令和元年度 秋期 午後Ⅰ

令和元年度 秋期に実施されたITサービスマネージャ試験 午後Ⅰの全3問(記述式)です。事例本文・設問・解答例と解説をそのまま読めます。

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問1 継続的サービスの改善

継続的サービスの改善に関する次の記述を読んで,設問1〜3に答えよ。

H 社は情報システム会社であり,F 事業部では営業支援業務に関するクラウドサービスを提供している。F 事業部には技術課,データ課及びサービスデスク(以下,SD という)がある。データ課では,名刺情報データ化サービス(以下,本サービスという)を提供している。SD では,本サービスの利用に関する問合せを受け付けていて,営業時間は平日 9:00〜17:00 である。

本サービスの利用者は,PC やスマートフォンの専用アプリケーションソフトウェア(以下,専用アプリという)を使って,名刺の画像情報を H 社のサーバに送信する。送信された名刺の画像情報はシステム処理され,顧客データベース(以下,顧客 DB という)に必要な情報が登録される。データ課では,名刺の画像情報とシステム処理の結果を目視で確認し,誤り箇所などに補正処理を行い,顧客 DB の登録内容を確定させる。利用者は,平日の日中であれば画像情報の送信から数十分後に,専用アプリで顧客 DB の登録内容を確認できる。

本サービスの概要は,H 社の Web サイトに,サービスカタログとして掲載されている。サービスカタログのサービス目標値(以下,カタログ目標値という)では,平日 9:00〜16:00 に送信された名刺の画像情報について,送信後 60 分以内で顧客 DB に登録すると案内している。

H 社の Web サイトには FAQ が掲載されており,本サービスの利用者は FAQ を検索することによって,自らの疑問を解決できるようになっている。FAQ で解決できない場合には,電子メールで SD に問合せができる。SD では,問合せに対する初回回答を 3 時間以内(SD の営業時間外となる場合は,翌営業日の 12 時まで)に返信することを社内サービス目標値として定めている。

〔サービスの利用状況〕

F 事業部の IT サービスマネージャである J 氏は,本サービスの大口顧客である A 社の担当であり,A 社に月次で提供サービスの状況を報告している。ある月のサービス報告会で,“A 社の利用者の意見を吸い上げてほしい”との相談があったので,本サービス及び SD への問合せに対するアンケート調査を実施した。F 事業部は,これまで顧客に対してアンケート調査を実施していなかったので,H 社の他事業部が実施した新規サービスの顧客満足度調査を参考にした。

A 社に対して実施した顧客アンケート調査の結果(抜粋)を表1に示す。

項番・カテゴリ・利用者の意見の3列からなる表。項番1(本サービス):名刺の画像がデータ化され,スマートフォンで確認できるようになるまでの時間は,とても早くて便利である。項番2(本サービス):外国人の方の名刺画像を送信したら,顧客 DB に氏名が誤って登録されたので修正してもらった。項番3(本サービス):朝 9 時台と夕方 16 時直前に送信した名刺の画像については,スマートフォンで参照できるまでに 1 時間近くの時間が掛かる。項番4(SD):FAQ に記載のない特殊な材質の名刺の取込み手順について,SD に電子メールで質問したら 10 分で返信が来てすぐに解決することができた。項番5(SD):SD に電子メールで質問するときは,問題の状況を細かく記述しないと正確な回答が返ってこないので,少し面倒である。項番6(SD):SD に電子メールで質問したが,初回回答までの時間が長い。また,最終解決までに 1 週間以上も掛かった。
表1 A 社に対して実施した顧客アンケート調査の結果(抜粋)

J 氏は,顧客アンケート調査の結果を受けて,サービスの改善に取り組む必要があると考えた。そこで,表2に示す H 社の継続的サービス改善の手順に従って,サービスの改善を検討することにした。

手順と概要の2列からなる表。①改善の戦略の識別:(省略)。②測定対象の定義:現状どこにいるかのベースラインを決め,どこを目指すかの達成目標を評価できるように,何を測定すべきかの測定対象を決定する。③データの収集:データ収集のための手順を決定し,サーバのログや SD の対応履歴などの記録を参照し,効率的にデータを収集する。④データの処理:③で収集したデータを改善に役立てるために,サービス目標値や KPI がどの程度達成できたかが分かるように加工する。⑤情報とデータの分析:④の加工されたデータによって導出された情報を基に,改善すべき内容を分析する。サービス目標値や KPI の目標値を達成できていない場合,原因は何かなどを分析する。⑥情報の提示と利用:⑤の分析結果を取りまとめ,問題点と改善計画を上長に報告し,レビューする。⑦改善の実施:⑥のレビューの結果,必要と判断された場合に改善計画を実施する。注記として,手順は,ITIL 2011 edition の“7 ステップの改善プロセス”を参考にして H 社が作成したものである。
表2 H 社の継続的サービス改善の手順

〔SD の改善〕

J 氏は,表1項番 6 の SD の対応における,初回回答時間と最終解決時間の二つに着目した。

(1) 初回回答時間

J 氏は,表2の手順②の測定対象として,社内サービス目標値の達成状況を調査する必要があると考えた。そこで,表2の手順③に従って,SD の問合せに対するデータを収集することにした。J 氏は,10 月 1 日に,SD の対応履歴を入手し,A 社からの 9 月分の問合せと対応状況を表3にまとめた。

項番・受付日時・問合せ内容・初回回答日時(経過時間)・エスカレーション先・完了日時の6列からなる表。項番1:9/2(月)13:52,顧客 DB のデータ誤り,9/2(月)14:16(24 分),データ課,9/2(月)14:16。項番2:9/11(水)13:05,新規利用者登録の手順に関する質問,9/11(水)13:18(13 分),-,9/12(木)16:22。項番3:9/12(木)10:44,ネットワーク障害によるサービス利用不可,9/12(木)13:24(160 分),技術課,9/12(木)16:46。項番4:9/13(金)15:04,顧客 DB のデータ誤り,9/13(金)15:21(17 分),データ課,9/13(金)15:21。項番5:9/24(火)9:09,利用者設定の誤りの修正方法,9/24(火)9:30(21 分),-,対応中。項番6:9/25(水)16:01,名刺取込み手順に関する質問,9/25(水)16:14(13 分),-,9/27(金)11:21。項番7:9/26(木)18:10,PC とスキャナが接続できない,9/27(金)11:55(175 分),技術課,9/30(月)16:44。項番8:9/30(月)18:55,スマートフォンに専用アプリをインストールするときのエラー,-,-,受付。注1)経過時間とは,受付日時から初回回答までに掛かった時間である。利用者からの質問が SD の営業時間外の場合は,翌営業日の 9 時からの経過時間で表示している。ここで“-”印は,初回回答を行っていないことを表している。注2)エスカレーション先とは,SD では解決できない問合せに対して,段階的取扱いを行った解決の依頼先のことである。ここで“-”印は,段階的取扱いを行っていないことを表している。注3)完了日時欄で,“対応中”とは初回回答後から対応完了前までを示し,“受付”とは受付後から初回回答前までを示している。
表3 A 社からの 9 月分の問合せと対応状況

J 氏は,表2の手順④に従って,社内サービス目標値がどの程度達成できているかを調べたところ,表3の内容から,社内サービス目標値は達成していることを確認した。次に,表2の手順⑤に従って,SD への問合せに対する初回回答時間の状況を分析した。J 氏は,社内サービス目標値は達成していたものの,(ア)達成が危ぶまれた事象があることに注目した。そこで,表2の手順⑥に従って,初回回答に関する社内サービス目標値の達成を確実にするために,エスカレーション先に要請し,スキャナの障害かどうかを SD で切り分けて対応することができる手順書を整備するなどの改善策を策定した。さらに,改善策の実施によって見込むことができる改善効果を測定するための(イ)KPI を設定して運用する改善計画を策定した。

(2) 最終解決時間

J 氏は,他の月の SD の対応履歴も確認した。その結果,最終解決までに 1 週間を超えた場合に,再問合せやクレームが発生していることが分かった。そこで,J 氏は問合せの受付日から完了日までの期間を,受付日を含めて 5 営業日以内とする新たな目標を設定し,4 営業日を経過しても対応が完了しない問合せを“目標未達のおそれがある問合せ”として抽出し,5 営業日までに完了させる改善計画を策定した。具体的には,“毎日の営業終了時点で,受付日を含めた経過日数が 4 営業日目の問合せで,かつ,a の問合せ”を,“目標未達のおそれがある問合せ”の対象として抽出することにした。

それぞれの改善計画は,表2の手順⑥に従って F 事業部長のレビューを経て承認され,来月から実施されることになった。レビューの席上,F 事業部長から,“今回の SD の改善は,A 社に実施した顧客アンケートをきっかけとして取り組むことができた。今後も,定期的に現状を把握して表2の改善プロセスが回るよう,(ウ)必要な対策案を検討すること”との指示があった。

〔FAQ 掲載方法の改善〕

J 氏が,SD の担当者と打合せを行ったところ,“H 社の Web サイトに掲載している FAQ を見れば利用者自ら疑問を解決できるにもかかわらず,SD に問合せをする利用者が散見される”との意見が出された。J 氏が調査した結果,問合せの約 10%が FAQ に掲載している内容であることが分かった。

FAQ は,利用者が求めている情報を提供するために重要な役割を担っており,SD への問合せ件数を削減する効果も期待できる。そこで,J 氏は,FAQ の構成,掲載方法及び回答内容を見直すことによって,FAQ の検索性を高め,より多くの利用者が自ら疑問を解決できるよう改善を行った。また,(エ)KPI を設定して改善効果を測定することにした。

〔本サービスの改善〕

J 氏は,SD の改善の取組を参考に,本サービスの改善検討に着手した。

データ課では,午前中の作業量が多くなることを把握していた。これは,利用者からの名刺画像の送信数が午前中に多いことに加え,前営業日の夜間に送信されたものも処理する必要があるからである。データ課では,カタログ目標値を達成するために,数年前から午前中だけ要員を増強して運営し,目標値を全て達成してきた。しかし J 氏は,表1の結果から,カタログ目標値についても(オ)達成が危ぶまれる事象がないかどうか,(カ)データを分析しておく必要があると考えた。

出題趣旨(IPA)

ITサービスにおいて効果的なサービス改善に取り組むためには,データの収集と加工,分析を通して改善策を検討していくことが重要である。本問では,改善プロセスに沿って,データを収集し,データの加工などを通じて,社内サービス目標値やKPIの目標を達成できていない場合の原因を分析し,サービスとプロセスの改善方法を策定するまでの一連の実務能力を問う。

設問と解答例

設問1(1) 40字以内

本文中の下線(ア)について,サービス目標値の達成が危ぶまれた事象に共通する内容は何か。表3から判断して 40 字以内で述べよ。

解答例

  • エスカレーション先が技術課の場合,初回回答までの経過時間が長い。
解説

本文の根拠

冒頭

SD では,問合せに対する初回回答を 3 時間以内(SD の営業時間外となる場合は,翌営業日の 12 時まで)に返信することを社内サービス目標値として定めている。

表3 項番3

項番3:9/12(木)10:44,ネットワーク障害によるサービス利用不可,9/12(木)13:24(160 分),技術課,9/12(木)16:46。

表3 項番7

項番7:9/26(木)18:10,PC とスキャナが接続できない,9/27(金)11:55(175 分),技術課,9/30(月)16:44。

社内サービス目標値は3時間,つまり180分以内である。表3の経過時間を並べると,24分,13分,160分,17分,21分,13分,175分。

多くは20分前後で終わっているのに,160分と175分の2件だけが飛び抜けている。どちらも180分に迫っていて,あと少しで未達になるところだった。「達成が危ぶまれた事象」はこの2件を指す。

共通点を探すと,どちらもエスカレーション先が技術課である。同じくエスカレーションしていても,データ課の項番1は24分,項番4は17分で短い。問題は段階的取扱いそのものではなく,技術課に回した場合に限って長くなるところにある。

40字。解答例は「エスカレーション先が技術課の場合,初回回答までの経過時間が長い。」で31字。

採点講評(IPA)

設問1(1)は,社内サービス目標値の内容を正しく捉えられており,正答率が高かった。

設問1(2) 40字以内

本文中の下線(イ)で設定すべき KPI は何か。40 字以内で答えよ。ただし,サービス目標値は除くこと。

解答例

  • エスカレーション先の技術課に依頼することなく,対応完了となった問合せの割合
解説

本文の根拠

〔SD の改善〕

エスカレーション先に要請し,スキャナの障害かどうかを SD で切り分けて対応することができる手順書を整備するなどの改善策を策定した。

表2 手順④

④データの処理:③で収集したデータを改善に役立てるために,サービス目標値や KPI がどの程度達成できたかが分かるように加工する。

KPIは改善策が効いているかどうかを測る指標なので,まず改善策の中身を押さえる。「スキャナの障害かどうかをSDで切り分けて対応できる手順書を整備する」,つまり技術課へ回さずSDだけで片付けられる問合せを増やす取組である。

この取組が進んだかどうかは,技術課にエスカレーションせずに完了した問合せの割合で分かる。割合が上がれば手順書が使われている。

初回回答時間そのものを指標にしたくなるが,それは社内サービス目標値であり,設問が「サービス目標値は除く」と断っている。目標の値ではなく,その目標を達成するための活動が回っているかを測るのがKPIである。

40字。解答例は「エスカレーション先の技術課に依頼することなく,対応完了となった問合せの割合」で36字。

採点講評(IPA)

設問1(2)及び設問2ではKPIを求めたが,正答率は低かった。“目標を達成するための活動が適切に実施されていることを表す指標”を設定し,継続的改善を推進してほしい。

設問1(3) 20字以内

本文中の a に入れる内容を,表3中の字句を用いて 20 字以内で答えよ。

解答例

  • 完了日時欄が“受付”又は“対応中”
解説

本文の根拠

〔SD の改善〕

毎日の営業終了時点で,受付日を含めた経過日数が 4 営業日目の問合せで,かつ,

表3 注3

完了日時欄で,“対応中”とは初回回答後から対応完了前までを示し,“受付”とは受付後から初回回答前までを示している。

抽出したいのは「まだ終わっていない問合せ」である。表3の完了日時欄に入りうる値を確かめると,完了した日時か,“対応中”か,“受付”の3種類である。

終わっていないのは“対応中”と“受付”の両方である。“受付”は初回回答すらまだの状態なので,むしろこちらのほうが危うい。片方だけ書くと,項番8のような問合せが抽出から漏れる。

設問が「表3中の字句を用いて」と指定しているので,“受付”“対応中”という語をそのまま使う。

20字。解答例は「完了日時欄が“受付”又は“対応中”」で18字。

採点講評(IPA)

設問1(3)は,完了日時欄が“対応中”とだけ記載する誤った解答が多かった。本文から条件を確実に抽出してほしかった。

設問1(4) 20字以内

本文中の下線(ウ)で実施すべき対策案の内容を,20 字以内で答えよ。ただし,KPI に関する内容は除くこと。

解答例

  • 定期的な顧客アンケート調査の実施
解説

本文の根拠

〔SD の改善〕

今回の SD の改善は,A 社に実施した顧客アンケートをきっかけとして取り組むことができた。今後も,定期的に現状を把握して表2の改善プロセスが回るよう

〔サービスの利用状況〕

F 事業部は,これまで顧客に対してアンケート調査を実施していなかったので

部長の言葉の中に答えが入っている。「顧客アンケートをきっかけとして取り組むことができた」「今後も,定期的に現状を把握して」の2つである。

F事業部はこれまでアンケートを実施しておらず,今回もA社からの相談があって1回だけ行ったにすぎない。きっかけが偶然のままでは,改善プロセスは次に回らない。

だから,そのきっかけを定期的に作る。アンケートを定期的に実施する,というのが対策案になる。

20字。解答例は「定期的な顧客アンケート調査の実施」で16字。「定期的」を落とすと,今回と同じ一度きりの話になってしまう。

設問2 40字以内

〔FAQ 掲載方法の改善〕について,本文中の下線(エ)で設定した KPI は,どのような内容と考えられるか。40 字以内で答えよ。

解答例

  • SDへの問合せ総件数に占めるFAQに掲載されている問合せ件数の割合の減少率
解説

本文の根拠

〔FAQ 掲載方法の改善〕

J 氏が調査した結果,問合せの約 10%が FAQ に掲載している内容であることが分かった。

〔FAQ 掲載方法の改善〕

FAQ の構成,掲載方法及び回答内容を見直すことによって,FAQ の検索性を高め,より多くの利用者が自ら疑問を解決できるよう改善を行った。

改善前の状態が「問合せの約10%がFAQに掲載している内容」と数字で押さえてある。これがベースラインになるので,同じものさしで測ればよい。

FAQの検索性が上がれば,FAQを見れば済むのにSDへ聞いてしまう人が減る。つまりこの10%が下がる。KPIは,SDへの問合せ総件数に占めるFAQ掲載内容の件数の割合であり,その減り具合を見る。

問合せの総件数だけを指標にすると,利用者が増えれば件数も増えるので,改善したかどうかが分からなくなる。割合で見るのはこのためである。

40字。解答例は「SDへの問合せ総件数に占めるFAQに掲載されている問合せ件数の割合の減少率」で37字。

設問3(1)

本文中の下線(オ)について,J 氏が,“達成が危ぶまれる事象の有無を確認する必要がある”と考えたきっかけとなった利用者の意見を選び,表1の項番で答えよ。

解答例

  • 3
解説

本文の根拠

冒頭

平日 9:00〜16:00 に送信された名刺の画像情報について,送信後 60 分以内で顧客 DB に登録すると案内している。

表1 項番3

項番3(本サービス):朝 9 時台と夕方 16 時直前に送信した名刺の画像については,スマートフォンで参照できるまでに 1 時間近くの時間が掛かる。

カタログ目標値は「送信後60分以内」である。表1の本サービスに関する意見を,この60分と突き合わせる。

項番1は「とても早くて便利」で,目標に対して余裕がある。項番2は氏名の誤登録の話で,時間とは関係がない。

項番3だけが「1時間近く」と言っている。まだ60分を超えてはいないが,あと少しで超える。しかも朝9時台と夕方16時直前という特定の時間帯に偏っている。これが「達成が危ぶまれる事象」に当たる。

設問3(2) 40字以内

本文中の下線(カ)について,データの分析によって把握すべき情報は何か。40 字以内で答えよ。

解答例

  • 名刺画像の送信から顧客DBに登録されるまでの時間帯別の平均待ち時間
解説

本文の根拠

表1 項番3

朝 9 時台と夕方 16 時直前に送信した名刺の画像については,スマートフォンで参照できるまでに 1 時間近くの時間が掛かる。

冒頭

送信後 60 分以内で顧客 DB に登録すると案内している

〔本サービスの改善〕

データ課では,カタログ目標値を達成するために,数年前から午前中だけ要員を増強して運営し,目標値を全て達成してきた。

測る区間は,カタログ目標値がそのまま決めている。名刺画像の送信から顧客DBへの登録までである。

問題は分け方のほうにある。利用者の声は「朝9時台」「夕方16時直前」と特定の時間帯に偏っている。1日の平均で見ると,多くの時間帯が速いので薄まってしまい,この2つの山が消える。だから時間帯ごとに分けて平均を出す。

データ課が把握していたのは「午前中の作業量が多い」ことまでで,午前中に要員を増やす対策もそこから出ている。だが夕方16時直前は午前中ではない。件数の多い時間帯と,待ち時間が長い時間帯が一致していない可能性がある,というのがこの分析の狙いである。

40字。解答例は「名刺画像の送信から顧客DBに登録されるまでの時間帯別の平均待ち時間」で33字。「9時台の件数」のように件数だけを数えても,待たされているかどうかは分からない。

採点講評(IPA)

設問3(2)は,正答率が低かった。“9時台の件数”など全体の傾向を分析できない誤った解答が多かった。データの分析によって把握すべき情報について解答してほしかった。

出典:令和元年度 秋期 ITサービスマネージャ試験 午後Ⅰ 問1(表記を一部改変)

問2 アプリケーションソフトウェアの変更管理と構成管理

アプリケーションソフトウェアの変更管理と構成管理に関する次の記述を読んで,設問1〜3に答えよ。

P 社は,従業員約 500 人の玩具メーカであり,玩具の製造,販売を行っている。P 社では,従業員に 1 台ずつ貸与された PC で,表計算ソフトウェアや文書作成ソフトウェア(以下,これらを OA ソフトという)と社内業務用のアプリケーションソフトウェア(以下,社内ソフトという)を利用することができる。

P 社の情報システム部の主な業務を図1に示す。

枠内に箇条書きで業務が並ぶ。社内ソフトを含む社内システムの開発と保守。社内ソフトや社内ポータルサイトで使用するサーバの運用。問題管理,変更管理,構成管理などの IT サービスマネジメント。サーバや PC などのハードウェア及びライセンス管理を含むソフトウェアの資産管理。注1)社内ポータルサイトには,社内広報,会議室予約,社内システムのメンテナンス情報,OA ソフト・社内ソフトの FAQ などが掲載され,従業員が利用する。注2)PC を購入したときに,会社名及び PC 管理番号が記載された備品シールを PC に貼付する。また,PC には一意に割り当てられた PC 管理番号が登録されている。
図1 情報システム部の主な業務

P 社は,今年度の全社方針として,業務の効率化を進めるために,定型的な業務を自動化するロボティック・プロセス・オートメーションのソフトウェアツール(以下,RPA ツールという)を導入することを決定した。

RPA ツールは従業員の PC で稼働し,決められた手順に従って自動的に従業員の操作と同様に OA ソフト・社内ソフトの処理をすることができる。RPA ツールの導入によって,作業時間の短縮や人為的なミス防止の効果が期待できる。RPA ツールの使用に当たって,自動化の対象とする業務の一連の操作手順と動作条件(以下,シナリオという)を作成する。シナリオを実行することによって,RPA ツールで自動的に業務の操作をすることが可能になる。

〔RPA ツールの導入〕

P 社の情報システム部が,RPA ツールの導入を推進することになり,IT サービスマネージャの S 氏が責任者に選任された。

S 氏は,P 社の業務を調査し,RPA ツールの導入で効率向上が期待できる業務を自動化対象の業務として選定した。自動化対象の業務の例は,次のとおりである。

S 氏の考えた導入計画は,次のとおりである。

S 氏は,P 社の変更管理プロセスに従って変更審査会を開催した。S 氏の考えた導入計画は,変更審査会で承認され,第 1 段階を実施することになった。

なお,変更審査会での指示事項は,次のとおりである。

S 氏は販売部に対して説明会を開催した。説明会の主な内容は,次のとおりである。

説明会後,出席者の 40 人にアンケート調査したところ,出席者の 50%から RPA ツールを使って業務の効率向上が期待できるとの反響があった。S 氏は,変更審査会の指示事項に従って,第 1 段階の利用者数の目標を 20 人と計画した。

RPA ツールでシナリオを実行すると,PC 管理番号,RPA ツール版番号,シナリオ名,シナリオ実行日時が RPA ツールのログとして出力される。RPA ツールのログは,シナリオを実行した PC のログ保存先フォルダに格納される。情報システム部は,PC 管理サーバを使って全従業員の PC を管理している。PC 管理サーバは,PC のログ保存先フォルダに格納されている OS のログ情報と RPA ツールのログを収集している。OS のログ情報と RPA ツールのログは,PC 管理サーバへ送信される。

〔PC の構成管理〕

情報システム部は,従業員が利用する PC の構成情報を PC 管理サーバで稼働する構成管理データベース(以下,CMDB という)に登録している。CMDB は,PC 管理サーバで稼働するプログラムで更新される。PC には,エージェントプログラムが導入されている。エージェントプログラムは,PC から構成情報の管理に必要な情報を収集する。CMDB で管理している構成情報を表1に示す。

項番・情報種別・構成情報の3列からなる表。項番1(PC):PC 管理番号,MAC アドレス,従業員番号。項番2(OS):OS 名,版番号,適用されているパッチ情報。項番3(OA ソフト):OA ソフト名,版番号,適用されているパッチ情報,導入日,削除日。項番4(社内ソフト):社内ソフト名,版番号,適用されているパッチ情報,導入日,削除日。注記1として,項番 3 及び項番 4 は,導入実績のあるソフトウェアの数だけ存在する。また,ソフトウェアを PC に導入すると,導入日が構成情報の一部として記録され,削除した場合は,削除日が記録される。再度,当該ソフトウェアを PC に導入した場合は,最新の導入日が上書きされ,削除日の情報は削除される。注記2として,RPA ツールは,社内ソフトとして扱われ,社内ソフト名に RPA ツールの名称が登録される。注1)従業員に対して一意に割り当てられた 5 桁の数字。
表1 構成情報

表1の情報種別が PC の構成情報のうち,PC 管理番号は,PC の購入時に CMDB に登録され,従業員番号は,従業員に PC を貸与するときに CMDB に登録される。CMDB の構成情報の更新処理は,次の手順で実施される。

〔PC の構成監査〕

情報システム部は毎月,従業員の PC に対する構成監査を実施している。表1の情報種別が PC の構成情報については,PC に貼付された備品シールと(ア)CMDB に登録されている構成情報とを照合して棚卸しを行う。

表1の情報種別が PC 以外の構成情報については,CMDB に登録されている版番号,適用されているパッチ情報と,情報システム部が調査して作成している最新のソフトウェア情報一覧とを照合し,適切であるかどうかを判定する。

S 氏は,RPA ツールの導入に向けて,RPA ツールのライセンス購入数の棚卸しも必要と考えた。そこで,構成監査として(イ)新たなチェック作業を追加した。

〔RPA ツールの導入後レビューと改善の実施〕

S 氏は,全部署への RPA ツールの導入に備え,販売部を対象に RPA ツールの第 1 段階導入後レビューを行うことにした。

S 氏は,CMDB の構成情報と販売部の各 PC から収集した RPA ツールのログを基に,販売部の RPA ツールの導入状況と利用状況を調査した。S 氏が調査した結果を表2に示す。

単位は人。導入状況を行,利用状況(あり・なし)を列とする集計表。導入済み:あり 22,なし 10。未導入:あり 0,なし 8。注1)CMDB に RPA ツールの構成情報が存在する場合,“導入済み”に計上する。注2)PC から収集した RPA ツールのログが存在する場合,“あり”に計上する。
表2 RPA ツールの導入状況と利用状況

S 氏は,(ウ)RPA ツールの利用が計画どおりに進んでいると考えた。S 氏は,導入後レビューの結果,RPA ツールの利用に関する研修を定期的に開催し,RPA ツールの利用方法を習得してもらうことにした。

出題趣旨(IPA)

ITサービスマネジメントの構成管理活動では,ライセンスを含めたソフトウェア資産の管理が重要になる。本問では,RPAツールを新規に導入する際のソフトウェアの変更管理やPCの構成管理を題材に,サービスマネージャとしての変更管理及び構成管理能力を問う。

設問と解答例

設問1 35字以内

〔PC の構成管理〕の表1を使って,PC に導入され,現在利用可能な RPA ツールの数を調査することができる。社内ソフト名が RPA ツールの名称である構成情報を使って実施する具体的な調査方法について,35 字以内で述べよ。

解答例

  • 導入日が記録され,かつ,削除日が記録されていない件数を調べる。
解説

本文の根拠

表1 注記1

ソフトウェアを PC に導入すると,導入日が構成情報の一部として記録され,削除した場合は,削除日が記録される。再度,当該ソフトウェアを PC に導入した場合は,最新の導入日が上書きされ,削除日の情報は削除される。

表1 注記1

項番 3 及び項番 4 は,導入実績のあるソフトウェアの数だけ存在する。

〔RPA ツールの導入〕

RPA ツールの利用が不要になった利用者は,各自で RPA ツールを削除する。

構成情報は「導入実績のある」ソフトウェアの数だけ存在する。つまり削除しても構成情報そのものは消えずに残る。社内ソフト名がRPAツールの構成情報を数えるだけでは,すでに削除した人のぶんまで含まれてしまう。本文にも「利用が不要になった利用者は,各自でRPAツールを削除する」とあり,削除する人は実際に出る。

入っているかどうかを分けるのは削除日である。削除すれば削除日が記録され,入れ直せば削除日の情報が消えて導入日が上書きされる。つまり削除日が空かどうかが,いま入っているかどうかを表す。

35字。解答例は「導入日が記録され,かつ,削除日が記録されていない件数を調べる。」で30字。削除日に触れないと,過去に一度でも入れた人の数になってしまう。

採点講評(IPA)

設問1は,構成情報を用いた調査方法として,構成情報の記録方法を理解して解答してほしかった。削除日を意識できていない誤った解答が多かった。

設問2(1) 10字以内

本文中の下線(ア)で行う棚卸しに必要な構成情報を 10 字以内で答えよ。

解答例

  • PC管理番号
解説

本文の根拠

図1 注2

PC を購入したときに,会社名及び PC 管理番号が記載された備品シールを PC に貼付する。

表1 項番1

項番1(PC):PC 管理番号,MAC アドレス,従業員番号。

棚卸しは,PCに貼ってある備品シールとCMDBを突き合わせる作業である。だから答えは,シール側にも書かれているものに限られる。

シールに記載されているのは会社名とPC管理番号だけ。一方CMDBの情報種別がPCの構成情報には,PC管理番号・MACアドレス・従業員番号がある。両方にあるのはPC管理番号だけなので,これが照合の鍵になる。

MACアドレスも従業員番号も,シールを見ただけでは分からない。現物と突き合わせられない項目は棚卸しに使えない。

10字。解答例は「PC管理番号」で6字。

採点講評(IPA)

設問2(1)は,正答率が高かった。棚卸しに必要な構成情報については理解されているようであった。

設問2(2) 40字以内

本文中の下線(イ)について,S 氏が追加したチェック作業の内容を 40 字以内で述べよ。

解答例

  • 現在利用可能なRPAツール登録数がライセンス購入数以内であることを確認する。
解説

本文の根拠

〔RPA ツールの導入〕

RPA ツールは PC ごとにライセンスが必要である。第 1 段階で必要となる数のライセンスを購入する。

〔RPA ツールの導入〕

RPA ツールを利用する場合は,P 社のファイルサーバから,販売部の従業員自ら RPA ツールをダウンロードして,PC に RPA ツールを導入する。

〔PC の構成監査〕

S 氏は,RPA ツールの導入に向けて,RPA ツールのライセンス購入数の棚卸しも必要と考えた。

ライセンスはPCごとに必要で,購入したのは第1段階に必要な数だけである。ところが導入するのは従業員自身で,ファイルサーバからダウンロードして各自で入れる。情報システム部が途中で数を止める仕組みがない。

つまり,購入したライセンス数を超えてRPAツールが入る可能性がある。放っておくとライセンス違反になる。

そこで,設問1で求めた「現在利用可能なRPAツールの数」と,購入したライセンス数を突き合わせる作業を構成監査に足す。数えるものが「現在利用可能な数」であることが,設問1とつながっている。

40字。解答例は「現在利用可能なRPAツール登録数がライセンス購入数以内であることを確認する。」で37字。ライセンス購入数と比べるところまで書かないと,何を確かめたのかが言えていない。

採点講評(IPA)

設問2(2)は,ライセンス購入数に関わる構成監査のチェック内容として,ライセンス数を意識できていない誤った解答が多かった。ライセンス管理について,しっかり認識してほしい。

設問3(1)(a) 40字以内

表2の調査後,各 PC の RPA ツールとポータル掲載シナリオが継続的に利用されていることを確認するために,RPA ツールのログを使って調査する。必要となる RPA ツールのログの調査項目を全て挙げ,40 字以内で答えよ。

解答例

  • PC管理番号,シナリオ名,シナリオ実行日時
解説

本文の根拠

〔RPA ツールの導入〕

RPA ツールでシナリオを実行すると,PC 管理番号,RPA ツール版番号,シナリオ名,シナリオ実行日時が RPA ツールのログとして出力される。

ログに出るのは4項目である。PC管理番号,RPAツール版番号,シナリオ名,シナリオ実行日時。この中から必要なものを選ぶ。

確認したいのは「各PCのRPAツールとポータル掲載シナリオが継続的に利用されていること」なので,3つに分解できる。

各PCの,に当たるのがPC管理番号。ポータル掲載シナリオかどうかを見るのがシナリオ名。継続的かどうかを見るのがシナリオ実行日時。

残るRPAツール版番号は,どの版が動いたかを示すだけで,使われ続けているかどうかには関わらない。設問が「全て挙げ」と言っているので,要るものは漏らさず,要らないものは入れない。

40字。解答例は「PC管理番号,シナリオ名,シナリオ実行日時」で21字。

採点講評(IPA)

設問3(1)(b)のポータル掲載シナリオの活用には,ログの分析が必要であるが,ログの出力だけを指摘する誤った解答が多かった。

設問3(1)(b) 40字以内

ポータル掲載シナリオが幅広く有効活用されていることを測定するために,RPA ツールのログから調査すべき内容を 40 字以内で述べよ。

解答例

  • ポータル掲載シナリオごとに,PC管理番号の数,シナリオ実行日時を調べる。
解説

本文の根拠

〔RPA ツールの導入〕

情報システム部の従業員が,シナリオの作成を行う。作成したシナリオは社内ポータルサイトに掲載する。

〔RPA ツールの導入〕

PC 管理番号,RPA ツール版番号,シナリオ名,シナリオ実行日時が RPA ツールのログとして出力される。

「幅広く有効活用されている」を2つに分けて考える。

幅広く,は何人が使っているかである。シナリオごとに,実行したPC管理番号が何種類あるかを数えれば分かる。

有効活用,は使い続けられているかである。シナリオ実行日時を見る。

大事なのは,シナリオごとに集計する点である。全体の実行回数だけを数えると,1つのシナリオを1人が何度も回している場合と,多くのシナリオが多くの人に使われている場合を区別できない。誰にも使われていないシナリオが埋もれてしまう。

40字。解答例は「ポータル掲載シナリオごとに,PC管理番号の数,シナリオ実行日時を調べる。」で35字。ログを出力する,では調べたことにならない。出ているログをどう束ねるかまで書く。

採点講評(IPA)

設問3(1)(b)のポータル掲載シナリオの活用には,ログの分析が必要であるが,ログの出力だけを指摘する誤った解答が多かった。

設問3(2) 40字以内

本文中の下線(ウ)について,S 氏が計画どおりと考えた理由を,表2の結果と利用者数の目標とを比較して 40 字以内で述べよ。

解答例

  • RPAツール利用者の実績は22人で,利用者目標の20人を達成しているから
解説

本文の根拠

〔RPA ツールの導入〕

S 氏は,変更審査会の指示事項に従って,第 1 段階の利用者数の目標を 20 人と計画した。

表2

導入済み:あり 22,なし 10。未導入:あり 0,なし 8。

表2 注2

PC から収集した RPA ツールのログが存在する場合,“あり”に計上する。

目標は「利用者数20人」であって,導入した人数ではない。表2のどこを読むかがここで決まる。

利用状況が「あり」なのは,導入済みの22人と未導入の0人で,合わせて22人である。注2のとおり,実際にRPAツールのログが残っている人だけが「あり」に入るので,これが使っている人の数になる。

22人は目標の20人を上回っているので,計画どおりと言える。

導入済みは22+10で32人いるが,そのうち10人はログが無く,入れただけで使っていない。導入数で見ると達成しているように見えて実態を取り違える。

40字。解答例は「RPAツール利用者の実績は22人で,利用者目標の20人を達成しているから」で35字。実績と目標の両方の数字を入れる。

採点講評(IPA)

設問3(2)は,正答率が高かった。具体的な利用者目標と具体的な利用者の実績については理解されているようであった。

出典:令和元年度 秋期 ITサービスマネージャ試験 午後Ⅰ 問2(表記を一部改変)

問3 ヒューマンエラーに起因する障害管理

ヒューマンエラーに起因する障害管理に関する次の記述を読んで,設問1〜3に答えよ。

IT サービス会社の X 社は,自社のデータセンタを使ってクラウドサービスを提供している。X 社のサービス運用部は,クラウドサービスを運用するとともに,クラウドサービスで稼働する数十社の顧客のシステムを対象として,24 時間 365 日のシステム運用監視サービスを提供している。

サービス運用部は,サービス全体の管理を担当するサービスグループ,システムの運用監視を担当するオペレータグループなどで編成されている。オペレータグループはチーム a からチーム e までの 5 チームで構成されている。各チームは,チームリーダと数名のオペレータで構成され,それぞれ数社の顧客のシステムを運用している。

X 社では,サービスに対する計画外の中断や,顧客へのサービスに影響のあるサービス品質の低下事象をインシデントと定義している。最近はヒューマンエラーに起因するインシデントが多発しており,ヒューマンエラーへの対策がサービス運用部の課題となっている。

〔チーム b で発生したインシデント〕

X 社の顧客である Z 社は,X 社の提供するクラウドサービスを使って,スケジュールやファイル共有を行う Z 社のアプリケーションソフトウェアを,24 時間 365 日稼働させている。当該アプリケーションソフトウェアは,サーバ#1 とサーバ#2 の 2 台に配置されており,少なくともどちらか 1 台のサーバで稼働させておく必要がある。Z 社を担当するチーム b では,サーバにセキュリティパッチを適用する必要などから,オペレータが 2 台のサーバを月次で再起動する作業(以下,再起動作業という)を行う。再起動作業はオペレータ 1 名によって実施される。

10 月 19 日にチーム b のオペレータが再起動作業を実施したところ,2 台のサーバが,数分間,同時に停止するというインシデントが発生した。再起動作業の手順と 10 月 19 日のオペレータの作業内容を表1に示す。

項番・再起動作業の手順・10 月 19 日のオペレータの作業内容の3列からなる表。項番1:オペレータはサーバ#1(サーバ名:S101)の再起動作業を開始する。(22 時 00 分)オペレータは,S101 の再起動コマンドを選択し,実行キーを押下した。項番2:オペレータは,サーバ#1 の再起動が開始したことを確認する。(22 時 01 分)オペレータは,コンソール画面に表示された“S101 は再起動しています”のメッセージを確認した。項番3:再起動は通常 5 分以内に完了するので,オペレータは,項番 2 の実施から 5 分待機する。(22 時 01 分)オペレータは,5 分待機した。項番4:サーバ#1 の再起動が完了し,起動済みであることを確認する。具体的には,運用監視画面でサーバ#1 が“正常”と表示されていることを確認する。確認できた場合は,項番 5 を実施する。確認できなかった場合は,1 分間隔で当該確認作業を 5 回繰り返して,起動済みかどうかを確認する。確認できない場合は,項番 5 以降の作業は中止する。(22 時 06 分)オペレータは,運用監視画面を確認し,“S101 が正常”と表示されていると判断した。(補足)運用監視画面には“S102 が正常”と表示されていたにもかかわらず,オペレータは“S101 が正常”と錯覚した。実際は,S101 は再起動中であり,再起動が完了したのは 22 時 08 分であった。項番5:オペレータはサーバ#2(サーバ名:S102)の再起動作業を開始する。(22 時 06 分)オペレータは,S102 の再起動コマンドを選択し,実行キーを押下した。項番6:項番 2〜4 と同様の作業をサーバ#2 に実施する。なお,項番 4 に該当する作業で,サーバ#2 の起動済みを確認できた場合は,項番 7 を実施する。オペレータは,正しく作業した(詳細は省略)。項番7:オペレータは,全ての作業内容を作業ログで確認し,作業結果をチームリーダに報告する。オペレータは,作業ログを確認したところ,サーバ#1 の再起動完了前にサーバ#2 の再起動を実施し,22 時 06 分から 22 時 08 分までの間,サーバが 2 台とも停止している状態のインシデントが発生していたことに気づき,チームリーダに報告した。注1)コマンドとは,サーバが実行する一連の処理を連続して実行できるようにあらかじめ記述された実行ファイルのことである。オペレータが実施するコマンドは,“コマンド選択画面を呼び出して表示されたコマンド一覧から対象のコマンドを選択すること”で実行される。注2)運用監視画面では,正常稼働中のサーバ,停止中のサーバなどが一覧で表示される。オペレータは運用監視画面の表示を目視で確認し,サーバの稼働状態を判断することができる。注3)後日になって,サーバの再起動に 5 分以上掛かっていたのは,サーバの再起動中に適用されるセキュリティパッチの件数が通常よりも多かったからと,判明した。注4)オペレータは運用監視の機能を使用し,過去のコマンド実行内容や表示内容を,作業ログとして確認することができる。
表1 再起動作業の手順と 10 月 19 日のオペレータの作業内容

後日,サービスグループで問題管理を担当している IT サービスマネージャの Y 氏は,チーム b のチームリーダと協力して,インシデント発生の原因を分析した。分析の結果,表1の項番 4 における“オペレータの錯覚によるヒューマンエラー”が原因との結論から,次の再発防止策を検討した。

方策①:二つのサーバ名を間違えにくい名称に変更する。

方策②:表1の項番 4 で運用監視画面を確認する前に,コンソール画面で“再起動が完了しました”というメッセージを確認する作業手順を追加する。

方策③:[ ア ]

Y 氏は,方策①は対象サーバ数が多く作業量が多くなることから,リスクが高いと判断し,方策②及び方策③を実施することにした。

〔ヒューマンエラーの状況〕

Y 氏は,今回のインシデントがヒューマンエラーに起因することから,過去のヒューマンエラーの状況を調査した。その結果,システムの運用監視業務において,インシデントの扱いとなっていない事象(以下,ヒヤリハットという)も含めると,ヒューマンエラーが多い実態が分かった。表2は,2018 年度に発生したチーム別の,ヒューマンエラーによるインシデント及びヒューマンエラーによるヒヤリハット(以下,これらをヒューマンエラー事象という)の集計表である。

チーム名称ごとに,インシデント(重大・通常・合計)(件数),ヒヤリハット(危険・軽微・合計)(件数),チーム稼働率(%)を示す集計表。チーム a:0,8,8,27,59,86,70。チーム b:1,2,3,15,29,44,65。チーム c:0,5,5,5,33,38,45。チーム d:0,3,3,0,22,22,40。チーム e:0,1,1,3,7,10,30。全チーム合計:1,19,20,50,150,200,-。全チーム平均:0.2,3.8,4.0,10.0,30.0,40.0,50。注1)インシデントは,顧客業務への影響度合いに応じて重大と通常に分類している。注2)ヒヤリハットは,顧客業務又はシステムの運用監視業務に影響を与える可能性があった作業の場合は危険,そのほかの場合は軽微と分類している。注3)チーム稼働率は,就業時間に占める顧客対応作業に充てられる時間の割合を表し,“臨時の作業依頼対応,インシデント対応などの顧客対応作業の合計時間”を就業時間の合計で割って計算される値である。
表2 チーム別のヒューマンエラー事象の集計表

表2に示すチーム稼働率は,各チームが担当する顧客に依存している。チーム稼働率が全チーム平均よりも高いチームには,次の共通の特徴がある。

Y 氏は,表2の状況をサービス運用部長に報告した。サービス運用部は,2018 年度に発生したヒューマンエラー事象の合計件数の半減を目指した改善活動を行うことにした。

〔ヒューマンエラー事象の原因分類〕

サービス運用部では,ヒューマンエラー事象の原因を 9 種類に分類している。分類は,図1のとおりである。

枠内に9種類の原因とその説明が並ぶ。①不慣れ:経験が少ない,習熟していないこと。②慣れ:自分の知識を過信して気をゆるめること。③不注意:注意が散漫な状態で作業を行うこと。④近道:動作・行動の簡素化を行うこと。⑤パニック:警告音などに驚き慌てて作業を行うこと。⑥錯覚:見間違い,聞き違い,思い違いなど。⑦疲労:高い稼働率の状況などによる身体的疲労のこと。⑧意識低下:単調な動作の繰返しなどによる意識の低下のこと。⑨その他:①〜⑧以外の原因。
図1 サービス運用部で分類するヒューマンエラー事象の原因

Y 氏は,表2のヒューマンエラー事象を,図1を用いて分類した。Y 氏が,チーム別原因別に集計した結果を表3に示す。

単位は件数。チーム名称ごとに,ヒューマンエラー事象の原因(①不慣れ,②慣れ,③不注意,④近道,⑤パニック,⑥錯覚,⑦疲労,⑧意識低下,⑨その他)と合計を示す集計表。チーム a:19,25,18,11,5,10,1,2,3,合計 94。チーム b:12,16,10,1,2,6,0,0,0,合計 47。チーム c:8,10,5,2,4,3,4,4,3,合計 43。チーム d:5,11,2,1,0,6,0,0,0,合計 25。チーム e:2,5,3,1,0,0,0,0,0,合計 11。合計:46,67,38,16,11,25,5,6,6,総合計 220。
表3 チーム別原因別のヒューマンエラー事象の集計表

〔パレート図の作成による分析〕

Y 氏は,ヒューマンエラー事象の削減に向けて,ヒューマンエラー事象の原因に着目し,パレート図を用いて分析することによって,改善すべき対象を特定することにした。そこで,図2に示す X 社で規定されているパレート図の作成手順に従って,表3を基に作業を進めた。

枠内に手順が並ぶ。(i)データの分類項目を決定する。(ii)期間を定め,データを収集する。(iii)分類項目ごとにデータ数の合計を求める。(iv)データ数の合計が大きい順に項目を並べて,棒グラフにする。(v)データ数の合計の累積を求め,全体のデータ数に対する百分率を計算し,累積比率(%)とする。(vi)累積比率(%)を折れ線グラフにする。注記として,手順は,JIS Q 9024:2003(マネジメントシステムのパフォーマンス改善―継続的改善の手順及び技法の指針)の細分箇条 7.1.2 パレート図を参考にして,X 社が作成したものである。注1)累積比率(%)は,パーセント(%)で求めた値の小数第 1 位を四捨五入するものとする。
図2 パレート図作成手順

Y 氏は,図2の手順(v)の累積比率(%)が,(あ)80%となるまでの分類項目を重要なものとして特定し,これらを対象に改善を行うことにした。

出題趣旨(IPA)

サービスマネジメントの問題管理プロセスでは,根本原因を特定するために,インシデントのデータを分析する。また,潜在的な予防処置を特定するために,インシデントのデータの傾向を分析して,インシデントの再発を防ぐ必要がある。本問では,ヒューマンエラーに起因する障害管理の事例を題材にして,問題の恒久的な解決及び改善すべき課題を確認し,問題解決に必要な能力を問う。

設問と解答例

設問1 40字以内

〔チーム b で発生したインシデント〕について,本文中の [ ア ] に入れる内容として,チームの特性を生かして実施できる再発防止策を 40 字以内で述べよ。

解答例

  • 項番4で“S101が正常”と表示されていることを複数のオペレータが確認する。
解説

本文の根拠

冒頭

各チームは,チームリーダと数名のオペレータで構成され,それぞれ数社の顧客のシステムを運用している。

〔チーム b で発生したインシデント〕

再起動作業はオペレータ 1 名によって実施される。

表1 項番4

運用監視画面には“S102 が正常”と表示されていたにもかかわらず,オペレータは“S101 が正常”と錯覚した。

起きたのは見間違いである。作業をしていたのは1名だけなので,間違いに気づく人が誰もいなかった。

設問が言う「チームの特性」は,チームがチームリーダと数名のオペレータで成り立っていることである。つまり人が他にもいる。

そこで,項番4の確認だけは1人に任せず,複数のオペレータで見る。方策①は対象サーバ数が多くて作業量が増えるため見送られ,方策②は手順を足す策なので,方策③はチームという体制のほうを使う策になる。

40字。解答例は「項番4で“S101が正常”と表示されていることを複数のオペレータが確認する。」で37字。どの手順を,誰が,というところまで書く。

採点講評(IPA)

設問1は,正答率が高かった。設問にある“チームの特性を生かして”という前提は,正しく理解されているようであった。

設問2(1) 30字以内

本文中の [ イ ] には,表2の集計表から判断できる特徴が入る。特徴として全チーム平均と比較した内容を 30 字以内で述べよ。

解答例

  • ヒヤリハットの合計件数が全チーム平均より多い。
解説

本文の根拠

表2

チーム a:0,8,8,27,59,86,70。チーム b:1,2,3,15,29,44,65。

表2

全チーム平均:0.2,3.8,4.0,10.0,30.0,40.0,50。

表2 注3

チーム稼働率は,就業時間に占める顧客対応作業に充てられる時間の割合を表し

まず対象のチームを絞る。チーム稼働率が全チーム平均の50%を超えるのは,チームa(70%)とチームb(65%)の2つである。

次に,この2チームに共通し,かつ平均を上回っている数字を表2から探す。ヒヤリハットの合計はaが86,bが44で,どちらも平均の40.0を上回る。他のチームはc38,d22,e10でいずれも平均以下なので,稼働率の高い2チームだけの特徴になっている。

インシデントの合計で見るとaは8で平均4.0を上回るが,bは3で下回るため共通しない。ヒヤリハットの合計が答えになる。

30字。解答例は「ヒヤリハットの合計件数が全チーム平均より多い。」で23字。

「臨時の作業依頼が多い」はすでに1つ目に書かれている稼働率が高くなる原因なので,2つ目に同じ種類のことを書いてはいけない。設問が求めているのは,稼働率が高いことの結果として表2に現れている特徴である。

採点講評(IPA)

設問2(1)は,チーム稼働率が高いことによる特徴ではなく,チーム稼働率が高くなる原因を述べた誤った解答が多かった。

設問2(2) 30字以内

表2中で,インシデント件数が多い上位 2 チームに共通して見られる,全チーム平均と比較した特徴的なヒヤリハットの発生傾向を 30 字以内で述べよ。

解答例

  • 軽微のヒヤリハット発生件数が全チーム平均より多い。
解説

本文の根拠

表2

チーム c:0,5,5,5,33,38,45。

表2 注2

ヒヤリハットは,顧客業務又はシステムの運用監視業務に影響を与える可能性があった作業の場合は危険,そのほかの場合は軽微と分類している。

インシデントの合計を大きい順に並べると,a が8,c が5,b と d が3,e が1。上位2チームはa とc である。前問の a・b とは組合せが違うので,そのまま引きずらないこと。

この2チームのヒヤリハットを,項目ごとに平均と比べる。

危険:a は27で平均10.0を上回るが,c は5で下回る。共通しない。

合計:a は86で平均40.0を上回るが,c は38で下回る。共通しない。

軽微:a は59,c は33で,どちらも平均30.0を上回る。ここだけが共通する。

30字。解答例は「軽微のヒヤリハット発生件数が全チーム平均より多い。」で25字。

危険なヒヤリハットが多いチームがインシデントを起こす,と考えたくなるが,表2の数字はそうなっていない。あくまで表から読み取れる共通点を答える。

採点講評(IPA)

設問2(2)は,正答率が低かった。上位2チームに共通する傾向を抽出できない誤った解答や,発生傾向ではなく発生原因の傾向を述べた誤った解答が多かった。

設問3(1) 20字以内

手順(i)で決定すべき分類項目は何か。20 字以内で答えよ。

解答例

  • ヒューマンエラー事象の原因
解説

本文の根拠

〔パレート図の作成による分析〕

Y 氏は,ヒューマンエラー事象の削減に向けて,ヒューマンエラー事象の原因に着目し,パレート図を用いて分析することによって,改善すべき対象を特定することにした。

図2

(i)データの分類項目を決定する。

本文が「ヒューマンエラー事象の原因に着目し」と書いている。分類項目はここから決まる。図1の9種類の原因である。

表3はチーム別かつ原因別に集計してあるので,チーム名称を分類項目にすることもできる。だが目的は改善すべき対象を特定することで,チームを特定しても「どのチームが多いか」が分かるだけで手の打ちようがない。原因が分かれば,その原因に効く対策を選べる。

20字。解答例は「ヒューマンエラー事象の原因」で13字。

設問3(2) 20字以内

手順(iv)で作成する棒グラフの縦軸項目は何か。20 字以内で答えよ。

解答例

  • ヒューマンエラー事象の合計件数
解説

本文の根拠

図2

(iii)分類項目ごとにデータ数の合計を求める。(iv)データ数の合計が大きい順に項目を並べて,棒グラフにする。

手順(iii)で分類項目ごとのデータ数の合計を求め,それを手順(iv)で棒グラフにする。したがって棒の高さは,手順(iii)で求めた値そのものである。

ここでのデータはヒューマンエラー事象なので,縦軸はその合計件数になる。

20字。解答例は「ヒューマンエラー事象の合計件数」で15字。累積比率は手順(v)(vi)で折れ線にするものなので,棒グラフの縦軸ではない。

設問3(3)

本文中の下線(あ)で特定した分類項目は何か。表3中の記号①〜⑨又はアルファベット a〜e を用いて,対象となる全てを答えよ。

解答例

  • ②,①,③,⑥

〔備考〕順不同

解説

本文の根拠

表3

合計:46,67,38,16,11,25,5,6,6,総合計 220。

図2

(v)データ数の合計の累積を求め,全体のデータ数に対する百分率を計算し,累積比率(%)とする。

表3の合計行を原因別に大きい順へ並べ替える。②67,①46,③38,⑥25,④16,⑤11,⑧6,⑨6,⑦5。総合計は220。

累積して比率を出す。

② 67 → 67 ÷ 220 = 30%

①まで 113 → 51%

③まで 151 → 69%

⑥まで 176 → 80%

④まで 192 → 87%

⑥を加えたところでちょうど80%に届く。したがって特定するのは②①③⑥の4つである。

分類項目は原因なので,答えも①〜⑨の記号で答える。チームのa〜eで答えると,前問で決めた分類項目と食い違う。

採点講評(IPA)

設問3(3)は,“チームに着目”した誤った解答が多かった。問題管理で重要な原因を抽出するときに利用できるパレート図の技法を理解して,改善活動に活用してほしい。

設問3(4)

2018 年度に発生したヒューマンエラー事象の合計件数を半減するためには,改善対象とした分類項目の合計件数の何%を削減する必要があるか。答えは,パーセント(%)で求めた値の小数第 1 位を四捨五入して,整数で求めよ。

解答例

  • 63
解説

本文の根拠

〔ヒューマンエラーの状況〕

サービス運用部は,2018 年度に発生したヒューマンエラー事象の合計件数の半減を目指した改善活動を行うことにした。

表3

合計:46,67,38,16,11,25,5,6,6,総合計 220。

何件減らせばよいかと,どこから減らすのかを分けて考える。

減らすべき件数は,全体220件の半分で110件である。

減らす先は,前問で特定した②①③⑥に限る。その合計は 67 + 46 + 38 + 25 = 176件。

176件のうち110件を減らすので,110 ÷ 176 = 0.625。62.5%を四捨五入して63%。

分母を220にすると50%という答えになるが,それでは「改善対象とした分類項目の合計件数の何%か」という問いに答えていない。改善の手を入れるのは176件のほうなので,そこを分母に取る。

出典:令和元年度 秋期 ITサービスマネージャ試験 午後Ⅰ 問3(表記を一部改変)