令和3年度 春期に実施されたITストラテジスト試験
午後Ⅱの全3問(論述式)です。問題文・設問と,問われていることの整理をそのまま読めます。
問1 デジタルトランスフォーメーションを実現するための新サービスの企画について
企業は,データとディジタル技術を活用したデジタルトランスフォーメーション(DX)に取り組むことが重要になってきている。
流通業のグループ会社である倉庫会社では,物流保管サービスのプラットフォーマに変革するというDXを実現するための新サービスを企画した。具体的には,ICタグを使って商品1個単位に入出庫や保管を管理できるように物流保管システムを改修し,グループ外の一般企業にも,オープンAPIを用いた物流保管サービスを提供した。これによって,洋服一点ごとの管理ができる倉庫を探していた衣料品レンタル会社などを新規顧客として獲得している。
工場設備の監視制御システムなどを提供している測量機器メーカでは,サービス業にも事業を拡大するというDXを実現するための新サービスを企画した。具体的には,赤外線カメラなどを搭載したドローンを活用し,ドローンで撮影した大量の画像データをAIで解析することによって,高所や広範囲なインフラ設備を監視する年間契約制のサービスを提供した。これによって,インフラ点検を安全かつ効率的に行いたい道路運営会社や電力会社を新規顧客として獲得している。
ITストラテジストは,DXを実現するための新サービスを企画する際には,ターゲットの顧客を明確にし,その顧客のニーズを基に新サービスを検討する必要がある。
さらに,DXを実現するための新サービスを具体化する際には,収益モデル,業務プロセス,新サービスの市場への普及方法,リスク対応策,協業先などを検討し,投資効果と合わせて経営層に提案することが重要である。
あなたの経験と考えに基づいて,設問ア〜ウに従って論述せよ。
出題趣旨(IPA)
企業は,ビジネス環境の激しい変化に対応するために,データとディジタル技術を活用して,デジタルトランスフォーメーション(DX)に取り組むことが重要になってきている。
本問は,ITストラテジストが,DXを実現するために企画した新サービスについて,ターゲットとした顧客とそのニーズ,活用したデータとディジタル技術,DXを実現するための新サービスを具体化するための提案について具体的に論述することを求めている。論述を通じて,ITストラテジストに必要なDXを企画し,提案する能力などを評価する。
設問と問われていること
設問ア
800字以内
あなたが携わったDXを実現するための新サービスの企画について,背景にある事業環境,事業特性,DXの取組の概要を,800字以内で述べよ。
問われていること
組み立ての注意
前文の2つの例は,物流保管サービスのプラットフォーマに変革する,サービス業にも事業を拡大する,という事業の変革をDXとして挙げている。DXの取組の概要は,何をどう変革するのかとして書く。
採点講評は,ディジタル化による業務改善や,業務の一機能に対するディジタル化にとどまっている論述を挙げている。採点講評はDXを,データとディジタル技術を活用して,製品やサービス,ビジネスモデルを変革するとともに,業務そのものや,組織,プロセス,企業文化・風土を変革し,競争上の優位性を確立することと説明している。
採点講評は全問に共通して,“論述の対象とする構想,計画策定,システム開発などの概要”が適切に記述されていない論述を挙げている。
設問イ
800字以上1,600字以内
設問アで述べたDXを実現するために,あなたはどのような新サービスを企画したか,ターゲットとした顧客とそのニーズ,活用したデータとディジタル技術とともに,800字以上1,600字以内で具体的に述べよ。
問われていること
- 企画した新サービス
- ターゲットとした顧客とそのニーズ
- 活用したデータとディジタル技術
組み立ての注意
前文は,ターゲットの顧客を明確にし,その顧客のニーズを基に新サービスを検討するとしている。前文の例では,洋服一点ごとの管理ができる倉庫を探していた衣料品レンタル会社,インフラ点検を安全かつ効率的に行いたい道路運営会社や電力会社が顧客とそのニーズに,ICタグとオープンAPI,ドローンで撮影した画像データとAIがデータとディジタル技術に当たる。
新サービスは,設問アのDX(事業の変革)を実現するためのものとして書く。
設問ウ
600字以上1,200字以内
設問イで述べたDXを実現するための新サービスを具体化する際には,あなたは経営層にどのような提案を行い,どのような評価を受けたか。評価を受けて改善したこととともに,600字以上1,200字以内で具体的に述べよ。
問われていること
組み立ての注意
提案の中身は,前文の例(収益モデル,業務プロセス,新サービスの市場への普及方法,リスク対応策,協業先)が手がかりになる。前文は,これらを投資効果と合わせて経営層に提案するとしている。
改善したことは,経営層の評価のどの点を受けて,提案の何を直したかが分かるように書く。
採点講評(IPA)
問1では,デジタルトランスフォーメーションを実現するための新サービスの企画について,具体的な論述を期待した。組織や地域社会の課題に対して,既存の事業を変革したり,新しいビジネスモデルを創出したりするなど,デジタルトランスフォーメーションを実現するための新サービスを取り上げている論述も見受けられ,題意はおおむね理解されているようであった。一方で,ディジタル化による業務改善や,業務の一機能に対するディジタル化にとどまっている論述も見受けられた。デジタルトランスフォーメーションは,企業がビジネス環境の激しい変化に対応し,データとディジタル技術を活用して,顧客や社会のニーズを基に,製品やサービス,ビジネスモデルを変革するとともに,業務そのものや,組織,プロセス,企業文化・風土を変革し,競争上の優位性を確立することである。ITストラテジストは,事業やビジネスを変革するような取組と,それを実現する新サービスを企画できるように,国内外のデジタルトランスフォーメーションの先進事例などの知見を深めて,実践での経験を積んでほしい。
全問共通
全問に共通して,“論述の対象とする構想,計画策定,システム開発などの概要”又は“論述の対象とする製品又はシステムの概要”が適切に記述されていないものが散見された。これらは,評価の対象となるので,矛盾が生じないように適切な記述を心掛けてほしい。
午後Ⅱ試験では,ITストラテジスト自身の経験と考えに基づいて,設問の趣旨を踏まえて論述することが重要である。問題文及び設問の趣旨から外れた論述や具体性に乏しい論述は,評価が低くなってしまうので,注意してほしい。
出典:令和3年度 春期 ITストラテジスト試験 午後Ⅱ 問1(表記を一部改変)
問2 個別システム化構想におけるステークホルダの意見調整について
事業目標の達成に向けて,事業戦略に掲げられている変革を実現するために,ITストラテジストは,事業部門,IT部門,本社部門,IT子会社などのステークホルダとともに,個別システム化構想を策定する。
ITストラテジストは,あるべき業務及びシステム,投資効果,開発スケジュールなどについての試案を検討し,各ステークホルダと試案について協議して,個別システム化構想案を取りまとめる。しかし,各ステークホルダの立場の違いから,個別システム化構想案の内容に対して意見の相違が発生することがある。各ステークホルダから協力を得て,事業戦略と整合性の取れた個別システム化構想として完成させるためには,ITストラテジストが構想案に対して反対意見や疑義をもつステークホルダへの説得を行った上で,意見の調整を行い,構想案に反映して内容を確定することが重要である。例えば,次のような調整をすることがある。
- 実現する業務やシステム化機能の優先順位に関する事業部門からの反対意見に対しては,業務負担軽減のための施策や,サービスレベルの見直しを提案する。
- 人的リソース不足に懸念を示すIT子会社に対しては,開発スケジュールを事業部門,IT部門とともに見直して,IT子会社の負荷調整を図る。
- 投資効果や費用リスクを懸念する本社部門に対しては,段階的な導入による効果創出の早期化や,SaaS活用などによる初期投資コストの抑制案を提案する。
さらに,ITストラテジストは,内容を確定した個別システム化構想について,事業目標達成への寄与のために,事業戦略への影響,投資効果などを経営層に説明し,承認を得る必要がある。
あなたの経験と考えに基づいて,設問ア〜ウに従って論述せよ。
出題趣旨(IPA)
個別システム化構想の策定では,事業戦略の実現に向けて,複数の組織を巻き込みながら,変革内容についての検討を行う。異なる立場にあるステークホルダの異なる意見を調整し,反対意見や疑義をもつステークホルダを説得することで,事業戦略と整合の取れた個別システム化構想を策定することが求められる。
本問は,どのようにして構想案の調整を図ったのか,具体的に論述することを求めている。論述を通じて,ITストラテジストに必要なステークホルダの意見を調整する能力,個別システム化構想を策定する能力などを評価する。
設問と問われていること
設問ア
800字以内
あなたが携わった個別システム化構想の策定において,背景となった事業目標,事業戦略に掲げられている変革の概要,関係するステークホルダについて,業務特性とともに800字以内で述べよ。
問われていること
- 背景となった事業目標
- 事業戦略に掲げられている変革の概要
- 関係するステークホルダ
- 業務特性
組み立ての注意
この設問は事業特性ではなく業務特性を問うている。
ステークホルダは,前文の例(事業部門,IT部門,本社部門,IT子会社)のように,設問イで意見の相違を述べる相手が分かるように挙げる。
採点講評は全問に共通して,“論述の対象とする構想,計画策定,システム開発などの概要”が適切に記述されていない論述を挙げている。
設問イ
800字以上1,600字以内
設問アで述べたステークホルダについて,個別システム化構想案に対してどのような意見の相違があり,あなたはどのように意見を調整したか。個別システム化構想案の概要と意見の調整で工夫したこととともに,800字以上1,600字以内で具体的に述べよ。
問われていること
- 構想案に対する意見の相違
- 意見の調整
- 個別システム化構想案の概要
- 意見の調整で工夫したこと
組み立ての注意
前文の例は,ステークホルダごとに,懸念や反対意見(優先順位への反対,人的リソース不足,投資効果や費用リスク)と,それに対する調整(業務負担軽減の施策やサービスレベルの見直し,開発スケジュールの見直し,段階的な導入やSaaS活用などによるコスト抑制)を対にしている。誰のどの意見に,どう調整したかを対にして書く。
採点講評は,ステークホルダからの単純な要望を聞いて構想としてまとめたといった論述や,意見の調整への対応として単にRPA・SaaSの技術を活用したといった具体性のない論述を挙げている。調整は,事業戦略と整合の取れた構想にするためのものとして書く。
設問ウ
600字以上1,200字以内
設問イで述べた意見の調整結果を反映した個別システム化構想について,経営層からどのような評価を受けたか。評価を受けてあなたが改善したこととともに,600字以上1,200字以内で具体的に述べよ。
問われていること
組み立ての注意
前文は,内容を確定した構想について,事業目標達成への寄与のために,事業戦略への影響,投資効果などを経営層に説明し承認を得るとしている。評価は,その説明に対するものとして書く。
採点講評は,事業目標達成に寄与する,実現性のある個別システム化構想を策定できる能力を求め,経営者の目線で説明することを心掛けてほしいとしている。
採点講評(IPA)
問2では,個別システム化構想案に対するステークホルダの意見を調整し,事業戦略と整合の取れた個別システム化構想を策定する論述を期待した。多くの論述は,ステークホルダからの意見を基に,個別システム化構想で検討した内容を見直したり,意見調整のために工夫をしたりしている経験がうかがえた。一方で,ステークホルダからの単純な要望を聞いて構想としてまとめたといった論述や,意見の調整への対応として,単にRPA・SaaSの技術を活用したといった具体性のない論述にとどまっているものも見受けられた。ITストラテジストには,事業目標達成に寄与する,実現性のある個別システム化構想を策定できる能力が求められる。日頃から経営者の目線で説明することを心掛けてほしい。
全問共通
全問に共通して,“論述の対象とする構想,計画策定,システム開発などの概要”又は“論述の対象とする製品又はシステムの概要”が適切に記述されていないものが散見された。これらは,評価の対象となるので,矛盾が生じないように適切な記述を心掛けてほしい。
午後Ⅱ試験では,ITストラテジスト自身の経験と考えに基づいて,設問の趣旨を踏まえて論述することが重要である。問題文及び設問の趣旨から外れた論述や具体性に乏しい論述は,評価が低くなってしまうので,注意してほしい。
出典:令和3年度 春期 ITストラテジスト試験 午後Ⅱ 問2(表記を一部改変)
問3 異業種メーカとの協業による組込みシステムの製品企画戦略について
近年,異業種メーカとの協業による組込みシステムの製品が様々な市場に進出している。新分野における新製品の開発及び既存製品の機能の見直しを検討し,IoT,AIを導入した異業種メーカと協業することで,新たな価値を創造した製品戦略を策定することができ,未開拓の新市場などへの参入が可能になる。
既存製品の市場におけるライフサイクルのステージが成熟期・衰退期の時期であっても,異業種メーカと協業することによって,既存製品を新たなニーズに対応した価値のある製品として新市場に投入する戦略が考えられる。また,新市場の調査結果を基に企画した製品について,自社の保有技術だけでは製品化,販路の開拓などの実現が難しい場合でも,異業種メーカとの協業によって実現できることもある。
例えば,ディジタルサイネージメーカでは,防災機器メーカ,自動販売機専門メーカとの協業によって“高機能型IoT自動販売機”を製品化することが挙げられる。
協業する企業は,投入する製品を補完する部分及び新市場を分析し,技術的な適性,実績,企業系列などを吟味し,社内方針に従って選定される必要がある。
組込みシステムのITストラテジストは,企画した製品に関して協業する各企業と協議した上で,課題の抽出,課題に対する解決策,適用範囲などを取りまとめることが求められている。その過程の中で,協業する企業の分担範囲をトレードオフしながら切り分け,最適な製品を企画することが重要である。
あなたの経験と考えに基づいて,設問ア〜ウに従って論述せよ。
出題趣旨(IPA)
近年,組込みシステムのITストラテジストは,既存製品を基に,異業種メーカとの協業によって新たな価値のある製品企画を立案して新市場に投入することが求められている。その際,自社保有技術だけでは製品化,販路の開拓などが難しい場合でも,異業種メーカとの協業によって実現可能な場合がある。
本問は,異業種メーカとの協業によって既存製品を新たなニーズに対応した新製品として再び投入することを題材として,その製品企画戦略,異業種メーカとの協業を検討した理由,分担範囲及びトレードオフ,課題の抽出,その解決策について,具体的に論述することを求めている。論述を通じて,組込みシステムのITストラテジストに必要な分析力,提案力,統率力などを評価する。
設問と問われていること
設問ア
800字以内
あなたが異業種メーカとの協業で企画・検討をした組込みシステムの製品の概要,企画・検討に至った経緯を,新市場の特徴とともに800字以内で述べよ。
問われていること
- 組込みシステムの製品の概要
- 企画・検討に至った経緯
- 新市場の特徴
組み立ての注意
前文は,既存製品の市場におけるライフサイクルのステージが成熟期・衰退期であっても,異業種メーカとの協業によって既存製品を新たなニーズに対応した製品として新市場に投入する戦略を挙げている。採点講評も,既存製品のライフサイクルのステージを基にした新市場への投入戦略の理解を求めている。経緯は,既存製品の置かれた状況と新市場のニーズから書くとよい。
採点講評は,新製品の概要が不明瞭な論述を挙げている。採点講評は全問に共通して,“論述の対象とする製品又はシステムの概要”が適切に記述されていない論述も挙げている。
設問イ
800字以上1,600字以内
設問アで述べた製品において,異業種メーカとの協業を検討した理由,協業する各企業の分担範囲及びそのトレードオフ,各企業から挙がった課題及びその解決策として考えられる内容を,800字以上1,600字以内で具体的に述べよ。
問われていること
- 異業種メーカとの協業を検討した理由
- 協業する各企業の分担範囲及びそのトレードオフ
- 各企業から挙がった課題
- 解決策として考えられる内容
組み立ての注意
協業を検討した理由は,前文のとおり,自社の保有技術だけでは製品化,販路の開拓などの実現が難しい点として書く。協業先の選定は,前文の観点(投入する製品を補完する部分及び新市場の分析,技術的な適性,実績,企業系列,社内方針)が手がかりになる。
採点講評は,異業種メーカとの協業ではなく単なる外部調達に言及する論述と,協業を検討した理由が不明瞭で内容が不足している論述を挙げている。
分担範囲は,前文のとおりトレードオフしながら切り分けたものとして,何と何を比べてどう決めたかを書く。
設問ウ
600字以上1,200字以内
設問イで述べた異業種メーカとの協業について判断したことの妥当性,分担を考えた内容の妥当性,課題に対する解決策についての評価を,600字以上1,200字以内で具体的に述べよ。
問われていること
- 協業について判断したことの妥当性
- 分担を考えた内容の妥当性
- 課題に対する解決策についての評価
組み立ての注意
3つの評価は,設問イの3つの要素(協業を検討した理由,分担範囲及びそのトレードオフ,課題と解決策)にそれぞれ対応する。設問イのどの部分に対する評価かが分かるように分けて書く。
採点講評(IPA)
問3では,異業種メーカとの協業による組込みシステムの製品企画戦略について,具体的な論述を期待した。異業種メーカとの協業によって,既存製品を新たな製品として新市場へ投入する企画を立案した経験のある受験者には,論述しやすかったと思われる。一方で,新製品の概要が不明瞭な論述,異業種メーカとの協業ではなく単なる外部調達に言及する論述,協業を検討した理由が不明瞭で内容が不足している論述も見受けられた。組込みシステムのITストラテジストは,既存製品のライフサイクルのステージを基にした,新市場への投入戦略について理解し,実践で深く分析する能力を養ってほしい。
全問共通
全問に共通して,“論述の対象とする構想,計画策定,システム開発などの概要”又は“論述の対象とする製品又はシステムの概要”が適切に記述されていないものが散見された。これらは,評価の対象となるので,矛盾が生じないように適切な記述を心掛けてほしい。
午後Ⅱ試験では,ITストラテジスト自身の経験と考えに基づいて,設問の趣旨を踏まえて論述することが重要である。問題文及び設問の趣旨から外れた論述や具体性に乏しい論述は,評価が低くなってしまうので,注意してほしい。
出典:令和3年度 春期 ITストラテジスト試験 午後Ⅱ 問3(表記を一部改変)