令和5年度 春期に実施されたシステムアーキテクト試験
午後Ⅱの全3問(論述式)です。問題文・設問と,問われていることの整理をそのまま読めます。
問1 デジタルトランスフォーメーションを推進するための情報システムの改善について
近年,企業においては競争優位の獲得や企業自身の存続のために,デジタルトランスフォーメーション(DX)を推進することが増えている。しかし,DXの推進に必要な情報が整備されていないなどの課題が原因で,推進が困難になる場合も多い。
そのため,システムアーキテクトは,課題を解決してDXの推進を支援する必要がある。このような課題には例えば,次のようなものがある。
- 飲料の製造販売会社で,自動販売機が保有する,販売した日時・場所・商品・電子マネー情報・ポイントカードIDなどのPOS情報が,基幹情報システムに連携されていない。そのため,POS情報を利用したキャンペーンやビジネスができない。
- 車載機器製造販売会社で,企業向けと個人向けがそれぞれ別の情報システムになっており,商品コードの体系が企業向けと個人向けで異なる。そのため,企業向け製品を個人向けに展開するビジネスが困難である。
このような場合,DXの推進のために情報システムを改善する必要がある。例えば,次のような改善が考えられる。
- 基幹情報システムにPOS情報を連携して,DXの推進に必要な情報を蓄積する。
- マスター管理システムを追加し,部門別の情報システムと連携させ,データ項目の名寄せや,単位,区分の共通化と統合化を行い,全社や外部との共有を可能にする。
また,これらの情報システムを改善する際に工夫すべき点が考えられる。例えば,POS情報を利用する場合,購入者の行動履歴を把握しつつ個人を特定できないようにするために情報の一部を匿名化したり,全社や外部とのデータ共有を可能にする場合,業務横断でのデータの活用を推進するためにデータ項目の意味を標準化したりする。
あなたの経験と考えに基づいて,設問ア〜設問ウに従って論述せよ。
出題趣旨(IPA)
近年,企業は競争優位の獲得や企業自身の存続のために,デジタルトランスフォーメーション(DX)を推進することが増えている。しかし,DXの推進に必要な情報が整備されていないなどの課題が原因で,推進が困難になる場合も多い。そのため,システムアーキテクトには,課題を解決してDXの推進を支援することが求められており,その際には,既存の情報システムの改善が必要になることがある。
本問は,DXの推進のためのどのような課題をどのように解決したのか,その際に既存の情報システムをどのように改善したのか,及び改善に当たっての工夫について,その改善で課題が解決できると考えた理由を含めて具体的に論述することを求めている。論述を通じて,システムアーキテクトに必要な,DX構想における情報システムの改善計画の立案能力を評価する。
設問と問われていること
設問ア
800字以内
あなたが携わったDXの推進では,どのような課題があったか。DXの目的と情報システムの概要を含め,800字以内で述べよ。
問われていること
組み立ての注意
課題は,前文の例(POS情報が基幹情報システムに連携されていない,商品コードの体系が企業向けと個人向けで異なる)のように,DXの推進を妨げている情報システム上の問題として書く。
採点講評は,業務の改革や改善を伴わない,現行業務の単純なIT化・デジタル化をDXとしていた論述を挙げ,DXをデジタル技術による業務の改革や新しい業務・ビジネス・サービスの創造と捉えるよう求めている。DXの目的はその意味で書く。
設問イ
800字以上1,600字以内
設問アで述べた課題の解決のために,情報システムをどのように改善しようとしたか。解決できると考えた理由を含め,800字以上1,600字以内で具体的に述べよ。
問われていること
- 課題の解決のための情報システムの改善
- その改善で解決できると考えた理由
組み立ての注意
前文は,改善の例として,基幹情報システムへのPOS情報の連携と,マスター管理システムの追加によるデータ項目の名寄せや単位,区分の共通化と統合化を挙げている。
採点講評は,DXの目的,目的の達成を阻害する情報システム上の課題,課題の解決手段としての改善内容,その際の工夫点について,それぞれの論理的整合が取れていない論述を挙げている。改善内容は設問アの課題に対応させ,なぜそれで解決できるのかを理由として示す。
設問ウ
600字以上1,200字以内
設問イで述べた情報システムの改善において,何のためにどのような工夫を検討したか。600字以上1,200字以内で具体的に述べよ。
問われていること
組み立ての注意
前文は,工夫の例として「個人を特定できないようにするために情報の一部を匿名化」「業務横断でのデータの活用を推進するためにデータ項目の意味を標準化」を挙げている。どちらも「〜のために」と目的を伴っており,設問も「何のために」を問うている。
工夫の対象は,設問イで述べた改善である。採点講評が挙げた論理的整合の不足は工夫点にも及んでいるので,設問ア・イの課題や改善とつながる工夫を書く。
採点講評(IPA)
問1では,デジタルトランスフォーメーション(DX)を具体的に表現できていた論述からは,実際にDXに関わった経験がうかがえた。一方で,業務の改革や改善を伴わない,現行業務の単純なIT化・デジタル化をDXとしていた論述も散見された。論述されているDXの目的,目的の達成を阻害する情報システム上の課題,課題の解決手段としての改善内容,その際の工夫点について,それぞれの論理的整合が取れていないものもあった。DXの取組が増えてきている中,システムアーキテクトは,DXを現行業務のデジタル化ではなく,デジタル技術による業務の改革や新しい業務・ビジネス・サービスの創造と捉え,情報システムの開発・改修に際して,本来の目的や真の課題などを把握して,適切な提案や計画立案を行うことを心掛けてほしい。
全問共通
全問に共通して,自らの経験に基づき設問に素直に答えている論述が多かったが,問題文に記載してあるプロセスや観点などを抜き出し,一般論と組み合わせただけの表面的な論述も散見された。また,実施した事項を論述するだけにとどまり,実施した理由や検討の経緯が読み取れない論述も少なからず見受けられた。自らが実際にシステムアーキテクトとして検討し取り組んだことを,設問に沿って具体的に論述してほしい。
出典:令和5年度 春期 システムアーキテクト試験 午後Ⅱ 問1(表記を一部改変)
問2 利用者と直接の接点がない情報システムのユーザーインタフェースの検討について
近年,通販サイトやスマートフォンアプリケーションのように,開発者が利用者と直接の接点を持つことが難しい情報システムの開発が増えてきている。
システムアーキテクトは,このような情報システムの開発に当たり,利用者に直接確認することが困難な状況で要件を取りまとめなければならない。
特にユーザーインタフェース(以下,UIという)は,要件の確認が困難であるため,情報システムの利用者像を想定することから始める必要がある。利用者像は,利用者の性別や年齢層,スマートフォンやPCなどの利用環境におけるITリテラシーなどから想定することが多い。その上で,利用者に提供する機能を洗い出し,適切と思われるUIを検討する。
このような検討では,適切なUIを選択する際に課題が発生することも多く,その課題に対応しなければならない。課題には,例えば次のようなものがある。
- 想定される利用者が多岐にわたるので,利用ガイドなどの支援機能が決まらない。
- メニューの階層を浅くする方法と,深くする方法のどちらが利用者に受け入れられるのかが分からない。
また,このような情報システムの場合,開発やデリバリーのプロセスを自動化し開発サイクルを短期化した上で情報システムを運用しながら改訂していくことを可能にしたり,画面や機能の利用状況をモニタリングする機能を用意し改善点を発見しやすくしたりするなど,UIを継続的に適切化していくための工夫をすることも重要である。
あなたの経験と考えに基づいて,設問ア〜設問ウに従って論述せよ。
出題趣旨(IPA)
近年,通販サイトやスマートフォンアプリケーションのように,開発者が利用者と直接の接点を持つことが難しい情報システムの開発が増えてきている。しかし,このような情報システムでは,システムアーキテクトが情報システムの要件を取りまとめる際に,ユーザーインタフェース(以下,UIという)の要件の検討における課題が発生することが多い。
本問は,利用者と直接の接点を持つことが難しい情報システムのUIの要件の検討について,想定した利用者像,検討したUI,適切なUIを選択する際の課題とその対応策,UIを継続的に適切化していくための工夫などを具体的に論述することを求めている。論述を通じて,システムアーキテクトに必要な要件定義の能力を評価する。
設問と問われていること
設問ア
800字以内
あなたが開発に携わった,開発者が利用者と直接の接点を持つことが難しい情報システムについて,開発の目的,対象の業務と情報システムの概要を,800字以内で述べよ。
問われていること
組み立ての注意
対象は,前文の例(通販サイト,スマートフォンアプリケーション)のように,開発者が利用者と直接の接点を持つことが難しい情報システムに限られる。採点講評は,自社内の情報システムのように,利用者と直接の接点がないとは言い難い情報システムの論述を,本問で問うている内容とは異なるものとして挙げている。
概要では,なぜ利用者と直接の接点を持つことが難しいのかが分かるように書いておくと,設問イの利用者像の想定につながる。
設問イ
800字以上1,600字以内
設問アで述べた情報システムにおけるUIについて,利用者像をどのように想定し,どのようなUIを検討したか。検討で発生した適切なUIを選択する際の課題とその対応策を交え,800字以上1,600字以内で具体的に述べよ。
問われていること
- 利用者像をどのように想定したか
- 検討したUI
- 適切なUIを選択する際に発生した課題
- 課題への対応策
組み立ての注意
前文は,利用者像を利用者の性別や年齢層,スマートフォンやPCなどの利用環境におけるITリテラシーなどから想定し,その上で提供する機能を洗い出してUIを検討する,という順序を示している。この順に書くと問われている要素が漏れにくい。
課題は,前文の例(利用ガイドなどの支援機能が決まらない,メニューの階層を浅くするか深くするかが分からない)のように,利用者に直接確認できないために選択に迷ったこととして書く。採点講評は,一般論に終始して具体性に欠ける論述や,設問で求めている事項に触れていない論述を挙げている。
設問ウ
600字以上1,200字以内
設問アで述べた情報システムでUIを継続的に適切化していくための工夫について,600字以上1,200字以内で具体的に述べよ。
問われていること
組み立ての注意
前文は,工夫の例として,開発やデリバリーのプロセスを自動化し開発サイクルを短期化して運用しながら改訂できるようにすることと,画面や機能の利用状況をモニタリングする機能を用意して改善点を発見しやすくすることを挙げている。
「継続的に」とあるので,リリース時点のUIの決め方ではなく,運用しながらUIを見直し続けるための仕組みとして書く。
採点講評(IPA)
問2では,多くの論述が,利用者と直接の接点がない情報システムのユーザーインタフェースについて適切に解答しており,このような情報システムの開発が一般化していることをうかがわせた。一方で,自社内の情報システムのように,利用者と直接の接点がないとは言い難い情報システムに関する論述も散見された。このような論述は,本問で問うている内容とは異なることに留意してほしい。また,一般論に終始して具体性に欠ける論述や,設問で求めている事項に触れていない論述も一部に見受けられた。システムアーキテクトとしての自らの経験や考えに基づいて,具体的に解答することを心掛けてほしい。
全問共通
全問に共通して,自らの経験に基づき設問に素直に答えている論述が多かったが,問題文に記載してあるプロセスや観点などを抜き出し,一般論と組み合わせただけの表面的な論述も散見された。また,実施した事項を論述するだけにとどまり,実施した理由や検討の経緯が読み取れない論述も少なからず見受けられた。自らが実際にシステムアーキテクトとして検討し取り組んだことを,設問に沿って具体的に論述してほしい。
出典:令和5年度 春期 システムアーキテクト試験 午後Ⅱ 問2(表記を一部改変)
問3 再利用の容易化を考慮した組込みシステムのアーキテクチャについて
近年の技術進展に伴い,組込みシステムも年々大規模化しており,既存の組込みシステムを再利用して,開発工数の削減を図ることも多くなっている。そのため,新規開発及び改変のいずれにおいても再利用の容易化を考慮することが有効である。
新規開発においては,組込みシステム・IoTシステムの構成部品を含めたハードウェア及びソフトウェアの追加・削除・変更を想定してアーキテクチャを設計し,改変があった場合でも一部分の変更で済む方法をとる。しかし,改変において想定外の変更があった場合,又は改変の繰返しによって構造が複雑化した場合に,アーキテクチャそのものを見直すなど,更なる再利用に向けた容易化を検討することも求められる。
また,元の組込みシステムと改変で増えたバリエーションの管理,再利用できる部品の管理など,改変に伴う管理も必要となる。例えば,既存の組込みシステムを改変した際に,潜在していた不具合を発見した場合,管理が適切に行われていれば,関連する箇所も容易に抽出できる。さらに,新規開発及び改変のいずれの場合も,完成した組込みシステムのテストにおいて,変更の箇所とアーキテクチャに基づき,どの範囲に対してどのようなテストを行うかを判断することも重要である。
組込みシステムのシステムアーキテクトは,組込みシステムの新規開発及び改変のいずれにおいても再利用が容易になるよう,組込みシステムの特性に応じた適切な変更対象・変更範囲,改変管理,テスト範囲を策定し,将来にわたっての再利用の容易化を考慮することが望ましい。
あなたの経験と考えに基づいて,組込みシステムのシステムアーキテクトの立場から設問ア〜設問ウに従って論述せよ。
出題趣旨(IPA)
組込みシステムのシステムアーキテクトは,将来のソフトウェア・ハードウェアの変更に伴う改変に備え,システム及び構成部品の再利用が容易になるアーキテクチャを構築することが求められる。
本問は,解答者が携わった組込みシステムのアーキテクチャ構築において,改変の対象となるシステムの再利用の容易化に対して,変更対象・範囲,改変の管理方法,及びテスト範囲についてどのような考慮をしたか,具体的に論述することを求めている。論述を通じて,組込みシステムのシステムアーキテクトに必要な,適切にアーキテクチャを構築するためのシステム理解力・アーキテクチャ構築力を評価する。
設問と問われていること
設問ア
800字以内
あなたが携わった組込みシステムの構成と概要,改変の内容,及び再利用の容易化に係る目標について,800字以内で述べよ。
問われていること
- 携わった組込みシステムの構成と概要
- 改変の内容
- 再利用の容易化に係る目標
組み立ての注意
ここで述べる目標は,設問ウで達成度を評価する基準になる。達成度を述べられるよう,何をどこまで再利用しやすくするのかが分かる形で書いておく。
構成は,設問イで変更対象・変更範囲を述べるときの土台になる。前文が挙げるハードウェア及びソフトウェアの構成部品が分かるように書くと,後の論述がつながる。
設問イ
800字以上1,600字以内
設問アで述べた組込みシステムについて,再利用の容易化に対してどのような考慮をしたか。変更対象・変更範囲,改変管理,テスト範囲を含めて,800字以上1,600字以内で具体的に述べよ。
問われていること
- 再利用の容易化に対する考慮
- 変更対象・変更範囲
- 改変管理
- テスト範囲
組み立ての注意
変更対象・変更範囲,改変管理,テスト範囲の3つが明示されており,前文の第2〜4段落がそれぞれに当たる。変更対象・変更範囲は追加・削除・変更を想定したアーキテクチャの設計や見直し,改変管理はバリエーションや再利用できる部品の管理,テスト範囲は変更の箇所とアーキテクチャに基づくテストの範囲の判断である。
採点講評は,一般論に終始している論述や,特定部分の実装にとどまっている論述を挙げている。対象の組込みシステムの特徴・制約を踏まえ,アーキテクチャの水準で書く。
設問ウ
600字以上1,200字以内
設問イで述べた再利用の容易化への考慮において,目標の達成度,今後の課題について,600字以上1,200字以内で具体的に述べよ。
問われていること
組み立ての注意
達成度は,設問アで述べた再利用の容易化に係る目標に照らして書く。
前文は,想定外の変更や改変の繰返しによる構造の複雑化に対して,アーキテクチャそのものを見直すなど更なる再利用に向けた容易化を検討することも求めている。今後の課題は,将来にわたっての再利用の容易化という観点から述べる。
採点講評(IPA)
問3では,多くの論述で,対象の組込みシステムの特徴・制約を踏まえ,再利用の容易化を考慮した改変・設計について具体的に解答していた。開発プロセスの変更にも及ぶ広い視点からの論述もある一方で,一般論に終始している論述や,特定部分の実装にとどまっている論述も散見された。
組込みシステムのシステムアーキテクトは,将来を見据えたアーキテクチャ設計・改変を行う際には,関係者に内容を説明する機会も多いと思われる。システムの特徴・制約を把握し,必要な解決策を特定するとともに,適切な提案ができるよう心掛けてほしい。
全問共通
全問に共通して,自らの経験に基づき設問に素直に答えている論述が多かったが,問題文に記載してあるプロセスや観点などを抜き出し,一般論と組み合わせただけの表面的な論述も散見された。また,実施した事項を論述するだけにとどまり,実施した理由や検討の経緯が読み取れない論述も少なからず見受けられた。自らが実際にシステムアーキテクトとして検討し取り組んだことを,設問に沿って具体的に論述してほしい。
出典:令和5年度 春期 システムアーキテクト試験 午後Ⅱ 問3(表記を一部改変)