平成30年度 秋期に実施されたITサービスマネージャ試験
午後Ⅰの全3問(記述式)です。事例本文・設問・解答例と解説をそのまま読めます。
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問1 IT サービスの継続性
IT サービスの継続性に関する次の記述を読んで,設問1〜3に答えよ。
F 社は,医療品製造・販売会社である。F 社の情報システム部は,製造部が利用する生産管理サービス及び財務部が利用する財務会計サービスを提供している。
〔サービスの概要〕
生産管理サービスは生産管理システムで,財務会計サービスは財務会計システムで提供されている。各システムでは,オンライン処理とバッチ処理を行う。各サービスの概要を表1に,F 社のシステム構成を図1に示す。
表1 サービスの概要
図1 システム構成
〔システムの運用〕
情報システム部の担当者は,オンライン処理の前に,システムの立上げと動作確認を行うオンライン起動処理を実施し,オンライン処理の後に,オンライン停止処理を実施する。また,オンライン停止処理終了後は,バッチ処理を実施する。平日の運用スケジュールを表2に示す。
表2 運用スケジュール
〔被災時の事業継続計画の検討〕
近年,大規模地震などの自然災害によって IT サービスが停止するなどの被災例が報告されている。そこで,F 社の経営層は,F 社の IT サービスのオンライン処理時間帯に,本社及び工場のある関東地区で大規模地震が発生した場合を想定して,事業継続計画(以下,BCP という)を策定するよう,経営企画部に指示した。
F 社の事業継続管理を担当している経営企画部の L 氏は,F 社にとって特に重要な医療品を安定供給できるように,関連部門と連携して事業影響度分析を実施することにした。事業影響度分析の概要は次のとおりである。
分析対象業務を決定し,目標復旧時間(RTO),目標復旧時点(RPO)及び目標復旧レベル(RLO)を検討する。 また,大規模地震による被災の影響調査では,次のことが分かっている。
工場は被災した 2 日後から稼働可能である。サーバ室を含む本社は約 1 週間使用できず,全面復旧までには数週間必要である。 全面復旧までの間は業務再開フェーズとして事業を継続する必要がある。事業影響度分析の結果(抜粋)を表3に示す。
表3 事業影響度分析の結果(抜粋)
L 氏が,生産管理業務と財務会計業務について調査したところ,業務再開フェーズにおいても F 社の IT サービスの利用が必須であることが判明した。そこで,サービス継続計画の検討を,情報システム部の IT サービスマネージャの R 氏に依頼した。
〔サービス継続計画の検討〕
R 氏は,関東地区で大規模地震が発生した場合を想定して,サービス継続計画案の検討に着手した。その案とは,業務再開フェーズの限定された勤務時間に合わせてサービスの提供時間を短縮できることから,財務会計システムを関西地区の支社の生産管理サーバで運用するというものである。R 氏の調査・検討の経緯は,次のとおりである。
(1) 財務部における業務再開フェーズの運用
業務再開フェーズでの財務会計業務は,関西地区の支社の財務部員だけで行う。 生産管理業務が実施された後で,日々必要な最低限度の業務として当日中に確認する財務会計業務があるので,生産管理業務が完了後,財務会計業務を実施する。 勤務時間帯は,夜間を含めて柔軟に対処するが,RLO で計画した 4 時間は勤務する。 (2) 生産管理システム,財務会計システムの順番で運用するときの変更点の確認と運用の設計
生産管理システムと財務会計システムを同一のサーバで運用する場合のシステムリソースは,二つのサービスに対応するデータを格納するためのストレージの容量が必要となるが,関西地区にある生産管理システムのストレージには現在余裕があり,必要な容量を確保可能である。 生産管理システムのオンライン停止処理終了後に財務会計システムのオンライン起動処理を開始する運用にすることで,1 台のサーバで生産管理システムと財務会計システムを運用することができる。 (3) 生産管理システムと財務会計システムを切り替えて運用するときの設計
BCP 発動から,業務再開フェーズとなるまでの間に,関西地区の支社サーバ室の生産管理サーバとストレージに財務会計システムの稼働環境を整える。 本社サーバ室から財務会計システムのフルバックアップデータを取り寄せて,データの復元と復元後の確認を行う。 業務再開フェーズでの生産管理システムと財務会計システムの運用は,生産管理システムのオンライン起動処理,オンライン処理及びオンライン停止処理を行った後に,財務会計システムのオンライン起動処理,オンライン処理及びオンライン停止処理を行う。その後,生産管理システムのバッチ処理に続いて財務会計システムのバッチ処理を行う。 〔財務会計システムの運用の検討〕
R 氏は,財務部から,“生産管理業務と同じように,財務会計業務の RPO を (ア)障害発生時点としたい ”という要望を受けた。そこで,R 氏は,磁気テープのフルバックアップデータと DB 更新ログの情報を用いて会計 DB を回復させる運用を検討し,次の手順で回復させることにした。
BCP 発動から,業務再開フェーズとなるまでの間に,関西地区の支社サーバ室の生産管理サーバとストレージに財務会計システムを稼働できる環境を整え,財務会計システムを起動する。 前日のバッチ処理のフルバックアップデータから,当日のオンライン起動処理直前の状態にデータを復元する。 障害発生直前までの DB 更新ログの情報を用いて,会計 DB を回復する。 R 氏が,回復手順及び財務会計システムの運用を机上で確認したところ,DB 更新ログの運用上の問題点があることが分かり,対策を検討した。
〔訓練の実施〕
R 氏は,サービス継続計画を社内に定着させ,対応能力の向上につなげるための訓練の実施を計画した。今回の訓練では,関東地区の本社サーバ室が被災し,サーバが稼働できない事態を想定した。
訓練には,情報システム部及びサービス利用部門の財務部と製造部が参加した。情報システム部の担当者は,財務会計システムを生産管理サーバで運用するために必要な作業を行った後,確認作業をサービス利用部門に依頼した。確認作業依頼の連絡は,各部門に配付されている緊急時連絡先リストの印刷物(以下,連絡表という)に従って行った。その際,財務部の担当者への連絡に想定以上の時間が掛かってしまった。
訓練実施後,R 氏が今回の訓練について調査したところ,次の問題点が判明した。
連絡表に記載されていたのは,担当者が複数の場合はその担当者の代表者 1 名であり,代表者の電話番号が最新化されていなかった。 連絡表の内容は,情報システム部が一括管理している。R 氏は,(イ)連絡表の内容を見直し ,定期的に連絡先が最新かどうかを確認することにした。
最新の連絡表の情報は,本社ファイルサーバに保存し,連絡表を各部門に配付することになっている。訓練では,連絡表の連絡先に連絡できなかったとき,情報システム部の担当者は本社ファイルサーバに保存されている情報を確認して適切な連絡先を検索しようとした。しかし,本社ファイルサーバを利用できないので,確認できなかった。そこで,R 氏は,本社ファイルサーバを利用できないときでも最新の連絡表の情報を参照できるように (ウ)システムを使った対策 を実施した。
出題趣旨(IPA)
業務のITへの依存度が高くなる中,ITサービスマネージャには,自然災害などの発生時においてITサービスを速やかに回復し,ITサービスを提供する能力が求められている。本問では,既存のITインフラを活用した災害対策及び復旧訓練の実施を題材に,ITサービス継続マネジメントの能力,サービス継続計画の訓練を通した課題発見能力を問う。
設問と解答例
設問1(1)
40字以内
財務会計システムの運用上の問題点を,サービス継続の観点から 40 字以内で述べよ。
解答例
本社サーバ室が被災するとバックアップを含むデータを喪失する。
解説
本文の根拠
表2 注2
バッチ処理の最終工程では,それぞれのシステムで使用するデータのフルバックアップを磁気テープに記録している。磁気テープは,システムが稼働している当該サーバ室に保管している。
〔サービス継続計画の検討〕
本社サーバ室から財務会計システムのフルバックアップデータを取り寄せて,データの復元と復元後の確認を行う。
〔被災時の事業継続計画の検討〕
工場は被災した 2 日後から稼働可能である。サーバ室を含む本社は約 1 週間使用できず,全面復旧までには数週間必要である。
磁気テープの置き場所に目を留める。「システムが稼働している当該サーバ室に保管している」とあるので,財務会計システムのバックアップは本社サーバ室にある。サーバと同じ部屋である。
想定しているのは関東地区の大規模地震で,本社サーバ室ごと被災する。サーバもテープも同時に失う。
ところがサービス継続計画は「本社サーバ室からフルバックアップデータを取り寄せて」復元する組立てになっている。取り寄せる先が使えないのだから,この計画は成り立たない。本社は約1週間使用できない。
40字。解答例は「本社サーバ室が被災するとバックアップを含むデータを喪失する。」で29字。「本社が被災する」だけでなく,バックアップまで一緒に失われる点を書く。
採点講評(IPA)
設問1(1)は,バックアップデータの運用に着目していない誤った解答が多く,正答率が低かった。災害発生時にバックアップデータを喪失するリスクを特定し,対策として遠隔地保存が有効であることを理解してほしい。
設問1(2)
35字以内
(1)の問題点の解決策を,35 字以内で述べよ。
解答例
バックアップの磁気テープのコピーを関西地区のサーバ室にも保管する。
解説
本文の根拠
表2 注2
磁気テープは,システムが稼働している当該サーバ室に保管している。
〔サービス継続計画の検討〕
BCP 発動から,業務再開フェーズとなるまでの間に,関西地区の支社サーバ室の生産管理サーバとストレージに財務会計システムの稼働環境を整える。
被災するのは関東地区で,関西地区の支社サーバ室は無事である。復旧作業もそこで行う計画になっている。
だから,磁気テープのコピーを関西地区の支社サーバ室にも置いておく。本社が使えなくても,手元にあるテープから復元できる。
同じインシデントで本番とバックアップの両方を失わないよう,離れた場所に置く——災害対策の基本形で,本問では設問3(2)の連絡表でも同じ考え方が出てくる。
35字。解答例は「バックアップの磁気テープのコピーを関西地区のサーバ室にも保管する。」で32字。「遠隔地に保管する」だけでも筋は通るが,本文に関西地区の支社サーバ室という具体的な場所があるので,そこまで書く。
設問1(3)
解答欄2つ
財務会計システムのオンライン処理の時間を最も長くする場合のオンライン処理の開始時刻と終了時刻を答えよ。ここで,生産管理システムのオンライン処理時間帯は,13:00〜16:00 とする。また,財務部及び情報システム部の勤務時間並びに各システムの予備時間帯は考慮しなくてよいものとする。
解説
本文の根拠
表2
生産管理システム:8:30〜9:00,9:00〜18:00,18:00〜18:30,18:30〜翌日 1:00。財務会計システム:8:30〜9:00,9:00〜20:00,20:00〜20:30,20:30〜翌日 2:00。
〔サービス継続計画の検討〕
業務再開フェーズでの生産管理システムと財務会計システムの運用は,生産管理システムのオンライン起動処理,オンライン処理及びオンライン停止処理を行った後に,財務会計システムのオンライン起動処理,オンライン処理及びオンライン停止処理を行う。その後,生産管理システムのバッチ処理に続いて財務会計システムのバッチ処理を行う。
まず表2から,オンライン処理以外の所要時間を拾う。オンライン起動処理は両システムとも30分,オンライン停止処理も両システムとも30分。バッチ処理は生産管理が18:30から翌1:00で6時間30分,財務会計が20:30から翌2:00で5時間30分。
開始時刻は前から順に積む。
生産管理のオンライン処理が16:00に終わる → オンライン停止処理30分で16:30 → 財務会計のオンライン起動処理30分で17:00。
開始時刻は17:00。
終了時刻は後ろから戻す。翌日も同じ13:00に生産管理のオンライン処理を始めるので,その30分前の12:30までにオンライン起動処理を始められる状態にしておく必要がある。12:30から逆に引く。
財務会計のバッチ処理 5時間30分 → 7:00
生産管理のバッチ処理 6時間30分 → 0:30
財務会計のオンライン停止処理 30分 → 0:00
終了時刻は0:00(24:00)。
順に並べると,17:00〜24:00がオンライン処理,24:00〜0:30が停止処理,0:30〜7:00が生産管理のバッチ処理,7:00〜12:30が財務会計のバッチ処理となり,翌日の12:30にちょうど間に合う。バッチ処理の順番が「生産管理→財務会計」と決まっているので,入れ替えて計算しないこと。
設問2(1)
40字以内
本文中の下線(ア)という要望が実現した場合の,財務部の財務会計サービス利用者にとっての利点を,40 字以内で述べよ。
解答例
オンライン処理で入力した障害発生時点までの会計伝票の再入力が不要になる。
解説
本文の根拠
表3
財務会計業務:RTO 2,RPO 前日の終業時点,RLO 25.0。
表1 注2
財務会計業務では,財務会計端末からオンライン処理で会計伝票を入力し,会計データベース(以下,会計 DB という)を更新している。
いまのRPOは「前日の終業時点」である。ここまでしか戻せないということは,当日オンライン処理で入力した会計伝票は,障害が起きるとすべて消える。
RPOを障害発生時点にできれば,当日入力したぶんもそのまま残る。
利用者にとっての利点を聞かれているので,システム側の話ではなく,財務部の人が何をせずに済むかで答える。消えた伝票は誰かが入れ直さなければならないので,その再入力が要らなくなる。
40字。解答例は「オンライン処理で入力した障害発生時点までの会計伝票の再入力が不要になる。」で35字。
採点講評(IPA)
設問2(1)は,正答率が高かった。RPOを前日の終業時点から障害発生時点とすることによる業務運用上の利点については,理解されているようであった。
設問2(2)
35字以内
財務会計システムの DB 更新ログの運用上の問題点への対策について,財務会計システムのオンライン処理で変更する内容を,35 字以内で述べよ。
解答例
DB更新ログを支社の生産管理サーバのストレージにも取得する。
解説
本文の根拠
表2 注1
生産管理システムでは,DB 更新ログを生産管理システムのストレージに記録している。同様に,財務会計システムでは,DB 更新ログを財務会計システムのストレージに記録している。
〔財務会計システムの運用の検討〕
障害発生直前までの DB 更新ログの情報を用いて,会計 DB を回復する。
〔サービス継続計画の検討〕
関西地区にある生産管理システムのストレージには現在余裕があり,必要な容量を確保可能である。
回復の手順は,フルバックアップで当日のオンライン起動処理直前まで戻し,そこからDB更新ログで障害発生直前まで進める,というものである。この後半にはDB更新ログが要る。
ところがDB更新ログは財務会計システムのストレージ,つまり本社サーバ室にある。本社が被災すればログも失われる。磁気テープを関西地区に置いても,そこから先を埋める材料が無く,結局前日の終業時点までしか戻せない。
対策は,DB更新ログを関西地区の生産管理サーバのストレージにも書くことである。ストレージには余裕があると本文が断っている。設問が「オンライン処理で変更する内容」と指定しているのは,DB更新ログを取るのがオンライン処理だからである。
35字。解答例は「DB更新ログを支社の生産管理サーバのストレージにも取得する。」で30字。「にも」が要点で,本社側の記録をやめるわけではない。
設問3(1)
30字以内
本文中の下線(イ)で行う連絡表の内容の見直しについて,30 字以内で述べよ。
解答例
解説
本文の根拠
〔訓練の実施〕
連絡表に記載されていたのは,担当者が複数の場合はその担当者の代表者 1 名であり,代表者の電話番号が最新化されていなかった。
〔訓練の実施〕
連絡表の内容を見直し
判明した問題点は2つある。代表者1名しか載っていないことと,その電話番号が古かったことである。
後者への手当ては,下線(イ)に続けて「定期的に連絡先が最新かどうかを確認することにした」と本文に書いてある。つまり下線(イ)の「内容を見直し」が受け持つのは前者のほうである。
代表者1名だけだと,その人に繋がらなければそこで止まる。訓練で財務部の担当者への連絡に想定以上の時間が掛かったのもこれが理由である。だから複数の担当者の連絡先を載せる。
30字。解答例は「複数の担当者の連絡先を登録するように変更する。」で23字。電話番号の最新化を書くと,直後の一文と重なってしまう。
設問3(2)
40字以内
本文中の下線(ウ)について,図 1 中の装置を活用してできる対策を,40 字以内で述べよ。
解答例
最新の連絡表の情報を支社ファイルサーバにも保存し,被災時でも参照可能にする。
解説
本文の根拠
〔訓練の実施〕
最新の連絡表の情報は,本社ファイルサーバに保存し,連絡表を各部門に配付することになっている。
図1
支社(関西地区)のサーバ室には,生産管理システム(生産管理サーバとストレージ,ストレージ内に生産計画 DB)が置かれ,同じ LAN に運用端末と,共有ファイルシステムである支社ファイルサーバが接続されている。
図1 注記2
共有ファイルシステムは,情報を共有するために利用するシステムであり,生産管理端末,財務会計端末及び運用端末から利用できる。
設問が「図1中の装置を活用して」と限っているので,新しい機器を足す答えは外れる。図1にある共有ファイルシステムを数えると,本社ファイルサーバと支社ファイルサーバの2つがある。
最新の連絡表は本社ファイルサーバにしか無い。本社が被災すれば読めない。訓練でまさにこれが起きた。
支社ファイルサーバは関西地区にあるので被災しない。ここにも保存しておけば,本社が使えなくても参照できる。しかも注記2のとおり,共有ファイルシステムは各端末から利用できる。
40字。解答例は「最新の連絡表の情報を支社ファイルサーバにも保存し,被災時でも参照可能にする。」で37字。設問1(2)の磁気テープと同じで,同じインシデントでまとめて失わない場所に置く,という考え方である。
採点講評(IPA)
設問3(2)は,正答率が高かった。連絡表などの文書を含む重要な情報を同じインシデントで同時に被災しない場所に保存することについては,理解されているようであった。
出典:平成30年度 秋期 ITサービスマネージャ試験 午後Ⅰ 問1(表記を一部改変)
問2 リリース及び展開管理
リリース及び展開管理に関する次の記述を読んで,設問1〜3に答えよ。
W 社は,家具販売会社であり,東京に本社がある。W 社では,海外で日本製家具の需要が高まっていることから,昨年,欧州支社を設立した。今後も事業のグローバル化を積極的に推進していく方針である。
〔情報システム部の概要〕
情報システム部は,東京本社にあり,システム開発課とシステム運用課で構成され,W 社の社員が利用する受注管理サービスを提供している。
受注管理サービスの利用は,定期保守の作業時間帯以外であれば,休日,夜間も可能である。最多利用時間帯は平日の 8〜18 時である。 受注管理サービスは,受注管理システムで提供される。受注管理システムの構成を図1に示す。
図1 受注管理システムの構成
システム開発課は,システム開発及びソフトウェア保守を行っている。システム運用課は,システム運用,SC のビルド及び PG のデプロイを行う。PG のデプロイとは開発環境,保守環境又は稼働環境に PG を展開し,利用可能な状態にする作業のことである。システム開発課とシステム運用課の役割を表1に示す。
表1 システム開発課とシステム運用課の役割
〔ツールによるデプロイの自動化〕
欧州支社の業務が本格化してきたある日,欧州支社から情報システム部に,“東京本社の 22 時は欧州支社では 14 時であり,業務に影響を与えるので,PG を稼働環境にデプロイする時間帯を変更してほしい。”という要望があった。W 社では,欧州支社の 1 時間の休憩時間帯の開始時刻に当たる東京本社の 20 時に作業の開始を前倒しする案を検討した。しかし,この作業を 1 時間以内で完了させることはできないことが判明した。また,システム開発課からは“SC のビルドの作業頻度と,PG をテスト用サーバにデプロイする作業頻度を増やしてほしい。”という要望があった。
これらの要望に対して,システム運用課の IT サービスマネージャである Y 氏は,ビルドとテストを反復してシステム開発できる環境を整えることが重要だと考えた。そこで,Y 氏はシステム開発課と協力し,PG のデプロイを自動化する支援ツールを開発・運用することにした。ライブラリ管理サーバで支援ツールを運用することによって,要員による作業ミスの防止,作業品質の向上も期待できる。
開発・運用する支援ツールについて,表2に示す。
表2 開発・運用する支援ツール
AP 展開ツールの処理手順を表3に示す。
表3 AP 展開ツールの処理手順
〔受注管理サービスの変更〕
W 社では,販売条件に関する業務ルールを改正することになり,受注管理システムの適応保守が必要になった。新たな業務ルールは 11 月から適用されるので,稼働環境の受注管理サービスは 10 月末までに変更しておく必要がある。W 社の変更管理プロセスでは,変更諮問委員会が変更の影響について助言を与え,変更を承認する。また,緊急に変更しなければならない場合は,緊急変更諮問委員会が変更の受入れ及び承認に関する決定を行う。受注管理サービスの変更について,システム開発課で調査した結果,請求プログラム及び共通プログラムの修正が必要であることが分かった。
システム運用課では,次のように対処した。
修正された SC をビルドツールでビルドして,PG をテスト用サーバの指定環境にデプロイするまでを完了した。 データベースに影響を与えない変更なので,AP 展開ツールを使用して,10 月 12 日(金)10 時に稼働環境にデプロイする変更計画(以下,業務ルール変更計画という)を立案した。 10 月 3 日(水)の変更諮問委員会で,業務ルール変更計画が承認された。
〔受注管理サービスのインシデント発生と対応〕
10 月 4 日(木)13 時に,受注管理サービスでインシデントが発生した。対応完了までの経緯は,次のとおりである。
インシデントの内容を確認し,原因を調査したところ,売上プログラム及び共通プログラムに不具合があることが判明した。特定部署の業務に対して限定的な影響を与えるだけなので,受注管理サービスは停止していない。また,プログラムの不具合によって,DB サーバの在庫管理ファイルの一部に誤りが発生しており,在庫管理ファイルの誤り修正作業が必要であることが判明した。システム開発課は,プログラムの不具合を修正した。 在庫管理ファイルの誤り修正作業は,AP サーバから DB サーバへの通信が発生しない状態で行う必要がある。そこで,不具合を修正したプログラムについて,AP 展開ツールを使用して稼働環境にデプロイした後,LB の閉塞処理,(ア)在庫管理ファイルの誤り修正作業 ,LB の閉塞解除処理の順で作業を実施することにした。 修正された SC をビルドツールでビルドして,PG をテスト用サーバの指定環境にデプロイ,PG のテストまでを完了し,10 月 4 日(木)18 時に緊急変更諮問委員会を開催した。 変更要求では 10 月 4 日(木)22 時から一連の作業を開始する計画であった。しかし,緊急変更諮問委員会に出席した Y 氏は,サービス利用者への影響を少なくするために,(イ)計画した作業を 10 月 4 日(木)20 時に開始する よう提言し,計画は変更された。開始時刻が当初の計画よりも 2 時間早くなるので,必要な準備を急ぐことになった。 10 月 4 日(木)20 時から,不具合を修正したプログラムについて AP 展開ツールを使用して稼働環境にデプロイする作業を開始し,20 時 30 分に完了した。その後,在庫管理ファイルの誤り修正作業を開始し,20 時 50 分に完了した。 〔業務ルール変更計画の実施〕
10 月 10 日(水)に業務ルール変更計画に関する緊急変更諮問委員会が開催された。緊急変更諮問委員会は,10 月 3 日(水)の変更諮問委員会で承認されたときにテストを完了していた PG に対し,(ウ)追加で実施した修正 ,及び (エ)追加で実施したテスト が問題なく完了していることを確認し,業務ルール変更計画を承認した。そこで,システム運用課では,10 月 12 日(金)10 時に AP 展開ツールを使用して,請求プログラム及び共通プログラムを稼働環境にデプロイした。
出題趣旨(IPA)
事業環境の迅速な変化に合わせて,ビルドやテストを反復的に行うシステム開発が増えている。これに伴って,リリース及び展開管理プロセスをシステム開発の変化に適合させていくことが,重要になってくる。本問では,アプリケーションソフトウェアのリリースを題材に,リリース及び展開管理プロセスを実践するITサービスマネージャを想定して,サービス利用者,システム開発者からの要求に対応する改善能力,適応保守や是正保守に対するシステム環境管理能力,リリース及び展開計画に関する能力などを問う。
設問と解答例
設問1
40字以内
〔ツールによるデプロイの自動化〕について,AP 展開ツール導入の利点を,40 字以内で述べよ。なお,欧州支社及びシステム開発課からの要望の実現,反復的なシステム開発の実現,作業ミスの防止及び作業品質の向上は除く。
解答例
稼働環境にデプロイするときにサービスを停止しなくて済む場合がある。
解説
本文の根拠
表1 システム運用課
PG を稼働環境にデプロイする場合は,LB の設定変更によって,社員 PC からの受注管理サービスに対する要求振分け先を Sorry サーバに変更し,全ての AP サーバのサービスを停止する。
表2 AP展開ツール
受注管理サービスの利用に影響を与えないように,振分け先の AP サーバを LB で制限し,稼働環境の AP サーバ 1 台ごとに PG を順次デプロイする。
表2 AP展開ツール
データベースのテーブル定義変更などの場合は,保守作業時間帯を設けて受注管理サービスを停止させる必要があるので,変更内容に応じて,使用可否を判断する。
従来のやり方では,全てのAPサーバを止めて,社員PCからの要求をSorryサーバへ向けていた。つまりデプロイのたびに受注管理サービスが止まる。
AP展開ツールは1台ずつ順に入れ替える。1号機を入れ替えている間は2号機と3号機が要求を受けるので,サービスは動いたままである。
ただし常にそうとは限らない。表2の但し書きのとおり,データベースのテーブル定義変更などでは,結局サービスを止める必要がある。だから「停止しなくて済む場合がある」と幅をもたせて書く。
40字。解答例は「稼働環境にデプロイするときにサービスを停止しなくて済む場合がある。」で32字。
設問が除外している「要望の実現」「反復的な開発」「作業ミスの防止・品質向上」は,いずれも本文に書いてある狙いである。残るのはサービスを止めずに済むという点になる。
設問2(1)
30字以内
本文中の下線(ア)の修正作業について,不具合を修正したプログラムを AP 展開ツールで稼働環境にデプロイした後に実施する理由を,30 字以内で述べよ。ここで,要員・システム資源は不足していないものとする。
解答例(2通り)
プログラムの不具合によって再度誤りが発生してしまうから AP展開ツールによってLBの閉塞解除が行われるから
解説
本文の根拠
〔受注管理サービスのインシデント発生と対応〕
プログラムの不具合によって,DB サーバの在庫管理ファイルの一部に誤りが発生しており,在庫管理ファイルの誤り修正作業が必要であることが判明した。
表3 手順5
手順5(閉塞の解除):LB の要求振分け先の設定を変更し,LB から AP サーバ 1 号機に対する閉塞を解除する。
在庫管理ファイルの誤りは,プログラムの不具合が生んだものである。だから不具合のあるプログラムが動いたままファイルだけ直しても,同じ不具合がまた誤りを作る。先に直すべきはプログラムのほうである。
手順の面からも説明できる。AP展開ツールは手順5で閉塞を解除する。ファイル修正のためにLBを閉塞してから,あとでAP展開ツールを走らせると,ツールが閉塞を解除してしまい,APサーバからDBサーバへの通信が起きる。「通信が発生しない状態で行う必要がある」という条件が崩れる。
30字。解答例は「プログラムの不具合によって再度誤りが発生してしまうから」で26字。閉塞の解除に着目して「AP展開ツールによってLBの閉塞解除が行われるから」と書いてもよい。
採点講評(IPA)
設問2(1)は,正答率が高かった。プログラムを稼働環境にデプロイする前にファイルの修正作業を実施すると起きるおそれのある問題点については,理解されているようであった。
設問2(2)
40字以内
本文中の下線(イ)について,Y 氏が作業開始時刻の変更を提言した理由を,40 字以内で具体的に述べよ。
解答例
欧州支社のサービス利用者が利用中の時間帯であり,業務に影響があるから
解説
本文の根拠
〔ツールによるデプロイの自動化〕
東京本社の 22 時は欧州支社では 14 時であり,業務に影響を与えるので,PG を稼働環境にデプロイする時間帯を変更してほしい。
〔ツールによるデプロイの自動化〕
欧州支社の 1 時間の休憩時間帯の開始時刻に当たる東京本社の 20 時に作業の開始を前倒しする案を検討した。
〔受注管理サービスのインシデント発生と対応〕
10 月 4 日(木)20 時から,不具合を修正したプログラムについて AP 展開ツールを使用して稼働環境にデプロイする作業を開始し,20 時 30 分に完了した。その後,在庫管理ファイルの誤り修正作業を開始し,20 時 50 分に完了した。
時差を押さえる。東京の22時は欧州の14時で,欧州支社は業務のまっただ中である。東京の20時なら欧州の12時で,1時間の休憩時間帯が始まる時刻に当たる。
今回の作業はAP展開ツールによるデプロイだけではない。そのあとにLBを閉塞して在庫管理ファイルを直すので,その間はサービスが使えない。22時に始めれば,欧州の利用者が業務をしている最中にサービスを止めることになる。
実際の記録を見ると,20時開始で20時50分に完了している。欧州時間の12時から12時50分で,休憩時間帯の中に収まった。
40字。解答例は「欧州支社のサービス利用者が利用中の時間帯であり,業務に影響があるから」で33字。「欧州支社に配慮して」だけでは,なぜ20時なのかが言えていない。時差と休憩時間帯に触れる。
設問3(1)
40字以内
システム開発課がテストできるように,〔受注管理サービスのインシデント発生と対応〕の対応完了後,システム運用課が速やかにテスト用サーバに対して実施すべき内容を,40 字以内で述べよ。
解答例
売上プログラムと共通プログラムをテスト用サーバの開発環境にデプロイする。
解説
本文の根拠
図1 注3
新規システム開発のテスト及び適応保守で修正したプログラムのテストを行う。
図1 注4
プログラムの不具合対応などの是正保守で修正したプログラムのテストを行う。
表1 システム運用課
稼働環境の維持・運用だけでなく,システム開発課が円滑にテストできる開発環境・保守環境を維持するために,次に示す作業を行う。
〔受注管理サービスのインシデント発生と対応〕
売上プログラム及び共通プログラムに不具合があることが判明した。
テスト用サーバには開発環境と保守環境の2つがあり,役割が分かれている。開発環境は適応保守のテスト用,保守環境は是正保守のテスト用である。
今回のインシデント対応は不具合の修正なので是正保守に当たり,テストは保守環境で行われた。つまり修正後の売上プログラムと共通プログラムは保守環境にしか入っていない。
一方,業務ルールの変更は適応保守なので,そのテストは開発環境で行う。開発環境の共通プログラムは,不具合を直す前の古いままである。このままでは正しいテストができない。
そこでシステム運用課は,修正済みの売上プログラムと共通プログラムを開発環境にもデプロイする。デプロイは表1のとおりシステム運用課の役割で,ソースコードの修正やテストはシステム開発課の役割である。設問が「システム運用課が」と限っているので,そこを踏み外さない。
40字。解答例は「売上プログラムと共通プログラムをテスト用サーバの開発環境にデプロイする。」で35字。
採点講評(IPA)
設問3(1)は,システム運用課の役割に着目していない解答が多く,正答率が低かった。ソースコードの修正やテストなどシステム開発課が実施すべき内容を書いた誤った解答が多かった。
設問3(2)
25字以内
本文中の下線(ウ)について,システム開発課が追加で修正すべき内容を,25 字以内で述べよ。
解答例
解説
本文の根拠
〔受注管理サービスの変更〕
受注管理サービスの変更について,システム開発課で調査した結果,請求プログラム及び共通プログラムの修正が必要であることが分かった。
〔受注管理サービスのインシデント発生と対応〕
売上プログラム及び共通プログラムに不具合があることが判明した。
2つの変更で修正対象を並べると,業務ルール変更が「請求プログラムと共通プログラム」,インシデント対応が「売上プログラムと共通プログラム」である。共通プログラムが両方に出てくる。
業務ルール変更のソースコード修正は,10月3日に承認された時点ですでに終わっていた。その後10月4日に,共通プログラムの不具合修正が稼働環境へ入った。つまり業務ルール変更用の共通プログラムには,その不具合修正が入っていない。
このままデプロイすると,10月4日に直したはずの不具合が稼働環境に戻る。だから不具合修正の内容を取り込む。
25字。解答例は「共通プログラムの不具合修正内容を反映すること」で22字。
設問3(3)
40字以内
本文中の下線(エ)について,システム開発課が追加でテストすべき内容を,40 字以内で述べよ。
解答例
不具合を修正することによって,想定外の影響が出ていないかどうかを確認する。
解説
本文の根拠
表1 システム開発課
新規に作成した PG の誤りを検出するためのテストのほか,PG を更新したことによって想定外の影響が出ていないかどうかを確認するためのテストなどを行う。
表1はシステム開発課が行うテストを2種類に分けている。新しく作った部分の誤りを見つけるテストと,更新したことで想定外の影響が出ていないかを確かめるテストである。
共通プログラムは,業務ルール変更のために直したところへ,さらに不具合修正を取り込んだ。共通プログラムは請求プログラムからも売上プログラムからも使われるので,一方の修正が他方の動きを変えていないとは言い切れない。
だから足すのは後者のテストである。不具合が直っているかを確かめるだけでは,取り込んだことで他が壊れていないかは分からない。
40字。解答例は「不具合を修正することによって,想定外の影響が出ていないかどうかを確認する。」で36字。
採点講評(IPA)
設問3(3)は,不具合を修正することによって想定外の影響が出ていないかどうかを確認する趣旨の内容を期待したが,不具合の修正確認だけを指摘する誤った解答が多かった。問の表に整理されているシステム開発課とシステム運用課の役割を理解して,解答を導き出してほしい。
出典:平成30年度 秋期 ITサービスマネージャ試験 午後Ⅰ 問2(表記を一部改変)
問3 サービスデスク
サービスデスクに関する次の記述を読んで,設問1〜3に答えよ。
A 社は情報サービス会社である。A 社の IaaS 事業部は,数年前から演算リソース及びストレージリソース(以下,これらを IT インフラ群という)を顧客企業向けに提供するクラウドサービス事業を営んでいる。IT インフラ群は,A 社システムセンタに設置されており,IaaS 事業部の技術課では,サービス利用者の要求を受けて実施する変更作業及びインシデント対応を行っている。
〔インシデント対応の概要〕
これまで技術課では,顧客が利用する IT インフラ群を担当する技術者が,サービス利用者からのインシデントの受付を行ってきた。しかし,技術課の業務効率向上の観点から,次のように運営することにした。
IaaS 事業部内に新たに設置したサービスデスクで,インシデントを受け付ける。 サービスデスクの受付手段は電話とし,受付時間帯は平日の 9〜17 時の 8 時間とする。 技術課は,サービスデスクで対応できるインシデントの解決手順をノウハウデータベース(以下,ノウハウ DB という)に登録し,サービスデスクは,インシデント対応に利用する。 インシデントの解決手順をノウハウ DB に追加する場合,及び既存の解決手順に問題点又は改善点があってノウハウ DB を更新する場合は,サービスデスクではなく,内容の妥当性が判別でき専門知識がある技術課が対応する。 サービスデスクがノウハウ DB だけではインシデントを解決できない場合,サービスデスクから技術課に解決を依頼する。 インシデント対応の種類を表1に示す。
表1 インシデント対応の種類
〔インシデント対応のフロー及びインシデント対応の手順〕
インシデント対応のフローを図1に,インシデント対応の手順を表2に示す。
図1 インシデント対応のフロー
表2 インシデント対応の手順
〔エスカレーションの手順における問題点とその改善策〕
IaaS 事業部の IT サービスマネージャの S 氏は,顧客に対するサービス責任者として,顧客に対して定期的にサービス報告を行っている。
ある日,サービス報告の一環として,インシデントの解決時間について調査したところ,タイプ1の場合は全て解決目標時間を達成していた。タイプ2及びタイプ3のインシデント対応に関しても,解決目標時間は達成していたものの,技術課はサービスデスクが定めた回答期限に遅れることがあった。S 氏は,サービスデスクと技術課の対応状況について,次のように整理した。
(1) サービスデスクの対応状況
問題点:技術課の技術者の回答期限が迫っている場合,サービスデスクは技術者に回答を督促していた。しかし,技術者からの解決手順の指示又は解決の結果の回答が回答期限に遅れることがあった。 改善策:解決目標時間を達成できないおそれがある場合は,エスカレーションの手順に a を追加する。この場合,エスカレーション先は,顧客に対するサービス責任者である S 氏とし,インシデント対応の手順“解決”に関与することによって,組織的なインシデント対応を行うことにした。 (2) 技術課の対応状況
問題点:解決までに時間を要したインシデント対応の中には,難易度の高いものもあった。しかし,大半はサービスデスクが定めた回答期限内で対応できる内容であった。インシデントの解決を担当した数名の技術者へのヒアリングによって,次の状況が判明した。“IT インフラ群の変更作業を計画的に実施していることから,サービスデスクからインシデントの解決の依頼を受けた場合に,解決手順の指示,技術者自身での解決を後回しにしてしまうことがある。” 技術課への要請:S 氏は技術課の課長に,“技術者が回答期限を遵守する対策を取ってほしい”と要請した。技術課の課長は,対策を検討することにした。技術者は,毎日始業時に当日の作業計画を策定し,作業を計画的に実施していた。そこで,技術課の課長は技術者が策定する当日の作業計画について (ア)調査 を行った。 〔タイプ1の比率向上への取組〕
S 氏は,解決時間について,タイプ1がタイプ2及びタイプ3に比べて短い点に着目し,“タイプ 1 の比率が増加すれば,インシデントの平均解決時間は短くなる”と考えた。サービス利用者にとって利点となることから,S 氏は,タイプ1の比率向上への取組として,ノウハウ DB に関する二つの改善活動を開始した。
(1) 検索容易性の向上
サービスデスクでタイプ 2 と判断されたインシデント対応の中には,ノウハウ DB に解決手順が登録されていたものもある。しかし,解決手順の抽出に必要な条件の設定が複雑でノウハウ DB の検索がうまく行えず,結果としてタイプ 1 と判断できていないことがあった。
そこで,ノウハウ DB の検索に AI を活用し,入力したキーワードから適切にインシデントの解決手順を検索するシステムを開発し,経験の浅いサービスデスク担当者でも迅速かつ適切に対応できるようにする。
(2) 登録内容の充実
S 氏は,技術者がサービスデスクからインシデントの解決の依頼を受け,解決までに実施した対応の詳細をヒアリングした。ヒアリング結果は,次のとおりである。
タイプ 2 については,技術者からサービスデスクに対して解決手順を速やかに指示できている。技術者は過去に同様のインシデントが発生したときでも同じ指示を行い,サービスデスクも同じ対応を行っている。 タイプ 3 については,技術者でなければ解決できないインシデントだけでなく,工夫をすれば,サービスデスクで解決できるものも含まれていることが分かった。サービスデスクで解決できるインシデントは主に二つに分類できた。一つ目は,再発性のあるインシデントであり,タイプ 3 全体の半数以上を占めていた。これらは,初回発生後に解決手順を文書化しておけば,2 回目以降はサービスデスクで対応できる。二つ目は,IT インフラ群の使用状況を可視化している“ダッシュボード”の機能拡充のような,サービスを変更した際に発生するインシデントであり,タイプ 3 全体の 3 割程度を占めていた。これらはサービス変更後の短期間に集中して発生する。 S 氏は,このような状況から,“ノウハウ DB の登録頻度をこれまでよりも高めて,ノウハウ DB の登録内容を充実する取組が必要である”と考えた。そのために,S 氏は次の 2 点を技術課の課長に提案した。
サービスデスクにおいては,インシデントの再発に備えて,タイプ 2 及びタイプ 3 のインシデントが解決した後に,インシデントの解決手順をノウハウ DB に登録し,技術課に登録内容の確認を依頼する。ここで,タイプ 3 のインシデントの解決手順は技術者があらかじめ文書化したものをサービスデスクが受け取って,ノウハウ DB に登録する。 技術課においては,これら以外に必要な (イ)ノウハウ DB への登録 を,業務として実施する。 技術課の課長は,“S 氏の提案を実施するには,技術者の取組が必要となるが,(ウ)技術課にとっても利点がある ”と考え,S 氏の提案に同意した。
〔サービスデスクの業務拡大〕
IaaS 事業部の業務拡大に伴い,技術課の技術者の業務量が増加した。そこで,技術課の業務の一部をサービスデスクに移行できないか,S 氏が検討することになった。技術課の現在の業務について調査したところ,サービス利用者の要求によって実施する IT インフラ群の変更作業の一部が,移行可能な業務の候補として挙げられた。具体的な内容は,次のとおりである。
サービス利用者がストレージリソースにアクセスするときの,アカウント作成及び更新についての変更作業である。 サービス利用者からの変更要求の頻度は高く,内容的に失敗するリスクが低い作業である。 変更要求は,A 社の変更管理プロセスに従って,週 1 回実施している社内の変更審査会の前日までに申請が必要であり,変更審査会で承認を受けてから,翌日以降に行う作業である。 今後,サービスデスクで変更要求の処理を行えるようにするには,変更管理プロセスに従って,IaaS 事業部として事前に認可を受ける必要がある。S 氏は,該当する変更要求の処理をサービスデスクで作業可能となるよう検討を進めた。検討の結果,サービスデスクの体制強化及び必要な教育は,実施可能であることが分かった。サービスデスクで行う変更要求の処理は,優先度“低”として行うことにした。
S 氏は,技術課に依頼して,(エ)技術課が実施すべき作業 をまとめた。
出題趣旨(IPA)
サービスデスクでは,インシデント管理手順を着実に実施し,サービス目標の達成を図る。本問では,インシデント管理手順における優先度の扱い,再発インシデントに備えた対応,サービスデスクにおける標準変更の対応などを題材に,ITサービスマネージャとして,インシデント管理手順を遂行する能力,プロセスを改善する能力などを問う。
設問と解答例
設問1(1)
30字以内
本文中の a に入れるエスカレーションの具体的な内容を,30 字以内で答えよ。
解答例
技術課に対してインシデント対応を優先してもらうための依頼
解説
本文の根拠
表2 段階的取扱い
インシデントがタイプ2又はタイプ3に該当する場合は,サービスデスクが回答期限を定めて技術課に解決を依頼する。これを,機能的エスカレーションという。
〔エスカレーションの手順における問題点とその改善策〕
技術課の技術者の回答期限が迫っている場合,サービスデスクは技術者に回答を督促していた。しかし,技術者からの解決手順の指示又は解決の結果の回答が回答期限に遅れることがあった。
〔エスカレーションの手順における問題点とその改善策〕
エスカレーション先は,顧客に対するサービス責任者である S 氏とし,インシデント対応の手順“解決”に関与することによって,組織的なインシデント対応を行うことにした。
すでにあるのは機能的エスカレーション,つまり技術課へ解決を依頼する動きである。足りないのは横ではなく上へ上げる動きで,ここに入るのは権限のある人へ上げる階層的エスカレーションである。
サービスデスクが技術者を督促しても効かないのは,技術者の側が変更作業を優先していて,インシデント対応を後回しにしているからである。同じ立場からの督促では順番が変わらない。
本文は「S氏とし,インシデント対応の手順“解決”に関与することによって」と,S氏が何をするかまで示している。S氏から技術課に対して,このインシデント対応を優先してもらうよう働きかける,というのが具体的な中身になる。
30字。解答例は「技術課に対してインシデント対応を優先してもらうための依頼」で27字。「S氏へのエスカレーション」とだけ書くと,上げた先で何が起きるのかが言えていない。
採点講評(IPA)
設問1(1)は,正答率が低かった。解決目標時間を達成できないおそれがある場合に必要な段階的取扱い(エスカレーション)について,理解していないと思われる解答が多く見られた。また,具体的な記述を求めたにもかかわらず,本文中の記載を抜き出しただけの誤った解答も見られた。
設問1(2)
40字以内
技術課の課長が,本文中の下線(ア)で調査すべき内容を,40 字以内で答えよ。
解答例
作業計画策定のときに想定されるインシデント対応の作業時間を確保していること
解説
本文の根拠
〔エスカレーションの手順における問題点とその改善策〕
IT インフラ群の変更作業を計画的に実施していることから,サービスデスクからインシデントの解決の依頼を受けた場合に,解決手順の指示,技術者自身での解決を後回しにしてしまうことがある。
〔エスカレーションの手順における問題点とその改善策〕
技術者は,毎日始業時に当日の作業計画を策定し,作業を計画的に実施していた。
後回しになる理由は,技術者のヒアリングにはっきり出ている。変更作業を計画的に実施しているからである。
インシデントはいつ来るか分からないので,始業時に立てた作業計画には入っていない。計画した変更作業で1日が埋まっていれば,割り込みで来たインシデント対応は押し出される。悪意でも怠慢でもなく,計画の作り方から来ている。
だから課長が調べるべきは,作業計画にインシデント対応のための時間が取ってあるかどうかである。取っていなければ,回答期限を守れという要請だけでは変わらない。
40字。解答例は「作業計画策定のときに想定されるインシデント対応の作業時間を確保していること」で36字。
設問2(1)
30字以内
本文中の下線(イ)で S 氏が提案した技術課において実施するノウハウ DB への登録の内容を,ヒアリング結果に着目して,30 字以内で答えよ。
解答例
サービスを変更した際に想定されるインシデントの解決手順
解説
本文の根拠
〔タイプ1の比率向上への取組〕
二つ目は,IT インフラ群の使用状況を可視化している“ダッシュボード”の機能拡充のような,サービスを変更した際に発生するインシデントであり,タイプ 3 全体の 3 割程度を占めていた。これらはサービス変更後の短期間に集中して発生する。
〔タイプ1の比率向上への取組〕
サービスデスクにおいては,インシデントの再発に備えて,タイプ 2 及びタイプ 3 のインシデントが解決した後に,インシデントの解決手順をノウハウ DB に登録し,技術課に登録内容の確認を依頼する。
ヒアリングでは,サービスデスクで解決できるものが2種類に分けられている。再発性のあるもの(半数以上)と,サービスを変更した際に発生するもの(3割程度)である。
1つ目は,1つ目の提案が拾う。解決したあとに手順を登録しておけば,2回目以降はサービスデスクで対応できる。
2つ目は同じやり方では間に合わない。「サービス変更後の短期間に集中して発生する」ので,起きてから登録していては,登録が終わるころには集中する時期が過ぎている。先回りするしかない。
だから技術課が,サービスを変更する前に,想定されるインシデントの解決手順をあらかじめ登録しておく。
30字。解答例は「サービスを変更した際に想定されるインシデントの解決手順」で26字。「想定される」が肝で,まだ起きていないものを先に用意するところが1つ目との違いである。
採点講評(IPA)
設問2(1)は,ヒアリング結果を的確に分析できていない解答が多かった。サービスデスクで解決できるインシデントの比率向上のために,ヒアリング結果から判明したインシデント発生の傾向に対して,どのような取組が適切かを考察してほしい。
設問2(2)
40字以内
本文中の下線(ウ)で技術課の課長が,技術課にとっても利点があると考えた理由を,40 字以内で述べよ。
解答例
技術課が行うインシデント対応の作業負荷が低減するから
解説
本文の根拠
表1
タイプ2:サービスデスクがノウハウ DB だけではインシデントを解決できない場合,技術課に解決を依頼する。
〔タイプ1の比率向上への取組〕
S 氏は,解決時間について,タイプ1がタイプ2及びタイプ3に比べて短い点に着目し,“タイプ 1 の比率が増加すれば,インシデントの平均解決時間は短くなる”と考えた。
〔エスカレーションの手順における問題点とその改善策〕
IT インフラ群の変更作業を計画的に実施していることから,サービスデスクからインシデントの解決の依頼を受けた場合に,解決手順の指示,技術者自身での解決を後回しにしてしまうことがある。
タイプ1が増えるということは,タイプ2とタイプ3が減るということである。タイプ2とタイプ3は,どちらも技術課に解決の依頼が来るものである。
つまり技術課へ回ってくる件数そのものが減る。技術者は計画した変更作業に集中でき,割り込みで後回しが起きる状況も和らぐ。
提案を実行するには技術者が解決手順を文書化する手間が要るが,それは1件につき一度だけで,以後の同種のインシデントは技術課の手を離れる。差し引きで負担が軽くなる,というのが同意した理由である。
40字。解答例は「技術課が行うインシデント対応の作業負荷が低減するから」で25字。
採点講評(IPA)
設問2(2)は,正答率が高かった。サービスデスクで解決できるインシデントの比率向上が,機能的エスカレーション先の業務効率化に資することは理解されているようであった。
設問3(1)
40字以内
本文中の下線(エ)で技術課が実施すべき作業の内容を,40 字以内で述べよ。
解答例
サービスデスクで実施できるように標準変更の手順を整備する。
解説
本文の根拠
〔サービスデスクの業務拡大〕
サービス利用者からの変更要求の頻度は高く,内容的に失敗するリスクが低い作業である。
〔サービスデスクの業務拡大〕
今後,サービスデスクで変更要求の処理を行えるようにするには,変更管理プロセスに従って,IaaS 事業部として事前に認可を受ける必要がある。
〔インシデント対応の概要〕
インシデントの解決手順をノウハウ DB に追加する場合,及び既存の解決手順に問題点又は改善点があってノウハウ DB を更新する場合は,サービスデスクではなく,内容の妥当性が判別でき専門知識がある技術課が対応する。
本文が挙げる3つの条件——頻度が高い,失敗するリスクが低い,事前に認可を受ける——は,標準変更の要件そのものである。標準変更にすれば,あらかじめ承認された手順に従うので,そのつど変更審査会にかける必要がなくなる。
では誰が手順を作るか。本文の分担では,手順の妥当性を判別できるのは専門知識のある技術課で,サービスデスクではない。ノウハウDBの登録が技術課の役目になっているのと同じ理屈である。
したがって技術課が実施すべきは,サービスデスクがそのまま実施できる形に標準変更の手順を整えることである。
40字。解答例は「サービスデスクで実施できるように標準変更の手順を整備する。」で28字。「誰が使う手順か」を落とさない。
設問3(2)
30字以内
サービスデスクの業務拡大は,技術者だけでなく顧客にも利点がある。考えられる顧客側の利点を,30 字以内で述べよ。
解答例(2通り)
変更要求の依頼から実施までの期間が短くなる。 変更要求の依頼から実施までの期間が1営業日以内となる。
解説
本文の根拠
〔サービスデスクの業務拡大〕
変更要求は,A 社の変更管理プロセスに従って,週 1 回実施している社内の変更審査会の前日までに申請が必要であり,変更審査会で承認を受けてから,翌日以降に行う作業である。
〔サービスデスクの業務拡大〕
サービスデスクで行う変更要求の処理は,優先度“低”として行うことにした。
表2 優先度の割当て
優先度によって解決目標時間が定められている(優先度“高”:2 時間,優先度“中”:4 時間,優先度“低”:8 時間)。
いまの流れを日数で追う。変更審査会は週1回で,その前日までに申請し,承認を受けてから翌日以降に作業する。申請のタイミングによっては1週間以上待つことになる。
サービスデスクで処理できるようになれば,審査会を待たない。優先度“低”として扱われるので解決目標時間は8時間。サービスデスクの受付時間帯は平日9〜17時の8時間なので,依頼した当日か翌営業日には終わる。
顧客にとっての利点は,依頼してから実施されるまでの期間が短くなることである。
30字。解答例は「変更要求の依頼から実施までの期間が短くなる。」で22字。解決目標時間から逆算して「1営業日以内となる」と具体的に書いてもよい。
出典:平成30年度 秋期 ITサービスマネージャ試験 午後Ⅰ 問3(表記を一部改変)
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