨を照合担当者に報告することによって照合されたものとし,固定資産テーブル変更画面から,固定資産テーブルの現物照合情報を更新する。 (6) 最終的に照合ができなかった資産は,管理部署の部長が除却りん議を起案し,社内決裁後に除却処理を行う。除却処理後,固定資産テーブルから削除される。 〔現物照合業務の問題点〕
現在の現物照合業務は,次のような問題点を抱えている。
(1) 毎年の現物照合で,固定資産一覧表に記載されているが,現物が見つからずに除却される資産がある。一方で,資産シールがはってあるのに,固定資産テーブルに存在しない機器が発見されることがある。 (2) 固定機器の設置場所を移動するときには,固定資産テーブル変更画面から設置場所名を変更することになっているが,変更漏れが発生している。 (3) 同一の資産シールを複数枚発行している資産について,システム上照合されたことになっているのに,内部監査で現物の数が足りないと指摘されることがある。 (4) 遠隔地の資産を回収したとき,システム上照合されていた資産が見つからないことがある。 〔現物照合業務の改善〕
C 社では,これらの問題点を解決するために,業務の改善を行うことにした。情報システム部の D 課長は,次の改善案を提示した。
(1) 管理対象に,リース資産及び顧客からの預り資産も追加する。 (2) 物理的に複数に分かれた資産は,それぞれに枝番を付与して内訳を管理する。バーコードにも資産番号と枝番の両方を含める。 (3) 携帯機器の現物照合は,現行と同様,固定資産一覧表を基に照合を行って,バーコードをスキャンする。固定機器の現物照合は,一覧表を使用せずに,設置してある場所単位に,そこに設置してあるすべての機器のバーコードを順次スキャンする。 (4) 固定機器の設置場所を移動する際に,これをシステムに登録する機能(以下,移動管理機能という)を追加する。このために,各設置場所には一意な場所コードを付与し,場所コードをバーコード化したカードを設置する。 (5) すべての問題点をシステムの機能追加で対応することはせず,一部の問題点については,業務の運用方法の変更で解決を図る。 上記の改善案に基づいて設計した新システムの E-R 図を図に示す。
図 新システムのE-R図
新システムでは,枝番を付与した内訳を管理するために新たに内訳テーブルを作成する。同一資産番号で管理されている内訳の数を資産テーブルの内訳数で管理する。同一資産番号で内訳が 1 個の資産の場合,内訳テーブルには枝番が“1”のレコードが 1 件だけ作成される。
また,現物照合テーブル及び移動テーブルの主キーにも枝番を追加する。内訳テーブルで管理されている枝番単位に現物照合が行われると現物照合レコードが生成され,それに基づいて,内訳テーブル及び資産テーブルの属性が更新され,資産テーブルの照合内訳数と内訳数が一致したときに,当該資産番号の資産の照合が完了する。現物照合レコードは,管理サーバに累積して保存する。
なお,毎年,現物照合を実施する前に,資産テーブルの照合内訳数には“0”を,最新現物照合実施日及び内訳テーブルの現物照合実施日には初期値をセットする。
〔新システムの移動管理機能〕
新システムでは,固定機器の設置場所変更の情報を確実に取り込むために,搬出及び搬入の際に,それぞれすべての機器のバーコードをスキャンしてシステムに取り込むことにした。その際の処理内容を表 2 に示す。
表2 新システムの移動管理機能の処理内容
移動レコードは管理サーバにアップロードされ,このレコードを使って内訳テーブルの更新を行う。また,移動レコードは管理サーバに累積して保存する。
移動レコードによる内訳テーブルの更新処理手順を表 3 に示す。
表3 移動レコードによる内訳テーブルの更新処理手順
出題趣旨(IPA)
業務システムにおいては,当初は利用者の業務要件を満たしていても,運用を続けていく中で,想定していなかった問題が発生したり,利用者のニーズがより高度化したりして,システムの改善が必要になることが多い。システムアーキテクトには,システムの改善に当たって,現行システムの問題点を洗い出し,それらを解決するために,システムの運用面を含め,システムをどう変更していくかを考え,そのシステム変更を速やかに実施することが求められる。本問では,固定資産管理システムによる現物照合業務の改善を題材とし,業務変更仕様からシステム変更を適切に設計する能力を評価する。
採点講評(問全体・IPA)
問3では,固定資産管理システムを例にとり,既存システムの問題点についての機能改善について出題した。
システムアーキテクトとして,常にシステム化の目的を念頭に置いた設計・開発を行うよう心がけてもらいたい。
設問と解答例
設問1
35字以内
現在の現物照合業務において,固定資産一覧表にある資産が見つからないケースが発生している。考えられる原因を,35 字以内で述べよ。
解答例
固定機器の設置場所移動時に,設置場所名の変更漏れがあった。
解説
本文の根拠
〔現物照合業務の概要〕(1)
それぞれの部署では,自部署が管理している資産を固定資産テーブルから抽出し,設置場所名,管理担当者名,資産番号で昇順に並んだ固定資産一覧表を印刷する。
〔現物照合業務の問題点〕(1)
毎年の現物照合で,固定資産一覧表に記載されているが,現物が見つからずに除却される資産がある。
〔現物照合業務の問題点〕(2)
固定機器の設置場所を移動するときには,固定資産テーブル変更画面から設置場所名を変更することになっているが,変更漏れが発生している。
固定資産一覧表は固定資産テーブルから作られ,設置場所名の順に並んでいる。照合担当者は一覧表の設置場所名を頼りに現物を探すので,実際の設置場所と一覧表の設置場所名が違えば,その資産は見つからない。
問題点(2)に,固定機器の設置場所を移動するときに設置場所名を変更することになっているが,変更漏れが発生しているとある。移動した固定機器は元の場所名のまま一覧表に載り,元の場所を探しても見つからない。これが問題点(1)の“固定資産一覧表に記載されているが,現物が見つからずに除却される資産”の原因として考えられる。改善案(4)で移動管理機能を追加するのも,この原因をなくすためである。
35字で「いつ」(固定機器の設置場所移動時)と「何が起きたか」(設置場所名の変更漏れ)を書く。解答例は「固定機器の設置場所移動時に,設置場所名の変更漏れがあった。」で29字。
設問2(1)
35字以内
枝番の追加によって解決できる問題点は何か。35 字以内で述べよ。
解答例
同一の資産シールを複数枚発行している資産の現物の数が足りないこと
解説
本文の根拠
〔現行システムの概要〕(3)
固定資産テーブルには 1 件分として登録してあり,資産シールは同一のものを複数枚作成している。
〔現物照合業務の概要〕(4)
同一の資産シールが複数枚ある場合は,スキャンがシール枚数分の回数行われたときに照合されたものとしている。
〔現物照合業務の問題点〕(3)
同一の資産シールを複数枚発行している資産について,システム上照合されたことになっているのに,内部監査で現物の数が足りないと指摘されることがある。
〔現物照合業務の改善〕(2)
物理的に複数に分かれた資産は,それぞれに枝番を付与して内訳を管理する。バーコードにも資産番号と枝番の両方を含める。
現行では,複数に分かれた資産や一括購入した資産にも同じ資産シールを複数枚はり,スキャンがシール枚数分の回数行われれば照合されたとしている。どのシールを読んだかは区別できないので,同じシールを何回か読めば,一部の現物が無くても照合済みになる。これが問題点(3)の“システム上照合されたことになっているのに,現物の数が足りない”原因である。
改善案ではそれぞれに枝番を付け,バーコードにも資産番号と枝番を含める。枝番ごとに照合するので,同じバーコードを何回読んでも他の枝番は照合済みにならない。講評によれば,同じバーコードを連続して複数回読み取ったり,日を分けて読み取ったりするケースを考慮していない解答が多く,正答率は低かった。
35字で問題点(3)の内容を「同一の資産シールを複数枚発行している資産」と「現物の数が足りないこと」でまとめる。解答例は32字。
採点講評(IPA)
設問2は,今回のシステム改善で最も重要な枝番の追加に関する問題で,“同じ資産番号の資産のうち,ある資産シールを複数回読み取ることによって照合したとみなされる”現行システムの問題点をどう解決できるかを考えるものであったが,同一のバーコードを,連続して複数回読み取ったり,日を分けて読み取ったりするケースを考慮していない解答が多く,正答率は低かった。
設問2(2)
解答欄4つ
新システムでは,ハンディスキャナからアップロードされた現物照合レコードによるテーブル更新処理において,資産テーブル及び内訳テーブルが更新される。資産テーブルで更新される属性名を二つ挙げ,それらはどの属性によってどのように更新されるかを,それぞれ 35 字以内で述べよ。
〔①どの属性によってどのように更新されるか〕解答例
〔②どの属性によってどのように更新されるか〕解答例
更新前の内訳テーブルの現物照合実施日が,初期値のときに1を加算する。
〔備考〕①,②は順不同
解説
本文の根拠
〔現物照合業務の改善〕
内訳テーブルで管理されている枝番単位に現物照合が行われると現物照合レコードが生成され,それに基づいて,内訳テーブル及び資産テーブルの属性が更新され,資産テーブルの照合内訳数と内訳数が一致したときに,当該資産番号の資産の照合が完了する。
〔現物照合業務の改善〕
なお,毎年,現物照合を実施する前に,資産テーブルの照合内訳数には“0”を,最新現物照合実施日及び内訳テーブルの現物照合実施日には初期値をセットする。
図 新システムのE-R図
現物照合:資産番号(主キー),枝番(主キー),現物照合実施日(主キー),設置場所コード,照合担当者コード。
E-R図の資産エンティティで現物照合に関わる属性は,照合内訳数と最新現物照合実施日である。どちらも毎年の現物照合の前に初期化されるので,照合のたびに更新される属性だと分かる。最新現物照合実施日は,現物照合レコードの現物照合実施日で置き換えればよい。
照合内訳数は,内訳数と一致したときに照合が完了する数なので,照合された枝番の数を数える。ただし同じ枝番を2回スキャンしても2と数えてはいけない。内訳テーブルの現物照合実施日は照合前に初期値にされるので,更新前の値が初期値なら,その枝番は今年初めての照合である。そのときだけ照合内訳数に1を加える。講評によれば,同一のバーコードを複数回読み取るケースを考慮していない解答が多かった。
35字ずつに,更新に使う属性と更新の仕方を書く。解答例は「現物照合レコードの現物照合実施日で置き換える。」で23字,「更新前の内訳テーブルの現物照合実施日が,初期値のときに1を加算する。」で34字。①と②は順不同。
採点講評(IPA)
設問2は,今回のシステム改善で最も重要な枝番の追加に関する問題で,“同じ資産番号の資産のうち,ある資産シールを複数回読み取ることによって照合したとみなされる”現行システムの問題点をどう解決できるかを考えるものであったが,同一のバーコードを,連続して複数回読み取ったり,日を分けて読み取ったりするケースを考慮していない解答が多く,正答率は低かった。
設問3
解答欄6つ
〔新システムの移動管理機能〕について,表 3 中のa 〜f に入れる適切な字句を答えよ。ただし,属性名で答える場合は,どのレコードの属性であるかも記述せよ。なお,a 〜f には同じ字句が入ることもある。
〔備考〕aとbは順不同
解説
本文の根拠
表2 バーコードスキャン
搬出のとき,ハンディスキャナに搬出の区分を入力した後,次の二つを実施する。① 搬出する場所のカードのバーコードをハンディスキャナで読み取る。
表3 処理番号4
① 移動レコードの搬出・搬入区分が搬出のとき,内訳テーブルの当該レコードの設置場所コードに 999999 をセットする。
図 新システムのE-R図
移動:資産番号(主キー),枝番(主キー),移動日(主キー),搬出・搬入区分(主キー),移動場所コード,移動担当者コード。
搬出のときは,搬出する場所のカードを読み取るので,移動レコードの移動場所コードは搬出元の場所になる。これが内訳テーブルに登録されている設置場所と同じでなければ,別の場所から持ち出したことになるので,処理番号2①では「内訳テーブルの当該レコードの設置場所コード」(a)と「移動レコードの移動場所コード」(b)が等しいことを確かめる。aとbは順不同。
処理番号4①で,搬出すると設置場所コードに 999999 がセットされる。したがって搬入のときは,搬出済みであること,つまり「内訳テーブルの当該レコードの設置場所コード」(c)が「999999」(d)であることを確かめる。搬入の処理番号4②では,搬入先の場所のカードを読み取った「移動レコードの移動場所コード」(f)を,「内訳テーブルの当該レコードの設置場所コード」(e)にセットする。
字数制限は無い。設問は属性名で答えるときはどのレコードの属性かも書くよう求めている。講評によれば,要求されているレコード名を記述していない誤った解答が散見され,想定より正答率が低かった。“設置場所コード”“移動場所コード”だけで止めず,内訳テーブルと移動レコードのどちらの属性かを必ず書く。
採点講評(IPA)
設問3は,想定より正答率が低かった。要求されているレコード名を記述していない誤った解答が散見された。
設問4(1)
40字以内
現在の現物照合業務における問題点のうち,システムの機能追加では解決できない問題点は何か。40 字以内で述べよ。
解答例
遠隔地の資産を回収したとき,システム上照合されていた資産が見つからないこと
解説
本文の根拠
〔現物照合業務の概要〕(5)
客先や開発の再委託先など遠隔地に設置してあり,バーコードをスキャンできない場合は,管理担当者が電話などで当該資産が存在していることを確認し,確認した旨を照合担当者に報告することによって照合されたものとし
〔現物照合業務の問題点〕(4)
遠隔地の資産を回収したとき,システム上照合されていた資産が見つからないことがある。
〔現物照合業務の改善〕(5)
すべての問題点をシステムの機能追加で対応することはせず,一部の問題点については,業務の運用方法の変更で解決を図る。
問題点(2)の設置場所名の変更漏れは移動管理機能で,問題点(3)の同一シールの問題は枝番の追加で,それぞれシステムの機能追加によって解決している。問題点(4)の遠隔地の資産は,バーコードをスキャンできず,管理担当者が電話などで存在を確認して報告するだけで照合済みにしている。現物を確かめる手段がシステムの外にあるので,機能を追加しても解決できない。
改善案(5)は,一部の問題点は業務の運用方法の変更で解決を図るとしている。その対象が問題点(4)である。
40字で問題点(4)の文をそのまま使う。解答例は「遠隔地の資産を回収したとき,システム上照合されていた資産が見つからないこと」で37字。
設問4(2)
35字以内
その問題点を,業務の運用方法の変更によって解決するとき,行うべき運用の変更点を 35 字以内で述べよ。
解答例
バーコード付の資産の写真など,存在を証明する証ひょうを提出させる。
解説
本文の根拠
〔現物照合業務の概要〕(5)
管理担当者が電話などで当該資産が存在していることを確認し,確認した旨を照合担当者に報告することによって照合されたものとし
〔現物照合業務の概要〕(2)
現物照合の対象となる機器には,資産番号,資産名,取得日及びバーコード化した資産番号が印刷されたシール(以下,資産シールという)をはり付けて管理している。
遠隔地の資産は,管理担当者の電話などによる確認と報告だけで照合済みにしているので,本当にその資産が存在するかを照合担当者が確かめられない。運用で解決するには,存在を示す証拠を提出させればよい。資産にはバーコード付きの資産シールがはってあるので,シールが写った資産の写真を提出させれば,どの資産が存在するかを確かめられる。
講評によれば,この設問は正答率が低かった。“遠隔地の資産は現物照合の対象から外す”のような,システム化の目的を無視した解答も散見された。現状の問題点が“本当に資産が存在しているか確認できていないこと”“口頭報告で聞き間違いが起きること”にあると気づけば,運用の変更点が導けた,としている。
35字で「何を」(バーコード付の資産の写真などの存在を証明する証ひょう)と「どうする」(提出させる)を書く。解答例は33字。
採点講評(IPA)
設問4の(2)は正答率が低かった。“遠隔地の資産は現物照合の対象から外す”,“遠隔地の資産シールは管理担当者が保管して一括してスキャンする”といったシステム化の目的を無視した本末転倒の解答も散見された。現状の問題点である“本当に資産が存在しているか確認できていないこと”,“口頭報告で聞き間違いが起きること”に気づけば,それを解決する運用の変更点が導けたと思われる。
出典:平成22年度 秋期 システムアーキテクト試験 午後Ⅰ 問3(表記を一部改変)
問4 ディジタルサイネージ統合システム
ディジタルサイネージ統合システムに関する次の記述を読んで,設問1〜4に答えよ。
E 社は,屋内外に設置される,動画・静止画の電子看板システム(ディジタルサイネージシステム)を販売している。ディジタルサイネージとは,ディジタル化された情報で広告宣伝及び情報提供サービスを行うことである。ディジタルサイネージシステムは,商業施設,公共施設などへの設置が増えている。これまで E 社は,不特定多数を対象とした広告宣伝用などに大型ディスプレイ端末を用いたシステム,特定商品の販売促進用に小型ディスプレイ端末を用いたシステムなどを個別に開発していた。今回,各種店舗が入居する大規模なショッピングモールから依頼があり,ショッピングモール全体の総合的な広告宣伝が可能となるディジタルサイネージ統合システム(以下,本システムという)を開発することになった。本システムの設置イメージを図 1 に示す。ここで,ディスプレイ端末を太枠で示す。
図1 ディジタルサイネージ統合システムの設置イメージ
〔ショッピングモールからの要望〕
本システムの開発に当たり,ショッピングモールから E 社のシステムアーキテクトである F 君に,次のような要望があった。
ショッピングモールの共有スペースには大型ディスプレイ端末,ショッピングモール内の店舗向けには中型ディスプレイ端末,各商品別には小型ディスプレイ端末というように,それぞれ用途・設置場所に応じて種類の異なるディスプレイ端末を設置できるようにしてほしい。 コンテンツ及びその再生時刻をあらかじめ指定し,順次再生する表示に加え,店舗独自の案内,ショッピングモール全体を対象とした案内,緊急時の情報提供なども割込み表示できるようにしてほしい。 ディスプレイ端末の消費電力は,できるだけ低く抑えたい。さらに,運用上,省エネルギーとなる機能も盛り込んでほしい。 将来的には,画面に触れて詳細情報を表示したり,店舗・商品のクーポンや詳細情報にアクセスするための URL などの情報を携帯電話に送信したりする付加サービス機能を,実現できるようにしてほしい。 〔本システムの構成〕
F 君は,ショッピングモールからの要望に基づき,サーバ,ディスプレイ端末,操作端末及び LAN からなる本システムの構成を図 2 のように考えた。
管理用のサーバを管理室に設置し,ディスプレイ端末を共有スペース及び店舗に設置し,操作端末を店舗に設置する。 サーバと各端末とは LAN で接続する。
図2 本システムの構成
また,F 君は,本システムの基本機能について,次のように整理した。
プレイリストを用いて,ディスプレイ端末で再生するコンテンツ,及びそれを再生する日時を,一定期間分まとめて指示できるようにする。 プレイリスト及びコンテンツのデータは,サーバからディスプレイ端末に配信され,ディスプレイ端末は,プレイリストに従ってコンテンツを順次再生する。 ディスプレイ端末は,サーバからの割込みによって,割込み再生もできる。 必要に応じてディスプレイ端末に記憶デバイスを接続し,配信されたデータを保持できるようにする。 〔プレイリスト及びコンテンツ〕
F 君は,プレイリスト及びコンテンツの管理について,次のように整理した。
プレイリストは,本システム専用のフォーマットとし,操作端末から登録し,変更する。 コンテンツは,操作端末からサーバにアップロードする。 〔ディスプレイ端末の仕様〕
F 君がまとめたディスプレイ端末の仕様を,表 1 に示す。
表1 ディスプレイ端末の仕様
〔サーバの内部構成〕
F 君は,サーバの仕様を次のように整理した。
サーバは,データ管理,データ配信,ディスプレイ端末及び操作端末との通信などの処理を行い,プレイリスト,コンテンツなどのデータを記憶する。 サーバの構成は,処理負荷の違いや記憶するデータサイズに応じて最適化できるようにする。 F 君は,上記仕様を基に,サーバの内部構成を次のようにまとめた。
複数のプロセッサ,複数のハードディスク(HDD),LAN コントローラ,ルーティングスイッチ及び高速シリアル I/F で構成する。 サーバの処理負荷の違いに対応して,プロセッサの台数を増減できる。 記憶するデータサイズに対応して,必要な容量及び台数の HDD を設置する。 ディスプレイ端末及び操作端末と接続するために,LAN コントローラを設置する。 プロセッサ,HDD 及び LAN コントローラを,高速シリアル I/F を介してルーティングスイッチに接続する。 表 2 に,サーバの内部構成及びルーティングスイッチの仕様を示す。
表2 サーバの内部構成及びルーティングスイッチの仕様
出題趣旨(IPA)
組込みシステムの開発においてシステムアーキテクトには,企画・開発計画に基づき,システムに対する要望を調査・分析し,機能仕様を決定することが求められる。本問では,ディジタルサイネージ統合システムを題材として,利用者からの要望の分析に基づいたシステムアーキテクチャの決定,機能仕様の検討や策定などについて,具体的な解答を求めている。本問では,組込みシステムに対する要望を分析し,システムアーキテクチャの決定や,機能仕様の策定を行うシステムアーキテクトの能力を問う。
採点講評(問全体・IPA)
問4では,ディジタルサイネージ統合システムを例にとり,システムアーキテクチャの検討及び機能仕様の策定について出題した。全体として,題意はよく理解されていたようであった。
システムアーキテクトとして,システム開発の要件を理解し,その実現を最適化するためのシステムアーキテクチャ,各構成要素,及び必要な情報を明確に定義できるよう心がけてもらいたい。
設問と解答例
設問1(1)
解答欄2つ
店舗独自の割込み再生は,店舗に設置された操作端末によってサーバに指示する。このとき,コンテンツ及び再生時刻以外に必要な指示内容を二つ挙げ,それぞれ 15 字以内で述べよ。
解説
本文の根拠
〔ショッピングモールからの要望〕
コンテンツ及びその再生時刻をあらかじめ指定し,順次再生する表示に加え,店舗独自の案内,ショッピングモール全体を対象とした案内,緊急時の情報提供なども割込み表示できるようにしてほしい。
〔本システムの構成〕
管理用のサーバを管理室に設置し,ディスプレイ端末を共有スペース及び店舗に設置し,操作端末を店舗に設置する。
表1 割込み再生
サーバからの割込みによって,新たに配信されたコンテンツを優先して再生する。
割込み再生は,サーバからの割込みでディスプレイ端末にコンテンツを配信して優先的に再生させる仕組みである。ディスプレイ端末は共有スペースにも各店舗にも設置されているので,サーバはどの端末に割り込むかを知らなければならない。コンテンツと再生時刻のほかに,再生させるディスプレイ端末の識別情報が要る。
割込み表示には,店舗独自の案内のほかに,ショッピングモール全体を対象とした案内や緊急時の情報提供がある。店舗独自の割込みは,指示した店舗の案内として扱われなければならないので,どの店舗からの指示かを示す店舗情報も指示内容に含める。講評によれば,設問1は正答率が高かったが,本システムの基本機能を理解していないと思われる解答も散見された。
15字ずつに名詞で書く。解答例は「ディスプレイ端末の識別情報」で13字,「店舗情報」で4字。
採点講評(IPA)
設問1は,正答率は高かったが,本システムの基本機能を理解していないと思われる解答も散見された。
設問1(2)
10字以内
記憶デバイスを接続したディスプレイ端末で,記憶デバイスに保持されているコンテンツの中から,不要なコンテンツのデータを削除するときに参照するものを,10 字以内で答えよ。
解答例
解説
本文の根拠
〔本システムの構成〕
プレイリストを用いて,ディスプレイ端末で再生するコンテンツ,及びそれを再生する日時を,一定期間分まとめて指示できるようにする。
〔本システムの構成〕
必要に応じてディスプレイ端末に記憶デバイスを接続し,配信されたデータを保持できるようにする。
ディスプレイ端末で再生するコンテンツと再生日時は,プレイリストで一定期間分まとめて指示される。記憶デバイスに保持しているコンテンツのうち,プレイリストに載っていないものは今後再生されないので,削除してよい。不要かどうかを判断するには,プレイリストを参照すればよい。
プレイリストもコンテンツもサーバから配信されるデータであり,記憶デバイスにはその両方を保持できる。端末の側でプレイリストと照らし合わせれば,サーバに問い合わせなくても不要なコンテンツを判断できる。
10字以内で本文の用語をそのまま答える。解答例は「プレイリスト」で6字。
採点講評(IPA)
設問1は,正答率は高かったが,本システムの基本機能を理解していないと思われる解答も散見された。
設問2(1)
解答欄2つ
小型ディスプレイ端末は,商品の近くに設置し,表示したまま移動することが多いと想定されるので,無線 LAN でも動作するようにした。この場合,更に考慮しなければならない課題を二つ挙げ,それぞれ 10 字以内で答えよ。
解説
本文の根拠
表1 小型
対象商品の近くに設置する。
表1 LAN
サーバとの通信に使用する。・無線 LAN も選択できる。
〔ショッピングモールからの要望〕
ディスプレイ端末の消費電力は,できるだけ低く抑えたい。
小型ディスプレイ端末を無線 LAN で動かすと,LAN ケーブルでつながっていないので,表示したまま自由に持ち運べる。商品の近くに置かれ,移動することが多いので,持ち去られるおそれがある。盗難への対策が必要になる。
また,表示したまま移動させるには,電源ケーブルにもつながずに動かすことになる。その間は電池で動作するので,電池切れへの対策も考えなければならない。講評によれば,無線 LAN や電源コンセントの設置にかかわる解答が散見されたが,システムの開発段階で考慮すべき課題を答えてほしかった,としている。設置工事ではなく,端末そのものに持たせる機能の課題を挙げる。
10字ずつなので「〜対策」の形で短くまとめる。解答例は「盗難対策」で4字,「電池切れ対策」で6字。
採点講評(IPA)
設問2(1)では,無線LANや電源コンセントの設置にかかわる解答が散見されたが,システムの開発段階で考慮すべき課題を答えてほしかった。
設問2(2)
30字以内
同じプレイリストを使用するディスプレイ端末間で,映像再生のタイミングがずれないようにするための機能を,30 字以内で述べよ。
解答例
解説
本文の根拠
〔本システムの構成〕
プレイリストを用いて,ディスプレイ端末で再生するコンテンツ,及びそれを再生する日時を,一定期間分まとめて指示できるようにする。
〔本システムの構成〕
プレイリスト及びコンテンツのデータは,サーバからディスプレイ端末に配信され,ディスプレイ端末は,プレイリストに従ってコンテンツを順次再生する。
プレイリストには再生する日時が書かれており,ディスプレイ端末はプレイリストを受け取った後,それに従って自分でコンテンツを順次再生する。同じプレイリストを使う端末どうしでも,それぞれの端末が持つ時刻がずれていれば,再生を始めるタイミングもずれる。
そこで,ディスプレイ端末の時刻を合わせる機能を設ける。各端末の時刻がそろっていれば,同じプレイリストの同じ日時に同時に再生が始まる。サーバと各端末は LAN でつながっているので,時刻をそろえる経路もある。
30字以内で「何の」(ディスプレイ端末の)時刻を「合わせる」機能と書く。解答例「ディスプレイ端末の時刻を合わせる機能」は18字。
設問2(3)
20字以内
屋外に設置した場合に,見やすさを損なうことなく消費電力を抑制できる制御機能を,20 字以内で述べよ。
解答例
解説
本文の根拠
〔ショッピングモールからの要望〕
ディスプレイ端末の消費電力は,できるだけ低く抑えたい。さらに,運用上,省エネルギーとなる機能も盛り込んでほしい。
表1 大型
屋外,エントランスホールなどに設置する。
屋外に置いたディスプレイ端末は,昼間の明るい時間には画面を明るくしないと見えにくいが,夜など周囲が暗いときは,画面を暗くしても見やすさは損なわれない。周囲の明るさに合わせて画面の明るさを下げれば,その分の消費電力を抑えられる。
ショッピングモールは,消費電力をできるだけ低く抑えることに加えて,運用上,省エネルギーとなる機能を求めている。常に最大の明るさで表示するのではなく,周囲が暗い場合に画面も暗くする制御がこれに当たる。
20字以内で「どういうときに」(周囲が暗い場合)と「どうする」(画面も暗くする)を書く。解答例「周囲が暗い場合,画面も暗くする。」は16字。
設問3(1)
20字以内
ディスプレイ端末の台数,処理負荷の差異に応じて,表 2 のサーバ内部構成を最適化したい。最適化する内容を,20 字以内で述べよ。
解答例
解説
本文の根拠
〔サーバの内部構成〕
サーバの構成は,処理負荷の違いや記憶するデータサイズに応じて最適化できるようにする。
〔サーバの内部構成〕
サーバの処理負荷の違いに対応して,プロセッサの台数を増減できる。
〔サーバの内部構成〕
記憶するデータサイズに対応して,必要な容量及び台数の HDD を設置する。
サーバの内部構成は,処理負荷の違いに応じてプロセッサの台数を増減でき,記憶するデータサイズに応じて必要な容量と台数の HDD を設置できるようにしてある。ディスプレイ端末の台数や処理負荷が変われば,サーバの処理量と配信・記憶するデータ量が変わるので,最適化する内容はプロセッサの台数と HDD の容量である。
講評によれば,設問3は正答率が低かった。“サーバの内部構成”の記述や表2を理解すれば,正解を導けるはずである,としている。サーバの内部構成の箇条に,何を何に応じて変えられるかがそのまま書かれている。
20字以内で二つを並べる。解答例「プロセッサの台数やHDDの容量」は15字。
採点講評(IPA)
設問3は,正答率は低かった。“サーバの内部構成”の記述や表2を理解すれば,正解を導けるはずである。
設問3(2)
30字以内
ルーティングスイッチを用いる利点を,単一バスによるスイッチと比較して,30 字以内で述べよ。
解答例
解説
本文の根拠
表2 ルーティングスイッチの仕様
十分な数の高速シリアル I/F ポートをもち,プロセッサ,HDD 及び LAN コントローラ相互間のデータ伝送経路を提供する。
表2 ルーティングスイッチの仕様
内部にルーティング情報を保持し,パケットのヘッダを参照してルーティングを行う。同時に,複数のデータ伝送経路を設定できる。
表2で,ルーティングスイッチはプロセッサ,HDD,LAN コントローラをそれぞれ別のポートに高速シリアル I/F でつなぎ,同時に複数のデータ伝送経路を設定できるとしている。単一バスでは全ての装置が1本のバスを共有するので,一度に一つの伝送しか行えない。ルーティングスイッチなら,異なるポートの組どうしであれば,同時に複数の伝送ができる。
プロセッサや HDD を増やしても,伝送が一つずつにしか流れなければ待ちが増える。同時に複数の伝送ができることが,設問3(1)の構成の最適化を生かす前提にもなる。講評によれば,設問3は正答率が低かった。
30字で,条件(異なるポート間であれば)と利点(同時に複数の伝送が可能)を書く。解答例は23字。
採点講評(IPA)
設問3は,正答率は低かった。“サーバの内部構成”の記述や表2を理解すれば,正解を導けるはずである。
設問4(1)
解答欄1つ
ディスプレイ端末による詳細情報表示の付加サービスを実現するためには,表 1 中のa が必要である。表 1 中のa に入れる適切な字句を,10 字以内で答えよ。
解説
本文の根拠
〔ショッピングモールからの要望〕
将来的には,画面に触れて詳細情報を表示したり,店舗・商品のクーポンや詳細情報にアクセスするための URL などの情報を携帯電話に送信したりする付加サービス機能を,実現できるようにしてほしい。
表1 入出力 I/F
非接触 IC カードリーダライタ…・付加サービス時に,携帯電話との通信に使用する。a …・付加サービスに使用する。
付加サービスには,画面に触れて詳細情報を表示するものと,URL などの情報を携帯電話に送信するものの二つがある。携帯電話への送信は表1の非接触 IC カードリーダライタが受け持つ。残る“画面に触れて詳細情報を表示する”ためには,画面への接触を入力として受け取る装置が要る。これがタッチパネルである。
表1の入出力 I/F には LAN,USB,非接触 IC カードリーダライタ,空欄aが並び,空欄aの説明は“付加サービスに使用する”である。講評によれば,設問4は正答率が高く,ディスプレイ端末の入出力機能はよく理解されていた。
10字以内の装置名で答える。解答例「タッチパネル」は6字。
採点講評(IPA)
設問4は,正答率は高かった。ディスプレイ端末の入出力機能についてはよく理解されているようであった。
設問4(2)
20字以内
携帯電話で店舗・商品などの詳細情報を得たい場合,ディスプレイ端末から URL を携帯電話に送信する。詳細情報そのものを携帯電話に送らないことによる本システムにとっての利点は何か。20 字以内で述べよ。
解答例
解説
本文の根拠
〔ショッピングモールからの要望〕
店舗・商品のクーポンや詳細情報にアクセスするための URL などの情報を携帯電話に送信したりする付加サービス機能
表1 非接触 IC カードリーダライタ
付加サービス時に,携帯電話との通信に使用する。
ディスプレイ端末から携帯電話へは,非接触 IC カードリーダライタで送る。詳細情報そのものを送ると,端末は詳細情報のデータを持ち,それを携帯電話に送らなければならない。URL だけを送れば,携帯電話はその URL にアクセスして詳細情報を自分で取りに行くので,端末が扱うデータは URL だけで済む。
送るデータが小さくなり,詳細情報を端末に持たせる必要もなくなるので,ディスプレイ端末の負荷が抑えられる。これが“本システムにとっての”利点である。
20字以内で「ディスプレイ端末の負荷を抑える。」(16字)と書く。利用者側の利点ではなく本システム側の利点を答えることに注意する。
採点講評(IPA)
設問4は,正答率は高かった。ディスプレイ端末の入出力機能についてはよく理解されているようであった。
出典:平成22年度 秋期 システムアーキテクト試験 午後Ⅰ 問4(表記を一部改変)