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平成21年度 秋期 午後Ⅰ

平成21年度 秋期に実施されたITストラテジスト試験 午後Ⅰの全4問(記述式)です。事例本文・設問・解答例と解説をそのまま読めます。

この試験について:ITストラテジスト試験について

この年度を解いてみる

問1 地方銀行における業務改革と営業支援システム

地方銀行における業務改革と営業支援システムに関する次の記述を読んで,設問1〜3に答えよ。

〔A 銀行の現状〕

A 銀行は,110 支店をもつ地方銀行で,本店所在地の B 県に 95 支店を集中展開することで,安定した収益を上げてきた。しかし,B 県内に大手銀行が相次いで出店したことによって A 銀行の業績は頭打ちとなり,対抗策の必要に迫られた。そこで,営業部門の効率向上と地域ごとのマーケティング強化を併せて進めることによって,収益性の高い投資商品やローンを重点的に販売していく方針を打ち出した。

この方針の下で,営業統括部が中心となって業務改革案の策定を行っている。営業統括部では,各支店に分散していた営業担当者を地域の母店に集中し,母店と配下の支店を一つの営業単位である連合店とすることによる地域ごとのマーケティング強化を検討している。さらに,一部の営業担当者については,契約社員に置き換えていく方針である。

また,新たに営業支援システムを導入することで,これらの業務改革を一層推進することを考えている。

〔現状分析のためのヒアリング結果〕

営業統括部では,各支店の責任者にヒアリングを実施した。その結果,訪問活動,相談業務,支店運営,情報システムについて次のような意見が出された。

〔業務改革案の内容〕

営業統括部では,ヒアリング結果を受け,検討を進めることにした。しかし,現場の声を吸収していくだけでなく,業務改革の方向性を具体的に示すべきという指摘が,営業統括部長から出された。この指摘を受けて取りまとめられた業務改革案の内容は,次のとおりである。

営業統括部では,連合店はどのように運営されるべきかを検討し,マニュアル作りに取り掛かった。特に,連合店のかなめとなる母店の責任者の行動をどのようなものにするかは重要と考えている。また,営業統括部は,A 銀行内の情報システム部門に,この業務改革案を説明し,営業支援システムの要件を明確にしていく作業も進めている。

出題趣旨(IPA)

ITストラテジストには,企業の経営戦略や事業特性を理解し,事業戦略や業務改革を,システム化計画を通じて実現していく能力が求められる。本問では,業務改革の企画,営業支援システムや顧客情報システムの機能を整理するための実践的能力を評価する。具体的には,地方銀行における営業部門の業務改革を題材として,営業の推進やコンプライアンスの徹底といった課題への取組を,情報システムの導入を通じて実現していく際に考慮すべき事項を問う。

採点講評(問全体・IPA)

問1では,地方銀行における営業部門の業務改革を,情報システムの導入を通じて実現していく取組について出題した。題意や状況設定は,おおむね理解されているようであった。

ITストラテジストは,企業の経営戦略や事業特性を理解した上で,業務改革を企画し,それを実現する顧客情報システムや営業支援システムの機能を整理する能力を身につけてほしい。

設問と解答例

設問1(1) 解答欄2つ

投資商品やローンを効果的に販売する対象となる顧客を抽出するために必要な情報を二つ挙げよ。

〔①〕解答例

  • 顧客の総資産保有額

〔②〕解答例

  • 顧客の購入履歴
解説

本文の根拠

〔現状分析のためのヒアリング結果〕(2) 相談業務

顧客の資産運用などに関する相談業務を行う際,最低でも,その顧客の総資産保有額については把握しておく必要がある。

〔現状分析のためのヒアリング結果〕(2) 相談業務

顧客ごとの商品購入履歴を把握しておくことは,各顧客が,投資商品やローンに伴うリスクをどのように受け止めているかを知るための重要な情報になる。

〔業務改革案の内容〕(2) 具体策 ① 連合店運営

顧客を層別に分類して営業担当者を割り振る。具体的には,スキルのある営業担当者は,特定の層の顧客への投資商品やローンの販売に集中させる。

業務改革案では,顧客を層別に分類し,スキルのある営業担当者を特定の層の顧客への投資商品やローンの販売に集中させる。その層を抽出するには,投資商品やローンを勧める相談業務の相手としてふさわしいかを判断できる情報が要る。ヒアリングの〔相談業務〕は,その判断材料を二つ挙げている。

一つは「総資産保有額」で,相談業務を行う際に「最低でも」把握しておく必要があるとされている。もう一つは「商品購入履歴」で,顧客が投資商品やローンに伴うリスクをどう受け止めているかを知る重要な情報とされている。資産の大きさとリスクへの姿勢の二つがそろえば,投資商品やローンを販売する対象を絞り込める。講評は,どの情報をどの業務に結び付けるかを混同した解答があったとしている。普通預金の残高や定期預金の期日は,(2)の契約社員の訪問先の抽出に使う情報である。

字数の制限は無い。解答例は「顧客の総資産保有額」(9字)と「顧客の購入履歴」(7字)。本文の語句をそのまま使い,誰の情報かが分かるよう「顧客の」を付ける。

採点講評(IPA)

設問1では,連合店運営に必要な情報について記述を求めた。具体的には,(1)では,相談業務の対象を抽出するための情報,(2)では,契約社員が訪問すべき先を抽出するための情報,(3)では,地域の状況を踏まえた営業推進策立案のための情報を求めている。重要な情報については摘出できたものの,どの情報をどの業務に結び付けるのかについて,混同した解答が一部に見られた。

設問1(2) 解答欄3つ

契約社員が訪問すべき先を抽出するために必要な情報を三つ挙げよ。

〔①〕解答例

  • 定期預金の期日

〔②〕解答例

  • 普通預金の残高

〔③〕解答例

  • 普通預金の入出金の状況
  • 大口の入出金
解説

本文の根拠

〔業務改革案の内容〕(2) 具体策 ① 連合店運営

契約社員には,顧客に関するそのほかの応対をさせる予定である。毎日,最新の情報を基に訪問先を決定し,契約社員に指示する。

〔現状分析のためのヒアリング結果〕(2) 相談業務

普通預金の残高や入出金の状況を確認し,残高が一定額を超えたときや大口の入出金があったとき,顧客に連絡して情報を得ることが,投資商品やローンの販売につながる可能性のある重要な作業である。しかし,単調な事務的作業であり,時間的な負担が大きい。

〔現状分析のためのヒアリング結果〕(2) 相談業務

定期預金の期日管理などの定例業務に時間を取られ,投資商品やローンの販売に必要な相談業務に時間を割けない。

スキルのある営業担当者を投資商品やローンの販売に集中させ,契約社員には「顧客に関するそのほかの応対」をさせる。ヒアリングで営業担当者の時間を奪っていると挙がったのは,定期預金の期日管理などの定例業務と,普通預金の残高や入出金の状況を確認して顧客に連絡する作業である。これらを契約社員に任せれば,営業担当者は相談業務に時間を割ける。

契約社員の訪問先は「毎日,最新の情報を基に」決める。そのために要るのが,期日が来る顧客を見付ける「定期預金の期日」,一定額を超えた顧客を見付ける「普通預金の残高」,大口の動きがあった顧客を見付ける入出金の情報である。三つ目の欄は,解答例が「普通預金の入出金の状況」と「大口の入出金」の二つを挙げており,どちらを書いてもよい。本文の「入出金の状況を確認し」と「大口の入出金があったとき」のどちらの言い方も拾えるからである。

字数の制限は無い。解答例は「定期預金の期日」(7字),「普通預金の残高」(7字),「普通預金の入出金の状況」(11字)又は「大口の入出金」(6字)。どの預金の何の情報かを本文の語句で書く。

採点講評(IPA)

設問1では,連合店運営に必要な情報について記述を求めた。具体的には,(1)では,相談業務の対象を抽出するための情報,(2)では,契約社員が訪問すべき先を抽出するための情報,(3)では,地域の状況を踏まえた営業推進策立案のための情報を求めている。重要な情報については摘出できたものの,どの情報をどの業務に結び付けるのかについて,混同した解答が一部に見られた。

設問1(3) 解答欄2つ

地域の状況に合わせて,効果的な人員の割り振りを行うために必要な情報を二つ挙げよ。

〔①〕解答例

  • 顧客の分布

〔②〕解答例

  • 競合他行の位置・業容
解説

本文の根拠

〔業務改革案の内容〕(1) 基本方針

地域の状況に合わせて,連合店内で人員を適切に割り振ることで,効率よく連合店運営を行い,従来以上の業績を目指す。

〔業務改革案の内容〕(2) 具体策 ① 連合店運営

地域情報を母店で集中管理し,他行の状況などを踏まえて,営業担当者を効果的に割り振り,目標を設定する。

〔現状分析のためのヒアリング結果〕(3) 支店運営

現状の支店の営業範囲は比較的狭いので,顧客の分布,競合他行の位置・業容などを思い浮かべやすく,支店の営業推進策立案は容易である。

連合店では,地域情報を母店で集中管理し,他行の状況などを踏まえて営業担当者を割り振る。ここで言う「地域の状況」が何かは,ヒアリングの〔支店運営〕に書かれている。今の支店は営業範囲が狭いので「顧客の分布,競合他行の位置・業容など」を思い浮かべやすく,営業推進策を立てるのは容易だという。

連合店になると営業範囲が広がり,責任者が頭の中で地域を把握することはできなくなる。そこで,これまで思い浮かべていた顧客の分布と競合他行の位置・業容を情報として集中管理し,人員の割り振りに使う。顧客の多いところ,他行と競り合うところに人を厚く置く判断ができる。講評は,(3)を地域の状況を踏まえた営業推進策立案のための情報と説明している。

字数の制限は無い。解答例は「顧客の分布」(5字)と「競合他行の位置・業容」(10字)。本文の語句をそのまま使う。

採点講評(IPA)

設問1では,連合店運営に必要な情報について記述を求めた。具体的には,(1)では,相談業務の対象を抽出するための情報,(2)では,契約社員が訪問すべき先を抽出するための情報,(3)では,地域の状況を踏まえた営業推進策立案のための情報を求めている。重要な情報については摘出できたものの,どの情報をどの業務に結び付けるのかについて,混同した解答が一部に見られた。

設問2 解答欄2つ

顧客情報に関する情報システムにおいて,従来の検索機能を,どのように改善すればよいか。二つ挙げ,それぞれ 35 字以内で述べよ。

〔①〕解答例

  • 同一顧客のすべての取引情報について,一元的に検索可能にする。

〔②〕解答例

  • 連合店内については,支店に限定されず検索可能にする。
解説

本文の根拠

〔現状分析のためのヒアリング結果〕(4) 情報システム

支店ごとの営業を基本としていることから,ほかの支店の顧客情報については,限定的な情報しか検索できず,不便である。

〔現状分析のためのヒアリング結果〕(4) 情報システム

自支店の顧客情報についても,顧客の口座番号から各種預金情報や住所が検索できるだけである。投資商品やローンについての取引情報は,それぞれ別の情報システムで検索する必要があるので,相談業務に必要な顧客ごとの購入履歴を調べるのには,多くの時間がかかる。

〔A 銀行の現状〕

各支店に分散していた営業担当者を地域の母店に集中し,母店と配下の支店を一つの営業単位である連合店とすることによる地域ごとのマーケティング強化を検討している。

ヒアリングの〔情報システム〕には不満が二つ挙がっている。一つは,ほかの支店の顧客情報は限定的な情報しか検索できないこと。もう一つは,自支店の顧客でも投資商品やローンの取引情報は別々のシステムで検索する必要があり,購入履歴を調べるのに時間がかかることである。改善策はこの二つの裏返しになる。

連合店では,母店と配下の支店が一つの営業単位になり,営業担当者は母店に集まって連合店内の顧客を受け持つ。ほかの支店の顧客を限定的にしか検索できないままでは連合店として営業できないので,連合店内なら支店に限定されずに検索できるようにする。また,相談業務を強化するには顧客ごとの購入履歴が要るので,同一顧客のすべての取引情報を一元的に検索できるようにする。

35字ずつに対し,解答例は「同一顧客のすべての取引情報について,一元的に検索可能にする。」(30字)と「連合店内については,支店に限定されず検索可能にする。」(26字)。どの範囲の情報を(同一顧客のすべての取引,連合店内)どう検索できるようにするか(一元的に,支店に限定されず)を対にして書く。

設問3(1) 25字以内

営業担当者の訪問活動を支援するために必要な機能を,25 字以内で述べよ。

解答例

  • 訪問の道筋や,時間配分を提示する機能
解説

本文の根拠

〔現状分析のためのヒアリング結果〕(1) 訪問活動

地域のどこに顧客がいるのかに合わせた効率のよい訪問の道筋や,時間配分を考慮した訪問計画の作成は,営業担当者の経験やスキルに依存している。

〔業務改革案の内容〕(2) 具体策 ② 営業支援システム

営業活動支援の観点から,効果的に訪問活動を行えるように営業担当者を支援する機能を実現する。

営業支援システムには,営業担当者が効果的に訪問活動を行えるよう支援する機能を実現する。今の訪問活動の問題は,ヒアリングの〔訪問活動〕にある。効率のよい「訪問の道筋」や「時間配分」を考えた訪問計画の作成が,営業担当者の経験やスキルに依存している。

そこで,訪問の道筋や時間配分をシステムが提示すれば,経験の浅い営業担当者でも効率よく訪問できる。連合店になると営業範囲が広がり,顧客の場所を把握するのが一層難しくなるので,この機能の意味は大きい。講評は,設問3について,本文に書かれたこの銀行の状況を踏まえない解答があったとしている。一般的な営業支援の機能ではなく,ヒアリングで挙がった問題に応える機能を答える。

25字に対し,解答例は「訪問の道筋や,時間配分を提示する機能」で18字。本文の「訪問の道筋」「時間配分」をそのまま使い,機能なので「〜を提示する機能」で結ぶ。

採点講評(IPA)

設問3は,営業支援システムの機能について問うたものであったが,本文に記載された,この地方銀行の状況を踏まえない解答も一部に見られた。

設問3(2) 解答欄2つ

母店の責任者による訪問活動の管理を支援するために必要な機能を二つ挙げ,それぞれ 30 字以内で述べよ。

〔①〕解答例

  • 訪問記録と顧客の属性・購入履歴を随時照会できる機能

〔②〕解答例

  • 営業担当者への指示・アドバイスを伝達する機能
解説

本文の根拠

〔現状分析のためのヒアリング結果〕(3) 支店運営

責任者は,営業担当者の訪問活動を日々把握し,顧客の属性や購入履歴を基に,適切な管理を行う必要がある。

〔現状分析のためのヒアリング結果〕(2) 相談業務

そこで,責任者は,営業担当者に対し,各案件についての指示やアドバイスを,口頭又は訪問日誌で行っている。

〔現状分析のためのヒアリング結果〕(1) 訪問活動

これは,営業担当者が比較的少人数の支店体制では,すぐに責任者からのアドバイスが得られるので,営業活動の推進に有効である。

〔業務改革案の内容〕(2) 具体策 ② 営業支援システム

新たに営業支援システムを導入し,連合店運営支援の観点から,訪問活動について,母店の責任者による管理を支援する機能を実現する。

母店の責任者が訪問活動をどう管理するかは,ヒアリングに二つ書かれている。一つは,営業担当者の訪問活動を日々把握し,顧客の属性や購入履歴を基に適切な管理を行うこと。怠るとコンプライアンス上の問題が起きることもある。もう一つは,各案件についての指示やアドバイスを口頭又は訪問日誌で行うことである。

今は少人数の支店体制なので,朝礼などで情報を共有し,すぐにアドバイスが得られる。連合店になると母店の責任者が受け持つ営業担当者が増え,顔を合わせて把握・助言するやり方では追い付かない。そこでシステムで,訪問記録と顧客の属性・購入履歴を随時照会できるようにし(把握),営業担当者への指示・アドバイスを伝達できるようにする(指示)。講評は,設問3について,この銀行の状況を踏まえない解答があったとしている。

30字ずつに対し,解答例は「訪問記録と顧客の属性・購入履歴を随時照会できる機能」(25字)と「営業担当者への指示・アドバイスを伝達する機能」(22字)。把握と指示の二つの役割に一つずつ機能を当て,本文の語句(顧客の属性や購入履歴,指示やアドバイス)を使う。

採点講評(IPA)

設問3は,営業支援システムの機能について問うたものであったが,本文に記載された,この地方銀行の状況を踏まえない解答も一部に見られた。

出典:平成21年度 秋期 ITストラテジスト試験 午後Ⅰ 問1(表記を一部改変)

問2 エンジニアリング会社の社内システム再構築

エンジニアリング会社の社内システム再構築に関する次の記述を読んで,設問1〜3に答えよ。

〔C 社の現状〕

C 社は,エンジニアリング会社である。主な事業は,顧客の業務システム開発を受託する情報システムの開発,機器の稼働情報を収集する端末装置などのハードウェア製品の開発,及び他社のハードウェア製品を組み合わせた案内表示システムなどの開発である。ハードウェア製品に対する顧客の要求事項は,24 時間稼働や温度,湿度などの運用条件と,玄関などの出入口の外側に据え付ける製品の防水性やディスプレイに表示される文字の視認性などの設置条件である。C 社では,これらの要求事項に従って,他社のハードウェア製品を購入して機能を強化したり,製品を新たに開発したりする。ハードウェア製品の開発や機能の強化は,C 社で設計を行い,製造はメーカに委託する。

〔社内システムの運用状況〕

C 社には,営業部門に営業管理システム,情報システムの開発部門とハードウェア製品の開発部門に開発管理システム,購買部門に購買管理システムが導入されている。それぞれのシステムは,導入当初には部門間で手渡しによってデータ連携していた。その後,担当者の異動時の引継ぎが不十分でデータの受渡しが行われなくなったり,それぞれの部門でデータを変更したりするようになり,現在ではデータが一致していないところもある。

営業管理システムには,顧客情報管理,受注,検収,売上の機能がある。営業部門では,顧客を訪問した記録は営業管理システムに入力し,営業担当者間で情報共有している。

開発管理システムには,プロジェクトのスケジュール管理,各工程の完了時に工程別原価の実績を集計し,予定との対比ができる原価管理,購入仕様書作成の機能がある。購入仕様書は,情報システムの開発の一部を依頼するパートナ会社やハードウェア製品のメーカへ発注を行うときに使用される。

購買管理システムには,開発部門から発行される購入仕様書に基づいて,パートナ会社やメーカへの発注・検収を管理する機能がある。購買部門では,検収後に開発部門からパートナ会社の品質,コスト,納期に関する評価の報告を受け,毎年 1 回パートナ会社の評価をまとめ,ランク付けし,購買管理システムで管理している。また,メールのあて先の誤りによる誤送信防止や ID カード紛失防止などの情報セキュリティ強化のための活動について,パートナ会社から報告を受けている。

これらのシステムは,各部門で個々に構築してきたので,情報の共有ができていないという問題を抱えている。今回,業務部門が中心となり,IT 部が支援してシステム再構築の検討を行うことになった。

また,経営層から,今回のシステム再構築は,部門間の情報共有の推進,損益管理の強化,顧客対応と提案活動の強化による受注の拡大が目的であり,システム再構築を確実に実施するようにとの指示があった。

システム再構築に当たり,各部門からそれぞれ要望が提出された。

〔営業部門の要望〕

営業部門の要望は,顧客訪問活動の強化である。顧客訪問には営業担当者が同行せずに,開発部門の担当者だけで訪問することがある。そのときに顧客から質問を受けても,開発部門の担当者では回答できないケースがある。開発部門の担当者から営業担当者に対して,訪問時に受けた顧客からの質問内容をメールや電話で通知するが,営業担当者が対応を忘れることがある。その後,営業担当者が顧客を訪問したときに回答を催促されるなどの問題が発生している。また,顧客に納入した情報システムやハードウェア製品の稼働時期や構成などの稼働情報が,営業部門と開発部門とで不一致になっているので,見直しが必要である。稼働時期によっては,サポート期限切れや部品の劣化などの問題があり,更新の提案が必要である。

〔開発部門の要望〕

情報システムの開発部門の要望は,プロジェクト採算悪化の防止と顧客の要求を満足するパートナ会社を選択できることである。採算悪化を防止するためには,プロジェクトの問題を早い段階で検出したい。現在,品質について,設計,プログラム開発,試験のそれぞれの工程完了時に予定と実績によって評価している。加えて,月次でも評価することによって,より早い段階で問題が検出できている。プロジェクトの問題を早い段階で検出するために,品質以外でも月次で評価できるようにしたい。また,C 社の顧客は情報セキュリティに関する意識が高いので,情報システムの開発の開始時には,パートナ会社を含めて,顧客の要求する情報セキュリティの水準を達成しているかどうかの確認が必要である。

ハードウェア製品の開発部門の課題は,設計変更の発生の抑制である。メーカに機器の製造を委託するとき,担当者によっては,テキスト形式で記述する顧客の要求事項による運用条件や設置条件の記述内容が不十分で,設計変更が発生することがある。そのたびに,納期や金額の変更について,多くの時間を費やして交渉を行っている。

〔購買部門の要望〕

購買部門の要望は,パートナ会社とのコストダウンの交渉力強化である。パートナ会社とは,開発部門で作成した購入仕様書に基づいてプロジェクト 1 件ごとに交渉を行っている。発注する金額が多くなれば,有利に交渉できると考えている。

業務部門では,各部門の要望を踏まえて,情報共有の推進と採算管理の強化を重点目標として検討を行い,ほかのエンジニアリング会社で導入されているソフトウェアパッケージをベースとして新システムの検討を進めることにした。

〔新システムの検討〕

ソフトウェアパッケージには,営業管理,開発管理,購買管理のサブシステムと,顧客情報,プロジェクト情報などを一元管理する共通データベースがある。

営業管理には,商談ごとの進捗管理,受注・売上,顧客訪問記録管理の機能がある。顧客訪問時に受けた質問に関しては,質問内容と回答状況(回答日,回答者,回答内容)が管理される。

開発管理には,プロジェクトごとのスケジュール管理,月別・工程別に原価の予定と実績を管理する原価管理,パートナ会社やメーカへの発注予定時期と発注予定金額を管理する発注計画,購入仕様書作成の機能がある。パートナ会社への発注とメーカへの発注では,購入仕様書への入力項目がそれぞれ異なる。パートナ会社への発注における入力項目は,会社名,発注案件名,スキル層別の単価と工数,予定金額,発注予定日,納入予定日,検収予定日,納入場所である。メーカへの発注における入力項目は,メーカ名,型番,数量,希望金額,発注予定日,納入予定日,検収予定日,納入場所である。

購買管理には,開発部門から発行される購入仕様書に基づくパートナ会社やメーカへの発注・検収,パートナ会社の評価管理の機能がある。

稼働中のシステムの機能と各部門の要望にこたえられるかどうかについて,ソフトウェアパッケージの機能を確認したところ,次の機能と情報を追加する必要があることが分かった。

出題趣旨(IPA)

ITストラテジストには,対象となる業務の調査・分析を行い,全体システム化計画を適切に策定する能力が求められる。本問では,部門システムが個々に構築され,情報の共有が行われていないエンジニアリング会社の社内システム再構築を題材とし,新システムの活用による問題の解決,システム機能や情報の検討に対する,それぞれの能力を評価する。具体的には,各部門における業務への要望の調査,新システムの活用による顧客提案活動の強化とプロジェクトの問題の早期検出,情報の共有による購買部門の業務と顧客訪問活動における営業担当の課題の改善,新システムにおいて追加すべき機能の検討について問う。

採点講評(問全体・IPA)

問2では,エンジニアリング会社の社内システムの再構築について出題した。題意はおおむね理解されていたが,本文の状況設定を理解できていないと思われる解答が一部に見られた。

ITストラテジストは,対象となる業務や部門の要望を把握した上で,管理すべき情報は何か,どのようにその情報を活用すべきか,実装すべきシステム機能は何かについて,検討できる能力を身につけてほしい。

設問と解答例

設問1(1) 40字以内

顧客に納入した情報システムやハードウェア製品に関する稼働情報の見直しを行うことによって,どのような提案活動ができるか,40 字以内で述べよ。

解答例

  • 稼働時期を基に,対象となる情報システムや機器を確認し,更新の提案を行う。
解説

本文の根拠

〔営業部門の要望〕

また,顧客に納入した情報システムやハードウェア製品の稼働時期や構成などの稼働情報が,営業部門と開発部門とで不一致になっているので,見直しが必要である。稼働時期によっては,サポート期限切れや部品の劣化などの問題があり,更新の提案が必要である。

〔新システムの検討〕

ソフトウェアパッケージには,営業管理,開発管理,購買管理のサブシステムと,顧客情報,プロジェクト情報などを一元管理する共通データベースがある。

〔社内システムの運用状況〕

経営層から,今回のシステム再構築は,部門間の情報共有の推進,損益管理の強化,顧客対応と提案活動の強化による受注の拡大が目的であり

営業部門の要望によると,納入した情報システムやハードウェア製品の稼働時期や構成などの稼働情報が営業部門と開発部門とで食い違っている。そして「稼働時期によっては,サポート期限切れや部品の劣化などの問題があり,更新の提案が必要である」。稼働情報を見直して正しくすれば,この更新の提案ができるようになる。

新システムでは顧客情報などを共通データベースで一元管理するので,見直した稼働情報を営業部門と開発部門が同じものとして使える。稼働時期を基に,サポート期限切れや部品の劣化が近い情報システムや機器を洗い出し,その顧客に更新を提案する。経営層の言う「提案活動の強化による受注の拡大」にもつながる。

40字に対し,解答例は「稼働時期を基に,対象となる情報システムや機器を確認し,更新の提案を行う。」で36字。何を手掛かりに(稼働時期),何を(対象の情報システムや機器),どうするか(更新の提案)の順に書く。

設問1(2) 35字以内

新しい開発管理によって,プロジェクトの問題を早い段階でどのように検出できるか,35 字以内で述べよ。

解答例

  • 月ごとに原価の予定と実績を評価し,差が大きい場合に警告する。
解説

本文の根拠

〔開発部門の要望〕

現在,品質について,設計,プログラム開発,試験のそれぞれの工程完了時に予定と実績によって評価している。加えて,月次でも評価することによって,より早い段階で問題が検出できている。プロジェクトの問題を早い段階で検出するために,品質以外でも月次で評価できるようにしたい。

〔社内システムの運用状況〕

開発管理システムには,プロジェクトのスケジュール管理,各工程の完了時に工程別原価の実績を集計し,予定との対比ができる原価管理,購入仕様書作成の機能がある。

〔新システムの検討〕

開発管理には,プロジェクトごとのスケジュール管理,月別・工程別に原価の予定と実績を管理する原価管理

開発部門は,採算悪化を防ぐためにプロジェクトの問題を早い段階で検出したい。品質はすでに工程完了時に加えて月次でも評価しており,それで早く問題が見付かっている。そこで「品質以外でも月次で評価できるようにしたい」としている。

今の開発管理システムの原価管理は,各工程の完了時に工程別原価の実績を集計して予定と対比するだけである。新システムの原価管理は「月別・工程別に原価の予定と実績を管理する」。つまり,品質と同じように原価も月ごとに予定と実績を評価でき,工程の完了を待たずに採算の悪化に気付ける。解答例は,予定と実績の差が大きい場合に警告するところまで書いている。本文に警告の機能は書かれていないが,問題を「検出」する手段として差の大きさで知らせる形にしたものである。

35字に対し,解答例は「月ごとに原価の予定と実績を評価し,差が大きい場合に警告する。」で30字。今との違い(工程完了時ではなく月ごと)と,評価の対象(原価の予定と実績)を落とさない。

設問2(1) 40字以内

購買部門がパートナ会社との交渉において行うべきことを,40 字以内で述べよ。

解答例

  • パートナ会社への発注計画から発注予定金額を集計して,価格を折衝する。
解説

本文の根拠

〔購買部門の要望〕

パートナ会社とは,開発部門で作成した購入仕様書に基づいてプロジェクト 1 件ごとに交渉を行っている。発注する金額が多くなれば,有利に交渉できると考えている。

〔新システムの検討〕

パートナ会社やメーカへの発注予定時期と発注予定金額を管理する発注計画

購買部門の要望はパートナ会社とのコストダウンの交渉力強化である。今はプロジェクト1件ごとに交渉しており,購買部門は「発注する金額が多くなれば,有利に交渉できる」と考えている。そこで,複数のプロジェクトの発注をまとめた金額で交渉できればよい。

新システムの開発管理には,パートナ会社への発注予定時期と発注予定金額を管理する発注計画の機能がある。部門間で情報を共有すれば,購買部門は開発部門の発注計画を見て,パートナ会社ごとの発注予定金額を集計し,その大きな金額を基に価格を折衝できる。講評によると,購買部門が既に持っている過去の発注実績を使って折衝するという誤りが多かった。設問は「部門間での情報共有によって」改善できることを問うており,共有するのは開発部門の発注計画(これからの発注)である。

40字に対し,解答例は「パートナ会社への発注計画から発注予定金額を集計して,価格を折衝する。」で34字。どの情報から(発注計画),何を(発注予定金額を集計),どうするか(価格を折衝)を書く。

採点講評(IPA)

設問2では,部門間での情報共有により,購買部門や営業部門の要望をどのように改善できるかについて解答を求めた。(1)では,開発部門の発注計画情報ではなく,購買部門が既に保有している過去の発注実績情報を使用してパートナ会社と価格折衝するという誤った解答も多かった。(2)では,営業部門による顧客訪問活動を改善するために,営業部門以外の担当者が受けた質問の共有について解答を求めたが,営業部門が必ず顧客訪問すべきという解答や,営業部門が質問を入力するという誤った解答も多かった。

設問2(2) 35字以内

顧客訪問活動を改善するために行うべきことを,35 字以内で述べよ。

解答例

  • 顧客訪問時の質問内容と回答状況の営業部門と開発部門による共有
解説

本文の根拠

〔営業部門の要望〕

顧客訪問には営業担当者が同行せずに,開発部門の担当者だけで訪問することがある。そのときに顧客から質問を受けても,開発部門の担当者では回答できないケースがある。開発部門の担当者から営業担当者に対して,訪問時に受けた顧客からの質問内容をメールや電話で通知するが,営業担当者が対応を忘れることがある。

〔新システムの検討〕

顧客訪問時に受けた質問に関しては,質問内容と回答状況(回答日,回答者,回答内容)が管理される。

営業部門の問題は,開発部門の担当者だけで顧客を訪問したときに受けた質問を,メールや電話で営業担当者に伝えても,営業担当者が対応を忘れることである。その結果,後で顧客から回答を催促される。

新システムの営業管理では,顧客訪問時に受けた質問について,質問内容と回答状況(回答日,回答者,回答内容)が管理される。開発部門の担当者が受けた質問もここに入れ,営業部門と開発部門で共有すれば,回答がまだの質問が見えるので対応漏れを防げる。講評によると,営業部門が必ず訪問すべきという解答や,営業部門が質問を入力するという解答が多かった。質問を受けるのは営業部門以外の担当者なので,共有の起点は開発部門の担当者の入力である。

35字に対し,解答例は「顧客訪問時の質問内容と回答状況の営業部門と開発部門による共有」で30字。何を(質問内容と回答状況)誰と誰で(営業部門と開発部門)共有するかを書く。

採点講評(IPA)

設問2では,部門間での情報共有により,購買部門や営業部門の要望をどのように改善できるかについて解答を求めた。(1)では,開発部門の発注計画情報ではなく,購買部門が既に保有している過去の発注実績情報を使用してパートナ会社と価格折衝するという誤った解答も多かった。(2)では,営業部門による顧客訪問活動を改善するために,営業部門以外の担当者が受けた質問の共有について解答を求めたが,営業部門が必ず顧客訪問すべきという解答や,営業部門が質問を入力するという誤った解答も多かった。

設問3(1) 35字以内

ハードウェア製品の開発管理に追加すべき機能を,35 字以内で述べよ。

解答例

  • 運用条件と設置条件の入力と主要な項目の妥当性をチェックする機能
解説

本文の根拠

〔C 社の現状〕

ハードウェア製品に対する顧客の要求事項は,24 時間稼働や温度,湿度などの運用条件と,玄関などの出入口の外側に据え付ける製品の防水性やディスプレイに表示される文字の視認性などの設置条件である。

〔開発部門の要望〕

メーカに機器の製造を委託するとき,担当者によっては,テキスト形式で記述する顧客の要求事項による運用条件や設置条件の記述内容が不十分で,設計変更が発生することがある。

〔新システムの検討〕

メーカへの発注における入力項目は,メーカ名,型番,数量,希望金額,発注予定日,納入予定日,検収予定日,納入場所である。

ハードウェア製品の開発部門の課題は設計変更の抑制である。設計変更が起きる原因は,メーカに製造を委託するとき,テキスト形式で書く運用条件や設置条件の記述が担当者によって不十分になることである。

パッケージの購入仕様書で,メーカへの発注の入力項目はメーカ名,型番,数量,希望金額などで,運用条件と設置条件の項目が無い。そこで,運用条件と設置条件を入力項目として加え,入力された主要な項目が妥当かをチェックする機能を追加する。項目を決めて入力させるだけでなく,その内容を点検すれば,担当者による記述の不十分さを防げる。講評によると,運用条件や設置条件の入力は書けていたが,妥当性のチェックが抜けた解答が見られた。

35字に対し,解答例は「運用条件と設置条件の入力と主要な項目の妥当性をチェックする機能」で31字。入力(何を書かせるか)とチェック(どう点検するか)の両方を入れる。

採点講評(IPA)

設問3では,設計変更の抑制のために必要な情報と記述内容のチェックと,適切なパートナ会社の選択のために必要な情報について記述を求めた。(1)では,運用条件や設置条件の入力は,おおむね解答されていたが,その入力に対する妥当性のチェックに関する記述がされていない解答が見られた。(2)では,パートナ会社を評価する情報を管理していない状態でありながら,顧客の要求水準を管理するべきという誤った解答も多かった。

設問3(2) 30字以内

パートナ会社を選定するために管理すべき情報を,30 字以内で述べよ。

解答例

  • 情報セキュリティ強化のための活動についての評価結果
解説

本文の根拠

〔開発部門の要望〕

また,C 社の顧客は情報セキュリティに関する意識が高いので,情報システムの開発の開始時には,パートナ会社を含めて,顧客の要求する情報セキュリティの水準を達成しているかどうかの確認が必要である。

〔社内システムの運用状況〕

購買部門では,検収後に開発部門からパートナ会社の品質,コスト,納期に関する評価の報告を受け,毎年 1 回パートナ会社の評価をまとめ,ランク付けし,購買管理システムで管理している。

〔社内システムの運用状況〕

また,メールのあて先の誤りによる誤送信防止や ID カード紛失防止などの情報セキュリティ強化のための活動について,パートナ会社から報告を受けている。

開発部門は,顧客の要求を満足するパートナ会社を選択したい。C 社の顧客は情報セキュリティの意識が高く,開発の開始時にはパートナ会社を含めて顧客の要求する情報セキュリティの水準を達成しているかを確認する必要がある。

今の購買部門が管理しているパートナ会社の評価は,品質,コスト,納期に関するものである。情報セキュリティ強化のための活動はパートナ会社から報告を受けているだけで,評価して管理してはいない。そこで,この活動についての評価結果を管理すれば,選定のときに水準を満たすパートナ会社を選べる。講評によると,パートナ会社を評価する情報を管理していないのに,顧客の要求水準を管理すべきという誤りが多かった。選定のために管理するのはパートナ会社側の情報である。

30字に対し,解答例は「情報セキュリティ強化のための活動についての評価結果」で25字。本文の「情報セキュリティ強化のための活動」をそのまま使い,報告ではなく「評価結果」とする。

採点講評(IPA)

設問3では,設計変更の抑制のために必要な情報と記述内容のチェックと,適切なパートナ会社の選択のために必要な情報について記述を求めた。(1)では,運用条件や設置条件の入力は,おおむね解答されていたが,その入力に対する妥当性のチェックに関する記述がされていない解答が見られた。(2)では,パートナ会社を評価する情報を管理していない状態でありながら,顧客の要求水準を管理するべきという誤った解答も多かった。

出典:平成21年度 秋期 ITストラテジスト試験 午後Ⅰ 問2(表記を一部改変)

問3 自動窓口機の製造販売企業における IT を使った業務改革

自動窓口機の製造販売企業における IT を使った業務改革に関する次の記述を読んで,設問1〜3に答えよ。

D 社は,発券機や現金自動預け払い機などの自動窓口機の製造・販売をしている。

〔営業部門の現状〕

D 社の顧客は,流通業,運輸業,金融業などの企業であり幅広い。D 社は,顧客の要望に合わせて自動窓口機の外観をデザインしたり,様々な機能・能力をもたせたりして市場に提供している。業界における先進的な顧客が新しいニーズに基づいて新製品を導入すると,ほかの顧客も先進的な顧客に追随して同様な製品を導入する傾向がある。

営業部門では,引き合いがあると設計技術者を同行して顧客のニーズを確認する。商談が成立して顧客から注文を受けると受注番号を発番し,起票する。大きな商談になると,1 件で 1,000 台単位の受注になる。

〔設計部門の現状〕

D 社の製品は,特注品と既存製品に分けることができる。特注品は,先進的な顧客のニーズに基づいて新たに設計するものである。したがって,新規部品の設計,試作,テスト使用などの開発期間が必要となり,本格生産に入るまでに時間を要する。既存製品は,特注品を基に,ほかの顧客の個別の要求仕様に適合するよう機能の増減や能力の変更などの追加設計をして製造するものである。

既存製品では,追加設計が増加し,現在の設計方法では設計能力が追いつかず,作業が遅れがちである。

設計部門では,設計の初期段階から設計 BOM(部品表)を利用している。設計 BOM には,設計が完了したすべての製品の部品構成情報が網羅されている。

〔製造部門の現状〕

製造部門には,部品加工工場と組立工場がある。

部品加工工場は,あらゆる仕様の部品加工に対応している。加工方法が様々で作業時間が長くなるので,加工方法が同様な部品を集めて加工するなどの工夫によって作業の効率向上を図っている。

部品置場には,組立作業待ちの部品が数多く滞留している。組立作業の順番が度々変更されるので,組立作業の初期段階に使われる部品の優先的な加工が必要になり,工程が混乱することがある。

加工能力を超える部品の加工は,外注先に委託している。部品ごとに加工内容が異なるので,委託のたびに加工図面を渡して見積りを取る必要がある。その結果,発注事務が複雑になり,社内加工費に比べて調達費が高くなっている。

組立てには,複数の部品を組み合わせるユニット組立てと,組み合わされた部品を使用して行う本体組立てとがある。組立工場は,受注番号ごとに,部品加工工場からの部品及び外注加工された部品を使ってユニット組立てをした後,本体組立てを行う。ユニット組立ての着手時刻になっても部品加工工場から一部の部品が到着せず,作業待ちが発生することがある。

本体組立てが完了し,最終検査を行った製品は,いったん出荷待ちエリアに保管し,顧客の設置作業日時に合わせて出荷する。受注番号が同じでも,製品ごとに設置作業日時や設置場所が異なる。

大口の注文の場合は,全国の店舗や駅など(以下,店舗等という)に設置することが多いので,顧客と協議して製品ごとに設置作業日時を設定する。店舗等の開設日時や改装日時は,顧客の都合によって度々変更されるものの,開設日や改装日の 1 週間前には確定する。組立工場では,組立完了日を実際の出荷日より早い時期に設定しており,製品は出荷まで出荷待ちエリアに保管される。

〔新しい営業戦略〕

従来は,先進的な顧客に対してもほかの顧客に対しても,同じ内容のサービスを提供してきた。

先進的な顧客は,自動窓口機の機能や能力,新しい利用方法などについて,今までにない仕様を求める。開発には手間がかかるものの,設置する店舗等の数が多いので,大型受注になる。

ほかの顧客のニーズは多種多様で,顧客数は多いが,顧客ごとの店舗等の数は多くない。D 社は,顧客ごとのニーズに合わせて追加設計を行っているので,作業負荷が大きい割に受注高が伸びない。

D 社は,新たに設定する定番の製品シリーズの充実を図っていくことにし,受注活動を見直した。すなわち,先進的な顧客には従来どおりの受注活動を行い,ほかの顧客には定番の製品シリーズの受注活動を行うことにした。

〔設計部門の改革〕

定番の製品シリーズの設計方法は,製品構成を基本構成とオプションに分け,顧客のニーズに合わせて基本構成とオプションを組み合わせ,製品の仕様を決める。その結果,追加設計が不要になり,オプション用の部品(以下,標準部品という)を組み込んで製品を組み立てることができる。

先進的な顧客向けの特注品については,個別に新たに全体を設計する従来の方法を変更し,基本構成と新たなオプションの組合せとなるように設計する。オプション用として切り出された部品を設計 BOM に登録し,定番の製品シリーズでの標準部品として活用する。

新たな設計方法への変更によって,調達費を削減できるという効果も得られる。

〔製造部門の改革と生産管理システムの構築〕

定番の製品シリーズ用に外注する部品は,加工図面が確定した標準部品に限ることにし,それぞれの標準部品は,決められた一定量の在庫をもつようにする。また,部品加工工場は,標準部品の在庫をもたないようにし,組立工場も製品の出荷待ちが発生しないように製品ごとに組み立てる。部品加工工場と組立工場の連携を図って,1 台の製品を部品加工から最終検査の完了まで 5 日以内の期間で製造できるようにする。

製造部門は,従来以上に作業日程を遵守する必要があるので,新たに生産管理システムを構築する。設計 BOM に連携させて製造 BOM を整備する。製造 BOM には,部品ごとに加工,ユニット組立て,本体組立てのそれぞれの手順と,それらに要する標準作業時間を登録する。

生産管理システムは,基本構成と標準部品の組合せ内容などの情報や製造 BOM の情報を基に,生産計画などを立てる。

生産管理システムの構築と併せて各工場で作業方法を改善する。

加工作業の割り込みや組立工場での作業待ちが発生しないようにする。また,加工方法の見直しや作業指示方法を改善する。これらの改善によって組立工場における製品の出荷待ちを削減する。

出荷日時の順に製品を完成させる。そのために,組立てに必要な数量の基本構成と標準部品をそろえて作業を開始する,定められた時間内に作業を終えるようにするなどの作業方法の改善を進め,ユニット組立てから最終検査までの製造期間を短縮する。

出題趣旨(IPA)

ITストラテジストには,業種ごとの事業特性を踏まえて,経営戦略の実現に向けた情報技術を活用した事業戦略を策定する能力が求められる。本問では,製造販売業務を題材に,営業部門,設計部門及び製造部門の連携や業務の改善とともに,生産活動の効率向上を実現するための情報システムの構築能力を評価する。具体的には,顧客を層別してサービスレベルを変更するねらいと受注の方法,組立工場及び部品加工工場における改善の目的,並びに部品加工作業,組立作業,設置作業それぞれの間の連携強化の内容と,それらを支援する生産管理システムの機能について問う。

採点講評(問全体・IPA)

問3では,製造販売企業におけるITを使った業務改革について出題した。題意や状況設定はおおむね理解されているようであったが,一部の設問で題意と異なる視点の解答が見られた。

ITストラテジストは,業種ごとの事業特性を踏まえて,業務要件を情報システムの機能としてどのように実現すべきかを検討し,業務改革を支援するシステムの構築を提案できる能力を身につけてほしい。

設問と解答例

設問1(1) 解答欄4つ

定番の製品シリーズの充実を図っていくことにし,受注活動を見直した。① 先進的な顧客に対する,受注活動におけるねらいと受注の方法を,それぞれ 30 字以内で述べよ。② ほかの顧客に対する,受注活動におけるねらいと受注の方法を,それぞれ 30 字以内で述べよ。

〔①ねらい〕解答例

  • 機能・能力の要求,新しい利用方法などを把握する。

〔①方法〕解答例

  • 顧客のニーズに基づいた製品を受注する。

〔②ねらい〕解答例

  • 追加設計を行わずに受注高を伸ばす。

〔②方法〕解答例

  • 製品を基本構成とオプションの組合せによって受注する。
解説

本文の根拠

〔営業部門の現状〕

業界における先進的な顧客が新しいニーズに基づいて新製品を導入すると,ほかの顧客も先進的な顧客に追随して同様な製品を導入する傾向がある。

〔新しい営業戦略〕

先進的な顧客は,自動窓口機の機能や能力,新しい利用方法などについて,今までにない仕様を求める。開発には手間がかかるものの,設置する店舗等の数が多いので,大型受注になる。

〔新しい営業戦略〕

ほかの顧客のニーズは多種多様で,顧客数は多いが,顧客ごとの店舗等の数は多くない。D 社は,顧客ごとのニーズに合わせて追加設計を行っているので,作業負荷が大きい割に受注高が伸びない。

〔設計部門の改革〕

定番の製品シリーズの設計方法は,製品構成を基本構成とオプションに分け,顧客のニーズに合わせて基本構成とオプションを組み合わせ,製品の仕様を決める。その結果,追加設計が不要になり

〔設計部門の改革〕

オプション用として切り出された部品を設計 BOM に登録し,定番の製品シリーズでの標準部品として活用する。

D 社は顧客を二つに層別し,受注活動を変えた。先進的な顧客には従来どおり,ニーズに基づいて設計する特注品を受注する。先進的な顧客は機能や能力,新しい利用方法などで今までにない仕様を求め,ほかの顧客はそれに追随して同様な製品を導入する。だから先進的な顧客と付き合うねらいは,その要求(機能・能力の要求,新しい利用方法など)をつかむことにある。つかんだ仕様は新たなオプションとして切り出され,定番の製品シリーズの標準部品になる。

ほかの顧客は顧客ごとの店舗等の数が少なく,ニーズに合わせて追加設計をしているので,作業負荷が大きい割に受注高が伸びない。定番の製品シリーズでは,基本構成とオプションの組合せで仕様を決めるので追加設計が要らない。ねらいは追加設計を行わずに受注高を伸ばすこと,方法は製品を基本構成とオプションの組合せで受注することである。講評によると,受注のねらいと受注の方法を書き分けられていない解答が見られた。ねらいは「何のために」,方法は「どういう形で受注するか」と分けて書く。

30字ずつに対し,解答例は①ねらい「機能・能力の要求,新しい利用方法などを把握する。」(24字),①方法「顧客のニーズに基づいた製品を受注する。」(19字),②ねらい「追加設計を行わずに受注高を伸ばす。」(17字),②方法「製品を基本構成とオプションの組合せによって受注する。」(26字)。本文の「機能や能力,新しい利用方法」「追加設計」「受注高が伸びない」「基本構成とオプション」を使う。

採点講評(IPA)

設問1(1)では,営業戦略について,顧客を層別してサービスレベルを変更したことについての解答を求めたが,受注のねらいと受注の方法を書き分けられていない解答が見られた。

設問1(2) 40字以内

新たな設計方法によって,なぜ調達費を削減できるのか,その理由を 40 字以内で述べよ。

解答例

  • 加工図面が確定しているので,発注事務の簡素化や外注費の低減が期待できるから
解説

本文の根拠

〔製造部門の現状〕(1) 部品加工工場

加工能力を超える部品の加工は,外注先に委託している。部品ごとに加工内容が異なるので,委託のたびに加工図面を渡して見積りを取る必要がある。その結果,発注事務が複雑になり,社内加工費に比べて調達費が高くなっている。

〔設計部門の改革〕

オプション用として切り出された部品を設計 BOM に登録し,定番の製品シリーズでの標準部品として活用する。

〔製造部門の改革と生産管理システムの構築〕

定番の製品シリーズ用に外注する部品は,加工図面が確定した標準部品に限ることにし,それぞれの標準部品は,決められた一定量の在庫をもつようにする。

今の調達費が高い理由は〔製造部門の現状〕に書かれている。部品ごとに加工内容が異なるので,外注のたびに加工図面を渡して見積りを取る必要があり,発注事務が複雑になって調達費が高くなっている。

新たな設計方法では,基本構成とオプションの組合せで製品を作り,オプション用の部品を標準部品として設計 BOM に登録して繰り返し使う。外注する部品は「加工図面が確定した標準部品に限る」ので,委託のたびに図面を渡して見積りを取る手間が要らなくなり,発注事務が簡素になる。同じ部品を繰り返し発注するので外注費も下がる。講評によると,社内の開発や製造の改善点を書いた解答が見られた。問われているのは外注先から部品を買う調達費である。

40字に対し,解答例は「加工図面が確定しているので,発注事務の簡素化や外注費の低減が期待できるから」で37字。原因(加工図面が確定)と結果(発注事務の簡素化,外注費の低減)を一文でつなぎ,理由なので「から」で結ぶ。

採点講評(IPA)

設問1(2)では,調達費の削減について問うているにもかかわらず,社内の開発と製造についての改善点を記述している解答が見られた。

設問2 35字以内

組立工場における組立作業と設置作業を連携させるために,生産管理システムからどのように組立指示を出力すればよいか,35 字以内で述べよ。

解答例

  • 個々の製品が店舗等に作業予定日時までに届くように指示を出す。
解説

本文の根拠

〔製造部門の現状〕(2) 組立工場

本体組立てが完了し,最終検査を行った製品は,いったん出荷待ちエリアに保管し,顧客の設置作業日時に合わせて出荷する。受注番号が同じでも,製品ごとに設置作業日時や設置場所が異なる。

〔製造部門の現状〕(2) 組立工場

店舗等の開設日時や改装日時は,顧客の都合によって度々変更されるものの,開設日や改装日の 1 週間前には確定する。組立工場では,組立完了日を実際の出荷日より早い時期に設定しており,製品は出荷まで出荷待ちエリアに保管される。

〔製造部門の改革と生産管理システムの構築〕

組立工場も製品の出荷待ちが発生しないように製品ごとに組み立てる。部品加工工場と組立工場の連携を図って,1 台の製品を部品加工から最終検査の完了まで 5 日以内の期間で製造できるようにする。

今の組立工場は受注番号ごとに組み立て,組立完了日を実際の出荷日より早めに置いている。ところが同じ受注番号でも製品ごとに設置作業日時や設置場所が違い,その日時は顧客の都合で度々変わる。そのため,完成した製品が出荷待ちエリアに滞留している。

改革後は,出荷待ちが出ないように製品ごとに組み立て,1台を5日以内で製造できるようにする。設置作業日時は開設日や改装日の1週間前には確定するので,確定した日時から逆算して製品ごとに組み立てれば間に合う。したがって生産管理システムは,受注番号単位ではなく個々の製品について,その店舗等の設置作業日時までに届くように組立指示を出せばよい。

35字に対し,解答例は「個々の製品が店舗等に作業予定日時までに届くように指示を出す。」で30字。受注番号ではなく「個々の製品」を単位にすることと,基準が設置の「作業予定日時」であることの二つを入れる。

設問3(1) 35字以内

生産管理システムからどのように部品加工指示を出力すればよいか,35 字以内で述べよ。

解答例

  • 組立ての順に必要な部品を供給できるように指示を出す。
解説

本文の根拠

〔製造部門の現状〕(1) 部品加工工場

部品置場には,組立作業待ちの部品が数多く滞留している。組立作業の順番が度々変更されるので,組立作業の初期段階に使われる部品の優先的な加工が必要になり,工程が混乱することがある。

〔製造部門の改革と生産管理システムの構築〕部品加工工場

加工作業の割り込みや組立工場での作業待ちが発生しないようにする。

〔製造部門の改革と生産管理システムの構築〕組立工場

出荷日時の順に製品を完成させる。そのために,組立てに必要な数量の基本構成と標準部品をそろえて作業を開始する

今の部品加工工場は,加工方法が同様な部品を集めて加工しているので,組立作業待ちの部品が部品置場に滞留する一方で,組立ての初期段階に使う部品を優先して加工する割り込みが起き,工程が混乱している。改革では,加工作業の割り込みや組立工場での作業待ちが出ないようにする。

組立工場は出荷日時の順に製品を完成させ,そのために必要な部品をそろえて作業を始める。部品加工工場がこれに合わせるには,加工方法でまとめるのではなく,組立ての順に,その組立てに必要な部品が供給されるように加工する必要がある。生産管理システムは組立ての順番を基に部品加工の指示を出す。講評によると,(1)(2)とも,部品加工工場が組立工場とどう連携すべきかを書かずに,部品加工工場内の指示の仕方や加工数量を書いた解答が見られた。

35字に対し,解答例は「組立ての順に必要な部品を供給できるように指示を出す。」で26字。基準が「組立ての順」であることと,目的が組立工場への部品の「供給」であることを書き,連携の内容にする。

採点講評(IPA)

設問3は,(1)と(2)ともに,組立工場での作業方法を改善するために,部品加工工場はどう連携すべきかを問うているにもかかわらず,連携の内容を書かずに部品加工工場内の指示の仕方や加工数量について記述している解答が見られた。

設問3(2)

部品加工指示を出すために,部品加工に要する標準作業時間のほかに,必要な情報を挙げよ。

解答例

  • ユニット組立ての着手時刻
解説

本文の根拠

〔製造部門の現状〕(2) 組立工場

ユニット組立ての着手時刻になっても部品加工工場から一部の部品が到着せず,作業待ちが発生することがある。

〔製造部門の改革と生産管理システムの構築〕

製造 BOM には,部品ごとに加工,ユニット組立て,本体組立てのそれぞれの手順と,それらに要する標準作業時間を登録する。

組立工場の作業待ちは「ユニット組立ての着手時刻になっても部品加工工場から一部の部品が到着せず」に起きている。組立ては部品加工工場の部品を使ってまずユニット組立てをするので,部品はユニット組立ての着手時刻までにそろっていなければならない。

部品加工の指示を出すには,いつまでに加工を終えるかと,加工にどれだけかかるかが要る。かかる時間は製造 BOM に登録する標準作業時間で分かる。終える期限は,その部品を使うユニット組立ての着手時刻である。着手時刻から標準作業時間を差し引けば,加工を始める時刻が決まる。設問が「標準作業時間のほかに」と言っているのは,この期限の側を答えよという意味である。

字数の制限は無い。解答例は「ユニット組立ての着手時刻」(12字)。本文の語句をそのまま使う。本体組立てではなく,部品を最初に使うユニット組立てである点を取り違えない。

採点講評(IPA)

設問3は,(1)と(2)ともに,組立工場での作業方法を改善するために,部品加工工場はどう連携すべきかを問うているにもかかわらず,連携の内容を書かずに部品加工工場内の指示の仕方や加工数量について記述している解答が見られた。

出典:平成21年度 秋期 ITストラテジスト試験 午後Ⅰ 問3(表記を一部改変)

問4 監視カメラシステムの企画

監視カメラシステムの企画に関する次の記述を読んで,設問1〜3に答えよ。

E 社は,自動車メーカ向けの小型カメラを製造している。E 社の主力製品は,自動車をバックさせるときの後方確認用カメラである。近年は,車線境界線を監視してハンドル操作をサポートしたり,運転者の表情やまぶたの動きを監視して休憩を促したりするための,画像監視機能をもつ監視カメラシステムも製造している。この画像監視機能は,撮影した画像の中の動く部分を監視し,指定された動きと同一となったことや,動きが定められた時間以上停止したことを検知するものである。

現在 E 社は業績が悪化しており,新たな市場展開によって業績を回復しなくてはならない状況にあることから,H 市の新交通システムの導入に伴う監視カメラシステムのメーカ選定に応募することにした。

〔H 市の新交通システム及び監視カメラシステムの概要〕

H 市では,市郊外の住宅地域と市中心部及び商工業地帯とを結ぶ公共交通機関の導入を決定している。この公共交通機関に関しては運用コストを抑えることが重要課題であることから,車両を無人運転にして少人数の駅員で運用できる新交通システムが採用された。駅員は,液晶付携帯型 IP 電話を用いて相互に連絡をとることができる。各駅構内及び車両内には監視カメラシステムを設置し,ほかの鉄道との乗換駅となる H 市中央駅には監視カメラシステムの拠点となる監視室を設ける。

H 市の監視カメラシステムに対する要求事項は,次のとおりである。

なお,H 市からの情報によると,監視室と各駅とを結ぶ通信回線はほかの用途でも使用するので,監視カメラシステムに割り当てられる帯域幅は,10 M ビット/秒程度になるとのことだった。

また,E 社で行った画像監視機能開発において,次の事項が判明している。

〔応募説明会〕

H 市は,監視カメラシステムのメーカ選定に当たり,応募説明会を開き,前述の要求事項 (1)〜(4) を踏まえた技術提案書及び価格を,各メーカに提示してもらうことにした。この説明会には E 社のほかに,F 社,G 社の 2 社が出席した。

〔E 社が入手した競合メーカの概要〕

F 社は,オフィスビル向けの監視カメラシステムメーカである。F 社の監視カメラシステムは,カメラで撮影した画像を監視室に常時送信して監視室の表示モニタに画像を表示し,記録装置に画像データを常時記録するものである。1 台の表示モニタで,最大 4 台のカメラの画像を同時に表示することができる。多数のカメラを設置する場合は,表示モニタの台数を増やすか,表示する画像を手動で選択しなければならないと推測される。

G 社は,工場向けの無人搬送車メーカである。G 社の無人搬送車は,人やほかの搬送車などの障害物とぶつからないよう,搬送車前方に設置されたカメラで走行方向の障害物を監視しながら工場内の決められたコースを走行し,無線で指示された経路に従って指示された物品を搬送するものである。

出題趣旨(IPA)

ITストラテジストには,競争力のある製品を企画・提案し,製品開発戦略や製品展開戦略を策定・推進できる能力が求められる。本問では,新交通システムの監視カメラシステムを題材として,顧客要求及び保有技術を整理し,新たな市場展開における,製品企画・提案を推進する能力を評価する。具体的には,克服しなくてはならない課題,差別化を図るために製品にもたせるべき特徴,低い受注価格に対する戦略について問う。

採点講評(問全体・IPA)

問4では,監視カメラシステムの企画・提案について出題した。全体として正答率は高く,題意はおおむね理解されているようであった。

ITストラテジストは,競争力のある製品の企画・提案を行い,製品開発戦略や製品展開戦略を策定し,推進できる能力を身につけてほしい。

設問と解答例

設問1 解答欄2つ

E 社が,技術提案書を作成するに当たり,克服しなくてはならない課題を挙げよ。また,その課題にどのように取り組むべきかを,50 字以内で述べよ。

〔課題〕解答例

  • 無線を用いた通信技術の取込み

〔取組〕解答例

  • 無線を用いた通信技術をもつメーカとの共同開発や,技術又は部品の購入について検討する。
解説

本文の根拠

冒頭

E 社は,自動車メーカ向けの小型カメラを製造している。

〔H 市の新交通システム及び監視カメラシステムの概要〕

(2) 車両内の監視カメラの画像は,必要に応じて無線で監視室に送る。

〔E 社が入手した競合メーカの概要〕

G 社の無人搬送車は,人やほかの搬送車などの障害物とぶつからないよう,搬送車前方に設置されたカメラで走行方向の障害物を監視しながら工場内の決められたコースを走行し,無線で指示された経路に従って指示された物品を搬送するものである。

H 市の要求事項(2)は,車両内の監視カメラの画像を「必要に応じて無線で監視室に送る」ことである。E 社の製品は自動車に載せる小型カメラと画像監視機能をもつ監視カメラシステムで,本文には,E 社が画像を無線で送る技術をもっているとは書かれていない。一方,競合の G 社は無人搬送車に無線で経路を指示しており,無線の技術をもつ。E 社が技術提案書を書くには,この無線を用いた通信技術を取り込むことが克服すべき課題になる。

自社に無い技術を提案の期限までに一から開発するのは難しい。そこで,無線を用いた通信技術をもつメーカとの共同開発や,技術又は部品の購入を検討する。講評によると,正答率は高かったが,システムの要求仕様を並べただけの解答も見られた。問われているのは要求のうち E 社がまだ満たせないもので,要求事項を写すだけでは課題にならない。

取組は50字に対し,解答例は「無線を用いた通信技術をもつメーカとの共同開発や,技術又は部品の購入について検討する。」で42字。課題は字数の制限が無く,解答例は「無線を用いた通信技術の取込み」(14字)。取組は,誰と(技術をもつメーカ)どういう手段で(共同開発,技術又は部品の購入)取り込むかを書く。

採点講評(IPA)

設問1では,E社が克服しなくてはならない課題について解答を求めた。正答率は高かったが,システムの要求仕様を羅列しただけの解答も一部に見られた。

設問2 解答欄4つ

E 社は,技術提案書の作成に当たり,監視カメラシステムにどのような特徴をもたせることによって,F 社,G 社との差別化を図るべきか。重視すべき提案項目を二つ挙げよ。また,各提案項目について,システムアーキテクトに指示すべき検討内容を,それぞれ 40 字以内で述べよ。

〔①提案項目〕解答例

  • 異常状態の自動検出機能

〔①検討内容〕解答例

  • 現在自社が保有している技術で,要求される異常状態検出が可能か否か

〔②提案項目〕解答例

  • 遠隔からの設定値調整機能

〔②検討内容〕解答例

  • 遠隔からの調整の対象となる設定値と設定範囲及び設定方法

〔備考〕①,②は順不同

解説

本文の根拠

冒頭

この画像監視機能は,撮影した画像の中の動く部分を監視し,指定された動きと同一となったことや,動きが定められた時間以上停止したことを検知するものである。

〔H 市の新交通システム及び監視カメラシステムの概要〕

(1) 駅構内・車両内の不審物,転倒者,何らかの原因で動かなくなった者,暴力行為などの異常状態を監視し,発見時には,最寄りの駅員がすぐに対応できるようにする。

〔E 社が入手した競合メーカの概要〕

多数のカメラを設置する場合は,表示モニタの台数を増やすか,表示する画像を手動で選択しなければならないと推測される。

〔H 市の新交通システム及び監視カメラシステムの概要〕

(4) 駅構内の監視カメラは,高所などに設置されるので,運用開始後の保守が難しい。後に,機能追加及び設定値変更が必要となったときの保守の方法を考慮する。

〔H 市の新交通システム及び監視カメラシステムの概要〕

これらの設定値は,設置されるカメラごとに運用実績を見ながら調整する必要があること

差別化の材料は,E 社にあって F 社・G 社に無いものである。E 社の画像監視機能は,画像の中の動く部分を監視し,指定された動きと同一になったことや,動きが一定時間以上止まったことを検知する。これは要求事項(1)の転倒者,動かなくなった者,暴力行為などの異常状態の監視にそのまま使える。F 社のシステムは画像を常時送って表示するだけで,カメラが多ければ表示モニタを増やすか手動で選ぶしかない。そこで一つ目の提案項目は「異常状態の自動検出機能」で,今の自社の技術で要求される異常状態を検出できるかを確かめるようシステムアーキテクトに指示する。

二つ目は要求事項(4)である。駅構内のカメラは高所にあって保守が難しく,一方で E 社の開発では,画像認識・解析の設定値が多く,カメラごとに運用実績を見ながら調整する必要があると分かっている。現地に行かずに設定値を調整できれば保守の難しさが解ける。そこで「遠隔からの設定値調整機能」を提案項目とし,調整の対象となる設定値と設定範囲及び設定方法を検討させる。講評によると,“画像圧縮”や“1モニタに多くの画像を分割表示”など差別化にならない解答が多かった。他社に先行する自社の技術や開発で得た知見を基にする。解答例の備考どおり,①と②は順不同である。

検討内容は40字ずつに対し,解答例は「現在自社が保有している技術で,要求される異常状態検出が可能か否か」(32字)と「遠隔からの調整の対象となる設定値と設定範囲及び設定方法」(27字)。提案項目は字数の制限が無く,解答例は「異常状態の自動検出機能」(11字),「遠隔からの設定値調整機能」(12字)。検討内容は,その特徴を実現するために確かめること・決めることを書く。

採点講評(IPA)

設問2では,提案の差別化について解答を求めた。他社に先行する技術や情報を基にした解答を期待したが,“画像圧縮”や“1モニタに多くの画像を分割表示”など,他社との差別化にならない解答が多かった。また,単に新交通システムの機能を示した解答も一部に見られた。

設問3 解答欄2つ

E 社は,今回の受注だけでは開発コストを回収できなくても,今回の受注を獲得すべきと考えた。E 社は,今後どのような戦略をとるべきか。二つ挙げ,それぞれ 30 字以内で述べよ。

〔①〕解答例

  • 同様な交通システムを有する事業者にシステム提案を行う。

〔②〕解答例

  • 付加機能を順次提案し,その機能導入で収益を確保する。
解説

本文の根拠

冒頭

現在 E 社は業績が悪化しており,新たな市場展開によって業績を回復しなくてはならない状況にあることから,H 市の新交通システムの導入に伴う監視カメラシステムのメーカ選定に応募することにした。

〔H 市の新交通システム及び監視カメラシステムの概要〕

後に,機能追加及び設定値変更が必要となったときの保守の方法を考慮する。

E 社は業績が悪化しており,「新たな市場展開によって業績を回復しなくてはならない」。今回の受注だけでは開発コストを回収できなくても受注を獲るのは,この受注を足掛かりにして,後から回収する見込みがあるからである。その回収の道筋が答えになる。

一つは横への広がりで,H 市で納入した実績を基に,同様な交通システムをもつほかの事業者にシステムを提案する。開発したシステムをそのまま展開できれば,追加の開発コストは小さく,売上で開発コストを回収できる。もう一つは同じ顧客の中での広がりで,要求事項(4)にあるように運用開始後に機能追加が見込まれるので,付加機能を順次提案し,その導入で収益を確保する。

30字ずつに対し,解答例は「同様な交通システムを有する事業者にシステム提案を行う。」(27字)と「付加機能を順次提案し,その機能導入で収益を確保する。」(26字)。ほかの事業者への展開と,同じ顧客への追加提案のように,向きの違う二つを挙げる。

出典:平成21年度 秋期 ITストラテジスト試験 午後Ⅰ 問4(表記を一部改変)