平成21年度 秋期に実施されたITストラテジスト試験
午前Ⅱ(2026年度からの科目A-2)の全25問に,運営者が独自に書いた解説を付けています。正解の理由に加えて,多くの問題でほかの選択肢がなぜ誤りなのかも説明しています。
この試験について:ITストラテジスト試験について
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問1
業務のあるべき姿を表す論理モデルを説明したものはどれか。
ア 企業における主要機能を明確にして,現状の業務機能を分析し,体系化したもの
イ 経営目標の達成に必要な業務機能を定義し,体系化したもの 正解
ウ 現状の業務機能と情報システムでの処理を分析し,相互の関係を明確化したもの
エ 本来あるべき業務機能と現状を比較・分析し,評価したもの
正解 イ
解説
業務のあるべき姿を表す論理モデル(To-Be モデル)は,経営目標を達成するために必要な業務機能を定義し,体系化したものである。現在のやり方にとらわれず,本来必要な機能を明らかにする。イが該当する。
アとウは,現状の業務機能や情報システムでの処理を分析したもので,現状を表すモデル(As-Is モデル)である。エは,あるべき姿と現状を比較してその差異を分析するギャップ分析の結果である。
出典:平成21年度 秋期 ITストラテジスト試験 午前Ⅱ 問1(表記を一部改変)
問2
BPO を説明したものはどれか。
ア 企業内の業務全体を対象として,業務プロセスを抜本的に見直すことで,品質・コスト・スピードを改善し,競争優位性を確保すること
イ 災害や事故で被害を受けても,重要事業を中断させない,又は可能な限り中断期間を短くする仕組みを構築すること
ウ 社内業務のうちコアビジネス以外の業務の一部又は全部を,情報システムと併せて外部に委託することで,経営資源をコアビジネスに集中させること 正解
エ プロジェクトを,戦略との適合性や費用対効果,リスクといった観点から評価を行い,情報化投資のバランスを管理し,最適化を図ること
正解 ウ
解説
BPO(Business Process Outsourcing)は,自社の中核ではない業務プロセスを,その分野を専門とする外部企業にまとめて委託すること。人事・経理・コールセンターなどが対象になりやすい。ウが正しい。
アは業務プロセスを抜本的に見直す BPR(ビジネスプロセスリエンジニアリング)。イは災害や事故でも重要事業を中断させない,又は早期に復旧させる仕組みを作る BCP(事業継続計画)や BCM。エはプロジェクトを評価して情報化投資の配分を最適化する IT ポートフォリオマネジメントの説明である。
出典:平成21年度 秋期 ITストラテジスト試験 午前Ⅱ 問2(表記を一部改変)
問3
マイケルハマーの提唱するリエンジニアリングの特徴はどれか。
ア 業務の非効率な部分を組織構造の視点から見直し,業務効率の向上と社員の意識改革を図る。
イ 顧客の満足度を高めることを主眼とし,最新の情報技術を用いて業務プロセスと組織を根本的に改革する。 正解
ウ 最新の情報技術を用いて業務システムを開発することによって,組織をスリム化し,企業の競争力強化を図る。
エ ボトムアップ方式で業務システムと組織の改革を図ることであり,社員全員参加型の生産性向上施策である。
正解 イ
解説
マイケルハマーが提唱したリエンジニアリング(BPR)は,コスト,品質,サービス,スピードといった業績を劇的に改善するために,業務プロセスを根本から考え直し,抜本的に設計し直すことをいう。既存の組織や手順を前提とした部分的な手直しではなく,顧客に提供する価値を起点に,最新の情報技術を前提として業務プロセスと組織を作り替える点に特徴がある。イが正しい。
アは既存の組織構造を前提にした業務改善であり,プロセスの抜本的な設計し直しではない。ウは業務システムの開発によって組織をスリム化するもので,業務プロセスそのものを見直す活動ではない。エは現場の全員参加で改善を積み上げていく活動であり,経営者が主導して一気に作り替えるリエンジニアリングとは進め方が逆である。
出典:平成21年度 秋期 ITストラテジスト試験 午前Ⅱ 問3(表記を一部改変)
問4
BI(Business Intelligence)を説明したものはどれか。
ア 企業内の業務の流れを可視化し,業務改善サイクルを適応することで,継続的な業務改善に活用しようとする手法
イ 企業内の異なるシステムを互いに連結し,データやプロセスの効率的な統合を図ることで,企業経営に活用しようとする手法
ウ 企業内の重要な戦略目標の達成度を測定するための指標の値を把握し,分析することで,業務の進捗管理に活用しようとする手法
エ 企業内の膨大なデータを蓄積し,分類・加工・分析をすることで,企業の迅速な意思決定に活用しようとする手法 正解
正解 エ
解説
BI(Business Intelligence)は,企業内の基幹システムなどに蓄積された膨大なデータを,データウェアハウスなどに集めて分類・加工・分析し,経営者や担当者の迅速な意思決定に役立てる手法である。OLAP やデータマイニング,レポーティングなどのツールが使われる。エが正しい。
アの業務の流れを可視化し,改善サイクルを回して継続的に業務を改善する手法は BPM(Business Process Management)である。イの異なるシステムを連結してデータやプロセスを統合するのは EAI(Enterprise Application Integration)である。ウの戦略目標の達成度を測る指標を把握,分析して進捗管理に活用するのは,KPI(重要業績評価指標)による業績管理の説明である。
出典:平成21年度 秋期 ITストラテジスト試験 午前Ⅱ 問4(表記を一部改変)
問5
情報システムのアウトソーシングを説明したものはどれか。
ア 外部の企業に,情報システムの開発,運用,保守などに関するすべて又は一部の業務を委託すること 正解
イ 情報システム部門を分離して子会社にし,親会社以外からの業務の委託を受けること
ウ 派遣契約をしている要員が,監督者の指示を受けて,情報システムの開発,運用,保守などに関する作業を実施すること
エ ユーザ部門に,情報システムの運用,保守のすべて又は一部の業務を移管すること
正解 ア
解説
アウトソーシングは,情報システムの開発,運用,保守などの業務の全部又は一部を,外部の専門企業に委託することである。自社で資源をもたずに専門的な能力を活用でき,コアとなる業務に経営資源を集中できる。アが正しい。
イは情報システム部門を分社化した情報システム子会社が,親会社以外の業務(外販)も受託する形態の説明である。ウは労働者派遣で,派遣労働者は派遣先の指揮命令を受けて働くので,業務を外部に任せる委託とは異なる。エは業務をユーザ部門に移管するもので,外部への委託ではない。
出典:平成21年度 秋期 ITストラテジスト試験 午前Ⅱ 問5(表記を一部改変)
用語解説:契約の形態(請負・準委任・労働者派遣)
問6
共通フレーム 2007 によれば,システム化計画の立案よりも後のプロセスで実施するものはどれか。
ア 現行システムの内容,流れの調査及び課題の分析,抽出
イ システム開発を担当する開発組織の編成方針と責任部署の決定
ウ システム稼働時期の設定と全体開発スケジュールの作成
エ システム化の対象となる業務要件の定義作業 正解
正解 エ
解説
共通フレーム 2007 の企画プロセスは,システム化構想の立案とシステム化計画の立案からなる。業務要件の定義は,企画プロセスの後に置かれた要件定義プロセスのタスク(1.5.2.2 業務要件の定義)であり,システム化計画の立案よりも後で実施する。エが正しい。
アの現行業務,システムの調査分析はシステム化構想の立案のタスクで,システム化計画の立案より前に行う。イの開発組織の編成方針と責任部署の決定はシステム化計画の立案のタスクであるプロジェクト推進体制の策定に,ウのシステム稼働時期の設定と全体開発スケジュールの作成は同じく全体開発スケジュールの作成に当たる。
出典:平成21年度 秋期 ITストラテジスト試験 午前Ⅱ 問6(表記を一部改変)
用語解説:JIS X 0160 と共通フレーム(ソフトウェアライフサイクルプロセス)
問7
共通フレーム 2007 によれば,企画プロセスのアクティビティはどれか。
ア RFP(提案依頼書)を発行して,ベンダから提案書を受領する。
イ 開発プロセスの実行計画を作成する。
ウ システム化計画及びプロジェクト計画を作成し,承認を受ける。 正解
エ 投資効果及び業務効果の評価を行う。
正解 ウ
解説
共通フレーム 2007 の企画プロセスは,システム化構想の立案プロセスとシステム化計画の立案プロセスからなる。システム化構想の立案では経営課題を解決するための新たな業務とシステムの構想をまとめ,システム化計画の立案ではその構想を具体化して,システム化計画及びプロジェクト計画を作成し,利害関係者の合意と承認を得る。ウが企画プロセスのアクティビティである。
アの RFP を発行して提案書を受領する作業は,供給者を選定する取得プロセスのものである。イの開発プロセスの実行計画の作成は,開発プロセスの最初に置かれたプロセス開始の準備で行う。エの投資効果及び業務効果の評価は,システムを稼働させた後に運用プロセスで行う。なお,共通フレームはその後 2013 に改訂されたが,企画プロセスのこの位置付けは変わっていない。
出典:平成21年度 秋期 ITストラテジスト試験 午前Ⅱ 問7(表記を一部改変)
用語解説:JIS X 0160 と共通フレーム(ソフトウェアライフサイクルプロセス)
問8
システムの機能要件を定義する上で,前提となる要件定義作業はどれか。
ア 対象業務の業務モデルから業務機能を支援するシステム化機能を整理し,その実現のために必要なシステム方式を策定する。
イ 対象業務の具体的な業務上の問題点を分析し,解決方向を明確化するとともに,システムを用いて実現すべき課題を定義する。
ウ 利害関係者からのニーズを整理し,新しい業務の在り方や運用をまとめた上で,業務上実現すべき要件を明らかにする。 正解
エ 利害関係者要件のシステム要求が技術的に実現可能であるかを検証し,システム設計が可能な技術要件に変換する。
正解 ウ
解説
共通フレームの要件定義では,まず利害関係者のニーズを整理し,新しい業務の在り方や運用をまとめた上で,業務上実現すべき要件を明らかにする(業務要件の定義)。機能要件は,この業務要件を実現するために必要なシステムの機能を明らかにするものなので,業務要件の定義が機能要件を定義する前提となる。ウが正しい。
アの業務モデルからシステム化機能を整理し,システム方式を策定する作業と,イの対象業務の問題点を分析してシステムで実現すべき課題を定義する作業は,要件定義より前の企画プロセス(システム化計画の立案)の作業である。エの利害関係者要件を技術的に実現可能なシステム要件に変換する作業は,要件定義の後のシステム要件定義の作業である。
出典:平成21年度 秋期 ITストラテジスト試験 午前Ⅱ 問8(表記を一部改変)
問9
特定顧客,特定製品のセグメントに資源を集中し,専門化を図る戦略はどれか。
ア チャレンジャ戦略
イ ニッチ戦略 正解
ウ フォロワ戦略
エ リーダ戦略
正解 イ
解説
コトラーは,業界での競争上の地位によって企業をリーダ,チャレンジャ,フォロワ,ニッチャに分け,それぞれに適した戦略を示した。ニッチ戦略は,大手が狙わない特定の顧客層や特定の製品分野という狭い市場(ニッチ)に経営資源を集中し,専門化によってその市場で独自の地位を築く戦略である。イが正しい。
アのチャレンジャ戦略は,リーダに次ぐ地位の企業が差別化によって首位を奪おうとする戦略である。ウのフォロワ戦略は,上位企業を模倣して開発費を抑え,現在の地位と一定の利益を維持する戦略である。エのリーダ戦略は,最大シェアの企業が市場全体の拡大を図りながら現在のシェアを守る戦略である。
競争地位別の戦略(コトラー)
経営資源の量と質で4つに分ける。リーダは市場全体を広げ,全方位でシェアを守る。チャレンジャはリーダのシェアを奪うため,あらゆる面で差別化する。フォロワは上位企業をすばやく模倣してコストを抑える。ニッチャは大手が狙わない特定の顧客・製品に資源を集中して専門化する。
リーダ
市場拡大・全方位
チャレンジャ
差別化でシェアを奪う
ニッチャ
特定の顧客・製品に集中
フォロワ
模倣してコストを抑える
質 高
質 低
量 大
量 小
経営資源の量(大・小)と質(高・低)
ニッチャは特定のセグメントに集中,フォロワは模倣
出典:平成21年度 秋期 ITストラテジスト試験 午前Ⅱ 問9(表記を一部改変)
問10
企業戦略におけるマネジメントバイアウト(MBO)に該当する行為はどれか。
ア 価格と期間を公告し,不特定かつ多数の株主から株式を買い付けて,経営支配権を獲得する。
イ 経営陣に属さない一般従業員が,自社の株式を買い取り,経営を引き継ぐ。
ウ 子会社や事業部門の経営陣が,自社の株式を買い取り,独立する。 正解
エ ベンチャーキャピタルが,対象会社に投資するだけでなく,役員を送り込んで経営に関与する。
正解 ウ
解説
マネジメントバイアウト(MBO)は,子会社や事業部門の経営陣が,親会社などから自社の株式や事業を買い取って経営権を握り,独立することをいう。経営陣自身が買手になる点が特徴で,親会社による事業の切離しや,上場をやめて長期的な視点で経営を立て直す手段として使われる。ウが該当する。
アは TOB(株式公開買付け)で,買付価格と期間を公告し,取引所を通さずに株式を買い集めるものである。イは EBO(エンプロイーバイアウト)で,経営陣ではなく一般従業員が自社株を買い取るものである。エは,ベンチャーキャピタルが役員を送り込んで経営にも関与するハンズオン型の投資である。
出典:平成21年度 秋期 ITストラテジスト試験 午前Ⅱ 問10(表記を一部改変)
問11
売り手側でのマーケティング要素 4P は,買い手側での要素 4C に対応するという考え方がある。4P の一つであるプロモーションに対応する 4C の構成要素はどれか。
ア 顧客価値(Customer Value)
イ 顧客コスト(Customer Cost)
ウ コミュニケーション(Communication) 正解
エ 利便性(Convenience)
正解 ウ
解説
4P は売り手側からみたマーケティングの要素(Product,Price,Place,Promotion),4C はそれを買い手側からみた要素で,Product は顧客価値(Customer Value),Price は顧客コスト(Customer Cost),Place は利便性(Convenience),Promotion はコミュニケーション(Communication)に対応する。
プロモーション(販売促進)は,売り手から一方的に働きかけるのではなく,買い手との双方向の情報のやり取りと捉えるので,ウのコミュニケーションが正しい。アは製品,イは価格,エは流通に対応する。
4P と 4C の対応
売り手から見た 4P を,買い手から見た 4C に置き換えると,製品(Product)は顧客価値,価格(Price)は顧客コスト,流通(Place)は利便性,プロモーション(Promotion)はコミュニケーションに当たる。
4P(売り手)
4C(買い手)
製品 Product
顧客価値 Customer Value
価格 Price
顧客コスト Customer Cost
流通 Place
利便性 Convenience
プロモーション Promotion
コミュニケーション Communication
プロモーションに対応するのはコミュニケーション
出典:平成21年度 秋期 ITストラテジスト試験 午前Ⅱ 問11(表記を一部改変)
問12
大量生産・大量販売のメリットを生かしつつ,きめ細かな仕様・機能の取込みなどによって,個々の顧客の好みに応じられる製品やサービスを提供しようとするものはどれか。
ア ターゲットマーケティング
イ ベストプラクティス
ウ ベネフィットセグメンテーション
エ マスカスタマイゼーション 正解
正解 エ
解説
マスカスタマイゼーションは,大量生産による低コストと,顧客ごとの作り分けとを両立させようとする考え方である。部品やモジュールを共通化しておき,受注してから組合せや仕様を確定する生産方式などによって,大量生産・大量販売のメリットを保ちながら,個々の顧客の好みに応じた製品やサービスを提供する。エが正しい。
アのターゲットマーケティングは,細分化した市場の中から狙う市場を絞り込み,そこに合わせた施策を展開する手法である。イのベストプラクティスは,ある業務について最も優れた実践方法や事例のことである。ウのベネフィットセグメンテーションは,顧客が製品に求める便益の違いによって市場を細分化する手法である。
出典:平成21年度 秋期 ITストラテジスト試験 午前Ⅱ 問12(表記を一部改変)
問13
ある顧客層の今後 3 年間を通しての,年間顧客維持率が 40%,1 人当たり年平均売上高が 200 万円,売上高コスト比率が 50%と想定される場合,今後 3 年間の LTV(顧客 1 人当たりの生涯価値)は何万円か。ここで,割引率は考慮しなくてよいものとする。
正解 イ
解説
LTV は,1 人の顧客が取引を続ける間にもたらす利益の合計である。1 人当たりの年平均売上高が 200 万円で売上高コスト比率が 50%なので,1 年当たりの利益は 200×(1−0.5)=100 万円になる。年間顧客維持率が 40%なので,1 年目は 100 万円,2 年目は残った 40%の顧客から 100×0.4=40 万円,3 年目はさらにその 40%から 100×0.4×0.4=16 万円が得られる。3 年間の合計は 100+40+16=156(万円)であり,イになる。
アの 62.4 は,1 年目にも維持率を掛けて 100×(0.4+0.4×0.4+0.4×0.4×0.4)と計算した値である。エの 312 は,売上高コスト比率を考慮せず,売上高のまま 200×(1+0.4+0.16)と計算した値である。ウの 210 は,この計算からは得られない値である。
維持率で減っていく LTV
1年の利益は 1人あたり売上 200 万円×(1−コスト比率 0.5)=100 万円。2年目は維持率 40%の顧客だけが残るので 100×0.4=40 万円,3年目はさらに 40%で 16 万円。3年間の LTV は 100+40+16=156 万円。
利益(万円)
100
1年目
40
2年目
×0.4
16
3年目
×0.4
100 + 40 + 16 = 156 万円
年ごとに維持率を掛けて減らし,足し合わせる
出典:平成21年度 秋期 ITストラテジスト試験 午前Ⅱ 問13(表記を一部改変)
用語解説:投資評価(NPV・IRR・ROI)
問14
営業部門で設定する KPI(Key Performance Indicator)と KGI(Key Goal Indicator)の適切な組合せはどれか。
ア KPI:既存顧客売上高,KGI:新規顧客売上高
イ KPI:既存顧客訪問件数,KGI:新規顧客訪問件数
ウ KPI:新規顧客売上高,KGI:新規顧客訪問件数
エ KPI:新規顧客訪問件数,KGI:新規顧客売上高 正解
正解 エ
解説
KGI は,目標がどれだけ達成できたかを測る最終的な成果の指標であり,KPI は,その最終目標に至る過程が順調に進んでいるかを測る中間的な指標である。営業部門で新規顧客の開拓を目標にするなら,最終成果である新規顧客売上高が KGI,その成果を生むための日々の活動量である新規顧客訪問件数が KPI になる。エが適切である。
アは既存顧客売上高も新規顧客売上高もどちらも最終成果の指標であり,過程を測る KPI にはならない。イはどちらも訪問件数という活動量の指標で,最終成果を表す KGI がない。ウは成果の指標と過程の指標を取り違えており,組合せが逆である。
出典:平成21年度 秋期 ITストラテジスト試験 午前Ⅱ 問14(表記を一部改変)
用語解説:バランススコアカードと KPI・KGI・CSF
問15
バランススコアカードにおける業績評価指標のうち,“学習と成長の視点”に分類されるものはどれか。
ア 顧客満足度調査の結果
イ 従業員 1 人当たりの売上高
ウ 従業員の提案件数 正解
エ 新規顧客獲得率
正解 ウ
解説
バランススコアカードの“学習と成長の視点”は,将来にわたって価値を生み出し続けるために,従業員の能力,組織の風土,情報システムなどの基盤をどう高めるかを見る視点である。従業員の提案件数は,従業員が自ら考えて改善に加わっている度合いを表し,組織が学び成長する力を測る指標になるので,ウが該当する。
アの顧客満足度調査の結果とエの新規顧客獲得率は“顧客の視点”の指標である。イの従業員 1 人当たりの売上高は,売上高という財務の成果を従業員数で割った生産性の指標で,“財務の視点”に分類される。
バランススコアカードの4つの視点と戦略マップ
下から学習と成長,内部ビジネスプロセス,顧客,財務の4つの視点を積み上げる。専門人材を育てると出荷までの日数を縮められ,顧客満足度が上がり,売上高が伸びる,という因果関係を矢印でつないだものが戦略マップ。各視点に目標と指標(KPI)を置く。
財務
売上高を伸ばす
売上高・利益率
顧客
顧客満足度を上げる
顧客満足度・シェア
内部ビジネスプロセス
出荷を速くする
出荷までの日数
学習と成長
専門人材を育てる
育成人数・特許件数
下の視点の成果が上の視点の成果につながる(因果関係)
出典:平成21年度 秋期 ITストラテジスト試験 午前Ⅱ 問15(表記を一部改変)
用語解説:バランススコアカードと KPI・KGI・CSF
問16
ファイブフォース分析において,企業の競争力に影響を与える五つの要因として,新規参入者の脅威,バイヤの交渉力,競争業者間の敵対関係,代替製品の脅威と,もう一つはどれか。
ア サプライヤの交渉力 正解
イ 自社製品の品質
ウ 消費者の購買力
エ 政府の規制
正解 ア
解説
ポーターのファイブフォース分析は,業界の収益性を左右する競争要因を,新規参入者の脅威,代替製品の脅威,バイヤ(買い手)の交渉力,サプライヤ(売り手)の交渉力,競争業者間の敵対関係の五つに整理したものである。問題文に挙がっていない残りの一つはサプライヤの交渉力なので,アが正しい。
イの自社製品の品質は,業界の構造を決める力ではなく,自社が競争の中でどう戦うかという内部の問題である。ウの消費者の購買力は,既に挙がっているバイヤの交渉力に含めて扱うものである。エの政府の規制は,新規参入の障壁を左右する外部環境として考慮されることはあるが,五つの要因そのものには含まれない。
ファイブフォース分析
業界の収益性を決める5つの競争要因として,業界内の競争(既存の競合企業どうしの敵対関係)を中心に,新規参入の脅威,代替品の脅威,売り手(供給業者)の交渉力,買い手(顧客)の交渉力を置いて分析する。
業界内の競争
既存企業どうし
新規参入の脅威
代替品の脅威
売り手の交渉力
買い手の交渉力
中心が業界内の競争。上下に脅威2つ,左右に交渉力2つ
出典:平成21年度 秋期 ITストラテジスト試験 午前Ⅱ 問16(表記を一部改変)
問17
部品や資材の調達から製品の生産,流通,販売までの,企業間を含めたモノの流れを適切に計画・管理し,最適化して,リードタイムの短縮,在庫コストや流通コストの削減などを実現しようとする考え方はどれか。
正解 エ
解説
SCM(サプライチェーンマネジメント)は,部品や資材の調達から生産,流通,販売までの一連の流れを,企業の枠を越えて全体として計画・管理し最適化する考え方で,リードタイムの短縮や在庫・流通コストの削減を目指す。エが正しい。
アの CRM は顧客との関係を管理して顧客満足と収益を高める考え方。イの ERP は企業内の基幹業務を統合的に管理する仕組み。ウの MRP は製品の生産計画から必要な部品や資材の量と時期を算出する資材所要量計画で,いずれも企業間を含むモノの流れ全体の最適化ではない。
出典:平成21年度 秋期 ITストラテジスト試験 午前Ⅱ 問17(表記を一部改変)
問18
ナレッジマネジメントのプロセスモデルである SECI モデルにおいて,I に入るものはどれか。
ア 国際化(Internationalization)
イ 情報化(Informatization)
ウ 初期化(Initialization)
エ 内面化(Internalization) 正解
正解 エ
解説
SECI モデルは,野中郁次郎らが提唱した,暗黙知と形式知の相互変換によって組織の知識が創造される過程を表すモデルで,共同化(Socialization),表出化(Externalization),連結化(Combination),内面化(Internalization)の四つからなる。図で連結化の次に置かれ,頭文字が I になるのは内面化であり,連結化で新たに生まれた形式知を実践を通じて個人が体得し,自分の暗黙知にする過程である。エが正しい。
ア,イ,ウはいずれも SECI モデルのプロセスの名称ではない。内面化で身に付いた暗黙知は,次の共同化によって他者に伝えられ,知識創造がらせんを描きながら続いていく。
SECI モデル
共同化は暗黙知を暗黙知のまま,一緒に働く経験を通して伝える。表出化は暗黙知を言葉や図にして形式知にする。連結化は形式知どうしを組み合わせて体系にする。内面化は形式知を実践して自分の暗黙知にする。この4つを順に回して,知識を個人から組織へ広げていく。
共同化
暗黙知→暗黙知
一緒に働いて体で覚える
表出化
暗黙知→形式知
言葉や図にする
内面化
形式知→暗黙知
実践して身につける
連結化
形式知→形式知
組み合わせて体系にする
共同化→表出化→連結化→内面化の順に回り,知識が個人から組織へ広がる
出典:平成21年度 秋期 ITストラテジスト試験 午前Ⅱ 問18(表記を一部改変)
用語解説:SECI モデル(知識創造プロセス)
問19
日本の技術経営における課題のうち,“死の谷”を説明したものはどれか。
ア 基礎研究と製品開発との間をつなぐ研究開発に資金投入が行われなかった結果,基礎研究が製品化に結び付かず,価値利益化ができなくなる問題 正解
イ 基礎研究の成果を製品化に結び付けることができた製品が,市場の過当競争に巻き込まれ,価値利益化ができなくなる問題
ウ 製品が市場に浸透していくライフサイクルにおいて,ターゲットとすべき顧客が異なった属性の層へ替わっていき,価値利益化ができなくなる問題
エ 製品のコモディティ化が進んだ結果,製品の差別化ができなくなり,価値利益化ができなくなる問題
正解 ア
解説
技術経営では,研究の成果が事業として実を結ぶまでの障壁を,現れる段階ごとに呼び分ける。“死の谷”は,基礎研究と製品開発との間にある障壁で,製品化につなぐ研究開発に資金や人材が投入されないために,基礎研究の成果が製品に結び付かず,価値利益化ができなくなる問題を指す。アが正しい。
イは,製品化には成功したものの市場での激しい競争に勝てず事業として育たない“ダーウィンの海”の説明である。ウは,新製品が先進的な顧客層から一般の顧客層へ広がるときに現れる溝を指す“キャズム”の説明である。エは,製品の差がなくなって価格競争に陥るコモディティ化の説明である。
魔の川・死の谷・ダーウィンの海
研究から開発へ進む間の障壁が魔の川,開発から事業化(量産や販路づくり)までの障壁が死の谷,事業化してから競合との競争に勝ち残って産業化するまでの障壁がダーウィンの海。
研究
開発
事業化
産業化
魔の川
製品にできない
死の谷
資金・量産の壁
ダーウィンの海
競争に負ける
キャズムは新製品の普及(初期の市場→主流の市場)の溝
研究→開発が魔の川,開発→事業化が死の谷,事業化→産業化がダーウィンの海
出典:平成21年度 秋期 ITストラテジスト試験 午前Ⅱ 問19(表記を一部改変)
問20
ある会社の生産計画部では,毎月 25 日に次の手続で翌月の計画生産量を決定している。8 月分の計画生産量を求める式はどれか。
〔手続〕
(1) 当月末の予想在庫量を,前月末の実在庫量と当月の計画生産量と予想販売量から求める。 (2) 当月末の予想在庫量と,翌月分の予想販売量から,翌月末の予想在庫量が翌々月から 3 か月間の予想販売量と等しくなるように翌月の計画生産量を決定する。
ア I6+P7-S7+S8
イ S8+S9+S10+S11-I7 正解
ウ S8+S9+S10+S11-I8
エ S9+S10+S11-I7
正解 イ
解説
手続(1)により,7月末の予想在庫量 I7 は 6月末の実在庫量に7月分の計画生産量を足し,7月分の予想販売量を引いた I6+P7−S7 で求まる。手続(2)により,8月末の予想在庫量 I8=I7+P8−S8 が,翌々月の9月から3か月間の予想販売量 S9+S10+S11 と等しくなるように P8 を決める。
I7+P8−S8=S9+S10+S11 を P8 について解くと,P8=S8+S9+S10+S11−I7 となり,イが正しい。ウは I8 を使っているが,I8 は P8 が決まってから求まる値なので式に使えない。エは8月分の予想販売量 S8 を加え忘れている。
8月分の計画生産量の求め方
7月末の予想在庫 I7=I6+P7−S7。8月末の予想在庫 I8=I7+P8−S8 が,9月から3か月間の予想販売量 S9+S10+S11 に等しくなるように P8 を決める。I7+P8−S8=S9+S10+S11 を P8 について解くと,P8=S8+S9+S10+S11−I7。
6月
7月
8月
9月
10月
11月
月末在庫
I6
I7
I8
生産
P7
P8
販売
S7
S8
S9
S10
S11
P8
= I8
I7 + P8 − S8 = S9 + S10 + S11
P8 = S8 + S9 + S10 + S11 − I7
8月末の在庫が,9〜11月の販売量の合計になるように作る
出典:平成21年度 秋期 ITストラテジスト試験 午前Ⅱ 問20(表記を一部改変)
問21
e-ビジネス分野で提唱されているロングテールの考え方を説明したものはどれか。
ア 売れ筋商品に絞り込んで販売するのではなく,多品種少量販売によって大きな売上や利益を得ることができる。 正解
イ 業界標準を確立した製品・サービスは生産規模が 2 倍になると生産性が更に向上し,収益が 2 倍以上になる。
ウ 全体の 2 割の優良顧客が全体の売上の 8 割を占め,全商品の上位 2 割が 8 割の売上を占める。
エ 利用者が増えるほど,個々の利用者の便益が増加し,その結果,ますます利用者が増えることで寡占化が進む。
正解 ア
解説
ロングテールは,商品を売上の多い順に並べたグラフにできる,1 品目当たりの販売数が少ない商品が長く尾を引くように連なる部分を指す。在庫や陳列の制約が小さいインターネット上の販売では,この少しずつしか売れない多数の商品の売上を積み上げることができ,売れ筋に絞り込まなくても大きな売上や利益を得られる。アが正しい。
イは,生産規模が大きくなるほど収益性が高まる収穫逓増(規模の経済)の考え方である。ウはパレートの法則(2:8 の法則)で,ロングテールはこれが当てはまらない市場があることを示したものである。エは,利用者が増えるほど 1 人当たりの便益が増して更に利用者を呼ぶネットワーク外部性の説明である。
ロングテール
商品を売上の多い順に左から並べると,少数の売れ筋(ヘッド)と,1つ1つは少ししか売れない多数の商品(テール)に分かれる。ネット販売では在庫や陳列のコストが小さいので,テールの商品の売上を合計すると,売れ筋に匹敵する大きさになる。
商品(売上の多い順)
売上
ヘッド
テール(長い尾)
売れない商品も数が多ければ,合計で大きな売上になる
出典:平成21年度 秋期 ITストラテジスト試験 午前Ⅱ 問21(表記を一部改変)
問22
コーポレートガバナンスを説明したものはどれか。
ア 環境保全対策の費用対効果を定量的に測定して分析し,環境保全コストや環境保全効果などを公表すること
イ 企業が本来の営利活動とは別に,社会の一員として,社会をより良くするために応分の貢献をすること
ウ 経営管理が適切に行われているかどうかを監視し,企業活動の健全性を維持する仕組みのこと 正解
エ 投資家やアナリストに対する広報活動として,企業の経営状況を正確かつ迅速に,そして継続的に公表すること
正解 ウ
解説
コーポレートガバナンス(企業統治)は,経営者が株主をはじめとする利害関係者の利益に沿って適切に経営しているかどうかを監視し,独断や不正を防いで企業活動の健全性を維持するための仕組みである。取締役会による業務執行の監督,監査役や社外取締役の設置などがその手段に当たる。ウが正しい。
アは,環境保全の費用と効果を定量的に測って公表する環境会計の説明である。イは,企業の社会的責任(CSR)のうち,本業とは別に社会へ貢献する活動の説明である。エは,投資家やアナリストに向けて経営状況を正確かつ継続的に公表する IR(Investor Relations)の説明である。
出典:平成21年度 秋期 ITストラテジスト試験 午前Ⅱ 問22(表記を一部改変)
問23
製造工程で部品の寸法を測定し,x 管理図で品質を管理している。(1)〜(4)の社内標準によって,管理図中の点を異常と判定する場合,図に示した x 管理図で異常と判定すべき点は何個あるか。ここで,管理限界線近くとは,中心線から管理限界線までの距離の 2/3(図中の点線)以上離れた場所をいう。
〔社内標準〕異常と判定する基準
(1) 管理限界線の外側又は線上に現れる点 (2) 連続する 3 点中の 2 点以上が管理限界線近くに現れる場合の,管理限界線近くの点 (3) 6 個以上の点が,連続して中心線の上側又は下側に現れる場合の,6 点目以降の点 (4) 3 個以上の点が,連続して上昇又は下降する場合の,3 点目以降の点
正解 ウ
解説
管理限界線近くとは,中心線から管理限界線までの 2/3 以上離れた,点線の外側をいい,左から 2,5,7 点目が当てはまる。(1) に当たる点はない。(2) では,連続する 3 点である 5〜7 点目のうち 5 点目と 7 点目の 2 点が管理限界線近くなので,この 2 点が該当する。(3) では,3 点目から 9 点目までの 7 点が連続して中心線の下側にあるので,その 6 点目以降に当たる 8 点目と 9 点目が該当する。(4) では,3 点目から 5 点目までが連続して下降しているので,その 3 点目に当たる 5 点目が該当する。重複する 5 点目を 1 個と数えると 5,7,8,9 点目の 4 個になり,ウになる。
2 点目は上方管理限界線に近いが線の内側にあるので (1) には当たらず,前後に管理限界線近くの点がないので (2) にも当たらない。6 点目と 9 点目は下側の点線の内側なので,管理限界線近くとしては数えない。
管理図
工程の測定値を時間の順に打ち,中心線と上下の管理限界線を引く。点が管理限界の外に出たら異常。限界の内側でも,中心線の片側に連続して7点以上並ぶ(連)や,続けて上がり続けるなどの“くせ”があれば,工程に何らかの原因が働いていると考えて調べる。
上方管理限界
中心線
下方管理限界
中心線より上に7点続く → 異常を疑う
限界の外だけでなく,片側に7点続く“くせ”も異常のサイン
出典:平成21年度 秋期 ITストラテジスト試験 午前Ⅱ 問23(表記を一部改変)
問24
EVA(経済付加価値)の算出方法を説明したものはどれか。
ア 効果の現在価値と投資額の差がゼロになる資本コストを求める。
イ 投資額に対してどれだけ利益を生み出しているかを求める。
ウ 投資額を回収するのに必要な期間(年数)を求める。
エ 利益から資本費用(投資額×資本コスト)を引いて金額を求める。 正解
正解 エ
解説
EVA(Economic Value Added)は,事業が資本コストを上回る利益を上げたかどうかを金額で表す指標である。税引後の営業利益から,投下した資本に資本コスト率を掛けた資本費用を差し引いて求め,値が正であれば株主や債権者が求める水準を超える価値を生み出したといえる。エが正しい。
アは,効果の現在価値と投資額が等しくなる割引率を求める IRR(内部収益率)法の説明である。イは,得られる利益を投資額で割って収益性を比率で表す ROI(投資利益率)である。ウは,投資額を回収し終わるまでの年数を求める回収期間法である。
出典:平成21年度 秋期 ITストラテジスト試験 午前Ⅱ 問24(表記を一部改変)
用語解説:投資評価(NPV・IRR・ROI)
問25
パブリックドメインソフトウェアとするための条件はどれか。
ア オリジナルのライセンスと同じ条件を適用する。
イ 公的機関に対して,ソースコードを公開する。
ウ 著作権を放棄する,又は放棄の宣言をする。 正解
エ 著作権を留保したまま,自由な配布を認める。
正解 ウ
解説
パブリックドメインソフトウェアは,著作権が誰にも帰属しておらず,誰でも自由に使用,改変,再配布ができるソフトウェアである。この状態になるのは,著作権の保護期間が満了した場合のほかは,著作権者が自ら著作権を放棄するか,放棄する旨を宣言した場合であり,ウが正しい。
アは,オリジナルと同じライセンス条件を派生物にも引き継がせるもので,GPL などのコピーレフトの考え方である。イは,公的機関にソースコードを公開するだけで著作権は著作権者に残るため,自由な利用が認められるわけではない。エは,著作権を保持したまま利用条件として自由な配布を認めるもので,フリーソフトウェアやオープンソースソフトウェアがこれに当たる。
出典:平成21年度 秋期 ITストラテジスト試験 午前Ⅱ 問25(表記を一部改変)
用語解説:著作権と知的財産権(特許・営業秘密・ライセンス)
ITストラテジスト試験のほかの年度
科目A-2(午前Ⅱ)
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