平成26年度 秋期 午後Ⅰ

平成26年度 秋期に実施されたITサービスマネージャ試験 午後Ⅰの全3問(記述式)です。事例本文・設問・解答例と解説をそのまま読めます。

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問1 IT サービスの設計

IT サービスの設計に関する次の記述を読んで,設問1〜4に答えよ。

X 社は,全国に家電量販店を 20 店舗展開している。各店舗の営業時間は 9 時から 22 時までで,休業日は月 1 回である。X 社では,情報システム部が販売システムを運用し,販売業務を支援する IT サービスとして提供している。

X 社では業務拡大に伴い,販売システムを再構築することになった。再構築に当たっては,必要なアプリケーションの開発を行うとともに,インフラストラクチャを更新し,新規 IT サービスを提供する計画である。現在,IT サービスマネージャの H 氏が,新規 IT サービスに関する設計を行っている。

〔新規 IT サービスの概要〕

サービス名称・サービスレベル項目・サービスレベル目標の表。販売支援サービス:サービス時間 毎日 9 時から 22 時まで(ただし,計画停止時間を除く)。計画停止 月次定期保守日(月 1 回の休業日)の 9 時から 22 時まで。応答性能 5 秒以内。サービス回復時間 1 時間以内(障害発生の検知からサービスの回復まで)。障害発生連絡 障害発生の検知から 10 分以内。情報検索サービス:サービス時間 月曜日の 1 時から翌週日曜日の 1 時まで(ただし,計画停止時間を除く)。計画停止 月次定期保守日(月 1 回の休業日)の 9 時から 22 時まで,日次定期保守時間帯(毎日 5 時から 6 時まで)。応答性能 規定しない。サービス回復時間 2 時間以内(障害発生の検知からサービスの回復まで)。障害発生連絡 障害発生の検知から 10 分以内。
表 1 サービスレベル目標
店舗1から店舗 n と情報システム部サーバルームを IP-VPN で結んだ構成図。店舗1では,POS レジ1から POS レジ m と検索端末が SW に接続され,SW はルータを介して IP-VPN につながる。情報システム部サーバルームでは,IP-VPN からルータを経て SW につながり,SW に確認用 POS レジ,確認用検索端末,Web サーバ,AP サーバ①,AP サーバ②,DB サーバが接続されている。DB サーバはストレージ(オンライン DB 群と情報検索 DB 群)につながる。SW:レイヤ2スイッチ。AP:アプリケーション。DB:データベース。
図 1 再構築後の販売システムの構成
サービス名称・販売システムの処理概要・販売システムの処理の流れ(注1)の表。販売支援サービス:POS レジからの入力内容(注2)を,販売実績レコードとしてオンライン DB 群に記録する。POS レジ → AP サーバ① → DB サーバ。情報検索サービス:検索端末から入力された検索条件に基づいて情報検索 DB 群を検索し,結果を検索端末に表示する。検索端末 → Web サーバ → AP サーバ② → DB サーバ → AP サーバ② → Web サーバ → 検索端末。注1)IP-VPN,ルータ,SW 及びストレージは省略している。注2)商品コードと販売数などの他に,X 社の店舗利用において特典を受けるために会員登録している客(以下,X 社の会員という)については,会員番号を入力する。
表 2 再構築後の販売システムの処理概要と処理の流れ

販売実績レコードは,AP サーバ②で毎日 1 時に起動されるバッチ処理によって,販売日・販売店舗・商品コード・会員番号ごとに販売数及び販売金額が集計され,販売情報集計レコードとして情報検索 DB 群に反映される。バッチ処理の処理時間は 15 分である。バッチ処理では,前日の開店から閉店までの販売実績レコードが処理される。

確認用 POS レジ及び確認用検索端末(以下,これらを確認用端末という)は,店舗でインシデントが発生した場合,情報システム部がインシデントを再現して確認するための機器である。情報システム部は確認用端末を使用してインシデントの内容を確認した後,サービスレベル目標に従って販売部に障害発生連絡を行う。

〔サービスの可用性を考慮した構成検討〕

情報システム部サーバルームには機器メーカの保守員が常駐し,故障した機器を復旧させる。その際,必要となる部品は X 社に常備されている。

H 氏は,サービスレベル目標に従ってサービスの可用性を維持するために,機器が故障した場合に備えて,機器を冗長化する必要があるかどうかの検討を行った。機器を冗長化した場合,故障した機器は自動的に他の機器に切り替えられ,サービスを継続することができる。H 氏は,複数の機器の故障が同時に発生しないことを前提に,検討結果を表 3 にまとめた。ここで,冗長化が必要な場合は“○”を,不要な場合は“×”を,当該サービス提供時に利用しない場合は“-”を記入した。

機器ごとの復旧時間(注1,単位:分)と,サービスごとの冗長化の要否の表。ルータ:復旧時間 20,販売支援サービス ×,情報検索サービス ×。SW:20,×,×。Web サーバ:50,-,×。AP サーバ①:50,[ a ],-。AP サーバ②:50,-,[ b ]。以下省略。注1)障害発生の検知から復旧完了までの,機器 1 台当たりの所要時間。
表 3 機器の冗長化検討結果

ルータ及び SW は,当該機器の復旧完了によってサービス回復となるが,Web サーバ及び AP サーバは,当該機器の復旧完了後にアプリケーションの動作確認のために 15 分必要である。

その後,販売部から,販売支援サービスに“お得意様割引機能”を追加したいという要求があり,情報システム部で対応することにした。この機能は,X 社の会員に対する販売業務において,店員が販売支援サービスを使用する際,情報検索 DB 群を自動的に検索し,過去の一定期間における購入金額累計が一定金額以上に達している場合に割引を適用するというものである。検索の際には,AP サーバ②の DB 検索アプリケーションを使用する。この要求を受け,H 氏は機器の冗長化の必要性について見直すことにした。

〔バックアップ方式の検討〕

H 氏は,ストレージ機器の故障を想定し,情報検索 DB 群のバックアップ方式の検討に着手した。ストレージ機器が故障した場合には,機器の復旧に 40 分,リストア後の確認などの回復作業に 20 分掛かる。情報検索 DB 群には過去 5 年分の販売情報集計レコードが格納されており,新商品の販売開始,既存商品の販売終了によってレコード件数の変動はあるものの,データ量はほぼ一定である。

H 氏は,表 4 に示す案 1 と案 2 のバックアップ方式案を策定した。

案・バックアップの概要・リストアの概要の表。案1:フルバックアップ方式。バックアップ:毎日 1 時のバッチ処理が完了した後に,フルバックアップを取得する。フルバックアップの所要時間 40 分。リストア:最新のフルバックアップから復元する。フルバックアップのリストア所要時間 40 分。案2:増分バックアップ(注1)併用方式。バックアップ:毎週日曜日 1 時のバッチ処理が完了した後にフルバックアップを取得する。フルバックアップの所要時間 40 分。毎週月曜日から土曜日まで,毎日 1 時のバッチ処理が完了した後に,増分バックアップを取得する。増分バックアップの所要時間 5 分。リストア:最新のフルバックアップから復元する。フルバックアップのリストア所要時間 40 分。障害発生当日までの増分バックアップを順次復元する。1 日分の増分バックアップのリストア所要時間 5 分。注1)増分バックアップとは,前回のフルバックアップ又は増分バックアップ以降に変更された部分だけをバックアップする方法である。
表 4 情報検索 DB 群のバックアップ方式案

〔応答性能確保に向けた方策の検討〕

H 氏の当初の想定では,各サーバはキャパシティに余裕があり,来店客数が想定どおりの場合は,“お得意様割引機能”を導入してもサービスレベル目標に定められた応答性能を実現できる見込みであった。しかし,再構築した販売システムの稼働開始後,来店客数の増加などによって,平常時の CPU 使用率が当初の想定よりも上昇した場合,当日に実施が決定されるセールの開催で突発的に業務量が増加すると,AP サーバ②の CPU 使用率が安定稼働の基準値を超え,販売支援サービスの応答性能が急激に悪化することが予想された。そこで H 氏は,AP サーバ②の CPU 能力を増強することにしたが,CPU 能力の増強には数か月掛かる。

H 氏は,AP サーバ②の CPU 能力が増強されるまでの間,販売支援サービスの応答性能悪化の兆候が見られる場合には,情報検索サービスの使用を中止するよう,各店舗に対して通知するという暫定対策を策定した。

後日,H 氏が策定した暫定対策は,関係者の同意を得て実施されることになった。

出題趣旨(IPA)

ITサービスマネージャは,サービスに関する顧客の要件やサービスレベルの達成目標を踏まえ,サービスを設計していく能力が求められる。本問では,販売システムの再構築を通じて必要となる,サービス継続及び可用性管理,キャパシティ管理に関わるサービスの設計能力を問う。

設問と解答例

設問1 60字以内

〔新規 IT サービスの概要〕について,店舗でインシデントが発生したときに,情報システム部がインシデントを再現して確認する場合において,図 1 の販売システムの問題点を,構成上の観点から 60 字以内で述べよ。

解答例

  • 確認用端末がサーバとIP-VPNを介して接続されていないので,確認用端末でインシデントを再現できないおそれがある。
解説

本文の根拠

図 1

情報システム部サーバルームでは,IP-VPN からルータを経て SW につながり,SW に確認用 POS レジ,確認用検索端末,Web サーバ,AP サーバ①,AP サーバ②,DB サーバが接続されている。

〔新規 IT サービスの概要〕

確認用 POS レジ及び確認用検索端末(以下,これらを確認用端末という)は,店舗でインシデントが発生した場合,情報システム部がインシデントを再現して確認するための機器である。

表 2 注1)

IP-VPN,ルータ,SW 及びストレージは省略している。

店舗の POS レジや検索端末は,ルータから IP-VPN を通ってサーバにつながっている。一方,確認用端末はサーバルームの SW に直接つながっていて,IP-VPN もルータも通らない。

店舗のインシデントには,IP-VPN やルータが原因のものもある。確認用端末は店舗と同じ経路を通らないので,そうしたインシデントを再現できないおそれがある。講評のとおり,図 1 の構成を店舗側と比べると気付ける。

60字。解答例は「確認用端末がサーバとIP-VPNを介して接続されていないので,確認用端末でインシデントを再現できないおそれがある。」で55字。構成の違い(IP-VPN を通らない)と,その結果(再現できない)の両方を書く。

採点講評(IPA)

設問1は,正答率が低かった。設問が求めている内容を正しく把握すれば図1のシステム構成上の観点から問題点を導けるので,落ち着いて題意を読み取ってほしい。

設問2 解答欄2つ

〔サービスの可用性を考慮した構成検討〕について,表 3 中の ab に入れる適切な記号を答えよ。

〔a〕解答例

〔b〕解答例

  • ×
解説

本文の根拠

表 1

サービス回復時間 1 時間以内(障害発生の検知からサービスの回復まで)。

表 1

サービス回復時間 2 時間以内(障害発生の検知からサービスの回復まで)。

表 3

AP サーバ①:50,a,-。AP サーバ②:50,-,b

〔サービスの可用性を考慮した構成検討〕

ルータ及び SW は,当該機器の復旧完了によってサービス回復となるが,Web サーバ及び AP サーバは,当該機器の復旧完了後にアプリケーションの動作確認のために 15 分必要である。

冗長化が要るのは,壊れた機器を直してサービスを戻すまでが,回復時間の目標を超える場合である。AP サーバは復旧に 50 分,そのあと動作確認に 15 分で,合わせて 65 分掛かる。

a の AP サーバ①は販売支援サービスで使い,目標は 1 時間(60 分)。65 分は超えるので冗長化が要り,「○」。b の AP サーバ②は情報検索サービスで使い,目標は 2 時間(120 分)。65 分で間に合うので「×」。

記号を答える。ルータと SW は 20 分で動作確認も要らないので,どちらのサービスでも「×」になっていることと合う。

設問3(1)

H 氏が策定した案 1 と案 2 のどちらを採用すべきか。答案用紙の案 1・案 2 のいずれかを○で囲んで示せ。なお,バッチ処理中,バックアップ・リストアの実施中及び回復作業中にストレージ機器の故障は発生しないものとする。

解答例

  • 案1
解説

本文の根拠

〔バックアップ方式の検討〕

ストレージ機器が故障した場合には,機器の復旧に 40 分,リストア後の確認などの回復作業に 20 分掛かる。

表 4

案1:フルバックアップ方式。バックアップ:毎日 1 時のバッチ処理が完了した後に,フルバックアップを取得する。フルバックアップの所要時間 40 分。リストア:最新のフルバックアップから復元する。フルバックアップのリストア所要時間 40 分。

表 4

障害発生当日までの増分バックアップを順次復元する。1 日分の増分バックアップのリストア所要時間 5 分。

情報検索サービスの回復時間の目標は 2 時間(120 分)。ストレージの故障では,機器の復旧 40 分と確認 20 分で 60 分掛かり,リストアに使えるのは 60 分である。

案 1 は毎日フルを戻すだけで 40 分,合計 100 分で,いつ壊れても間に合う。案 2 はフル 40 分に増分を足す。日曜日のフルのあと月曜日から毎日 5 分ずつ増え,4 日分(20 分)までは 60 分に収まるが,金曜日は 5 日分で 65 分,土曜日は 6 日分で 70 分となり,超える。

答えは「案 1」。バックアップの取得時間は案 2 のほうが短いが,設問は回復時間の目標を守れるかで比べる。

設問3(2) 60字以内

(1)の採用理由を,60 字以内で具体的に述べよ。

解答例

  • 案1は,障害発生日時に関係なく,サービスレベル目標で定めているサービス回復時間内に回復できるから
解説

本文の根拠

表 1

サービス回復時間 2 時間以内(障害発生の検知からサービスの回復まで)。

(1)の計算のとおり,案 1 は故障した日に関係なく 100 分で回復でき,目標の 120 分に収まる。

案 2 は増分がたまる週の後半に故障すると,120 分を超えてしまう。サービスレベル目標はいつ壊れても守る必要があるので,案 1 を選ぶ。講評のとおり,顧客が求めるサービスレベル目標を達成できるかが判断の軸になる。

60字。解答例は「案1は,障害発生日時に関係なく,サービスレベル目標で定めているサービス回復時間内に回復できるから」で47字。「いつ壊れても」と「サービス回復時間内」の2点を入れる。

採点講評(IPA)

設問3(2)は,正答率が高かった。ITサービスマネージャとして,顧客の要求するサービスレベル目標を達成することの重要性については,理解されていると思われる。

設問4(1) 20字以内

サービス運用段階でモニタリングする監視項目を,20 字以内で述べよ。

解答例

  • APサーバ②のCPU使用率
解説

本文の根拠

〔応答性能確保に向けた方策の検討〕

当日に実施が決定されるセールの開催で突発的に業務量が増加すると,AP サーバ②の CPU 使用率が安定稼働の基準値を超え,販売支援サービスの応答性能が急激に悪化することが予想された。

〔サービスの可用性を考慮した構成検討〕

検索の際には,AP サーバ②の DB 検索アプリケーションを使用する。

お得意様割引機能を入れると,販売支援サービスも AP サーバ②を使うようになる。セールで業務量が急に増えると,AP サーバ②の CPU 使用率が基準値を超え,販売支援サービスの応答が急に悪くなると予想されている。

悪化の手前で気付くには,その原因である AP サーバ②の CPU 使用率を見張ればよい。

20字。解答例は「APサーバ②のCPU使用率」で13字。「CPU 使用率」だけでなく,どのサーバかまで書く。

設問4(2) 60字以内

監視項目として,基準値とは別に新たにしきい値を設定し,暫定対策を実施することにした。暫定対策実施の判断方法について,しきい値も含めて 60 字以内で具体的に述べよ。

解答例

  • 基準値を超過する前に対策が実施できるようにしきい値を設定し,セール実施時に監視項目のしきい値超過の有無を判断する。
解説

本文の根拠

〔応答性能確保に向けた方策の検討〕

AP サーバ②の CPU 使用率が安定稼働の基準値を超え,販売支援サービスの応答性能が急激に悪化することが予想された。

〔応答性能確保に向けた方策の検討〕

H 氏は,AP サーバ②の CPU 能力が増強されるまでの間,販売支援サービスの応答性能悪化の兆候が見られる場合には,情報検索サービスの使用を中止するよう,各店舗に対して通知するという暫定対策を策定した。

基準値を超えると応答が急激に悪くなるので,基準値で気付いたのでは暫定対策が間に合わない。基準値より手前に,暫定対策を打つためのしきい値を別に置く。

業務量が急に増えるのは当日に決まるセールのときである。セールを行うときに AP サーバ②の CPU 使用率がしきい値を超えていないかを見て,超えていれば店舗に情報検索サービスの中止を通知する。講評のとおり,悪化が始まる水準にしきい値を置くのは遅い。

60字。解答例は「基準値を超過する前に対策が実施できるようにしきい値を設定し,セール実施時に監視項目のしきい値超過の有無を判断する。」で56字。しきい値の位置と,判断するタイミングの両方を書く。

採点講評(IPA)

設問4(2)は,正答率が低く,性能悪化が始まる水準にしきい値を設定するなどの誤った解答が散見された。サービスレベル目標が達成できなくなる前に予防的対策を講じるための管理の仕組みを設計することの重要性を認識してほしい。

出典:平成26年度 秋期 ITサービスマネージャ試験 午後Ⅰ 問1(表記を一部改変)

問2 キャパシティ管理

キャパシティ管理に関する次の記述を読んで,設問1〜3に答えよ。

R 社は,カード決済システムを IT サービスとして提供している。R 社が発行するクレジットカードの利用者(以下,カード利用者という)は,R 社のクレジットカード決済を行う店舗(以下,加盟店という)及びオンラインショッピングサイト(以下,オンラインサイトという)で,クレジットカードを使って決済することができる。

〔カード決済システムの構成〕

R 社が発行しているクレジットカードの情報は,R 社のシステム部が運用するカード決済システムで管理されている。カード決済システムの構成を,図 1 に示す。

加盟店1から加盟店 n,オンラインサイト1からオンラインサイト m が IP-VPN を経由してデータセンタにつながる構成図。加盟店1では決済端末1から決済端末 h が LAN で L3SW に接続され,L3SW が IP-VPN につながる。加盟店 n では決済端末 j が L3SW を介して IP-VPN につながる。データセンタでは,IP-VPN から L3SW を経て業務サーバ1と業務サーバ2 につながり,両サーバは LAN で DB サーバに接続され,DB サーバはストレージ(ディスク装置1,ディスク装置2,ディスク装置3)につながる。L3SW:レイヤ3スイッチ。DB:データベース。
図 1 カード決済システムの構成(2012 年 12 月末現在)

データセンタには,業務サーバ(2 台),DB サーバ(1 台),ストレージ(ディスク装置 3 台)が設置されている。ディスク装置にはカード利用者の会員情報の他にカード利用者ごとの利用履歴が 1 年分保管されている。これらのデータは DB サーバで管理されている。業務サーバ 1,2 では,カード決済システムのアプリケーションが稼働しており,L3SW を経由して加盟店及びオンラインサイトと IP-VPN で接続されている。

加盟店には,IP-VPN に接続する決済端末が設置されている。決済端末は処理装置,メモリ,クレジットカードの読取りを行うカードリーダ,及びカード利用者が暗証番号を入力する際に利用する PIN パッドで構成されている。

〔加盟店向けサービス〕

加盟店は,クレジットカードを利用して決済するために,加盟店向けの決済サービス(以下,加盟店決済サービスという)を利用する。システム部での対応は,次のとおりである。

〔オンラインサイト向けサービス〕

最近,カード利用者によるオンラインサイトの利用が増えている。そこで R 社では,オンラインサイト向けの決済サービス(以下,オンライン決済サービスという)を強化している。システム部での対応は,次のとおりである。

〔キャパシティ計画〕

営業部では,2012 年にカード利用者の拡大を計画し,その後 3 年間の需要予測を行い,業務計画値として管理を開始した。業務計画に基づいて,カード利用者数,加盟店数,オンラインサイト数の 12 月末時点での予測値を,表 1 に整理した。

予測項目ごとに,2012 年 12 月末(実績値),2013 年・2014 年・2015 年 12 月末(予測値)を示す表。カード利用者数:200 万人,500 万人,650 万人,750 万人。加盟店数:150 店,200 店,250 店,300 店。オンラインサイト数:10 サイト,20 サイト,60 サイト,80 サイト。
表 1 カード利用者数,加盟店数,オンラインサイト数の予測値

システム部の IT サービスマネージャである L 氏は,営業部が策定する業務計画に合わせて,毎年 1 月にキャパシティ計画を作成している。サーバ及びディスク装置については,これまでのサービス運用実績に基づき,要求基準に従って計画する。具体的には,当該年の 12 月末の予測値に基づき,業務サーバ,DB サーバ及びディスク装置の増強計画を策定する。キャパシティの増強が必要と判断された場合のサーバ及びディスク装置の増設作業は,あらかじめ決められたサービス停止期間中に行う。表 2 に,サーバ及びディスク装置の容量・能力と要求基準を示す。

構成品目・容量・能力・要求基準の表。業務サーバ:1 台当たり 30 件/秒のサービス要求を処理できる。要求基準:加盟店は 1 店舗当たり 0.1 件/秒,オンラインサイトは 1 サイト当たり 1 件/秒の要求が送信されるものとして,必要な台数を決定する。DB サーバ:1 台当たりカード利用者数 800 万人のデータを処理できる。要求基準:カード利用者数が 1 台当たり 750 万人を超えた時点で増設する。ディスク装置:1 台当たり 10G バイト(10,000M バイト)の容量のデータを保管できる。要求基準:会員情報:カード利用者 1 万人当たり 20M バイトを確保。利用履歴(注1):加盟店は 1 店舗当たり 100M バイトを確保,オンラインサイトは 1 サイト当たり 500M バイトを確保。注1)利用履歴は,カード利用者の利用頻度に比例して増加する。
表 2 サーバ及びディスク装置の容量・能力と要求基準

〔加盟店向けサービスの応答時間悪化〕

2013 年 1 月のある日,加盟店から,“サービスの応答時間が時々長くなる”という苦情があった。L 氏が調査したところ,昼休みの時間帯に遅延が発生していること,及びオンラインサイト数の増加に伴って,オンラインサイトでの一括決済サービスのデータ量が多くなっていることから,データセンタと IP-VPN を接続する回線が遅延の原因になっていることが分かった。そこで,L 氏は次のような対策を検討した。

〔大口オンラインサイトの追加〕

2013 年 2 月になって,営業部では,計画外であるが既存オンラインサイトと比べて利用量が多い大口オンラインサイトを獲得した。これによって,2013 年 12 月末のオンラインサイト数が一つ増えて,21 サイトとなる。大口オンラインサイトは,多数のカード利用者の利用が見込まれており,サービス要求数とカード利用者の利用頻度は,それぞれ既存オンラインサイトの 1 サイト当たりのサービス要求数と利用頻度の 5 倍であることが分かった。そこで,L 氏は,2013 年 1 月に策定した(ウ)キャパシティ計画の見直しを行った。

〔電子サインサービスの開始〕

2013 年 10 月になって,R 社では,加盟店向けの新規サービスとして,2014 年 7 月から電子サインサービスを導入することを決定した。現在,加盟店では,カード利用者本人がサインした伝票を保管しているが,今後は電子データとして保管し,ペーパレス化を実現する。決済端末に電子サインパッドを接続し,カード利用者が電子サインパッドにサインすると,取引データとサインが電子データとして保管される。電子データは,利用履歴の一部としてディスク装置に保管される。L 氏は電子サインの導入計画を営業部に確認したところ,“当初は加盟店の 1 割程度と見込んでいる。今後は 2014 年 6 月に需要予測を行い,詳細計画を策定する。”とのことであった。L 氏は,1 割の加盟店が利用する想定でデータ量を算出して 2014 年 1 月のキャパシティ計画の見直しに反映し,2014 年 5 月に電子サインを保管するディスク装置を増設することにした。また,加盟店からの電子サインデータの送信について検討した結果,回線の見直しは必要ないと判断した。

電子サインサービスを利用するためには,加盟店が営業している日中時間帯にプログラムを決済端末に配付する。プログラムの配付が完了した後,決済端末に電子サインパッドを接続し,電子サインサービスの利用を開始する。決済端末に配付するプログラムのサイズは,1 台当たり 5M バイトである。

電子サインサービス開始に当たり,営業部では電子サイン導入キャンペーンを実施し,多数の加盟店に対して積極的に営業活動を行い,導入を拡大していく予定である。

出題趣旨(IPA)

キャパシティ管理では,キャパシティの要求事項に合意し,需要を予測し,要求事項を満たすことを確実にするために,計画を策定する。計画策定は,顧客の事業計画を将来のサービスの要求事項に反映する事業のキャパシティ管理,サービスの応答時間など合意したサービス目標を満たすことを確実にするためのサービスのキャパシティ管理,運用資源及びコンポーネントの計画・管理を中心とするコンポーネントのキャパシティ管理などの分野で実施する。本問では,ITサービスマネージャに要求されるキャパシティ管理の能力を問う。

設問と解答例

設問1(1) 40字以内

L 氏が,本文中の下線(ア)で回線を増設した理由を,サービスのキャパシティ管理の観点から 40 字以内で述べよ。

解答例

  • 営業部と合意した加盟店決済サービスの応答時間を保証する必要があるから
解説

本文の根拠

〔加盟店向けサービス〕

加盟店では顧客との対面販売が中心で短時間での応答が求められるので,システム部は加盟店決済サービスの応答時間については特に考慮し,営業部と合意している。

〔加盟店向けサービスの応答時間悪化〕

オンラインサイト数の増加に伴って,オンラインサイトでの一括決済サービスのデータ量が多くなっていることから,データセンタと IP-VPN を接続する回線が遅延の原因になっていることが分かった。

回線を分けるのは,一括決済のデータに押されて加盟店の決済が遅くなっているからである。加盟店決済サービスの応答時間は,営業部と合意したサービス目標である。

サービスのキャパシティ管理は,合意したサービス目標を満たす容量を確保することを見る。一括決済を新しい回線に逃がせば,加盟店決済サービスの応答時間を守れる。講評のとおり,応答時間などサービス目標の達成を観点に書く。

40字。解答例は「営業部と合意した加盟店決済サービスの応答時間を保証する必要があるから」で33字。「合意した」「応答時間」の2語で,サービス目標を守るためだと示す。

採点講評(IPA)

設問1(1)は,正答率が低かった。サービスのキャパシティ管理の観点として,応答時間などサービス目標の達成が重要であることを認識してほしかった。

設問1(2) 40字以内

本文中の下線(イ)で実施する方策を,40 字以内で述べよ。

解答例

  • 一括決済サービスのためのバッチ処理は,繁忙時間帯には起動しない。
解説

本文の根拠

〔オンラインサイト向けサービス〕

業務サーバでは,一括決済サービスのためのバッチ処理を 1 時間に 1 回起動し,全てのカード利用者の決済処理終了後に,送信元の全てのオンラインサイトに一括して処理結果を回答している。

〔加盟店向けサービスの応答時間悪化〕

0 時から 12 時までに受け付けた要求は 18 時までに,12 時から 24 時までに受け付けた要求は翌日 6 時までに回答すればよいことが分かった。

〔オンラインサイト向けサービス〕

特に,昼休み,夜間などの繁忙時間帯に,オンラインサイトで大量の決済処理が集中する場合を考慮して

今は一括決済のバッチを 1 時間に 1 回動かし,結果を回線に流している。遅延は昼休みの時間帯に起きている。

回答期限は,午前の受付分が 18 時まで,午後の受付分が翌朝 6 時までで,1 時間ごとに返す必要はない。昼休みや夜間など繁忙な時間帯にはバッチを起動せず,空いている時間にまとめて処理しても,期限は守れる。

40字。解答例は「一括決済サービスのためのバッチ処理は,繁忙時間帯には起動しない。」で31字。「運用方法を工夫して」とあるので,いつ動かさないかという運用のルールで書く。

設問2 50字以内

〔大口オンラインサイトの追加〕について,当初考えた 2013 年 1 月のキャパシティ計画で計画した構成品目ごとの台数に対して本文中の下線(ウ)で見直した内容を,増設が必要となった根拠とともに,50 字以内で具体的に述べよ。なお,回線の見直しは必要ないものとする。

解答例

  • 2013年12月末にストレージ容量が2.5Gバイト不足するので,ディスク装置を1台増設する。
解説

本文の根拠

表 1

カード利用者数:200 万人,500 万人,650 万人,750 万人。加盟店数:150 店,200 店,250 店,300 店。オンラインサイト数:10 サイト,20 サイト,60 サイト,80 サイト。

表 2

ディスク装置:1 台当たり 10G バイト(10,000M バイト)の容量のデータを保管できる。要求基準:会員情報:カード利用者 1 万人当たり 20M バイトを確保。利用履歴(注1):加盟店は 1 店舗当たり 100M バイトを確保,オンラインサイトは 1 サイト当たり 500M バイトを確保。注1)利用履歴は,カード利用者の利用頻度に比例して増加する。

〔大口オンラインサイトの追加〕

大口オンラインサイトは,多数のカード利用者の利用が見込まれており,サービス要求数とカード利用者の利用頻度は,それぞれ既存オンラインサイトの 1 サイト当たりのサービス要求数と利用頻度の 5 倍であることが分かった。

2013 年 12 月末で,構成品目ごとに当初計画と見直し後を比べる。業務サーバは,当初 200 × 0.1 + 20 × 1 = 40 件/秒,見直し後は大口の 5 件を足して 45 件/秒。2 台で 60 件/秒なので増設は要らない。DB サーバは 500 万人で 750 万人以下なので要らない。

ディスクは,当初 会員 500 × 20 = 10,000,加盟店 200 × 100 = 20,000,サイト 20 × 500 = 10,000 で合計 40,000M バイト,4 台。見直し後は大口の利用履歴が 5 倍の 2,500 増えて 42,500M バイト。4 台では 2,500M バイト(2.5G バイト)足りないので,もう 1 台増やす。

50字。解答例は「2013年12月末にストレージ容量が2.5Gバイト不足するので,ディスク装置を1台増設する。」で45字。講評のとおり,根拠の数字を示さずに「余裕を持って増強する」と書くのは誤り。

採点講評(IPA)

設問2では,与えられた要求基準を利用して計算すれば正答を導くことができるが,明確な根拠を示さずに単に余裕を持った増強を行うなどの誤った解答が多く見られた。

設問3(1)(a) 40字以内

L 氏が実施することにしたディスク装置増設計画のリスクを,40 字以内で述べよ。

解答例

  • 加盟店の1割を想定して計画しているので,ディスク装置の容量が不足する。
解説

本文の根拠

〔電子サインサービスの開始〕

“当初は加盟店の 1 割程度と見込んでいる。今後は 2014 年 6 月に需要予測を行い,詳細計画を策定する。”

〔電子サインサービスの開始〕

1 割の加盟店が利用する想定でデータ量を算出して 2014 年 1 月のキャパシティ計画の見直しに反映し,2014 年 5 月に電子サインを保管するディスク装置を増設することにした。

〔電子サインサービスの開始〕

電子サインサービス開始に当たり,営業部では電子サイン導入キャンペーンを実施し,多数の加盟店に対して積極的に営業活動を行い,導入を拡大していく予定である。

L 氏は,加盟店の 1 割が使う想定でディスクの増設量を決めた。この 1 割は営業部が「当初は」と言った目安で,詳しい需要予測は 2014 年 6 月に行う予定である。

しかも営業部はキャンペーンで導入を積極的に広げる。1 割より多くの加盟店が使い始めれば,電子サインのデータが増えて,5 月に増設したディスクでは足りなくなる。

40字。解答例は「加盟店の1割を想定して計画しているので,ディスク装置の容量が不足する。」で34字。計画の前提(1 割)と,起こること(容量不足)をつなげる。

設問3(1)(b) 40字以内

リスクを低減するのに必要な対策を,40 字以内で述べよ。

解答例

  • 営業部の需要予測に基づいて適切なタイミングでキャパシティ計画を見直す。
解説

本文の根拠

〔キャパシティ計画〕

システム部の IT サービスマネージャである L 氏は,営業部が策定する業務計画に合わせて,毎年 1 月にキャパシティ計画を作成している。

〔電子サインサービスの開始〕

今後は 2014 年 6 月に需要予測を行い,詳細計画を策定する。

キャパシティ計画は毎年 1 月にしか作っていない。営業部の需要予測は 6 月に出るので,次の見直しは翌年 1 月まで待つことになり,その間に容量が足りなくなるおそれがある。

年に 1 回の定期の見直しにこだわらず,営業部が需要予測を出したときなど,必要なタイミングでキャパシティ計画を見直す。

40字。解答例は「営業部の需要予測に基づいて適切なタイミングでキャパシティ計画を見直す。」で34字。見直しの根拠(需要予測)と時期(適切なタイミング)を入れる。

設問3(2) 40字以内

決済端末にプログラムを配付する活動に含まれるリスクを,サービス運用の観点から 40 字以内で述べよ。

解答例

  • 配付を開始すると,加盟店向けサービスの応答時間に影響を与える。
解説

本文の根拠

〔電子サインサービスの開始〕

電子サインサービスを利用するためには,加盟店が営業している日中時間帯にプログラムを決済端末に配付する。

〔電子サインサービスの開始〕

決済端末に配付するプログラムのサイズは,1 台当たり 5M バイトである。

〔加盟店向けサービス〕

加盟店でのカードの利用頻度と決済処理時の通信データ量を考慮して,加盟店と IP-VPN 間は 64k ビット/秒の回線で接続している。

加盟店の回線は 64k ビット/秒で,決済の小さなデータに合わせた細い回線である。そこへ 1 台 5M バイトのプログラムを,営業している日中に流す。

5M バイトは 40,000k ビットで,64k ビット/秒だと 1 台でも 10 分以上掛かる。その間,同じ回線を使う決済の通信が詰まり,加盟店決済サービスの応答時間が悪くなる。講評のとおり,リリースを展開する前にこうした影響とリスクを評価する。

40字。解答例は「配付を開始すると,加盟店向けサービスの応答時間に影響を与える。」で30字。サービス運用の観点なので,配付の失敗ではなく,サービスへの影響を書く。

採点講評(IPA)

設問3(2)は,正答率が高かった。リリースを稼働環境に展開する際は,計画立案段階で,リリースの影響,関連するリスクのアセスメントを行うことは,おおむね理解されているようであった。

出典:平成26年度 秋期 ITサービスマネージャ試験 午後Ⅰ 問2(表記を一部改変)

問3 データセンタの運用

データセンタの運用に関する次の記述を読んで,設問1〜3に答えよ。

U 社は,首都圏の数社の顧客からシステム運用を受託し,自社のデータセンタで運用サービスを提供している。U 社では,データセンタで災害が発生しても運用サービスの提供に支障を来さないように,自家発電装置と無停電電源装置の設置,免震装置の導入などによって災害対策を強化している。

データセンタ全体は運用管理者が管理している。データセンタの組織には権限及び責任に対応して専門部署があり,電源及び空調設備関係についての専門部署にはファシリティ担当が割り当てられている。また,データセンタのオペレータは,受託したシステムの運用状態を表示するシステム監視コンソール,及び空調設備関係の状態を表示する空調監視コンソールを使い,日常監視を行っている。

〔オペレータが行うインシデント対応手順〕

オペレータは,システム監視コンソールと空調監視コンソールに表示されるメッセージによってインシデントの発生を認識し,対応を行う。インシデント発生時の対応手順を,表 1 に示す。

手順と内容の表。受付:表示メッセージからインシデントの発生を認識し,発生事象に基づいてインシデント管理システムに登録する。優先度の割当て:全てのインシデントに優先度を割り当てる。インシデントの影響及び緊急度を考慮し,“高”又は“低”のいずれかを割り当てる。回復処理:優先度に応じた目標復旧時間(インシデントの受付から解決・終了までの最長許容時間)を守り,対応を行う。障害対応マニュアルに,表示メッセージに対応した処理の指示がある場合は,障害対応マニュアルに従って処理を行う。段階的取扱い:①〜③のいずれかの状況が発生した場合は,専門部署に回復処理を依頼する。①障害対応マニュアルに,表示メッセージに対応した処理の指示がない。②障害対応マニュアルに従って処理したが,回復しない。③目標復旧時間内に回復できないおそれがある。解決・終了:オペレータが自ら回復処理を行った場合は,回復処理及び解決の記録の更新を確認し,終了する。専門部署に回復処理を依頼した場合は,専門部署から回復処理完了の連絡を受け,回復状況を確認した上で,インシデントの解決とする。その後,回復処理及び解決の記録の更新を確認し,終了する。
表 1 インシデント発生時の対応手順

なお,目標復旧時間は,優先度“高”が 2 時間以内,優先度“低”が 8 時間以内と決められている。

システム監視コンソールと空調監視コンソールに出力される表示メッセージは,統一した基準に従って種類分けされている。例えば,空調監視コンソールの表示メッセージの種類は,表 2 のとおりである。

種類・内容・例・インシデントとしての扱いの表。通知:運用状態の通知,例 定期的な温度状況の表示(注1),インシデントとしては扱わない。警告:稼働状態が変化しているが,直ちに異常状態とはいえない事象,例 冷房設定から送風設定に切替えの表示,優先度“低”のインシデントとして扱う。異常:正常に運用されていない状態を表す事象,例 サーバルームの温度がデータセンタで定めた温度基準値超えの表示,優先度“高”のインシデントとして扱う。オペレータは,直ちに運用管理者に状況を報告する。注1)サーバルームに設置してある温度センサを用いて温度を測定している。
表 2 空調監視コンソールの表示メッセージの種類

〔空調機に発生したインシデントとその対応〕

データセンタでは,10 台の空調機を使用していて,そのうちの 1 台にインシデントが発生した。そのときの対応は,次のとおりであった。

データセンタでは,毎日 8 時に運用管理者主催の運用会議を行っている。この会議には,オペレータとファシリティ担当が参加し,議題はオペレータの引継ぎ,インシデントの報告などである。

空調機にインシデントが発生した翌日の会議で,オペレータがインシデントの状況を報告した。報告を受けて,ファシリティ担当の S 氏がサーバルームの温度変化の状況を調査した。その結果,想定以上の上昇傾向がみられた。この傾向が続くと,サーバルームの温度がデータセンタで定めた温度基準値を超え,重大な事態になる状況であったことから,運用管理者は S 氏に改善の検討を指示した。

〔データセンタの入室管理〕

データセンタは幾つかの区画に分かれていて,各区画には多くの部屋がある。入室管理は次のとおりである。

外部関係者がデータセンタを訪問する際には,最初に入室受付で入室時の手続を行う。外部関係者の入室については,表 3 に示す手順を定めている。

手続区分・作業手順・作業内容の表。事前申請の手続:①事前申請 外部関係者に作業依頼をする部署の担当者は,入室管理システムに次の申請内容を入力する。(申請内容)訪問予定日時,作業者氏名,会社名,作業名,入室場所。②事前申請の承認 承認者は,入室管理システムで申請内容を確認し,承認を行う。承認者は,入室管理システムにあらかじめ登録されている。入室時の手続:③入室受付票の記入 作業を行う訪問者は,入室受付で入室受付票に次の内容を記入し,入室管理者に提出する。(記入内容)訪問日時,作業者氏名,会社名,作業名,入室場所。入室受付には,入室管理者が常駐している。④入室受付票の確認 入室管理者は,記入された入室受付票と,入室管理システムの承認済申請内容を照合する。入室管理者は,[ a ]。⑤入室カードの発行 入室管理者は,保管棚から入室カードを取り出し,入室場所のアクセス権を入室カードに登録する。この際,専用の IC カード入出力装置を使って入室カードに情報を登録する。⑥入室カードの貸出し 入室管理者は,情報を登録した入室カードのカード番号,アクセス権及び貸出時刻を,入室管理システムに登録する。入室管理者は,入室カードを作業者に貸し出す。退室時の手続:⑦入室カードの返却 作業者は,作業完了後,入室管理者に入室カードを返却する。入室管理者は,返却時刻などの情報を入室管理システムに登録し,返却された入室カードは登録情報を抹消の上,保管棚に保管する。
表 3 外部関係者の入室の手順

〔空調機の臨時保守作業〕

S 氏は,運用会議の後に,インシデントが発生した空調機の臨時保守作業を保守会社に依頼した。S 氏は,当日 10 時から作業を開始するように依頼した後,保守作業者 T 氏の入室の事前申請を行い,承認された。入室場所は,インシデントが発生した空調機の設置場所であるサーバルームとした。予定時刻に到着した T 氏は入室受付を行い,空調機の保守作業を実施した。

〔新規システムの受入れに伴う変更〕

データセンタでは,サーバ,ストレージ,保守端末などの機器類をラックに収容している。これらの機器をラックに収容するに当たっては,機器の重量,電源容量などを考慮する必要があり,V 氏が専任のラック管理者として任命されている。ラック管理者は,ラック内の機器収容状況をラック収容情報として管理し,CMDB に登録している。ラック収容情報の更新権限は,ラック管理者だけに与えられている。

ある開発プロジェクトで新規システムを稼働させることになり,準備が始まった。データセンタでは,新規システムの受入れに際し,サービス担当者を選定し,受入れとサービスの運用を担当する。今回は,W 氏がサービス担当者となった。また,U 社では,新規システムの受入れに際し,U 社規定の変更管理プロセスが適用される。そこで W 氏は,変更要求を起票した。

V 氏は新規システムの受入れに伴う,W 氏の変更要求に基づき,サーバ,ストレージ及び保守端末の重量,電源容量などを考慮し,ラック内の収容場所を選定した。W 氏が変更要求を起票した後,変更審査が行われ,V 氏も審査員として参加した。変更審査は完了し,変更が承認された。V 氏は承認された変更内容に基づき,新規に収容する機器の情報をラック収容情報として CMDB に登録し,更新した。

〔構成監査の実施〕

U 社の構成管理プロセスでは,毎月,構成監査を行うように規定されている。構成監査の一つとして,CMDB に登録されているラック収容情報に基づき,当該機器がラックに適切に収容されているかどうかを確認する。新規システムについて確認した結果,(ア)ラック収容情報には W 氏の変更要求に基づく保守端末の登録があるにもかかわらず,ラックには保守端末が収容されていないことが分かった。

運用管理者が変更管理の記録を調査したところ,W 氏の変更要求については,変更を展開する作業で作業ミスが発生し,保守端末のラック収容も中止され,元に戻されていた。記録では変更の失敗が記載されていて,変更要求は終了していた。

なお,本番稼働まで日程に余裕があることから,現在,変更計画を見直している。計画が確定した後,再度新規システムの変更要求を行い,作業を実施する予定である。

運用管理者は調査を進め,W 氏の変更要求に伴う V 氏の作業が,変更管理に関わるサービスマネジメントのプロセス規定どおりに実施されていないことを発見した。そこで,運用管理者は,データセンタに構築されている構成品目と構成情報とで不一致が発生する事象の再発防止に向けて,(イ)プロセス規定の活動項目を周知し,データセンタの関係者に徹底することにした。

出題趣旨(IPA)

ITサービスのクラウド化の進展とともに,それを支えるデータセンタの重要性は従来に増して高まっている。データセンタにおけるインシデント対応,入室管理及び設備・機器の管理においては,サービスマネジメントプロセスに裏付けられた精度の高い管理が必要となる。本問では,ITサービスマネジメントを行う上で,ITサービスマネージャとしての実務的管理能力を問う。

設問と解答例

設問1(1) 50字以内

オペレータのインシデント対応における問題点を,理由を含めて 50 字以内で述べよ。

解答例

  • 表1の段階的取扱いで示した①及び③の状況が発生しているのに,専門部署に回復処理を依頼しなかった。
解説

本文の根拠

表 1

①〜③のいずれかの状況が発生した場合は,専門部署に回復処理を依頼する。①障害対応マニュアルに,表示メッセージに対応した処理の指示がない。②障害対応マニュアルに従って処理したが,回復しない。③目標復旧時間内に回復できないおそれがある。

〔空調機に発生したインシデントとその対応〕

オペレータは,障害対応マニュアルを参照したが,当該メッセージについての対応指示の記載はなかった。

〔空調機に発生したインシデントとその対応〕

データセンタでは,毎日 8 時に運用管理者主催の運用会議を行っている。

マニュアルに対応の指示がなかった時点で,表 1 の①に当たり,専門部署(ファシリティ担当)に回復処理を頼むべきだった。

さらに,警告は優先度「低」で目標復旧時間は 8 時間。22 時の発生なので翌朝 6 時までに解決が要るが,報告したのは翌朝 8 時の会議だった。何もしなければ間に合わないので③にも当たる。①と③が起きているのに依頼しなかったことが問題である。

50字。解答例は「表1の段階的取扱いで示した①及び③の状況が発生しているのに,専門部署に回復処理を依頼しなかった。」で46字。「理由を含めて」とあるので,どの条件に当たるかを番号で示す。

設問1(2) 60字以内

温度の異常につながる温度の上昇を早期発見するために,表示メッセージを改善する場合,その改善策を 60 字以内で述べよ。

解答例

  • 温度警告用のしきい値を設定し,定期的な温度状況表示の際,測定値がしきい値を超えた場合は種類を警告に変更する。
解説

本文の根拠

表 2

通知:運用状態の通知,例 定期的な温度状況の表示(注1),インシデントとしては扱わない。

表 2

異常:正常に運用されていない状態を表す事象,例 サーバルームの温度がデータセンタで定めた温度基準値超えの表示

〔空調機に発生したインシデントとその対応〕

報告を受けて,ファシリティ担当の S 氏がサーバルームの温度変化の状況を調査した。その結果,想定以上の上昇傾向がみられた。

今の温度のメッセージは,定期的な表示(通知)と,基準値を超えたとき(異常)の 2 つしかない。上がり始めても基準値を超えるまでは通知のままで,インシデントとして扱われない。

温度基準値より手前に警告用のしきい値を置き,定期表示のときに測った温度がそれを超えていたら,メッセージの種類を警告にする。警告は優先度「低」のインシデントになるので,異常になる前に対応が始まる。

60字。解答例は「温度警告用のしきい値を設定し,定期的な温度状況表示の際,測定値がしきい値を超えた場合は種類を警告に変更する。」で53字。しきい値の追加と,メッセージの種類を変えることの両方を書く。

採点講評(IPA)

設問1(2)は,正答率が高かった。サービスの運用段階に入って,作業者が正確に対応可能となるように,“しきい値を設定し異常のメッセージを表示する”などの方法をとることについては,理解されているようであった。

設問2 30字以内

〔データセンタの入室管理〕について,表 3 中の作業手順④では,許可された者だけにアクセスを許すために,ある確認を行っている。a に入れる適切な内容を,30 字以内で述べよ。

解答例(2通り)

  • 作業者が本人であることの確認を行う。
  • 作業者の識別情報を認証する。
解説

本文の根拠

表 3

④入室受付票の確認 入室管理者は,記入された入室受付票と,入室管理システムの承認済申請内容を照合する。入室管理者は,a

表 3

③入室受付票の記入 作業を行う訪問者は,入室受付で入室受付票に次の内容を記入し,入室管理者に提出する。

④では,入室受付票の内容が承認済みの申請と合っているかを照合している。しかし受付票は訪問者が自分で書くもので,申請内容を知っていれば誰でも同じように書ける。

書かれた作業者氏名の人が,目の前にいる本人かどうかを確かめなければ,許可された人だけを入れることにならない。身分証などで,作業者が本人であることを確認する。

30字。解答例は「作業者が本人であることの確認を行う。」(17字)と「作業者の識別情報を認証する。」(14字)の2つ。講評のとおり,申請者への確認やアクセス権の確認では,本人かどうかは分からない。

採点講評(IPA)

設問2では,事前申請者への確認,アクセス権の設定内容確認といった誤った解答も散見されたが,情報セキュリティ管理における物理的入退管理策としての本人確認の必要性は理解されているようであった。

設問3(1) 50字以内

本文中の下線(ア)の状況が発生した原因を,〔新規システムの受入れに伴う変更〕の V 氏の作業内容に基づいて,50 字以内で述べよ。

解答例

  • 変更の展開前に,新規に収容する機器の情報をラック収容情報として登録し,CMDBを更新したから
解説

本文の根拠

〔新規システムの受入れに伴う変更〕

V 氏は承認された変更内容に基づき,新規に収容する機器の情報をラック収容情報として CMDB に登録し,更新した。

〔構成監査の実施〕

運用管理者が変更管理の記録を調査したところ,W 氏の変更要求については,変更を展開する作業で作業ミスが発生し,保守端末のラック収容も中止され,元に戻されていた。

V 氏は,変更が承認された時点で,これから収容する機器をラック収容情報として CMDB に登録した。まだ機器を実際にラックに入れる前である。

そのあと展開の作業でミスがあり,保守端末の収容は中止されて元に戻された。CMDB は先に更新済みなので,実物はないのに登録だけが残った。

50字。解答例は「変更の展開前に,新規に収容する機器の情報をラック収容情報として登録し,CMDBを更新したから」で44字。「展開前に」更新したという順序を必ず書く。

設問3(2) 30字以内

本文中の下線(イ)で周知すべき活動項目の具体的な内容を,30 字以内で述べよ。

解答例

  • CMDBの記録は,変更の展開の成功後に更新する。
解説

本文の根拠

〔構成監査の実施〕

運用管理者は調査を進め,W 氏の変更要求に伴う V 氏の作業が,変更管理に関わるサービスマネジメントのプロセス規定どおりに実施されていないことを発見した。

〔構成監査の実施〕

データセンタに構築されている構成品目と構成情報とで不一致が発生する事象の再発防止に向けて

構成品目(実物)と構成情報(CMDB)がずれたのは,変更の展開より前に CMDB を書き換えたからである。

変更は展開で失敗することがある。CMDB は,変更が実際に展開されて成功したあとで更新すれば,実物と記録が食い違わない。これは変更管理と構成管理をつなぐときの決まりごとである。

30字。解答例は「CMDBの記録は,変更の展開の成功後に更新する。」で23字。講評のとおり,プロセス間のつなぎ目(いつ構成情報を更新するか)を答える設問である。

採点講評(IPA)

設問3(2)は,正答率が低かった。サービスマネジメントのプロセス間のインタフェースについて,正しく理解できていなかったようである。JIS規格を確認するなどして理解を深めてほしい。

出典:平成26年度 秋期 ITサービスマネージャ試験 午後Ⅰ 問3(表記を一部改変)