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令和7年度 春期 午後Ⅰ

令和7年度 春期に実施されたシステムアーキテクト試験 午後Ⅰの全3問(記述式)です。事例本文・設問・解答例と解説をそのまま読めます。

この試験について:システムアーキテクト試験について

この年度を解いてみる

問1 消耗品の集中購買化とそれに伴う業務システムの新規構築

消耗品の集中購買化とそれに伴う業務システムの新規構築に関する次の記述を読んで,設問に答えよ。

A 市は,近隣市町村との市町村合併を経て広い面積を有する自治体である。職員の多くは本庁舎に勤務しているが,面積の広い自治体であることから,合併前の庁舎を支所として現在も残しているほか,市税事務所,まちづくりセンターなどの数十の施設が地域内に点在している。また,同じ部門でも職員によってふだん勤務する施設が異なる場合がある。

〔消耗品の購買業務の現状と課題〕

物品や委託業務の調達及び契約手続は,A 市の条例,規則及び要綱(以下,A 市規定類という)で決まっており,調達額が少額である文房具,コピー用紙,乾電池などの消耗品については,各部門が必要なタイミングで直接調達できる。ただし,少額であっても A 市規定類に基づき,次に示す手続を行う必要があるので,調達の頻度が高い部門では事務負担が大きくなっている。

事業者への支払関連の事務は会計課で行う必要があり,各部門からの支払伝票が多く回ってくるので,確認と支払手続が相当な事務負担になっている。

〔消耗品の集中購買化の検討〕

A 市では,業務改革の取組の一環として,各部門で実施している消耗品の購買に係る業務について,各部門で直接調達せず,A 市全体で集中化を目指すことにした。消耗品の集中購買化の目的として,各部門及び会計課の事務負担の軽減に加えて,一括調達による価格の低減と,使用量の適正化も目指す。

消耗品の購買に係る業務の運用を次のように見直すことにした。ただし,調達,契約及び支払手続に関する A 市規定類の改正は行わず,当面は従来どおりのルールに基づくことにした。

〔機能要件の整理〕

消耗品の集中購買化を進めるに当たり,各部門が納入指示を行い,それを事業者に通知し,A 市と事業者が出荷,納入,検収などのステータス及び実績を確認できる業務システム(以下,管理システムという)の新規構築を検討することにした。管理システムは,A 市が契約するクラウドサービス上で運用し,A 市と A 市の契約先事業者がインターネット経由で共同利用する形態とする。

総務課,会計課及びデジタル推進課のメンバーによるプロジェクトチームを立ち上げ,民間企業向けの購買関連の SaaS,ソフトウェアパッケージなど(以下,購買 PKG という)を調査した。調査した結果,購買 PKG が一般的に有する主要機能を表1のとおり整理し,それらを参考に,A 市として管理システムに求める個別要件を具体的に検討することにした。

機能分類・機能名・機能概要の表。注文部門向け:商品カタログ機能は,商品の仕様,注文単位,販売単価などの情報を商品カタログとして,検索・参照ができる。商品カタログ注文機能は,商品カタログから商品を選択し,数量を指定し,商品を注文できる。相見積取得及びスポット注文機能は,商品カタログに登録されていない商品について,複数のサプライヤーに対して一括で相見積依頼を実施し,サプライヤーからの見積回答を確認し,指定するサプライヤーに対して注文できる。検収結果登録機能は,商品の納入を確認し,検収結果を登録できる。ワークフロー機能は,注文の際に,部門長の承認・差戻しができる。購買部門向け:購買ステータス管理機能は,部門別及び商品別の注文商品の出荷待ち,出荷済,納入済,検収済のステータスを確認できる。予算管理機能は,部門ごとの予算を設定できる。実績に基づき予算の消化状況を管理し,予算を超過する場合は,アラートを表示して注文を制限できる。データ集計機能は,商品,サプライヤー,年月,部門及びステータス別の合計数量,合計金額を集計できる。外部システム連携機能は,会計システム向けに支払に関するデータを出力できる。サプライヤー情報登録機能は,サプライヤーの社名,担当者名,担当者連絡先を登録できる。サプライヤー向け:注文請処理機能は,納入予定日を含めた注文請処理ができる。出荷登録機能は,注文商品の出荷状況を登録できる。注文ステータス管理機能は,自社宛ての注文商品の出荷待ち,出荷済,納入済,検収済のステータスを確認できる。帳票出力機能は,注文請書,納品書を PDF で発行できる。商品カタログ登録機能は,商品ごとに仕様,注文単位,販売単価などを設定できる。商品単価変更機能は,商品の販売単価の変更ができる。在庫管理機能は,商品ごとに注文可能な在庫数を登録し,実績に基づき,在庫数を自動更新する。在庫がなくなったら商品カタログ注文機能からの注文を制限できる。
表1 購買 PKG の主要機能

購買 PKG の主要機能のうち,注文部門向け機能は各部門の担当者に,購買部門向け機能は総務課の担当者に,サプライヤー向け機能は事業者に利用させることにした。ただし,サプライヤー向けの機能に位置付けられている商品カタログ登録機能と在庫管理機能については,事業者ではなく総務課で利用することができることを,購買 PKG を選定する際の条件にした。また,A 市の消耗品の購買業務で利用すると業務上支障を来す機能もあるので,特定の機能を利用できないように制限できることも選定条件にした。

〔管理システムに求める個別要件〕

プロジェクトチームの中で購買 PKG の利用を検討したところ,A 市の集中購買化後の運用を想定した場合に,主要機能に加えて次に示す機能が必要という意見が挙がった。

上記の意見に対して,標準機能又は簡易な設定で満たすことができる購買 PKG を選定し,できる限りカスタマイズをしないで対応する方針とした。

出題趣旨(IPA)

近年,デジタルトランスフォーメーションの取組などにおいて,システムアーキテクトが業務改革とシステムの導入に同時に取り組む機会が多くなっている。新しい業務モデルへの移行に当たっては,法令や社内の規則,諸事情による制約も多く,システムアーキテクトは,システムの導入に際して様々な制約を踏まえた設計を工夫しながら行う必要がある。本問では,消耗品の集中購買化とそれに伴う業務システムの導入を題材として,ソフトウェアパッケージとのフィット&ギャップの分析や運用上の制約などを考慮して必要な機能要件を整理する能力を問う。

採点講評(問全体・IPA)

問1では,消耗品の集中購買化とそれに伴う業務システムの導入を題材に,フィット&ギャップの分析と機能要件の整理について出題した。全体として正答率は平均的であった。

設問と解答例

設問1 解答欄2つ

〔消耗品の集中購買化の検討〕について,総務課が事業者から受領した請求書の請求内容を確認する際に,表1のどの機能を利用し,請求金額が何と一致することを確認するのか。表1中の機能名を一つ挙げ,請求金額との一致を確認する金額を 25 字以内で答えよ。

〔機能名〕解答例

  • データ集計機能

〔金額〕解答例

  • 当該事業者の前月の検収済商品の合計金額
解説

本文の根拠

〔消耗品の集中購買化の検討〕

事業者は毎月初めに,前月の検収実績に基づき A 市総務課宛てに請求書を発行する。

表1 データ集計機能

データ集計機能は,商品,サプライヤー,年月,部門及びステータス別の合計数量,合計金額を集計できる。

〔機能要件の整理〕

購買部門向け機能は総務課の担当者に

請求書は,事業者が毎月初めに「前月の検収実績に基づき」総務課宛てに出す。総務課はこれと同じ条件で自分の側の実績を集計し,金額が合うかを確かめればよい。表1で合計金額を集計できるのは購買部門向けのデータ集計機能で,購買部門向け機能は総務課が使う。

集計の条件は請求書の出し方から決まる。どの事業者の請求書か(サプライヤー別),いつの分か(年月別で前月),何を対象にしたか(ステータス別で検収済)。データ集計機能はこの三つの軸をどれも持っている。部門別は条件にならない。請求書は総務課宛てにまとめて届くので,部門をまたいだ合計と照らし合わせる。

25字で三つの条件を落とさずに書く。解答例は「当該事業者の前月の検収済商品の合計金額」で19字。講評のとおり条件が一つ欠ける答えが多かった。「前月の合計金額」だけでは,他の事業者の分や出荷済・納入済のまま検収されていない分まで入ってしまう。

採点講評(IPA)

設問1は,機能名の正答率は高かったものの,金額の正答率は平均的であった。請求書の請求金額との一致を確認するために,どのような条件で金額を集計して確認するかを問う問題であったが,条件の一部が記載されていない解答が多かった。本文中の記述からデータ集計機能を利用した金額の集計方法をイメージして,正答を導き出してほしい。

設問2 解答欄4つ

〔機能要件の整理〕について,A 市の消耗品の購買業務で利用すると業務上支障を来すと判断した機能を表1中の機能名から二つ答えよ。また,業務上支障を来すと判断した理由をそれぞれ 25 字以内で答えよ。

〔①機能名〕解答例

  • 相見積取得及びスポット注文機能

〔①理由〕解答例

  • 調達は,A市規定類に基づく必要があるから

〔②機能名〕解答例

  • 商品単価変更機能

〔②理由〕解答例

  • 単価は契約時に定められているから

〔備考〕①と②は順不同

解説

本文の根拠

〔消耗品の集中購買化の検討〕

ただし,調達,契約及び支払手続に関する A 市規定類の改正は行わず,当面は従来どおりのルールに基づくことにした。

〔消耗品の購買業務の現状と課題〕

調達額が少額の場合,A 市の見積合わせの手続にのっとり,複数の事業者から見積りを取得し,最も安価な見積額を提出した事業者を契約先候補として選定する。

表1 相見積取得及びスポット注文機能

相見積取得及びスポット注文機能は,商品カタログに登録されていない商品について,複数のサプライヤーに対して一括で相見積依頼を実施し,サプライヤーからの見積回答を確認し,指定するサプライヤーに対して注文できる。

〔消耗品の集中購買化の検討〕

前年度中に総務課がまとめて支出伺の決裁及び入札を行い,物品ごとの仕様,単価,契約先事業者などを確定する。

表1 商品単価変更機能

商品単価変更機能は,商品の販売単価の変更ができる。

〔機能要件の整理〕

サプライヤー向け機能は事業者に利用させることにした。

表1は民間企業向けの購買PKGの機能なので,A市の決まりと合わない機能がある。A市は規定類を改正せず「従来どおりのルール」で運用すると決めている。このルールとぶつかる機能を探す。

一つ目は相見積取得及びスポット注文機能。カタログにない商品を,相見積を取ってその場で注文できてしまう。A市では少額でも支出伺の起案・決裁,見積合わせ又は入札,契約の起案・決裁と規定類どおりの手続が要る。各部門がPKGの中で見積りを取って注文すると,この手続を飛ばすことになる。二つ目は商品単価変更機能。単価は前年度中の入札で確定し,契約書に定めた値である。サプライヤー向け機能は事業者に使わせるので,そのままでは事業者が契約後に単価を書き換えられてしまう。

理由は25字で「何がどう決まっているか」を書く。解答例は「調達は,A市規定類に基づく必要があるから」(20字)と「単価は契約時に定められているから」(16字)。講評では,機能名は合っていても理由が本文とかみ合っていない答えが多かった。「不正につながるから」のような一般論ではなく,本文のルール(規定類,契約で定めた単価)に結び付ける。

採点講評(IPA)

設問2は,機能名の正答率は平均的であったものの,理由については正答率がやや低かった。業務上支障を来すと判断した機能を問う問題であったが,機能名は正答であるものの,当該機能を利用することが業務上なぜ問題となるのかを,本文中の記載から正しく理解できていない解答が散見された。

設問3(1) 10字以内

納入指示の際に指定ができるようにしたい内容を 10 字以内で答えよ。

解答例

  • 納入する施設
解説

本文の根拠

冒頭

また,同じ部門でも職員によってふだん勤務する施設が異なる場合がある。

〔消耗品の集中購買化の検討〕

検討した結果,事業者が直接各部門の施設に納入する方式で進めることにした。

〔消耗品の集中購買化の検討〕

“納入指示から 5 営業日以内”といった契約に定められた納入期間内に指定された施設に納入する。

個別要件の1つ目は「払出し方法に基づき」納入指示の際にある指定をしたい,というもの。払出し方法は,総務課に一括納入せず,事業者が各部門の施設に直接納入する方式に決まった。

そうなると事業者はどこへ届ければよいかを知る必要がある。本文は「指定された施設に納入する」と書いている。さらに冒頭で,同じ部門でも職員によって勤務する施設が違うことがあると断っている。部門が決まっても届け先は一つに決まらないので,注文のたびに施設を指定しなければならない。

10字なので「納入する施設」(6字)のように名詞で答える。「納入場所」でも意味は通るが,本文の語は「施設」である。

設問3(2) 40字以内

商品カタログ注文機能について,各部門が年度末間際の一定期間利用できないようにしたい理由を 40 字以内で答えよ。

解答例

  • A市規定類に基づき,納入が年度内の契約期間内に完了される必要があるから
解説

本文の根拠

〔消耗品の集中購買化の検討〕

契約期間は,4 月から翌年 3 月末までの単年度とする。

〔消耗品の集中購買化の検討〕

なお,納入指示は契約期間中複数回実施されるが,納入は A 市規定類に基づき契約期間内に完了させる必要がある。

〔消耗品の集中購買化の検討〕

“納入指示から 5 営業日以内”といった契約に定められた納入期間内に指定された施設に納入する。

年度末間際に注文を止めたいのは,納入が年度内に終わらなくなるからである。契約期間は3月末までで,規定類により納入は契約期間内に完了させる必要がある。

一方,事業者は納入指示から「5営業日以内」のように契約で決めた期間で納入する。3月末の直前に納入指示を出すと,事業者は契約どおりの期間内に納めても3月末を越えてしまうことがある。これを防ぐため,年度末間際の一定期間は各部門から注文できないようにする。

40字には「規定類」「契約期間内(年度内)に納入を完了する必要」の二つを入れる。解答例は「A市規定類に基づき,納入が年度内の契約期間内に完了される必要があるから」で35字。講評によると,発注予定数量の調整や検収を理由にした答えが多かった。検収は納入後1週間以内という別の決まりで,年度末に止める理由にはならない。

採点講評(IPA)

設問3(2)は,正答率が低かった。A市規定類の改正を行わないことによる運用上の制約を問う問題であったが,発注予定数量の調整や検収に関することを理由としている解答が散見された。本文中に記載されているA市規定類に基づく運用上の制約を正しく理解した上で,正答を導き出してほしい。

設問3(3) 解答欄2つ

在庫管理機能を利用する用途は何か。30 字以内で答えよ。また,どのような状況のときに,物品ごとの在庫数の増減ができるようにしたいか。40 字以内で答えよ。

〔用途〕解答例

  • 契約上の発注予定数量の範囲内かどうかを管理する。

〔状況〕解答例

  • 契約上の総額を超えない範囲で,物品ごとの発注予定数量を調整したいとき
解説

本文の根拠

〔消耗品の集中購買化の検討〕

予算の都合から契約期間中の発注数の合計数量は発注予定数量を原則超過しないようにし

表1 在庫管理機能

在庫管理機能は,商品ごとに注文可能な在庫数を登録し,実績に基づき,在庫数を自動更新する。在庫がなくなったら商品カタログ注文機能からの注文を制限できる。

〔機能要件の整理〕

サプライヤー向けの機能に位置付けられている商品カタログ登録機能と在庫管理機能については,事業者ではなく総務課で利用することができることを,購買 PKG を選定する際の条件にした。

〔消耗品の集中購買化の検討〕

複数単価契約の際に,契約期間中に特定の物品の発注数の合計数量が発注予定数量よりも多くなりそうな場合は,契約上の総額を超えない範囲で,物品ごとの発注予定数量の調整ができるようにする。

A市では総務課が一元的に在庫を持たない(事業者が各施設に直接納入する)ので,在庫管理機能を本来の在庫の管理に使う必要はない。一方で,発注数の合計は発注予定数量を原則超えないようにしなければならない。在庫管理機能は「注文可能な在庫数」を登録し,注文の実績で減らし,ゼロになれば注文を止められる。在庫数に発注予定数量を登録すれば,発注予定数量の範囲内かどうかを管理する仕組みとしてそのまま使える。総務課がこの機能を使えることを選定条件にしたのもこのためである。

在庫数を増やしたり減らしたりしたいのは,発注予定数量そのものが変わるときである。本文は,特定の物品が発注予定数量を超えそうなとき,契約上の総額を超えない範囲で物品ごとの発注予定数量を調整できるとしている。赤色ボールペンを増やし黒色ボールペンを減らしたら,在庫数(=残りの注文可能数)も同じように増減させる。

用途は30字,解答例は「契約上の発注予定数量の範囲内かどうかを管理する。」で24字。状況は40字,解答例は「契約上の総額を超えない範囲で,物品ごとの発注予定数量を調整したいとき」で34字。状況には「総額を超えない範囲で」という条件を残す。これが無いと,発注予定数量をいくらでも増やせるように読める。

出典:令和7年度 春期 システムアーキテクト試験 午後Ⅰ 問1(表記を一部改変)

問2 営業活動を支援するシステム

営業活動を支援するシステムに関する次の記述を読んで,設問に答えよ。

医療機関向けに医療機器の販売と導入支援サービスを提供する E 社は,営業活動の拡大に追随するために,営業活動を支援する営業支援システム(以下,新システムという)を新規に構築することにした。

〔現行の業務とシステムの概要〕

E 社では,表計算ソフトと共有のファイルサーバに配置した簡易データベースを組み合わせた簡易的なツール(以下,商談ツールという)で商談に関する情報(以下,商談情報という)を管理している。商談ツール作成以来約 10 年分の商談情報を蓄積しているが,主に利用するのは直近 5 年間の情報である。利用者の情報は人事システムから取得しているが,所属組織と役職は取得せず,全ての利用者に同一の権限を付与している。利用者は全ての商談情報を閲覧可能であり,機密性が高い情報は登録されていない。

商談に必須である顧客情報は顧客管理システムで管理している。商談ツールには,顧客管理システムから顧客情報を取り込む機能(以下,顧客情報取込機能という)があり,顧客情報取込機能を RPA によって毎日 1 回実行し,顧客情報を取り込んでいる。顧客情報取込機能は簡易データベースに大きな負荷を与えるので,他の処理との競合を避けるようにしている。処理時間は約 30 分掛かる。実行する端末やネットワークの状況,簡易データベースの負荷状況などによって,まれに顧客情報の取込みに失敗することがあり,失敗した場合には商談ツールの運用担当者(以下,運用担当者という)が手動で再実行する。再実行しても E 社の業務時間内に完了するように,顧客情報取込機能の実行タイミングを調整している。

商談時に取り交わした名刺情報は外部の名刺管理 SaaS(以下,名刺サービスという)を利用して管理しており,名刺サービスの利用権限を営業担当者に付与している。複数の営業担当者が同一の名刺情報を登録できるが,名刺サービスは名刺交換日を基に名刺情報の新旧を判断している。新しい名刺情報が登録されると,利用権限のある人に電子メール(以下,メールという)で周知し,共有する。名刺サービスは利用者が直接操作する画面のほかに,他システムから呼び出せる API を公開している。

E 社の営業活動の主な流れは次のとおりである。

既存顧客からの声掛け,協業先からの紹介などで新たな取引の可能性のある顧客(以下,見込客という)との商談の機会を得ると,営業担当者は商談ツールを利用し,見込客の会社情報,連絡先,過去の商談概要などを確認する。見込客が新規の場合はホームページなどから会社情報などを入手し,顧客情報を顧客管理システムに新規登録する。見込客が既存顧客で会社情報,連絡先などに更新がある場合には,顧客管理システムの顧客情報を更新する。

営業担当者は見込客と訪問の日程を調整し,見込客を訪問して要望を確認する。見込客への訪問は複数回にわたることもあり,商材に詳しい商品担当者を同席させることもある。訪問内容を営業日報としてまとめ,上司にメールで報告する。

営業担当者は顧客訪問時に入手した名刺をスキャンし,名刺交換日を指定し,名刺サービスに登録する。

顧客訪問を重ねて入手した E 社に期待する商品やサービス内容,顧客の予算,プロジェクト期間などの商談概要を,営業担当者は登録済みの顧客情報にひも付けて商談ツールに登録し,商談状況を“商談登録”にする。

営業担当者は商品担当者とともに提案内容を検討し,見積りを作成する。作成した提案・見積りを基に,見積額,受注確度及びリスクレベルを商談ツールに追加登録し,商談状況を“提案書作成中”にする。営業担当者が所属する課の課長,副部長,部長など組織内で連なる役職者の中から,見積額とリスクレベルに応じて決裁規定に定められた承認者に承認を依頼する。承認はメールで取得する。本来の承認者が不在の場合は,承認者の上司が代行することがある。承認を得られず,提案を見送った場合には,商談状況を“辞退”にする。

社内承認を取得した提案・見積りを営業担当者は見込客に提示し,商談状況を“提案書提出済”にする。受注に至らなかった場合には商談ツールの商談状況を“失注”にする。

内示をもらった場合には,商談状況を“契約交渉中”にする。契約審査部で提案内容と契約書を審査する。審査の結果,問題がなければ契約処理を行い,契約締結後に商談状況を“契約済”にする。審査の結果,問題があった場合には,契約に至らないことがある。その場合,商談状況を“取消”にする。

営業担当者は,他の営業担当者から商談内容の詳細についての問合せがあった際には,問い合わせてきた営業担当者の所属組織と役職によって商談内容の機密性を考慮して,メール及び口頭で共有する。

営業担当者は,商談ツールが提供する商談状況を分析する帳票を利用し,商談を分析して営業活動に役立てている。例えば,商談の見積額によってどのくらいの割合で提案書提出に結び付けられたかを分析するために,終了した商談のうち①ある商談状況に該当する商談の割合を出力する帳票がある。

〔現行の業務とシステムにおける課題及び要望〕

E 社情報システム部の F 課長は,新システムの構築に向け,運用担当者,営業部及び契約審査部の代表からヒアリングを行い,次のような現行の業務とシステムにおける課題及び要望を収集した。

〔新システムの開発方針〕

情報システム部の G 部長は,新システムの効果を早期に確認して改良を続けていけるようにするために,ローコード開発機能を有する営業支援プラットフォームを採用し,毎年改良を重ねていく方針とした。営業支援プラットフォームは主要な SaaS との連携を強化しており,名刺サービスとの連携機能を標準装備する予定である。

また,新システムをフロントシステムとして位置付け,顧客管理システムへの登録を新システム経由に集約する方針とした。将来的には,社内の他システムのフロントシステムとしても活用することを想定している。

G 部長は F 課長に,〔現行の業務とシステムの概要〕と〔現行の業務とシステムにおける課題及び要望〕を踏まえ,1 年目に実現する新システムの要件定義の着手を指示した。

〔新システムの要件〕

要件定義の結果,F 課長は 1 年目に実現する新システムの主な機能を表1のとおりとし,商談ツールを廃止して表2のとおり新システムにデータを移行することを,G 部長に報告した。

機能名と機能概要の表。顧客管理:・顧客管理システムに合わせた顧客情報の確認・新規登録・更新画面(以下,顧客管理画面という)を用意する。新システムに登録されていない顧客の場合,新システムに顧客情報を追加した上で,顧客管理システムに連携する。新システムに登録されている顧客情報を更新する場合,顧客管理システムを直接更新せず,新システムの顧客情報を更新した上で,顧客管理システムに連携する。・名刺サービスの API を利用して,営業担当者が検索した顧客の名刺情報を顧客管理画面に表示する。商談管理:・商談に関わる見込客,商談名,商談詳細,関連商品名,顧客予算,プロジェクト期間,見積額,受注確度,リスクレベル,商談状況,協業先,営業担当者,商品担当者を商談情報として管理する。商談詳細は利用者の所属組織と役職を用いて公開範囲を限定できる。・審査担当者は商談の営業担当者の氏名・所属組織・役職を確認することができる。提案りん議:・新システムが提示する営業担当者の組織内で連なる役職者リストの中から,営業担当者が承認者を指定し,りん議フローを作成する。本来の承認者が不在の場合には,その上司を指定して備考欄に理由を記載する。・審査担当者は,営業部で誰が承認したのかを,新システムが提示するりん議フローの中で,承認者の氏名・所属組織・役職で確認することができる。その際,新システムは商談情報の②ある項目を利用して適切な承認者であるかどうかを判定して,審査担当者の負担を軽減する。(“ある項目”に下線②が付いている)営業日報:・営業担当者は見込客への訪問内容の営業日報を作成し,上司に通知する。商談分析:・顧客の規模,業界などの属性,商談が関連する技術領域などの情報を基に契約金額,成約率などを分析する。・ローコード開発機能によって,専門知識を有していなくても新しい分析帳票を容易に作ることができる。利用者管理:・営業部と契約審査部の従業員を利用者として登録する。・必要な情報を人事システムから定期的に取り込む。・人事異動があった場合は,新システムは関連する進行中のりん議フローを無効とし,営業担当者にりん議フローの再作成を促す。
表1 1 年目に実現する新システムの主な機能
登録情報と移行内容の表。顧客:・直近 5 年間に商談のあった顧客情報を移行する。商談:・直近 5 年間の商談情報を移行する。利用者:・商談ツールからは移行せず,人事システムから必要な項目を取得する。
表2 新システムへのデータ移行内容

〔G 部長のレビュー結果〕

G 部長は要件定義の結果をレビューし,次の指摘をした。

出題趣旨(IPA)

新システムの構築に当たり,システムアーキテクトは,現行業務・システムの課題を調査・ヒアリングし,システムへの要求・要件を整理し,必要な機能を設計する必要がある。本問では,営業活動を支援するシステムの新規構築を題材として,現行業務への課題及び要望を正しく理解,把握し,新システムの開発方針に従い,新システムの機能要件とデータ移行要件を定義することについて,具体的な記述を求めている。要件を正しく理解し,求められている情報システムを設計する能力を問う。

採点講評(問全体・IPA)

問2では,営業活動を支援するシステムの新規構築を題材に,新システムの機能要件とデータ移行要件を定義することと,必要となる機能概要を整理することについて出題した。全体として正答率は平均的であった。

設問と解答例

設問1

〔現行の業務とシステムの概要〕について,本文中の下線①のある商談状況とは何か。全て答えよ。

解答例

  • 失注,契約済,取消
解説

本文の根拠

〔現行の業務とシステムの概要〕(5)

承認を得られず,提案を見送った場合には,商談状況を“辞退”にする。

〔現行の業務とシステムの概要〕(6)

社内承認を取得した提案・見積りを営業担当者は見込客に提示し,商談状況を“提案書提出済”にする。受注に至らなかった場合には商談ツールの商談状況を“失注”にする。

〔現行の業務とシステムの概要〕(6)

審査の結果,問題がなければ契約処理を行い,契約締結後に商談状況を“契約済”にする。

〔現行の業務とシステムの概要〕(6)

その場合,商談状況を“取消”にする。

〔現行の業務とシステムの概要〕(7)

商談の見積額によってどのくらいの割合で提案書提出に結び付けられたかを分析するために,終了した商談のうち①ある商談状況に該当する商談の割合を出力する帳票がある。

商談状況の遷移を本文から並べる。商談登録 → 提案書作成中 → (承認が得られなければ)辞退,(得られれば)提案書提出済 → 失注 又は 契約交渉中 → 契約済 又は 取消。このうち,それ以上先へ進まない「終了した商談」は,辞退・失注・契約済・取消の四つである。

帳票が見たいのは「提案書提出に結び付けられた」割合。終了した四つのうち,提案書提出済を通ってから終わったものを数えればよい。失注は提案書提出済の後,契約済と取消は契約交渉中を経た後なので,どれも提案書を出している。辞退だけは社内承認が取れずに提案を見送ったもので,提案書を出していない。

答えは「失注,契約済,取消」。講評のとおり正答率が低かった。提案書提出済や契約交渉中を入れる誤りは「終了した商談のうち」を見落としている。取消を落とす誤りは,(6)の後半で契約交渉中から取消に進む流れを読み落としている。

採点講評(IPA)

設問1は,正答率が低かった。営業活動の流れを正確に理解できていないと思われる解答が散見された。本文中に記載されている商談状況を丁寧に読み取って正答を導き出してほしい。

設問2 解答欄2つ

〔現行の業務とシステムにおける課題及び要望〕について,どのような時間帯に見込客の顧客情報を顧客管理システムへ新規登録すると,新規顧客との商談概要を当日中に登録できなくなるか。25 字以内で答えよ。また,その理由を 35 字以内で答えよ。

〔時間帯〕解答例

  • 商談ツールに顧客情報を取り込んだ後の時間帯

〔理由〕解答例

  • 顧客管理システムからの顧客情報の取込みは1日に1回だから
解説

本文の根拠

〔現行の業務とシステムの概要〕

顧客情報取込機能を RPA によって毎日 1 回実行し,顧客情報を取り込んでいる。

〔現行の業務とシステムの概要〕(4)

営業担当者は登録済みの顧客情報にひも付けて商談ツールに登録し

〔現行の業務とシステムにおける課題及び要望〕

新規顧客の場合,見込客の顧客情報を顧客管理システムに新規登録した時間帯によっては,当日中に商談概要を商談ツールに登録できないので,利用者から運用担当者への問合せが多くなる。

商談概要は,商談ツールに登録済みの顧客情報にひも付けて登録する。新規顧客の情報は顧客管理システムに登録され,商談ツールに入るのは顧客情報取込機能が動いたときだけである。

取込みはRPAで毎日1回しか動かない。その日の取込みが終わった後に顧客管理システムへ新規登録すると,その顧客が商談ツールに入るのは翌日の取込みになる。それまでは,ひも付け先の顧客情報が無いので商談概要を登録できない。取込みより前に登録した顧客は,同じ日の取込みで商談ツールに入るので問題にならない。

時間帯は25字,解答例は「商談ツールに顧客情報を取り込んだ後の時間帯」で21字。「当日の取込み処理の後」が要点で,「業務時間外」のような時刻の書き方では条件にならない。理由は35字,解答例は「顧客管理システムからの顧客情報の取込みは1日に1回だから」で28字。「取込みに30分掛かるから」は理由にならない。30分待てば済むので,当日中に登録できなくなる説明にはならない。

設問3(1)

表1中の下線②のある項目とは何か。全て答えよ。

解答例

  • 見積額,リスクレベル
解説

本文の根拠

〔現行の業務とシステムの概要〕(5)

営業担当者が所属する課の課長,副部長,部長など組織内で連なる役職者の中から,見積額とリスクレベルに応じて決裁規定に定められた承認者に承認を依頼する。

〔現行の業務とシステムにおける課題及び要望〕

見積額とリスクレベルに応じて定められた役職者であるかどうかを確認するために,審査担当者は営業担当者の組織情報を商談ごとに逐一参照しており,大きな負担となっている。

表1 提案りん議

その際,新システムは商談情報の②ある項目を利用して適切な承認者であるかどうかを判定して,審査担当者の負担を軽減する。

適切な承認者かどうかは,決裁規定が「見積額とリスクレベルに応じて」定めている。新システムが判定するには,商談ごとの見積額とリスクレベルが分かればよい。

表1の商談管理で商談情報として管理する項目には,見積額とリスクレベルのどちらも入っている。承認者の所属組織・役職は利用者管理で人事システムから取り込むので,決裁規定の条件(見積額とリスクレベル)と照らし合わせれば適否を判定できる。

「全て答えよ」なので二つとも書く。商談情報には受注確度もあるが,決裁規定の条件には入っていないので書かない。

設問3(2) 25字以内

利用者の情報を商談ツールから移行せずに人事システムから取得することとした理由を,取得する項目を用いて 25 字以内で答えよ。

解答例

  • 所属組織と役職が人事システムにしかないから
解説

本文の根拠

〔現行の業務とシステムの概要〕

利用者の情報は人事システムから取得しているが,所属組織と役職は取得せず,全ての利用者に同一の権限を付与している。

表1 商談管理

商談詳細は利用者の所属組織と役職を用いて公開範囲を限定できる。

表2 利用者

商談ツールからは移行せず,人事システムから必要な項目を取得する。

新システムでは,商談詳細の公開範囲の限定,りん議フローの承認者の提示と判定に,利用者の所属組織と役職を使う。

ところが商談ツールの利用者情報は,人事システムから取得する際に所属組織と役職を取っていない。商談ツールから移行しても必要な項目がそろわないので,それを持っている人事システムから直接取得する。

25字で「どの項目が」「どのシステムにしかない」を書く。解答例は「所属組織と役職が人事システムにしかないから」で21字。講評のとおり,どのシステムの話かを書かない答えが多かった。「所属組織と役職を持っていないから」では,持っていないのが商談ツールなのか人事システムなのか読み取れない。

採点講評(IPA)

設問3(2)は,正答率は平均的であった。複数のシステム・ツールが登場する問題にもかかわらず,どのシステムのことを述べているのかを明確にしていない解答が散見された。要件を明確にするためにはどのような情報が必要となるかを意識して,正答を導き出してほしい。

設問4(1) 20字以内

本文中の下線③に該当するのはどのような顧客か。20 字以内で答えよ。

解答例

  • 5年以内に商談がなかった顧客
解説

本文の根拠

〔現行の業務とシステムの概要〕

商談ツール作成以来約 10 年分の商談情報を蓄積しているが,主に利用するのは直近 5 年間の情報である。

表2 顧客

直近 5 年間に商談のあった顧客情報を移行する。

表1 顧客管理

新システムに登録されていない顧客の場合,新システムに顧客情報を追加した上で,顧客管理システムに連携する。

顧客管理システムは全顧客の情報を持っている。新システムに移すのは,表2のとおり直近5年間に商談のあった顧客だけである。

そのため,5年より前に商談があったきりの顧客は,顧客管理システムには居るのに新システムには居ない。営業担当者が新システムで見つけられず新規登録すると,連携先の顧客管理システムには同じ顧客が既に存在する。下線③はこの状態を指している。

20字,解答例は「5年以内に商談がなかった顧客」で14字。講評は顧客の範囲を限定できていない答えを挙げている。「新システムに登録されていない顧客」では,本当に初めての新規顧客まで含んでしまう。「移行対象外の顧客」も,何が対象外の条件なのかを書かないと範囲が決まらない。

採点講評(IPA)

設問4(1)は,正答率がやや低かった。顧客の範囲を適切に限定できていない解答が散見された。実業務においては仕様の誤解につながりかねないので,解答に当たっては,必要十分な表現を心掛けてほしい。

設問4(2) 30字以内

G 部長が本文中の下線④のように考えた理由を 30 字以内で答えよ。

解答例

  • 営業担当者が指定する名刺交換日が正しいとは限らないから
解説

本文の根拠

〔現行の業務とシステムの概要〕

複数の営業担当者が同一の名刺情報を登録できるが,名刺サービスは名刺交換日を基に名刺情報の新旧を判断している。

〔現行の業務とシステムの概要〕(3)

営業担当者は顧客訪問時に入手した名刺をスキャンし,名刺交換日を指定し,名刺サービスに登録する。

〔現行の業務とシステムにおける課題及び要望〕

顧客の担当者と名刺を交換した日を正しく思い出せないときがある。

名刺サービスは,どの名刺情報が新しいかを名刺交換日で判断する。その名刺交換日は,営業担当者が登録するときに手で指定している。

ところが営業担当者からは「名刺を交換した日を正しく思い出せない」という声が出ている。交換日を誤って指定すると,古い名刺が新しいものとして扱われ,検索結果の「最新」が本当の最新とは限らなくなる。G部長が「営業担当者の登録内容に依存する」と言ったのはこのためである。

30字,解答例は「営業担当者が指定する名刺交換日が正しいとは限らないから」で27字。「名刺交換日」を必ず書く。新旧の判断に使うのが名刺交換日だという点が,下線④の「依存する」の中身である。

設問4(3) 45字以内

G 部長が指摘した新システムに関わる今後の変化を 45 字以内で答えよ。

解答例

  • 営業支援プラットフォームに名刺サービスとの連携機能が標準装備される予定であること
解説

本文の根拠

〔新システムの開発方針〕

営業支援プラットフォームは主要な SaaS との連携を強化しており,名刺サービスとの連携機能を標準装備する予定である。

表1 顧客管理

名刺サービスの API を利用して,営業担当者が検索した顧客の名刺情報を顧客管理画面に表示する。

〔G 部長のレビュー結果〕

名刺サービスの検索結果を新システムの顧客管理画面に表示する機能については,新システムに関わる今後の変化を踏まえ検討するべきである。

F課長の要件では,名刺サービスのAPIを使って名刺情報を顧客管理画面に出す機能を新システムで作ることになっている。

しかし新システムの土台になる営業支援プラットフォームは,名刺サービスとの連携機能を標準装備する予定である。今APIで作り込むと,標準機能が出たときに作ったものが無駄になるか,二重になる。G部長の「今後の変化を踏まえ検討するべき」は,この予定を指している。

45字,解答例は「営業支援プラットフォームに名刺サービスとの連携機能が標準装備される予定であること」で40字。「何に」「何が」「標準装備される予定」の三つを落とさない。「毎年改良を重ねていく」「他システムのフロントシステムとしても活用」も今後の変化だが,名刺サービスの検索結果を表示する機能とは関係しない。

出典:令和7年度 春期 システムアーキテクト試験 午後Ⅰ 問2(表記を一部改変)

問3 不動産売買仲介システムの再構築

不動産売買仲介システムの再構築に関する次の記述を読んで,設問に答えよ。

K 社は不動産会社である。業務で利用している不動産売買仲介システム(以下,現行システムという)の老朽化に伴い,新システムを構築することにした。

〔K 社の不動産売買仲介の概要〕

K 社は,不動産売買仲介業務として,不動産物件(以下,物件という)の調査,評価,売却希望の顧客(以下,売主という)と購入希望の顧客(以下,買主という)の仲介及び売買契約のサポートをしている。売却と購入の申込みは,電話又は Web サイトで受け付けており,専任の営業担当者が顧客と電話又は電子メール(以下,メールという)で連絡を取り合う。売主は,物件の売買を仲介するように K 社に依頼(以下,媒介依頼という)し,媒介契約を締結する。この媒介契約によって,K 社は売主に代わって買主を探し,売買を成立させるための活動を行う。媒介契約には,一般媒介契約,専任媒介契約,専属専任媒介契約の 3 種類があり,複数社との契約の可否及び売主への営業活動報告の頻度が異なる。K 社では,この報告頻度を契約別報告間隔として管理しており,一般媒介契約は 20 日以内に 1 回,専任媒介契約は 14 日以内に 1 回,専属専任媒介契約は 7 日以内に 1 回としている。

K 社は,他の不動産会社と物件情報を共有できる不動産情報ネットワークに加盟している。物件情報は,自社の Web サイト(以下,自社サイトという)だけでなく,この不動産情報ネットワークのシステム(以下,不動産情報システムという)にも適切なタイミングで連携し,他の不動産会社と共有している。

〔現在の業務とシステムの概要〕

K 社は,現行システムを利用し,売主と買主の顧客情報,媒介契約情報及び物件情報を管理している。また,営業担当者は,電話又はメールでやり取りした内容を折衝履歴情報として登録し,過去のやり取りを確認できるようにしている。現在の主な業務とシステムの概要は,次のとおりである。

売主から媒介依頼を受けると,カスタマーセンターの担当者が氏名,住所,電話番号,メールアドレス,勤務先などの顧客情報を登録する。また,物件の所在地,マンション又は一戸建てなどの物件の種類,売却理由などを媒介依頼の情報として登録する。

K 社では,物件の所在地によって営業担当者が一意に決まっており,新規に媒介依頼があった場合,マネージャが現行システムに登録された媒介依頼の情報を確認し,適切な営業担当者を割り当てる。また,マネージャは,営業担当者ごとの媒介契約数を日々確認し,実績を把握している。営業担当者は,売主に電話又はメールで連絡を取り,詳細な情報を確認して現行システムに登録する。

営業担当者は,まず売主との初回面談を設定し,物件の詳細情報,売却希望価格,売却スケジュール,媒介契約の種類などを確認する。次に,外部の不動産登記情報提供サービスを利用して不動産登記情報を取得し,名義人及び抵当権を確認した上で物件の現地調査を行う。その後,営業担当者は社内の簡易査定システムを利用して簡易な査定を実施し,査定結果を基に売主に売却価格を提案する。売主の承諾を得た後,更に詳細な情報を収集し,外部の査定サービスを利用して正式な査定を実施する。査定結果を現行システムに登録し,査定書を出力して売主にメール及び郵便で送付する。

営業担当者は,現行システムに必要事項を登録し,媒介契約書を作成して売主と媒介契約を締結する。媒介契約締結後,物件の基本情報,販売価格,物件の写真,間取り情報,物件地図などを現行システムに物件情報として登録する。この際,営業担当者は,過去のセールス内容を検索し,魅力的で効果的な紹介文を作成している。物件情報を登録後,売却許可の承認をマネージャに申請する。マネージャは,申請内容を確認し,紹介文に K 社として不適切な記載がないかどうかを目視でチェックしている。マネージャの承認後,物件情報を現行システムから自社サイト及び不動産情報システムに連携する。これによって,自社サイトで公開し,不動産情報システムで他の不動産会社と共有する。現行システムでは,媒介契約の状況を物件ステータスとして管理しており,状況に応じて営業担当者が物件ステータスの値を変更している。営業担当者は,各物件の物件ステータスの値から成約率を計算し,確認している。成約率は,過去も含め担当した媒介契約がどれだけ売買契約の締結に至ったかを示し,営業担当者の長期的な業績や成果を評価するのに用いられる。マネージャは,営業担当者ごとに各物件の物件ステータスの値の推移を日々確認し,必要に応じて営業担当者に指示を出している。営業担当者は,物件への問合せ件数,紹介件数,自社サイトへのアクセス件数,類似物件の販売状況などを現行システムに登録し,営業活動報告書として売主へ定期的に報告する。

買主から物件の購入依頼を受けると,カスタマーセンターの担当者が氏名,住所,電話番号,メールアドレス,勤務先などの顧客情報を登録する。また,物件の希望地域,物件の種類,購入検討理由などを購入依頼の情報として登録する。

K 社のマネージャは,購入依頼の情報を確認し,適切な営業担当者を割り当てる。営業担当者は,買主に電話又はメールで連絡を取り,詳細な希望条件を確認して現行システムに登録する。その後,希望条件に基づいて適した物件を検索し,提案する。

買主が購入を決定した場合,営業担当者は購入申込みの準備をする。購入申込書を作成し,買主に確認と署名を依頼する。購入申込書を受領後,現行システムに申込内容を登録する。その後,売買契約の締結に向けて売主と買主を仲介し,契約日,価格などの条件を調整する。

条件合意後,売主と買主の営業担当者は,必要書類を収集し,現行システムに契約条件などの情報を登録する。その情報を基に,重要事項説明書と売買契約書を作成し,社内の審査部門へ申請する。審査部門の承認後,売買契約手続を調整し,売主と買主が契約書に署名と押印をして契約を締結する。契約締結後,買主から売主へ購入代金を支払い,所有権移転の手続を進める。

省略。

〔新システムへの要望〕

新システムに対して,利用部門から次のような要望が出された。

〔新システムの方針〕

K 社情報システム部の L 課長は,現行システムの機能を踏襲しつつ,新システムへの要望を踏まえ,新システム構築の方針を次のように定め内容を検討した。

新システムで検討している物件ステータスを表1に示す。

物件ステータスの値と説明の表。物件登録中:物件を新規に登録している状態。公開中:物件が一般に公開されており,購入希望者が閲覧可能な状態。商談中:購入希望者と商談が進行中の状態。購入申込済:商談が成立し,売買契約書の準備などの手続が進行中の状態。成約済:売主と買主との間で売買契約が締結された状態。決済済:売買契約が完了し,買主から売主へ購入資金が支払われた状態。売却済:最終的に売主から買主に引き渡され,取引が完了した状態。媒介契約終了:成約に至らず媒介契約の契約期間が満了した状態。キャンセル:媒介契約が解除された状態。
表1 新システムで検討している物件ステータス

出題趣旨(IPA)

情報システムの再構築に当たり,システムアーキテクトは,業務の効率化や利便性を考慮し,新システムへの要望をシステム要件として設計する必要がある。本問では,不動産売買仲介システムの再構築を題材として,現行業務を正しく把握し,新システムへの要望から情報システムに求められている機能を設計することについて,具体的な記述を求めている。要件を正しく理解し,求められている情報システムを設計する能力を問う。

採点講評(問全体・IPA)

問3では,不動産売買仲介システムの再構築を題材に,新システムへの要望に基づいた情報システムに求められている機能の設計について出題した。全体として正答率は平均的であった。

設問と解答例

設問1 40字以内

〔新システムへの要望〕の本文中の下線①について,新システムでどのように営業担当者を割り当てるかを〔新システムの方針〕に基づき 40 字以内で答えよ。

解答例

  • 物件の所在地と地域マスターの担当地域から該当する営業担当者を割り当てる。
解説

本文の根拠

〔現在の業務とシステムの概要〕(1)

K 社では,物件の所在地によって営業担当者が一意に決まっており

〔現在の業務とシステムの概要〕(1)

また,物件の所在地,マンション又は一戸建てなどの物件の種類,売却理由などを媒介依頼の情報として登録する。

〔新システムの方針〕(4)

新規の媒介依頼登録時に自動で営業担当者を割り当てる。

〔新システムの方針〕(6)

地域マスターを管理し,営業担当者の担当地域を登録する。

現在は,物件の所在地で営業担当者が一意に決まり,マネージャがそれを見て割り当てている。一意に決まるのだから,所在地と担当者の対応表があればシステムで割り当てられる。

新システムの方針に,その材料がそろっている。媒介依頼の情報として物件の所在地が登録され,地域マスターには営業担当者の担当地域が登録される。媒介依頼を登録したときに,物件の所在地を地域マスターの担当地域と突き合わせ,該当する営業担当者を割り当てる。

40字,解答例は「物件の所在地と地域マスターの担当地域から該当する営業担当者を割り当てる。」で36字。講評のとおり,現在の業務(マネージャが割り当てる)を書いた答えが多かった。問われているのは新システムの仕組みなので,「地域マスター」を使うことまで書く。

採点講評(IPA)

設問1は,正答率が低かった。現在の業務とシステムの概要を踏まえ,新システムでどのように営業担当者を割り当てるかを問うたにもかかわらず,現在の業務の内容を解答した受験者が多かった。現在の業務を正しく把握した上で,システムでどのように設計するかを考えて,正答を導き出してほしい。

設問2 解答欄2つ

〔新システムの方針〕の AI 技術の導入について,K 社が検証しようとしているのは,物件情報に関して誰が何をすることに関する工数の削減効果か。45 字以内で二つ答えよ。

〔①〕解答例

  • 営業担当者が魅力的で効果的な物件情報の紹介文を検討すること

〔②〕解答例

  • マネージャが物件情報の紹介文にK社として不適切な記載がないかどうかチェックすること

〔備考〕①と②は順不同

解説

本文の根拠

〔現在の業務とシステムの概要〕(2)

この際,営業担当者は,過去のセールス内容を検索し,魅力的で効果的な紹介文を作成している。

〔現在の業務とシステムの概要〕(2)

マネージャは,申請内容を確認し,紹介文に K 社として不適切な記載がないかどうかを目視でチェックしている。

〔新システムへの要望〕

物件情報に関する業務において,営業担当者とマネージャの作業の負担を軽減したい。

〔新システムの方針〕(2)

K 社の業務ルールに沿った AI による文章作成及び校正支援サービスを導入し,物件情報に関する工数の削減効果を検証してから業務への適用を決定する。

導入するのは「文章作成」と「校正支援」のサービスで,物件情報に関する作業の負担を軽くしたい相手は営業担当者とマネージャである。物件情報を扱う作業のうち,文章を書く作業と文章を確かめる作業を本文から探す。

文章作成に当たるのは,営業担当者が過去のセールス内容を検索して魅力的で効果的な紹介文を作る作業。校正に当たるのは,マネージャが紹介文にK社として不適切な記載がないかを目視でチェックする作業である。サービスが「K社の業務ルールに沿った」ものなので,K社として不適切な記載の検出に使える。

設問は「誰が何をすること」と聞いているので,主語(営業担当者/マネージャ)と作業を両方書く。解答例は①「営業担当者が魅力的で効果的な物件情報の紹介文を検討すること」(29字),②「マネージャが物件情報の紹介文にK社として不適切な記載がないかどうかチェックすること」(41字)。

設問3(1) 25字以内

物件ステータスの値が“物件登録中”の媒介契約のうち,誰が何をした後に物件ステータスの値が“公開中”となるか。現在の業務内容を踏まえ 25 字以内で答えよ。

解答例

  • マネージャが売却許可の申請を承認した後
解説

本文の根拠

〔現在の業務とシステムの概要〕(2)

物件情報を登録後,売却許可の承認をマネージャに申請する。

〔現在の業務とシステムの概要〕(2)

マネージャの承認後,物件情報を現行システムから自社サイト及び不動産情報システムに連携する。これによって,自社サイトで公開し

表1 公開中

公開中:物件が一般に公開されており,購入希望者が閲覧可能な状態。

“公開中”は,物件が一般に公開され購入希望者が閲覧できる状態である。現在の業務で物件が公開されるきっかけを探す。

営業担当者が物件情報を登録すると“物件登録中”になり,売却許可の承認をマネージャに申請する。マネージャが承認すると,物件情報が自社サイトと不動産情報システムに連携され,公開される。つまり“公開中”に進むのは,マネージャが売却許可の申請を承認した後である。

25字で「誰が」「何をした後」を書く。解答例は「マネージャが売却許可の申請を承認した後」で19字。「営業担当者が物件情報を登録した後」は“物件登録中”になる時点で,まだ公開されていない。

設問3(2) 10字以内

本文中の下線②のある情報とは何か。10 字以内で答えよ。

解答例

  • 折衝履歴情報
解説

本文の根拠

〔現在の業務とシステムの概要〕

また,営業担当者は,電話又はメールでやり取りした内容を折衝履歴情報として登録し,過去のやり取りを確認できるようにしている。

〔新システムの方針〕(4)

また,メールでのやり取りを自動で②ある情報として登録し,経緯の追跡に役立てる。

現在は,営業担当者が電話やメールのやり取りを「折衝履歴情報」として手で登録し,過去のやり取りを確認できるようにしている。

新システムにはメールの送受信機能が入るので,メールのやり取りをシステムが自動で同じ情報として登録できる。「経緯の追跡に役立てる」も,現在の「過去のやり取りを確認できるようにしている」と同じ目的である。

10字なので本文の語をそのまま使う。答えは「折衝履歴情報」(6字)。(5)のダッシュボードに出てくる「折衝履歴件数」も,この情報を数えたものである。

設問3(3) 45字以内

本文中の下線③に示す,報告期限までの残日数を算出する方法を 45 字以内で答えよ。

解答例

  • 当該契約の直近の営業活動報告書の提出日に契約別報告間隔を加えた日付と当日との差
解説

本文の根拠

〔K 社の不動産売買仲介の概要〕

K 社では,この報告頻度を契約別報告間隔として管理しており,一般媒介契約は 20 日以内に 1 回,専任媒介契約は 14 日以内に 1 回,専属専任媒介契約は 7 日以内に 1 回としている。

〔新システムの方針〕(4)

営業活動報告書の報告漏れを防ぐために,直近の営業活動報告書の提出日を基に③報告期限までの残日数を算出し

報告期限は,直近に報告した日から契約別報告間隔が経った日である。媒介契約の種類ごとに,一般は20日,専任は14日,専属専任は7日と決まっている。

したがって,当該契約の直近の営業活動報告書の提出日に契約別報告間隔を加えると報告期限が出る。そこから当日を引けば,報告期限までの残日数になる。これが3日になった時点で未報告ならアラートを出す。

45字には「直近の提出日」「契約別報告間隔を加える」「当日との差」の三つを入れる。解答例は「当該契約の直近の営業活動報告書の提出日に契約別報告間隔を加えた日付と当日との差」で39字。間隔が契約の種類で違うので,「14日」のような固定の日数で書くと誤りになる。

設問4(1) 解答欄1つ

営業担当者のダッシュボードに成約率を表示する際の計算式を表すとしたら,次の式で示すことができる。 担当した媒介契約のうち a ÷担当した媒介契約数×100 a に入れる適切な字句を,表1中の物件ステータスの値を用いて 35 字以内で答えよ。

〔a〕解答例

  • 物件ステータスの値が成約済,決済済,売却済の媒介契約数の合計
解説

本文の根拠

〔現在の業務とシステムの概要〕(2)

成約率は,過去も含め担当した媒介契約がどれだけ売買契約の締結に至ったかを示し

表1

成約済:売主と買主との間で売買契約が締結された状態。決済済:売買契約が完了し,買主から売主へ購入資金が支払われた状態。売却済:最終的に売主から買主に引き渡され,取引が完了した状態。

表1

媒介契約終了:成約に至らず媒介契約の契約期間が満了した状態。

成約率は,担当した媒介契約のうち売買契約の締結に至ったものの割合である。分子は「売買契約が締結された媒介契約の数」になる。

表1で売買契約が締結された状態は“成約済”だが,物件ステータスは先へ進む。締結の後に購入資金が支払われると“決済済”,引き渡しが終わると“売却済”に変わる。この二つも売買契約の締結を経ているので,成約済だけを数えると,取引が先へ進んだ物件が分子から抜けてしまう。“購入申込済”は締結の前,“媒介契約終了”“キャンセル”は締結に至らなかったものなので入れない。

35字,解答例は「物件ステータスの値が成約済,決済済,売却済の媒介契約数の合計」で30字。講評のとおり,ステータスの値ではなく“売買契約が締結された状態”という説明を書いた答えが多かった。設問は「表1中の物件ステータスの値を用いて」と指定しているので,値を三つ並べる。

採点講評(IPA)

設問4(1)は,正答率がやや低かった。物件ステータスの値ではなく“売買契約が締結された状態”と成約の説明を誤って解答した受験者が多かった。本文中に記載されている物件ステータスの値の遷移を正しく理解した上で,正答を導き出してほしい。

設問4(2) 35字以内

マネージャのダッシュボードに,マネージャが現在の業務で確認している営業担当者ごとの状況を表示する際の内容を 35 字以内で答えよ。

解答例

  • 営業担当者ごとの媒介契約数と各物件の物件ステータスの値の推移
解説

本文の根拠

〔現在の業務とシステムの概要〕(1)

また,マネージャは,営業担当者ごとの媒介契約数を日々確認し,実績を把握している。

〔現在の業務とシステムの概要〕(2)

マネージャは,営業担当者ごとに各物件の物件ステータスの値の推移を日々確認し,必要に応じて営業担当者に指示を出している。

〔新システムの方針〕(5)

マネージャには現在の業務で確認している営業担当者ごとの状況を確認できるようにする。

「マネージャが現在の業務で確認している営業担当者ごとの状況」を,現在の業務の記述から拾う。マネージャが日々確認しているものは二つある。

一つは(1)媒介依頼の中の「営業担当者ごとの媒介契約数」で,実績の把握に使う。もう一つは(2)媒介契約の中の「営業担当者ごとに各物件の物件ステータスの値の推移」で,営業担当者への指示に使う。ダッシュボードにはこの二つを表示する。

35字,解答例は「営業担当者ごとの媒介契約数と各物件の物件ステータスの値の推移」で30字。片方だけでは足りない。媒介契約数と物件ステータスの推移は別の段落に書かれているので,一つ見つけて止めると取りこぼす。

出典:令和7年度 春期 システムアーキテクト試験 午後Ⅰ 問3(表記を一部改変)