平成23年度 秋期に実施されたITストラテジスト試験
午後Ⅰの全4問(記述式)です。事例本文・設問・解答例と解説をそのまま読めます。
この試験について:ITストラテジスト試験について
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問1 アパレル製造・販売企業におけるシステム化構想
アパレル製造・販売企業におけるシステム化構想に関する次の記述を読んで,設問1〜3に答えよ。
A 社は,ブラウス,ワンピースなど婦人用アウタウェアのアパレル製造・販売企業であり,大都市圏を中心に直営店を展開している。A 社の主な顧客は,ファッションに高感度な婦人層である。
A 社では,素材の開発,デザイン性の高さ,高度な縫製といった他社がまねできない技術をアピールしてきた。近頃,大きな価格差のある安価な外国製アパレルに顧客を奪われている。この状況に対応するために,丁寧で迅速な接客サービスで生き残りを図ることにした。
A 社には,商品企画部,製造部などがある。商品企画部は物流センタも運営している。
〔各部の概要〕
商品企画部は,商品のデザイン,販売計画の立案,店頭価格の設定,素材の調達及び商品の管理を行っている。これまで,素材となる生地の織物や編み物について,紡績メーカ,化学繊維メーカ,生地メーカなどとの連携を強め,天然繊維を活用した生地の他,天然繊維と化学繊維を使った複合素材の共同開発を進めてきた。
生地メーカには,半年間の発注計画を提示した上で,商品の生産に着手する 1 か月前に正式発注している。発注計画数量と実際の発注数量は,総数では近いが,生地の種類別・色別の内訳で見ると大きく異なっていることが多い。A 社の発注計画を参考にして生地の在庫をもつことが多い生地メーカは,内訳ごとの発注数量の差異で在庫に余剰が生じると,A 社に対応を要請することがある。
製造部は,生地メーカから納入された染色済の生地の裁断から,縫製,仕上げチェック,タグ付け,包装まで,一連の作業を行っている。商品ごとに,販売見込数量をロット生産し,物流センタに入庫する。全直営店には,物流センタから配送する。
〔商品の企画・販売計画〕
商品企画部は,天然繊維・複合素材の新たな活用方法の提示,ファッション感覚に敏感な顧客を意識した新たな視点によるデザインなどを行っている。企画した商品は,全直営店で一斉に販売される。商品を発売してから 1 週間後の販売数量を,POS 情報を用いて分析することで,顧客のファッション感覚にどの程度合致したかが分かる。
直営店への商品の配分数量は,地域の特性,店舗の大きさなどを考慮して決めている。しかし,商品によっては,ある地域で売れなくても,別の地域ではよく売れていることがあり,合理的に配分することが難しい。配分の結果,来店客が希望する商品が店内に置いていないと機会損失が発生する。一方で,売れ残って不良在庫になることも多く,A 社の業績に影響を与えている。
〔直営店での商品販売〕
直営店では,来店客が希望の商品を見つけられない場合,販売スタッフが,来店客から希望する商品の種類,生地,色,サイズの他,えり・そで・ボタン・ポケットの形状などを聞いて該当する商品を探す。店内に該当商品がない場合は,似た商品があるかどうか,商品のデザイン帳で探したり,商品企画部に問い合わせたりする。その結果,該当商品が見つかれば,色,サイズ及び在庫の有無を物流センタに問い合わせる。また,来店客が取寄せを希望する場合は,物流センタに納期を確認し,手配する。
現在,直営店が直面している問題が二つある。一つは,商品企画部・物流センタへの問合せ,取寄せの手配に時間がかかっているので,その間は他の来店客へのサービスができないという点である。もう一つは,物流センタから商品を取り寄せても,来店客の希望と異なっていることがあるという点である。
一方で,商品が売れ残っても,販売価格は全国一律なので,個々の直営店が値引きして販売することはできない。
〔新しい営業方針〕
A 社の経営者は,販売計画に従って生産計画を立案し,商品を販売していく方式では,A 社の強みを生かせず,顧客のファッション感覚の変化についていけないと判断し,次のような営業方針を新たに策定した。
生地ごとに,色・デザインに僅かな変化をもたせた多種類の商品を販売する。 新商品は,全直営店で一斉に販売するのではなく,直営店によって種類を変える。 商品の種類の入替えを頻繁に行って売行きを分析し,新たな傾向を探る。 これらの営業方針に従って,次の対応をとることにした。
短い周期で商品企画を行い,販売見込数量と生地の種類別・色別所要量を設定する。 商品企画から店頭販売までの期間は,長くても 2 週間以内にする。 商品の生産量は,初回販売分として一定数量を生産し,売行きが良ければ,販売見込数量に達するまで一定数量ずつロット生産する。 生地メーカに対しては,ロット生産に必要な数量だけ小刻みに発注し,短納期での納入を依頼する。 売行きが良くても,当初の販売見込数量を超えて生地の追加発注はしない。 展示方法を工夫するなど,手を尽くしても売行きが鈍い場合は,価格を見直すとともに,その後の生地の発注を止める。 〔トレンド情報の収集〕
商品企画部は,売行きという売れた結果の数値だけでは顧客の好みの傾向が分からないので,来店客が関心をもつ商品がなくて販売できなかった情報も,販売スタッフから収集する必要があると判断した。これらの情報から,顧客の好みの移り変わりを把握し,商品の企画などに役立たせようというものである。しかし,販売スタッフが営業時間終了後にレポートを作成して商品企画部に提出するのでは,接客時点からの時間がたちすぎてしまい,不確かな情報しか収集できない。そこで,接客中・接客直後に,情報を電子的に収集することにした。
情報収集については,多くの販売スタッフから,“バックヤードに戻って端末からキーボード入力すると,接客時間がますます少なくなってしまう”という意見が寄せられた。そこで,商品企画部は,簡易な入力方式を採用する必要があると考え,指先で操作できるタブレット型 PC を販売スタッフに持たせることにした。さらに,情報の収集だけでなく,来店客とのコミュニケーションツールとしても利用したいと考えている。
〔生地メーカの反応〕
新しい営業方針を遂行する上では,生地メーカと協調することが大切である。しかし,生地メーカからは,“現在でも A 社からの発注内容が発注計画と大きく異なるのに,今後は発注が小刻みになり,しかも納期を指定されては,とても対応できない”と反発された。A 社の経営者が生地メーカに対応を懇請した結果,生地メーカは生地の在庫を染色しない状態でもつという条件で引き受けることになった。その他にも,生地メーカからは,“染色作業にはある程度の日数が必要であり,短納期での納入に対応するために,必要な情報を開示してほしい”との要請があった。
出題趣旨(IPA)
ITストラテジストには,営業戦略の変更に迅速に対応して情報戦略を立案するとともに,情報システムに求められる機能を特定し,システム化計画を通じて実現していく能力が求められる。本問では,アパレル製造・販売企業を題材に営業方針の変更に伴って必要となる,サプライチェーンマネジメントを支援するシステム化構想の検討についての能力を評価する。具体的には,商品の不良在庫化を防ぐための施策,販売スタッフが持つタブレット型PCの機能,生地メーカに提供すべき情報や協議しておくべき事項について問う。
採点講評(問全体・IPA)
問1では,アパレル製造・販売企業におけるシステム化構想について出題した。状況設定は,おおむね理解されているようであった。しかし,営業方針に基づく施策や取引先との交渉事項に関する設問については,題意を理解できていないと思われる解答が多かった。
ITストラテジストは,営業戦略を展開するためにはどのような課題があるのか,また,営業戦略を実現するために必要となる機能は何かを分析する能力を高めてほしい。
設問と解答例
設問1
解答欄2つ
商品の不良在庫の発生を防ぐために,商品企画部が実施できる施策を二つ挙げ,それぞれ 30 字以内で述べよ。
〔①〕解答例
売れていない地域から売れている地域に商品を移送する。
解説
本文の根拠
〔商品の企画・販売計画〕
しかし,商品によっては,ある地域で売れなくても,別の地域ではよく売れていることがあり,合理的に配分することが難しい。
〔商品の企画・販売計画〕
一方で,売れ残って不良在庫になることも多く,A 社の業績に影響を与えている。
〔直営店での商品販売〕
一方で,商品が売れ残っても,販売価格は全国一律なので,個々の直営店が値引きして販売することはできない。
〔各部の概要〕
商品企画部は,商品のデザイン,販売計画の立案,店頭価格の設定,素材の調達及び商品の管理を行っている。
不良在庫の原因は本文に二つ書かれている。一つは直営店への配分で,ある地域で売れなくても別の地域ではよく売れている商品があるのに,配分を合理的に決められないこと。もう一つは価格で,販売価格が全国一律なので,売れ残っても個々の直営店が値引きできないことである。それぞれに対して,売れていない地域の商品を売れている地域へ移す施策と,売行きの鈍い商品を値下げして売り切る施策が立つ。
施策の主体が「商品企画部」である点が手掛かりになる。商品企画部は「店頭価格の設定」と「商品の管理」を担い,物流センタも運営しているので,直営店にはできない値下げや,店舗間の商品の移送を決められる。新しい営業方針の「価格を見直す」も値下げの施策につながる。講評によると,営業方針への対応内容をそのまま引き写した解答が多かった。問われているのは,現在の問題点(配分と全国一律の価格)から導く施策である。
30字に対し,解答例は①「売れていない地域から売れている地域に商品を移送する。」で26字,②「売行きの鈍い商品は値下げして売り切る。」で19字。どちらも「何を」「どうする」を一文で書き,二つが同じ原因を指さないようにする。
採点講評(IPA)
設問1は正答率が低かった。現在の販売上の問題点と新しい営業方針から,商品企画部がどのような施策を展開できるのかを,落ち着いて分析してほしかった。問題文中の営業方針への対応内容からそのまま引き写した解答が多かった。
設問2(1)
40字以内
新規商品を開発するためにどのような情報を入力する機能をもたせるべきか,40 字以内で述べよ。
解答例
来店客が希望する商品がなくて販売できなかった情報を入力する機能
解説
本文の根拠
〔トレンド情報の収集〕
商品企画部は,売行きという売れた結果の数値だけでは顧客の好みの傾向が分からないので,来店客が関心をもつ商品がなくて販売できなかった情報も,販売スタッフから収集する必要があると判断した。
〔トレンド情報の収集〕
これらの情報から,顧客の好みの移り変わりを把握し,商品の企画などに役立たせようというものである。
〔トレンド情報の収集〕
そこで,接客中・接客直後に,情報を電子的に収集することにした。
商品企画部は,売れた結果の数値(POS 情報)だけでは顧客の好みの傾向が分からないので,「来店客が関心をもつ商品がなくて販売できなかった情報」も販売スタッフから集めると判断した。この情報で顧客の好みの移り変わりをつかみ,商品の企画に役立てる。タブレット型 PC は,この情報を接客中・接客直後に電子的に入力するための道具である。
新規商品の開発に使う情報なので,売れた商品の情報ではなく,売れなかった(品ぞろえになかった)商品への要望が答えになる。直営店で販売スタッフが来店客から聞き取る「希望する商品の種類,生地,色,サイズ」などは,まさにこの情報の中身である。
40字に対し,解答例は「来店客が希望する商品がなくて販売できなかった情報を入力する機能」で31字。本文の言い回しを使い,設問に合わせて「〜を入力する機能」で結ぶ。
採点講評(IPA)
設問2は正答率が高かった。直営店で使用するタブレット型PCの機能について問うたので,状況をイメージしやすかったからであろう。
設問2(2)
解答欄2つ
販売スタッフの販売活動の効率向上を図るための機能を二つ挙げ,それぞれ 35 字以内で述べよ。
〔①〕解答例
商品の色やサイズごとの在庫の有無と納期を表示する機能
解説
本文の根拠
〔直営店での商品販売〕
その結果,該当商品が見つかれば,色,サイズ及び在庫の有無を物流センタに問い合わせる。また,来店客が取寄せを希望する場合は,物流センタに納期を確認し,手配する。
〔直営店での商品販売〕
一つは,商品企画部・物流センタへの問合せ,取寄せの手配に時間がかかっているので,その間は他の来店客へのサービスができないという点である。
〔トレンド情報の収集〕
さらに,情報の収集だけでなく,来店客とのコミュニケーションツールとしても利用したいと考えている。
直営店が直面している問題の一つは,商品企画部・物流センタへの問合せと取寄せの手配に時間がかかり,その間ほかの来店客にサービスできないことである。販売スタッフは,色・サイズ・在庫の有無を物流センタに問い合わせ,取寄せのときは納期を確認して手配している。この二つの作業をタブレット型 PC の上で済ませられれば,販売活動の効率が上がる。
そこで,一つ目は色やサイズごとの在庫の有無と納期を画面に表示する機能(問合せの代わり),二つ目は物流センタに取寄せを手配できる機能(手配の電話などの代わり)になる。タブレット型 PC は来店客とのコミュニケーションツールとしても使う予定なので,接客しながら来店客の前で在庫と納期を確かめられることにも意味がある。講評によると設問2は正答率が高かった。
35字に対し,解答例は①「商品の色やサイズごとの在庫の有無と納期を表示する機能」で26字,②「物流センタに対して在庫の取寄せの手配ができる機能」で24字。問合せの中身(色・サイズ・在庫・納期)と手配の相手(物流センタ)を本文から拾って書く。
採点講評(IPA)
設問2は正答率が高かった。直営店で使用するタブレット型PCの機能について問うたので,状況をイメージしやすかったからであろう。
設問3(1)
25字以内
生地メーカが短納期での納入に対応するために必要な商品情報を,25 字以内で述べよ。
解答例
解説
本文の根拠
〔新しい営業方針〕
短い周期で商品企画を行い,販売見込数量と生地の種類別・色別所要量を設定する。
〔生地メーカの反応〕
その他にも,生地メーカからは,“染色作業にはある程度の日数が必要であり,短納期での納入に対応するために,必要な情報を開示してほしい”との要請があった。
〔各部の概要〕
発注計画数量と実際の発注数量は,総数では近いが,生地の種類別・色別の内訳で見ると大きく異なっていることが多い。
生地メーカは生地を染色しない状態で在庫し,発注を受けてから染色して納入する。染色にはある程度の日数が必要なので,短納期に対応するには,どの種類の生地を何色にどれだけ,いつまでに染めるかを前もって知る必要がある。A 社は新しい営業方針で,商品企画のたびに「生地の種類別・色別所要量」を設定することにしているので,これを納期とともに開示すればよい。
現状でも,発注計画と実際の発注は総数では近いが,種類別・色別の内訳が大きく違うことが生地メーカの在庫の余剰を生んでいた。染色前の状態で在庫をもてば種類別の量だけ見込めばよく,色の内訳は商品企画で決まった所要量で後から合わせられる。この点からも,必要な情報は「種類別・色別の所要量」と「納期」である。
25字に対し,解答例は「生地の種類別・色別の所要量と納期」で16字。本文の「生地の種類別・色別所要量」に,短納期への対応に欠かせない「納期」を加える。
設問3(2)
25字以内
A 社が生地の在庫について,生地メーカと協議しておくべき事項を,25 字以内で述べよ。
解答例
解説
本文の根拠
〔各部の概要〕
A 社の発注計画を参考にして生地の在庫をもつことが多い生地メーカは,内訳ごとの発注数量の差異で在庫に余剰が生じると,A 社に対応を要請することがある。
〔新しい営業方針〕
展示方法を工夫するなど,手を尽くしても売行きが鈍い場合は,価格を見直すとともに,その後の生地の発注を止める。
〔生地メーカの反応〕
A 社の経営者が生地メーカに対応を懇請した結果,生地メーカは生地の在庫を染色しない状態でもつという条件で引き受けることになった。
生地メーカは今でも,発注の内訳の差で在庫に余剰が出ると A 社に対応を求めている。新しい営業方針では,売行きが鈍ければ「その後の生地の発注を止める」ので,生地メーカが見込んでもっていた生地が余ることは今後も起こる。生地メーカは染色しない状態で在庫をもつことを条件に小刻みな発注を引き受けたので,その在庫が余ったときの扱いを A 社と取り決めておかないと,協調が崩れる。
講評によると,“生地メーカが,生地の在庫を染色しない状態でもつこと”の意味を理解せずに,不良在庫にならないための方策を答えたものが多かった。問われているのは,在庫を防ぐ方策ではなく,余剰が出たときにどうするか(引取りや費用の負担など)を事前に協議しておくことである。
25字に対し,解答例は「生地在庫に余剰が発生した場合の対応方法」で19字。本文の「在庫に余剰が生じる」「対応を要請する」を使い,協議する「事項」なので名詞で結ぶ。
採点講評(IPA)
設問3(2)は正答率が低かった。設問にある“生地メーカが,生地の在庫を染色しない状態でもつこと”の意味を理解せずに,不良在庫にならないための方策について解答したものが多かった。
出典:平成23年度 秋期 ITストラテジスト試験 午後Ⅰ 問1(表記を一部改変)
問2 健康情報システムの導入検討
健康情報システムの導入検討に関する次の記述を読んで,設問1〜3に答えよ。
B 社は,国内に複数の支社・工場を保有する電子機器メーカである。本社には,人事,総務などを所管する管理本部と,従業員の健康管理の推進を行う健康推進本部がある。管理本部と健康推進本部の方針に基づいて,本社・支社・工場の健康管理室が,従業員の健康診断の受診指導と,受診結果に基づいた保健指導を行っている。現在,本社には,全社の人事を管理する人事システムが導入されているが,従業員の健康情報を管理するシステムは導入されていない。そこで,新たにシステムを導入し,従業員への受診指導,保健指導及び健康増進を図る健康指導を強化することにした。
また,B 社には B 健康保険組合があり,従業員及び配偶者を含む家族(被扶養者)を対象に健康づくりの推進及び保険給付をしている。
〔健康診断の現状〕
健康管理室では,従業員の健康診断を 5 月から 10 月の間に実施するための受診計画作成業務を行っている。①〜③の手順で,受診計画を作成し,従業員本人と直属の上司に通知する。
① 健康診断を委託する健診機関との間で,健康診断の受診期間と日別の受診可能人数枠を調整する。 ② 調整した日別の受診可能人数枠に個々の従業員を割り当て,受診計画を作成する。 ③ 受診計画の作成後,従業員本人と直属の上司に対して,受診予定日を 4 月中に通知する。 従業員によっては,受診予定日を忘れ,業務予定を入れてしまうなどで,計画した日に受診できない者がいる。従業員から変更希望日を聞いて健診機関と日程を調整する際,受診可能枠の再確保に手間が掛かるので,計画どおり受診するよう指導したい。
健康診断の診断項目は,全社共通である。現在,健康診断の受診結果,健康管理室で実施した面談記録などは,それぞれの健康管理室において,紙で管理している。一部の健診機関から送付される受診結果の電子データを保存しているが,データベース化はしていない。従業員に異動があると,異動元の健康管理室では,対象従業員の受診結果をとりまとめ,異動先からの要求に応じて提供できるようにしている。
〔健康情報システムの導入〕
今回,全従業員の健康診断の受診結果,健康管理室で実施した面談記録,成人病予防のために実施した特定保健指導などの情報を管理する健康情報システムを本社に導入する。本社にはデータベースと業務サーバを設置し,それぞれの健康管理室には端末を配備する。保有する機能は,次のようなものである。
① 健康診断管理:健康診断の予約,取消し,受診実績,受診結果を登録する。 ② 健康診断情報分析:健康診断情報の集計や傾向分析を行う。 ③ 保健指導情報管理:面談記録や特定保健指導結果を管理する。 従来,健康管理室で行っていた受診計画作成業務は,健康診断管理に同等の業務機能があるので,現行の手作業をそのままシステム化する。また,従来,紙で管理していた健康診断の受診結果と面談記録は,システム導入時に,過去 5 年間分をデータベースに登録する。
〔健康管理室の保健指導・健康指導〕
健康管理室では,受診結果情報に基づいて保健指導を行う。再検査が必要な従業員を抽出し,該当する従業員には,面談を行い,再検査を指導する。特に,成人病,又はその疑いがあると診断された従業員は,特定保健指導の対象者として管理する。対象者については,定期的にフォローすることになっているが,業務多忙を理由にフォローを受けていない者もいる。フォローをしたときの特定保健指導情報は,健康保険組合に送付している。
最近,健康管理室には,成人病予防や成人病に対する健康相談,メンタル相談に来る従業員が増えている。今回,従業員からの相談を,健康相談,メンタル相談の 2 種類に分類して,面談記録としてデータベースに登録する。健康推進本部では,全国にある健康管理室の面談記録を確認する。
体重・体脂肪率と運動量には関係があるといわれており,その情報を記録することで,健康指導の新たなメニューとして,従業員への指導に取り組む計画である。今回,それぞれの健康管理室に,体重,体脂肪率,血圧などが計測できる機器を設置し,従業員には歩数計を配布する。個々の従業員は,業務用 PC や携帯電話などから,データベースに毎日の歩数を登録する。特定保健指導が必要な従業員には,体重,体脂肪率,血圧の毎週の測定結果を記録させ,定期的な面談の情報として利用する計画である。
〔管理本部の取組み〕
今回導入する健康情報システムを活用し,管理本部は,全従業員を対象に,健康に関する社内セミナの開催や情報提供を行う。
① 健康推進本部と連携して,成人病の予防,メンタルヘルスなどの社内セミナを開催する。セミナのテーマは,データベースに登録されている情報を参考にして検討する。 ② 特定保健指導の対象者の参加率を高めるために,医療費削減に関する情報を提供する。 〔B 健康保険組合の取組み〕
最近では,従業員数が横ばい状態で,保険料収入が伸び悩んでいる。一方,加入者の高齢化などによって,組合が支払う医療費は増加しており,医療費の削減対策が必要である。医療費の削減対策として成人病予防を重視し,特定保健指導の強化によって従業員及び被扶養者の医療費を削減したい。現在は,医療費と特定保健指導の関係について評価はできていないので,特定保健指導に積極的に取り組めていないものと考えている。
従業員の配偶者に対する成人病予防は,配偶者の健康診断の受診と健康改善に関する情報を提供することによって行う。配偶者には健康診断の受診案内を行い,希望者が受診している。
健康保険組合では健康増進につながる情報を 3 か月ごとに資料として発行し,従業員に提供している。資料には,季節ごとの食材を使用した献立の情報,成人病予防に効果があるといわれている食事や運動に関する情報,ストレス対策情報などが掲載されている。これらの情報は,健康改善の参考になるという,従業員からの意見が多い。配偶者にも見てもらいたいが,資料を家に持ち帰らない従業員が多い。
現在,健康保険組合の提供する情報は,会社のイントラネットで見ることができるが,インターネットによる情報提供の環境はないので,従業員と配偶者は自宅からアクセスすることはできない。今回,情報セキュリティを考慮したインターネット環境を構築し,従業員や配偶者へ,健康保険組合から情報を提供できるようにする。最近,健康保険組合のシステムは更新されており,従業員の配偶者の健康診断の受診結果は,データベース化されている。
B 社では,今回の健康情報システムの導入によって,健康指導の取組みを強化し,“働きやすい会社”を目指していくことにしている。
出題趣旨(IPA)
ITストラテジストには,対象となる業務の調査・分析を行い,個別システム化計画を適切に策定する能力が求められる。本問では,従業員の健康情報の共有が行われていない企業を題材に,新システムの活用による問題の解決,業務の見直しと情報活用に関する検討についての能力を評価する。具体的には,健康診断に関わる業務の改善,保健指導に関わる新たな業務の検討と提供すべき情報,従業員の健康増進につながる情報の活用について問う。
採点講評(問全体・IPA)
問2では,健康情報システムの導入検討について出題した。題意や状況設定はおおむね理解されているようであったが,一部の設問で題意を十分に理解できていないと思われる解答が見られた。
ITストラテジストは,対象となる業務の調査・分析を行い,ITを活用することで可能となる業務の改善や新たなサービスにおいて誰にどのような情報を提供すべきか検討を行い,個別システム化計画を適切に策定する能力を身につけてほしい。
設問と解答例
設問1(1)
40字以内
従業員を受診予定日に受診させるために行うべきことについて,40 字以内で述べよ。
解答例
受診計画に基づき,一定期間前に従業員本人及び直属の上司に受診案内を行う。
解説
本文の根拠
〔健康診断の現状〕
③ 受診計画の作成後,従業員本人と直属の上司に対して,受診予定日を 4 月中に通知する。
〔健康診断の現状〕
従業員によっては,受診予定日を忘れ,業務予定を入れてしまうなどで,計画した日に受診できない者がいる。
〔健康情報システムの導入〕
① 健康診断管理:健康診断の予約,取消し,受診実績,受診結果を登録する。
受診予定日は 4 月中に通知されるが,健康診断は 5 月から 10 月にかけて行われるので,受診日まで何か月も空く従業員がいる。そのため受診予定日を忘れて業務予定を入れてしまい,計画した日に受診できない。受診日が近づいた時点でもう一度知らせれば,忘れることを防げる。
健康情報システムの健康診断管理には受診計画(予約)が登録されるので,受診日の一定期間前に該当する従業員を抽出して案内を出せる。案内の相手は,当初の通知と同じく従業員本人と直属の上司にする。上司にも知らせておけば,受診日に業務予定を入れることを職場の側でも避けられる。
40字に対し,解答例は「受診計画に基づき,一定期間前に従業員本人及び直属の上司に受診案内を行う。」で36字。「いつ(一定期間前)」「誰に(本人と上司)」「何を(受診案内)」の三つを入れる。
設問1(2)
30字以内
健康管理室において,削減可能な業務を,30 字以内で述べよ。
解答例
異動した従業員に関する健康診断受診結果のとりまとめ
解説
本文の根拠
〔健康診断の現状〕
現在,健康診断の受診結果,健康管理室で実施した面談記録などは,それぞれの健康管理室において,紙で管理している。
〔健康診断の現状〕
従業員に異動があると,異動元の健康管理室では,対象従業員の受診結果をとりまとめ,異動先からの要求に応じて提供できるようにしている。
〔健康情報システムの導入〕
今回,全従業員の健康診断の受診結果,健康管理室で実施した面談記録,成人病予防のために実施した特定保健指導などの情報を管理する健康情報システムを本社に導入する。本社にはデータベースと業務サーバを設置し,それぞれの健康管理室には端末を配備する。
〔健康情報システムの導入〕
従来,健康管理室で行っていた受診計画作成業務は,健康診断管理に同等の業務機能があるので,現行の手作業をそのままシステム化する。
いまは受診結果を健康管理室ごとに紙で管理しているので,従業員が異動すると,異動元の健康管理室が受診結果をとりまとめて異動先に提供している。健康情報システムでは全従業員の受診結果を本社のデータベースで一元管理し,各健康管理室は端末から参照できるので,異動先の健康管理室は自分で受診結果を見られる。異動元のとりまとめ作業は要らなくなる。
講評によると,受診計画作成業務のように「システム化することで軽減される業務」を答えた例が多かった。受診計画作成業務は手作業をそのままシステム化するので,業務そのものは残る。問われているのは「削減可能な」業務,つまり無くせる業務である。
30字に対し,解答例は「異動した従業員に関する健康診断受診結果のとりまとめ」で25字。誰の(異動した従業員)何を(受診結果)どうする業務か(とりまとめ)を名詞で結ぶ。
採点講評(IPA)
設問1 (2)では,健康情報システム導入に伴い削減可能な業務について解答を求めたが,受診計画作成業務のようにシステム化することで軽減される業務を解答している例も多く見られた。
設問2(1)
40字以内
特定保健指導の対象者に対して,健康情報システムを利用して健康管理室が新たに行うべき指導について,40 字以内で述べよ。
解答例
体重と体脂肪率,血圧の測定結果と,毎日の歩数の記録に応じた指導を行う。
解説
本文の根拠
〔健康管理室の保健指導・健康指導〕
体重・体脂肪率と運動量には関係があるといわれており,その情報を記録することで,健康指導の新たなメニューとして,従業員への指導に取り組む計画である。
〔健康管理室の保健指導・健康指導〕
個々の従業員は,業務用 PC や携帯電話などから,データベースに毎日の歩数を登録する。特定保健指導が必要な従業員には,体重,体脂肪率,血圧の毎週の測定結果を記録させ,定期的な面談の情報として利用する計画である。
健康管理室は,健康指導の新たなメニューとして,体重・体脂肪率と運動量の関係を使った指導に取り組む。データベースには全従業員の毎日の歩数(運動量)が登録され,特定保健指導が必要な従業員はさらに体重・体脂肪率・血圧の毎週の測定結果を記録する。この二つを組み合わせて,記録の推移に応じて指導するのが新たな指導になる。
特定保健指導の対象者には「定期的な面談の情報として利用する」とあるので,指導の材料は測定結果と歩数の記録である。いずれも健康情報システムのデータベースにあり,設問の「健康情報システムを利用して」に当たる。
40字に対し,解答例は「体重と体脂肪率,血圧の測定結果と,毎日の歩数の記録に応じた指導を行う。」で35字。何の記録(測定結果と歩数)に基づく指導かを本文の項目どおりに並べる。
設問2(2)
30字以内
従業員の配偶者の健康改善を行うために,従業員の配偶者に対して,健康保険組合が提供すべき情報について,30 字以内で述べよ。
解答例
健康診断の受診結果に基づいた成人病予防に関する情報
解説
本文の根拠
〔B 健康保険組合の取組み〕
従業員の配偶者に対する成人病予防は,配偶者の健康診断の受診と健康改善に関する情報を提供することによって行う。
〔B 健康保険組合の取組み〕
最近,健康保険組合のシステムは更新されており,従業員の配偶者の健康診断の受診結果は,データベース化されている。
〔B 健康保険組合の取組み〕
今回,情報セキュリティを考慮したインターネット環境を構築し,従業員や配偶者へ,健康保険組合から情報を提供できるようにする。
配偶者の成人病予防は,健康診断の受診と健康改善に関する情報の提供で行う。健康保険組合のシステムでは配偶者の健康診断の受診結果がデータベース化されているので,一人一人の受診結果に基づいて,成人病予防に役立つ情報を提供できる。インターネット環境を構築すれば,配偶者は自宅からその情報を見られる。
3 か月ごとの資料(献立,食事や運動,ストレス対策)は従業員全体に向けた一般的な情報で,しかも家に持ち帰られないことが多い。配偶者の健康改善には,受診結果という個人のデータに基づいた情報のほうが効く。データベース化された受診結果があることが,この設問の手掛かりになる。
30字に対し,解答例は「健康診断の受診結果に基づいた成人病予防に関する情報」で25字。情報の根拠(受診結果)と目的(成人病予防)の二つを入れる。
設問3(1)
30字以内
管理本部と健康推進本部が連携して,社内セミナのテーマを検討するときに参考にするとよいと考えられることについて,30 字以内で述べよ。
解答例
解説
本文の根拠
〔健康管理室の保健指導・健康指導〕
最近,健康管理室には,成人病予防や成人病に対する健康相談,メンタル相談に来る従業員が増えている。今回,従業員からの相談を,健康相談,メンタル相談の 2 種類に分類して,面談記録としてデータベースに登録する。
〔管理本部の取組み〕
① 健康推進本部と連携して,成人病の予防,メンタルヘルスなどの社内セミナを開催する。セミナのテーマは,データベースに登録されている情報を参考にして検討する。
社内セミナのテーマ候補は「成人病の予防,メンタルヘルスなど」で,テーマはデータベースに登録されている情報を参考にして決める。データベースには,従業員の相談を健康相談とメンタル相談の 2 種類に分類した面談記録が登録される。この二つの比率を見れば,成人病の予防とメンタルヘルスのどちらに従業員の関心や悩みが多いかが分かり,テーマを選べる。
講評によると,面談記録の健康相談とメンタル相談という活用すべきデータは理解されていたが,データの比率や分析などテーマ検討に関する記述が不足している解答が多かった。データの名前を挙げるだけでなく,どう使えばテーマが決まるか(比率)まで書く必要がある。
30字に対し,解答例は「面談記録に占める健康相談とメンタル相談の比率」で22字。データ(面談記録の 2 分類)と見方(比率)を一つの名詞句にまとめる。
採点講評(IPA)
設問3では,健康への取組みについて,(1)社内セミナのテーマ検討における健康情報システムのデータベースの活用と,(2)特定保健指導の推進のために健康保険組合が会社に対して行うべきことについて,解答を求めた。(1)では,データベースに登録されている面談記録の健康相談とメンタル相談という活用すべきデータは理解できていたが,データの比率や分析などといったテーマ検討に関する記述が不足している解答も多く見られた。
設問3(2)
40字以内
会社が行う特定保健指導の取組みを推進するために,健康保険組合が行うべきことについて,40 字以内で述べよ。
解答例
特定保健指導情報と医療費の関係を分析し,指導の効果を評価する。
解説
本文の根拠
〔B 健康保険組合の取組み〕
医療費の削減対策として成人病予防を重視し,特定保健指導の強化によって従業員及び被扶養者の医療費を削減したい。現在は,医療費と特定保健指導の関係について評価はできていないので,特定保健指導に積極的に取り組めていないものと考えている。
〔健康管理室の保健指導・健康指導〕
フォローをしたときの特定保健指導情報は,健康保険組合に送付している。
〔管理本部の取組み〕
② 特定保健指導の対象者の参加率を高めるために,医療費削減に関する情報を提供する。
健康保険組合は,医療費と特定保健指導の関係を評価できていないことが,特定保健指導に積極的に取り組めていない原因だと考えている。健康保険組合には健康管理室から特定保健指導情報が送られており,医療費は組合自身が支払っているので,両者の関係を分析すれば,指導が医療費の削減にどれだけ効いたかを評価できる。その結果を会社に示せば,会社の取組みを後押しできる。
管理本部は特定保健指導の参加率を高めるために医療費削減に関する情報を提供する予定で,その材料にもなる。講評によると,健康保険組合が組合員に対して行う情報提供を答えた誤りが多かった。問われているのは,健康保険組合が「会社に対して」行うべきことである。
40字に対し,解答例は「特定保健指導情報と医療費の関係を分析し,指導の効果を評価する。」で31字。本文の「医療費と特定保健指導の関係について評価はできていない」を裏返し,分析の対象と目的(効果の評価)を書く。
採点講評(IPA)
設問3では,健康への取組みについて,(1)社内セミナのテーマ検討における健康情報システムのデータベースの活用と,(2)特定保健指導の推進のために健康保険組合が会社に対して行うべきことについて,解答を求めた。(2)では,健康保険組合が会社に行うべき特定保健指導と医療費を分析して効果を評価することについて解答を求めたが,健康保険組合が組合員に対する情報提供についての誤った解答も多く見られた。
出典:平成23年度 秋期 ITストラテジスト試験 午後Ⅰ 問2(表記を一部改変)
問3 測定機器メーカにおける業務改革
測定機器メーカにおける業務改革に関する次の記述を読んで,設問1〜3に答えよ。
C 社は,センサや計測機器などを製造している測定機器メーカである。顧客は,製造業や建設業など多くの業種にまたがっている。C 社の強みは,様々な条件下でも安定稼働する測定機器の信頼性と機能の高さである。ここ数年,測定機器単体の利益率が減少していることから,測定機器と情報システムを組み合わせた監視システムや制御システムなどのソリューション事業にも進出している。
最近は,SI ベンダが,測定機器を組み込んだ情報システムによる業務改善案を C 社の顧客に提示し,引き合いにつなげており,C 社の競合相手となっている。また,C 社が獲得した案件でも,システム開発工数が見積工数を超えてしまい,利益が得られないケースが増えてきた。
〔営業活動の現状〕
C 社の案件は,顧客からの引き合い,提案依頼,提案書の提出やプレゼンテーションなどの段階を経て,受注へとつながっていく。
優秀な営業担当者は,顧客との信頼関係を築き,C 社の測定機器を活用したソリューションの導入事例などを紹介し,引き合いにつなげている。また,提案前に顧客のキーパーソンに予算額を確認することで,顧客の予算に合わせたソリューションの提案を作成している。しかし,多くの営業担当者は,ソリューションの営業活動が不十分で,引き合いにつながらなかったり,案件を獲得できなかったりしている。また,作成した提案書を顧客の意思決定者に説明するまでに至らず,担当者にとどまり,失注してしまうこともある。
技術担当者は提案書を作成し,受注後,プロジェクトマネージャとしてシステム開発プロジェクトを実施する。顧客からは,“測定機器の機能説明を中心とした提案ではなく,当社の業務要件とシステム導入の投資効果を十分に検討してほしい”という要望を受けている。
〔案件管理の問題点〕
C 社は,数年前に,営業部門と技術部門間の情報共有のために案件管理システムを導入し,顧客から引き合いがあった案件を,営業担当者が順次登録している。しかし,技術部門ではシステムの使い勝手が悪いこともあって,営業部門との情報共有は進んでいない。
案件の進捗状況は,営業担当者が訪問日時や訪問結果などを文章で記述しているだけである。案件の受注確度も登録しているが,確度の判断は営業担当者任せであり,精度が低い。営業担当者が技術担当者に提案書の作成を突然依頼し,期限までに提出できないこともあった。技術部門からは,“案件の進捗の管理を強化すべきではないか”という意見が多い。
〔技術部門の問題点〕
屋外で測定機器を利用する場合や 24 時間稼働を要請される場合は,小規模なシステム開発プロジェクトでも高信頼性が求められ,テスト工数が増大する。また,顧客が測定機器にあまり詳しくなかったり関係者が多すぎたりして,システムの仕様がなかなか決まらない場合は,設計工数が増大する。ベテランの技術担当者は,システム開発プロジェクトの開始前に工数が増大しそうな作業を洗い出し,仕様を決めるために関係者によるレビューを行ったり,ハードウェアのテストを先行させたりして,リスクに応じた対応策を準備している。
顧客にとって魅力があり,競争に強いソリューションを作成するには,技術部門全体としての総合力が不足している。顧客の業務要件に合致し,市場競争力のある測定機器を盛り込んだ提案書を作成できるようになるには,個々の技術担当者が業務経験を積む必要がある。若手の技術担当者は,サーバから検索した過去の提案書を流用し,提案書を作成している。作成された提案書については,技術部門の各グループ長が提案内容や見積内容を精査し,営業部門へ提出している。しかし,提案件数が多く,グループ長は十分に確認できず,若手の技術担当者への指導も不十分である。
〔業務改革案〕
C 社の社長は,受注案件の増大と利益の確保を目指して,業務改革チームを立ち上げた。業務改革チームは,優秀な営業担当者の活動や失注事例などのノウハウを集約し,営業活動の必須項目と推奨項目を定義した表 1 の案件管理プロセスを作成した。案件管理システムでは,この定義に従って,営業活動の実施状況を登録し,必須項目の実績に応じて,案件の進捗を表 1 の 5 段階で管理することにした。
さらに,システム開発プロジェクトの利益確保のため,見積時に若手の技術担当者でもリスクを評価できるチェックシートを導入した。そして提案書と一緒に提出されたチェックシートで,リスクのチェック状況をグループ長が確認することにした。
表1 案件管理プロセス
出題趣旨(IPA)
ITストラテジストには,現状の業務を分析し,業務改革方針に合致した施策を作成する能力が求められる。本問では,機器販売事業からソリューション事業に進出している測定機器メーカの業務改革を題材に,受注案件を増大させ,利益を確保するための施策を作成する能力を評価する。具体的には,引き合いを増やすために顧客に提供すべき情報,技術部門の提案書作成とリスク管理の改善策,営業活動と案件管理の改善策について問う。
採点講評(問全体・IPA)
問3では,測定機器メーカにおける業務改革について出題した。状況設定は,おおむね理解されているようであった。
ITストラテジストは,現状業務を十分に理解した上で,業務改革方針に合致した実践的な業務改善案を作成できるようになってほしい。
設問と解答例
設問1
解答欄2つ
営業担当者が引き合いを得るために,顧客に提供すべき有効な情報を二つ挙げ,それぞれ 30 字以内で述べよ。
解説
本文の根拠
冒頭
最近は,SI ベンダが,測定機器を組み込んだ情報システムによる業務改善案を C 社の顧客に提示し,引き合いにつなげており,C 社の競合相手となっている。
〔営業活動の現状〕
優秀な営業担当者は,顧客との信頼関係を築き,C 社の測定機器を活用したソリューションの導入事例などを紹介し,引き合いにつなげている。
冒頭
ここ数年,測定機器単体の利益率が減少していることから,測定機器と情報システムを組み合わせた監視システムや制御システムなどのソリューション事業にも進出している。
引き合いにつながっている例が本文に二つある。一つは競合の SI ベンダで,「測定機器を組み込んだ情報システムによる業務改善案」を C 社の顧客に提示して引き合いを得ている。もう一つは C 社の優秀な営業担当者で,「C 社の測定機器を活用したソリューションの導入事例」を紹介して引き合いにつなげている。この二つを,多くの営業担当者も顧客に提供すべき情報とする。
C 社は測定機器単体ではなくソリューション事業に進出しており,顧客に関心をもってもらうには,機器の性能よりも,顧客の業務がどう良くなるか(改善案)と,実際にどう使われたか(導入事例)を示すほうが有効である。講評によると,“多くの業種の顧客がいること”のような C 社の一般的な評価情報を答えた例が見られた。顧客情報が不足している中で関心をもってもらうための情報が問われている。
30字に対し,解答例は①「測定機器を組み込んだ情報システムによる業務改善案」,②「C社の測定機器を活用したソリューションの導入事例」でともに24字。どちらも本文の言い回しをほぼそのまま使える。
採点講評(IPA)
設問1では,引き合いを得るための有効な情報について出題した。おおむね理解されているようであったが,“多くの業種の顧客がいること”などのようにC社の一般的な評価情報を解答している例も見られた。顧客情報が不足している中でC社のソリューションに関心をもってもらうためには,どのような情報が有効かを理解してほしい。
設問2(1)
解答欄2つ
受注につなげるために,提案書に盛り込むべき内容を,顧客の視点及び C 社の視点から,それぞれ 30 字以内で述べよ。
解説
本文の根拠
〔営業活動の現状〕
顧客からは,“測定機器の機能説明を中心とした提案ではなく,当社の業務要件とシステム導入の投資効果を十分に検討してほしい”という要望を受けている。
〔技術部門の問題点〕
顧客の業務要件に合致し,市場競争力のある測定機器を盛り込んだ提案書を作成できるようになるには,個々の技術担当者が業務経験を積む必要がある。
〔技術部門の問題点〕
顧客にとって魅力があり,競争に強いソリューションを作成するには,技術部門全体としての総合力が不足している。
顧客の視点は,顧客の要望にそのまま書かれている。顧客は測定機器の機能説明ではなく,「当社の業務要件とシステム導入の投資効果」を十分に検討した提案を求めている。C 社の視点は,〔技術部門の問題点〕の「顧客の業務要件に合致し,市場競争力のある測定機器を盛り込んだ提案書」にある。C 社の強みである測定機器を,顧客の業務要件に合わせ,競争に勝てる形で提案に盛り込むことである。
二つの視点は,顧客にとって魅力があること(業務要件と投資効果)と,競争に強いこと(市場競争力のある測定機器)に対応している。講評によると,プロジェクト開始後の C 社のリスク管理の観点から答えた例が見られた。設問は「受注につなげるために」盛り込む内容を問うているので,リスク管理は設問2(2)の範囲である。
30字に対し,解答例は顧客の視点「顧客の業務要件とシステム導入の投資効果」で19字,C社の視点「顧客の業務要件に合致し,市場競争力のある測定機器」で24字。どちらも本文の語句をそのまま使える。
採点講評(IPA)
設問2(1)では,受注につなげるために提案書に盛り込むべき内容についての解答を求めたが,プロジェクト開始後のC社のリスク管理の観点から解答している例も見られた。
設問2(2)
解答欄2つ
システム開発プロジェクトの利益確保のために,チェックシートに盛り込むべき,チェック項目を二つ挙げ,それぞれ 20 字以内で述べよ。
解説
本文の根拠
〔技術部門の問題点〕
屋外で測定機器を利用する場合や 24 時間稼働を要請される場合は,小規模なシステム開発プロジェクトでも高信頼性が求められ,テスト工数が増大する。
〔技術部門の問題点〕
また,顧客が測定機器にあまり詳しくなかったり関係者が多すぎたりして,システムの仕様がなかなか決まらない場合は,設計工数が増大する。
〔業務改革案〕
さらに,システム開発プロジェクトの利益確保のため,見積時に若手の技術担当者でもリスクを評価できるチェックシートを導入した。
C 社では,システム開発工数が見積工数を超えて利益が出ない案件が増えている。工数が増える場面として,本文は二つを挙げる。屋外利用や 24 時間稼働で高信頼性が求められるとテスト工数が増え,顧客が測定機器に詳しくなかったり関係者が多すぎたりして仕様が決まらないと設計工数が増える。見積時にこの二つを確かめれば,若手の技術担当者でもリスクを見積りに反映できる。
ベテランの技術担当者は,工数が増えそうな作業を洗い出して,関係者レビューやハードウェアの先行テストで対応している。講評によると,“先行テストの実施”のように,リスクの評価と対応策を混同した解答が見られた。チェックシートは「リスクを評価できる」ためのものなので,項目は対応策ではなく,リスクの大きさを測る観点(信頼性の要求,仕様の確定状況)になる。
20字に対し,解答例は①「システムに要求される信頼性の高さ」で16字,②「システム仕様の確定の状況」で12字。チェックの対象を名詞で書く。
採点講評(IPA)
(2)では,リスクのチェック項目についてはおおむね理解されていたが,“先行テストの実施”などのようにリスク評価と対応策を混同している解答も見られた。
設問3(1)
解答欄2つ
表 1 中の推奨項目のa ,b に入れる活動を,それぞれ 20 字以内で述べよ。
解説
本文の根拠
〔営業活動の現状〕
また,提案前に顧客のキーパーソンに予算額を確認することで,顧客の予算に合わせたソリューションの提案を作成している。
〔営業活動の現状〕
また,作成した提案書を顧客の意思決定者に説明するまでに至らず,担当者にとどまり,失注してしまうこともある。
〔業務改革案〕
業務改革チームは,優秀な営業担当者の活動や失注事例などのノウハウを集約し,営業活動の必須項目と推奨項目を定義した表 1 の案件管理プロセスを作成した。
表1の推奨項目は,優秀な営業担当者の活動と失注事例のノウハウを集約したものである。a は②提案依頼の段階にあり,提案書を作る前に行う活動である。優秀な営業担当者は「提案前に顧客のキーパーソンに予算額を確認」して,予算に合わせた提案を作っている。b は④プレゼンテーションの段階にあり,失注事例の「作成した提案書を顧客の意思決定者に説明するまでに至らず」の裏返しで,意思決定者に提案書を説明することになる。
③提案書の提出で「顧客の意思決定者を確認する」,④で「意思決定者に対して…C 社を推薦してもらう」とあるので,b がその流れの先にある活動だと分かる。講評によると,各段階の進捗に応じた活動と関係ない解答が見られた。表の段階の順に,案件獲得の確度を高めていく時系列の活動として読む。
20字に対し,解答例は a「キーパーソンに予算額を確認する。」で16字,b「意思決定者に提案書を説明する。」で15字。空欄の前の「顧客の」に続く形で書く。
採点講評(IPA)
設問3(1)では,案件管理プロセスについてはおおむね理解されていたが,案件の引き合いから契約交渉までの各段階の進捗に応じた活動と関係ない解答も見られた。案件獲得の確度を高めていく時系列な営業活動を理解できていなかったと思われる。
設問3(2)
30字以内
推奨項目の実施状況も登録することで,現在の案件管理システムを更に改善する効果が見込まれる。どのような効果か,30 字以内で述べよ。
解答例
推奨項目の実施状況から受注確度を客観的に判断できる。
解説
本文の根拠
〔案件管理の問題点〕
案件の受注確度も登録しているが,確度の判断は営業担当者任せであり,精度が低い。
〔業務改革案〕
案件管理システムでは,この定義に従って,営業活動の実施状況を登録し,必須項目の実績に応じて,案件の進捗を表 1 の 5 段階で管理することにした。
現在の案件管理システムでは,受注確度の判断が営業担当者任せで精度が低い。推奨項目は,優秀な営業担当者が受注につなげている活動を定義したものなので,その実施状況を登録すれば,推奨項目をどれだけ実施したかで受注確度を判断できる。担当者の感覚ではなく,実施した活動という事実で確度を測れるようになる。
必須項目の実績は案件の進捗(5 段階のどこにいるか)を表すだけで,同じ段階にある案件どうしの受注の見込みの差までは分からない。推奨項目の実施状況が加わることで,その差が見えるようになる。講評によると,推奨活動の実施状況と受注獲得の確度の関係をつかめなかった解答が散見された。
30字に対し,解答例は「推奨項目の実施状況から受注確度を客観的に判断できる。」で26字。何から(実施状況)何を(受注確度)どう判断するか(客観的に)を入れ,本文の「担当者任せ」との違いを「客観的に」で表す。
採点講評(IPA)
(2)では,推奨活動の実施状況と受注獲得の確度の関係をつかめなかった解答も散見された。
出典:平成23年度 秋期 ITストラテジスト試験 午後Ⅰ 問3(表記を一部改変)
問4 ディジタルカメラの新製品企画
ディジタルカメラの新製品企画に関する次の記述を読んで,設問1〜3に答えよ。
D 社は,ディジタルカメラの開発・製造・販売企業であり,主力製品はコンパクトディジタルカメラ(以下,ディジタルカメラという)である。
〔D 社の現状〕
ディジタルカメラは競合メーカが多く,他社が高機能・低価格の製品で売上を伸ばしている中,D 社は人気のある製品を開発できていない。
そこで,D 社は,新たに事業方針として,ターゲットを明確にした魅力的な製品作りを掲げ,事業の改善を図ることにした。この事業方針に基づいて,ディジタルカメラの次期モデルの製品開発について検討した。
〔消費者の要望分析〕
検討に当たって,D 社では,ディジタルカメラの需要に関する市場調査結果を分析し,消費者を幾つかのグループに分類した。その中で,特徴的な傾向が見られた次のグループⅠ〜Ⅲを,新製品のターゲット候補とした。
学生,社会人など,他のグループに比べて経済的に余裕のない,若年層の消費者グループである。
基本的には,携帯電話に搭載されているカメラで満足しており,ディジタルカメラの需要が少ない。しかし,背景をぼかして撮影できる機能(以下,背景ぼかし撮影機能という),仲間と一緒の写真を自分で撮影できる広角機能などの要望が多い。
社会人としての経験が比較的長く,経済的に余裕のある消費者グループである。
ディジタルカメラの需要が最も多く,新しいモデルへの買換えも多い。子供の運動会,演奏会などで撮影するのに有効な,10 倍以上の高倍率の光学ズーム機能,連写撮影機能及び動画撮影機能の要望が多い。
定年退職者などを含む,比較的高い年齢層の消費者グループである。
旅行,登山などをしたときの風景の撮影及び花などの近接撮影に適した,小型・軽量タイプのディジタルカメラの要望が多い。高価でも,要望に合った製品を買って,長く使い続ける人が多い。リング,レバーを回すフィルム式カメラの機械的な操作に愛着があるので,ディジタルカメラの操作,撮影した写真のデータ(以下,写真データという)の処理に対して,次のような要望をもっている。
液晶画面のメニューは使いづらく,ボタン,メニューによる,ズームレンズ,セルフタイマの操作になじめないので,感覚的に操作できるようにしてほしい。 液晶画面を見ながら,カメラを安定させて撮影することは難しいので,ファインダを見て撮影できるようにしてほしい。 写真データを簡単に PC に取り込めるようにしてほしい。 PC 上で写真を閲覧しやすいファイル(以下,アルバムファイルという)に簡単に編集できるようにしてほしい。 潜在的な市場は大きいので,この要望にこたえることによって売上を伸ばせる可能性がある。
各機能に対するグループⅠ〜Ⅲの要望度を,表 1 にまとめた。
表1 各機能に対するグループⅠ〜Ⅲの要望度
〔新製品企画〕
D 社は,次期モデルのターゲットをグループⅢに決定し,フィルム式カメラのような機械的な操作性と高級感とを併せもった新製品を企画した。
この新製品は,コスト増となっても高級機種に相当する基本機能を備えることにした。
〔開発技術の分析〕
D 社の IT ストラテジストである E 氏は,システムアーキテクトの F 氏に対して,新製品企画で示された基本性能・機能を満たしたディジタルカメラを開発するための技術的課題と解決方法を検討するよう指示した。後日,F 氏からは次のような報告があった。
高倍率の光学ズーム機能は,倍率が 10 倍を超えると,本体のサイズが大きく重くなってしまう。 ファインダで見える範囲をズーム機能と連動させると,使い勝手が良くなる。そのためには,小型の液晶画面をファインダ内に実装する方式を開発する。 動画撮影機能は,発売中のモデルで実現済であり,技術を再利用して開発する。 写真データを PC に自動的に保存する機能としては,USB で接続して手動でファイルを保存する方式とは別に,無線 LAN を経由して定期的に写真データを送信する方式を開発する。 PC に自動保存された写真データからアルバムファイルを自動作成する機能は,PC で動作するソフトウェアとして開発する。 〔新製品の要求仕様及び製品戦略〕
E 氏は,新製品の要求仕様を次のようにまとめた。
撮影した写真を確認するための液晶を搭載する。 光学ズームの倍率は最大 5 倍とし,レンズ周りのリングを回す操作方式とする。 セルフタイマは,レバーで操作する方式とする。 近接マクロ機能及び広角機能を搭載する。 ファインダをのぞいて撮影するタイプとする。 光学ズームの操作によって決まる撮影範囲を,ファインダの表示範囲に連動させる。 動画撮影機能は搭載するが,連写撮影機能及び背景ぼかし撮影機能は搭載しない。 写真データ及び撮影した動画のデータを,PC に自動保存する機能を搭載する。 また,E 氏は,カメラの機能に対する要求仕様の他に,次に示す商品戦略をまとめた。
PC 上でアルバムファイルを自動作成する,アルバム自動作成ソフトウェアを開発する。 アルバム自動作成ソフトウェアは,D 社のディジタルカメラで撮影した写真データだけに使用できる,独自技術のものとする。 アルバム自動作成ソフトウェアは,利用期間を 3 か月とする試用版として製品に添付し,3 か月以上利用する場合は有料とする。ただし,1 年のメーカ保証期間を有料で 3 年とするメーカ保証期間延長サービスの契約をした利用者は,3 か月を過ぎても無料で利用できることとする。
出題趣旨(IPA)
ITストラテジストには,市場動向や利用者の要求を分析し,競争力のある製品を企画したり,提案したりする能力が求められる。本問では,コンパクトディジタルカメラを題材に,製品の市場動向や利用者の要求を分析し,新たな製品を企画したり,提案したりする能力を評価する。具体的には,製品企画と要求仕様の検討,製品戦略の策定,派生製品の開発について問う。
採点講評(問全体・IPA)
問4では,ディジタルカメラの新製品企画について,消費者の要望分析から製品戦略までについて出題した。題意や状況設定はおおむね理解されているようであった。
ITストラテジストは,消費者の要求を分析しターゲットを決め新製品を企画するだけではなく,その後の製品展開や企業としての継続的な事業戦略を踏まえ,製品戦略を策定し,推進する能力も身につけてほしい。
設問と解答例
設問1(1)
解答欄2つ
次期モデルのターゲットをグループⅢに決定した理由を二つ挙げ,それぞれ 35 字以内で述べよ。
〔②〕解答例
高価でも要望に合う製品を買い求める人が多いグループだから
解説
本文の根拠
〔消費者の要望分析〕
高価でも,要望に合った製品を買って,長く使い続ける人が多い。
〔消費者の要望分析〕
潜在的な市場は大きいので,この要望にこたえることによって売上を伸ばせる可能性がある。
〔D 社の現状〕
ディジタルカメラは競合メーカが多く,他社が高機能・低価格の製品で売上を伸ばしている中,D 社は人気のある製品を開発できていない。
グループⅢの説明の中に,ターゲットに選ぶ理由が二つ書かれている。一つは「潜在的な市場は大きいので,この要望にこたえることによって売上を伸ばせる可能性がある」こと,もう一つは「高価でも,要望に合った製品を買って,長く使い続ける人が多い」ことである。前者は売上の拡大が見込めること,後者は高価格でも買ってもらえることを意味する。
他社が高機能・低価格の製品で売上を伸ばす中では,価格で競うよりも,高価でも要望に合う製品を求める層を狙うほうが D 社に向く。新製品が「コスト増となっても高級機種に相当する基本機能を備える」ことも,高価でも買う層を前提にしている。なお,需要が最も多いのはグループⅡだが,本文がグループⅢについて「潜在的な市場は大きい」と書いている点に注意する。解答例①の「最も売上の拡大が見込める」は,今の需要の大きさではなく,要望にこたえたときに伸ばせる売上を指している。
35字に対し,解答例は①「最も売上の拡大が見込めるグループと考えられるから」で24字,②「高価でも要望に合う製品を買い求める人が多いグループだから」で28字。理由なので「〜から」で結び,二つが市場の大きさと価格の受容という別の観点になるようにする。
採点講評(IPA)
設問1では,新製品の企画と要求仕様について解答を求めた。(1)(3)(4)では,要求仕様の理解度は高かったが,(2)では,製品の特徴である操作性と高級感をうまく表現できていない解答も一部に見られた。
設問1(2)
35字以内
新製品のコンセプトを,35 字以内で述べよ。
解答例
フィルム式カメラの操作性と高級感を併せもつディジタルカメラ
解説
本文の根拠
〔新製品企画〕
D 社は,次期モデルのターゲットをグループⅢに決定し,フィルム式カメラのような機械的な操作性と高級感とを併せもった新製品を企画した。
〔消費者の要望分析〕
リング,レバーを回すフィルム式カメラの機械的な操作に愛着があるので,ディジタルカメラの操作,撮影した写真のデータ(以下,写真データという)の処理に対して,次のような要望をもっている。
新製品のコンセプトは〔新製品企画〕にそのまま書かれている。「フィルム式カメラのような機械的な操作性と高級感とを併せもった新製品」である。グループⅢはリングやレバーを回すフィルム式カメラの機械的な操作に愛着があり,高価でも要望に合った製品を買う。この二つの特徴が「操作性」と「高級感」に対応する。
要求仕様の「レンズ周りのリングを回す操作方式」「レバーで操作する方式」「ファインダをのぞいて撮影する」は,このコンセプトを具体化したものである。講評によると,製品の特徴である操作性と高級感をうまく表現できていない解答が一部に見られた。二つとも入れることが必要である。
35字に対し,解答例は「フィルム式カメラの操作性と高級感を併せもつディジタルカメラ」で29字。何の製品か(ディジタルカメラ)を最後に置き,その特徴として操作性と高級感の二つを並べる。
採点講評(IPA)
設問1では,新製品の企画と要求仕様について解答を求めた。(1)(3)(4)では,要求仕様の理解度は高かったが,(2)では,製品の特徴である操作性と高級感をうまく表現できていない解答も一部に見られた。
設問1(3)
25字以内
連写撮影機能及び背景ぼかし撮影機能を搭載しない共通の理由を,25 字以内で述べよ。
解答例
解説
本文の根拠
表1
応用撮影:連写撮影(Ⅰ ○,Ⅱ ◎,Ⅲ △),動画撮影(Ⅰ ○,Ⅱ ◎,Ⅲ ○),背景ぼかし撮影(Ⅰ ◎,Ⅱ △,Ⅲ △)。
〔新製品の要求仕様及び製品戦略〕
動画撮影機能は搭載するが,連写撮影機能及び背景ぼかし撮影機能は搭載しない。
表1で,ターゲットのグループⅢの要望度を見ると,連写撮影と背景ぼかし撮影はどちらも△(小,19〜0%)である。同じ応用撮影でも,動画撮影はグループⅢの要望度が○(中)なので搭載する。搭載しない二つに共通するのは,ターゲットであるグループⅢの要望度が小さいことである。
連写撮影はグループⅡ,背景ぼかし撮影はグループⅠの要望度が◎(大)だが,次期モデルのターゲットはグループⅢなので,他のグループの要望は採らない。表の◎○△を,ターゲットのグループの列で読むことが手掛かりになる。
25字に対し,解答例は「グループⅢの要望度が少ない機能だから」で18字。表1の「要望度」の語を使い,誰の(グループⅢの)要望度かを明示する。
採点講評(IPA)
設問1では,新製品の企画と要求仕様について解答を求めた。(1)(3)(4)では,要求仕様の理解度は高かったが,(2)では,製品の特徴である操作性と高級感をうまく表現できていない解答も一部に見られた。
設問1(4)
25字以内
要望度が“中”にもかかわらず,高倍率の光学ズーム機能を搭載しない理由を,25 字以内で述べよ。
解答例
解説
本文の根拠
〔開発技術の分析〕
高倍率の光学ズーム機能は,倍率が 10 倍を超えると,本体のサイズが大きく重くなってしまう。
〔消費者の要望分析〕
旅行,登山などをしたときの風景の撮影及び花などの近接撮影に適した,小型・軽量タイプのディジタルカメラの要望が多い。
〔新製品の要求仕様及び製品戦略〕
光学ズームの倍率は最大 5 倍とし,レンズ周りのリングを回す操作方式とする。
表1で,10 倍以上の高倍率の光学ズーム機能に対するグループⅢの要望度は○(中)である。それでも搭載しないのは,F 氏の報告にあるとおり,倍率が 10 倍を超えると「本体のサイズが大きく重くなってしまう」からである。グループⅢは旅行や登山に適した小型・軽量タイプのディジタルカメラを望んでいるので,本体が大きく重くなることはその要望に反する。
そのため要求仕様では,光学ズームの倍率を最大 5 倍にとどめている。要望度が中の機能を採るか採らないかは,要望度が大きい「小型・軽量」とのかね合いで決まる。
25字に対し,解答例は「本体のサイズが大きく重くなってしまうから」で20字。F 氏の報告の言い回しをそのまま使い,理由なので「〜から」で結ぶ。
採点講評(IPA)
設問1では,新製品の企画と要求仕様について解答を求めた。(1)(3)(4)では,要求仕様の理解度は高かったが,(2)では,製品の特徴である操作性と高級感をうまく表現できていない解答も一部に見られた。
設問2
25字以内
有料のメーカ保証期間延長サービスの契約をした利用者に,アルバム自動作成ソフトウェアを無料で配布することにした目的を,売上拡大を除いて 25 字以内で述べよ。
解答例
解説
本文の根拠
〔新製品の要求仕様及び製品戦略〕
アルバム自動作成ソフトウェアは,D 社のディジタルカメラで撮影した写真データだけに使用できる,独自技術のものとする。
〔新製品の要求仕様及び製品戦略〕
ただし,1 年のメーカ保証期間を有料で 3 年とするメーカ保証期間延長サービスの契約をした利用者は,3 か月を過ぎても無料で利用できることとする。
〔消費者の要望分析〕
高価でも,要望に合った製品を買って,長く使い続ける人が多い。
アルバム自動作成ソフトウェアは,D 社のディジタルカメラで撮影した写真データにしか使えない。利用者がこのソフトウェアを使い続けるには,次にカメラを買い換えるときも D 社の製品を選ぶ必要がある。メーカ保証期間延長サービスを契約した利用者に無料で使わせれば,ソフトウェアに慣れ親しんでもらい,次回の購入でも D 社製品を選んでもらえる。
グループⅢは要望に合った製品を長く使い続ける人が多い。保証期間を延長した利用者は,その製品を長く使うつもりの人であり,その間ずっとソフトウェアを使えることが,次の購入につながる。講評によると,製品を販売する企業側から見た目的ではなく,消費者から見たメリットを示した解答が一部に見られた。問われているのは D 社にとっての目的である。
25字に対し,解答例は「次回購入時にも,D社製品を買ってもらうため」で21字。「売上拡大を除いて」とあるので,売上ではなく顧客の囲い込み(次回購入)を書き,目的なので「〜ため」で結ぶ。
採点講評(IPA)
設問2では,ソフトウェアを無料配布する目的について解答を求めたが,製品を販売する企業側から見た目的ではなく,消費者から見たメリットを示した解答も一部に見られた。
設問3
解答欄2つ
新製品のコンセプトを生かしながら,グループⅠ又はグループⅡへの展開を前提とした派生製品を開発する場合,どちらのグループをターゲットとすべきか。また,その理由を 40 字以内で述べよ。
〔理由〕解答例
機能的要望は高く,経済的余裕があり,派生製品の購入を見込める層だから
解説
本文の根拠
〔消費者の要望分析〕
社会人としての経験が比較的長く,経済的に余裕のある消費者グループである。
〔消費者の要望分析〕
ディジタルカメラの需要が最も多く,新しいモデルへの買換えも多い。
〔消費者の要望分析〕
学生,社会人など,他のグループに比べて経済的に余裕のない,若年層の消費者グループである。
表1
操作系:ズームと連動するファインダ(Ⅰ △,Ⅱ ○,Ⅲ ◎),機械的な操作(Ⅰ △,Ⅱ ○,Ⅲ ◎)。
新製品のコンセプトは,機械的な操作性と高級感である。表1の操作系(ズームと連動するファインダ,機械的な操作)を見ると,グループⅠは△,グループⅡは○で,コンセプトの機能への要望はグループⅡのほうが高い。また,高級感のある製品は高価になるが,グループⅡは経済的に余裕があり,グループⅠは余裕がない。さらにグループⅡは需要が最も多く買換えも多いので,派生製品の購入を見込める。
講評によると,ターゲットとすべきグループの正答率は高かったが,理由については,消費者の機能要望と経済的余裕の両面を考慮できていない解答が多かった。コンセプトの機能を求めているか(機能要望)と,高価な製品を買えるか(経済的余裕)の二つをそろえて比べる。
理由は40字に対し,解答例は「機能的要望は高く,経済的余裕があり,派生製品の購入を見込める層だから」で34字。機能要望,経済的余裕,購入の見込みの三つを並べ,理由なので「〜から」で結ぶ。グループの欄は「グループⅡ」と答える。
採点講評(IPA)
設問3では,派生製品の展開のターゲットについて解答を求めた。ターゲットとすべきグループの正答率は高かったが,ターゲットとする理由については,消費者の機能要望と経済的余裕の両面を考慮できていない解答も多く見られた。
出典:平成23年度 秋期 ITストラテジスト試験 午後Ⅰ 問4(表記を一部改変)
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