平成24年度 秋期に実施されたシステムアーキテクト試験
午後Ⅰの全4問(記述式)です。事例本文・設問・解答例と解説をそのまま読めます。
この試験について:システムアーキテクト試験について
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問1 会計システムの再構築
会計システムの再構築に関する次の記述を読んで,設問1〜4に答えよ。
A 社は,食品の取扱いを中心とした商社である。また,食品の製造又は小売を行っている連結子会社が数社ある。このたび A 社では,会計システムの全面的な再構築を行うことになり,情報システム部門及び経理部門を中心にプロジェクトチームを立ち上げた。
〔現在のシステム化の状況とその関連する業務〕
A 社の現在のシステム化の状況とその関連する業務は,次のとおりである。
会計システムでは,一般会計処理及び支払手形処理が実施されている。会計システムへのデータ入力は,全て経理部門で起票された仕訳伝票を基に行っている。出力帳票として,一般会計処理では,仕訳帳,総勘定元帳,試算表,貸借対照表及び損益計算書があり,支払手形処理では,支払手形及び支払手形管理資料がある。
販売管理システムでは,受注処理,出荷・売上処理及び請求処理が実施されている。受注処理では,受注登録,在庫引当てが行われる。出荷・売上処理では,出荷伝票の発行,出荷実績の登録,受注の消込み,在庫の引落し及び納品後の受領実績登録が行われる。受領実績登録後に,受領書が出荷部門から経理部門に回付され,売上及び売掛金に計上される。請求処理では,得意先の締め日ごとに,対象となる売上の請求書を発行している。請求に対する入金は全て銀行振込で行われており,経理部門で入金を把握している。
仕入管理システムでは,発注処理,入荷・検収処理及び在庫管理処理が実施されている。発注処理では,発注登録,仕入伝票の発行が行われる。入荷・検収処理では,入荷した時の受取登録,検品後の検品実績登録,検収伝票発行及び在庫計上が行われる。また,発行された検収伝票が経理部門に回付され,買掛金に計上される。買掛金の支払の一部は手形で行われている。在庫管理処理では,販売と仕入に伴う入出庫の処理,月次の棚卸処理及び在庫管理資料の作成が行われている。
人事給与システムでは,給与計算,賞与計算,年末調整及び人事管理の各処理が実施されている。人件費の実績は,給与関連帳票が経理部門に回付され,一般会計に計上される。また,給与,賞与,法定福利費などの人件費の見込情報も人事給与システムで計算している。
現在の会計システムの概要を図 1 に示す。
図1 現在の会計システムの概要
〔会計システム再構築の背景〕
経営層からの次の指示によって,会計システムの見直しが必要になった。
① 現在,月次決算の報告が翌月の半ば過ぎになっている。連結子会社との連結決算報告も含め,決算日程を短縮すること。 ② 財務報告の信頼性を確保するために,内部統制に問題がないか,検討すること。 取引先と調整した結果,取引方法を次のように変更することになり,会計システムにもその変更を反映することが必要になった。
① A 社の売上計上基準を納品基準から出荷基準へ変更する。 ② 買掛金の支払は,全て銀行振込による支払へ変更する。 経理部門からは,表 1 に示す課題・要望が出され,会計システムの改善が必要になった。
経理部門の管理面での課題として,特に資金管理関連における資金収支の管理強化が挙げられた。資金収支の実績だけでなく,将来の資金収支予定を正確に把握することが重要になっている。
表1 経理部門からの課題・要望
〔会計システム再構築の方針〕
(1) 再構築後の会計システム(以下,新会計システムという)は,新たに会計ソフトウェアパッケージを導入し,その会計ソフトウェアパッケージがもっている機能を全面的に活用する。また,経営層からの指示,取引方法の変更及び経理部門からの課題・要望への対応に重点をおく。 (2) 既存の販売管理,仕入管理及び人事給与の各システムとの連携を強化する。 ① 各システムから新会計システムへ渡す情報は,伝票ではなくデータで渡すことにする。 ② 販売管理システムで行っていた請求処理は,会計ソフトウェアパッケージがもっている請求処理に移行する。 (3) 内部統制実施基準に対応したシステムとする。 〔新会計システムの概要〕
新会計システムは,一般会計,売掛金管理,買掛金管理,資金管理,経費管理及び連結会計の六つのサブシステムから構成される。
新会計システムの概要を図 2 に示す。
図2 新会計システムの概要
〔内部統制面からの検討〕
内部統制実施基準では,“財務報告の信頼性を確保するための IT の統制は,会計上の取引記録の正当性,完全性及び正確性を確保するために実施される”と記述されている。さらに,“正当性とは,取引が組織の意思・意図にそって承認され,行われることをいい,完全性とは,記録した取引に漏れ,重複がないことをいい,正確性とは,発生した取引が財務や科目分類などの主要なデータ項目に正しく記録されることをいう”と記述されている。
また,内部統制実施基準の中で,“IT の統制の構築”における“IT に係る業務処理統制”の具体例の一つとして,入力情報については,“入力情報の完全性,正確性,正当性などを確保する統制”が挙げられている。
出題趣旨(IPA)
事業環境の変化に伴い,システムの再構築が行われることが多い。システムアーキテクトは,システム再構築の目的及び再構築に当たっての業務要件を十分把握した上で,システム要件を定義していくことが重要である。本問では,会計システムの再構築を題材として,経営層や業務部門の要請を踏まえて,システム機能構造及びシステム要件を明確化し,既存の関連システムとの連携も視野に入れ,全体最適となるシステム要件を定義していく能力を問う。
採点講評(問全体・IPA)
問1では,食品商社を例にとり,経営層や業務部門の要請を踏まえた,会計システムの再構築について出題した。全体として,題意はよく理解されていたようであった。
システムアーキテクトとして,経営層や業務部門の要請や課題を踏まえ,関連したシステムとの連携も十分意識した要件定義,設計が行えるよう心掛けてほしい。
設問と解答例
設問1(1)
25字以内
売上計上基準の変更に伴い,出荷部門において人手で行っていた業務で不要となる業務がある。その不要となる業務を 25 字以内で述べよ。
解答例
解説
本文の根拠
〔現在のシステム化の状況とその関連する業務〕(2)
受領実績登録後に,受領書が出荷部門から経理部門に回付され,売上及び売掛金に計上される。
〔会計システム再構築の背景〕(2)
① A 社の売上計上基準を納品基準から出荷基準へ変更する。
現在は納品基準なので,納品後の受領実績登録を済ませた後に,受領書を出荷部門から経理部門に回付し,それを基に売上と売掛金を計上している。受領書の回付は,納品が済んだことを経理部門に伝えるための人手の業務である。
売上計上基準が出荷基準に変わると,売上は出荷の時点で計上するので,経理部門は納品が済んだことを受領書で確かめる必要がなくなる。したがって,出荷部門で人手で行っていた「受領実績登録後,受領書を経理部門に回付する業務」が不要になる。受領実績登録そのものは販売管理システムの処理なので,「人手で行っていた業務」には当たらない。
25字で,いつ(受領実績登録後)・何を(受領書を)・どこへ(経理部門に回付する)の三つを入れる。解答例は「受領実績登録後,受領書を経理部門に回付する業務」で23字。
採点講評(IPA)
設問1では,(1)の正答率が高かった。(2)は,渡された情報で行うべき処理について,売上と売掛金への仕訳計上処理が必要であることに対し,どちらか一方のみの解答が散見された。仕訳は分からなくとも,本問での出荷という行為が,会計上は売上と売掛金という二面性をもつことを理解してほしい。
設問1(2)
解答欄2つ
経理部門での仕訳伝票の起票及び入力の負荷を軽減するために,販売管理システムから新会計システムに渡すべき情報を 10 字以内で答えよ。また,その情報によって新会計システム側で行うべき処理を 20 字以内で述べよ。
解説
本文の根拠
表1 データ収集関連
回付されてきた受領書,検収伝票,給与関連帳票を基に,仕訳伝票を起票して入力することの負荷が大きい。会計システムで仕訳処理を行いたい。
〔会計システム再構築の方針〕(2)
① 各システムから新会計システムへ渡す情報は,伝票ではなくデータで渡すことにする。
〔現在のシステム化の状況とその関連する業務〕(2)
出荷・売上処理では,出荷伝票の発行,出荷実績の登録,受注の消込み,在庫の引落し及び納品後の受領実績登録が行われる。
出荷基準に変わると,売上は出荷の時点で計上する。販売管理システムでは出荷・売上処理の中で出荷実績を登録しているので,受領書の代わりに,この出荷実績情報をデータで新会計システムに渡せばよい。
新会計システム側では,受け取った出荷実績情報から仕訳を自動で起こす。現在,受領書に基づいて「売上及び売掛金に計上」しているとおり,出荷という取引は会計上は売上と売掛金の両方に計上される。講評も,売上と売掛金のどちらか一方だけの解答が散見されたとし,出荷が会計上は売上と売掛金という二面性をもつことを理解してほしいとしている。
情報は10字なので「出荷実績情報」(6字)と名詞で答える。処理は20字で「売上及び売掛金」の両方と「自動仕訳処理」を入れる。解答例は「売上及び売掛金計上の自動仕訳処理」で16字。
採点講評(IPA)
設問1では,(1)の正答率が高かった。(2)は,渡された情報で行うべき処理について,売上と売掛金への仕訳計上処理が必要であることに対し,どちらか一方のみの解答が散見された。仕訳は分からなくとも,本問での出荷という行為が,会計上は売上と売掛金という二面性をもつことを理解してほしい。
設問2(1)
解答欄2つ
入金予定の把握のために,販売管理システム及び売掛金管理サブシステムから入金予定として取り込むべき情報がある。その情報を二つ挙げ,それぞれ 15 字以内で述べよ。
解説
本文の根拠
表1 資金管理関連
入金予定は,売掛金だけでなく,受注時点での入金予定情報も把握したい。
〔会計システム再構築の背景〕(3)
資金収支の実績だけでなく,将来の資金収支予定を正確に把握することが重要になっている。
経理部門は入金予定について,売掛金だけでなく受注時点での入金予定情報も把握したいとしている。受注は販売管理システムの受注処理で登録され,売掛金は新会計システムの売掛金管理サブシステムで管理される。したがって,販売管理システムからは受注時点での入金予定情報を,売掛金管理サブシステムからは売掛金の入金予定情報を取り込む。
図2 でも,販売管理システムと売掛金管理サブシステムからの線が合流して資金管理サブシステムに入っている。講評は,入金予定を出金予定と取り違えた解答が散見されたとしている。買掛金や発注時点の支払予定は出金予定であり,ここで問われているのは入金予定である。
それぞれ15字で,「いつの時点の」「何の」入金予定情報かが分かるように書く。解答例は「受注時点での入金予定情報」(12字)と「売掛金の入金予定情報」(10字)。
採点講評(IPA)
設問2では,資金管理について問うたが,(1)は入金予定を出金予定と取り違えた解答が散見された。(2),(3)は正答率が高かった。
設問2(2)
25字以内
出金予定の把握のために,人事給与システムから出金予定情報を新会計システムに取り込む必要がある。その情報は何か。25 字以内で述べよ。
解答例
解説
本文の根拠
〔現在のシステム化の状況とその関連する業務〕(4)
また,給与,賞与,法定福利費などの人件費の見込情報も人事給与システムで計算している。
人事給与システムは,人件費の実績のほかに,給与,賞与,法定福利費などの人件費の見込情報も計算している。人件費は将来支払う出金なので,この見込情報を取り込めば,資金管理サブシステムで出金予定として把握できる。
人件費の実績は給与関連帳票として一般会計に計上されるもので,すでに発生した支出である。出金「予定」に当たるのは見込情報のほうである。図2 でも,人事給与システムからの矢印は経費管理サブシステムに入り,経費管理サブシステムから資金管理サブシステムへ矢印が出ている。
25字で,本文の「給与,賞与,法定福利費などの人件費の見込情報」をそのまま使う。解答例もこの22字。
採点講評(IPA)
設問2では,資金管理について問うたが,(1)は入金予定を出金予定と取り違えた解答が散見された。(2),(3)は正答率が高かった。
設問2(3)
15字以内
資金収支の管理を行う上で,現行の会計システムで稼働しているが新会計システムでは不要となる機能がある。不要となる機能を 15 字以内で述べよ。
解答例
解説
本文の根拠
〔現在のシステム化の状況とその関連する業務〕(1)
出力帳票として,一般会計処理では,仕訳帳,総勘定元帳,試算表,貸借対照表及び損益計算書があり,支払手形処理では,支払手形及び支払手形管理資料がある。
〔会計システム再構築の背景〕(2)
② 買掛金の支払は,全て銀行振込による支払へ変更する。
現行の会計システムでは,一般会計処理と支払手形処理が稼働しており,支払手形処理は支払手形と支払手形管理資料を出力している。仕入管理システムの説明にあるとおり,買掛金の支払の一部を手形で行っているためである。
取引方法の変更によって,買掛金の支払は全て銀行振込になる。手形で支払うことがなくなるので,支払手形の発行や,その期日などを管理する機能は新会計システムでは要らなくなる。資金収支の管理の観点では,支払手形の期日が出金予定になるが,手形そのものがなくなるので管理の対象もなくなる。
15字なので「支払手形管理の機能」(9字)のように機能名で答える。
採点講評(IPA)
設問2では,資金管理について問うたが,(1)は入金予定を出金予定と取り違えた解答が散見された。(2),(3)は正答率が高かった。
設問3
30字以内
連結会計サブシステムにおいて,連結子会社の決算情報を合算するときに,経理部門からの課題・要望からみて,システムに実装すべき機能がある。それは何か。30 字以内で述べよ。
解答例
連結子会社の勘定科目を連結可能な勘定科目に変換する機能
解説
本文の根拠
表1 データ収集関連
連結子会社の決算情報において,各連結子会社の勘定科目が A 社と統一されておらず,連結情報の合算に手間が掛かる。
表1 連結決算関連
連結子会社はそれぞれ独自の会計システムを導入しているが,それらのシステムを変更することなく,連結決算処理のシステム化を図りたい。
連結子会社の決算情報を合算する手間が掛かるのは,各連結子会社の勘定科目が A 社と統一されていないからである。一方で,連結子会社の会計システムは変更しないという要望もあるので,子会社側で勘定科目をそろえることはできない。
そこで,連結会計サブシステムの側で,受け取った連結子会社の勘定科目を,合算できる勘定科目に変換する機能を実装する。講評も,各連結子会社の勘定科目が A 社と統一されていないことが読み取れれば解答できる設問だったとしている。
30字で「連結子会社の勘定科目を」「連結可能な勘定科目に」「変換する機能」を入れる。解答例は「連結子会社の勘定科目を連結可能な勘定科目に変換する機能」で27字。
採点講評(IPA)
設問3は,正答率が高かった。連結子会社の決算情報を合算するとき,各連結子会社の勘定科目がA社と統一されていないということが読み取れれば解答できる設問であった。
設問4
40字以内
“IT に係る業務処理統制”について,内部統制実施基準に挙げられている,“入力情報の完全性を確保する”観点から,新会計システムと仕入管理システムとの関連において確認すべきことは何か。40 字以内で述べよ。
解答例
検収,棚卸しなど取引情報が漏れ・重複なく入力され,新会計システムに連携されること
解説
本文の根拠
〔内部統制面からの検討〕
完全性とは,記録した取引に漏れ,重複がないことをいい
〔内部統制面からの検討〕
入力情報については,“入力情報の完全性,正確性,正当性などを確保する統制”が挙げられている。
〔現在のシステム化の状況とその関連する業務〕(3)
入荷・検収処理では,入荷した時の受取登録,検品後の検品実績登録,検収伝票発行及び在庫計上が行われる。
〔現在のシステム化の状況とその関連する業務〕(3)
在庫管理処理では,販売と仕入に伴う入出庫の処理,月次の棚卸処理及び在庫管理資料の作成が行われている。
本文は,完全性を「記録した取引に漏れ,重複がないこと」と定義している。入力情報の完全性を確保するには,取引が漏れも重複もなく入力されていることを確かめる必要がある。
新会計システムと仕入管理システムの関連では,仕入管理システムで検収や棚卸しなどの取引情報が入力され,それが新会計システムへデータで渡される。したがって,取引情報が漏れ・重複なく入力されていることに加えて,新会計システムへの連携でも漏れ・重複がないことを確認する。講評も,取引の入力と会計システムへの連携において漏れ及び重複がないことが入力情報の完全性であると読み取ってほしかったとしている。
40字で「何の取引か(検収,棚卸しなど)」「漏れ・重複なく入力され」「新会計システムに連携されること」の三つを入れる。解答例はちょうど40字。
採点講評(IPA)
設問4は,正答率が低かった。内部統制実施基準の,ITに係る業務処理統制について,入力情報の完全性,正確性,正当性を確保することの中で,入力情報の完全性の確保について問うたが,取引の入力と会計システムへの連携において漏れ及び重複がないことが入力情報の完全性である,ということを読み取ってほしかった。
出典:平成24年度 秋期 システムアーキテクト試験 午後Ⅰ 問1(表記を一部改変)
問2 Web による写真プリント注文システム
Web による写真プリント注文システムに関する次の記述を読んで,設問1〜3に答えよ。
B 社は写真フィルム,印画紙及び DPE(フィルム現像・プリント・引き伸ばし)装置の開発,製造,販売を行っており,全国の DPE ショップ(以下,ショップという)にこれらの商品を導入することで発展してきた。一方,B 社は,インターネットやディジタルカメラの普及を踏まえて,顧客が B 社にインターネットからディジタルデータの写真プリントを直接注文するための B 社固有のシステム(以下,B 社注文システムという)を開発,運用している。顧客が注文した写真は,B 社のプリント工場で一括してプリントし,宅配便で顧客に納品している。
近年,ディジタルカメラの一層の普及によって,ディジタルデータの写真プリントが主流になってきている。そこで,B 社は,インターネットから写真プリント注文ができる販売サイトを提供して各ショップを支援することにした。既存の B 社注文システムを各ショップで利用できるように汎用化したシステム(以下,汎用化システムという)を開発し,各ショップに提供することで,支援を行う。C マネージャは汎用化システムの開発推進担当になった。
〔販売サイトの運営形態の検討〕
C マネージャは,インターネット上の販売サイトの運営形態を調査し,汎用化システムによる運営形態を検討した。販売サイトの運営形態案を表 1 に示す。
表1 販売サイトの運営形態案
〔汎用化システムへの要望や制約〕
C マネージャは,各ショップへのヒアリングなどを通じ,汎用化システムへの要望や制約を次のようにまとめた。
(1) ショップの特色を出したいので,独自の商品を開発して販売するなどの工夫を行えるようにしたい。 (2) システムやサイト全体の運営,管理は,B 社が行ってほしい。 (3) ショップの運営について,B 社からアドバイスや情報提供を行ってほしい。 (4) 顧客ごとの完了した取引回数などに応じた優遇を B 社で行ってほしい。 (5) システムの開発,改造や Web ページの作成を独自に実施できないショップがある。 (6) どのショップでも,ブラウザと電子メール(以下,メールという)は利用できる。 (7) ショップでは,ブラウザを用いて大きなサイズのデータを受け取ることはできるが,メールで受信できるデータのサイズには制限がある。 (8) ショップでは,メールの受信を数分以内に知ることはできるが,Web ページを毎日確実に確認することは難しい。 〔汎用化システムの運営形態と提供形態の検討〕
C マネージャは,〔汎用化システムへの要望や制約〕を踏まえた運営形態の検討を行い,表 1 を検討した結果,電子商店街案を採用することにした。次に,ショップへのシステム提供形態を検討した。ショップへのシステム提供形態案を表 2 に示す。
表2 ショップへのシステム提供形態案
C マネージャは,表 2 を検討した結果,SaaS 案を採用することにした。
〔汎用化システムの利用イメージ〕
汎用化システムでは,Web 店舗という概念を導入する。Web 店舗は各ショップが Web 上に設ける電子商店であり,インターネットから写真プリント注文を受け付ける。汎用化システムの利用イメージは次のとおりである。
各ショップは,Web 店舗の登録とその店舗の Web ページ作成を行う。Web ページでは,各ショップの特色や強みをアピールできる。Web ページは,テンプレートを選択し,文章を入力したり,写真やイラストをアップロードしたりすることによって,独自のデザインを容易に作成できる。独自の商品として,各ショップが Web 店舗で提供する独自のプリントサイズ,フォトブック,カレンダなどの仕上げ,納期の組合せ(以下,プリント種別という)を登録する。
顧客は,この電子商店街を利用するために会員登録を行い,会員 ID を取得する。会員登録をすると,写真データをアップロードし,必要に応じて編集したり,写真データのプリントを任意の Web 店舗に注文したりすることができる。
顧客は,住所,最寄駅,プリント種別,受取方法,支払方法などを指定して,注文したい Web 店舗を検索する。
顧客は,選択した Web 店舗に入店して,プリントしたい写真データと,プリント種別やそれぞれの枚数・部数を指定する。また,受取方法,支払方法を選択し,必要な情報を入力する。受取方法は,宅配便受取と店頭受取から選択でき,支払方法は,クレジットカード,銀行振込,代金引換,店頭支払が選択できる。プリント種別,対応できる受取方法,支払方法は Web 店舗ごとに異なる。
入力内容を確認して顧客が注文を確定すると,B 社からショップに通知される。
顧客は,過去の注文履歴(注文日,注文した Web 店舗,プリント種別,価格,完了状況など)を一覧で確認できる。
ショップは,注文の通知を受け,注文内容を確認する。注文された写真データと注文内容をショップの PC にダウンロードし,DPE 装置で写真プリントを作成する。宅配便受取の場合は,発送手続を行う。店頭受取の場合は,顧客宛てに来店依頼メールを送信し,店頭で保管する。
顧客は,宅配便やショップで写真を受け取る。
ショップは,注文の支払方法に応じたタイミングで顧客の支払状況を確認し,必要に応じて催促を行う。入金管理はショップの責任で行う。ショップは,写真の受渡しと決済の確認後,B 社に取引の完了登録を行う。
顧客が同じ会員 ID で複数の Web 店舗を利用できるようにするために,顧客管理は各ショップではなく,B 社が行う。また,B 社は,顧客ごとの完了した取引回数に応じて優遇を行ったり,電子商店街全体の売れ筋情報や特色ある Web ページの作り方などをショップに定期的にアドバイスしたりすることで,ショップを支援する。
〔汎用化システムの開発方針〕
C マネージャは,汎用化システムの開発方針を次のようにまとめた。
(1) B 社注文システムを改造して汎用化システムを SaaS として開発し,各ショップにサービスとして提供する。 (2) Web 店舗ごとに異なる可能性がある選択肢は,汎用化システムでは全て選択できるように開発し,Web 店舗ごとに表示できる選択肢を選べるようにする。 (3) B 社と各ショップが連携する機能(以下,ショップ連携という)を設ける。ショップ連携には,注文があったことを B 社からショップに伝達する“注文伝達”,B 社からショップに顧客データ,写真データを受け渡す“データ受渡し”,ショップが B 社に取引の完了を登録する“取引完了登録”の三つの機能をもたせる。 〔汎用化システムの概要〕
〔汎用化システムの開発方針〕に基づき,汎用化システムの概要を検討した。汎用化システムの機能一覧を表 3 に示す。
表3 汎用化システムの機能一覧
出題趣旨(IPA)
既存システムを改造して,ソフトウェアパッケージの開発を行ったり,システムサービスとして提供したりすることが一般的になってきている。多くの場合,既存システムは,個別のシステムとして開発されているので,これを汎用化して対応することになる。システムアーキテクトには,“多数の企業への展開を念頭において,ソフトウェアや,システムサービスの汎用化を検討する”ことが求められている。本問では,Web写真プリントシステムの汎用化を題材として,設計に際し,要求事項,開発方針を正しく理解し,汎用化の観点から要求事項に基づく改造のポイントを指摘したり,汎用化の留意点を考慮したりする能力を問う。
採点講評(問全体・IPA)
問2では,Webによる写真プリント注文システムを例にとり,ソフトウェアやシステムサービスの汎用化の検討について出題した。全体として正答率は高かった。
システムアーキテクトには,多数の企業への展開を念頭において,ソフトウェアや,システムサービスの汎用化を検討できる能力が期待されている。要望や前提条件,性能や処理タイミングなどを総合的に考慮して的確に設計できるように心掛けてほしい。
設問と解答例
設問1(1)
20字以内
C マネージャが,販売サイトの運営形態として電子商店街案を採用することにした理由を 20 字以内で述べよ。
解答例(2通り)
各ショップの創意工夫が生かせるから 各ショップの特色が出せるから
解説
本文の根拠
〔汎用化システムへの要望や制約〕(1)
ショップの特色を出したいので,独自の商品を開発して販売するなどの工夫を行えるようにしたい。
表1 電子商店街案
③ フォトブック,カレンダなどの独自の商品,特色ある Web ページなど,各ショップの創意工夫を生かせる。
表1 B 社単独通販サイト案
④ B 社主導の商品展開になりやすい。
ショップからの要望の(1)は,ショップの特色を出すために独自の商品を開発して販売するなどの工夫を行えるようにしたい,というものである。表1 の電子商店街案の③は,独自の商品や特色ある Web ページなど,各ショップの創意工夫を生かせるとしており,この要望に合う。
B 社単独通販サイト案は,B 社注文システムの修正が少なく管理が容易という利点はあるが,B 社主導の商品展開になりやすく,各ショップが独自の商品を出す余地が小さい。C マネージャは〔汎用化システムへの要望や制約〕を踏まえて運営形態を検討しており,ショップの工夫を生かせるかどうかが決め手になる。
20字なので「各ショップの創意工夫が生かせるから」(17字)のように,表1 の言葉を使って理由の形で結ぶ。「各ショップの特色が出せるから」(14字)も解答例に挙がっている。
設問1(2)
解答欄2つ
C マネージャが,ショップへのシステム提供形態として SaaS 案を採用することにした理由を,B 社のメリットと各ショップのメリットに分けて,それぞれ 30 字以内で述べよ。
〔B社のメリット〕解答例
サイトの運営,管理やショップの管理を一括して行えるから
〔各ショップのメリット〕解答例
ショップでシステムの導入,開発及び運用をしないで済むから
解説
本文の根拠
表2 SaaS 案
④ B 社が,各ショップの運営状況などを把握しやすく,一括した管理が可能である。
〔汎用化システムへの要望や制約〕(2)
システムやサイト全体の運営,管理は,B 社が行ってほしい。
〔汎用化システムへの要望や制約〕(5)
システムの開発,改造や Web ページの作成を独自に実施できないショップがある。
表2 ソフトウェアパッケージ案
② サーバやデータベースは各ショップが個別に保有し,運用する。
B 社のメリットは,表2 の SaaS 案④のとおり,各ショップの運営状況などを把握しやすく一括した管理ができることである。サーバやデータベースを全 Web 店舗で共有し運用も全ショップ共通なので,B 社はサイトの運営,管理とショップの管理をまとめて行える。これはショップからの要望(2)(3)(サイト全体の運営,管理は B 社が行う,運営のアドバイスや情報提供をしてほしい)にも応えるものである。
各ショップのメリットは,システムを自分で持たずに済むことである。ソフトウェアパッケージ案ではサーバやデータベースを各ショップが個別に保有・運用し,カスタマイズも各ショップが行う。要望(5)のとおり,システムの開発や改造を独自に実施できないショップがあるので,SaaS として提供を受ければ,システムの導入,開発及び運用をショップで行わなくてよい。
それぞれ30字で,誰にとって何が楽になるかを「〜から」で結ぶ。解答例は B 社が「サイトの運営,管理やショップの管理を一括して行えるから」で27字,各ショップが「ショップでシステムの導入,開発及び運用をしないで済むから」で28字。
設問2
35字以内
〔汎用化システムの開発方針〕で,C マネージャが“Web 店舗ごとに異なる可能性がある選択肢は,汎用化システムでは全て選択できるように開発し,Web 店舗ごとに表示できる選択肢を選べるようにする。”と考えた理由を 35 字以内で述べよ。
解答例
Web店舗ごとの要望に設定変更で対応できるようにしたいから
解説
本文の根拠
〔汎用化システムの開発方針〕(2)
Web 店舗ごとに異なる可能性がある選択肢は,汎用化システムでは全て選択できるように開発し,Web 店舗ごとに表示できる選択肢を選べるようにする。
表2 SaaS 案
③ 要求機能のうち,ショップごとに違う部分は,個々の Web 店舗の設定を変えることで実現する。
〔汎用化システムの利用イメージ〕(3)
プリント種別,対応できる受取方法,支払方法は Web 店舗ごとに異なる。
SaaS 案では,システムを全ショップで共有するので,ショップごとにプログラムを作り分けることはできない。表2 の SaaS 案③のとおり,ショップごとに違う部分は個々の Web 店舗の設定を変えることで実現する。選択肢を全て選べるように開発しておき,Web 店舗ごとに表示する選択肢を選べるようにすれば,各 Web 店舗の違いを設定の変更だけで吸収できる。
本文では,プリント種別,対応できる受取方法,支払方法が Web 店舗ごとに異なるとしている。これらを設定で切り替えられれば,Web 店舗ごとの要望に改造なしで対応できる。講評は,“各ショップの創意工夫を出すため”など開発方針とは異なる視点の解答があったとし,汎用化の観点で読み取ってほしいとしている。創意工夫は運営形態を選んだ理由(設問1(1))で,ここで問われているのは汎用化の開発方針である。
35字で「Web 店舗ごとの要望に」「設定変更で対応できるように」を入れる。解答例は「Web店舗ごとの要望に設定変更で対応できるようにしたいから」で29字。
採点講評(IPA)
設問2では,開発方針として汎用化の基本的な留意点を問うたが,“各ショップの創意工夫を出すため”など,開発方針とは異なる視点の解答があった。汎用化の観点で問題文から読み取ってほしい。
設問3(1)
解答欄2つ
“注文伝達”をメールで実装する理由と,“データ受渡し”をブラウザで実装する理由を,それぞれ 20 字以内で述べよ。
〔“データ受渡し”をブラウザで実装する理由〕解答例
解説
本文の根拠
〔汎用化システムへの要望や制約〕(8)
ショップでは,メールの受信を数分以内に知ることはできるが,Web ページを毎日確実に確認することは難しい。
〔汎用化システムへの要望や制約〕(7)
ショップでは,ブラウザを用いて大きなサイズのデータを受け取ることはできるが,メールで受信できるデータのサイズには制限がある。
〔汎用化システムの開発方針〕(3)
B 社からショップに顧客データ,写真データを受け渡す“データ受渡し”
“注文伝達”は,注文があったことを B 社からショップに伝える機能である。要望や制約の(8)のとおり,ショップはメールの受信を数分以内に知ることはできるが,Web ページを毎日確実に確認することは難しい。メールで実装すれば,注文を速やかにショップへ通知できる。講評は,“メールを素早く受信できるから”という解答が多かったが,業務上素早く知りたいのは注文であることを意識してほしいとしている。
“データ受渡し”は,顧客データと写真データを受け渡す機能である。写真データはサイズが大きく,(7)のとおり,メールで受信できるデータのサイズには制限があるが,ブラウザを用いれば大きなサイズのデータを受け取ることができる。
それぞれ20字で,業務上の効果を主語にして書く。解答例は「注文を速やかに通知できるから」(14字)と「大きなサイズのデータを受け取れるから」(18字)。
採点講評(IPA)
設問3(1)では,メールでの実装について,“メールを素早く受信できるから”との解答が多かったが,業務上素早く知りたいのは注文であることを意識してほしい。
設問3(2)
30字以内
“取引完了登録”が必要な理由として,過去の注文履歴の完了状況を確認するという理由以外に,どのような理由が考えられるか。30 字以内で述べよ。
解答例
解説
本文の根拠
〔汎用化システムの利用イメージ〕(7)
また,B 社は,顧客ごとの完了した取引回数に応じて優遇を行ったり
〔汎用化システムへの要望や制約〕(4)
顧客ごとの完了した取引回数などに応じた優遇を B 社で行ってほしい。
〔汎用化システムの利用イメージ〕(6)
ショップは,写真の受渡しと決済の確認後,B 社に取引の完了登録を行う。
B 社は,顧客ごとの完了した取引回数に応じて優遇を行う。ショップからもそうしてほしいという要望が出ている。ところが,受渡しや決済はショップが行い,入金管理もショップの責任で行うので,取引が完了したかどうかは B 社からは分からない。ショップが写真の受渡しと決済を確認した後に“取引完了登録”を行えば,B 社は顧客ごとの完了した取引回数を数えられ,優遇に使える。
講評は,“写真データ削除のタイミングを知るため”など,問題文に記載していないシステム上の都合を想像した誤った解答が多かったとしている。理由は本文に書かれている B 社の業務(顧客ごとの完了した取引回数に応じた優遇)から探す。
30字で「顧客ごとの完了した取引回数に応じた優遇」を入れ,「行うから」で結ぶ。解答例は「顧客ごとの完了した取引回数に応じた優遇を行うから」で24字。
採点講評(IPA)
設問3(2)では,追加する機能が必要な理由を問うたが,“写真データ削除のタイミングを知るため”など,問題文に記載していないシステム上の都合を想像して解答したと思われる誤った解答が多かった。
出典:平成24年度 秋期 システムアーキテクト試験 午後Ⅰ 問2(表記を一部改変)
問3 セミナ管理システムの構築
セミナ管理システムの構築に関する次の記述を読んで,設問1〜3に答えよ。
D 社は,各種のソフトウェアパッケージを核としたソリューションを提供する大手ソフトウェアベンダである。D 社は,営業拡大を目的としたソリューションセミナ(以下,セミナという)を全国で年間数回ずつ,ホテルやイベント会場を使って開催しており,セミナの申込管理をシステム化している。
〔現状と課題〕
D 社のセミナは,営業担当が指定した顧客に招待状を出し,Web で参加申込みを受け付ける。また,顧客以外の受講希望者の参加申込みも受け付けている。
各セミナは,1 日単位で開催され,午前 10 時から午後 5 時までを五つの時間帯(以下,時限という)に分け,それぞれの時限でセッションを開催する。1 回のセミナでは,20〜30 個のセッションが開催され,申込者は申込時に 1〜5 個のセッションを予約するが,同一時限に開催されるセッションを複数予約することはできない。各セッションに定員を設定し,予約人数が定員に達した場合は,当該セッションは満席扱いとし,それ以降は予約を受け付けない。申込者には,申込時に当該セミナで一意に付与する申込 ID と予約したセッション名を記載した受講票を,システムで発行する。
当日,会場受付には,申込 ID 順の申込者リストを準備し,来場した申込者(以下,受講者という)に受講票を提示してもらうことで,来場チェックを行っている。各セッションの会議室の入口では,受講者が提示した受講票に当該セッション名が記載されていることを確認して入室を許可しているが,申込 ID などの受講者の情報は記録していない。受講者が,予約していないセッションの受講を希望した場合には,空席待ちの列に並んでもらい,セッション開始時刻に空席があれば受講可能としている。
営業担当及びセミナ事務局から,次の課題が挙げられ,改善を要望されている。
(1) 会場受付で誰が来場しているかは把握できるが,セッションの受講は記録されないので,受講者が予約したセッションを実際に受講したかは把握できない。 (2) 各セッションの会議室の入口では,当該セッションを予約した申込者が来場しているかを把握できないので,予約人数が定員に達している場合に,セッションの開始時刻前に空席待ちの受講者を入室させてよいか判断できない。 (3) 受講者が実際にどのセッションを受講したか把握できないので,有効なフォロー営業ができない。 (4) 各セッションの受講希望人数にばらつきがあり,満席で予約を断るセッションがある一方で,予約人数が定員に満たないセッションもある。受講希望が多いセッションは,事前に大きな会議室に振り替えられるようにしてほしい。 D 社では,これらの課題を解決するために,現在の申込管理のシステムを拡充し,セミナ管理システム(以下,新システムという)を構築することにした。
〔新システムに対する要件〕
情報システム部の E 課長が新システムの構築を担当することになり,次のとおりに要件を定め,セミナ事務局(以下,事務局という)の了解を得た。
(1) 申込受付時に,セッションの予約状況によって,予約希望が多いセッションに割り当てられた会議室を,より定員が多い会議室に変更することを可能にする。 (2) セミナの会場受付では,受講者が持参した受講票に基づき,申込 ID を記録した IC カード(以下,受講カードという)をその場で発行する。 (3) 各セッションの会議室の入口に設置した IC カードリーダに,受講者が受講カードをかざすことによって,予約の有無の確認を行い,セッションの受講を記録する。これによって,入室人数をリアルタイムに把握し,会場の事務局控室にある PC で参照できる。 (4) 各セッションの予約人数,当該会議室の定員,予約者の来場情報,予約者の当該セッションへの入室情報及び現在入室している人数を基に,受講見込人数の推定を行い,空席待ちの受講者の入室を段階的に効率よく行えるようにする。 〔新システムの設計〕
E 課長は,〔新システムに対する要件〕に基づき,新システムの設計を行った。新システムの E-R 図を図 1 に,新システムの処理概要を表 1 に示す。
なお,セミナには一意にセミナ番号を付与する。また,セッションにはセミナ内で一意なセッション ID を付与し,時限は開始時刻順に 1〜5 の値をとる。
“受講セッション”の主キーについては,セミナ番号,申込 ID,セッション ID を設定する方法と,セミナ番号,申込 ID,選択したセッションの時限を設定する方法が考えられたが,業務プログラムの作成負荷を軽減するために,後者を選択した。
図1 新システムの E-R 図
表1 新システムの処理概要
会議室変更の処理について,その仕様を明確にするために,判断する条件と,条件に一致したときに行う処理内容を次のようにまとめた。
あるセッションの予約人数が,そのセッションに割り当てられた会議室の定員の 1.6 倍に達したとき,当該セッションと,セミナ番号,時限が等しい全てのセッションについて,(1)〜(4)の処理を行う。
(1) 各セッションの会議室のa が,当該セッションの会議室のa よりもb セッションを選択する。 (2) 選択したセッションの中から,c が当該セッションのc よりもd セッションを選択する。 (3) 選択したセッションのc を,選択したセッションの会議室のa で割って倍率を求め,その倍率が最も低いセッションを選択する。 (4) 選択したセッションのe と当該セッションのe を入れ替える。 〔営業担当役員からの追加要望〕
E 課長が,役員会で新システムの概要を説明したところ,営業担当役員から次のような要望があった。
セミナは営業拡大の絶好の機会であり,営業担当が総出で顧客対応を行っているが,受講者が多く目的の顧客がどこにいるのかが把握できず,うまく対応できていない。 セミナの開催場所と内容によって,重要顧客を選定する。重要顧客の来場時と各セッションへの入室時に,営業担当に連絡してほしい。 セミナ終了後,営業担当がフォロー営業を行えるように適切な情報を渡してほしい。 E 課長は,これらの要望に応えるために,重要顧客の来場及び入室情報を把握できるよう新システムの設計の変更を行うことにし,あるエンティティタイプに重要顧客区分の属性を追加した。あわせて,表 1 の顧客招待,セミナ受付及びセッション入室の各処理を変更することにし,それぞれの処理の追加点を表 2 にまとめた。
表2 処理の追加点
出題趣旨(IPA)
ICカードなどの普及によって,従来は取得することができなかったデータが容易に収集できるようになってきており,これに伴い,利用者の要求に対して,より高度な対応ができるようになっている。システムアーキテクトには,要件と制約を満足するシステムの設計・開発・テストを行って,対象とする情報システムを開発する能力が求められている。本問は,ソフトウェアベンダのセミナ管理システムの構築を題材にして,業務要件に基づき,システムの処理設計,データベース設計などを行うことについて,具体的な記述を求めている。本問では,業務要件からシステム要件を設定する能力,そのシステム要件からシステムを設計・開発する能力及びシステム要件の追加・変更に伴ってシステム設計の変更を行う能力を問う。
採点講評(問全体・IPA)
問3では,セミナ管理システムを例にとり,利用者の要件に基づいたシステムの設計について出題した。
システムアーキテクトとして,利用者の要望をシステム要件としてまとめ,それを正確に設計していくことができるよう心掛けてほしい。
設問と解答例
設問1(1)
40字以内
E 課長は,業務プログラムの作成負荷を軽減するために“受講セッション”の主キーに,セミナ番号,申込 ID,選択したセッションの時限を設定する方法を選択した。なぜ,作成負荷が軽減できると考えたか。その理由を 40 字以内で述べよ。
解答例(2通り)
同一時限の複数セッションのチェックをデータベースの一意制約で実現できるから “受講申込”に対して同一時限の“受講セッション”が一つしか作れなくなるから
解説
本文の根拠
〔現状と課題〕
申込者は申込時に 1〜5 個のセッションを予約するが,同一時限に開催されるセッションを複数予約することはできない。
〔新システムの設計〕
“受講セッション”の主キーについては,セミナ番号,申込 ID,セッション ID を設定する方法と,セミナ番号,申込 ID,選択したセッションの時限を設定する方法が考えられたが,業務プログラムの作成負荷を軽減するために,後者を選択した。
申込者は同一時限に開催されるセッションを複数予約できない。主キーを(セミナ番号,申込 ID,時限)にすると,一つの申込みで同じ時限の“受講セッション”を二つ登録しようとすれば主キーが重複するので,データベースの一意制約で登録が拒否される。“受講申込”に対して同一時限の“受講セッション”が一つしか作れなくなる。
主キーを(セミナ番号,申込 ID,セッション ID)にした場合は,同じ時限の別のセッションでも主キーは重複しない。そのため,同一時限の予約が既にないかを業務プログラムで調べる処理が必要になる。時限を主キーに入れれば,このチェックをプログラムで書かずに済むので,作成負荷が軽減できる。
40字で「同一時限の複数セッションのチェック」と「データベースの一意制約で実現」を結ぶ。解答例は「同一時限の複数セッションのチェックをデータベースの一意制約で実現できるから」で37字。「“受講申込”に対して同一時限の“受講セッション”が一つしか作れなくなるから」(37字)も解答例にある。
採点講評(IPA)
設問1(1),(2)は,E-R図を用いてエンティティタイプの設計に関して出題したが,正答率は低かった。特に,リレーションシップについては,システムの要件をしっかり理解しなければ正答を導くことができないことを十分に理解してほしい。
設問1(2)
図 1 の E-R 図について,破線で示した 5 か所のリレーションシップを凡例に倣って示せ。
解答例(図)
解説
本文の根拠
〔現状と課題〕
また,顧客以外の受講希望者の参加申込みも受け付けている。
表1 申込み
なお,1 回のセミナに同一顧客が複数回申し込むことはできない。
〔現状と課題〕
1 回のセミナでは,20〜30 個のセッションが開催され,申込者は申込時に 1〜5 個のセッションを予約する
表1 顧客招待
事務局はこれに基づいて,“顧客招待”に顧客を登録する。
5か所を順に見る。顧客と顧客招待は1対多で,顧客招待は必ず顧客を指すが,招待されない顧客もいるので“顧客”(●)→“顧客招待”(○,矢印)となる。セミナとセッションは1対多で,1回のセミナで20〜30個のセッションを開催し,セッションは必ずどれかのセミナに属するので,両側とも●になる。受講申込と受講セッションも1対多で,申込者は1〜5個のセッションを必ず予約するので,両側とも●になる。セッションと受講セッションは1対多で,受講セッションは必ずセッションを指すが,予約が一件もないセッションもあり得るので“セッション”(●)→“受講セッション”(○,矢印)となる。
残る顧客招待と受講申込は1対1で,両側とも○になる。1回のセミナに同一顧客は複数回申し込めないので,顧客招待(セミナ番号,顧客 ID)一つに対応する受講申込は高々一つである。招待されても申し込まない顧客がおり,顧客以外の受講希望者の申込みもあるので,どちらから見ても相手が存在しないことがある。講評は,リレーションシップはシステムの要件をしっかり理解しなければ正答を導けないとしている。
この設問は解答用紙の図に記号を描き込むので,入力欄はない。多重度(1対1か1対多か)と,それぞれの側から相手が必ず存在するか(●か○か)を,主キーの構成と本文の要件の両方から確かめる。特に顧客招待と受講申込は,“同一顧客が複数回申し込むことはできない”から1対1になる点を見落としやすい。
採点講評(IPA)
設問1(1),(2)は,E-R図を用いてエンティティタイプの設計に関して出題したが,正答率は低かった。特に,リレーションシップについては,システムの要件をしっかり理解しなければ正答を導くことができないことを十分に理解してほしい。
設問1(3)
解答欄5つ
本文中のa 〜e に入れる適切な字句を答えよ。
解説
本文の根拠
表1 会議室変更
同時限の他のセッションの予約状況を確認し,可能であれば,定員が多い会議室への変更を行う。
〔新システムの設計〕
(3) 選択したセッションのc を,選択したセッションの会議室のa で割って倍率を求め,その倍率が最も低いセッションを選択する。
〔新システムの設計〕
(4) 選択したセッションのe と当該セッションのe を入れ替える。
会議室変更は,同時限の他のセッションと会議室を入れ替えて,定員が多い会議室に移す処理である。(1)ではまず,会議室の定員が当該セッションの会議室の定員よりも多いセッションを選ぶ(a は定員,b は多い)。(2)では,その中から予約人数が当該セッションの予約人数よりも少ないセッションを選ぶ(c は予約人数,d は少ない)。入れ替えた後に相手のセッションが困らないよう,予約の少ないセッションに限る。
(3)は,予約人数を会議室の定員で割った倍率が最も低い,つまり会議室に最も余裕のあるセッションを選ぶ手順で,(1)(2)の a と c がここでも同じ属性であることが確かめられる。(4)で入れ替えるのは,“セッション”の属性のうち会議室を表す会議室 ID である(e)。
字数制限はないが,(4)の e は“会議室”エンティティではなく,“セッション”がもつ属性の「会議室ID」を答える。解答例は a「定員」,b「多い」,c「予約人数」,d「少ない」,e「会議室ID」。
設問2
解答欄3つ
空席待ちの受講者の入室を段階的に効率よく行うために,当該セッションの予約人数及び当該会議室の定員の他に,リアルタイムで把握できる三つの情報を利用する。どのような情報か,図 1 中の属性名を用いて,それぞれ 30 字以内で述べよ。
〔①〕解答例
当該セッションを受講する受講者のセミナへの来場日時
〔②〕解答例
当該セッションを受講する受講者のセッションへの入室日時
解説
本文の根拠
〔新システムに対する要件〕(4)
各セッションの予約人数,当該会議室の定員,予約者の来場情報,予約者の当該セッションへの入室情報及び現在入室している人数を基に,受講見込人数の推定を行い,空席待ちの受講者の入室を段階的に効率よく行えるようにする。
図1
受講申込:セミナ番号(下線),申込ID(下線),顧客ID,会社名,所属部署名,役職名,氏名,申込日時,来場日時。
図1
受講セッション:セミナ番号(下線),申込ID(下線),時限(下線),セッションID,入室日時。
要件(4)は,予約人数と定員のほかに,予約者の来場情報,予約者の当該セッションへの入室情報,現在入室している人数の三つを使うとしている。これを図1 の属性で表すと,来場情報は“受講申込”の来場日時,入室情報は“受講セッション”の入室日時,現在入室している人数は“セッション”の入室人数になる。
来場日時と入室日時は,どの受講者のものかを示さないと意味をもたない。当該セッションを受講する(予約している)受講者の,セミナへの来場日時とセッションへの入室日時である。講評は,属性名だけを記述した解答が多く,設問の理解が十分でなかったとしている。問われているのは「どのような情報か」なので,誰の何の情報かまで書く。
それぞれ30字で,「当該セッションを受講する受講者の」と対象を限定し,属性名で結ぶ。解答例は「当該セッションを受講する受講者のセミナへの来場日時」(25字),「当該セッションを受講する受講者のセッションへの入室日時」(27字),「当該セッションの入室人数」(12字)。
採点講評(IPA)
設問2は,システム要件に書かれた情報を,属性名を用いて記述する問題であった。システム要件に書かれた情報は五つあり,設問の記述の中に,その中の二つが書かれているので,残りの三つの情報を属性名を用いてどう表すかを考えれば解答できる設問であったが,正答率は低かった。属性名だけ記述してある解答も多く,設問の理解が十分でなかったものと思われる。
設問3(1)
解答欄2つ
重要顧客の来場及び入室情報を把握するために,あるエンティティタイプに属性として重要顧客区分を追加する。追加するエンティティタイプ名を挙げ,そのエンティティタイプに追加する理由を 35 字以内で述べよ。
〔理由〕解答例
重要顧客はセミナの開催場所と内容によって,招待時に選定されるから
解説
本文の根拠
〔営業担当役員からの追加要望〕
セミナの開催場所と内容によって,重要顧客を選定する。
表2 顧客招待
営業担当は,当該セミナに招待したい顧客を選んだとき,重要顧客については,顧客の一覧にその区分を付けて事務局へ提出する。
図1
顧客招待:セミナ番号(下線),顧客ID(下線)。
重要顧客は,セミナの開催場所と内容によって選定される。同じ顧客でも,あるセミナでは重要顧客で,別のセミナではそうでないことがあるので,顧客そのものの属性ではなく,セミナと顧客の組合せの属性になる。図1 で主キーが(セミナ番号,顧客 ID)のエンティティタイプは“顧客招待”である。
表2 の顧客招待の追加点でも,営業担当が招待したい顧客を選ぶときに重要顧客に区分を付けて提出している。つまり重要顧客は招待時に選定され,事務局が“顧客招待”に登録する時点で区分が決まる。講評は,属性名を見て思い込みで解答したと思われる誤答が多かったとし,その情報がどの時点で何に対して付与されるかを理解すれば容易に解けたとしている。“顧客”に追加するとセミナごとの違いを表せない。
理由は35字で,「開催場所と内容によって」と「招待時に選定される」を入れる。解答例は「重要顧客はセミナの開催場所と内容によって,招待時に選定されるから」で32字。
採点講評(IPA)
設問3(1)は,利用者の追加要件から出た項目を,どのエンティティタイプに追加すべきかを問う問題であった。その情報は,どの時点で何に対して付与されるものかを理解すれば容易に解けたはずだが,属性名を見て思い込みで解答したと思われる誤った解答が多く見られた。
設問3(2)
解答欄5つ
表 2 中のf 〜j に入れる適切な字句を答えよ。
解説
本文の根拠
表1 セミナ受付
受講者から受講票を提示してもらい,申込 ID を記録した受講カードを発行し,受講者の来場を記録する。
表1 セッション入室
各会議室の入口に IC カードリーダを設置し,受講者は受講カードをかざして入室する。
図1
受講申込:セミナ番号(下線),申込ID(下線),顧客ID,会社名,所属部署名,役職名,氏名,申込日時,来場日時。
重要顧客区分は“顧客招待”にあり,その主キーは(セミナ番号,顧客 ID)である。したがって,受付や入室のときに顧客 ID を求められれば重要顧客区分を参照できる。受付と入室で手元にあるのは申込 ID なので,申込 ID で“受講申込”を参照し,その属性の顧客 ID を得る(g は申込ID,h は受講申込,i は顧客ID)。
申込 ID をどこから読むかは処理で異なる。セミナ受付では受講者が受講票を提示し,受講票には申込 ID が表示されているので f は受講票になる。セッション入室では受講者が受講カードをかざし,受講カードには申込 ID が記録されているので j は受講カードになる。
字数制限はないが,g・h・i は図1 の属性名とエンティティタイプ名をそのまま使う。h は表2 で“ ”で囲まれているのでエンティティタイプ名が入る。解答例は f「受講票」,g「申込ID」,h「受講申込」,i「顧客ID」,j「受講カード」。
設問3(3)
25字以内
セミナ終了後,フォロー営業に使用する情報を営業担当に渡すことになったが,新システムの稼働によって,確実に渡すことができるようになった情報がある。その内容を 25 字以内で述べよ。
解答例
解説
本文の根拠
〔現状と課題〕(3)
受講者が実際にどのセッションを受講したか把握できないので,有効なフォロー営業ができない。
〔新システムに対する要件〕(3)
各セッションの会議室の入口に設置した IC カードリーダに,受講者が受講カードをかざすことによって,予約の有無の確認を行い,セッションの受講を記録する。
現状の課題(3)は,受講者が実際にどのセッションを受講したかを把握できないので,有効なフォロー営業ができないというものである。会議室の入口では受講票の確認だけで,申込 ID などの受講者の情報を記録していなかった。
新システムでは,受講者が IC カードリーダに受講カードをかざすことで,セッションの受講を記録する。これによって,予約したセッションではなく実際に受講したセッションが分かるようになり,フォロー営業に確実に渡せる。予約の情報や来場の情報は現在のシステムでも把握できているので,新たに確実に渡せるようになった情報には当たらない。
25字で「受講者が」「どのセッションを受講したか」を入れる。解答例は「受講者がどのセッションを受講したかという情報」で22字。
出典:平成24年度 秋期 システムアーキテクト試験 午後Ⅰ 問3(表記を一部改変)
問4 電気自動車専用カーシェアリング運営システムの開発
電気自動車専用カーシェアリング運営システムの開発に関する次の記述を読んで,設問1〜4に答えよ。
F 社は,カーシェアリングを運営するためのシステムを開発し,企業,団体などに販売している。最近,電気自動車(以下,EV という)のカーシェアリングの需要が増えてきているので,F 社では,登録会員が複数の EV を利用する方式の EV 専用カーシェアリング運営システム(以下,運営システムという)を開発することになった。
〔運営システム開発の背景〕
EV は環境に優しいとされているが,走行距離に制約があること,ガソリン車に比べて購入価格が割高であることなどの理由で,個人への普及は遅れている。一方,短時間・短距離走行を主とする車利用者は,予約するだけで利用できるカーシェアリングへの関心が高い。F 社はこのような状況から,運営システムを導入することで,充電の待ち時間が短くなり,手軽に利用できるようになれば,EV とカーシェアリングがともに普及していくものと期待している。
〔運営システムに対する要望〕
運営システムの開発に当たって,F 社のシステムアーキテクトである G 氏は,カーシェアリングの運営者及び利用者から F 社に寄せられた,運営システムに対する要望を次のようにまとめた。
利用希望者の予約受付,EV の割当て・貸出し・返却,及び充電の管理は,できるだけ人手を必要としないシステムにしてほしい。 利用者が EV の返却予定時刻を守らないなどのトラブルが,起きないような工夫をしてほしい。 事故が発生した時の画像記録を残し,要因及び責任の所在を調査できるようにしてほしい。 EV の盗難防止に配慮してほしい。 EV 利用中にバッテリ残量が不足する場合の対策を考慮してほしい。 〔運営システムに用いる EV の仕様概要〕
G 氏が運営システムで用いる EV の仕様を調べた結果,次のことが確認できた。
満充電の EV の走行可能距離は,最大 160 km である。ただし,運転の仕方,エアコンの使用状況などによっては,半分程度しか走行できないことがある。 カーナビゲーションシステム(以下,カーナビという)を標準装備している。カーナビは,USB I/F 経由で他の機器と接続され,データの入出力,画像表示,音声の再生などができる。 EV 各部の制御を行うために装備されている複数の電子制御ユニット間の通信には,LAN を使用している。LAN は,車両通信 I/F ポートと呼ばれる接続コネクタを経由して,後から設置される機器にも接続でき,必要となる情報の通信が可能である。また,LAN は,充電ケーブルを介して外部の充電スタンドと接続でき,EV と充電スタンドとの間で EV の識別情報,バッテリ残量の確認などの通信を可能とする。 〔運営システムの構成〕
G 氏は,カーシェアリングの運営者及び利用者の要望に基づき,運営システムの構成を次のように考えた。
複数の駐車ステーションと一つの管理センタがあり,管理センタに設置したサーバが各駐車ステーションを一括して管理する。 各駐車ステーションには,充電スタンドを設置し,複数の EV を配備できる。 充電スタンドには,充電ケーブル,キーボックス及び無線通信方式による IC タグリーダ(以下,RF タグリーダという)が一体化されている。充電スタンドとサーバとは,インターネットで接続される。 各 EV には,車載端末が搭載される。車載端末とサーバとは,移動体通信網を経由して,インターネットで接続される。 運営システムの構成を図 1 に示す。
図1 運営システムの構成
〔運営システムの運用〕
G 氏は,運営システムの運用について検討した。
EV 利用希望者は,携帯電話又は PC からサーバにアクセスし,希望する駐車ステーション及び利用時間帯を入力することによって,予約を行う。 サーバは,EV の予約状況を確認し,希望する利用開始時刻に満充電で引渡しできると予測される空車があれば貸出しの割当てを行い,予約を成立させる。その後,利用予約者及び割り当てられた EV の情報を充電スタンドに送信する。 利用予約者は,利用開始時刻に駐車ステーションに行き,充電スタンドで認証を済ませた後,充電ケーブルを取り外し,キーボックスからキーを取り出して EV を利用する。 利用者は,返却予定時刻までに,貸出しを受けた駐車ステーションに EV を返却する。そのとき,充電ケーブルを接続し,キーをキーボックスに返却する。 EV の充電は,充電ケーブルと接続されているときに,サーバからの指示によって行われる。 走行中にバッテリ残量が不足すると予測された EV は,最寄りの駐車ステーションで充電できる。 〔運営システムの機能〕
G 氏は,運営システムの機能を次のようにまとめた。
駐車中の EV は充電ケーブルと接続され,充電ケーブルは取り外せないようにロックされている。 利用開始時に会員証の無線通信方式による IC タグ(以下,RF タグという)を読み取り,利用予約者の認証を行う。認証が完了すると,貸し出す EV に接続された充電ケーブルのロックを解除する。次に,充電ケーブルに対応するキーボックスの扉を開け,キーを取り出せる状態にして,サーバに利用開始情報を送信する。 EV が返却されたとき,充電ケーブルの接続を確認してロックする。次に,充電ケーブルに対応するキーボックスにキーが返却されたことを確認し,キーボックスの扉を閉め,サーバに返却確認情報を送信する。 充電ケーブルを介して,EV と定期的に通信し,バッテリ残量を読み取り,サーバに送信する。 EV が返却されてから次の利用者に貸し出すまでの間に,充電を行う。 30 分以内に満充電になるように,急速充電を行う。接続されている EV が複数台でも,1 台ずつ充電する。 充電スタンドの構成品とその説明を,表 1 に示す。
表1 充電スタンドの構成品とその説明
車両通信 I/F 経由で,バッテリ残量,走行速度を監視し,走行可能距離を計算する。 USB I/F 経由で,カーナビと通信し,現在位置,目的地までの距離及び所要時間の情報を得る。 カーナビから得られる情報を監視し,返却予定時刻の超過又は走行可能距離の不足が予測される場合は,サーバに通知し,利用者に警告する。 事故の状況を把握したり,車内の状況を確認したりするために,車内,車外を撮れる車内カメラによる画像を記録する。 サーバと通信し,貸出開始時に自車の予約情報を取得する。また,必要に応じて最寄りの駐車ステーションの位置情報・充電可否情報を得る。一方,定期的に,走行可能距離と各 I/F 経由で得られた自車の監視情報を,サーバに送信する。 駐車ステーションで充電ケーブルが接続されているときは,移動体通信網を利用したサーバとのインターネット接続を停止する。 車載端末の構成を図 2 に,車載端末の各部の機能を表 2 に示す。
図2 車載端末の構成
表2 車載端末の各部の機能
利用希望者からの予約を受け付け,EV の利用時間を割り当てる。 EV の利用時間割当てなどを参照し,各充電スタンドの充電スケジュールを管理する。そのとき,EV のバッテリ残量によって決まる充電所要時間を求めてスケジュールを決める。 車載端末から受信した情報によって,EV の現在位置,バッテリ残量,走行可能距離を監視し,状況によっては EV に必要な情報を送信する。 会員に対する連絡,会費・利用料金の請求などの管理を行う。
出題趣旨(IPA)
車の電子制御化,及び電気自動車の普及に伴い,自動車には数多くの組込みシステムが用いられるようになっている。また,移動体通信を走行時に利用することで,運行のスケジュール管理を詳細に行うことが可能になってきている。本問は,電気自動車専用のカーシェアリング運営システムを題材として,運営者及び利用者からの要望の分析に基づき,システムアーキテクチャの決定,機能仕様の検討や策定を行うことについて,具体的な記述を求めている。本問では,運営者及び利用者からの要望に加えて,電気自動車の特性,実現するためのコストなどの制約条件を考慮した,機能仕様の策定能力を評価する。
採点講評(問全体・IPA)
問4では,電気自動車専用カーシェアリング運営システムの開発を例にとり,機能及び要件の定義や,機能仕様の検討及び策定について出題した。全体として,正答率は高かった。
システムアーキテクトとして,開発対象システムの機能及び要件を正しく把握し,機能仕様にまとめる力を身に付けてほしい。
設問と解答例
設問1
解答欄5つ
運営システムの機能に関する次の記述中のa 〜e に入れる適切な字句を答えよ。車載端末は,EV を返却するためにa の位置情報をカーナビに送信する。カーナビは,現在位置からa までの最短経路を求め,道路の渋滞情報も参照してb 時間を求め,車載端末に返信する。車載端末は,c に間に合わないと判断した場合は,サーバに通知する。また,車載端末は,カーナビが示した最短距離に対して走行可能距離が不足すると判断した場合には,サーバに問い合わせてd の位置情報を得て,e に送信し,表示させる。
解説
本文の根拠
〔運営システムの運用〕
利用者は,返却予定時刻までに,貸出しを受けた駐車ステーションに EV を返却する。
〔運営システムの機能〕(2)
USB I/F 経由で,カーナビと通信し,現在位置,目的地までの距離及び所要時間の情報を得る。
〔運営システムの機能〕(2)
カーナビから得られる情報を監視し,返却予定時刻の超過又は走行可能距離の不足が予測される場合は,サーバに通知し,利用者に警告する。
〔運営システムの機能〕(2)
また,必要に応じて最寄りの駐車ステーションの位置情報・充電可否情報を得る。
〔運営システムに用いる EV の仕様概要〕
カーナビは,USB I/F 経由で他の機器と接続され,データの入出力,画像表示,音声の再生などができる。
EV は貸出しを受けた駐車ステーションに返却するので,車載端末がカーナビに送る返却先の位置情報は a「貸出しを受けた駐車ステーション」である。カーナビは現在位置からそこまでの最短経路を求め,渋滞情報も参照して所要時間を求める(b は「所要」)。車載端末はカーナビから得た情報を監視し,返却予定時刻の超過が予測される場合にサーバに通知するので,c は「返却予定時刻」になる。
走行可能距離が不足すると判断した場合は,最寄りの駐車ステーションで充電できる。車載端末は必要に応じてサーバから最寄りの駐車ステーションの位置情報を得るので,d は「最寄りの駐車ステーション」である。その位置情報を利用者に示すには,画像表示ができるカーナビに送って表示させればよいので,e は「カーナビ」になる。
字数制限はないが,a と d はどちらも駐車ステーションなので,「貸出しを受けた」と「最寄りの」で区別して書く。b は後に「時間」が続くので「所要」の2字だけを入れる。
設問2(1)
解答欄2つ
EV を返却するとき,キーの確認を行いたい。それぞれのキーボックスに,表 1 の構成品のいずれかを増設して,EV とキーの対応を確認することを検討した。増設すべき構成品を答えよ。また,それを用いた確認方法を,30 字以内で述べよ。
〔方法〕解答例
キーにRFタグを付け,追加したRFタグリーダで読み取る。
解説
本文の根拠
表1 RF タグリーダ
会員証の RF タグを読み取る。
表1 キーボックス
キーを保管する。自動開閉する扉がある。各駐車ステーションでの設置数は,EV 配備台数分とする。
〔運営システムの機能〕(1)
次に,充電ケーブルに対応するキーボックスにキーが返却されたことを確認し,キーボックスの扉を閉め,サーバに返却確認情報を送信する。
表1 の構成品のうち,物を識別して読み取る機能をもつのは RF タグリーダで,会員証の RF タグを読み取るのに使っている。キーにも RF タグを付け,それぞれのキーボックスに RF タグリーダを増設すれば,返却されたキーの RF タグを読み取って,どの EV のキーかを確かめられる。
充電スタンドは,EV が返却されたときに充電ケーブルに対応するキーボックスにキーが返却されたことを確認している。キーボックスは EV 配備台数分あり,充電ケーブルとの対応で EV が分かるので,キーボックスの中のキーを読み取れば EV とキーの対応を確認できる。充電ケーブルや制御部を増設しても,キーそのものは識別できない。
方法は30字で,「キーに RF タグを付け」と「追加した RF タグリーダで読み取る」の二つを入れる。解答例は構成品が「RFタグリーダ」,方法が「キーにRFタグを付け,追加したRFタグリーダで読み取る。」で28字。
設問2(2)
20字以内
ある充電スタンドの充電スケジュールを決める場合に,充電スタンドからサーバに送信しなければならない情報を,20 字以内で述べよ。
解答例
解説
本文の根拠
〔運営システムの機能〕(3)
EV の利用時間割当てなどを参照し,各充電スタンドの充電スケジュールを管理する。そのとき,EV のバッテリ残量によって決まる充電所要時間を求めてスケジュールを決める。
〔運営システムの機能〕(1)
充電ケーブルを介して,EV と定期的に通信し,バッテリ残量を読み取り,サーバに送信する。
〔運営システムの機能〕(1)
接続されている EV が複数台でも,1 台ずつ充電する。
充電スケジュールを決めるのはサーバで,EV のバッテリ残量から充電所要時間を求めて決める。そのためにサーバが充電スタンドから受け取る必要があるのは,駐車中の EV のバッテリ残量である。充電スタンドは充電ケーブルを介して EV と定期的に通信し,バッテリ残量を読み取ってサーバに送信している。
一つの充電スタンドは接続された EV を1台ずつ充電するので,スケジュールを決めるには,その充電スタンドに駐車している各 EV のバッテリ残量が要る。講評は,“充電所要時間”という解答が散見されたが,充電スタンドからサーバへ送信されるデータとしては不適切だとしている。充電所要時間はサーバがバッテリ残量から求めるものである。
20字で「駐車中の各 EV の」と対象を限って「バッテリ残量」と書く。解答例は「駐車中の各EVのバッテリ残量」で14字。
採点講評(IPA)
設問2(2)は,“充電所要時間”との解答が散見されたが,充電スタンドからサーバへ送信されるデータとしては不適切である。問題文を十分理解してもらいたい。
設問3(1)
解答欄4つ
車載端末は,定期的に,各 I/F 経由で得た自車の監視情報を,サーバに送信する。このとき用いられる I/F を二つ挙げ,それぞれから得られる監視情報を答えよ。
〔備考〕①,②は順不同
解説
本文の根拠
〔運営システムの機能〕(2)
車両通信 I/F 経由で,バッテリ残量,走行速度を監視し,走行可能距離を計算する。
〔運営システムの機能〕(2)
一方,定期的に,走行可能距離と各 I/F 経由で得られた自車の監視情報を,サーバに送信する。
〔運営システムの機能〕(3)
車載端末から受信した情報によって,EV の現在位置,バッテリ残量,走行可能距離を監視し,状況によっては EV に必要な情報を送信する。
サーバは車載端末から受信した情報で,EV の現在位置,バッテリ残量,走行可能距離を監視する。このうち走行可能距離は車載端末が計算して別に送るものなので,各 I/F 経由で得た監視情報は現在位置とバッテリ残量である。
バッテリ残量は車両通信 I/F 経由で電子制御ユニットから得る。現在位置は USB I/F 経由でカーナビから得る。カメラ入力 I/F は車内カメラの画像を入力して画像記録用メモリに記録するためのもので,定期的にサーバへ送る監視情報には当たらない。
字数制限はないが,I/F と監視情報を対にして答える。解答例は①が「車両通信I/F」と「バッテリ残量」,②が「USB I/F」と「現在位置」。①,②は順不同。
設問3(2)
解答欄2つ
運転開始時に利用予約者を確認するために,運転者の顔認証を行うことを検討した。新たに専用機器を追加せずに,サーバで認証を行うようにしたい。車載端末から送信すべき情報は何か。また,その情報を車載端末に入力する方法を,20 字以内で述べよ。
解説
本文の根拠
〔運営システムの機能〕(2)
事故の状況を把握したり,車内の状況を確認したりするために,車内,車外を撮れる車内カメラによる画像を記録する。
表2 カメラ入力 I/F
車内カメラからの画像を入力する。
顔認証をサーバで行うには,運転者の顔の画像を車載端末からサーバに送ればよい。送信すべき情報は顔画像データである。
新たに専用機器を追加しないという条件なので,顔の撮影には既にある車内カメラを使う。車内カメラは車内,車外を撮れ,カメラ入力 I/F から車載端末に画像を入力できる。車載端末は移動体通信モジュールでサーバと通信できるので,撮影した顔画像をそのままサーバへ送信できる。
方法は20字で,「車内カメラで」と「運転者の顔を撮影する」を入れる。解答例は情報が「顔画像データ」,方法が「車内カメラで運転者の顔を撮影する。」で17字。
設問4(1)
30字以内
車内カメラの画像を常時記録するためには,大容量の画像記録用メモリが必要になる。そこで,メモリ使用量を少なくするために,異常発生時にその前後それぞれの一定時間の記録を残すことにしたい。この場合の記録方法を,30 字以内で述べよ。
解答例
一定時間を経過した画像データ部分から順次上書きする。
解説
本文の根拠
〔運営システムに対する要望〕
事故が発生した時の画像記録を残し,要因及び責任の所在を調査できるようにしてほしい。
表2 画像記録用メモリ
車内カメラから入力した画像を記録する。
異常発生時の前後それぞれ一定時間の記録を残すには,異常が起きる前の画像も記録されていなければならない。そこで画像は常に記録し続けるが,一定時間を経過した部分から順に上書きしていけば,メモリには直近の一定時間分だけが残り,使用量が一定に抑えられる。異常が発生したら,その後の一定時間を記録したところで上書きをやめれば,前後の記録が残る。
講評は,“異常発生をトリガにして記録開始する”という解答が散見されたとしている。問題文は異常発生時の“前後”の記録を残すとしているので,異常が起きてから記録を始めたのでは,発生前の画像が残らない。
30字で「一定時間を経過した画像データ部分から」と「順次上書きする」を入れる。解答例は「一定時間を経過した画像データ部分から順次上書きする。」で26字。
採点講評(IPA)
設問4(1)は,“異常発生をトリガにして記録開始する”との解答が散見された。問題文に異常発生時の“前後”の記録を残す必要があると記述しているので,要件を正確に理解し,実現できる方法を求められていることを理解してほしい。
設問4(2)
解答欄2つ
EV の盗難を監視するために,利用開始時の手続を無視して充電ケーブルが EV から切り離されたことを,充電スタンドの機能を用いて検知したい。検知に利用できる充電スタンドの機能は何か。また,その検知方法を,20 字以内で述べよ。
解説
本文の根拠
〔運営システムの機能〕(1)
充電ケーブルを介して,EV と定期的に通信し,バッテリ残量を読み取り,サーバに送信する。
〔運営システムに用いる EV の仕様概要〕
また,LAN は,充電ケーブルを介して外部の充電スタンドと接続でき,EV と充電スタンドとの間で EV の識別情報,バッテリ残量の確認などの通信を可能とする。
充電スタンドは,充電ケーブルを介して EV と定期的に通信し,バッテリ残量を読み取っている。この定期的な通信は,充電ケーブルが EV につながっている間だけ成り立つ。
利用開始時の手続を経ずに充電ケーブルが EV から切り離されると,この定期的な通信が途絶える。正規の貸出しでは認証の後に充電ケーブルのロックを解除するので,充電スタンドは切り離しが正規かどうかを区別できる。手続なしに通信が途絶えたことを検知すれば,盗難の疑いとして扱える。
方法は20字で「通信が途絶えたことを検知する」と書く。解答例は機能が「EVとの定期的な通信」,方法が「通信が途絶えたことを検知する。」で15字。
出典:平成24年度 秋期 システムアーキテクト試験 午後Ⅰ 問4(表記を一部改変)
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