令和4年度 春期に実施されたITストラテジスト試験
午後Ⅰの全4問(記述式)です。事例本文・設問・解答例と解説をそのまま読めます。
この試験について:ITストラテジスト試験について
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問1 国際物流会社におけるデジタルトランスフォーメーション
国際物流会社におけるデジタルトランスフォーメーションに関する次の記述を読んで,設問1〜4に答えよ。
A 社は,中堅の国際物流会社で,中国・アジアを中心に複数拠点があり,国内での荷物の引取り,輸出手続,輸出こん包,国際輸送から,海外での輸入手続前の貨物を保管する保税倉庫の管理,輸入手続,現地配送までをワンストップでサービス提供する国際配送体制を整えて,物流サービスの提供料による売上げを伸ばしてきた。近年,国際的な物流ネットワークの発展とスマートフォンの普及によるインターネットユーザが増加している。インターネットの通信販売サイトを通じて,海外の消費者に日本国内の商品を販売する国際的な電子商取引(以下,越境 EC という)の市場が拡大しており,A 社も,物流サービスだけでなく,越境 EC 分野のサービスを提供している。そこで,A 社は,デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進によってビジネスモデルを変革することで,A 社の事業全体を成長させるための IT 戦略を立案した。
〔これまでの A 社の取組〕
A 社の顧客には,地元特産品や名産品を生産する中小のメーカや販売会社が多い。越境 EC は海外向け BtoC ビジネスなので,現地に拠点や代理店をもたない企業でも,初期投資額を抑えながら世界進出を狙える。ただし,越境 EC を行うには,通信販売とはいえ貿易の専門知識が必要であり,多言語,多通貨に対応した EC サイトの開設や海外の EC モールに出店するノウハウも必要になる。A 社は,このような世界進出を狙う顧客に向けて,SaaS 型の越境 EC システムを活用するサービス(以下,越境 EC サービスという)を提供している。越境 EC サービスとして,越境 EC サイトのコンテンツ管理,出品管理,商品管理,注文管理,決済管理,会員管理の機能をもった越境 EC システムとその運用を提供しており,近年,越境 EC サービスの売上げが徐々に伸びている。顧客のカスタマイズ要望に応じた開発も行っているが,越境 EC サービスを開始した当初は,カスタマイズ要望は少ないと想定していたので,処理効率を考慮して,統合されたデータベースに各機能が密結合で連携するシステム構成となっている。
〔A 社のサービスの課題〕
A 社は,IT 戦略の立案に当たって,越境 EC サービスを利用する顧客のニーズをヒアリングした。その結果,A 社は,次の三つの課題を解決することによるビジネスモデルの変革を検討した。
市場において EC モールなどのチャネルや決済方法が次々と新しくなっており,こうした変化に対応するために,顧客から頻繁に個別のカスタマイズ要望がある。越境 EC サービスでは,小さなカスタマイズ要望でも,システム全体に影響することが多く,開発規模が大きくなる傾向にある。A 社は,できるだけ多くのカスタマイズ要望に迅速に応えたいが,開発期間やコストを要するので限界がある。
A 社の顧客は,海外の SNS を活用したマーケティング活動によって幅広い消費者層を取り込んで,注文を獲得したいと考えている。A 社は,消費者の注文の受付から現地への発送までは提供できているが,マーケティング活動の支援はできていない。
A 社の顧客の多くは,現地で在庫をもつ仕組みがないので,商品を配送する場合,日本から海外へ直送するしかない。直送のリードタイムは,国によっては 2 週間以上掛かることが多く,消費者は送料も負担する必要があるので,A 社の顧客は,消費者の満足を得られていないと考えている。A 社は,現地の輸入手続前に関税を留保したまま保管が可能な保税倉庫を利用して,顧客の在庫を預かるサービスを提供している。A 社の顧客にこのサービスを利用してもらうことができれば,保税倉庫へ商品をロットで輸送して保管しておき,そこから消費者への配送を手配できるので,リードタイムを短縮でき,送料負担も軽減できる。しかし,A 社の顧客は,売れ残りによる保管料の負担や返送又は廃棄の費用の負担を懸念しているので,保税倉庫の利用に前向きではない。
〔A 社の DX 推進〕
A 社は,ビジネスモデルを変革することで,三つの課題を解決し,越境 EC サービスの利用料による売上げだけでなく,物流サービスの提供料による売上げも伸ばすことができると考えた。そこで,A 社は次のような IT 戦略を策定し,DX を推進した。
A 社は,小さなカスタマイズ要望が大きな開発につながらないようにするために,越境 EC システムを再構築する。再構築する越境 EC システムでは,アプリケーションソフトウェアを機能ごとに分割して,独立したそれぞれの機能を一つのマイクロサービスとして管理する。そして,各マイクロサービスを組み合わせて,相互に疎結合で連携して機能するシステム構成にする。A 社は,越境 EC システムをマイクロサービス化することによって,顧客に必要な機能を選んで利用してもらい,カスタマイズ要望による追加機能や機能の改変が頻繁に発生しても,マイクロサービス単位で改修を行うことで,システム全体への影響を抑えながら,迅速に対応できると考えた。さらに,各機能を疎結合で連携させることによって,API エコノミーを活用するなど,A 社からも顧客の売上増に結び付くビジネスモデルを提案しやすくなると考えた。
A 社は,顧客のマーケティング活動を支援するために,API エコノミーの活用を具体的に進めた。消費者が使い慣れた SNS などのアカウントを使った認証サービスによって,顧客の越境 EC サイトへの会員登録を省力化できるソーシャルサインインを導入する。A 社は,消費者が SNS のショッピングタグから越境 EC サイトに入りやすくなれば,A 社の顧客が消費者からの注文を獲得しやすくなると考えた。A 社は,顧客のマーケティング活動の効果を適切に把握するために,ソーシャルサインインに加え,SNS 上のライブコマースとデジタル広告を活用したテストマーケティングを行った。テストマーケティングでは,SNS を経由して会員登録した会員からの注文を,予想以上に獲得することができた。これによって,ソーシャルサインインは,マーケティング活動を支援するサービスとして成立することが検証できた。
A 社は,消費者の満足度の向上のために,保税倉庫を活用した配送は不可欠だと考えた。保税倉庫に在庫を確保した場合,販売見込みが大きく外れたとしても,長期滞留や別の倉庫への在庫移動は国内の倉庫のように手続上容易ではない。そのため,保税倉庫を活用するには,需要予測に基づいた適切な在庫管理が必要になるが,A 社の顧客は,需要予測を行うシステムやノウハウをもたない企業がほとんどである。そこで,越境 EC サービスで,A 社の顧客の販売商品の特性に応じて,適切な在庫管理が行える需要予測サービスを新たに提供することを考えた。A 社は,EC サイトや EC モールでの売上実績や消費者の商品の検索履歴に加えて,イベントの実施や SNS への発信,広告配信といったマーケティング活動のデータなどを収集して,需要を予測するためのデータとして蓄積する。A 社は,AI を活用して大量のデータから相関関係を分析する需要予測サービスによって,A 社の顧客が,売れ筋商品の在庫を補充するロットとタイミングを判断したり,イベントを実施する際に必要な在庫量を事前に確保したりすることができると考えた。
A 社は,こうした DX の推進によって,ビジネスモデルの変革を実現した。
出題趣旨(IPA)
ITストラテジストには,情報技術を活用して事業を改革,高度化,最適化するための基本戦略を策定する能力が求められる。本問では,国際物流会社の越境EC事業によるデジタルトランスフォーメーション(DX)を題材として,事業環境の変化に対応するビジネスモデル変革を推進するために,ITを活用した新サービスの構想・計画の実行と評価・改善を行う能力を評価する。具体的には,越境ECシステムの再構築によって事業全体を成長させるために解決すべき課題の分析,ITを活用したサービスの見直しへの対応などについて,実務能力を問う。
採点講評(問全体・IPA)
問1では,国際物流会社におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)について出題した。全体として正答率は平均的で,状況設定はおおむね理解されているようであった。
ITストラテジストは,対象となる事業・業務環境を分析,評価した上で,デジタル技術の的確な活用を判断し,事業戦略を推進する能力を高めてほしい。
設問と解答例
設問1
35字以内
〔A 社のサービスの課題〕について,A 社は課題を解決することによって,どのように事業を成長させようと考えたか,35 字以内で述べよ。
解答例
越境ECサービスと物流サービスの両方の事業の売上げを成長させる。
解説
本文の根拠
冒頭
A 社は,デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進によってビジネスモデルを変革することで,A 社の事業全体を成長させるための IT 戦略を立案した。
〔A 社の DX 推進〕
A 社は,ビジネスモデルを変革することで,三つの課題を解決し,越境 EC サービスの利用料による売上げだけでなく,物流サービスの提供料による売上げも伸ばすことができると考えた。
A 社には物流サービスと越境 EC サービスの二つの事業がある。冒頭で IT 戦略の狙いは「A 社の事業全体を成長させる」ことだとされ,〔A 社の DX 推進〕では三つの課題を解決することで「越境 EC サービスの利用料による売上げだけでなく,物流サービスの提供料による売上げも伸ばす」と書かれている。事業全体の成長とは,この二つの事業の売上げをともに伸ばすことである。
課題の(3)がこのつながりを示している。顧客が保税倉庫を使うようになれば,越境 EC サービスの顧客が A 社の物流サービス(保税倉庫の管理,現地配送)の利用者にもなる。越境 EC サービスを入口にして物流サービスの売上げまで伸ばすので,答えは越境 EC サービスだけの成長にとどめず,「両方の事業」とする。
35字以内。解答例は32字。「越境 EC サービス」「物流サービス」「両方の売上げを成長」の三つを入れる。
設問2(1)
35字以内
小さなカスタマイズ要望が大きな開発につながる現状の越境 EC システムの仕組み上の原因について,35 字以内で述べよ。
解答例
統合されたデータベースに各機能が密結合で連携するシステム構成
解説
本文の根拠
〔これまでの A 社の取組〕
越境 EC サービスを開始した当初は,カスタマイズ要望は少ないと想定していたので,処理効率を考慮して,統合されたデータベースに各機能が密結合で連携するシステム構成となっている。
〔A 社のサービスの課題〕(1)
越境 EC サービスでは,小さなカスタマイズ要望でも,システム全体に影響することが多く,開発規模が大きくなる傾向にある。
小さなカスタマイズ要望でも「システム全体に影響する」のは,現状の越境 EC システムが「統合されたデータベースに各機能が密結合で連携するシステム構成」だからである。機能どうしが密結合で一つのデータベースを共有していると,一つの機能を変えるだけでも他の機能への影響を確かめて直す必要が生じ,開発規模が大きくなる。
再構築後の構成と比べると原因がはっきりする。〔A 社の DX 推進〕①では,機能ごとに分割したマイクロサービスを「相互に疎結合で連携」させ,「マイクロサービス単位で改修を行うことで,システム全体への影響を抑え」るとしている。再構築で変える点(密結合→疎結合)が,そのまま現状の仕組み上の原因である。
35字以内。解答例は30字。〔これまでの A 社の取組〕の一文から「統合されたデータベース」「密結合で連携」「システム構成」を抜き出せばよい。
設問2(2)
30字以内
越境 EC システムの再構築によって,A 社サービスのどのような課題を解決できるか,30 字以内で述べよ。
解答例
顧客からの頻繁なカスタマイズ要望に迅速に応えること
解説
本文の根拠
〔A 社のサービスの課題〕(1)
こうした変化に対応するために,顧客から頻繁に個別のカスタマイズ要望がある。
〔A 社のサービスの課題〕(1)
A 社は,できるだけ多くのカスタマイズ要望に迅速に応えたいが,開発期間やコストを要するので限界がある。
〔A 社の DX 推進〕①
カスタマイズ要望による追加機能や機能の改変が頻繁に発生しても,マイクロサービス単位で改修を行うことで,システム全体への影響を抑えながら,迅速に対応できると考えた。
越境 EC システムの再構築は,三つの課題のうち(1)市場の変化への対応に当たる。そこで A 社がしたいことは「できるだけ多くのカスタマイズ要望に迅速に応えたい」であり,要望は「顧客から頻繁に」寄せられる。再構築によって,頻繁なカスタマイズ要望にもマイクロサービス単位の改修で迅速に対応できるようになる。解決できる課題は「顧客からの頻繁なカスタマイズ要望に迅速に応えること」である。
講評によれば,“小さなカスタマイズ要望でも大きな開発につながる”という答えが見られた。これは設問2(1)で問われた現状の原因の側で,A 社が解決したい課題そのものではない。課題は,要望が頻繁にあることと,それに迅速に応える必要があることの二点を押さえて書く。
30字以内。解答例は25字。「頻繁な」「カスタマイズ要望」「迅速に応える」を入れる。
採点講評(IPA)
設問2(2)は,正答率が低く,“小さなカスタマイズ要望でも大きな開発につながる”という解答が見受けられた。ここでは,顧客からのカスタマイズ要望が頻繁にある点と,それに迅速に応える必要がある点に着目して,越境ECシステムを再構築するA社の考えを理解してほしい。
設問3
25字以内
〔A 社の DX 推進〕の②マーケティング活動の支援について,A 社が API エコノミーの活用を具体的に進めることによって,A 社の顧客が得られるメリットは何か,25 字以内で述べよ。
解答例
解説
本文の根拠
〔A 社のサービスの課題〕(2)
A 社の顧客は,海外の SNS を活用したマーケティング活動によって幅広い消費者層を取り込んで,注文を獲得したいと考えている。
〔A 社の DX 推進〕②
A 社は,消費者が SNS のショッピングタグから越境 EC サイトに入りやすくなれば,A 社の顧客が消費者からの注文を獲得しやすくなると考えた。
〔A 社の DX 推進〕②
テストマーケティングでは,SNS を経由して会員登録した会員からの注文を,予想以上に獲得することができた。
API エコノミーの活用として A 社が具体的に進めたのは,SNS などのアカウントを使うソーシャルサインインの導入である。A 社は,消費者が SNS のショッピングタグから越境 EC サイトに入りやすくなれば,「A 社の顧客が消費者からの注文を獲得しやすくなる」と考えた。テストマーケティングでも「SNS を経由して会員登録した会員からの注文」を予想以上に獲得できた。顧客のメリットは,SNS 経由の消費者からの注文を獲得しやすくなることである。
講評によれば,“消費者が越境 EC サービスを利用しやすくなる”という答えが散見された。これは消費者の側の便利さで,設問が問う「A 社の顧客が得られるメリット」ではない。また API エコノミーの活用は SNS を使ったマーケティングに具体的に絞られているので,「SNS 経由」を落とさない。課題(2)で顧客が望んでいたのも,SNS を活用したマーケティングで注文を獲得することだった。
25字以内。解答例は24字。「SNS 経由」「消費者からの注文」「獲得しやすくなる」を入れる。
採点講評(IPA)
設問3では,“消費者が越境ECサービスを利用しやすくなる”という解答が散見された。A社はSNSのアカウントをもつ消費者が注文しやすいようにソーシャルサインインを導入し,テストマーケティングを行っている。具体的にターゲットを定めて,APIエコノミーを活用している点を理解してほしい。
設問4(1)
30字以内
消費者の満足度の向上のために,保税倉庫を活用した配送が不可欠だと A 社が考えた理由について,30 字以内で述べよ。
解答例
リードタイムを短縮でき,消費者の送料負担も軽減できるから
解説
本文の根拠
〔A 社のサービスの課題〕(3)
直送のリードタイムは,国によっては 2 週間以上掛かることが多く,消費者は送料も負担する必要があるので,A 社の顧客は,消費者の満足を得られていないと考えている。
〔A 社のサービスの課題〕(3)
保税倉庫へ商品をロットで輸送して保管しておき,そこから消費者への配送を手配できるので,リードタイムを短縮でき,送料負担も軽減できる。
日本から海外への直送では,リードタイムが2週間以上掛かることが多く,消費者は送料も負担する。この二点が消費者の満足を得られていない理由である。保税倉庫にロットで輸送して保管しておけば,そこから消費者へ配送できるので,リードタイムを短縮でき,送料負担も軽減できる。満足度を下げていた二つの原因を両方とも取り除けるので,保税倉庫を活用した配送は不可欠と考えた。
課題(3)の段落の前半(満足を得られていない理由)と後半(保税倉庫の効果)が対応している。理由を問われているので,保税倉庫の効果を消費者の満足の側から書き,リードタイムと送料の両方に触れる。
30字以内。解答例は28字。「リードタイムを短縮」「消費者の送料負担も軽減」を入れ,文末を「〜から」とする。
設問4(2)
解答欄2つ
需要予測の情報を用いて,A 社の顧客はどのように在庫管理を行うことができると考えたか,具体的に二つ挙げ,それぞれ 30 字以内で述べよ。
〔①〕解答例
売れ筋商品の在庫を補充するロットとタイミングを判断する。
〔②〕解答例
イベントを実施する際に必要な在庫量を事前に確保する。
解説
本文の根拠
〔A 社の DX 推進〕③
保税倉庫に在庫を確保した場合,販売見込みが大きく外れたとしても,長期滞留や別の倉庫への在庫移動は国内の倉庫のように手続上容易ではない。
〔A 社の DX 推進〕③
A 社の顧客が,売れ筋商品の在庫を補充するロットとタイミングを判断したり,イベントを実施する際に必要な在庫量を事前に確保したりすることができると考えた。
〔A 社の DX 推進〕③の最後の文に,需要予測サービスによって A 社の顧客ができるようになることが二つ並んでいる。一つは売れ筋商品の在庫を補充するロットとタイミングを判断すること,もう一つはイベントを実施する際に必要な在庫量を事前に確保することである。
保税倉庫では,販売見込みが外れても長期滞留や別の倉庫への在庫移動が容易ではないので,入れる量と時期をあらかじめ見極める必要がある。需要予測は,売上実績や検索履歴に加えてイベントや SNS 発信などのマーケティング活動のデータまで使うので,平常時の補充(売れ筋商品)と,イベント時の事前確保の両方に使える。「具体的に」と求められているので,本文の二つの場面をそのまま書く。
各30字以内。解答例は28字と26字。①は「売れ筋商品」「ロットとタイミング」,②は「イベント」「必要な在庫量を事前に確保」を入れる。
出典:令和4年度 春期 ITストラテジスト試験 午後Ⅰ 問1(表記を一部改変)
問2 製造業の情報システム戦略の策定
製造業の情報システム戦略の策定に関する次の記述を読んで,設問1〜4に答えよ。
M 社は,工作機械の組立製造を事業とする中堅の上場会社であり,本社とそれに隣接する工場から成る。
〔M 社の状況〕
M 社は自動車製造会社など,長年取引のある複数の顧客をもち,業績は安定している。また,資材の仕入先とは強いつながりを保ったグループを形成して,これまで資材の仕入れが滞るようなことはなかった。
しかし,近年では,気候変動が原因とみられる風水害などでサプライチェーンが寸断され,資材が不足して製品製造が遅滞するなど業績の不確実性が高まっている。さらに,仕入れた資材に含まれる部品を製造した工場などで強制労働や人権侵害などの問題があれば,1 次仕入先でなくとも,顧客からの取引停止や風評被害による業績への影響も懸念されるようになってきている。また,株主や顧客などのステークホルダからは,気候変動や経済格差などの環境や社会に起因する事業リスクを考慮した事業の継続性について関心をもたれている。
M 社では,これまでも金利や為替の変動,輸入原料の市況変動,製品イノベーションの進展による市場変化などの事業リスクとその対応に関して,国のガイドラインに準じてサステナビリティレポートを毎年公表してきたが,新たな事業リスクも含め自社の実状に応じてより踏み込んだ報告が必要になっていると考えている。
〔仕入れの問題点〕
M 社の製品は多くの部品から構成されており,組立てや塗装では石油系溶剤を利用しているので,資材の仕入先は多岐にわたる。また,1 次仕入先から納品される資材はさらに 2 次仕入先の資材から構成されているなど,サプライチェーンは長く複雑になっている。M 社と仕入先各社では,サプライチェーンの寸断を防ぐために,一つの資材を複数の事業者から仕入れてきた。しかし,近年,パンデミックなどによる海外の工場の操業停止に伴い半導体関連の資材全般が品薄状態になり,M 社でも半導体とは直接は関係しない資材の仕入れも不安定になった経緯がある。M 社としては,どのような状況でも製造が停止しないよう,サプライチェーンに関わる事業者でグループを組成し直し,サプライチェーン全体を通して安定的に資材を仕入れられる代替方法の確保をする必要があると考えている。
〔サステナビリティの取組における問題点〕
M 社では,これまで,環境対策として,製造工程の見直しや,工場電力の再生可能エネルギー化によって,炭素排出量の削減を図ってきた。製品全体での炭素排出量を算定する最近の動向から,仕入先と共同して炭素排出量削減に取り組むために,M 社でも資材の炭素排出量を含めて削減目標を設定しており,社外からも一定の評価を得ている。
仕入先である事業者は,それぞれ独自に温暖化シナリオの前提条件と計測指標を設定し,炭素排出量・削減目標を算定してステークホルダに報告している。M 社では,1 次仕入先からの報告内容を基にして,M 社指標に合わせて算定し直してサステナビリティレポートを作成している。1 次仕入先でも,2 次仕入先からの報告内容を基に算定し直している。2 次仕入先以降についても同様である。M 社としては,現状では,サプライチェーン全体での炭素排出量・削減目標を正しく算定できていない可能性があると考え,全ての事業者の取組状況を把握することで,サステナビリティレポートの信頼性を確保したいと考えている。
M 社が開示しているサステナビリティレポートの報告内容には,社内システムで登録されている一部のデータの出力・集計ができないことから,人事,財務,生産・在庫管理の各部門が手作業で集計している結果が含まれる。集計時期は期末の業務繁忙期に当たるので,集計に時間が掛かるとともに,各部門の担当者の異動によって集計されるデータの対象や範囲が都度変動してしまい,報告結果の精度が一定に保たれていないおそれがある。
〔ESG 経営の取組〕
M 社では,サステナビリティへの取組をさらに推進するために,ESG(環境・社会・企業統治)を重視した経営を実践することにした。これによって,中長期的な事業リスクとその対応を進め,経済的及び社会的な企業価値の向上を目指す。これに合わせて,サステナビリティレポートについては ESG の観点に沿って見直し,炭素排出量・削減目標,M 社と仕入先の人権・労働衛生安全の情報,内部統制インシデント情報などの項目を追加し,より踏み込んだ報告を行う。
〔M 社システムと情報システム戦略の策定〕
M 社の主なシステムには,生産管理・在庫管理を行う工場システムのほか,財務システム,購買システム,人事システムがある。
M 社のシステムは,子会社の S 社が開発・保守・運用を担当している。S 社は,M 社で得たノウハウを活用して生産管理システムなどを外販している。また,ブロックチェーンを使い,データの真正性を維持しセキュアに共有できるようにした信用状や取引契約関連の電子化システム(以下,BC システムという)も開発し外販している。
M 社は,現状の事業リスクに対応し,業績の確実性を高めるために,S 社の支援を受けて,次の内容を含む全社の情報システム戦略を策定することにした。
① サプライチェーン管理システム基盤(以下,SC 基盤という)の新規開発 ② 購買システムの改修 ③ サステナビリティレポート作成システム(以下,レポートシステムという)の新規開発 システム整備後のイメージを図1に示す。
図1 システム整備後のイメージ
〔SC 基盤の新規開発〕
サプライチェーン全体での資材の受発注取引を管理するプラットフォームとして,SC 基盤を新たに開発する。SC 基盤の参加事業者は,受発注取引の都度,資材品目と受発注額を記録するほか,各仕入先で製造に使用する原材料品目と数量,製造地,及び納品物在庫量を登録する。また,各仕入先は,年次で,自社の炭素排出量・削減目標,その算定の前提条件と計測指標を SC 基盤に登録し,M 社と協議して ESG への取組推進を図る。零細企業などで SC 基盤への参加に難色を示す仕入先に対しては M 社が作業支援を行い,サプライチェーン全ての仕入先が何らかの形で ESG の取組に参加できるよう計画する。
SC 基盤の開発では,BC システムを活用し,その機能をクラウドコンピューティングサービス基盤に移設して実現する。SC 基盤に登録されたデータへの参照値をブロックチェーンに登録し,そのハッシュ値を QR コードにして資材に貼付することによって資材のトレーサビリティ確保や偽装防止などを実現する。
〔購買システムの改修〕
購買システムでは,SC 基盤のデータから,製品に必要な全ての資材の所要量を関連付けた表(以下,サプライチェーンマトリクスという)を作成できるよう改修する。サプライチェーンマトリクスからは,製品に必要な資材や,その資材の製造に必要な資材が分かる。受発注の状況などから,特定の事業者からの供給が停滞するリスクが検出された場合,サプライチェーンマトリクスを活用して,サプライチェーンの組替えを提案する機能を開発する。
〔レポートシステムの新規開発〕
レポートシステムはサステナビリティレポートの作成を支援する。レポートシステムは,SC 基盤のデータを参照するほか,工場システム,財務システム,人事システムと API で連携してデータ収集する仕組みにして,各部門での手作業での集計業務を不要にする。
併せて,工場システム,財務システム,人事システムにレポートシステムと連携する機能を追加開発する。
出題趣旨(IPA)
ITストラテジストには,業種ごとの事業特性を踏まえて,事業戦略実現に向けた情報システム戦略や全体システム化計画を策定する能力が求められる。本問では,製造業の情報システム戦略を題材として,外部や内部の変化や制約に対応したシステム戦略を策定する能力を評価する。具体的には,情報システム戦略の策定の狙い,整備される各システムの機能が実現できる理由や目的などを問う。
採点講評(問全体・IPA)
問2では,製造業の情報システム戦略の策定について出題した。全体として正答率は平均的で,状況設定はおおむね理解されているようであった。
ITストラテジストは,社内外の環境変化に応じて,ITを活用した情報戦略を策定する能力を高めてほしい。
設問と解答例
設問1
解答欄2つ
〔M 社システムと情報システム戦略の策定〕について,業績の確実性を高めるために策定する情報システム戦略の対象となる事業リスクのうち,サプライチェーンに起因する事業リスクと,仕入先と顧客に起因する事業リスクについて,それぞれ 20 字以内で具体的に述べよ。
解説
本文の根拠
〔M 社の状況〕
気候変動が原因とみられる風水害などでサプライチェーンが寸断され,資材が不足して製品製造が遅滞するなど業績の不確実性が高まっている。
〔M 社の状況〕
仕入れた資材に含まれる部品を製造した工場などで強制労働や人権侵害などの問題があれば,1 次仕入先でなくとも,顧客からの取引停止や風評被害による業績への影響も懸念されるようになってきている。
〔M 社システムと情報システム戦略の策定〕
M 社は,現状の事業リスクに対応し,業績の確実性を高めるために,S 社の支援を受けて,次の内容を含む全社の情報システム戦略を策定することにした。
情報システム戦略は「業績の確実性を高める」ためのもので,裏返せば〔M 社の状況〕に書かれた業績を不確実にする事業リスクが対象になる。サプライチェーンに起因するものは,風水害などでサプライチェーンが寸断され「資材が不足して製品製造が遅滞する」リスクである。仕入先と顧客に起因するものは,仕入先の工場で強制労働や人権侵害があった場合の「顧客からの取引停止や風評被害」のリスクである。
二つ目は,原因が仕入先(の工場の人権問題)にあり,影響が顧客(取引停止)や世間(風評)から来るので「仕入先と顧客」の欄に当たる。同じ段落の金利や為替の変動,輸入原料の市況変動などは,これまでもサステナビリティレポートで扱ってきた事業リスクで,今回の戦略の対象として新たに挙げられたものではない。
各20字以内で「具体的に」。解答例は18字と13字。サプライチェーンは「資材が不足」「製品製造が遅滞」,仕入先と顧客は「取引停止」「風評被害」を入れる。
設問2(1)
30字以内
SC 基盤を新たに構築する目的には,資材のトレーサビリティの確保や偽装防止に加えて何があるか,30 字以内で述べよ。
解答例
解説
本文の根拠
〔サステナビリティの取組における問題点〕
M 社としては,現状では,サプライチェーン全体での炭素排出量・削減目標を正しく算定できていない可能性があると考え,全ての事業者の取組状況を把握することで,サステナビリティレポートの信頼性を確保したいと考えている。
〔SC 基盤の新規開発〕
各仕入先は,年次で,自社の炭素排出量・削減目標,その算定の前提条件と計測指標を SC 基盤に登録し,M 社と協議して ESG への取組推進を図る。
〔SC 基盤の新規開発〕
サプライチェーン全ての仕入先が何らかの形で ESG の取組に参加できるよう計画する。
SC 基盤には,受発注の記録や原材料などのほか,各仕入先の炭素排出量・削減目標と,その算定の前提条件・計測指標が登録される。零細企業も含めてサプライチェーン全ての仕入先が参加できるようにする。これは〔サステナビリティの取組における問題点〕で M 社が望んでいた「全ての事業者の取組状況を把握すること」に当たり,その先の目的は「サステナビリティレポートの信頼性を確保」することである。
現状は,各事業者が独自の前提条件と計測指標で算定した結果を,1次仕入先,M 社と段階ごとに算定し直しているので,サプライチェーン全体の数値が正しいか分からない。SC 基盤で全仕入先の前提条件と計測指標までそろえて把握すれば,この問題が解ける。講評は,“手作業で時間が掛かる”“集計精度が良くない”といった M 社内の問題の解決を目的とした答えが見られたと指摘している。それらは社内システムの集計の問題で,設問4で扱うレポートシステムの側である。SC 基盤の目的は,サプライチェーン全体での炭素排出量・削減目標の正しい算定の側から考える。
30字以内。解答例は23字。「サステナビリティレポート」「信頼性を確保」を入れ,目的なので「〜ため」で結ぶ。
採点講評(IPA)
設問2(1)は,正答率が低かった。M社内の問題である“手作業で時間が掛かる”や“集計精度が良くない”など,の解決を目的とした解答が見受けられた。SC基盤の目的には,資材のトレーサビリティ確保のほかに,サプライチェーン全体での炭素排出量・削減目標の正しい算定が背景にあることに気付いてほしい。
設問2(2)
35字以内
SC 基盤の開発で BC システムを活用し資材のトレーサビリティ確保や偽装防止をする理由は何か,35 字以内で述べよ。
解答例
データの真正性を維持しセキュアに共有できるようにしたいから
解説
本文の根拠
〔M 社システムと情報システム戦略の策定〕
ブロックチェーンを使い,データの真正性を維持しセキュアに共有できるようにした信用状や取引契約関連の電子化システム(以下,BC システムという)も開発し外販している。
〔SC 基盤の新規開発〕
SC 基盤に登録されたデータへの参照値をブロックチェーンに登録し,そのハッシュ値を QR コードにして資材に貼付することによって資材のトレーサビリティ確保や偽装防止などを実現する。
BC システムは,ブロックチェーンを使って「データの真正性を維持しセキュアに共有できるようにした」システムである。SC 基盤には,サプライチェーンに参加する多くの事業者が受発注や原材料,製造地などのデータを登録し,互いに共有する。トレーサビリティ確保や偽装防止を実現するには,これらのデータが改ざんされていない(真正である)ことと,参加事業者の間で安全に共有できることが必要なので,その特性をもつ BC システムを活用する。
本文には BC システムの特性が一文で書かれており,それが理由の中心になる。講評によれば“安定的な資材の確保のため”という答えが見られたが,これはサプライチェーンの組替えを提案する購買システムの改修で実現することで,BC システムを活用する理由ではない。
35字以内。解答例は29字。「データの真正性を維持」「セキュアに共有」を入れ,理由なので「〜から」で結ぶ。
採点講評(IPA)
設問2(2)は,正答率が低かった。“安定的な資材の確保のため”という解答が見受けられた。これは購買システムの改修で実現できる機能であり,BCシステムを活用する理由ではないことを理解してほしい。
設問3(1)
25字以内
提案機能を開発する狙いは何か,25 字以内で述べよ。
解答例
解説
本文の根拠
〔仕入れの問題点〕
M 社としては,どのような状況でも製造が停止しないよう,サプライチェーンに関わる事業者でグループを組成し直し,サプライチェーン全体を通して安定的に資材を仕入れられる代替方法の確保をする必要があると考えている。
〔購買システムの改修〕
受発注の状況などから,特定の事業者からの供給が停滞するリスクが検出された場合,サプライチェーンマトリクスを活用して,サプライチェーンの組替えを提案する機能を開発する。
組替えの提案機能は,特定の事業者からの供給が停滞するリスクが検出されたときに,サプライチェーンの組替えを提案するものである。〔仕入れの問題点〕で M 社は,どのような状況でも製造が停止しないよう「サプライチェーン全体を通して安定的に資材を仕入れられる代替方法の確保」が必要だと考えていた。提案機能はこの代替方法を示すもので,狙いは安定的に資材を仕入れられる方法を確保することである。
〔仕入れの問題点〕の必要性と〔購買システムの改修〕の機能が対応している。事業者の組み直しを提案することで供給停滞に備えるので,「代替」「安定的に仕入れられる」という本文の言葉で書けばよい。
25字以内。解答例は22字。「安定的に資材を仕入れられる」「方法を確保」を入れる。
設問3(2)
30字以内
サプライチェーンマトリクスの作成は,もともとの M 社グループの仕入れにおけるどのような特徴を考慮したものか,その特徴を 30 字以内で述べよ。
解答例
解説
本文の根拠
〔仕入れの問題点〕
M 社と仕入先各社では,サプライチェーンの寸断を防ぐために,一つの資材を複数の事業者から仕入れてきた。
〔購買システムの改修〕
サプライチェーンマトリクスからは,製品に必要な資材や,その資材の製造に必要な資材が分かる。
M 社グループ(M 社と仕入先各社)は,寸断を防ぐために「一つの資材を複数の事業者から仕入れてきた」。サプライチェーンマトリクスは,製品に必要な資材とその資材の製造に必要な資材を,SC 基盤のデータから関連付けたものである。一つの資材に仕入先が複数あるので,ある事業者の供給が停滞しても,マトリクスで同じ資材を扱う別の事業者に組み替える案を作れる。マトリクスの作成は,この仕入れの特徴を前提にしている。
設問は「もともとの M 社グループの仕入れ」の特徴を問うので,これまでの仕入れのやり方を書いた〔仕入れの問題点〕から探す。「サプライチェーンは長く複雑」も同じ節にあるが,これは仕入れの仕方というより構造の説明で,組替えを可能にする根拠にはならない。
30字以内。解答例は22字。「一つの資材」「複数の事業者から仕入れ」を入れる。
設問4(1)
25字以内
工場システム,財務システム,人事システムに追加開発する連携機能で取り扱うデータはどのようなものか,25 字以内で述べよ。
解答例
解説
本文の根拠
〔サステナビリティの取組における問題点〕
M 社が開示しているサステナビリティレポートの報告内容には,社内システムで登録されている一部のデータの出力・集計ができないことから,人事,財務,生産・在庫管理の各部門が手作業で集計している結果が含まれる。
〔レポートシステムの新規開発〕
工場システム,財務システム,人事システムと API で連携してデータ収集する仕組みにして,各部門での手作業での集計業務を不要にする。
レポートシステムは,工場・財務・人事の各システムと API で連携してデータを収集し,「各部門での手作業での集計業務を不要にする」。手作業で集計していたのは,社内システムに登録されていても出力・集計ができなかった一部のデータである。各システムに追加開発する連携機能は,このデータをレポートシステムに渡すためのもので,取り扱うデータは「各部門が手作業で集計しているデータ」である。
人事,財務,生産・在庫管理の各部門が,それぞれ人事システム,財務システム,工場システムに対応する。講評によれば“炭素排出量,内部統制インシデント情報”のような具体的な情報項目の答えが散見された。設問は具体的な項目ではなく,M 社の取組で実際に問題になっていた点(手作業で集計しているデータ)を読み取ることを求めている。
25字以内。解答例は17字。「各部門」「手作業で集計」を入れる。
採点講評(IPA)
設問4(1)は,“炭素排出量,内部統制インシデント情報”などの解答が散見された。具体的な情報項目ではなく,M社の取組における実際の問題点を読み取って解答してほしい。
設問4(2)
25字以内
レポートシステムの機能と,他の各システムに追加開発する連携機能によって,解決できる問題点は何か,25 字以内で述べよ。
解答例
解説
本文の根拠
〔サステナビリティの取組における問題点〕
集計時期は期末の業務繁忙期に当たるので,集計に時間が掛かるとともに,各部門の担当者の異動によって集計されるデータの対象や範囲が都度変動してしまい,報告結果の精度が一定に保たれていないおそれがある。
手作業での集計の問題として本文に挙がっているのは,集計に時間が掛かることと,担当者の異動によって集計されるデータの対象や範囲が都度変わり「報告結果の精度が一定に保たれていない」ことである。レポートシステムが各システムと API で連携して決まったデータを自動で集めるようになれば,担当者によって対象や範囲が変わることがなくなる。解決できる問題点は,報告結果の精度が一定に保たれていないことである。
時間が掛かる点も連携で軽くなるが,解答例は精度の側を答えている。サステナビリティレポートの信頼性を確保したいという M 社の考え(設問2(1))とつながるのも,報告結果の精度の方である。
25字以内。解答例は20字。本文の「報告結果の精度が一定に保たれていない」をそのまま使う。
出典:令和4年度 春期 ITストラテジスト試験 午後Ⅰ 問2(表記を一部改変)
問3 スーパーマーケットにおける IT を活用した事業拡大
スーパーマーケットにおける IT を活用した事業拡大に関する次の記述を読んで,設問1〜3に答えよ。
B 社は全国展開のスーパーマーケットである。地域密着型の直営店舗を展開することで業績を伸ばしてきた。企業戦略としては拡大路線をとっており,店舗数も急増している。近年 EC サイトでの販売も開始している。
〔B 社の現状〕
B 社はこれまで店舗の出店の際に,本社が店長に対して店舗運営,ヒト,モノ,カネの管理などの教育を実施し,その教育を受けた店長が,地域の実情を考慮した店舗運営を行ってきた。個々の店舗では店長の裁量は大きく,店舗ごとに生産者の直売コーナー(以下,産直コーナーという)を設け,地域の特産を前面に押し出した販売を行っている。産直コーナーでは,店舗内の陳列方法や顧客とのコミュニケーションの取り方など,出品する生産者を全面的に支援している。農産物や水産物について,生産者が自ら商品への思いや生産方法を説明することで顧客の共感を得ている。
しかし,最近では,地域の実情を産直コーナーの販売に考慮しきれない店長が見受けられ,店舗ごとで産直コーナーの売上げのばらつきが大きくなっている。そこで売上げが低い店舗の店長が他店舗の成功事例を短時間で学べるなど効果のある施策が必要となっている。
B 社は店舗で会員カードを発行している。発行した会員カードの会員情報や店舗 POS システムから吸い上げた購買履歴は店舗購買管理システムで管理している。店舗購買管理システムのデータをそれぞれの店舗の店長が確認し,店舗での販売促進に活用している。
EC サイトは会員制であり本社が全面的に運営している。EC サイトの顧客は全国を対象にしており,店舗で発行した会員カードとは別の会員管理を行っている。店舗と同様に EC サイトにも産直コーナーが存在し(以下,EC 産直コーナーという),商品に注文が入り次第,本社から生産者へ伝票が送られ,生産者から直接顧客に商品を届けている。EC 産直コーナーを含む EC サイトの売上げは,本社に計上される。商品は,本社の担当者が全国の店舗の商品情報を基に,地域の特産品から選定して EC 産直コーナーで販売している。各店舗から得た情報を EC サイトで紹介しているものの,店舗のように生産者からの情報を発信するなど,顧客に商品を訴求することができていない。
生産者は店舗での販売を優先しているので,EC 産直コーナーへ出品をする際に商品の数量を少なめに設定している。注文が入ったときの生産者への連絡は,ファックスによって伝票が送られる仕組みなので,半日から 1 日程度のタイムラグが発生しており,生産者は欠品になっていないのかなどの情報をリアルタイムでは把握できずにいた。また,生産者から本社への出品に関する情報伝達も同様にタイムラグが発生していた。そのため,生産者からの出品情報がタイムリーに EC サイトに反映されず,EC サイト上の欠品状態が長く続き,B 社としても生産者としても機会損失が大きくなっていた。
生産者が出品している店舗の店長は EC サイトの売上げが伸びることによって,店舗の売上げが下がるのではないかという懸念もあり,EC サイトへの支援には消極的である。
本社は,顧客の EC サイトでの購買履歴を管理する EC 購買管理システムを運営しており,顧客に商品をお勧め表示するなどのダイレクトマーケティングに活用している。しかし,EC サイトと店舗は別の会員管理なので,前日に店舗で購入したものを EC サイトでお勧め表示してしまうことがあった。
〔B 社の IT 戦略〕
B 社は店舗運営や EC サイトの課題を解決し,事業の継続的拡大を達成するために IT 戦略を立案し,次の施策を設定した。
① 店舗運営ノウハウの活用による EC 産直コーナーの強化 ② 会員データの一元管理によるダイレクトマーケティングの強化 ③ 動画配信によるラーニングシステムの構築 まずは,店舗の産直コーナーの売上げが高く IT リテラシの高い店長と生産者がいる店舗を全国から選定し,パイロット店舗として,これらの施策を実施し,その効果測定や要因分析を行った上で全国展開を行う。
〔店舗運営ノウハウの活用による EC 産直コーナーの強化〕
B 社は EC 産直コーナーを強化するために,本社で全て運営するのではなく,商品や生産者のアピール方法や EC 産直コーナーの商品情報の表示については,店長が積極的に施策に加わるように,ある仕組みを取り入れた。
また,生産者の情報や商品ごとの特徴,販売履歴などを保有するシステム(以下,生産者管理システムという)を構築する。生産者管理システムでは生産者と店長の意見や要望を反映できる生産者のページを用意し,EC 産直コーナーで表示する。さらに,生産者管理システムを生産者に貸与するモバイル端末と連携させて,モバイル端末で出品から伝票回送まで全ての処理が完結できるようにする。生産者はモバイル端末を用いて出品した商品の販売状況をリアルタイムで確認でき,在庫が少なくなってきた場合は商品の数量を適切に設定することができる。また,EC 産直コーナーの生産者のページに顧客とメッセージのやり取りができる機能を設け,メッセージを通じて商品への思いや生産方法を,生産者自ら説明できるようにする。
〔会員データの一元管理によるダイレクトマーケティングの強化〕
会員データを一元管理の上,店舗購買管理システムと EC 購買管理システムを統合し新たに統合購買管理システムとし,店舗運営,EC サイトともに統合購買管理システムのデータを基にダイレクトマーケティングを実施できるようにする。店舗での購買履歴と EC サイトでの購買履歴の融合ができるようになり,購買履歴から顧客が欲しい情報や,買いたい商品をタイムリーにお勧め商品として EC サイトにログインしたときに提示できるようにする。また,購買履歴を基に,EC 産直コーナーの商品の中で顧客が好みそうな商品をマッチングさせる機能を設けるなど,顧客へ効果的なマーケティングを行えるようにする。
〔動画配信によるラーニングシステムの構築〕
動画を投稿して視聴できるシステム(以下,動画ラーニングシステムという)を新たに構築する。パイロット店舗の店長に依頼し,産直コーナーの運営のポイントや解説を動画にして動画ラーニングシステムに投稿してもらう。投稿された動画は産直コーナーの売上げが低い店舗の店長が視聴して,活用することを狙いとする。動画を充実させるために,積極的に投稿したくなるような仕組みを用意する。マニュアルではなく動画にして,店舗運営をイメージできるようにすることでベストプラクティスを取り入れやすくする。動画を視聴した店長が役に立ったかどうかを“いいね”ボタンで評価することができる。
店長の基本属性情報や評価情報を管理する人事システムに対して動画ラーニングシステムで取得する評価データを連携し,人事システムで新規に管理する。
動画は最長でも 3 分までとする。また,動画にはタグを付けてタグで検索できたり,いいね数で検索できたりするなど検索機能を充実させる。動画の再生回数,いいね数をカウントする機能を有し,再生回数やいいね数によって動画を投稿した店長の評価にもつなげられるようにする。
出題趣旨(IPA)
ITストラテジストには,業種ごとの事業特性を踏まえて,経営戦略の実現に向けたITを活用した事業戦略を策定する能力が求められる。本問では,スーパーマーケットにおけるITを活用した事業拡大を題材として,事業環境の下で発生している課題に対して,ITを活用した幾つかの施策と情報システム対策を策定する能力を問う。具体的には,企業の拡大施策を支えるために,各課題に対する施策や理由,その実現のために必要となる情報システムの機能の構築能力を問う。
採点講評(問全体・IPA)
問3では,スーパーマーケットにおけるITを活用した事業拡大について出題した。全体として正答率は平均的で,状況設定はおおむね理解されているようであった。
ITストラテジストは,業種ごとの事業特性を踏まえて,経営戦略の実現に向けたITを活用した事業戦略を策定する能力を高めてほしい。
設問と解答例
設問1(1)
30字以内
EC 産直コーナーにおいて顧客に商品を訴求するために店舗運営におけるどのようなノウハウを活用しようとしたか,30 字以内で述べよ。
解答例
解説
本文の根拠
〔B 社の現状〕(1)
農産物や水産物について,生産者が自ら商品への思いや生産方法を説明することで顧客の共感を得ている。
〔B 社の現状〕(2)
各店舗から得た情報を EC サイトで紹介しているものの,店舗のように生産者からの情報を発信するなど,顧客に商品を訴求することができていない。
〔店舗運営ノウハウの活用による EC 産直コーナーの強化〕
EC 産直コーナーの生産者のページに顧客とメッセージのやり取りができる機能を設け,メッセージを通じて商品への思いや生産方法を,生産者自ら説明できるようにする。
店舗の産直コーナーでは,「生産者が自ら商品への思いや生産方法を説明すること」で顧客の共感を得ている。一方 EC サイトは「店舗のように生産者からの情報を発信するなど,顧客に商品を訴求することができていない」。そこで EC 産直コーナーの生産者のページにメッセージ機能を設け,商品への思いや生産方法を生産者自ら説明できるようにする。活用しようとしたノウハウは,店舗で顧客の共感を得ているこのやり方である。
〔B 社の現状〕(1)の店舗の強み,(2)の EC サイトの課題,施策のメッセージ機能の三か所が同じ言葉(商品への思い,生産方法,生産者自ら)でつながっている。陳列方法の支援なども店舗運営のノウハウだが,EC で「顧客に商品を訴求する」ことに結び付くのは生産者自身による説明である。
30字以内。解答例は24字。「生産者が自ら」「商品への思いや生産方法」「説明」を入れる。
設問1(2)
35字以内
店長が積極的に施策に加わるように取り入れた仕組みは具体的にどのようなものか,35 字以内で述べよ。
解答例
EC産直コーナーの売上げは各店舗の売上げに反映されるようにした。
解説
本文の根拠
〔B 社の現状〕(2)
EC 産直コーナーを含む EC サイトの売上げは,本社に計上される。
〔B 社の現状〕(2)
生産者が出品している店舗の店長は EC サイトの売上げが伸びることによって,店舗の売上げが下がるのではないかという懸念もあり,EC サイトへの支援には消極的である。
〔店舗運営ノウハウの活用による EC 産直コーナーの強化〕
商品や生産者のアピール方法や EC 産直コーナーの商品情報の表示については,店長が積極的に施策に加わるように,ある仕組みを取り入れた。
店長が EC サイトの支援に消極的なのは,EC サイトの売上げが伸びると店舗の売上げが下がるのではないかと懸念しているからである。しかも EC 産直コーナーの売上げは本社に計上されるので,店長が支援しても自分の店舗の成果にはならない。この二点を取り除くには,EC 産直コーナーの売上げが各店舗の売上げに反映されるようにすればよい。そうすれば EC の売上げが伸びることが店舗の売上げにもなり,店長が積極的に加わる理由ができる。
講評によれば,生産者管理システムや動画ラーニングシステムについての答えが散見された。これらは生産者や売上げの低い店舗の店長に向けた別の施策である。設問は「店長が積極的に施策に加わるように」取り入れた仕組みなので,実店舗の店長が EC サイトの支援に積極的になれない理由(売上げの計上先と,店舗の売上げが下がる懸念)から考える。
35字以内。解答例は32字。「EC 産直コーナーの売上げ」「各店舗の売上げに反映」を入れる。
採点講評(IPA)
設問1(2)は正答率が低かった。生産者管理システムや動画ラーニングシステムに関する解答が散見された。実店舗の店長がECサイトへの支援に積極的になれない理由に気付いてほしい。
設問1(3)
25字以内
生産者がモバイル端末で情報を受け渡すことによる生産者の利点を,機会損失の観点から 25 字以内で述べよ。
解答例
解説
本文の根拠
〔B 社の現状〕(2)
生産者は店舗での販売を優先しているので,EC 産直コーナーへ出品をする際に商品の数量を少なめに設定している。
〔B 社の現状〕(2)
生産者からの出品情報がタイムリーに EC サイトに反映されず,EC サイト上の欠品状態が長く続き,B 社としても生産者としても機会損失が大きくなっていた。
〔店舗運営ノウハウの活用による EC 産直コーナーの強化〕
生産者はモバイル端末を用いて出品した商品の販売状況をリアルタイムで確認でき,在庫が少なくなってきた場合は商品の数量を適切に設定することができる。
生産者は EC 産直コーナーへの出品数を少なめにしているので,欠品が起きやすい。さらにファックスのやり取りによるタイムラグのため,欠品に気付くのも出品情報が反映されるのも遅れ,EC サイト上の欠品状態が長く続いて機会損失が大きくなっていた。モバイル端末を使えば販売状況をリアルタイムで確認でき,在庫が少なくなったらその場で数量を設定できる。生産者の利点は,在庫が少ない商品をすぐに出品できることである。
機会損失の原因は欠品状態が長く続くことなので,利点も欠品の時間を縮める方向で書く。「リアルタイムで確認できる」だけでは機会損失との結び付きが弱いので,確認した結果として在庫が少ない商品をすぐ出品(数量を設定)できるところまで書く。
25字以内。解答例は18字。「在庫が少ない商品」「すぐに出品」を入れる。
設問2(1)
40字以内
店舗購買管理システムと EC 購買管理システムを統合することで解決しようとした問題点は何か,40 字以内で述べよ。
解答例
前日に店舗で購入したものをECサイトでお勧め表示してしまうこと
解説
本文の根拠
〔B 社の現状〕(2)
しかし,EC サイトと店舗は別の会員管理なので,前日に店舗で購入したものを EC サイトでお勧め表示してしまうことがあった。
〔会員データの一元管理によるダイレクトマーケティングの強化〕
店舗での購買履歴と EC サイトでの購買履歴の融合ができるようになり,購買履歴から顧客が欲しい情報や,買いたい商品をタイムリーにお勧め商品として EC サイトにログインしたときに提示できるようにする。
店舗購買管理システムと EC 購買管理システムは会員管理が別なので,EC サイトのお勧め表示に店舗での購買履歴が使われない。その結果「前日に店舗で購入したものを EC サイトでお勧め表示してしまう」ことがあった。二つを統合すれば店舗と EC サイトの購買履歴を融合でき,顧客が買いたい商品をタイムリーにお勧めできる。解決しようとした問題点は,この的外れなお勧め表示である。
〔B 社の現状〕(2)の最後の文に問題点が「しかし」で書かれ,施策の段落の「購買履歴の融合」がその解決に当たる。原因の「別の会員管理」は統合で解消する前提なので,問題点としては結果の側(前日に店舗で購入したものをお勧めしてしまう)を書く。
40字以内。解答例は31字。本文の一節をほぼそのまま使う。
設問2(2)
解答欄2つ
生産者の商品の中で顧客が好みそうな商品をマッチングさせるために購買履歴と組み合わせて活用する生産者管理システムのデータを二つ答えよ。
解説
本文の根拠
〔店舗運営ノウハウの活用による EC 産直コーナーの強化〕
また,生産者の情報や商品ごとの特徴,販売履歴などを保有するシステム(以下,生産者管理システムという)を構築する。
〔会員データの一元管理によるダイレクトマーケティングの強化〕
また,購買履歴を基に,EC 産直コーナーの商品の中で顧客が好みそうな商品をマッチングさせる機能を設けるなど,顧客へ効果的なマーケティングを行えるようにする。
生産者管理システムが保有するデータは,本文に「生産者の情報や商品ごとの特徴,販売履歴など」と書かれている。顧客が好みそうな商品を見つけるには,顧客の購買履歴(どんな商品を買ってきたか)と,生産者の商品の側の性質を突き合わせる必要がある。商品の側の性質に当たるのが「生産者の情報」と「商品ごとの特徴」である。
販売履歴も生産者管理システムのデータだが,これは商品が売れた記録で,顧客の購買履歴と同じ取引を反対側から見たものである。顧客の好みと商品を結び付ける材料にはなりにくく,解答例も生産者の情報と商品ごとの特徴の二つを挙げている。
字数の制限は無い。本文の言葉をそのまま二つ書く。
設問3(1)
解答欄2つ
動画ラーニングシステムで取得し,人事システムで新規に管理する店長の評価データを二つ答えよ。
解説
本文の根拠
〔動画配信によるラーニングシステムの構築〕
店長の基本属性情報や評価情報を管理する人事システムに対して動画ラーニングシステムで取得する評価データを連携し,人事システムで新規に管理する。
〔動画配信によるラーニングシステムの構築〕
動画の再生回数,いいね数をカウントする機能を有し,再生回数やいいね数によって動画を投稿した店長の評価にもつなげられるようにする。
動画ラーニングシステムは,動画の再生回数といいね数をカウントし,それによって「動画を投稿した店長の評価にもつなげられる」ようにする。人事システムで新規に管理する評価データは,この二つ,すなわち投稿した動画の再生回数といいね数である。
いいね数は,動画を視聴した店長が役に立ったかどうかを“いいね”ボタンで評価したものである。どちらも投稿した店長の評価に使うデータなので,「投稿した動画の」と付けて,誰の評価に使うのかを明らかにする。
字数の制限は無い。解答例はどちらも11字。
設問3(2)
20字以内
動画に時間制限を設けた上で検索機能を充実させる狙いは何か,20 字以内で述べよ。
解答例
解説
本文の根拠
〔B 社の現状〕(1)
そこで売上げが低い店舗の店長が他店舗の成功事例を短時間で学べるなど効果のある施策が必要となっている。
〔動画配信によるラーニングシステムの構築〕
動画は最長でも 3 分までとする。また,動画にはタグを付けてタグで検索できたり,いいね数で検索できたりするなど検索機能を充実させる。
〔B 社の現状〕(1)で必要とされていたのは,売上げが低い店舗の店長が「他店舗の成功事例を短時間で学べる」施策である。動画を最長3分に制限すれば1本を短い時間で見られ,タグやいいね数で検索できれば必要な動画にすぐたどり着ける。時間制限と検索機能の充実は,どちらも短時間で学べるようにするための工夫である。
動画ラーニングシステムの利用者は,産直コーナーの売上げが低い店舗の店長である。設問は二つの工夫をまとめた狙いを問うので,それぞれの効果(見る時間が短い,探す時間が短い)ではなく,共通する目的を本文の「短時間で学べる」から書く。
20字以内。解答例は14字。
設問3(3)
25字以内
動画を投稿した店長を評価する仕組みを新たに取り入れたことは,どのような懸念への対応であるか,25 字以内で述べよ。
解答例
解説
本文の根拠
〔動画配信によるラーニングシステムの構築〕
パイロット店舗の店長に依頼し,産直コーナーの運営のポイントや解説を動画にして動画ラーニングシステムに投稿してもらう。
〔動画配信によるラーニングシステムの構築〕
動画を充実させるために,積極的に投稿したくなるような仕組みを用意する。
〔動画配信によるラーニングシステムの構築〕
再生回数やいいね数によって動画を投稿した店長の評価にもつなげられるようにする。
動画ラーニングシステムの動画は,店長に依頼して投稿してもらうものである。本文は「動画を充実させるために,積極的に投稿したくなるような仕組みを用意する」としており,投稿した店長を評価する仕組みがそれに当たる。裏返せば,仕組みが無ければ店長が動画を投稿しようと思わず,動画が充実しないという懸念があったことになる。
講評によれば,動画ラーニングシステムを EC サイトの施策と取り違えた答えが見られた。動画ラーニングシステムは,売上げの低い店舗の店長が産直コーナーの運営を学ぶための実店舗の施策で,EC サイトの支援に消極的な店長の懸念(設問1(2))とは別の話である。施策ごとに何を目的にしているかを区別して読む。
25字以内。解答例は18字。「店長が動画を投稿しようと思わない」と,懸念の主語と中身を書く。
採点講評(IPA)
設問3(3)は正答率がやや低かった。動画ラーニングシステムはECサイトの施策ではなく,実店舗の施策であるということを理解していない解答が見受けられた。施策ごとに何を目的にしているのかを理解して解答してほしい。
出典:令和4年度 春期 ITストラテジスト試験 午後Ⅰ 問3(表記を一部改変)
問4 AI を利用した気象予測システム
AI を利用した気象予測システムに関する次の記述を読んで,設問1〜3に答えよ。
C 社は,電力会社向け監視制御システムの製造メーカである。親会社である電力会社 D 社向けに,発電所,変電所などを遠方から監視し,刻々と変わる電力需要に見合う電力を必要な地域に供給できるように遠方から制御するための,発変電遠方監視制御システムを納入してきた。
C 社の発変電遠方監視制御システムは,D 社管内を網羅する D 社所有の有線及び専用無線通信ネットワークを利用している。
現在の D 社の設備更新によって C 社の当面の売上は期待できるが,C 社は,将来を見越し,何らかの手段で売上を維持することが必要となっている。
D 社は,電力自由化によって電力の販売価格が下がり,販売電力量も減少してきている。このため D 社は,災害時を想定した保守体制,地域に根ざした営業力の強みを生かした新たな事業を模索している。
〔電力市場の状況〕
国は,3 年ごとに見直す“エネルギー基本計画”を次のとおりまとめた。
2030 年度に向けて,電源構成における,太陽光,風力,水力などの再生可能エネルギーの割合を“36%〜38%”と,前回の計画“22%〜24%”から引き上げる。 2030 年度に向けて,温室効果ガスを 2013 年度に比べて 46%削減する。 この基本計画は,電力会社が,主力電源として再生可能エネルギーへの切替えを急ぐ必要があることを示している。
〔電力事業における気象予測の必要性〕
蓄電池の技術が発達した現在でも,電力は貯めることが難しいエネルギーとされ,常時需要に見合った電力を発電して供給する技術が重要である。
電力の需要は,気候・気象と密接に関連しており,特に気温は発電計画の重要な要素として扱われてきた。今後,電源構成における再生可能エネルギーの割合が大きくなると,電力の供給においても気象の影響をより大きく受けるようになる。
そこで,気象の変化を予測して,再生可能エネルギーの発電出力の変動を相殺するように,火力発電などの発電出力を遅滞なく制御する必要がある。
さらに,電力会社間での電力の融通量を計算する情報システムにおいて,今後は,電力の融通量の算出に気象要素を含めることで,全国規模の効率化を図ることが求められている。
〔気象災害の激甚化〕
近年,地球温暖化が進んだことで,気象災害が激甚化するようになり,自治体による地域防災をはじめ,公共インフラ,交通機関,イベント事業,小売業など,地域企業で,局地的な気象に対する課題が大きくなってきている。
中でも“ゲリラ豪雨”と呼ばれる局地的な激しい降雨には,都市型の気象と考えられているものもある。都市開発によって土地の起伏や構成要素(田畑,森,工場,ビル,家屋,道路,鉄道など)が変化し,都市型の気象は,頻繁に変わる土地の起伏や構成要素と密接に関係する。
〔局地的な気象を予測するシステムの検討〕
C 社の IT ストラテジストである E 氏は,再生可能エネルギーの発電出力の変動を地域ごとに予測する技術の重要性が高まると考え,気象予報士でもあるシステムアーキテクトの F 氏に,現在の気象予測技術の調査と,太陽光発電や風力発電などにおける局地的な気象を予測するシステム(以下,局地気象予測システムという)の検討を依頼した。
F 氏は,局地気象に詳しい大学教授の文献も参考にして,E 氏に調査結果及び検討結果を次のように報告した。
気温,風向,風速などの地上の気象データを約 17 キロメートル間隔で 10 分ごとに自動計測して,ラジオゾンデ,レーダ,気象衛星画像などの上空の気象データと併せて,スーパーコンピュータで今後の変化を一日数回算出することで,気象予測をしている。 台風,梅雨前線,高気圧・低気圧など,水平スケールが大きく寿命が長い気象については,現在の気象予測技術で予測可能である。 竜巻,積乱雲,局地的豪雨など,水平スケールが小さく寿命が短い気象については,現在の気象予測技術で場所と時間を特定した予測は一般化されていない。 観測成果を発表するための気象観測に使用する気象データ(気温,風向,風速,気圧,湿度,日射量,降水量など)の計測器(以下,気象測器という)には,検定に合格したものを使用しなければならない。 気象測器を販売しているメーカは多いが,検定に合格した気象測器を販売しているメーカは数社に限られており,いずれの気象測器も高価である。 気象測器を 1 キロメートル間隔程度の高密度で多数設置して,10 秒ごとの短周期で気象データを連続的に収集し,既存の上空の気象データと併せて AI で分析することで,場所と時間を特定した局地的な気象予測は,理論上可能と言われている。 局地的な気象予測の実証例は,確認できなかった。 局地的な気象は,土地の起伏や構成要素に影響を受けるので,局地気象予測システムは,搭載した地理情報システム(以下,GIS という)と連動させる必要がある。 気象測器の台数は,1 キロメートル間隔程度の高密度で設置すると D 社管内で数万台に上ると想定される。 気象測器は,故障に対する修理対応や交換を伴う定期的保守が必要となる。 C 社だけで,気象データを収集して分析するアプリケーションソフトウェアの開発は可能だが,気象測器の開発は難しい。 気象測器の設置に当たっては,周囲の環境を考慮するとともに,電源と通信手段を確保する必要がある。 〔システムの開発方針〕
E 氏は,あらかじめ,50 台程度の限定した数量の気象測器を使用して,局地気象予測システムの実効性を確認する必要があると考えた。また,実効性を確認する時点では,検定に合格した気象測器を用いなくてもよいと考えた。
E 氏は,C 社で気象データを収集して分析するアプリケーションソフトウェアを開発することを前提に,F 氏に,局地気象予測システムが気象業務法をはじめとする法制度に抵触することがないか調査を依頼した。
〔市場展開の検討〕
E 氏は,まず D 社の再生可能エネルギー発電所の設置箇所周辺に気象測器を高密度で多数設置することを想定して気象測器の台数を 3,000 台と試算した。
気象測器 3,000 台の購入を条件に,検定に合格した製品を販売する X 社と,検定に合格した製品をもたない Z 社に,製品価格と,予備器の保有,保守交換作業及び製品修理を含む 10 年間の保守費の見積りを依頼した。
見積りの結果は,Z 社が新規開発する検定合格品の価格は,X 社の検定合格品の約半額と魅力的だった。しかし,Z 社の製品修理価格は安価だが,10 年間の保守契約の価格は,別メーカに予備器の保有と保守交換作業を委託するので割高だった。
E 氏は,Z 社に 2%の予備器を追加した 3,060 台の製品価格と,予備器の保有及び保守交換作業を除く,製品修理だけの保守契約の見積りを再度依頼した。
また,地域企業向けに,都市部に気象測器を高密度で多数設置する段階では,情報更新の頻度が多い GIS の地図データを扱う企業と提携する必要があると考えた。
E 氏は,C 社だけで地域企業の新規市場開拓は難しいと考え,次のような事業戦略を策定した。
〔事業戦略の策定〕
E 氏は,局地気象予測システムの運用において D 社と次の役割分担の下,協業することを考えた。
C 社は,F 氏の調査結果に基づき,気象業務法における予報業務の許可を受けた上で,予報業務内容に従い定められた人数以上の気象予報士を雇用し,自社のサーバで収集した気象データを AI によって分析して,気象予報士が判断した予測結果を,D 社をはじめとする利用者へ配信する。 D 社は,気象測器の設置場所の確保,伝送路の準備・提供,及び保守交換作業を行い,局地気象予測システムの予測結果を再生可能エネルギーの発電出力の変動予測に利用するとともに,自治体,地域企業を対象に市場開拓を行う。 さらに,E 氏は,局地気象予測システムに外部の情報システムと情報連携を図る機能を追加して,ほかの電力会社へも導入するよう働きかけるべきと考えた。
出題趣旨(IPA)
ITストラテジストには,自社の事業状況と社会状況を踏まえ,将来性が見込める事業を想定した新製品を企画する能力,更にはどのように市場へ展開し,発展させるかといった事業戦略を立案する能力が求められる。本問では,電力会社向け監視制御システムの製造メーカにおける局地的気象予測システム開発の企画を題材に,社会状況や技術動向を分析する能力,それを基に新製品を企画して有効な開発方針を設定する能力,製品の販売数や保守を踏まえた市場展開を検討する能力,新規市場開拓と協業企業・提携企業との関係構築を含む事業戦略を策定する能力を問う。
採点講評(問全体・IPA)
問4では,AIを利用した気象予測システムの事業計画の立案について出題した。全体として正答率は平均的で,状況設定はおおむね理解されているようであった。
ITストラテジストは,社会状況や技術動向を基に,新製品の企画,新規市場開拓,協業企業・提携企業との関係構築,及び将来の事業の拡大も含めた戦略的な事業計画を立案し,推進する能力を高めてほしい。
設問と解答例
設問1(1)
30字以内
E 氏が,局地気象予測システムの実効性を確認する必要があると考えた技術面の目的を,30 字以内で述べよ。
解答例
理論上可能と言われている局地的な気象予測を実証するため
解説
本文の根拠
〔局地的な気象を予測するシステムの検討〕(2)
10 秒ごとの短周期で気象データを連続的に収集し,既存の上空の気象データと併せて AI で分析することで,場所と時間を特定した局地的な気象予測は,理論上可能と言われている。
〔局地的な気象を予測するシステムの検討〕(2)
局地的な気象予測の実証例は,確認できなかった。
〔システムの開発方針〕
E 氏は,あらかじめ,50 台程度の限定した数量の気象測器を使用して,局地気象予測システムの実効性を確認する必要があると考えた。
F 氏の検討結果によれば,場所と時間を特定した局地的な気象予測は「理論上可能と言われている」が,「実証例は,確認できなかった」。理論上の可能性しか分かっていない技術で数万台規模の気象測器を設置するのは危ういので,E 氏はあらかじめ50台程度で実効性を確かめる必要があると考えた。技術面の目的は,理論上可能と言われている局地的な気象予測を実証することである。
検討結果の二つの箇条(理論上可能,実証例なし)を組み合わせると目的が出てくる。設問が「技術面の」と限っているので,費用や検定といった事業面の理由ではなく,予測技術が実際に成り立つかどうかの確認として書く。
30字以内。解答例は27字。「理論上可能」「局地的な気象予測」「実証」を入れる。
設問1(2)
30字以内
E 氏は気象測器の設置において,通信手段をどのようにして確保すると考えたか,30 字以内で述べよ。
解答例
D社所有の有線及び専用無線通信ネットワークに接続する。
解説
本文の根拠
冒頭
C 社の発変電遠方監視制御システムは,D 社管内を網羅する D 社所有の有線及び専用無線通信ネットワークを利用している。
〔局地的な気象を予測するシステムの検討〕(2)
気象測器の設置に当たっては,周囲の環境を考慮するとともに,電源と通信手段を確保する必要がある。
〔事業戦略の策定〕
D 社は,気象測器の設置場所の確保,伝送路の準備・提供,及び保守交換作業を行い
気象測器を設置するには通信手段を確保する必要がある。C 社は,発変電遠方監視制御システムで「D 社管内を網羅する D 社所有の有線及び専用無線通信ネットワーク」をすでに利用しており,〔事業戦略の策定〕でも D 社が「伝送路の準備・提供」を担うとされている。気象測器もこの D 社所有のネットワークに接続すれば,通信手段を確保できる。
最初に D 社の再生可能エネルギー発電所の周辺に設置するので,D 社管内を網羅するネットワークがそのまま使える。冒頭の一文は設問の本文から離れた位置にあるが,C 社と D 社の関係を示す手掛かりとして読んでおく。
30字以内。解答例は27字。「D 社所有」「有線及び専用無線通信ネットワーク」「接続」を入れる。
設問1(3)
25字以内
E 氏は,F 氏に依頼した法制度に関する調査結果を受け,組織体制面でどのような対策を考えたか,25 字以内で述べよ。
解答例
解説
本文の根拠
〔システムの開発方針〕
F 氏に,局地気象予測システムが気象業務法をはじめとする法制度に抵触することがないか調査を依頼した。
〔事業戦略の策定〕
C 社は,F 氏の調査結果に基づき,気象業務法における予報業務の許可を受けた上で,予報業務内容に従い定められた人数以上の気象予報士を雇用し
〔事業戦略の策定〕で,C 社は F 氏の調査結果に基づいて,予報業務の許可を受けた上で「予報業務内容に従い定められた人数以上の気象予報士を雇用」するとしている。法制度に関する調査結果を受けた対策のうち,組織体制面に当たるのは人の配置,つまり気象予報士の雇用である。
同じ文にある「予報業務の許可を受ける」は手続面の対策,「AI によって分析して,気象予報士が判断した予測結果を配信する」は業務の流れの説明である。講評によれば正答率は高かったが,組織体制面でない対策を書いた答えも一部にあった。設問の「組織体制面で」という条件に合うものを選ぶ。
25字以内。解答例は21字。「定められた人数以上」「気象予報士を雇用」を入れる。
採点講評(IPA)
設問1(3)は,正答率が高かったが,組織体制面でない対策の解答も一部に見受けられた。設問で求められている内容と本文記述をよく理解して解答してほしい。
設問2(1)
25字以内
E 氏が,Z 社に予備器を追加した製品価格と,製品修理だけの保守契約の見積りを再度依頼したのは,予備器の保有及び保守交換作業をどのようにすることを見込んだ結果か,25 字以内で述べよ。
解答例
解説
本文の根拠
冒頭
このため D 社は,災害時を想定した保守体制,地域に根ざした営業力の強みを生かした新たな事業を模索している。
〔市場展開の検討〕
しかし,Z 社の製品修理価格は安価だが,10 年間の保守契約の価格は,別メーカに予備器の保有と保守交換作業を委託するので割高だった。
〔市場展開の検討〕
E 氏は,Z 社に 2%の予備器を追加した 3,060 台の製品価格と,予備器の保有及び保守交換作業を除く,製品修理だけの保守契約の見積りを再度依頼した。
〔事業戦略の策定〕
D 社は,気象測器の設置場所の確保,伝送路の準備・提供,及び保守交換作業を行い
Z 社の保守契約が割高だったのは,予備器の保有と保守交換作業を別メーカに委託するからである。E 氏は再見積りで,予備器は2%分(3,000台×1.02=3,060台)を製品として買い取り,保守契約からは予備器の保有と保守交換作業を外した。外した二つを誰が担うかというと,〔事業戦略の策定〕で D 社が「保守交換作業」を行うとされている。D 社は「災害時を想定した保守体制」を強みにもつ。E 氏は,D 社が予備器を保有し,保守交換作業も行うことを見込んだ。
再見積りの条件(予備器を買い取る,保守交換作業を除く)と,事業戦略での D 社の役割分担を突き合わせると答えが出る。Z 社には安価な製品修理だけを任せ,割高の原因だった委託分を協業先の D 社に移す形である。
25字以内。解答例は21字。「D 社で」「予備器を保有」「保守交換作業も行う」を入れる。
設問2(2)
40字以内
E 氏が,都市部に気象測器を高密度で多数設置する段階では,情報更新の頻度が多い GIS の地図データを扱う企業と提携する必要があると考えた理由を,40 字以内で述べよ。
解答例
都市型の気象は,頻繁に変わる土地の起伏や構成要素と密接に関係するから
解説
本文の根拠
〔気象災害の激甚化〕
都市開発によって土地の起伏や構成要素(田畑,森,工場,ビル,家屋,道路,鉄道など)が変化し,都市型の気象は,頻繁に変わる土地の起伏や構成要素と密接に関係する。
〔局地的な気象を予測するシステムの検討〕(2)
局地的な気象は,土地の起伏や構成要素に影響を受けるので,局地気象予測システムは,搭載した地理情報システム(以下,GIS という)と連動させる必要がある。
局地的な気象は土地の起伏や構成要素に影響を受けるので,局地気象予測システムは GIS と連動させる必要がある。都市部ではさらに,都市開発によって土地の起伏や構成要素が変化し,都市型の気象は「頻繁に変わる土地の起伏や構成要素と密接に関係する」。都市部で予測を当てるには,頻繁に変わる地形や建物を反映した新しい地図データが要るので,情報更新の頻度が多い GIS の地図データを扱う企業と提携する必要がある。
最初の段階(D 社の再生可能エネルギー発電所の周辺)では地図データの更新頻度はそれほど問題にならず,都市部に広げる段階で初めて必要になる。講評は,都市部の特徴である土地の起伏や構成要素が頻繁に変わる点に触れていない答えが散見されたとし,段階ごとに考慮すべき点を理解してほしいとしている。
40字以内。解答例は34字。「都市型の気象」「頻繁に変わる土地の起伏や構成要素」「密接に関係」を入れ,理由なので「〜から」で結ぶ。
採点講評(IPA)
設問2(2)は,正答率が平均的であったが,都市部の特徴である土地の起伏や構成要素が頻繁に変わる点に言及していない解答が散見された。段階を経てシステムを市場に展開する場合においては,それぞれの段階で考慮すべき点を理解してほしい。
設問3(1)
解答欄2つ
E 氏が,市場開拓を D 社の役割としたのは,D 社のどのような特徴を考慮した結果か,15 字以内で述べよ。また,市場のどのような状況を考慮した結果か,35 字以内で述べよ。
〔状況〕解答例
地域企業で,局地的な気象に対する課題が大きくなってきている。
解説
本文の根拠
冒頭
このため D 社は,災害時を想定した保守体制,地域に根ざした営業力の強みを生かした新たな事業を模索している。
〔気象災害の激甚化〕
自治体による地域防災をはじめ,公共インフラ,交通機関,イベント事業,小売業など,地域企業で,局地的な気象に対する課題が大きくなってきている。
〔市場展開の検討〕
E 氏は,C 社だけで地域企業の新規市場開拓は難しいと考え,次のような事業戦略を策定した。
〔事業戦略の策定〕
自治体,地域企業を対象に市場開拓を行う。
D 社の強みは冒頭に「災害時を想定した保守体制,地域に根ざした営業力」と書かれている。市場開拓に生かせるのは営業力の方で,特徴は「地域に根ざした営業力」である(保守体制は設問2(1)の保守交換作業の側で生きる)。市場の状況は,D 社に任せた市場開拓の対象が「自治体,地域企業」であることから探す。〔気象災害の激甚化〕に,気象災害の激甚化で「地域企業で,局地的な気象に対する課題が大きくなってきている」とある。局地気象予測システムはこの課題に応えるもので,C 社だけでは地域企業の開拓が難しいので,地域に根ざした営業力をもつ D 社に任せた。
講評によれば,D 社の特徴の正答率は高かったが,市場の状況の正答率は低かった。電力市場の状況(再生可能エネルギーの割合の引上げ)を書くと,市場開拓の対象とずれる。事業戦略で示された市場開拓の対象(自治体,地域企業)から逆に考える。
特徴は15字以内,状況は35字以内。解答例は10字と30字。特徴は本文の言葉そのまま,状況は「地域企業」「局地的な気象に対する課題が大きくなってきている」を入れる。
採点講評(IPA)
設問3(1)は,D社の特徴の正答率は高かったが,市場の状況の正答率は低かった。事業戦略の策定で示された市場開拓の対象を考慮して解答してほしい。
設問3(2)
40字以内
E 氏が,局地気象予測システムに外部の情報システムと情報連携を図る機能を追加すべきと考えたのは,どのような社会的な要求に応えるためか,40 字以内で述べよ。
解答例
電力の融通量の算出に気象要素を含めることで,全国規模の効率化を図る。
解説
本文の根拠
〔電力事業における気象予測の必要性〕
さらに,電力会社間での電力の融通量を計算する情報システムにおいて,今後は,電力の融通量の算出に気象要素を含めることで,全国規模の効率化を図ることが求められている。
〔事業戦略の策定〕
さらに,E 氏は,局地気象予測システムに外部の情報システムと情報連携を図る機能を追加して,ほかの電力会社へも導入するよう働きかけるべきと考えた。
情報連携の機能は,局地気象予測システムを「ほかの電力会社へも導入する」ために追加する。電力会社どうしをつなぐ外部の情報システムとして本文にあるのは,「電力会社間での電力の融通量を計算する情報システム」で,そこでは「電力の融通量の算出に気象要素を含めることで,全国規模の効率化を図ること」が求められている。各電力会社の局地気象予測システムの予測結果をこの情報システムに連携すれば,融通量の算出に気象要素を含められる。応える社会的な要求は,この全国規模の効率化である。
〔電力事業における気象予測の必要性〕の最後の段落と,〔事業戦略の策定〕の最後の段落がどちらも「さらに」で始まり,対応している。D 社管内だけでなくほかの電力会社へ広げる話なので,要求も一社の中ではなく全国規模のものを選ぶ。
40字以内。解答例は34字。「電力の融通量の算出」「気象要素を含める」「全国規模の効率化」を入れる。
出典:令和4年度 春期 ITストラテジスト試験 午後Ⅰ 問4(表記を一部改変)
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