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令和元年度 秋期 午後Ⅰ

令和元年度 秋期に実施されたITストラテジスト試験 午後Ⅰの全4問(記述式)です。事例本文・設問・解答例と解説をそのまま読めます。

この試験について:ITストラテジスト試験について

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問1 化学品メーカにおけるデジタルトランスフォーメーションの推進

化学品メーカにおけるデジタルトランスフォーメーションの推進に関する次の記述を読んで,設問1〜4に答えよ。

A 社は,ビューティケア用品やヘルスケア製品の製造・販売を行う化学品メーカである。5 年前に,海外の子会社・関連会社を含めた A 社グループ全体の業務の効率化及び品質の向上を目的として,シェアードサービスセンタをアジアの新興国に設立した。A 社は,グループ各社の業務の異なる手順を標準化して,シェアードサービスセンタへの業務の移管を進めてきた。今般,A 社輸出入業務が,シェアードサービスセンタへ移管された。

〔A 社輸出入業務の現状と課題〕

A 社は,最近,アジア市場で売上げを伸ばしていることから,A 社輸出入業務における作業量は大きく増えている。さらに,新興国の離職率は日本に比べて高く,業務ノウハウが定着しないことによって,入力ミスや書類の入力待ちの滞留など,A 社輸出入業務の品質の低下が懸念されている。そこで A 社は,入力ミスのない正確性と書類が滞留しない即時性を向上させるために,IT を活用して,A 社輸出入業務のデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進することとした。

A 社は,IT の活用によって A 社輸出入業務の品質を向上させるに当たり,現状を把握することとした。A 社輸出入業務のシステム関連図を,図 1 に示す。

A 社輸出入業務では,主に貿易システムが利用されている。関連するシステムである受注・購買システム及びインターネットバンキングを連携先として,日次でのデータ交換が行われている。受注・購買システムとのデータ交換は,前日に更新された契約情報を,貿易システムに夜間バッチ処理で取り込む方法で行われている。A 社輸出入業務では,信用状による取引を行っている。インターネットバンキングとのデータ交換によって,信用状通知データのダウンロード作業と信用状発行依頼データのアップロード作業を,担当者が 1 日 1 回実施している。輸出業務においては,輸出先の信用状通知を確認した後に船積書類を発行することとしており,輸入業務においては,輸入先が A 社の信用状通知を確認した後でないと船積書類を受け取ることができない。

A 社輸出入業務のシステム関連図。中央に貿易システムの枠があり,中に輸出機能と輸入機能がある。上にインターネットバンキング,下に受注・購買システム(受注機能と購買機能)がある。インターネットバンキングから“信用状通知”(テキストデータ)が DL(ダウンロード)されて輸出機能に入る。輸入機能から“信用状発行依頼”(テキストデータ)が UL(アップロード)されてインターネットバンキングへ送られる。受注機能から“契約情報”(テキストデータ)が夜間バッチ送信で輸出機能へ,購買機能から“契約情報”が夜間バッチ送信で輸入機能へ送られる。左側では,メール受信した契約書(電子メール添付文書)が手入力で輸出機能に入り,輸出機能から帳票出力で船積書類(電子メール添付文書)が作られてメール送信される。右側では,メール受信した契約書とメール受信した船積書類(どちらも電子メール添付文書)が,それぞれ手入力で輸入機能に入る。凡例:矢印は情報の流れ,長方形はシステム,平行四辺形はテキストデータ,下辺が波形の図形は電子メール添付文書,DL はダウンロード,UL はアップロード,メールは電子メール。
図1 A 社輸出入業務のシステム関連図

A 社は,負荷が大きい作業に,A 社輸出入業務の品質低下のリスクがあると考え,それぞれの作業に掛かる時間や人数を定量的に調査した。

担当者の作業量を測定した結果,メールで受信した契約書のイメージファイルや船積書類から,引渡条件や保険に関する情報を貿易システムに手入力する作業の負荷が,最も大きいことが分かった。手入力の際には,貿易システムがもつ契約情報を照会して,海外の子会社・関連会社からメールで送られてくる契約書のイメージファイルや船積書類の内容と相違がないかを目視で照合している。作業の担当者は,入出荷の予定日を確認しながら,入力作業の優先順位をつけて対応している。このとき,契約書や船積書類の到着遅れや入力ミスがあると,貨物が滞留することがある。契約書のイメージファイルの内容は,商品コードや出荷先住所などの文字がかすれていることがある。作業の担当者は,目視で読みにくい箇所について,マスタを検索したり,過去の契約情報と照合したりして確認するか,海外の子会社・関連会社に連絡して確認するなどの対応を行っている。

メール送信作業・メール受信作業は,単純作業の組合せで負荷は低いが,頻度としては多い。インターネットバンキングでのダウンロード作業・アップロード作業は,1 回当たりの操作に手間が掛かるので,1 日 1 回しか行っていない。A 社は,1 日当たりの回数を増やすことで,データの送信待ちや受信待ちを減らして,作業の即時性を高めることを検討した。しかし,A 社輸出入業務のボトルネックとなる作業を改善しない限り,改善効果は小さいと考えた。

〔IT 活用の検討〕

A 社では,DX の推進計画として,人が PC 上で行う操作を記憶できるソフトウェア型の仮想ロボット(以下,ソフトウェアロボットという)と OCR とを組み合わせて作業を自動化することで,作業の正確性と即時性を高めることを目的とした実証実験を行った。実証実験は,A 社のシェアードサービスセンタと IT 部門とが協力して行われた。A 社は,テスト環境でソフトウェアロボットの動作を確認しながら修正開発とテスト検証を繰り返すアジャイル型開発で実施した。ソフトウェアロボットは,人が行う作業と同じように,複数の作業を,複数のソフトウェアロボットで分担する作り方ができる。A 社のシェアードサービスセンタの作業の担当者は,IT 部門から開発手順のアドバイスを受けながら,ソフトウェアロボットを作成して,活用の検討を進めた。また,契約書を OCR で識別する識字率が低い場合は,修正作業が必要となり,かえって作業負荷が高まるので,識別ができなかった場合に担当者が行っている作業を,ソフトウェアロボットが行うことができるかどうかも検証した。

〔実証実験の評価〕

実証実験では,作業の正確性と即時性の二つの観点で評価を行った。まず,正確性の観点では,おおむね想定どおりに,ソフトウェアロボットの誤作動や異常停止もなく,作業の自動化が可能であることを確認できた。具体的には,ファイルのアップロード作業・ダウンロード作業については,人の介在なく自動化できると評価された。メール送信作業も同様の評価とされた。メール受信作業は,受信するメールの内容が多岐にわたるので,自動化を進めるには,作業を詳細に整理する必要があると評価された。入力作業に関係する OCR の識字率は,OCR 単体では期待値よりも低かったが,ソフトウェアロボットとの連携によって,識字率は上がり,入力作業の正確性が向上すると評価された。

次に,即時性の観点では,複数のソフトウェアロボットを並列稼働させることによって,作業全体の即時性を上げられることも確認できた。ただし,作業の自動化が進むことによって,A 社輸出入業務のボトルネックとなる作業が解消された場合は,貿易システムと関連するシステムとの連携上のプロセスが次のボトルネックになると考え,改善できる点を検討した。

実証実験を行う中で,作業の担当者は,ソフトウェアロボット作成の習熟度が上がるにつれて,自ら思い思いに多くの種類のソフトウェアロボットを作成していった。A 社の IT 部門は,作業の自動化が進むことで,どこでどのようなソフトウェアロボットが稼働しているかを把握するのが難しくなった。このような管理が不十分な状況で,複数のソフトウェアロボット間で連携して作業を行っている場合,一つのソフトウェアロボットの修正が,他のソフトウェアロボットの誤作動や異常停止の原因になり,A 社輸出入業務の継続性が脅かされるおそれもあった。

〔本格導入の計画策定〕

A 社の IT 部門は,本格導入を進めることで,A 社輸出入業務の改善を図れると考える一方で,実証実験を通じて分かった A 社輸出入業務の統制上の課題を解決するために,ソフトウェアロボットの利用ガイドラインを作成することとした。利用ガイドラインでは,ソフトウェアロボットの作成ルールだけでなく,テスト環境の利用ルール,誤作動や異常停止時のリカバリ手順作成要領,本番稼働前の IT 部門によるレビュー実施などを定めることとした。IT 部門によるレビューでは,ソフトウェアロボットの動作確認だけでなく,誤作動や異常停止した際の影響範囲の特定や対応方法などの A 社輸出入業務の継続性の観点も確認することとした。A 社は,IT 部門によるレビューなしには,ソフトウェアロボットを本番稼働させない方針とした。

本格導入の計画では,A 社の IT 部門とシェアードサービスセンタで協力しながら,利用ガイドラインに沿って,実証実験で自動化しやすいと評価された作業から段階的に導入し,A 社輸出入業務の DX を推進することとした。

出題趣旨(IPA)

ITストラテジストには,組織の事業特性を踏まえた情報システム戦略の実行管理と評価を行う能力が求められる。本問では,化学品メーカのデジタルトランスフォーメーションの推進を題材として,新しいITを活用した業務改革の実行とリスク分析の能力を評価する。具体的には,輸出入業務における現状課題の分析,IT活用の検討,実証実験の評価,導入計画の策定についての実務能力を問う。

採点講評(問全体・IPA)

問1では,化学品メーカにおけるデジタルトランスフォーメーションの推進について出題した。題意や状況設定はおおむね理解されているようであった。

ITストラテジストは,課題やリスクを評価した上で業務改革を実行し,ディジタル技術の的確な活用を判断する能力を高めてほしい。

設問と解答例

設問1(1) 30字以内

A 社は,IT の活用によって,具体的に A 社輸出入業務のどのような品質を向上しようと考えたか。30 字以内で述べよ。

解答例

  • 入力ミスのない正確性と書類が滞留しない即時性
解説

本文の根拠

〔A 社輸出入業務の現状と課題〕

業務ノウハウが定着しないことによって,入力ミスや書類の入力待ちの滞留など,A 社輸出入業務の品質の低下が懸念されている。

〔A 社輸出入業務の現状と課題〕

そこで A 社は,入力ミスのない正確性と書類が滞留しない即時性を向上させるために,IT を活用して,A 社輸出入業務のデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進することとした。

A 社輸出入業務は,アジア市場での売上げ増加で作業量が大きく増え,さらに新興国の離職率の高さから業務ノウハウが定着せず,「入力ミスや書類の入力待ちの滞留など」の品質低下が懸念されている。これに対して A 社は,「入力ミスのない正確性と書類が滞留しない即時性を向上させるために」IT を活用して DX を推進することにした。向上させたい品質はこの二つである。

本文の後半もこの二つの観点で組み立てられている。〔IT 活用の検討〕の実証実験は「作業の正確性と即時性を高めることを目的とした」もので,〔実証実験の評価〕も「作業の正確性と即時性の二つの観点で評価を行った」とある。懸念されている品質低下(入力ミス,入力待ちの滞留)の裏返しが,正確性と即時性である。

30字に対し,解答例は「入力ミスのない正確性と書類が滞留しない即時性」で22字。「正確性と即時性」だけでは何の正確性かが伝わりにくいので,本文どおり「入力ミスのない」「書類が滞留しない」という具体的な中身を付ける。設問が「具体的に」と求めている点にも合う。

設問1(2) 35字以内

A 社輸出入業務のボトルネックとなる作業とは何か。35 字以内で述べよ。

解答例

  • 引渡条件や保険に関する情報を貿易システムに手入力する作業
解説

本文の根拠

〔A 社輸出入業務の現状と課題〕(2) A 社輸出入業務の課題

A 社は,負荷が大きい作業に,A 社輸出入業務の品質低下のリスクがあると考え,それぞれの作業に掛かる時間や人数を定量的に調査した。

〔A 社輸出入業務の現状と課題〕(2) A 社輸出入業務の課題

担当者の作業量を測定した結果,メールで受信した契約書のイメージファイルや船積書類から,引渡条件や保険に関する情報を貿易システムに手入力する作業の負荷が,最も大きいことが分かった。

〔A 社輸出入業務の現状と課題〕(2) A 社輸出入業務の課題

しかし,A 社輸出入業務のボトルネックとなる作業を改善しない限り,改善効果は小さいと考えた。

A 社は,負荷が大きい作業に品質低下のリスクがあると考えて作業量を定量的に調査し,その結果「引渡条件や保険に関する情報を貿易システムに手入力する作業の負荷が,最も大きい」ことが分かった。手入力の際には契約情報と目視で照合し,文字がかすれていればマスタ検索や問合せもする。到着遅れや入力ミスがあると貨物が滞留することもある。

一方,メール送受信作業は負荷が低く,インターネットバンキングのダウンロード・アップロードは回数を増やしても「ボトルネックとなる作業を改善しない限り,改善効果は小さい」とされた。したがってボトルネックは,負荷が最も大きい手入力作業である。講評によると,この手入力作業が最も負荷が大きいことを理解していない答えが散見された。

35字に対し,解答例は「引渡条件や保険に関する情報を貿易システムに手入力する作業」で28字。何を(引渡条件や保険に関する情報を),どこに(貿易システムに),どうする(手入力する)作業かを本文どおりに書く。「入力作業」だけでは OCR やソフトウェアロボットで置き換える対象が特定できない。

採点講評(IPA)

設問1(2)は,正答率が高かった。一方で,引渡条件や保険に関する情報を貿易システムに手入力する作業が最も負荷が大きいことを理解していない解答が散見された。

設問2 35字以内

〔IT 活用の検討〕において,OCR で識別ができなかった場合に,ソフトウェアロボットで具体的にどのような作業を行うことを検証したか。35 字以内で述べよ。

解答例

  • マスタを検索したり過去の契約情報と照合したりして確認する。
解説

本文の根拠

〔A 社輸出入業務の現状と課題〕(2) A 社輸出入業務の課題

契約書のイメージファイルの内容は,商品コードや出荷先住所などの文字がかすれていることがある。作業の担当者は,目視で読みにくい箇所について,マスタを検索したり,過去の契約情報と照合したりして確認するか,海外の子会社・関連会社に連絡して確認するなどの対応を行っている。

〔IT 活用の検討〕

また,契約書を OCR で識別する識字率が低い場合は,修正作業が必要となり,かえって作業負荷が高まるので,識別ができなかった場合に担当者が行っている作業を,ソフトウェアロボットが行うことができるかどうかも検証した。

〔IT 活用の検討〕で検証したのは,OCR で「識別ができなかった場合に担当者が行っている作業」をソフトウェアロボットが行えるかどうかである。担当者が行っている作業は〔A 社輸出入業務の現状と課題〕に書かれており,文字がかすれて目視で読みにくい箇所について「マスタを検索したり,過去の契約情報と照合したりして確認する」か,「海外の子会社・関連会社に連絡して確認する」。

このうちソフトウェアロボットに向くのは,人が PC 上で行う操作であるマスタの検索と過去の契約情報との照合である。海外の子会社・関連会社への連絡は相手とのやり取りを伴うので,PC 上の操作を記憶して繰り返すソフトウェアロボットの対象にはしにくい。〔実証実験の評価〕でも,OCR の識字率はソフトウェアロボットとの連携によって上がったと評価されている。

35字に対し,解答例は「マスタを検索したり過去の契約情報と照合したりして確認する。」で29字。本文の文をそのまま使い,連絡による確認は入れない。二つの操作と「確認する」という目的を残す。

設問3 30字以内

〔実証実験の評価〕において,作業の自動化が進んだ場合に,貿易システムと関連するシステムとの連携上のプロセスについて改善できる作業は何か。30 字以内で述べよ。

解答例

  • インターネットバンキングとの間で行う日次でのデータ交換
解説

本文の根拠

〔A 社輸出入業務の現状と課題〕(1) A 社輸出入業務の現状

関連するシステムである受注・購買システム及びインターネットバンキングを連携先として,日次でのデータ交換が行われている。

〔A 社輸出入業務の現状と課題〕(2) A 社輸出入業務の課題

インターネットバンキングでのダウンロード作業・アップロード作業は,1 回当たりの操作に手間が掛かるので,1 日 1 回しか行っていない。A 社は,1 日当たりの回数を増やすことで,データの送信待ちや受信待ちを減らして,作業の即時性を高めることを検討した。

〔実証実験の評価〕

具体的には,ファイルのアップロード作業・ダウンロード作業については,人の介在なく自動化できると評価された。

〔実証実験の評価〕

ただし,作業の自動化が進むことによって,A 社輸出入業務のボトルネックとなる作業が解消された場合は,貿易システムと関連するシステムとの連携上のプロセスが次のボトルネックになると考え,改善できる点を検討した。

貿易システムと関連するシステムとの連携は二つある。受注・購買システムとは夜間バッチ処理で契約情報を取り込み,インターネットバンキングとは担当者が信用状通知のダウンロードと信用状発行依頼のアップロードを 1 日 1 回行っている。いずれも「日次でのデータ交換」である。

インターネットバンキングの作業は操作に手間が掛かるので 1 日 1 回しか行っておらず,A 社は回数を増やして送信待ち・受信待ちを減らすことを検討したが,ボトルネックの手入力作業が残るうちは効果が小さいとした。実証実験でアップロード・ダウンロード作業は「人の介在なく自動化できる」と評価されたので,手入力作業が解消されれば,この日次のデータ交換を改善できる。輸出では信用状通知の確認後に船積書類を発行し,輸入では相手が A 社の信用状通知を確認しないと船積書類を受け取れないので,信用状のデータ交換の回数は即時性に直結する。受注・購買システムとの連携はシステム間の夜間バッチで,担当者の作業ではない。

30字に対し,解答例は「インターネットバンキングとの間で行う日次でのデータ交換」で27字。連携先(インターネットバンキング)と,改善の余地がある現状(日次でのデータ交換)を組にする。

設問4(1) 40字以内

A 社の IT 部門が,実証実験を通じて分かった A 社輸出入業務の統制上の課題とは何か。40 字以内で述べよ。

解答例

  • ソフトウェアロボットの稼働に関する管理が十分でないこと
解説

本文の根拠

〔実証実験の評価〕

実証実験を行う中で,作業の担当者は,ソフトウェアロボット作成の習熟度が上がるにつれて,自ら思い思いに多くの種類のソフトウェアロボットを作成していった。A 社の IT 部門は,作業の自動化が進むことで,どこでどのようなソフトウェアロボットが稼働しているかを把握するのが難しくなった。

〔実証実験の評価〕

このような管理が不十分な状況で,

〔本格導入の計画策定〕

実証実験を通じて分かった A 社輸出入業務の統制上の課題を解決するために,ソフトウェアロボットの利用ガイドラインを作成することとした。

実証実験の中で,作業の担当者は習熟度が上がるにつれて思い思いに多くの種類のソフトウェアロボットを作成し,IT 部門は「どこでどのようなソフトウェアロボットが稼働しているかを把握するのが難しくなった」。本文はこれを「このような管理が不十分な状況」と言い換えている。統制上の課題とは,この管理が不十分なことである。

IT 部門はこの課題を解決するために利用ガイドラインを作り,作成ルール,テスト環境の利用ルール,リカバリ手順作成要領,本番稼働前のレビューなどを定めた。いずれも稼働しているソフトウェアロボットを IT 部門が管理できるようにする取決めである。講評によると,“ソフトウェアロボットの把握が難しい”という事実だけを述べた答えが多かった。把握できないという事実から,稼働に関する管理が十分でないという統制の問題まで書く。

40字に対し,解答例は「ソフトウェアロボットの稼働に関する管理が十分でないこと」で27字。「把握が難しい」は現象であり,統制上の課題としては「管理が十分でない」と書く。何の管理かを示すため「稼働に関する」を付ける。

採点講評(IPA)

設問4(1)では,“ソフトウェアロボットの把握が難しい”という事実だけを述べた解答が多かった。ソフトウェアロボットの稼働状況を正確に把握することで,作業が的確に自動化されていることの十分な管理につながることを理解してほしかった。

設問4(2) 40字以内

A 社が,IT 部門によるレビューなしには,ソフトウェアロボットを本番稼働させない方針とした理由として,実証実験で,どのようなリスクがあると考えたからか。40 字以内で述べよ。

解答例

  • 一つのソフトウェアロボットの修正により,業務の継続性が脅かされるリスク
解説

本文の根拠

〔実証実験の評価〕

このような管理が不十分な状況で,複数のソフトウェアロボット間で連携して作業を行っている場合,一つのソフトウェアロボットの修正が,他のソフトウェアロボットの誤作動や異常停止の原因になり,A 社輸出入業務の継続性が脅かされるおそれもあった。

〔本格導入の計画策定〕

IT 部門によるレビューでは,ソフトウェアロボットの動作確認だけでなく,誤作動や異常停止した際の影響範囲の特定や対応方法などの A 社輸出入業務の継続性の観点も確認することとした。

実証実験では,複数のソフトウェアロボットが連携して作業している場合に「一つのソフトウェアロボットの修正が,他のソフトウェアロボットの誤作動や異常停止の原因になり,A 社輸出入業務の継続性が脅かされるおそれ」があった。

IT 部門のレビューは,動作確認だけでなく「誤作動や異常停止した際の影響範囲の特定や対応方法など」の継続性の観点も確認する。修正したソフトウェアロボットが他のソフトウェアロボットにどう影響するかを,本番稼働の前に IT 部門が確かめるための関門である。講評によると,業務の継続性が脅かされるリスクだけを述べた答えが散見された。何がきっかけで(一つのソフトウェアロボットの修正),どう広がるか(他のソフトウェアロボットの誤作動の連鎖)まで書く。

40字に対し,解答例は「一つのソフトウェアロボットの修正により,業務の継続性が脅かされるリスク」で35字。原因(一つのソフトウェアロボットの修正)と結果(業務の継続性が脅かされる)を一続きに書く。字数に余裕があれば「他のソフトウェアロボットの誤作動や異常停止」を挟むとよりはっきりする。

採点講評(IPA)

設問4(2)は,正答率は高かったが,業務の継続性が脅かされるリスクだけを述べた解答が散見された。レビューを受けずにリリースしたソフトウェアロボットが不具合を含んでいた場合,それが他のソフトウェアロボットの誤動作の連鎖につながる場合があることを理解してほしかった。

出典:令和元年度 秋期 ITストラテジスト試験 午後Ⅰ 問1(表記を一部改変)

問2 保険会社の新事業の企画

保険会社の新事業の企画に関する次の記述を読んで,設問1〜3に答えよ。

B 社は,中堅の損害保険会社である。業績が伸び悩んでおり,新たな保険商品による収益増加を,新しい中期計画の重点施策にした。保険業界では,近年,IT を業務効率化や生産性向上だけではなく,革新的な商品に活用する場面が増えてきている。B 社でも,自動車保険でドライブレコーダを装着した契約者向けに特約を提供することで,契約件数を伸ばすことができ成功した。これに倣って,IT を活用した新たな医療保険の導入を企画した。

〔新たな医療保険の概要〕

医療保険は,生命保険会社と損害保険会社の双方が取り扱えることから,市場には多くの商品が登場している。B 社は,これまでも医療保険を取り扱ってきたが,競争優位性の確保が難しく販売実績は低迷している。近年の人生 100 年時代の背景もあり,医療保険契約者の傾向として,健康に気を配っている層が増えている。これらの層には入院や治療などのいざというときには備えたいが,日頃から健康には気を配っていることが保険料に反映されないことに不公平感をもち,契約をためらっている潜在的な契約者も少なくない。

そこで B 社では,契約者にセンサデバイスを装着してもらい,得られるデータに応じて月額保険料を割引する医療保険(以下,新商品という)を開発し,新たに販売することにした。健康に気を配っている潜在的な契約者のニーズに応え,見込み客を取り込み,販売を拡大したいと考えている。B 社としては,契約者が健康であり続けることで,保険料を割引しても長期にわたり安定的に収入を得られ,かつ,保険金の支払を軽減することが期待できる。

B 社は,これまでは,年齢,性別,り患率,治療費などを統計処理した結果に基づき,月額保険料を算定してきた。そのため,センサデバイスから得られるデータに応じた月額保険料の割引率体系の確定のためには,データを収集し,さらに統計処理して,新商品の採算性を見極める必要があると考えている。

新商品を提供するには,センサ技術と AI 技術の活用が必要になるので,取引先であるデバイスメーカ C 社とスタートアップ企業 D 社と協議して,図 1 に示す事業スキームを構築することにした。その概要は次のとおりである。

事業スキームの図。中央に損害保険会社 B 社の枠があり,枠の中は新商品システムで,“健康データ”と“保険金請求情報”のデータベースがあって,どちらも矢印で“学習済モデル”につながっている。左側のデバイスメーカ C 社から B 社へ,“クラウドサービス提供”“スマートフォン用アプリケーションプログラム提供”の矢印がある。C 社の横のリストデバイス(腕時計の絵)から B 社の枠へ矢印があり,そこから破線の矢印で下の契約者へ下りている。B 社の枠から契約者へ実線の矢印もある。右側のスタートアップ企業 D 社(歯車の絵に“AI エンジン”)から B 社へ“AI エンジン技術提供”の矢印がある。下側の契約者から新商品システムへ“健康データ”の矢印,B 社から契約者へ“保険料請求(割引)”の矢印がある。
図1 事業スキーム

B 社は,新商品の正式販売には割引率体系の確定が必要であり,一部の顧客や特定地域をターゲットにして割引率をいろいろ変えながら,試行販売を行うことにした。その結果から,学習済モデルの精度を向上させていく予定である。

C 社,D 社とも,自社技術・サービスの適用事例は少なく,売上げの拡大が期待できることから,今回の B 社の新商品の取組には積極的に協力する意向である。特に,D 社は,今後実用化領域の広がりが予想される AI エンジンの適用拡大に向けた良い機会と捉えている。B 社では,今回の新商品が他社に真似をされないよう,新商品システムの管理を徹底する。

〔新たな事業への取組〕

B 社では,試行販売と並行し,新商品の事業スキームを活用して,新たな事業に取り組むことを計画した。新たな事業の主要な顧客は,多くの被保険者を有していて,大量のデータの入手が期待できることから,健康保険組合にした。健康保険組合は,近年,医療費負担の高額化などによって保険給付金や拠出金が増加していて,その削減のために,健康指導などの健康増進活動・予防活動に力を入れている。これらの活動の成否は,健康保険組合の被保険者に,自ら健康増進に取り組んでもらえるかどうかに懸かっている。そのためには,被保険者自らが自身の健康状態を把握できて,健康の維持や改善を実感できることが重要になっている。

B 社が計画する新たな事業は,被保険者が自身で健康状態を把握できる仕組みを健康保険組合に提供するもので,その概要は次のとおりである。

〔健康保険組合からの要望への対応〕

新たな事業に取り組む中で,健康保険組合からは,被保険者の健康診断の結果などの追加のデータの登録機能,及び Web による健康指導を支援する機能の追加に関する要望が出てきた。B 社はこれを受けて,3 社でこの要望への対応を検討した。その結果,追加機能については新商品の割引率体系の確定には関与しないことから,C 社と D 社が中心になって取り組むことにし,B 社は健康保険組合に両社を紹介することにした。C 社と D 社の取組内容は次のとおりである。

出題趣旨(IPA)

ITストラテジストには,ITを活用した事業の構想やその実現に向けた戦略を構築する能力が求められる。本問では,保険会社の新規ビジネスの企画を題材として,ITを活用した医療保険の新商品とその事業の構想を策定する能力を評価する。具体的には,ITを活用した新商品開発と関連する取組の狙い,新商品の仕組みを補完する事業戦略の立案,及び顧客ニーズへの対応策を問う。

採点講評(問全体・IPA)

問2では,保険会社の新事業の企画について出題した。題意や状況設定はおおむね理解されているようであった。

ITストラテジストは,情報技術の動向と自社の事業モデルを理解し,事業戦略を立て推進する能力を高めてほしい。

設問と解答例

設問1(1) 25字以内

B 社が新商品を開発する狙いは何か。25 字以内で述べよ。

解答例

  • 健康に気を配っている潜在的な契約者の取込み
解説

本文の根拠

〔新たな医療保険の概要〕

これらの層には入院や治療などのいざというときには備えたいが,日頃から健康には気を配っていることが保険料に反映されないことに不公平感をもち,契約をためらっている潜在的な契約者も少なくない。

〔新たな医療保険の概要〕

健康に気を配っている潜在的な契約者のニーズに応え,見込み客を取り込み,販売を拡大したいと考えている。

B 社の医療保険は競争優位性の確保が難しく販売実績が低迷している。一方で,健康に気を配っている層が増えており,その中には,健康に気を配っていることが保険料に反映されないことに不公平感をもち,契約をためらっている潜在的な契約者も少なくない。

新商品は,センサデバイスから得られるデータに応じて月額保険料を割引する。健康に気を配っていることが保険料に反映されるので,この不公平感が解消される。本文も「健康に気を配っている潜在的な契約者のニーズに応え,見込み客を取り込み,販売を拡大したい」と狙いをそのまま書いている。長期の安定収入や保険金支払の軽減は,契約者が健康であり続けた結果として B 社が期待できることで,新商品を開発する狙いの中心ではない。

25字に対し,解答例は「健康に気を配っている潜在的な契約者の取込み」で21字。誰を(健康に気を配っている潜在的な契約者を)どうするか(取り込む)を本文の言葉で書く。「新規顧客の獲得」のようにぼかすと,新商品がどの層を狙うのかが消える。

設問1(2) 30字以内

B 社が試行販売する狙いは何か。30 字以内で述べよ。

解答例

  • 月額保険料の割引に対する商品の採算性を見極めること
解説

本文の根拠

〔新たな医療保険の概要〕

そのため,センサデバイスから得られるデータに応じた月額保険料の割引率体系の確定のためには,データを収集し,さらに統計処理して,新商品の採算性を見極める必要があると考えている。

〔新たな医療保険の概要〕

B 社は,新商品の正式販売には割引率体系の確定が必要であり,一部の顧客や特定地域をターゲットにして割引率をいろいろ変えながら,試行販売を行うことにした。

B 社はこれまで年齢,性別,り患率,治療費などの統計処理の結果で月額保険料を算定してきたので,センサデバイスのデータに応じた割引率体系を確定するには,データを収集して統計処理し,「新商品の採算性を見極める必要がある」と考えている。

正式販売には割引率体系の確定が必要なので,B 社は割引率をいろいろ変えながら試行販売を行う。割引率を変えたときに採算が取れるかをデータで確かめることが試行販売の狙いである。試行販売の結果から学習済モデルの精度を向上させていく予定もあるが,これはその先の活用で,割引率を変えながら行う理由は採算性の見極めにある。

30字に対し,解答例は「月額保険料の割引に対する商品の採算性を見極めること」で25字。何に対する採算性か(月額保険料の割引に対する)を付けると,割引率をいろいろ変える試行販売とのつながりが伝わる。

設問1(3) 25字以内

B 社が,新商品システムを自ら管理するようにした理由は何か。25 字以内で述べよ。

解答例

  • 新商品が他社に真似をされないようにしたいから
解説

本文の根拠

〔新たな医療保険の概要〕(2)

新商品システムのためのクラウドサービスや,スマートフォン用アプリケーションプログラムは,C 社が提供する。新商品システムは B 社が管理する。

〔新たな医療保険の概要〕

B 社では,今回の新商品が他社に真似をされないよう,新商品システムの管理を徹底する。

新商品システムのクラウドサービスとスマートフォン用アプリケーションプログラムは C 社が提供し,AI エンジン技術は D 社が提供する。C 社・D 社とも自社技術・サービスの適用事例を増やして売上げを拡大したいと考えており,特に D 社は AI エンジンの適用拡大に向けた良い機会と捉えている。

仕組みを他社が提供している以上,新商品システムの中身(健康データ,保険金請求情報,学習済モデル)まで他社に任せると,同じ仕組みが他の保険会社に広がりかねない。そこで B 社は「今回の新商品が他社に真似をされないよう,新商品システムの管理を徹底する」。自ら管理する理由はこれである。

25字に対し,解答例は「新商品が他社に真似をされないようにしたいから」で22字。本文の一文をほぼそのまま使い,理由を問われているので「〜から」で結ぶ。

設問2(1) 25字以内

B 社から提供されるデータなどの健康保険組合での活用方法はどのようなものか。25 字以内で述べよ。

解答例

  • 健康指導などの健康増進活動・予防活動への利用
解説

本文の根拠

〔新たな事業への取組〕

健康保険組合は,近年,医療費負担の高額化などによって保険給付金や拠出金が増加していて,その削減のために,健康指導などの健康増進活動・予防活動に力を入れている。

〔新たな事業への取組〕(2)

B 社は,定期的にリストデバイスごとの健康データと健康データの統計分析結果を健康保険組合に提供する。

B 社が健康保険組合に提供するのは,リストデバイスごとの健康データとその統計分析結果である。健康保険組合は保険給付金や拠出金の増加を抑えるために「健康指導などの健康増進活動・予防活動に力を入れている」。

被保険者一人一人の健康データと全体の統計分析結果があれば,健康保険組合は誰にどのような健康指導を行うかを決められる。新たな事業は「被保険者が自身で健康状態を把握できる仕組み」を提供するものでもあり,これらの活動の成否を左右する被保険者の自発的な取組を後押しする。したがって活用方法は,健康増進活動・予防活動への利用である。

25字に対し,解答例は「健康指導などの健康増進活動・予防活動への利用」で22字。本文の「健康指導などの健康増進活動・予防活動」をそのまま使い,「〜への利用」で活用方法の形にする。

設問2(2) 25字以内

B 社が新たな事業に取り組む狙いは何か。25 字以内で述べよ。

解答例

  • 被保険者のデータによる学習済モデルの精度向上
解説

本文の根拠

〔新たな事業への取組〕

新たな事業の主要な顧客は,多くの被保険者を有していて,大量のデータの入手が期待できることから,健康保険組合にした。

〔新たな事業への取組〕(4)

B 社は,取得した健康データや疾病情報を,新商品の学習済モデルに追加して学習させる。

〔新たな医療保険の概要〕

その結果から,学習済モデルの精度を向上させていく予定である。

B 社が健康保険組合を新たな事業の顧客にしたのは,「多くの被保険者を有していて,大量のデータの入手が期待できる」からである。取得した健康データや疾病情報は,新商品の学習済モデルに追加して学習させる。

新商品の割引率は学習済モデルの結果から算定するので,モデルの精度は新商品の成否に直結する。B 社は試行販売の結果でも学習済モデルの精度を上げる予定だが,試行販売の対象は一部の顧客や特定地域に限られる。被保険者の大量のデータを取り込めば,精度をさらに上げられる。新たな事業そのものの収益よりも,本業である新商品のためのデータ入手が狙いである。

25字に対し,解答例は「被保険者のデータによる学習済モデルの精度向上」で22字。何のデータで(被保険者のデータによる),何を良くするか(学習済モデルの精度向上)を書く。

設問2(3) 35字以内

B 社が,被保険者の健康データに加えて,疾病情報を学習させる理由は何か。35 字以内で述べよ。

解答例

  • 保険金請求情報に代わる情報として割引率体系の確定に必要だから
解説

本文の根拠

〔新たな医療保険の概要〕(3)

B 社は,D 社の AI エンジン技術を利用して,収集した健康データ,及び病気にかかったり入院したりして保険金が請求された履歴情報(以下,保険金請求情報という)から学習し,それらを AI エンジン学習済モデル(以下,学習済モデルという)として蓄積する。

〔新たな医療保険の概要〕

B 社は,新商品の正式販売には割引率体系の確定が必要であり,

〔新たな事業への取組〕(3)

健康保険組合は,被保険者の同意を得て,匿名化した被保険者の保険給付に関する疾病情報にリストデバイス ID を付与して B 社へ提供する。

新商品の学習済モデルは,健康データと保険金請求情報(病気や入院で保険金が請求された履歴)を学習して作る。健康データだけでは,そのデータの人が実際に病気になったかどうかが分からず,割引率とリスクを結び付けられない。

健康保険組合の被保険者は B 社の保険の契約者ではないので,保険金請求情報は無い。その代わりになるのが,健康保険組合が提供する保険給付に関する疾病情報である。これをリストデバイス ID で健康データとひも付けて学習させれば,保険金請求情報と同じ役割を果たし,正式販売に必要な割引率体系の確定に使える。講評によると“保険給付金の把握のため”という答えが見られた。それは健康保険組合への協力の見返りの側で,B 社がデータを入手したい理由は割引率体系の確定である。

35字に対し,解答例は「保険金請求情報に代わる情報として割引率体系の確定に必要だから」で30字。疾病情報の位置付け(保険金請求情報に代わる情報)と,使い道(割引率体系の確定)の両方を入れる。

採点講評(IPA)

設問2(3)では,“保険給付金の把握のため”という解答が見られた。健康保険組合への協力の見返りを示す解答だが,B社が割引率体系確定のためにデータ入手を期待していることを理解してほしかった。

設問3(1) 30字以内

健康保険組合が追加機能を要望した背景はどのようなものか。30 字以内で述べよ。

解答例

  • 被保険者が自ら健康増進に取り組んでもらうため
解説

本文の根拠

〔新たな事業への取組〕

これらの活動の成否は,健康保険組合の被保険者に,自ら健康増進に取り組んでもらえるかどうかに懸かっている。そのためには,被保険者自らが自身の健康状態を把握できて,健康の維持や改善を実感できることが重要になっている。

〔健康保険組合からの要望への対応〕(1)

また,自身で取得した,BMI,体脂肪率,睡眠時間,摂取カロリなどのデータも,C 社クラウドサービス上のシステムに自発的にアップロードできるようにする。

健康保険組合の健康増進活動・予防活動の成否は,被保険者に「自ら健康増進に取り組んでもらえるかどうかに懸かっている」。そのためには被保険者が自身の健康状態を把握でき,健康の維持や改善を実感できることが重要である。

追加機能では,被保険者が健康診断の結果や自分で取得した BMI,体脂肪率などを「自発的に」アップロードでき,傾向分析結果を Web ページでモニタリングできる。被保険者が自分の健康状態を把握し,自発的に取り組むための仕組みである。講評によると“健康改善した被保険者に特典を提供するため”という答えが散見された。特典の提供はこのデータを使って健康保険組合が予定している業務ではあるが,健康保険組合主導の施策であり,要望の背景は被保険者の自発的な取組を引き出すことにある。

30字に対し,解答例は「被保険者が自ら健康増進に取り組んでもらうため」で22字。本文の「自ら健康増進に取り組んでもらえるかどうか」をそのまま使い,主体(被保険者が)を明示する。

採点講評(IPA)

設問3(1)では,“健康改善した被保険者に特典を提供するため”という解答が散見された。健康保険組合で予定しているデータを利用した業務ではあるが,健康保険組合主導ではなく,被保険者に自発的に健康増進に取り組んでもらいたい点があることに気付いてほしかった。

設問3(2) 解答欄2つ

C 社と D 社が追加機能の要望に取り組むことにした狙いは何か。それぞれ 20 字以内で述べよ。

〔C社〕解答例

  • クラウドサービスの適用拡大

〔D社〕解答例

  • AIエンジン技術の適用拡大
解説

本文の根拠

〔新たな医療保険の概要〕

C 社,D 社とも,自社技術・サービスの適用事例は少なく,売上げの拡大が期待できることから,今回の B 社の新商品の取組には積極的に協力する意向である。特に,D 社は,今後実用化領域の広がりが予想される AI エンジンの適用拡大に向けた良い機会と捉えている。

〔健康保険組合からの要望への対応〕(1)

被保険者は,健康診断の結果を C 社が新たに構築するクラウドサービス上のシステムにアップロードできるようにする。

〔健康保険組合からの要望への対応〕(2)

D 社は,(1)でアップロードされたデータを学習させ,学習済モデルを D 社自身で新たに構築して,アップロードしたデータに応じた傾向分析を行う。

C 社と D 社は「自社技術・サービスの適用事例は少なく」,適用が広がれば売上げの拡大が期待できるので,B 社の取組に積極的に協力している。特に D 社は,この機会を「AI エンジンの適用拡大に向けた良い機会」と捉えている。

追加機能では,C 社が新たにクラウドサービス上のシステムを構築し,D 社が新たに学習済モデルを自ら構築して傾向分析を行う。どちらも B 社の新商品システムとは別に,健康保険組合向けに自社の技術・サービスを適用する場面が増える。したがって C 社の狙いはクラウドサービスの適用拡大,D 社の狙いは AI エンジン技術の適用拡大である。講評によると C 社について“リストデバイスの拡販”という答えが散見された。健康保険組合の要望は追加のデータの登録機能と健康指導の支援機能で,リストデバイスの数量が増えるわけではない。

20字ずつに対し,解答例は C 社「クラウドサービスの適用拡大」13字,D 社「AIエンジン技術の適用拡大」13字。追加機能で各社が受け持つもの(C 社はクラウドサービス上のシステム,D 社は学習済モデルと傾向分析)を,本文の「適用拡大」と組み合わせる。

採点講評(IPA)

設問3(2)C社は,正答率が低かった。“リストデバイスの拡販”という解答が散見された。健康保険組合の要望が直接リストデバイスの数量には関連しないことを理解してほしかった。

出典:令和元年度 秋期 ITストラテジスト試験 午後Ⅰ 問2(表記を一部改変)

問3 大学受験向け予備校の合併に伴う IT を活用したビジネスモデルの見直し

大学受験向け予備校の合併に伴う IT を活用したビジネスモデルの見直しに関する次の記述を読んで,設問1〜3に答えよ。

F 社は,大学受験向け大手予備校である。全国各地域に校舎をもち,1 名の講師が多数の生徒や学生(以下,学生という)をまとめて指導する集団型講座を展開している。

昨今の大学受験市場は,18 歳人口の減少などの影響によって募集人数に対し入学を希望する学生の数が減少している。大学の多くは,入学志願者の間口を広げるために主要 5 教科の試験による選考に加えて,小論文や面接などの方法での選考も行っている。F 社は,主要 5 教科の試験対策を行って大学に合格することを目的とする授業だけを提供しており,大学受験市場の変化に思うように対応できていない。

このような状況を受け F 社は,G 社に合併の提案を行うこととした。

G 社は,首都圏近郊に展開している学習塾である。講師 1 名に対し学生 1 名〜数名を指導する個別指導型講座を展開しており,講座においては独自に構築した IT を活用して学生の苦手分野の克服に特化した学習サービスを積極的に取り入れている。G 社の講師は,講義時間外を利用して,学生と面談し,学力向上のために小論文や面接対策の指導を行っている。学生とのコミュニケーションを重視していることが口コミで広がり,学生の獲得につながっている。

〔F 社の IT 活用状況と課題〕

F 社の強みは,大学合格実績が多いことである。F 社には多くの大学の過去 10 年間にわたる全教科の入学試験の傾向が蓄積された大学データベースがあり,大学別の学力判定模擬試験(以下,F 社模試という)の合格判定の精度も高い。F 社に通う学生のほとんどが,自身が志望する大学の F 社模試を受験する。F 社模試で出題した問題と解答,分野,過去の受験者の成績情報及び合否結果はビッグデータとして学生データベースに蓄積されている。F 社模試の合格判定には,蓄積されたビッグデータを活用している。

F 社の講師は,講座の質を高めるために,毎年各大学の入学試験の傾向を分析し教材の改訂に当たっている。多くの学生が苦手とする分野を題材として取り上げることができれば講座の質が高まると考えているが,実現できていない。

F 社の講座には,教室で行うライブ講座とオンライン講座がある。オンライン講座には,ライブ講座を他校舎の教室で放映するリアルタイム形式と,スタジオで録画した講座を専用ブースで視聴するオンデマンド形式があり,遠隔講座システムを用いている。また遠隔講座システムは,スタジオでの講座を専用ブースへ生中継し,講師と学生が遠隔でコミュニケーションをとりながら行う Web 会議形式の講座も開講可能であるが,現在は希望する学生が少なく,利用されていない。

F 社は,学生が会員登録して利用する Web サイト(以下,学習支援システムという)上で,学生への学習支援サービスを提供している。学生は,学習支援サービスを通して,自身が受講する講座のスケジュールや時間,教室の変更情報,F 社模試の結果履歴などを確認することができる。

F 社では,今後 IT を活用して,F 社に通う学生の次のようなニーズに対応することが必要であると感じている。

〔F 社に通う学生のニーズ〕

F 社に通う学生は,難関大学への入学を望む傾向にある。F 社に対しては,志望校合格に向けて実践的に学習できる講座が提供されることを望んでいる。また,最近では学習しているその場で苦手分野を克服するための個別指導へのニーズも高い。

F 社の学生は,志望校に合格するためには F 社の講座とは別に自宅学習が重要であることを理解しているが,一人で自宅学習する意思を持続することは難しいと感じている。自身が行った学習時間を把握して他の学生の学習時間と比較することができると競争意識が働き,自宅学習のモチベーション向上に役立つと考えている学生も多い。

〔G 社の IT 活用状況とニーズ〕

G 社の講座は,対面指導のほかに,独自に構築したアダプティブラーニングシステム(以下,ALS という)を活用した自立型学習サービスの提供に特色がある。ALS は,学生が ALS を利用して行った教科ごとの分野や演習問題とその学習にかかった時間などを学習記録として蓄積するものであり,学生が学習の進度や理解度を確認できるようにするものである。G 社の ALS には,ALS を利用した学習記録に限らず,ALS 以外で行った試験の結果なども記録することができる。さらに ALS は,独自に開発した AI 機能を活用し,蓄積されたデータから多くの学生が苦手とする分野の傾向を分析することができる。また,傾向分析した情報を活用し,学生ごとの学力向上につながる最適な演習問題を繰返し出題する仕組みを実現している。蓄積されるデータが多いほど傾向分析の精度や演習問題の適応度が高まるので G 社は今後蓄積データを増やしたいと考えている。

G 社の強みは,個別指導型講座による対面指導で,学生の弱点をその場で解決できることである。

G 社の講座は,教科別の講座であり,特定の大学向けの講座はない。学生からは,志望する大学に特化した講座の開講を期待する声もあるが,学生のニーズには応えられていない。

G 社は,今後 IT を活用して,ニーズや課題に対応する必要があると感じている。

〔合併に向けた講座の新設と見直し〕

F 社の合併提案に対して G 社も合併によって G 社のニーズや課題に対応できると判断したので,両社は合意した。両社は合併に向けて両社がもつ IT を連携統合し,活用するための具体的な協議を開始した。

講座形態については,F 社に通う学生のニーズに応えるために F 社の遠隔講座システムを利用して Web 会議形式による個別指導型オンライン講座を新設することにした。

また,G 社に通う学生のニーズに応えるために,ある情報を講座内容に取り入れて見直しを図ることにした。

〔ALS の活用促進策〕

学生は,ALS を活用することで学習の進度や理解度を確認することができるとともに,学習を行うほど出題される演習問題が苦手分野に適合していくので学力向上につながっている。ALS が出題する演習問題の適応度を高め,学生の一層の学力向上を図るために,F 社のある情報の活用を検討することにした。

〔学習支援システムの強化策〕

学習支援システムの強化策として,次の機能を追加する。

出題趣旨(IPA)

ITストラテジストには,事業環境の変化を的確に把握し企業の経営戦略に基づきITを活用したビジネスモデルの改革や高度化,最適化するための基本戦略を策定・提案・推奨する能力が求められる。本問では,予備校の合併を題材として,ITを活用したビジネスモデルの高度化を構想し,提案する能力を評価する。具体的には,合併の狙いを実現するためのITの活用策の提案,既存サービスの付加価値向上策に向けて必要となる情報の導出,学習支援システムの強化による学生の要望の実現などによって,課題解決能力を問う。

採点講評(問全体・IPA)

問3では,大学受験向け予備校の合併に伴うITを活用したビジネスモデルの見直しについて出題した。題意や状況設定はおおむね理解されているようであった。

ITストラテジストは,事業環境や顧客ニーズの変化を的確に捉え,効果の高い解決策を策定する能力を高めてほしい。

設問と解答例

設問1(1) 20字以内

個別指導型オンライン講座を新設することによって,F 社に通う学生のどのようなニーズに応えることができるか。20 字以内で述べよ。

解答例

  • その場で苦手分野を克服したい
解説

本文の根拠

〔F 社に通う学生のニーズ〕

また,最近では学習しているその場で苦手分野を克服するための個別指導へのニーズも高い。

〔G 社の IT 活用状況とニーズ〕

G 社の強みは,個別指導型講座による対面指導で,学生の弱点をその場で解決できることである。

〔合併に向けた講座の新設と見直し〕

講座形態については,F 社に通う学生のニーズに応えるために F 社の遠隔講座システムを利用して Web 会議形式による個別指導型オンライン講座を新設することにした。

〔F 社に通う学生のニーズ〕には二つの段落があり,一つ目は志望校合格に向けた実践的な講座と,「学習しているその場で苦手分野を克服するための個別指導へのニーズ」,二つ目は自宅学習のモチベーションである。個別指導型の講座で応えるのは,その場での苦手分野の克服である。

F 社は 1 名の講師が多数の学生を指導する集団型講座で,個別指導はできていない。一方,G 社の強みは「個別指導型講座による対面指導で,学生の弱点をその場で解決できること」である。F 社の遠隔講座システムは講師と学生が遠隔でコミュニケーションをとる Web 会議形式の講座を開講でき,これで G 社の個別指導を F 社の学生にも届けられる。

20字に対し,解答例は「その場で苦手分野を克服したい」で14字。ニーズを問われているので学生の立場で「〜したい」と書き,本文の「その場で」「苦手分野を克服する」を残す。

設問1(2) 25字以内

ある情報を講座内容に取り入れて見直しを図ることで,G 社に通う学生のどのようなニーズに応えることができるか。25 字以内で述べよ。

解答例

  • 志望する大学に特化した講座を受講したい
解説

本文の根拠

〔G 社の IT 活用状況とニーズ〕

G 社の講座は,教科別の講座であり,特定の大学向けの講座はない。学生からは,志望する大学に特化した講座の開講を期待する声もあるが,学生のニーズには応えられていない。

〔合併に向けた講座の新設と見直し〕

また,G 社に通う学生のニーズに応えるために,ある情報を講座内容に取り入れて見直しを図ることにした。

G 社の講座は教科別で,特定の大学向けの講座がない。学生からは「志望する大学に特化した講座の開講を期待する声」があるが,応えられていない。本文で G 社に通う学生のニーズとして書かれているのはこれである。

合併によって F 社の情報を講座内容に取り入れれば,大学別の講座を作れるようになる(取り入れる情報は設問1(3))。F 社は大学別の F 社模試を行っており,大学ごとの入学試験の傾向を分析して教材を改訂している。これを G 社の講座に持ち込むことで,志望する大学に特化した講座を提供できる。

25字に対し,解答例は「志望する大学に特化した講座を受講したい」で19字。本文の「志望する大学に特化した講座」をそのまま使い,学生のニーズなので「受講したい」で結ぶ。

設問1(3) 15字以内

G 社に通う学生のニーズに応えるために,G 社の講座内容に取り入れる情報は何か。15 字以内で述べよ。

解答例

  • 大学の入学試験の傾向
解説

本文の根拠

〔F 社の IT 活用状況と課題〕

F 社には多くの大学の過去 10 年間にわたる全教科の入学試験の傾向が蓄積された大学データベースがあり,大学別の学力判定模擬試験(以下,F 社模試という)の合格判定の精度も高い。

〔G 社の IT 活用状況とニーズ〕

学生からは,志望する大学に特化した講座の開講を期待する声もあるが,学生のニーズには応えられていない。

G 社に通う学生のニーズは,志望する大学に特化した講座である(設問1(2))。大学に特化した講座を作るには,大学ごとの出題の特徴が要る。

F 社には「多くの大学の過去 10 年間にわたる全教科の入学試験の傾向が蓄積された大学データベース」があり,F 社の講師は毎年各大学の入学試験の傾向を分析して教材を改訂している。G 社にはこの情報が無い。講評によると“ALS が保持する情報”という答えも一部に見られた。ALS は G 社自身のシステムで,苦手分野の傾向は分かっても大学ごとの傾向は分からない。特定の大学向けの講座の開講が G 社に通う学生のニーズであることから考える。

15字に対し,解答例は「大学の入学試験の傾向」で10字。大学データベースに蓄積されている中身をそのまま書く。「大学データベース」と入れ物で答えるより,講座内容に取り入れる情報そのものを書くほうが設問に合う。

採点講評(IPA)

設問1(3)では,“G社に通う学生のニーズ”に応える情報を解答として期待したが,“ALSが保持する情報”という解答も一部に見られた。特定の大学向け講座の開講がG社に通う学生のニーズであることを理解してほしかった。

設問2(1) 35字以内

F 社は ALS の情報を活用してどのような状況を改善したいと考えているか。35 字以内で述べよ。

解答例

  • 多くの学生の苦手とする分野を題材として取り上げられていない状況
解説

本文の根拠

〔F 社の IT 活用状況と課題〕

F 社の講師は,講座の質を高めるために,毎年各大学の入学試験の傾向を分析し教材の改訂に当たっている。多くの学生が苦手とする分野を題材として取り上げることができれば講座の質が高まると考えているが,実現できていない。

〔G 社の IT 活用状況とニーズ〕

さらに ALS は,独自に開発した AI 機能を活用し,蓄積されたデータから多くの学生が苦手とする分野の傾向を分析することができる。

F 社の課題として本文にあるのは,講師が「多くの学生が苦手とする分野を題材として取り上げることができれば講座の質が高まると考えているが,実現できていない」ことである。

ALS は,蓄積されたデータから「多くの学生が苦手とする分野の傾向を分析することができる」。この分析結果を使えば,F 社の講師は多くの学生が苦手とする分野を題材として取り上げられる。ALS の情報で改善できるのはこの状況である。講評によると“Web 会議形式の講座が利用されていない状況”という答えが散見された。Web 会議形式の講座は F 社の遠隔講座システムの話で,ALS の情報とは関係しない。

35字に対し,解答例は「多くの学生の苦手とする分野を題材として取り上げられていない状況」で31字。本文の「実現できていない」を具体的に言い直し,状況を問われているので「〜状況」で結ぶ。

採点講評(IPA)

設問2(1)は,正答率が低かった。“Web会議形式の講座が利用されていない状況”という解答が散見された。ALSに蓄積されたデータは,多くの学生が苦手とする分野の傾向が分析できることから,改善できる状況が何かを判断してほしかった。

設問2(2) 15字以内

ALS が出題する演習問題の適応度を高めるために活用を検討する情報とは何か。15 字以内で述べよ。

解答例

  • 学生データベースの情報
解説

本文の根拠

〔F 社の IT 活用状況と課題〕

F 社模試で出題した問題と解答,分野,過去の受験者の成績情報及び合否結果はビッグデータとして学生データベースに蓄積されている。

〔G 社の IT 活用状況とニーズ〕

G 社の ALS には,ALS を利用した学習記録に限らず,ALS 以外で行った試験の結果なども記録することができる。

〔G 社の IT 活用状況とニーズ〕

蓄積されるデータが多いほど傾向分析の精度や演習問題の適応度が高まるので G 社は今後蓄積データを増やしたいと考えている。

〔ALS の活用促進策〕

ALS が出題する演習問題の適応度を高め,学生の一層の学力向上を図るために,F 社のある情報の活用を検討することにした。

ALS は蓄積されるデータが多いほど傾向分析の精度や演習問題の適応度が高まるので,G 社は蓄積データを増やしたいと考えている。しかも ALS には,ALS を利用した学習記録に限らず「ALS 以外で行った試験の結果なども記録することができる」。

F 社の学生データベースには,F 社模試で出題した問題と解答,分野,過去の受験者の成績情報及び合否結果がビッグデータとして蓄積されている。これは ALS 以外で行った試験の結果そのものであり,分野ごとの成績も分かる。F 社のもう一つのデータベースである大学データベースは入学試験の傾向で,学生ごとの苦手分野に合わせた演習問題の出題には,学生の成績の情報のほうが合う。

15字に対し,解答例は「学生データベースの情報」で11字。F 社のどの情報かが特定できるよう,データベースの名前で答える。

設問3(1) 25字以内

学習時間の記録を可能とした理由は何か。25 字以内で述べよ。

解答例

  • 学習時間の比較が自宅学習する意思を持続させるから
解説

本文の根拠

〔F 社に通う学生のニーズ〕

F 社の学生は,志望校に合格するためには F 社の講座とは別に自宅学習が重要であることを理解しているが,一人で自宅学習する意思を持続することは難しいと感じている。自身が行った学習時間を把握して他の学生の学習時間と比較することができると競争意識が働き,自宅学習のモチベーション向上に役立つと考えている学生も多い。

〔学習支援システムの強化策〕

② 学生が自宅で行った ALS 以外での学習の開始時刻・終了時刻の入力を可能とし,学習時間として管理する。

〔学習支援システムの強化策〕

③ 同じ講座を受講する学生の学習時間の統計情報を確認でき,学生全体の中での自身のポジショニング情報を知ることを可能とする。

F 社の学生は自宅学習が重要だと理解しているが,「一人で自宅学習する意思を持続することは難しい」と感じている。そして,自身の学習時間を他の学生と比較できれば競争意識が働き,自宅学習のモチベーション向上に役立つと考えている学生も多い。

強化策の①②で ALS の学習時間と自宅での学習時間を記録し,③で同じ講座の学生の学習時間の統計情報と自分の位置を確認できるようにする。学習時間を記録するのは,この比較を可能にして,自宅学習する意思を持続させるためである。

25字に対し,解答例は「学習時間の比較が自宅学習する意思を持続させるから」で24字。記録そのものではなく,記録によって可能になる比較と,その効果(意思の持続)を書く。本文の「一人で自宅学習する意思を持続することは難しい」の裏返しになっている。

設問3(2) 20字以内

講座の新設とは別に,講師と学生が双方向でコミュニケーションできる機能を追加する目的は何か。20 字以内で述べよ。

解答例

  • 小論文や面接対策を行うため
解説

本文の根拠

冒頭

大学の多くは,入学志願者の間口を広げるために主要 5 教科の試験による選考に加えて,小論文や面接などの方法での選考も行っている。F 社は,主要 5 教科の試験対策を行って大学に合格することを目的とする授業だけを提供しており,大学受験市場の変化に思うように対応できていない。

冒頭

G 社の講師は,講義時間外を利用して,学生と面談し,学力向上のために小論文や面接対策の指導を行っている。

〔学習支援システムの強化策〕

④ 講師と学生の双方向のコミュニケーションを可能とする。

大学の多くは主要 5 教科の試験に加えて小論文や面接などでも選考しているが,F 社は主要 5 教科の試験対策の授業だけを提供しており,この変化に対応できていない。一方 G 社の講師は,講義時間外に学生と面談して「小論文や面接対策の指導」を行っている。

新設する個別指導型オンライン講座は,その場で苦手分野を克服するためのものである(設問1(1))。講座とは別に講師と学生が双方向でコミュニケーションできる機能を学習支援システムに加えれば,G 社が講義時間外に行ってきた小論文や面接対策の指導を,F 社の学生にも講座の外で提供できる。F 社の課題である大学受験市場の変化への対応にもつながる。

20字に対し,解答例は「小論文や面接対策を行うため」で13字。「講座の新設とは別に」とあるので,講座で扱う主要教科や苦手分野ではなく,講座の外で行う指導の中身を書く。

出典:令和元年度 秋期 ITストラテジスト試験 午後Ⅰ 問3(表記を一部改変)

問4 自動運転技術を用いた海底探査システム

自動運転技術を用いた海底探査システムに関する次の記述を読んで,設問1〜3に答えよ。

X 社は,自動車の電装部品メーカであり,電装部品及び自動車向けシステムの開発を手掛けている。X 社は,大手自動車メーカの Y 社に製品を納入してきた。

X 社が長年研究してきた自動車の運転支援システムは,10 年前から Y 社の製品である自動車に実装されるようになり,今では X 社の主力事業の一つになっている。そこで X 社は,この技術分野で業界をリードし続けることを目指す事業戦略を立てることにした。

〔自動車の自動運転技術〕

自動車の運転支援システムは,運転者の不注意による事故を回避したり,運転操作自体をサポートしたりするシステムで,30 年間にわたって研究開発が続けられてきており,近年は,IT 及びセンサ技術の進歩で急速に発達してきた。

基本的に人間が介在しない自動車の自動運転技術については,高速道路などの限定された区間において実用段階に近づいている。さらに,高速道路以外の,道路,他車,歩行者などの外部環境が複雑で,かつ,外部環境の変化が予測しにくい区間で自動運転するためには,外部環境の認識と,それに応じた走行方法の判断が重要な要素技術となる。今後は,外部環境の認識・走行方法の判断を行う機能を AI で実現し,自動車の自動運転の適用範囲が拡大することによって,交通事故の減少と運転者の負担軽減が期待されている。

人命に関わる自動運転技術には,非常に高い信頼性をもつシステムが必要とされている。また,自動運転技術の実用化には,事故が発生した場合の責任の所在を,製造に関わるメーカを含めて考えることが求められている。

自動車メーカは,現在の自動車にとらわれず,時代の要求に応じた移動手段の利便性や安全性を目的として,新たな技術開発を行うことを継続的に求められている。

〔移動手段の構想〕

政府は,都市の渋滞を避けた通勤・通学,離島や山間部での新しい移動手段,災害時の救急搬送や迅速な物資輸送などを想定した“空飛ぶクルマ”の構想と,その実現に向けたロードマップを示した。そのロードマップには,2030 年代に,多数機が 3 次元空間を安全に移動するための高度な自動飛行技術が必要となることが記述されていた。

〔X 社の現状〕

Y 社の自動車の販売台数は,ここ数年順調であったが,自動車業界は激しい価格競争状態にある。この結果,X 社の売上げは伸びているものの利益は大きくなく,X 社の技術開発費は不足しているのが現状である。

一方で,X 社は,自動車の運転支援システムを高度化して,自動運転技術の実用化を 3 年以内に実現することを Y 社から強く求められている。

〔X 社への開発検討依頼〕

X 社は,Y 社の親会社である重工業メーカの Z 社から,高効率な海底探査技術の開発検討依頼を受けた。

Z 社は,海底資源を採掘するための大型採掘機械を含めたシステムの開発を,世界に先駆けて成功させていた。海底資源を採掘する技術は特殊なので,参入している企業は Z 社を含めた数社に限定される状況にある。

Z 社が目指す採算性が高い海底資源を採掘する事業を軌道に乗せるには,その前段となる海底資源の探査に要する期間の短縮と低コスト化が課題となっている。また,Z 社は,海底探査をするための有人潜水調査船を開発し,水中での通信に有効な技術の一つである水中音響通信技術など,多くの関連要素技術の特許を保有している。

〔海底探査の状況〕

海底探査の状況を次に示す。

〔無人海底探査機開発の技術的課題の調査〕

X 社の IT ストラテジストである L 氏は,X 社の保有する自動車の自動運転技術を生かした無人海底探査機を開発することを検討し,その技術的課題の調査をシステムアーキテクトである M 氏に依頼した。M 氏は,次のようにまとめ,L 氏に報告した。

〔事業性の検討〕

L 氏は M 氏の報告を受け,ある契約が Z 社との間で成立することを条件に,無人海底探査機の開発は技術的に可能であると判断した。さらに,無人海底探査機は有人潜水調査船と比較し,大幅に安価な製品として開発することが可能であると考えた。しかし,将来にわたる事業性については,海底資源を採掘する市場は拡大するが,海底探査をする市場は収益面で X 社にとってリスクがあると判断し,Z 社に交渉する必要があると考えた。

そこで L 氏は,X 社の幹部会議で事業の方針案を説明して意思決定を図ることにした。

〔海底探査システムの事業計画〕

L 氏は,海底探査の事業を成功させるためには,単に海底探査機を無人化するだけでなく,複数の無人海底探査機を協調制御して同時に運航する海底探査システムを開発することが効果的であると考え,次の目標を掲げた。

L 氏は,X 社として海底探査システムの開発を進めるには新たな開発体制の構築が必要であると考えた。

〔事業拡大の戦略〕

L 氏は,海底探査システムで開発した 3 次元空間を想定した自動運転技術及び協調制御技術を基に,今後 Y 社が目指すことになると思われる事業に活用可能な新たな技術を開発できると考えた。その技術を提供することによって,Y 社の事業にも貢献でき,X 社の事業拡大にもつながると考えた。

出題趣旨(IPA)

ITストラテジストには,事業戦略を立てるに当たり,現在の企業の経営状況と手掛けようとする事業の将来性を踏まえ,事業計画を立案する能力が求められる。本問では,自動運転技術を用いた海底探査システムを題材として,新たな市場向けの新製品を開発する事業計画を立案する能力を評価する。具体的には,将来にわたる事業性を検討する能力,開発体制を含めた事業計画を立案する能力,事業拡大の戦略を立案する能力を問う。

採点講評(問全体・IPA)

問4では,自動運転技術を用いた海底探査システムの事業計画の立案について出題した。題意や状況設定はおおむね理解されているようであった。

ITストラテジストは,社会の要求と市場の動向を把握し,企業の経営状況と手掛けようとする事業の将来性を踏まえた上で,戦略的な事業計画を立案し推進する能力を高めてほしい。

設問と解答例

設問1(1) 25字以内

L 氏が,無人海底探査機の開発は技術的に可能であると判断するための条件とした Z 社との契約とは何か。25 字以内で述べよ。

解答例

  • Z社の保有する水中音響通信技術を利用する契約
解説

本文の根拠

〔X 社への開発検討依頼〕

また,Z 社は,海底探査をするための有人潜水調査船を開発し,水中での通信に有効な技術の一つである水中音響通信技術など,多くの関連要素技術の特許を保有している。

〔無人海底探査機開発の技術的課題の調査〕

無人海底探査機と母船間の通信については,水中音響通信技術を活用することによって早期に実現可能である。

〔無人海底探査機開発の技術的課題の調査〕

海中で水中音響通信技術を活用して母船からの無人海底探査機の相対位置を求め,

〔事業性の検討〕

L 氏は M 氏の報告を受け,ある契約が Z 社との間で成立することを条件に,無人海底探査機の開発は技術的に可能であると判断した。

M 氏の報告に出てくる技術のうち,3 次元空間への機能拡張は X 社の自動運転技術の拡張,静止のための制御は X 社の 6 軸ジャイロセンサと汎用的な圧力センサで実現できる。残る母船との通信と位置特定は,どちらも「水中音響通信技術を活用」することで実現可能とされている。

水中音響通信技術は X 社のものではなく,Z 社が特許を保有している関連要素技術の一つである。したがって X 社が無人海底探査機を開発するには,Z 社との間でこの技術を利用する契約(特許の利用許諾)が成立していなければならない。L 氏が「ある契約」を条件にしたのはこのためである。

25字に対し,解答例は「Z社の保有する水中音響通信技術を利用する契約」で22字。誰の(Z 社の保有する),何を(水中音響通信技術を),どうする契約か(利用する)を書く。「特許の契約」だけでは,どの技術が足りないのかが伝わらない。

設問1(2) 20字以内

L 氏が,無人海底探査機は有人潜水調査船と比較し,大幅に安価な製品として開発することが可能であると考えた理由を,20 字以内で述べよ。

解答例

  • 高い安全性が必要とされないから
解説

本文の根拠

〔海底探査の状況〕

海底探査は,有人潜水調査船を用いる方法が主流であるが,高い安全性が必要とされるのでコストが高い。

〔海底探査の状況〕

今後,無人で海底探査をする方法が主流になると,有人のために必要とされていた高い安全性が不要となり,多くの企業が参入すると考えられる。

〔海底探査の状況〕によると,有人潜水調査船は「高い安全性が必要とされるのでコストが高い」。人が乗って深海に潜る以上,乗組員の命を守るための安全性が製品の価格を押し上げている。

無人海底探査機には人が乗らないので,「有人のために必要とされていた高い安全性が不要」になる。有人潜水調査船のコストを高くしていた要因が無くなるので,大幅に安価な製品として開発できると L 氏は考えた。母船や人件費の削減は運用のコストの話で,製品そのものを安価に開発できる理由とは別である。

20字に対し,解答例は「高い安全性が必要とされないから」で15字。有人潜水調査船のコストが高い理由(高い安全性が必要)を裏返して書き,理由なので「〜から」で結ぶ。

設問1(3) 25字以内

L 氏が,将来にわたる事業性について,海底探査をする市場は収益面でリスクがあると判断した理由を,25 字以内で述べよ。

解答例

  • 多くの企業が参入すると考えられるから
解説

本文の根拠

〔X 社への開発検討依頼〕

海底資源を採掘する技術は特殊なので,参入している企業は Z 社を含めた数社に限定される状況にある。

〔海底探査の状況〕

無人で海底探査をする方法は何通りかあり,現在の技術の組合せでも実現できる。今後,無人で海底探査をする方法が主流になると,有人のために必要とされていた高い安全性が不要となり,多くの企業が参入すると考えられる。

〔事業性の検討〕

しかし,将来にわたる事業性については,海底資源を採掘する市場は拡大するが,海底探査をする市場は収益面で X 社にとってリスクがあると判断し,Z 社に交渉する必要があると考えた。

海底資源を採掘する市場は技術が特殊で,参入企業は Z 社を含めた数社に限られる。一方,海底探査は,無人で行う方法が何通りもあって現在の技術の組合せでも実現でき,無人が主流になれば高い安全性が不要になって「多くの企業が参入すると考えられる」。

参入企業が増えれば価格競争になり,X 社が無人海底探査機で得られる収益は下がる。L 氏が採掘の市場は拡大するとしながら探査の市場には収益面のリスクがあると判断したのはこのためで,だから Z 社との交渉が必要だと考えた。講評によると,収益面でのリスクではない理由を述べた答えが散見された。技術的な難しさなどではなく,無人の方法が主流になることによる参入の増加に着目する。

25字に対し,解答例は「多くの企業が参入すると考えられるから」で18字。本文の「多くの企業が参入すると考えられる」をそのまま使う。

採点講評(IPA)

設問1(3)では,海底探査をする市場は収益面でリスクがあると判断した理由について解答を求めたが,収益面でのリスクではない理由を述べた解答が散見された。無人で海底探査をする方法が主流になることに着目して解答してほしかった。

設問2(1) 40字以内

L 氏が,海底探査システムの事業を手掛けるに当たって,新たな開発体制の構築が必要であると考えたのはなぜか。X 社の置かれた状況を考慮して,40 字以内で述べよ。

解答例

  • 自動運転技術を3年以内に実用化することを強く求められているから
解説

本文の根拠

〔X 社の現状〕

この結果,X 社の売上げは伸びているものの利益は大きくなく,X 社の技術開発費は不足しているのが現状である。

〔X 社の現状〕

一方で,X 社は,自動車の運転支援システムを高度化して,自動運転技術の実用化を 3 年以内に実現することを Y 社から強く求められている。

〔海底探査システムの事業計画〕

L 氏は,X 社として海底探査システムの開発を進めるには新たな開発体制の構築が必要であると考えた。

〔X 社の現状〕には,X 社の置かれた状況が二つ書かれている。一つは利益が大きくなく技術開発費が不足していること,もう一つは主力事業である運転支援システムを高度化して「自動運転技術の実用化を 3 年以内に実現することを Y 社から強く求められている」ことである。

主要顧客の Y 社から期限付きで強く求められている以上,今の開発要員は自動車の自動運転技術の実用化に充てなければならない。海底探査システムの開発を同じ体制で進めれば,Y 社の要求に応えられなくなるおそれがある。そのため,海底探査システムのために新たな開発体制を構築する必要がある。

40字に対し,解答例は「自動運転技術を3年以内に実用化することを強く求められているから」で31字。設問の「X 社の置かれた状況を考慮して」に対し,既存の体制を割けない理由である Y 社からの要求を,期限(3 年以内)とともに書く。

設問2(2) 25字以内

L 氏が,無人海底探査機を複数同時に運航して探査することによって,現在の海底探査のどのような問題を解決しようとしたか。25 字以内で述べよ。

解答例

  • 広域の探査には長い期間と高いコストが掛かる。
解説

本文の根拠

〔X 社への開発検討依頼〕

Z 社が目指す採算性が高い海底資源を採掘する事業を軌道に乗せるには,その前段となる海底資源の探査に要する期間の短縮と低コスト化が課題となっている。

〔海底探査の状況〕

有人潜水調査船の乗組員の体調管理を考慮すると,1 隻当たり 1 回の潜航で 3 時間程度までしか探査できず,広域の探査には長い期間と高いコストが掛かる。

〔海底探査システムの事業計画〕

(1) 同時に運航する無人海底探査機の機体数を最大 20 機とする。

現在の海底探査は有人潜水調査船が主流で,乗組員の体調管理から 1 隻当たり 1 回の潜航で 3 時間程度までしか探査できず,「広域の探査には長い期間と高いコストが掛かる」。Z 社も,探査に要する期間の短縮と低コスト化を課題としている。

L 氏の目標は,最大 20 機を同時に運航し,1 機当たり 1 回の潜航で 30 時間探査し,汎用の船と 3 名の運航員で運用することである。複数の機体で同時に広い範囲を探査すれば期間が短くなり,専用の母船や多くの人員が要らなくなればコストも下がる。講評によると,正答率は高かったが,今後の海底探査の課題を述べた答えも一部に見られた。設問は「現在の海底探査」の問題を問うている。

25字に対し,解答例は「広域の探査には長い期間と高いコストが掛かる。」で22字。本文の文をそのまま使う。期間とコストの両方を入れる。

採点講評(IPA)

設問2(2)では,無人海底探査機を複数同時に運航して探査することによって解決しようとした,現在の海底探査の問題について解答を求めた。正答率は高かったが,題意から外れ,今後の海底探査の課題を述べた解答も一部に見られた。

設問3(1) 30字以内

L 氏が,今後の Y 社の事業にも貢献できると考えたのは,自動車メーカのどのような状況からか。その状況を 30 字以内で述べよ。

解答例

  • 新たな技術開発を行うことを継続的に求められている。
解説

本文の根拠

〔自動車の自動運転技術〕

自動車メーカは,現在の自動車にとらわれず,時代の要求に応じた移動手段の利便性や安全性を目的として,新たな技術開発を行うことを継続的に求められている。

〔事業拡大の戦略〕

その技術を提供することによって,Y 社の事業にも貢献でき,X 社の事業拡大にもつながると考えた。

本文で自動車メーカの状況として書かれているのは,〔自動車の自動運転技術〕の最後の段落である。自動車メーカは「現在の自動車にとらわれず,時代の要求に応じた移動手段の利便性や安全性を目的として,新たな技術開発を行うことを継続的に求められている」。

Y 社は自動車メーカなので,自動車以外の移動手段のための新たな技術も必要になる。L 氏は海底探査システムで開発した技術から新たな技術を開発して Y 社に提供すれば,この要求に応える形で Y 社の事業に貢献できると考えた。

30字に対し,解答例は「新たな技術開発を行うことを継続的に求められている。」で25字。本文の文の後半をそのまま使う。字数に余裕があれば「現在の自動車にとらわれず」を足すと,自動車以外の技術が求められていることがはっきりする。

設問3(2) 10字以内

L 氏が考えた,今後 Y 社が目指すことになると思われる事業を,10 字以内で述べよ。

解答例

  • 空飛ぶクルマの事業
解説

本文の根拠

〔移動手段の構想〕

政府は,都市の渋滞を避けた通勤・通学,離島や山間部での新しい移動手段,災害時の救急搬送や迅速な物資輸送などを想定した“空飛ぶクルマ”の構想と,その実現に向けたロードマップを示した。

〔自動車の自動運転技術〕

自動車メーカは,現在の自動車にとらわれず,時代の要求に応じた移動手段の利便性や安全性を目的として,新たな技術開発を行うことを継続的に求められている。

自動車メーカは現在の自動車にとらわれず,時代の要求に応じた移動手段の技術開発を求められている(設問3(1))。本文で新しい移動手段として出てくるのは,〔移動手段の構想〕の政府の“空飛ぶクルマ”の構想である。

そのロードマップには,2030 年代に多数機が 3 次元空間を安全に移動するための高度な自動飛行技術が必要と書かれている。海底探査システムで開発する 3 次元空間を想定した自動運転技術と協調制御技術は,これに生かせる。したがって L 氏が考えた Y 社の今後の事業は,空飛ぶクルマの事業である。

10字に対し,解答例は「空飛ぶクルマの事業」で9字。本文の名称をそのまま使う。字数が少ないので,引用符は付けずに事業の名前だけを書く。

設問3(3) 35字以内

L 氏は,海底探査システムで開発した技術を基に,新たにどのような技術を開発して Y 社に提供することを想定したか。35 字以内で述べよ。

解答例

  • 多数機が3次元空間を安全に移動するための高度な自動飛行技術
解説

本文の根拠

〔移動手段の構想〕

そのロードマップには,2030 年代に,多数機が 3 次元空間を安全に移動するための高度な自動飛行技術が必要となることが記述されていた。

〔事業拡大の戦略〕

L 氏は,海底探査システムで開発した 3 次元空間を想定した自動運転技術及び協調制御技術を基に,今後 Y 社が目指すことになると思われる事業に活用可能な新たな技術を開発できると考えた。

海底探査システムで開発するのは「3 次元空間を想定した自動運転技術及び協調制御技術」である。L 氏はこれを基に,Y 社が目指すと思われる空飛ぶクルマの事業(設問3(2))に活用できる新たな技術を開発できると考えた。

空飛ぶクルマのロードマップには,「多数機が 3 次元空間を安全に移動するための高度な自動飛行技術」が必要とある。3 次元空間での自動運転は多数機の自動飛行に,複数の無人海底探査機の協調制御は多数機が安全に移動するための制御に対応する。講評によると正答率は低く,海底探査システムで開発した技術そのものを述べた答えが散見された。Y 社が自動車メーカであることを踏まえ,移動手段(空飛ぶクルマ)のための技術として書く。

35字に対し,解答例は「多数機が3次元空間を安全に移動するための高度な自動飛行技術」で29字。ロードマップの記述をそのまま使う。「3 次元空間を想定した自動運転技術」と書くと,海底探査システムで開発した技術と同じになってしまう。

採点講評(IPA)

設問3(3)では,海底探査システムで開発した技術を基に,Y社に提供する新たな技術について解答を求めたが,正答率は低かった。海底探査システムで開発した技術そのものを述べた解答が散見された。Y社が自動車メーカであることを踏まえた上で解答してほしかった。

出典:令和元年度 秋期 ITストラテジスト試験 午後Ⅰ 問4(表記を一部改変)