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システムアーキテクト試験

平成25年度 秋期 科目A-2(午前Ⅱ)

平成25年度 秋期に実施されたシステムアーキテクト試験 午前Ⅱ(2026年度からの科目A-2)の全25問に,運営者が独自に書いた解説を付けています。正解の理由に加えて,多くの問題でほかの選択肢がなぜ誤りなのかも説明しています。

この試験について:システムアーキテクト試験について

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問1

UML を使って図のクラス P を定義した。このクラスの操作のうち,公開可視性(public)をもつものはどれか。

クラス図。クラス名はクラス P。操作欄に“+ 操作 A”,“- 操作 B”,“# 操作 C”の3行がある。

正解 イ

解説

UML のクラス図では,属性や操作の名前の前に付ける記号で可視性を表す。“+”は公開(public)で,どのクラスからも参照できる。“-”は非公開(private)で,そのクラスの中だけから参照できる。“#”は限定公開(protected)で,そのクラスとサブクラスから参照できる。図で“+”が付いているのは操作 A だけなので,イが正しい。

アは,操作 B と操作 C が公開ではないので誤りである。ウの操作 B は“-”が付いた private,エの操作 C は“#”が付いた protected の操作である。なお,“~”はパッケージ内に公開する package を表す。

クラス図の汎化と可視性 バス・トラックなどのクラスの共通部分を取り出して自動車クラスとして定義することを汎化といい,子から親へ白抜きの三角の矢印で表す(逆に親から子へ分けるのは特化)。属性や操作の前の記号は可視性で,+は public(どこからでも),−は private(そのクラスの中だけ),#は protected(サブクラスまで),~は package(同じパッケージ)。 自動車 バス トラック セダン 汎化(共通部分を親へ) 記号 可視性 見える範囲 + public どこからでも − private そのクラスの中だけ # protected サブクラスまで ~ package 同じパッケージ
共通部分を親にまとめるのが汎化(白抜き三角)

出典:平成25年度 秋期 システムアーキテクト試験 午前Ⅱ 問1(表記を一部改変)

用語解説:UML(統一モデリング言語)

問2

レビュー方法の一つであるインスペクションにおけるレビューアの行動のうち,作成者との関係に関して考慮すべきことはどれか。

正解 ウ

解説

インスペクションは,作業成果物の欠陥を早期に見つけるための公式なレビューである。レビューアが作成者個人を非難すると,作成者が防御的になって欠陥を隠したり議論が感情的になったりして,欠陥の発見という目的が損なわれる。指摘は人ではなく作業成果物の内容に向け,課題や欠陥を客観的に指摘する。ウが適切である。

アは作成者の技術力に遠慮して指摘を控えるもので,欠陥が見逃される。イのインスペクションは欠陥の検出に集中する場であり,解決策や修正方法の検討は作成者がレビューの後に行う。エの指摘件数を作成者の能力評価に使うと,作成者が欠陥を指摘されないように振る舞うようになるので,レビュー結果は人事評価に用いないのが原則である。

出典:平成25年度 秋期 システムアーキテクト試験 午前Ⅱ 問2(表記を一部改変)

問3

イベント駆動型のアプリケーションにおけるイベント処理のタイミングを設計するのに有用な図はどれか。

正解 イ

解説

シーケンス図は,UML の相互作用図の一つで,オブジェクトを横に並べ,縦方向を時間の流れとして,オブジェクト間でやり取りされるメッセージを発生の順に表す図である。イベント駆動型のプログラムで,どのイベントがどの時点で発生し,どのオブジェクトがどの順序で処理するかという,イベント処理のタイミングを設計するのに有用である。イが該当する。

アの E-R 図はエンティティと関連によってデータの構造を表す図,ウのデータフロー図はプロセスの間のデータの流れと変換を表す図で,いずれも処理の時間的な順序は表さない。エのペトリネットは,プレースとトランジションとトークンによって並行して進む事象の同期や因果関係を表すモデルで,オブジェクト間のメッセージのやり取りを時間順に表すものではない。

UML のおもな図の使い分け シーケンス図はオブジェクト間のメッセージを時間の順に,コミュニケーション図はオブジェクトのつながりに注目して相互作用を表す。ユースケース図はアクタとシステムの機能の関係(システムの範囲),アクティビティ図は処理の流れ(分岐・並行・同期),状態マシン図は1つのオブジェクトの状態の移り変わり,クラス図は静的な構造,オブジェクト図はある時点のインスタンスのつながりを表す。 図 表すもの シーケンス図 メッセージを時間の順に コミュニケーション図 オブジェクトのつながりと相互作用 ユースケース図 アクタと機能,システムの範囲 アクティビティ図 処理の流れ(分岐・並行・同期) 状態マシン図 1つのオブジェクトの状態の遷移 クラス図 クラスと関連(静的な構造) オブジェクト図 ある時点のインスタンスとリンク
時間の順はシーケンス図,範囲はユースケース図,業務の流れはアクティビティ図

出典:平成25年度 秋期 システムアーキテクト試験 午前Ⅱ 問3(表記を一部改変)

用語解説:データベースの設計(正規化・E-R 図・参照制約) UML(統一モデリング言語)

問4

デザインパターンの中のストラテジパターンを用いて,帳票出力のクラスを図のとおりに設計した。この帳票出力ストラテジクラスの説明のうち,適切なものはどれか。

クラス図。“コンテキスト”クラス(属性・操作なし)から“帳票出力ストラテジ”クラス(操作“+帳票出力()”)へ,コンテキスト側に白抜きひし形の付いた矢印(集約)が引かれている。“PDF 帳票出力ストラテジ”クラス(操作“+帳票出力()”)と“HTML 帳票出力ストラテジ”クラス(操作“+帳票出力()”)から,“帳票出力ストラテジ”クラスへ白抜き三角の矢印(汎化)が引かれている。凡例:クラスは上からクラス名,属性,操作の3段の箱で表す。

正解 イ

解説

ストラテジパターンは,アルゴリズムを抽象的なストラテジクラスとして定義し,具体的なアルゴリズムをそのサブクラスとして実装して,コンテキストクラスから入れ替えて使えるようにするパターンである。新しいフォーマットに対応するときは,帳票出力ストラテジのサブクラスを追加するだけでよく,コンテキストや既存のサブクラスを変更する必要がないので,イが適切である。

アは誤りで,どの具体的なストラテジを使うかはクライアントが選んでコンテキストに設定するので,クライアントはどのクラスがどのフォーマットに対応するかを知っている必要がある。ウのフォーマットごとの振分けは,条件分岐ではなく,どのサブクラスのオブジェクトを使うかによって決まる。エのアルゴリズムは各ストラテジクラスに記述し,コンテキストには記述しない。

ストラテジパターン:アルゴリズムをサブクラスで入れ替える 帳票出力のアルゴリズムを抽象的な“帳票出力ストラテジ”として定め,PDF・HTML などの具体的なアルゴリズムをそのサブクラスとして実装する。コンテキストはストラテジに処理を任せるだけなので,新しいフォーマットはサブクラスを足すだけで済み,コンテキストや既存のサブクラスは変えなくてよい。どのサブクラスを使うかはクライアントが選ぶ。 コンテキスト 帳票出力ストラテジ +帳票出力() PDF 帳票出力 +帳票出力() HTML 帳票出力 +帳票出力() (新)CSV 帳票出力 +帳票出力() 足すのはサブクラスだけ。コンテキストは変えない CSV は追加の例(問題の図には無い)
新しいフォーマットはサブクラスを足すだけ(イ)

出典:平成25年度 秋期 システムアーキテクト試験 午前Ⅱ 問4(表記を一部改変)

問5

オブジェクト指向におけるデザインパターンに関する記述として,適切なものはどれか。

正解 エ

解説

デザインパターンは,オブジェクト指向設計で繰り返し現れる典型的な問題と,その解決策となるクラスやオブジェクトの構造を,名前を付けて整理し再利用できるようにしたものである。代表的なものに GoF の 23 のパターンがある。エが適切である。

アは共通する性質を抽出して上位のクラスを定義する汎化,イは同じ性質をもつオブジェクト群をクラスとしてまとめる抽象化(分類),ウはデータを内部に隠して仕様と実装を分離するカプセル化(情報隠蔽)の説明である。

出典:平成25年度 秋期 システムアーキテクト試験 午前Ⅱ 問5(表記を一部改変)

問6

モジュール設計に関する記述のうち,モジュール強度(結束性)が最も強いものはどれか。

正解 ア

解説

モジュール強度は弱いほうから,暗号的・論理的・時間的・手順的・連絡的・情報的・機能的の順に分類される。アは,木構造データとそれを扱う機能を一つにまとめ,データを外から見えないようにしたもので,情報的強度に当たる。選択肢の中では最も強い。

イは初期設定という「実行される時期が同じ」という理由でまとめた時間的強度。ウは共通部分をまとめて引数で機能を切り替える論理的強度。エは A の結果を B が使うという連絡的強度で,いずれも情報的強度より弱い。なお最も強い機能的強度は,単一の機能だけを実現するモジュールを指す。

出典:平成25年度 秋期 システムアーキテクト試験 午前Ⅱ 問6(表記を一部改変)

問7

組込みシステムの“クロス開発”の説明として,適切なものはどれか。

正解 ウ

解説

クロス開発は,組込みシステムのように実行する機器(ターゲット)の資源が限られている場合に,開発ツールの整ったパソコンなど別の機器(ホスト)の上でプログラムの作成・コンパイル・デバッグを行い,できたプログラムをターゲットに転送して実行する開発方式である。ホスト上ではクロスコンパイラやエミュレータ,シミュレータなどを使う。ウが適切である。

アは 2 人 1 組で交代しながら開発するペアプログラミング,イは設計と試作を繰り返すプロトタイピングの説明である。エは派生開発を変更と追加のプロセスに分けて進める XDDP(eXtreme Derivative Development Process)の説明である。

出典:平成25年度 秋期 システムアーキテクト試験 午前Ⅱ 問7(表記を一部改変)

問8

ブラックボックステストにおけるテストケースの設計に関する記述として,適切なものはどれか。

正解 ウ

解説

ブラックボックステストは,プログラムの内部構造を考慮せず,仕様書に記述された機能に基づいて,入力と出力の関係が正しいかを確認するテストである。プログラムが果たすべき機能を仕様書で調べてテストケースを設計するウが適切である。

エのプログラムの全命令が少なくとも1回は実行されるように設計するのは,内部構造に着目するホワイトボックステストの命令網羅である。アの無作為な抽出やイの使用頻度が高い実データの抽出だけでは,仕様の境界値や異常な入力を網羅的に確かめることができない。

同値分割と限界値分析 1ページに30件ずつ印字するプログラムの例。印字件数を,0件,1〜30件(1ページ),31件以上(2ページ以上)の同値クラスに分ける。同値分割では各クラスから代表の値(例えば15件,45件)を1つずつ選ぶ。限界値分析では誤りの多い境目の値,0件・1件・30件・31件を選ぶ。 1〜30件(1ページ) 31件〜(2ページ以上) 0件 0 1 30 31 15 45 限界値分析:境目の両側 0・1・30・31 同値分割:各グループの代表(15,45 など) 印字する件数
同値分割は各グループの代表,限界値分析は境目の両側を選ぶ

出典:平成25年度 秋期 システムアーキテクト試験 午前Ⅱ 問8(表記を一部改変)

用語解説:テスト技法(ブラックボックス・ホワイトボックス)

問9

製品を出荷前に全数検査することによって,出荷後の故障数を減少させ,全体の費用を低減したい。次の条件で全数検査を行ったときに低減できる費用は何万円か。ここで,検査時に故障が発見された製品は修理して出荷するものとする。

〔条件〕

正解 ア

解説

全数検査を実施すると,検査費用は 500個×1万円=500万円。検査で見つかる故障品は 500×2%=10個で,出荷前の修理費用は 10×50万円=500万円。それでも出荷後に故障する製品が 500×1%=5個あり,その修理費用は 5×200万円=1,000万円。合計は 500+500+1,000=2,000万円になる。

全数検査をしなければ,出荷後に 500×3%=15個が故障し,修理費用は 15×200万円=3,000万円。低減できる費用は 3,000−2,000=1,000万円で,アが正しい。検査費用や出荷前の修理費用を足し忘れると,低減額を大きく見誤る。

全数検査をする・しないの費用の比較 全数検査をすると,検査費用 500 個×1 万円=500 万円,出荷前に見つかる 10 個の修理 500 万円,それでも出荷後に故障する 5 個の修理 1,000 万円で,合計 2,000 万円。しなければ出荷後に 15 個が故障して 3,000 万円。低減できるのは 1,000 万円。 検査しない 出荷後の修理 15 個 3,000 全数検査 検査 500 出荷前 500 出荷後 1,000 2,000 単位:万円。検査で 10 個(2%)を出荷前に直し,出荷後は 5 個(1%) 低減できる費用 = 3,000 − 2,000 = 1,000 万円(ア) 検査費用や出荷前の修理を足し忘れると,低減額を大きく見誤る
3,000 万円 − 2,000 万円 = 1,000 万円の低減

出典:平成25年度 秋期 システムアーキテクト試験 午前Ⅱ 問9(表記を一部改変)

問10

学生レコードを処理するプログラムをテストするために,実験計画法を用いてテストケースを決定する。学生レコード中のデータ項目(学生番号,科目コード,得点)を二つの状態で表す。テスト対象のデータ項目から任意に二つのデータ項目を選び,二つのデータ項目がとる状態の全ての組合せが必ず同一回数ずつ存在するように基準を設けた場合に,次の 8 通りのテストケースの候補のうち,最少で幾つを採択すればよいか。

テストケースの候補の表。列はテストケース No.,学生番号,科目コード,得点。1:存在する,存在する,数字である。2:存在する,存在する,数字でない。3:存在する,存在しない,数字である。4:存在する,存在しない,数字でない。5:存在しない,存在する,数字である。6:存在しない,存在する,数字でない。7:存在しない,存在しない,数字である。8:存在しない,存在しない,数字でない。

正解 ウ

解説

3 項目がそれぞれ二つの状態をとるので,任意の 2 項目の状態の組合せは 2×2=4 通りある。これらが全て同じ回数ずつ現れるには少なくとも 4 件が必要で,直交表(L4)の考え方で 4 件を選べば条件を満たせる。例えば No.1,4,6,7 を採択すると,学生番号と科目コード,学生番号と得点,科目コードと得点のどの組でも,4 通りの組合せがちょうど 1 回ずつ現れる。最少は 4 件で,ウになる。

ア(2 件)とイ(3 件)では,4 通りの組合せを全て含めることができない。エ(6 件)は 4 の倍数ではないので,4 通りを同じ回数ずつにすることができず,条件を満たさない。

出典:平成25年度 秋期 システムアーキテクト試験 午前Ⅱ 問10(表記を一部改変)

問11

図は,テスト項目消化件数 X において,目標のバグ累積件数に到達したことを示す。この図の状況の説明として,適切なものはどれか。

グラフ。横軸はテスト項目消化件数,縦軸はバグ累積件数。曲線は原点付近では緩やかに増え,次第に傾きが急になって,テスト項目消化件数 X の位置でほぼ垂直に立ち上がり,破線で示された“目標のバグ累積件数”に到達している。

正解 ウ

解説

テスト項目の消化に伴うバグ累積件数は,品質が安定してくると新たに見つかるバグが減り,曲線が寝てきて一定値に近づく(収束する)。図の曲線は,X の時点で傾きがかえって急になっており,テスト項目を消化するほどバグが多く見つかっている状態である。目標の件数に到達していても収束の兆しがないので,まだ多くのバグが内在している可能性がある。ウが適切である。

アとエは,目標のバグ累積件数に到達したことだけでテストの終了や出荷を判断しており,曲線が収束していない状況を見落としている。イは,事前の机上チェックやシミュレーションが十分であれば,テストで見つかるバグは少なく,終盤に急増することはないので,図の状況とは合わない。

ゴンペルツ曲線(信頼度成長曲線) テストの初めはバグの検出が少なく,中盤で急に増え,終盤は新しいバグが出にくくなって頭打ちになる S 字の曲線。累積のバグ件数が水平に近づいたことを,バグが収束したと判断する根拠の1つにする。 テストの時間 バグの累積 緩やか 急増 頭打ち=収束
序盤は緩やか,中盤で急増,終盤で頭打ちの S 字

出典:平成25年度 秋期 システムアーキテクト試験 午前Ⅱ 問11(表記を一部改変)

問12

全国に分散しているシステムの保守に関する記述のうち,適切なものはどれか。

正解 ウ

解説

MTTR(平均修復時間)は,故障が発生してから修理が完了するまでの平均時間で,保守要員の駆付け時間も含む。保守センタを分散配置して駆付け時間を短縮すれば,MTTR は短くなる。ウが適切である。

アの遠隔保守で駆付け時間が不要になると短くなるのは,MTBF ではなく MTTR である。イの故障時の修理は機器を元の状態に戻すもので,故障の間隔を示す MTBF(平均故障間隔)を長くするものではない。エの予防保守は,故障の発生を減らして MTBF を長くするための保守である。

出典:平成25年度 秋期 システムアーキテクト試験 午前Ⅱ 問12(表記を一部改変)

用語解説:稼働率(MTBF・MTTR)

問13

銀行の勘定系システムなどのような特定の分野のシステムに対して,業務知識,再利用部品,ツールなどを体系的に整備し,再利用を促進することによって,ソフトウェア開発の効率向上を図る活動や手法はどれか。

正解 イ

解説

ドメインエンジニアリングは,銀行の勘定系のような特定の分野(ドメイン)のシステムに共通する業務知識や要件の共通性と変動性を分析し,再利用できる部品(資産),アーキテクチャ,ツールなどを体系的に整備して,その分野のシステムの開発に再利用することで開発の効率を上げる活動である。共通フレームにもドメインエンジニアリングプロセスが定められている。イが該当する。

アのコンカレントエンジニアリングは,設計や生産準備などの工程を並行して進め,開発期間を短縮する手法である。ウのフォワードエンジニアリングは,要件や設計から順にプログラムを作り出す通常の方向の開発である。エのリバースエンジニアリングは,既存のプログラムを解析して,その仕様や設計を導き出す手法である。

出典:平成25年度 秋期 システムアーキテクト試験 午前Ⅱ 問13(表記を一部改変)

問14

BABOK では,要求をビジネス要求,ステークホルダ要求,ソリューション要求及び移行要求の 4 種類に分類している。ソリューション要求の説明はどれか。

正解 ウ

解説

BABOK(ビジネスアナリシス知識体系ガイド)の要求の分類で,ソリューション要求は,ステークホルダ要求を満たすためにソリューションがもつべき能力や品質であり,振る舞いや扱う情報を表す機能要求と,性能や使用性などの非機能要求からなる。出題当時の BABOK 2.0 では要求アナリシスの活動で定義する。ウが該当する。

アは組織の目標や目的を表すビジネス要求で,エンタープライズアナリシスで定義する。イは現状から将来の状態への移行に必要な一時的な能力を表す移行要求,エは利害関係者のニーズを表すステークホルダ要求である。なお,現行の BABOK v3 では知識エリアが再編され,エンタープライズアナリシスは戦略アナリシスに改められている。

出典:平成25年度 秋期 システムアーキテクト試験 午前Ⅱ 問14(表記を一部改変)

問15

IT 投資案件 X の投資効果を NPV で評価する場合の算出式はどれか。

IT 投資案件 X(割引率:2.5%)の表。年 0:キャッシュアウト 200。年 1〜5 のキャッシュイン:100,90,80,60,50。

正解 ウ

解説

NPV(正味現在価値)は,将来のキャッシュインを割引率で現在価値に換算して合計し,投資額(キャッシュアウト)を差し引いた値である。割引率を r とすると,t 年後の金額は (1+r)t で割って現在価値にする。r=0.025 なので,NPV=-200+100/1.025+90/1.0252+80/1.0253+60/1.0254+50/1.0255 となる。ウが正しい。

アは (1+r)t ではなく rt(0.025 のべき乗)で割っており,現在価値の換算になっていない。エは 1 年目の 100 を 5 年分,5 年目の 50 を 1 年分割り引いており,年数と指数の対応が逆である。イは rt で割る誤りと,年数と指数が逆になる誤りの両方を含む。

正味現在価値(NPV)の求め方 投資200に対して,1年後100,2年後90,3年後80のキャッシュインがある例を割引率5%で評価する。1年後は1.05,2年後は1.05の2乗,3年後は1.05の3乗で割って今の価値に直すと,95.2,81.6,69.1で合計は約246。これから投資額200を引いた約46が NPV で,正なので投資する価値がある。 −200(今の投資) 100→95.2 ÷1.05 1年後 90→81.6 ÷1.05² 2年後 80→69.1 ÷1.05³ 3年後 将来の金額 今の価値 現在価値の合計 約246 246 − 200 = NPV 約46 正なので投資する価値がある
先のお金ほど大きく割り引く。現在価値の合計から投資額を引いたものが NPV

出典:平成25年度 秋期 システムアーキテクト試験 午前Ⅱ 問15(表記を一部改変)

用語解説:投資評価(NPV・IRR・ROI)

問16

要求の分析に当たって,データとプロセス(データの作成,読取り,更新,削除)の対応関係を検証するものはどれか。

正解 ア

解説

CRUD マトリックスは,行(又は列)にプロセス(機能),列(又は行)にデータ(エンティティ)を並べ,交点にそのプロセスがデータを作成(Create),読取り(Read),更新(Update),削除(Delete)のどれで扱うかを記入した表である。作成されないデータや,どのプロセスからも使われないデータなどを発見でき,データとプロセスの対応関係を検証できる。アが該当する。

イの FURPS+モデルは,要求を機能性,使用性,信頼性,性能,保守性(サポート性)と,設計・実装などの制約に分類するモデルである。ウの KAOS 法は,ゴールを段階的に詳細化して要求を導くゴール指向の要求分析手法,エの MoSCoW 分析は,要求を Must,Should,Could,Won't に分けて優先順位を付ける手法である。

出典:平成25年度 秋期 システムアーキテクト試験 午前Ⅱ 問16(表記を一部改変)

問17

事業目標達成のためのプログラムマネジメントの考え方として,適切なものはどれか。

正解 ア

解説

プログラムマネジメントは,事業目標の達成という共通の目的に向けて,互いに関連する複数のプロジェクトをまとめて管理する考え方。個々のプロジェクトの成果を足し合わせるだけでなく,プロジェクト間の連携や統合,相互作用を通じて全体の価値を高め,組織の戦略を実現する。アが適切である。

イは個々のプロジェクト管理を細かくする話で,複数のプロジェクトを束ねる視点がない。ウは一つのシステム開発の技術選定によるリスク低減の話。エはプロジェクトマネジメントを組織的に支援する PMO(プロジェクトマネジメントオフィス)の説明である。

出典:平成25年度 秋期 システムアーキテクト試験 午前Ⅱ 問17(表記を一部改変)

問18

有機 EL ディスプレイの説明として,適切なものはどれか。

正解 ア

解説

有機 EL ディスプレイは,有機化合物の発光層に電圧をかけ,注入された電子と正孔が再結合するときのエネルギーで素子自体が発光する表示装置である。自発光なのでバックライトが不要で,薄型化しやすく,コントラストが高い。アが適切である。

イの電子ビームを蛍光体に当てて発光させるのは CRT(ブラウン管)ディスプレイ,ウのバックライトなどの光の透過量を液晶で制御するのは液晶ディスプレイ,エの放電で発生した紫外線で蛍光体を発光させるのはプラズマディスプレイの説明である。

出典:平成25年度 秋期 システムアーキテクト試験 午前Ⅱ 問18(表記を一部改変)

問19

1 台の CPU の性能を 1 とするとき,その CPU を n 台用いたマルチプロセッサの性能 P が,P = n/(1+(n-1)a) で表されるとする。ここで,a はオーバヘッドを表す定数である。例えば,a = 0.1,n = 4 とすると,P ≒ 3 なので,4 台の CPU から成るマルチプロセッサの性能は約 3 になる。この式で表されるマルチプロセッサの性能には上限があり,n を幾ら大きくしても P はある値以上には大きくならない。a = 0.1 の場合,P の上限は幾らか。

正解 イ

解説

P=n/(1+(n−1)a) の分子と分母を n で割ると,P=1/(1/n+a−a/n) となる。n を幾らでも大きくすると,1/n と a/n はいずれも 0 に近づくので,P は 1/a に近づく。

a=0.1 のとき,1/a=1/0.1=10 なので,マルチプロセッサの性能は幾ら CPU を増やしても 10 以上には大きくならない。イになる。

例えば n=100 でも P=100/(1+99×0.1)=100/10.9≒9.2 であり,10 には届かない。

マルチプロセッサの性能の上限 P=n÷(1+(n−1)a) で a=0.1 のとき,n=4 で P は約3.1,n=20 で約6.9,n=100 でも約9.2 にとどまる。n を大きくすると P は 1÷a=10 に近づくが,それを超えない。 台数 n 性能 P 10 上限 1÷a=10 n=4:3.1 n=20:6.9 n=100:9.2 5 0 a=0.1 の場合
台数を増やしても,オーバヘッド a で決まる 1÷a に頭打ちになる

出典:平成25年度 秋期 システムアーキテクト試験 午前Ⅱ 問19(表記を一部改変)

問20

ページング方式の仮想記憶において,主記憶の 1 回のアクセス時間が 300 ナノ秒で,主記憶アクセス 100 万回に 1 回の割合でページフォールトが発生し,ページフォールト 1 回当たり 200 ミリ秒のオーバヘッドを伴うコンピュータがある。主記憶の平均アクセス時間を短縮させる改善策を,効果の高い順に並べたものはどれか。

〔改善策〕

正解 エ

解説

平均アクセス時間=主記憶のアクセス時間+ページフォールト発生率×オーバヘッド時間 で求める。現状は 300 ナノ秒+10-6×200 ミリ秒=300+200=500 ナノ秒である。a は 300+10-6×40 ミリ秒=300+40=340 ナノ秒,b は 300/4+1.2×10-6×200 ミリ秒=75+240=315 ナノ秒,c は 300/3+200=100+200=300 ナノ秒となる。平均アクセス時間が短いほど効果が高いので,c,b,a の順になり,エになる。

ア,イ,ウはいずれも a を c より上位に置いているが,a の 340 ナノ秒は c の 300 ナノ秒より長く,効果は c の方が高い。また,b の 315 ナノ秒は a より短いので,イのように a を b より上位にする順序にもならない。

ページフォールトを含む平均アクセス時間の比べ方 平均アクセス時間=主記憶のアクセス時間+発生率×オーバヘッド。今は 300+10⁻⁶×200 ミリ秒=300+200=500 ナノ秒。a はオーバヘッドを 1/5 にして 300+40=340,b はアクセスを 1/4 にして発生率 1.2 倍で 75+240=315,c はアクセスを 1/3 にして 100+200=300 ナノ秒。短い順に c,b,a。 今 300 200 = 500 a 300 40 = 340 b 75 240 = 315 c 100 200 = 300 主記憶のアクセス 発生率 × オーバヘッド 単位はナノ秒(10⁻⁶ × 200 ミリ秒 = 200 ナノ秒)
帯の短いものほど効果が高い。c → b → a

出典:平成25年度 秋期 システムアーキテクト試験 午前Ⅱ 問20(表記を一部改変)

用語解説:仮想記憶(ページング)

問21

“社員”表から同姓同名が存在する社員の氏名を抽出する SQL 文はどれか。

“社員”表。列は社員番号,氏名,生年月日,所属。0001:新井 健二,1970-02-04,営業部。0002:鈴木 太郎,1975-03-13,総務部。0003:佐藤 宏,1981-07-11,技術部。0004:田中 博,1978-01-24,企画部。0005:鈴木 太郎,1968-11-09,営業部。以下省略(⋮)。

正解 ア

解説

同姓同名の社員の氏名を求めるには,氏名でグループ化して,グループ内の行数が 2 以上のものを選べばよい。GROUP BY 氏名 で同じ氏名の行を一つのグループにまとめ,HAVING COUNT(*) > 1 でグループ内の行数が 1 より多いグループだけを残す。図の表では“鈴木 太郎”が抽出される。アが正しい。

イとウの WHERE 氏名 = 氏名 は,同じ行の同じ列どうしを比べているので,氏名が NULL でない全ての行で真になり,全社員の氏名が出力される(ウは並べ替えるだけ)。エは氏名ごとの件数を出力するが,件数が 1 の社員も含めて全ての氏名が出力されるので,同姓同名だけを抽出したことにならない。

SQL の句が働く順番 SELECT 文は,FROM で表を選び,WHERE で行を絞り,GROUP BY でグループにまとめ,HAVING でグループを絞り,最後に SELECT で列を取り出す,の順に働く。COUNT(*) のような集約関数はグループにまとめた後でないと数えられないので,WHERE には書けず HAVING に書く。 FROM 表を選ぶ 1 WHERE 行を絞る(役割名など) 2 GROUP BY グループにまとめる 3 HAVING グループを絞る(COUNT(*) など) 4 SELECT 列を取り出す 5 集約関数は WHERE に書けない(まだ数えていない)
行の条件は WHERE,グループの件数などの条件は HAVING

出典:平成25年度 秋期 システムアーキテクト試験 午前Ⅱ 問21(表記を一部改変)

問22

DBMS に実装すべき原子性(atomicity)を説明したものはどれか。

正解 ウ

解説

原子性(Atomicity)は,トランザクション内の処理が全て実行されるか,全く実行されなかった状態に戻されるかのどちらかであり,途中までの処理だけが反映されることはないという性質である。ウが該当する。

アの同じ処理を何度実行しても結果が同じになるのはべき等性で,ACID 特性ではない。イのトランザクション完了後に障害が発生しても更新内容が保証されるのは耐久性(Durability)。エの他のトランザクションの影響を受けないのは独立性(Isolation)である。

出典:平成25年度 秋期 システムアーキテクト試験 午前Ⅱ 問22(表記を一部改変)

用語解説:排他制御とデッドロック(ACID 特性)

問23

磁気ディスク装置や磁気テープ装置などのストレージ(補助記憶装置)を,通常の LAN とは別の高速な専用ネットワークで構成する方式はどれか。

正解 エ

解説

SAN(Storage Area Network)は,サーバと外部記憶装置を,業務用の LAN とは別に用意した高速な専用ネットワークで接続する構成。ファイバチャネルなどを使い,記憶装置へのアクセスが LAN の通信と干渉しない。

アの DAFS はネットワーク越しにファイルを共有するためのプロトコル,イの DAS はサーバに記憶装置を直結する方式,ウの NAS は通常の LAN に接続して使うファイルサーバ専用機であり,いずれも専用ネットワークで接続する構成ではない。

DAS・SAN・NAS の違い DAS はサーバにディスクを直接つなぎ,ブロック単位で読み書きする。SAN は LAN とは別の専用ネットワーク(ファイバチャネルなど)でサーバとストレージをつなぎ,ブロック単位で読み書きする。NAS はふだんの LAN につなぐファイルサーバで,NFS や SMB でファイル単位で共有する。 DAS SAN NAS サーバ ディスク 直接つなぐ サーバ サーバ FC スイッチ ストレージ LAN とは別の専用網 PC サーバ ふだんの LAN NAS NFS・SMB で共有 ブロック単位 ブロック単位 ファイル単位 SAN は大量の読み書きが LAN を混ませない
見分けるのは「どの線でつなぐか」と「ブロックかファイルか」

出典:平成25年度 秋期 システムアーキテクト試験 午前Ⅱ 問23(表記を一部改変)

用語解説:SAN(Storage Area Network)

問24

何らかの理由で有効期間中に失効になったディジタル証明書の一覧を示すデータはどれか。

正解 エ

解説

CRL(Certificate Revocation List,証明書失効リスト)は,有効期間内であっても秘密鍵の漏えいなどの理由で失効させたディジタル証明書を,シリアル番号で列挙したリストである。認証局(CA)などが署名して発行・公開し(RFC 5280),利用者は証明書の検証のときに失効していないかを確認する。エが正しい。

アの CA(Certification Authority,認証局)は,ディジタル証明書を発行・失効させる機関である。イの CP(Certificate Policy,証明書ポリシー)は証明書の適用範囲や運用の方針,ウの CPS(Certification Practice Statement,認証局運用規程)は,認証局が証明書の発行・失効などの業務をどのように運用するかを定めた文書である。

CRL と OCSP の違い CRL は,認証局が有効期限内に失効させた証明書のシリアル番号と失効日時を一覧にし,署名を付けて公開するもの。利用者はリストを取ってきて自分で照らし合わせる。OCSP は,利用者が調べたい証明書を OCSP レスポンダ(VA)にオンラインで問い合わせ,有効か失効しているかの答えを受け取る。 CRL(証明書失効リスト) 認証局 CA 失効した証明書の一覧 No.1024 3/10 失効 No.2041 5/02 失効 利用者 ブラウザなど 署名して公開 取ってきて照合 載るのは有効期限内に失効した証明書のシリアル番号と日時 OCSP 利用者 ブラウザなど OCSP レスポンダ VA(検証局) この証明書は有効? 有効・失効・不明を返す その都度オンラインで問い合わせるので,最新の状態が分かる
CRL は一覧を取ってきて自分で調べる,OCSP はその都度問い合わせる

出典:平成25年度 秋期 システムアーキテクト試験 午前Ⅱ 問24(表記を一部改変)

用語解説:PKI(認証局・CRL・OCSP)

問25

メインサイトには,業務サーバとストレージを設置しており,PC から業務サーバのデータを更新している。また,DR(Disaster Recovery)サイトには,メインサイトと同様の待機サーバとストレージを設置している。このとき,RPO(Recovery Point Objective)を最も短く設定できる対策はどれか。

正解 ア

解説

RPO(目標復旧時点)は,障害や災害で失ったデータを,過去のどの時点の状態まで復旧させるかの目標値である。RPO を短くするには,メインサイトの最新のデータを DR サイトにできるだけ遅れなく複製しておく必要がある。同期レプリケーションは,メインサイトへの書込みと同時に DR サイトへの書込みも完了させるので,被災直前までのデータが DR サイトに残り,RPO を最も短くできる。アが該当する。

イの夜間バッチ転送では最大で約 1 日分,ウの定期的なテープバックアップではバックアップ間隔分のデータが失われる。エの待機サーバへの接続の仕組みは,業務を再開するまでの時間(RTO)を短くする対策であり,どの時点のデータまで戻せるかには関係しない。

RPO・RTO・MTPD の関係 障害が起きた時点を中心に,RPO(目標復旧時点)は過去に向かって,どの時点のデータまで戻すか(失ってよいデータの範囲)を表す。RTO(目標復旧時間)は未来に向かって,どれだけの時間で戻すかを表す。MTPD(最大許容停止時間)は止まっていられる限界で,RTO はこれより短く置く。 時間 最後のバックアップ 障害発生 復旧 RPO どこまで戻すか RTO 何時間で戻すか MTPD:これ以上止まると事業が立ち行かない ← 過去(データ) 未来(時間)→
RPO は障害の前(データ),RTO は障害の後(時間)を向く。RTO は MTPD より短く

出典:平成25年度 秋期 システムアーキテクト試験 午前Ⅱ 問25(表記を一部改変)

用語解説:BCP(事業継続計画・RTO・RPO)