平成24年度 秋期に実施されたITストラテジスト試験
午前Ⅱ(2026年度からの科目A-2)の全25問に,運営者が独自に書いた解説を付けています。正解の理由に加えて,多くの問題でほかの選択肢がなぜ誤りなのかも説明しています。
この試験について:ITストラテジスト試験について
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問1
エンタープライズアーキテクチャ(EA)のビジネスアーキテクチャで機能情報関連図(DFD)を作成する目的はどれか。
ア 業務・システムの機能と情報の流れを明確にする。 正解
イ 業務・システムの目的・機能,情報システムの管理・運用体制を明確にする。
ウ 情報システム間でやり取りされる情報の種類と方向を明確にする。
エ 物理的なデータ構造を明確にする。
正解 ア
解説
EA のビジネスアーキテクチャ(政策・業務体系)の機能情報関連図(DFD)は,業務・システムの機能と情報の流れを明確化するためのもので,各機能について情報の発生源と到達点,処理,保管とそれらの間を流れる情報を統一記述規則に基づいて表す(業務・システム最適化計画策定指針)。アが正しい。
イの業務・システムの目的・機能,情報システムの管理・運用体制を明らかにするのは,同じビジネスアーキテクチャの業務説明書である。ウの情報システム間でやり取りされる情報の種類と方向を明確化するのは,アプリケーションアーキテクチャ(適用処理体系)の情報システム関連図である。エの物理的なデータ構造を明らかにするのは,データアーキテクチャ(データ体系)のデータ定義表である。
出典:平成24年度 秋期 ITストラテジスト試験 午前Ⅱ 問1(表記を一部改変)
問2
“システム管理基準”によれば,情報戦略の全体最適化計画策定において,実施すべきことはどれか。
ア 開発,運用及び保守の費用の算出基礎を明確にする。
イ 個別開発計画の優先順位及び順位付けのルールを明確にする。 正解
ウ 情報システム部門及びユーザ部門の役割分担を明確にする。
エ ユーザニーズ調査の対象,範囲及び方法を明確にする。
正解 イ
解説
経済産業省の“システム管理基準”(平成 16 年)は,Ⅰ.情報戦略の“全体最適化計画の策定”として,方針及び目標に基づくこと,情報化投資の方針及び確保すべき経営資源を明確にすること,投資効果及びリスク算定の方法を明確にすること,個別の開発計画の優先順位及び順位付けのルールを明確にすることなどを挙げている。イが該当する。
アの開発,運用及び保守の費用の算出基礎と,ウの情報システム部門及びユーザ部門の役割分担は,いずれもⅡ.企画業務の“開発計画”で明確にすることとされている項目である。エのユーザニーズ調査の対象,範囲及び方法は,同じくⅡ.企画業務の“分析”の項目である。なお,システム管理基準はその後改訂され,現行の令和 5 年版は IT ガバナンス編と IT マネジメント編から成る構成に改められている。
出典:平成24年度 秋期 ITストラテジスト試験 午前Ⅱ 問2(表記を一部改変)
問3
内閣府の“事業継続ガイドライン”による事業継続計画の継続的改善のプロセスを順番に並べたとき,c に入るものはどれか。ここで,ア〜エは a〜d のいずれかに入る。
ア 教育・訓練の実施
イ 経営層による見直し
ウ 実施及び運用
エ 点検及び是正措置 正解
正解 エ
解説
内閣府の“事業継続ガイドライン”は,マネジメントシステムにおける継続的改善を,①経営者が方針を立て,②計画を立案し,③日常業務として実施・運用し,④従業員の教育・訓練を行い,⑤結果を点検・是正し,⑥経営層が見直す,という繰返しとして示している。したがって a は実施及び運用,b は教育・訓練の実施,c は点検及び是正措置,d は経営層による見直しとなり,c に入るのはエである。
ウの実施及び運用は策定した事業継続計画に従って日常の対応を行う段階,アの教育・訓練の実施は計画が実際に機能するように従業員を訓練する段階,イの経営層による見直しは点検の結果を受けて経営層が取組全体を評価し,方針や計画の修正を指示する段階である。なお,このプロセスは平成 25 年の改定以降のガイドラインでは“事前対策及び教育・訓練の実施”と“見直し・改善”という区分に整理し直されている。
事業継続の継続的改善のプロセス(内閣府)
内閣府の事業継続ガイドライン(旧版)は,方針→計画→実施及び運用→教育・訓練の実施→点検及び是正措置→経営層による見直し→方針…と繰り返す。平成25年の改定以降は“事前対策及び教育・訓練の実施”“見直し・改善”などの段階に整理されている。
方針
計画
実施及び運用
教育・訓練
点検及び是正
経営層の見直し
繰り返す
空欄 c は点検及び是正措置
方針 → 計画 → 実施・運用 → 教育・訓練 → 点検・是正 → 経営層の見直し
出典:平成24年度 秋期 ITストラテジスト試験 午前Ⅱ 問3(表記を一部改変)
用語解説:BCP(事業継続計画・RTO・RPO)
問4
システム化計画の立案において実施する作業であり,その作業の結果を基に,後続の作業でシステム化機能を整理し,情報と処理の流れを明確にするものはどれか。
ア 機能要件の定義
イ 業務運用手順の文書化
ウ 業務モデルの作成 正解
エ システム方式の設計
正解 ウ
解説
共通フレームのシステム化計画の立案では,対象業務の内容を確認し,解決すべき課題を定義した上で,業務モデルの作成を行う。業務モデルの作成は,業務プロセスの定義とデータクラスの定義によって業務の全体像を具体化する作業で,システム化する機能を整理し,情報と処理の流れを明確にするものである。ウが正しい。
アの機能要件の定義は,システム化計画の後の要件定義プロセスで行う作業である。イの業務運用手順の文書化は,完成したシステムを実際の業務で使えるようにするために,運用・移行の段階で行う作業である。エのシステム方式の設計は,要件定義の後のシステム開発プロセスで,要件をハードウェア,ソフトウェア,手作業に振り分けて実現方式を決める作業である。
出典:平成24年度 秋期 ITストラテジスト試験 午前Ⅱ 問4(表記を一部改変)
問5
情報システムの全体計画立案のために E-R モデルを用いて全社のデータモデルを作成する手順はどれか。
ア 管理層の業務から機能を抽出し,機能をエンティティとする。次に,機能の相互関係に基づいてリレーションシップを定義する。さらに,全社の帳票類を調査して整理し,正規化された項目に基づいて属性を定義し,全社のデータモデルとする。
イ 企業の全体像を把握するために,主要なエンティティだけを抽出し,それらの相互間のリレーションシップを含めて,鳥瞰図を作成する。次に,エンティティを詳細化し,全てのリレーションシップを明確にしたものを全社のデータモデルとする。 正解
ウ 業務層の現状システムを分析し,エンティティとリレーションシップを抽出する。それぞれについて適切な属性を定め,これらを基に E-R 図を作成し,それを抽象化して,全社のデータモデルを作成する。
エ 全社のデータとその処理過程を分析し,重要な処理を行っている業務を基本エンティティとする。次に,基本エンティティ相互のデータの流れをリレーションシップとして捉え,適切な識別名を与える。さらに,基本エンティティと関係あるデータを属性とし,全社のデータモデルを作成する。
正解 イ
解説
全社のデータモデルは,全体計画の立案に使うため,まず企業全体を見渡せることが重要である。そこで,トップダウンで企業活動の中心となるエンティティだけを抽出し,それらの間のリレーションシップを含めた鳥瞰図を作成して全体像を把握する。次に,エンティティを詳細化し,全てのリレーションシップを明確にして全社のデータモデルに仕上げる。イが適切である。
アは機能をエンティティとしており,業務の機能とデータを取り違えている。ウは業務層の現状システムからボトムアップに積み上げるので,現状の個別システムの構造に引きずられ,全社の視点をもったモデルになりにくい。エは業務(処理)をエンティティ,データの流れをリレーションシップとしており,データフローの考え方と E-R モデルを混同している。
出典:平成24年度 秋期 ITストラテジスト試験 午前Ⅱ 問5(表記を一部改変)
用語解説:データベースの設計(正規化・E-R 図・参照制約)
問6
専門の事業者が提供するサービスのうち,EMS の説明はどれか。
ア コールセンタの企画,設計から業務運用まで一括して受託することによって,委託元のコールセンタ開設のための設備投資や人員調達を不要とするサービス
イ 人事や経理,総務などの業務を標準化してグループ内の 1 か所に集約することによって,グループ全体の間接業務のコスト削減に貢献するサービス
ウ 複数の電子機器メーカから製品の設計,製造を一括して受託することによって,生産規模を確保し,低コストで製品を提供するサービス 正解
エ プロバイダ側のコンピュータ上でソフトウェアを稼働させて,利用者はそのソフトウェアの機能をネットワーク経由で利用するサービス
正解 ウ
解説
EMS(Electronics Manufacturing Service)は,電子機器メーカから製品の設計や製造を一括して受託する専門の事業者が提供するサービスである。複数のメーカの製品をまとめて引き受けることで生産規模を確保し,部材の共同購買や設備の高い稼働率によって低コストで製品を供給できる。ウが該当する。
アは,コールセンタの企画・設計から運用までをまとめて引き受ける BPO(業務プロセスのアウトソーシング)である。イは,人事や経理などの間接業務を標準化してグループ内の 1 か所に集約するシェアードサービスである。エは,事業者側のコンピュータで稼働させるソフトウェアの機能をネットワーク経由で利用させる ASP や SaaS の形態である。
出典:平成24年度 秋期 ITストラテジスト試験 午前Ⅱ 問6(表記を一部改変)
問7
LBO の説明はどれか。
ア 株式市場で一般株主に対して,一定期間に一定の価格で株式を買い付けることを公告し,相手先企業の株式を取得する。
イ 現経営陣や事業部門の責任者が株主から自社の株式を譲り受けることによって,当該事業の経営権を取得する。
ウ 投資会社などが,業績不振などの問題を抱えた企業の株式の過半数を取得した上で,マネジメントチームを派遣し,経営に参画する。
エ 買収先企業の資産などを担保に,金融機関から資金を調達するなどして,限られた資金で企業を買収する。 正解
正解 エ
解説
LBO(Leveraged Buyout)は,買収先企業の資産や将来生み出すキャッシュフローを担保にして金融機関などから資金を調達し,限られた手元資金で企業を買収する手法である。てこ(leverage)のように借入れで自己資金を増幅させることからこの名がある。買収後は,買収先企業が生む利益で借入金を返済していく。エが正しい。
アは,買付価格・期間・株数を公告して市場外で株式を買い集める TOB(株式公開買付け)である。イは,現経営陣や事業部門の責任者が自社の株式を取得して経営権を握る MBO(Management Buyout)である。ウは,投資会社が不振企業の株式の過半数を取得し,経営陣を送り込んで価値を高めるハンズオン型の投資の説明である。
出典:平成24年度 秋期 ITストラテジスト試験 午前Ⅱ 問7(表記を一部改変)
問8
プロダクトポートフォリオマネジメント(PPM)マトリックスの a,b に入れる語句の適切な組合せはどれか。
ア a:売上高利益率,b:市場占有率
イ a:市場成長率,b:売上高利益率
ウ a:市場成長率,b:市場占有率 正解
エ a:市場占有率,b:市場成長率
正解 ウ
解説
PPM は,縦軸に市場成長率,横軸に相対的市場占有率をとって事業を四つに分ける。図では縦軸の上が高,横軸の左が高になっており,左上が花形(成長率も占有率も高い),右上が問題児(成長率は高いが占有率が低い),左下が金のなる木(成長率は低いが占有率が高い),右下が負け犬に当たる。この配置に合うのは a が市場成長率,b が市場占有率のウ。
エのように a と b を入れ替えると,成長率が高く占有率の低い区画が「金のなる木」になってしまい,四つの区画の意味と合わなくなる。アとイの売上高利益率は PPM の軸には使わない。
PPM の4つの区分
縦軸に市場成長率,横軸に相対的市場シェア(左が高い)をとる。成長率もシェアも高い花形,成長率が高くシェアが低い問題児,成長率が低くシェアが高い金のなる木,どちらも低い負け犬に分ける。金のなる木が生んだ資金を,花形や問題児に回す。
花形
成長に合わせた投資も要る
問題児
シェアを取るには投資が要る
金のなる木
投資が少なく資金を生む
負け犬
撤退を考える
高
低
成長率
市場
高
低
相対的市場シェア
金のなる木の資金を,花形と問題児へ回す
金のなる木が生む資金を,花形と問題児に回す
出典:平成24年度 秋期 ITストラテジスト試験 午前Ⅱ 問8(表記を一部改変)
問9
コアコンピタンスを説明したものはどれか。
ア 経営活動における基本精神や行動指針
イ 事業戦略の遂行によって達成すべき到達目標
ウ 自社を取り巻く環境に関するビジネス上の機会と脅威
エ 他社との差別化の源泉となる経営資源 正解
正解 エ
解説
コアコンピタンスは,他社には容易にまねのできない,自社ならではの技術やノウハウなどの中核的な能力で,他社との差別化の源泉となる経営資源である。エが正しい。
アの経営活動における基本精神や行動指針は経営理念,イの事業戦略の遂行で達成すべき到達目標は経営目標(ビジョンや数値目標),ウの自社を取り巻く機会と脅威は SWOT 分析で整理する外部環境の説明である。
出典:平成24年度 秋期 ITストラテジスト試験 午前Ⅱ 問9(表記を一部改変)
問10
事業戦略のうち,収穫戦略に該当するものはどれか。
ア 売上高をできるだけ維持しながら,製品や事業に掛けるコストを徐々に引き下げていくことによって,短期的なキャッシュフローの増大を図る。 正解
イ 事業を分社化し,その会社を売却することによって投下資金の回収を図る。
ウ 新規事業に進出することによって企業を成長させ,利益の増大を図る。
エ 低価格戦略と積極的なプロモーションによって,新製品のマーケットシェアの増大を図る。
正解 ア
解説
収穫戦略(ハーベスト戦略)は,成長が見込めなくなった製品や事業について,新たな投資や販売促進を抑えながら売上高はできるだけ維持し,掛けるコストを徐々に引き下げることで,短期的なキャッシュフローの増大を図る戦略である。いずれは撤退することを前提としつつ,すぐに売却や清算をするのではなく,収益を刈り取りながら縮小していく点が特徴である。アが該当する。
イは事業を分社化して売却し,投下資金を回収する撤退戦略(ダイベストメント)である。ウは新規事業への進出によって企業の成長を図る多角化戦略である。エは低価格と積極的なプロモーションによって新製品のシェア拡大を狙う市場浸透価格戦略(ペネトレーションプライシング)である。
出典:平成24年度 秋期 ITストラテジスト試験 午前Ⅱ 問10(表記を一部改変)
問11
商品の購入希望者に対して,その商品に関連する別の商品又は組合せ商品などを推奨して販売することを何というか。
ア アップセリング
イ カテゴリキラー
ウ カテゴリトップ
エ クロスセリング 正解
正解 エ
解説
クロスセリングは,ある商品を買おうとしている顧客に対して,その商品に関連する別の商品や組み合わせて使う商品を併せて勧め,1 回の取引での購入点数と購入金額を増やす販売手法である。エが該当する。
アのアップセリングは,同じ顧客に対して検討中の商品よりも上位の,単価の高い商品に乗り換えてもらう手法である。イのカテゴリキラーは,特定の商品分野に絞った豊富な品揃えと低価格によって,その分野で総合小売業から顧客を奪う業態の専門店である。ウのカテゴリトップは,ある商品カテゴリで売上高やシェアの首位にある商品や企業を指す言葉であり,販売の手法ではない。
出典:平成24年度 秋期 ITストラテジスト試験 午前Ⅱ 問11(表記を一部改変)
問12
コンジョイント分析の説明はどれか。
ア 顧客ごとの売上高,利益額などを高い順に並べ,自社のビジネスの中心をなしている顧客を分析する手法
イ 商品がもつ価格,デザイン,使いやすさなど,購入者が重視している複数の属性の組合せを分析する手法 正解
ウ 同一世代は年齢を重ねても,時代が変化しても,共通の行動や意識を示すことに注目した,消費者の行動を分析する手法
エ ブランドがもつ複数のイメージ項目を散布図にプロットし,それぞれのブランドのポジショニングを分析する手法
正解 イ
解説
コンジョイント分析は,価格,デザイン,使いやすさなど商品がもつ複数の属性を組み合わせた候補を購入者に評価してもらい,どの属性とその水準の組合せが購入者に重視されているかを統計的に分析する手法である。イが該当する。
アは顧客を売上高などの順に並べて重要な顧客層を見いだす ABC 分析やデシル分析,ウは同じ時期に生まれた世代の行動や意識の特徴に注目するコーホート分析,エはブランドのイメージを軸にとった散布図で位置付けを見るポジショニング分析(パーセプションマップ)の説明である。
出典:平成24年度 秋期 ITストラテジスト試験 午前Ⅱ 問12(表記を一部改変)
問13
将来の科学技術の進歩の予測などについて,専門家などに対するアンケートを実施し,その結果をその都度回答者にフィードバックすることによって,ばらばらの予測を図のように収束させる方法はどれか。
ア ゴードン法
イ デルファイ法 正解
ウ ミニマックス法
エ モンテカルロ法
正解 イ
解説
デルファイ法は,多数の専門家に匿名でアンケートを行い,その集計結果を回答者に返したうえで同じ質問を改めて行う,ということを繰り返して予測をまとめる手法である。回答者は他の専門家の見方を知った上で自分の予測を考え直せるので,図のように回を重ねるごとに回答のばらつきが小さくなり,予測が収束していく。匿名で行うため,発言力の大きい人の意見に引きずられにくい。イが正しい。
アのゴードン法は,出題者だけが本当のテーマを知り,参加者には抽象化したテーマだけを与えて発想を広げるアイディア発想法である。ウのミニマックス法は,起こり得る最大の損失が最も小さくなる案を選ぶ意思決定の基準である。エのモンテカルロ法は,乱数を使った試行を多数繰り返して確率的な現象の値を求める手法である。
デルファイ法の進め方
複数の専門家に匿名でアンケートを行い,集計した結果を回答者に返して,同じ質問にもう一度答えてもらう。これを繰り返すと,ばらばらだった予測が収束していく。専門家どうしを直接議論させないので,声の大きい人に引っ張られにくい。
専門家
専門家
専門家
専門家
匿名で別々に回答
集計する
集計結果を返して,答え直してもらう
回数を重ねると予測の幅が狭まる
1回目
2回目
3回目
直接議論させず,集計を返して答え直してもらうことを繰り返す
出典:平成24年度 秋期 ITストラテジスト試験 午前Ⅱ 問13(表記を一部改変)
用語解説:デルファイ法と問題分析の技法
問14
表のような顧客の収益状況が見込まれるとき,3 年間の顧客生涯価値(LTV)は何百万円か。ここで,割引率は 10%とし,計算は百万円未満を切り捨てるものとする。
正解 イ
解説
顧客生涯価値(LTV)は,顧客が取引を続ける期間にもたらす収益を,現在価値に換算して合計したものである。各年の年間収益を,その年の割引係数で割って求める。1 年目は 50÷1.0=50,2 年目は 10÷1.1≒9.09 で 9,3 年目は 10÷1.2≒8.33 で 8 となり(いずれも百万円未満切捨て),合計は 50+9+8=67(百万円)である。イになる。
割引係数は n 年目で (1+割引率) の n-1 乗なので,1 年目は 1.0 で割り引かれず,2 年目以降だけが割り引かれる。割引を全く行わずに合計すると 50+10+10=70 となってウの値になるが,これでは将来の収益を現在価値に換算したことにならない。アの 65 とエの 73 は,この計算からは得られない値である。
割引係数で縮める LTV
各年の収益を,その年の割引係数(n 年目は 1.1 の n−1 乗)で割って今の価値に直す。1年目 50÷1.0=50,2年目 10÷1.1≒9,3年目 10÷1.2≒8(百万円未満切捨て)。合計は 50+9+8=67 百万円。
収益(百万円)
50
1年目
10÷1.1→9
2年目
10÷1.2→8
3年目
50 + 9 + 8 = 67 百万円
将来の収益は割り引いてから足す
出典:平成24年度 秋期 ITストラテジスト試験 午前Ⅱ 問14(表記を一部改変)
用語解説:投資評価(NPV・IRR・ROI)
問15
経営戦略に用いる CSF 分析の特徴はどれか。
ア 業界内の競争に影響する要因と,自社の強みを明らかにする。
イ 競争環境の脅威と機会,企業の強み・弱みを明らかにする。
ウ 成功するための重要な機能や特性を明らかにする。 正解
エ 保有する事業の成長性と収益性を明らかにする。
正解 ウ
解説
CSF(Critical Success Factor,重要成功要因)分析は,経営目標を達成するために決定的に重要となる要因を洗い出し,そこに経営資源を集中させるための分析である。目標に対して何ができていれば成功といえるのかという機能や特性を明らかにするので,ウが該当する。ここで挙げた要因は,達成度を測る KPI の設定にもつながる。
アは業界内の競争に影響する要因を整理するファイブフォース分析など,イは外部環境の機会・脅威と自社の強み・弱みを整理する SWOT 分析,エは保有する事業を成長性や収益性の観点から評価して資源配分を決めるプロダクトポートフォリオマネジメント(PPM)などが行うことである。
出典:平成24年度 秋期 ITストラテジスト試験 午前Ⅱ 問15(表記を一部改変)
用語解説:バランススコアカードと KPI・KGI・CSF
問16
コールセンタシステムにおける IVR を説明したものはどれか。
ア 企業ビル内などに設置して,外線電話と内線電話,内線電話同士を交換する装置
イ 顧客からの電話に自動応答し,顧客自身の操作によって情報の選択や配信,合成音声による応答などを行う仕組み 正解
ウ コンピュータと電話を統合し,顧客データベースと PBX を連動させて,発呼や着呼と同時に必要な顧客情報をオペレータの画面上に表示するシステム
エ 着信した電話を,あらかじめ決められたルールに従って,複数のオペレータのうちの 1 人だけに接続する仕組み
正解 イ
解説
IVR(Interactive Voice Response)は,かかってきた電話に自動で応答し,音声ガイダンスに従って顧客が電話機のボタンを押すと,その操作に応じて必要な情報を選んで流したり,合成音声で回答したりする仕組みである。オペレータにつなぐ前に用件を振り分けたり,定型的な問合せをオペレータを介さずに処理したりできる。イが正しい。
アは,外線と内線,内線同士を接続する構内交換機(PBX)である。ウは,コンピュータと電話を統合し,着信と同時に発信者の顧客情報をオペレータの画面に表示する CTI である。エは,着信をあらかじめ決めたルールで空いているオペレータ 1 人に振り分ける ACD(着信呼自動分配)の説明である。
出典:平成24年度 秋期 ITストラテジスト試験 午前Ⅱ 問16(表記を一部改変)
問17
製品のロードマップに従って製品を開発していく場合に,プロダクトライン開発を適用する利点はどれか。
ア 技術者個人の力を組織力よりも重視するので,成熟度の低い組織でも製品開発に成功しやすい。
イ 品質が安定した資産を再利用していくので,品質が安定した製品を低いコストで開発できる。 正解
ウ ロードマップ上の各製品を完全に独立して開発していくので,一つの製品の不具合が他の製品に波及することがない。
エ ロードマップ上の最初の機種の開発開始時に,ソフトウェア資産を準備するなどの初期投資が不要なので,市場への新規参入が容易になる。
正解 イ
解説
プロダクトライン開発は,ロードマップ上に並ぶ複数の製品に共通する部分をコア資産としてあらかじめ作り込んでおき,各製品では共通部分を再利用して,製品ごとに異なる部分だけを開発する手法である。再利用を重ねた資産は品質が安定していくので,品質の安定した製品を低いコストで開発できる。イが正しい。
アは誤りで,共通資産を組織として管理し計画的に再利用する必要があるので,むしろ組織としての成熟度が求められる。ウも誤りで,各製品は共通のコア資産を共有するので完全に独立ではなく,共通部分の不具合は他の製品にも及ぶ。エも誤りで,最初の機種の開発時に共通資産や開発環境をそろえる初期投資が必要であり,それを後続の製品で回収していく手法である。
出典:平成24年度 秋期 ITストラテジスト試験 午前Ⅱ 問17(表記を一部改変)
問18
アパレル業界における SPA の説明はどれか。
ア 過剰在庫,返品,特殊サイズ,傷などによって正規の価格では売れない商品を低価格で販売する。
イ 顧客のニーズに対応したカスタマイズを実現するために,顧客の注文を受けてから最終製品の生産を行う。
ウ 商品企画から生産,販売までを行う製造小売業であり,自社のブランド商品を消費者に直接提供する。 正解
エ 特定の商品分野に絞り込み,豊富な品揃えとローコストオペレーションによって,徹底した低価格訴求を行う。
正解 ウ
解説
SPA(Speciality store retailer of Private label Apparel)は,商品企画から素材調達,生産,物流,店舗での販売までを一つの企業が一貫して手掛けるアパレルの製造小売業である。自社ブランドの商品を消費者に直接提供するので,売場で得た販売情報をすぐに企画や生産に反映でき,売れ残りや値引きによる損失を抑えられる。ウが該当する。
アは過剰在庫や訳あり品を低価格で販売するアウトレットストアである。イは顧客の注文を受けてから最終製品を生産する受注生産(BTO)である。エは特定の商品分野に絞り込み,豊富な品揃えとローコストオペレーションで低価格を訴求するカテゴリキラーの説明である。
出典:平成24年度 秋期 ITストラテジスト試験 午前Ⅱ 問18(表記を一部改変)
問19
XBRL を説明したものはどれか。
ア 企業内又は企業間で使用される複数の業務システムを連携させることであり,データやビジネスプロセスの効率的な統合が可能となる。
イ 小売店の端末からネットワーク経由で発注を行うことによって,迅速かつ正確な発注作業が実現でき,リードタイムの短縮や受発注業務の効率向上が可能となる。
ウ 財務報告用の情報の作成・流通・利用ができるように標準化した言語であり,適用業務パッケージやプラットフォームに依存せずに財務情報の利用が可能となる。 正解
エ 通信プロトコルやデータフォーマットの標準的な規約を定めることによって,企業間での受発注,決済,入出荷などの情報の電子的な交換が可能となる。
正解 ウ
解説
XBRL(eXtensible Business Reporting Language)は,XBRL International が策定している,財務報告用の情報を電子的に記述するための標準化された言語である。XML を基礎とし,勘定科目などの意味をタクソノミで定義してデータに付けるので,計算機がそのまま読み取って処理できる。特定の適用業務パッケージやプラットフォームに依存せずに財務情報を作成・流通・利用できるので,ウが正しい。
アは,企業内又は企業間の複数の業務システムを連携させる EAI(Enterprise Application Integration)の説明である。イは,小売店の端末からネットワーク経由で発注を行う EOS(オンライン受発注システム)である。エは,通信プロトコルやデータフォーマットの規約を定めて,企業間で受発注や決済などの情報を電子的に交換する EDI である。
出典:平成24年度 秋期 ITストラテジスト試験 午前Ⅱ 問19(表記を一部改変)
問20
TOC(Theory of Constraints)の特徴はどれか。
ア 個々の工程を個別に最適化することによって,生産工程全体を最適化する。
イ 市場の需要が供給能力を下回っている場合に有効な理論である。
ウ スループット(=売上高-資材費)の増大を最重要視する。 正解
エ 生産プロセス改善のための総投資額を制約条件として確立された理論である。
正解 ウ
解説
TOC(Theory of Constraints,制約条件の理論)は,ゴールドラットが示した考え方で,工程全体の産出量は最も能力の低い工程(制約条件)によって決まるとする。そこで,スループット(=売上高-資材費,すなわち企業が新たに生み出した金額)を増やすことを最重要視し,制約条件となっている工程を見つけて集中的に手を打つことで全体の流れを改善していく。ウが正しい。
アは誤りで,TOC は個々の工程を個別に最適化しても全体最適にはならないという立場をとる。イも誤りで,需要が供給能力を下回っている状態では生産工程が制約にならず,工程のボトルネックを解消しても産出量は増えない。エも誤りで,TOC のいう制約条件は総投資額ではなく,工程全体の産出量を抑えている部分を指す。
TOC(制約条件の理論)
全体の産出量は,最も能力の低い工程(制約条件)で決まる。ほかの工程だけを個別に良くしても全体は増えないので,制約の工程を見つけて集中的に改善し,ほかの工程はそれに合わせる。評価の軸はスループット(売上高−資材費)の増大。
100/日
工程1
60/日
工程2
90/日
工程3
80/日
工程4
制約条件
全体は 60/日(能力は例)。スループット=売上高−資材費
全体は一番細い工程で決まる。スループットを最重視
出典:平成24年度 秋期 ITストラテジスト試験 午前Ⅱ 問20(表記を一部改変)
問21
ゲーム理論を使って検討するのに適している業務はどれか。
ア イベント会場の入場ゲート数の決定
イ 売れ筋商品の要因の分析
ウ 競争者がいる地域での販売戦略の策定 正解
エ 新規開発商品の需要の予測
正解 ウ
解説
ゲーム理論は,利害が対立する複数の意思決定者(プレイヤ)が,互いに相手の行動を考慮しながら自らの最適な行動を選ぶ状況を分析する理論である。競争者がいる地域での販売戦略の策定は,競争者の出方によって自社の結果が変わるので,ゲーム理論が適している。ウが正しい。
アの入場ゲート数の決定は待ち行列理論,イの売れ筋商品の要因の分析は回帰分析などの多変量解析,エの新規開発商品の需要の予測は市場調査や時系列分析などの需要予測の手法が適している。
出典:平成24年度 秋期 ITストラテジスト試験 午前Ⅱ 問21(表記を一部改変)
問22
合格となるべきロットが,抜取検査で誤って不合格となる確率のことを何というか。
ア 合格品質水準
イ 消費者危険
ウ 生産者危険 正解
エ 有意水準
正解 ウ
解説
抜取検査ではロットから取り出した標本だけで合否を判定するので,判定を誤ることがある。JIS Z 9015-0:1999 では,満足な製品を不合格とする危険率を生産者危険,不満足な製品を合格とする危険率を消費者危険と呼んでいる。合格となるべきロットが誤って不合格となるのは,出荷できたはずの品物が返されることになる生産者側の不利益なので,ウが正しい。
アの合格品質水準(AQL)は,抜取検査の目的に対して満足と見なせる工程平均の上限として定める品質の水準である。イの消費者危険は,不合格とすべきロットが誤って合格となる確率で,ウとは逆向きの誤りである。エの有意水準は統計的仮説検定の用語で,帰無仮説が正しいのにこれを棄却してしまう確率の基準である。
OC 曲線(検査特性曲線)
横軸にロットの不良率,縦軸にそのロットが抜取検査で合格する確率をとった曲線。不良率が低い良いロット(p0)でも合格率は1にならず,不合格になる確率 α が生産者危険。不良率が高い悪いロット(p1)でも合格する確率 β が消費者危険。
ロットの不良率
合格率
1
p0
p1
α 生産者危険
良いロットが落ちる
β 消費者危険
悪いロットが通る
良いロットを落とすのが生産者危険 α,悪いロットを通すのが消費者危険 β
出典:平成24年度 秋期 ITストラテジスト試験 午前Ⅱ 問22(表記を一部改変)
問23
投資評価方法の説明のうち,IRR(Internal Rate of Return)法はどれか。
ア “将来に期待されるキャッシュインフローの現在価値の総額 - 初期投資額”を算出し,評価する。
イ “投下された資本 = 将来に期待される各期のキャッシュインフローの累計”になるまでの期間を算出し,評価する。
ウ “投資案のキャッシュアウトフローの現在価値の総額 = 将来に期待されるキャッシュインフローの現在価値の総額”になるような割引率を算出し,評価する。 正解
エ “投資案の効果が及ぶ最終年までの平均年間純利益 ÷ 投資総額”で利回りを算出し,評価する。
正解 ウ
解説
IRR(Internal Rate of Return,内部収益率)法は,投資によるキャッシュアウトフローの現在価値の総額と,将来に期待されるキャッシュインフローの現在価値の総額とが等しくなるような割引率を求め,それが資本コストや目標収益率を上回るかどうかで投資案を評価する方法である。ウが該当する。
アは,現在価値の総額から初期投資額を差し引いた正味現在価値で評価する NPV 法である。イは,投下した資本が累計のキャッシュインフローで回収されるまでの期間で評価する回収期間法である。エは,平均年間純利益を投資総額で割って利回りを求める投資利益率(ROI)法である。
IRR(内部収益率)
割引率を上げていくと,将来のキャッシュインの現在価値が小さくなるので,NPV は下がっていく。NPV がちょうど0になる割引率が IRR。IRR が,資金調達のコストなど求める収益率(ハードルレート)より高ければ投資する価値がある。
IRR(NPV=0)
割引率
NPV
NPV>0
NPV<0
NPV が0になる割引率が IRR
出典:平成24年度 秋期 ITストラテジスト試験 午前Ⅱ 問23(表記を一部改変)
用語解説:投資評価(NPV・IRR・ROI)
問24
次の資料を基に,A 社の連結損益計算書を作成した場合の連結売上高は何百万円か。
A 社は,B 社の株式の 80%を取得している。 B 社は,C 社の株式の 60%を取得している。 B 社は,D 社の株式の 20%を取得している。ただし,役員の派遣などはない。 A 社の売上高は,700,000 百万円であり,その 10%は,B 社に対するものである。 B 社の売上高は,350,000 百万円であり,その 20%は,D 社に対するものである。 C 社の売上高は,250,000 百万円である。 D 社の売上高は,200,000 百万円である。 A 社と B 社,B 社と D 社以外の相互間取引はない。
ア 1,230,000 正解
イ 1,300,000
ウ 1,360,000
エ 1,430,000
正解 ア
解説
連結の範囲に入るのは,A 社と,その子会社である B 社,及び B 社が株式の 60%を取得して支配している C 社である。D 社は B 社の持株比率が 20%で役員の派遣などもないので,連結の対象にはならない。3 社の売上高の単純合計は 700,000+350,000+250,000=1,300,000(百万円)であり,ここから連結会社相互間の取引である A 社の B 社向け売上高 700,000×10%=70,000 を相殺消去して,1,230,000(百万円)となる。アになる。
B 社の D 社向け売上高 350,000×20%=70,000 は,相手の D 社が連結の対象外なので連結外部への売上であり,相殺消去しない。イの 1,300,000 は相互間の取引を全く消去しない単純合計である。エの 1,430,000 は D 社の売上高 200,000 も合計に加えて A 社と B 社の間の取引だけを消去した値,ウの 1,360,000 は同じく D 社を加えた上で B 社の D 社向け売上高も消去した値である。
連結の範囲と連結売上高
A 社は B 社の株式の80%をもち,B 社は C 社の60%をもつので,B 社と C 社は A 社の子会社で連結の範囲に入る。B 社がもつ D 社の株式は20%で,役員の派遣もないので連結しない。連結売上高は A・B・C の合計 1,300,000 から,A 社から B 社への売上 70,000(グループ内の取引)を消して 1,230,000(百万円)。
A 社
B 社
C 社
D 社
80%
60%
20%
連結しない
700,000+350,000+250,000−70,000=1,230,000
支配している会社だけを合算し,グループ内の取引は消す
出典:平成24年度 秋期 ITストラテジスト試験 午前Ⅱ 問24(表記を一部改変)
問25
製造物責任法(PL 法)において,免責と規定されているものはどれか。
ア 製造物の欠陥の原因となった製造過程における過失を被害者が証明できない場合
イ 製造物を海外から輸入して国内で販売している場合
ウ 製造物を引き渡した時点から 5 年を過ぎて事故が発生した場合
エ 製造物を引き渡した時点の科学又は技術では欠陥を認識できなかった場合 正解
正解 エ
解説
製造物責任法は,製造物の欠陥によって生命,身体又は財産を侵害したときに製造業者等が負う損害賠償責任を定めており,第 4 条で免責事由を二つ規定している。一つは,引き渡した時における科学又は技術に関する知見によっては欠陥があることを認識できなかったこと(開発危険の抗弁)で,エが該当する。もう一つは,部品や原材料としての欠陥が専ら完成品の製造業者の設計に関する指示に従ったことで生じ,そのことに過失がない場合である。
アは誤りで,同法は欠陥の存在を証明すれば足りる責任であり,被害者に製造過程の過失の証明までは求めていない。イも誤りで,第 2 条で製造物を業として輸入した者も製造業者等に含まれる。ウは第 5 条の期間の制限のことだが,引渡しから 10 年であって 5 年ではなく,免責事由として規定されたものでもない。なお第 5 条は 2020 年施行の改正で消滅時効として整理し直されたが,引渡しから 10 年という期間は変わっていない。
出典:平成24年度 秋期 ITストラテジスト試験 午前Ⅱ 問25(表記を一部改変)
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