令和7年度 春期に実施されたITストラテジスト試験
午後Ⅱの全2問(論述式)です。問題文・設問と,問われていることの整理をそのまま読めます。
問1 基幹システムの刷新方針の策定について
これまで,販売や生産などの基幹業務を担っている基幹システムは,導入時点の業務に適合した業務システムとIT基盤を長期にわたって維持,改修してきた結果,システム構造が複雑化していたり,最新技術が適用できない旧式のITであったりすることが多かった。
このような状況では,担当するIT要員のスキルが継承できなかったり,必要なIT要員が確保できなかったりするリスクが存在することがある。また,企業が進める業務の変革に迅速に対応できなかったり,IT運用・保守費用がかさみ新たなサービスへのIT投資が捻出できなかったりなど,競合他社に劣後することもある。
ITストラテジストは,これらの経営上の課題を解決するために,基幹システムの刷新方針を策定することがある。その際には,まず,次のような事項を検討し,基幹システムを刷新することの必要性や経営上の有効性を明らかにすることが重要である。
- 現行システムの改修ではなく,新しいシステム構造やITへ刷新する必要性は何か。
- 新しいシステム構造やITへ刷新することによる,経営上の有効性は何か。
そして,刷新によって実現される業務プロセス,業務や組織の必要な見直し方法,優先度を考慮した段階的な移行,刷新の効果と費用などを検討し,基幹システムの刷新方針を策定する。
さらに,策定した基幹システムの刷新方針について,事業部門との交渉や調整を行い,事業部門からの協力や支持を得た上で,経営層に説明し,承認を求める。
あなたの経験と考えに基づいて,設問ア〜ウに従って論述せよ。
出題趣旨(IPA)
販売や生産などの基幹業務を担う基幹システムは,導入時点の業務に適合した業務システムとIT基盤を長期にわたって維持,改修してきた結果,システム構造が複雑化していたり,最新技術が適用できない旧式のITであったりすることが多かった。
本問は,ITストラテジストが,経営上の課題を解決するために策定した基幹システムの刷新方針について,刷新することの必要性や経営上の有効性,事業部門との交渉や調整を行ったことなどを,具体的に論述することを求めている。論述を通じて,ITストラテジストに必要な,基幹システムの刷新方針を策定する能力,事業部門との交渉や調整を行い,経営層から承認を得る能力などを評価する。
設問と問われていること
設問ア
400字以上800字以内
あなたが携わった基幹システムの刷新方針の策定の背景にある,事業概要と事業特性,基幹システムの概要と課題を,400字以上800字以内で述べよ。
問われていること
組み立ての注意
いずれも「刷新方針の策定の背景にある」ものとして問われている。課題は,前文の例(IT要員のスキルが継承できない,業務の変革に迅速に対応できない,IT運用・保守費用がかさみ新たなIT投資が捻出できない)のように,システムの状態から生じる経営上の課題として書くと,設問イの刷新の必要性や経営上の有効性につながる。
採点講評は全問に共通して,“論述の対象とする構想,計画策定,システム開発などの概要”との整合性がとれない論述を挙げている。ここで述べる事業や基幹システムの規模は,概要の記入と矛盾しないようにする。
設問イ
800字以上1,600字以内
設問アで述べた基幹システムについて,あなたはどのような刷新方針を策定したか,刷新することの必要性や経営上の有効性を明らかにして,あなたが特に重要と考えて工夫したことととともに,800字以上1,600字以内で具体的に述べよ。
問われていること
- 策定した刷新方針
- 刷新することの必要性と経営上の有効性
- 特に重要と考えて工夫したこと
組み立ての注意
必要性は,前文のとおり「現行システムの改修ではなく,新しいシステム構造やITへ刷新する」必要性として書く。有効性は,設問アの経営上の課題がどう解決されるかとして書く。
採点講評は,経営上の課題ではなく基幹システムの技術的な課題の解決だけを目指した論述(古いIT基盤をクラウド基盤に更改するなど)と,段階的な刷新や業務改革だけにとどまり,新しいシステム構造やITへの具体的な言及が不足している論述を挙げている。
刷新方針の中身は,前文の例(刷新によって実現される業務プロセス,業務や組織の必要な見直し方法,優先度を考慮した段階的な移行,刷新の効果と費用)が手がかりになる。
設問ウ
600字以上1,200字以内
設問イで述べた基幹システムの刷新方針について,あなたは事業部門とどのような交渉や調整を行い,経営層にどのような説明をしたか,経営層の評価を受けて改善したことととともに,600字以上1,200字以内で具体的に述べよ。
問われていること
- 事業部門との交渉や調整
- 経営層への説明
- 経営層の評価を受けて改善したこと
組み立ての注意
前文の順序は,事業部門との交渉や調整で協力や支持を得た上で,経営層に説明し承認を求める,というもの。この順につなげて書く。
改善したことは,経営層の評価のどの点を受けて,刷新方針の何を直したかが分かるように書く。
採点講評(IPA)
問1では,経営上の課題を解決するために基幹システムの刷新方針を策定した経験のある受験者には,論述しやすかったと思われる。一方で,基幹システムの技術的な課題の解決だけを目指して,古いIT基盤をクラウド基盤に更改するなどの論述が見受けられた。また,刷新方針として,段階的な刷新や業務改革だけの論述にとどまり,新しいシステム構造やITへの具体的な言及が不足している論述も見受けられた。ITストラテジストは,経営上の課題を解決するために,基幹システムを,新しいシステム構造やITへ刷新することの必要性や経営上の有効性を明らかした上で,基幹システムの刷新方針を策定できる能力を養ってほしい。
全問共通
全問に共通して,“論述の対象とする構想,計画策定,システム開発などの概要”が適切に記述されていないものやシステム規模,総額などの整合性がとれないものが散見された。評価の対象となるので,矛盾が生じないように適切な記述を心掛けてほしい。
午後Ⅱ試験では,ITストラテジスト自身の経験と考えに基づいて,設問の趣旨を踏まえて論述することが重要である。問題文及び設問の趣旨から外れた論述,自身の経験について具体性に乏しい論述は,評価が低くなってしまうので,注意してほしい。
出典:令和7年度 春期 ITストラテジスト試験 午後Ⅱ 問1(表記を一部改変)
問2 DXの企画策定について
昨今,企業は,経営課題の解決において,製品・サービス,業務プロセス,組織,企業文化・風土などの変革が必要である場合,変革の実現に当たり,デジタルトランスフォーメーション(DX)を推進することがある。例えば,熟練者不足の解消が経営課題で,その解決においてDXを推進する場合,既存データを活用した業務の最適化,業務の標準化・自動化,潜在化している熟練者のノウハウのナレッジ化などの変革を進めることで,経験の浅い人でも熟練者に近い業務が遂行できたり,ナレッジを組み合わせた新製品・新サービスの開発が実現できたりする。また,熟練者にナレッジを更に高度化する指導者の役割を担わせたり,未経験人材の採用が可能になったりして,企業文化や働く人の意識を変えていくこともできる。
このようなDXの推進に当たり,ITストラテジストは,例えば次のようなことを明確にし,DXの企画を策定することが重要である。
- デジタル技術とデータ活用が変革の実現にどのように貢献できるか。
- 事業部門や管理部門などとどのように役割を分担し,DXを推進するか。
- デジタル技術の導入とデータ活用に関わる投資金額は幾らか。
また,DXの推進に当たり,変革を阻害する様々な要因が想定される。例えば,改修や新技術の導入が困難なレガシーシステム,外部組織との複雑な連携プロセス,変革を積極的に受け入れない組織や人などが挙げられる。ITストラテジストは,このような変革を阻害する要因を想定して経営層や事業部門と協議し,経営層や事業部門の意思を取り入れた対応策をDXの企画に反映させることが重要である。
あなたの経験と考えに基づいて,設問ア〜ウに従って論述せよ。
出題趣旨(IPA)
ITストラテジストは,経営課題の解決に向けて変革が必要な場合,変革の実現に当たり,DXを推進することがある。
本問は,ITストラテジストが,どのようなDXの企画を策定したか。DXによる変革を阻害する要因について,経営層や事業部門の意思を取り入れ,どのような対応策をDXの企画に反映させたか,具体的に論述することを求めている。論述を通じて,ITストラテジストに必要な,DXの企画力,経営層や事業部門とのコミュニケーション力などを評価する。
設問と問われていること
設問ア
400字以上800字以内
あなたが携わったDXの企画策定において,解決すべき経営課題,必要となった変革は何か,事業背景,事業特性とともに400字以上800字以内で述べよ。
問われていること
- 解決すべき経営課題
- 必要となった変革
- 事業背景と事業特性
組み立ての注意
前文の例では,熟練者不足の解消という経営課題に対して,業務の最適化,業務の標準化・自動化,熟練者のノウハウのナレッジ化などを変革として挙げている。経営課題と変革を分けて書き,その変革が経営課題の解決にどうつながるのかが分かるようにする。
採点講評は,経営課題は明確でも,デジタル技術の導入やデータ活用に終始して変革が曖昧な論述を挙げている。変革は,製品・サービス,業務プロセス,組織,企業文化・風土などの何をどう変えるのかとして書く。
設問イ
800字以上1,600字以内
設問アで述べた変革の実現に当たり,あなたはどのようなDXの企画を策定したか。あなたが特に重要と考え,工夫したことを明確にして,800字以上1,600字以内で具体的に述べよ。
問われていること
組み立ての注意
企画の中身は,前文の例(デジタル技術とデータ活用が変革の実現にどう貢献できるか,事業部門や管理部門などとの役割分担,デジタル技術の導入とデータ活用に関わる投資金額)が手がかりになる。
採点講評は,AIは万能という論調で,AIの中身に具体性のない論述を挙げている。使うデジタル技術は,変革の何にどう貢献するのかまで書く。
企画は設問アの変革の実現のためのものとして書く。出題趣旨も,DXに期待される変革の実現に着目した企画策定を求めている。
設問ウ
600字以上1,200字以内
設問イで述べたDXの企画策定において,あなたは変革を阻害する要因としてどのようなことを想定し,どのような対応策をDXの企画に反映させたか。対応策に取り入れた経営層や事業部門の意思を明確にして,600字以上1,200字以内で具体的に述べよ。
問われていること
- 想定した変革を阻害する要因
- DXの企画に反映させた対応策
- 対応策に取り入れた経営層や事業部門の意思
組み立ての注意
阻害する要因は,前文の例(改修や新技術の導入が困難なレガシーシステム,外部組織との複雑な連携プロセス,変革を積極的に受け入れない組織や人)のように,設問アの変革を妨げるものとして書く。
採点講評は,対応策についてITストラテジストの考えだけを書き,経営層や事業部門との協議内容がない論述を挙げている。誰とどう協議し,その意思を対応策のどこに取り入れたかを書く。
採点講評(IPA)
問2では,経営課題の解決において変革が必要となり,変革の実現に当たりDXを推進した経験のある受験者には論述しやすかったと思われる。一方で,経営課題は明確に論述されているものの,デジタル技術の導入,データ活用について終始し,変革については曖昧な論述が見受けられた。また,AIは万能という論調で論述して,AIの中身に具体性のない論述などが散見された。変革を阻害する要因への対応策については,ITストラテジストの考えだけを論述し,経営層や事業部門との協議内容が論述されていないものが見受けられた。ITストラテジストは,DXの企画策定に当たって,DXに期待される変革の実現に着目し企画策定した上で,経営層や事業部門と協議する能力を養ってほしい。
全問共通
全問に共通して,“論述の対象とする構想,計画策定,システム開発などの概要”が適切に記述されていないものやシステム規模,総額などの整合性がとれないものが散見された。評価の対象となるので,矛盾が生じないように適切な記述を心掛けてほしい。
午後Ⅱ試験では,ITストラテジスト自身の経験と考えに基づいて,設問の趣旨を踏まえて論述することが重要である。問題文及び設問の趣旨から外れた論述,自身の経験について具体性に乏しい論述は,評価が低くなってしまうので,注意してほしい。
出典:令和7年度 春期 ITストラテジスト試験 午後Ⅱ 問2(表記を一部改変)