平成25年度 秋期に実施されたITストラテジスト試験
午後Ⅰの全4問(記述式)です。事例本文・設問・解答例と解説をそのまま読めます。
この試験について:ITストラテジスト試験について
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問1 地方自治体による自転車シェアリング事業の展開
地方自治体による自転車シェアリング事業の展開に関する次の記述を読んで,設問1〜3に答えよ。
A 市は,歴史的な町並みの保存と併せて,中心市街地の区画整理,道路の拡幅,自転車専用レーンの設置,及び中心市街地の周辺地区にある複数の駐車場の整備を行ってきた。しかし,これらの取組みにもかかわらず,A 市では,通勤者・買物客・レジャー施設利用客の自家用車での中心市街地への乗入れ,又は観光名所などへの観光バス・自家用車の集中によって,道路は慢性的に交通渋滞に陥っている。また,路上の放置自転車も交通の大きな妨げになっている。
〔自転車シェアリング事業計画の概要〕
A 市は,穏やかな気候に恵まれ,一年中,自転車の利用が可能であることから,誰でも自由に利用できる自転車(以下,共有自転車という)を配置し,市街地交通に活用する方針を定めた。放置自転車対策及び中心市街地・観光名所周辺の交通渋滞対策として,自転車シェアリング事業を展開することにした。自転車シェアリング事業計画の概要は,次のとおりである。
バスターミナル及び中心市街地の周辺地区の各駐車場に,共有自転車の保管場所(以下,駐輪ステーションという)を設けて,そこから共有自転車を借り出して利用できるようにする。 中心市街地の要所要所に駐輪ステーションを設け,利用者は,借り出した場所とは別の駐輪ステーションに共有自転車を返却することもできる。 観光客向けに,観光名所の集客施設に駐輪ステーションを設置する。 自転車シェアリングの利用を促進するために,バスターミナル,観光名所の集客施設などに,案内板を設置するなどして周知する。 駐輪ステーションがどこにあるのか分かるように,スマートフォン向け Web サイトを開設し,地図を掲載する。この Web サイトには,観光名所,おすすめのサイクリングコースなど,利用者から投稿された情報も掲載する。 〔自転車シェアリング事業の社会実験〕
国内では,自転車シェアリング事業について先行した取組み例が少なく,期待した効果が得られるかどうか分からない。そこで A 市は,本格的な事業展開に先立ち,民間事業者(以下,事業運営者という)と共同して社会実験を行った。
駐輪ステーションには,共有自転車の前輪をロックする装置(以下,自動ロック装置という)複数台と,自動精算機 1 台を設置する。 利用者は,市役所に設けられた利用登録窓口で,住所・氏名・電話番号を届け出て利用者登録を行い,利用者カードを受け取る。 共有自転車を借りるときは,自動精算機に利用者カードをかざして登録データを読み込ませ,利用料金を投入して,自動ロック装置から共有自転車を引き出す。返却するときは,空いている自動ロック装置に押し込む。返却が完了したら,利用者は,新たな借り出しが可能になる。 事業運営者は,共有自転車が特定の駐輪ステーションに偏在しないように,駐輪ステーションを回って集配作業を行う。 事業運営者は,自動精算機に投入された現金を回収し,釣銭を補充する。 〔社会実験の結果と課題〕
社会実験の結果から,自転車シェアリング事業は,交通渋滞の緩和に寄与していることが確認できた。また,次の利用状況と本格的な事業展開に向けての課題を確認できた。
利用者の行動特性:中心市街地の商店街と観光名所近辺において,利用者の行動圏の拡大という現象が見られたことから,地域経済の活性化につながる可能性がある。 企業の利用:企業の従業員が,得意先まわり,商談など業務目的で利用する例がある。 観光客の利用:観光客は,利用登録方法と利用登録窓口の場所を知らなかったり,自転車シェアリングに不慣れであったりするので,利用件数が伸びない。特に,バスターミナルと観光名所の集客施設では,観光客からの問合せが多い。また,Web サイトに投稿された情報の場所について,経路や所要時間などの問合せもある。 駐輪ステーションの利用:中心市街地の周辺地区にある駐車場の駐輪ステーションでは,平日の朝は郊外からの通勤者への貸出しで共有自転車が不足し,夕方は返却された共有自転車で満杯になってしまうことがある。その際に,最寄りの駐輪ステーションに回って返却する利用者もいる。一方,日中(9:00〜17:00)は,全般的にどの駐輪ステーションも朝夕に比べて利用者が少ない。 駐輪ステーションで,共有自転車が出払ってしまっていたり,満杯で返却できなかったりして,別の駐輪ステーションに回る利用者もいるので,利用者への駐輪ステーションの情報提供の方法の見直しも併せて,何らかの対策が必要である。 自動精算機に投入された現金の取扱業務は,金銭トラブルの発生リスクを伴うので,クレジットカード又は交通系 IC カード(以下,この二つを決済用カードという)の利用を考慮すべきである。 朝に貸出しがピークとなる駐輪ステーションでは,自動精算機に長い待ち行列ができる。決済用カードで貸出処理に要する時間を短縮できれば,待ち行列の緩和が期待できる。 日中の利用者を増やしたい。そのためには,パッケージツアーを販売する旅行業者と提携し,観光客の利用を増やす必要がある。また,Web サイトに投稿された情報の活用方法の検討と企業への働きかけも必要である。 〔今後の取組み〕
自転車シェアリング事業は,事業収益が見込め,交通渋滞の緩和,地域経済の活性化及び市民生活の向上に寄与できることが分かった。そこで A 市は,次の 3 点に留意して,本格的に事業を展開することにした。
事業運営収入を高める。 事業運営の効率を高める。 利用者の利便性を高める。
出題趣旨(IPA)
ITストラテジストは,事業を展開するに当たって,事業運営収入の向上策,事業運営効率の向上策,利用者の利便性の向上策について,もてる能力を発揮する必要がある。本問では,自治体が展開する自転車シェアリング事業における,ITを活用した業務モデルの構想力について評価する。具体的には,①事業運営収入を高めるための企業や観光客に対する利用促進策,②事業運営の効率を高めるために,貸出処理の迅速化に必要な機能や共有自転車の配置数の決定に必要な情報,③利用者の利便性を高めるために,スマートフォン向けに提供すべきサービスについて問う。
採点講評(問全体・IPA)
問1では,地方自治体による自転車シェアリング事業の展開について出題した。全体としては正答率が高く,状況設定は,おおむね理解されているようであった。
ITストラテジストは,システムが必要とする機能や情報について,気を配る姿勢をもつようにしてほしい。
設問と解答例
設問1(1)
15字以内
企業に対して働きかける内容を,15 字以内で述べよ。
解答例
解説
本文の根拠
〔社会実験の結果と課題〕1. 利用状況
企業の利用:企業の従業員が,得意先まわり,商談など業務目的で利用する例がある。
〔社会実験の結果と課題〕2.(2) 事業運営者の認識
日中の利用者を増やしたい。そのためには,パッケージツアーを販売する旅行業者と提携し,観光客の利用を増やす必要がある。また,Web サイトに投稿された情報の活用方法の検討と企業への働きかけも必要である。
〔社会実験の結果と課題〕1. 利用状況
一方,日中(9:00〜17:00)は,全般的にどの駐輪ステーションも朝夕に比べて利用者が少ない。
事業運営収入を高めるには,利用の少ない時間帯に利用者を増やすのが近道である。社会実験では,日中(9:00〜17:00)はどの駐輪ステーションも朝夕に比べて利用者が少なく,事業運営者も「日中の利用者を増やしたい」と認識している。
企業については,社会実験で「企業の従業員が,得意先まわり,商談など業務目的で利用する例がある」ことが分かっている。得意先まわりや商談は日中に行われるので,この業務目的の利用を企業に広げてもらえば,空いている日中の共有自転車が稼働し,収入が増える。事業運営者の認識にある「企業への働きかけも必要」は,この業務目的での利用を促すことを指している。
15字に対し,解答例は「業務目的での利用の促進」で11字。働きかける相手が企業なので,「何のための利用か」(業務目的)と「何をするか」(利用の促進)を短く書けば足りる。
設問1(2)
解答欄2つ
観光客の利用を促進するための具体的な方策を二つ挙げ,それぞれ 40 字以内で述べよ。
〔①〕解答例
常設の利用登録窓口を,バスターミナルと観光名所の集客施設に設ける。
〔②〕解答例
旅行業者と提携し,自転車シェアリングの利用を推奨してもらう。
解説
本文の根拠
〔社会実験の結果と課題〕1. 利用状況
観光客の利用:観光客は,利用登録方法と利用登録窓口の場所を知らなかったり,自転車シェアリングに不慣れであったりするので,利用件数が伸びない。特に,バスターミナルと観光名所の集客施設では,観光客からの問合せが多い。
〔自転車シェアリング事業の社会実験〕
利用者は,市役所に設けられた利用登録窓口で,住所・氏名・電話番号を届け出て利用者登録を行い,利用者カードを受け取る。
〔社会実験の結果と課題〕2.(2) 事業運営者の認識
日中の利用者を増やしたい。そのためには,パッケージツアーを販売する旅行業者と提携し,観光客の利用を増やす必要がある。
観光客の利用件数が伸びない理由として,本文は「利用登録方法と利用登録窓口の場所を知らなかったり,自転車シェアリングに不慣れであったりする」ことを挙げている。この二つの理由をそれぞれ取り除く方策を考える。
一つ目は登録の場所の問題である。社会実験では利用登録窓口が市役所にしかなく,観光客には分かりにくい。一方で観光客からの問合せはバスターミナルと観光名所の集客施設に多いので,そこに常設の利用登録窓口を設ければ,観光客がその場で登録して借りられる。二つ目は不慣れの問題である。事業運営者が「パッケージツアーを販売する旅行業者と提携し,観光客の利用を増やす必要がある」と認識しているとおり,旅行業者と提携してツアーの中で自転車シェアリングを勧めてもらえば,観光客に利用のきっかけを与えられる。
40字に対し,解答例は①「常設の利用登録窓口を,バスターミナルと観光名所の集客施設に設ける。」で33字,②「旅行業者と提携し,自転車シェアリングの利用を推奨してもらう。」で30字。①は「何を」「どこに」を,②は「誰と組んで」「何をしてもらうか」を入れて具体的な方策にする。
設問2(1)
25字以内
駐輪ステーションにおける,利用者への貸出処理を迅速にするために必要な機能を,25 字以内で述べよ。
解答例
解説
本文の根拠
〔社会実験の結果と課題〕2.(2) 事業運営者の認識
朝に貸出しがピークとなる駐輪ステーションでは,自動精算機に長い待ち行列ができる。決済用カードで貸出処理に要する時間を短縮できれば,待ち行列の緩和が期待できる。
〔社会実験の結果と課題〕2.(1) A 市の認識
自動精算機に投入された現金の取扱業務は,金銭トラブルの発生リスクを伴うので,クレジットカード又は交通系 IC カード(以下,この二つを決済用カードという)の利用を考慮すべきである。
社会実験の貸出しは,自動精算機に利用者カードをかざし,利用料金(現金)を投入してから共有自転車を引き出す手順だった。朝のピークには自動精算機に長い待ち行列ができる。
事業運営者は「決済用カードで貸出処理に要する時間を短縮できれば,待ち行列の緩和が期待できる」と認識しており,A 市も現金の取扱いによる金銭トラブルのリスクから決済用カードの利用を考慮すべきとしている。したがって,自動精算機で決済用カードによる貸出処理ができるようにする機能が必要になる。現金の回収や釣銭の補充の手間も減るので,事業運営の効率を高めるという施策の趣旨にも合う。
25字に対し,解答例は「自動精算機での決済用カードによる貸出処理」で20字。「どこで」(自動精算機)「何を使って」(決済用カード)「何をするか」(貸出処理)を入れる。
設問2(2)
40字以内
駐輪ステーションの利用状況を考慮して共有自転車の配置数を決めるために必要な情報を,40 字以内で述べよ。
解答例
駐輪ステーション・曜日・時間帯ごとの共有自転車の貸出と返却の台数
解説
本文の根拠
〔社会実験の結果と課題〕1. 利用状況
駐輪ステーションの利用:中心市街地の周辺地区にある駐車場の駐輪ステーションでは,平日の朝は郊外からの通勤者への貸出しで共有自転車が不足し,夕方は返却された共有自転車で満杯になってしまうことがある。
〔社会実験の結果と課題〕1. 利用状況
一方,日中(9:00〜17:00)は,全般的にどの駐輪ステーションも朝夕に比べて利用者が少ない。
〔自転車シェアリング事業の社会実験〕
事業運営者は,共有自転車が特定の駐輪ステーションに偏在しないように,駐輪ステーションを回って集配作業を行う。
共有自転車の過不足は,駐輪ステーションの場所,曜日(平日かどうか),時間帯(朝・日中・夕方)によって違う。本文でも,周辺地区の駐車場の駐輪ステーションでは平日の朝に不足し,夕方に満杯になる一方,日中はどこも利用者が少ない。
配置数を決めるには,この違いを数値でつかむ必要がある。そこで,駐輪ステーションごと,曜日ごと,時間帯ごとに,共有自転車が何台貸し出され,何台返却されたかという情報を集める。貸出と返却の差から,その時間帯に何台用意しておけば不足も満杯も起きないかが分かり,事業運営者の集配作業も計画的に行える。講評によると,1 日の貸出数と返却数などにとどまり,駐輪ステーション・曜日・時刻の特性まで注意が向いていない解答が多かった。
40字に対し,解答例は「駐輪ステーション・曜日・時間帯ごとの共有自転車の貸出と返却の台数」で32字。集計の単位(駐輪ステーション・曜日・時間帯)を三つとも入れ,貸出と返却の両方の台数を挙げる。
採点講評(IPA)
設問2(2)では,共有自転車の配置数を決めるために必要な情報を問うたところ,1日における貸出数と返却数などの解答にとどまり,駐輪ステーションごとの特性,曜日の特性,時刻の特性まで注意が向いていない受験者が多かった。
設問3(1)
40字以内
駐輪ステーションに関し,スマートフォンを通して利用者に提供すべきサービスを,40 字以内で述べよ。
解答例
借出し又は返却が可能な最寄りの駐輪ステーションまでの経路を表示する。
解説
本文の根拠
〔社会実験の結果と課題〕2.(1) A 市の認識
駐輪ステーションで,共有自転車が出払ってしまっていたり,満杯で返却できなかったりして,別の駐輪ステーションに回る利用者もいるので,利用者への駐輪ステーションの情報提供の方法の見直しも併せて,何らかの対策が必要である。
〔自転車シェアリング事業計画の概要〕
駐輪ステーションがどこにあるのか分かるように,スマートフォン向け Web サイトを開設し,地図を掲載する。
利用者は,共有自転車が出払っていたり満杯で返却できなかったりすると,別の駐輪ステーションに回らなければならない。A 市はこれについて「利用者への駐輪ステーションの情報提供の方法の見直し」が必要だと認識している。
計画ではスマートフォン向け Web サイトに駐輪ステーションの地図を載せるだけである。スマートフォンなら利用者の現在地が分かるので,今いる場所から借出し又は返却ができる最寄りの駐輪ステーションを選び,そこまでの経路を表示すれば,利用者は迷わずに回れる。講評によると,全駐輪ステーション一覧での満空情報の提供といった解答が多く,スマートフォンの GPS 機能の活用まで思い至らない解答が多かった。
40字に対し,解答例は「借出し又は返却が可能な最寄りの駐輪ステーションまでの経路を表示する。」で34字。「借出し又は返却が可能な」(満空の条件)と「最寄りの」(現在地を使う)と「経路を表示する」(サービスの中身)をそろえる。
採点講評(IPA)
設問3(1)では,駐輪ステーションに関し,スマートフォンを通して利用者に提供すべきサービスを問うたところ,全駐輪ステーション一覧での満空情報の提供といった解答が多く,スマートフォンのGPS機能の活用まで思い至らない受験者が多かった。(2)では,設問文のWebサイトに投稿された情報を表示するといった解答が多く,具体的な情報の項目を挙げ,その表示方法まで解答できなかった受験者が多かった。
設問3(2)
40字以内
Web サイトに投稿された情報に関し,スマートフォンを通して利用者に提供すべきサービスを,40 字以内で述べよ。
解答例
観光名所までの経路,サイクリングのコース,所要時間などを表示する。
解説
本文の根拠
〔自転車シェアリング事業計画の概要〕
この Web サイトには,観光名所,おすすめのサイクリングコースなど,利用者から投稿された情報も掲載する。
〔社会実験の結果と課題〕1. 利用状況
また,Web サイトに投稿された情報の場所について,経路や所要時間などの問合せもある。
Web サイトには,観光名所やおすすめのサイクリングコースなど,利用者から投稿された情報が載る。社会実験では,この投稿された情報の場所について「経路や所要時間などの問合せ」があった。
問合せがあるということは,利用者が投稿を見ても,そこへどう行けばよいか,どれくらい掛かるかが分からないということである。スマートフォンを通して,観光名所までの経路やサイクリングのコース,所要時間などを表示すれば,問合せの内容にそのまま応えられ,利用者の利便性が上がる。講評によると,投稿された情報を表示するといった解答が多く,具体的な情報の項目とその表示方法まで書けていない解答が多かった。
40字に対し,解答例は「観光名所までの経路,サイクリングのコース,所要時間などを表示する。」で33字。投稿をそのまま見せるのではなく,問合せの中身(経路,所要時間)を項目として挙げ,「表示する」と結ぶ。
採点講評(IPA)
設問3(1)では,駐輪ステーションに関し,スマートフォンを通して利用者に提供すべきサービスを問うたところ,全駐輪ステーション一覧での満空情報の提供といった解答が多く,スマートフォンのGPS機能の活用まで思い至らない受験者が多かった。(2)では,設問文のWebサイトに投稿された情報を表示するといった解答が多く,具体的な情報の項目を挙げ,その表示方法まで解答できなかった受験者が多かった。
出典:平成25年度 秋期 ITストラテジスト試験 午後Ⅰ 問1(表記を一部改変)
問2 小売業における事業拡大計画の立案
小売業における事業拡大計画の立案に関する次の記述を読んで,設問1〜3に答えよ。
B 社は,大手食品小売業者である。B 社は,大都市近郊に出店して,事業を拡大してきた。しかし,ここ数年は長引く景気低迷の影響を受けて,業績不振が続いている。
〔B 社の現状と課題〕
消費者のライフスタイルの多様化,少子高齢化の進行によって,顧客の購買行動が変化している。B 社は,POS 売上情報を分析して商品企画の立案,品ぞろえの強化を図り,売上を伸ばしてきた。しかし,ここ数年は POS 売上情報分析に基づいた商品企画,品ぞろえが販売実績につながらず,販売予測を下回ることもあった。また,広告チラシによる特売・新商品の宣伝を行っても,来店客数の増加にはつながるが,販売拡大には結び付いていない。社内からは,“従来の POS 売上情報分析からは顧客の顔が見えてこないので,顧客のニーズに合った商品の品ぞろえができない”という声が出ている。
〔POS 売上情報分析の結果〕
B 社では,これまでの POS 売上情報分析から,売れ筋商品に関して,次のような特徴があることが分かっている。
平日の夕方からやや遅い時間帯にかけては,品質・味にこだわった食材,総菜が売れている。 週末は,大きな容量の包装で,高い価格帯の食材が多く売れている。 週末に地域のイベントが開催されると,イベントに関連する商品がよく売れる。 地元の農家・企業から仕入れた地元名産の農産品,加工品などは,コンスタントに売れている。 〔プライベートブランド商品の開発〕
B 社は,数年前から提携先企業と共同で,自社のプライベートブランド商品(以下,PB 商品という)を開発している。PB 商品開発のために,店頭で新商品に関するアンケートを行い,顧客の意見・要望を参考にすることがある。これまでのアンケートでは,家族団らんや友人が集まるパーティなど,顧客が新商品を利用したい場面に関する意見と,味や容器の形状などの新商品の仕様に関する要望があった。
PB 商品開発では,商品開発システムを提携先企業と共同で利用しており,契約数量・容量など調達に必要な情報を管理しているが,開発に必要な情報は管理できていない。
〔ポイントカード会員の特徴〕
B 社は,集客力向上のために,数年前からポイントカード制度を導入している。ポイントカード会員となるための手続は,顧客が店舗のサービスカウンタで申込書に,氏名・住所・生年月日・性別・職業・家族構成・電話番号・メールアドレスを記入し,その場でポイントカードを受け取る。申込書の内容は,ポイントカードシステムに入力される。ポイントカードシステムでは,ポイントカード会員に関する属性情報と購買履歴情報を管理している。現在,ポイントカードシステムから得られている情報は次のとおりである。
顧客に占めるポイントカード会員の割合は,約 7 割である。 ポイントカード会員の構成比は,団塊ジュニア世代と呼ばれる 30 代後半〜40 代前半の主婦と,65 歳以上の主婦の占める割合が高い。 主婦以外のポイントカード会員としては,レストランなどを経営している自営業者,農業従事者が多い。 B 社では,ポイントカード会員にはポイント付与の他に,購入金額に応じて配達無料サービスなどを提供している。レストランなどを経営している自営業者は,卸売業者からの食材の仕入れ以外に B 社から購入することも多いので,自営業者の会員には,早朝に食材を買出しに来る手間が省ける早朝お届けサービスを実施している。B 社はこれらの特典以外に,ポイントカード会員全員に対して,夕食やパーティの献立の参考となる,キャンペーン・特売の案内を DM(ダイレクトメール)で送付したり,会員限定価格などの情報を電子メールで提供したりしている。
〔市場調査結果の概要〕
B 社では販売拡大につなげるために,外部企業に市場調査を依頼した。調査結果の概要は次のとおりである。
大都市近郊では,2 世帯,3 世帯の同居は減少しているものの,高齢の両親の近隣に子供の家族が住居を構える傾向がある。 一般世帯では収入が伸び悩んでいる傾向があり,必要に応じて両親からの援助を受けている。団塊ジュニア世代の世帯は,日常生活ではぜいたくはしていないが,食生活に関してはこだわりをもっている。 両親の高齢化が進む中で,週末に両親の家を訪問して,両親と一緒に過ごす子供の家族が増えている。 地域経済の活性化策として,物産展など地域のイベントの開催が増えており,全員そろって参加する家族が多い。 農業従事者は,地元名産の農産品を活用して,品質にこだわった食材・調味料を用いた料理を物産展などの地域のイベントで提案している。 “地産地消”をアピールしたメニューを提供するレストランが増えており,消費者の関心を集めている。 団塊ジュニア世代の主婦は,夕食やパーティの献立を決めるときに,携帯電話又はスマートフォンで電子メールの配信情報及び SNS のコミュニティ上の情報を検索し,参考にしている。 〔新たな購買分析データ活用による事業拡大計画の概要〕
B 社では,POS 売上情報分析に加えて,ポイントカード会員の購買分析データを活用し,顧客ニーズに対応した事業拡大計画を取りまとめた。
年代・家族構成・職業を基に,ポイントカード会員から,65 歳以上の主婦,団塊ジュニア世代の主婦,レストランなどを経営している自営業者,農業従事者の四つのグループを抽出する。グループごとに想定されるライフスタイルに基づいて,各グループのニーズをきめ細かく分析する。 POS 売上情報,ポイントカードシステムから得られている情報及び市場調査結果を基に,購入目的と購入商品の仮説を立てる。グループごとの,何のためにその商品を選択したかという“購入目的”と,目的に対応して B 社で売れている“購入商品”の仮説は,表 1 のとおりである。
表1 ポイントカード会員のグループ別の購入目的と購入商品の仮説
ポイントカード会員の購買分析を行って仮説を検証し,商品の品ぞろえの強化と販売促進を行う。 ポイントカード会員の購買分析から,売れ筋商品と,顧客がそれとともに購入した商品をグループ別に把握し,日頃から携帯電話又はスマートフォンで情報収集を心掛けているグループに対して商品の情報を DM 又は電子メールで提供する。 ポイントカード会員の来店頻度,購入金額を時系列で把握し,来店頻度の高い顧客,購入金額の多い顧客に対しては,クーポンなどの特典を提供する。 来店頻度,購入金額が減少傾向にある顧客に対しては,来店を促す情報をタイムリに発信し,販売促進を行う。 SNS にコミュニティを立ち上げ,親戚・友人を集めたパーティ,地域のイベントなど様々な場面での食事の献立・新商品を提案し,消費者の意見を収集する。 商品に関する顧客のニーズを把握し,その情報を商品開発システムに反映させ,顧客のニーズに合った商品を PB 商品として開発する。
出題趣旨(IPA)
ITストラテジストには,企業の経営戦略に基づいて,ITを活用した全社業務改革の基本戦略を策定して提案し,推進する能力が求められる。本問では,小売業における新たなデータ活用による事業拡大計画を立案し,施策を推進する能力を評価する。具体的には,POS売上情報やポイントカードシステムの情報と市場調査の結果から想定される顧客ごとの購入目的と購入商品や,ポイントカード会員の顧客分析から販売促進活動として行うDM(ダイレクトメール)や電子メールの情報提供の内容を問う。また,プライベートブランド商品開発強化のための施策について,必要な情報収集方法と商品開発システムに追加する情報内容を問う。
採点講評(問全体・IPA)
問2では,小売業における新たなデータ活用による事業拡大計画の立案とその施策について出題した。題意や状況設定は,おおむね理解されているようであった。
ITストラテジストは,企業の経営戦略に基づいて,ITを活用した全社業務改革の基本戦略の策定・提案及び推進を行う能力を高めてほしい。
設問と解答例
設問1
解答欄4つ
表 1 中のa 〜d に入れる購入目的と購入商品について,それぞれ 25 字以内で述べよ。
解説
本文の根拠
〔市場調査結果の概要〕
大都市近郊では,2 世帯,3 世帯の同居は減少しているものの,高齢の両親の近隣に子供の家族が住居を構える傾向がある。
〔市場調査結果の概要〕
両親の高齢化が進む中で,週末に両親の家を訪問して,両親と一緒に過ごす子供の家族が増えている。
〔POS 売上情報分析の結果〕
週末は,大きな容量の包装で,高い価格帯の食材が多く売れている。
〔市場調査結果の概要〕
“地産地消”をアピールしたメニューを提供するレストランが増えており,消費者の関心を集めている。
〔POS 売上情報分析の結果〕
地元の農家・企業から仕入れた地元名産の農産品,加工品などは,コンスタントに売れている。
〔ポイントカード会員の特徴〕
レストランなどを経営している自営業者は,卸売業者からの食材の仕入れ以外に B 社から購入することも多いので,
表 1 の仮説は,POS 売上情報(売れている商品),ポイントカードシステムの情報(会員の属性),市場調査結果(ライフスタイル)を組み合わせて立てる。“購入目的”は市場調査から,“購入商品”は POS 売上情報分析の売れ筋から拾い,両者を同じ場面で結び付ける。
65 歳以上の主婦(a・b):市場調査によると,高齢の両親の近くに子供の家族が住み,週末に両親の家を訪問して一緒に過ごす家族が増えている。65 歳以上の主婦はこの“両親”の側に当たり,週末に訪ねてくる子供の家族と食事をするために買物をすると考えられる(a)。これに対応する売れ筋が「週末は,大きな容量の包装で,高い価格帯の食材が多く売れている」であり,家族が集まる食卓向けの量と品質に合う(b)。レストランなどを経営している自営業者(c・d):市場調査では“地産地消”をアピールしたメニューを提供するレストランが増えて関心を集めており,自営業者は B 社からも食材を購入している。目的は“地産地消”をアピールしたメニューの提供(c)で,そのために買うのが,コンスタントに売れている地元名産の農産品や加工品などの食材(d)である。講評によると,a では一般的な状況を書くなど出題の意図を理解していない解答があり,c では具体的な仮説に結び付かない解答が散見された。
各 25 字に対し,解答例は a「週末に訪問してくる子供の家族との食事」18字,b「大きな容量の包装で高い価格帯の食材」17字,c「“地産地消”をアピールしたメニューの提供」20字,d「地元名産の農産品や加工品などの食材」17字。目的は「いつ・誰と・何のため」,商品は本文の売れ筋の言葉をそのまま使うと仮説の根拠が伝わる。
採点講評(IPA)
設問1のaでは,65歳以上の主婦層における,週末に訪問してくる子供家族との食事を解答の主旨としたが,一般的な状況を記述するなど,出題の意図を十分に理解していない解答があった。cでは,レストランなどを経営する自営業者の購入目的を問うたが,具体的な仮説に結びつかない解答が散見された。購買分析データ活用による事業拡大計画に結びつく具体的な仮説を,状況設定からしっかり読み取ってほしかった。
設問2(1)
30字以内
全てのポイントカード会員に共通して提供する情報を,30 字以内で述べよ。
解答例
解説
本文の根拠
〔POS 売上情報分析の結果〕
週末に地域のイベントが開催されると,イベントに関連する商品がよく売れる。
〔市場調査結果の概要〕
地域経済の活性化策として,物産展など地域のイベントの開催が増えており,全員そろって参加する家族が多い。
〔ポイントカード会員の特徴〕
B 社はこれらの特典以外に,ポイントカード会員全員に対して,夕食やパーティの献立の参考となる,キャンペーン・特売の案内を DM(ダイレクトメール)で送付したり,会員限定価格などの情報を電子メールで提供したりしている。
全ての会員に共通する情報なので,特定のグループのライフスタイルに依らず,誰にでも当てはまる売れ筋を探す。POS 売上情報分析では「週末に地域のイベントが開催されると,イベントに関連する商品がよく売れる」ことが分かっており,市場調査でも地域のイベントの開催が増え,全員そろって参加する家族が多い。
したがって,週末に開催される地域のイベントに関連する商品の情報を DM 又は電子メールで提供すれば,グループを問わず購買につなげられる。設問は「新たに提供すべき情報」を問うので,既に全会員に送っているキャンペーン・特売の案内や会員限定価格は答えにならない。講評によると,特定のグループの顧客に対して提供する情報を書いた解答が散見された。
30字に対し,解答例は「週末に開催される地域のイベントに関連する商品」で22字。「いつ」(週末)「何に関連する」(地域のイベント)「商品」と,売れ筋の言葉どおりに書く。
採点講評(IPA)
設問2(1)では,ポイントカード会員に共通して提供する情報を問うたが,特定のグループの顧客に対して提供する情報についての解答が散見された。(2)では,既に提供している情報内容や消費者の意見を収集するための施策としての情報提供内容を誤って解答した受験者が多かった。状況設定と出題趣旨を十分に理解してほしかった。
設問2(2)
30字以内
団塊ジュニア世代の主婦に提供する情報を,30 字以内で述べよ。
解答例
解説
本文の根拠
〔新たな購買分析データ活用による事業拡大計画の概要〕
ポイントカード会員の購買分析から,売れ筋商品と,顧客がそれとともに購入した商品をグループ別に把握し,日頃から携帯電話又はスマートフォンで情報収集を心掛けているグループに対して商品の情報を DM 又は電子メールで提供する。
〔市場調査結果の概要〕
団塊ジュニア世代の主婦は,夕食やパーティの献立を決めるときに,携帯電話又はスマートフォンで電子メールの配信情報及び SNS のコミュニティ上の情報を検索し,参考にしている。
事業拡大計画には「売れ筋商品と,顧客がそれとともに購入した商品をグループ別に把握し,日頃から携帯電話又はスマートフォンで情報収集を心掛けているグループに対して商品の情報を DM 又は電子メールで提供する」とある。
市場調査によると,携帯電話又はスマートフォンで電子メールの配信情報を検索し,献立の参考にしているのは団塊ジュニア世代の主婦である。この計画が指すグループは団塊ジュニア世代の主婦なので,提供する情報は,そのグループの売れ筋商品とそれとともに購入されている商品になる。献立を決めるときの参考になり,一緒に買う商品まで分かれば,ついで買いも期待できる。講評によると,既に提供している情報内容や,消費者の意見を収集するための情報提供内容を誤って書いた解答が多かった。
30字に対し,解答例は「売れ筋商品とそれとともに購入されている商品」で21字。計画の文の「売れ筋商品と,顧客がそれとともに購入した商品」をそのまま使えばよい。
採点講評(IPA)
設問2(1)では,ポイントカード会員に共通して提供する情報を問うたが,特定のグループの顧客に対して提供する情報についての解答が散見された。(2)では,既に提供している情報内容や消費者の意見を収集するための施策としての情報提供内容を誤って解答した受験者が多かった。状況設定と出題趣旨を十分に理解してほしかった。
設問3(1)
30字以内
店頭でのアンケートに加えて,顧客のニーズの収集に適した方法を,30 字以内で述べよ。
解答例
解説
本文の根拠
〔新たな購買分析データ活用による事業拡大計画の概要〕
SNS にコミュニティを立ち上げ,親戚・友人を集めたパーティ,地域のイベントなど様々な場面での食事の献立・新商品を提案し,消費者の意見を収集する。
〔プライベートブランド商品の開発〕
PB 商品開発のために,店頭で新商品に関するアンケートを行い,顧客の意見・要望を参考にすることがある。
現在の PB 商品開発では,店頭での新商品に関するアンケートで顧客の意見・要望を集めている。店頭のアンケートは来店した顧客にしか届かない。
事業拡大計画には「SNS にコミュニティを立ち上げ,…様々な場面での食事の献立・新商品を提案し,消費者の意見を収集する」とある。SNS のコミュニティなら,来店していない消費者からも,実際の利用場面に即した意見を継続して集められる。市場調査でも,団塊ジュニア世代の主婦は SNS のコミュニティ上の情報を参考にしており,SNS は顧客に身近な場である。
30字に対し,解答例は「SNSにコミュニティを立ち上げて意見を集める。」で23字。「どこに」(SNS)「何をして」(コミュニティを立ち上げて)「どうする」(意見を集める)を入れる。
設問3(2)
解答欄2つ
強化策の一つとして,これまでに要望として出ている,商品開発システムに追加すべき二つの情報を,それぞれ 20 字以内で述べよ。
解説
本文の根拠
〔プライベートブランド商品の開発〕
これまでのアンケートでは,家族団らんや友人が集まるパーティなど,顧客が新商品を利用したい場面に関する意見と,味や容器の形状などの新商品の仕様に関する要望があった。
〔プライベートブランド商品の開発〕
PB 商品開発では,商品開発システムを提携先企業と共同で利用しており,契約数量・容量など調達に必要な情報を管理しているが,開発に必要な情報は管理できていない。
商品開発システムは契約数量・容量など調達に必要な情報を管理しているが,開発に必要な情報は管理できていない。設問は「これまでに要望として出ている」情報を問うので,これまでのアンケートで顧客から寄せられた内容を探す。
本文には,これまでのアンケートで「顧客が新商品を利用したい場面に関する意見」と「味や容器の形状などの新商品の仕様に関する要望」があったとある。この二つは顧客のニーズに合った PB 商品を開発するための情報であり,事業拡大計画の「商品に関する顧客のニーズを把握し,その情報を商品開発システムに反映させ」にも当たる。これらを商品開発システムに追加すれば,提携先企業と共有して開発に生かせる。講評によると,具体的な情報ではなく抽象的な解答が一部に見られた。
各 20 字に対し,解答例は①「顧客が新商品を利用したい場面」で14字,②「味や容器の形状などの新商品の仕様」で16字。本文のアンケート結果の言葉をそのまま使い,場面と仕様の二つに分けて書く。
採点講評(IPA)
設問3(2)では,強化策の一つとして,これまでに要望としている,商品開発システムに追加すべき情報を問うたが,具体的な情報ではなく抽象的な解答が一部に見られた。
出典:平成25年度 秋期 ITストラテジスト試験 午後Ⅰ 問2(表記を一部改変)
問3 警備会社のサービス拡大
警備会社のサービス拡大に関する次の記述を読んで,設問1〜3に答えよ。
C 社は,企業を対象にした,ビルや工場への不法侵入などの異常を監視するセキュリティサービス(以下,企業向けサービスという)を提供している警備会社であり,営業部門,警備部門,受付センタなどの組織がある。営業部門には,本社の営業企画部と,地域ごとの営業所がある。警備部門には,本社に警備管理部があり,地域ごとに複数の警備員待機所がある。受付センタは本社にあり,契約している顧客の情報と受付センタのオペレータが対応した情報を管理するシステムを運用している。
〔企業向けサービスの概要〕
C 社のサービス提供形態には,常駐型と巡回型がある。常駐型は警備員が顧客の警備対象施設(以下,対象施設という)に常駐して監視する。巡回型は警備員が対象施設を定期的に訪問して監視する。巡回型では訪問の他に,対象施設に専用の端末(以下,セキュリティ端末という)を設置して,不法侵入などの異常を常時監視している。セキュリティ端末は,ネットワークで C 社の受付センタに接続している。C 社では,セキュリティ端末で異常を検知した場合には,次の手順で対応を行っている。
① セキュリティ端末で異常を検知すると,受付センタに異常の種類と発生場所の通知が来る。 ② 受付センタでは,通知を受けたオペレータが最寄りの警備員待機所に出動を指示する。オペレータ名・通知時刻・対応内容・通話時間がシステムに記録される。 ③ 警備員待機所に所属する警備員は,一定時間内に対象施設に到着しなければならない。 ④ 出動した警備員及び巡回に使用する車両の位置情報は,受付センタに自動的に一定の間隔で送信される。 ⑤ 警備管理部では,対象施設への到着所要時間を考慮して警備員待機所を設置しており,対象施設の増加が見込まれると警備員待機所の見直しを行っている。 企業向けサービスの営業活動は,営業所が担当しており,営業所員が顧客からのサービス内容に関する問合せを受け付け,回答している。営業所員のスキルレベルは様々で,顧客からクレームを受けることもある。
C 社では,企業向けサービスの展開が一巡したので,事業拡大のために,家庭を対象にした,不法侵入などの異常を監視するセキュリティサービス(以下,家庭向けサービスという)について検討することにした。
〔家庭向けサービスの検討〕
検討した家庭向けサービスの概要は次のとおりである。
(1) サービス対象:一戸建て住宅,集合住宅 (2) セキュリティ端末:顧客の住宅に設置し,受付センタとネットワークで接続する専用機器 異常時には,発生場所と異常の種類を受付センタへ通知する。 (3) サービス内容:基本サービスとオプションサービス 基本サービスとして,顧客の住宅への巡回監視とセキュリティ端末を用いた不法侵入監視を行い,異常時には警備員が出動する。 オプションサービスとして,外出時に鍵を紛失した場合に備えた予備の鍵の預かり管理,長期不在時にたまる郵便物を保管する不在住宅の郵便ポスト管理を行う。 C 社は,現在,企業向けサービスを提供している顧客の従業員を対象に,家庭向けサービスについてアンケートを行った。その結果をまとめると,次のような回答が多かった。
一戸建て住宅,集合住宅向けのサービスの利用について興味がある。特に,高齢者,子供がいる家庭を対象にした,住宅や外出先における異常への対応や安否確認をするサービスが欲しい。その場合は,警備員が異常発生現場に到着するまでの時間が短いことが重要である。 契約する前に,インターネット上の Web サイトでサービスの詳細について確認したい。特に知りたいのは,①サービスの内容と価格,②自分の条件に合うサービスの組合せである。 そこで,C 社ではアンケート結果を踏まえて,次のようなオプションサービスを追加することにした。
(1) サービス対象:家族 (2) 家族向け携帯端末(以下,携帯端末という):新しく開発した端末 位置情報通知機能があり,携帯端末のボタン操作によって,携帯端末番号,位置情報,異常の種類を受付センタに通知する。異常状態が解消するまで,逐次,位置情報は受付センタに通知される。 (3) サービス内容:家族外出見守りと高齢者在宅見守り 家族外出見守りは,外出先で道に迷うなどの異常があった場合に,位置情報などが携帯端末から通知され,受付センタから警備員の出動指示を行う。家族外出見守りは,家庭向けサービスを提供する地域とその周辺地域を対象に行う予定である。 高齢者在宅見守りは,警備員が高齢者の住宅に出動して安否を確認するサービスで,異常発生時には家族に連絡する。 〔受付センタの現状と強化〕
受付センタは,現在,通知への対応を行うオペレータと,オペレータの対応状況を管理し指導を行う指導員で運営されている。オペレータは全員,経験が豊富であり,通知への対応には慣れているので,効率よく短時間で対応できている。しかし,C 社では事業拡大に伴う受付センタの強化にも取り組むことにした。強化策は次のとおりである。
契約した企業,家庭からの通知及びサービス内容に関する問合せ窓口は,受付センタに集約する。オペレータが問合せを受けると,オペレータ名・受付時刻・対応内容・通話時間がシステムに記録される。 事業拡大に伴う通知件数の増加と業務の集約によって,問合せの種類・件数の増加が見込まれるので,オペレータの人数を増やし,システムによるオペレータへの支援機能を追加する。 今回の増員では,経験が浅いオペレータも多数含まれると予想されるので,顧客対応の品質を維持するための指導が必要である。 サービス内容,セキュリティ端末や携帯端末の操作方法などについて,同様の問合せが高齢者から何度もあると見込まれるので,オペレータが異なっても統一した対応をとれるようにするなど,回答内容の標準化が必要である。 〔家庭向けサービスの営業活動〕
営業企画部では,家庭向けサービスを提供する地域ごとに潜在顧客数を調査し,次のような営業戦略を展開することにした。
基本サービスとオプションサービスを組み合わせて,顧客が受け入れやすい価格で提供する。 営業所員による訪問に加え,地域住民への新聞折込広告と,新たな Web サイトの構築を行う。 Web サイトの構築に当たり,同業他社の Web サイトを調査したところ,サービス内容とサービスごとの価格を提供している Web サイトは多かったが,それ以外の情報を提供している Web サイトはなかった。
家庭向けサービスの提供に当たり,受付センタの情報を活用することで顧客対応の品質を維持し,家庭向けサービスへの警備員の対応方法について警備管理部で検討し,顧客の要望に合ったサービスを提供できるようにする。
出題趣旨(IPA)
ITストラテジストには,サービスの拡大を実施する際に,ニーズを分析して課題や改善すべき項目を抽出し,対策案を検討する能力が求められる。本問では,警備会社における家庭向けセキュリティサービスの導入を題材に,市場ニーズの分析,新しいサービスに対する業務の対応と情報の活用に関して検討する能力を評価する。具体的には,警備会社の新サービスに対する支援機能の検討と情報の活用,市場ニーズに対する対象顧客と必要な機能の検討,顧客の要望に対応するために必要な作業の検討とサービスの検討について問う。
採点講評(問全体・IPA)
問3では,警備会社のサービス拡大について出題した。題意や状況設定は,おおむね理解されているようであった。
ITストラテジストは,対象となる業務を分析して,改善すべき業務,新たに行うサービスに対して,情報又は端末の持つ特性を理解した上で,どのように実現することができるのか,検討できる能力を高めてほしい。
設問と解答例
設問1(1)
25字以内
家庭向けサービスの拡大に伴って,回答内容の標準化を図るために必要なシステムの支援機能を,25 字以内で述べよ。
解答例
解説
本文の根拠
〔受付センタの現状と強化〕
事業拡大に伴う通知件数の増加と業務の集約によって,問合せの種類・件数の増加が見込まれるので,オペレータの人数を増やし,システムによるオペレータへの支援機能を追加する。
〔受付センタの現状と強化〕
サービス内容,セキュリティ端末や携帯端末の操作方法などについて,同様の問合せが高齢者から何度もあると見込まれるので,オペレータが異なっても統一した対応をとれるようにするなど,回答内容の標準化が必要である。
〔受付センタの現状と強化〕
オペレータが問合せを受けると,オペレータ名・受付時刻・対応内容・通話時間がシステムに記録される。
家庭向けサービスでは,サービス内容や端末の操作方法について「同様の問合せが高齢者から何度もある」と見込まれ,オペレータが異なっても統一した対応をとれるよう,回答内容の標準化が必要とされている。受付センタには,システムによるオペレータへの支援機能を追加する。
同様の問合せが繰り返されるなら,問合せと回答の組を蓄えておき,受けた問合せの内容から過去の回答内容を探し出せれば,どのオペレータでも同じ回答を返せる。システムには対応内容が記録されるので,その蓄積を検索に使える。経験の浅いオペレータが増えても,回答の品質がそろう。
25字に対し,解答例は「問合せ内容から回答内容を検索する機能」で18字。「何を手掛かりに」(問合せ内容)「何を得るか」(回答内容を検索)を書き,「機能」で結ぶ。
設問1(2)
解答欄2つ
顧客対応の品質を維持するために,活用すべき情報とその活用方法を,それぞれ 20 字以内で述べよ。
解説
本文の根拠
〔受付センタの現状と強化〕
オペレータが問合せを受けると,オペレータ名・受付時刻・対応内容・通話時間がシステムに記録される。
〔受付センタの現状と強化〕
今回の増員では,経験が浅いオペレータも多数含まれると予想されるので,顧客対応の品質を維持するための指導が必要である。
〔受付センタの現状と強化〕
受付センタは,現在,通知への対応を行うオペレータと,オペレータの対応状況を管理し指導を行う指導員で運営されている。
増員で経験の浅いオペレータが多数加わるので,顧客対応の品質を維持するための指導が必要になる。受付センタには,オペレータの対応状況を管理し指導を行う指導員がいる。
指導の材料になるのは,問合せを受けるたびにシステムに記録される「オペレータ名・受付時刻・対応内容・通話時間」である。このうちオペレータ名と対応内容と通話時間を見れば,どのオペレータがどんな対応をし,どれだけ時間が掛かったかが分かり,対応が適切でない,あるいは時間が掛かり過ぎているオペレータを見つけられる。指導員はそのオペレータを特定して重点的に指導すればよい。講評によると,活用すべき情報として企業や家庭からの問合せ情報を,活用方法として標準的な回答を作成することを書いた解答があった。後者は設問1(1)の回答内容の標準化の話であり,ここで問われているのはオペレータへの指導である。
各 20 字に対し,解答例は活用すべき情報「オペレータ名と対応内容と通話時間」で16字,活用方法「指導すべきオペレータを特定する。」で16字。情報は記録項目の名前をそのまま挙げ,方法は誰を対象に何をするかを書く。
採点講評(IPA)
設問1(2)は,経験が浅いオペレータの増員に対する顧客対応の品質の維持について,オペレータの対応した実績情報を活用することによって,指導すべきオペレータを特定するという解答を求めていた。活用すべき情報として企業や家庭からの問合せ情報という解答,また活用方法として標準的な回答を作成するという解答があった。
設問2(1)
15字以内
営業活動において注力すべき対象を,15 字以内で述べよ。
解答例
解説
本文の根拠
〔家庭向けサービスの検討〕
一戸建て住宅,集合住宅向けのサービスの利用について興味がある。特に,高齢者,子供がいる家庭を対象にした,住宅や外出先における異常への対応や安否確認をするサービスが欲しい。
〔家庭向けサービスの検討〕
(3) サービス内容:家族外出見守りと高齢者在宅見守り
アンケートでは,家庭向けサービスの中でも「特に,高齢者,子供がいる家庭を対象にした,住宅や外出先における異常への対応や安否確認をするサービスが欲しい」という回答が多かった。
C 社はこの結果を踏まえて,携帯端末を使った家族外出見守りと高齢者在宅見守りをオプションサービスに追加している。ニーズが強く,追加したサービスがそのまま当てはまるのは高齢者や子供がいる家庭なので,営業活動はここに注力するのが効率がよい。
15字に対し,解答例は「高齢者や子供がいる家庭」で11字。アンケートの「高齢者,子供がいる家庭」をそのまま使う。
設問2(2)
40字以内
他社に比べて競争優位を保てるようにするために,新たに構築する Web サイトにもたせるべき機能を,40 字以内で述べよ。
解答例
自分の条件に合うサービスの組合せとその価格を確認できる機能
解説
本文の根拠
〔家庭向けサービスの検討〕
契約する前に,インターネット上の Web サイトでサービスの詳細について確認したい。特に知りたいのは,①サービスの内容と価格,②自分の条件に合うサービスの組合せである。
〔家庭向けサービスの営業活動〕
Web サイトの構築に当たり,同業他社の Web サイトを調査したところ,サービス内容とサービスごとの価格を提供している Web サイトは多かったが,それ以外の情報を提供している Web サイトはなかった。
〔家庭向けサービスの営業活動〕
基本サービスとオプションサービスを組み合わせて,顧客が受け入れやすい価格で提供する。
アンケートで顧客が Web サイトで特に知りたいとしたのは,①サービスの内容と価格,②自分の条件に合うサービスの組合せ,の二つである。同業他社の Web サイトは,サービス内容とサービスごとの価格(①に当たる)は提供しているが,それ以外の情報を提供しているものはなかった。
他社に比べて競争優位を保つには,他社が提供していない②を提供すればよい。C 社は基本サービスとオプションサービスを組み合わせて受け入れやすい価格で提供する戦略なので,顧客が自分の条件に合うサービスの組合せを選び,その組合せでの価格まで確かめられる機能にすれば,戦略とも合う。
40字に対し,解答例は「自分の条件に合うサービスの組合せとその価格を確認できる機能」で29字。アンケートの②の言葉に,組合せの価格を加えて「確認できる機能」と結ぶ。
設問3(1)
解答欄2つ
家庭向けサービスの導入時に警備管理部が行うべき見直し内容と参照する数値を,それぞれ 15 字以内で述べよ。
解説
本文の根拠
〔企業向けサービスの概要〕
警備管理部では,対象施設への到着所要時間を考慮して警備員待機所を設置しており,対象施設の増加が見込まれると警備員待機所の見直しを行っている。
〔家庭向けサービスの営業活動〕
営業企画部では,家庭向けサービスを提供する地域ごとに潜在顧客数を調査し,
〔家庭向けサービスの検討〕
その場合は,警備員が異常発生現場に到着するまでの時間が短いことが重要である。
警備管理部は,対象施設への到着所要時間を考慮して警備員待機所を設置しており,対象施設の増加が見込まれると警備員待機所の見直しを行っている。家庭向けサービスを始めれば,監視する住宅が新たに加わるので,この見直しが必要になる。アンケートでも,警備員が異常発生現場に到着するまでの時間が短いことが重要とされている。
見直す内容は,警備員待機所の数と場所である。どの地域にどれだけの住宅が加わるかを見込むには,営業企画部が調査した地域ごとの潜在顧客数を参照する。講評によると,参照する数値として,需要見込みである地域ごとの潜在顧客数ではなく,到着所要時間などの制約条件を書いた解答もあった。到着所要時間は待機所の配置を決めるときの条件であり,家庭向けサービスの導入で新たに変わる需要の見込みは潜在顧客数である。
各 15 字に対し,解答例は見直し内容「警備員待機所の数と場所」で11字,参照する数値「地域ごとの潜在顧客数」で10字。数値は本文の「地域ごとに潜在顧客数」をそのまま使う。
採点講評(IPA)
設問3(1)は,家庭向けサービスの導入に当たり,需要見込みを参照して警備員待機所の設置の見直しを行うことの解答を求めていた。おおむね理解されていたが,需要見込みである地域ごとの潜在顧客数ではなく,到着所要時間などの制約条件についての解答もあった。
設問3(2)
40字以内
セキュリティ端末からの通知ではなく,携帯端末から通知を受けた場合に,受付センタが出動指示をするに当たって留意すべきことは何か。40 字以内で述べよ。
解答例
位置情報を追跡して,携帯端末の所有者を確認するように指示する。
解説
本文の根拠
〔家庭向けサービスの検討〕
位置情報通知機能があり,携帯端末のボタン操作によって,携帯端末番号,位置情報,異常の種類を受付センタに通知する。異常状態が解消するまで,逐次,位置情報は受付センタに通知される。
〔家庭向けサービスの検討〕
家族外出見守りは,外出先で道に迷うなどの異常があった場合に,位置情報などが携帯端末から通知され,受付センタから警備員の出動指示を行う。
〔企業向けサービスの概要〕
① セキュリティ端末で異常を検知すると,受付センタに異常の種類と発生場所の通知が来る。
セキュリティ端末は建物に固定されているので,通知された発生場所に警備員を向かわせればよい。一方,携帯端末は人が持ち歩くもので,道に迷うなどした所有者は移動していることがある。そのため,携帯端末からは「異常状態が解消するまで,逐次,位置情報は受付センタに通知される」。
受付センタは,最初に通知された位置ではなく,逐次届く位置情報を追跡して警備員を向かわせる必要がある。そのうえで,見守りの対象は端末そのものではなく端末を持っている家族なので,警備員には携帯端末の所有者を見つけて確認するよう指示する。講評によると,最初に異常を通知した位置情報に基づいた指示や,所有者の登録情報の連絡などの解答もあった。
40字に対し,解答例は「位置情報を追跡して,携帯端末の所有者を確認するように指示する。」で31字。「位置が変わる」ことへの対処(追跡)と,現場で行わせること(所有者の確認)を1文に入れる。
採点講評(IPA)
設問3(2)は,異常を通知した所有者は移動することもあるので,携帯端末の位置情報が変化することに留意して指示を行うことについて解答を求めた。おおむね理解されていたが,最初に異常を通知した位置情報に基づいた指示や所有者の登録情報の連絡などの解答もあった。
出典:平成25年度 秋期 ITストラテジスト試験 午後Ⅰ 問3(表記を一部改変)
問4 健康管理ロボットの開発
健康管理ロボットの開発に関する次の記述を読んで,設問1〜3に答えよ。
D 社は,血圧計,体温計,体重計など(以下,健康計測機器という)の製造・販売をしている健康計測機器専門メーカである。健康計測機器の販売数は,健康志向の高まりと,美容・ダイエットのブームが続いている間は一時的に伸びたが,現在は低下傾向にある。他社製品との競合による販売価格の引下げもあって,D 社の売上,利益は,ともに減少してきている。
そこで D 社では,売上と利益を増大させるために,これからも増え続ける高齢者を対象にした新たな製品戦略を立てることにした。
〔高齢者に関する健康管理の調査〕
D 社は,新たな製品戦略の立案に当たり,高齢者を対象に,日常の健康管理の実態について調査し,その結果を次のようにまとめた。
血圧,体温,体重などは毎日計測した方がよいと思っているが,計測するのを忘れたり,記録するのが面倒だったりして続けることができない。 食事,運動などについて,医療機関でこまめにアドバイスしてほしい。 常用している薬を飲み忘れてしまうことが多い。 一人暮らしで話し相手がいないので,塞ぎ込みがちになることが多く,健康管理へのモチベーションを高く保つことが難しい。 さらに D 社は,医療機関を対象に,高齢者の診断に関する要望について調査し,その結果を次のようにまとめた。
睡眠,食事,薬の服用などの生活状況のデータ(以下,生活データという)と,日常の血圧,体温,体重,歩行の歩数などの計測記録(以下,計測データという)の蓄積があれば,質の高い診断ができる。 生活データと計測データがあれば,その推移から適切な医療指導ができる。 〔新製品の機能要件〕
D 社の IT ストラテジストである E 氏は,高齢者の健康管理について把握した実態を基に,新たな製品戦略の核になるものとして,生活データと計測データの収集・蓄積をして利用者の健康管理を行い,あたかも家族のように利用者と日常会話を交わすマスコット型ロボット(以下,健康管理ロボットという)を開発することにした。そのために,E 氏は,システムアーキテクトである F 氏に,健康管理ロボットに関する次の機能要件を実現するための仕様の検討を指示した。
血圧,体温,体重の計測と薬の服用を,適切なタイミングに行うように促す機能 血圧,体温,体重を計測するタイミング,薬を服用するタイミングを,利用者が簡単に設定できる機能 生活データと計測データを収集する機能 生活データと計測データの傾向から,健康管理のアドバイスを行う機能 〔健康管理ロボットの仕様〕
F 氏は,E 氏から提示された機能要件について検討し,実現可能性を踏まえて次の仕様をまとめ,E 氏に報告した。
健康管理ロボットは,会話の内容とカメラの画像から生活データを収集し,規則正しい睡眠,食事及び薬の服用,並びに,血圧,体温,体重の計測を促す。 血圧,体温,体重を計測するタイミング,薬を服用するタイミングは,利用者と健康管理ロボットとの音声による会話形式で設定できるようにする。 健康管理ロボットは,新たに開発する通信機能をもった健康計測機器と歩数計から計測データを受信できるようにする。 健康管理ロボットは,生活データ及び計測データの傾向から健康管理のアドバイスを行う。アドバイスの一例を次に示す。 “今日は血圧が適正値を超えているよ。運動量が少ないようなので,散歩にでも行きましょうか。”
1 台の健康管理ロボットの利用者は 1 人とする。 健康管理ロボットと健康計測機器の構成例を,図 1 に示す。
図1 健康管理ロボットと健康計測機器の構成例
〔製品化を行う上での留意事項〕
E 氏は,健康管理ロボットを製品化するに当たり,考慮する必要がある事柄を次のようにまとめた。
① 健康管理ロボットと D 社の健康計測機器を組み合わせて使用させるための機能を戦略的に組み込む 。健康管理ロボットの使用開始時の設定,ソフトウェアバージョンアップなどの保守サービスに配慮する。 医療における診断は医師しかできないので,健康管理ロボットのアドバイスは,生活データと計測データを解析して求められる一般的な事項にとどめる。 健康管理ロボット及び各健康計測機器について,薬事申請も検討する。 〔ロボットの開発,製造,保守サービス〕
E 氏は,F 氏の検討結果を踏まえ,健康管理ロボットの開発,製造,保守サービスについて,これまでロボット開発の経験がない自社で行った場合と,既にマスコット型ロボットの開発・販売を行い,全国に保守サービス拠点をもつメーカの G 社に委託する場合との比較・検討を行った。この比較・検討では,保有技術,設計コスト,設計期間,生産設備,保守サービス体制の 5 項目について評価した。評価に当たっては,特に,他社に先駆けて健康管理ロボットを市場に出すこと,及び健康管理ロボットを数多く市場に普及させることを重視した。その結果,G 社に開発,製造,保守サービスを一括して委託することにした。
〔新たなビジネスモデル〕
E 氏は,健康管理ロボットを早期に広く普及させるために,健康管理ロボットを単体では利益を得られない低い販売価格に設定した。しかし,それでも健康管理ロボットを利用者に直接販売するだけでは,広く普及させることは難しいと考えた。
そこで,E 氏は,健康管理ロボットが収集した生活データと計測データを対象としたシステムをクラウドコンピューティングサービス上に構築し,利用者の生活データと計測データを蓄積する機能をクラウドサービスとして提供することにした。さらに,健康管理ロボットを購入して D 社と情報利用に関わる契約をした医療機関は,購入した健康管理ロボットによって蓄積されている生活データと計測データに有償でアクセスできるという新たなビジネスモデルを考えた。このビジネスモデルでは,医療機関を直接の顧客とし,医療機関から治療中の患者に健康管理ロボットを貸し出すという形態にした。また,健康管理ロボットの貸出しを受けた患者から個人情報の提供について,あらかじめ了解を得ることにした。
出題趣旨(IPA)
ITストラテジストには,市場の動向を分析し,自社の保有技術を把握した上で,新たな製品戦略を立案し,ビジネスモデルを構築する能力が求められる。本問では,健康管理ロボットの開発を題材に,市場の状況と自社の保有技術を踏まえた上で,新たな製品の開発を企画する能力を評価する。具体的には,機能と想定する利用者の関係,自社開発と委託開発の判断,戦略的に組み込む機能の検討,新たなビジネスモデルの構築について問う。
採点講評(問全体・IPA)
問4では,健康管理ロボットの開発について出題した。題意や状況設定は,おおむね理解されているようであった。
ITストラテジストは,市場の動向を分析し,自社の保有技術を把握した上で,新たな機能を提案したりビジネスモデルを構築したりする能力を高めてほしい。
設問と解答例
設問1(1)
15字以内
E 氏が,新製品としてマスコット型ロボットを考えたときに想定した利用者を,15 字以内で述べよ。
解答例
解説
本文の根拠
〔高齢者に関する健康管理の調査〕
一人暮らしで話し相手がいないので,塞ぎ込みがちになることが多く,健康管理へのモチベーションを高く保つことが難しい。
〔新製品の機能要件〕
あたかも家族のように利用者と日常会話を交わすマスコット型ロボット(以下,健康管理ロボットという)を開発することにした。
D 社は高齢者を対象にした製品戦略を立てており,調査では「一人暮らしで話し相手がいないので,塞ぎ込みがちになることが多く,健康管理へのモチベーションを高く保つことが難しい」という実態が分かった。
E 氏が考えたのは,健康管理を行うだけでなく「あたかも家族のように利用者と日常会話を交わすマスコット型ロボット」である。会話の相手になる形をとったのは,話し相手がいない高齢者のモチベーションを保つためであり,想定した利用者は話し相手のいない高齢者になる。講評によると,製品と想定した利用者の関係はよく理解されていた。
15字に対し,解答例は「話し相手のいない高齢者」で11字。単に「高齢者」とせず,マスコット型にした理由に当たる「話し相手のいない」を付ける。
採点講評(IPA)
設問1では,製品の開発について解答を求めた。(1)では,製品と想定した利用者の関係がよく理解されていたが,(2)では,重視した項目と重視した理由の整合がとれていない解答が一部に見られた。
設問1(2)
解答欄6つ
健康管理ロボットの開発,製造,保守サービスを自社で行うか,G 社に委託するかを決定するに当たり,E 氏が重視した項目を三つ挙げ,重視した理由をそれぞれ 30 字以内で述べよ。
〔①理由〕解答例
他社に先駆けて健康管理ロボットを市場に出したいから
〔③理由〕解答例
数多く普及したときに保守サービスの拡充が必要だから
解説
本文の根拠
〔ロボットの開発,製造,保守サービス〕
E 氏は,F 氏の検討結果を踏まえ,健康管理ロボットの開発,製造,保守サービスについて,これまでロボット開発の経験がない自社で行った場合と,既にマスコット型ロボットの開発・販売を行い,全国に保守サービス拠点をもつメーカの G 社に委託する場合との比較・検討を行った。
〔ロボットの開発,製造,保守サービス〕
この比較・検討では,保有技術,設計コスト,設計期間,生産設備,保守サービス体制の 5 項目について評価した。評価に当たっては,特に,他社に先駆けて健康管理ロボットを市場に出すこと,及び健康管理ロボットを数多く市場に普及させることを重視した。
評価した 5 項目は保有技術,設計コスト,設計期間,生産設備,保守サービス体制で,E 氏は特に「他社に先駆けて健康管理ロボットを市場に出すこと」と「健康管理ロボットを数多く市場に普及させること」を重視した。5 項目のうち,この二つに結び付くものを三つ選び,理由を二つの重視点から書く。
他社に先駆けて市場に出すには,設計を短期間で終えなければならない。自社にはロボット開発の経験がない(保有技術がない)が,G 社は既にマスコット型ロボットを開発・販売しているので,設計期間が短く済む。そこで一つ目は設計期間(又は保有技術)で,理由は他社に先駆けて市場に出したいからである。数多く普及させるには,数多く生産できる生産設備と,普及した後に保守を担える体制が要る。G 社は製造を行い,全国に保守サービス拠点をもつ。そこで二つ目は生産設備(数多く生産する必要がある),三つ目は保守サービス体制(数多く普及したときに保守サービスの拡充が必要)となる。設計コストは二つの重視点のどちらにも直接は結び付かない。講評によると,重視した項目と重視した理由の整合がとれていない解答が一部に見られた。
理由は各 30 字に対し,解答例は①「他社に先駆けて健康管理ロボットを市場に出したいから」25字,②「健康管理ロボットを数多く生産する必要があるから」23字,③「数多く普及したときに保守サービスの拡充が必要だから」25字。項目は本文の 5 項目の名前をそのまま書き,理由はその項目が二つの重視点のどちらにどう効くかを「〜から」で結ぶ。
採点講評(IPA)
設問1では,製品の開発について解答を求めた。(1)では,製品と想定した利用者の関係がよく理解されていたが,(2)では,重視した項目と重視した理由の整合がとれていない解答が一部に見られた。
設問2
30字以内
本文中の下線①において,戦略的に組み込まれる機能は何か。30 字以内で述べよ。
解答例
解説
本文の根拠
〔製品化を行う上での留意事項〕
① 健康管理ロボットと D 社の健康計測機器を組み合わせて使用させるための機能を戦略的に組み込む
〔健康管理ロボットの仕様〕
健康管理ロボットは,新たに開発する通信機能をもった健康計測機器と歩数計から計測データを受信できるようにする。
冒頭
健康計測機器の販売数は,健康志向の高まりと,美容・ダイエットのブームが続いている間は一時的に伸びたが,現在は低下傾向にある。他社製品との競合による販売価格の引下げもあって,D 社の売上,利益は,ともに減少してきている。
下線①は「健康管理ロボットと D 社の健康計測機器を組み合わせて使用させるための機能を戦略的に組み込む」である。仕様では,健康管理ロボットは新たに開発する通信機能をもった健康計測機器から計測データを受信する。
D 社の本業は健康計測機器で,他社製品との競合で売上・利益が減っている。健康管理ロボットが D 社の健康計測機器と容易に接続できるようにしておけば,ロボットの利用者は D 社の機器を選ぶようになり,健康計測機器の販売につながる。“戦略的に”とはこの囲い込みの狙いを指す。講評によると,下線①を踏まえていない解答も多く見られた。単に「計測データを受信する機能」と書くと,D 社の機器と組み合わせるという下線の要点が抜ける。
30字に対し,解答例は「D社の健康計測機器と,容易に接続できる機能」で21字。「D 社の」を必ず入れ,「容易に接続できる」で組み合わせて使わせる仕掛けを表す。
採点講評(IPA)
設問2では,製品化に当たって戦略的に組み込む機能について解答を求めた。おおむね理解されていたが,本文中の下線①を踏まえていない解答も多く見られた。設問の指示をよく読んで解答してほしい。
設問3(1)
解答欄2つ
D 社が利益を得ることができる売上は何か。二つ挙げ,それぞれ 15 字以内で述べよ。
解説
本文の根拠
〔新たなビジネスモデル〕
E 氏は,健康管理ロボットを早期に広く普及させるために,健康管理ロボットを単体では利益を得られない低い販売価格に設定した。
〔新たなビジネスモデル〕
そこで,E 氏は,健康管理ロボットが収集した生活データと計測データを対象としたシステムをクラウドコンピューティングサービス上に構築し,利用者の生活データと計測データを蓄積する機能をクラウドサービスとして提供することにした。
〔新たなビジネスモデル〕
さらに,健康管理ロボットを購入して D 社と情報利用に関わる契約をした医療機関は,購入した健康管理ロボットによって蓄積されている生活データと計測データに有償でアクセスできるという新たなビジネスモデルを考えた。
健康管理ロボットは「単体では利益を得られない低い販売価格」に設定されているので,ロボットの売上は利益を得られる売上に当たらない。利益はロボットに付随するものから得る。
一つはクラウドサービスの売上である。生活データと計測データを蓄積する機能をクラウドサービスとして提供し,契約した医療機関はそのデータに有償でアクセスする。もう一つは健康計測機器の売上である。設問2のとおり,健康管理ロボットは D 社の健康計測機器と組み合わせて使うように作られているので,ロボットが普及するほど D 社の機器が売れる。講評によると,健康管理ロボットの価格設定を考慮に入れていないと思われる解答が一部に見られた。「健康管理ロボットの売上」は誤りになる。
各 15 字に対し,解答例は①「クラウドサービスの売上」で11字,②「健康計測機器の売上」で9字。設問が「売上は何か」と問うので,「〜の売上」の形で答える。
採点講評(IPA)
設問3では,新たなビジネスモデルについて解答を求めた。(1)では,健康管理ロボットの価格設定を考慮に入れていないと思われる解答が一部に見られた。
設問3(2)
解答欄2つ
D 社と契約したことで,医療機関は患者にどのような価値を提供できるようになるか。二つ挙げ,それぞれ 30 字以内で述べよ。
〔①〕解答例
蓄積された計測データと生活データに基づく質の高い診断
〔②〕解答例
計測データと生活データの推移に基づく適切な医療指導
解説
本文の根拠
〔高齢者に関する健康管理の調査〕
睡眠,食事,薬の服用などの生活状況のデータ(以下,生活データという)と,日常の血圧,体温,体重,歩行の歩数などの計測記録(以下,計測データという)の蓄積があれば,質の高い診断ができる。
〔高齢者に関する健康管理の調査〕
生活データと計測データがあれば,その推移から適切な医療指導ができる。
〔新たなビジネスモデル〕
このビジネスモデルでは,医療機関を直接の顧客とし,医療機関から治療中の患者に健康管理ロボットを貸し出すという形態にした。
D 社と契約した医療機関は,患者に貸し出した健康管理ロボットが蓄積した生活データと計測データにアクセスできる。これで医療機関にできるようになることは,医療機関への調査結果に書かれている。
調査結果は二つあり,「生活データと…計測データの蓄積があれば,質の高い診断ができる」と「生活データと計測データがあれば,その推移から適切な医療指導ができる」である。医療機関はこれを患者に提供できる価値として,蓄積されたデータに基づく質の高い診断と,データの推移に基づく適切な医療指導を挙げられる。
各 30 字に対し,解答例は①「蓄積された計測データと生活データに基づく質の高い診断」で26字,②「計測データと生活データの推移に基づく適切な医療指導」で25字。二つの違い(蓄積に基づく診断,推移に基づく指導)が分かるように,調査結果の言葉を使い分ける。
出典:平成25年度 秋期 ITストラテジスト試験 午後Ⅰ 問4(表記を一部改変)
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