平成29年度 秋期に実施されたシステムアーキテクト試験
午後Ⅰの全4問(記述式)です。事例本文・設問・解答例と解説をそのまま読めます。
この試験について:システムアーキテクト試験について
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問1 生命保険会社のシステムの構築
生命保険会社のシステムの構築に関する次の記述を読んで,設問1〜4に答えよ。
A 社は,多くの個人保険の契約を保有する大手生命保険会社である。保険金などを顧客に支払った場合に支払調書を税務署に提出している。社会保障・税番号制度(以下,マイナンバー制度という)の導入に伴い,支払調書にマイナンバーの記載が必要になることから,マイナンバーを含むデータを処理するための専用の情報システム(以下,新システムという)を構築することにした。
〔現在の業務と関連システムの概要〕
A 社では,顧客から保険金請求の連絡があった場合,保険金部で契約管理システムを利用して手続書類を印刷し,送付する。顧客から記入済みの手続書類の提出を受け,内容を確認して保険金を支払う。一定金額以上の保険金を支払った顧客については,契約管理システムを利用して支払調書を作成し,CD に格納して税務署に提出する。支払調書には,契約者の氏名,契約者の住所,受取人の氏名,受取人の住所,支払金額,支払年月日などが記載されている。
現在のシステム概念図を図 1 に示す。
図1 現在のシステム概念図
〔マイナンバーに関する業務とシステム化の方針〕
マイナンバー制度導入後は,現在の支払調書に契約者及び受取人のマイナンバーを記載するマイナンバー記載欄が追加される。それに伴い,A 社では,マイナンバーに関する業務とシステム化の方針を,次のように決定した。
顧客のマイナンバーを取り扱う部署として,マイナンバー管理部を新設する。 一定金額以上の保険金を支払った顧客については税務署に支払調書を提出する必要があるので,保険金請求の連絡を受けた際に,契約者及び受取人双方にマイナンバーの提供を依頼する。そのために,マイナンバー提供のお願い,マイナンバー申告書,マイナンバー申告書記入例,返信用の封筒などを含んだマイナンバーの提供に関する書類(以下,マイナンバー提供依頼書類という)を A 社から顧客に送付する。 顧客からのマイナンバーの提供が遅れても,手続書類を確認でき次第,保険金を顧客に支払う。 マイナンバーを含むデータは,新システムだけで扱うこととする。また,マイナンバー管理部だけが新システムを利用できることとし,業務はセキュリティレベルの高い執務室で行う。 〔マイナンバー制度導入後の業務概要〕
A 社では,マイナンバー制度導入後,現在の業務に加えて次のような業務を実施することを検討している。
契約管理システムで,顧客番号と顧客氏名を記載したマイナンバー申告書を印刷する。既に新システムにマイナンバーを登録済みの顧客のマイナンバー申告書は印刷しない。顧客番号は,A 社の顧客を一意に特定する値であり,1 人の顧客が複数の保険契約に関係している場合でも,顧客番号は一つである。
保険金部は,保険金の支払に必要な手続書類に,マイナンバー提供依頼書類を同封して顧客に送付する。顧客は,送付されたマイナンバー申告書にマイナンバーを記入して A 社に提出する。マイナンバー管理部は,顧客から提出されたマイナンバー申告書の内容に不備がないことを確認した後,新システムにマイナンバーを登録する。不備があった場合は,マイナンバー管理部で顧客に連絡し,対応する。
顧客からマイナンバーが変更になった旨の連絡があった場合は,新システムで管理しているマイナンバーを即時削除し,再度マイナンバー提供依頼書類を顧客に送付する。支払調書を税務署に提出した後にマイナンバーの変更があっても,支払調書の再提出は行わない。
マイナンバー管理部は,マイナンバー申告書の状態(以下,申告書ステータスという)を新システムで照会し,進捗状況を管理する。
契約管理システムで作成した支払調書に,新システムでマイナンバーを追記して,毎月 1 回,CD に格納して税務署に提出する。まだマイナンバーが提供されていない場合又は書類に不備があった場合は,該当する契約者又は受取人のマイナンバー記載欄を空白で提出する。その後,マイナンバーが提供されたら,マイナンバーを記載した支払調書を,訂正支払調書として再度提出する。マイナンバーの誤登録によって,提出済みの支払調書を訂正する必要があった場合は,担当者が個別に確認して対応する。
支払調書提出時までに A 社にマイナンバー申告書が届かず,支払調書の契約者又は受取人のマイナンバー記載欄を空白で提出した場合は,対象の顧客にマイナンバー申告書の提出を督促する。新システムから督促対象の顧客リストを出力し,マイナンバー管理部から顧客に督促書類を送付する。その際,顧客に督促書類を送付したことを把握するために,新システムに督促履歴を登録する。
顧客から提供されたマイナンバーは,支払調書を最後に提出してから 7 年経過した際に新システムで一括削除する。また,提出後 7 年を経過した支払調書も削除する。
〔新システムの設計〕
マイナンバー制度導入後の業務を踏まえ,新システムの設計を次のように検討している。マイナンバー制度導入後のシステム概念図を図 2 に,新システムで利用する主要なデータを表 1 に示す。
マイナンバー提供依頼書類を送付した顧客の顧客番号,送付年月日,顧客氏名及び送付先住所をマイナンバー提供依頼書類情報として契約管理システムから受領し,申告書データに登録する。 マイナンバーを登録又は削除した顧客の顧客番号を,契約管理システムに送信する。 現在の支払調書情報に契約者及び受取人の顧客番号を追加した支払調書情報(以下,支払調書基本情報という)を,毎月 1 回契約管理システムから受領する。 マイナンバー申告書に記入されている情報を用いて,登録画面からマイナンバーデータのレコードを登録する。 マイナンバーデータのレコードを登録する際,①該当する顧客の支払調書データのレコードが存在し,最新のレコードのマイナンバーが空白である場合に,再度,支払調書データのレコードを作成し,登録する 。支払調書データは,レコードを履歴で保存する。 申告書データに申告書ステータスを保有し,画面から照会,変更する。申告書ステータスの値は,“取得中”,“不備対応中”,“登録済み”又は“削除済み”である。申告書ステータスの初期値は“取得中”である。不備があった場合は,画面から申告書ステータスの値を“不備対応中”にする。不備がなくマイナンバーが登録された場合は,申告書ステータスは“登録済み”になる。 契約管理システムから支払調書基本情報を受領後,支払調書番号を採番し,支払調書データのレコードを作成して,登録する。その際,契約者及び受取人のマイナンバーを設定する。登録した支払調書データのレコードから,税務署に提出する支払調書を格納した CD を作成する。 支払調書データから訂正支払調書として税務署に提出するレコードを抽出し,訂正支払調書を格納した CD を作成する。 支払調書提出機能の処理完了後に,支払調書データの各支払調書番号について最新の履歴であるレコードを対象に,督促が必要な顧客番号を抽出する。抽出した顧客番号に該当する申告書データを参照し,②申告書ステータスが特定の値であるレコードを除外し ,督促対象の顧客リストとして帳票に出力する。 督促書類を送付した顧客については,画面から督促履歴情報を督促履歴データに登録する。 削除予定年月日を過ぎているマイナンバーデータのレコードを一括で削除し,対応する顧客の申告書ステータスを“削除済み”にする。 なお,削除予定年月日は,マイナンバーデータのレコードを登録する際,システムで計算して設定する。また,削除予定年月日は,ある機能で変更する。
マイナンバーデータのレコードを一括で削除する処理に加えて,画面から 1 件ずつ削除可能とする。 提出後 7 年経過している支払調書データのレコードを一括で削除する。
図2 マイナンバー制度導入後のシステム概念図
表1 新システムで利用する主要なデータ
出題趣旨(IPA)
制度対応に伴い,現在の業務を見直し,業務とシステムを設計・構築することがある。システムアーキテクトには,業務要件をもとにシステム要件を定義し,情報システムを設計していく能力が求められる。本問では,マイナンバー制度導入に伴う情報システムの構築を題材として,業務とシステムを正しく理解・把握した上で,利用者から求められている機能を定義し,情報システムを設計する能力を問う。
採点講評(問全体・IPA)
問1では,マイナンバー制度導入に伴う情報システムの構築を例にとり,業務と情報システムを正しく理解・把握した上で利用者から求められている機能を定義して情報システムを設計する際の,機能設計について出題した。全体として,正答率は高かった。
システムアーキテクトとして,業務要件を十分に理解した上で,システム要件を定義して情報システムを設計できるように心掛けてほしい。
設問と解答例
設問1
35字以内
システム間連携機能について,マイナンバーを登録又は削除した顧客の顧客番号を契約管理システムに送信する目的を,35 字以内で述べよ。
解答例
契約管理システムでマイナンバー申告書の印刷を制御するため
解説
本文の根拠
〔マイナンバー制度導入後の業務概要〕(1) マイナンバー取得業務
契約管理システムで,顧客番号と顧客氏名を記載したマイナンバー申告書を印刷する。既に新システムにマイナンバーを登録済みの顧客のマイナンバー申告書は印刷しない。
〔マイナンバーに関する業務とシステム化の方針〕
マイナンバーを含むデータは,新システムだけで扱うこととする。
〔マイナンバー制度導入後の業務概要〕(1) マイナンバー取得業務
顧客からマイナンバーが変更になった旨の連絡があった場合は,新システムで管理しているマイナンバーを即時削除し,再度マイナンバー提供依頼書類を顧客に送付する。
マイナンバー申告書を印刷するのは契約管理システムで,登録済みの顧客の申告書は印刷しない決まりである。ところが,マイナンバーを含むデータは新システムだけで扱うので,契約管理システムは自分ではどの顧客が登録済みかを知ることができない。そこで,新システムでマイナンバーを登録した顧客の顧客番号を送り,契約管理システムが印刷するかしないかを判断できるようにする。
削除した顧客の顧客番号も送るのは,マイナンバーが変更になった顧客には,マイナンバーを削除したうえで再度マイナンバー提供依頼書類を送付するからである。削除を知らせなければ,契約管理システムは登録済みとみなしたまま申告書を印刷しない。送るのが顧客番号だけでマイナンバーそのものではない点も,マイナンバーを新システムだけで扱う方針に沿っている。講評は,契約管理システムにない機能である“支払調書の印刷”と書いた誤答があったとしている。支払調書にマイナンバーを追記するのは新システムの側である。
35字で「契約管理システムで」「マイナンバー申告書の印刷を制御する」ことを書く。解答例は「契約管理システムでマイナンバー申告書の印刷を制御するため」で28字。
採点講評(IPA)
設問1では,マイナンバー制度導入後の業務において,契約管理システムでは,マイナンバーを登録済みか未登録かによって顧客のマイナンバー申告書の印刷を制御することがポイントであるが,契約管理システムにない機能である“支払調書の印刷”という誤った解答が見受けられた。問題文中の業務の背景を読み取り各システムの機能配置を正しく理解・把握してほしい。
設問2
25字以内
本文中の下線①で登録した支払調書データのレコードの利用目的を,25 字以内で述べよ。
解答例
解説
本文の根拠
〔マイナンバー制度導入後の業務概要〕(3) 支払調書提出業務
まだマイナンバーが提供されていない場合又は書類に不備があった場合は,該当する契約者又は受取人のマイナンバー記載欄を空白で提出する。その後,マイナンバーが提供されたら,マイナンバーを記載した支払調書を,訂正支払調書として再度提出する。
〔新システムの設計〕(2) マイナンバー取得管理機能
①該当する顧客の支払調書データのレコードが存在し,最新のレコードのマイナンバーが空白である場合に,再度,支払調書データのレコードを作成し,登録する
〔新システムの設計〕(4) 支払調書提出機能
支払調書データから訂正支払調書として税務署に提出するレコードを抽出し,訂正支払調書を格納した CD を作成する。
下線①のレコードが作られるのは,支払調書データの最新のレコードでマイナンバーが空白,つまりマイナンバー記載欄を空白のまま支払調書を提出済みの顧客について,後からマイナンバーが登録されたときである。業務では,このときマイナンバーを記載した支払調書を訂正支払調書として再度提出する。新たに作ったレコードは,その訂正支払調書の元になる。
支払調書提出機能は,支払調書データから訂正支払調書として提出するレコードを抽出し,訂正支払調書を格納した CD を作成する。支払調書データはレコードを履歴で保存するので,空白で提出した元のレコードは残したまま,マイナンバーを設定した新しい履歴を追加することになる。講評は,“履歴データを管理するため”とシステム設計と混同した解答があったとしている。問われているのはレコードの利用目的で,履歴で保存するのは手段である。
25字で「訂正支払調書」と「CD を作成する」を入れる。解答例は「訂正支払調書を格納したCDを作成するため」で20字。
採点講評(IPA)
設問2は,正答率が高かった。一方で,作成しているレコードの利用目的の解答を求めたにもかかわらず,システム設計と混同し“履歴データを管理するため”と誤って解答した例も見受けられた。
設問3(1)
35字以内
支払調書データの最新の履歴であるレコードの中から,督促が必要な顧客番号を抽出する。督促が必要な顧客番号の抽出条件を,表 1 の属性を用いて 35 字以内で述べよ。
解答例
契約者マイナンバー又は受取人マイナンバーが空白である顧客番号
解説
本文の根拠
〔マイナンバー制度導入後の業務概要〕(4) マイナンバー申告書督促業務
支払調書提出時までに A 社にマイナンバー申告書が届かず,支払調書の契約者又は受取人のマイナンバー記載欄を空白で提出した場合は,対象の顧客にマイナンバー申告書の提出を督促する。
表1 支払調書データ
支払調書番号(主キー),履歴番号(主キー),提出年月日,契約者顧客番号,契約者氏名,契約者住所,契約者マイナンバー,受取人顧客番号,受取人氏名,受取人住所,受取人マイナンバー,支払金額,支払年月日
督促の対象は,支払調書の契約者又は受取人のマイナンバー記載欄を空白で提出した顧客である。支払調書データの最新の履歴のレコードで見ると,契約者マイナンバーか受取人マイナンバーが空白になっているものがこれに当たる。
抽出するのは顧客番号なので,契約者マイナンバーが空白なら契約者顧客番号を,受取人マイナンバーが空白なら受取人顧客番号を取り出す。表1 の支払調書データには契約者と受取人の顧客番号・マイナンバーが別々の属性で持たれているので,条件は二つの「又は」で書く。最新の履歴に限るのは,マイナンバーが登録されると下線①で新しいレコードが作られ,空白でなくなるからである。
35字で表1 の属性名「契約者マイナンバー」「受取人マイナンバー」を使い,「空白である顧客番号」と結ぶ。解答例は「契約者マイナンバー又は受取人マイナンバーが空白である顧客番号」で30字。
設問3(2)
解答欄2つ
本文中の下線②で除外しているレコードの申告書ステータスの値を答えよ。また,除外している理由を 35 字以内で述べよ。
〔理由〕解答例
A社にマイナンバー申告書が届いていない顧客を対象とするから
解説
本文の根拠
〔新システムの設計〕(3) マイナンバー申告書進捗管理機能
申告書ステータスの初期値は“取得中”である。不備があった場合は,画面から申告書ステータスの値を“不備対応中”にする。
〔マイナンバー制度導入後の業務概要〕(1) マイナンバー取得業務
マイナンバー管理部は,顧客から提出されたマイナンバー申告書の内容に不備がないことを確認した後,新システムにマイナンバーを登録する。不備があった場合は,マイナンバー管理部で顧客に連絡し,対応する。
〔マイナンバー制度導入後の業務概要〕(4) マイナンバー申告書督促業務
支払調書提出時までに A 社にマイナンバー申告書が届かず
督促は,支払調書提出時までにマイナンバー申告書が A 社に届いていない顧客に対して行う。マイナンバーが空白のまま提出された顧客には,申告書が届いていない顧客のほかに,申告書は届いたが不備があってマイナンバーを登録できていない顧客も含まれる。後者は申告書ステータスが“不備対応中”で,マイナンバー管理部が既に顧客に連絡して対応しているので,督促書類を送る必要はない。
申告書ステータスの値のうち,“取得中”は申告書が届いていない状態で督促の対象そのものである。“登録済み”の顧客は下線①でマイナンバーを設定したレコードが作られるので,最新の履歴が空白のまま残ることはない。したがって除外するのは“不備対応中”である。講評は,理由ではなく申告書ステータスの説明だけを書いた解答があったとしている。
値は本文の表記どおり「不備対応中」。理由は35字で「A 社にマイナンバー申告書が届いていない顧客」を督促の対象とすることを書く。解答例は「A社にマイナンバー申告書が届いていない顧客を対象とするから」で29字。
採点講評(IPA)
設問3(2)では,申告書ステータスの値を正しく解答している受験者の多くは,その理由も正しく理解していた。一方で,理由ではなく単純に申告書ステータスの説明だけを記載している解答も見受けられた。
設問4(1)
解答欄2つ
削除予定年月日を変更している機能を答えよ。また,その理由を 35 字以内で述べよ。
〔理由〕解答例
支払調書を提出してから7年後の日付を設定する必要があるから
解説
本文の根拠
〔マイナンバー制度導入後の業務概要〕(5) マイナンバー削除業務
顧客から提供されたマイナンバーは,支払調書を最後に提出してから 7 年経過した際に新システムで一括削除する。
〔新システムの設計〕(6) 削除機能
なお,削除予定年月日は,マイナンバーデータのレコードを登録する際,システムで計算して設定する。また,削除予定年月日は,ある機能で変更する。
〔新システムの設計〕(4) 支払調書提出機能
契約管理システムから支払調書基本情報を受領後,支払調書番号を採番し,支払調書データのレコードを作成して,登録する。その際,契約者及び受取人のマイナンバーを設定する。
マイナンバーを削除するのは,支払調書を「最後に」提出してから 7 年経過したときである。削除予定年月日は登録時に計算して設定するが,その後に同じ顧客の支払調書を提出すれば,最後の提出日が後ろへずれ,削除予定年月日も延ばさなければならない。
支払調書の提出を扱うのは支払調書提出機能で,支払調書基本情報を受領して支払調書データのレコードを作り,その際に契約者及び受取人のマイナンバーを設定している。どの顧客の支払調書を提出したかが分かるのはこの機能なので,提出のたびに該当する顧客のマイナンバーデータの削除予定年月日を,提出してから 7 年後の日付に変更すればよい。1 人の顧客が複数の保険契約に関係していることもあるので,提出は一度で終わるとは限らない。
機能名は本文の表記どおり「支払調書提出機能」。理由は35字で「支払調書を提出してから 7 年後の日付」を設定する必要があることを書く。解答例は29字。
設問4(2)
35字以内
画面から 1 件ずつ削除可能とした目的は,二つある。一つは,誤登録時に再度登録可能とするためである。もう一つの目的を 35 字以内で述べよ。
解答例
顧客からマイナンバーの変更の連絡があった場合に削除するため
解説
本文の根拠
〔マイナンバー制度導入後の業務概要〕(1) マイナンバー取得業務
顧客からマイナンバーが変更になった旨の連絡があった場合は,新システムで管理しているマイナンバーを即時削除し,再度マイナンバー提供依頼書類を顧客に送付する。
〔新システムの設計〕(6) 削除機能
マイナンバーデータのレコードを一括で削除する処理に加えて,画面から 1 件ずつ削除可能とする。
一括削除は,削除予定年月日を過ぎたレコードをまとめて消す処理なので,期限前の特定の顧客のマイナンバーを消すことはできない。期限前に個別に消す必要がある場面を業務の中から探すと,誤登録のほかに,顧客からマイナンバーが変更になった旨の連絡があった場合がある。このときは新システムで管理しているマイナンバーを即時削除する。
「即時」なので,削除予定年月日を待つ一括処理では間に合わない。画面から 1 件ずつ削除できれば,連絡を受けたその場で該当する顧客のマイナンバーを消し,再度マイナンバー提供依頼書類を送付する流れに進める。講評は,“契約終了”や“不具合”といった,利用者から求められている背景ではない解答があったとしている。本文に書かれた業務の中から削除が必要になる場面を探す。
35字で「顧客からマイナンバーの変更の連絡があった場合」と「削除する」を入れる。解答例は「顧客からマイナンバーの変更の連絡があった場合に削除するため」で29字。
採点講評(IPA)
設問4(2)は,正答率が高かったが,“契約終了”や,“不具合”などの,利用者から求められている背景ではない解答があった。業務の背景を読み取り,利用者から求められている内容を解答してほしかった。
出典:平成29年度 秋期 システムアーキテクト試験 午後Ⅰ 問1(表記を一部改変)
問2 生産管理システムの改善
生産管理システムの改善に関する次の記述を読んで,設問1〜4に答えよ。
F 社は,工作機械や建設機械を構成する部品の製造販売を行う機械部品メーカである。このたび,生産管理部門,製造部門,経理部門から生産管理システムの改善要望を受け,システム改善プロジェクトを立ち上げた。
〔F 社の生産形態〕
F 社が販売する製品の生産形態には,顧客からの注文に対応する受注生産と,汎用部品や保守用部品を在庫として保持し,販売する見込生産がある。
〔製造工程の概要〕
製品の製造工程は,加工工程と組立工程から成っている。加工工程は,設備機械での切断,切削,ねじ切り,穴開け,検査などの作業工程で成り立っている。加工工程で製造する部品(以下,加工部品という)は,部品によって作業工程が異なる。組立工程では,加工部品や外部から購入した部品(以下,購入部品という)を使用し,製品別の組立ラインで製品を組み立てている。製造工程の概要を図 1 に示す。
図1 製造工程の概要
〔現在の生産管理の業務内容〕
現在の生産管理に関わる部門の業務内容は,次のとおりである。
なお,現在の業務で利用している生産管理システム(以下,現行システムという)は,生産管理ソフトウェアパッケージ(以下,生産管理パッケージという)を利用している。
生産管理部門では,主要な業務として,次の二つの計画業務を行っている。
受注生産の製品については,顧客からの注文情報を営業部門から入手する。また,見込生産の製品については,販売計画及び製品在庫状況の情報を営業部門から入手する。これらの情報を基に,どの製品を,いつ,どれだけ生産するかという基準生産計画を月次で立案する。計画を立案する際には,工場側の状況も考慮している。
基準生産計画の立案結果は,生産管理部門が現行システムに登録している。注文情報,販売計画情報,製品在庫状況情報は,営業部門が主として利用している販売管理システムで管理しているが,現行システムとは連携していない。
資材所要量計画においては,基準生産計画を基に,現行システムを利用して次の業務を行っている。
製品の組立オーダの決定と発行 製品を構成する材料,購入部品及び加工部品(以下,材料,購入部品及び加工部品を資材という)の所要量の計算 材料と購入部品の購買オーダ及び加工部品の加工オーダの決定と発行 購買部門では,生産管理部門から発行された購買オーダに基づく材料と購入部品の購買,及び購買した材料と購入部品の在庫管理を行っている。現行システムでは,発注,検収,材料と購入部品の在庫管理及び買掛金管理を行っている。
生産技術部門では,設計部門で設計された加工部品及び製品の製造方法として,加工工程と組立工程の中で,どのような作業工程を経て製造するかの工程手順を設定している。また,製造対象品の個々の作業工程の中での,作業標準,単位当たりの標準作業時間,使用する設備機械とその能力基準などの製造基準の設定を行い,それぞれ設計技術システムで管理している。また,製造現場の作業実態及び作業実績データを収集・分析し,製造基準の見直しや製造方法の改善を行っている。
製造部門では,生産管理部門から発行された組立オーダ及び加工オーダに対して,製造実施計画の立案,作業指示,製造作業,作業実績収集,作業進捗管理及び加工部品の在庫管理を行っている。
製造実施計画は週次で作成する。組立工程については,組立オーダごとに,1 週間分の組立ライン別作業順序計画を日単位で立案している。加工工程については,加工オーダごとに,1 週間分の各作業工程への加工オーダ割付けを日単位で行っている。製造実施計画に必要な製造基準の情報は,生産技術部門から入手し,製造部門の PC で管理している。
現行システムでは,製造実施計画の立案結果の登録,作業指示票の発行,作業実績の製造現場での入力,作業進捗管理及び加工部品の在庫管理を行っている。
作業者及び設備機械の作業実績データを,作業進捗管理に利用するとともに,生産技術部門及び経理部門に提出している。
〔現行システムへの改善要望〕
各部門からの改善要望として,次の要望が挙げられた。
基準生産計画立案の効率向上のために,現行の販売管理システムの注文情報,販売計画情報,製品在庫状況情報をシステム間で連携してほしい。 基準生産計画の立案に当たっては,工場全体の稼働率の視点から,工場の設備機械,作業者などの生産能力とのバランスを調整する必要があるので,立案時にその調整をシステムで支援してほしい。 製造実施計画の立案に,大きな工数が掛かっている。設備機械や作業者などの資源の最適稼働を図るためにも,システムで支援してほしい。 作業実績データは,生産技術部門及び経理部門にも提出しているが,提出用データの集計に手間が掛かっている。システム間で情報を連携してほしい。 現行の会計システムの原価計算処理で,加工費計算に作業実績データの中の作業時間実績が必要となる。これが会計システムに反映されるようにしてほしい。 〔改善後の生産管理システム〕
改善要望を踏まえ,プロジェクトチームで,改善後の生産管理システム(以下,新システムという)の機能を整理し,機能の詳細について検討を行った。また,新システムでは,現行システムで利用している生産管理パッケージの中でまだ使用していない機能を,できるだけ活用することにした。
加工工程は F 社の生産に占める比率が高く,改善効果も大きいことから,新システムでの最も大きな変更である製造実施計画立案のシステム化は,加工工程を対象とした。組立工程については,人手で計画した作業日程の登録と変更の機能を設けた。
新システムの機能概要と現行システムからの改善内容を表 1 に,新システムの機能構造を図 2 に示す。
表1 新システムの機能概要と現行システムからの改善内容
図2 新システムの機能構造
〔製造実施計画のシステム要件検討〕
新システムで新規に利用する,製造実施計画機能の加工オーダの処理に関するシステム要件について,プロジェクトチームで検討を行った。
作業日程計算に必要な製造基準は,工程手順表マスタに定義されている。
加工オーダの作業工程について,工程手順を参照する。次に,加工対象品の単位当たりの標準作業時間を基に,各作業工程の作業時間を見積もり,加工オーダの作業工程ごとの着手予定日,完了予定日を計算する。
全ての加工オーダの作業日程計算後,設備機械ごとに,その設備機械で加工対象となる各加工オーダの作業時間を日単位に累積していく。これを作業負荷の山積みという。
設備機械がもつ生産能力に対し,作業負荷がオーバした場合は,製造部門管理者の判断で,加工オーダの代替設備機械への振替,作業者のシフト調整などの負荷調整を行う。
出題趣旨(IPA)
利用者からの要望によって,既存システムへの機能の追加や改善が行われることが多い。システムアーキテクトには,利用者からの要望をシステム要件として定義していく能力が求められる。本問では,生産管理システムの改善を題材として,利用者からの要望を正しく理解・把握し,機能の追加,改善及び生産管理システムと関連する他システムとの連携などについて,システム要件として定義していく能力を問う。
採点講評(問全体・IPA)
問2では,生産管理システムの改善について出題した。全体として,正答率は高かった。
システムアーキテクトとして,業務要件を十分に理解した上で,システム要件を定義できるように心掛けてほしい。
設問と解答例
設問1(1)
20字以内
現在の基準生産計画の立案において,計画の対象時期や生産リードタイムなどの時間的要素及び営業部門からの情報の他に考慮していることは何か。20 字以内で述べよ。
解答例
解説
本文の根拠
〔現在の生産管理の業務内容〕(1) ① 基準生産計画
これらの情報を基に,どの製品を,いつ,どれだけ生産するかという基準生産計画を月次で立案する。計画を立案する際には,工場側の状況も考慮している。
〔現行システムへの改善要望〕(1) 生産管理部門からの要望
基準生産計画の立案に当たっては,工場全体の稼働率の視点から,工場の設備機械,作業者などの生産能力とのバランスを調整する必要があるので,立案時にその調整をシステムで支援してほしい。
基準生産計画は,営業部門からの注文情報や販売計画・製品在庫状況の情報を基に立案し,その際に「工場側の状況も考慮している」と書かれている。設問は,時間的要素と営業部門からの情報を除いた残りを問うので,この「工場側の状況」の中身を答える。
中身は生産管理部門の改善要望に書かれている。基準生産計画の立案では,工場全体の稼働率の視点から,工場の設備機械,作業者などの生産能力とのバランスを調整する必要がある。つまり,考慮しているのは設備機械や作業者の生産能力がどれだけあるかという状況である。講評は,生産能力や稼働率まで書かずに単に「工場側の状況」とだけ書いた解答があったとしている。本文の語をそのまま写すだけでは足りず,要望の記述で具体化する必要がある。
20字で「設備機械,作業者など」と「生産能力の状況」を入れる。解答例は「設備機械,作業者などの生産能力の状況」で18字。
採点講評(IPA)
設問1(1)では,基準生産計画での工場側での考慮点について,工場側の生産能力や稼働率まで記述してほしかったが,単に工場側の状況とだけ記述した解答が見受けられた。
設問1(2)
解答欄2つ
新システムで追加する情報連携機能において,見込生産の製品の基準生産計画立案のために,販売管理システムから受け取るべき情報を,二つ答えよ。
〔備考〕①と②は順不同
解説
本文の根拠
〔現在の生産管理の業務内容〕(1) ① 基準生産計画
受注生産の製品については,顧客からの注文情報を営業部門から入手する。また,見込生産の製品については,販売計画及び製品在庫状況の情報を営業部門から入手する。
〔現行システムへの改善要望〕(1) 生産管理部門からの要望
基準生産計画立案の効率向上のために,現行の販売管理システムの注文情報,販売計画情報,製品在庫状況情報をシステム間で連携してほしい。
基準生産計画の材料は,製品の生産形態によって違う。受注生産の製品は顧客からの注文情報を,見込生産の製品は販売計画及び製品在庫状況の情報を使う。見込生産は汎用部品や保守用部品を在庫として保持して販売する形態なので,どれだけ売れる見込みか(販売計画)と,今どれだけ在庫があるか(製品在庫状況)から生産量を決める。
改善要望では,販売管理システムの注文情報,販売計画情報,製品在庫状況情報の三つを連携してほしいとしている。このうち見込生産に使うのは販売計画情報と製品在庫状況情報で,注文情報は受注生産のためのものである。
要望の表記に合わせて「販売計画情報」「製品在庫状況情報」と書く。
設問2(1)
30字以内
加工オーダの製造実施計画立案時の作業日程計算で参照される製造基準は,作業日程上の何を求めるために使用されるか。30 字以内で述べよ。
解答例
解説
本文の根拠
〔製造実施計画のシステム要件検討〕(1) 作業日程計算
作業日程計算に必要な製造基準は,工程手順表マスタに定義されている。
〔製造実施計画のシステム要件検討〕(1) 作業日程計算
加工オーダの作業工程について,工程手順を参照する。次に,加工対象品の単位当たりの標準作業時間を基に,各作業工程の作業時間を見積もり,加工オーダの作業工程ごとの着手予定日,完了予定日を計算する。
作業日程計算の手順は本文に書かれている。工程手順を参照して加工オーダがどの作業工程を通るかを決め,単位当たりの標準作業時間から各作業工程の作業時間を見積もり,最後に作業工程ごとの着手予定日,完了予定日を計算する。製造基準(工程手順,標準作業時間など)はこの計算のために参照される。
設問は「作業日程上の何を求めるため」かを問うので,途中の作業時間の見積りではなく,作業日程計算の結果である着手予定日と完了予定日を答える。作業時間は日程を出すための中間の値である。着手予定日だけ,完了予定日だけでは日程が決まらないので両方を書く。
30字で「加工オーダの作業工程ごとの」と「着手予定日,完了予定日」を入れる。解答例は「加工オーダの作業工程ごとの着手予定日,完了予定日」で24字。
設問2(2)
15字以内
一つの作業工程において,加工オーダの作業負荷の山積み,負荷調整を行うときに,工程手順表マスタと設備機械マスタを関連付けるために,工程手順表マスタの作業工程に定義しておくべき情報は何か。15 字以内で述べよ。
解答例
解説
本文の根拠
〔製造実施計画のシステム要件検討〕(2) 作業負荷の山積み,作業負荷調整
全ての加工オーダの作業日程計算後,設備機械ごとに,その設備機械で加工対象となる各加工オーダの作業時間を日単位に累積していく。これを作業負荷の山積みという。
〔現在の生産管理の業務内容〕(3) 生産技術部門での業務
製造対象品の個々の作業工程の中での,作業標準,単位当たりの標準作業時間,使用する設備機械とその能力基準などの製造基準の設定を行い
表1 基準情報管理
生産管理パッケージの工程手順表マスタ及び設備機械マスタのメンテナンス機能の新規利用
作業負荷の山積みは設備機械ごとに行う。加工オーダの作業時間は作業工程ごとに見積もられるので,それを設備機械ごとに累積するには,各作業工程がどの設備機械を使うかが分かっていなければならない。設備機械がもつ生産能力と比べて負荷調整をするにも,設備機械マスタの情報と結び付ける必要がある。
生産技術部門は,作業工程ごとの製造基準として「使用する設備機械とその能力基準」を設定している。工程手順表マスタの作業工程に使用する設備機械を定義しておけば,それをキーに設備機械マスタを参照でき,作業工程の作業時間を設備機械の負荷として積み上げられる。講評は,作業工程とそこで使う設備機械とのマスタ上での関係を正しく理解できていない解答があったとしている。
15字で「作業工程で使用する設備機械」と書く。解答例は13字。
採点講評(IPA)
設問2(2)では,作業工程と当該作業工程で使用する設備機械とのマスタ上での関係を正しく理解できていないと思われる解答が見受けられた。
設問3
解答欄2つ
製造実施計画における作業日程計算の過程で,加工工程の中の,一つの作業工程の所要作業時間を計算するために必要な情報を,二つ答えよ。
〔備考〕①と②は順不同
解説
本文の根拠
〔製造実施計画のシステム要件検討〕(1) 作業日程計算
次に,加工対象品の単位当たりの標準作業時間を基に,各作業工程の作業時間を見積もり
〔現在の生産管理の業務内容〕(3) 生産技術部門での業務
製造対象品の個々の作業工程の中での,作業標準,単位当たりの標準作業時間,使用する設備機械とその能力基準などの製造基準の設定を行い
一つの作業工程の作業時間は,加工対象品の単位当たりの標準作業時間を基に見積もる。単位当たりの時間から全体の時間を出すには,それに加工する数を掛ける必要がある。したがって必要な情報は,単位当たりの標準作業時間と加工対象の数量の二つである。
単位当たりの標準作業時間は生産技術部門が作業工程ごとに設定する製造基準で,工程手順表マスタに定義されている。加工対象の数量は製造基準ではなく,加工オーダがいくつ作るかという側の情報である。講評は,単位当たりの標準作業時間は書けていたが,加工対象の数量が書けていない解答が多かったとしている。「単位当たり」という語に気付けば,数量が要ることが分かる。
「加工対象の数量」「単位当たりの標準作業時間」の二つを書く。
採点講評(IPA)
設問3では,設問で求めた二つの情報のうち,単位当たりの標準作業時間という解答は記述できていたが,作業時間を算出するために必要な加工対象の数量が記述できていない解答が多かった。
設問4
解答欄2つ
新システムでは,作業実績データは,設計技術システムと会計システムに連携され,生産技術部門及び経理部門で活用される。二つの部門で何に活用されるか。それぞれ 20 字以内で述べよ。
解説
本文の根拠
〔現在の生産管理の業務内容〕(3) 生産技術部門での業務
また,製造現場の作業実態及び作業実績データを収集・分析し,製造基準の見直しや製造方法の改善を行っている。
〔現行システムへの改善要望〕(3) 経理部門からの要望
現行の会計システムの原価計算処理で,加工費計算に作業実績データの中の作業時間実績が必要となる。これが会計システムに反映されるようにしてほしい。
作業実績データを各部門が何に使うかは,業務内容と改善要望に書かれている。生産技術部門は,製造現場の作業実態及び作業実績データを収集・分析し,製造基準の見直しや製造方法の改善を行っている。経理部門は,会計システムの原価計算処理のうち加工費計算に,作業実績データの中の作業時間実績を使う。
新システムでは工程管理から設計技術システムと会計システムに作業実績データを連携するので,それぞれの部門の既存の用途にそのまま使われる。講評は,経理部門について加工費計算まで書かず,単に「原価計算を行う」とだけ書いた解答があったとしている。作業時間実績が要るのは原価計算の中の加工費計算である。
各20字で,生産技術部門は「製造基準の見直しや製造方法の改善」(16字),経理部門は「原価計算処理の加工費計算」(12字)と本文の語で書く。
採点講評(IPA)
設問4は,正答率が高かった。ただ,経理部門については,原価計算の中の加工費計算までの解答を記述してほしかったが,単に原価計算を行うというだけの解答が見受けられた。
出典:平成29年度 秋期 システムアーキテクト試験 午後Ⅰ 問2(表記を一部改変)
問3 ソフトウェアパッケージ導入
ソフトウェアパッケージ導入に関する次の記述を読んで,設問1〜3に答えよ。
K 市は,寒冷地に所在する中核市である。K 市の職員課では,市役所に勤務する約 2,000 人の職員の給与,福利厚生,人事管理,健康管理などに関する業務を 15 人の職員で対応している。職員課では,人事給与などに関する新たな業務システム(以下,新システムという)を構築することにした。
〔新システム構築の背景〕
職員課では,内部事務の情報化が始まった当時に,給与計算システムをメインフレーム上で構築し,その後,分散型システムへのダウンサイジング,制度改正などに伴う度重なるシステム改修を経て現在に至っている。また,給与計算システムとは別に,採用から退職に至るまでの人事管理全般を担う人事システム,休暇申請などの申請届出と勤怠管理を担う庶務事務システムを,構築,運用している。
これらの現行の業務システムは,ソフトウェアパッケージを利用せず K 市専用の情報システムとして開発した。近年はシステム維持費用の削減が課題となっており,現状について外部評価を行った。外部評価の主な指摘事項は次のとおりである。
(1) サーバの使用率が終日低く,ハードウェア借料及び保守費用を削減する余地がある。サーバの使用率が低い理由は次のとおりである。 給与計算システム及び人事システムは,主に職員課の職員しか利用しない。 庶務事務システムは,最もアクセスが集中する時間帯が,前勤務日に時間外勤務などを行った職員が実績を申請する 8 時 45 分から 12 時であり,利用する時間帯が比較的分散している。 (2) 制度改正によるシステム改修が毎年発生しており,他の中核市と比較してシステム改修費用が多く掛かっている。K 市の現行の複数の業務システムと同等の機能を提供している人事給与業務専用のソフトウェアパッケージ(以下,人事給与パッケージという)を導入して標準機能を基に運用している他市では,システム改修を行わずに,製品バージョンアップなどの人事給与パッケージの標準保守の中で,全国の地方自治体に共通する制度改正に対応している。 これらの指摘事項を踏まえて,K 市では,現行の複数の業務システムを,人事給与パッケージを利用して再構築することにした。
〔現行業務の概要〕
職員課では,地方公務員法,K 市の条例,規則などに基づき,例月給与の計算・支給事務,採用事務,退職事務,人事異動事務などの幅広い人事給与関連業務を行っている。現行の業務システムを利用した毎日の勤怠管理と,職員課が毎月実施している主要事務の一つである例月給与の計算・支給事務の主な流れを表 1 に示す。
表1 現行の勤怠管理と例月給与の計算・支給事務の主な流れ
〔フィット&ギャップ分析の実施〕
K 市では,新システムの構築に際して入札を行い,その結果,構築事業者として L 社と契約することになった。L 社は,多くの地方自治体で導入実績がある自社製品の人事給与パッケージ(以下,L 社パッケージという)を利用し,新システムを構築することを提案していた。
職員課及び L 社は,設計・開発に着手する前に,K 市の現行業務に対する L 社パッケージの適合性を評価するために,フィット&ギャップ分析を実施した。職員課は,分析に当たって,人事給与パッケージ導入の背景,目的を踏まえて,カスタマイズを極力行わず,標準機能に合わせて現行業務を見直す前提で検討することにした。
L 社パッケージの標準機能のうち,勤怠管理に係る機能の一部を表 2 に,例月給与の計算・支給事務に係る機能の一部を表 3 に示す。
なお,標準機能は,利用の有無をパラメタで簡易に設定することができる。
表2 L社パッケージの標準機能(勤怠管理に係る機能の一部)
表3 L社パッケージの標準機能(例月給与の計算・支給事務に係る機能の一部)
〔勤怠管理に係る標準機能の利用検討〕
より正確で客観的な出退勤時刻を記録することと,①表 1 において毎月発生している,ある作業の負担を軽減する ために,職員課では L 社パッケージの標準機能として提供される打刻機能の利用を検討した。その結果,一部の部署では庶務担当者以外の職員に PC が貸与されていないことと,予想される同時アクセス数が現行の業務システムと比較して多くなり,ハードウェア借料及び保守費用の削減が難しくなることが分かったので,新システムでは利用しないことに決めた。代わりに,現在職員証として利用している非接触 IC カードを利用し,新たに IC カード読取機能付のタイムレコーダを導入して,月に 1 回手動で出退勤時刻データを新システムに取り込むことにした。
〔例月給与の計算・支給事務に係る標準機能の利用検討〕
L 社パッケージと現行の例月給与の計算・支給事務とのフィット&ギャップ分析を行った結果,一部の部署を除き電子給与支給明細書の交付を導入する方針とし,表 3 に示す標準機能については,全て利用することにした。また,標準機能の詳細を確認した結果,標準機能をそのまま利用した際に影響が大きい現行業務とのギャップの一つとして,寒冷地手当に関する機能が挙がった。現在の寒冷地手当支給に関する規則の主な内容は次のとおりである。
寒冷地手当の支給対象期間(以下,支給対象期間という)の初日時点において,K 市を含む寒冷地手当支給対象地域(以下,支給対象地域という)に在勤する職員に対して寒冷地手当を支給する。東京事務所などの支給対象地域以外の勤務地に勤務する職員に対しては支給しない。 寒冷地手当は,職員が世帯主であるか否か,扶養親族があるか否かといった世帯の区分に応じた額を,支給対象期間の初月の例月給与に加えて一括して支給する。 支給対象期間中に,世帯の区分の変更,支給対象地域をまたぐ異動などが生じた場合には,月割りで手当額を計算して,不足額を追加で支給(以下,追給という)又は支給済額を例月給与から控除(以下,返納という)する。 なお,手当額は各月の 1 日時点の情報を基準に算出し,月途中の変更,異動などは考慮しない。
一方で,L 社パッケージにおける寒冷地手当に関する標準機能の主な内容は次のとおりである。
職員ごとに寒冷地手当の支給対象職員か否かを設定できる。 支給対象期間をパラメタで設定できる。設定は月単位であり,日単位での設定には対応していない。 支給対象地域区分及び世帯の区分に応じた手当額を,パラメタで設定できる。 支給対象職員に対して支給対象期間の例月給与に含めて毎月支給する。日割りでの支給額の計算はできず,追給及び返納にも対応していない。 現行業務と L 社パッケージの標準機能とのギャップを踏まえて,K 市では新システムの稼働までに,寒冷地手当支給に関する規則の内容の一部を変更することにした。これによって,②ある状況が発生した場合 のための機能について,追加開発が不要になると判断した。
出題趣旨(IPA)
業務システムの構築に際しては,品質向上,開発期間の短縮などのメリットが期待できることから,ソフトウェアパッケージを利用することが多い。システムアーキテクトには,ソフトウェアパッケージと業務要件とのフィット&ギャップ分析を行い,その状況によってはソフトウェアパッケージを利用するメリットを生かすために現行業務の見直しを提言する,といった一連の能力が求められる。本問では,地方自治体における人事給与システムの構築を題材として,ソフトウェアパッケージを利用することのメリットを正しく理解し,利用者から求められている要件を整理する能力を問う。
採点講評(問全体・IPA)
問3では,人事給与などに関する業務システムを例にとり,ソフトウェアパッケージを利用した要件定義について出題した。
システムアーキテクトとして,業務要件とソフトウェアパッケージのフィット&ギャップ分析を行い,機能の選定,業務見直しの提言などができるよう心掛けてほしい。
設問と解答例
設問1(1)
40字以内
職員課が,フィット&ギャップ分析に当たって,カスタマイズを極力行わないことにした理由は何か。人事給与パッケージを利用することにした背景を踏まえて 40 字以内で述べよ。
解答例
制度改正に対して人事給与パッケージの標準保守で対応できるようにしたいから
解説
本文の根拠
〔新システム構築の背景〕(2)
制度改正によるシステム改修が毎年発生しており,他の中核市と比較してシステム改修費用が多く掛かっている。
〔新システム構築の背景〕(2)
導入して標準機能を基に運用している他市では,システム改修を行わずに,製品バージョンアップなどの人事給与パッケージの標準保守の中で,全国の地方自治体に共通する制度改正に対応している。
〔フィット&ギャップ分析の実施〕
職員課は,分析に当たって,人事給与パッケージ導入の背景,目的を踏まえて,カスタマイズを極力行わず,標準機能に合わせて現行業務を見直す前提で検討することにした。
人事給与パッケージを利用することにした背景は外部評価の指摘にある。K 市は制度改正のたびにシステム改修をしており,改修費用が他の中核市より多く掛かっている。一方,人事給与パッケージを標準機能を基に運用している他市は,システム改修をせず,製品バージョンアップなどの標準保守の中で制度改正に対応している。
この利点は「標準機能を基に運用している」ことが前提である。カスタマイズした部分は標準保守の対象から外れるので,制度改正のたびにカスタマイズ部分を改修することになり,これまでと同じく改修費用が掛かる。だからカスタマイズを極力行わず,標準機能に合わせて現行業務の方を見直す。もう一つの指摘(サーバの使用率が低い)はハードウェア費用の話で,カスタマイズとは関係しない。
40字で「制度改正」に「人事給与パッケージの標準保守で対応できる」ようにすることを書く。解答例は「制度改正に対して人事給与パッケージの標準保守で対応できるようにしたいから」で36字。
設問1(2)
表 1 中の職員課が実施している作業の中で,新システムの導入後は新システムの機能で代替できるようになる作業を,表 1 中の項番を用いて全て答えよ。
解答例
解説
本文の根拠
表1 項番7
庶務事務システムから,勤怠実績データをファイル出力し,出力したファイルを給与計算システムに手動で登録する。
表3 勤怠実績の自動連携
締め処理された勤怠実績データを給与計算用に自動連携する機能。締め処理が未完了で,連携されていない部署を確認できる。
表1 項番11
給与計算システムから給与支給明細書を印刷,仕分けし,各課の庶務担当者宛てに配送する。
表3 給与支給明細書の印刷
部署ごとに,庶務担当者,所属長などの権限を有する利用者が,所属する職員の給与支給明細書を印刷する機能。
〔例月給与の計算・支給事務に係る標準機能の利用検討〕
一部の部署を除き電子給与支給明細書の交付を導入する方針とし,表 3 に示す標準機能については,全て利用することにした。
表1 で職員課が行う作業は項番6〜11である。これを表3 の標準機能と一つずつ突き合わせ,作業そのものが要らなくなるものを選ぶ。項番7 の勤怠実績データの手動登録は,勤怠実績の自動連携で締め処理済みのデータが給与計算用に自動で連携されるので不要になる。項番11 の給与支給明細書の印刷・仕分け・配送は,電子給与支給明細書の交付を導入し,PC のない一部の部署でも各部署の庶務担当者などが自部署の分を印刷できるので,職員課の作業ではなくなる。
残りは機能があっても職員課の作業が残る。項番6 は,連携されていない部署を確認できても未完了の課への督促は人が行う。項番8 は,外部機関からデータを受領し,登録画面から取り込む作業が残る。項番9 は,計算は機能が行うが,支給額の確認機能を使って確認する作業は残る。項番10 は,口座振込データを作成・出力しても指定金融機関への提出は残る。講評はこの設問の正答率が低かったとし,不要になるものと残るものを適切に見極めてほしいとしている。
表1 の項番で「7,11」と答える。
採点講評(IPA)
設問1(2)は正答率が低かった。新システムの標準機能を十分理解し,現在行っている事務について,新システムによって不要になるものと,引き続き残るものを適切に見極めてほしかった。
設問2(1)
35字以内
本文中の下線①で負担を軽減できると想定した作業内容を 35 字以内で述べよ。
解答例
前月の出勤簿の記録を庶務事務システムに入力,確定する作業
解説
本文の根拠
表1 項番5
各課の庶務担当者が前月の出勤簿の記録を庶務事務システムに入力,確定する。それによって,庶務事務システム上で当該課における前月分の勤怠実績の締め処理が行われる。
表2 打刻
出退勤時刻を簡易登録する機能。ポータル画面上で“出勤”ボタン又は“退勤”ボタンを押すと,ボタンを押した時刻を出退勤時刻として記録し,出勤簿に自動反映する。
〔勤怠管理に係る標準機能の利用検討〕
①表 1 において毎月発生している,ある作業の負担を軽減する
下線①は「表1 において毎月発生している」作業なので,頻度が毎月の項番5〜12から選ぶ。打刻機能は出退勤時刻を記録して出勤簿に自動反映する機能なので,軽減されるのは出勤簿の記録にかかわる作業である。項番5 では,各課の庶務担当者が紙の出勤簿に記録された前月分の出退勤時刻を庶務事務システムに入力し,確定している。
打刻を使えば出退勤時刻が出勤簿に自動で入るので,庶務担当者が前月の出勤簿の記録を手で入力する負担が軽くなる。項番1・2 も出勤簿に関係するが,頻度は毎日なので下線①には当たらない。なお,打刻機能は最終的に採用されず,代わりにタイムレコーダのデータを月に 1 回取り込むことにしたが,これも出勤簿への自動反映で同じ作業を軽くする。
35字で項番5 の作業内容を「前月の出勤簿の記録を庶務事務システムに入力,確定する作業」と書く。解答例は28字。
設問2(2)
25字以内
打刻機能を利用することによって,予想される同時アクセス数が現行の業務システムと比較して多くなる理由を 25 字以内で述べよ。
解答例
解説
本文の根拠
表1 項番1
ほとんどの職員は8時30分から8時45分の間に出勤し,出勤時刻を紙の出勤簿に記録する。
〔新システム構築の背景〕(1)
庶務事務システムは,最もアクセスが集中する時間帯が,前勤務日に時間外勤務などを行った職員が実績を申請する 8 時 45 分から 12 時であり,利用する時間帯が比較的分散している。
表2 打刻
ポータル画面上で“出勤”ボタン又は“退勤”ボタンを押すと,ボタンを押した時刻を出退勤時刻として記録し,出勤簿に自動反映する。
打刻機能では,職員が出勤したときにポータル画面の“出勤”ボタンを押す。表1 によれば,ほとんどの職員は 8 時 30 分から 8 時 45 分の間に出勤する。約 2,000 人の職員の多くがこの 15 分ほどの間に一斉にシステムにアクセスすることになる。
現行の庶務事務システムは,最もアクセスが集中する時間帯でも時間外勤務などを行った一部の職員が 8 時 45 分から 12 時にかけて申請するだけで,利用する時間帯が比較的分散している。出勤時刻の打刻はほぼ全職員が同じ時間帯に行うので,同時アクセス数が現行より多くなる。講評は,毎朝同じ時間帯に出勤するという業務面の理由と,打刻によってアクセスが集中するというシステム面の理由の両方に触れてほしかったが,どちらか一方の解答が多かったとしている。
25字で「毎朝の出勤時間帯」と「アクセスが集中する」の両方を入れる。解答例は「毎朝の出勤時間帯にアクセスが集中するから」で20字。
採点講評(IPA)
設問2(2)は,ほとんどの職員が毎朝同じ時間帯に出勤するという業務面の理由と,出勤時刻の打刻によってアクセスが集中することのシステム面の理由の両方に触れて解答してほしかったが,どちらか一方の記述しかない解答が多かった。
設問3(1)
40字以内
表 3 の電子給与支給明細書の交付機能を利用することにした一方で,給与支給明細書の印刷機能も利用することにした理由を 40 字以内で述べよ。
解答例
PCが貸与されていない職員に給与支給明細書を印刷して配布するから
解説
本文の根拠
〔勤怠管理に係る標準機能の利用検討〕
その結果,一部の部署では庶務担当者以外の職員に PC が貸与されていないことと
〔例月給与の計算・支給事務に係る標準機能の利用検討〕
一部の部署を除き電子給与支給明細書の交付を導入する方針とし
表3 電子給与支給明細書の交付
電子文書ファイルによる給与支給明細書を参照,ダウンロードする機能。
電子給与支給明細書は,電子文書ファイルを参照,ダウンロードして受け取る。これには職員が PC を使えることが前提になる。ところが,勤怠管理の検討で分かったとおり,一部の部署では庶務担当者以外の職員に PC が貸与されていない。そのため電子交付は「一部の部署を除き」導入することになった。
PC のない職員には,これまでどおり紙の給与支給明細書を配布する必要がある。表3 の給与支給明細書の印刷機能は,部署ごとに庶務担当者などが所属する職員の明細書を印刷できるので,PC が貸与されている庶務担当者が印刷して配布できる。
40字で「PC が貸与されていない職員」と「印刷して配布する」を入れる。解答例は「PCが貸与されていない職員に給与支給明細書を印刷して配布するから」で32字。
設問3(2)
20字以内
寒冷地手当支給に関する規則の内容の見直しについて,どのような内容に変更するのかを 20 字以内で述べよ。
解答例
解説
本文の根拠
〔例月給与の計算・支給事務に係る標準機能の利用検討〕
寒冷地手当は,職員が世帯主であるか否か,扶養親族があるか否かといった世帯の区分に応じた額を,支給対象期間の初月の例月給与に加えて一括して支給する。
〔例月給与の計算・支給事務に係る標準機能の利用検討〕
支給対象職員に対して支給対象期間の例月給与に含めて毎月支給する。日割りでの支給額の計算はできず,追給及び返納にも対応していない。
現在の規則では,寒冷地手当は支給対象期間の初月の例月給与に加えて一括して支給する。一方,L 社パッケージの標準機能は,支給対象期間の例月給与に含めて毎月支給する。支給のしかたが一括と毎月とで食い違っており,これがギャップである。
職員課はカスタマイズを極力行わず,標準機能に合わせて現行業務を見直す前提で検討している。したがって,機能を追加開発するのではなく,規則の方を標準機能に合わせて毎月支給に変更する。講評は,追給及び返納を廃止するといった解答があったとしている。追給及び返納が要らなくなるのは毎月支給に変えた結果であり,規則で変えるのは支給のしかたである。
20字で「一括支給を毎月支給に変更する」と書く。解答例は15字。
採点講評(IPA)
設問3(2)は,追給及び返納を廃止するといった解答が見受けられた。寒冷地手当の支給を一括支給から毎月支給に変更することによって,結果として追給及び返納が不要になるという業務上の関係を正しく理解してほしかった。
設問3(3)
解答欄2つ
本文中の下線②は,どのような状況が発生した場合か。40 字以内で述べよ。また,寒冷地手当支給に関する規則の内容を見直すことによって,どのような機能の追加開発が不要になるか。15 字以内で述べよ。
〔状況〕解答例
支給対象期間中に,世帯の区分の変更,支給対象地域をまたぐ異動などが生じた場合
解説
本文の根拠
〔例月給与の計算・支給事務に係る標準機能の利用検討〕
支給対象期間中に,世帯の区分の変更,支給対象地域をまたぐ異動などが生じた場合には,月割りで手当額を計算して,不足額を追加で支給(以下,追給という)又は支給済額を例月給与から控除(以下,返納という)する。
〔例月給与の計算・支給事務に係る標準機能の利用検討〕
なお,手当額は各月の 1 日時点の情報を基準に算出し,月途中の変更,異動などは考慮しない。
〔例月給与の計算・支給事務に係る標準機能の利用検討〕
日割りでの支給額の計算はできず,追給及び返納にも対応していない。
一括支給では,初月に期間全体の手当をまとめて払うので,期間の途中で世帯の区分が変わったり,支給対象地域をまたぐ異動があったりすると,払い過ぎや払い不足が生じる。現在の規則はそのために月割りで計算し直して追給又は返納をしている。L 社パッケージの標準機能は追給及び返納に対応していないので,規則をそのままにすれば,この機能を追加開発しなければならない。
毎月支給に変えれば,手当額は各月の 1 日時点の情報を基準にその月の分だけ算出される。途中で世帯の区分が変わっても,翌月からその時点の区分の額を払えばよく,既に払った分との差額を精算する必要がない。したがって,下線②の状況は期間中の世帯の区分の変更や異動で,不要になるのは追給及び返納の機能である。
状況は40字で規則の文言「支給対象期間中に,世帯の区分の変更,支給対象地域をまたぐ異動などが生じた場合」(38字)を写す。機能は15字で「追給及び返納の機能」(9字)と書く。
出典:平成29年度 秋期 システムアーキテクト試験 午後Ⅰ 問3(表記を一部改変)
問4 IoT,AI の利用を目指した農業生産システムの開発
IoT,AI の利用を目指した農業生産システムの開発に関する次の記述を読んで,設問1〜4に答えよ。
X 社は農業機械メーカであり,トラクタ,田植機などの開発・製造を行っている。これまでも,農業機械の自動化に対する要求は高く,既に X 社でも自社開発した自動走行技術を搭載した製品を製造・販売している。
一方,我が国では,労働環境の改善と生産性の向上を図るために,IoT,AI の利用を目指した農業(以下,スマート農業という)が注目されている。
X 社は,従来の農業機械主体の事業展開では今後,大幅な売上増加は期待できないと考え,農業機械の自動化を基本としながら,スマート農業に対応した農業生産システムの実現に向けた製品開発に取り組むことにした。
〔X 社の農業機械の現状と課題〕
X 社の現行製品は,モバイル端末からの指示に従って無人走行し,障害物センサで衝突などを未然に防ぐこともできる。農業機械の動作履歴は,内部に記録され,必要に応じて取り出せる。
適切かつ迅速な保守サービスへの利用者からの要望は強い。
〔スマート農業に対応した農業生産システムへの取組方針〕
X 社は,スマート農業に対応した農業生産システム(以下,農業生産システムという)への取組方針を検討し,次のとおりまとめた。
自社開発した自動走行技術を高度化して,省力化及び大規模生産への対応を進める。 重労働及び危険な作業からの解放,並びに誰もが就労しやすい農業を実現する。 農場の情報ネットワーク化を通じて,環境モニタリングデータ,過去の作業及び生産結果のデータを活用する。 〔農業生産システムの概要〕
農業生産システムの開発は,X 社のシステムアーキテクトである Y 氏が担当することになった。Y 氏はまず,農業生産システムへの取組方針と利用者からの要望を踏まえ,開発する農業生産システムの概要を図 1 に示すものとした。
図1 開発する農業生産システムの概要
次に Y 氏は,開発する農業生産システムの開発項目を,次のように設定した。
過去の作業及び生産結果のデータ,並びに長期天気予報を用いて,農作物の生産計画を立案できるようにする。生産計画に基づいて,実施する作業,農業機械の運用・保守,資材調達などを指示・サポートできるようにする。そのために,農場内オフィスにサーバを設置し,農場内において収集したデータをデータベース化する。
(2) 農場の情報ネットワークの構築と環境モニタリング 農場内で無線 LAN が使用できるようにし,サーバと無線 LAN を接続する。長期天気予報などの情報を収集するために,農場内オフィスに設置したルータを介してインターネットに接続できるようにする。農場内オフィスに PC を設置し,監視と操作もできるようにする。
無線 LAN 中継機能を利用して,農場内のどこからでも無線 LAN に接続できるようにする。そのために,環境モニタリング機能と無線 LAN 中継機能を併せもつモニタリングポストを開発する。農場内に,モニタリングポストを必要な台数設置し,全てのモニタリングポスト,農業機械,及び作業従事者のモバイル端末を無線 LAN に接続して,相互にデータ通信を行えるようにする。
サーバとも連携させて,農業機械の一定範囲内の自動走行と,複数の農業機械による協調走行である縦列走行の実現を目指す。そのために,測位の精度向上,農業機械間のデータ通信機能,安全確保などの技術開発を行う。
(4) 農場内において収集したデータ(環境モニタリングデータなど)の活用 サーバは,モニタリングポストからの環境モニタリングデータを監視して,生産計画の立案時に使用したデータと比較し,必要に応じて,警告を出したり,生産計画を変更したりする。環境モニタリングデータ,実施した作業及び生産結果の履歴をサーバでデータベース化し,農作物の将来の生産計画の立案に利用できるようにする。また,複数の農場のデータベースを連携させて,より高い精度の生産計画を立案できるようにする。
〔開発項目の検討結果〕
Y 氏は,各開発項目について検討し,結果を次のとおりまとめた。
サーバには,農業機械の走行に関する指示を行う機能,農業機械による現在位置の測位をサポートする機能,農場内の機器の監視・制御を行う機能,環境モニタリングデータを監視して必要な措置を行う機能,農場内において収集したデータをデータベース化する機能,これらのデータを分析して生産計画を立案・変更する機能を実装する。生産計画に基づいて,実施する作業,農業機械の運用・保守,資材調達などを指示・サポートできるようにする。サーバを X 社が提供するクラウドサービスと接続し,複数の農場のデータベースが連携できるようにする。
農場内のどこからでも無線 LAN を使用できるようにモニタリングポストを設置する。設置した位置は正確に測位し,モニタリングポストの位置情報としてサーバに登録する。
モニタリングポストは,各種センサを備え,農場の環境モニタリングを行う。15 分に 1 回の頻度で,測定した環境モニタリングデータなどをサーバにアップロードする。また,必要な電源を,太陽電池パネルで供給できるようにする。
モニタリングポストの仕様・機能の検討結果を,表 1 に示す。
表1 モニタリングポストの仕様・機能の検討結果
環境モニタリングデータは,サーバに保存する。ここで,隣接するモニタリングポストからのデータは同じ傾向を示す場合が想定できるので,内容によっては,保存するデータをサーバが選択できるようにする。
太陽電池パネルの発電量から日射量を求めることを検討した。その結果,各農場の年間日射量と太陽電池パネルの発電量の関係を基に,測定した発電量から日射量をサーバで推計できることが分かった。
農業機械の GPS 受信機による測位は誤差が大きいので,モニタリングポストの位置情報を用い,次の 2 方式のいずれかによって正確な測位を行う。
自律算出測位:農業機械は GPS 受信機による測位データを基に,近くのモニタリングポストを検索し,ステレオカメラと方位センサを用いてその距離と方位を測定する。測定したデータ及びモニタリングポストの位置情報を用い,農業機械が正確な現在位置を算出する。 サーバ算出測位:農業機械は,ステレオカメラをスキャンさせて,近くのモニタリングポストを認識する。モニタリングポストの識別コード,測定した距離と方位をサーバに送信して,サーバが農業機械の正確な現在位置を算出する。サーバは算出した測位データを保存し,農業機械にも送信する。 一定範囲内の自動走行の場合,サーバが農業機械に作業域を指示し,自動走行させる。複数の農業機械に,異なる作業域を自動走行させることもできる。縦列走行の場合,後方の農業機械からステレオカメラで前方の農業機械を監視し,一定の距離を保って自動走行させる。ステレオカメラによって,前方の農業機械との間の障害物も検出できる。障害物を検出した場合は走行を停止し,前方の農業機械にも通知して停止させる。
農業機械の自動走行の高度化に関する仕様・機能を,表 2 に示す。
表2 農業機械の自動走行の高度化に関する仕様・機能
出題趣旨(IPA)
最近,IoT,AIを利用した業務システムの構築が増えてきている。農業分野でもIoT,AIを導入したスマート農業への取組が進んでいる。システムアーキテクトには,機能性,確実性,安全対策などの特徴を考慮した上で,業務システムの機能仕様を策定する能力が求められる。本問では,スマート農業に対応する農業生産システムを題材として,システムアーキテクチャの決定,機能仕様の策定などについての能力を問う。
採点講評(問全体・IPA)
問4では,IoT,AIの利用を目指した農業生産システムを題材に,システムアーキテクチャの決定,機能仕様の策定について出題した。題意及びシステムの概要は,おおむね理解されているようであった。
今後も,システムアーキテクトとして,システム要件をよく理解して,機能仕様を策定するように心掛けてほしい。
設問と解答例
設問1(1)
解答欄2つ
モニタリングポストを農場内に設置した後,確認すべき機能は何か。二つ挙げ,それぞれ 15 字以内で答えよ。
〔備考〕①と②は順不同
解説
本文の根拠
〔農業生産システムの概要〕(2) 農場の情報ネットワークの構築と環境モニタリング
無線 LAN 中継機能を利用して,農場内のどこからでも無線 LAN に接続できるようにする。そのために,環境モニタリング機能と無線 LAN 中継機能を併せもつモニタリングポストを開発する。
〔開発項目の検討結果〕(2) モニタリングポストの設置
農場内のどこからでも無線 LAN を使用できるようにモニタリングポストを設置する。
表1 センサによる測定
気温・湿度,土壌中の温度・酸性度・電気伝導度,水田の水位・水温などを,必要に応じてセンサによって測定する。
モニタリングポストは,環境モニタリング機能と無線 LAN 中継機能を併せもつ装置として開発される。どちらの機能も,設置した場所でなければ働くかどうかを確かめられない。そこで設置後には,この二つの機能を確認する。
無線 LAN 中継機能は,農場内のどこからでも無線 LAN に接続できるようにするためのもので,設置位置によって電波が届くかどうかが変わる。モニタリングポスト間,農業機械やモバイル端末との間で中継できるかを現地で確かめる必要がある。環境モニタリング機能は,気温・湿度,土壌の状態,水田の水位などをセンサで測定するので,設置した農地で正しく測定し,サーバにアップロードできるかを確かめる。
各15字で本文の機能名どおり「環境モニタリング機能」(10字)と「無線 LAN 中継機能」(9字)と書く。
設問1(2)
30字以内
受信した発電量データを用いて,太陽電池パネルの異常もサーバにおいて検出できるようにしたい。その方法を,30 字以内で述べよ。
解答例
隣接するモニタリングポストの発電量データと比較する。
解説
本文の根拠
〔開発項目の検討結果〕(3) モニタリングポストによる環境モニタリング
ここで,隣接するモニタリングポストからのデータは同じ傾向を示す場合が想定できるので,内容によっては,保存するデータをサーバが選択できるようにする。
表1 無線LANによるデータ通信
測定した環境モニタリングデータ,太陽電池パネルの発電量,及び二次電池残量を送信する。
〔開発項目の検討結果〕(3) モニタリングポストによる環境モニタリング
その結果,各農場の年間日射量と太陽電池パネルの発電量の関係を基に,測定した発電量から日射量をサーバで推計できることが分かった。
発電量は日射量で決まり,日射量は天候によって日々変わるので,発電量が少ないというだけでは太陽電池パネルの異常なのか天候のせいなのか区別できない。比べる相手は,同じ天候の下にあるパネルがよい。本文は,隣接するモニタリングポストからのデータは同じ傾向を示す場合が想定できるとしている。
各モニタリングポストは太陽電池パネルの発電量をサーバに送信している。隣接するモニタリングポストのパネルは同じ日射を受けるので,発電量も同じ傾向を示すはずである。1 台だけ発電量が大きく下回れば,そのパネルの異常と判断できる。講評は,“サーバで予測した発電量と比較する”という誤答があったとしている。予測値は気象状況の影響で実際とは必ずしも一致しないので,異常の判定には向かない。
30字で「隣接するモニタリングポストの発電量データと比較する」と書く。解答例は26字。
採点講評(IPA)
設問1(2)では,太陽電池パネルの異常を検出する方法を問うたが,“サーバで予測した発電量と比較する”との誤った解答が見受けられた。太陽電池パネルの発電量は,気象状況の影響なども受け,予測値とは必ずしも一致しない。また,農場内には複数のモニタリングポストが設置されていることを考慮してほしかった。
設問2(1)(a)
25字以内
サーバ算出測位を採用した場合に必要となる安全上の対策を,25 字以内で述べよ。
解答例
解説
本文の根拠
〔開発項目の検討結果〕(4) 農業機械の現在位置測位の高精度化
モニタリングポストの識別コード,測定した距離と方位をサーバに送信して,サーバが農業機械の正確な現在位置を算出する。サーバは算出した測位データを保存し,農業機械にも送信する。
〔開発項目の検討結果〕(5) 農業機械の自動走行の高度化
一定範囲内の自動走行の場合,サーバが農業機械に作業域を指示し,自動走行させる。
〔開発項目の検討結果〕(5) 農業機械の自動走行の高度化
障害物を検出した場合は走行を停止し,前方の農業機械にも通知して停止させる。
サーバ算出測位では,農業機械の正確な現在位置を算出するのはサーバで,農業機械はサーバから送られる測位データで自分の位置を知る。データ通信が切断されると,農業機械は正確な現在位置が分からなくなる。GPS 受信機による測位は誤差が大きいので,そのまま無人で自動走行を続けると,作業域を外れたり何かにぶつかったりするおそれがある。
農業機械は無人で走行しているので,異常が起きても人がすぐに止めることはできない。本文でも,障害物を検出した場合は走行を停止させるとしている。安全を確保するには,通信の切断を検出したら農業機械が自ら走行を止めるようにしておく必要がある。
25字で「データ通信切断時に」「自動的に走行を停止する」と書く。解答例は21字。
設問2(1)(b)
25字以内
データ通信復帰後に,サーバへのデータを漏れなく送るために必要な機能のうち,データの一時保管以外の機能を,25 字以内で述べよ。
解答例
解説
本文の根拠
表2 無線LANによるデータ通信
モニタリングポスト及び他の農業機械とのデータ通信機能によって,次のデータ送受信を行う。
表2 無線LANによるデータ通信
動作履歴のサーバへの送信
〔X 社の農業機械の現状と課題〕
農業機械の動作履歴は,内部に記録され,必要に応じて取り出せる。
農業機械は動作履歴などをサーバに送信する。通信が切断されている間のデータは一時保管しておき,復帰後に送ればよい。しかし,切断の直前に送ったデータがサーバに届いたかどうかは,農業機械の側からは分からない。送ったつもりで届いていないデータがあれば,それが漏れになる。
そこで,サーバがデータを受け取ったことを確認する機能を持たせる。受信を確認できたデータは送信済みとし,確認できていないデータは一時保管の対象として復帰後に再送する。こうすれば,切断のタイミングにかかわらずサーバへのデータを漏れなく送れる。設問はデータの一時保管以外の機能を問うので,保管したデータを送り直す判断の元になる受信確認を答える。
25字で「サーバがデータを受け取ったことを確認する機能」と書く。解答例は22字。
設問2(2)(a)
20字以内
自律算出測位の場合,走行開始前に農業機械がサーバに要求するデータを,20 字以内で述べよ。
解答例
解説
本文の根拠
〔開発項目の検討結果〕(4) 農業機械の現在位置測位の高精度化
農業機械は GPS 受信機による測位データを基に,近くのモニタリングポストを検索し,ステレオカメラと方位センサを用いてその距離と方位を測定する。測定したデータ及びモニタリングポストの位置情報を用い,農業機械が正確な現在位置を算出する。
〔開発項目の検討結果〕(2) モニタリングポストの設置
設置した位置は正確に測位し,モニタリングポストの位置情報としてサーバに登録する。
自律算出測位では,農業機械自身が,測定したモニタリングポストまでの距離と方位と,そのモニタリングポストの位置情報とから正確な現在位置を算出する。近くのモニタリングポストを検索するのにも,どこにモニタリングポストがあるかを知っていなければならない。
モニタリングポストの位置情報は,設置時に正確に測位してサーバに登録されている。農業機械はそれを持っていないので,走行を始める前にサーバに要求して受け取っておく必要がある。サーバ算出測位ではサーバが算出するので,この要求は要らない。
20字で「モニタリングポストの位置情報」と本文の語で書く。解答例は14字。
設問2(2)(b)
20字以内
サーバ算出測位の場合,算出したデータを農業機械に送信する必要がある。この場合,自動走行の高度化を実現するために配慮しなければならないことを,20 字以内で述べよ。
解答例
解説
本文の根拠
〔開発項目の検討結果〕(4) 農業機械の現在位置測位の高精度化
サーバ算出測位:農業機械は,ステレオカメラをスキャンさせて,近くのモニタリングポストを認識する。モニタリングポストの識別コード,測定した距離と方位をサーバに送信して,サーバが農業機械の正確な現在位置を算出する。サーバは算出した測位データを保存し,農業機械にも送信する。
表2 一定範囲内の自動走行
複数の農業機械に,異なる作業域を自動走行させた場合でも,未走行領域が生じないよう,正確な走行制御を行う。
表2 縦列走行
前後の農業機械が連携し,走行経路が正確に重なるように制御する。
サーバ算出測位では,農業機械が測定したデータをサーバに送り,サーバが現在位置を算出して農業機械に送り返す。この送受信と計算には時間が掛かり,その間も農業機械は走行し続けている。受け取った測位データは,測定した時点の位置であって,受け取った時点の位置ではない。
自動走行の高度化では,未走行領域が生じないような正確な走行制御や,走行経路が正確に重なる縦列走行を目指している。送受信の遅延の分だけ位置がずれていると,この正確な制御ができない。講評は,“データ送受信に時間が掛かる”という解答が多かったが,その間にも農業機械が移動していることも書いてほしかったとしている。遅延そのものではなく,遅延の間に移動することで生じる位置のずれが配慮すべき点である。
20字で「データ送受信の遅延」と「位置ずれ」を入れる。解答例は「データ送受信の遅延による位置ずれ」で16字。
採点講評(IPA)
設問2(2)(b)は,正答率が低かった。“サーバと農業機械間のデータ送受信に時間が掛かる”との解答が多かったが,その間にも農業機械が移動していることも併せて記述してほしかった。
設問2(3)
20字以内
縦列走行において,前方の農業機械の走行経路を,後方の農業機械に送信して走行させるのではなく,ステレオカメラを用いて前方の農業機械に追走するようにした利点を,20 字以内で述べよ。
解答例
解説
本文の根拠
表2 縦列走行
ステレオカメラによって,前方の農業機械との距離を測定し,前方の障害物を高精度に検出する。
〔開発項目の検討結果〕(5) 農業機械の自動走行の高度化
縦列走行の場合,後方の農業機械からステレオカメラで前方の農業機械を監視し,一定の距離を保って自動走行させる。ステレオカメラによって,前方の農業機械との間の障害物も検出できる。障害物を検出した場合は走行を停止し,前方の農業機械にも通知して停止させる。
前方の農業機械の走行経路を送信して後方に同じ経路をたどらせるだけなら,後方の農業機械は前を見ていなくても走れる。しかしそれでは,前方の農業機械が通り過ぎた後に経路上に現れた人や物に気付けない。
ステレオカメラで前方の農業機械を監視して追走すれば,前方の農業機械との距離を測れるだけでなく,前方の農業機械との間にある障害物も高精度に検出できる。障害物を検出すれば走行を止め,前方の農業機械にも通知して停止させることができるので,安全確保につながる。取組方針の「危険な作業からの解放」を無人の縦列走行で実現するための仕組みである。
20字で表2 の語を使い「前方の障害物を高精度に検出できる」と書く。解答例は17字。
設問3
解答欄2つ
農業機械の適切かつ迅速な保守サービスを実現するための仕組みを,農業生産システムに組み込むことを検討する。この場合,サーバでどのようなデータを用い,どのような機能を実現すればよいか。それぞれ 10 字以内で答えよ。
解説
本文の根拠
〔X 社の農業機械の現状と課題〕
農業機械の動作履歴は,内部に記録され,必要に応じて取り出せる。
〔X 社の農業機械の現状と課題〕
適切かつ迅速な保守サービスへの利用者からの要望は強い。
表2 無線LANによるデータ通信
動作履歴のサーバへの送信
現行製品では,農業機械の動作履歴は内部に記録され,必要に応じて取り出すだけである。これでは故障が起きてから履歴を取り出して調べることになり,迅速な保守にはならない。新しい農業生産システムでは,表2 のとおり動作履歴を無線 LAN でサーバへ送信するので,サーバで常に動作履歴を集められる。
集めた動作履歴を分析すれば,故障の兆候を捉えて故障が起きる前に予測し,部品の手配や点検を前もって行える。これが適切かつ迅速な保守サービスにつながる。サーバには生産計画に基づいて農業機械の運用・保守などを指示・サポートする役割もある。
各10字で,データは「農業機械の動作履歴」(9字),機能は「故障予測」(4字)と書く。
設問4
15字以内
Y 氏は,クラウドサービスで複数の農場のデータベースが連携できるようにすることと併せて,サーバの機能の一部をクラウドサービスにも実装することを検討した。その場合,クラウドサービスへの実装が適切でない機能が幾つかある。それらに共通する特徴は何か。15 字以内で述べよ。
解答例
解説
本文の根拠
〔開発項目の検討結果〕(1) サーバの機能
サーバには,農業機械の走行に関する指示を行う機能,農業機械による現在位置の測位をサポートする機能,農場内の機器の監視・制御を行う機能,環境モニタリングデータを監視して必要な措置を行う機能,農場内において収集したデータをデータベース化する機能,これらのデータを分析して生産計画を立案・変更する機能を実装する。
〔開発項目の検討結果〕(1) サーバの機能
サーバを X 社が提供するクラウドサービスと接続し,複数の農場のデータベースが連携できるようにする。
〔農業生産システムの概要〕(2) 農場の情報ネットワークの構築と環境モニタリング
長期天気予報などの情報を収集するために,農場内オフィスに設置したルータを介してインターネットに接続できるようにする。
サーバの機能のうち,農業機械の走行に関する指示,現在位置の測位のサポート,農場内の機器の監視・制御は,走行中の農業機械や農場内の機器とやり取りしながらその場で結果を返す必要がある。設問2(2)(b)で見たとおり,送受信に時間が掛かればその間に農業機械が移動して位置がずれてしまう。これらの機能には高い応答性が要求される。
クラウドサービスは農場の外にあり,農場内オフィスのルータを介してインターネット経由で接続するので,農場内のサーバよりも通信に時間が掛かり,応答が遅れるおそれがある。一方,データベース化や生産計画の立案・変更のように即時の応答を必要としない機能はクラウドサービスに置いても支障がない。講評は,この設問の正答率は高く,クラウドサービス利用上の問題はよく理解されていたとしている。
15字で「高い応答性が要求される」と共通する特徴を書く。解答例は12字。
採点講評(IPA)
設問4では,サーバからクラウドサービスへの移管が適切ではない機能に共通する特徴を問うたが,正答率は高かった。クラウドサービス利用上の問題については,よく理解されているようであった。
出典:平成29年度 秋期 システムアーキテクト試験 午後Ⅰ 問4(表記を一部改変)
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