平成30年度 秋期に実施されたシステムアーキテクト試験
午後Ⅱの全3問(論述式)です。問題文・設問と,問われていることの整理をそのまま読めます。
問1 業務からのニーズに応えるためのデータを活用した情報の提供について
近年,顧客の行動記録に基づき受注可能性が高い顧客像を絞り込む,宣伝方法と効果の関係を可視化するなどの業務からのニーズに応えるために,データを活用して情報を提供する動きが加速している。
このような場合,システムアーキテクトは,業務からのニーズを分析した上で,どのような情報を提供するかを検討する必要がある。
例えば,スーパマーケットのチェーンで,“宣伝効果を最大にしたい”というニーズから,宣伝媒体をより効果的なものに絞り込むための情報の提供が必要であると分析した場合に,次のような検討をする。
- 対象にしている顧客層に宣伝が届いている度合いを測定するための情報はどのようなものか
- 宣伝の効果が表れるタイミングと期間を測定するための情報はどのようなものか
検討の結果から,“男女別/年齢層別の,来店者数のうち購入者数の占める割合が,特定の宣伝を実施した後の時間の経過に伴い,どのように推移したか”を情報として提供することにする。
また,このような情報の提供では,来店者数のデータがない,年齢層の入力がされていないケースがあるなどの課題があることも多い。そのため,発行したレシート数に一定の数値を乗じた値を来店者数とみなす,年齢層が未入力のデータは年齢層不明として分類するなど,課題に対応するための工夫をすることも重要である。
あなたの経験と考えに基づいて,設問ア〜ウに従って論述せよ。
出題趣旨(IPA)
近年,業務からのニーズに応えるためにデータを活用した情報の提供をすることが増えている。システムアーキテクトは,ニーズを分析し,どのような情報を提供するのかを検討する必要がある。また,このような情報の提供では算出元のデータが企業内にはないなどの課題があることも多い。そのため,課題に対応するための工夫も求められる。
本問は,業務のためにデータ活用をする際に,求められたニーズ,ニーズの分析結果と提供した情報,情報の提供に課題があった際の工夫について,具体的に論述することを求めている。論述を通じて,システムアーキテクトに必要な要求の分析能力,課題への対応能力などを評価する。
設問と問われていること
設問ア
800字以内
あなたが携わった,業務からのニーズに応えるためのデータを活用した情報の提供は,どのようなものであったか。ニーズのあった業務の概要及びニーズの内容,関連する情報システムの概要とともに,800字以内で述べよ。
問われていること
- 携わったデータを活用した情報の提供の内容
- ニーズのあった業務の概要
- ニーズの内容
- 関連する情報システムの概要
組み立ての注意
ニーズは,前文の例(“宣伝効果を最大にしたい”)のように,業務の側から出てきたものとして書く。採点講評は,情報提供のニーズではなく機能追加に関する論述や,業務からのニーズではなくシステム開発の一環としての情報提供に関する論述を挙げている。
ここで書くニーズは,設問イで分析する対象になる。前文の例のように,漠然としたニーズとして書いておくと,設問イの分析とつながる。
設問イ
800字以上1,600字以内
設問アで述べた情報の提供では,ニーズをどのように分析し,どのような情報の提供を検討したか。800字以上1,600字以内で具体的に述べよ。
問われていること
組み立ての注意
前文の例は,ニーズを分析して必要な情報の提供を見定め(宣伝媒体を絞り込むための情報),測定したいこと(宣伝が届いている度合い,効果が表れるタイミングと期間)を検討し,最後に提供する情報を決める,という流れになっている。分析から情報の決定までがつながるように書く。
採点講評は,分析を伴わず求められた情報をそのまま提供しただけという論述を挙げ,業務からの漠然としたニーズを分析して具体化する能力が求められるとしている。業務とシステムの両面からの視点が重要とも書いている。
設問ウ
600字以上1,200字以内
設問イで述べた検討で,情報の提供においてどのような課題があったか。また,その課題に対応するためにどのような工夫をしたか。600字以上1,200字以内で具体的に述べよ。
問われていること
組み立ての注意
課題は,前文の例(来店者数のデータがない,年齢層の入力がされていないケースがある)のように,提供しようとした情報の算出元のデータにまつわるものにする。出題趣旨も,算出元のデータが企業内にはないなどの課題を挙げている。
工夫は,前文の例(レシート数に一定の数値を乗じた値を来店者数とみなす,未入力のデータは年齢層不明として分類する)のように,その課題をどう補ったかとして書く。
採点講評(IPA)
問1(業務からのニーズに応えるためのデータを活用した情報の提供について)では,営業マーケティングなどの一般的な分野からAIによる業務判断など,幅広いテーマで論述されていた。本問では,どのようなデータ活用のニーズをどのように分析し,どのような情報を提供したか,提供に際しての課題にどのような工夫をして対応したかについての具体的な論述を期待した。多くの論述は具体性があり,実際にデータを活用した情報提供に携わった経験がうかがえた。一方で,情報提供のニーズではなく機能追加に関する論述,業務からのニーズではなくシステム開発の一環としての情報提供に関する論述,分析を伴わず求められた情報をそのまま提供しただけという論述も見受けられた。システムアーキテクトは,業務からの漠然としたニーズを分析し,それを具体化する能力が求められる。業務とシステムの両面からの視点が重要なことを理解してほしい。
全問共通
全問に共通して,自らの体験に基づき設問に素直に答えている論述が多く,問題文に記載してあるプロセスや観点などを抜き出し,一般論と組み合わせただけの表面的な論述は少なかった。また,実施事項だけにとどまり,実施した理由や検討の経緯が読み取れない論述も少なかった。
出典:平成30年度 秋期 システムアーキテクト試験 午後Ⅱ 問1(表記を一部改変)
問2 業務ソフトウェアパッケージの導入について
近年,情報システムの構築に,業務ソフトウェアパッケージ(以下,パッケージという)を導入するケースが増えている。パッケージを導入する目的には,情報システム構築期間の短縮,業務の標準化による業務品質の向上などがある。
パッケージは標準的な機能を備えているが,企業などが実現したい業務機能には足りない又は適合しないなどのギャップが存在することがある。そこで,システムアーキテクトは,パッケージが提供する機能と実現したい業務機能のギャップを識別した上で,例えば次のように,検討する上での方針を決めてギャップに対する解決策を利用部門と協議する。
- “原則として,業務のやり方をパッケージに合わせる”という方針から,まず,パッケージが提供する機能に合わせて業務を変更することを検討する。ただし,“企業の競争力に寄与する業務は従来のやり方を踏襲する”という方針から,特に必要な業務については追加の開発を行う。
- “投資効果を最大化する”という方針から,システム化の効果が少ない業務については,システム化せずに運用マニュアルを整備して人手で対応することを検討する。
あなたの経験と考えに基づいて,設問ア〜ウに従って論述せよ。
出題趣旨(IPA)
近年,情報システム開発期間の短縮,業務品質の向上などのために,情報システムの構築に,業務ソフトウェアパッケージ(以下,パッケージという)を導入するケースが増えている。システムアーキテクトは,実現したい業務機能を達成するために,パッケージが提供する機能と実現したい業務機能とのギャップをどのように解決するか検討し,利用部門に選択してもらう必要がある。
本問は,パッケージ導入の際に生じる実現したい業務機能とのギャップ,及び解決策について,具体的に論述することを求めている。論述を通じて,システムアーキテクトに必要なパッケージ導入に関連した能力と経験を評価する。
設問と問われていること
設問ア
800字以内
あなたがパッケージの導入に携わった情報システムについて,対象とした業務と情報システムの概要,及びパッケージを導入した目的を,800字以内で述べよ。
問われていること
- 対象とした業務と情報システムの概要
- パッケージを導入した目的
組み立ての注意
導入した目的は,前文の例(情報システム構築期間の短縮,業務の標準化による業務品質の向上)のように書く。
設問イの「実現したい業務機能」とのギャップを述べる前提になるので,対象とした業務がどういうものかを分かるように書いておく。
設問イ
800字以上1,600字以内
設問アで述べたパッケージの導入において,パッケージの機能と実現したい業務機能にはどのようなギャップがあったか。また,そのギャップに対してどのような解決策を検討したか。検討する上での方針を含めて,800字以上1,600字以内で具体的に述べよ。
問われていること
- パッケージの機能と実現したい業務機能のギャップ
- ギャップに対して検討した解決策
- 検討する上での方針
組み立ての注意
ギャップは,前文のとおり,パッケージの機能が実現したい業務機能に足りない,又は適合しないといった形で書く。
方針も問われている。前文の例は,“原則として,業務のやり方をパッケージに合わせる”“企業の競争力に寄与する業務は従来のやり方を踏襲する”“投資効果を最大化する”という方針から,業務の変更,追加の開発,人手での対応という解決策を導いている。方針と解決策のつながりが分かるように書く。
採点講評は,検討方針がなく解決策だけの論述や,その解決策で業務が円滑に遂行できるかが不明な論述など,業務への踏み込みが不足している論述を挙げている。出題趣旨は,解決策を利用部門に選択してもらう必要があるとしている。
設問ウ
600字以上1,200字以内
設問イで述べたギャップに対する解決策について,どのように評価したか。適切だった点,改善の余地があると考えた点,それぞれについて,理由とともに,600字以上1,200字以内で具体的に述べよ。
問われていること
- ギャップに対する解決策の評価
- 適切だった点とその理由
- 改善の余地があると考えた点とその理由
組み立ての注意
評価の対象は,設問イで述べたギャップに対する解決策。適切だった点と改善の余地があると考えた点の両方を,それぞれ理由を付けて書く。
採点講評は,システムアーキテクトには対象業務の遂行に最適な解決策を選択する能力が求められるとしている。評価も,その解決策で業務が円滑に遂行できたかという業務の側から書くと,講評の指摘に沿う。
採点講評(IPA)
問2(業務ソフトウェアパッケージの導入について)では,業務ソフトウェアパッケージ(以下,パッケージという)の導入において発生する業務とパッケージ機能のギャップの解決策について,ギャップの内容,検討方針,解決策についての具体的な論述を期待した。多くの受験者は,ギャップの解決策を具体的に論述しており,実際の経験に基づいて論述していることがうかがわれた。一方で,検討方針がなく解決策だけの論述,その解決策で業務が円滑に遂行できるかが不明な論述など,業務への踏み込みが不足しているものも見受けられた。システムアーキテクトには,対象業務の遂行に最適な解決策を選択する能力が求められる。システムの知識だけでなく業務を理解することを心掛けてほしい。
全問共通
全問に共通して,自らの体験に基づき設問に素直に答えている論述が多く,問題文に記載してあるプロセスや観点などを抜き出し,一般論と組み合わせただけの表面的な論述は少なかった。また,実施事項だけにとどまり,実施した理由や検討の経緯が読み取れない論述も少なかった。
出典:平成30年度 秋期 システムアーキテクト試験 午後Ⅱ 問2(表記を一部改変)
問3 組込みシステムのAI利用,IoT化などに伴うデータ量増加への対応について
ディジタル化の進展に伴い,組込みシステムの処理するデータ量は増加の傾向にある。サーバ容量・通信容量の拡大を背景に,IoT化のためにセンサ数を増やす,より高度なセンサを利用することなどから,機器の処理するデータ量が増加している。また,音声・画像といったデータ量の大きな情報を処理する機器も増えている。
処理するデータ量が増加する一方,組込みシステムゆえの制約もある。CPU性能及びメモリ容量の制約に加え,例えば,バッテリ駆動の機器では,稼働時間を確保するために消費電力を抑える必要があり,モバイル機器では,重量・形状,及び振動といった条件から,利用できる周辺機器も制約されることがある。
これら組込みシステムの制約に対しては,システム構成要素の性能向上,構成要素間の機能分担の変更,外部機器との機能分担・処理負荷分担の変更など,例えば,次のような工夫によって解決を図ることができる。
- データ処理をハードウェア化し,CPUへの負担を増やさずに処理能力を上げる。
- 常時監視機器などで,機器内部へのデータ蓄積と通信頻度のバランスをとる。
- 運用コストと機器コストのバランスを考慮し,通信を用いてデータを未加工のまま送ることによって処理負荷を下げ,機器コストを下げる。
- AIなど高度な処理はサーバ側で行い,データ収集・結果出力は端末機器が行う。
組込みシステムのシステムアーキテクトは,様々な制約の下で,データ量の増加に対応して,要求される機能・性能を実現する組込みシステムを構築しなければならない。
あなたの経験と考えに基づいて,設問ア〜ウに従って論述せよ。
出題趣旨(IPA)
AI,IoTの進展もあり,組込みシステムが処理するデータ量は年々増加している。一方で,組込みシステムはシステムそれぞれ特有の制約条件をもち,データ量の増加に対応するためには工夫が必要である。組込みシステムのアーキテクトは,その制約条件を把握し,データ量増加に対応したシステムを構築する必要がある。
本問は,解答者が開発に携わった組込みシステムにおいて,データ量の増加で発生した問題をアーキテクトとしてどのように解決して目的を達成したか,具体的に論述することを求めている。論述を通じて,システムアーキテクトに必要な要件分析力と分析に基づくシステム構築力を評価する。
設問と問われていること
設問ア
800字以内
あなたが開発に携わった組込みシステムの概要と,どのような機能・性能の要求で処理するデータ量を増加させる必要が生じたかを800字以内で述べよ。
問われていること
- 開発に携わった組込みシステムの概要
- データ量を増加させる必要が生じた機能・性能の要求
組み立ての注意
データ量が増えた理由は,前文の例(IoT化のためにセンサ数を増やす,より高度なセンサを利用する,音声・画像を処理する)のように,どの機能・性能の要求からかとして書く。
設問イで制約の下での問題と解決策を述べるので,その組込みシステムがどのような制約(CPU性能,メモリ容量,消費電力,重量・形状など)を抱えているかが分かるように概要を書いておくと,後の論述がつながる。
設問イ
800字以上1,600字以内
設問アで述べた組込みシステムにおいて,データ量の増加で発生した問題,及び目的達成のためにシステムアーキテクトとして考案した解決策とそれを選択した理由について,800字以上1,600字以内で具体的に述べよ。
問われていること
- データ量の増加で発生した問題
- 目的達成のために考案した解決策
- その解決策を選択した理由
組み立ての注意
解決策は,前文の例(データ処理のハードウェア化,データ蓄積と通信頻度のバランス,未加工のまま送って機器コストを下げる,高度な処理をサーバ側で行う)のように,システム構成要素の性能向上や,構成要素間・外部機器との機能分担・処理負荷分担の変更として書く。
「選択した理由」も問われているので,考えた解決策の中からなぜそれを選んだのかを書く。
採点講評は,部分的な処理の対策内容の説明にとどまり,システム全体を俯瞰して解決策を検討する視点が乏しい論述を挙げている。
設問ウ
600字以上1,200字以内
設問イで述べた解決策の達成度,開発段階で生じた未達事項などの問題,及び今後の課題について,600字以上1,200字以内で具体的に述べよ。
問われていること
- 解決策の達成度
- 開発段階で生じた未達事項などの問題
- 今後の課題
組み立ての注意
達成度は,設問アで述べた機能・性能の要求に照らして書く。
問われているのは3つ(達成度,開発段階で生じた未達事項などの問題,今後の課題)。未達事項などの問題と今後の課題は分けて書く。
採点講評は,検討対象のシステムに関連した技術的視野を広くもつことを求めている。
採点講評(IPA)
問3(組込みシステムのAI利用,IoT化などに伴うデータ量増加への対応について)では,組込みシステムにはそれぞれの制約がある中で,データ量の増加を伴う要求に対して,システムアーキテクトとしてどのように対応したか,システム設計の実践的能力がうかがえる論述を期待した。多くの論述は発生した問題への解決策とその選択理由をシステム設計の観点から具体的に論述していた。一方で,部分的な処理の対策内容の説明にとどまるなど,システム全体を俯瞰して解決策を検討する視点が乏しい論述も見受けられた。組込みシステムのシステムアーキテクトには,システム特有の制約を含めた特徴を把握し,仕様を達成する組込みシステムのアーキテクチャを構築する能力が求められる。IoTの進展とAI活用の普及に際して,検討対象のシステムに関連した技術的視野を広くもち,適切なシステム設計を行うよう,心掛けてほしい。
全問共通
全問に共通して,自らの体験に基づき設問に素直に答えている論述が多く,問題文に記載してあるプロセスや観点などを抜き出し,一般論と組み合わせただけの表面的な論述は少なかった。また,実施事項だけにとどまり,実施した理由や検討の経緯が読み取れない論述も少なかった。
出典:平成30年度 秋期 システムアーキテクト試験 午後Ⅱ 問3(表記を一部改変)