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平成27年度 秋期 午後Ⅰ

平成27年度 秋期に実施されたITストラテジスト試験 午後Ⅰの全4問(記述式)です。事例本文・設問・解答例と解説をそのまま読めます。

この試験について:ITストラテジスト試験について

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問1 建設業におけるグローバルな環境での業務遂行体制の確立

建設業におけるグローバルな環境での業務遂行体制の確立に関する次の記述を読んで,設問1〜3に答えよ。

A 社は,工場,研究施設及び大規模なプラントの建設を主とする建設業の会社である。近年の国内市場の縮小に伴い,海外市場への事業拡大が課題となっており,グローバルな環境での業務遂行体制(以下,グローバル体制という)の確立が中期経営計画の柱となっている。

A 社ではこれまで,経済の発展が見込まれる海外地域に子会社(以下,海外子会社という)を設立し,海外子会社の自助努力によって海外市場を開拓してきた。海外子会社は独自の業務遂行体制や業務処理手法をもち,情報も個別に管理している。最近では,コーポレートガバナンスの観点から,A 社及び各海外子会社を含めたグループ全体の経営状況や業務の遂行状況を,本社で迅速かつ正確に把握し,リスクに対して事前に対応することが求められている。

A 社の情報企画部は,中期経営計画を受けて,A 社の全体システム化計画を策定している。情報システムの整備は,これまで,戦略層,業務層,情報基盤層に分けて計画し,各層への予算配分は特定の層に偏らないようにバランスを保つことを基本ルールとしてきた。

〔業務上の課題〕

情報企画部は,グローバル体制を確立する上で,現行業務には次のような課題があると考えている。

A 社では,海外工事の場合,1 件当たりの工事金額が大きいので,個別工事の損益が,決算予想に影響する。個別工事の損益は,現在の原価の実績,及び今後の原価の予想によって変動する。

これらの点から,本社,海外子会社及び建設現場が関わる設計,調達,工事の状況を全体的に把握し,様々な情報から,海外工事の損益予想を正確に行う必要があり,そのための仕組みづくりが課題となっている。

A 社では,過去に,海外子会社が独自に受注した工事で思わぬ損失を被ったことが決算直前に判明し,連結決算に大きな影響を与えたことから,外部へ公表する決算の期末予想を修正することになったケースがあった。

このケースを教訓に,A 社の経営者は,投資家の信頼を高め,また経営の基盤を安定させるためにも,信頼性が高い期末損益予想を把握したいと考えている。

A 社では,これまで,個別工事の管理資料を四半期ごとに集約して,部門ごと及び全社の会計報告資料を作成してきたが,個別工事の管理資料が必ずしも正確に集約されているわけではなく,結果として,期末に原価予想がずれることがあった。

この問題を解消するために,個別工事の進捗やコストの管理情報が会計報告資料に直接結び付くよう,工事管理情報を正確に集約する仕組みが必要となっている。

大規模な海外工事の遂行に当たっては,ライバル企業とジョイントベンチャ(以下,JV という)を組み,共同で受注することが多い。この場合,業務遂行時には,顧客や JV の社員が A 社内に常駐し,同じ作業場所で作業する形態をとる必要があり,JV の社員にも A 社の識別コードを設定している。その結果,JV の社員にも A 社の社員と同等の通信ネットワーク網へのアクセス権限が設定されており,情報セキュリティの観点からの見直しが求められている。

〔海外子会社の課題〕

海外子会社は,情報システムなどの管理業務に掛けられる予算が少ない。

会計システムも地元の業者に委託して個々に導入しているので,ささいな機能変更でもそのたびにコストが掛かり,海外子会社の運用コスト増加の要因となっている。

各国,各地域の通信環境の整備状況が異なり,情報通信基盤は統一されていない。

海外子会社からは,業務遂行時に本社の情報を参照できないので,業務が非効率になっていたり,業務手順が本社の業務規程から外れていたりするなどの問題点を解消してほしいとの要求が本社に寄せられている。

海外子会社で採用されるエンジニアは,各海外子会社の個別の識別コードで管理されているが,本社に派遣された場合は本社の識別コードで管理される。

その結果,一人で複数の識別コードをもつことになり,グループ全体の要員を把握する上で障害となっている。

〔本社システム部の課題〕

本社システム部が管理する予算の 7 割は運用のための固定的コストであり,新規開発に向けることができる予算は 3 割にとどまっている。本社システム部としては,新規開発予算を確保することが困難になっており,システム開発費用を受益者に負担してもらう仕組みを制度化した。グローバル体制確立のためのシステム開発費用も,受益者となる海外子会社に,利用度に応じて公平に負担してもらう必要があると考えている。しかし,海外子会社の状況から,システム開発費用の負担を迫ると,導入の抵抗勢力になったり,導入自体を拒否されたりするおそれがある。

本社システム部の運用コストの大部分が,サーバなどのハードウェアの運用コストで占められている。運用要員への負荷が高く,残業も多い。

本社システム部は,コストセンタの位置付けにあり,要員の補充は難しく,海外子会社からのサポート依頼に対して対応しきれていない。

運用要員への負荷が高くなっている大きな要因は,個別システムのための開発・検証用のサーバが見直されることなく運用されているので,数百台規模のサーバ群となっており,その維持・運用・管理に多くの時間を取られている点にある。個々のサーバについて用途や利用状況を見直し,運用負荷を低減するための対策が必要となっている。

〔全体システム化計画〕

これらの課題に対する検討を踏まえて,情報企画部は,グローバル体制確立のための全体システム化計画について,戦略層,業務層,情報基盤層のアクションプランを表 1〜3 のように策定した。

戦略層のアクションプランの表。目的:グローバル体制を横断的に管理するためのシステムを開発する。テーマ:グローバル会計システムの開発。概要:グローバル体制の中で共通に利用できる会計システムを開発し,海外子会社が担当する工事の状況及び個別工事の原価の実績と予想を,迅速かつ正確に把握し,精度が高い期末損益予想を提供する。
表1 戦略層のアクションプラン
業務層のアクションプランの表。目的:グローバル管理に必要な情報を収集するためのシステムを開発する。テーマ①:新工事管理システムの開発。概要:既存の工事管理システムを見直し,工事管理情報を会計報告資料に直接結び付ける新システムを開発する。テーマ②:グローバル要員管理システムの開発。概要:グローバル体制の下で勤務する様々な要員を一元的に管理し,資格,権限,役割,情報へのアクセス権限などの基礎情報を管理するシステムを開発する。
表2 業務層のアクションプラン
情報基盤層のアクションプランの表。目的:グローバル体制で情報を活用するための情報基盤を構築する。テーマ①:通信ネットワーク環境の構築。概要:様々な要員が参加するグローバル体制において,情報セキュリティが確保された共通の通信ネットワーク網を構築して,必要な要員が必要な情報だけを参照できるようにする。テーマ②:グローバル情報連携基盤の設計・構築。概要:通信ネットワーク上のシステム間や異なる場所同士で,情報を連携して活用するための情報連携基盤を設計し,構築する。
表3 情報基盤層のアクションプラン

出題趣旨(IPA)

ITストラテジストには,企業の経営計画を実現するための全体システム化計画に則して,個別システム化計画に展開する能力が求められる。本問では,建設業におけるグローバルな環境での業務遂行体制の確立を題材として,個別システム化計画の策定能力と具体的な実践力を評価する。具体的には,①全体システム化計画から個別システム化計画への展開力,②計画実現に向けたステークホルダに対するマネジメント能力,③情報セキュリティ対策や運用業務改善案などの具体的対策の実践力を問う。

採点講評(問全体・IPA)

問1では,建設業におけるグローバルな環境での業務遂行体制の確立について出題した。題意や状況設定は,おおむね理解されているようであった。

ITストラテジストは,ITを活用できる業務遂行体制の確立のための提案能力を高めてほしい。

設問と解答例

設問1(1) 30字以内

グローバル会計システムの導入が海外子会社に円滑に受け入れられるようにするために,海外子会社の状況を踏まえ,本社システム部が考慮すべきことを,30 字以内で述べよ。

解答例

  • 海外子会社のコスト負担を軽減すること
解説

本文の根拠

〔海外子会社の課題〕1.

海外子会社は,情報システムなどの管理業務に掛けられる予算が少ない。

〔本社システム部の課題〕1.

グローバル体制確立のためのシステム開発費用も,受益者となる海外子会社に,利用度に応じて公平に負担してもらう必要があると考えている。しかし,海外子会社の状況から,システム開発費用の負担を迫ると,導入の抵抗勢力になったり,導入自体を拒否されたりするおそれがある。

〔海外子会社の課題〕1.

会計システムも地元の業者に委託して個々に導入しているので,ささいな機能変更でもそのたびにコストが掛かり,海外子会社の運用コスト増加の要因となっている。

本社システム部は,システム開発費用を受益者に負担してもらう仕組みを制度化しており,グローバル会計システムの開発費用も海外子会社に利用度に応じて負担してもらう考えである。しかし海外子会社は「情報システムなどの管理業務に掛けられる予算が少ない」。この状況で負担を迫ると,導入の抵抗勢力になったり導入自体を拒否されたりするおそれがあると本文は書いている。

したがって円滑に受け入れてもらうには,海外子会社のコスト負担を軽くすることを考慮する必要がある。海外子会社は今,会計システムを地元の業者に委託して個々に導入し,ささいな機能変更でもコストが掛かっているので,共通のグローバル会計システムは負担を減らす方向に働く余地もある。講評によると,単に“説明する”という解答が多かった。相手の予算が少ないという状況を踏まえた考慮を書く必要がある。

30字に対し,解答例は「海外子会社のコスト負担を軽減すること」で18字。誰の(海外子会社の),何を(コスト負担を),どうする(軽減する)の三つをそろえる。

採点講評(IPA)

設問1(1)では,海外子会社は情報システムなどの管理業務に掛けられる予算は少ないという状況を把握し,抵抗勢力にならないために考慮すべきことを解答してほしかった。しかし,単に“説明する”という解答が多かった。相手の状況を理解して,アクションプランが円滑に受け入れられるようにするために考慮しておくことの重要性を理解してほしい。

設問1(2) 解答欄2つ

グローバル会計システムの導入の前提として,本社システム部が海外子会社の運用をサポートできるようにするために実施すべきハードウェア面,及び要員面の対策を,それぞれ 30 字以内で述べよ。

〔ハードウェア面〕解答例

  • サーバの用途や利用状況を見直し,サーバ台数を削減する。

〔要員面〕解答例

  • 運用の負荷を軽減しサポート可能な要員の割合を増やす。
解説

本文の根拠

〔本社システム部の課題〕2.

本社システム部は,コストセンタの位置付けにあり,要員の補充は難しく,海外子会社からのサポート依頼に対して対応しきれていない。

〔本社システム部の課題〕2.

本社システム部の運用コストの大部分が,サーバなどのハードウェアの運用コストで占められている。運用要員への負荷が高く,残業も多い。

〔本社システム部の課題〕3.

運用要員への負荷が高くなっている大きな要因は,個別システムのための開発・検証用のサーバが見直されることなく運用されているので,数百台規模のサーバ群となっており,その維持・運用・管理に多くの時間を取られている点にある。個々のサーバについて用途や利用状況を見直し,運用負荷を低減するための対策が必要となっている。

本社システム部は海外子会社からのサポート依頼に対応しきれていない。コストセンタなので要員の補充は難しく,運用要員への負荷が高い。その大きな要因は,開発・検証用のサーバが見直されずに数百台規模になり,その維持・運用・管理に時間を取られていることである。

ハードウェア面では,本文の「個々のサーバについて用途や利用状況を見直し」をそのまま使い,不要なサーバを減らして台数を削減する。要員面では,台数削減で運用の負荷が下がった分の要員を海外子会社のサポートに回し,サポートできる要員の割合を増やす。講評によると,要員面で“要員を増やす”という解答が多かった。要員の補充は難しいと本文にあるので,人数を増やすのではなく,今いる要員の時間をサポートに振り向ける対策になる。

30字ずつに対し,解答例はハードウェア面が「サーバの用途や利用状況を見直し,サーバ台数を削減する。」で27字,要員面が「運用の負荷を軽減しサポート可能な要員の割合を増やす。」で26字。ハードウェア面の対策(台数削減)が要員面の対策(負荷軽減による割合の増加)の前提になるよう,二つをつなげて書く。

採点講評(IPA)

設問1(2)の要員面の対策では,“要員を増やす”という解答が多かった。本社システム部がコストセンタであり,要員の補充が難しいという状況の中で,サーバの運用負荷を低減してサポートにまわす時間を確保する対策が求められていることを理解してほしい。

設問2(1) 40字以内

新工事管理システムの開発で,進捗やコストの管理情報を会計報告資料に直接結び付ける狙いを,40 字以内で述べよ。

解答例

  • 個別工事の管理情報を正確に集約し,期末原価予想を正確に行うこと
解説

本文の根拠

〔業務上の課題〕3.

A 社では,これまで,個別工事の管理資料を四半期ごとに集約して,部門ごと及び全社の会計報告資料を作成してきたが,個別工事の管理資料が必ずしも正確に集約されているわけではなく,結果として,期末に原価予想がずれることがあった。

〔業務上の課題〕3.

この問題を解消するために,個別工事の進捗やコストの管理情報が会計報告資料に直接結び付くよう,工事管理情報を正確に集約する仕組みが必要となっている。

表1 概要

精度が高い期末損益予想を提供する。

これまでは個別工事の管理資料を四半期ごとに集約して会計報告資料を作ってきたが,管理資料が正確に集約されておらず,その結果「期末に原価予想がずれること」があった。新工事管理システムで進捗やコストの管理情報を会計報告資料に直接結び付けるのは,この問題を解消するためである。

直接結び付ければ,個別工事の管理情報が手作業の集約を経ずに正確に会計報告資料へ集まる。その結果,期末の原価予想を正確に行えるようになる。これは表1の戦略層のアクションプラン(精度が高い期末損益予想の提供)を支えるものでもある。狙いは,手段(正確な集約)と,その先の目的(期末原価予想を正確に行う)の二段で書くとよい。

40字に対し,解答例は「個別工事の管理情報を正確に集約し,期末原価予想を正確に行うこと」で31字。本文の「正確に集約」と「期末に原価予想がずれる」の裏返しをそのまま組み合わせる。

設問2(2) 25字以内

グローバル要員管理システムの開発の前提として,見直すべきことを,25 字以内で述べよ。

解答例

  • 識別コード体系を見直しグループ全体で一元化する。
解説

本文の根拠

〔海外子会社の課題〕3.

海外子会社で採用されるエンジニアは,各海外子会社の個別の識別コードで管理されているが,本社に派遣された場合は本社の識別コードで管理される。

〔海外子会社の課題〕3.

その結果,一人で複数の識別コードをもつことになり,グループ全体の要員を把握する上で障害となっている。

表2 テーマ②の概要

グローバル体制の下で勤務する様々な要員を一元的に管理し,資格,権限,役割,情報へのアクセス権限などの基礎情報を管理するシステムを開発する。

グローバル要員管理システムは,グローバル体制の下で勤務する様々な要員を「一元的に管理」するシステムである。ところが今は,海外子会社のエンジニアは各海外子会社の個別の識別コードで,本社に派遣されると本社の識別コードで管理され,一人で複数の識別コードをもっている。

このままでは同じ人が複数の人として登録され,要員を一元的に管理できない。システムを開発する前提として,識別コードの体系を見直し,グループ全体で一人に一つのコードになるよう一元化する必要がある。〔業務上の課題〕4. の JV の社員への識別コード設定も,識別コードの見直しが求められている点で関係するが,一元管理の障害として直接書かれているのは二重管理のほうである。

25字に対し,解答例は「識別コード体系を見直しグループ全体で一元化する。」で24字。見直す対象(識別コード体系)と,見直し後の姿(グループ全体で一元化)を書く。

設問3(1) 30字以内

通信ネットワーク環境の構築に際して,あらかじめ情報セキュリティに関して講じるべき対策を,30 字以内で述べよ。

解答例

  • 資格,権限,役割ごとに情報へのアクセス権限を明確にする。
解説

本文の根拠

〔業務上の課題〕4.

この場合,業務遂行時には,顧客や JV の社員が A 社内に常駐し,同じ作業場所で作業する形態をとる必要があり,JV の社員にも A 社の識別コードを設定している。その結果,JV の社員にも A 社の社員と同等の通信ネットワーク網へのアクセス権限が設定されており,情報セキュリティの観点からの見直しが求められている。

表3 テーマ①の概要

様々な要員が参加するグローバル体制において,情報セキュリティが確保された共通の通信ネットワーク網を構築して,必要な要員が必要な情報だけを参照できるようにする。

表2 テーマ②の概要

グローバル体制の下で勤務する様々な要員を一元的に管理し,資格,権限,役割,情報へのアクセス権限などの基礎情報を管理するシステムを開発する。

今は JV の社員にも A 社の識別コードを設定しているため,A 社の社員と同等の通信ネットワーク網へのアクセス権限が付いており,情報セキュリティの観点から見直しが求められている。表3の通信ネットワーク環境の構築では,「必要な要員が必要な情報だけを参照できるようにする」ことを目指している。

そのためには,ネットワークを構築する前に,誰がどの情報にアクセスしてよいかを決めておく必要がある。表2のグローバル要員管理システムは,要員の資格,権限,役割,情報へのアクセス権限を基礎情報として管理するので,これらの区分ごとにアクセス権限を明確にしておけば,JV の社員には必要な範囲だけを許すことができる。

30字に対し,解答例は「資格,権限,役割ごとに情報へのアクセス権限を明確にする。」で28字。表2に並ぶ「資格,権限,役割」を区分として使い,「アクセス権限を明確にする」と結ぶ。

設問3(2) 30字以内

グローバル情報連携基盤の設計・構築の際に,海外子会社に提供すべき機能を,30 字以内で述べよ。

解答例

  • 海外子会社から本社の情報を参照できる機能
解説

本文の根拠

〔海外子会社の課題〕2.

海外子会社からは,業務遂行時に本社の情報を参照できないので,業務が非効率になっていたり,業務手順が本社の業務規程から外れていたりするなどの問題点を解消してほしいとの要求が本社に寄せられている。

表3 テーマ②の概要

通信ネットワーク上のシステム間や異なる場所同士で,情報を連携して活用するための情報連携基盤を設計し,構築する。

海外子会社からは,業務遂行時に本社の情報を参照できないので業務が非効率になったり,業務手順が本社の業務規程から外れたりしている,という問題点の解消を求められている。

グローバル情報連携基盤は,異なる場所同士で情報を連携して活用するための基盤である。海外子会社の要求に応えるには,この基盤で海外子会社から本社の情報を参照できる機能を提供すればよい。本社の情報(業務規程など)を参照できれば,業務の非効率も規程からの逸脱も解消に向かう。

30字に対し,解答例は「海外子会社から本社の情報を参照できる機能」で20字。本文の「本社の情報を参照できない」を裏返し,設問の「機能」で結ぶ。

出典:平成27年度 秋期 ITストラテジスト試験 午後Ⅰ 問1(表記を一部改変)

問2 食品メーカの業務改善

食品メーカの業務改善に関する次の記述を読んで,設問1〜3に答えよ。

B 社は,食品メーカである。主な製品は,パン・菓子の加工材料である。顧客には,全国の複数の工場でパン・菓子を製造している大手顧客の他に,地域の主要なベーカリチェーン(以下,地域主要顧客という),及び個人経営のケーキショップ・ベーカリショップ(以下,ショップという)がある。東京に本社が,地域ごとに支社があり,支社が管理する地域に複数の営業所がある。また,東日本,西日本のそれぞれに,工場と製品倉庫が一つずつあり,支社・営業所ごとに倉庫が併設されている。

パン・菓子の市場は,消費者の好みが多様化し,商品のライフサイクルが短くなり,新商品の開発,商品のリニューアルをすることから,加工材料に対する顧客の様々な要求が出てきている。そのために,B 社の製品も種類が増えている。また,大口の受注が期待できる顧客ごとに不定期に企画される,新商品の販売開始,商品の拡販などのイベントが増加している。一方,“食の安全”という観点から,製造品質を保証する製造トレーサビリティに加えて,顧客からは,工場,製品倉庫,倉庫での,保管時・輸送時の品質を保証する温度管理への要求がより厳しくなっている。

〔営業業務の概要と現状〕

本社の営業部が大手顧客を担当し,支社・営業所の営業部が地域主要顧客とショップを担当している。顧客から受けた注文と注文内示は,受注情報として販売管理システムに登録して管理する。本社の営業部が,販売管理システムの受注情報をまとめ,全社の販売計画情報としている。

以前,多くのショップから,他社製品も含めて一括して納入してほしいという要望があり,B 社では他社製品も同時に扱うことによって,顧客を拡大してきた。他社製品の取扱い時は,次のように行っている。

B 社の製品の種類が増えて,受注の手間も掛かるようになっている。さらに,営業部員は,ショップに納入するための仕分作業もあり,地域主要顧客とショップへの訪問時間を十分に取れない。その結果,顧客から受けた定期的な注文内示は確認できているが,大口の注文となる地域主要顧客が行う特売などのイベントの企画情報の確認が不足している。また,注文の変更,小口の注文の追加が増えており,顧客からは,その都度,希望どおり納入されるかどうか,早期の回答を求められている。営業部員は生産計画の状況を把握していないので,納期を回答するために計画部に問い合わせることになる。しかし,計画部の回答は遅れがちで,顧客への納期の回答が遅くなり,顧客から不満を受けることがある。

〔物流業務の現状〕

物流部は,全ての倉庫の設置・運用管理と輸送業務を担当している。

支社の倉庫は,それぞれ個別の基準で安全在庫量を設定して在庫を管理している。製品の種類が増えたことによって安全在庫量の見直しが難しくなり,在庫が増加している。一方で,支社の倉庫の責任者によっては安全在庫量の設定を誤り,支社の倉庫の在庫が不足することがある。製品倉庫と支社の倉庫の在庫を合計すれば,B 社全体の在庫には余裕があるので,製品倉庫又は在庫に余裕がある支社の倉庫に補充を依頼する。補充するときには,顧客への納入日を遅らせるように調整する場合もある。支社の倉庫によって,発注から納入までの所要日数の変動が大きく,大手顧客・地域主要顧客から,納入日数の指標を提供してほしいという要望がある。

B 社の製品は,製品倉庫から支社の倉庫に輸送される。支社の倉庫に入庫されると,営業所ごとに仕分され,営業所の倉庫に輸送される。大手顧客と地域主要顧客への輸送は,支社の倉庫から輸送業者に依頼し,ショップへの輸送は,担当する営業部員が行う。輸送業者は,倉庫ごとに輸送コストが低い業者を選定している。その結果,B 社は,大手業者・地元の業者など,複数の輸送業者と契約している。輸送中の製品の温度管理は輸送業者に任せているが,温度管理ができていない業者もある。

〔計画業務の現状〕

計画部は,本社の営業部から通知された販売計画情報を基に販売予測情報を作成し,生産計画を作成する。販売予測情報は,過去の販売実績を考慮して作成している。しかし,製品の種類が増える一方で,製品のライフサイクルが短くなり,製品ごとに蓄積される販売実績の情報が少なくなっている。そこで,計画部の判断で見込情報を加えて販売予測情報を作成している。使用している計画システムでは,営業部員が販売管理システムに入力した顧客ごとの受注情報に対応して,生産計画の予定と実績が分かるように情報を管理している。計画システムと販売管理システムは接続していない。

製品の種類が増えたことによって,各製品の製造量が少ない多品種少量生産となり,注文の変更,小口の注文の追加も多いことから,生産計画の見直しを行って対応している。しかし,イベントなどで大口の注文が急にあると,生産計画の変更が間に合わず,受注できていない。

〔競争力向上の方針〕

B 社では,市場の変化によって,製品の種類が増加し,製品ライフサイクルも短くなり,販売予測のずれなどから,在庫も増加してきた。そこで,企画部では,競争力向上の方針として各業務の現状を踏まえて,在庫削減,コスト改善と食の安全への対応を行うこととした。企画部は,物流部に物流業務の改善検討を指示した。

〔物流業務の改善検討〕

在庫削減とコスト改善のために,工場の近傍に新たに物流センタを設置し,自社製品と他社製品の在庫を一括管理する。自社製品にも他社製品にも製造ロット番号が付いている。物流センタに倉庫管理システムと仕分装置を,物流センタと各倉庫に温度管理システムを,それぞれ導入する。

倉庫管理システムには,入庫管理,在庫管理,出庫管理,出荷情報管理,トレーサビリティ管理の機能をもたせる。出荷情報管理では,出荷先の顧客ごとに,納入先,日付,製品名,数量で構成する出荷情報を記録し,管理する。トレーサビリティ管理では,出荷情報と出荷した製品の製造ロット番号を関連付けて管理する。

物流センタでは,製品の仕分を顧客ごとに行う。大手顧客と地域主要顧客への配送は,物流センタから行う。ショップへ納入する製品は,支社・営業所の倉庫に輸送し,従来どおり,担当する営業部員が倉庫から持ち出してショップへ納入する。

輸送業者を 1 社とするが,選定基準は輸送コストの削減に協力する業者とする。

物流部はこれらの検討結果を企画部に報告したが,企画部は,輸送業者の選定に関して,輸送コストの削減に加えて基準を追加するように指示した。

〔営業業務の改善〕

物流業務の改善検討によって,支社・営業所の営業部員の負担が軽減され,担当する地域主要顧客とショップへの訪問時間を確保し,営業業務が改善される見込みである。

また,企画部は,営業部員が顧客の不満を解決できるように,計画システムと販売管理システムを接続して,業務に必要な情報を共有するために,計画部に検討を指示した。

〔他社製品の取扱いの見直し〕

他社製品の発注は,営業所ではなく,本社の営業部でまとめて行う。また,これまでのように支社・営業所に個別に納品するのではなく,物流センタにまとめて納品し,仕分も B 社で行う。この点については,他社も了承済みである。

企画部は,他社製品の取扱いの見直しによって期待される利益改善について,本社の営業部に検討を指示した。一方,他社は,今後も継続して,製品ごと,ショップごとにトレーサビリティの管理をするために,物流部に対して必要な情報を提供するように要求した。

出題趣旨(IPA)

ITストラテジストには,業務を分析して課題や改善すべき項目を抽出し,対策案を検討する能力が求められる。本問では,食品メーカの物流業務の改善を題材に,業務を分析して顧客が要求する課題の解決,業務の見直しと情報の活用に関する分析能力を評価する。具体的には,①物流センタの設置によって顧客が要求する課題についての分析能力,②生産計画における情報の活用や早期に把握すべき情報についての分析能力,③メーカとの業務見直し内容についての分析能力を問う。

採点講評(問全体・IPA)

問2では,食品メーカの業務改善について出題した。題意や状況設定は,おおむね理解されているようであった。

ITストラテジストは,事業戦略を実現するための業務改善の検討能力,及びITを活用した情報化計画の提案能力を高めてほしい。

設問と解答例

設問1(1) 25字以内

輸送業者の選定に関して追加する基準について,25 字以内で述べよ。

解答例

  • 輸送中の製品の温度管理が可能なこと
解説

本文の根拠

冒頭

一方,“食の安全”という観点から,製造品質を保証する製造トレーサビリティに加えて,顧客からは,工場,製品倉庫,倉庫での,保管時・輸送時の品質を保証する温度管理への要求がより厳しくなっている。

〔物流業務の現状〕

輸送中の製品の温度管理は輸送業者に任せているが,温度管理ができていない業者もある。

〔物流業務の改善検討〕

物流センタに倉庫管理システムと仕分装置を,物流センタと各倉庫に温度管理システムを,それぞれ導入する。

〔競争力向上の方針〕

企画部では,競争力向上の方針として各業務の現状を踏まえて,在庫削減,コスト改善と食の安全への対応を行うこととした。

企画部の方針は「在庫削減,コスト改善と食の安全への対応」の三つである。物流部の検討は,輸送業者の選定基準を輸送コストの削減に協力する業者としており,コスト改善しか見ていない。残る食の安全への対応が抜けている。

顧客からは保管時・輸送時の品質を保証する温度管理への要求が厳しくなっている。保管時については物流センタと各倉庫に温度管理システムを導入するが,輸送中の温度管理は輸送業者に任せており,「温度管理ができていない業者もある」。輸送業者を1社に絞るなら,その業者が輸送中の製品の温度管理をできることを基準に加える必要がある。

25字に対し,解答例は「輸送中の製品の温度管理が可能なこと」で17字。倉庫の温度管理は自社のシステムで賄えるので,業者に求めるのは「輸送中の」温度管理だと限定して書く。

設問1(2) 40字以内

顧客の要望に対して可能となった点を,理由とともに 40 字以内で述べよ。

解答例

  • 在庫の不足がなくなるので,納入日数の指標が提供できる。
解説

本文の根拠

〔物流業務の現状〕

一方で,支社の倉庫の責任者によっては安全在庫量の設定を誤り,支社の倉庫の在庫が不足することがある。製品倉庫と支社の倉庫の在庫を合計すれば,B 社全体の在庫には余裕があるので,製品倉庫又は在庫に余裕がある支社の倉庫に補充を依頼する。補充するときには,顧客への納入日を遅らせるように調整する場合もある。支社の倉庫によって,発注から納入までの所要日数の変動が大きく,大手顧客・地域主要顧客から,納入日数の指標を提供してほしいという要望がある。

〔物流業務の改善検討〕

在庫削減とコスト改善のために,工場の近傍に新たに物流センタを設置し,自社製品と他社製品の在庫を一括管理する。

〔物流業務の改善検討〕

大手顧客と地域主要顧客への配送は,物流センタから行う。

顧客の要望は「納入日数の指標を提供してほしい」というものである。今は支社の倉庫が個別の基準で安全在庫量を設定しており,設定を誤ると在庫が不足し,他の倉庫からの補充を待つために納入日を遅らせることがある。これが,支社の倉庫によって所要日数の変動が大きい理由である。

改善後は,物流センタで自社製品と他社製品の在庫を一括管理し,大手顧客と地域主要顧客への配送は物流センタから行う。在庫が1か所にまとまれば,支社の倉庫ごとの在庫の不足や倉庫間の補充がなくなり,所要日数が安定するので,納入日数の指標を提供できる。講評によると,自社の営業業務の改善に関する解答が多かった。問われているのは顧客の要望に対して可能になった点で,在庫を一括管理することで倉庫間の製品の補充をなくせることに気付いてほしいとしている。

40字に対し,解答例は「在庫の不足がなくなるので,納入日数の指標が提供できる。」で27字。理由(在庫の不足がなくなる)と,可能となった点(納入日数の指標の提供)を「ので」でつなぐ。

採点講評(IPA)

設問1(2)では,物流業務の改善によって顧客の要望に対して可能となった点について解答を求めていたが,自社の営業業務の改善に関する解答が多かった。複数の倉庫から1か所の物流センタで在庫を一括管理するように変更することによって倉庫間の製品の補充をなくせることに気付いてほしい。

設問2(1) 40字以内

企画部が,計画システムと販売管理システムを接続するように計画部に検討を指示したことによって,顧客の不満をどのように解決できるかを,理由とともに 40 字以内で述べよ。

解答例

  • 営業部員が生産計画情報をいつでも確認できるので,納期の回答が早くなる。
解説

本文の根拠

〔営業業務の概要と現状〕

また,注文の変更,小口の注文の追加が増えており,顧客からは,その都度,希望どおり納入されるかどうか,早期の回答を求められている。営業部員は生産計画の状況を把握していないので,納期を回答するために計画部に問い合わせることになる。しかし,計画部の回答は遅れがちで,顧客への納期の回答が遅くなり,顧客から不満を受けることがある。

〔計画業務の現状〕

使用している計画システムでは,営業部員が販売管理システムに入力した顧客ごとの受注情報に対応して,生産計画の予定と実績が分かるように情報を管理している。計画システムと販売管理システムは接続していない。

顧客の不満は,納期の回答が遅いことである。営業部員は生産計画の状況を把握していないので計画部に問い合わせるが,計画部の回答が遅れがちで,顧客への回答も遅くなっている。

計画システムは,顧客ごとの受注情報に対応して生産計画の予定と実績が分かるように情報を管理している。ところが販売管理システムとは接続していないので,営業部員はこの情報を見られない。二つのシステムを接続すれば,営業部員が販売管理システムから生産計画の情報をいつでも確認でき,計画部に問い合わせずに納期を回答できるので,回答が早くなる。

40字に対し,解答例は「営業部員が生産計画情報をいつでも確認できるので,納期の回答が早くなる。」で35字。理由(生産計画情報をいつでも確認できる)と,解決の中身(納期の回答が早くなる)を「ので」でつなぐ。

設問2(2) 30字以内

営業業務の改善によって,支社・営業所の営業部員が確認すべき情報を,30 字以内で述べよ。

解答例

  • 地域主要顧客が行う特売などのイベントの企画情報
解説

本文の根拠

〔営業業務の概要と現状〕

その結果,顧客から受けた定期的な注文内示は確認できているが,大口の注文となる地域主要顧客が行う特売などのイベントの企画情報の確認が不足している。

〔計画業務の現状〕

しかし,イベントなどで大口の注文が急にあると,生産計画の変更が間に合わず,受注できていない。

〔営業業務の改善〕

物流業務の改善検討によって,支社・営業所の営業部員の負担が軽減され,担当する地域主要顧客とショップへの訪問時間を確保し,営業業務が改善される見込みである。

今の営業部員は仕分作業などで訪問時間を十分に取れず,定期的な注文内示は確認できているが,「大口の注文となる地域主要顧客が行う特売などのイベントの企画情報の確認が不足している」。そのため,イベントで大口の注文が急に来ると生産計画の変更が間に合わず,受注できていない。

物流業務の改善で訪問時間を確保できるようになったので,支社・営業所の営業部員は,担当する地域主要顧客を訪問して,確認が不足していたイベントの企画情報を早めに把握すべきである。早く分かれば生産計画に反映でき,受注を逃さずに済む。支社・営業所の営業部員が担当するのは地域主要顧客とショップで,大口の注文になるのは地域主要顧客である。

30字に対し,解答例は「地域主要顧客が行う特売などのイベントの企画情報」で23字。本文の語句をそのまま使い,誰の(地域主要顧客が行う)どんな情報か(イベントの企画情報)を落とさない。

設問3(1) 35字以内

企画部が本社の営業部に指示した利益改善の施策を,その施策を実現可能とした理由とともに 35 字以内で述べよ。

解答例

  • 本社でまとめて発注するので,仕入価格の削減を交渉する。
解説

本文の根拠

〔営業業務の概要と現状〕

ショップから他社製品の注文を受けると,担当する営業部員は他社に対して,納期と仕入価格について交渉し,納品日,品名,数量を基に発注している。

〔他社製品の取扱いの見直し〕

他社製品の発注は,営業所ではなく,本社の営業部でまとめて行う。

〔他社製品の取扱いの見直し〕

企画部は,他社製品の取扱いの見直しによって期待される利益改善について,本社の営業部に検討を指示した。

今は,ショップから他社製品の注文を受けるたびに,担当する営業部員が他社と納期と仕入価格を交渉して発注している。見直し後は,他社製品の発注を営業所ではなく本社の営業部でまとめて行う。

まとめて発注すれば1回の発注量が大きくなるので,他社との価格交渉で有利になり,仕入価格の削減を交渉できる。仕入価格が下がれば,他社製品を扱うことによる利益が改善する。施策を実現可能にした理由は,本社でまとめて発注するようになったことである。講評によると,訪問時間の確保による営業業務の改善や,他社の物流コスト改善を書いた解答が多かった。問われているのは本社の営業部が行う利益改善で,発注をまとめることで価格交渉の優位性が高まる点に気付いてほしいとしている。

35字に対し,解答例は「本社でまとめて発注するので,仕入価格の削減を交渉する。」で27字。理由(本社でまとめて発注する)と施策(仕入価格の削減の交渉)を「ので」でつなぐ。

採点講評(IPA)

設問3(1)では,他社製品の取扱いの見直しによる利益改善の施策について解答を求めていたが,顧客への訪問時間の確保が可能となることによる営業業務の改善や,他社の物流コスト改善に関する解答が多かった。本社の営業部が発注をまとめて行うことによって価格交渉の優位性が高まることに気付いてほしい。

設問3(2) 30字以内

物流部が他社に提供すべき情報を,30 字以内で述べよ。

解答例

  • 他社の製品に関わる顧客への出荷情報と製造ロット番号
解説

本文の根拠

〔営業業務の概要と現状〕

他社は,受注した製品をショップごとにこん包して支社・営業所に納品する。また,注文したショップごとに出荷情報と自社製品の製造情報を記録し,トレーサビリティの管理をしている。

〔他社製品の取扱いの見直し〕

また,これまでのように支社・営業所に個別に納品するのではなく,物流センタにまとめて納品し,仕分も B 社で行う。

〔他社製品の取扱いの見直し〕

一方,他社は,今後も継続して,製品ごと,ショップごとにトレーサビリティの管理をするために,物流部に対して必要な情報を提供するように要求した。

〔物流業務の改善検討〕

トレーサビリティ管理では,出荷情報と出荷した製品の製造ロット番号を関連付けて管理する。

これまで他社は,ショップごとにこん包して納品し,ショップごとの出荷情報と自社製品の製造情報を自分で記録してトレーサビリティを管理していた。見直し後は物流センタにまとめて納品し,ショップごとの仕分は B 社が行うので,他社にはどのショップにどの製品が出荷されたかが分からなくなる。

一方,B 社の倉庫管理システムのトレーサビリティ管理では,出荷情報と出荷した製品の製造ロット番号を関連付けて管理する。他社の製品もこの中に含まれるので,物流部は,他社の製品に関わる顧客への出荷情報と製造ロット番号を提供すれば,他社は製品ごと,ショップごとのトレーサビリティ管理を続けられる。

30字に対し,解答例は「他社の製品に関わる顧客への出荷情報と製造ロット番号」で25字。B 社全体の出荷情報ではなく「他社の製品に関わる」ものに絞り,出荷情報と製造ロット番号の二つを挙げる。

出典:平成27年度 秋期 ITストラテジスト試験 午後Ⅰ 問2(表記を一部改変)

問3 地方公共団体における IT 管理

地方公共団体における IT 管理に関する次の記述を読んで,設問1〜3に答えよ。

C 県は,政策・施策を実現するために取り組む事業(以下,事業という)に対応して,庁内で 100 以上の情報システムを構築・運用している。庁内では各情報システムを主管する部署(以下,主管課という)が定められており,情報システムの企画,開発,運用を行っている。情報政策課は,庁内全体に関わる情報システムの主管課であるほか,次のような IT 管理の業務を行っている。

〔IT 管理の取組の背景〕

C 県では一般会計予算が減少する中,情報システム費用の低減が求められている。しかし,情報システム費用の過半が保守・運用費用で占められていることもあり,大きな削減は難しい状況である。

情報政策課は,これまでもクラウドコンピューティング基盤の構築によって機器を集約したり,採用するミドルウェアを絞り込むことによってライセンス費用を削減したりしてきた。さらに,庁内全体の情報システムの棚卸結果から,OS とミドルウェアそれぞれについて,オープンソースソフトウェア(OSS)を含め,利用頻度が高い幾つかのソフトウェアを技術参照モデル(TRM)における標準と定め,ライセンス費用とソフトウェア使用料を庁内全体で集約できるようにした。各主管課に対しては,情報システムの再構築時・新規構築時には TRM の標準ソフトウェアを採用するように指導している。今回は,各主管課の情報システム投資の評価をより精緻に行い,情報システム化対象案件の絞込みを進めることにした。

また,国の新たな施策実施に伴う事業の追加や,上層部から重点施策の変更指示が発生する。このような場合,行政基本計画の実施期間中でも事業の優先度は変更になり,中期 IT 計画で予定していたものとは異なる事業に対して,急きょ優先的な取組が必要になることがある。

近年は防災対策,景気浮揚政策に関する国からの事業が増えたり,知事選挙で地域振興・産業活性化を公約とする候補者が当選したりして,事業の見直しが発生している。

このような背景から,情報政策課では,情報システムに関する企画審査と事後評価の制度を整備するために,IT 管理の取組を開始した。

〔IT 管理の取組の概要〕

事業の予算については,財政課が毎年度,予算案策定時に審査を行っている。今回の取組では,事業の実施に当たって情報システムへの新規投資が必要な場合は,財政課による審査の前に,情報政策課で企画審査・承認を行うことにした。その手続は次のとおりである。

情報システム企画書の主な記載項目の表。列は項目と内容。情報システム化の概要:情報システム化の目的と必要性,情報システムの利用者,新業務の概要と情報システムの機能概要,情報システムの構成,情報システムの規模,ソフトウェア開発量。情報システムの非機能要求事項:信頼性,可用性。情報システムの構築の概要:調達方法,構築スケジュール。情報システム化の効果の目標:財政的効果,その他の効果。情報システム費用の概算額:情報システムの構築費用,年当たり定常費用。
表1 情報システム企画書の主な記載項目
投資種別の分類の表。列は投資種別と内容。業務効率向上のための投資:業務の効率向上,コスト削減を目的とする情報システム投資。戦略的投資:住民に対する新しいサービスの提供,地域振興などのための情報システム整備のように,特定の事業目的を実現することに重点を置いた情報システム投資。基盤投資:ネットワーク,認証基盤,クラウドコンピューティング基盤など,情報システム基盤に関する投資。義務的投資:制度改正への対応,国から指定された情報システム整備などの投資。
表2 投資種別の分類

〔情報システムに関する企画審査の結果〕

〔情報システムの事後評価の結果〕

情報システムに関する企画審査の結果,及び情報システムの事後評価の結果を受けて,情報政策課は,CIO 補佐官や外部コンサルタントなどの第三者の活用を考えている。

出題趣旨(IPA)

ITストラテジストには,ITガバナンスを確立し,企業や組織がIT戦略やその基となる経営戦略を実現できるよう,IT戦略に沿ったIT管理の実行管理や評価をする能力が求められる。本問では,地方公共団体のIT管理業務を題材に,情報システムへの投資の適正化に向けた情報システム企画に関する意思決定のための分析能力を評価する。具体的には,情報システム企画で実施すべきこと,情報システム投資状況や事後の評価結果から導き出せる問題の背景や考えられる改善点についての分析能力を問う。

採点講評(問全体・IPA)

問3では,地方公共団体におけるIT管理について出題した。題意や状況設定は,おおむね理解されているようであった。

ITストラテジストは,ITガバナンスの仕組みの構築やIT管理の能力を高めてほしい。

設問と解答例

設問1(1) 解答欄2つ

情報システム費用算定の課題への対策として情報政策課が決めておくべき,各主管課での情報システム費用算定時のルールを二つ挙げ,それぞれ 35 字以内で述べよ。

〔①〕解答例

  • 費用明細が明示された見積りを徹底する。

〔②〕解答例

  • 情報システム開発に係るスキル別作業単価の指標を作成する。
解説

本文の根拠

〔情報システムに関する企画審査の結果〕1.

主管課が情報システム企画書を作成する際,情報システム費用については,主管課がベンダへ見積依頼をして算定している。

〔情報システムに関する企画審査の結果〕1.

各主管課のベンダへの交渉力の違いによって,同じベンダでも情報システム開発に係るスキル別の作業単価が異なっていて,見積りが適正でない。

〔情報システムに関する企画審査の結果〕1.

見積結果の中には,総額だけで費用明細がない例もあり,見積りの適正さを判断できないものもある。

〔IT 管理の取組の概要〕②

企画審査では,投資対効果が一定の基準値以上かどうかの評価結果と,情報システム費用が情報システムの規模,ソフトウェア開発量と比べて適正かどうかの検証結果から,承認の可否を判定する。

企画審査では,情報システム費用が規模やソフトウェア開発量と比べて適正かどうかを検証する。ところが見積りには二つの課題がある。一つは,主管課の交渉力の違いで同じベンダでもスキル別の作業単価が異なり,見積りが適正でないこと。もう一つは,総額だけで費用明細がない見積りがあり,適正さを判断できないことである。

課題ごとにルールを決めればよい。費用明細がない課題には,費用明細が明示された見積りを取ることを徹底させる。作業単価がばらつく課題には,情報政策課がスキル別作業単価の指標を作成し,各主管課がそれを基に見積りを評価できるようにする。講評は,適切な費用を主管課が主体的に決定していけるようなルールを期待したとし,“相見積りを取る”のような解答は庁内で整合性のある費用の積算にまで踏み込めないとしている。相見積りでは主管課ごとの単価のばらつきはなくならない。

35字ずつに対し,解答例は①が「費用明細が明示された見積りを徹底する。」で19字,②が「情報システム開発に係るスキル別作業単価の指標を作成する。」で28字。①②は本文の二つの課題(費用明細がない,作業単価が異なる)に一つずつ対応させる。

採点講評(IPA)

設問1(1)では,適切な費用を主管課が主体的に決定していけるようなルールの解答を期待したが,庁内で整合性のある費用の積算にまで踏み込むことができない“相見積りを取る”のような解答が一部に見られた。

設問1(2) 40字以内

情報システムの運用費用の高額化対策として,情報政策課が情報システムに関する企画審査の取組に当たり,事前に提示しておくべきものを,40 字以内で述べよ。

解答例

  • 情報システムの重要度に応じた信頼性・可用性のガイドラインを作成する。
解説

本文の根拠

〔情報システムに関する企画審査の結果〕2.

情報システムの非機能要求事項は各主管課で設定し,情報システムの重要度は情報政策課で評価している。

〔情報システムに関する企画審査の結果〕2.

重要度が低いシステムでも,高い信頼性,可用性を実現できる高性能サーバによる二重化構成となっている場合があり,重要度が高い情報システムと同程度の情報システム構築費用,保守・運用費用になっている。

〔情報システムの事後評価の結果〕2.

重要度の低い情報システムの方が,高い情報システムに比べて運用費用が相対的に高くなっている。

〔IT 管理の取組の概要〕②

情報システムに障害が発生したときの事業継続対応への基準として,情報システム化の目的,利用者の範囲,及び住民の生活・財産への影響度に応じて,情報システムの重要度を 5 段階で評価する。

運用費用が高額になっている原因は,信頼性・可用性のレベルと重要度の不整合である。重要度が低いシステムでも高性能サーバによる二重化構成となっており,重要度が高いシステムと同程度の構築費用,保守・運用費用が掛かっている。運用1年後の事後評価でも,重要度の低いシステムの方が運用費用が相対的に高い。

こうなるのは,非機能要求事項(信頼性,可用性)は各主管課が設定し,重要度は情報政策課が評価していて,両者を結び付ける基準がないからである。そこで情報政策課は,企画審査の取組に当たり,重要度(5段階)に応じてどの程度の信頼性・可用性とするかのガイドラインを作成し,事前に提示しておく。主管課はこれに沿って非機能要求事項を設定するので,重要度に見合わない過剰な構成を防げる。

40字に対し,解答例は「情報システムの重要度に応じた信頼性・可用性のガイドラインを作成する。」で34字。何に応じた(重要度に応じた)何の(信頼性・可用性の)ものかを書き,提示するもの(ガイドライン)で結ぶ。

設問2 45字以内

情報システムに関する企画審査において,“業務効率向上のための投資”に関わる費用の割合が低く,“戦略的投資”,“義務的投資”に関わる費用の占める割合が高くなっている理由を,45 字以内で述べよ。

解答例

  • “戦略的投資”,“義務的投資”の投資対効果の審査は“その他の効果”が中心だから
解説

本文の根拠

〔IT 管理の取組の概要〕②

ここで,投資対効果とは,“財政的効果”と“その他の効果”のそれぞれに一定の重みを乗じて,その結果を加算した値に対する情報システム費用の比である。

〔IT 管理の取組の概要〕②

投資対効果の評価における基準値は,投資種別によって異なる。また,“業務効率向上のための投資”を除き,“財政的効果”は考慮していない。

〔IT 管理の取組の概要〕①

“その他の効果”:財政的効果以外で,“住民のための効果”,“業務プロセス改善効果”といった,事業のパフォーマンスを定量化した値。事業,情報システムの特性に応じて,主管課が評価指標と目標値を設定する。

〔IT 管理の取組の背景〕

近年は防災対策,景気浮揚政策に関する国からの事業が増えたり,知事選挙で地域振興・産業活性化を公約とする候補者が当選したりして,事業の見直しが発生している。

企画審査の投資対効果は,“財政的効果”と“その他の効果”に重みを乗じて加算した値と情報システム費用の比である。ただし“財政的効果”を考慮するのは“業務効率向上のための投資”だけで,“戦略的投資”“義務的投資”の審査では“その他の効果”が中心になる。

“財政的効果”は収入増加額・経費削減額という金額で示すものだが,“その他の効果”は主管課が事業や情報システムの特性に応じて評価指標と目標値を設定する。つまり審査の仕組みの上で,戦略的投資・義務的投資は業務効率向上のための投資とは違う物差しで評価されている。これが投資種別によって割合に差がある理由である。講評によると,政策事業や施策の影響(国からの事業の増加,知事の公約など)を原因とする解答が一部に見られた。それらは背景として挙げ得るが,IT 管理の仕組みに課題があることにも気付いてほしいとしている。

45字に対し,解答例は「“戦略的投資”,“義務的投資”の投資対効果の審査は“その他の効果”が中心だから」で39字。どの投資種別の(戦略的投資,義務的投資の),どの審査が(投資対効果の審査),何に偏っているか(その他の効果が中心)を書き,理由なので「〜から」で結ぶ。

採点講評(IPA)

設問2では,投資種別によって投資額の割合に差異がある理由を問うたが,政策事業や施策の影響を原因とする解答が一部に見られた。それらは背景として挙げ得るが,IT管理の仕組みに課題があることも気付いてほしい。

設問3(1) 35字以内

実態と合わない良好な評価結果が報告されていることに対して,実施すべき対策を,35 字以内で述べよ。

解答例

  • 第三者による効果の評価指標の設定と事後評価の実施
解説

本文の根拠

〔IT 管理の取組の概要〕③

主管課は,承認された情報システムに関する企画に従って構築された情報システムの実態と,情報システム企画書との差異について,稼働直後と 1 年間の運用後に事後評価し,その結果を情報政策課に報告する。

〔情報システムの事後評価の結果〕2.

主管課から“その他の効果”も含めて評価結果が良好であるという報告があったものについて,情報政策課で調査した。その結果,サービスを利用する住民がほとんどいなかったり,情報システムに関する作業負荷が高くなって,職員の残業時間が増加している利用部署があったりする。

〔情報システムの事後評価の結果〕

情報システムに関する企画審査の結果,及び情報システムの事後評価の結果を受けて,情報政策課は,CIO 補佐官や外部コンサルタントなどの第三者の活用を考えている。

事後評価は主管課自身が行って情報政策課に報告する。しかも“その他の効果”の評価指標と目標値も主管課が設定している。主管課が指標を決め,自分で評価しているので,良好と報告されたものを調べると,利用する住民がほとんどいなかったり,職員の残業時間が増えていたりと,実態と合わないものがあった。

評価する側と評価される側が同じであることが原因なので,対策は,効果の評価指標の設定と事後評価を第三者に行わせることである。本文の最後で,情報政策課は CIO 補佐官や外部コンサルタントなどの第三者の活用を考えている。講評によると,“サービス利用者数や業務負荷を評価に加える”のような,発見された特定の事象への対策にとどまる解答が一部に見られた。評価結果が実態と合わないことに対する普遍的な対策を期待したとしている。

35字に対し,解答例は「第三者による効果の評価指標の設定と事後評価の実施」で24字。誰が(第三者による)何をするか(評価指標の設定と事後評価の実施)を書く。指標だけ,評価だけを第三者にしても,残り半分を主管課が握っていれば同じことが起きる。

採点講評(IPA)

設問3(1)は,評価結果が実態と合わないことに対する普遍的な解答を期待したが,“サービス利用者数や業務負荷を評価に加える”のような発見された特定事象への対策にとどまった解答が一部に見られた。第三者の活用を考えている情報政策課の状況に気付いてほしい。

設問3(2) 25字以内

OSS の保守・運用費用を低減させるために,情報政策課が実施すべきことを,25 字以内で述べよ。

解答例

  • 派生のOSSを評価してTRMを見直す。
解説

本文の根拠

〔IT 管理の取組の背景〕

さらに,庁内全体の情報システムの棚卸結果から,OS とミドルウェアそれぞれについて,オープンソースソフトウェア(OSS)を含め,利用頻度が高い幾つかのソフトウェアを技術参照モデル(TRM)における標準と定め,ライセンス費用とソフトウェア使用料を庁内全体で集約できるようにした。

〔IT 管理の取組の背景〕

各主管課に対しては,情報システムの再構築時・新規構築時には TRM の標準ソフトウェアを採用するように指導している。

〔情報システムの事後評価の結果〕1.

しかし,OSS は販売業者ごとに僅かに差異があり,庁内全体では同様の機能をもつ派生の OSS が多数導入され始めていた。これら派生の OSS に関する保守・運用作業を,別々のベンダに委託しており,費用を重複して支払っている。

情報政策課は,利用頻度が高いソフトウェアを TRM の標準と定め,費用を庁内全体で集約できるようにし,各主管課に TRM の標準ソフトウェアを採用するよう指導している。ところが OSS は販売業者ごとに僅かに差異があり,同様の機能をもつ派生の OSS が多数導入され,その保守・運用を別々のベンダに委託して費用を重複して支払っている。

費用を集約する仕組みは TRM なので,派生の OSS を評価し,どれを標準とするかを TRM に反映して見直せば,各主管課の採用が絞られ,保守・運用の委託も集約できる。TRM の標準ソフトウェアを採用するよう指導する仕組みはすでにあるので,情報政策課がすべきことは TRM 自体の見直しになる。

25字に対し,解答例は「派生のOSSを評価してTRMを見直す。」で19字。対象(派生の OSS)と,仕組み(TRM)の見直しを本文の用語のまま書く。

出典:平成27年度 秋期 ITストラテジスト試験 午後Ⅰ 問3(表記を一部改変)

問4 産業機械メーカの製品企画

産業機械メーカの製品企画に関する次の記述を読んで,設問1〜3に答えよ。

D 社は,産業用ロボットと NC 工作機械を主要製品とする産業機械メーカである。国内と海外に生産工場をもち,少量多品種の製品は国内工場で,大量生産品は海外工場でそれぞれ生産することによって,製品の競争力を確保しつつコストを抑えている。主要製品の納入先である製造業は景気に左右されやすく,景気が悪い時期には設備投資を抑えるので,産業機械メーカは安定した業績を上げることが難しいという問題がある。さらに,製造業全体が成熟期にあるので,産業機械メーカが今後,現在と同レベルの業績を確保し続けるのは難しいのではないかという見方もある。

そこで D 社は,自社の保有技術を活用し,安定した売上と成長が見込める新製品を開発する方針を決めた。

〔製品企画〕

D 社の IT ストラテジストである E 氏は,自社の新製品開発方針を立案するために,D 社の主要顧客である製造業の市場調査を行った。調査の結果,労働者の高齢化によって,工場内で重い部品・製品を運ぶ作業が難しくなったり,腰を痛めたりする問題が増加していることが分かった。工場内作業については,労働安全衛生法の指針に従い,自力作業の可搬重量を 20kg 以下に制限し,さらに重量が 100kg を超えるものは専用のリフタ,チェーンブロックなどの搬送設備を用いる企業が多い。これらの点から,20kg を超え 100kg を下回る程度の重量のものを持ち上げて運ぶ作業で問題が多く発生していることが分かった。

この調査結果を踏まえて,E 氏は,新製品のイメージを固めながら,D 社にとって未知の新市場も対象にした新製品の企画を検討することにした。そこで,公開されている調査結果を参照し,社会全体で高齢化が進む中で,製造業と同様の問題が他の分野でも発生しているのかどうかを調べた。その結果,介護,運輸,農業,防災などの現場でも,それぞれ人やもの(以下,対象物という)を運ぶ作業で同様の問題が増加しつつあることが分かった。

E 氏は,調査した分野の中でも,特に介護現場における新製品の需要が,5 年後には約 1 万台と大きく伸びると考え,D 社幹部に次のように提言した。

この提言を実現するための戦略の一つとして,E 氏は,“狭い場所で,100kg までの対象物を 1 人で運ぶことができる製造業向けの新製品”を企画し,システムアーキテクトの F 氏に構想設計をまとめるよう依頼した。

〔新製品の構想設計〕

F 氏から報告された新製品の構想設計は,センサ,アクチュエータ,制御部,重量物を支えて使用者の負荷を軽減するための外骨格,膝当てや腰当てなどの防護部から成る,人が装着する製品(以下,パワードスーツという)であった。F 氏の説明によると,このパワードスーツは,バランスを保ったり,障害物を検知したりするのに,パワードスーツを装着する人間の感覚と身体能力を利用して,100kg までの対象物を運べるように最大 80kgf の力で人間をアシストするというものであった。

D 社の今までの製品が操作者や障害物と接触することがない場所に設置される据付け型だけであったのに対し,E 氏は,パワードスーツについて次のように考えた。

E 氏は,D 社の国内工場でパワードスーツを生産した場合,1 製品当たり 70 万円程度で販売できると試算した。また,D 社が現場事情を熟知している製造業においては,パワードスーツがどのような場面で有効活用されるか想定でき,そのための製品開発における問題抽出と課題設定は比較的容易であると考えた。販売面でも,D 社は製造業の分野では知名度が高いので販売しやすいと考えた。

E 氏は,パワードスーツがもつ特徴を考慮し,製品開発に先立ち,生産方法,品質管理方法,取扱説明書の記載方法などにおいて遵守すべき法規制,許認可などを,関連部門と協力して調査することにした。

〔製品展開〕

D 社は,構想設計に基づき,製造業向けパワードスーツの開発を行った。D 社が製造業向けパワードスーツの開発を完成させたのと同時期に,総合医療機器メーカである X 社が,介護現場向けに,パワードスーツを来年度から月産 30 台を目標に,50 万円程度の価格で発売すると発表した。

X 社は,介護ベッド,車椅子などの介護現場向け製品の 2 大メーカの一つで,競合メーカの Y 社とともに,介護現場では古くから知られている会社である。X 社は介護現場の事情と要求をよく把握しており,以前から系列企業である電機メーカの Z 社と提携して,センサ,アクチュエータ,制御ソフトウェアの技術を獲得し,X 社の製品が普及している介護現場の要求に応えられるパワードスーツの開発を進めていた。

E 氏は早速,X 社のパワードスーツについて D 社の新製品と比較分析するよう F 氏に依頼した。その結果報告は次のとおりであった。

さらに,E 氏が X 社の生産環境を調査したところ,X 社ではパワードスーツを量産できる工場をもっておらず,Z 社の国内工場で生産する予定であることが分かった。Z 社の生産ラインは,D 社の国内工場とほぼ同様の規模である。

E 氏は F 氏の報告を受け,今後需要が大きく伸びると見込んだ介護現場向けのパワードスーツについて,D 社幹部に次のように提言した。

〔新製品への機能追加の検討〕

E 氏は,完成したパワードスーツに対し,使用者を制限する機能を組み込むべきと判断し,機能追加の検討を F 氏に依頼した。

F 氏からは後日,登録された複数の使用者だけが使用できるように制限する機能について検討した結果が報告された。報告では,ID とパスワードによる認証方法は低コストであるが,第三者に盗み取られる危険性があるので,生体認証機能を組み込む方法が提案された。

E 氏は F 氏の報告内容を検討した上で,さらに,登録された場所でだけ使用できるように制限する機能,使用履歴を残す機能の検討を F 氏に依頼した。

出題趣旨(IPA)

ITストラテジストには,類似品のない新規性の高い組込み製品を企画する際に,どのような市場を想定し,どの市場向けの製品から開発するか,また,将来の競合メーカを想定してどう対応するかなど,適切な戦略を立案する能力が求められる。本問では,産業機械メーカの製品企画を題材に,企業の保有技術や既存市場を理解した上で新たな製品を企画する能力,有効な構想設計と製品展開を立案する能力,機能拡張を検討する能力を問う。

採点講評(問全体・IPA)

問4では,産業機械メーカの製品企画について出題した。全体として正答率は高く,題意や状況設定は,おおむね理解されているようであった。

特に新規性の高い製品を企画する場合,ITストラテジストは,市場の状況を十分分析した上で,将来も含め競争力のある製品展開戦略と製品販売戦略を策定し,推進できる能力を身に付けてほしい。

設問と解答例

設問1(1) 20字以内

E 氏が,新市場も対象にした新製品の企画を検討することにした理由を,20 字以内で述べよ。

解答例

  • 安定した売上と成長が見込めるから
解説

本文の根拠

冒頭

主要製品の納入先である製造業は景気に左右されやすく,景気が悪い時期には設備投資を抑えるので,産業機械メーカは安定した業績を上げることが難しいという問題がある。さらに,製造業全体が成熟期にあるので,産業機械メーカが今後,現在と同レベルの業績を確保し続けるのは難しいのではないかという見方もある。

冒頭

そこで D 社は,自社の保有技術を活用し,安定した売上と成長が見込める新製品を開発する方針を決めた。

〔製品企画〕

その結果,介護,運輸,農業,防災などの現場でも,それぞれ人やもの(以下,対象物という)を運ぶ作業で同様の問題が増加しつつあることが分かった。

D 社の既存市場である製造業には二つの問題がある。景気に左右されやすく安定した業績を上げにくいこと,そして製造業全体が成熟期にあり今後の成長が見込みにくいことである。そこで D 社は「安定した売上と成長が見込める新製品」を開発する方針を決めた。

製造業だけを対象にした新製品では,この二つの問題を引き継いでしまう。景気に左右されにくく,これから伸びる新市場(介護,運輸,農業,防災など)も対象にすることで,方針にある安定した売上と成長を見込めるようになる。講評は設問1について,D 社の方針及び既存市場と新市場それぞれの特徴を基にした解答を期待したとし,製品の特徴を答えた解答も一部に見られたとしている。

20字に対し,解答例は「安定した売上と成長が見込めるから」で16字。D 社の方針の語句をそのまま使い,理由なので「〜から」で結ぶ。

採点講評(IPA)

設問1では,製品企画について解答を求めた。D社の方針及び既存市場と新市場それぞれの特徴を基にした解答を期待したが,製品の特徴を答えた解答も一部に見られた。

設問1(2) 40字以内

E 氏がまず,製造業向けの新製品を設計・開発することにした理由を,40 字以内で述べよ。

解答例

  • 現場事情を熟知しており,製品開発における問題抽出と課題設定が容易だから
解説

本文の根拠

〔新製品の構想設計〕

また,D 社が現場事情を熟知している製造業においては,パワードスーツがどのような場面で有効活用されるか想定でき,そのための製品開発における問題抽出と課題設定は比較的容易であると考えた。

〔新製品の構想設計〕

販売面でも,D 社は製造業の分野では知名度が高いので販売しやすいと考えた。

〔製品企画〕

次に,製造業向けの新製品の設計を基に,介護,運輸,農業,防災など,他の分野向けの新製品を設計・開発し,展開する。

E 氏の提言は,まず製造業向けの新製品を作り,その設計を基に他の分野向けを展開するという順番である。製造業は D 社の主要顧客で,本文は「D 社が現場事情を熟知している製造業においては,…製品開発における問題抽出と課題設定は比較的容易である」と書いている。

パワードスーツは D 社にとって初めての種類の製品なので,最初は現場事情をよく知っている市場で開発したほうが,どの場面で使われるかを想定でき,問題抽出と課題設定を確実に行える。その設計を土台にすれば,事情をよく知らない他の分野にも展開しやすい。本文には販売面の理由(製造業の分野では知名度が高い)もあるが,設問は「設計・開発することにした理由」を問うているので,開発面の理由を答える。

40字に対し,解答例は「現場事情を熟知しており,製品開発における問題抽出と課題設定が容易だから」で35字。前提(現場事情を熟知している)と,そこから言えること(問題抽出と課題設定が容易)を本文の語句でつなぐ。

採点講評(IPA)

設問1では,製品企画について解答を求めた。D社の方針及び既存市場と新市場それぞれの特徴を基にした解答を期待したが,製品の特徴を答えた解答も一部に見られた。

設問2(1) 35字以内

E 氏が,製品開発に先立ち,遵守すべき法規制,許認可などを,関連部門と協力し調査することにしたのは,新製品のどのような特徴を考慮したからか。35 字以内で述べよ。

解答例

  • D社が手掛けたことのない身体との接触度が高い製品である点
解説

本文の根拠

〔新製品の構想設計〕

D 社の今までの製品が操作者や障害物と接触することがない場所に設置される据付け型だけであったのに対し,E 氏は,パワードスーツについて次のように考えた。

〔新製品の構想設計〕

D 社が手掛けたことのない身体との接触度が高い製品であり,また,使用者や使用場所の自由度が高い製品である。

〔新製品の構想設計〕

E 氏は,パワードスーツがもつ特徴を考慮し,製品開発に先立ち,生産方法,品質管理方法,取扱説明書の記載方法などにおいて遵守すべき法規制,許認可などを,関連部門と協力して調査することにした。

D 社の今までの製品は,操作者や障害物と接触することがない場所に設置される据付け型だけだった。これに対しパワードスーツは人が装着する製品で,E 氏は「D 社が手掛けたことのない身体との接触度が高い製品」と考えている。

身体に接触する製品は,据付け型の産業機械とは守るべき法規制や許認可が違う可能性がある。D 社にはその経験がないので,製品開発に先立って,生産方法,品質管理方法,取扱説明書の記載方法などで遵守すべきものを関連部門と協力して調べる必要がある。E 氏が挙げた特徴のうち,D 社の経験がないことと直接つながるのは「身体との接触度が高い」点である。

35字に対し,解答例は「D社が手掛けたことのない身体との接触度が高い製品である点」で28字。本文の語句をそのまま使い,D 社にとって初めてであること(手掛けたことのない)を落とさない。

設問2(2) 解答欄2つ

D 社が,介護現場向けの新製品を生産するに当たり,生産段階でもたせるべき競争力と,そのために実施すべき施策を,それぞれ 15 字以内で述べよ。

〔競争力〕解答例

  • 高い生産能力と安い製品価格

〔施策〕解答例

  • 海外工場に生産拠点を移す。
解説

本文の根拠

冒頭

国内と海外に生産工場をもち,少量多品種の製品は国内工場で,大量生産品は海外工場でそれぞれ生産することによって,製品の競争力を確保しつつコストを抑えている。

〔新製品の構想設計〕

E 氏は,D 社の国内工場でパワードスーツを生産した場合,1 製品当たり 70 万円程度で販売できると試算した。

〔製品展開〕

総合医療機器メーカである X 社が,介護現場向けに,パワードスーツを来年度から月産 30 台を目標に,50 万円程度の価格で発売すると発表した。

〔製品展開〕

さらに,E 氏が X 社の生産環境を調査したところ,X 社ではパワードスーツを量産できる工場をもっておらず,Z 社の国内工場で生産する予定であることが分かった。Z 社の生産ラインは,D 社の国内工場とほぼ同様の規模である。

〔製品企画〕

E 氏は,調査した分野の中でも,特に介護現場における新製品の需要が,5 年後には約 1 万台と大きく伸びると考え,D 社幹部に次のように提言した。

生産時の目標は「X 社の製品に勝る競争力」である。X 社は50万円程度で月産30台を目標にしている。一方 D 社が国内工場で生産すると70万円程度になり,価格で負ける。しかも X 社が生産する Z 社の国内工場は D 社の国内工場とほぼ同じ規模なので,国内工場で作る限り生産能力でも差を付けられない。

D 社は,大量生産品を海外工場で生産してコストを抑えている。介護現場の需要は5年後に約1万台と大きく伸びる見込みなので,介護現場向けは海外工場に生産拠点を移せば,高い生産能力で量産でき,製品価格も下げられる。こうして X 社に勝る競争力(高い生産能力と安い製品価格)を生産段階でもたせる。講評によると,製品の機能など設計段階でもたせるべき競争力と施策を書いた解答が見られた。問われているのは「生産段階」の競争力である。

15字ずつに対し,解答例は競争力が「高い生産能力と安い製品価格」で13字,施策が「海外工場に生産拠点を移す。」で13字。競争力は X 社と比べた二つの軸(生産能力,価格)を,施策はそれを実現する生産拠点の移転を書く。

採点講評(IPA)

設問2(2)では,生産段階でもたせるべき競争力と施策を問うたが,製品の機能など設計段階でもたせるべき競争力と施策を記述している解答が見られた。

設問2(3) 35字以内

E 氏が,介護現場向けの新製品を Y 社のブランド製品として販売することを,D 社幹部に提言した理由を,35 字以内で述べよ。

解答例

  • 介護現場に高い知名度をもつY社ブランドの方が販売しやすいから
解説

本文の根拠

〔製品展開〕

X 社は,介護ベッド,車椅子などの介護現場向け製品の 2 大メーカの一つで,競合メーカの Y 社とともに,介護現場では古くから知られている会社である。

〔新製品の構想設計〕

販売面でも,D 社は製造業の分野では知名度が高いので販売しやすいと考えた。

〔製品展開〕

販売時には,Y 社のブランド製品として販売することによって,いずれは市場シェア 1 位を目標とする。

D 社の知名度が高いのは製造業の分野であり,介護現場では D 社は知られていない。製造業向けでは「知名度が高いので販売しやすい」と考えたのと同じ理屈で,介護現場では介護現場で知られたブランドのほうが販売しやすい。

Y 社は介護現場向け製品の2大メーカの一つ(X 社の競合)で,介護現場では古くから知られている。そこで介護現場向けの新製品は,D 社の名前ではなく Y 社のブランド製品として販売すれば,介護現場の顧客に受け入れられやすく,先行する X 社と競ってシェアを取れる。企画時にも Y 社と提携しているので,販売まで Y 社と組む形になる。

35字に対し,解答例は「介護現場に高い知名度をもつY社ブランドの方が販売しやすいから」で30字。Y 社の強み(介護現場に高い知名度)と,その結果(販売しやすい)を書く。「方が」には D 社ブランドとの比較が込められている。

設問3(1) 40字以内

E 氏が,パワードスーツの使用者を制限する機能を組み込むべきと判断した理由を,40 字以内で述べよ。

解答例

  • 使用者を使用方法の講習を受講した者に限定することで事故を防止したいから
解説

本文の根拠

〔新製品の構想設計〕

誤った使い方をすると事故を起こすおそれがあるので,使用方法の講習を受講した者に使用を限定する必要がある。

〔新製品への機能追加の検討〕

E 氏は,完成したパワードスーツに対し,使用者を制限する機能を組み込むべきと判断し,機能追加の検討を F 氏に依頼した。

〔新製品の構想設計〕

F 氏の説明によると,このパワードスーツは,バランスを保ったり,障害物を検知したりするのに,パワードスーツを装着する人間の感覚と身体能力を利用して,100kg までの対象物を運べるように最大 80kgf の力で人間をアシストするというものであった。

E 氏は構想設計の段階で,パワードスーツは「誤った使い方をすると事故を起こすおそれがあるので,使用方法の講習を受講した者に使用を限定する必要がある」と考えていた。使用者を制限する機能は,この考えを製品の機能として実現するものである。

D 社のパワードスーツは最大80kgf の力でアシストし,バランスの保持や障害物の検知は装着する人間の感覚と身体能力に頼る。使い方を知らない人が装着すれば事故につながりかねない。登録された使用者だけが使えるようにすれば,講習を受講した者に使用を限定でき,事故を防止できる。講評によると,設問3は正答率が高かったが,使用者を制限する場合と使用する場所を制限する場合を混同した解答も一部に見られた。(1) は使用者の制限なので,講習と事故の防止を結び付ける。

40字に対し,解答例は「使用者を使用方法の講習を受講した者に限定することで事故を防止したいから」で35字。手段(講習を受講した者に限定)と目的(事故を防止)の両方を書く。

採点講評(IPA)

設問3では,機能追加の検討について解答を求めた。正答率は高かったが,使用者を制限する場合と使用する場所を制限する場合を混同した解答も一部に見られた。

設問3(2) 40字以内

E 氏が,登録された場所でだけ使用できるように制限する機能の検討を F 氏に依頼した目的を,40 字以内で述べよ。

解答例

  • 本来の使用場所の外に持ち出されて悪用されることを防止する必要があるから
解説

本文の根拠

〔新製品の構想設計〕

本来の使用場所の外に持ち出されるおそれがある。

〔新製品の構想設計〕

D 社が手掛けたことのない身体との接触度が高い製品であり,また,使用者や使用場所の自由度が高い製品である。

〔新製品への機能追加の検討〕

E 氏は F 氏の報告内容を検討した上で,さらに,登録された場所でだけ使用できるように制限する機能,使用履歴を残す機能の検討を F 氏に依頼した。

パワードスーツは人が装着する製品で,据付け型と違い「使用者や使用場所の自由度が高い」。E 氏は構想設計の段階で,「本来の使用場所の外に持ち出されるおそれがある」と考えていた。

使用者を制限する機能だけでは,登録された使用者が本来の使用場所の外に持ち出して使うことは防げない。登録された場所でだけ使用できるように制限すれば,持ち出されても使えないので,本来の使用場所の外での使用や悪用を防止できる。なお,解答例の「悪用」という語は本文にはなく,本文が書いているのは持ち出されるおそれまでである。(1) の使用者の制限と混同しないよう,こちらは場所の制限で防ぐものを書く。

40字に対し,解答例は「本来の使用場所の外に持ち出されて悪用されることを防止する必要があるから」で35字。本文の「本来の使用場所の外に持ち出される」をそのまま使い,目的として「防止する」で結ぶ。

採点講評(IPA)

設問3では,機能追加の検討について解答を求めた。正答率は高かったが,使用者を制限する場合と使用する場所を制限する場合を混同した解答も一部に見られた。

出典:平成27年度 秋期 ITストラテジスト試験 午後Ⅰ 問4(表記を一部改変)