令和3年度 春期 午後Ⅰ

令和3年度 春期に実施されたITサービスマネージャ試験 午後Ⅰの全3問(記述式)です。事例本文・設問・解答例と解説をそのまま読めます。

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問1 複数の外部供給者に対する供給者管理

複数の外部供給者に対する供給者管理に関する次の記述を読んで,設問1〜4に答えよ。

K 社は,医薬品メーカであり,医薬品の研究開発や製造を行っている。K 社の研究部には,研究開発を専門に行う従業員(以下,研究職員という)がおり,貸与された PC を使用して研究開発を行っている。

K 社の情報システム部は,社内システムの開発,保守,運用,及びサービスマネジメントを行っている。社内システムの一つに研究開発管理システムがあり,研究開発管理サービスとして研究職員にサービスを提供している。情報システム部は,研究開発管理サービスのサービスデスクの機能の一部を,L 社に外部委託している。L 社が行うサービスデスクの機能を図1に示す。

枠内に箇条書きで機能が並ぶ。K 社研究職員から,対象とするサービスに関する問合せ,パスワード変更など(サービス要求)を電話又は電子メールで受け付ける。サービスデスクの担当者は,ノウハウデータベースを参照し,サービス要求を実現する。電話でのサービス受付時間帯は平日の 10 時から 18 時までであり,電子メールでのサービス受付時間帯は 24 時間 365 日である。サービス要求の実現は,平日の 10 時から 18 時 30 分までの間に行う。ノウハウデータベースを参照しても実現できなかったサービス要求,及びノウハウデータベースに登録されていないサービス要求の内容を情報システム部に電子メールで送信する。(1) 電話での受付の場合は 30 分以内に送信する。(2) 電子メールでの受付の場合は次の時刻までに送信する。①平日の 0 時から 10 時までに受け付けたサービス要求は同日の 10 時 30 分まで,②平日の 10 時から 18 時までに受け付けたサービス要求は受付時刻から 30 分以内,③平日の 18 時から 24 時まで,又は休日に受け付けたサービス要求は翌営業日の 10 時 30 分まで。注1として,L 社は K 社情報システム部が作成したサービス要求の実現方法についての指示書をノウハウデータベースに登録している。注2として,サービス要求の実現とは,例えばサービス要求が問合せの場合は回答を行うことであり,サービス要求がパスワードの変更要求の場合は変更を行うことである。注3として,電子メールを受信した情報システム部は,サービス要求の対応をサービスデスクから引き継ぎ,サービス要求を実現する。
図1 L 社が行うサービスデスクの機能

〔新規システムの開発〕

K 社の研究職員が作成した論文や研究資料は,これまで K 社内のファイルサーバに保管していたが,研究開発の効率向上のため,研究職員が自ら論文や研究資料を登録し,研究部内の論文や研究資料を検索できるシステム(以下,検索システムという)を新規に開発した。

検索システムは,検索サーバ 2 台,データベースサーバ 1 台,負荷分散装置(以下,LB という)1 台で構成され,平日の 8 時から 22 時まで稼働する。サーバ機器,LB は M 社が納入し,設定した。また,アプリケーションプログラム(以下,AP という)は,N 社が設計し,製造した。

〔検索サービスの開始〕

情報システム部は,検索システムを研究職員が利用する検索サービスとして提供する。検索サービスのサービスデスク機能は,L 社に外部委託する。また,情報システム部は,M 社にシステム構成機器の管理サービスを,N 社に AP 管理サービスを,それぞれ外部委託し,支援を受けることにした。

情報システム部の IT サービスマネージャである P 氏は,検索サービスの開始に向けて,L 社,M 社及び N 社(以下,それぞれをサプライヤ各社という)と必要となる契約を検討した。また,情報システム部とサービスの顧客である研究部との間で合意するサービスレベル項目とサービスレベル目標を検討した。

P 氏は,研究部に対して検索サービスへの要求事項をヒアリングした。研究部の要求事項は,次のとおりである。

P 氏は,サプライヤ各社から提示された主な契約事項の案を表1にまとめた。

会社名・契約事項の案からなる表。L 社は,サービスデスクの対象とするサービスに検索サービスを加える,サービスデスクの機能は図1と同内容で行う。M 社は,情報システム部からの調査依頼及びインシデントの解決の依頼を平日の 8 時から 22 時まで受け付け,翌営業日の 17 時までに調査依頼の回答又はインシデントの解決を行う,調査の結果システム構成機器の部品交換が必要と判明した場合は平日の 8 時から 22 時までの間で部品交換を行う,ただし平日の 18 時以降に部品交換が必要と判明した場合は翌営業日に対応を行う。N 社は,情報システム部からの調査依頼及びインシデントの解決の依頼を平日の 8 時から 22 時まで受け付け,翌営業日の 17 時までに調査依頼の回答又はインシデントの解決を行う,AP の不具合が判明した場合は AP に対する改修を行う,改修スケジュールは改修の規模を踏まえ情報システム部と調整する。
表1 サプライヤ各社から提示された主な契約事項の案

P 氏は,研究部の要求事項とサプライヤ各社から提示された主な契約事項の案に対して,研究部,サプライヤ各社と調整を行った。特に,M 社とは,(ア)システム構成機器の部品交換に関する契約事項の案についての調整を行った。

P 氏は,サービスレベル項目とサービスレベル目標を検討し,情報システム部と研究部で正式に合意することにした。P 氏が検討したサービスレベル項目とサービスレベル目標は,表2のとおりであり,目標の達成状況は月次で集計する。

項番・サービスレベル項目・サービスレベル目標からなる表。①検索サービスのサービス提供時間は平日の 8 時から 22 時まで。②サービスデスク受付時間帯は(電話の場合)平日の 10 時から 18 時まで。③サービス要求実現の実施期限遵守率は 95%以上。④検索サービスの応答時間は 5 秒以内(90 パーセンタイル値)。⑤サービス回復時間遵守率は 95%以上。注1として,実施期限遵守率とは受け付けたサービス要求を翌営業日 18 時までに実現した割合のこと。注2として,パーセンタイル値とは当該月の応答時間の累積分布において応答時間がある数値以下に含まれる百分率のこと。例えば 90 パーセンタイル値とは,検索件数が 100 件存在した場合,応答時間を早いものから順に並べたときに 90 番目に該当する値のこと。注3として,サービス回復時間遵守率とはインシデントが発生したときの受付から回復までを 2 時間以内で実施した割合のこと。
表2 検索サービスのサービスレベル項目とサービスレベル目標(抜粋)

P 氏は,サービスレベル目標について社内で調整を行い,情報システム部はサプライヤ各社と契約を締結した。また,サプライヤ各社は,各社間で直接契約を締結しないので,P 氏は,サプライヤ各社とのコミュニケーションの方法として,検索サービスに関する変更情報の共有,情報システム部と研究部とのサービスレベル報告会議の議事録の送付,及び情報交換と討論を行う会議(以下,フォーラムという)を行うことにした。

〔検索サービスで発生したインシデント〕

検索サービスが開始して 3 か月が経過した 10 月 1 日に,サービスデスクは利用者から“検索結果が表示されるまで時間を要する”といった問合せを受け付けた。サービスデスクの担当者は,ノウハウデータベースを参照し,指示書に従って“しばらく待ってから再度検索してください。”と回答した。同様の問合せが,その後 20 分で 10 件発生した。そこで,最初に受け付けた問合せから 20 分経過して,サービスデスクは,応答遅延の事象が多発している状況を情報システム部に電子メールで送信した後,電話でも連絡した。連絡を受けた P 氏は,発生している事象をインシデントと判断した。情報システム部ではインシデントの解決方法が分からない事象だったので,P 氏は,M 社と N 社に調査及びインシデントの解決の依頼を行った。

N 社は,検索サーバとデータベースサーバのログを使って調査を行ったが,特に不具合は発見されなかった。M 社が機器の調査を行ったところ,LB の動作が不安定になっていることが判明し,M 社は情報システム部にインシデントの回避策として,サービスを一旦停止し,LB の再起動を行ってサービスを再開する方法を提示した。LB の再起動には 10 分程度必要であるとの内容であった。情報システム部は回避策の実施を決定し,(イ)サプライヤ各社に通知した。情報システム部は回避策を実施し,検索サービスを再開した。その結果,応答遅延の事象は発生しなくなった。最初の応答遅延の問合せから検索サービス再開までに,1 時間 45 分掛かった。

M 社が LB の製品メーカに詳細な調査を依頼したところ,LB のファームウェアの不具合で,間欠的な障害が発生すること,及び再発時は LB を再起動することで不安定な状態を解消することができることが判明した。M 社は,情報システム部に対しインシデントの原因,インシデント再発時の対処方法,及び製品メーカから問題を解決するファームウェア改修版が提供され,検索サービスの LB のファームウェアの変更が完了するまでに約 3 か月を要することを報告した。

〔応答時間の実績の集計〕

P 氏は,10 月分の検索サービスの応答時間の実績を集計した。10 月の検索件数の合計は 5,000 件であり,10 月の応答時間の実績は表3のとおりであった。

応答時間(秒)と件数(件)の表。1.9 秒が 500 件,2.0 秒が 750 件,2.1 秒が 1,000 件,2.2 秒が 1,000 件,2.3 秒が 750 件,2.4 秒が 550 件,2.5 秒が 200 件,8.0 秒が 150 件,8.1 秒が 100 件。注記として,例えば 2.6 秒など,記載していない応答時間の件数は 0 件である。
表3 10 月の応答時間の実績

〔検索サービスの改善〕

P 氏は,サプライヤ各社とフォーラムを開催することにした。フォーラムで話し合われた結果,ファームウェア改修版が提供されるまでに,LB の動作が不安定になるインシデントが発生する可能性が高いことから,インシデントが発生したときの処置をインシデントモデルとしてあらかじめ決めておき,情報システム部とサプライヤ各社で共有することになった。M 社は LB の製品メーカからの情報を基に,“10 分間で 3 件以上応答遅延の問合せが発生する場合は,LB の動作が不安定と判断できる”との見解を示した。そこで,今後このような事象が発生した場合,情報システム部とサプライヤ各社は,インシデントモデルに定義された役割,インシデントプロセスの活動,エスカレーションの手順などに従って,定義した時間内にインシデントの解決を図ることを目標にすることとした。サプライヤ各社との討論の結果は,改善案としてまとめられた。P 氏はサプライヤ各社の賛同を得て,今後の活動を決定した。フォーラムで決定した検索サービスの改善案は表4のとおりである。

会社名・サービスの改善案からなる表。K 社は,K 社とサプライヤ各社でサービスレベルの達成状況,インシデント情報及びサービス要求実現の内容を共有できる仕組みを導入する,研究部に対して検索サービスの応答が遅いと感じた場合にはサービスデスクに連絡してもらうことを依頼する。L 社は,10 分間で 3 件以上,検索サービスの応答が遅いとの問合せを受け付けた場合,サービスデスクは空欄 a。M 社は,検索システムで導入している機器のファームウェアなどに関する不具合の情報,及び不具合に対するパッチ情報がないかどうかを定期的に確認する。N 社は,応答時間の実績集計を自動化するツールを作成する。
表4 検索サービスの改善案

P 氏は,表4の改善案について順次,実施していくことにした。また,P 氏は,フォーラムで行うサプライヤ各社の検討や活動が,(ウ)サービスレベル目標を達成するために有効と判断し,今後も定期的にフォーラムを開催することにした。

出題趣旨(IPA)

ITサービスマネジメントでは,提供するサービスの一部機能を外部供給者に委託する場合,サービスの要求事項を考慮し,SLAを顧客と合意するに当たって,外部供給者との調整が重要になる。本問では,外部供給者が複数存在するサービスを題材として,社内顧客や外部供給者との調整能力,及びインシデント発生に備えた調整能力を問う。

設問と解答例

設問1 40字以内

〔検索サービスの開始〕について,本文中の下線(ア)で M 社の契約事項の案を調整する理由は何か。40 字以内で答えよ。

解答例(2通り)

  • 2時間以内に利用可能な状態にするという要求事項を満たさないおそれがあるから。
  • 項番⑤のサービスレベル目標を達成できないおそれがあるから。
解説

本文の根拠

〔検索サービスの開始〕

検索サービスを利用できない障害が発生した場合,2 時間以内で検索サービスを利用可能な状態にしてほしい。

表1 M社

ただし平日の 18 時以降に部品交換が必要と判明した場合は翌営業日に対応を行う。

〔新規システムの開発〕

検索サーバ 2 台,データベースサーバ 1 台,負荷分散装置(以下,LB という)1 台で構成され,平日の 8 時から 22 時まで稼働する。

研究部の要求は「障害が起きたら2時間以内に使える状態に戻す」で,これが表2の項番⑤(サービス回復時間遵守率)になる。

ところがM社の案には但し書きがある。18時以降に部品交換が必要と分かった場合は翌営業日に回す,というものである。検索サービスは22時まで動いているので,18時から22時の間に障害が起きて部品交換が要ると,直るのは翌営業日になる。2時間どころではない。

1日のうち4時間ぶん,要求を満たせない時間帯が残ってしまう。だから契約の段階で調整する。

40字。解答例は「2時間以内に利用可能な状態にするという要求事項を満たさないおそれがあるから。」で37字。「対応が遅いから」のような一般論ではなく,2時間という具体的な値(または項番⑤)を挙げる。

採点講評(IPA)

設問1は,具体的な要求事項やサービスレベル項目に着目した解答が少なく,正答率が低かった。

設問2 40字以内

〔検索サービスで発生したインシデント〕について,本文中の下線(イ)でサプライヤ各社に通知している。サプライヤ各社以外に,通知すべき相手先と通知すべき内容を 40 字以内で述べよ。

解答例

  • 利用者に,インシデントの内容,サービス停止時刻及び回復予定時刻を通知する。
解説

本文の根拠

〔検索サービスで発生したインシデント〕

M 社は情報システム部にインシデントの回避策として,サービスを一旦停止し,LB の再起動を行ってサービスを再開する方法を提示した。LB の再起動には 10 分程度必要であるとの内容であった。

〔新規システムの開発〕

研究職員が自ら論文や研究資料を登録し,研究部内の論文や研究資料を検索できるシステム(以下,検索システムという)を新規に開発した。

回避策は「サービスを一旦停止する」ものである。使っている研究職員からすると,何の前触れもなく検索サービスが落ちることになる。障害で遅いだけの状態から,まったく使えない状態に変わるので,知らせずに実施してよいものではない。

だから通知先は利用者(研究職員)である。

内容は3つそろえる。何が起きているのか,いつ止まるのか,いつ戻るのか。回避策の所要時間が10分程度と分かっているので,回復予定時刻まで出せる。

40字。解答例は「利用者に,インシデントの内容,サービス停止時刻及び回復予定時刻を通知する。」で37字。設問が「通知すべき相手先と通知すべき内容」と2つ聞いているので,両方を書く。

設問3

〔応答時間の実績の集計〕について,表3から 90 パーセンタイル値に該当する応答時間は何秒か答えよ。また,10 月の応答時間に関するサービスレベル目標は,達成,未達成のどちらか。答案用紙の達成・未達成のいずれかを〇で囲んで示せ。

解答例

  • 2.4 達成・未達成
解説

本文の根拠

表3

1.9 秒が 500 件,2.0 秒が 750 件,2.1 秒が 1,000 件,2.2 秒が 1,000 件,2.3 秒が 750 件,2.4 秒が 550 件,2.5 秒が 200 件,8.0 秒が 150 件,8.1 秒が 100 件。

表2 注2

例えば 90 パーセンタイル値とは,検索件数が 100 件存在した場合,応答時間を早いものから順に並べたときに 90 番目に該当する値のこと。

表2 項番④

④検索サービスの応答時間は 5 秒以内(90 パーセンタイル値)。

合計5,000件なので,90パーセンタイル値は早いほうから数えて4,500番目の値である。

件数を上から積み上げる。1.9秒まで500件,2.0秒まで1,250件,2.1秒まで2,250件,2.2秒まで3,250件,2.3秒まで4,000件,2.4秒まで4,550件。4,500番目は2.4秒の範囲(4,001〜4,550番目)に入るので,答えは2.4秒。

目標は5秒以内なので達成である。

8.0秒・8.1秒の250件は,10月1日のインシデントのときのものである。合計の5%に当たり,上位10%の中に収まるので90パーセンタイル値には効かない。平均値で測っていれば引きずられていたところで,パーセンタイル値を使うのはこうした一時的な外れ値に左右されないためである。

設問4(1) 40字以内

サービス提供者がサービスレベル目標を達成するために,インシデントモデルを整備しておくことで得られるサービス提供者にとっての利点を 40 字以内で述べよ。

解答例

  • 事前に定義した時間内にインシデントの解決を図ることができる。
解説

本文の根拠

〔検索サービスの改善〕

インシデントが発生したときの処置をインシデントモデルとしてあらかじめ決めておき,情報システム部とサプライヤ各社で共有することになった。

〔検索サービスの改善〕

インシデントモデルに定義された役割,インシデントプロセスの活動,エスカレーションの手順などに従って,定義した時間内にインシデントの解決を図ることを目標にすることとした。

〔検索サービスで発生したインシデント〕

最初の応答遅延の問合せから検索サービス再開までに,1 時間 45 分掛かった。

10月1日のときは,原因も対処方法も分からないまま,M社とN社の両方に調査を依頼して手探りで進めた。それで1時間45分である。表2の項番⑤の2時間には収まったが,余裕はほとんど無い。

いまは原因(LBのファームウェアの不具合)も対処(LBの再起動)も分かっている。だから誰が何をするか,どこへエスカレーションするかを先に決めて共有しておける。再発したときはその場で考えずに動ける。

結果として,決めておいた時間内に解決できる。これがサービス回復時間遵守率を守ることにつながる。

40字。解答例は「事前に定義した時間内にインシデントの解決を図ることができる。」で29字。

採点講評(IPA)

設問4(1)は,正答率が高かった。インシデントモデルを整備しておくことで,インシデントを早期回復できることが正しく理解されているようであった。

設問4(2) 35字以内

表4の a には,〔検索サービスで発生したインシデント〕の事例の教訓から,サービスの早期回復に向けて,サービスデスクで行う内容が入る。適切な内容を 35 字以内で述べよ。

解答例

  • インシデントと判断して情報システム部に電子メールで連絡を行う。
解説

本文の根拠

〔検索サービスで発生したインシデント〕

サービスデスクの担当者は,ノウハウデータベースを参照し,指示書に従って“しばらく待ってから再度検索してください。”と回答した。同様の問合せが,その後 20 分で 10 件発生した。

〔検索サービスの改善〕

M 社は LB の製品メーカからの情報を基に,“10 分間で 3 件以上応答遅延の問合せが発生する場合は,LB の動作が不安定と判断できる”との見解を示した。

図1

ノウハウデータベースを参照しても実現できなかったサービス要求,及びノウハウデータベースに登録されていないサービス要求の内容を情報システム部に電子メールで送信する。

10月1日の教訓は,サービスデスクが指示書どおり「しばらく待ってから再度検索してください」と答え続け,20分・10件たまってからようやく情報システム部へ連絡した,という点である。判断の基準がなかったので,個々の問合せがインシデントの兆候だと気づけなかった。

その基準がM社から示された。10分間で3件以上なら,LBの動作が不安定と判断してよい。表4のL社の行も「10分間で3件以上…受け付けた場合」で始まっている。

そこでサービスデスクは,その時点でインシデントと判断し,図1のとおり情報システム部へ電子メールで連絡する。

35字。解答例は「インシデントと判断して情報システム部に電子メールで連絡を行う。」で30字。

LBの再起動を答えると外れる。それはM社と情報システム部の仕事で,図1に書かれたサービスデスクの機能は受付と連絡だからである。

採点講評(IPA)

設問4(2)は,サービスデスクが行う内容を求めたが,LBの再起動など解決方法に注目した解答が多く,正答率が低かった。LBの製品メーカからの情報を基に,サービスデスクの機能として実施する内容を解答してほしかった。

設問4(3) 30字以内

P 氏は,本文中の下線(ウ)で,フォーラムの開催が有効と判断した。P 氏は,フォーラムをどのような場として有効活用することにしたのか。30 字以内で答えよ。

解答例

  • サプライヤ各社が協調して活動を決定できる場
解説

本文の根拠

〔検索サービスの開始〕

サプライヤ各社は,各社間で直接契約を締結しないので,P 氏は,サプライヤ各社とのコミュニケーションの方法として

〔検索サービスの改善〕

サプライヤ各社との討論の結果は,改善案としてまとめられた。P 氏はサプライヤ各社の賛同を得て,今後の活動を決定した。

サプライヤ各社は互いに契約を結んでいない。だから各社が直接話し合って役割を決めることは,放っておいては起きない。10月1日も,N社とM社がそれぞれ別に調べた結果,たまたまM社がLBの不具合に行き当たった形だった。

フォーラムでは各社が同席して討論し,表4のとおりK社・L社・M社・N社それぞれが何をするかまで分けた改善案ができて,全社の賛同を得て決まった。情報を配るだけの場ではなく,各社の動きをそろえて決める場になっている。

30字。解答例は「サプライヤ各社が協調して活動を決定できる場」で21字。「情報を共有する場」「達成状況を確認する場」では,決定まで至っていることが言えていない。

採点講評(IPA)

設問4(3)は,フォーラムの開催意義を求めたが,単に情報共有やサービスレベルの達成状況を確認するだけにとどまった解答が多く,正答率が低かった。サービス品質の維持及び向上のため,サプライヤ各社が協調して活動を決定することについて解答してほしかった。

出典:令和3年度 春期 ITサービスマネージャ試験 午後Ⅰ 問1(表記を一部改変)

問2 情報セキュリティの管理

情報セキュリティの管理に関する次の記述を読んで,設問1,2に答えよ。

B 社は,精密機械の製造・販売を行っている。精密機械の生産は,関東工場及び九州工場で,毎週日曜日 22:00 から作業を開始し,その週の金曜日 22:00 まで連続で行われている。B 社生産部では,工場の生産活動に関わる計画及び管理を行っている。

〔B 社のシステム概要〕

B 社情報システム部では,生産部の生産活動を支援する生産システム,社員からのメール送受信機能を担うメールシステム及び IT 機器の構成情報を管理する構成管理システムを運用している。関東工場及び九州工場の PC は,それぞれの工場に勤務する生産部及び情報システム部の部員が使用する。B 社のシステム構成を図1に,B 社のシステム概要を表1に示す。

関東工場と九州工場からなるネットワーク構成図。関東工場には,業務 LAN に生産サーバ(正),DB サーバ(正)(生産 DB を保持),構成管理サーバ(構成情報を保持)が接続され,別の業務 LAN セグメントにメールサーバ,さらに別の業務 LAN セグメントに複数の PC が接続されている。これらは FW を経由してインターネットにつながる。FW からは IP-VPN が伸びて九州工場の FW につながる。九州工場には,保守 LAN に PC,生産サーバ(副),DB サーバ(副)(生産 DB を保持)が接続され,LAN 切替スイッチを介して業務 LAN 側のバックアップサーバとつながる。九州工場の業務 LAN には別途複数の PC が接続されている。凡例として,FW はファイアウォール,DB はデータベース。注1として,LAN 切替スイッチは業務 LAN と保守 LAN の接続・切断を制御するスイッチ。
図1 B 社のシステム構成
システム名・システム概要からなる表。生産システムは,関東工場の生産サーバ(正),DB サーバ(正)及び九州工場のバックアップサーバで構成される。関東工場及び九州工場に勤務する生産部の部員が PC を使って生産システムを利用する。関東工場の生産サーバ(正)で毎週日曜日 22:00 から金曜日 22:00 までのオンライン処理を実行する。オンライン処理では DB サーバ(正)の生産 DB を更新し,データ更新ログを生産サーバ(正)のログファイルに記録する。毎週金曜日 22:00 から 24:00 まで週次バッチ処理を実行する。週次バッチ処理の最終工程で,DB サーバ(正)の生産 DB のデータを九州工場のバックアップサーバにフルバックアップする。このバックアップ処理は 30 分で完了する。オンライン処理実行中の 0:00,8:00 及び 16:00 に定期バッチ処理を実行する。定期バッチ処理では,処理の開始時刻から 8 時間前までのデータ更新ログを対象としてバックアップサーバにコピーする。この処理は 30 分で完了する。保守 LAN に接続されている生産サーバ(副)及び DB サーバ(副)(副サーバ群)は,土曜日の日中を除いて LAN 切替スイッチによって業務 LAN から切り離されており,生産システムのプログラムの開発とテストに使用される。テストが完了したプログラムは土曜日の日中に生産サーバ(正)に展開される。障害が発生し生産システムが長時間使用できない場合は,保守 LAN を業務 LAN に接続し,副サーバ群を稼働環境として使用することができる。メールシステムは,社内及び社外との電子メール送受信がメールサーバで処理される。構成管理システムは,B 社で使用するサーバ及び PC の構成情報を構成管理サーバに登録している。全てのサーバ及び全ての PC にはエージェントプログラムが導入されていて,業務 LAN 上のサーバ及び PC の構成情報の変化を検出した場合,エージェントプログラムは構成管理サーバに通知し,構成管理システムが構成情報を更新する。保守 LAN 上のサーバ及び PC の場合は,土曜日の日中に構成情報を更新する。構成情報には,OS セキュリティパッチ(OS パッチ)の適用状況,及びマルウェア対策用のマルウェア定義ファイル(マルウェア定義)の更新状況が分かるマルウェア定義の版の情報が含まれる。
表1 B 社のシステム概要

〔情報セキュリティ対策の概要〕

情報システム部のセキュリティ管理課は,情報セキュリティ管理を担当している。セキュリティ管理課は,情報セキュリティ運用支援サービスを提供している会社(以下,C 社という)と情報セキュリティサービスを契約している。C 社が B 社に提供しているサービスの内容は,次のとおりである。

情報システム部の担当者は,平日 6:00 に,OS ベンダから最新の OS パッチが公開されているかどうかを確認する。サーバの OS パッチが公開されている場合は,図2に示す手順に従って,PC の OS パッチが公開されている場合は,図3に示す手順に従って,それぞれ OS パッチを適用する。

枠内に4つの手順が並ぶ。(当日 6:00〜7:00)九州工場の業務 LAN に接続されている PC を使って最新の OS パッチを入手し,外部記憶媒体に保存する。保守 LAN 上の副サーバ群に,外部記憶媒体に保存した最新の OS パッチをインストールし,再起動する。各サーバが正常に動作することを確認する。(当日 7:30〜10:00)副サーバ群を稼働環境として使用し,保守 LAN 上で生産システムのオンライン処理が正常に稼働することを確認する。(当日 10:00〜10:30)業務 LAN 上のバックアップサーバに最新の OS パッチをインストールし,再起動する。バックアップサーバが正常に動作することを確認する。(土曜日 9:00〜10:00)確認が完了した最新の OS パッチを,業務 LAN 上の生産サーバ(正)及び DB サーバ(正)にインストールし,再起動する。業務 LAN 上で生産システムが正常に稼働することを確認する。注記として,図は生産システムに関わるサーバについての手順の抜粋である。
図2 サーバの OS パッチの適用手順
枠内に3つの手順が並ぶ。(当日 7:00〜7:30)九州工場の業務 LAN に接続されている PC を使って最新の OS パッチを入手し,外部記憶媒体に保存する。保守 LAN 上の PC に最新の OS パッチをインストールし,再起動する。PC が正常に動作することを確認する。(当日 11:00〜12:00)保守 LAN 上で,最新の OS パッチを適用した PC を使って生産システムのオンライン処理が正常に利用できることを確認する。(当日 13:00〜15:00)確認が完了した最新の OS パッチを,業務 LAN に接続された稼働中の PC にインストールイメージとして配付する。注記として,使用している PC への OS パッチの適用は PC の再起動を契機として実施される。社員が PC を再起動する際に自動でインストールが行われ,OS パッチが適用される。関東工場及び九州工場の生産部では平日夜間も PC を利用しているので,PC のシャットダウンは金曜日の 22:00 に実施され,その後 PC を再起動することで OS パッチが適用される。
図3 PC の OS パッチの適用手順

また,C 社から最新のマルウェア定義が提供されている場合は,最新のマルウェア定義が提供される都度,次の対応を行う。

〔情報セキュリティインシデントの発生〕

2020 年 9 月 15 日(火)10:00 に,生産システムの利用者からセキュリティ管理課に情報セキュリティインシデント(以下,今回インシデントという)の発生連絡があった。今回インシデントの対応状況を表2に示す。

時刻・経緯と対応からなる表。10:00 に関東工場の PC の利用者(通告者)からセキュリティ管理課に“PC に保存したファイルが意図せず暗号化されておりファイルを開くことができない。”と電話があった。セキュリティ管理課の IT サービスマネージャの D 氏は,通告者に対し PC を業務 LAN から切り離すように依頼した。10:30 にインシデント対応チームが発足され,D 氏が対応を指揮することになった。C 社の技術者から“今回インシデントは 9 月 7 日(月)に他社で発生したランサムウェアの感染例に似ている。B 社社内にマルウェアが拡散しているリスクがある。業務 LAN に接続されている全てのサーバ及び全ての PC を業務 LAN から切り離す必要がある。”と D 氏に連絡が入った。D 氏は経営幹部に状況を報告し対策実施の了解を得た。サーバ及び PC は業務 LAN から切り離され,生産システムは停止した。また生産部から D 氏に“今月の生産計画を達成するためには遅くとも本日の 18:00 までに生産システムを稼働する必要がある。”との要請が入った。11:00 に D 氏が調査したところ,通告者が 9 月 14 日(月)9:45 頃に不審な電子メール(不審メール)の添付ファイルを開封していたことが分かった。D 氏は通告者が開封した添付ファイルを C 社に送付し支援を要請した。13:00 に C 社の技術者から次の報告があった。①当該の添付ファイルはランサムウェアである。他社で発生したランサムウェアに似ているが別のランサムウェアである。このランサムウェアは感染から 24 時間以内に感染した機器のストレージに保存されたファイルの暗号化を開始する。感染した機器から LAN に接続している他の機器に OS の脆弱性を利用して攻撃を行い短時間で急速に感染を広める。②今回のランサムウェアの攻撃は OS ベンダが 9 月 14 日 3:00 に公開した最新の OS パッチを適用することによって回避できる。③今回のランサムウェアに対応できる最新のマルウェア定義の版を本日の 16:00 に提供できる。13:30 に D 氏は復旧計画の検討を行った。まず生産サーバ(正)及び DB サーバ(正)を使用して生産システムを再開する方法を検討した。16:00 以降,最新のマルウェア定義の版で対策ソフトの機能を使ってマルウェア感染の有無を確認する作業を行うことになるが,この作業には 2 時間 30 分必要となる。その後最新の OS パッチを適用するが完了予定時刻は 19:00 となるので生産部から要請されている 18:00 までに生産システムを稼働できない。次に D 氏は災害時立上げ計画に基づいて九州工場の副サーバ群を使って生産システムを稼働させる案の検討を開始した。副サーバ群及びバックアップサーバに図2の手順によって最新の OS パッチが 9 月 14 日 10:30 までに導入され,必要な確認作業が完了していることを確認した。
表2 今回インシデントの対応状況
時刻・経緯と対応からなる表の続き。14:00 に D 氏は復旧計画を次のとおり作成した。生産システムの復旧(16:00 に作業を開始し 18:00 までに作業を完了する)として,①生産サーバ(正)及び DB サーバ(正)の代替機として(ア)副サーバ群を起動する,②空欄 a,③空欄 b,④LAN 切替スイッチを使って保守 LAN を業務 LAN に接続する,⑤バックアップサーバから生産 DB のフルバックアップを DB サーバ(副)にコピーする,⑥バックアップサーバのデータ更新ログを使って DB サーバ(副)を 8:00 の状態に復元する,⑦生産システムのオンライン処理を開始する,⑧8:00 から生産システムが停止した時点までのデータは生産部員がデータを再投入する。業務 LAN から切り離された PC の復旧(16:00 から 18:00 までの間に PC 利用者が対応する)として,①PC には最新の OS パッチのインストールイメージが配付されているので PC を再起動し最新の OS パッチが適用されている状態とする,②PC のマルウェア定義を最新の版に更新しマルウェア感染の有無を確認する。感染している場合はマルウェアを駆除する,③PC を業務 LAN に接続する(生産システムの利用は 18:00 からとする)。15:00 に D 氏は復旧計画を経営幹部に説明し了解を得た。16:00 に D 氏は C 社から最新のマルウェア定義の版を受領したのち復旧計画の作業を開始した。18:00 に復旧計画の全ての作業を完了した。注1として,災害時立上げ計画とは大規模地震などの災害が発生し関東工場が被災したときに九州工場の各サーバを使って生産システムを稼働させる計画のことである。
表2 今回インシデントの対応状況(続き)

〔問題点と対策〕

D 氏は,今回インシデントの対応を振り返り,C 社の技術者の支援も得て,情報セキュリティに関する現状の問題点と対策案を表3のとおり整理した。

項番・問題点・対策案からなる表。項番1の問題点は,社員が不審メールに添付されているファイルを十分確認せずに開封してしまう。対策案は,B 社の全社員を対象に不審メール受信時の対応教育を e ラーニングで定期的に実施する。また図4に示す不審メール対応訓練を実施する。項番2の問題点は,セキュリティ管理課では今回のように添付ファイルを誤って開封してしまう社員がどのくらいの割合でいるか現状を把握できていない。対策案は,図4に示す不審メール対応訓練を行うことによって(イ)現状を把握する。項番3の問題点は,セキュリティ管理課では最新の OS パッチが適用されていない PC を把握していない。対策案は,空欄 c を使って PC の OS パッチの適用状況を把握する。項番4の問題点は,バックアップサーバがマルウェアに感染するとバックアップのデータが利用できなくなる。対策案は空欄 d。
表3 現状の問題点と対策案(抜粋)
枠内に3つの内容が並ぶ。不審メール対応訓練の実施に先立って,訓練の内容及び時期を全社員に電子メールで通知する。関連会社のメールアドレスを装って,業務連絡を模擬した訓練メールを全社員に送付する。訓練メールにはファイルを添付して,本文に添付ファイルの開封を促すメッセージを記載しておく。業務 LAN に集計サーバを設置し,社員が不審メールと判断できずに添付ファイルを開封した場合は,開封した社員のメールアドレスの情報が自動で集計サーバに送信されるシステムを構築する。
図4 不審メール対応訓練

出題趣旨(IPA)

近年,マルウェア感染による被害が拡大している。ITサービスマネージャには,このような情報セキュリティインシデントへの的確な対応や攻撃を想定した訓練計画の立案が求められる。本問では,生産システムを利用するPCがマルウェアに感染した事例を題材として,情報セキュリティインシデントの対応及び訓練計画の立案に関する,ITサービスマネージャとしての情報セキュリティ管理能力を問う。

設問と解答例

設問1(1) 40字以内

表2中の下線(ア)について,今回インシデントの対応として,副サーバ群を使って生産システムを稼働できる理由を 40 字以内で答えよ。ただし,最新の OS パッチが副サーバ群に適用されていることは除く。

解答例

  • 業務LANに接続していない副サーバ群は,ランサムウェアに感染していないから。
解説

本文の根拠

表1 生産システム

保守 LAN に接続されている生産サーバ(副)及び DB サーバ(副)(副サーバ群)は,土曜日の日中を除いて LAN 切替スイッチによって業務 LAN から切り離されており

表2 C社の報告

感染した機器から LAN に接続している他の機器に OS の脆弱性を利用して攻撃を行い短時間で急速に感染を広める。

今回のランサムウェアは,LANでつながった機器へ次々に広がる。感染源は関東工場の業務LAN上のPCである。

副サーバ群は保守LANにあり,土曜日の日中を除いてLAN切替スイッチで業務LANから切り離されている。今回インシデントが起きた9月15日は火曜日なので,切り離されたままである。つながっていない以上,感染する経路がない。

これが,正サーバ群が使えない状況でも副サーバ群なら使える理由である。設問が「最新のOSパッチが適用されていることは除く」と断っているのは,パッチの話ではなく,この隔離の話を答えさせるためである。

40字。解答例は「業務LANに接続していない副サーバ群は,ランサムウェアに感染していないから。」で37字。

副サーバ群は災害時立上げ計画のための予備でもあるが,ここで効いているのは災害対策としての備えではなく,普段から業務LANと切り離されているという性質のほうである。

採点講評(IPA)

設問1(1)は,正答率は平均的であったが,災害対策時に予備系サーバに必要となる対策に着目した解答が散見された。情報セキュリティインシデントに着目し,災害対策時とは異なった対応に着目して解答してほしかった。

設問1(2)(a) 40字以内

a には,マルウェア対策の作業が入る。作業内容を 40 字以内で述べよ。

解答例

  • マルウェアに感染していないことを最新のマルウェア定義で確認する。
解説

本文の根拠

表2

サーバ及び PC は業務 LAN から切り離され,生産システムは停止した。

表2 C社の報告

今回のランサムウェアに対応できる最新のマルウェア定義の版を本日の 16:00 に提供できる。

表2 復旧計画

⑤バックアップサーバから生産 DB のフルバックアップを DB サーバ(副)にコピーする

復旧計画の⑤で使うのはバックアップサーバである。ところがバックアップサーバは,副サーバ群と違って九州工場の業務LAN側にある。業務LANにつながっていた以上,マルウェアが届いていた可能性がある。

10:30にいったん業務LANから切り離してはいるが,それは拡散を止めるための措置で,感染していないことの確認ではない。感染したままのバックアップサーバからデータをコピーすれば,せっかく無事だった副サーバ群まで巻き込む。

C社から16:00に最新のマルウェア定義が届くので,それを使って感染の有無を確かめる。作業を16:00開始としているのはこのためである。

40字。解答例は「マルウェアに感染していないことを最新のマルウェア定義で確認する。」で31字。対象がバックアップサーバであることを外すと,設問の条件から離れる。

採点講評(IPA)

設問1(2)は,正答率が低かった。バックアップサーバに関する設問であったが,異なるサーバに着目した解答が多かった。設問で明示した条件を正しく理解した上で,解答してほしかった。

設問1(2)(b) 20字以内

b には,バックアップサーバを利用できるようにするための作業が入る。作業内容を 20 字以内で述べよ。

解答例

  • 業務LANに接続する。
解説

本文の根拠

表2

サーバ及び PC は業務 LAN から切り離され,生産システムは停止した。

図1 注1

LAN 切替スイッチは業務 LAN と保守 LAN の接続・切断を制御するスイッチ。

バックアップサーバは10:30に業務LANから切り離されている。切り離したままでは,④で保守LANを業務LANにつないでも,⑤のコピーができない。

だから,感染していないことを確認したうえで,業務LANにつなぎ直す。

④のLAN切替スイッチの操作と混同しやすいが,あちらは保守LANと業務LANをつなぐ操作で,バックアップサーバをつなぐ操作ではない。別の作業なので②③として分けて書かれている。

20字。解答例は「業務LANに接続する。」で11字。

採点講評(IPA)

設問1(2)は,正答率が低かった。バックアップサーバに関する設問であったが,異なるサーバに着目した解答が多かった。設問で明示した条件を正しく理解した上で,解答してほしかった。

設問2(1) 30字以内

表3中の下線(イ)について,現状を把握する方法を 30 字以内で述べよ。

解答例

  • 集計サーバへの送信情報から開封率を計算する。
解説

本文の根拠

表3 項番2

セキュリティ管理課では今回のように添付ファイルを誤って開封してしまう社員がどのくらいの割合でいるか現状を把握できていない。

図4

業務 LAN に集計サーバを設置し,社員が不審メールと判断できずに添付ファイルを開封した場合は,開封した社員のメールアドレスの情報が自動で集計サーバに送信されるシステムを構築する。

図4

関連会社のメールアドレスを装って,業務連絡を模擬した訓練メールを全社員に送付する。

把握したいのは「どのくらいの割合でいるか」なので,答えも割合の形にする。件数を数えるだけでは,多いのか少ないのかが分からない。

訓練メールは全社員に送る。開封した社員のメールアドレスは自動で集計サーバに集まる。したがって「集計サーバに届いた件数 ÷ 全社員数」で開封率が出る。分母が全社員だと決まっているのは,全社員に送るからである。

30字。解答例は「集計サーバへの送信情報から開封率を計算する。」で22字。

採点講評(IPA)

設問2(1)と(2)は,正答率が高かった。不審メール対応訓練の有用性及び情報セキュリティ対策における構成管理の重要性は,正しく理解されているようであった。

設問2(2) 15字以内

表3の c に入れる適切な字句を 15 字以内で答えよ。

解答例

  • 構成管理システムの構成情報
解説

本文の根拠

表1 構成管理システム

構成情報には,OS セキュリティパッチ(OS パッチ)の適用状況,及びマルウェア対策用のマルウェア定義ファイル(マルウェア定義)の更新状況が分かるマルウェア定義の版の情報が含まれる。

表1 構成管理システム

全てのサーバ及び全ての PC にはエージェントプログラムが導入されていて,業務 LAN 上のサーバ及び PC の構成情報の変化を検出した場合,エージェントプログラムは構成管理サーバに通知し,構成管理システムが構成情報を更新する。

「OSパッチの適用状況」という語を本文から探すと,表1の構成管理システムの説明にそのまま出てくる。構成情報の中に含まれている。

しかも全てのPCにエージェントプログラムが入っていて,変化があれば自動で構成管理サーバへ通知される。つまり把握するための仕組みはすでにあり,使っていなかっただけである。新しく何かを作る必要はない。

15字。解答例は「構成管理システムの構成情報」で13字。

採点講評(IPA)

設問2(1)と(2)は,正答率が高かった。不審メール対応訓練の有用性及び情報セキュリティ対策における構成管理の重要性は,正しく理解されているようであった。

設問2(3) 50字以内

表3の d には,バックアップサーバのデータが利用できなくなる事態を想定した対策が入る。対策の内容を 50 字以内で述べよ。

解答例(2通り)

  • バックアップを外部記憶媒体に複写し,業務LANからアクセスできない場所に保管する。
  • 週次バッチ処理及び定期バッチ処理でバックアップをライトワンス光ディスクに複写する。
解説

本文の根拠

表3 項番4

バックアップサーバがマルウェアに感染するとバックアップのデータが利用できなくなる。

表1 生産システム

週次バッチ処理の最終工程で,DB サーバ(正)の生産 DB のデータを九州工場のバックアップサーバにフルバックアップする。

表2 C社の報告

このランサムウェアは感染から 24 時間以内に感染した機器のストレージに保存されたファイルの暗号化を開始する。

今回,副サーバ群が無事だったのは業務LANから切り離されていたからである。同じ理屈をバックアップのデータにも当てはめる。

バックアップサーバは業務LANにつながっているので,ランサムウェアが届けばバックアップのデータも暗号化される。本番のデータが失われたときに使うのがバックアップなのに,同時に失われては意味がない。

だから,バックアップをさらに別の媒体に複写して,業務LANから手が届かない場所に置く。書き換えのできない媒体に取るという形でもよい。どちらも「マルウェアが動く場所からデータを引き離す」という同じ考え方である。

50字。解答例は「バックアップを外部記憶媒体に複写し,業務LANからアクセスできない場所に保管する。」で40字。バックアップの回数を増やす,といった答えでは,感染したときに一緒に暗号化される点が変わらない。

採点講評(IPA)

設問2(3)は,マルウェアが動作するサーバやPCからデータを隔離する必要があることの理解が不足している解答が多く,正答率がやや低かった。情報セキュリティ対策におけるバックアップの重要性を理解してほしい。

出典:令和3年度 春期 ITサービスマネージャ試験 午後Ⅰ 問2(表記を一部改変)

問3 データセンタのファシリティマネジメント

データセンタのファシリティマネジメントに関する次の記述を読んで,設問1〜3に答えよ。

電子機器部品メーカの情報システム子会社である W 社は,自社データセンタ(以下,DC という)で,自社業務に使用する各システムを稼働させている。

DC にはコンピュータ室が 2 室あり,それぞれのコンピュータ室にはラックが設置され,サーバが収容されている。DC には,ファシリティマネジメント部(以下,FM 部という)とシステム運用部があり,事務室で執務している。FM 部は,24 時間のシフト体制で担当者が 2 名常駐し,DC 設備の監視と管理を行っている。システム運用部は,24 時間のシフト体制でオペレータが 4 名常駐し,システムの運用と管理を行っている。

〔DC の電力供給設備〕

DC は,常用電源として電力会社から電力供給を受けている。電力会社からの電力供給に異常が発生した場合に備え,予備電源として自家発電設備(以下,自家発という)を設置している。

電力会社からの電力供給で瞬断が発生した場合や,自家発による電力供給に切替えを行う場合には,コンピュータ室への電力供給が一時的に停止する。これに備えて,蓄電池を持つ UPS をラックに接続して,UPS からラックに電力供給を行っている。UPS からラックなどの電力負荷機器に連続給電できる時間(以下,停電補償時間という)は,負荷の容量に応じて変動する。

UPS は,一部を冗長構成にするための予備の UPS を含めて,7 台設置している。UPS で機器故障が発生した場合は,無瞬断切替え装置によって自動的に予備の UPS からの電力供給に切り替わる。

また,近年のラック内機器の高集積化に伴う発熱量増加を受けて,コンピュータ室に設置している空調機が全て停止することを防ぐために,一部の空調機も UPS に接続して,UPS から空調機に電力供給を行うこととしている。

DC の電力供給設備と電力負荷機器を図1に示す。

左に電力供給設備,右に電力負荷機器を配置した図。電力会社から電力が供給され,自家発(7,500)が遮断状態のスイッチを介して接続されている。電力供給設備には UPS-A から UPS-G の 7 台がある。UPS-A と UPS-B は無瞬断切替え装置を介してコンピュータ室1のラック1(1,600)とラック2(1,800)に,UPS-C と UPS-D は別の無瞬断切替え装置を介して接続される。UPS-E は無瞬断切替え装置を介してコンピュータ室2につながる。UPS-F と UPS-G は無瞬断切替え装置を介してラック3(600)に接続される。コンピュータ室1には空調機1(600)と空調機2(600)があり,空調機1は接続状態,空調機2は遮断状態のスイッチでつながる。コンピュータ室2には空調機3(600)と空調機4(600)があり,空調機3は接続状態,空調機4は遮断状態のスイッチでつながる。凡例として,接続状態,遮断状態,無瞬断切替え装置の記号が示されている。注記1として,UPS-A から UPS-G は UPS 機器名称であり,UPS-C,UPS-D,UPS-G は予備の UPS 機器である。注記2として,空調機2と空調機4は予備の空調機である。注記3として,自家発の括弧内の数値は出力容量(kVA:キロボルトアンペア)を,電力負荷機器の括弧内の数値は消費電力(kW:キロワット)を表す。注記4として,消費電力が 1kW の電力負荷機器には,出力容量 1.25kVA の電力供給設備が必要である。
図1 DC の電力供給設備と電力負荷機器

〔電力供給設備の課題〕

(1) 自家発の課題

自家発は,出力容量 7,500kVA の電力供給能力があるが,W 社の事業拡大に伴い計画された 2021 年度のサーバ機器増強計画に基づき,電力供給設備の増強の必要性有無を検討した。その結果,サーバ機器を計画どおりに増強すると,(ア)自家発の供給電力が不足することが分かり,自家発の増強を計画した。

2021 年度のサーバ機器増強計画を表1に示す。

単位は kW。時期を列に 2021 年 5 月・8 月・10 月・12 月・2022 年 2 月・3 月をとった表。消費電力は 300/300/100/200/600/900。対象ラックはラック3/ラック3/ラック1/ラック3/ラック2/ラック1。例1として,5 月に消費電力が 300kW のサーバ機器を追加し,ラック3に収容する。
表1 2021 年度のサーバ機器増強計画

(2) UPS の停電補償時間の課題

電力会社からの電力供給が一定時間停止した場合,自家発が自動で起動する。自家発の機器故障などで自動起動に失敗した場合は,FM 部の担当者が自家発を手動で起動する必要がある。2018 年に自家発を設置したとき,“電力会社からの電力供給停止から,自家発を手動で切り替えて電力の供給が開始されるまでの時間”(以下,自家発切替え時間という)を測定したところ,測定結果は 5 分であった。

UPS は,電力負荷機器の消費電力及び自家発切替え時間を基に選定した。ここで,1kW の消費電力の電力負荷機器には,1.25kVA の出力容量の UPS が必要であるとして検討した。選定の結果,UPS-A,UPS-B,UPS-C,UPS-D 及び UPS-E の 5 台は,UPS タイプ①の UPS を,UPS-F 及び UPS-G の 2 台は,UPS タイプ②の UPS の採用を決定し,設置した。それぞれのタイプ別の停電補償時間は,表2,3のとおりである。

出力容量(kVA)と停電補償時間(分)の表。0〜1,500 が 30 分,1,500〜2,000 が 25 分,2,000〜2,500 が 20 分,2,500〜3,500 が 15 分,3,500〜5,000 が 10 分,5,000〜9,000 が 5 分。例1として,0kVA より大きく 1,500kVA 以下を表す。
表2 UPS タイプ①の停電補償時間
出力容量(kVA)と停電補償時間(分)の表。0〜900 が 36 分,900〜1,100 が 30 分,1,100〜1,200 が 24 分,1,200〜1,400 が 18 分,1,400〜2,000 が 12 分,2,000〜5,000 が 6 分。例1として,0kVA より大きく 900kVA 以下を表す。
表3 UPS タイプ②の停電補償時間

2020 年 2 月に自家発の手動起動のテストを実施したところ,FM 部担当者によっては手動起動に最大 20 分掛かることが分かった。FM 部は,自家発切替え時間の短縮を目的に FM 部担当者の訓練を行うこととした。同時に,UPS の停電補償時間に問題がないかを確認するために,表1の 2021 年度のサーバ機器増強計画どおりに機器を増強した場合の必要な停電補償時間を 20 分とする条件で検討した。そこで,予備の UPS 機器を除いた UPS-A,UPS-B,UPS-E,UPS-F を対象に検討した結果,これらの UPS では,(イ)必要な停電補償時間を満たせなくなる時期が来ることから,FM 部は,UPS 更新計画を策定することとした。

〔UPS の増設〕

W 社は,電子機器部品にセンサや通信モジュールを取り付けることで,リアルタイムで稼働状況データを収集する IoT システム(以下,T システムという)を 2022 年 4 月に稼働させることになった。T システムのサーバ機器は複数必要であり,ラック1及びラック3に分散して収容する。T システムが求める高い可用性を実現するために,UPS の冗長性を強化することとした。そこで,メンテナンスなどで一方の UPS を停止したときに,他方の UPS で障害が発生したときに備えて,電力供給を継続するために,(ウ)予備の UPS を 1 台増設することを計画した。

〔空調機障害の発生〕

FM 部では,空調機で障害が発生した場合は,表4に示す空調機停止時の影響度判定と対応に従って,対応を行うこととしている。

影響度・判定基準・FM 部の対応内容からなる表。影響度が高の判定基準はコンピュータ室の温度がしきい値を超過,対応内容は W 社の全社員に障害発生メールを送信する,全社横断の緊急対策チームを立ち上げ FM 部の部長が責任者としてチームを指揮し組織的な対応を行う。影響度が中の判定基準は一部のラック内の温度がしきい値を超過,対応内容は FM 部の全部員に障害発生メールを送信する,FM 部員がラック内冷却対応と空調機の復旧対応を行う,同時にラック内サーバに異常がないかをオペレータに確認し異常がある場合はオペレータと連携して復旧対応を行う。影響度が低の判定基準は上記以外,対応内容は FM 部の全部員に注意喚起の障害発生メールを送信する,FM 部員が空調機の復旧対応を行う。注1として,ラック内冷却対応はポータブル空調機を用いた冷却などの暫定対応を行う。
表4 空調機停止時の影響度判定と対応

2020 年 10 月 11 日 23 時頃,ラック1内の温度が上昇し,ラック1に収容されている,社内向けの勤怠管理システムを運用するサーバ(以下,サーバ1という)が停止した。勤怠管理システムを使ったサービスは,10 月 11 日 0 時から 10 月 12 日 8 時までが計画停止時間帯であったので,サーバ停止による業務への影響は発生しなかった。

今回のラック1内の温度上昇は,電力会社からの電力供給で瞬断が発生し,空調機1が停止したことが原因であった。空調機2は保守作業中で使用できず,空調機1の正常性確認を行ったことで再稼働するまで 50 分掛かったので,ラック1の温度が上昇した。幸い,停止したサーバはサーバ1だけであった。10 月 11 日 22 時 30 分に発生した空調機障害の対応経緯を,表5に示す。

日時・状況・対応からなる表。10/11 22:30 空調機1停止:(FM 部)空調機1の停止アラートを検知し影響度を低として空調機の復旧対応を開始した。22:50 ラック1内の温度が上昇ししきい値を超過:(FM 部)空調機1の再稼働に時間が掛かりラック1内の温度が上昇した。しきい値を超過したので影響度を中としてラック1の冷却対応を開始した。同時にラック1に収容されたサーバに影響が出ていないかオペレータに確認を依頼した。(システム運用部)オペレータはサーバの状態に異常がないことを確認し FM 部に報告した。23:00 イメージバックアップ取得中にサーバ1が停止:(システム運用部)オペレータがサーバ1の停止を検知した。ラック1に収容されているサーバ1が停止したことをオペレータは勤怠管理システムの担当者である Y 氏と FM 部に連絡した。Y 氏は自宅からサーバに接続を試みたが接続できなかった。23:10 ラック1内の温度が正常化:(FM 部)ポータブル空調機を用いてラック1の冷却対応を行った。ラック1内の温度が正常に戻ったことを確認し暫定対応が完了したことをオペレータに連絡した。(システム運用部)オペレータが Y 氏にラック1内の温度が正常に戻ったことを連絡した。Y 氏はオペレータにサーバ1の再起動を指示しオペレータがサーバ1の再起動を開始した。23:20 空調機1が正常稼働:(FM 部)空調機1の再稼働が完了しコンピュータ室やラック内の温度が正常であることを確認した。23:25 サーバ1が正常起動:(システム運用部)Y 氏はオペレータにサーバ1のイメージバックアップの再取得を指示しオペレータはイメージバックアップの再取得を開始した。10/12 0:30 イメージバックアップ再取得が正常終了:(システム運用部)オペレータがイメージバックアップの再取得が正常に終了したことを確認し Y 氏に報告した。サーバ1が正常に戻ったことをオペレータが FM 部に連絡した。(FM 部)サーバ1が正常に戻ったことで空調機1停止の対応を終了とした。8:00 勤怠管理システムのオンライン処理開始遅延:(システム運用部)勤怠管理システムのオンライン処理の開始時点でシステムが異常終了した。Y 氏は不具合の起きたファイルを回復しオンラインの開始に向けた作業を行った。復旧対応に 1 時間掛かった。9:00 勤怠管理システムのオンライン処理開始:(省略)。注1として,月次で実施する保守作業の最終工程でイメージバックアップを取得している。
表5 空調機障害の対応経緯

10 月 12 日 8:00 に勤怠管理システムのオンライン処理が開始しなかったのは,前日の 23:00 にサーバ1が停止した際に発生したファイルの内容に関する不具合が原因であった。勤怠管理システムの担当者の Y 氏は,10 月 12 日 8:00 に出社したデータベースの技術者に異常終了について相談した結果,サーバ停止の状況によってはファイルの内容に不具合が発生することがあることを伝えられ,問題の原因が判明し,復旧対応を行った。

FM 部は,空調機2の保守作業中に空調機1が停止したことは大きな問題と捉え,(エ)空調機停止の再発防止策を検討することとなった。また,表5の対応を振り返り,サーバ停止を検知した時点で,関係者を巻き込んで組織的な対応を行うべきであったことから,今後は影響度を高として対応することとし,(オ)表4の判定基準を見直すことにした。

出題趣旨(IPA)

データセンタは,分散するIT機器を集中設置し効率よく運用するために作られた専用施設であって,高い信頼性の確保が求められる。本問では,自社のデータセンタにおける電力供給設備の冗長性などに関する課題を題材として,ファシリティマネジメント,インシデントの管理に関する実務経験を問う。

設問と解答例

設問1(1)

本文中の下線(ア)について,表1のサーバ機器増強計画に従って機器を増強した場合,自家発の供給電力不足が発生する年月を答えよ。

解答例

  • 2021 12
解説

本文の根拠

図1

自家発の括弧内の数値は出力容量(kVA:キロボルトアンペア)を,電力負荷機器の括弧内の数値は消費電力(kW:キロワット)を表す。

図1 注記4

消費電力が 1kW の電力負荷機器には,出力容量 1.25kVA の電力供給設備が必要である。

表1

消費電力は 300/300/100/200/600/900。対象ラックはラック3/ラック3/ラック1/ラック3/ラック2/ラック1。

単位が2つあるので,どちらかにそろえてから比べる。自家発は7,500kVA。消費電力1kWに1.25kVAが要るので,賄える消費電力は 7,500 ÷ 1.25 = 6,000kWである。

現在の消費電力を図1から拾う。ラック1が1,600,ラック2が1,800,ラック3が600,空調機1が600,空調機3が600。空調機2と空調機4は遮断状態で稼働していないので数えない。合計5,200kW。余裕は800kWしかない。

表1の増強を順に足す。

2021年5月 +300 → 5,500

2021年8月 +300 → 5,800

2021年10月 +100 → 5,900

2021年12月 +200 → 6,100(6,000を超える)

答えは2021年12月。

kVAのまま計算しても同じで,5,200 × 1.25 = 6,500kVAから始めて,12月に 6,100 × 1.25 = 7,625kVAとなり7,500kVAを超える。どちらでもよいが,途中で単位を混ぜないこと。

採点講評(IPA)

設問1は,正答率がやや高かった。消費電力(kW)に必要な出力容量(kVA)の算出方法は,正しく理解されているようであった。

設問1(2) 解答欄2つ

本文中の下線(イ)について,必要な停電補償時間を満たせなくなる時期はいつか。UPS のタイプ別に年月を答えよ。

〔UPSタイプ①〕解答例

  • 2022 2

〔UPSタイプ②〕解答例

  • 2021 8
解説

本文の根拠

図1 注記1

UPS-A から UPS-G は UPS 機器名称であり,UPS-C,UPS-D,UPS-G は予備の UPS 機器である。

表2

0〜1,500 が 30 分,1,500〜2,000 が 25 分,2,000〜2,500 が 20 分,2,500〜3,500 が 15 分

表3

0〜900 が 36 分,900〜1,100 が 30 分,1,100〜1,200 が 24 分,1,200〜1,400 が 18 分,1,400〜2,000 が 12 分

〔(2) UPS の停電補償時間の課題〕

予備の UPS 機器を除いた UPS-A,UPS-B,UPS-E,UPS-F を対象に検討した結果

まず,どのUPSが何を受け持つかを図1で確かめる。UPS-Aがラック1,UPS-Bがラック2,UPS-Eがコンピュータ室2の空調機,UPS-Fがラック3である。UPS-C・UPS-D・UPS-Gは予備なので対象から外す。停電補償時間はkVAで決まるので,消費電力を1.25倍して当てはめる。

タイプ①(UPS-A・UPS-B・UPS-E)

UPS-A=ラック1:1,600kW=2,000kVA→25分。10月に+100で1,700kW=2,125kVA→20分(ぎりぎり満たす)。2022年3月に+900で2,600kW=3,250kVA→15分で不足。

UPS-B=ラック2:1,800kW=2,250kVA→20分。2022年2月に+600で2,400kW=3,000kVA→15分で不足。

UPS-E=空調機600kW=750kVA→30分。増強の予定がないので変わらない。

最も早いのはUPS-Bで,2022年2月。

タイプ②(UPS-F)

UPS-F=ラック3:600kW=750kVA→36分。5月に+300で900kW=1,125kVA→24分。2021年8月に+300で1,200kW=1,500kVA→12分で不足。

答えは2021年8月。

表の区分は「0〜1,500」のように書かれているが,例1のとおり下の値は含まず上の値を含む。2,000kVAちょうどなら25分の側,2,125kVAなら20分の側になる。境目をどちらに寄せるかで答えが変わるので注意する。

採点講評(IPA)

設問1は,正答率がやや高かった。消費電力(kW)に必要な出力容量(kVA)の算出方法は,正しく理解されているようであった。

設問2 25字以内

〔UPS の増設〕について,本文中の下線(ウ)の対応を実施した場合,増設した UPS をどの電力負荷機器と接続すべきか。25 字以内で答えよ。

解答例

  • ラック3(に収容するTシステムのサーバ機器)
解説

本文の根拠

〔UPS の増設〕

T システムのサーバ機器は複数必要であり,ラック1及びラック3に分散して収容する。

〔UPS の増設〕

メンテナンスなどで一方の UPS を停止したときに,他方の UPS で障害が発生したときに備えて,電力供給を継続するために

図1 注記1

UPS-C,UPS-D,UPS-G は予備の UPS 機器である。

求められている冗長性は,「1台をメンテナンスで止めているあいだに,もう1台が壊れても給電が続く」ことである。これを満たすにはUPSが3台要る。

Tシステムが入るのはラック1とラック3なので,この2つだけを見る。

ラック1は,図1のとおりUPS-Aに加えて予備のUPS-C・UPS-Dが同じ無瞬断切替え装置につながっている。3台あるので,1台を止めて1台が壊れても残り1台で給電できる。要件を満たしている。

ラック3はUPS-Fと予備のUPS-Gの2台だけである。UPS-Gをメンテナンスで止めているあいだにUPS-Fが壊れると給電が止まる。ここが足りない。

25字。解答例は「ラック3(に収容するTシステムのサーバ機器)」。ラック2やコンピュータ室2はTシステムと関係がなく,ラック1はすでに3台ある。

採点講評(IPA)

設問2は,新規システムの求める電力供給設備の冗長構成要件に対して,満たせていない箇所を特定する設問であった。正答率は平均的であったが,冗長性に問題がない箇所や,新規システムに関係のない箇所を特定するといった誤った解答が散見された。

設問3(1) 30字以内

本文中の下線(エ)について,空調機1の停止を防ぐために,図1の DC の電力供給設備と電力負荷機器をどのように変更すべきか。30 字以内で述べよ。

解答例

  • 空調機1及び空調機2に接続するUPS装置を設置する。
解説

本文の根拠

〔空調機障害の発生〕

今回のラック1内の温度上昇は,電力会社からの電力供給で瞬断が発生し,空調機1が停止したことが原因であった。

〔DC の電力供給設備〕

電力会社からの電力供給で瞬断が発生した場合や,自家発による電力供給に切替えを行う場合には,コンピュータ室への電力供給が一時的に停止する。これに備えて,蓄電池を持つ UPS をラックに接続して,UPS からラックに電力供給を行っている。

〔DC の電力供給設備〕

コンピュータ室に設置している空調機が全て停止することを防ぐために,一部の空調機も UPS に接続して,UPS から空調機に電力供給を行うこととしている。

止まった原因は瞬断である。瞬断に備える設備がUPSで,本文にもそう書いてある。

図1で空調機のつながり方を見ると,コンピュータ室2の空調機3・空調機4はUPS-Eの先にあるが,コンピュータ室1の空調機1・空調機2は電力会社からの線に直接つながっていて,UPSを通っていない。本文が「一部の空調機も」と書いているのは,この差を指している。

空調機3であれば瞬断でも止まらなかった。空調機1にはUPSが無いから止まった。だから空調機1・空調機2にもUPSを付ける。

30字。解答例は「空調機1及び空調機2に接続するUPS装置を設置する。」で25字。

予備のUPS-C・UPS-D・UPS-Gを空調機に回す答えは誤りである。回した先の冗長性は上がるが,ラック1・ラック2・ラック3の予備が減る。一部を直すために別の場所を弱くしてはいけない。

採点講評(IPA)

設問3は,正答率は平均的であったが,設問を正しく理解していないと思われる解答が散見された。(1)では,予備のUPSを利用する解答が散見されたが,他UPSの冗長性を下げてしまうことから,誤りである。部分的な冗長性だけでなく,全体の冗長性の把握が重要であることを理解してほしい。(2)は判定基準の変更を求める設問であったが,対応内容の変更を記述する誤った解答が散見された。設問で明示した条件を正しく理解して,解答してほしかった。

設問3(2) 40字以内

本文中の下線(オ)について,表4の判定基準の記述内容をどのように見直すべきか。40 字以内で述べよ。

解答例

  • 表4の影響度高の判定基準に,“又はサーバに異常発生”を追加する。
解説

本文の根拠

表4

影響度が高の判定基準はコンピュータ室の温度がしきい値を超過

表4

影響度が中の判定基準は一部のラック内の温度がしきい値を超過

〔空調機障害の発生〕

サーバ停止を検知した時点で,関係者を巻き込んで組織的な対応を行うべきであったことから,今後は影響度を高として対応することとし

表4の判定基準は,高も中も温度しか見ていない。だから表5の23:00にサーバ1が止まっても,影響度は22:50に決めた「中」のままで,組織的な対応に切り替わらなかった。

本文は「サーバ停止を検知した時点で…今後は影響度を高として対応する」と言っている。そうなるためには,高の判定基準にサーバの異常を足せばよい。温度に加えて,サーバに異常が出た場合も高とする。

40字。解答例は「表4の影響度高の判定基準に,“又はサーバに異常発生”を追加する。」で31字。

設問が聞いているのは判定基準である。全社員へのメールや緊急対策チームの立上げといった対応内容は,高になれば自動的に実施されるので,そちらを書き換える必要はない。

採点講評(IPA)

設問3は,正答率は平均的であったが,設問を正しく理解していないと思われる解答が散見された。(1)では,予備のUPSを利用する解答が散見されたが,他UPSの冗長性を下げてしまうことから,誤りである。部分的な冗長性だけでなく,全体の冗長性の把握が重要であることを理解してほしい。(2)は判定基準の変更を求める設問であったが,対応内容の変更を記述する誤った解答が散見された。設問で明示した条件を正しく理解して,解答してほしかった。

出典:令和3年度 春期 ITサービスマネージャ試験 午後Ⅰ 問3(表記を一部改変)