平成21年度 秋期に実施されたITサービスマネージャ試験
午後Ⅰの全4問(記述式)です。事例本文・設問・解答例と解説をそのまま読めます。
この年度を解いてみる
問1 サービスレベル管理
サービスレベル管理に関する次の記述を読んで,設問1〜4に答えよ。
A 社は中堅の日用雑貨販売会社であり,インターネット上で個人消費者向けに商品カタログを公開している。A 社では,売上を伸ばすための宣伝チャネルの強化として,Web サイトのシステムを更新することにした。また,更新後のシステム(以下,Web サイトシステムという)の保守及び運用は,B 社の Web サイト運用サービスを利用することにした。
〔Web サイトシステムの概要〕
Web サイトシステムの構成は図のとおりである。
図 Web サイトシステムの構成
Web サイトシステムの利用者は,インターネット経由で Web サイトシステムにアクセスする。リクエストを受け付けた AP サーバは,必要に応じて,商品カタログが格納されている DB サーバにアクセスし,商品カタログを利用者のブラウザ上に表示させる。
〔Web サイト運用サービスの概要〕
B 社が提供する Web サイト運用サービスの概要は,次のとおりである。
(1) B 社はサービスデスクを開設し,A 社に対して,Web サイトシステムに関する一元的な窓口業務を行う。B 社は,A 社からの問合せや故障の申告を受け付けるほかに,Web サイト上の“お知らせ”のコンテンツを更新して,Web サイトシステムの利用者への各種アナウンスも行う。 (2) B 社は Web サイトシステムの稼働状況を 24 時間 365 日体制で監視し,障害が発生した場合には必要な対応を行う。 (3) B 社は Web サイトシステムに関する保守全般を行う。Web サイトシステムを構成するハードウェアの保守は,B 社がハードウェアベンダの C 社に委託する。ハードウェアに故障が発生した場合は,C 社が修理や交換を行う。C 社への連絡及び作業依頼は,B 社が行う。 なお,AP サーバのハードウェアに故障が発生した場合は,必要に応じて暫定的に予備機を利用し,サービスを継続することができる。本番機から予備機への切替えに要する時間は 60 分間で,予備機から本番機への切戻しの際のサービス停止時間は 5 分間である。(ア)予備機への切替えは,A 社のシステム担当者である K 部長又は L 課長の承認を得てから実施する。
Web サイトシステムの構築は予定どおり終了し,A 社は Web サイトシステムの利用開始日を 1 か月後とすることに決定した。B 社は,Web サイト運用サービスの実施体制として,サービスマネージャに T 氏を任命した。
A 社と B 社は,Web サイト運用サービスの目標サービスレベルを取り決めて SLA として締結する予定である。SLA 締結に先立って,B 社では,表に示すサービスレベルの管理項目を,サービス開始時点から計測することにした。
表 Web サイト運用サービスのサービスレベル
〔AP サーバの障害〕
Web サイトシステムが稼働してから 3 か月後のある日,統合監視ツールが,AP サーバに障害が発生したことを検知した。サービスデスクが状況を確認したところ,(イ)Web サイトを閲覧できない状況が 3 分以上継続しており ,AP サーバの磁気ディスク装置(以下,HDD という)に障害が発生していることが判明した。サービスデスクから連絡を受けて,T 氏が障害対応を行うことになった。
T 氏は障害内容を診断し,AP サーバを復旧するには HDD の交換と,バックアップからのデータのリストアが必要であり,復旧には 5 時間掛かると判断した。この方法では回復時間の目標値を達成できないことから,T 氏は K 部長に電話連絡して実施許可を得た上で,AP サーバを予備機に切り替えて,Web サイトシステムを復旧させた。後日,B 社は,(ウ)AP サーバの予備機から本番機への切戻しを行った 。
〔HDD の冗長化〕
今回の AP サーバの障害対応の経験から,B 社は HDD の冗長構成を提案し,A 社に了承された。冗長化方式には RAID 5 を採用し,サービス提供を継続したままで HDD を交換できる構成とした。
なお,B 社では,高可用性を確保するために,ホットスペア機能の利用を検討したが,導入期間との関係でこの案を見送った。
RAID 5 では,多重障害が発生するとサービスが停止する場合がある。そこで,A 社は B 社に対して,RAID 5 を構成する HDD に故障が発生した障害の場合でも,5 時間以内で復旧するように要求した。B 社は,A 社の要求にこたえるためには,ハードウェア故障の復旧において C 社から安定したサービスを受ける必要があると考え,C 社と連携して対応を検討することにした。
〔Web サイト運用サービスの実施状況〕
Web サイト運用サービスの開始当初は,サービスレベルの管理項目が目標値を達成できないこともあったが,その後,B 社は必要な改善を行い,安定したサービスを提供できるようになった。
このような中で,A 社から B 社に対して,SLA 締結の申入れがあった。そこで,B 社は SLA 締結に向けて必要なプロセスを実施するとともに,SLA 締結後も PDCA サイクルを実行して,継続的にサービスレベルの改善を行う方針とした。
出題趣旨(IPA)
ITサービスを提供するサービス提供者は,顧客との間でSLAを定義し,合意していく必要がある。また,サービス提供者は彼らの供給者に対し,均質なサービスが確実に提供されるように管理して,供給者が提供するサービスレベルを,SLAで文書化して関係者内で合意する。本問では,サービスレベル管理及びJISQ20000の関係プロセスで定義する顧客関係管理・供給者管理を出題し,ITサービスマネージャのリスク管理能力など実務的な管理能力を問う。
設問と解答例
設問1(1)
30字以内
SLA 締結に先立って,B 社がサービス開始時点からサービスレベルを計測した理由を,30 字以内で述べよ。
解答例
解説
本文の根拠
〔Web サイト運用サービスの概要〕
A 社と B 社は,Web サイト運用サービスの目標サービスレベルを取り決めて SLA として締結する予定である。SLA 締結に先立って,B 社では,表に示すサービスレベルの管理項目を,サービス開始時点から計測することにした。
表
B 社の目標値
表の値はまだ SLA ではなく「B 社の目標値」である。これから A 社と合意する目標値が妥当かどうかは,実際にどこまで達成できているかを見なければ決められない。
本文は「SLA 締結に先立って」「サービス開始時点から計測する」と書いている。締結前から測るのは,実績を材料にして目標値の達成度合いを確かめ,無理のない値で合意するためである。
30字。解答例は「サービス実績から目標値達成度合いを確認したいから」で24字。「実績」と「目標値の達成度合い」の2語を残せば伝わる。
採点講評(IPA)
設問1 (2)は,正答率が低かった。“予備機への切替えにはA社のシステム担当者の承認が必要”というルールがあるため,重大インシデントの回復時間には,B社だけでなくA社の判断プロセスも含まれている。サービス提供者側の回復プロセスを対象にサービスレベルの目標値設定を行うことに気づかない受験者が多く,ITサービスマネジメントの実務経験は少ないことが推察された。
設問1(2)
50字以内
本文中の下線(ア)に示されている内容では,重大インシデントが発生した場合にサービスレベルの目標値を達成できない可能性がある。B 社が目標値を達成するために,A 社との間で取り決めるべき適切なルールを,50 字以内で述べよ。
解答例(2通り)
A社のシステム担当者と連絡が取れない場合は,B社の判断で予備機への切替えを行えること A社に連絡してから切替えの了承を得るまでの時間は,サービスレベルの回復時間の計算に含めないこと
解説
本文の根拠
〔Web サイト運用サービスの概要〕
本番機から予備機への切替えに要する時間は 60 分間で,予備機から本番機への切戻しの際のサービス停止時間は 5 分間である。
〔Web サイト運用サービスの概要〕
予備機への切替えは,A 社のシステム担当者である K 部長又は L 課長の承認を得てから実施する。
表 項番3
B 社が重大インシデントを検知してから,障害が回復するまでの時間,90 分以内
回復時間の目標は検知から 90 分で,予備機への切替えそのものに 60 分掛かる。残りは 30 分しかない。その中に「A 社の K 部長か L 課長の承認を得る」時間が入る。2人とも連絡が付かなければ,B 社にはどうすることもできないまま目標を超えてしまう。
B 社が責任を持てるのは B 社の作業だけである。そこで,A 社側の事情で遅れる部分をルールで切り離す。取り方は2通りある。連絡が取れないときは B 社の判断で切り替えてよいとするか,承認待ちの時間を回復時間に数えないとするかである。
50字。解答例は「A社のシステム担当者と連絡が取れない場合は,B社の判断で予備機への切替えを行えること」で42字。どちらの案でも,「どういう場合に」「何を許す(除く)か」の2つを入れる。
採点講評(IPA)
設問1 (2)は,正答率が低かった。“予備機への切替えにはA社のシステム担当者の承認が必要”というルールがあるため,重大インシデントの回復時間には,B社だけでなくA社の判断プロセスも含まれている。サービス提供者側の回復プロセスを対象にサービスレベルの目標値設定を行うことに気づかない受験者が多く,ITサービスマネジメントの実務経験は少ないことが推察された。
設問2(1)
30字以内
サービスレベルの目標値を達成するためには,本文中の下線(イ)に示されている状況を確認した後,AP サーバの障害復旧方法を検討する前に実施すべきことがある。B 社が実施すべきことを 30 字以内で述べよ。
解答例
解説
本文の根拠
表 項番2
重大インシデント(注1)発生の連絡時間,B 社が重大インシデントを検知してから,A 社に連絡するまでの時間,15 分以内
表 注1)
Web サイトの閲覧が継続して 3 分以上不可能となるサーバ側の障害を,重大インシデントと定義する。
〔AP サーバの障害〕
Web サイトを閲覧できない状況が 3 分以上継続しており
下線(イ)の「閲覧できない状況が 3 分以上継続」は,表の注1)の重大インシデントの定義そのものである。つまりこの時点で重大インシデントと確定している。
重大インシデントには「検知から 15 分以内に A 社に連絡する」という目標がある。本文では T 氏が障害を診断し,復旧方法を決め,K 部長に電話したのはそのあとである。復旧方法の検討を始める前に,まず A 社へ発生を知らせないと 15 分を守れない。
30字。解答例は「重大インシデントが発生したことをA社に連絡する。」で24字。「重大インシデント」という語を使うと,表の項番2を踏まえていることがはっきりする。
設問2(2)
40字以内
本文中の下線(ウ)を実施する前に,T 氏が行うべきことを 40 字以内で述べよ。
解答例
サービス停止スケジュールをA社と調整して利用者にアナウンスする。
解説
本文の根拠
〔Web サイト運用サービスの概要〕
予備機から本番機への切戻しの際のサービス停止時間は 5 分間である。
〔Web サイト運用サービスの概要〕
B 社は,A 社からの問合せや故障の申告を受け付けるほかに,Web サイト上の“お知らせ”のコンテンツを更新して,Web サイトシステムの利用者への各種アナウンスも行う。
切戻しでは 5 分間サービスが止まる。障害ではなく B 社が計画して止めるのだから,いつ止めるかを顧客である A 社と決めてから行うべきである。
止める日時が決まったら,利用者にも前もって知らせる。B 社のサービスには「お知らせ」を更新して利用者にアナウンスする業務が含まれているので,それを使える。
40字。解答例は「サービス停止スケジュールをA社と調整して利用者にアナウンスする。」で31字。「A 社との調整」と「利用者への告知」の2つをそろえる。
設問3(1)
30字以内
A 社の要求にこたえるために C 社との関係において行うべきことを,30 字以内で具体的に述べよ。
解答例
HDD故障時の回復時間の目標値を設定し,合意する。
解説
本文の根拠
〔Web サイト運用サービスの概要〕
Web サイトシステムを構成するハードウェアの保守は,B 社がハードウェアベンダの C 社に委託する。ハードウェアに故障が発生した場合は,C 社が修理や交換を行う。
〔HDD の冗長化〕
A 社は B 社に対して,RAID 5 を構成する HDD に故障が発生した障害の場合でも,5 時間以内で復旧するように要求した。B 社は,A 社の要求にこたえるためには,ハードウェア故障の復旧において C 社から安定したサービスを受ける必要があると考え
A 社は B 社に「HDD 故障でも 5 時間以内に復旧」を求めた。しかし HDD を交換するのは B 社ではなく,保守を委託されている C 社である。C 社が何時間で来てくれるかが決まっていなければ,B 社は 5 時間を約束できない。
B 社から見ると C 社は供給者である。A 社と B 社の間で目標値を決めるのと同じように,B 社と C 社の間でも HDD 故障時の回復時間の目標を決めて合意しておく。
30字。解答例は「HDD故障時の回復時間の目標値を設定し,合意する。」で25字。「具体的に」とあるので,「HDD 故障時」「回復時間」まで書く。
採点講評(IPA)
設問3では,サービス提供者と供給者の関係を正しく認識していない解答が多く,正答率は低かった。B社はA社に対するサービス提供者であり,C社はB社に対する供給者である。ITサービスマネージャとして,サービスレベルの目標値設定にあわせて,サービスが確実に提供されるように,供給者管理が必要なことを理解してほしい。
設問3(2)
40字以内
(1)を実施する際に考慮すべき事項を,40 字以内で述べよ。
解答例
B社とC社が設定する目標値はA社がB社に要求した回復時間と整合していること
解説
本文の根拠
〔HDD の冗長化〕
RAID 5 を構成する HDD に故障が発生した障害の場合でも,5 時間以内で復旧するように要求した。
C 社との目標値は,B 社が A 社に約束する値を支えるためのものである。C 社の回復時間に,B 社の診断や連絡,リストア後の確認などの時間を足して,A 社が求める 5 時間に収まっていなければ意味がない。
したがって,C 社と取り決める目標値は,A 社から B 社への要求(5 時間以内)と整合しているかを確かめて決める。
40字。解答例は「B社とC社が設定する目標値はA社がB社に要求した回復時間と整合していること」で37字。どの目標値とどの要求の整合かを,社名を入れて書き分ける。
採点講評(IPA)
設問3では,サービス提供者と供給者の関係を正しく認識していない解答が多く,正答率は低かった。B社はA社に対するサービス提供者であり,C社はB社に対する供給者である。ITサービスマネージャとして,サービスレベルの目標値設定にあわせて,サービスが確実に提供されるように,供給者管理が必要なことを理解してほしい。
設問4
40字以内
〔Web サイト運用サービスの実施状況〕で,A 社から B 社に対して SLA 締結の申入れがあった。今後,SLA 締結に向けて必要となるプロセスを,40 字以内で述べよ。
解答例
サービスレベルの目標値を設定し,A社とB社の双方が合意した上で管理する。
解説
本文の根拠
〔Web サイト運用サービスの概要〕
A 社と B 社は,Web サイト運用サービスの目標サービスレベルを取り決めて SLA として締結する予定である。
〔Web サイト運用サービスの実施状況〕
B 社は SLA 締結に向けて必要なプロセスを実施するとともに,SLA 締結後も PDCA サイクルを実行して,継続的にサービスレベルの改善を行う方針とした。
今ある表の値は「B 社の目標値」で,B 社が自分で決めた値にすぎない。SLA はサービス提供者と顧客が合意した約束なので,締結するには,目標値を決めて A 社と B 社の双方が合意する段階が要る。
合意した値は,締結後の PDCA で継続的に管理していく。本文が締結後の改善まで触れているので,「合意したうえで管理する」までを1つの流れとして書く。
40字。解答例は「サービスレベルの目標値を設定し,A社とB社の双方が合意した上で管理する。」で36字。「双方の合意」が SLA の中心なので必ず入れる。
出典:平成21年度 秋期 ITサービスマネージャ試験 午後Ⅰ 問1(表記を一部改変)
問2 キャパシティ管理
キャパシティ管理に関する次の記述を読んで,設問1〜3に答えよ。
D 社は,中堅の通信機器販売会社であり,日中はオンライン業務を行い,夜間はバッチ業務を行う販売管理システムを運用している。
8 時から 19 時までのオンライン業務のサービス時間帯には,営業店から入力されたデータに基づいて受注処理や入出庫処理が行われている。オンライン業務終了後の夜間のバッチ業務では,各種の実績集計処理やマスタファイルのメンテナンス処理が行われている。
販売管理システムの構成は,図のとおりである。業務サーバは,業務サーバ A と業務サーバ B の 2 台のサーバ構成で,どちらか 1 台に障害が発生した場合には,もう 1 台の縮退構成で運用する方式(以下,片寄せ運用という)になっている。片寄せ運用の場合でも,2009 年度のピーク時トランザクション数の予測値を処理できるようにリソース設計されており,2009 年の稼働当初に性能テストを行い,実機で検証している。
図 販売管理システムの構成
〔キャパシティ計画〕
D 社の IT サービス部では,次の方針で,キャパシティ計画を策定している。
(1) ビジネス面では,IT サービスに対するビジネス要件を検討し,キャパシティを確保するのに必要なリソースを適切なタイミングで実装する。表 1 に示す予測(指標)を販売管理システムのビジネス要件の一つとしている。この予測は,2009 年度のピーク時トランザクション数を基準(1.0)とした指標で,2012 年度までを予測している。
表 1 ピーク時トランザクション数の予測(指標)
(2) サービス面では,IT サービスのパフォーマンスを測定することによって,サービスレベルの要求水準を達成しているかどうかの記録・監視を行う。販売管理システムのサービスレベルのうち,応答性能に関する評価項目については,要求水準を“オンラインレスポンスが 5 秒以内の遵守率を 1 日当たり 99%以上”と定めている。遵守率は,オンライン業務終了後に,販売管理システムのログファイルを分析して確認している。 (3) リソース面では,IT インフラストラクチャの個々の構成要素の使用状況について定常的に測定・監視を行う。適切なキャパシティを確保できていないことに起因するインシデントが発生した場合は,チューニングを実施するとともに,必要に応じてハードウェアやソフトウェアのリソースを増強する。 〔キャパシティ管理の実施状況〕
D 社の IT サービス部では,次のようにキャパシティ管理を行っている。表 2 にリソース管理項目の基準値と警告値を示す。
(1) リソース管理項目として,Web サーバと業務サーバの CPU 使用率及び磁気ディスク使用率を把握し,表 2 に示す基準値を上限として管理している。基準値を超えると,パフォーマンスが急激に悪化するおそれがある。 (2) 運用管理システムを使用し,システムの監視を行っている。表 2 に示すリソース管理項目ごとに設定されている警告値を超えると,運用管理システムから警告が出される。
表 2 リソース管理項目の基準値と警告値
(3) 適切なキャパシティを確保できていないことに起因してサービスレベルの要求水準を達成できない事態が発生した場合は,隘路となっている部位を調査し,パフォーマンスを改善するためのチューニングを実施することにしている。ある日のオンライン業務終了後,オンラインレスポンスの遵守率を調査したところ,要求水準を下回っていた。しかし,運用管理システムから警告が出されていなかったので,必要な改善を検討している。 (4) インシデント管理及び変更管理などの,ほかのサービスマネジメントプロセスと,次の内容で連携して,キャパシティ管理を行っている。 ① インシデント管理 ・パフォーマンス不足によって発生したインシデント数の推移を捕捉する。 ② 変更管理 ・パフォーマンス改善の変更要求を提案する。 ・a 〔販売管理システムの運用変更〕
D 社では,営業店からの要望にこたえて,オンライン業務のサービス時間を延長することになった。現状では,バッチ業務の終了から翌日のオンライン業務開始までの空き時間が少なく,単純にバッチ業務の開始時間を遅らせた場合には,バッチ業務でのトラブルなどの発生時にオンライン業務の開始が遅れてしまうリスクが生じる。そこで,一部のバッチ処理を切り出して,オンライン業務中に業務サーバ A で実行することにした。
この場合,オンラインレスポンスに影響が出ることが懸念されたので,事前に通常の本番構成でピーク時の性能テストを実施した。性能テストにおいて,オンライン業務中にバッチ処理を実行しても,オンラインレスポンスへの影響が許容範囲内であることを確認できたので,その後,運用変更を行った。
〔障害に伴うオンラインレスポンスの悪化〕
ある日,業務サーバ B に障害が発生し,片寄せ運用を行うことになった。片寄せ運用された販売管理システムは,問題なく稼働していたが,切り出された一部のバッチ処理が実行された直後に,オンラインレスポンスが大幅に悪化した。
業務サーバ A のメモリ使用状況を分析したところ,片寄せ運用時には,オンライン業務の処理中にメモリ使用量がほぼ限界に達していた。そこにバッチ処理が起動されると,バッチ処理用のメモリ領域を確保するために,ページングが多発していることが判明した。
そこで,オンラインレスポンスの悪化を回避するために,性能対策を検討することにした。
本格対応のためには,メモリ所要量の再設計を行い,サーバの実メモリを増設する。サーバの実メモリ増設に当たっては,変更管理プロセスを通して,機能性・可用性・保守性などの検証を行い,稼働中のサービスへの影響が最小となるようにリスクをコントロールする。
この本格対応実施までの暫定対応として,片寄せ運用になった場合は,オンライン業務中はバッチ処理を実行しないように変更する。
〔販売キャンペーンの実施計画〕
D 社では,2 か月後の 12 月に新たに販売キャンペーンを行うことになった。今回の販売キャンペーンが成功すれば,2010 年度以降も 6 月と 12 月に販売キャンペーンを実施する計画である。
IT サービス部では,キャパシティ計画への影響を確認するために,販売キャンペーンを企画している企画部門に最新の販売計画について照会した。
企画部門では,販売計画の中で,販売キャンペーン実施を前提に,今後 3 年間の需要予測をしている。販売キャンペーン実施に伴い,キャンペーン期間中の業務量が 2 割程度増加すると見込まれていた。
出題趣旨(IPA)
キャパシティ管理では,ビジネス要件に必要なITリソースのキャパシティとパフォーマンスを適正なコストで提供し,キャパシティに起因するインシデントを防止し,サービスレベルの要求水準を達成することが重要である。本問では,ITサービスマネージャとして,キャパシティ計画に基づくPDCAの実務能力と,ビジネス要件やサービスレベルの要求水準を満たすためのキャパシティ管理能力を問う。
設問と解答例
設問1(1)
30字以内
表 2 の各リソース管理項目の警告値は,対応する基準値よりも低く設定されている。その理由を 30 字以内で述べよ。
解答例
解説
本文の根拠
〔キャパシティ管理の実施状況〕
表 2 に示す基準値を上限として管理している。基準値を超えると,パフォーマンスが急激に悪化するおそれがある。
〔キャパシティ管理の実施状況〕
表 2 に示すリソース管理項目ごとに設定されている警告値を超えると,運用管理システムから警告が出される。
基準値は「超えるとパフォーマンスが急激に悪化するおそれがある」上限である。警告を基準値ちょうどで出すと,気付いた時点ですでに悪化が始まっている。
警告値を低めに置けば,基準値に届く前に知らせが来る。そのあいだにチューニングやリソースの増強などの手を打てる。
30字。解答例は「パフォーマンスが悪化する前に是正処置がとれるから」で24字。「悪化する前に」「手を打てる」の2つがあればよい。
採点講評(IPA)
設問1 (3)は,正答率が低く,変更管理プロセスやキャパシティ管理プロセスそのものを記述した誤答が多かった。ITサービスマネージャとして,関連するサービスマネジメントプロセスの連携について理解しておいてほしい。
設問1(2)
35字以内
オンラインレスポンスが悪化しているにもかかわらず,運用管理システムから警告が出されていなかったのは,現在のキャパシティ管理に考慮不足があるからである。キャパシティ計画の方針に照らして,考慮不足の内容を,35 字以内で述べよ。
解答例
サービスレベルの要求水準を達成するための監視になっていない。
解説
本文の根拠
〔キャパシティ計画〕
サービス面では,IT サービスのパフォーマンスを測定することによって,サービスレベルの要求水準を達成しているかどうかの記録・監視を行う。
〔キャパシティ計画〕
遵守率は,オンライン業務終了後に,販売管理システムのログファイルを分析して確認している。
〔キャパシティ管理の実施状況〕
リソース管理項目として,Web サーバと業務サーバの CPU 使用率及び磁気ディスク使用率を把握し,表 2 に示す基準値を上限として管理している。
警告の対象は CPU 使用率と磁気ディスク使用率だけである。一方,サービスレベルの要求水準はオンラインレスポンスで決まっている。レスポンスはそれ以外の原因でも悪化するので,リソースの値が正常でも要求水準を割ることがある。
しかもレスポンスの遵守率は,オンライン業務が終わってからログで確かめている。方針(2)では「要求水準を達成しているかどうかの記録・監視を行う」としているのに,業務中に監視していない。
35字。解答例は「サービスレベルの要求水準を達成するための監視になっていない。」で30字。どの方針に照らして足りないのかを,「サービスレベルの要求水準」という語で示す。
採点講評(IPA)
設問1 (3)は,正答率が低く,変更管理プロセスやキャパシティ管理プロセスそのものを記述した誤答が多かった。ITサービスマネージャとして,関連するサービスマネジメントプロセスの連携について理解しておいてほしい。
設問1(3)
30字以内
本文中の a に入れる適切な内容を,30 字以内で述べよ。
解答例
変更の計画段階でパフォーマンスへの影響を検証する。
解説
本文の根拠
〔キャパシティ管理の実施状況〕
インシデント管理及び変更管理などの,ほかのサービスマネジメントプロセスと,次の内容で連携して,キャパシティ管理を行っている。
〔キャパシティ管理の実施状況〕
パフォーマンス改善の変更要求を提案する。
〔障害に伴うオンラインレスポンスの悪化〕
変更管理プロセスを通して,機能性・可用性・保守性などの検証を行い,稼働中のサービスへの影響が最小となるようにリスクをコントロールする。
空欄 a は,変更管理との連携の2つめである。1つめの「改善の変更要求を提案する」は,キャパシティ管理から変更を起こす向き。もう1つは逆向きで,他から起きた変更がパフォーマンスにどう響くかを見る役目になる。
本文でも,運用変更(バッチ処理の切り出し)でレスポンスが悪化した。変更管理では機能性・可用性・保守性などを検証するとしているが,パフォーマンスへの影響を変更の計画段階で確かめることが,キャパシティ管理の持ち分である。
30字。解答例は「変更の計画段階でパフォーマンスへの影響を検証する。」で25字。変更管理プロセスの説明を書くのではなく,キャパシティ管理として行う作業を書く。
採点講評(IPA)
設問1 (3)は,正答率が低く,変更管理プロセスやキャパシティ管理プロセスそのものを記述した誤答が多かった。ITサービスマネージャとして,関連するサービスマネジメントプロセスの連携について理解しておいてほしい。
設問2(1)
40字以内
キャパシティ管理として,販売管理システムの運用変更前に確認しておくべきであったことは何か。40 字以内で述べよ。
解答例
片寄せ運用でオンライン業務中にバッチ処理を実行した場合のピーク時の性能検証
解説
本文の根拠
販売管理システムの構成の説明
片寄せ運用の場合でも,2009 年度のピーク時トランザクション数の予測値を処理できるようにリソース設計されており
〔販売管理システムの運用変更〕
事前に通常の本番構成でピーク時の性能テストを実施した。
〔障害に伴うオンラインレスポンスの悪化〕
業務サーバ A のメモリ使用状況を分析したところ,片寄せ運用時には,オンライン業務の処理中にメモリ使用量がほぼ限界に達していた。
性能テストは「通常の本番構成」,つまり2台のサーバでしか行っていない。実際に悪化したのは,1台が故障して片寄せ運用になり,そこでバッチ処理が動いたときだった。
このシステムは片寄せ運用でもピーク時を処理できるように設計されている。運用を変えるなら,その前提がバッチ処理を足しても成り立つかを,片寄せ運用の状態で確かめる必要があった。
40字。解答例は「片寄せ運用でオンライン業務中にバッチ処理を実行した場合のピーク時の性能検証」で36字。「片寄せ運用」「オンライン業務中のバッチ処理」「ピーク時」の3条件がそろってはじめて今回の事象を再現できる。
設問2(2)
20字以内
日常のキャパシティ管理として,追加すべきリソース管理項目は何か。20 字以内で述べよ。
解答例
解説
本文の根拠
〔障害に伴うオンラインレスポンスの悪化〕
そこにバッチ処理が起動されると,バッチ処理用のメモリ領域を確保するために,ページングが多発していることが判明した。
表 2
Web サーバ CPU 使用率:基準値 80%,警告値 60%。業務サーバ CPU 使用率:基準値 80%,警告値 60%。磁気ディスク使用率:基準値 50%,警告値 40%。
原因はメモリ不足によるページングだった。ところが表 2 の管理項目は CPU 使用率と磁気ディスク使用率だけで,メモリは見ていない。これでは日常の監視で気付けない。
本格対応でもメモリ所要量を設計し直して実メモリを増設するとしているので,増設後も含めて実メモリの使用状況を管理項目に加える。
20字。解答例は「サーバの実メモリ使用状況」で12字。「メモリ使用率」でも意味は同じだが,ページングは実メモリが足りないときに起きるので「実メモリ」と書くと正確になる。
設問2(3)
35字以内
性能対策について,暫定対応を継続した場合のリスクは何か。35 字以内で述べよ。
解答例
バッチ業務でのトラブル発生時にオンライン業務開始が遅れる。
解説
本文の根拠
〔販売管理システムの運用変更〕
現状では,バッチ業務の終了から翌日のオンライン業務開始までの空き時間が少なく,単純にバッチ業務の開始時間を遅らせた場合には,バッチ業務でのトラブルなどの発生時にオンライン業務の開始が遅れてしまうリスクが生じる。
〔障害に伴うオンラインレスポンスの悪化〕
この本格対応実施までの暫定対応として,片寄せ運用になった場合は,オンライン業務中はバッチ処理を実行しないように変更する。
暫定対応では,片寄せ運用中は切り出したバッチ処理を昼に動かさない。動かさない分は夜間のバッチ業務に戻すことになる。
そもそもバッチ処理を切り出したのは,夜間の空き時間が少なく,トラブルがあると翌朝のオンライン開始が遅れるからだった。夜間に戻せば,本文に書かれたこのリスクがそのまま戻ってくる。
35字。解答例は「バッチ業務でのトラブル発生時にオンライン業務開始が遅れる。」で28字。本文の言い回しを使えば,運用変更の理由と結び付けていることが伝わる。
設問3(1)
40字以内
需要予測の変化に伴って,キャパシティ計画への影響を確認する必要がある。その際に考慮すべき点は何か。40 字以内で述べよ。
解答例
ピーク時トランザクション数を算出して現状の予測値との乖離を把握する。
解説
本文の根拠
〔キャパシティ計画〕
この予測は,2009 年度のピーク時トランザクション数を基準(1.0)とした指標で,2012 年度までを予測している。
〔販売キャンペーンの実施計画〕
販売キャンペーン実施に伴い,キャンペーン期間中の業務量が 2 割程度増加すると見込まれていた。
キャパシティ計画の土台は表 1 のピーク時トランザクション数の予測である。キャンペーンで業務量が 2 割増えるなら,その期間のピーク時トランザクション数も予測より増える。
まずキャンペーンを織り込んだピーク時トランザクション数を計算し直し,今の予測値とどれだけ離れるかを把握する。影響の大きさはそこから判断できる。
40字。解答例は「ピーク時トランザクション数を算出して現状の予測値との乖離を把握する。」で34字。「何を算出するか」と「何と比べるか」を書く。
採点講評(IPA)
設問3は,業務量の需要予測に基づいてピーク時トランザクション件数を算出し,現状の予測値との乖離を把握した上でキャパシティ計画を見直すという内容を取り上げている。ITサービスマネージャとして,キャパシティ管理に関するサービスマネジメントの計画立案と導入について,よく理解しておいてほしい。
設問3(2)
40字以内
(1)の結果を基に,IT サービス部としてキャパシティ管理の観点から実施すべき内容を,40 字以内で述べよ。
解答例
販売計画の需要予測に基づいてキャパシティ計画を見直す。
解説
本文の根拠
〔キャパシティ計画〕
ビジネス面では,IT サービスに対するビジネス要件を検討し,キャパシティを確保するのに必要なリソースを適切なタイミングで実装する。
〔販売キャンペーンの実施計画〕
企画部門では,販売計画の中で,販売キャンペーン実施を前提に,今後 3 年間の需要予測をしている。
企画部門はキャンペーンを前提に3年間の需要予測を立て直している。一方,IT サービス部の表 1 はキャンペーンを考えていない。このまま運用すると,2010 年度以降の 6 月と 12 月にリソースが足りなくなるおそれがある。
方針(1)はビジネス要件に合わせて必要なリソースを適切なタイミングで実装するとしている。したがって,販売計画の需要予測を基にキャパシティ計画そのものを見直す。
40字。解答例は「販売計画の需要予測に基づいてキャパシティ計画を見直す。」で26字。見直しの根拠(販売計画の需要予測)を添えると,(1)の結果を使うことがはっきりする。
採点講評(IPA)
設問3は,業務量の需要予測に基づいてピーク時トランザクション件数を算出し,現状の予測値との乖離を把握した上でキャパシティ計画を見直すという内容を取り上げている。ITサービスマネージャとして,キャパシティ管理に関するサービスマネジメントの計画立案と導入について,よく理解しておいてほしい。
出典:平成21年度 秋期 ITサービスマネージャ試験 午後Ⅰ 問2(表記を一部改変)
問3 システムの運用管理
システムの運用管理に関する次の記述を読んで,設問1〜4に答えよ。
E 社は,全国 10 か所に大型小売店舗をもち,日中はオンライン処理及びバッチ処理を行い,夜間にはバッチ処理を行う販売管理システムを運用している。
〔販売管理システムの 1 日の運用スケジュールとオペレーション体制〕
販売管理システムは,オンライン処理を 9 時に開始し,20 時に終了する。その後,バックアップを取得する処理を 21 時まで行う。バックアップは,磁気ディスク上に取得する方が処理時間は早く済むが,災害に備えて遠隔地保管を行うために,磁気テープに取得する。取得した磁気テープは,宅配業者に委託して,毎翌朝 9 時発で遠隔地に配送している。
21 時からは夜間バッチ処理を実行する。夜間バッチ処理は 6 時に終了し,その後の 3 時間は,システム変更やバッチ処理のトラブルなどへの対応のための予備時間としている。また,オンライン処理は毎朝 9 時に開始する必要があることから,オンライン立上げ処理は,夜間バッチ処理の最後に実施している。
オンライン処理中は,運用管理端末に出力される各種メッセージに対応するために 2 人の運用オペレータが必要である。バックアップ取得時は,ジョブ起動コマンド投入オペレーションと磁気テープ装置オペレーションとの連携が必要である。1 人で実行すると 2 時間が必要であり,1 時間以内で終わらせるためには 2 人の運用オペレータが必要である。夜間バッチ処理中は,運用管理端末への出力メッセージは少ないので,運用オペレータは 1 人となっている。
1 日の運用スケジュールとオペレーション所要人数は,図 1 のとおりである。
図 1 1 日の運用スケジュールとオペレーション所要人数
運用オペレータは,チーム体制を組み,シフト制でローテーションしながら勤務している。1 シフトは 8 時間で,7 時から 15 時,15 時から 23 時,23 時から 7 時の 3 シフトで 1 日の運用を行っている。各シフトには 1 人 1 時間の休憩時間があり,1 シフトの勤務時間は 1 人 7 時間である。チーム数は,販売管理システムが年間 365 日稼働できるように設定している。各チームの人数は同一とし,運用オペレータの休暇取得やピーク時の応援などのために,常に 1 チーム当たり 1 人分の余裕を見込んだ体制としている。
〔販売管理システムの運用方法〕
販売管理システムでは,システム運用の省力化,正確性の向上を目的に,運用管理システムを使用している。運用管理システムでは,しきい値(CPU 使用率,メモリ使用率,磁気ディスク使用率)監視機能による稼働監視や,ジョブの自動起動機能によるジョブの実行管理を行っている。しきい値を変更する場合は,システム運用部が実施する。現在のしきい値は,1 年前の,運用管理システム導入時に設定した値となっていて,その後は変更されていない。システム稼働中にしきい値を超えた場合は,運用管理システムから運用管理端末に警告メッセージが出力される。この場合,運用オペレータは運用管理者に連絡し,運用管理者の指示に従って対応している。
また,運用管理端末には,警告メッセージ以外にも多くのメッセージが出力されていて,運用オペレータはすべての出力メッセージに対応している。
〔オンラインサービス提供時間の拡大〕
現在,オンラインサービスの開始は 9 時となっているが,本社から,“開店時刻を早めたいので,オンラインサービスの開始時刻を早められないか”という要望があった。システム運用部では,3 時間の予備時間は確保した上で,オンラインサービス開始時刻を早めるために,夜間のバッチ処理時間の短縮を検討することとし,夜間バッチ処理の実行状況について分析した。取引先の X 社からファイル転送によって納品データを受け取って,販売管理システムに取り込む処理を行っている。X 社の納品データは毎日 22 時ごろに到着するので,ジョブ J1 の終了後,常に 40 分程度の待ち時間があることが分かった。
X 社納品データ(E 社でのファイル名を“X01”とする)の取込み処理の概要を図 2 に示す。各ジョブ間やジョブステップ間の引継ぎは,中間ファイルを磁気ディスク上に作成して連携する。磁気ディスク装置には,十分な空き容量がある。
図 2 X 社納品データ取込み処理の概要
ジョブ J2 は,ジョブ J1 の終了とファイル“X01”の作成完了の両方が満たされた時点で自動的に起動される。ジョブ J2 の処理時間は 1 時間であるが,そのうち,ジョブステップ S23 の処理時間は 30 分である。
ジョブ J1,J2 のジョブステップフローを図 3 に示す。
図 3 ジョブ J1,J2 のジョブステップフロー
〔出力メッセージ対応業務の効率向上〕
システム運用部では,オペレーション業務の効率向上のために,オンライン処理中に運用管理端末に出力されるメッセージへの対応業務について分析した。
出力メッセージの種類は,大きく分けると次の 5 種類であった。
(1) ハードウェア障害:各種ハードウェアの障害を表すメッセージ (2) ソフトウェア障害:各種ソフトウェアの障害を表すメッセージ (3) しきい値超過:運用管理システムから出力される警告メッセージ (4) 各種情報:各種プロダクトや業務プログラムから出力される情報メッセージ (5) テスト:開発担当者が行うテストなどによって出力されるメッセージ 各出力メッセージに対する対応方法は,次の四つに整理できた。
(a) 対応なし:メッセージを確認する。あらかじめ決められたメッセージの場合には,特に対応は行わない。 (b) 連絡だけ:メッセージ内容を運用管理者に連絡したところ,対応不要と指示されたもの。 (c) ジョブ制御:運用管理者からの指示に基づいて,ジョブの停止,スキップ,再起動などを手動で行う。 (d) 臨時処理:運用管理者からの指示に基づいて,ハードウェア障害時の技術者コールなど,臨時の対応を行う。 そこで,システム運用部では各対応方法における運用オペレータ 1 人 1 件当たりの平均対応時間を確認するとともに,オンライン処理中の出力メッセージの種類と対応方法について,最近 3 か月間の件数分析を行った。その結果,1 か月の平均出力件数と運用オペレータ 1 人 1 件当たりの平均対応時間は,表のとおりとなった。
表 1 か月の平均出力件数と運用オペレータ 1 人 1 件当たりの平均対応時間
ハードウェア障害で対応方法を“対応なし”としている出力メッセージの大部分は,店舗の端末障害を示すものであった。これは,オンラインサービス開始時に電源が入っていなかったり,レジ係の交替時にいったん電源を切る運用になっていたりすること,などに起因するものであった。しきい値超過で対応方法が“連絡だけ”となった出力メッセージのほとんどは,運用管理システムから出力される,CPU 使用率のしきい値超過による警告メッセージであった。
システム運用部では,表中で,対応方法が“対応なし”及び“連絡だけ”である出力メッセージに対する運用オペレータの対応工数を削減するために検討を開始した。まず,“対応なし”のメッセージ件数を削減することによってもたらされる工数の削減について検討し,次に,“連絡だけ”のメッセージ件数を削減することによって改善される工数の削減について検討した。
出題趣旨(IPA)
業務システムの運用に当たっては,ユーザ要件への対応や運用コストの削減,トラブル削減など,システム運用業務の効率向上・高品質化が課題となっている。運用担当者によるオペレーション業務は,最近ではシステム運用管理ツールの活用によって,障害対応などの臨時処理のほか,システムの稼働監視業務が中心となっている。本問では,運用オペレータのチーム編成に関する知識・能力を問うとともに,システムの稼働監視として実施している出力メッセージに対する対応工数の削減策,磁気テープオペレーションの効率向上策,夜間のバッチ処理時間短縮のためにジョブ構成を見直し,適切にジョブ分割を行う対策など,オペレーション業務の生産性向上を目的とした複数の対策に関する実務的能力を問う。
設問と解答例
設問1
現在の運用オペレータは,1 週間に 1 日以上の非番の日を設けた上で,必要最小限の人数としている。現在の運用オペレータの総人数は何人か。なお,解答に当たって,休憩時間は考慮しなくてもよいものとする。
解答例
解説
本文の根拠
〔販売管理システムの 1 日の運用スケジュールとオペレーション体制〕
1 シフトは 8 時間で,7 時から 15 時,15 時から 23 時,23 時から 7 時の 3 シフトで 1 日の運用を行っている。
〔販売管理システムの 1 日の運用スケジュールとオペレーション体制〕
各チームの人数は同一とし,運用オペレータの休暇取得やピーク時の応援などのために,常に 1 チーム当たり 1 人分の余裕を見込んだ体制としている。
図 1
9 時〜20 時:オンライン処理,バッチ処理(2)。20 時〜21 時:バックアップ(2)。21 時〜6 時:バッチ処理(1)。6 時〜9 時:予備時間(0)。
まず 1 チームの人数を決める。図 1 で必要人数が最も多いのは 2 人(9 時〜21 時)である。7 時〜15 時と 15 時〜23 時のシフトはどちらもこの時間帯を含むので 2 人要る。チームの人数は同じにそろえ,さらに 1 人の余裕を持たせるので,1 チーム 3 人になる。
次にチームの数である。1 日 3 シフトを 1 チームずつ受け持つので,毎日 3 チームが勤務する。これで 365 日を回しながら,週に 1 日以上の非番を作るには,休みに回るチームがもう 1 つ要る。4 チームあれば,4 日に 1 日は休める。
3 人 × 4 チーム = 12 人。答えは「12」。休憩時間は考えなくてよいという条件なので,1 シフトの 8 時間をそのまま使って構わない。
採点講評(IPA)
設問1は,正答率が低かった。図1と本文記述をよく読めば,解答は容易に導き出せた。
設問2(1)
60字以内
X 社納品データの取込み処理について,ジョブ構成を変更することによって処理時間の短縮を図りたい。どのような変更を行えばそれが可能となるか。変更内容を,具体的に 60 字以内で述べよ。
解答例(2通り)
ジョブJ2を分割して,ジョブステップS22以前を別ジョブとして分離し,別ジョブをジョブJ1終了時に起動させる。 ジョブステップS21とS22をジョブJ1の中のジョブステップS13の後に移動させる。
解説
本文の根拠
〔オンラインサービス提供時間の拡大〕
X 社の納品データは毎日 22 時ごろに到着するので,ジョブ J1 の終了後,常に 40 分程度の待ち時間があることが分かった。
〔オンラインサービス提供時間の拡大〕
ジョブ J2 は,ジョブ J1 の終了とファイル“X01”の作成完了の両方が満たされた時点で自動的に起動される。ジョブ J2 の処理時間は 1 時間であるが,そのうち,ジョブステップ S23 の処理時間は 30 分である。
図 3
S23 には F23 のほかに,X 社から送られるファイル X01 も入力される。
図 3 を見ると,X01 を使うのは J2 の最後のステップ S23 だけである。S21 と S22 は J1 が作った F14 から F23 を作るだけで,X01 を待つ必要がない。それなのに J2 全体が「J1 終了と X01 到着の両方」を条件に起動されるので,J1 が終わってから 40 分ほど何もせずに待っている。
そこで,X01 が要らない S21・S22 を J2 から外し,J1 が終わったらすぐ動くようにする。J2 を分けて S22 までを別ジョブにし J1 の終了で起動する方法と,S21・S22 を J1 の S13 のあとに移す方法の,どちらでもよい。
60字。解答例は「ジョブJ2を分割して,ジョブステップS22以前を別ジョブとして分離し,別ジョブをジョブJ1終了時に起動させる。」で53字。「どこで分けるか」と「分けたものを何を合図に動かすか」を必ず書く。
採点講評(IPA)
設問2は,(1),(2)ともに正答率は高く,ジョブ構成に関する理解度は高いと思われる。
設問2(2)
(1)の変更によって,オンラインサービス開始時刻を,何時何分にできるか。なお,X 社納品データ取込み処理の実行中は,ほかの処理は実行していないものとする。
解答例
解説
本文の根拠
〔販売管理システムの 1 日の運用スケジュールとオペレーション体制〕
21 時からは夜間バッチ処理を実行する。夜間バッチ処理は 6 時に終了し,その後の 3 時間は,システム変更やバッチ処理のトラブルなどへの対応のための予備時間としている。
〔オンラインサービス提供時間の拡大〕
システム運用部では,3 時間の予備時間は確保した上で,オンラインサービス開始時刻を早めるために,夜間のバッチ処理時間の短縮を検討することとし
X01 は 22 時ごろ届き,J1 はその 40 分前,21 時 20 分ごろに終わっている。今は J2 が 22 時に始まり 1 時間,23 時に終わる。
変更後は,S21・S22(J2 の 1 時間のうち S23 以外の 30 分)を 21 時 20 分から先に済ませておく。22 時に X01 が届いたら S23 の 30 分だけを動かせばよく,22 時 30 分に終わる。30 分早くなるので,夜間バッチの終了は 6 時から 5 時 30 分になる。
3 時間の予備時間は減らさないので,5 時 30 分 + 3 時間 = 8 時 30 分。答えは「8 時 30 分」。取込み処理の間は他の処理が動かないという条件があるので,縮めた 30 分がそのまま全体に効く。
採点講評(IPA)
設問2は,(1),(2)ともに正答率は高く,ジョブ構成に関する理解度は高いと思われる。
設問3(1)
オンライン処理中の出力メッセージに対する運用オペレータの対応工数を半減させるためには,対応方法を“対応なし”としている出力メッセージの件数を,最低何%削減すればよいか。答えは小数第 1 位を切り上げて,整数で求めよ。
解答例
解説
本文の根拠
表
計:19,431,18,694,705,15,17。1 人 1 件当たりの平均対応時間(分):対応なし 1,連絡だけ 3,ジョブ制御 60,臨時処理 30。
今の対応工数を求める。件数 × 1 件当たりの時間で,対応なし 18,694 × 1 = 18,694 分,連絡だけ 705 × 3 = 2,115 分,ジョブ制御 15 × 60 = 900 分,臨時処理 17 × 30 = 510 分。合計 22,219 分である。
半分にするには 22,219 ÷ 2 = 11,109.5 分減らす。これを対応なしだけで減らすので,1 分の対応を 11,109.5 件減らすことになる。対応なしは 18,694 件なので,11,109.5 ÷ 18,694 ≒ 59.4%。
小数第 1 位を切り上げて「60」%。切り上げなのは,59%では半分に届かないからである。表の「計」の行をそのまま使えば,種類ごとに足し直さなくて済む。
採点講評(IPA)
設問3は,(1)の正答率は低く,単純な計算ミスもあったと思われる。
設問3(2)
30字以内
対応方法を“連絡だけ”としている出力メッセージに対する運用オペレータの対応工数を削減するために調査すべき事項は何か。調査すべき事項を,30 字以内で述べよ。
解答例
解説
本文の根拠
〔販売管理システムの運用方法〕
現在のしきい値は,1 年前の,運用管理システム導入時に設定した値となっていて,その後は変更されていない。
〔出力メッセージ対応業務の効率向上〕
しきい値超過で対応方法が“連絡だけ”となった出力メッセージのほとんどは,運用管理システムから出力される,CPU 使用率のしきい値超過による警告メッセージであった。
連絡だけのメッセージは 705 件で,そのうち 652 件がしきい値超過,しかもほとんどが CPU 使用率の警告である。運用管理者に連絡しても,毎回「対応不要」と言われている。
対応不要な警告がこれほど出るのは,しきい値が今の稼働状況に合っていない疑いが強い。しきい値は 1 年前の導入時のまま変えていない。まず,今の CPU 使用率のしきい値が妥当かを調べる。
30字。解答例は「現在設定しているCPU使用率のしきい値の妥当性」で23字。「CPU 使用率」まで絞る。メッセージ全般のしきい値と書くと,何を調べるかがぼやける。
採点講評(IPA)
設問3は,(1)の正答率は低く,単純な計算ミスもあったと思われる。
設問4
50字以内
今後の運用オペレータの省人化を目指して,オペレーション業務の効率向上を図りたい。設問 3 の出力メッセージの件数削減以外で考えられる対策内容を,50 字以内で具体的に述べよ。なお,機器の増設は行わないものとする。
解答例
バックアップは磁気ディスクに取得し,予備時間帯にバックアップファイルを磁気テープにコピーする。
解説
本文の根拠
〔販売管理システムの 1 日の運用スケジュールとオペレーション体制〕
バックアップは,磁気ディスク上に取得する方が処理時間は早く済むが,災害に備えて遠隔地保管を行うために,磁気テープに取得する。
〔販売管理システムの 1 日の運用スケジュールとオペレーション体制〕
バックアップ取得時は,ジョブ起動コマンド投入オペレーションと磁気テープ装置オペレーションとの連携が必要である。1 人で実行すると 2 時間が必要であり,1 時間以内で終わらせるためには 2 人の運用オペレータが必要である。
〔販売管理システムの 1 日の運用スケジュールとオペレーション体制〕
取得した磁気テープは,宅配業者に委託して,毎翌朝 9 時発で遠隔地に配送している。
2 人が要る時間帯はオンライン処理中とバックアップ中である。オンライン側は設問 3 で扱ったので,残るのはバックアップになる。バックアップが 2 人要るのは,磁気テープ装置の操作とジョブの起動を同時に行うからである。
そこで,磁気ディスクへのバックアップと,テープへのコピーを分ける。ディスクへの取得は速く,テープ装置の操作も要らない。テープへのコピーは 6 時〜9 時の予備時間に回す。テープの配送は翌朝 9 時発なので,それまでにコピーできていれば遠隔地保管は変わらない。機器の増設は要らない。
50字。解答例は「バックアップは磁気ディスクに取得し,予備時間帯にバックアップファイルを磁気テープにコピーする。」で46字。「ディスクに取る」「テープへのコピーを予備時間帯に回す」の2つをそろえる。
採点講評(IPA)
設問4の運用オペレータの省人化を目指した対策としては,設問3のオンライン処理の対策のほかに,バックアップ処理の対策が必要になる。“メッセージ対応処理を標準化する”や“対応マニュアルを作る”といった誤答が多く,実効性の高い業務効率化の対策を解答してほしかった。
出典:平成21年度 秋期 ITサービスマネージャ試験 午後Ⅰ 問3(表記を一部改変)
問4 情報セキュリティ管理
情報セキュリティ管理に関する次の記述を読んで,設問1〜3に答えよ。
M 社は通信販売業者であり,販売システムを利用して,Web 上のオンラインショッピングサイトで個人顧客向けに商品を販売している。
〔販売システムの概要〕
販売システムはデータセンタに設置されている各種サーバによって構成されていて,顧客情報,商品情報及び注文情報はデータベースサーバ(以下,DB サーバという)で一元管理されている。顧客は,商品の購入や配送に必要な情報を事前に登録した上で,M 社の Web サイトから商品を購入する。販売システムの構成を図 1 に示す。
販売システムは顧客だけでなく,PC 上のブラウザを使って社内でも利用されている。具体的には,本社での売上状況確認,配送センタでの商品の発送手続及びコールセンタでの商品サポートに利用されている。通常は,社内ネットワーク経由での利用に限られているが,一部の営業担当者は営業先から商品の販売状況を参照するために,モバイル PC からインターネット経由で販売システムに接続している。
また,情報セキュリティ管理の観点から,社員が利用するモバイル PC と PC のブラウザは,最新のセキュリティパッチが適用されているかどうかが自動的にチェックされ,常に最新版にバージョンアップされる運用としている。
図 1 販売システムの構成
〔電子証明書を利用した認証〕
M 社では,販売システムで利用される情報の機密性の観点から,社員が販売システムを利用する際には,電子証明書を利用した認証を行っている。
社員が販売システムを利用するためには,情報システム部に依頼して,電子証明書をあらかじめ PC に登録する必要がある。電子証明書の有効期限は 2〜3 年の間で任意に設定できるが,M 社では,申請日のちょうど 2 年後を有効期限としている。また,電子証明書には,利用者の ID 情報(以下,利用者 ID という)が組み込まれている。
販売システムを利用する際には,社内用 Web サーバと通信するたびに認証サーバで電子証明書の正当性がチェックされる。認証サーバでは,電子証明書に組み込まれた利用者 ID 及び販売システムのログイン時に入力される利用者のパスワード(以下,利用者 PW という)と,認証サーバに保存されている認証情報を比較して認証を行う。さらに,認証サーバに保存されている利用者 ID ごとの利用可能業務と比較し,認証可否の判定を行う。認証結果はすべて認証ログに記録される。認証ログに保存されるデータ項目を図 2 に示す。
また,営業担当者がインターネットから接続する際には,VPN 装置を経由する。VPN 装置での認証には,営業担当者に個別に配布される販売システムの利用者 ID,利用者 PW とは異なる ID とパスワードが利用される。
図 2 認証ログに保存されるデータ項目
〔電子証明書の発行ルール〕
電子証明書の発行の流れを図 3 に示す。
新しく PC を利用する場合や,使用中の電子証明書の有効期限が近づいた場合は,利用者本人が申込書に記入し,所属部署の管理者の承認を得た上で情報システム部に送付し,情報システム部の担当者が新しい電子証明書を発行する。
図 3 電子証明書の発行の流れ
電子証明書の発行の際には,利用者と販売システムにログインする PC について審査を行う。審査の結果に問題がない場合,電子証明書に販売システムの利用者 ID を組み込み,電子証明書を証明書発行用 Web サーバに登録する。電子証明書を利用するには,証明書発行用 Web サーバに接続し,電子証明書をインストールするための発行用 ID と発行用 PW を入力する必要がある。発行用 ID は電子メールで利用者あてに送付し,発行用 PW は所属部署の管理者あてに郵送する。
利用者は,電子メールで送付された発行用 ID と,管理者から手渡された発行用 PW を利用して電子証明書を PC にインストールすることで,販売システムの利用が可能になる。電子証明書が発行されると,電子証明書の発行に利用した発行用 ID と発行用 PW は無効になり,発行用 ID は再利用できなくなる。
電子証明書の発行作業は手順化されていて,一度に複数の電子証明書の発行が可能であるが,情報システム部では申請される都度,発行作業を行っている。この作業は情報システム部員の臨時作業として取り扱われ,日常業務で計画されている定例作業の効率を悪化させている。また,M 社では,PC の故障時に備えて,発行済の電子証明書を外部記憶媒体にバックアップし,利用者の責任で鍵付きロッカーに保管しておく取決めになっている。
〔認証システムの運用状況〕
情報システム部では,発行済の電子証明書の有効期限が近づいた場合,利用者に対して,電子証明書の更新を行うように,有効期限の 20 日前に自動的に電子メールで通知している。しかし,更新を忘れる利用者が多く,電子証明書の有効期限を超過してしまい,電子証明書が再発行されるまで販売システムを利用できないという問題が発生していた。電子証明書の失効によって,自分の PC で販売システムを利用できなくなった社員がほかの社員の PC を利用して業務を行うなどのセキュリティ面の問題だけでなく,情報システム部でも,緊急発行の対応で作業が度々中断され,作業計画が立てにくいことが問題になっていた。
M 社では,情報セキュリティ管理に関して M 社セキュリティ運用ルールを定めている。ほかの社員の PC を利用することはルール違反であり,社内の情報セキュリティ委員会に報告することになっている。
〔認証システムのトラブル発生事例〕
ある日,前日までは正常に認証できていた PC の一部で販売システムへのログインができなくなるというトラブルが発生し始めた。情報システム部の N 課長は,認証ログを調査して障害の切分けを行った。その結果,数日前に,あるブラウザに大幅なバージョンアップがあり,最新版のブラウザと電子証明書との組合せが原因となって問題が発生していたことが分かった。
〔セキュリティ事故の発生事例〕
ある日,M 社に顧客から商品が届かないというクレームが入った。N 課長が調査したところ,配送センタに勤務していた S 氏が,営業担当者として異動後,営業担当者に配布される VPN 装置の ID とパスワードを利用して,自宅の PC から販売システムに接続していた。さらに,配送センタ勤務時に保管していた電子証明書のバックアップデータと利用者 PW を利用して,本来,営業担当者は行わない配送先の変更を行っていたことが分かった。顧客との打合せで,配送先を翌朝までに変更するように依頼された S 氏は,帰宅後に自宅から販売システムを利用して変更入力を行った。しかし,今月から該当する業務処理ルールが変更されていたので,結果として商品が届かなくなってしまった。M 社では,業務引継ぎを考慮して,異動後 1 か月間は異動前の所属部署の業務も利用可能としていたことが原因であった。
N 課長はこの事故を受け,異動者の異動前の所属部署の利用可能業務を,異動後直ちに無効にするように M 社セキュリティ運用ルールを改善した。また,情報セキュリティ管理を強化するために,利用者による電子証明書のバックアップの禁止を検討した。N 課長は,バックアップ禁止後に緊急で電子証明書が必要になった場合は,利用者本人が直接,情報システム部に電子メールで申請を行い,情報システム部では,申請の電子メールの返信に添付して,新しい電子証明書を本人に送付する手順へ変更することを考えた。
出題趣旨(IPA)
情報システムへのアクセス管理において,高いセキュリティを確保するために,利用者ID,パスワードだけではなく,電子証明書を利用して認証を行うことが多くなってきている。電子証明書を利用した認証を行うためには,電子証明書のバックアップの保管方法や,紛失時の運用対応方式,セキュリティ事故発生時の対応方法などを,あらかじめ定めておく必要があるが,運用負荷とセキュリティ(認証強度)のバランスを考慮して方式を定めることが重要である。本問では,利用者認証サービスの運用について,セキュリティ上の問題点の発見,認証サービスを安定して稼働させるための考慮点,改善策などの観点から,ITサービスマネージャとしてのセキュリティ管理能力を問う。
設問と解答例
設問1(1)
40字以内
電子証明書の失効を防止する観点から,現在の運用上の問題点を 40 字以内で述べよ。
解答例
電子証明書の更新期限を決めておらず,未更新者への督促も行っていない。
解説
本文の根拠
〔電子証明書を利用した認証〕
電子証明書の有効期限は 2〜3 年の間で任意に設定できるが,M 社では,申請日のちょうど 2 年後を有効期限としている。
〔認証システムの運用状況〕
情報システム部では,発行済の電子証明書の有効期限が近づいた場合,利用者に対して,電子証明書の更新を行うように,有効期限の 20 日前に自動的に電子メールで通知している。しかし,更新を忘れる利用者が多く
今の運用では,有効期限の 20 日前にメールを1回送るだけである。いつまでに更新を申し込むかという期限も決めておらず,申し込まない人に催促もしない。
更新の手続は申込書・管理者の承認・情報システム部での発行と何段階もあり,日数が掛かる。更新期限を決めずメール1通で済ませていれば,忘れた人から順に失効していく。
40字。解答例は「電子証明書の更新期限を決めておらず,未更新者への督促も行っていない。」で33字。「期限を決めていない」「督促していない」の2つを並べる。
採点講評(IPA)
設問1では,ITサービスマネージャとして,情報セキュリティを維持しサービスを安定的に稼働させるとともに,システム運用における作業負荷の低減に着目してほしかった。
設問1(2)
40字以内
情報システム部の作業効率を向上させるために,電子証明書の運用方法において見直すべき点を,40 字以内で述べよ。
解答例
有効期限をそろえて電子証明書の更新作業回数を減らす。
解説
本文の根拠
〔電子証明書の発行ルール〕
電子証明書の発行作業は手順化されていて,一度に複数の電子証明書の発行が可能であるが,情報システム部では申請される都度,発行作業を行っている。
〔電子証明書を利用した認証〕
電子証明書の有効期限は 2〜3 年の間で任意に設定できるが,M 社では,申請日のちょうど 2 年後を有効期限としている。
有効期限を「申請日のちょうど 2 年後」にしているので,期限は人ごとにばらばらになる。更新も毎日のように少しずつ発生し,情報システム部はそのたびに作業を中断している。
一方で,発行は一度に複数まとめてでき,有効期限も 2〜3 年の間で自由に決められる。期限をたとえば月末や年度末にそろえれば,更新をまとめて1回で処理でき,作業の回数が減る。
40字。解答例は「有効期限をそろえて電子証明書の更新作業回数を減らす。」で26字。「期限をそろえる」ことと,それで「回数が減る」ことの両方を書く。
採点講評(IPA)
設問1では,ITサービスマネージャとして,情報セキュリティを維持しサービスを安定的に稼働させるとともに,システム運用における作業負荷の低減に着目してほしかった。
設問2(1)
30字以内
トラブルの原因となった,M 社販売システムの運用方法の問題点を,30 字以内で述べよ。
解答例
解説
本文の根拠
〔販売システムの概要〕
社員が利用するモバイル PC と PC のブラウザは,最新のセキュリティパッチが適用されているかどうかが自動的にチェックされ,常に最新版にバージョンアップされる運用としている。
〔認証システムのトラブル発生事例〕
数日前に,あるブラウザに大幅なバージョンアップがあり,最新版のブラウザと電子証明書との組合せが原因となって問題が発生していたことが分かった。
原因は,最新版のブラウザと電子証明書の組合せだった。ブラウザは自動で常に最新版にされる運用なので,販売システムで使えるかどうかを誰も確かめないまま,社員の PC に入ってしまった。
セキュリティパッチを急いで当てる考え方自体は正しい。問題は,業務システムとの動作を事前に検証する段階がないことである。
30字。解答例は「事前検証せずにブラウザを自動更新させている。」で22字。「自動更新」そのものではなく「事前検証なしに」を問題として書く。
採点講評(IPA)
設問2は,正答率が高かった。障害の切分けについては,おおむね理解されているようであった。
設問2(2)
30字以内
障害の切分けのために,N 課長はどのように認証ログの調査を行ったか。30 字以内で述べよ。
解答例
該当端末で正常に認証が行われたときとの違いを確認する。
解説
本文の根拠
〔電子証明書を利用した認証〕
認証結果はすべて認証ログに記録される。
図 2
日時,利用者 ID,認証可否,接続元 IP アドレス,要求先 URL,ブラウザ情報(注1)。注1)ブラウザの種類とバージョンが記録される。
〔認証システムのトラブル発生事例〕
ある日,前日までは正常に認証できていた PC の一部で販売システムへのログインができなくなるというトラブルが発生し始めた。
「前日までは正常に認証できていた PC」が対象である。認証ログは結果をすべて残しており,項目にはブラウザの種類とバージョンがある。
同じ端末について,正常に認証できていたときのログと,失敗したときのログを並べれば,何が変わったかが分かる。ここではブラウザのバージョンが変わっていたことが見つかる。
30字。解答例は「該当端末で正常に認証が行われたときとの違いを確認する。」で26字。「ブラウザのバージョンを見る」と結論だけ書くより,比べて違いを探すという調べ方を書く。
採点講評(IPA)
設問2は,正答率が高かった。障害の切分けについては,おおむね理解されているようであった。
設問3(1)
25字以内
事故防止の対策として,情報セキュリティ管理を強化するためにシステムに追加すべき機能を,25 字以内で述べよ。
解答例
解説
本文の根拠
〔電子証明書を利用した認証〕
さらに,認証サーバに保存されている利用者 ID ごとの利用可能業務と比較し,認証可否の判定を行う。
図 2
接続元 IP アドレス
〔セキュリティ事故の発生事例〕
配送センタ勤務時に保管していた電子証明書のバックアップデータと利用者 PW を利用して,本来,営業担当者は行わない配送先の変更を行っていたことが分かった。
S 氏は自宅からインターネット経由で入り,配送センタでしか行わない配送先の変更をしていた。今の認証は利用者 ID ごとに業務を絞るだけで,どこから接続しているかは見ていない。
社外からの接続は VPN 装置を通るので,接続元で社内か社外かを見分けられる。社外からは参照業務だけ,というように接続元ごとに使える業務を制限すれば,今回の変更はできなかった。
25字。解答例は「接続元ごとに利用可能業務を制限する。」で18字。「機能」を問われているので,運用ルールではなくシステムで制限する形で書く。
採点講評(IPA)
設問3 (1)は,正答率が低かった。ITサービスマネージャとして,情報セキュリティ維持のためには,情報へのアクセスを許可された人だけが情報を使うことができるようにする機密性の観点での対策が重要であることを理解してほしい。
設問3(2)
45字以内
電子証明書のバックアップ禁止後も,現在の電子証明書発行手順を踏襲した場合の問題点を,45 字以内で述べよ。
解答例
PCが故障した場合の電子証明書再発行処理に時間が掛かり,販売システムが利用できない。
解説
本文の根拠
〔電子証明書の発行ルール〕
新しく PC を利用する場合や,使用中の電子証明書の有効期限が近づいた場合は,利用者本人が申込書に記入し,所属部署の管理者の承認を得た上で情報システム部に送付し,情報システム部の担当者が新しい電子証明書を発行する。
〔電子証明書の発行ルール〕
M 社では,PC の故障時に備えて,発行済の電子証明書を外部記憶媒体にバックアップし,利用者の責任で鍵付きロッカーに保管しておく取決めになっている。
バックアップは PC が故障したときの備えだった。禁止すると,故障時は一から発行し直すしかない。
今の発行手順は,申込書の記入,管理者の承認,情報システム部の審査,発行用 PW の郵送と手渡しと,日数の掛かる段階が続く。その間,利用者は販売システムを使えず,業務が止まる。
45字。解答例は「PCが故障した場合の電子証明書再発行処理に時間が掛かり,販売システムが利用できない。」で41字。「時間が掛かる」だけで止めず,その結果「販売システムが使えない」まで書く。
採点講評(IPA)
設問3 (1)は,正答率が低かった。ITサービスマネージャとして,情報セキュリティ維持のためには,情報へのアクセスを許可された人だけが情報を使うことができるようにする機密性の観点での対策が重要であることを理解してほしい。
設問3(3)
30字以内
N 課長が検討したバックアップ禁止後の電子証明書の再発行手順には,情報セキュリティ管理上の問題がある。問題点を 30 字以内で述べよ。
解答例(2通り)
所属部署の管理者の承認を得ていない。 確実に本人確認を行うプロセスになっていない。
解説
本文の根拠
〔電子証明書の発行ルール〕
利用者本人が申込書に記入し,所属部署の管理者の承認を得た上で情報システム部に送付し
〔電子証明書の発行ルール〕
発行用 ID は電子メールで利用者あてに送付し,発行用 PW は所属部署の管理者あてに郵送する。
〔セキュリティ事故の発生事例〕
利用者本人が直接,情報システム部に電子メールで申請を行い,情報システム部では,申請の電子メールの返信に添付して,新しい電子証明書を本人に送付する手順へ変更することを考えた。
N 課長の案では,申請も受け取りもメールだけで済む。通常の発行では必ず入る所属部署の管理者の承認がない。
また,通常は発行用 ID をメールで,発行用 PW を管理者経由で渡し,2つの経路に分けて本人にしか揃わないようにしている。メールの返信に証明書を付けるだけでは,メールを送ってきたのが本人かどうかを確かめられない。
30字。解答例は「所属部署の管理者の承認を得ていない。」(17字)と「確実に本人確認を行うプロセスになっていない。」(22字)の2つがあり,どちらかを書けばよい。
採点講評(IPA)
設問3 (1)は,正答率が低かった。ITサービスマネージャとして,情報セキュリティ維持のためには,情報へのアクセスを許可された人だけが情報を使うことができるようにする機密性の観点での対策が重要であることを理解してほしい。
出典:平成21年度 秋期 ITサービスマネージャ試験 午後Ⅰ 問4(表記を一部改変)
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