問1 産業用エネルギー機器の製造・販売を行う企業におけるメンテナンスサービス事業
産業用エネルギー機器の製造・販売を行う企業におけるメンテナンスサービス事業に関する次の記述を読んで,設問1〜3に答えよ。
A 社は,産業用エネルギー機器(以下,機器という)の製造・販売を行っている。近年は,業界での競合が激しく,A 社は市場シェアでは上位を占めているが,機器の製造・販売で利益を上げることが困難になっている。
A 社は,機器の販売と修理サービスを販売代理店に委託している。A 社の製品企画活動では,販売代理店からの修理情報,顧客からの機器の運転や機能の利用に関する情報などを参考に,新機能,新機種を開発している。しかし,販売代理店からの情報は曖昧なところが多いので,開発を検討するには不十分である。
〔販売代理店の状況〕
販売代理店の修理要員は,顧客から修理の依頼があると,顧客の事業所に出向いて機器の状況を調べ,故障箇所と故障原因を特定する。その結果,部品や消耗品の交換で済む簡単な修理については対応するが,高度な修理を要するときは A 社に修理を要請し,A 社の修理要員の訪問日時を調整する。
A 社の顧客の多くは昼夜操業していることから,補修部品の取寄せ・欠品,修理要員の訪問日時の調整などで修理が長引いて,操業に大きな影響が出ることを懸念している。そこで,販売代理店は,A 社に対して,補修部品の在庫管理の充実及び修理要員の派遣の迅速化を要望している。
販売代理店は,修理活動によって得た情報を活用して,顧客に対して機器の改造・取替え・増設の提案活動を行うことになっている。しかし,販売代理店の修理要員は,修理活動に関わる時間が多く,提案活動につながるような機器の運転状況,老朽化の状況の分析などに時間を割くことができないのが現状である。
〔補修部品の在庫計画の概要〕
A 社は,補修部品ごとの出荷履歴,設計仕様上の耐用年数を考慮して,向こう 3 か月間の在庫計画を立案している。機器の老朽化の状況は,運転状況によって変動し,部品の劣化の状況にもばらつきが出る。補修部品は,部品ごとに一定数量のロットを,工場の操業度が低下する時期に生産している。しかし,補修部品は,販売代理店からの出荷要求が増減するので,需要予測が難しく,欠品の場合は特別に生産して対応している。全ての補修部品で欠品を起こさないようにするには在庫負担が大きい。
〔メンテナンスサービス事業の立上げ〕
A 社にとって,修理サービス及び補修部品販売の売上高利益率は高い。しかし,修理サービスの需要が多いにもかかわらず,販売代理店からの高度な修理の要請にタイミングよく対応できていなかった。A 社は,収益構造の転換を早期に実現するために,経営会議でメンテナンスサービス事業の立上げを決定した。経営会議では,メンテナンスサービス拠点を全国に設置して,次の三つのサービスを提供することを取り決めた。
- ① 365 日 24 時間の修理サービス
- ② 販売代理店が行っていた修理サービスの一部
- ③ 低燃費運転,予防保全,故障原因の分析などのコンサルティングサービス
経営会議では,主に次のような意見が出された。
- メンテナンスサービス拠点を早期に全国に設置するためには,A 社の拠点が少ないので,既存の販売代理店の活用が必須である。販売代理店が,簡単な修理活動をするだけでなく,提案活動に多くの時間を割くことができるような施策を検討すべきである。
- メンテナンスサービスによって得られた情報を使って,生産計画の精度を向上させるとともに,製品企画活動を強化する方策を検討すべきである。
〔メンテナンスデータ収集システムの導入〕
A 社は,経営会議での決定・意見を受けて,メンテナンスデータ収集システムの導入を決定した。機器の本体に通信モジュールを装備し,通信回線を介して機器の運転状況のデータを収集し,データベースに蓄積する。また,電圧降下,圧力上昇,温度異常などの警告,機器故障を判定して,A 社の監視用端末に表示する。当該顧客を担当する販売代理店でも状況を確認することができる。既設の機器については,修理サービスの向上をアピールして,顧客に通信モジュールの装備を勧める。
メンテナンスデータ収集システムの導入によって,故障の前兆・発生を捉えることができ,機器本体の不具合箇所を特定することができる。また,不具合の内容によって,簡単な修理で済むか,高度な修理が必要かを前もって判断できるので,販売代理店及び A 社の修理要員は,あらかじめ必要な補修部品を携えて,修理に出向くことができる。
A 社は,収集したデータを用いて,機器の運転状況,機能の利用状況を分析し,コンサルティングサービスを展開できるようになる。また,生産活動,製品企画活動に有効な情報も得られる。データの分析結果を提供することによって,販売代理店では,提案活動に活用できる。
出題趣旨(IPA)
ITストラテジストには,新事業を展開するための課題分析力,ステークホルダへの提案能力,新事業を支援するシステムの構想力が求められる。本問では,産業用エネルギー機器の製造・販売を行う企業における新事業の展開を題材にして,メンテナンスサービス事業を支援する情報システムに関して業務モデルを作成する能力を評価する。具体的には,メンテナンスサービス事業の収益の柱と顧客へのメリットとその理由,メンテナンスデータ収集システムの活用による販売代理店及び自社へのメリットとその理由について問う。
採点講評(問全体・IPA)
問1では,産業用エネルギー機器の製造・販売を行う企業における新事業の立上げを題材にして,メンテナンスサービス事業を支援する情報システムに関わる業務モデルの作成について出題した。全体として正答率が高く,状況はおおむね理解されているようであった。
ITストラテジストは,業務モデルを作成する際に必要なそれぞれの関係者が享受するメリットは何かを適切に把握する能力を高めてほしい。
設問と解答例
設問1(1)
解答欄2つ
メンテナンスサービス事業において収益の柱となる売上を,二つ答えよ。
解説
本文の根拠
冒頭
近年は,業界での競合が激しく,A 社は市場シェアでは上位を占めているが,機器の製造・販売で利益を上げることが困難になっている。
〔メンテナンスサービス事業の立上げ〕
A 社にとって,修理サービス及び補修部品販売の売上高利益率は高い。しかし,修理サービスの需要が多いにもかかわらず,販売代理店からの高度な修理の要請にタイミングよく対応できていなかった。
〔メンテナンスサービス事業の立上げ〕
A 社は,収益構造の転換を早期に実現するために,経営会議でメンテナンスサービス事業の立上げを決定した。
A 社は機器の製造・販売で利益を上げにくくなっており,メンテナンスサービス事業は「収益構造の転換」のために立ち上げる。したがって,収益の柱は製造・販売に代わって利益を生む売上でなければならない。
本文は,A 社にとって「修理サービス及び補修部品販売の売上高利益率は高い」とし,修理サービスは需要が多いのにタイミングよく対応できていなかったと書いている。利益率が高く,需要も取り込み切れていないこの二つが,事業の収益の柱になる。修理を迅速にすれば修理サービスの売上が増え,修理には補修部品が伴うので補修部品販売の売上も増える。
字数の制限は無い。解答例は「修理サービスの売上」「補修部品販売の売上」で,本文の語句に「の売上」を付けた形である。三つのサービスの③にあるコンサルティングサービスは,本文に利益率の記述が無いので柱には挙げない。二つは別々の売上なので,①②に一つずつ書く。
採点講評(IPA)
設問1は,正答率が高かった。顧客の視点なので,イメージがしやすかったようである。
設問1(2)
解答欄2つ
メンテナンスサービス事業によって顧客が受けるメリットとその理由を,それぞれ 20 字以内で述べよ。
〔備考〕解答の要点を示す。解答例の原文は“修理時間が短縮されることによって顧客の操業への影響が小さくなることなど,顧客が受けるメリットとその理由について適切に記述していること”
解説
本文の根拠
〔販売代理店の状況〕
A 社の顧客の多くは昼夜操業していることから,補修部品の取寄せ・欠品,修理要員の訪問日時の調整などで修理が長引いて,操業に大きな影響が出ることを懸念している。
〔メンテナンスサービス事業の立上げ〕
365 日 24 時間の修理サービス
〔メンテナンスデータ収集システムの導入〕
販売代理店及び A 社の修理要員は,あらかじめ必要な補修部品を携えて,修理に出向くことができる。
顧客の多くは昼夜操業しており,補修部品の取寄せ・欠品や修理要員の訪問日時の調整で修理が長引き,操業に大きな影響が出ることを懸念している。顧客にとっての困りごとは「修理が長引くこと」とその結果の「操業への影響」である。
メンテナンスサービス事業では 365 日 24 時間の修理サービスを提供し,メンテナンスデータ収集システムで不具合箇所を前もって特定して,修理要員が必要な補修部品を携えて出向く。こうして修理時間が短縮されることが理由で,顧客の操業への影響が小さくなることがメリットになる。講評は,顧客の視点なのでイメージしやすかったようだとしている。
解答例は“解答の要点”として示されており,「修理時間が短縮されることによって顧客の操業への影響が小さくなること」が要点である。ここでは“によって”の前を理由(10字),後をメリット(15字)に分けて載せた。20字ずつに対し,理由は手段(修理時間の短縮),メリットは顧客の懸念の裏返し(操業への影響が小さい)として書く。
採点講評(IPA)
設問1は,正答率が高かった。顧客の視点なので,イメージがしやすかったようである。
設問2(1)
解答欄2つ
販売代理店の修理活動におけるメリットとその理由を,それぞれ 20 字以内で述べよ。
〔備考〕解答の要点を示す。解答例の原文は“不具合箇所と補修部品が分かることによって機器の修理に要する時間を短縮できることなど,販売代理店の修理活動におけるメリットとその理由について適切に記述していること”
解説
本文の根拠
〔販売代理店の状況〕
販売代理店の修理要員は,顧客から修理の依頼があると,顧客の事業所に出向いて機器の状況を調べ,故障箇所と故障原因を特定する。
〔メンテナンスデータ収集システムの導入〕
メンテナンスデータ収集システムの導入によって,故障の前兆・発生を捉えることができ,機器本体の不具合箇所を特定することができる。
〔メンテナンスデータ収集システムの導入〕
また,不具合の内容によって,簡単な修理で済むか,高度な修理が必要かを前もって判断できるので,販売代理店及び A 社の修理要員は,あらかじめ必要な補修部品を携えて,修理に出向くことができる。
現状では,販売代理店の修理要員は依頼を受けてから顧客の事業所に出向き,機器を調べて故障箇所と故障原因を特定している。現地で調べてから部品を手配するので,修理に時間が掛かり,修理活動に関わる時間が多くなっている。
メンテナンスデータ収集システムを使えば,機器本体の不具合箇所を前もって特定でき,簡単な修理か高度な修理かも判断できるので,必要な補修部品を携えて出向ける。不具合箇所と補修部品が分かることが理由で,機器の修理に要する時間を短縮できることが修理活動のメリットになる。講評によると,“早期に全国に拠点を設置するための活用拠点”のように A 社や顧客のメリットを挙げた解答があった。問われているのは販売代理店自身の修理活動のメリットである。
解答例は“解答の要点”として示されており,“によって”の前を理由(14字),後をメリット(17字)に分けて載せた。20字ずつに対し,理由には何が分かるか(不具合箇所と補修部品)の二つを入れ,メリットは販売代理店の作業時間の短縮として書く。
採点講評(IPA)
設問2は,正答率が低かった。販売代理店が享受できるメリットに関する解答を求めていたが,“早期に全国に拠点を設置するための活用拠点”のように,A社や顧客のメリットを挙げている解答があった。
設問2(2)
解答欄2つ
販売代理店の提案活動におけるメリットとその理由を,それぞれ 20 字以内で述べよ。
〔備考〕解答の要点を示す。解答例の原文は“運転状況,老朽化の状況が分かることによって機器の改造・取替え・増設の提案ができることなど,販売代理店の提案活動におけるメリットとその理由について適切に記述していること”
解説
本文の根拠
〔販売代理店の状況〕
販売代理店は,修理活動によって得た情報を活用して,顧客に対して機器の改造・取替え・増設の提案活動を行うことになっている。しかし,販売代理店の修理要員は,修理活動に関わる時間が多く,提案活動につながるような機器の運転状況,老朽化の状況の分析などに時間を割くことができないのが現状である。
〔メンテナンスデータ収集システムの導入〕
データの分析結果を提供することによって,販売代理店では,提案活動に活用できる。
販売代理店は顧客に機器の改造・取替え・増設を提案する役割を担っているが,修理活動に時間を取られ,提案活動につながる「機器の運転状況,老朽化の状況の分析など」に時間を割けていない。提案の材料が足りないことが現状の問題である。
メンテナンスデータ収集システムは機器の運転状況のデータを収集・蓄積し,A 社はその分析結果を販売代理店に提供する。販売代理店は自ら分析しなくても運転状況や老朽化の状況が分かるので,それを根拠に機器の改造・取替え・増設を提案できる。経営会議の「提案活動に多くの時間を割くことができるような施策を検討すべき」という意見にも応える。
解答例は“解答の要点”として示されており,“によって”の前を理由(15字),後をメリット(19字)に分けて載せた。20字ずつに対し,理由は本文の「運転状況,老朽化の状況」をそのまま使い,メリットは提案の中身(改造・取替え・増設)まで書く。
採点講評(IPA)
設問2は,正答率が低かった。販売代理店が享受できるメリットに関する解答を求めていたが,“早期に全国に拠点を設置するための活用拠点”のように,A社や顧客のメリットを挙げている解答があった。
設問3(1)
解答欄2つ
A 社の生産活動におけるメリットとその理由を,それぞれ 25 字以内で述べよ。
〔備考〕解答の要点を示す。解答例の原文は“補修部品の需要時期が予測できることによって補修部品の在庫計画の精度が向上することなど,A社の生産活動におけるメリットとその理由について適切に記述していること”
解説
本文の根拠
〔補修部品の在庫計画の概要〕
A 社は,補修部品ごとの出荷履歴,設計仕様上の耐用年数を考慮して,向こう 3 か月間の在庫計画を立案している。機器の老朽化の状況は,運転状況によって変動し,部品の劣化の状況にもばらつきが出る。
〔補修部品の在庫計画の概要〕
しかし,補修部品は,販売代理店からの出荷要求が増減するので,需要予測が難しく,欠品の場合は特別に生産して対応している。全ての補修部品で欠品を起こさないようにするには在庫負担が大きい。
〔メンテナンスデータ収集システムの導入〕
メンテナンスデータ収集システムの導入によって,故障の前兆・発生を捉えることができ,機器本体の不具合箇所を特定することができる。
補修部品の在庫計画は,出荷履歴と設計仕様上の耐用年数から立てている。しかし機器の老朽化は運転状況で変わり,部品の劣化にもばらつきが出るので,需要予測が難しく,欠品時には特別に生産している。全ての部品で欠品を防ごうとすると在庫負担が大きい。
メンテナンスデータ収集システムは機器の運転状況のデータを集め,故障の前兆を捉えられる。どの部品がいつ頃必要になるか(需要時期)が予測できれば,出荷履歴と耐用年数だけに頼らない在庫計画が立てられ,その精度が向上する。経営会議の「生産計画の精度を向上させる」という意見に当たる。
解答例は“解答の要点”として示されており,“によって”の前を理由(15字),後をメリット(17字)に分けて載せた。25字ずつに対し,理由は予測できるようになるもの(需要時期),メリットは生産活動の対象(補修部品の在庫計画)と効果(精度の向上)を書く。
設問3(2)
解答欄2つ
A 社の製品企画活動におけるメリットとその理由を,それぞれ 25 字以内で述べよ。
〔備考〕解答の要点を示す。解答例の原文は“運転状況,機器の利用状況が分かることによって新機能,新機種の開発が検討できることなど,A社の製品企画活動におけるメリットとその理由について適切に記述していること”
解説
本文の根拠
冒頭
A 社の製品企画活動では,販売代理店からの修理情報,顧客からの機器の運転や機能の利用に関する情報などを参考に,新機能,新機種を開発している。しかし,販売代理店からの情報は曖昧なところが多いので,開発を検討するには不十分である。
〔メンテナンスデータ収集システムの導入〕
A 社は,収集したデータを用いて,機器の運転状況,機能の利用状況を分析し,コンサルティングサービスを展開できるようになる。また,生産活動,製品企画活動に有効な情報も得られる。
製品企画活動では,販売代理店からの修理情報や顧客からの運転・機能の利用に関する情報を参考に新機能,新機種を開発しているが,販売代理店からの情報は曖昧で,開発を検討するには不十分である。
メンテナンスデータ収集システムで集めたデータを使えば,機器の運転状況や機能の利用状況を A 社が直接分析でき,製品企画活動に有効な情報が得られる。曖昧な情報に代わって実データが手に入るので,新機能,新機種の開発を検討できるようになる。講評によると,“機器の交換などの保守サービス”に関連する解答があった。設問は製品企画活動と明示しているので,保守ではなく新機能・新機種の開発に結び付ける。
解答例は“解答の要点”として示されており,“によって”の前を理由(16字),後をメリット(16字)に分けて載せた。解答例の理由は「機器の利用状況」だが,本文は「機能の利用状況」と書いている。25字ずつに対し,メリットは本文の「新機能,新機種」をそのまま使う。
採点講評(IPA)
設問3(2)も,正答率が低かった。設問に製品企画活動と明示しているにもかかわらず,“機器の交換などの保守サービス”に関連する内容の解答があった。
出典:平成24年度 秋期 ITストラテジスト試験 午後Ⅰ 問1(表記を一部改変)
問2 食品会社における営業業務の改革
食品会社における営業業務の改革に関する次の記述を読んで,設問1〜3に答えよ。
B 社は,加工食品の製造・販売を主力事業とする大手食品会社である。食品業界は,国内市場の飽和と長引く景気低迷によって,厳しい経営環境が続いている。また,食品に対する消費者のニーズの多様化,健康志向の高まりから,高品質で付加価値が高い製品の提供が求められている。
B 社では,このような状況を踏まえた上で,事業拡大を目的として,乳製品の製造・販売を得意とする C 社を傘下に加えた。これを契機に,“お客様が,健康と食べる楽しみを実感できる食”を提案する企業を目指して,営業力強化のための業務改革チームを立ち上げた。
〔営業業務及び受注業務の現状〕
B 社は,本社の営業部と,全国に配置した支店で営業活動を行っている。また,全国のエリアごとに受注センタと物流センタを配置している。得意先は,全国の量販店と卸売問屋である。
- 本社の営業部の営業部員が商談している。
- 量販店の注文は,通常はインターネットを介して注文管理システムに集められる。所管する受注センタの担当者は,注文管理システムの画面で注文状況を確認し,決められた時刻に販売管理システムにまとめて送信する。
- 量販店が,締め時刻を過ぎてしまった後で注文をしたい場合,受注センタの担当者に確認の上,電話又はファックスで注文し,受注センタの担当者が受注センタの端末から販売管理システムに入力する。
- 乳製品と加工食品では,配送日や配送時間帯の指定,指定する配送日による注文の締め時刻などが異なる。
- 販売管理システムでは,入力された配送日や配送時間帯によってエリアごとの物流センタの在庫を引き当てて注文を確定し,配送日の前日に出荷指示を出す。
- 支店の営業員が,エリアごとに卸売問屋と商談して,注文を受けて回るルートセールスを行っている。
- 卸売問屋の注文は,通常の注文と例外的な注文が混在している。
- 注文は,注文伝票を用いて処理される。
- 支店の営業員が注文伝票を受け取ったり,支店の事務担当者が電話又はファックスで受け付けた注文内容を注文伝票に起こしたりした後,支店の端末から販売管理システムに入力する。
- 注文伝票と注文管理システムの入力項目は統一されているが,支店では受注センタを経由する注文管理システムを利用していない。
- 締め時刻を過ぎているような例外的な注文に関しては,エリア外でも配送可能な物流センタを指定すれば可能である。この場合は販売管理システムへの入力方法が通常と異なるので,営業員が注文内容を見て,卸売問屋ごとに対応する。
同業他社との競争激化によって市場での価格破壊が進み,B 社は得意先への販売価格を下げざるを得ない状況である。支店の営業員は,見込まれる販売額に関係なく卸売問屋を回っており,販売額が少ないにもかかわらず販促費を過剰に使用していることがある。また,量販店からは,“売上を拡大するためには,消費者に対して品質と付加価値をアピールする製品提案が必要である。消費者の声を反映した提案をしてほしい”という要請を受けている。
昨年から B 社では,インターネット上の Web サイトで新製品を宣伝したり,有名な料理研究家による料理の献立などを紹介したりしている。また,SNS に社員,料理研究家が参加するコミュニティを開設して,消費者と交流を深めている。最近,コミュニティでは,乳製品と一般食材を組み合わせた料理の献立に関する話題がよく採り上げられている。
〔営業管理業務の現状〕
- 本社の営業部では,量販店への営業を強化するために,営業部員の売上・利益の予実を週単位で管理している。
- 営業部員は,量販店ごとの注文内容や,交通費などの間接費をきめ細かく管理している。
- 支店では,営業員の売上の予実を週単位で管理している。
- 支店の営業員は,卸売問屋との商談時に作成した製品別注文受付の内容を見ながら,間接費を精算する。営業員は提案資料の作成などで多忙なこともあって,卸売問屋 1 軒に対する複数の間接費をまとめて月末に精算することが多い。複数の卸売問屋に関する間接費が混同して入力されることもあり,卸売問屋ごとの正確な間接費は把握できていない。
- 支店では,卸売問屋との 1 回の商談で複数の注文が発生する。営業員が商談時に販売奨励金として設定したものが,卸売問屋では値引きとして処理されるなど,卸売問屋との間で取引に関する認識の違いが発生することがある。
- 卸売問屋の配送先の所在地,店舗名などの変更は,支店の事務担当者が連絡を受けるが,得意先マスタの更新は本社の情報システム部で行っている。その際,情報システム部では,支店からの変更連絡窓口も,更新のタイミングも決まっていないので,変更の遅れや漏れが発生している。
〔請求処理業務の現状〕
- 本社の経理部では,月末に得意先ごとに請求処理を行っている。卸売問屋からは,請求明細の配送先店舗名や取引内容の誤りについて問合せが多発しており,その都度,経理部は各支店に問い合わせている。
- 経理部からの問合せを受けた支店では,事務担当者が卸売問屋に配送先店舗名を確認する。また,支店の営業員は,商談時に作成した製品別注文受付の内容,注文伝票と請求明細とを突き合わせて,経理部からの問合せに回答する。注文が多かった場合,営業員は,販売奨励金などが記載されている得意先別の確定注文の明細を販売管理システムから出力して,卸売問屋に送付し,商談時の内容と認識の違いがないかどうかを確認してもらうこともある。それぞれの確認作業に手間取ることがあり,請求明細の確定までに時間が掛かっており,月次締め処理が遅れる原因となっている。
〔営業力強化に関する業務改革方針〕
業務改革チームでは,営業力強化に関する次の三つの業務改革方針を経営層に提示した。
- 消費者の声を反映した,B 社製品の強みを生かした企画を提案する。
- 支店の営業員は,売上・利益の確保を重視して効率よく営業活動を行う。
- 支店の営業業務を見直し,営業員の負荷軽減と支店における業務の効率向上を図る。
- 得意先別の売上・利益の予実を正確に管理する。
- ③ 請求処理に関する業務の改善と月次締め処理の迅速化
- 請求処理業務を改善し,業務の効率向上と月次締め処理の迅速化を図る。
出題趣旨(IPA)
ITストラテジストには,企業の経営戦略に基づいて,情報技術を活用した業務改革の基本戦略の策定,提案及び推進をする能力が求められる。本問では,食品会社における営業力強化を題材にして,業務改革に必要な業務要件とシステム要件を定義する能力を評価する。具体的には,消費者ニーズに対応して自社の製品の強みを生かす施策,並びに業務効率や品質の向上のための業務内容及びルールの見直しの検討について問う。
採点講評(問全体・IPA)
問2では,食品会社における営業力強化を題材にして,業務改革に必要な業務要件とシステム要件の定義について出題した。題意や状況設定はおおむね理解されているようであったが,一部の設問で題意を十分に理解できていないと思われる解答が見られた。
ITストラテジストは,企業の経営戦略に基づいて,情報技術を活用した業務改革の基本戦略の策定,提案及び推進をする能力を高めてほしい。
設問と解答例
設問1(1)
45字以内
消費者の声を反映した提案を行うための企画内容を,45 字以内で述べよ。
解答例
- コミュニティで最近話題になっている,乳製品と一般食材を組み合わせた料理の献立
解説
本文の根拠
冒頭
B 社では,このような状況を踏まえた上で,事業拡大を目的として,乳製品の製造・販売を得意とする C 社を傘下に加えた。
〔営業業務及び受注業務の現状〕
また,量販店からは,“売上を拡大するためには,消費者に対して品質と付加価値をアピールする製品提案が必要である。消費者の声を反映した提案をしてほしい”という要請を受けている。
〔営業業務及び受注業務の現状〕
最近,コミュニティでは,乳製品と一般食材を組み合わせた料理の献立に関する話題がよく採り上げられている。
〔営業力強化に関する業務改革方針〕
消費者の声を反映した,B 社製品の強みを生かした企画を提案する。
業務改革方針①は,「消費者の声を反映した,B 社製品の強みを生かした企画を提案する」である。消費者の声がどこにあるか,B 社製品の強みが何かを本文から探す。
消費者の声は,B 社が SNS に開設したコミュニティにある。そこでは最近「乳製品と一般食材を組み合わせた料理の献立」がよく話題になっている。B 社は乳製品を得意とする C 社を傘下に加えたばかりで,加工食品の B 社と乳製品の C 社を合わせれば,乳製品と一般食材の組合せを自社製品で提案できる。コミュニティの話題をそのまま企画にすれば,消費者の声の反映と自社製品の強みの両方を満たす。講評によると,Web サイトでの新製品の宣伝や料理研究家の献立紹介のように,状況設定で既に実施されている内容を転記しただけの解答があった。既にやっていることではなく,これから提案する企画を書く。
45字に対し,解答例は「コミュニティで最近話題になっている,乳製品と一般食材を組み合わせた料理の献立」で38字。消費者の声の出どころ(コミュニティで最近話題)と企画の中身(乳製品と一般食材を組み合わせた料理の献立)の二つを入れる。
採点講評(IPA)
設問1(1)では,企画内容を求めていることは,おおむね理解されていたが,状況設定で既に実施されている内容を転記しただけの解答があった。
設問1(2)
35字以内
支店の営業員が効率よく営業活動を行うためのルートセールスの方法を,35 字以内で述べよ。
解答例
- 見込まれる販売額が大きい得意先から優先順位を付けて訪問する。
解説
本文の根拠
〔営業業務及び受注業務の現状〕
同業他社との競争激化によって市場での価格破壊が進み,B 社は得意先への販売価格を下げざるを得ない状況である。支店の営業員は,見込まれる販売額に関係なく卸売問屋を回っており,販売額が少ないにもかかわらず販促費を過剰に使用していることがある。
〔営業力強化に関する業務改革方針〕
支店の営業員は,売上・利益の確保を重視して効率よく営業活動を行う。
支店の営業員は卸売問屋を回るルートセールスをしているが,「見込まれる販売額に関係なく」回っており,販売額が少ない先にも販促費を過剰に使うことがある。販売価格を下げざるを得ない状況で,売上・利益に結び付かない訪問と販促費が効率を下げている。
業務改革方針①は,売上・利益の確保を重視して効率よく営業活動を行うことである。問題の原因が「見込まれる販売額に関係なく」回っていることなので,その裏返しとして,見込まれる販売額が大きい得意先から優先順位を付けて訪問すればよい。販売額の大きい先に時間と販促費を集中でき,売上・利益の確保につながる。
35字に対し,解答例は「見込まれる販売額が大きい得意先から優先順位を付けて訪問する。」で30字。本文の「見込まれる販売額」をそのまま使い,何を基準に(販売額が大きい)どうするか(優先順位を付けて訪問)を書く。
設問2(1)
40字以内
営業員の負荷軽減と支店における業務の効率向上を図るために,卸売問屋に依頼すべき注文方法の変更を,40 字以内で述べよ。
解答例
- 例外的な注文を選別してもらい,全ての注文を受注センタ経由にする。
解説
本文の根拠
〔営業業務及び受注業務の現状〕(1)
量販店の注文は,通常はインターネットを介して注文管理システムに集められる。所管する受注センタの担当者は,注文管理システムの画面で注文状況を確認し,決められた時刻に販売管理システムにまとめて送信する。
〔営業業務及び受注業務の現状〕(1)
量販店が,締め時刻を過ぎてしまった後で注文をしたい場合,受注センタの担当者に確認の上,電話又はファックスで注文し,受注センタの担当者が受注センタの端末から販売管理システムに入力する。
〔営業業務及び受注業務の現状〕(2)
卸売問屋の注文は,通常の注文と例外的な注文が混在している。
〔営業業務及び受注業務の現状〕(2)
注文伝票と注文管理システムの入力項目は統一されているが,支店では受注センタを経由する注文管理システムを利用していない。
〔営業業務及び受注業務の現状〕(2)
この場合は販売管理システムへの入力方法が通常と異なるので,営業員が注文内容を見て,卸売問屋ごとに対応する。
卸売問屋の注文は,通常の注文と例外的な注文が混在したまま注文伝票で支店に届き,支店で販売管理システムに入力している。例外的な注文は入力方法が通常と異なるので,営業員が注文内容を見て卸売問屋ごとに対応しており,これが営業員と支店の負荷になっている。
量販店の注文は,通常はインターネットで注文管理システムに集められ,締め時刻を過ぎた注文も受注センタの担当者が確認して入力している。注文伝票と注文管理システムの入力項目は統一されているので,卸売問屋の注文も受注センタ経由に移せる。そのためには,混在している例外的な注文を卸売問屋に選別してもらい,通常の注文は注文管理システムで,例外的な注文は量販店と同じく受注センタの担当者に確認して出してもらえばよい。講評によると,“標準的な注文以外は受け付けない”などの出題の意図と異なる解答があった。例外的な注文も受ける前提で,経路を受注センタにそろえる。
40字に対し,解答例は「例外的な注文を選別してもらい,全ての注文を受注センタ経由にする。」で32字。卸売問屋に依頼すること(例外的な注文の選別)と,その結果の注文経路(全ての注文を受注センタ経由)の二つを書く。
採点講評(IPA)
設問2(1)では,卸売り問屋に依頼すべき注文方法について解答を求めた。“標準的な注文以外は受け付けない”などの出題の意図と異なる解答があった。
設問2(2)
35字以内
支店で得意先別の売上・利益の予実を正確に管理するための,営業員の業務改善内容を,35 字以内で述べよ。
解答例
- 得意先を混同しないように,発生の都度,間接費を精算する。
解説
本文の根拠
〔営業管理業務の現状〕
営業部員は,量販店ごとの注文内容や,交通費などの間接費をきめ細かく管理している。
〔営業管理業務の現状〕
営業員は提案資料の作成などで多忙なこともあって,卸売問屋 1 軒に対する複数の間接費をまとめて月末に精算することが多い。複数の卸売問屋に関する間接費が混同して入力されることもあり,卸売問屋ごとの正確な間接費は把握できていない。
〔営業力強化に関する業務改革方針〕
得意先別の売上・利益の予実を正確に管理する。
得意先別の利益を正確に管理するには,売上だけでなく得意先ごとの間接費が正確に分かる必要がある。ところが支店の営業員は,卸売問屋 1 軒に対する複数の間接費をまとめて月末に精算しており,複数の卸売問屋の間接費が混同して入力されることもある。その結果,卸売問屋ごとの正確な間接費が把握できていない。
原因は,まとめて月末に精算するので,どの間接費がどの得意先のものか分からなくなることである。間接費が発生するたびに精算すれば,記憶が確かなうちに得意先を特定して入力でき,混同が起きない。本社の営業部員が量販店ごとの間接費をきめ細かく管理しているのと同じ状態にそろえる。
35字に対し,解答例は「得意先を混同しないように,発生の都度,間接費を精算する。」で28字。目的(得意先を混同しない)と,現状の「まとめて月末に」を改める方法(発生の都度精算する)を書く。
設問3(1)
35字以内
支店の事務担当者の問合せ業務を削減するための改善点を,35 字以内で述べよ。
解答例
- 情報システム部の変更連絡窓口と更新のタイミングを定める。
解説
本文の根拠
〔営業管理業務の現状〕
卸売問屋の配送先の所在地,店舗名などの変更は,支店の事務担当者が連絡を受けるが,得意先マスタの更新は本社の情報システム部で行っている。その際,情報システム部では,支店からの変更連絡窓口も,更新のタイミングも決まっていないので,変更の遅れや漏れが発生している。
〔請求処理業務の現状〕
卸売問屋からは,請求明細の配送先店舗名や取引内容の誤りについて問合せが多発しており,その都度,経理部は各支店に問い合わせている。
〔請求処理業務の現状〕
経理部からの問合せを受けた支店では,事務担当者が卸売問屋に配送先店舗名を確認する。
支店の事務担当者の問合せ業務は,経理部から請求明細の誤りについて問合せを受け,卸売問屋に配送先店舗名を確認することである。請求明細の配送先店舗名が誤るのは,得意先マスタの更新に遅れや漏れがあるからである。
卸売問屋の配送先の変更は支店の事務担当者が受けるが,得意先マスタの更新は情報システム部が行っており,「支店からの変更連絡窓口も,更新のタイミングも決まっていない」ので,変更の遅れや漏れが発生している。そこで,情報システム部の変更連絡窓口と更新のタイミングを定めれば,変更が確実に得意先マスタに反映され,配送先店舗名の誤りと,それを確かめる問合せが減る。講評によると正答率は低く,状況設定と異なる解答があった。本文が「決まっていない」と書いている二つをそのまま決めればよい。
35字に対し,解答例は「情報システム部の変更連絡窓口と更新のタイミングを定める。」で28字。誰の(情報システム部の)何を(変更連絡窓口と更新のタイミング)定めるかを書き,二つとも落とさない。
採点講評(IPA)
設問3(1)は,支店事務担当者の問合せ業務の削減方法について解答を求めた。正答率は低かった。情報システム部の担当窓口における更新タイミングについて問うたが,状況設定と異なる解答があった。
設問3(2)
40字以内
支店の営業員の問合せ業務について負荷を軽減するための改善点を,40 字以内で述べよ。
解答例
- 注文確定後に確定注文の明細を卸売問屋に送付して内容を確認してもらう。
解説
本文の根拠
〔営業管理業務の現状〕
営業員が商談時に販売奨励金として設定したものが,卸売問屋では値引きとして処理されるなど,卸売問屋との間で取引に関する認識の違いが発生することがある。
〔請求処理業務の現状〕
また,支店の営業員は,商談時に作成した製品別注文受付の内容,注文伝票と請求明細とを突き合わせて,経理部からの問合せに回答する。
〔請求処理業務の現状〕
注文が多かった場合,営業員は,販売奨励金などが記載されている得意先別の確定注文の明細を販売管理システムから出力して,卸売問屋に送付し,商談時の内容と認識の違いがないかどうかを確認してもらうこともある。
支店の営業員の問合せ業務は,経理部から請求明細の取引内容の誤りについて問合せを受け,製品別注文受付・注文伝票・請求明細を突き合わせて回答することである。取引内容の問合せが起きるのは,販売奨励金が卸売問屋では値引きとして処理されるなど,取引に関する認識の違いがあるからである。
今も注文が多かった場合には,確定注文の明細を販売管理システムから出力して卸売問屋に送り,認識の違いがないかを確認してもらうことがある。これを例外扱いにせず,注文確定後に毎回行えば,認識の違いが請求の前に解消され,月末の請求明細への問合せと,その回答のための突合せが減る。
40字に対し,解答例は「注文確定後に確定注文の明細を卸売問屋に送付して内容を確認してもらう。」で34字。いつ(注文確定後に),何を(確定注文の明細を),どうする(卸売問屋に送付して確認してもらう)を書く。請求明細ではなく確定注文の段階で確かめるのが要点である。
出典:平成24年度 秋期 ITストラテジスト試験 午後Ⅰ 問2(表記を一部改変)
問3 物流業務の改善
物流業務の改善に関する次の記述を読んで,設問1〜4に答えよ。
D 社は,日用品の卸売業者であり,ホームセンタ,スーパマーケットなどを主な顧客としている。D 社では,地域ごとに複数の物流センタを設置し,自社で運用している。最近では,顧客からの注文が減少している上に,スーパマーケットの統合などによって顧客も減少している。
D 社では,販売管理システムと在庫管理システムを自社で開発し,本社で販売管理システムを使用し,それぞれの物流センタで在庫管理システムを使用している。
- (1) 販売管理システムは,顧客からの注文の情報を受注情報として管理する。受注情報には,納入先,納入希望日時,品目,数量があり,営業部員が販売管理システムに登録する。注文回数を制限していないので,少量,多頻度の配送となってしまっている顧客も多い。
- (2) 販売管理システムは,登録された受注情報をそれぞれの物流センタに仕分けし,本社から 1 日に 1 回まとめて送信する。
- (3) 在庫管理システムは,品目と数量を管理する。在庫管理システムには,顧客への出荷情報が実績として記録されている。在庫管理システムに記録せずに,営業部員が販売活動用のサンプルとして在庫から商品を持ち出し,顧客に渡すこともある。
- (4) 物流センタから顧客への配送業務及び物流センタ間の移送業務は,専門の運送業者に委託している。顧客への配送費用,物流センタ間の移送費用の実績金額をまとめた運送費用は,毎月 1 回運送業者に支払っている。顧客への配送費用を調査したところ,少量,多頻度の配送が多い顧客の中には,配送を見直すことで費用を削減できそうな先があることが分かった。
〔物流業務の現状〕
- D 社が扱っている商品は,定番商品と特売用商品の 2 種類がある。定番商品も特売用商品も物流センタに在庫として保管している。特売用商品は一時期に大量の注文が集中するので,物流センタ内に大きな在庫スペースが必要である。
- メーカに対して在庫補充のために発注する場合,出荷実績の傾向は考慮せず,受注情報と在庫情報に基づいて発注数量を決めている。
- 商品の在庫水準は,発注リードタイムと 1 日当たりの出荷数量の基準値によって決めている。定番商品も特売用商品も商品ごとに基準値を設定している。季節変動などの特性は考慮できていないので,一部の商品では欠品になったり,過剰在庫になったりしている。
- メーカが生産を中止した商品と,一定期間に出荷実績がなかった商品は,在庫管理システムの対象から除外しているが,それ以外の見直しは行っていない。
- メーカから商品を積んだトラックが物流センタに到着した後,入荷作業,検品作業,入庫作業を行う。トラックの到着スケジュールが変更になったり,複数台が同時に到着したりしても,作業スケジュールを一部見直すことで対応できている。
- 受注情報に従って出荷指示書を作成し,在庫を引き当て,商品を出荷している。しかし,在庫管理システム上の在庫数量と実在庫数量が異なり,欠品していることがある。その場合,在庫がある同一地域内の物流センタから自センタへの移送を運送業者に依頼する。
- 顧客に納品できる準備が整うと,作成した出荷伝票を物流センタから運送業者に送り,配送業務を依頼する。
〔物流業務の見直し〕
D 社では,競争力強化及び物流費用削減のために,物流センタの配置と在庫管理を見直すことにした。
- (1) 物流センタの配置の見直しでは,適正な在庫管理を行うために,それぞれの地域で複数箇所に設置されている物流センタを,地域ごとに 1 か所に統合する。
- (2) 在庫管理の見直しでは,従来は全ての商品の在庫管理を物流センタで行っていたが,特売用商品については在庫をもたないようにする。また,定番商品の過剰在庫を減らすために,出荷実績の傾向なども参考にする。
- (3) 営業部員に対するヒアリングによって,販売活動用に持ち出すサンプル商品は,入荷時点で必要数量を見込めることが分かったので,在庫差異による欠品の発生をなくす。
〔特売用商品に対応する物流業務〕
特売用商品は,必要時にメーカから出荷してもらい,物流センタに到着後,顧客ごとに仕分ける配送準備作業を行って,直ちに配送する。
- (1) D 社からメーカへの特売用商品の発注情報には,品目,数量,物流センタへの到着希望日時がある。到着希望日時は,顧客納品を行う配送トラックの出発時刻を基準に決める。同じ到着希望日時が,複数のメーカに対して指定されることもある。
- (2) メーカは,出荷数量が多いので,受注時に指定された到着希望日時を考慮して,数日前に出荷の予定を確定させる。特売用商品を積んだトラックが出発するときに,メーカから物流センタに,出荷した品目と数量の連絡がある。
- (3) 各メーカの特売用商品を積んだトラックが複数台同時に到着した場合,物流センタには,配送準備作業を同時に行えるだけの人数の作業要員はいない。配送準備作業は,顧客納品のために計画した配送トラックの出発時刻には間に合わせなければならない。
- (4) メーカからの納入品が到着希望日時に全数そろわないと,計画外の配送トラックを追加手配しなければならない。できるだけ早い段階で数量の相違を検出して,関係者と調整し,追加手配を削減したい。
顧客への配送は,物流センタで在庫管理を行っている定番商品を顧客ごとに取り出し,顧客ごとに仕分けられた特売用商品と併せて,従来と同様に同じ便で配送する。定番商品と特売用商品の新たな仕組みによる顧客への配送費用は,現在より減らしたい。
出題趣旨(IPA)
ITストラテジストには,業務を分析して課題や改善すべき項目を抽出し,対策案を検討する能力が求められる。本問では,物流業務の改善における新たな物流の仕組みの導入を題材にして,システムの活用による問題の解決,業務の見直しと情報の活用に関して検討する能力を評価する。具体的には,物流センタの統合による効果のまとめ,新たな物流の仕組みを効率よく運用できる仕組みや業務の検討,在庫管理の改善,配送コスト削減の検討について問う。
採点講評(問全体・IPA)
問3では,日用品の卸売業者における物流業務の改善について出題した。題意や状況設定は,おおむね理解されているようであった。
ITストラテジストは,対象となる業務を分析し,改善すべき業務,新たに行うべき業務に対して情報をどのように活用すれば実現できるのかを検討し,とりまとめる能力を高めてほしい。
設問と解答例
設問1
30字以内
物流センタを統合することによる適正な在庫管理について,在庫削減以外に期待される効果を,30 字以内で述べよ。
解答例
解説
本文の根拠
冒頭(4)
顧客への配送費用,物流センタ間の移送費用の実績金額をまとめた運送費用は,毎月 1 回運送業者に支払っている。
〔物流業務の現状〕(2)
しかし,在庫管理システム上の在庫数量と実在庫数量が異なり,欠品していることがある。その場合,在庫がある同一地域内の物流センタから自センタへの移送を運送業者に依頼する。
〔物流業務の見直し〕(1)
物流センタの配置の見直しでは,適正な在庫管理を行うために,それぞれの地域で複数箇所に設置されている物流センタを,地域ごとに 1 か所に統合する。
現状では,地域ごとに複数の物流センタがあり,自センタで欠品すると,在庫がある同一地域内の別の物流センタから移送してもらっている。この移送は運送業者に委託しており,物流センタ間の移送費用が運送費用として毎月支払われている。
物流センタを地域ごとに 1 か所に統合すれば,その地域の在庫は一つのセンタにまとまるので,同一地域内のセンタ間で商品を移送する必要がなくなる。在庫を分散して持たなくてよいことによる在庫削減は設問が除いているので,もう一つの効果として,欠品時の物流センタ間の移送費用の削減を挙げる。見直しの目的の「物流費用削減」にも当たる。
30字に対し,解答例は「商品欠品時の物流センタ間の移送費用を削減できる。」で24字。いつ発生する費用か(商品欠品時),何の費用か(物流センタ間の移送費用)を書く。
設問2(1)
解答欄2つ
計画外の配送トラックの追加手配を削減するために,どのような情報を,どの時点でメーカから入手すべきか。それぞれ 20 字以内で述べよ。
解説
本文の根拠
〔特売用商品に対応する物流業務〕(2)
メーカは,出荷数量が多いので,受注時に指定された到着希望日時を考慮して,数日前に出荷の予定を確定させる。特売用商品を積んだトラックが出発するときに,メーカから物流センタに,出荷した品目と数量の連絡がある。
〔特売用商品に対応する物流業務〕(4)
メーカからの納入品が到着希望日時に全数そろわないと,計画外の配送トラックを追加手配しなければならない。できるだけ早い段階で数量の相違を検出して,関係者と調整し,追加手配を削減したい。
計画外の配送トラックの追加手配は,メーカからの納入品が到着希望日時に全数そろわないときに起きる。D 社は「できるだけ早い段階で数量の相違を検出して」関係者と調整したいと考えている。
現状では,メーカから出荷した品目と数量の連絡が来るのはトラックが出発するときで,相違が分かってから調整する時間がほとんどない。一方,メーカは数日前に出荷の予定を確定させている。そこで,出荷の予定が確定した時点で,出荷する商品,数量と到着予定日時を入手すれば,発注した数量・到着希望日時との相違を数日前に検出でき,追加手配を避ける調整ができる。数量だけでなく到着予定日時も要るのは,全数そろうかは「到着希望日時に」間に合うかで決まるからである。
20字ずつに対し,解答例は情報が「商品,数量と到着予定日時」で12字,時点が「出荷の予定が確定した時」で11字。本文の「出荷の予定を確定させる」を時点に使い,トラック出発時の連絡より前であることが分かるように書く。本文は「品目」と書いているが,解答例は「商品」としている。
設問2(2)
45字以内
計画した配送トラックを予定どおり出発させるためには,どのような業務を追加する必要があるか。45 字以内で述べよ。
解答例
- 作業要員の割当てを考慮してメーカからのトラックの到着時刻を決定する業務
解説
本文の根拠
〔特売用商品に対応する物流業務〕(1)
到着希望日時は,顧客納品を行う配送トラックの出発時刻を基準に決める。同じ到着希望日時が,複数のメーカに対して指定されることもある。
〔特売用商品に対応する物流業務〕(3)
各メーカの特売用商品を積んだトラックが複数台同時に到着した場合,物流センタには,配送準備作業を同時に行えるだけの人数の作業要員はいない。配送準備作業は,顧客納品のために計画した配送トラックの出発時刻には間に合わせなければならない。
特売用商品は物流センタに到着後,顧客ごとに仕分ける配送準備作業をして直ちに配送する。到着希望日時は配送トラックの出発時刻から決めるので,同じ日時が複数のメーカに指定されることがあり,トラックが同時に到着すると,作業要員が足りず配送準備作業が出発時刻に間に合わないおそれがある。
今は到着希望日時を配送トラックの出発時刻だけで決めている。これに作業要員の割当てを加味し,配送準備作業が要員の人数で順にこなせるように,メーカからのトラックの到着時刻をずらして決める業務を追加すれば,計画した配送トラックを予定どおり出発させられる。講評によると,到着スケジュール又は作業要員の一方だけを条件とした解答が多かった。到着時刻を決めるときに要員を考慮する,と両方を結び付ける。
45字に対し,解答例は「作業要員の割当てを考慮してメーカからのトラックの到着時刻を決定する業務」で35字。条件(作業要員の割当て)と決めるもの(メーカからのトラックの到着時刻)をそろえ,設問に合わせて「〜業務」で結ぶ。
採点講評(IPA)
設問2(2)は,メーカからのトラックの物流センタへの到着スケジュールと作業要員の関係から追加すべき業務について解答を求めていた。しかし,解答の多くは,到着スケジュール又は作業要員の一方だけを条件としていた。
設問3(1)
40字以内
在庫差異による欠品をなくすための業務の見直しについて,40 字以内で述べよ。
解答例
- サンプル商品は,入荷時に必要な数量を確保し,一般在庫と別管理する。
解説
本文の根拠
冒頭(3)
在庫管理システムに記録せずに,営業部員が販売活動用のサンプルとして在庫から商品を持ち出し,顧客に渡すこともある。
〔物流業務の現状〕(2)
しかし,在庫管理システム上の在庫数量と実在庫数量が異なり,欠品していることがある。
〔物流業務の見直し〕(3)
営業部員に対するヒアリングによって,販売活動用に持ち出すサンプル商品は,入荷時点で必要数量を見込めることが分かったので,在庫差異による欠品の発生をなくす。
在庫管理システム上の在庫数量と実在庫数量が異なる(在庫差異)原因は,営業部員が在庫管理システムに記録せずにサンプルとして在庫から商品を持ち出していることである。システム上はあるはずの商品が実際には無く,欠品が起きる。
ヒアリングで,サンプル商品は入荷時点で必要数量を見込めることが分かった。そこで入荷時にサンプルに必要な数量を確保し,一般在庫とは別に管理すれば,営業部員の持出しが一般在庫の数量に影響しなくなり,在庫差異による欠品がなくなる。講評によると,サンプル商品の必要数量の上乗せや棚卸の実施といった解答もあり,在庫差異が起きている要因を理解できていなかった。数量を増やしたり差異を後から見つけたりするのではなく,記録されない持出しを一般在庫から切り離す。
40字に対し,解答例は「サンプル商品は,入荷時に必要な数量を確保し,一般在庫と別管理する。」で33字。いつ(入荷時に),何を(必要な数量を確保),どう管理するか(一般在庫と別管理)の三つを書く。
採点講評(IPA)
設問3(1)は,サンプル商品による在庫差異の改善について解答を求めていた。おおむね理解されていたが,サンプル商品の必要数量の上乗せ,棚卸の実施などの解答もあり,在庫差異が起きている要因を理解できていない解答もあった。
設問3(2)
35字以内
定番商品の欠品,過剰在庫削減のための改善について,35 字以内で述べよ。
解答例
- 出荷実績の傾向と季節変動などを考慮してメーカに発注する。
解説
本文の根拠
〔物流業務の現状〕(1)
メーカに対して在庫補充のために発注する場合,出荷実績の傾向は考慮せず,受注情報と在庫情報に基づいて発注数量を決めている。
〔物流業務の現状〕(1)
季節変動などの特性は考慮できていないので,一部の商品では欠品になったり,過剰在庫になったりしている。
〔物流業務の見直し〕(2)
また,定番商品の過剰在庫を減らすために,出荷実績の傾向なども参考にする。
定番商品の欠品や過剰在庫の原因として,本文は二つを挙げている。在庫補充の発注で「出荷実績の傾向は考慮せず」受注情報と在庫情報だけで発注数量を決めていること,そして在庫水準に「季節変動などの特性は考慮できていない」ことである。
在庫管理の見直しでは,過剰在庫を減らすために出荷実績の傾向なども参考にするとしている。そこで,メーカへの発注数量を,出荷実績の傾向と季節変動などを考慮して決めれば,需要の増える時期の欠品と減る時期の過剰在庫の両方を抑えられる。
35字に対し,解答例は「出荷実績の傾向と季節変動などを考慮してメーカに発注する。」で28字。現状で考慮していない二つ(出荷実績の傾向,季節変動)をそろえて書き,改善の対象(メーカへの発注)を明示する。
設問4
40字以内
顧客への配送を見直すことで費用を削減できる可能性がある。どのような検討が必要か。40 字以内で述べよ。
解答例
- 注文回数が多い顧客について,まとめて配送が可能かどうか検討する。
解説
本文の根拠
冒頭(1)
注文回数を制限していないので,少量,多頻度の配送となってしまっている顧客も多い。
冒頭(4)
顧客への配送費用を調査したところ,少量,多頻度の配送が多い顧客の中には,配送を見直すことで費用を削減できそうな先があることが分かった。
〔特売用商品に対応する物流業務〕
顧客への配送は,物流センタで在庫管理を行っている定番商品を顧客ごとに取り出し,顧客ごとに仕分けられた特売用商品と併せて,従来と同様に同じ便で配送する。
注文回数を制限していないため,少量,多頻度の配送になっている顧客が多い。配送費用の調査で,こうした顧客の中に配送を見直せば費用を削減できそうな先があることが分かっている。
配送の回数が多いほど配送費用は掛かるので,注文回数が多い顧客について,複数の注文をまとめて配送できるかを検討すればよい。特売用商品と定番商品は新しい仕組みでも従来と同様に同じ便で配送するので,見直しの対象は商品の組合せではなく配送の回数である。講評によると,特売用商品と定番商品を混載する,それぞれ別々に配送するなど,配送費用の見直しが可能な関係を理解できていない解答もあった。
40字に対し,解答例は「注文回数が多い顧客について,まとめて配送が可能かどうか検討する。」で32字。対象(注文回数が多い顧客)と検討の中身(まとめて配送できるか)を書き,設問の「どのような検討」に合わせて「〜検討する」で結ぶ。
採点講評(IPA)
設問4は,注文回数の多い顧客への配送を改善することによる配送費用の見直しについて解答を求めた。おおむね理解されていたが,特売用商品と定番商品を混載,それぞれ別々に配送など,配送費用の見直しが可能な関係を理解できていない解答もあった。
出典:平成24年度 秋期 ITストラテジスト試験 午後Ⅰ 問3(表記を一部改変)
問4 自動販売機の企画
自動販売機の企画に関する次の記述を読んで,設問1〜3に答えよ。
E 社は,飲料用自動販売機メーカで,販売先は酒類と清涼飲料の製造・販売を行う G 社である。E 社の自動販売機には通信機能があり,自動販売機内の在庫を遠隔地から確認することができる。自動販売機の設置場所は広範・多岐にわたり,設置場所によって通信手段が異なるので,LAN,携帯電話,PHS など,複数の通信手段に対応している。
〔G 社の経営状況・経営戦略〕
G 社は自動販売機による売上は順調であるが,主な販路である販売店及び飲食店においては売上が伸び悩んでいる。そこで,経営悪化の打開策として,E 社に対し,E 社の従来の自動販売機にはない機能(以下,新機能という)を提案するよう依頼した。G 社が例として挙げたのは,G 社の主な販路で売上を伸ばすことができる機能であった。
〔新機能の概要〕
G 社の依頼を受け,E 社の IT ストラテジストの H 氏は次のような新機能を考えた。
- 災害時に,被災地及びその周辺で液晶画面に文字・画像を表示したり,音声を出力したりすることによって,災害の状況や避難場所などの災害情報を提供する。
- 災害時に,被災地及びその周辺で,緊急支援物資として自動販売機内の商品を無償で提供する。
- 利用者が,最寄り駅,最寄りバス停,飲食店などの目的地を一覧から検索すると,目的地までの経路を表示する。
- 目的地までの経路を表示する機能を近隣の自動販売機と連携させ,利用者が表示された経路の自動販売機に近づく頃に“○○駅ココ右折”などの道案内を表示する。
- 性別及び年齢層別に,自動販売機で販売中のお勧め商品を紹介する。
- 購入履歴を基に,利用者の好みの商品を提案する。
H 氏は,システムアーキテクトの J 氏に,これらの新機能の実現方法を調査するように指示した。
〔新機能の実現方法〕
J 氏は,新機能の実現方法について調査し,その結果を機能ごとにまとめ,H 氏に報告した。
- 関係省庁及び自治体と連携し,災害に関する最新情報を表示する。
- 停電で外部からの電力供給が断たれたときでも,内蔵する電池を使って,最寄りの避難所までの道案内の画面表示を,1 日程度続ける。
- 遠隔操作又は手動操作によって,商品を無償提供する。
- 停電で外部からの電力供給が断たれたときでも,内蔵する電池を使って,商品がある限り 1 日程度は無償提供を続ける。
- タッチパネルの操作によって,目的地を入力する。
- 道路の新設,廃止,工事中などの情報を入手し,道案内をする。
- 目的地までの経路にある,道案内機能を搭載した自動販売機は,利用者が来ると思われる時間が経過したときに道案内を表示する。
- カメラの画像から年齢,性別を判断する。
- 購入層ごとのお勧め商品情報は,毎日更新する。
- 個人を識別できる画像情報及び過去に購入した商品情報をサーバに保存し,カメラの画像から利用者を識別し,過去に購入した商品に関連した新商品を紹介する。
これらの新機能の中には,継続運用するために他企業と提携すべきもの,及び個人情報保護の面で問題となり得るものがある。また,災害情報提供機能及び災害時商品無償提供機能の実現は,技術的には可能であるが,機能実装コスト,保守コストの増加などの問題がある。
〔新機能に関する G 社の提案・意向と E 社の対応〕
H 氏が,G 社の経営者に新機能について説明したところ,G 社の経営者は,道案内機能を評価するとともに,この機能を利用して,利用者を提携店に誘導する新機能を提案してきた。具体的な内容は,道案内機能と連動し,近隣店舗の情報を自動販売機に表示し,G 社の商品を扱う近隣の販売店,飲食店などの提携店を優先的に紹介する機能(以下,提携店優先紹介機能という)である。さらに,G 社の経営者は,次のような意向を示した。
- 提携店優先紹介機能については,E 社と特許を共同出願することで,特許権を共有したい。
- 提携店優先紹介機能を含めた全ての新機能を備えた自動販売機を,半年後に市場に出したい。
H 氏は,J 氏に提携店優先紹介機能の詳細化を指示した。J 氏が検討した結果を次に示す。
- G 社の商品を扱う販売店の集客アップのために,当日の特売品情報などを紹介する。
- G 社の商品を扱う飲食店のメニュー,“レジで○○と言うと割引になります”といったサービスなどの情報を紹介する。
提携店優先紹介機能の実現については,G 社と特許を共同出願することを前提に開発を進めることにした。
H 氏は,G 社の意向どおりに全ての新機能を備えた自動販売機を開発するのは納期の面で困難と判断した。そこで,G 社の経営状況を踏まえ,先行して実現すべき二つの新機能を搭載した自動販売機をまず開発して,G 社に納入し,その後,ハードウェアの追加とソフトウェアの更新によって,残りの新機能を実現することで,G 社との合意を得ることができた。また,H 氏は,先行して実現すべき二つの新機能を実現するためにはそれぞれ,関係省庁,自治体,企業など他の組織から入手すべき情報があると考えた。
出題趣旨(IPA)
ITストラテジストには,顧客の状況や市場動向を分析し,機能を提案したり,開発上の課題を解決したりする能力が求められる。本問では,自動販売機の開発を題材に,顧客の状況を踏まえた上で,新たな商品を提案し,開発上の課題を解決する能力を評価する。具体的には,顧客の経営状況を踏まえた先行開発,バージョンアップの開発計画の策定,新機能の実現における課題の把握,特許の共同出願において留意すべき内容について問う。
採点講評(問全体・IPA)
問4では,飲料用自動販売機における新機能開発の企画について出題した。題意や状況設定は,おおむね理解されているようであった。
ITストラテジストは,顧客の状況や市場動向を分析し,開発上の問題を解決したり機能を提案したりする能力を高めるとともに,関連する法規や特許に関する知識を身につけてほしい。
設問と解答例
設問1(1)
解答欄6つ
G 社と合意して先行して実現することにした新機能を二つ答えよ。また,それぞれについて,その理由を 25 字以内,その新機能を実現するに当たって,他の組織から入手すべき情報を 30 字以内で述べよ。
〔備考〕①と②は順不同
解説
本文の根拠
〔G 社の経営状況・経営戦略〕
G 社は自動販売機による売上は順調であるが,主な販路である販売店及び飲食店においては売上が伸び悩んでいる。
〔G 社の経営状況・経営戦略〕
G 社が例として挙げたのは,G 社の主な販路で売上を伸ばすことができる機能であった。
〔新機能の実現方法〕③
道路の新設,廃止,工事中などの情報を入手し,道案内をする。
〔新機能に関する G 社の提案・意向と E 社の対応〕(1)
具体的な内容は,道案内機能と連動し,近隣店舗の情報を自動販売機に表示し,G 社の商品を扱う近隣の販売店,飲食店などの提携店を優先的に紹介する機能(以下,提携店優先紹介機能という)である。
〔新機能に関する G 社の提案・意向と E 社の対応〕(2)①
G 社の商品を扱う販売店の集客アップのために,当日の特売品情報などを紹介する。
〔新機能に関する G 社の提案・意向と E 社の対応〕(2)①
G 社の商品を扱う飲食店のメニュー,“レジで○○と言うと割引になります”といったサービスなどの情報を紹介する。
〔新機能に関する G 社の提案・意向と E 社の対応〕(2)②
そこで,G 社の経営状況を踏まえ,先行して実現すべき二つの新機能を搭載した自動販売機をまず開発して,G 社に納入し,その後,ハードウェアの追加とソフトウェアの更新によって,残りの新機能を実現することで,G 社との合意を得ることができた。
先行する二つは「G 社の経営状況を踏まえ」て選ぶ。G 社の経営状況は,自動販売機の売上は順調だが,主な販路である販売店及び飲食店の売上が伸び悩んでいることで,G 社が求めたのも主な販路の売上を伸ばせる機能である。この条件に直接合うのが,G 社の商品を扱う販売店・飲食店を優先的に紹介する提携店優先紹介機能である。提携店優先紹介機能は「道案内機能と連動し」て利用者を提携店に誘導するので,道案内機能も同時に必要になる。災害情報提供機能やお勧め商品紹介機能は,主な販路の売上とは直接結び付かない。
他の組織から入手すべき情報は,それぞれの機能の中身から拾う。提携店優先紹介機能は,J 氏の詳細化にある販売店の当日の特売品情報と,飲食店のメニューやサービスの情報を紹介するので,これらを提携店(企業)から入手する。道案内機能は「道路の新設,廃止,工事中などの情報を入手し」とあり,これを関係省庁や自治体から入手する。講評によると,理由の記述で G 社との合意を得た状況を踏まえていない解答が一部に見られた。理由は E 社の都合ではなく,G 社の経営状況(主な販路の売上)と二つの機能の連動から書く。
理由は25字,情報は30字に対し,解答例の理由は「G社の主な販路の売上を伸ばせる機能だから」(20字)と「提携店優先紹介機能と連動した機能だから」(19字),情報は「当日の特売品,メニュー,サービスなどの情報」(21字)と「道路の新設,廃止,工事中などの情報」(17字)。①と②は順不同で,新機能・理由・情報の組を崩さずに書く。
採点講評(IPA)
設問1では,開発計画について解答を求めた。(1)では,先行して実現すべき新機能及び他の組織から入手すべき情報についてはおおむね理解されていたが,その理由の記述では,G社との合意を得た状況を踏まえていない解答も一部に見られた。(2)では,納入後の保守や機能の追加に関連しない解答が一部に見られた。
設問1(2)
30字以内
自動販売機の納入後,ソフトウェアの保守や機能の追加が考えられる。ソフトウェアの更新について考慮しておくべき事項を,30 字以内で述べよ。
解答例
- 通信機能を使ってダウンロードできるようにしておく。
解説
本文の根拠
冒頭
E 社の自動販売機には通信機能があり,自動販売機内の在庫を遠隔地から確認することができる。自動販売機の設置場所は広範・多岐にわたり,設置場所によって通信手段が異なるので,LAN,携帯電話,PHS など,複数の通信手段に対応している。
〔新機能に関する G 社の提案・意向と E 社の対応〕(2)②
その後,ハードウェアの追加とソフトウェアの更新によって,残りの新機能を実現することで,G 社との合意を得ることができた。
先行して二つの新機能を搭載した自動販売機を納入し,その後,ハードウェアの追加とソフトウェアの更新によって残りの新機能を実現する計画である。納入後にもソフトウェアの保守や機能の追加でソフトウェアを更新する機会が繰り返しある。
自動販売機の設置場所は広範・多岐にわたるので,1 台ずつ現地で更新するのは手間が掛かる。一方,E 社の自動販売機には通信機能があり,設置場所に応じた複数の通信手段にも対応している。そこで,開発の段階から,更新するソフトウェアを通信機能を使ってダウンロードできるようにしておけば,納入後の更新を遠隔でまとめて行える。講評によると,納入後の保守や機能の追加に関連しない解答が一部に見られた。
30字に対し,解答例は「通信機能を使ってダウンロードできるようにしておく。」で25字。本文にある既存の通信機能を使うことと,更新の方法(ダウンロード)を書き,設問の「考慮しておくべき」に合わせて「〜しておく」で結ぶ。
採点講評(IPA)
設問1では,開発計画について解答を求めた。(1)では,先行して実現すべき新機能及び他の組織から入手すべき情報についてはおおむね理解されていたが,その理由の記述では,G社との合意を得た状況を踏まえていない解答も一部に見られた。(2)では,納入後の保守や機能の追加に関連しない解答が一部に見られた。
設問2(1)
個人情報保護の面で問題となり得る新機能を答えよ。
解答例
解説
本文の根拠
〔新機能の実現方法〕④
個人を識別できる画像情報及び過去に購入した商品情報をサーバに保存し,カメラの画像から利用者を識別し,過去に購入した商品に関連した新商品を紹介する。
〔新機能の実現方法〕
これらの新機能の中には,継続運用するために他企業と提携すべきもの,及び個人情報保護の面で問題となり得るものがある。
四つの新機能の実現方法のうち,個人を識別する情報を扱うのはお勧め商品紹介機能だけである。この機能は「個人を識別できる画像情報及び過去に購入した商品情報をサーバに保存し」,カメラの画像から利用者を識別して新商品を紹介する。
利用者の顔の画像と購入履歴を,本人が知らないうちに撮影・蓄積して識別に使うことになるので,個人情報保護の面で問題となり得る。道案内機能はタッチパネルで目的地を入力するだけで,利用者を識別しない。災害情報提供機能と災害時商品無償提供機能も個人の情報を扱わない。
字数の制限は無い。解答例は「お勧め商品紹介機能」で,本文の機能名をそのまま書く。「カメラの画像」のように実現方法を書くのではなく,機能の名前を答える。
設問2(2)
35字以内
災害情報提供機能と災害時商品無償提供機能の実現に伴う機能実装コスト及び保守コストの増加の原因を,35 字以内で述べよ。
解答例
- 電池を搭載したり,交換したりするための費用が掛かる。
解説
本文の根拠
〔新機能の実現方法〕①
停電で外部からの電力供給が断たれたときでも,内蔵する電池を使って,最寄りの避難所までの道案内の画面表示を,1 日程度続ける。
〔新機能の実現方法〕②
停電で外部からの電力供給が断たれたときでも,内蔵する電池を使って,商品がある限り 1 日程度は無償提供を続ける。
〔新機能の実現方法〕
また,災害情報提供機能及び災害時商品無償提供機能の実現は,技術的には可能であるが,機能実装コスト,保守コストの増加などの問題がある。
災害情報提供機能と災害時商品無償提供機能の実現方法に共通するのは,停電で外部からの電力供給が断たれても「内蔵する電池を使って」1 日程度動き続けることである。二つの機能に共通してコストを押し上げるのはこの電池である。
機能実装コストは,自動販売機に電池を搭載するための費用である。保守コストは,電池は使わなくても劣化するので,いざというときに 1 日程度動かせるよう,定期的に交換するための費用である。講評によると,機能実装コストと保守コストの両面を考慮してほしかったが,その一方だけを記述した解答も多く見られた。
35字に対し,解答例は「電池を搭載したり,交換したりするための費用が掛かる。」で26字。原因(電池)を一つ示し,実装(搭載)と保守(交換)の両方を「〜したり,〜したり」で並べる。
採点講評(IPA)
設問2では,新機能の実現について解答を求めた。(2)では,機能実装コストと保守コストの両面を考慮してほしかったが,その一方だけを記述した解答も多く見られた。
設問3
15字以内
E 社が,飲料以外の自動販売機向けにライセンス料収入の獲得を目的とし,他の自動販売機メーカに,G 社との共同出願特許である提携店優先紹介機能をもつ自動販売機の製造・販売を許諾するに当たって,あらかじめ行っておくべきことを,15 字以内で述べよ。
解答例
解説
本文の根拠
〔新機能に関する G 社の提案・意向と E 社の対応〕(1)
提携店優先紹介機能については,E 社と特許を共同出願することで,特許権を共有したい。
〔新機能に関する G 社の提案・意向と E 社の対応〕(2)①
提携店優先紹介機能の実現については,G 社と特許を共同出願することを前提に開発を進めることにした。
提携店優先紹介機能の特許は,G 社の意向で E 社と G 社が共同出願し,特許権を共有する。E 社は,飲料以外の自動販売機向けに,他の自動販売機メーカにこの特許を使った製造・販売を許諾して,ライセンス料収入を得たいと考えている。
特許法第73条第3項は,特許権が共有に係るときは,各共有者は他の共有者の同意を得なければ,他人に通常実施権を許諾することができないとしている。したがって E 社が他のメーカに製造・販売を許諾するには,共有者である G 社の同意をあらかじめ得ておく必要がある。講評は,関連する法規や特許に関する知識を身につけてほしいとしている。
15字に対し,解答例は「G社の同意を得ておく。」で11字。誰の(共有者の G 社)何を(同意)かを書く。「G 社と協議する」「G 社に連絡する」では許諾の要件にならないので,「同意」の語を使う。
出典:平成24年度 秋期 ITストラテジスト試験 午後Ⅰ 問4(表記を一部改変)