令和5年度 春期に実施されたITストラテジスト試験
午後Ⅰの全4問(記述式)です。事例本文・設問・解答例と解説をそのまま読めます。
この試験について:ITストラテジスト試験について
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問1 SNS 運営会社のブロックチェーンを活用した IT 戦略
SNS 運営会社のブロックチェーンを活用した IT 戦略に関する次の記述を読んで,設問に答えよ。
A 社は,ブログやコミュニケーションサイト,ソーシャルメディアに関連するアプリケーションソフトウェアの提供などのソーシャルネットワーキングサービス(以下,SNS という)を運営する企業で,A 社の会員とともに A 社を取り巻くデジタル空間内の経済活動(以下,A 社経済圏という)を拡大する経営方針を掲げている。A 社は,主にスポンサー企業からの広告収入,会員からの課金収入,提携企業へのマーケティングに関するデータ提供サービス事業の収入がビジネスの柱になっている。近年,積極的な M&A を行い,プリペイド型の電子マネーを扱う電子決済サービス事業,暗号資産取引サービス事業などを獲得し,SNS を中核にしてサービスの種類を拡張させてきた。
A 社の会員は,A 社の SNS を利用して,デジタルコンテンツを参照したり電子マネーを利用したりする。それだけでなく,デジタルコンテンツを活用した投稿や評価コメントの投稿など,積極的に情報を発信(以下,貢献活動という)して,A 社のサービスの活性化や発展に貢献してくれている。そこで,A 社は会員との互恵関係を強化することで,A 社経済圏を拡大する新たな IT 戦略を検討することとし,現状の課題を分析した。
〔A 社が抱える課題〕
A 社は,会員との互恵関係の状況を把握する重要な経営指標として,会員の SNS 利用におけるアクティブ会員数の月間伸び率(以下,MAU 伸び率という)を測定している。しかし,最近は,サービスの種類を拡張しているにもかかわらず,MAU 伸び率は鈍化している。このまま鈍化の傾向が続いていくと,スポンサー企業や提携企業からの収入に影響するだけでなく,IT 戦略の前提にも影響があると A 社は考えている。
A 社は,会員が行った貢献活動に対して,A 社サービス内で使えるポイントを付与する仕組みによって顧客体験価値(UX)を高めている。しかし,現在の仕組みでは,M&A で新サービスを獲得した場合,そのサービスの既存のポイント付与システムを,都度 A 社システムと連携させて動かしているので,A 社システム全体への影響を調査し,対応を検討して,慎重に進める必要があり,拡張は容易ではない。今後は,A 社サービス共通に使えるポイントを所定の条件を満たせばすぐに付与したいが難しく,会員が期待する UX をタイムリーに提供できていない。このことが,MAU 伸び率を鈍化させている原因と A 社は認識している。
A 社は,会員が行った貢献活動に関する所定の条件が満たされれば,A 社サービス共通に使えるポイントがすぐに付与される仕組みを提供することで UX を高め,顧客の囲い込みを図ることができると考えている。
そこで A 社は,ブロックチェーンの技術を応用し,改ざんや取引履歴の削除が困難な自律分散システムであるプライベート型のブロックチェーンネットワークを構築し,A 社経済圏の拡大を実現する IT 戦略を立案することにした。
〔新しいポイント付与システム〕
A 社は,プライベート型のブロックチェーンネットワークを活用して,貢献活動を行った会員に対して,迅速に,公正で,より魅力的なポイント付与の仕組みを構築して,MAU 伸び率を改善することを計画した。
A 社は,新たなサービスを獲得した際にも,会員の貢献活動に関する所定の条件に応じてポイントを自動的に付与するための検討を行った。A 社は,ブロックチェーンに,設定されたルールに従って取引を自動的に実行するスマートコントラクトを組み合わせたポイント付与システムを構築することとした。スマートコントラクトは,ルールを事前にプログラムとして実装する仕組みであり,会員の貢献活動に関する所定の条件が満たされれば,ポイントを付与するプログラムが自動実行され,ポイントが自動的に付与される。サービス間を横断するキャンペーンなどの複雑な条件判定が必要な場合でも,自動的にポイントが付与される仕組みを実現できる。
A 社は,会員が,付与されたポイントを A 社の全ての有償サービスに利用したり,会員同士で贈呈したりできるようにする。さらに,プリペイド型の電子マネーを扱う電子決済サービスと連携し,A 社経済圏の外部でも使える専用のコインへの交換を可能にすることにした。この交換によって,外部の経済圏と連携できるようになり,A 社の各サービスの中でもポイントの流動化が促進され,会員との互恵関係が強化されると考えた。
〔信頼度スコアによる監視の仕組み〕
A 社は,SNS 上の様々な会員の行動から信頼度スコアを記録し,それを基に会員向けに信頼度ランクを公開している。具体的には,会員の投稿の閲覧数やコメント投稿数などを定量化して記録するものである。信頼度スコアの高い会員には,ポイントの付与率を高く設定する仕組みがある。また,A 社は,会員に対してガイドラインを定めており,コミュニティ内における過度な中傷などの重要なトラブルについては,会員からの通報や AI 検知による監視によって,加害者への注意喚起やアカウント停止などを行う仕組みで対処してきた。A 社は,信頼度スコアの仕組みと監視の仕組みとを連携させて,会員が安心して SNS を楽しめる仕組みを提供することで,更なるコミュニティの活性化を図ることとした。
〔マーケットプレイスの構築〕
A 社は,具体的な取組を進めていく際に,自社の SNS 上の公式アカウントを使って議論や情報交換を行うコミュニティを立ち上げて,会員同士で様々な意見を取り交わしてもらいながら会員の声を吸い上げた。
その結果,A 社の会員には,デジタルコンテンツをより利活用したり,貢献活動に対してさらに充実した特典を獲得したり,同じ趣味し好をもった会員同士でもっと簡単に交流したいニーズがあることが分かった。
これらのニーズに対して A 社は,プライベート型のブロックチェーンネットワーク上でデジタルコンテンツに唯一性を付与する非代替性トークン(以下,NFT という)を活用することにした。A 社は,自社や提携企業がもつ画像や音声などのデジタルコンテンツのメタデータが含まれる NFT をポイントで取引できるマーケットプレイスを構築して,会員が,アート,写真,イラスト,音楽などの様々なジャンルの NFT を取引できるようにする。①NFT には,独自にスマートコントラクトを実装できる ので,単純な NFT 取引だけではなく,A 社からコミュニティへの参加権や限定商品の購買権の付与など,柔軟な特典の提供が可能である。
また,NFT では一般的に,一次流通の際に著作者に収益の還元を行うが,A 社は,独自に実装したスマートコントラクトを用いて転売などの二次流通においても,その収益の一部を著作者に自動的に還元する仕組みを構築することにした。
マーケットプレイスにおいては,会員に対して,所有する NFT や取引するためのポイントを管理するウォレット機能,所有する NFT を出品する機能,NFT を購入する機能を提供する。A 社は,マーケットプレイスの機能の提供によって,ポイントを獲得するための会員の貢献活動や,NFT を取引するための会員同士の交流が活発になり,スポンサー企業や提携企業からの収入にも波及して,A 社経済圏が成長していくと考えた。
A 社は,NFT の取引履歴やスマートコントラクトの実行履歴などを収集し,匿名化した上で趣味し好などの傾向を可視化しようと考えている。A 社はこのブロックチェーンの特性を生かして,可視化したデータを用いて提携企業とのビジネスの拡大も企画した。
出題趣旨(IPA)
ITストラテジストには,情報技術を活用して事業を改革,高度化,最適化するための基本戦略を策定する能力が求められる。本問では,SNS運営会社のブロックチェーンを活用したIT戦略を題材として,ITを活用した新サービスの構想・計画の実行と評価・改善を行う能力を評価する。具体的には,ブロックチェーンによって,事業全体を成長させるために解決すべき課題の分析,ITを活用したサービスの見直しへの対応などについて,実務能力を問う。
採点講評(問全体・IPA)
問1では,SNS運用会社のブロックチェーンを活用したIT戦略について出題した。全体として正答率は平均的であった。
ITストラテジストは,事業全体を成長させるために解決すべき課題を分析し,評価した上で,デジタル技術を活用し,事業戦略を推進する能力を高めてほしい。
設問と解答例
設問1
40字以内
〔A 社が抱える課題〕について,MAU 伸び率の鈍化によって影響を受ける IT 戦略の前提とは何か。40 字以内で答えよ。
解答例
会員との互恵関係を強化することでA社経済圏を拡大できるという前提
解説
本文の根拠
冒頭
そこで,A 社は会員との互恵関係を強化することで,A 社経済圏を拡大する新たな IT 戦略を検討することとし,現状の課題を分析した。
〔A 社が抱える課題〕
A 社は,会員との互恵関係の状況を把握する重要な経営指標として,会員の SNS 利用におけるアクティブ会員数の月間伸び率(以下,MAU 伸び率という)を測定している。
〔A 社が抱える課題〕
このまま鈍化の傾向が続いていくと,スポンサー企業や提携企業からの収入に影響するだけでなく,IT 戦略の前提にも影響があると A 社は考えている。
A 社の新たな IT 戦略は,冒頭で「会員との互恵関係を強化することで,A 社経済圏を拡大する」ものと書かれている。つまり,互恵関係を強めれば経済圏が広がるという見立てが,この IT 戦略の土台(前提)になっている。
MAU 伸び率は「会員との互恵関係の状況を把握する重要な経営指標」である。MAU 伸び率が鈍っているということは,互恵関係が思うように強まっていないことを示す。そうなると,互恵関係の強化で経済圏を広げるという見立てそのものが揺らぐ。これが「IT 戦略の前提にも影響がある」の中身である。
40字に対し,解答例は「会員との互恵関係を強化することでA社経済圏を拡大できるという前提」で32字。講評によると「会員がデジタルコンテンツを活用すること」を前提とした答えが見受けられた。会員の行動ではなく,互恵関係の強化と経済圏の拡大をつなぐ見立てを書く。
採点講評(IPA)
設問1は,正答率がやや低く,“会員がデジタルコンテンツを活用することがIT戦略の前提である”という解答が見受けられた。ここでは,会員との互恵関係を強化することで,A社経済圏を拡大できるということがIT戦略の前提であることを理解してほしい。
設問2
40字以内
〔新しいポイント付与システム〕について,A 社は,新しいポイント付与システムでどのような仕組み上の課題に対処しようとしたか。40 字以内で答えよ。
解答例
新サービスを獲得しても会員が期待するUXをタイムリーに提供できていない。
解説
本文の根拠
〔A 社が抱える課題〕
しかし,現在の仕組みでは,M&A で新サービスを獲得した場合,そのサービスの既存のポイント付与システムを,都度 A 社システムと連携させて動かしているので,A 社システム全体への影響を調査し,対応を検討して,慎重に進める必要があり,拡張は容易ではない。
〔A 社が抱える課題〕
今後は,A 社サービス共通に使えるポイントを所定の条件を満たせばすぐに付与したいが難しく,会員が期待する UX をタイムリーに提供できていない。
〔新しいポイント付与システム〕
A 社は,新たなサービスを獲得した際にも,会員の貢献活動に関する所定の条件に応じてポイントを自動的に付与するための検討を行った。
新しいポイント付与システムは,〔A 社が抱える課題〕に書かれた「現在の仕組み」の問題に対処するものである。M&A で新サービスを獲得するたびに,そのサービスの既存のポイント付与システムを A 社システムと連携させる必要があり,拡張が容易でない。その結果,ポイントを条件どおりすぐに付与できず,会員が期待する UX をタイムリーに提供できていない。
〔新しいポイント付与システム〕は「新たなサービスを獲得した際にも」ポイントを自動的に付与できるよう,スマートコントラクトを組み合わせる。新サービスの獲得と,UX をタイムリーに提供できないことの二つが,この仕組みが解こうとしている課題である。
40字に対し,解答例は「新サービスを獲得しても会員が期待するUXをタイムリーに提供できていない。」で36字。「拡張が容易でない」だけでは会員側の不都合が伝わらないので,新サービス獲得の場面と,会員の期待する UX をタイムリーに提供できない結果とを組にする。
設問3
35字以内
〔信頼度スコアによる監視の仕組み〕について,A 社は,会員が安心して SNS を楽しめるようにするために,信頼度スコアの仕組みと監視の仕組みとを連携させた,どのような仕組みを提供しようと考えたか。35 字以内で答えよ。
解答例
加害者のポイント付与率を減らしたり,付与を停止したりする仕組み
解説
本文の根拠
〔信頼度スコアによる監視の仕組み〕
信頼度スコアの高い会員には,ポイントの付与率を高く設定する仕組みがある。
〔信頼度スコアによる監視の仕組み〕
コミュニティ内における過度な中傷などの重要なトラブルについては,会員からの通報や AI 検知による監視によって,加害者への注意喚起やアカウント停止などを行う仕組みで対処してきた。
〔信頼度スコアによる監視の仕組み〕
A 社は,信頼度スコアの仕組みと監視の仕組みとを連携させて,会員が安心して SNS を楽しめる仕組みを提供することで,更なるコミュニティの活性化を図ることとした。
信頼度スコアの仕組みは,スコアの高い会員のポイント付与率を高くするものである。監視の仕組みは,中傷などのトラブルの加害者を通報や AI 検知で見つけ,注意喚起やアカウント停止を行うものである。この二つをつなぐと,監視で見つけた加害者について,ポイントの付与率を下げたり付与を止めたりできる。
会員が安心して SNS を楽しむには,トラブルを起こす加害者を抑える必要がある。ポイントの付与率はスコアに連動しているので,加害行為がポイントの不利益につながれば,加害者への抑止力になる。
35字に対し,解答例は「加害者のポイント付与率を減らしたり,付与を停止したりする仕組み」で31字。講評によると「会員が行った貢献活動にポイントを付与する仕組み」という答えが散見された。それは既存の仕組みの説明で,安心につながる抑止力になっていない。誰に(加害者に)何をするのか(付与率を減らす,付与を止める)を書く。
採点講評(IPA)
設問3では,“会員が行った貢献活動にポイントを付与する仕組み”という解答が散見された。A社は,会員が安心してSNSを楽しめるようにするために,加害者に対する抑止力のある対策が求められている点を理解してほしい。
設問4(1)
35字以内
A 社は,本文中の下線①の仕組みを活用することで,会員のどのようなニーズに応えることを狙ったのか。35 字以内で答えよ。
解答例
貢献活動に対してさらに充実した特典を獲得したいというニーズ
解説
本文の根拠
〔マーケットプレイスの構築〕
その結果,A 社の会員には,デジタルコンテンツをより利活用したり,貢献活動に対してさらに充実した特典を獲得したり,同じ趣味し好をもった会員同士でもっと簡単に交流したいニーズがあることが分かった。
〔マーケットプレイスの構築〕
①NFT には,独自にスマートコントラクトを実装できるので,単純な NFT 取引だけではなく,A 社からコミュニティへの参加権や限定商品の購買権の付与など,柔軟な特典の提供が可能である。
下線①の直後には,スマートコントラクトを実装できるので「コミュニティへの参加権や限定商品の購買権の付与など,柔軟な特典の提供が可能」とある。下線①の仕組みで実現するのは,特典の充実である。
コミュニティで吸い上げた会員の声には三つのニーズがあり,その一つが「貢献活動に対してさらに充実した特典を獲得したい」である。特典に関わるのはこのニーズなので,下線①が応えるのはこれになる。デジタルコンテンツの利活用や会員同士の交流は,NFT の取引やマーケットプレイスそのもので応えるニーズである。
35字に対し,解答例は「貢献活動に対してさらに充実した特典を獲得したいというニーズ」で29字。本文のニーズの言い回しをそのまま使い,「貢献活動に対して」まで入れる。
設問4(2)
35字以内
A 社は,本文中の下線①の仕組みを用いて,会員間の取引や,会員への特典提供以外のどのような仕組みにも活用しようと計画しているか。35 字以内で答えよ。
解答例
NFTの二次流通においてもその収益の一部を著作者に還元させる。
解説
本文の根拠
〔マーケットプレイスの構築〕
また,NFT では一般的に,一次流通の際に著作者に収益の還元を行うが,A 社は,独自に実装したスマートコントラクトを用いて転売などの二次流通においても,その収益の一部を著作者に自動的に還元する仕組みを構築することにした。
設問は,下線①の仕組み(NFT に独自に実装したスマートコントラクト)を,会員間の取引と会員への特典提供以外に何に使うかを問うている。下線①の段落の次に「独自に実装したスマートコントラクトを用いて」とあり,これが答えの場所である。
NFT では一般に一次流通の際に著作者へ収益を還元するが,A 社は転売などの二次流通でも収益の一部を著作者に自動的に還元する。スマートコントラクトの「所定の条件で自動実行される」性質を,著作者への収益還元に使うわけである。
35字に対し,解答例は「NFTの二次流通においてもその収益の一部を著作者に還元させる。」で31字。「著作者に収益を還元する」だけでは一次流通でも一般に行われていることなので,「二次流通においても」を落とさない。
設問4(3)
30字以内
A 社は,可視化した趣味し好の傾向のデータを,提携企業へのどのような事業で生かそうと考えたか。30 字以内で答えよ。
解答例
解説
本文の根拠
冒頭
A 社は,主にスポンサー企業からの広告収入,会員からの課金収入,提携企業へのマーケティングに関するデータ提供サービス事業の収入がビジネスの柱になっている。
〔マーケットプレイスの構築〕
A 社はこのブロックチェーンの特性を生かして,可視化したデータを用いて提携企業とのビジネスの拡大も企画した。
A 社のビジネスの柱は三つあり,そのうち提携企業に向けたものは「マーケティングに関するデータ提供サービス事業」である。可視化した趣味し好の傾向のデータを使って「提携企業とのビジネスの拡大」を企画したとあるので,この事業に生かすと読める。
趣味し好の傾向は,提携企業が商品や広告の狙いを定めるマーケティングに使えるデータである。NFT の取引履歴などを匿名化して可視化することで,既存のデータ提供サービスの中身を厚くできる。
30字に対し,解答例は「マーケティングに関するデータ提供サービス事業」で22字。本文にある事業名をそのまま書けばよい。「データを提供する事業」だけでは何のためのデータかが抜けるので,「マーケティングに関する」を付ける。
出典:令和5年度 春期 ITストラテジスト試験 午後Ⅰ 問1(表記を一部改変)
問2 地域におけるスマートシティ構想
地域におけるスマートシティ構想に関する次の記述を読んで,設問に答えよ。
D 市は,穏やかな気候で,野菜や果物の栽培,魚の養殖など農水産業が盛んな地域である。農水産業は D 市の地域経済を支える基幹産業であり,古くから親しまれている農水産物はブランド認定品として広く認知され,大都市圏を中心に流通している。D 市には,農水産業を営む農村部,温泉や渓谷などの自然観光資源がある観光部,企業のオフィスや商業施設などが集中した都市部がある。
E 社は,大手の SI ベンダーであり,D 市を含む全国の市町村向けに数多くの行政システムを提供している。E 社は,D 市を対象地域とするスマートシティ構想を検討し D 市に提言することにし,地域が一体となって取り組むべき課題とその対応策を明らかにすることで地域活性化を図り,E 社の事業領域拡大も狙うこととした。
〔D 市の現状〕
D 市は近年,地域経済の縮小や人口減少,加えて,特に農村部で顕著な空き家問題など,社会課題が表面化してきており迅速な対策が必要である。E 社は,D 市の現状の課題を把握するために住民や観光客に対しアンケートやグループインタビューなどで調査を行った。
D 市の農村部では,昨今の燃料費高騰などによって流通コストが増加し,販売する農水産物の利益率が低下している。また,形や大きさなどが規格外の農水産物は,品質に問題がなくても大都市圏へ流通できず,廃棄せざるを得ないので,農水産業者(以下,生産者という)にとって利益率低下の原因の一つになっている。この問題は昨今の SDGs への関心の高まりからも無視できない状況である。D 市の観光部や都市部の宿泊施設や飲食店など(以下,実需者という)に規格外の農水産物を流通できれば,利益率の改善や廃棄の抑制につながる可能性があるが,大都市圏との取引を優先してきたことから D 市内の他地域との接点がなく,実現できていない。
外国人観光客や国内企業の社員旅行客などが減少傾向にある。一方,自然志向の高まりから,D 市の自然観光資源に魅力を感じ,家族や友人などで訪れる少人数の旅行客は増加傾向にある。少人数の旅行客では,食事を重要視することが多く,D 市産の農水産物を利用したメニューで特徴が出せれば,より多くの観光客を呼び込める可能性があるが,実現できていない。
数年前から,遊休農地の増加の歯止めや空き家の活用を目的として,遊休農地を市民農園に整備した上での農業体験や,空き家を利用した宿泊体験などを提供している。大都市圏から来た観光客で,農水産業体験や宿泊体験をした人の中には,D 市で農水産業に従事することに魅力を感じ,実際に市外から移住してきた人もいる。
一方で,移住を考える人の中には,農水産業は熟練のノウハウを必要とするイメージをもち,移住をためらう人もいる。移住経験者との意見交換ができればそのような懸念が払拭され,移住につながる可能性もあるが,実現できていない。
市外の企業の従業員の中には,D 市の自然観光資源や農水産物が気に入り,D 市の都市部に移住し,市外の企業にリモートワークしたいといった声を聞くことがある。また,都市部にはリモートワーク拠点として利用できるコワーキングスペースがある。その近隣の飲食店に D 市産の農水産物を利用した特徴あるメニューがあれば,是非利用したいとの声を聞くことがあるが,実現できていない。
〔スマートシティ構想〕
調査結果を受け E 社は,D 市の強みを生かし弱みを補強することで,“人が安心して訪れ,暮らし,働くことができる市”を実現するスマートシティ構想を検討し,D 市へ提言した。地域が一体となって,農水産業資源や自然観光資源を生かしたサービスを提供し D 市の魅力を高めることで,人口の増加を図り,地方創生を目指す。
E 社は,スマートシティ構想の取組では,農水産業や観光といった様々な分野の環境変化に対応することや,継続的に各分野が協調する必要があると考えている。そのため,スマートシティ構想で活用する IT は,変更や拡張が容易で,分野間のデータ連携が可能な仕組みとする必要があると考えた。
また,住民や観光客にサービスを更に利用してもらうためには,利用者ごとのニーズにより合致したサービスを提供する必要があり,そのためには利用者の属性情報,利用履歴情報,位置情報など(以下,利用者情報という)を同意に基づいて取得し,利用することが適切であると考えている。
そこで,E 社は構想の実現に向けた第一歩として,E 社が事務局となり D 市の支援のもと住民や実需者,生産者,観光客を含めた実証実験(以下,PoC という)を行うための会議体(以下,PoC 協議会という)を設置しアイディアを募集することとした。
〔PoC 協議会の提言〕
PoC 協議会は,D 市の状況とアイディア募集の結果から,スマートシティ構想では IT を活用し,各分野が協調して地産地消や魅力的な情報発信などを行うことで地方創生を推進するサービスが必要であると D 市に提言した。サービス実現に向けては,地域オペレーションシステムとして,スマートシティプラットフォームの整備が必要との認識で一致した。
スマートシティプラットフォームの概念図は,図1のとおりである。スマートシティプラットフォームの上に地方創生を推進するサービスを提供するアプリケーションシステム(以下,アプリという)を実装する。
図1 スマートシティプラットフォーム概念図
API ゲートウェイ層は,API をオープン API として公開する機能を提供する。各 API は,アプリから受け取ったリクエストを適切な共通機能や標準データ基盤にルーティングする。これによってアプリは,共通機能や標準データ基盤の内部仕様を意識せずに構築できる。
共通機能層は,認証や ID 管理,API 管理や開発基盤,オプトイン管理など,アプリが共通で利用する各機能を共通機能として提供する。オプトイン管理は,利用者情報の取得・利用に係る同意を管理する機能である。
標準データ基盤層は,アプリで発生したデータの管理やアプリ間のデータ連携を行う機能を提供する。
〔PoC の実施〕
PoC 協議会は,募集したアイディアの中から,PoC によって実効性を評価する対象として次の三つのアプリを選定し,スマートシティ構想実現に向けた第一歩とすることとした。なお,募集したアイディアの中には,行政システムとのデータ連携によって地方創生を推進するものもあった。PoC 協議会は,将来的には行政の動きも踏まえつつ,今回の PoC の結果も考慮した上で,具体的に行政システムとのデータ連携も検討し,D 市に提言する必要があると考えている。
農村部,観光部,都市部の住民,観光客の間で意見交換や情報共有を行うアプリである。PoC 実施に当たり,コミュニティアプリに意見の登録や交換をするスレッドを,PoC を実施するアプリごとに用意し,アプリの利用者間のコミュニケーションを活性化する。
生産者と実需者をつなぎ,需要と供給をマッチングするアプリである。生産者は,自らの属性情報,農水産物の画像や特徴などを,実需者は,自らの属性情報,店舗の画像や特徴,料理に使う材料や必要量などを地産地消コーディネートアプリへ登録する。
地産地消コーディネートアプリは,実需者のニーズ情報と,生産者が提供する農水産物の情報をマッチングし,候補となる生産者・実需者の組合せを選び出し,生産者・実需者それぞれへ通知する。実需者は,通知された情報の中で気に入った農水産物があれば地産地消コーディネートアプリ内で購入することができる。また,生産者も実需者に対し,追加の農水産物の提案ができる。
利用者情報や利用者の入力情報から AI が利用者の想定される利用目的を判断し,その目的に合った情報をレコメンドするアプリである。実需者が自身のサービスを登録する。大都市圏から来る観光客をメインに,広く市内外の利用者に使用してもらうことを想定している。
観光目的の場合は,おすすめの観光スポットや宿泊施設,飲食店などへの最適なルートや平均的な所要時間などがレコメンドされる。利用者は気に入ればレコメンドアプリから宿泊施設や飲食店の予約ができる。
農水産業体験やリモートワークなどの滞在目的の場合は,滞在可能な宿泊施設や体験可能な農水産業,コワーキングスペースなどがレコメンドされる。利用者は気に入れば,レコメンドアプリから予約をすることができる。
出題趣旨(IPA)
ITストラテジストには,事業環境分析,IT動向分析,ビジネスモデル策定への助言を行い,事業戦略を策定する能力が求められる。本問では,D市を仮想地域としたスマートシティ構想を題材として,社会課題の解決に向けて,地域が一体となってITを活用した地方創生を行うための基本戦略の策定・構想を行う能力を評価する。具体的には,スマートシティ構想を実現するためのプラットフォームの定義,地域の状況に即した課題の定義と解決施策の導出によって,社会課題の解決に向けた実証実験の実施についての実務能力を問う。
採点講評(問全体・IPA)
問2では,地域におけるスマートシティ構想について出題した。全体として正答率は平均的であった。
ITストラテジストは,対象となる事業の環境を分析し,ITを活用して情報戦略の策定する能力を高めてほしい。
設問と解答例
設問1
解答欄2つ
〔スマートシティ構想〕について,E 社が D 市のスマートシティ構想を進める上で,生かそうとした D 市の強み,補強しようとした D 市の弱みは何か。それぞれ 30 字以内で答えよ。
解説
本文の根拠
冒頭
農水産業は D 市の地域経済を支える基幹産業であり,古くから親しまれている農水産物はブランド認定品として広く認知され,大都市圏を中心に流通している。
〔D 市の現状〕(2) 観光部の課題
一方,自然志向の高まりから,D 市の自然観光資源に魅力を感じ,家族や友人などで訪れる少人数の旅行客は増加傾向にある。
〔D 市の現状〕(1) 農村部の課題
大都市圏との取引を優先してきたことから D 市内の他地域との接点がなく,実現できていない。
〔スマートシティ構想〕
地域が一体となって,農水産業資源や自然観光資源を生かしたサービスを提供し D 市の魅力を高めることで,人口の増加を図り,地方創生を目指す。
〔スマートシティ構想〕
E 社は,スマートシティ構想の取組では,農水産業や観光といった様々な分野の環境変化に対応することや,継続的に各分野が協調する必要があると考えている。
強みは,構想の中で「農水産業資源や自然観光資源を生かしたサービスを提供し」とあるとおり,D 市の農水産物と自然観光資源である。農水産物はブランド認定品として広く認知されており,温泉や渓谷などの自然観光資源は少人数の旅行客を呼んでいる。
弱みは,構想が「地域が一体となって」「継続的に各分野が協調する必要がある」としている点の裏返しである。農村部は大都市圏との取引を優先してきたので市内の他地域との接点がない。観光部の特徴あるメニューや都市部の飲食店のメニューも,市内の農水産物が届かないので実現できていない。三つの地域がつながっていないことが,三つの課題に共通する原因になっている。
30字ずつに対し,解答例は強みが「自然観光資源や高品質な農水産物があること」で20字,弱みが「農村部・観光部・都市部が協調できていないこと」で22字。講評によると,弱みに「空き家問題」や「農水産物の利益率の低下」を書いた答えが散見された。これらは特定の地域の課題であり,D 市全体で補強しようとした弱みではない。三つの地域をまとめて主語にする。
採点講評(IPA)
設問1の補強しようとした弱みは,正答率がやや低く,“空き家問題”や“農水産物の利益率の低下”といった解答が散見された。これは,特定の地域に特化した課題であり,D市全体で補強しようとした弱みではないことを理解してほしい。
設問2(1)
解答欄2つ
スマートシティプラットフォームを整備する狙いは何か。二つ挙げ,それぞれ 25 字以内で答えよ。
解説
本文の根拠
〔スマートシティ構想〕
そのため,スマートシティ構想で活用する IT は,変更や拡張が容易で,分野間のデータ連携が可能な仕組みとする必要があると考えた。
〔PoC 協議会の提言〕(1) API ゲートウェイ層
これによってアプリは,共通機能や標準データ基盤の内部仕様を意識せずに構築できる。
〔PoC 協議会の提言〕(3) 標準データ基盤層
標準データ基盤層は,アプリで発生したデータの管理やアプリ間のデータ連携を行う機能を提供する。
スマートシティ構想で活用する IT について,E 社は「変更や拡張が容易で,分野間のデータ連携が可能な仕組みとする必要がある」と考えた。スマートシティプラットフォームはこの IT の土台なので,整備の狙いはこの二つである。
図1の構成もこれに合っている。API ゲートウェイ層があるので,アプリは共通機能や標準データ基盤の内部仕様を意識せずに作れ,アプリを足したり変えたりしやすい(変更・拡張の容易さ)。標準データ基盤層はアプリ間のデータ連携を行う(分野間のデータ連携)。その背景には,農水産業や観光など各分野の環境変化への対応と,各分野の継続的な協調が必要だという考えがある。
25字ずつに対し,解答例は①「変更や拡張を容易にすること」で13字,②「分野間のデータ連携を可能にすること」で17字。講評によると「人が安心して訪れ,暮らし,働くことができる市の実現」のような答えが見受けられた。それはスマートシティ構想全体の目標であって,プラットフォームという IT を整備する狙いではない。
採点講評(IPA)
設問2(1)は,正答率がやや低く“人が安心して訪れ,暮らし,働くことができる市の実現”といった解答が見受けられた。スマートシティプラットフォームといった,ITを整備することによる狙いが何であるかを読み取り解答してほしい。
設問2(2)
35字以内
共通機能層にオプトイン管理機能を実装し利用者情報を取得,利用するのはどのような目的か。35 字以内で答えよ。
解答例
利用者ごとのニーズにより合致したサービスを提供するため
解説
本文の根拠
〔スマートシティ構想〕
また,住民や観光客にサービスを更に利用してもらうためには,利用者ごとのニーズにより合致したサービスを提供する必要があり,そのためには利用者の属性情報,利用履歴情報,位置情報など(以下,利用者情報という)を同意に基づいて取得し,利用することが適切であると考えている。
〔PoC 協議会の提言〕(2) 共通機能層
オプトイン管理は,利用者情報の取得・利用に係る同意を管理する機能である。
オプトイン管理は,利用者情報の取得・利用に係る同意を管理する機能である。利用者情報を同意に基づいて取得・利用する理由は,〔スマートシティ構想〕にそのまま書かれている。「利用者ごとのニーズにより合致したサービスを提供する必要があり,そのためには」利用者情報を同意に基づいて取得し,利用することが適切だ,という流れである。
さらにその先の目的は,住民や観光客にサービスを更に利用してもらうことである。属性や利用履歴,位置に合わせてサービスを出し分けられれば,利用者は自分に合ったサービスを受けられる。
35字に対し,解答例は「利用者ごとのニーズにより合致したサービスを提供するため」で27字。「同意を管理するため」と機能の説明を書くと,利用者情報を取得・利用する目的に答えていないことになる。
設問3(1)
25字以内
コミュニティアプリのレコメンドアプリ用のスレッドにおいて,滞在目的の利用者に対してどのような意見交換を促進すると D 市の人口増加に寄与する可能性があるか。25 字以内で答えよ。
解答例
解説
本文の根拠
〔D 市の現状〕(2) 観光部の課題
大都市圏から来た観光客で,農水産業体験や宿泊体験をした人の中には,D 市で農水産業に従事することに魅力を感じ,実際に市外から移住してきた人もいる。
〔D 市の現状〕(2) 観光部の課題
一方で,移住を考える人の中には,農水産業は熟練のノウハウを必要とするイメージをもち,移住をためらう人もいる。移住経験者との意見交換ができればそのような懸念が払拭され,移住につながる可能性もあるが,実現できていない。
〔PoC の実施〕(3) レコメンドアプリ
農水産業体験やリモートワークなどの滞在目的の場合は,滞在可能な宿泊施設や体験可能な農水産業,コワーキングスペースなどがレコメンドされる。
レコメンドアプリの滞在目的の利用者は,農水産業体験やリモートワークのために D 市に滞在する人である。観光部の課題には,農水産業体験や宿泊体験をした人の中から実際に移住してきた人がいる一方,熟練のノウハウが要るというイメージで移住をためらう人もいると書かれている。
そして「移住経験者との意見交換ができればそのような懸念が払拭され,移住につながる可能性もあるが,実現できていない」とある。コミュニティアプリは住民と観光客が意見交換するアプリなので,スレッドで移住を考える人と移住経験者の意見交換を促せば,移住,つまり D 市の人口増加につながる。
25字に対し,解答例は「移住を考える人と移住経験者との意見交換」で19字。誰と誰の意見交換かを書くのが要点で,「移住経験者」を落とさない。
設問3(2)
15字以内
PoC の実効性を評価する指標のうち,地産地消コーディネートアプリに関する指標を 15 字以内で答えよ。
解答例
解説
本文の根拠
〔PoC の実施〕(2) 地産地消コーディネートアプリ
実需者は,通知された情報の中で気に入った農水産物があれば地産地消コーディネートアプリ内で購入することができる。
〔D 市の現状〕(1) 農村部の課題
D 市の観光部や都市部の宿泊施設や飲食店など(以下,実需者という)に規格外の農水産物を流通できれば,利益率の改善や廃棄の抑制につながる可能性がある
地産地消コーディネートアプリは,生産者と実需者をつなぎ,需要と供給をマッチングするアプリである。マッチングの結果として実際に取引が起きたかどうかは,実需者がアプリ内で農水産物を購入したかどうかで分かる。
農村部の課題は,実需者に農水産物を流通できれば利益率の改善や廃棄の抑制につながるのに,市内の他地域との接点がなく実現できていないことだった。アプリを通じた購入が増えれば,この流通が実現したことを示すので,PoC の実効性を測る指標になる。
15字に対し,解答例は「アプリを利用して購入した件数」で14字。「マッチング件数」では組合せを通知しただけで取引に至ったかが分からないので,購入という実際の行動を数える。
設問3(3)
15字以内
PoC の実効性を評価する指標のうち,レコメンドアプリに関する指標を 15 字以内で答えよ。
解答例
解説
本文の根拠
〔PoC の実施〕(3) レコメンドアプリ
利用者は気に入ればレコメンドアプリから宿泊施設や飲食店の予約ができる。
〔PoC の実施〕(3) レコメンドアプリ
利用者は気に入れば,レコメンドアプリから予約をすることができる。
レコメンドアプリは,利用者の目的に合った情報をレコメンドし,気に入れば観光目的でも滞在目的でもアプリから予約ができる。レコメンドが利用者に役立ったかどうかは,アプリから予約に至ったかで分かる。
予約は,宿泊施設や飲食店,体験可能な農水産業,コワーキングスペースといった,D 市の実需者などのサービスが実際に使われることを意味する。観光客を呼び込み,滞在してもらうという狙いの実効性を測るには,予約の件数が向いている。
15字に対し,解答例は「アプリを利用して予約した件数」で14字。設問3(2)と同じ形で,アプリの中で完結する最終の行動(購入,予約)を数える。
設問3(4)
10字以内
PoC の実効性を評価する指標のうち,スマートシティ構想に関する指標を 10 字以内で答えよ。
解答例
解説
本文の根拠
〔PoC の実施〕
PoC 協議会は,募集したアイディアの中から,PoC によって実効性を評価する対象として次の三つのアプリを選定し,スマートシティ構想実現に向けた第一歩とすることとした。
〔スマートシティ構想〕
また,住民や観光客にサービスを更に利用してもらうためには,利用者ごとのニーズにより合致したサービスを提供する必要があり
スマートシティ構想は,スマートシティプラットフォームの上のアプリを通じてサービスを提供し,D 市の魅力を高めるものである。PoC は三つのアプリで構想実現に向けた第一歩を踏み出す位置付けなので,構想全体の実効性は,アプリがどれだけ使われるかで測れる。
〔スマートシティ構想〕でも「住民や観光客にサービスを更に利用してもらう」ことを重視している。個々のアプリの指標(購入件数,予約件数)とは別に,構想全体としてはアプリを使う人の数を見る。
10字に対し,解答例は「アプリ利用者数」で7字。10字と短いので,個別のアプリに限らない「アプリ」の利用者数とまとめる。
出典:令和5年度 春期 ITストラテジスト試験 午後Ⅰ 問2(表記を一部改変)
問3 アパレル製造小売事業者における新たなビジネスプロセスの構築
アパレル製造小売事業者における新たなビジネスプロセスの構築に関する次の記述を読んで,設問に答えよ。
M 社は,20 代〜30 代を主要顧客とした中堅のアパレル製造小売事業者である。
M 社は,全国の都市部を中心に 100 店舗程度を展開しており,同業他社に先駆けて 15 年前から自社 EC サイト(以下,EC サイトという)を開設して通販にも取り組んできた。また,EC サイトの開設に合わせて,個人顧客の会員向けポイントサービスを開始し,登録会員数は 100 万人を超えている。
会員向けポイントサービスでは,実店舗及び EC サイトでの購買データがデータベース化され,会員の購入金額に応じて実店舗や EC サイトで商品代金として利用可能なポイントを付与しており,ポイントの利用率は高い。
また,M 社では在庫管理システムで,実店舗や倉庫の在庫データを管理している。
〔M 社の事業概要と課題〕
M 社は,世界のファッション見本市から半年先の流行を予測し,春物,夏物,秋物,冬物の年 4 回のシーズンごとに商品開発を行い,販売している。生産は自社工場で行っており,近年設備投資を行い,短納期での多品種少量生産にも対応可能になった。
M 社の商品開発は,従来は手書きのデザイン案を基にした実物サンプル品を作成し,実物サンプル品を人間のモデルが着用してデザインの確認と修正を行ってきた。手書きのデザイン作成は,デザイナー1 人当たり 1 日 1 件程度が限界である。M 社は,自社工場の生産に関する設備投資に合わせて,デザイン案とサンプル品をデジタルデータで作成し,人物画像とサンプル品を合成して確認と修正が可能なデザイン支援システムをベンチャー企業と共同開発した。これによって,デザインの作成効率は 4 倍程度にまで向上している。
また,M 社は,若手デザイナーを積極的に登用し,若手デザイナーが流行を的確に捉えた商品を開発することによって,顧客に評価され,売上げを伸ばしてきた。しかし,最近では情報流通速度の高まりによって流行がシーズン期間中に変化するようになり,特にシーズン後半の売上げが停滞するようになった結果,M 社全体として売上げが減少傾向にある。これによって,M 社の経営状況は悪化してきており,大きな経営課題となっている。
〔会員アンケートの結果〕
M 社は,顧客のニーズや体験を把握し直し,現状の経営課題に対する解決策の検討を目的として,会員に対して大規模かつ詳細なアンケート(以下,会員アンケートという)を実施した。その結果を分析したところ,次のような傾向が確認できた。
流行をいち早く取り入れながらも他人と異なるファッションに魅力を感じるという会員が多かった。 シーズン中に商品の入替えがなく,シーズン後半になるとその時点の流行を捉えた商品が見つからなくなるという意見が多かった。 販売するデザインに会員の意見を取り入れてほしいという意見が多かった。 EC サイトによる通販では,気になった商品をとりあえず買い物カゴに入れて,今後購入したい商品リストのように使用するが,購入しようと思ったときには品切れになっていて残念だったという体験を有する会員が多かった。 EC サイトによる通販で購入した商品を実際に着用してみると,想像していたイメージと異なるという理由で返品した体験を有する会員が多かった。 M 社は,現状の経営課題を解決するために,会員アンケートの分析結果を踏まえた検討を行った結果,顧客体験価値(UX)の向上が必須であると考え,新たなビジネスプロセスを構築することとした。ただし,新たなビジネスプロセスの構築は M 社には大きな投資となるので,慎重な進め方をする必要がある。
〔新たなビジネスプロセスと実現策〕
新たなビジネスプロセスでは,自社の強みを生かし,“最新を最短で”をコンセプトとして,1 か月ごとの短期サイクルで,デザイン案に対する会員の投票や感想を基に多品種少量の新商品を市場に投入することとした。
新しいビジネスプロセスの実現には,デザイン案に対する会員からの投票や感想を限られた期間で収集する仕組みが必要となる。また,デザイン案を効率的に作成する能力や短期間で商品を生産する能力も求められる。
新しいビジネスプロセスでは,1 か月サイクルの新商品の市場投入を実現するために,次のようなプロセスを採用することとした。
① 若手デザイナーが新しいデザイン案を常に作成し,大量にストックする。 ② 常にストックされ続けるデザイン案の中から,翌月に販売するデザインの候補(以下,候補デザインという)を一定数選択する。 ③ 過去 3 か月間に商品の購入で得た獲得ポイント上位の会員を投票者として選定し,販売開始の 4 週間前から,候補デザインの中から着てみたいものに投票してもらうと同時に,候補デザインに対する感想も提供してもらう。 ④ 投票や感想の提供を行った会員にはポイントを付与する。 ⑤ 販売開始 2 週間前の時点で投票や感想の提供を締め切り,実際に販売するデザインを選定し,2 週間で生産して販売する。 ⑥ 翌月以降は,②〜⑤を繰り返す。 M 社は,経営会議において新たなビジネスプロセスの構築を決定した。CTO(Chief Technology Officer)である Y 氏は,IT 企画室に対し,このプロセスを実現するために必要なデジタル技術を活用した施策の検討(以下,デジタル活用施策という)及び検討した施策の実行計画の策定を指示した。ただし,経営会議では,経営層が“施策に対する投資については,施策の投資効果を検証しながら段階的に行うこと”という条件をつけている。
M 社の IT 企画室のリーダーである X 氏は,次の 2 点を開発する施策を立案した。
会員から感想の収集や投票の受け付けを可能とする,モバイルデバイスで利用する EC サイトの機能を拡張したアプリケーションプログラム(以下,モバイルアプリという) 既存のデータやモバイルアプリを通じて新たに得られるデータを活用するためのデータ分析基盤 〔デジタル活用施策の概要〕
モバイルアプリとデータ分析基盤それぞれの機能の概要は次のとおりである。
会員は,モバイルアプリ内で商品を選択して商品イメージや仕様を確認できる。 会員は,商品の感想を“好き・嫌い”のボタンとテキストのコメントで送信できる。 会員は,気に入った商品が見つかった場合は,買い物カゴに入れたり,購入したりできる。 会員に対してモバイルアプリからメッセージをプッシュ通知できる。 候補デザインの投票者に選ばれた会員(以下,投票者という)に対して,投票者に選ばれた旨と投票期限の通知を行い,候補デザインへの投票を促すことができる。 投票者は,モバイルアプリから通知を受けて,着てみたい候補デザインを選択することによって投票できる。 投票者は,候補デザインについても商品と同様に感想を送信できる。 データ分析基盤には,会員データ,購買データ,在庫データ,買い物カゴデータ,モバイルアプリからの投票結果データと感想データが蓄積できる。 投票者からの候補デザインに対する投票結果データ及び感想データを分析し,候補デザインを評価できる。 ㋐商品に対する感想データから会員の好みを分析し,その会員の好みに合い,かつ,他の会員があまり購入していない商品情報をメッセージとして自動生成し,モバイルアプリに連携できる 。〔CTO からのコメント〕
M 社の CTO である Y 氏は,X 氏の提案に対し,次の指摘を行った。
① 施策をある期間実施して投資効果の検証を行うこと。 ② 会員アンケートの分析結果を踏まえて,モバイルアプリによる通販の UX を高める対策を追加で検討すること。 X 氏は,指摘①を考慮して,施策の実行計画を立案した。指摘②に対しては,次の二つの対策を立案した。
ほぼ全てのモバイルデバイスにカメラが装備されている現状を踏まえて,モバイルアプリに M 社が導入しているデザイン支援システムの“人物画像とデジタルデータのサンプル品を合成する技術”を応用した機能を追加する。 買い物カゴの利用方法に関連して,データ分析基盤からあるメッセージを生成し,会員に通知する。
出題趣旨(IPA)
ITストラテジストには,対象となる事業・業務環境の調査・分析を行い,情報システム戦略や全体システム化計画を策定する能力が求められる。本問では,アパレル製造小売事業者を題材として,新たなビジネスプロセスを構築するためのITを活用した施策立案能力を評価する。具体的には,課題を把握する能力,課題に合わせた施策を立案する能力,施策に対する適切な実行計画を検討する能力を問う。
採点講評(問全体・IPA)
問3では,アパレル製造小売事業者を題材として,新たなビジネスプロセスを構築するためのITを活用した施策立案について出題した。全体として正答率は平均的であった。
ITストラテジストは,企業の経営課題及び顧客のニーズや不満を適切に捉えた上で,自社の強みを生かすITの活用施策を策定する能力を高めてほしい。
設問と解答例
設問1
15字以内
〔会員アンケートの結果〕について,M 社が新たなビジネスプロセスを構築することによって,どのような目的を達成しようとしたか。15 字以内で答えよ。
解答例
解説
本文の根拠
〔M 社の事業概要と課題〕
これによって,M 社の経営状況は悪化してきており,大きな経営課題となっている。
〔会員アンケートの結果〕
M 社は,顧客のニーズや体験を把握し直し,現状の経営課題に対する解決策の検討を目的として,会員に対して大規模かつ詳細なアンケート(以下,会員アンケートという)を実施した。
〔会員アンケートの結果〕
M 社は,現状の経営課題を解決するために,会員アンケートの分析結果を踏まえた検討を行った結果,顧客体験価値(UX)の向上が必須であると考え,新たなビジネスプロセスを構築することとした。
新たなビジネスプロセスは「現状の経営課題を解決するために」構築するものである。UX の向上はそのための手段として必須とされているにすぎず,達成したい目的は経営課題の解決にある。
その経営課題は〔M 社の事業概要と課題〕の最後にある。流行がシーズン中に変わるようになってシーズン後半の売上げが停滞し,全体の売上げが減って「M 社の経営状況は悪化してきており,大きな経営課題となっている」。したがって目的は,経営状況の悪化を防ぐことになる。
15字に対し,解答例は「経営状況の悪化を防ぐこと」で12字。「UX を向上させること」と書くと手段を答えたことになる。字数が少ないので,本文の「経営状況は悪化」をそのまま使って目的の形にまとめる。
設問2
解答欄2つ
〔新たなビジネスプロセスと実現策〕について,新たなビジネスプロセスを実現するために活用すべき M 社の強みを,商品開発面と生産面からそれぞれ 30 字以内で答えよ。
解説
本文の根拠
〔M 社の事業概要と課題〕
生産は自社工場で行っており,近年設備投資を行い,短納期での多品種少量生産にも対応可能になった。
〔M 社の事業概要と課題〕
また,M 社は,若手デザイナーを積極的に登用し,若手デザイナーが流行を的確に捉えた商品を開発することによって,顧客に評価され,売上げを伸ばしてきた。
〔新たなビジネスプロセスと実現策〕
新たなビジネスプロセスでは,自社の強みを生かし,“最新を最短で”をコンセプトとして,1 か月ごとの短期サイクルで,デザイン案に対する会員の投票や感想を基に多品種少量の新商品を市場に投入することとした。
〔新たなビジネスプロセスと実現策〕
また,デザイン案を効率的に作成する能力や短期間で商品を生産する能力も求められる。
新たなビジネスプロセスは「自社の強みを生かし」て,1 か月ごとに多品種少量の新商品を市場に投入する。求められる能力として,デザイン案を効率的に作成する能力と,短期間で商品を生産する能力が挙がっている。それぞれ商品開発面と生産面に当たる。
商品開発面の強みは,流行を的確に捉えた商品を開発して顧客に評価されてきた若手デザイナーである。プロセスの①でも,若手デザイナーが新しいデザイン案を常に作成する。生産面の強みは,設備投資によって短納期での多品種少量生産に対応できるようになった自社工場である。⑤の「2 週間で生産して販売する」を支える。
30字ずつに対し,解答例は商品開発が「流行を的確に捉えた商品開発ができる若手デザイナー」で24字,生産が「短納期で多品種少量生産に対応できる自社工場」で21字。講評によると,生産面は正答率が高かったが,商品開発の強みを生産面として捉えた答えが見受けられた。商品開発と生産はバリューチェーン上の別の活動なので,デザインに関わる強みは商品開発の欄に書く。
採点講評(IPA)
設問2では,商品開発面と生産面のそれぞれを問うた。生産面は,正答率が高かった。一方で,商品開発に関する強みを生産面として捉えている解答も見受けられた。製造業のバリューチェーン上において,商品開発と生産が異なる活動であるということを理解してほしい。
設問3(1)
30字以内
候補デザインに対して,より多くの投票や感想を集めるための施策を 30 字以内で答えよ。
解答例
投票や感想の提供を行った会員にポイントを付与する。
解説
本文の根拠
〔新たなビジネスプロセスと実現策〕
④ 投票や感想の提供を行った会員にはポイントを付与する。
冒頭
会員向けポイントサービスでは,実店舗及び EC サイトでの購買データがデータベース化され,会員の購入金額に応じて実店舗や EC サイトで商品代金として利用可能なポイントを付与しており,ポイントの利用率は高い。
新しいビジネスプロセスでは,デザイン案に対する会員の投票や感想を「限られた期間で収集する仕組み」が必要になる。より多くの投票や感想を集める施策は,プロセスの④「投票や感想の提供を行った会員にはポイントを付与する」である。
M 社のポイントは実店舗や EC サイトで商品代金として使え,「ポイントの利用率は高い」。会員にとってポイントは魅力のある見返りなので,投票や感想の提供にポイントを付ければ,協力する会員が増えると考えられる。
30字に対し,解答例は「投票や感想の提供を行った会員にポイントを付与する。」で25字。誰に(投票や感想の提供を行った会員に)何をするか(ポイントを付与する)を書く。モバイルアプリの通知で投票を促すことも本文にあるが,それは投票者への連絡の手段で,協力の動機付けにはならない。
設問3(2)
35字以内
データ分析基盤において,本文中の下線㋐の機能を実装した目的を 35 字以内で答えよ。
解答例
他人と異なるファッションに魅力を感じる会員のニーズを満たすため
解説
本文の根拠
〔デジタル活用施策の概要〕(2) データ分析基盤
㋐商品に対する感想データから会員の好みを分析し,その会員の好みに合い,かつ,他の会員があまり購入していない商品情報をメッセージとして自動生成し,モバイルアプリに連携できる。
〔会員アンケートの結果〕
流行をいち早く取り入れながらも他人と異なるファッションに魅力を感じるという会員が多かった。
下線㋐の機能は,会員の好みに合い,かつ「他の会員があまり購入していない」商品を知らせる。好みに合う商品を勧めるだけなら普通のレコメンドだが,他の会員があまり買っていないという条件が付いているところに狙いがある。
この条件は,会員アンケートの「他人と異なるファッションに魅力を感じるという会員が多かった」に対応している。他の会員が持っていない商品を勧めれば,他人と違う装いをしたい会員のニーズを満たせる。
35字に対し,解答例は「他人と異なるファッションに魅力を感じる会員のニーズを満たすため」で31字。「会員の好みに合う商品を勧めるため」だけでは,他の会員があまり購入していないという条件の意味が抜ける。アンケートの言い回しを使って,どのニーズを満たすのかを書く。
設問4(1)
20字以内
Y 氏の指摘①について,Y 氏が,“施策をある期間実施して投資効果の検証を行うこと。”と指摘した理由を 20 字以内で答えよ。
解答例
解説
本文の根拠
〔新たなビジネスプロセスと実現策〕
ただし,経営会議では,経営層が“施策に対する投資については,施策の投資効果を検証しながら段階的に行うこと”という条件をつけている。
〔会員アンケートの結果〕
ただし,新たなビジネスプロセスの構築は M 社には大きな投資となるので,慎重な進め方をする必要がある。
経営会議で経営層は「施策の投資効果を検証しながら段階的に行うこと」という条件を付けている。Y 氏の指摘①は,この条件に沿って,施策をある期間実施して投資効果を確かめてから次の投資に進むよう求めたものである。
その背景には,新たなビジネスプロセスの構築が M 社にとって大きな投資であり,慎重に進める必要があることがある。一度に全額を投じるのではなく,効果を見ながら段階的に投資するためには,期間を区切った検証が要る。
20字に対し,解答例は「段階的に投資を行う必要があるから」で16字。「投資効果を確認するため」と書くと指摘の言い換えになるので,なぜ検証が要るのか(段階的に投資する条件)を理由として書く。
設問4(2)
35字以内
Y 氏の指摘②について,X 氏が,モバイルアプリに機能を追加することによって応えられると考えた会員のニーズは何か。35 字以内で答えよ。
解答例
想像していたイメージどおりの商品を購入したいというニーズ
解説
本文の根拠
〔会員アンケートの結果〕
EC サイトによる通販で購入した商品を実際に着用してみると,想像していたイメージと異なるという理由で返品した体験を有する会員が多かった。
〔CTO からのコメント〕
ほぼ全てのモバイルデバイスにカメラが装備されている現状を踏まえて,モバイルアプリに M 社が導入しているデザイン支援システムの“人物画像とデジタルデータのサンプル品を合成する技術”を応用した機能を追加する。
X 氏が追加する機能は,モバイルデバイスのカメラと,デザイン支援システムの「人物画像とデジタルデータのサンプル品を合成する技術」を組み合わせたものである。会員は自分の画像に商品を合成して,着用した姿を購入前に確かめられる。
指摘②は会員アンケートを踏まえて通販の UX を高めるよう求めている。アンケートには,通販で買った商品を着てみたら「想像していたイメージと異なる」ので返品した体験をもつ会員が多かった。着用姿を事前に確かめられれば,イメージどおりの商品を買いたいというニーズに応えられる。
35字に対し,解答例は「想像していたイメージどおりの商品を購入したいというニーズ」で28字。アンケートの不満(イメージと異なる)を裏返して,ニーズの形で書く。
設問4(3)
30字以内
Y 氏の指摘②について,買い物カゴの利用方法に関連して,会員にどのようなメッセージを通知するべきか。30 字以内で答えよ。
解答例
買い物カゴの商品の在庫が少なくなったというメッセージ
解説
本文の根拠
〔会員アンケートの結果〕
EC サイトによる通販では,気になった商品をとりあえず買い物カゴに入れて,今後購入したい商品リストのように使用するが,購入しようと思ったときには品切れになっていて残念だったという体験を有する会員が多かった。
〔デジタル活用施策の概要〕(2) データ分析基盤
データ分析基盤には,会員データ,購買データ,在庫データ,買い物カゴデータ,モバイルアプリからの投票結果データと感想データが蓄積できる。
買い物カゴの利用方法について,会員アンケートには,気になった商品を買い物カゴに入れて購入したい商品リストのように使うが,買おうとしたときには品切れになっていて残念だった,という体験が多く挙がっている。
データ分析基盤には在庫データと買い物カゴデータの両方が蓄積されるので,買い物カゴに入っている商品の在庫が少なくなったことを判定できる。そのときに会員へ知らせれば,品切れになる前に購入でき,残念な体験を防げる。
30字に対し,解答例は「買い物カゴの商品の在庫が少なくなったというメッセージ」で26字。講評によると「買い物カゴに購入されていない商品が残っていること」や「在庫状況を通知する」という答えが散見された。前者は品切れの体験に結び付かず,後者は何を知らせるのかがあいまいである。買い物カゴの商品について,在庫が少なくなったことを知らせると書く。
採点講評(IPA)
設問4(3)では,“買い物カゴに購入されていない商品が残っていること”や“在庫状況を通知する”という解答が散見された。“購入しようと思ったときには品切れになっていて残念だった”という顧客体験とデータ分析基盤に在庫データが連携されていることを踏まえて解答してほしい。
出典:令和5年度 春期 ITストラテジスト試験 午後Ⅰ 問3(表記を一部改変)
問4 モーションシミュレーターの事業展開
モーションシミュレーターの事業展開に関する次の記述を読んで,設問に答えよ。
F 社は,センサーや筐体,機械製品などを対象とした実験・試験装置の設計,製造販売,据付工事を行うメーカーで,動揺や振動を模擬するモーションシミュレーターを主力製品としている。
モーションシミュレーターは,対象品に対し,外部から動きを与える装置である。
F 社のモーションシミュレーターは,台を支持する 6 本の電動シリンダを伸縮させることで,台に載せた対象品に対して前後(X 軸),左右(Y 軸),上下(Z 軸)方向の動きと,左右方向の傾き(ロール),前後方向の傾き(ピッチ),左右方向の回転(ヨー)の,空間 6 自由度の動きを自在に作り出す装置である。
F 社のモーションシミュレーターを図1に示す。
図1 F 社のモーションシミュレーター
F 社のモーションシミュレーターは,最大搭載質量 500kg の比較的小型の製品であり,ジャイロセンサーや慣性センサーなどの性能計測と校正,及び筐体や機械製品などの強度計測を目的とした実験・試験装置で,設定したシナリオに従って台を動かす機能をもち,自由度と精度の高さで他社に秀でている。
F 社は,今後見込まれる市場の要求を分析して,保有技術を生かした新たな製品を開発して市場に投入することで,より高い業績を目指すことを方針とした。
〔モーションシミュレーターの役割〕
一般的にモーションシミュレーターは,開発用と訓練用に分けられる。
開発用のモーションシミュレーターは,性能の検討や設計上のデータを得るために用いられる。ただし,近年は,現実の世界をモデル化し,コンピュータ上でシミュレーションして設計上のデータを得る手法で開発を進めることが多い。空飛ぶクルマなど,今後実現される製品の多くはコンピュータ上のシミュレーションによって開発が進められるものと考えられている。
訓練用のモーションシミュレーターは,実物では技術的又は経済的に困難な条件を何度も自由に再現でき,実物での訓練よりも経済面・安全面で勝るので,航空機の操縦訓練やレーシングドライバーの養成などに活用される例が多い。
航空機の訓練用モーションシミュレーターは,航空機メーカーが重工業メーカーと協業して開発したものが多く,航空機メーカーと重工業メーカーの保有技術に基づいた歴史ある製品となっている。
自動車の訓練用モーションシミュレーターは,一般の運転者向けの製品は例が少ないが,レーシングドライバーやレーシングゲーム愛好者が車の性能を限界まで引き出す運転技術を磨くことを目的とした製品があり,自由度と精度は限定的であるが,運転者が行った操作の体感へのフィードバックなど,車種ごとの性能や特徴を体感できる機能を備えている。
〔市場分析〕
F 社の IT ストラテジストである B 氏は,自社の方針に従い,保有技術が生かせると見込まれる市場を調査した結果,政府が“空の移動革命に向けたロードマップ”を示したことで,2020 年代後半から急速に輸送サービスの拡大が想定される空飛ぶクルマの市場が,F 社の新たな事業領域として有望と考えた。そして,現時点で想定される空飛ぶクルマに期待される構想と活用シーンを調べ,次に示すとおり整理した。
2030 年代頃に,操縦者不要な自動操縦も実用化することが想定される。 操縦者不要な自動操縦は,専用の離着陸場で離着陸することを前提としている。 操縦者不要な自動操縦の実用化までは,操縦支援を受けながら,操縦者の操縦で飛行する必要があり,専用の操縦免許が設定される見込みである。 空飛ぶクルマは,機種ごとに操縦方法や性能・特性が異なるので,操縦免許は教習を受けた機種ごとに限定する方向で政府が検討を進めている。 操縦者が操縦する空飛ぶクルマには,旅客輸送で操縦者が搭乗して操縦する場合と,荷物輸送で操縦者が遠隔から操縦する場合が想定されている。 旅客輸送で操縦者が搭乗して操縦する場合は,空間 6 自由度に対する精度の高い操縦が求められると想定される。 荷物輸送で操縦者が遠隔から操縦する場合は,飛行時間の多くを占める巡航を自動操縦にすることを前提に,離着陸時などは 1 人の操縦者で複数の空飛ぶクルマを切り替えながら,視覚情報だけを基に操縦することも想定されている。 航続時間 1 時間程度,飛行速度 100km/時程度の性能を想定している。 都市内の移動では,地上の道路の混雑に対して,空を飛ぶことによって信号待ちや渋滞を避けることができ,短時間での移動が可能となる。 離島や山間地域など,過疎地で公共交通機関を維持できない地域が増えているが,そうした場所でも必要時に容易に過疎地の人の移動が可能となる。 災害時・緊急時に,医者や被災者,急病人やけが人,物資などを運ぶ活用シーンも期待されている。 B 氏が調べたところ,現在,災害時・緊急時に活用されている消防防災ヘリ及びドクターヘリの航続時間は 2.5 時間程度,飛行速度 230km/時程度の性能で,厳しい気象条件と場所での運用も強いられている。特に,突風や視界不良などの厳しい気象条件における姿勢維持や不特定の場所における離着陸では,視界だけでなく,機体の移動や動揺を体感しながら操縦する必要があり,対応できる操縦技能の高い操縦士が不足していること,操縦士の配備にコストが多く掛かっていることが分かった。
市場分析の結果,B 氏は,空飛ぶクルマの操縦訓練をするためのモーションシミュレーターを新製品として開発することがよいと考えた。
また,B 氏は,消防防災ヘリ及びドクターヘリに加えて,空飛ぶクルマを災害時・緊急時を想定したシーンに活用する場合は,その特性を考慮すると,現在の消防防災ヘリ及びドクターヘリよりも多くの拠点に配備される必要があると考えた。
〔要求仕様の定義〕
B 氏は,空飛ぶクルマの訓練用モーションシミュレーターに対する機能・要求を分析し,次のように整理した。
視界だけでなく,機体の移動や動揺も体感しながらの訓練ができること 操縦者の操縦結果を,視覚情報や空間 6 自由度の動きに加え,操縦桿やペダルなどの操縦装置の反力にもフィードバックすること 空飛ぶクルマの機種ごとの性能・特性を再現できること 〔製品技術の分析〕
B 氏は,システムアーキテクトの C 氏に,空飛ぶクルマの訓練用モーションシミュレーターの開発に必要となる技術の分析を依頼した。
C 氏は分析結果を次のようにまとめて報告した。
視界は AR ゴーグルを用いれば体感させることができる。 機体の移動や動揺を体感させるようにするには,実機と同じ操縦席及び操縦装置を F 社のモーションシミュレーターに載せて動かせばよい。 空飛ぶクルマの機種ごとの性能・特性を再現するために設計上のデータが必要だが,空飛ぶクルマにモーションシミュレーターで外力を与え,空飛ぶクルマがどのような反応,挙動を示すかを計測して設計上のデータを得ようとすると相当時間が掛かる。 操縦者の操縦結果を,視覚情報や移動,動揺に加え,操縦桿やペダルなどの操縦装置の反力に与えるためのフィードバックの制御技術の開発は,F 社では難しい。 〔新製品の検討〕
B 氏は,F 社の新製品として,空飛ぶクルマの開発を進めているメーカーとの協業,及びレーシングゲーム用のモーションシミュレーターを作る国内メーカーとの技術提携を前提として,空飛ぶクルマの操縦訓練をするためのモーションシミュレーターを開発する事業提案を取りまとめた。
B 氏は,今後見込まれる市場の要求として操縦訓練をするためのモーションシミュレーター以外に空飛ぶクルマの荷物輸送の遠隔操縦システムもあると分析したが,F 社の保有技術を生かせないと考え新製品の対象から外した。
〔将来の事業展開〕
B 氏は,将来の発展的な製品として,空飛ぶクルマの操縦訓練をするためのモーションシミュレーターに機能を加え,災害時・緊急時を想定した空飛ぶクルマの遠隔操縦の訓練用システムを考えた。
B 氏は,災害時・緊急時を想定した空飛ぶクルマの活用における遠隔操縦は,操縦者不要な自動操縦の実用化に至った後も残ると考え,将来の事業展開の方針として,災害時・緊急時を想定した空飛ぶクルマの遠隔操縦の訓練用システムを開発し,販売することにした。また,災害時・緊急時を想定した空飛ぶクルマの遠隔操縦の訓練用システムを販売することで,現在の市場における問題を改善できると考えた。
出題趣旨(IPA)
ITストラテジストには,自社の事業方針を踏まえ,社会状況や市場を分析して将来性が見込める事業を想定した新製品を企画する能力,更には,将来,別の市場に合う製品としてどのように発展させるかといった事業戦略を立案する能力が求められる。本問では,実験・試験装置の製造販売メーカーにおけるモーションシミュレーターの事業展開を題材として,空飛ぶクルマなどの市場動向を踏まえ,将来構想を分析する能力,それを基に新たな製品を企画して要求仕様を定義する能力,協業する企業との関係構築を含む事業戦略を策定する能力を問う。
採点講評(問全体・IPA)
問4では,実験・試験装置メーカーにおける事業展開について出題した。全体として正答率は平均的であった。
ITストラテジストは,社会の要求と市場の動向を時間軸も含めて分析し,企業がもつ強みが生かせる製品を立案する能力,事業の将来性を踏まえた上で戦略的な事業計画を立案し,推進する能力をともに高めてほしい。
設問と解答例
設問1(1)
25字以内
B 氏が,市場分析の結果,空飛ぶクルマの操縦訓練をするためのモーションシミュレーターを新製品として開発することがよいと考えるに至った,F 社主力製品の技術面の特徴は何か。25 字以内で答えよ。
解答例
解説
本文の根拠
冒頭
設定したシナリオに従って台を動かす機能をもち,自由度と精度の高さで他社に秀でている。
〔市場分析〕(1) 空飛ぶクルマに期待される構想
旅客輸送で操縦者が搭乗して操縦する場合は,空間 6 自由度に対する精度の高い操縦が求められると想定される。
F 社の主力製品のモーションシミュレーターは,空間 6 自由度の動きを作り出す装置で,「自由度と精度の高さで他社に秀でている」。これが技術面の特徴である。
市場分析では,旅客輸送で操縦者が搭乗して操縦する空飛ぶクルマには「空間 6 自由度に対する精度の高い操縦」が求められると想定されている。その操縦訓練には,6 自由度の動きを高い精度で再現できる装置が要る。F 社の特徴がそのまま生きるので,B 氏は操縦訓練用のモーションシミュレーターを新製品に選んだ。
25字に対し,解答例は「自由度と精度の高さで他社に秀でている。」で19字。講評によると,モーションシミュレーターの一般的な機能(外部から動きを与える,6 自由度の動きを作り出すなど)を答えるにとどまり,F 社主力製品の特徴に言及していない答えが散見された。他社との違い(自由度と精度の高さで秀でている)を書く。
採点講評(IPA)
設問1(1)は,正答率がやや低かった。モーションシミュレーターの一般的な機能を答えるにとどまり,F社主力製品の特徴に言及していない解答が散見された。設問で求められている内容と,製品の特徴をよく理解して解答してほしい。
設問1(2)
40字以内
B 氏が,空飛ぶクルマを災害時・緊急時を想定したシーンに活用する場合は現在の消防防災ヘリ及びドクターヘリよりも多くの拠点に配備される必要があると考えたのはなぜか。40 字以内で答えよ。
解答例
消防防災ヘリ及びドクターヘリに比べ,航続時間が短く速度が遅いから
解説
本文の根拠
〔市場分析〕(1) 空飛ぶクルマに期待される構想
航続時間 1 時間程度,飛行速度 100km/時程度の性能を想定している。
〔市場分析〕
B 氏が調べたところ,現在,災害時・緊急時に活用されている消防防災ヘリ及びドクターヘリの航続時間は 2.5 時間程度,飛行速度 230km/時程度の性能で,厳しい気象条件と場所での運用も強いられている。
空飛ぶクルマの性能は,航続時間 1 時間程度,飛行速度 100km/時程度と想定されている。一方,消防防災ヘリ及びドクターヘリは,航続時間 2.5 時間程度,飛行速度 230km/時程度である。空飛ぶクルマは,航続時間も速度もヘリの半分以下である。
航続時間が短く速度が遅ければ,1 か所の拠点から行って帰って来られる範囲は狭くなる。同じ地域を受け持つには,拠点を細かく置く必要がある。これが「その特性を考慮すると」多くの拠点に配備する必要があるという理由である。
40字に対し,解答例は「消防防災ヘリ及びドクターヘリに比べ,航続時間が短く速度が遅いから」で32字。比べる相手(消防防災ヘリ及びドクターヘリ)と,航続時間と速度の二つを入れる。どちらか一方だけでは本文の数値の比較を使い切っていない。
設問2(1)
20字以内
B 氏が,F 社の新製品を開発するに当たり,空飛ぶクルマの開発メーカーとの協業を前提とした技術面の目的は何か。20 字以内で答えよ。
解答例
解説
本文の根拠
〔製品技術の分析〕
空飛ぶクルマの機種ごとの性能・特性を再現するために設計上のデータが必要だが,空飛ぶクルマにモーションシミュレーターで外力を与え,空飛ぶクルマがどのような反応,挙動を示すかを計測して設計上のデータを得ようとすると相当時間が掛かる。
〔モーションシミュレーターの役割〕
空飛ぶクルマなど,今後実現される製品の多くはコンピュータ上のシミュレーションによって開発が進められるものと考えられている。
要求仕様には「空飛ぶクルマの機種ごとの性能・特性を再現できること」があり,そのためには設計上のデータが必要である。C 氏の分析では,F 社のモーションシミュレーターで空飛ぶクルマに外力を与えて計測する方法では,データを得るのに相当時間が掛かる。
一方で,空飛ぶクルマはコンピュータ上のシミュレーションで開発が進められると考えられており,設計上のデータは開発しているメーカーの側にある。空飛ぶクルマの開発メーカーと協業すれば,そのデータを得られる。これが協業の技術面の目的である。
20字に対し,解答例は「設計上のデータを得るため」で12字。「機種ごとの性能・特性を再現するため」だと要求仕様の繰り返しになり,協業で何を手に入れるのかが抜ける。
設問2(2)
35字以内
B 氏が,レーシングゲーム用のモーションシミュレーターを作る国内メーカーとの技術提携を前提とした技術面の理由は何か。35 字以内で答えよ。
解答例
フィードバックの制御技術の開発はF社では難しいから
解説
本文の根拠
〔製品技術の分析〕
操縦者の操縦結果を,視覚情報や移動,動揺に加え,操縦桿やペダルなどの操縦装置の反力に与えるためのフィードバックの制御技術の開発は,F 社では難しい。
〔モーションシミュレーターの役割〕
自由度と精度は限定的であるが,運転者が行った操作の体感へのフィードバックなど,車種ごとの性能や特徴を体感できる機能を備えている。
要求仕様には,操縦結果を操縦桿やペダルなどの操縦装置の反力にもフィードバックすることがある。C 氏の分析によると,このフィードバックの制御技術の開発は F 社では難しい。
レーシングゲーム愛好者などに向けた自動車の訓練用モーションシミュレーターは,自由度と精度は限定的だが,運転者の操作の体感へのフィードバック機能を備えている。F 社に足りないフィードバックの技術をこうしたメーカーがもっているので,技術提携を前提にした。
35字に対し,解答例は「フィードバックの制御技術の開発はF社では難しいから」で25字。理由を問われているので,相手の技術をほめるより,F 社に何が足りないのか(フィードバックの制御技術)を書く。
設問2(3)
25字以内
B 氏が,F 社の保有技術を生かせないと考え新製品の対象から外した理由となる,空飛ぶクルマの荷物輸送の遠隔操縦システムの特徴は何か。25 字以内で答えよ。
解答例(2通り)
視覚情報だけを基に操縦する。 操縦に移動の体感が不要
解説
本文の根拠
〔市場分析〕(1) 空飛ぶクルマに期待される構想
荷物輸送で操縦者が遠隔から操縦する場合は,飛行時間の多くを占める巡航を自動操縦にすることを前提に,離着陸時などは 1 人の操縦者で複数の空飛ぶクルマを切り替えながら,視覚情報だけを基に操縦することも想定されている。
冒頭
動揺や振動を模擬するモーションシミュレーターを主力製品としている。
F 社の保有技術は,動揺や振動を模擬するモーションシミュレーター,つまり体に動きを感じさせる技術である。荷物輸送の遠隔操縦では,操縦者は機体に乗らず,「視覚情報だけを基に操縦する」ことが想定されている。
視覚情報だけで操縦するなら,機体の移動や動揺を操縦者に体感させる必要がない。F 社のモーションシミュレーターが作り出す動きは使い道がないので,保有技術を生かせないと判断したのである。
25字に対し,解答例は「視覚情報だけを基に操縦する。」(14字)と「操縦に移動の体感が不要」(11字)の二つで,どちらを書いてもよい。前者は本文の言い回し,後者はその意味(体感が要らない)を書いたもので,同じことを表から言うか裏から言うかの違いである。
設問3(1)
30字以内
B 氏が,災害時・緊急時を想定した空飛ぶクルマの活用における遠隔操縦は,操縦者不要な自動操縦の実用化に至った後も残ると考えたのはなぜか。30 字以内で答えよ。
解答例(2通り)
厳しい気象条件と場所での運用を強いられるから 機体の移動や動揺を体感しながら操縦する必要がある。
解説
本文の根拠
〔市場分析〕(1) 空飛ぶクルマに期待される構想
操縦者不要な自動操縦は,専用の離着陸場で離着陸することを前提としている。
〔市場分析〕
B 氏が調べたところ,現在,災害時・緊急時に活用されている消防防災ヘリ及びドクターヘリの航続時間は 2.5 時間程度,飛行速度 230km/時程度の性能で,厳しい気象条件と場所での運用も強いられている。
〔市場分析〕
特に,突風や視界不良などの厳しい気象条件における姿勢維持や不特定の場所における離着陸では,視界だけでなく,機体の移動や動揺を体感しながら操縦する必要があり
操縦者不要な自動操縦は「専用の離着陸場で離着陸すること」を前提としている。ところが災害時・緊急時の運用では,厳しい気象条件と場所での運用を強いられ,突風や視界不良の中での姿勢維持や,不特定の場所での離着陸がある。こうした場面は自動操縦の前提から外れるので,人の操縦が残る。
しかもその操縦は,視界だけでなく機体の移動や動揺を体感しながら行う必要がある。自動操縦が実用化されても,こうした判断は人が担うことになる。
30字に対し,解答例は「厳しい気象条件と場所での運用を強いられるから」(22字)と「機体の移動や動揺を体感しながら操縦する必要がある。」(25字)の二つで,どちらを書いてもよい。前者は運用の条件から,後者は操縦に求められることから理由を述べている。どちらも本文の言い回しをそのまま使える。
設問3(2)
35字以内
B 氏が,災害時・緊急時を想定した空飛ぶクルマの遠隔操縦の訓練用システムを販売することで改善できると考えた現在の市場における問題は何か。35 字以内で答えよ。
解答例
災害時・緊急時に対応できる操縦技能の高い操縦士の不足
解説
本文の根拠
〔市場分析〕
機体の移動や動揺を体感しながら操縦する必要があり,対応できる操縦技能の高い操縦士が不足していること,操縦士の配備にコストが多く掛かっていることが分かった。
〔モーションシミュレーターの役割〕
訓練用のモーションシミュレーターは,実物では技術的又は経済的に困難な条件を何度も自由に再現でき,実物での訓練よりも経済面・安全面で勝るので,航空機の操縦訓練やレーシングドライバーの養成などに活用される例が多い。
現在の市場の問題は,B 氏が消防防災ヘリ及びドクターヘリについて調べた結果に出ている。厳しい気象条件や不特定の場所での操縦に「対応できる操縦技能の高い操縦士が不足していること」と,操縦士の配備にコストが多く掛かっていることである。
遠隔操縦の訓練用システムは,訓練用モーションシミュレーターと同じく,実物では困難な条件を何度も再現して訓練できる。災害時・緊急時を想定した訓練を積める操縦士が増えれば,操縦技能の高い操縦士の不足を改善できる。
35字に対し,解答例は「災害時・緊急時に対応できる操縦技能の高い操縦士の不足」で26字。講評によると,空飛ぶクルマに期待される一般的な活用シーンを示す答えが一部見受けられた。問われているのは今の市場の問題なので,どのような操縦士が(災害時・緊急時に対応できる,操縦技能の高い)不足しているのかを書く。
採点講評(IPA)
設問3(2)は,正答率が高かったが,空飛ぶクルマに期待される一般的な活用シーンを示す解答が一部見受けられた。現在の市場における問題が何であるかと,災害時・緊急時を想定した空飛ぶクルマの遠隔操縦の訓練用システムについて正しく理解して解答してほしい。
出典:令和5年度 春期 ITストラテジスト試験 午後Ⅰ 問4(表記を一部改変)
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