令和5年度 春期に実施されたITサービスマネージャ試験
午後Ⅰの全3問(記述式)です。事例本文・設問・解答例と解説をそのまま読めます。
この年度を解いてみる
問1 AI を使ったシステム監視の改善
AI を使ったシステム監視の改善に関する次の記述を読んで,設問に答えよ。
W 社は,中堅の自動車部品製造会社である。W 社は,土曜日,日曜日及び年末年始を休業日としており,休業日以外の日を勤務日としている。W 社の従業員は,勤務日の 9 時から 18 時まで勤務している。W 社の生産部は,生産活動に関わる計画及び管理を行っている。W 社の情報システム部は,生産システムなどのアプリケーションシステムの開発と運用を行っている。
生産システムは,24 時間 365 日稼働しており,生産部の従業員が利用している。生産部の従業員は,生産システムを使って,表1に示す生産支援業務を行っている。
表1 生産支援業務の内容
〔システム監視の概要〕
情報システム部の監視チームは,監視システムを使って,複数の業務サーバの監視を行っている。監視システムの主な機能を表2に示す。
表2 監視システムの主な機能
生産システムの業務サーバの監視では,対象サーバに対するリソース監視機能のしきい値を,80%と設定している。生産支援業務を行う時間帯は,生産支援業務を行っていない時間帯に比べて,CPU の負荷が高いことが判明した。生産支援業務を行っていて,生産システムの利用が一時的に増加すると,CPU 使用率がしきい値を超過する事象(以下,しきい値超えという)が発生していることが分かった。2022 年 4 月第 3 週に発生した,しきい値超えの発生件数を表3に示す。
表3 2022 年 4 月第 3 週に発生したしきい値超えの発生件数
しきい値超えが発生した場合は,イベント記録簿に,発生時刻,対象サーバ及びメッセージ内容(以下,これらをイベント情報という)を記録する作業が必要であり,運用業務工数の多さが,監視チームの負担となっていた。しきい値超えが発生して次の平均値算出時刻である 10 分後に再びしきい値超えが発生した場合,監視チームはインシデントと判断し,インシデント対応プロセスを開始する。インシデント対応に時間を要する場合は,CPU 使用率が 90%以上となって,生産システムの利用者に業務影響を及ぼすインシデント(以下,業務影響有インシデントという)になる前に,利用者に連絡し,業務量を一時的に抑制してもらう。表3の場合,合計で 10 件のインシデントが発生していた。インシデントに当たらない場合は,利用者への連絡などは行わずに対応完了としている。
〔システム監視の改善〕
情報システム部の IT サービスマネージャ Y 氏は,監視チームの負担について改善方法を考えた。しきい値を現在の 80%から 90%に変更する案を検討したが,インシデントが発生した際の業務への影響を最小限にするための対応を考慮すると(ア)現実的な改善策とはならなかった 。Y 氏は,改善策として,“監視システムの制約から,サーバごとに,CPU 使用率を全ての時間帯で,同じしきい値で監視している点を改善する必要がある。”と考えた。そこで,他社の事例を参考に,“AI を用いて,過去の CPU 使用率の傾向を学習し,曜日や時間帯に合わせた最適なしきい値で監視する機能(以下,動的しきい値監視という)”を有するアプリケーションソフトウェアを導入し,検証することにした。Y 氏は,機能や価格を調査した結果,R 社の動的しきい値監視ソフトウェア(以下,R ソフトという)を選定した。R ソフトでは,曜日別,かつ,10 分間隔など設定した間隔(以下,測定時間帯という)別にしきい値を設定することができる。Y 氏は,R ソフト導入後に監視システムのリソース監視機能の使用を停止し,監視システムのメッセージ監視機能と R ソフトとで分担してシステム監視を行うこととした。
R ソフトの主な機能を表4に示す。
表4 R ソフトの主な機能
Y 氏は,次の理由から表4の項番 1,及び項番 2 の機能を使うことにした。
項番1:曜日や時間帯ごとに,生産システムの利用特性を踏まえたしきい値が設定される。 項番2:監視システムのリソース監視機能に該当する機能がある。 しきい値の設定例を,過去 4 週間分の CPU 使用率の平均値とともに表5に示す。
表5 R ソフトが設定するしきい値の例
〔R ソフトの検証〕
R ソフトを用いたシステム監視を 2022 年 12 月 1 日から開始し,検証期間は 4 か月とした。
監視を開始して約 1 か月が経過した 1 月上旬のある日に,しきい値の超過が多く発生することがあった。調査の結果,AI に学習させる際に,(イ)除外日の設定を考慮する必要がある ことが分かり,表4の項番 3 の機能を適用して除外日を設定した。
Y 氏は,R ソフトの導入によって,イベント情報,及び設定されたしきい値が記録され,出力できることから,監視チームが行う(ウ)イベント情報を記録する作業の負担を減らすことが可能である と判断した。
〔インシデント発生の未然防止への活用〕
Y 氏は,R ソフト導入前の監視チームの運用業務工数について,調査を進めた。調査の過程で,過去に業務影響有インシデントが数回発生していたことが分かった。監視システムのリソース監視データを参照したところ,当該インシデントが発生しなかった日と同じ曜日,同じ時間帯の CPU 使用率は 50%程度であったが,当該インシデントの発生日は,CPU 使用率 70%の状態が 1 時間継続し,その後 CPU 使用率は 80%超に上昇して監視システムがしきい値超えを検知した。CPU 使用率は上昇を続け,監視チームは最初のしきい値超えの検知から 10 分後にインシデント対応プロセスを開始していた。
Y 氏は,このような事象に対しては,R ソフトを導入することで,(エ)業務影響有インシデント発生の兆候を早期に発見できる と考えた。この場合は,業務量を一時的に抑制してもらうなど利用者の協力を得ることで,業務影響有インシデント発生の未然防止も行うことができると考えた。
出題趣旨(IPA)
システム監視において,業務の効率化や品質の向上のためには,自動化ツールを効果的に利用することが重要である。本問では,自動化ツールとして“AIを使ったシステム監視”を対象とし,過去の監視データから最適なしきい値を求めてシステムを監視する取組を題材として,自動化ツールの特性を踏まえたシステム監視を適用し,改善する能力,及び改善した結果を分析,評価できる能力を問う。
設問と解答例
設問1(1)
25字以内
本文中の下線(ア)について,現実的な改善策とはならなかった理由を,25 字以内で答えよ。
解答例
解説
本文の根拠
〔システム監視の改善〕
しきい値を現在の 80%から 90%に変更する案を検討したが,インシデントが発生した際の業務への影響を最小限にするための対応を考慮すると
〔システム監視の概要〕
インシデント対応に時間を要する場合は,CPU 使用率が 90%以上となって,生産システムの利用者に業務影響を及ぼすインシデント(以下,業務影響有インシデントという)になる前に,利用者に連絡し,業務量を一時的に抑制してもらう。
しきい値を90%に上げると,警告が出るのはCPU使用率が90%を超えてからになる。ところが90%以上は,すでに利用者の業務に影響が及んでいる水準である。
いまの運用では,80%でしきい値超えを検知してから90%に達するまでの間に,利用者へ連絡して業務量を抑えてもらっている。しきい値を90%にすると,この「影響を最小限にするための対応」を取る時間そのものが無くなる。警告の数は減るが,インシデントが起きたときの被害は大きくなるので,改善策として成り立たない。
25字に収めるときは「何のための時間が無くなるのか」を主語に立てる。解答例は「インシデント対応を行うための時間が減少するから」で24字。
採点講評(IPA)
設問1(1)は,正答率がやや低かった。業務影響有インシデントが発生することだけを記述した誤答が多かった。インシデントが発生した際の業務への影響を最小限にするための対応に着目して解答してほしい。
設問1(2)
20字以内
表4中の項番 1 について,監視画面に“指定する基準値”を超えた旨の警告のメッセージが出力された場合,監視チームが確認すべき内容を,20 字以内で答えよ。
解答例
解説
本文の根拠
表4 項番1
設定されたしきい値が“指定する基準値”を超える時間帯がある場合,しきい値設定の警告が表示される
表4 設定内容
“指定する割合”は 5%ポイントとする,“指定する基準値”は 80%とする
この警告は「CPU使用率がしきい値を超えた」という知らせではない。Rソフトが自動で決めたしきい値そのものが,基準値の80%を超えたという知らせである(表4の注1が,しきい値85%・基準値80%の例を挙げている)。しきい値超過の通知は項番2の機能で,こちらとは別物である。
しきい値は,過去4週間の同じ曜日・同じ測定時間帯の平均に5%ポイントを足した値である。それが80%を超えたということは,その時間帯のCPU使用率が平常時から75%を超えているということになる。そのまま高いしきい値で監視を続ければ,異常を検知できる幅が狭くなってしまう。
したがって確認すべきは,自動で設定されたしきい値を監視の基準として使ってよいかどうかである。解答例は「Rソフトが設定したしきい値の妥当性」で18字。
採点講評(IPA)
設問1(2)は,正答率が平均的であった。発生時刻,対象サーバなどしきい値超えが発生した際の確認と誤って解答した受験者も多かった。警告のメッセージが出力されるのはどのような場合なのかに着目して正答を導き出してほしい。
設問1(3)
表5中の a に入れる適切な数値を答えよ。
解答例
解説
本文の根拠
表4 項番1
4 週間分の同じ曜日,及び同じ“測定時間帯”の値の平均値に“指定する割合”を加算した値をしきい値として設定する
表5
曜日と測定時間帯を行に,月曜日 10:31〜10:40,水曜日 13:31〜13:40,金曜日 16:51〜17:00 を列にとった表。CPU 使用率の平均値は,4 週間前が 51%,67%,74%。3 週間前が 49%,64%,72%。2 週間前が 47%,66%,69%。1 週間前が 45%,67%,73%。
しきい値は「同じ曜日・同じ測定時間帯の過去4週分の平均値」に「指定する割合(5%ポイント)」を足して決まる。
水曜日13:31〜13:40の4週分は67,64,66,67なので,平均は(67+64+66+67)÷4=66。これに5を足して71となる。
計算の仕方に迷ったら,値が入っている月曜と金曜で検算できる。月曜は(51+49+47+45)÷4=48で,5を足して53。金曜は(74+72+69+73)÷4=72で,5を足して77。どちらも表5の値と一致するので,読み取りが合っていると確かめられる。
設問2(1)
50字以内
本文中の下線(イ)について,除外日の設定を考慮する必要がある理由を,50 字以内で答えよ。
解答例
勤務日のCPU使用率より低い休業日のCPU使用率を学習すると,設定されるしきい値が下がるから
解説
本文の根拠
冒頭
W 社は,土曜日,日曜日及び年末年始を休業日としており,休業日以外の日を勤務日としている。W 社の従業員は,勤務日の 9 時から 18 時まで勤務している。
〔Rソフトの検証〕
監視を開始して約 1 か月が経過した 1 月上旬のある日に,しきい値の超過が多く発生することがあった。
表4 項番1
4 週間分の同じ曜日,及び同じ“測定時間帯”の値の平均値に“指定する割合”を加算した値をしきい値として設定する
監視を始めたのは2022年12月1日で,異常が出たのは1月上旬。しきい値は直前4週間の同じ曜日から計算されるので,1月上旬のしきい値には年末年始が計算元として入っている。
年末年始は休業日で従業員が出勤していないから,CPU使用率は勤務日よりも低い。低い値が平均に混ざれば平均が下がり,そこから決まるしきい値も下がる。下がったしきい値で勤務日を監視すれば,いつもどおりの負荷でもしきい値を超えてしまう。これが「しきい値の超過が多く発生」した理由である。
だから休業日を除外日に設定して,学習の対象から外す必要がある。50字には「休業日のCPU使用率は勤務日より低い」と「それを学習するとしきい値が下がる」の2つを入れる。解答例は44字。
設問2(2)
40字以内
本文中の下線(ウ)について,作業の負担を減らすことが可能であると判断した理由を,40 字以内で答えよ。
解答例
イベント情報の記録が自動化され,イベント記録簿として出力できるから
解説
本文の根拠
〔システム監視の概要〕
しきい値超えが発生した場合は,イベント記録簿に,発生時刻,対象サーバ及びメッセージ内容(以下,これらをイベント情報という)を記録する作業が必要であり,運用業務工数の多さが,監視チームの負担となっていた。
表4 項番2
算出された値がしきい値を超過した場合,イベント情報及び設定されたしきい値を R ソフトに記録し
改善前は,しきい値超えが起きるたびに監視チームが手でイベント記録簿へ書き写していた。この工数が負担になっていた。
Rソフトの項番2は,しきい値を超過したときにイベント情報を自動で記録する。さらに下線(ウ)の直前にあるとおり,記録した内容は出力できる。つまり手で書き写す作業そのものが要らなくなる。
40字には「自動で記録される」と「イベント記録簿として出力できる」の2つを入れる。記録されるだけでは記録簿にならないので,出力できることまで書く。解答例は33字。
設問3
40字以内
〔インシデント発生の未然防止への活用〕について,本文中の下線(エ)で,業務影響有インシデント発生の兆候を早期に発見できると考えた理由を,CPU 使用率の推移の観点から,40 字以内で具体的に答えよ。
解答例(2通り)
CPU使用率が同じ曜日,同じ時間帯と違う傾向にあることを検知できるから CPU使用率70%以上が1時間継続する状態を,監視チームが発見できるから
解説
本文の根拠
〔インシデント発生の未然防止への活用〕
当該インシデントが発生しなかった日と同じ曜日,同じ時間帯の CPU 使用率は 50%程度であったが,当該インシデントの発生日は,CPU 使用率 70%の状態が 1 時間継続し,その後 CPU 使用率は 80%超に上昇して監視システムがしきい値超えを検知した。
〔システム監視の改善〕
AI を用いて,過去の CPU 使用率の傾向を学習し,曜日や時間帯に合わせた最適なしきい値で監視する機能
従来の監視はしきい値が全時間帯一律80%だったので,CPU使用率が70%で1時間続いても何も起きない。80%を超えて初めて検知するため,気付くのが遅れていた。
Rソフトは,その曜日・その時間帯の過去4週平均に5%ポイントを足した値をしきい値にする。この時間帯の平常時は50%程度なので,しきい値は55%前後になる。70%が続けばその時点で超過として検知でき,80%に達するのを待たずに済む。
つまり「いつもと違う推移」を早く捕まえられる,というのが理由である。解答例は2通りあり,同じ曜日・同じ時間帯と違う傾向を検知できると書いても,70%以上が1時間継続する状態を発見できると数値で書いてもよい。どちらも35字。
採点講評(IPA)
設問3は,正答率が平均的であった。前日の13時に業務影響有インシデントの発生を予測できる旨を記述した誤答が多かった。過去に発生した業務影響有インシデントのCPU使用率の推移に着目して解答してほしい。
出典:令和5年度 春期 ITサービスマネージャ試験 午後Ⅰ 問1(表記を一部改変)
問2 情報セキュリティの管理
情報セキュリティの管理に関する次の記述を読んで,設問に答えよ。
J 社は,首都圏で生命保険の各種保険商品を販売する中堅企業である。J 社の営業日は,月曜日から金曜日までの平日である。J 社の情報システム部は,営業支援のための営業システムを運用しており,運用時間は,営業日の 9 時から 19 時までである。J 社営業部の営業員は,営業部の PC を使って,営業管理サーバで稼働する営業システムを利用する。J 社のシステム構成を図1に示す。
図1 J 社のシステム構成
営業員は,電子メールを利用し,メールサーバを経由して社外の J 社の顧客と連絡を行っている。また,営業員は,クラウド事業者が提供するストレージサービスを利用し,営業活動に必要な業務データを保存している。ストレージサービスでは,利用者の要求に応じて容量を動的に拡張できる。なお,クラウド事業者とのインターネットを介した通信は,セキュリティ上の安全性が確保されている。
〔業務の生産性を向上させる活動〕
営業部では,本年から PC で稼働する業務効率化ツール(以下,業務ツールという)を使って,営業員の業務の生産性を向上させる活動を推進しており,業務効率向上推進委員として,M 氏を任命している。なお,業務ツールは,営業員が自ら作成する。
M 氏は,営業員に対して業務ツール作成方法の指導や好事例の紹介を行うとともに,業務ツール利用についての作業管理を行っている。作業管理の手順を図2に示す。
図2 作業管理の手順
〔情報セキュリティ対策の現状〕
情報システム部では,情報セキュリティ対策として,ウイルス対策サーバを設置し,PC 及び各サーバ(以下,これらを J 社機器という)で,パターンマッチング方式によるウイルスチェックを行っている。また,情報セキュリティ管理の運用ルールでは,情報セキュリティインシデントが発生した場合は,インシデント対応手順に従って即時に対応し,解決に時間が必要なインシデントが発生したときでも,当日中にはインシデントの解決方法を決定することなどを定めている。
情報セキュリティインシデントが発生した場合は,J 社機器のログを分析し,原因を調査している。毎月 1 回,営業日以外の日に行うシステム保守作業で,システム保守員が,各サーバのシステム時刻を正しい時刻に設定し直しているが,複数の機器のログを突き合わせたときに,それぞれのシステム時刻が正確ではなく,時間軸での発生事象の流れを正確に把握できないことがある。また,J 社機器の各種ログは,それぞれの J 社機器の内蔵ストレージに記録しており,最新 3 か月分を保存できるようにしている。
〔情報セキュリティ対策強化の取組〕
昨今,他社において,マルウェア感染によって業務システムが長時間停止し,大きな事業影響を受ける事例が発生している。そこで情報システム部では,情報セキュリティ対策強化の取組を行うこととなり,情報システム部の IT サービスマネージャ K 氏が,J 社の情報セキュリティ対策を点検した。この結果,“未知マルウェアへの対応”及び“ログ管理方法の見直し”が必要であり,対策を検討することとした。
〔未知マルウェアへの対応〕
J 社で実施しているパターンマッチング方式のウイルスチェックは,検査対象のファイルを,既知の脅威情報を基にしたパターン情報と比較し,一致したものをウイルスとして検知するだけである。そこで,未知の脅威に対応できるように,パターンマッチング方式以外の手法を用いた未知マルウェア対策システムを導入することとした。
K 氏は,各社の製品を調査し,L 社の製品(以下,L ソフトという)を選定した。これに伴い,J 社機器に L ソフトを導入し,管理用の未知マルウェア対策サーバ(以下,L サーバという)を,J 社情報システム部に設置する。L ソフトの主な機能は次のとおりである。
実行ファイルの挙動を監視できる検査エンジンを有する L ソフトが,機器内のファイルを監視し,不正プログラムを検知する。監視する挙動としては,ファイルオープン及び削除の大量な繰り返しなどである。 L ソフトが不正プログラムを検知した場合,当該 J 社機器及び L サーバの画面に検知メッセージを表示し,不正プログラムを検体として採取する。 検知対象外とする実行ファイルの指定ができる。L サーバに検知対象外とする実行ファイルを登録すると,登録された実行ファイルのハッシュ値が,L ソフトを導入している J 社機器に自動的に配付される。J 社機器で,L ソフトの検査エンジンが実行ファイルの異常な挙動を検知した場合は,当該実行ファイルのハッシュ値を求め,事前に配付されたハッシュ値と比較して検知対象外とするか否かを判定し,一致した場合は検知対象外とする。 また,L 社は,L ソフトに関連して,二つの保守サービスを提供している。L 社の保守サービスの概要は,表1のとおりである。
表1 L 社の保守サービスの概要
K 氏は,J 社の営業システムの運用時間及び L 社の保守サービスの費用を考慮して,標準サポート保守サービスを L 社と契約した。
〔ログ管理方法の見直し〕
J 社で運用しているシステムについて,現在のログ管理は,情報セキュリティ対策面で幾つかの課題があることから,ログ管理方法を見直すこととした。表2に,現状のログ管理の課題及び検討した対策内容を示す。
表2 現状のログ管理の課題及び検討した対策内容
K 氏は,“未知マルウェアへの対応”及び“ログ管理方法の見直し”の検討結果について,情報システム部の N 部長に報告し,承認を得た。その後,対策を実施し,運用を開始することとした。
〔インシデントの発生とその対応〕
J 社機器に L ソフトを導入し,運用を開始後,ある日の 18 時 30 分頃に,営業部にある複数の営業員の PC で,不正プログラムが検知された。そこで,インシデント対応手順に従って,営業部の全 PC の LAN ケーブルを緊急抜線し,PC 利用を中止した。連絡を受けた K 氏は,PC 操作状況を営業員にヒアリングした結果,“ある業務ツールの利用を開始してすぐに,不正プログラムの検知メッセージが表示された”とのことであった。K 氏は,採取されていた検体を L 社に送付し,営業部での PC 操作状況を伝えて解析依頼を行った。
19 時 50 分に,L 社から“検体は,安全な実行ファイルであると確認できた。検体の挙動を L ソフトが過検知して検知メッセージを表示した”との解析結果の回答があった。なお,検体は,営業システム内にある大量の保険契約ファイルのオープンを順次繰り返して自動処理する業務ツールであった。そこで,K 氏は,翌営業日から,PC を利用して業務を再開できると判断した。
K 氏は,情報セキュリティインシデントの対応状況を整理し,業務再開に向けた承認を得るため,情報システム部の N 部長に報告した。N 部長から,“当該業務ツールが再び過検知されないように,対策を講じた上で業務を再開すること”との指示があった。そこで,K 氏は,(イ)過検知対策 を講じ,業務を再開した。また,今後,今回と同様なインシデントの発生を防ぐために,日常的に実施する対策として,図2の作業管理の手順を見直し,図2の④の業務ツール利用申請の承認前に,(ウ)情報システム部が実施する手順を新たに追加 して当該業務ツールが安全なファイルであることを確認することにした。
〔発生したインシデントの振り返り〕
K 氏は,今回発生した情報セキュリティインシデントを振り返り,一連の対応について,N 部長に報告した。N 部長から,“一連の対応の妥当性は確認できたが,L 社との保守サービスの契約が現在のままだと,情報セキュリティ管理の運用ルールを守れない場合があるので,(エ)L 社との保守契約を見直すこと ”との指摘があった。そこで,K 氏は,プレミアムサポート保守サービスに契約を変更することにした。
出題趣旨(IPA)
情報セキュリティ管理の検討に当たっては,現在のシステム運用状況及び情報セキュリティ対策の内容を把握し,技術動向も踏まえて,効果的な強化策を策定する。本問では,既存システムへの情報セキュリティ管理の強化を題材として,業務運用への影響を考慮したマルウェア対策製品の導入,ログ管理システムの導入検討などを通じて,情報セキュリティ管理の実務能力を問う。
設問と解答例
設問1(1)
25字以内
表2中の a に入れる適切な字句を,25 字以内で具体的に答えよ。
解答例(2通り)
時間軸での発生事象の流れを正確に把握 時系列でインシデント状況を正確に把握
解説
本文の根拠
〔情報セキュリティ対策の現状〕
複数の機器のログを突き合わせたときに,それぞれのシステム時刻が正確ではなく,時間軸での発生事象の流れを正確に把握できないことがある。
表2 記録
NTP サーバを導入することによって各 J 社機器が常に正確な時刻でログを記録する,複数のログを突き合わせたときに空欄 a できるようにする。
空欄の前後が,課題の文とほぼ同じ形になっている。課題は「複数の機器のログを突き合わせたときに…時間軸での発生事象の流れを正確に把握できないことがある」,対策は「複数のログを突き合わせたときに空欄aできるようにする」。
できなかったことができるようになる,という対応なので,課題の文から「できない」の手前をそのまま持ってくればよい。
25字。解答例は「時間軸での発生事象の流れを正確に把握」で18字。「時系列でインシデント状況を正確に把握」と言い換えてもよい。設問が「具体的に」と言っているので,「ログを分析」のような漠然とした書き方は避ける。
設問1(2)
解答欄2つ
表2中の下線(ア)について,ログ管理システムのサーバを設置する場所は,図1中のどのセグメントがよいか。答案用紙の“LAN1・LAN2”のいずれかの文字を〇印で囲んで示せ。また,情報セキュリティ管理の観点から,そのセグメントとする理由について,40 字以内で答えよ。
〔理由〕解答例
内部セグメントは,外部から攻撃を受けにくく,ログの改ざんから守れるから
解説
本文の根拠
図1 凡例
LAN1 はインターネットに接続するサーバを設置するセグメント,LAN2 は LAN1 及び LAN3 だけからアクセス可能なセグメント,LAN3 は営業部の PC を設置するセグメント
〔情報セキュリティ対策の現状〕
情報セキュリティインシデントが発生した場合は,J 社機器のログを分析し,原因を調査している。
表2 管理
災害やサイバー攻撃などによって J 社内で管理しているログの消失などの被害が発生するリスクがあるので可用性の確保が必要である
図1の凡例が2つのセグメントの性格を分けている。LAN1はインターネットに接続するサーバを置く場所で,外部からの通信が届く。LAN2はLAN1とLAN3からしかアクセスできないので,インターネットから直接は届かない。
ログがどういうものかを考える。インシデントが起きたときに原因をたどる唯一の手がかりであり,攻撃する側から見れば,痕跡を消すために真っ先に狙いたい対象である。外部から届く場所に置けば,改ざんや消去の的になる。
したがってLAN2に置く。営業部のPCも情報システム部の各サーバも,LAN1・LAN2・LAN3のいずれかにあるので,LAN2からでもログは集められる。
理由は40字。解答例は「内部セグメントは,外部から攻撃を受けにくく,ログの改ざんから守れるから」で34字。「LAN2のほうが安全だから」では,何の脅威から何を守るのかが言えていない。
採点講評(IPA)
設問1(2)の解答で,セグメントを選択する理由は,正答率がやや低かった。情報セキュリティ管理の観点から,セキュリティへの脅威やリスクといった内容を解答してほしい。
設問1(3)
30字以内
表2中の b に入れる具体的な対策内容を,図1中の字句を使って 30 字以内で答えよ。
解答例
解説
本文の根拠
表2 管理
新たに導入するログ管理システムで一元管理する各種ログについて空欄 b し,被害発生時に速やかに復旧できるようにする。
図1
クラウド事業者はストレージサービスとして業務データを保持し,インターネット経由で接続される。
冒頭
ストレージサービスでは,利用者の要求に応じて容量を動的に拡張できる。なお,クラウド事業者とのインターネットを介した通信は,セキュリティ上の安全性が確保されている。
課題は「J社内で管理しているログの消失」である。ログ管理システムで一元管理すると,かえって1か所にまとまるので,そこがやられれば全部失う。J社の外に写しを置く必要がある。
図1でJ社の外にあるのはクラウド事業者のストレージサービスだけである。しかも容量を動的に拡張できるので,増え続けるログの置き場所として都合がよく,通信の安全性も確保されていると本文が断っている。
30字。解答例は「ストレージサービスを使って,バックアップを保存」で22字。設問が「図1中の字句を使って」と指定しているので,「クラウド」ではなく「ストレージサービス」と書く。
設問2(1)
30字以内
本文中の下線(イ)について,業務再開後に当該業務ツールが再び過検知されないために必要な対策の内容を 30 字以内で答えよ。
解答例
当該業務ツールの実行ファイルをLサーバに登録する。
解説
本文の根拠
〔未知マルウェアへの対応〕
検知対象外とする実行ファイルの指定ができる。L サーバに検知対象外とする実行ファイルを登録すると,登録された実行ファイルのハッシュ値が,L ソフトを導入している J 社機器に自動的に配付される。
〔インシデントの発生とその対応〕
検体は,安全な実行ファイルであると確認できた。検体の挙動を L ソフトが過検知して検知メッセージを表示した
L社が安全と判定したのだから,この業務ツールはもう検知しなくてよい。Lソフトには検知対象外とする実行ファイルを指定する機能があるので,これを使う。
登録先はLサーバである。登録すればハッシュ値が各J社機器へ自動的に配付されるので,1台ずつ設定して回る必要がない。今回は複数のPCで検知されているので,配付の仕組みに乗せることに意味がある。
30字。解答例は「当該業務ツールの実行ファイルをLサーバに登録する。」で25字。登録先を落として「検知対象外にする」だけだと,どこでどう設定するのかが決まらない。
設問2(2)
50字以内
本文中の下線(ウ)について,情報システム部が実施する具体的な手順を 50 字以内で答えよ。
解答例
完成した業務ツールをLソフトでテストし,検知した場合は安全かどうかの判定をL社に依頼する。
解説
本文の根拠
図2
③営業員は,承認を得てから業務ツールを作成し,完成後に M 氏に利用申請を行う。④M 氏は,完成した業務ツールの利用申請を承認する。
表1
L ソフトが採取した不正プログラムの検体を解析しマルウェアなのか又は安全なファイルなのかの判定を行う。
〔インシデントの発生とその対応〕
図2の④の業務ツール利用申請の承認前に
追加する手順の目的は,本文が「当該業務ツールが安全なファイルであることを確認する」と書いている。確認せずにいきなり検知対象外へ登録してしまうと,本物のマルウェアを素通しする仕組みを作ることになる。順番を取り違えないこと。
手順は2段になる。まず情報システム部で,完成した業務ツールをLソフトで動かしてみる。何も検知されなければそのまま承認へ進める。検知された場合は,それが過検知なのか本物なのかを自分たちでは判定できないので,L社の保守サービスに解析を依頼して判定を受ける。
安全と分かってから,設問2(1)のLサーバへの登録に進む。こうしておけば,今回のように業務を止めてから調べる事態にならない。
50字。解答例は「完成した業務ツールをLソフトでテストし,検知した場合は安全かどうかの判定をL社に依頼する。」で44字。
採点講評(IPA)
設問2(2)は,正答率がやや低かった。安全なファイルであることの事前確認なしで業務ツールを検知対象外として登録する誤答が多かった。情報システム部でテストを行い,必要に応じて保守サービスを利用して安全なファイルかどうかを確認する具体的な手順を導き出してほしい。
設問3
40字以内
〔発生したインシデントの振り返り〕について,本文中の下線(エ)で保守契約を見直す理由を 40 字以内で答えよ。
解答例
解析依頼時刻が18時以降の場合,L社の回答が翌営業日になる可能性があるから
解説
本文の根拠
〔情報セキュリティ対策の現状〕
情報セキュリティインシデントが発生した場合は,インシデント対応手順に従って即時に対応し,解決に時間が必要なインシデントが発生したときでも,当日中にはインシデントの解決方法を決定することなどを定めている。
表1 注記
標準サポート保守サービスで受付時刻が 18 時以降の場合,解析に時間が掛かるときは回答が翌営業日になることがある。
〔インシデントの発生とその対応〕
ある日の 18 時 30 分頃に,営業部にある複数の営業員の PC で,不正プログラムが検知された。
運用ルールは「当日中にはインシデントの解決方法を決定する」である。今回,解決方法を決められたのは,L社から「安全な実行ファイルだった」という回答が来たからで,回答が無ければ過検知なのか本物なのかが分からず,何も決められない。
ところが標準サポートには注記がある。18時以降に受け付けた場合,解析に時間が掛かると回答が翌営業日になることがある。今回の検知は18時30分頃で,まさにその時間帯だった。19時50分に回答が来たのは運がよかっただけである。
営業システムの運用時間は19時までなので,18時以降にインシデントが起きることは今後もある。そのたびに運用ルールを守れない恐れが残る。24時間365日のプレミアムサポートなら,この穴が塞がる。
40字。解答例は「解析依頼時刻が18時以降の場合,L社の回答が翌営業日になる可能性があるから」で37字。「24時間対応が必要だから」では,どの運用ルールがどう守れないのかが言えていない。
採点講評(IPA)
設問3は,正答率がやや低かった。標準サポートの保守サービスでは,解析依頼の時間帯によっては,情報セキュリティ管理の運用ルールが守れない場合があることを具体的に解答してほしい。
出典:令和5年度 春期 ITサービスマネージャ試験 午後Ⅰ 問2(表記を一部改変)
問3 デジタルトランスフォーメーション(DX)の取組における,サービスの計画及び提供
デジタルトランスフォーメーション(DX)の取組における,サービスの計画及び提供に関する次の記述を読んで,設問に答えよ。
E 社は,本社と全国に五つの営業所をもつ中堅の建設事業者であり,主に系列の鉄道会社から土木一式工事を請け負っている。工事内容には,一般の建設工事のほか,一部鉄道事業に特化した軌道や土木構築物に関する工事を含んでいる。E 社では,営業,設計,見積り,施工管理といった事業運営に関する基幹システムが稼働しており,E 社の情報システム部が,基幹システムの運用と管理を行っている。
E 社では,現場作業員の人手不足が深刻化していて,DX に取り組むことによって,長時間労働の常態化や深夜作業といった過酷な労働環境を改善することが経営課題となっている。ICT を活用した働き方改革や業務改革を推進する役割は,情報システム部が担っている。
〔営業所の課題〕
営業所では,工事全体の工程,品質及び安全を管理し,各現場での作業をスムーズに進めるための施工管理を行っている。現在,営業所には図1に示す課題がある。
図1 営業所の課題
〔改善策の検討〕
営業所の課題を受け,情報システム部は IT サービスマネージャの F 氏を中心に,次の改善策を検討した。
全ての携帯 SD に専用のアプリケーションソフトウェア(以下,専用アプリという)を配付する。 現場責任者にも携帯 SD を貸与した上で,携帯 SD から工事計画表の閲覧・更新を可能にする。 作業員が現場で撮影した写真のアップロード及び報告作業を,携帯 SD を使って営業所以外の場所からでも実施可能とする。 施主向け報告書に必要な情報加工作業をシステム化する。 F 氏は,改善策に適した建設事業者向けの業務管理パッケージ(以下,G システムという)を導入し,新サービスとして提供する検討に入った。
G システムは,建設業界で多くの導入実績をもつ G 社が販売する業務管理パッケージであり,利用者が運用する基幹システムと連携可能なインタフェースをもつ。G システムの機能を用いて E 社が実現したい内容は次のとおりである。
(1) 現場向け機能:インターネットを使って,携帯 SD から G システムを経由して,基幹システムの各種情報操作を可能にする。 (2) 施主向け機能:基幹システムの施工情報を編集し,施主向けに情報提供する。 G システムの利用者は,利用者 ID とパスワードを入力してログインすると,利用者権限に応じた機能が利用可能となる。G システムは,保守時間帯以外は常に利用可能であり,全ての操作履歴を利用者 ID とともに G システムのログファイルに記録する。システム構成図を図2に示す。
図2 システム構成図
〔新サービスの提案〕
F 氏の検討を受け,情報システム部は,DX の取組となる新サービスの提案資料を取りまとめ,G システムの導入及び運用に掛かる費用とともに経営会議に提案し,承認を得ることにした。新サービスによって期待される効果を表1に示す。
表1 新サービスによって期待される効果
経営会議で提案は承認されたが,情報システム部に三つの指示事項があった。
① 新サービスの導入は,経営課題の解決に貢献する。新サービスの導入による(ア)現場作業員への効果 を定量的に測定し,報告すること ② 新サービスの展開で,現場に混乱がないようにすること ③ 全ての現場作業員に新サービスの利用が定着するようにすること 〔新サービスの準備〕
経営会議での承認を受け,F 氏は新サービスの導入準備に着手した。新サービス開始以降は,情報システム部がサービス運用を担当し,社内からの各種問合せ対応及びインシデント対応を行う。また,現場に混乱がないように,F 氏は,G システムの専門知識をもつ G 社要員による初期サポートが必要と判断した。そこで情報システム部と G 社との間で,次の取決めを行い,(イ)初期サポートの契約 を行った。
初期サポートとして,表2に示すサポート内容を行う。 新サービスの展開 1 週間前から展開 3 週間後までの 4 週間の初期サポートを実施する。 表2の完了基準を設け,サポート終了の 1 週間前時点でサポート内容の状況を測定し,全ての完了基準を満たしていれば予定どおりに初期サポートを完了する。ただし,項番 3 が完了基準に満たない場合,項番 3 のサポート終了日を 1 週間延長し,サポート終了の 1 週間前時点で再度状況の測定を行う。
表2 初期サポートのサポート内容と完了基準
初期サポート期間中は,専門知識をもつ G 社要員が情報システム部に常駐して初期サポートを行う。新サービス展開から初期サポート完了までの間,G 社の初期サポート要員は,インシデント対応を行い,解決したインシデントについては,その都度,情報システム部の要員に報告を行う。
〔新サービスの展開〕
新サービスの展開は,社内業務への影響と運用側の負荷を考慮し,2 段階方式で行うこととした。第 1 段階は本社と東京営業所に,第 2 段階はその他四つの営業所を含む全社に,展開することとなった。
第 1 段階の展開開始の 1 週間前から,利用者に対する利用者マニュアルの提供が開始され,利用方法説明会が開催された。また,現場作業員の携帯 SD には専用アプリが配付された。説明会では,利用者マニュアルに記載された用語の意味が分からず,内容が理解できないという声が多く上がった。システムを使い慣れていない作業員が理解できない専門用語が,利用者マニュアルにそのまま用いられていたことと,鉄道事業に特化した工事で使われている用語で記述されていないことが原因と考えられた。
利用方法に関する同様の問合せは,説明会の後もしばらくの間続いたが,G 社の初期サポートの対応によって,問合せの 9 割以上は即時に解決していた。しかし,F 氏は,第 2 段階の展開開始までには,次の対応を速やかに実施する必要があると考えた。
利用者マニュアルの内容を b すること G システムの利用方法についてのよくある問合せを,利用者が自ら解決できるよう FAQ として整備し,社内 PC 及び携帯 SD から検索できるようにすること F 氏は,“FAQ の材料として過去に他社で G システムを導入した際に発生した,利用方法についてのよくある問合せの提供”を G 社に依頼し,G 社は,よくある問合せの一覧表を F 氏に提供した。F 氏は,E 社現場の特性を踏まえて,受領した一覧表の内容に対して(ウ)必要な追加 をして FAQ を社内に展開した。
〔全社への展開と定着の確認〕
情報システム部は,新サービスの第 1 段階展開の 2 週間後,問合せに対する対応が完了したのを確認して,1 か月後に第 2 段階として新サービスの利用を全社に展開した。第 1 段階展開のときと同様,システムを使い慣れていない一部の利用者からは,問合せがあったが,FAQ の効果もあり,全社展開はスムーズに行われた。
新サービスの全社展開から 1 か月が過ぎた頃,F 氏は,新サービスの利用状況を確認するため,(エ)必要な情報を収集した 。その結果を G システムの利用者情報に照らし合わせたところ,本来利用すべき現場作業員のうち,8 割程度の要員は新サービスを利用しているが,2 割程度の要員は新サービスを利用せず,依然として営業所で報告作業を行っていることが分かった。
F 氏は,新サービスの定着には,現場作業員の声を拾う必要があると考え,新サービスを利用している要員と利用していない要員のそれぞれに対して,ヒアリングを実施した。その結果,“システムのユーザビリティが悪く操作しづらい”,“操作方法が分からない”,“営業所での報告作業が習慣化している”といった意見が上がった。F 氏は,ヒアリングで上がった意見について,新サービスを定着させる上で深刻度が高い阻害要因があると考え,(オ)経営層から支援をもらい,現場に対する説明会を開催する こととした。
出題趣旨(IPA)
近年,企業がデジタルトランスフォーメーション(DX)に取り組むに当たって,ITサービスマネージャがDXを推進し支援する役割を担うケースが増えている。本問では,DXの取組における新サービスを題材として,ITを活用した新サービスの計画と運用の実行及び評価を行う能力,並びに解決すべき課題に対する効果の測定,導入初期のサポートなどの対応について,実務能力を問う。
設問と解答例
設問1(1)
20字以内
表1中の a には,新サービスを利用することによる施主側のメリットが入る。適切な内容を 20 字以内で答えよ。
解答例(2通り)
最新の施主向け報告書を確認すること いつでも施主向け報告書を確認すること
解説
本文の根拠
図1 課題3
営業所員は月に一度,基幹システムの施工情報や報告情報などを使って手作業で施主向け報告書を作成する。
〔改善策の検討〕
G システムは,保守時間帯以外は常に利用可能であり,全ての操作履歴を利用者 ID とともに G システムのログファイルに記録する。
〔改善策の検討〕
(2) 施主向け機能:基幹システムの施工情報を編集し,施主向けに情報提供する。
空欄aは表1の(2)の2つ目の効果で,1つ目が営業所員の作業が不要になる話なので,こちらは施主にとって何が変わるかを書く。
これまでは,営業所員が月に一度手作業でまとめた報告書を受け取っていた。次の報告まで1か月あるので,その間の進捗は分からない。
Gシステムは保守時間帯以外は常に利用可能で,図2のとおり施主のPCからインターネット経由でつながる。だから施主は,待たずに,そのときの最新の内容を見られる。
20字。解答例は「最新の施主向け報告書を確認すること」で17字。「いつでも」という時間の面から書いてもよい。
設問1(2)
10字以内
本文中の下線(ア)について,定量的に測定できる効果の内容を 10 字以内で答えよ。
解答例(2通り)
解説
本文の根拠
図1 課題2
現場作業員は毎日営業所に戻ってから,現場で撮影した写真を基幹システムのサーバに格納して報告書をまとめる作業(報告作業)を行っており,報告作業の大半が残業時間となっていた。現場作業員の残業時間の多さが課題となっている。
表1
現場作業員が営業所に戻ることなく報告作業を行うことで残業時間を抑制することができる。
冒頭
長時間労働の常態化や深夜作業といった過酷な労働環境を改善することが経営課題となっている。
「現場作業員への」効果と限定されているので,まず対象を絞る。図1の課題1は工事関係者の情報閲覧,課題3は営業所員と施主の話で,現場作業員に当たるのは課題2だけである。
課題2は残業時間の多さで,表1の効果も「残業時間を抑制することができる」となっている。
定量的に測るとあるので,時間という数えられる形にする。導入の前後で残業時間を比べれば,削減量や削減率が出る。これは経営課題の「長時間労働の常態化」の改善を測る数字でもある。
10字。解答例は「残業時間の削減量」で8字。
設問2
40字以内
〔新サービスの準備〕の本文中の下線(イ)の初期サポートの契約の終了時において,インシデント対応で G 社要員から情報システム部にサポート業務の引継ぎが発生する場合がある。引継ぎが必要なインシデントは,どのようなものか。40 字以内で答えよ。
解答例
初期サポート完了判定後に発生し,初期サポート終了時点で未解決のインシデント
解説
本文の根拠
〔新サービスの準備〕
表2の完了基準を設け,サポート終了の 1 週間前時点でサポート内容の状況を測定し,全ての完了基準を満たしていれば予定どおりに初期サポートを完了する。ただし,項番 3 が完了基準に満たない場合,項番 3 のサポート終了日を 1 週間延長し,サポート終了の 1 週間前時点で再度状況の測定を行う。
表2 項番3
項番3はインシデントの解決で,完了基準は未解決インシデントなし。
完了の判定をいつ行うかが鍵である。判定はサポート終了の1週間前で,その時点で未解決のインシデントが無ければ予定どおり完了する。
つまり判定日から実際の終了日までに1週間の隙間がある。この1週間のあいだに新しく起きたインシデントは,判定の対象に入っていない。終了の時点でまだ解決していなければ,G社要員は引き上げてしまうので,情報システム部が引き継ぐことになる。
判定の時点で未解決のものがあれば,項番3のサポート終了日が1週間延長される。そちらは延長して解決させる仕組みがあるので,引継ぎの対象にはならない。
40字。解答例は「初期サポート完了判定後に発生し,初期サポート終了時点で未解決のインシデント」で37字。「未解決のインシデント」だけでは,延長される分と区別できない。完了判定の後に発生した,という条件を入れる。
採点講評(IPA)
設問2は,正答率が低かった。初期サポートの完了時におけるインシデント対応に関する業務引継ぎについて,一般的な内容を解答する受験者が多かった。初期サポートの内容と完了基準の内容をよく理解し,設問に対応した解答をしてほしい。
設問3(1)
20字以内
本文中の b には,利用者マニュアルの変更内容が入る。適切な内容を 20 字以内で答えよ。
解答例
解説
本文の根拠
〔新サービスの展開〕
システムを使い慣れていない作業員が理解できない専門用語が,利用者マニュアルにそのまま用いられていたことと,鉄道事業に特化した工事で使われている用語で記述されていないことが原因と考えられた。
冒頭
工事内容には,一般の建設工事のほか,一部鉄道事業に特化した軌道や土木構築物に関する工事を含んでいる。
原因は2つ書いてある。理解できない専門用語がそのまま使われていること,そして鉄道事業に特化した工事で使われている用語で書かれていないこと。
2つとも,E社の現場で通じる言葉になっていない,という一点に集まる。Gシステムは建設業界向けのパッケージなので,マニュアルも業界一般の言葉で書かれており,E社が請け負う鉄道向けの工事で使う呼び方とは違う。
だからE社で使われている用語や表現に直す。用語集を別に付けるという手もあるが,マニュアル自体が読めない状態なので,本文に手を入れるほうが直接である。
20字。解答例は「E社で使われている用語や表現に変更」で17字。
設問3(2)
25字以内
本文中の下線(ウ)について,FAQ に追加した内容を 25 字以内で答えよ。
解答例
解説
本文の根拠
〔新サービスの展開〕
F 氏は,“FAQ の材料として過去に他社で G システムを導入した際に発生した,利用方法についてのよくある問合せの提供”を G 社に依頼し,G 社は,よくある問合せの一覧表を F 氏に提供した。
〔新サービスの展開〕
利用方法に関する同様の問合せは,説明会の後もしばらくの間続いたが,G 社の初期サポートの対応によって,問合せの 9 割以上は即時に解決していた。
〔新サービスの展開〕
第 1 段階は本社と東京営業所に,第 2 段階はその他四つの営業所を含む全社に,展開することとなった。
G社からもらった一覧表は「他社で」発生した問合せである。E社の現場で実際に何が分からなかったかは含まれていない。設問が言う「E社現場の特性」はここに掛かる。
E社にはすでに材料がある。第1段階の展開で,説明会の後もしばらく問合せが続き,その9割以上をG社が解決している。用語が通じないことから来た問合せも,そこに含まれている。
FAQを整備するのは第1段階と第2段階のあいだなので,この実績をそのまま使える。第2段階で展開する四つの営業所でも,同じ問合せが起きると見込める。
25字。解答例は「第1段階の展開で実際に発生した問合せの内容」で21字。
採点講評(IPA)
設問3(2)は,正答率がやや低かった。FAQの整備が第1段階展開と第2段階展開の間で行われたこと及びE社現場の特性を踏まえて,FAQに追加する内容を導き出してほしい。
設問4(1)
10字以内
本文中の下線(エ)について,新サービスの利用状況を確認するために必要な情報は何か。図2中の字句を使って 10 字以内で答えよ。
解答例(2通り)
解説
本文の根拠
〔改善策の検討〕
全ての操作履歴を利用者 ID とともに G システムのログファイルに記録する。
図2
G システムとして G システムサーバと利用者情報・権限情報・ログ情報のデータベースがある。
誰が使っているかを知るには,操作の記録を見るしかない。Gシステムは全ての操作履歴を利用者IDとともに記録している。
設問が「図2中の字句を使って」と指定しているので,図2のデータベースの並び(利用者情報・権限情報・ログ情報)から「ログ情報」を選ぶ。
本文が「その結果をGシステムの利用者情報に照らし合わせた」と続けているのも手がかりになる。ログ情報に現れる利用者IDと,利用者情報にある本来使うべき現場作業員を突き合わせれば,使っていない2割を割り出せる。
10字。解答例は「ログ情報」で4字。
設問4(2)
30字以内
本文中の下線(オ)について,経営層から支援をもらい,現場に対する説明会を開催する理由を 30 字以内で答えよ。
解答例(2通り)
経営課題の解決には,新サービスの定着が必要だから 新サービスの定着は,経営課題の解決に貢献する取組だから
解説
本文の根拠
冒頭
E 社では,現場作業員の人手不足が深刻化していて,DX に取り組むことによって,長時間労働の常態化や深夜作業といった過酷な労働環境を改善することが経営課題となっている。
〔全社への展開と定着の確認〕
“システムのユーザビリティが悪く操作しづらい”,“操作方法が分からない”,“営業所での報告作業が習慣化している”といった意見が上がった。
〔新サービスの提案〕
③ 全ての現場作業員に新サービスの利用が定着するようにすること
ヒアリングで出た3つの意見を分けて見る。ユーザビリティと操作方法は,画面を直したり教えたりすれば情報システム部で手当てできる。ところが「営業所での報告作業が習慣化している」は,仕事のやり方そのものである。情報システム部が頼んでも変わらない。これが深刻度の高い阻害要因である。
定着しなければ,報告作業のために営業所へ戻る人が残り,残業時間は減らない。つまり長時間労働の改善という経営課題が解決しない。
経営課題であるからこそ,経営層が自ら現場に語る意味がある。情報システム部の都合ではなく会社として取り組むことだと伝われば,習慣を変える理由になる。
30字。解答例は「経営課題の解決には,新サービスの定着が必要だから」で24字。「現場が使ってくれないから」では,なぜ経営層でなければならないのかが言えていない。
採点講評(IPA)
設問4(2)は,正答率が平均的であった。設問では,現場に新システムの定着を図るだけでなく,DXによって経営課題の解決に取り組むことへの理解が求められている。近年,DXの取組として提供されるITサービスの事例も多く,ITサービスマネージャの役割が重要である。
出典:令和5年度 春期 ITサービスマネージャ試験 午後Ⅰ 問3(表記を一部改変)
ほかの年度
令和7年度 秋期 午前Ⅱ
令和5年度 春期 午前Ⅱ
令和4年度 春期 午前Ⅱ
令和3年度 春期 午前Ⅱ
令和元年度 秋期 午前Ⅱ
平成30年度 秋期 午前Ⅱ
平成29年度 秋期 午前Ⅱ
平成28年度 秋期 午前Ⅱ
平成27年度 秋期 午前Ⅱ
平成26年度 秋期 午前Ⅱ
平成25年度 秋期 午前Ⅱ
平成24年度 秋期 午前Ⅱ
平成23年度 秋期 午前Ⅱ
平成22年度 秋期 午前Ⅱ
平成21年度 秋期 午前Ⅱ
令和6年度 春期 午前Ⅱ
令和5年度 春期 午前Ⅱ
令和4年度 春期 午前Ⅱ
令和6年度 春期 午前Ⅱ
令和5年度 春期 午前Ⅱ
令和4年度 春期 午前Ⅱ
令和6年度 春期 午前Ⅱ
令和5年度 春期 午前Ⅱ
令和4年度 春期 午前Ⅱ
令和7年度 秋期 午前Ⅱ
令和6年度 秋期 午前Ⅱ
令和5年度 秋期 午前Ⅱ
令和4年度 秋期 午前Ⅱ
令和3年度 秋期 午前Ⅱ
令和2年度 10月 午前Ⅱ
平成31年度 春期 午前Ⅱ
平成30年度 春期 午前Ⅱ
平成29年度 春期 午前Ⅱ
平成28年度 春期 午前Ⅱ
平成27年度 春期 午前Ⅱ
令和7年度 秋期 午前Ⅰ
令和7年度 春期 午前Ⅰ
令和7年度 春期 午前Ⅱ
令和7年度 春期 午後Ⅰ
令和6年度 秋期 午前Ⅰ
令和6年度 春期 午前Ⅰ
令和6年度 春期 午前Ⅱ
令和6年度 春期 午後Ⅰ
令和5年度 秋期 午前Ⅰ
令和5年度 春期 午前Ⅰ
令和5年度 春期 午前Ⅱ
令和4年度 秋期 午前Ⅰ
令和4年度 春期 午前Ⅰ
令和4年度 春期 午前Ⅱ
令和4年度 春期 午後Ⅰ
令和3年度 秋期 午前Ⅰ
令和3年度 春期 午前Ⅰ
令和3年度 春期 午前Ⅱ
令和3年度 春期 午後Ⅰ
令和2年度 10月 午前Ⅰ
令和元年度 秋期 午前Ⅰ
令和元年度 秋期 午前Ⅱ
令和元年度 秋期 午後Ⅰ
平成31年度 春期 午前Ⅰ
平成30年度 秋期 午前Ⅰ
平成30年度 秋期 午前Ⅱ
平成30年度 秋期 午後Ⅰ
平成30年度 春期 午前Ⅰ
平成29年度 秋期 午前Ⅰ
平成29年度 秋期 午前Ⅱ
平成29年度 秋期 午後Ⅰ
平成29年度 春期 午前Ⅰ
平成28年度 秋期 午前Ⅰ
平成28年度 秋期 午前Ⅱ
平成28年度 秋期 午後Ⅰ
平成28年度 春期 午前Ⅰ
平成27年度 秋期 午前Ⅰ
平成27年度 春期 午前Ⅰ
平成27年度 秋期 午前Ⅱ
平成27年度 秋期 午後Ⅰ
平成26年度 秋期 午前Ⅰ
平成26年度 秋期 午後Ⅰ
平成26年度 春期 午前Ⅰ
平成25年度 秋期 午前Ⅰ
平成25年度 秋期 午後Ⅰ
平成25年度 春期 午前Ⅰ
平成24年度 秋期 午前Ⅰ
平成24年度 秋期 午後Ⅰ
平成24年度 春期 午前Ⅰ
平成23年度 秋期 午前Ⅰ
平成23年度 秋期 午後Ⅰ
平成23年度 特別試験 午前Ⅰ
平成22年度 秋期 午前Ⅰ
平成22年度 秋期 午後Ⅰ
平成22年度 春期 午前Ⅰ
平成21年度 秋期 午前Ⅰ
平成21年度 秋期 午後Ⅰ
平成26年度 秋期 午前Ⅱ
平成25年度 秋期 午前Ⅱ
平成24年度 秋期 午前Ⅱ
平成23年度 秋期 午前Ⅱ
平成22年度 秋期 午前Ⅱ
平成21年度 秋期 午前Ⅱ
平成21年度 春期 午前Ⅰ