平成22年度 秋期に実施されたITストラテジスト試験
午後Ⅰの全4問(記述式)です。事例本文・設問・解答例と解説をそのまま読めます。
この試験について:ITストラテジスト試験について
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問1 卸売業者における物流センタの統合による業務改善
卸売業者における物流センタの統合による業務改善に関する次の記述を読んで,設問1〜3に答えよ。
〔A 社の現状〕
A 社は,化粧品や日用品の卸売業者である。顧客は,ドラッグストア,スーパなどの小売業者である。当初は,A 社の所在地に物流センタを設置し,周辺の顧客への卸売業務を始めた。その後,顧客の出店拡大や自社の営業部員による新たな顧客獲得によって,営業地域を近県に拡大していった。それに伴い,顧客への配送サービスを考慮し,各県に物流センタを展開してきた。現在では,一つの県の中にも複数の物流センタを設置し,顧客へのサービス向上に努めている。
それぞれの物流センタには,自社で開発した在庫管理システムを導入しているが,物流センタ間のシステム連携は行っていない。在庫管理システムでは,商品の品目と数量を管理している。一方,本社には,顧客からの受注を管理する販売管理システムを導入している。営業部員は,顧客から注文を受けて,受注情報を販売管理システムに登録する。販売管理システムでは,1 日分の受注情報をまとめて,顧客を担当するそれぞれの物流センタに送信する。販売管理システムと各物流センタの在庫管理システムは連携していないので,現在はオンラインで在庫を確認することはできない。
〔物流センタ業務の現状〕
物流センタでは,受注情報に基づいて顧客ごとに出荷指示書を作成し,在庫を引き当て,商品を出荷している。
物流センタごとに各商品の安全在庫の基準値を設定し,それを下回った場合には,メーカに補充発注を行い,安全在庫数量を確保している。安全在庫の基準値に余裕をもたせる物流センタもある。一方で,商品の補充が間に合わずに,欠品を起こすこともある。欠品時には,物流センタの責任者が近くにある複数の物流センタに問い合わせ,在庫があれば自己の物流センタに配送してもらう。問合せ先にも在庫がなければ,顧客に欠品になっている旨を連絡する。
物流センタでは,出荷指示書に基づいて商品を出荷しているが,顧客への納品時に商品の品目や数量が誤っているというクレームを受けることがある。
顧客への配送は,運送会社へ委託している。納品時刻は,顧客の要望に合わせて午前又は午後の時間帯で指定している。
〔顧客の要望〕
顧客からは,商品の出荷に関して,次の要望がある。
注文時に欠品が見込まれる場合には,その時に連絡してほしい。 化粧品は,前回のロットよりも古いロットの商品が出荷されることのないように,管理を行ってほしい。 顧客は,商品が納品されると,店頭やバックヤードで作業者が検品作業を行う。検品作業では,自社の発注伝票と A 社の出荷伝票に基づいて,商品現物の品目と数量を確認する。検品作業の効率を改善するために,次の要望がある。
作業者のスケジュール管理を容易にするために,納品時刻を一定にしてほしい。 店頭での検品作業を,現物確認ではなく発注伝票と出荷伝票の突合せによる作業にし,作業負荷を軽減したい。 〔化粧品メーカの要望〕
一方,A 社の取引先である化粧品メーカは,製品出荷後のトレーサビリティ管理の強化の要望をもっている。メーカは,製造者としてのトレーサビリティ管理を導入しており,製品に製造ロット番号を付け,その順に出荷している。卸売業者への出荷までの製品情報は管理できているが,卸売業者から小売業者へ出荷した数量などの情報はない。消費者の商品への意識の高まりから,製品に問題が発生した場合には対応を急ぐ必要があるのに,対応範囲が特定できない。
〔物流業務の見直し〕
今回,メーカや顧客の要望にも対応し,両者の満足度向上と,A 社の競争力の強化を図るために,次の方針で物流業務の見直しを行うことにした。
各県に物流センタを展開してきたが,管理費が経営を圧迫してきたので,物流センタの統合及び外部への業務委託を行う。 今回の見直しでは,物流センタは,業務を委託する会社の設備を利用し,1 か所に統合する計画である。また,自社の販売管理システムを改修し,業務委託先の在庫管理システムと接続して在庫情報を即時に参照できることを条件に追加した。
業務委託の検討を行う際に,倉庫業の B 社と運輸業の C 社に提案を求めた。両社の提案は次のとおりであった。
〔B 社の提案〕
B 社で運用している在庫管理システムを使用する。配送は,B 社が契約している運輸業者に委託する。商品の在庫管理は,品目,数量,製造ロット番号で行い,A 社と同じ方法で商品を補充する。商品の出荷管理は,製造ロット番号と出荷日付によって行い,出荷日付,納入先,製造ロット番号,数量の情報を保存する。B 社が契約している運輸業者では,配車担当者が配送順と納品時刻を決定している。現状の午前又は午後の時間帯指定の配送は可能であるが,配車担当者のスキルによっては,納品時刻を一定にすることは困難である。
〔C 社の提案〕
C 社で運用している在庫管理システムを使用する。配送は C 社の運輸部門が行う。運輸部門では,配送順や希望納品時刻を制約条件とするトラック配車計画システムを運用している。配車担当者のスキルによらず,適切な配車計画が作成でき,希望納品時刻どおりの配送が可能である。
なお,C 社から提案された商品の在庫管理と出荷管理は,A 社で評価した結果,B 社と同等である。
〔物流に関する指標について〕
両社の提案では,物流センタの在庫管理と出荷管理の業務内容と受託する料金は同等であった。A 社では,顧客の要望を実現できる C 社の提案を採用することに決めた。C 社と契約を結ぶ際に,物流品質の維持・向上を図るために,欠品,誤納品,メーカ返品などに関する物流指標を決めた。この指標の中でも,顧客の検品作業の改善に関する要望に対応するための指標を,特に重視した。
出題趣旨(IPA)
ITストラテジストには,対象となる業務環境の調査・分析を行い,システム化計画を適切に策定する能力が求められる。本問では,卸売業者の物流センタ業務を題材に,物流センタの業務の改善とともに,顧客やメーカの要望にこたえるためのシステム化計画を策定する能力を評価する。具体的には,物流センタの統合によって改善できる業務,業務委託の検討において委託先を決定した要因と委託業務の実施状況を評価する指標,顧客とメーカの要望に対してシステムを活用して行うべきことについて問う。
採点講評(問全体・IPA)
問1では,卸売業者における物流センタの統合による業務改善について出題した。題意や状況設定はおおむね理解されているようであったが,一部の設問で題意を十分に理解できていないと思われる解答が見られた。
ITストラテジストは,対象となる業務環境を的確に理解して,改善すべき業務の選定や,その改善に必要な情報の検討を行い,システム化計画を適切に策定できる能力を身につけてほしい。
設問と解答例
設問1(1)
30字以内
商品の在庫数量の管理面で改善できることを,30 字以内で述べよ。
解答例
解説
本文の根拠
〔物流センタ業務の現状〕
物流センタごとに各商品の安全在庫の基準値を設定し,それを下回った場合には,メーカに補充発注を行い,安全在庫数量を確保している。安全在庫の基準値に余裕をもたせる物流センタもある。
〔物流業務の見直し〕
今回の見直しでは,物流センタは,業務を委託する会社の設備を利用し,1 か所に統合する計画である。
今は物流センタごとに安全在庫の基準値を設定し,それぞれが安全在庫数量を確保している。しかも基準値に余裕をもたせる物流センタもあり,同じ商品の安全在庫が物流センタの数だけ重なって持たれている。物流センタを1か所に統合すれば,安全在庫を1か所に集約でき,全体の在庫数量を削減できる。
設問は「在庫数量の管理面」に限っている。講評によると,在庫の一元管理に着目した解答が多かったが,安全在庫数量の削減に結びつけるまでの記述がほしかったとされている。一元管理は手段であり,在庫数量がどう変わるか(削減できる)まで書くことが求められている。
30字に対し,解答例は「安全在庫を集約することで,在庫数量を削減できる。」で24字。「何をどうするか(安全在庫の集約)」と「その結果(在庫数量の削減)」の二つをそろえる。
採点講評(IPA)
設問1では,物流センタの統合によって可能となる管理面の改善について解答を求めた。(1)では,在庫の一元管理に着目した解答が多かったが,この設問では在庫数量の管理面を問うているので,安全在庫数量の削減に結びつけるまでの記述がほしかった。(2)では,新たに業務委託することによって改善できる製造ロット番号による出荷管理について解答を求めたが,在庫情報の即時参照による問合せの改善を解答する例も多く見られた。
設問1(2)
30字以内
顧客へ出荷する商品の管理面で改善できることを,30 字以内で述べよ。
解答例
解説
本文の根拠
〔顧客の要望〕
化粧品は,前回のロットよりも古いロットの商品が出荷されることのないように,管理を行ってほしい。
〔A 社の現状〕
在庫管理システムでは,商品の品目と数量を管理している。
〔B 社の提案〕
商品の在庫管理は,品目,数量,製造ロット番号で行い,A 社と同じ方法で商品を補充する。商品の出荷管理は,製造ロット番号と出荷日付によって行い,出荷日付,納入先,製造ロット番号,数量の情報を保存する。
〔C 社の提案〕
なお,C 社から提案された商品の在庫管理と出荷管理は,A 社で評価した結果,B 社と同等である。
A 社の今の在庫管理システムは品目と数量しか管理しておらず,ロットの新旧を区別できない。統合先の委託先(B 社・C 社とも同等)は在庫を製造ロット番号でも管理し,出荷も製造ロット番号と出荷日付で管理する。製造ロット番号を使ってロット番号順に出荷すれば,顧客の「前回のロットよりも古いロットの商品が出荷されることのないように」という要望にこたえられる。
講評によると,在庫情報の即時参照による問合せの改善を答えた例が多かった。即時参照は販売管理システムの改修による改善で,設問の「顧客へ出荷する商品の管理面」に当たるのは,委託先の仕組みで新たにできる製造ロット番号による出荷管理である。
30字に対し,解答例は「製造ロット番号を活用し,ロット番号順に出荷する。」で24字。使う情報(製造ロット番号)と出荷の仕方(ロット番号順)を書く。
採点講評(IPA)
設問1では,物流センタの統合によって可能となる管理面の改善について解答を求めた。(1)では,在庫の一元管理に着目した解答が多かったが,この設問では在庫数量の管理面を問うているので,安全在庫数量の削減に結びつけるまでの記述がほしかった。(2)では,新たに業務委託することによって改善できる製造ロット番号による出荷管理について解答を求めたが,在庫情報の即時参照による問合せの改善を解答する例も多く見られた。
設問2(1)
20字以内
業務委託先を B 社ではなく,C 社に決定した理由を,20 字以内で述べよ。
解答例
解説
本文の根拠
〔顧客の要望〕
作業者のスケジュール管理を容易にするために,納品時刻を一定にしてほしい。
〔B 社の提案〕
現状の午前又は午後の時間帯指定の配送は可能であるが,配車担当者のスキルによっては,納品時刻を一定にすることは困難である。
〔C 社の提案〕
配車担当者のスキルによらず,適切な配車計画が作成でき,希望納品時刻どおりの配送が可能である。
〔物流に関する指標について〕
両社の提案では,物流センタの在庫管理と出荷管理の業務内容と受託する料金は同等であった。A 社では,顧客の要望を実現できる C 社の提案を採用することに決めた。
両社の提案は,在庫管理と出荷管理の業務内容も料金も同等で,違いは配送にある。B 社の契約運輸業者は時間帯指定まではできるが,配車担当者のスキルによっては納品時刻を一定にすることが困難である。C 社はトラック配車計画システムによって希望納品時刻どおりの配送ができる。顧客の「納品時刻を一定にしてほしい」という要望を実現できるのが C 社なので,C 社に決めた。
本文の「顧客の要望を実現できる C 社の提案」の「顧客の要望」が何かを,〔顧客の要望〕の箇条から特定するのがこの設問の要である。業務内容と料金が同等であることは,差がつかない点として除外できる。
20字に対し,解答例は「納品時刻を一定にできるから」で13字。理由を問われているので「〜から」で結ぶ。
設問2(2)
検品作業に関する顧客の要望に対応するために,物流品質に関して特に重視すべき指標を答えよ。
解答例
解説
本文の根拠
〔顧客の要望〕
店頭での検品作業を,現物確認ではなく発注伝票と出荷伝票の突合せによる作業にし,作業負荷を軽減したい。
〔物流センタ業務の現状〕
物流センタでは,出荷指示書に基づいて商品を出荷しているが,顧客への納品時に商品の品目や数量が誤っているというクレームを受けることがある。
〔物流に関する指標について〕
C 社と契約を結ぶ際に,物流品質の維持・向上を図るために,欠品,誤納品,メーカ返品などに関する物流指標を決めた。この指標の中でも,顧客の検品作業の改善に関する要望に対応するための指標を,特に重視した。
顧客は検品を現物確認でなく,発注伝票と出荷伝票の突合せだけで済ませたいと望んでいる。伝票の突合せで済ませられるのは,届いた商品の品目と数量が出荷伝票どおりだと信頼できる場合に限られる。今は納品時に品目や数量が誤っているというクレームがあるので,誤納品をなくすことが前提になる。そのため,物流指標のうち誤納品に関するもの,つまり誤納品の発生件数を特に重視する。
講評によると,顧客自身の検品作業時間や出荷伝票の作成時間など,委託先業者では測ることができない情報を答えた例が多かった。設問は「物流品質に関して」の指標を問うており,本文が挙げる「欠品,誤納品,メーカ返品など」の中から選ぶ。
字数制限は無い。解答例は「誤納品の発生件数」。「誤納品」だけでなく,指標として測れる形(発生件数)にして答える。
採点講評(IPA)
設問2(2)では,顧客における検品作業を商品現物の品目と数量を確認する方法から発注伝票と出荷伝票の突合せによる方法に変更するために,出荷時の物流品質を測る指標として誤納品に関する解答を求めたが,顧客自身の検品作業時間や出荷伝票の作成時間など委託先業者では測ることができない情報を解答している例も多く見られた。
設問3(1)
40字以内
メーカの要望にこたえるために行うべきことを,40 字以内で述べよ。
解答例
商品の出荷日付,納入先,製造ロット番号,数量の情報を提供する。
解説
本文の根拠
〔化粧品メーカの要望〕
卸売業者への出荷までの製品情報は管理できているが,卸売業者から小売業者へ出荷した数量などの情報はない。消費者の商品への意識の高まりから,製品に問題が発生した場合には対応を急ぐ必要があるのに,対応範囲が特定できない。
〔B 社の提案〕
商品の出荷管理は,製造ロット番号と出荷日付によって行い,出荷日付,納入先,製造ロット番号,数量の情報を保存する。
化粧品メーカは製品出荷後のトレーサビリティ管理の強化を望んでいる。メーカは卸売業者への出荷までは製造ロット番号で追えるが,卸売業者から小売業者へ出荷した数量などの情報が無いので,問題が起きたときに対応範囲を特定できない。委託先の出荷管理では出荷日付,納入先,製造ロット番号,数量の情報を保存するので,これをメーカに提供すれば,どのロットがどの小売業者にどれだけ渡ったかが分かり,対応範囲を特定できる。
「システムを活用して行うべきこと」なので,委託先のシステムが保存する情報を使うことを答える。メーカが持っていない「小売業者へ出荷した」側の情報であることが要点になる。
40字に対し,解答例は「商品の出荷日付,納入先,製造ロット番号,数量の情報を提供する。」で31字。本文の保存項目をそのまま並べ,「提供する」と行うべきことの形で結ぶ。
設問3(2)
40字以内
顧客からの注文時の要望にこたえるために行うべきことを,40 字以内で述べよ。
解答例
注文を受けた時に商品の在庫状況を確認し,欠品の場合は連絡する。
解説
本文の根拠
〔顧客の要望〕
注文時に欠品が見込まれる場合には,その時に連絡してほしい。
〔A 社の現状〕
販売管理システムと各物流センタの在庫管理システムは連携していないので,現在はオンラインで在庫を確認することはできない。
〔物流業務の見直し〕
また,自社の販売管理システムを改修し,業務委託先の在庫管理システムと接続して在庫情報を即時に参照できることを条件に追加した。
顧客は,注文時に欠品が見込まれるならその時に連絡してほしいと望んでいる。今は販売管理システムと在庫管理システムが連携しておらず,オンラインで在庫を確認できないので,注文の時点では欠品が分からない。見直しでは販売管理システムを委託先の在庫管理システムと接続し,在庫情報を即時に参照できるようにする。これを使って注文を受けた時に在庫状況を確認し,欠品の場合はその場で連絡する。
設問1(2)の講評で誤答として挙げられた「在庫情報の即時参照」は,この設問で使う仕組みである。即時参照そのものではなく,それを使って顧客の要望(注文時の連絡)にどうこたえるかまで書く。
40字に対し,解答例は「注文を受けた時に商品の在庫状況を確認し,欠品の場合は連絡する。」で31字。いつ(注文を受けた時)・何をし(在庫状況の確認)・どうする(欠品なら連絡)の順にまとめる。
出典:平成22年度 秋期 ITストラテジスト試験 午後Ⅰ 問1(表記を一部改変)
問2 エンジンメーカの生産関連のシステムの見直し
エンジンメーカの生産関連のシステムの見直しに関する次の記述を読んで,設問1〜3に答えよ。
〔D 社の概要〕
D 社は,中小型エンジンを生産し,販売しているメーカである。D 社は,標準品となるエンジン本体の型式を設定し,受注すると,標準品の本体に潤滑装置,冷却装置などの付属機器を装着したエンジンを納入している。大量の受注を見込める大手の顧客とは,長期契約を結び,顧客の要求仕様に合わせて,エンジン本体の設計を一部変更して別のエンジン本体を派生させて対応している。
近年,標準品のエンジン本体の型式や付属機器の種類が多くなるにつれ,素材や部品,仕掛品,完成品の在庫が増加してきた。また,エンジンメーカ間の価格競争やサービス競争が激しく,業績を圧迫している。
そこで,D 社では今後,経営環境が更に厳しくなっても耐えられる体質に転換するために,次の経営方針を定めた。
顧客の絞込みによるエンジン本体・付属機器の整理 顧客ニーズを取り入れた品ぞろえによる売上の確保 生産工程の見直しと在庫数の削減によるコスト削減 〔システムの概要〕
D 社では,出荷管理システムと生産関連のシステムを運用している。
大手の顧客とは長期の供給契約を結んでおり,D 社は,顧客が生産計画に基づいて作成した発注予定表を,毎月受け取っている。営業部は,発注予定表に記載された納入予定日時に間に合うように,出荷管理システムに,顧客ごと,エンジン本体ごとの出荷予定日時と出荷予定数を入力する。実際の納入は,出荷予定日の間近になって顧客から受け取る納入指示に基づいて,出荷管理システムに出荷確定日時と出荷確定数を入力し,完成品倉庫に出庫指示を出すことによって行われる。
顧客からの納入指示の数量は,発注予定表の数量と異なることがある。製造部は,発注予定表の数量に基づいて策定された完成品の生産計画数量を,経験によって調整し,生産している。納入指示の数量が完成品倉庫の在庫数よりも多くなり,緊急生産することもある。
生産関連のシステムは,生産計画システム,工程管理システム,在庫管理システムで構成されており,それぞれ次の処理を行っている。
出荷管理システムの情報を基に,出荷予定日における完成品の在庫必要数を決定する。 生産計画の立案時点における完成品の現在庫数及び入出庫予定数を基に,エンジン本体ごとの 3 か月分の生産計画を立案する。 完成品が完成品倉庫に入庫した時点で,完成品の在庫数を更新する。 出荷管理システムからの出庫指示によって出庫した時点で,完成品の在庫数を更新する。 〔顧客との提携についての課題〕
顧客にとっては,調達品の欠品による製造ラインの混乱を防止し,併せて調達費を低減することが重要な経営課題である。トラクタメーカなど幾つかの大手顧客から,“自社の工場内に D 社の製品倉庫を設け,エンジン本体と付属機器をセットにしておき,必要なときに必要な量をこの倉庫から出庫して使用したい”という,部品供給に関する提携が持ちかけられている。
D 社は,営業部と製造部が参加する営業戦略会議を開き,この提携案を検討した。営業部では,“経営方針にもかなっており,顧客との関係がより緊密になるので,会社の収益に大きく寄与する”と考えている。製造部では,“顧客の工場内に設置する製品倉庫の在庫数を正確に把握しておかないと,欠品が生じるおそれがあり,顧客の製造工程に大きな影響を与えかねない”という見解であった。
製造部の主要関係者の意見は,次のとおりであった。
生産計画責任者:顧客の工場内に設置する製品倉庫には,欠品が発生しないと考えられる数量を余分に在庫しておけば,顧客の細かい要求に応じてその都度製造しなくてもよいので,生産面において無駄が省ける。 製品企画責任者:顧客における,製品のモデルチェンジや新製品への切替えに伴って,D 社の生産能力が不足するおそれがある。また,既存製品の生産終了によって,不良在庫や廃棄損失が発生することを想定して,あらかじめエンジン単価にリスク分を上乗せする必要がある。 在庫管理責任者:顧客の発注予定の変更によって,在庫が多くなりすぎたり,旧型品が残ったりするおそれがあるので,エンジン単価に在庫の金利分や廃棄損失分を上乗せする必要がある。 これらの意見に関して営業担当役員は,一部の意見には反対であり,提携の効果を上げるためには,次の課題を克服する必要があると述べた。
顧客から適切な情報を得て,適正な生産能力を保つようにする。 顧客の工場内に設置する製品倉庫の在庫数を適正に保つことができるようにする。 営業戦略会議は,これらの課題を克服することを前提に,大手顧客との部品供給に関する提携を決定した。この決定に基づいて,D 社は,顧客の工場内に設置する製品倉庫の在庫数を正確に把握するために,入出庫管理システムをインストールした独立型の PC を設置し,専任者を置いて入出庫管理を行う予定である。
出題趣旨(IPA)
ITストラテジストには,営業戦略の変更に迅速に対応して,情報システムに求められる機能を特定し,システム化計画を通じて実現していく能力が求められる。本問では,営業戦略の変更に伴う生産関連システムの見直しを題材に,部品の供給方法の変更に伴って考慮すべき必要な情報や機能についての識別能力を評価する。具体的には,経営方針や顧客のねらいと現場の意見とのかい離の内容,部品供給に関する提携の効果を実現するために必要な情報,生産関連のシステムに必要な機能について問う。
採点講評(問全体・IPA)
問2では,営業戦略の変更に伴う生産関連システムの見直しについて出題した。題意と状況設定を十分に理解しきれていない解答があり,全体として得点率は低かった。
ITストラテジストは,経営方針や顧客の経営課題を的確に理解する能力とともに,顧客との新しい連携方法にふさわしい機能と必要な情報をどのようにすれば提供できるのかを分析する能力を高めてほしい。
設問と解答例
設問1(1)
40字以内
D 社における経営方針から,考えられる反対意見を,40 字以内で述べよ。
解答例
顧客の工場内に在庫する数量を多くすると,D社の在庫の削減にはならない。
解説
本文の根拠
〔D 社の概要〕
生産工程の見直しと在庫数の削減によるコスト削減
〔D 社の概要〕
近年,標準品のエンジン本体の型式や付属機器の種類が多くなるにつれ,素材や部品,仕掛品,完成品の在庫が増加してきた。
〔顧客との提携についての課題〕
生産計画責任者:顧客の工場内に設置する製品倉庫には,欠品が発生しないと考えられる数量を余分に在庫しておけば,顧客の細かい要求に応じてその都度製造しなくてもよいので,生産面において無駄が省ける。
D 社は在庫の増加に悩み,経営方針に「生産工程の見直しと在庫数の削減によるコスト削減」を掲げている。ところが生産計画責任者は,顧客の工場内の製品倉庫に余分に在庫しておけばよいと述べている。顧客の工場内に置いても在庫は D 社のものなので,在庫を多くすれば D 社の在庫は減らず,経営方針に反する。営業担当役員が反対したのはこの点と考えられる。
設問は「D 社における経営方針から」と判断の基準を指定している。講評によると,判断基準となる経営方針や経営課題を明記せずに,製造部の主要関係者の主張だけを書いた解答があった。誰のどの意見が,どの方針に反するのかを両方書く。
40字に対し,解答例は「顧客の工場内に在庫する数量を多くすると,D社の在庫の削減にはならない。」で35字。前半で意見の中身(在庫を多くする),後半で方針とのずれ(在庫の削減にならない)を書く。
採点講評(IPA)
設問1は,D社の経営方針や顧客のねらいと現場の意見とのかい離について,解答を求めた。的確に解答できたものが多かったが,判断基準となる経営方針や経営課題を明記せずに,製造部の主要関係者の主張だけを解答しているものがあった。
設問1(2)
40字以内
顧客の観点から,考えられる反対意見を,40 字以内で述べよ。
解答例
エンジン単価を高く設定すると,顧客にとって調達費の低減にならない。
解説
本文の根拠
〔顧客との提携についての課題〕
顧客にとっては,調達品の欠品による製造ラインの混乱を防止し,併せて調達費を低減することが重要な経営課題である。
〔顧客との提携についての課題〕
あらかじめエンジン単価にリスク分を上乗せする必要がある。
〔顧客との提携についての課題〕
エンジン単価に在庫の金利分や廃棄損失分を上乗せする必要がある。
顧客にとって重要な経営課題は,欠品による製造ラインの混乱の防止と,調達費の低減である。一方,製品企画責任者はリスク分を,在庫管理責任者は在庫の金利分や廃棄損失分を,それぞれエンジン単価に上乗せする必要があると述べている。単価を高くすれば顧客の調達費は増え,顧客が提携に求めるねらいに反する。営業担当役員はこの点に反対したと考えられる。
設問1(1)が D 社の経営方針から見た反対意見であるのに対し,この設問は「顧客の観点から」である。顧客の経営課題(調達費の低減)を基準に,二人の責任者に共通する「単価への上乗せ」がそれに反することを示す。
40字に対し,解答例は「エンジン単価を高く設定すると,顧客にとって調達費の低減にならない。」で33字。設問1(1)と同じく,意見の中身と,顧客の課題とのずれの二つを書く。
採点講評(IPA)
設問1は,D社の経営方針や顧客のねらいと現場の意見とのかい離について,解答を求めた。的確に解答できたものが多かったが,判断基準となる経営方針や経営課題を明記せずに,製造部の主要関係者の主張だけを解答しているものがあった。
設問2(1)
30字以内
適正な生産能力を保つために必要な情報を,30 字以内で述べよ。
解答例
解説
本文の根拠
〔顧客との提携についての課題〕
製品企画責任者:顧客における,製品のモデルチェンジや新製品への切替えに伴って,D 社の生産能力が不足するおそれがある。
〔顧客との提携についての課題〕
顧客から適切な情報を得て,適正な生産能力を保つようにする。
生産能力が不足するおそれとして本文が挙げているのは,製品企画責任者の「顧客における,製品のモデルチェンジや新製品への切替えに伴って,D 社の生産能力が不足するおそれがある」である。顧客がいつモデルチェンジし,どんな新製品を出すかを前もって知っていれば,D 社は必要な生産能力を準備できる。そこで,顧客との交渉によってモデルチェンジの予定情報や新製品の開発情報を得る。
営業担当役員の課題「顧客から適切な情報を得て,適正な生産能力を保つようにする」は,製品企画責任者の懸念に対応している。生産能力が足りなくなる原因を本文から探し,その原因を事前に知るための情報を答える。
30字に対し,解答例は「モデルチェンジの予定情報や新製品の開発情報」で21字。本文の「モデルチェンジ」と「新製品」を両方入れる。
採点講評(IPA)
設問2は,部品供給に関する提携の効果を実現するために必要な情報について,解答を求めた。(2)は,システム概要に述べた内容を理解せずに解答したものが多く,正答率が低かった。
設問2(2)
35字以内
顧客の工場内に設置する製品倉庫の在庫数を適正に保つために必要な情報を,35 字以内で述べよ。
解答例
顧客の生産計画が確定した時点の,D社製品の日別出庫数の情報
解説
本文の根拠
〔システムの概要〕
大手の顧客とは長期の供給契約を結んでおり,D 社は,顧客が生産計画に基づいて作成した発注予定表を,毎月受け取っている。
〔システムの概要〕
顧客からの納入指示の数量は,発注予定表の数量と異なることがある。
〔顧客との提携についての課題〕
“自社の工場内に D 社の製品倉庫を設け,エンジン本体と付属機器をセットにしておき,必要なときに必要な量をこの倉庫から出庫して使用したい”
〔顧客との提携についての課題〕
在庫管理責任者:顧客の発注予定の変更によって,在庫が多くなりすぎたり,旧型品が残ったりするおそれがあるので,
今は顧客の生産計画に基づく発注予定表を毎月受け取っているが,実際の納入指示の数量はそれと異なることがある。提携後は顧客が製品倉庫から必要なときに必要な量を出庫するので,D 社が倉庫の在庫を適正に保つには,顧客がいつ何台出庫するかを確かな情報で知る必要がある。予定の段階の情報では変更が起きるので,顧客の生産計画が確定した時点で,D 社製品の日別の出庫数を得る。
講評によると,〔システムの概要〕の内容を理解せずに解答したものが多く,正答率が低かった。発注予定表の数量と納入指示の数量が異なるという記述から,予定ではなく「確定した時点」の情報が要ることを読み取る。また倉庫からの出庫は日々行われるので,月単位ではなく「日別」の出庫数が要る。
35字に対し,解答例は「顧客の生産計画が確定した時点の,D社製品の日別出庫数の情報」で29字。いつの情報か(確定した時点)と何の情報か(日別出庫数)の二つを書く。
採点講評(IPA)
設問2は,部品供給に関する提携の効果を実現するために必要な情報について,解答を求めた。(2)は,システム概要に述べた内容を理解せずに解答したものが多く,正答率が低かった。
設問3
35字以内
顧客の工場内への製品倉庫の設置に当たって,生産計画システムに必要となる機能を,35 字以内で述べよ。
解答例
製品倉庫の入出庫管理システムの在庫数の情報を取り込む機能
解説
本文の根拠
〔システムの概要〕
生産計画の立案時点における完成品の現在庫数及び入出庫予定数を基に,エンジン本体ごとの 3 か月分の生産計画を立案する。
〔システムの概要〕
完成品が完成品倉庫に入庫した時点で,完成品の在庫数を更新する。
〔顧客との提携についての課題〕
この決定に基づいて,D 社は,顧客の工場内に設置する製品倉庫の在庫数を正確に把握するために,入出庫管理システムをインストールした独立型の PC を設置し,専任者を置いて入出庫管理を行う予定である。
生産計画システムは,完成品の現在庫数と入出庫予定数を基に生産計画を立案する。今の在庫管理システムが管理しているのは D 社の完成品倉庫の在庫数だけである。顧客の工場内の製品倉庫の在庫数は,独立型の PC の入出庫管理システムで管理する予定なので,そのままでは生産計画システムに入らない。顧客の工場内の在庫も D 社の在庫なので,生産計画に反映させるには,入出庫管理システムの在庫数の情報を取り込む機能が要る。
講評によると,設問文の“顧客の工場内への製品倉庫の設置”という条件を考慮せず,顧客の生産管理システムとの関係を答えたものが多く,正答率が低かった。製品倉庫の在庫は「独立型の PC」で管理される,という記述が手掛かりになる。独立型なので,連携させる仕組みを生産計画システム側に設ける必要がある。
35字に対し,解答例は「製品倉庫の入出庫管理システムの在庫数の情報を取り込む機能」で28字。どこの(製品倉庫の入出庫管理システムの)何を(在庫数の情報)どうする(取り込む)機能かを書く。
採点講評(IPA)
設問3は,部品の供給方法の変更に伴って考慮すべき必要な情報や機能について,解答を求めた。正答率は低く,設問文の“顧客の工場内への製品倉庫の設置”という条件を考慮せず,顧客の生産管理システムとの関係を解答したものが多かった。
出典:平成22年度 秋期 ITストラテジスト試験 午後Ⅰ 問2(表記を一部改変)
問3 電鉄会社の情報システム子会社における情報技術を活用した新規事業
電鉄会社の情報システム子会社における情報技術を活用した新規事業に関する次の記述を読んで,設問1〜3に答えよ。
〔E 社の概況〕
E 社は,地方都市の電鉄会社グループ内の情報システム子会社で,自社のデータセンタを保有して主に親会社のシステムの運用を行っている。親会社は,この地域の名門企業で,地域の法人の会の会長になっており,地域の企業からコンプライアンス対応など経営手法に関する相談を受けることもある。
E 社は,この親会社のつながりを活用し,約 300 社の約 9 万人分の給与計算処理業務を受託するなど,地域の企業とも取引を行っている。給与計算処理業務の受託は対象とする従業員数がコストに影響するので,従業員 1 名当たりの月額料金を基準として従業員数が多くなるにつれて単価が低減する料金体系になっている。
E 社は,親会社及びグループ企業の間接部門のシステム化を進めてきており,経費精算システム,勤怠管理システム,e ラーニングシステムなどのアプリケーションシステムを構築してきた。どのシステムもグループ内では使いやすいと好評である。これらのシステムの導入前後の事務作業量の変化を分析したところ,トータルコストの削減に効果があった。これらのシステムについて E 社は,機会があれば地域の企業への販売を検討していきたいと考えている。
〔地域の特色〕
E 社が所在する地域は,大地震が周期的に発生することが懸念されており,この電鉄会社グループは地域経済を担う企業として,危機管理マニュアルを整備し,各社員の携帯電話を使って安否確認ができる機能を勤怠管理システムに追加するなどの対応を進めている。この対応によって,危機管理能力が高いということで,地域における電鉄会社グループの評判は向上した。また,携帯電話を双方向に活用することについても前向きな考えが地域に広がった。
この地域は,従業員規模の大きい企業が少なく,大半は 300 名以下である。間接部門やシステム担当のスタッフが不足しており,業務改善も進まない傾向にある。システム化も全体的に遅れており,手作業に頼っていることによって事務の負担は大きいものになっている。各企業の現場は顧客対応に追われ,伝票や帳票の作成が後回しになる傾向がある。勤怠管理でも,出退勤時刻を記載し忘れたまま帳票を提出したり,タイムレコーダの打刻を漏らしたりする従業員が多く,その問合せ及び追記に事務担当者が多くの時間を費やしている。
〔中期事業計画〕
電鉄会社グループでは,次の 3 点を柱とする中期事業計画作成方針が示された。
インフラストラクチャなどの経営資源を有効に活用し,新規事業にチャレンジする。
地域の特性を踏まえた,電鉄会社グループならではのサービスを提供し,地域経済に貢献する。
顧客と社員の接点である現場を重視し,スピード感のある顧客対応を行う。
E 社としても中期事業計画の立案に当たって,E 社の特性やインフラストラクチャを生かした新規事業を立ち上げ,成長の柱にしていくことにした。具体的には,E 社のデータセンタを活用し,ASP の形態で情報システムサービスを提供していく計画である。地域の企業が個別に情報システムの企画・開発・運用を行っていくことに限界を感じているので,この計画は有望と思われる。
企画部は,この計画立案に先立ち,ニーズについて取引先などにヒアリングを行った。これに対する反応は,次のようなものであった。
“システム化が遅れ,事務作業効率の改善が進んでいないので,この点を踏まえたものなら導入したい。”,“新たに費用負担が増加するような話は難しい。事務コスト削減などの効果と,サービス利用料金の全体的なバランスで採用を考えたい。”などの声が広く聞かれた。 給与計算処理業務の委託企業を中心に,勤怠管理システムについての期待が大きかった。 これらの結果から,企画部は,次のような見解をまとめた。
新規事業に相応の規模は期待したいので,勤怠管理システムの ASP 形態でのサービス提供が望ましい。また,勤怠管理システムの ASP 事業を立ち上げることには,幾つかのメリットがあると考えられる。 各企業の職場環境に合わせ,現在使っているタイムレコーダなどからも,出退勤時刻などのデータを勤怠管理システムに入力できるようにすることで,地域の企業にも受け入れやすいようにすることが大切である。 勤怠管理システムの ASP 事業について,料金収入と費用の関係を試算する必要がある。 顧客がどのような料金水準なら利用してくれるかを検討しておくべきである。 初期投資の回収見込みを明らかにする必要がある。そのためには,料金収入を予測する上で,確認すべきことがある。 販売促進については,インターネット広告を利用することが考えられる。しかし,地域の特色,グループ企業の強みなどを生かした販売促進策も必要である。 単に勤怠状況を管理するだけでは競争力が不十分である。当社のマーケットと各社のニーズを踏まえて,より魅力的な商品にするために,顧客から要望があった場合に提供できる機能を,現有の技術を活用して付加することについて検討すべきである。 今後,企画部はシステム開発部と協力し,新規事業について具体化していく予定である。
出題趣旨(IPA)
ITストラテジストには,革新的製品・サービス開発を企画・推進又は支援する業務に従事しうる能力が求められている。この能力は,情報技術を活用した新製品・サービスが注目される状況下で,重要性を増している。本問では,電鉄会社の情報システム子会社における,新規事業としてのASP事業の事業計画策定を題材とし,革新的製品・サービス開発の企画策定に関する実践的能力を評価する。具体的には,新規事業の営業方法や価格設定,付加すべき機能などの検討について問う。
採点講評(問全体・IPA)
問3では,勤怠管理システムのASP形態でのサービス提供による新規事業の事業計画策定について出題した。題意や状況設定はおおむね理解されているようであった。
ITストラテジストは,事業特性を理解した上で,ITを活用したサービス開発を企画し,推進する能力を身につけてほしい。
設問と解答例
設問1(1)
30字以内
既存取引先にこのサービスを提供する場合,システム導入作業を行う上での利点は何か,30 字以内で述べよ。
解答例
解説
本文の根拠
〔E 社の概況〕
E 社は,この親会社のつながりを活用し,約 300 社の約 9 万人分の給与計算処理業務を受託するなど,地域の企業とも取引を行っている。
〔中期事業計画〕
給与計算処理業務の委託企業を中心に,勤怠管理システムについての期待が大きかった。
E 社は既に約 300 社の約 9 万人分の給与計算処理業務を受託している。給与計算を受託している以上,E 社はその企業の従業員のデータを既に保有している。勤怠管理システムを導入するときには従業員の情報を登録する作業が要るが,既存取引先なら保有している従業員データをそのまま利用できるので,導入作業の手間が少なくて済む。
設問は「既存取引先に」「システム導入作業を行う上での」利点と,場面を二重に絞っている。勤怠管理システムに対する期待が給与計算処理業務の委託企業を中心に大きかったことからも,既存取引先として給与計算の委託企業を想定していることが分かる。
30字に対し,解答例は「既に保有している従業員データを利用できる。」で21字。「既に保有している」で既存取引先ならではの点であることを示す。
採点講評(IPA)
設問1では,給与計算処理業務を受託している企業にとって,勤怠管理システムの導入作業をする場合の利点,さらに地域の特色やグループ企業の強みを生かした販売促進方法について解答を求めた。しかし,(2)では,新規事業の販売先が個人ではなく企業であることを見落とした解答も見られた。
設問1(2)
40字以内
インターネット広告に加え,どのような販売促進策を行えばよいか,E 社の特性を踏まえて,具体的に 40 字以内で述べよ。
解答例
地域の法人の会や給与計算受託先などのチャネルを活用して販売を促進する。
解説
本文の根拠
〔E 社の概況〕
親会社は,この地域の名門企業で,地域の法人の会の会長になっており,地域の企業からコンプライアンス対応など経営手法に関する相談を受けることもある。
〔E 社の概況〕
E 社は,この親会社のつながりを活用し,約 300 社の約 9 万人分の給与計算処理業務を受託するなど,地域の企業とも取引を行っている。
〔中期事業計画〕
販売促進については,インターネット広告を利用することが考えられる。しかし,地域の特色,グループ企業の強みなどを生かした販売促進策も必要である。
企画部は,インターネット広告に加えて,地域の特色やグループ企業の強みを生かした販売促進策が必要だとしている。E 社の強みは,親会社が地域の法人の会の会長であることと,親会社のつながりを活用して約 300 社の給与計算処理業務を受託していることである。この地域の法人の会や給与計算受託先といった既にある接点(チャネル)を使って販売を促進する。
講評によると,新規事業の販売先が個人ではなく企業であることを見落とした解答も見られた。勤怠管理システムの ASP は企業向けのサービスなので,企業に届くチャネルを答える必要がある。設問の「E 社の特性を踏まえて」は,親会社とのつながりと,既存の取引関係を指している。
40字に対し,解答例は「地域の法人の会や給与計算受託先などのチャネルを活用して販売を促進する。」で35字。本文にある具体的な接点を二つ挙げ,「具体的に」という指示にこたえる。
採点講評(IPA)
設問1では,給与計算処理業務を受託している企業にとって,勤怠管理システムの導入作業をする場合の利点,さらに地域の特色やグループ企業の強みを生かした販売促進方法について解答を求めた。しかし,(2)では,新規事業の販売先が個人ではなく企業であることを見落とした解答も見られた。
設問2(1)
30字以内
顧客が利用してくれると予想できる料金水準とはどのようなものか,30 字以内で述べよ。
解答例
解説
本文の根拠
〔中期事業計画〕
“新たに費用負担が増加するような話は難しい。事務コスト削減などの効果と,サービス利用料金の全体的なバランスで採用を考えたい。”
〔中期事業計画〕
顧客がどのような料金水準なら利用してくれるかを検討しておくべきである。
ヒアリングでは「新たに費用負担が増加するような話は難しい」「事務コスト削減などの効果と,サービス利用料金の全体的なバランスで採用を考えたい」という声が広く聞かれた。顧客は,勤怠管理業務の事務コストがどれだけ下がるかと料金とを比べて判断する。費用負担を増やさずに採用してもらうには,料金がコスト削減効果より安い必要がある。
E 社のグループ内では,システムの導入前後でトータルコストの削減に効果があったと分析されている。その効果の範囲内に料金を収めることが,顧客が利用してくれる水準になる。
30字に対し,解答例は「勤怠管理業務のコスト削減効果より安い料金」で20字。何と比べて(勤怠管理業務のコスト削減効果)どうか(より安い)を書く。
採点講評(IPA)
設問2では,価格や投資回収に関する解答を求めた。(2)では本文に記載された“料金収入を予測する上で確認すべきこと”という記述を読み飛ばしたような解答も多く見られた。
設問2(2)
15字以内
何年で初期投資を回収できるかを予測するために,確認すべき情報項目を,15 字以内で述べよ。
解答例
解説
本文の根拠
〔E 社の概況〕
給与計算処理業務の受託は対象とする従業員数がコストに影響するので,従業員 1 名当たりの月額料金を基準として従業員数が多くなるにつれて単価が低減する料金体系になっている。
〔中期事業計画〕
初期投資の回収見込みを明らかにする必要がある。そのためには,料金収入を予測する上で,確認すべきことがある。
初期投資を何年で回収できるかは,毎年の料金収入で決まる。E 社の給与計算処理業務の料金は従業員 1 名当たりの月額料金を基準としており,勤怠管理システムも従業員ごとに使うものなので,料金収入はサービスの対象となる従業員数によって決まる。そこで,サービス対象従業員数を確認する。
講評によると,本文に記載された“料金収入を予測する上で確認すべきこと”という記述を読み飛ばしたような解答も多く見られた。設問の「何年で初期投資を回収できるか」は,本文では料金収入の予測につながっている。料金収入を左右する項目を,〔E 社の概況〕の料金体系から読み取る。
15字に対し,解答例は「サービス対象従業員数」で10字。情報項目を問われているので,名詞で答える。
採点講評(IPA)
設問2では,価格や投資回収に関する解答を求めた。(2)では本文に記載された“料金収入を予測する上で確認すべきこと”という記述を読み飛ばしたような解答も多く見られた。
設問3(1)
30字以内
事務負担の軽減の観点から,30 字以内で述べよ。
解答例
勤怠管理システムと連携した出退勤時刻未入力者への問合せ機能
解説
本文の根拠
〔地域の特色〕
勤怠管理でも,出退勤時刻を記載し忘れたまま帳票を提出したり,タイムレコーダの打刻を漏らしたりする従業員が多く,その問合せ及び追記に事務担当者が多くの時間を費やしている。
〔中期事業計画〕
各企業の職場環境に合わせ,現在使っているタイムレコーダなどからも,出退勤時刻などのデータを勤怠管理システムに入力できるようにすることで,地域の企業にも受け入れやすいようにすることが大切である。
地域の企業では,出退勤時刻の記載し忘れやタイムレコーダの打刻漏れが多く,事務担当者がその問合せと追記に多くの時間を費やしている。勤怠管理システムにタイムレコーダなどから出退勤時刻を入力できるようにすれば,未入力の従業員をシステムで見つけられる。その従業員に問い合わせる機能を勤怠管理システムと連携して付ければ,事務担当者の問合せの負担が軽くなる。
講評によると,タイムレコーダの打刻漏れに伴う事務負担の記述を考慮し忘れた解答も多く見られた。「事務負担の軽減」という観点で,本文の事務負担がどこで生じているか(問合せ及び追記)を探すのが手掛かりになる。
30字に対し,解答例は「勤怠管理システムと連携した出退勤時刻未入力者への問合せ機能」で29字。誰に(出退勤時刻未入力者)何をする(問合せ)機能かを書く。
採点講評(IPA)
設問3では,付加すべき機能について解答を求めた。(1)では,タイムレコーダの打刻漏れに伴う事務負担の記述を考慮し忘れた解答も多く見られた。
設問3(2)
15字以内
危機管理の強化の観点から,15 字以内で述べよ。
解答例
解説
本文の根拠
〔地域の特色〕
E 社が所在する地域は,大地震が周期的に発生することが懸念されており,この電鉄会社グループは地域経済を担う企業として,危機管理マニュアルを整備し,各社員の携帯電話を使って安否確認ができる機能を勤怠管理システムに追加するなどの対応を進めている。
〔地域の特色〕
この対応によって,危機管理能力が高いということで,地域における電鉄会社グループの評判は向上した。
地域では大地震の周期的な発生が懸念されている。電鉄会社グループは,各社員の携帯電話を使って安否確認ができる機能を勤怠管理システムに追加しており,危機管理能力が高いと地域で評判になっている。この機能は E 社が既に勤怠管理システムに持っている「現有の技術」なので,顧客の要望があれば ASP の勤怠管理システムにも付加できる。
設問の「現有の技術を活用して」は,グループ内で既に作った機能を指す。本文の「携帯電話を双方向に活用することについても前向きな考えが地域に広がった」も,地域の企業がこの機能を受け入れやすいことを示している。
15字に対し,解答例は「安否確認ができる機能」で10字。本文の「安否確認ができる機能」をそのまま使う。
出典:平成22年度 秋期 ITストラテジスト試験 午後Ⅰ 問3(表記を一部改変)
問4 電機メーカの事業展開
電機メーカの事業展開に関する次の記述を読んで,設問1〜3に答えよ。
〔F 社の現状〕
F 社は,家庭用電化製品,太陽光発電装置,電力会社向け電気機器の開発・製造・販売を行っている電機メーカである。環境保護の気運が高まるにつれ,ここ数年,F 社における太陽光発電装置の売上が伸びている。
F 社は,近い将来スマートグリッドと呼ばれる電力網全体を制御するシステムが実現されると考え,スマートグリッドに関する製品戦略を検討した。その結果,電力を利用する企業,工場,一般家庭など(以下,これらを総称して需要家という)に設置される高機能型電力メータ(以下,スマートメータという),及び需要家向けの蓄電機能を備えた太陽光発電システムを,他社に先駆けて開発し,業績を伸ばす方針を打ち出した。
〔スマートグリッドの概要〕
スマートグリッドは,情報通信技術を用い,太陽光発電などの分散型電源や需要家の情報を統合して活用することによって,電力の需給バランスを制御し,高効率,高品質,高信頼度の電力供給システムの実現を目指すものと考えられている。
スマートグリッドを実現するためには,分散型電源に蓄電池を組み合わせたシステムを用いて発電の急激な電力変動を平準化する技術の開発と,スマートメータを活用して電力網全体のバランスを追随制御する技術の開発が,それぞれ重要と考えられている。
〔スマートメータの概要〕
スマートメータは,需要家側の発電状況や家庭用電化製品などの電力使用状況を電力会社へ送信したり,電力会社から制御情報を受信して需要家側からの電力の送電量を制御したりする機能をもっている。
〔国内外における電力事情の調査結果〕
F 社は,スマートグリッドを視野に入れたスマートメータ開発の観点から,国内外の電力事情の調査を行った。その結果,次のような電力事情が判明した。
諸外国と比べて,電力安定供給について厳しい運用が求められている。 気象条件,生活様式,産業構造などによって,季節ごと及び時間ごとに電力需要が大きく変化する。 スマートグリッドを,近未来の技術として取組みを進めている段階であり,エネルギーの運用効率向上及び環境保護の両面から,大きな期待が寄せられている。 電力供給の信頼性が日本に比べて低く,停電が多発している国がある。こうした国では,停電範囲の拡大を防止する制御技術,及び電力供給が復旧するまでの電力自給(代替電力・蓄電)技術が求められている。 太陽光発電,風力発電などを推進している国では,発電量を監視し,蓄電池への充電量を制御することによって,不安定な電力供給を安定させる技術が求められている。 スマートグリッドにおけるスマートメータに関する通信手順の標準規格化に注力している国がある。 各国のメーカは,スマートグリッドに関連する特許取得を始めている。 〔スマートメータに関連するヒアリング結果〕
F 社では,国内の電力会社,需要家に対して,スマートメータに関連するヒアリングを実施した。その結果から,電力会社の抱える問題,需要家の要望を次のように整理した。
太陽光発電及び風力発電による電力量は,気象条件によって大きく変動するので,大量に導入されるようになると,電力網全体の需給バランスの変動が大きくなる。電力会社は,その変動に適応できなくなると,電力の安定供給に支障を来すおそれがあると考えている。 電気自動車が普及し,一斉に充電を開始すると,電力の安定供給に支障を来すおそれがある。 時間帯によって電力の売買単価が異なる時間別料金制度となっているので,電力が高いときに売り,安いときに買うなどの,経済的な電力売買のスケジューリングを行いたい。 外出先から,自宅の家庭用電化製品の運転状況が分かるようになれば便利である。また,外出先から,消し忘れた家庭用電化製品の電源を切ることができれば,より安全性を高めることができる。 〔製品戦略会議〕
F 社では,スマートメータ及び蓄電機能を備えた太陽光発電システムを開発し,業績を伸ばすという方針の下,製品戦略会議を開くことにした。製品戦略会議に先立ち,これまで電力事情調査,ヒアリングなどで把握した状況を,次のように整理した。
太陽光発電装置と組み合わせる蓄電池には,蓄電・放電の特性,蓄電容量,設置環境,性能保証期間,安全性など,太陽光発電システムに適した仕様が必要である。 F 社は蓄電池の技術をもっていないので,自社開発及び製造を行うには,基盤技術及び製造設備を整えるための膨大な時間,並びに設備投資が必要である。 スマートグリッドの進展によって,蓄電池の市場規模が拡大し,先行メーカがしのぎを削る市場となることが想定される。 住宅の新築・改築に合わせて太陽光発電システムを導入する例が多く,今後 30 年程度の間に緩やかに普及すると考えられる。 電力会社及び家庭用電化製品との通信手順は,標準化されても時代とともに変化するので,通信手順の更新が必要となる。 通信手順の移行期間中は,古い通信手順の家庭用電化製品とも通信しなくてはならない時期がある。 製品戦略会議の結果,F 社は,太陽光発電システムと組み合わせる蓄電池については,大手電池メーカと技術提携し,専用品として調達することにした。
出題趣旨(IPA)
ITストラテジストには,社会的要請や関連技術動向などを分析し,競争力のある製品を企画・提案する能力が求められる。本問では,次世代の高機能型電力メータであるスマートメータと蓄電機能を付加した太陽光発電システムを題材に,社会的要請や自社の保有技術を整理し,新たな製品を企画・提案する能力を評価する。具体的には,機能の整理,事業展開に関する課題の把握,他社との技術提携の検討について問う。
採点講評(問全体・IPA)
問4では,スマートグリッドという新規性の高い技術への取組みに対する電機メーカの事業展開について出題した。題意や状況設定はおおむね理解されているようであった。
ITストラテジストは,近い将来を視野に入れた新しい技術の動向と,その技術が社会に与えるインパクトなどを理解した上で,企業の事業方針や保有技術などを考慮した製品戦略を策定し,推進する能力を身につけてほしい。
設問と解答例
設問1(1)(a)
解答欄2つ
需要家の要望を実現するための機能を二つ挙げ,それぞれ 20 字以内で述べよ。
解説
本文の根拠
〔スマートメータに関連するヒアリング結果〕(2) 需要家の要望
時間帯によって電力の売買単価が異なる時間別料金制度となっているので,電力が高いときに売り,安いときに買うなどの,経済的な電力売買のスケジューリングを行いたい。
〔スマートメータに関連するヒアリング結果〕(2) 需要家の要望
外出先から,自宅の家庭用電化製品の運転状況が分かるようになれば便利である。また,外出先から,消し忘れた家庭用電化製品の電源を切ることができれば,より安全性を高めることができる。
需要家の要望はヒアリング結果の(2)に二つ挙がっている。一つは,時間別料金制度の下で電力が高いときに売り,安いときに買う「経済的な電力売買のスケジューリング」である。もう一つは,外出先から家庭用電化製品の運転状況を知り(監視),消し忘れた製品の電源を切る(制御)ことである。これらを実現する機能をスマートメータに持たせる。
二つ目の要望は「運転状況が分かる」と「電源を切る」の二つの文に分かれているが,まとめて外出先からの監視と制御の機能になる。講評によると,(1)は要求仕様の理解度が高かった。
各20字に対し,解答例は①「経済的な電力売買のスケジューリング」17字,②「外出先からの家庭用電化製品の監視制御」18字。本文の言葉を使い,機能の名前の形にまとめる。
採点講評(IPA)
設問1では,スマートメータの機能について解答を求めた。(1)では,要求仕様の理解度は高かったが,(2)では,需要家からの入力情報の流れを理解できていないと思われる解答も見られた。
設問1(1)(b)
解答欄2つ
通信機能に求められる要件を二つ挙げ,それぞれ 20 字以内で述べよ。
解説
本文の根拠
〔製品戦略会議〕(3) スマートメータのもつ通信手順
電力会社及び家庭用電化製品との通信手順は,標準化されても時代とともに変化するので,通信手順の更新が必要となる。
〔製品戦略会議〕(3) スマートメータのもつ通信手順
通信手順の移行期間中は,古い通信手順の家庭用電化製品とも通信しなくてはならない時期がある。
スマートメータの通信手順について,本文は二つの状況を挙げている。通信手順は標準化されても時代とともに変化するので,通信手順の更新が必要になる。また移行期間中は,古い通信手順の家庭用電化製品とも通信しなくてはならない。前者からは通信手順を更新できること,後者からは新旧の複数の通信手順に対応できることが,通信機能の要件になる。
〔製品戦略会議〕の(3)の二つの箇条が,それぞれ一つの要件に対応している。状況(〜が必要となる,〜時期がある)を,スマートメータの要件(〜を可能とすること)に言い換える。
各20字に対し,解答例は①「通信手順の更新を可能とすること」15字,②「複数の通信手順に対応可能とすること」17字。要件なので「〜を可能とすること」の形にそろえる。
採点講評(IPA)
設問1では,スマートメータの機能について解答を求めた。(1)では,要求仕様の理解度は高かったが,(2)では,需要家からの入力情報の流れを理解できていないと思われる解答も見られた。
設問1(2)
解答欄2つ
スマートメータに対する需要家側からの入力情報を二つ挙げ,それぞれ 20 字以内で述べよ。
解説
本文の根拠
〔スマートメータの概要〕
スマートメータは,需要家側の発電状況や家庭用電化製品などの電力使用状況を電力会社へ送信したり,電力会社から制御情報を受信して需要家側からの電力の送電量を制御したりする機能をもっている。
〔F 社の現状〕
環境保護の気運が高まるにつれ,ここ数年,F 社における太陽光発電装置の売上が伸びている。
スマートメータは,需要家側の発電状況と,家庭用電化製品などの電力使用状況を電力会社へ送信する。送信するためには,これらの情報が需要家側からスマートメータに入力されなければならない。需要家側で発電するのは太陽光発電装置なので,その発電出力の情報と,家庭用電化製品の電力使用の情報の二つが入力情報になる。
講評によると,(2)では需要家からの入力情報の流れを理解できていないと思われる解答も見られた。電力会社から受信する制御情報は需要家側からの入力ではない。情報が需要家側→スマートメータ→電力会社と流れる向きを押さえて,〔スマートメータの概要〕の送信内容から答える。
各20字に対し,解答例は①「太陽光発電装置の発電出力情報」14字,②「家庭用電化製品の電力使用情報」14字。どの機器の(太陽光発電装置,家庭用電化製品)何の情報か(発電出力,電力使用)を書く。
採点講評(IPA)
設問1では,スマートメータの機能について解答を求めた。(1)では,要求仕様の理解度は高かったが,(2)では,需要家からの入力情報の流れを理解できていないと思われる解答も見られた。
設問2
解答欄2つ
スマートグリッドが海外で進展することは,スマートメータのビジネスチャンスになると F 社は考えた。特に海外向けのスマートメータを開発するに当たり,注意すべき課題を二つ挙げ,それぞれ 20 字以内で述べよ。
解説
本文の根拠
〔国内外における電力事情の調査結果〕(2) 海外の電力事情
スマートグリッドにおけるスマートメータに関する通信手順の標準規格化に注力している国がある。
〔国内外における電力事情の調査結果〕(2) 海外の電力事情
電力供給の信頼性が日本に比べて低く,停電が多発している国がある。こうした国では,停電範囲の拡大を防止する制御技術,及び電力供給が復旧するまでの電力自給(代替電力・蓄電)技術が求められている。
〔国内外における電力事情の調査結果〕(2) 海外の電力事情
太陽光発電,風力発電などを推進している国では,発電量を監視し,蓄電池への充電量を制御することによって,不安定な電力供給を安定させる技術が求められている。
海外の電力事情として,通信手順の標準規格化に注力している国があることが挙がっている。海外向けのスマートメータは,その国の標準規格に沿わなければ使えないので,標準規格化の動きを踏まえて開発することが課題になる。また,停電が多発している国では停電範囲の拡大防止や電力自給の技術が,太陽光・風力発電を推進している国では電力供給を安定させる技術が求められており,国によって求められるものが違う。こうした多様なニーズに適応できることがもう一つの課題になる。
講評によると,正答率は高かったが,特に海外向けの製品としての課題ではなく,単にスマートメータの基本機能を示した解答も一部に見られた。〔国内外における電力事情の調査結果〕の(1)国内と(2)海外を比べ,海外にだけある事情から課題を引き出す。
各20字に対し,解答例は①「通信手順の標準規格化を踏まえた開発」17字,②「多様なニーズに対する適応能力」14字。②は個々の国の要求を並べるのではなく,国ごとに違うこと自体を「多様なニーズ」とまとめる。
採点講評(IPA)
設問2では,海外向けのスマートメータの開発に当たり注意すべき課題について解答を求めた。正答率は高かったが,特に海外向けの製品としての課題ではなく,単にスマートメータの基本機能を示した解答も一部に見られた。
設問3
40字以内
太陽光発電システムと組み合わせる蓄電池を,市場から汎用品として購入するのではなく,大手電池メーカと技術提携し,専用品として調達することにした技術上の利点を,40 字以内で述べよ。
解答例
電池メーカの製品戦略を太陽光発電システムの設計に生かすことができる。
解説
本文の根拠
〔製品戦略会議〕(1) 蓄電池
太陽光発電装置と組み合わせる蓄電池には,蓄電・放電の特性,蓄電容量,設置環境,性能保証期間,安全性など,太陽光発電システムに適した仕様が必要である。
〔製品戦略会議〕(1) 蓄電池
F 社は蓄電池の技術をもっていないので,自社開発及び製造を行うには,基盤技術及び製造設備を整えるための膨大な時間,並びに設備投資が必要である。
〔製品戦略会議〕(1) 蓄電池
スマートグリッドの進展によって,蓄電池の市場規模が拡大し,先行メーカがしのぎを削る市場となることが想定される。
太陽光発電システムと組み合わせる蓄電池には,太陽光発電システムに適した仕様が必要である。F 社は蓄電池の技術をもっておらず,蓄電池の市場は先行メーカがしのぎを削る市場になると想定されている。汎用品を市場から買うだけでは,電池メーカが今後どのような蓄電池を出していくかを設計に取り込めない。大手電池メーカと技術提携すれば,電池メーカの製品戦略を知った上で,それを太陽光発電システムの設計に生かすことができる。
講評によると,汎用品との比較を考慮していない解答も一部に見られた。設問は「汎用品として購入するのではなく」と比較の相手を示しているので,汎用品の購入ではできず,技術提携だからできることを答える。また「技術上の」利点に限っているので,費用や調達期間の利点ではなく,設計に関わる利点を書く。
40字に対し,解答例は「電池メーカの製品戦略を太陽光発電システムの設計に生かすことができる。」で34字。何を(電池メーカの製品戦略)どこに(太陽光発電システムの設計)生かすかを書く。
採点講評(IPA)
設問3では,製品の主要部品を大手電池メーカとの技術提携による専用品とする技術上の利点について解答を求めたが,汎用品との比較を考慮していない解答も一部に見られた。
出典:平成22年度 秋期 ITストラテジスト試験 午後Ⅰ 問4(表記を一部改変)
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