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情報処理安全確保支援士試験

平成25年度 秋期 午後Ⅱ(旧試験)

平成25年度 秋期に実施された情報処理安全確保支援士試験 午後Ⅱの全2問(記述式)の全設問に,運営者が独自に書いた解説を付けています。事例本文のどこが根拠になるかを示し,IPA の解答例・採点講評と並べています。

この試験について:情報処理安全確保支援士試験について

この年度を解いてみる

問1 マルウェア感染への対策

マルウェア感染への対策に関する次の記述を読んで,設問1〜4に答えよ。

A 社は,製造業を営む従業員数 5,000 名の企業である。国内にある本社の他に,国内外に拠点1〜6の6拠点がある。

本社と各拠点は,それぞれ独自にインターネットに接続している。本社のファイアウォール(以下,FW という)と各拠点の Unified Threat Management(UTM)間はインターネット VPN を構成しており,本社内に設置されているシステム B を本社だけでなく各拠点からも利用している。また,外部の ASP サービス C(以下,システム C という)は,クラウドコンピューティングによって実現された Web サービスであり,本社と各拠点の従業員がインターネット経由で利用している。従業員には,一人1台ずつ PC が貸与されている。A 社のネットワーク構成の概要を図1に示す。

A 社のネットワーク構成の概要図。拠点1と拠点6の各拠点にはサーバ LAN と OA-LAN があり,サーバ LAN には拠点メールサーバが接続され,サーバ LAN と OA-LAN は L3SW(レイヤ3スイッチ)でつながり,L3SW には UTM が接続されている。OA-LAN には PC が複数台接続されている。各拠点の UTM はインターネットに接続されている。拠点1と拠点6の間には“…”があり,拠点2〜5も同じ構成であることを示す。システム C もインターネットに接続されている。本社のインターネット側には FW が置かれ,インターネットと FW が接続されている。FW の配下には DMZ があり,DMZ に社外メールサーバ,DNS サーバ,プロキシが接続されている。FW は L3SW にも接続され,L3SW の配下には,サーバ LAN(社内メールサーバ,システム B,管理サーバが接続)と OA-LAN(PC が複数台接続)がある。L3SW:レイヤ3スイッチ,メール:電子メール。
図1 A 社のネットワーク構成の概要

PC は全て本社又は各拠点の OA-LAN に接続されており,各 PC からは,ブラウザで,システム B,システム C,インターネット上の Web サイトなどにアクセスできる。インターネット上の Web サイトの閲覧は,業務上必要な情報収集や調査などのために,全従業員に許可している。本社からインターネット上の Web サイトにアクセスする場合はプロキシを経由するが,各拠点からアクセスする場合は,プロキシを経由しない。電子メール(以下,メールという)のうち,A 社外と各拠点間で交換されるものは本社の社外メールサーバを経由せずに送られる。

なお,社外からメールを閲覧する仕組みはない。また,全 PC にウイルス対策ソフトがインストールされている。PC の設定状況を表1に,PC にインストールされているソフトウェアの利用状況を表2に,A 社のサーバ,ネットワーク機器の機能一覧を表3に示す。各拠点の PC から本社へのアクセスは,本社の FW によって,本社の DMZ 及びサーバ LAN だけに制限されている。

PC の設定状況(抜粋)の表(項番,名称,内容)。項番1 スクリーンセーバ:無操作状態が 15 分間続いたときに起動,解除にはパスワードを入力。項番2 パーソナルファイアウォール:インバウンド通信及びアウトバウンド通信の制御(現状は無効)。項番3 ログ取得:OS の起動及び停止,OS へのログイン及びログアウトのログを取得(注1)。注1)各アプリケーションの実行履歴は取得していない。
表1 PC の設定状況(抜粋)
PC にインストールされているソフトウェアの利用状況(抜粋)の表(項番,名称,内容)。項番1 ウイルス対策ソフト V:リアルタイムでスキャンし,マルウェアなどを検出し駆除。OS 起動時及び3時間ごとにウイルス定義ファイルをアップデート。毎週月曜日の 12 時にハードディスク全体をスキャン。マルウェア検出時に管理サーバへ自動通知(現状は無効)(注1)。項番2 PDF 閲覧ソフト W:PDF ファイルを閲覧するために利用。項番3 JRE(Java Runtime Environment):システム B を利用するとき,ブラウザで Java アプレットを実行するために利用。注1)A 社の規程では,マルウェア検出時には利用者が社内のヘルプデスクに連絡しなければならない。
表2 PC にインストールされているソフトウェアの利用状況(抜粋)
サーバ,ネットワーク機器の機能一覧(抜粋)の表(項番,名称,機能,内容)。項番1 プロキシ:[アクセス制御機能]利用者認証機能(現状は無効)。[URL フィルタリング機能]ブラックリスト方式,ホワイトリスト方式(現状は無効),HTTP リクエストの任意のヘッダのフィルタリング(現状は無効)。[ウイルスチェック機能]HTTP 通信にマルウェアが含まれているかのスキャン。[ログ取得機能]Web サイトへのアクセスログの取得,POST 内容の取得(現状は無効)。項番2 社内メールサーバ及び拠点メールサーバ:[MTA(Mail Transfer Agent)機能]MUA(Mail User Agent)との通信の暗号化(現状は無効),SMTP 通信にマルウェアが含まれているかのスキャン。[MRA(Mail Retrieval Agent)機能]POP3 を利用,MUA との通信の暗号化(現状は無効)。項番3 FW:[アクセス制御機能]社外メールサーバについては SMTP 以外のインバウンド通信を禁止。[VPN 機能]VPN 通信。項番4 UTM:[アクセス制御機能]拠点メールサーバについては SMTP 以外のインバウンド通信を禁止,利用者認証機能(現状は無効)。[VPN 機能]VPN 通信。[URL フィルタリング機能]ブラックリスト方式,ホワイトリスト方式(現状は無効),HTTP リクエストの任意のヘッダのフィルタリング(現状は無効)。[ウイルスチェック機能]HTTP 通信にマルウェアが含まれているかのスキャン,SMTP 通信にマルウェアが含まれているかのスキャン。[ログ取得機能]Web サイトへのアクセスログの取得,POST 内容の取得(現状は無効)。
表3 サーバ,ネットワーク機器の機能一覧(抜粋)

〔マルウェアの検出〕

M さんは,本社営業部に所属する営業担当である。10 月 1 日,M さんは 8 時 55 分に出社し,PC の電源を入れてログインした後,9 時から始まる会議に出席した。11 時に会議が終わり自席に戻って,PC のスクリーンセーバを解除した。すると,ウイルス対策ソフト V がマルウェア P を検出し,正常に駆除したことを示すメッセージが表示されていた。M さんは,自席に戻るまで PC を操作していないので,不審に思い,PC に新たなソフトウェアがインストールされていないか,PC 内のデータが消えてしまっていないかなどを確認し,不審と判断したファイルを削除したり,OS 上で稼働するアプリケーションの自動起動設定を変更したりした。11 時 30 分,M さんは昼休みをとるために,PC の調査を中断した。昼食時に同僚にマルウェアの話をしたところ,社内のヘルプデスクに報告すべきだと言われた。

12 時 30 分,昼休みを終えた M さんは PC の調査を再開したが,他に不審な点は確認できなかった。また,マルウェア P が検出された原因についても思い当たる節がなかった。そこで,M さんは社内のヘルプデスクに電話し,マルウェア P の検出状況などについて報告した。報告を受けたヘルプデスクの H さんは,ウイルス対策ソフト V のサポートサイトで,マルウェア P について調査した。マルウェア P の特徴は図2のとおりである。

マルウェア P の特徴の箇条書き。・C&C(Command & Control)サーバとの通信には HTTP を用いる。・C&C サーバとの通信を RC4 で暗号化する。・ブラウザのプロキシ設定を参照する。・C&C サーバからファイルをダウンロードして実行できる。・C&C サーバから指令を受けて,任意のシェルコマンドを実行できる。・キーロギングし,その結果を C&C サーバにアップロードできる。・PC 上の任意のファイルを C&C サーバにアップロードできる。・細工された Web サイトや PDF ファイルの閲覧時に,JRE や PDF 閲覧ソフトに脆弱性があると感染する。
図2 マルウェア P の特徴

H さんは,調査結果を情報システム部の K 主任に報告した。K 主任は,M さんの PC は以前からマルウェア P に感染していた可能性があり,このまま放置すれば被害が拡大する可能性があると判断した。そこで,H さんを介して,M さんに①PC から LAN ケーブルを抜くように指示した。また,K 主任は,マルウェア P への感染について更なる調査が必要であると考え,情報セキュリティ会社の Z 社に,感染原因や被害状況の調査を依頼した。

〔本社に対する調査〕

Z 社の X 氏が本社を訪れ,マルウェア P の検出状況並びに A 社の PC 及びネットワーク構成について,K 主任から説明を受けた。X 氏は,まず M さんの PC について詳しく調査することにした。X 氏は,②M さんの PC における設定が,バックアップされているかどうかを確認したが,A 社では設定のバックアップは取得していなかった。また,X 氏は,プロキシで取得している Web サイトへのアクセスログの提供を K 主任に依頼した。

X 氏は,M さんの PC のハードディスク全体を別のハードディスクにコピーし,コピーの方のハードディスクを読取り専用でマウントし,調査した。調査によって判明した内容は,図3のとおりである。

調査によって判明した内容の箇条書き。・OS 起動時にマルウェア P が自動実行されるような設定が,9 月 26 日 12:28 に追加されていた。・9 月 26 日 12:28 に,PDF 閲覧ソフト W を起動し,“待合せ場所.pdf”という PDF ファイルを開いていた。・PDF ファイルは,メールに添付されていたパスワード付き ZIP ファイルに含まれていた。・PDF ファイルにはマルウェア P が組み込まれていた。PDF ファイルを開くと,PDF 閲覧ソフト W の脆弱性を用いて,PC がマルウェア P に感染するよう細工されていた。・M さんは,図4に示すメールを 9 月 25 日 18:05 に,拠点6の L さんへ送信していた。・M さんは,図5に示すメールを 9 月 26 日 11:07 に受信していた。そのメールの送信者名は,L さんを名乗っていたが,A 社が L さんに割り当てたメールアドレスからではなく,社外のフリーの Web メールアドレスから送られたものだった。そのメールヘッダは図6のとおりであった。・L さんは,9 月 26 日に M さんへメールを送信していない(L さんへの聞き取り調査結果)。・9 月 26 日の 11:32〜14:11 には,ブラウザの閲覧履歴は存在しなかった。・マルウェア P 以外の感染は確認できなかった。
図3 調査によって判明した内容
M さんが L さんへ送信したメールの本文。L さん/お久しぶりです。M です。/以前連絡いただいた件について,お客様と打合せをするために 10 月 12 日にそちらへ行く予定です。/待合せ場所と時刻を指定してもらえますか。
図4 M さんが 9 月 25 日 18:05 に L さんへ送信したメールの本文
M さんが受信したメールの本文。M さん/L です。本当にお久しぶりですね。/外出中なので,私用のフリーメールから送ります。/待合せ場所と時刻を添付しますのでチェックしてください。/パスワードは xxxxxx です。/(添付)待合せ場所.zip
図5 M さんが 9 月 26 日 11:07 に受信したメールの本文
M さんが受信した図5のメールのヘッダ(行番号付き)。(省略)/1 Received: from mail.freefree-web-mail.com ([IP アドレス E.E.E.E]) by mail.honsha.A-sha.co.jp/2  with SMTP id r1K879qP001459 for <M-san@honsha.A-sha.co.jp>;/3  Thu, 26 Sep 20xx 11:07:10 +0900/4 Received: from gateway.freefree-web-mail.com ([IP アドレス A.A.A.A])/5  by mail.freefree-web-mail.com/6  with SMTP id r3K212qP180922 for <M-san@honsha.A-sha.co.jp>;/7  Thu, 26 Sep 20xx 11:07:10 +0900/8 Received: from [IP アドレス B.B.B.B] by gateway.freefree-web-mail.com via HTTP;/9  Thu, 26 Sep 20xx 2:07:09 -0000/10 From: L-san@freefree-web-mail.com/11 To: M-san@honsha.A-sha.co.jp/12 Date: Thu, 26 Sep 20xx 11:07:09 +0900/13 Subject: Re: 待合せ場所/14 Message-ID: xxxxx@freefree-web-mail.com/15 Accept-Language: ja-JP/16 Content-Language: ja-JP/17 Content-Type: text/plain; charset="utf-8"/18 Content-Transfer-Encoding: base64/19 MIME-Version: 1.0
図6 M さんが受信した図5のメールのヘッダ

X 氏は,M さんの PC は,PDF ファイルを閲覧した際にマルウェアに感染したと判断した。また,M さんが受信したメールの送信者は,③Web メールを利用してメールを送信した可能性が高いと考えられるとし,更なる調査を行った。

X 氏は,次にプロキシのログについて調査した。調査によって判明した内容は,図7のとおりである。

プロキシのログについての調査によって判明した内容。・IP アドレス C.C.C.C に対して,M さんの PC は次の2種類のリクエストだけを送信していた。-http://C.C.C.C/config.bin への GET リクエスト(9 月 26 日 12:28)-http://C.C.C.C/gate.php への POST リクエスト(9 月 26 日 12:28 以降,5分おき)・POST リクエストのサイズは,全て同一(200 バイト)であった。・上記の URL,及び IP アドレス C.C.C.C の [ a ] 番ポートに④ブラウザでアクセスを試行してみたところ,当該サーバは稼働していないようであった。(“④ブラウザでアクセスを試行してみたところ”に下線④が付いている)・IP アドレス C.C.C.C は最新のブラックリストに登録されていなかった。
図7 プロキシのログについての調査によって判明した内容

X 氏は,本社での調査結果をレポートにまとめて提出した。次は,報告会での X 氏,K 主任,K 主任の上司である O 部長の会話である。

X 氏は,本事象を解明するためには,拠点6の状況も調査すべきであることを説明した。説明を受けて K 主任と O 部長は,拠点6についても引き続き X 氏の協力を仰ぎながら調査することにした。

〔拠点6に対する調査〕

X 氏は,K 主任とともに拠点6を訪れ,L さんの PC の状況を調査した。調査結果は,図8のとおりである。

L さんの PC の状況の調査結果。・L さんは,9 月 25 日から 10 月 1 日まで,休暇を取っていて,出社していない。・L さんは,9 月 24 日に PC の電源を入れたまま帰宅しており,休暇中も電源は入れたままであった。・L さんの PC は,10 分おきにメールを受信するように設定されていた。・L さんの PC がマルウェアに感染した痕跡は確認できなかった。
図8 L さんの PC の状況の調査結果

聞き取り調査のとおり,図5のメールの送信者は L さんではないことが分かった。次に,X 氏は本社のメールサーバ又は拠点6の拠点メールサーバが外部から侵入され,メールの内容が漏えいした可能性もあると考え,各メールサーバを調査した。しかし,これらのメールサーバに侵入された痕跡は確認できなかった。

そこで X 氏は,他の PC のマルウェア感染を疑い,調査することにした。調査結果は,図9のとおりである。

他の PC のマルウェア感染の調査結果。・拠点6の UTM 上の Web アクセスログ(過去1か月分)で,IP アドレス C.C.C.C へのアクセスを確認したところ,9 月 25 日 14:11 以降に拠点6の N さんの PC から定期的にアクセスがあった。・N さんの PC は,10 月 1 日にマルウェア P が検出され,駆除されていたことがウイルス対策ソフト V のログから判明した。・N さんは,マルウェア P の検出をヘルプデスクに報告していなかった。
図9 他の PC のマルウェア感染の調査結果

X 氏は,マルウェア P が N さんの PC に感染した原因を特定するために,9 月 25 日 14:11 前後での N さんの PC の状況を調査した。調査結果は図10のとおりである。

N さんの PC の状況の調査結果。・OS 起動時にマルウェア P を自動実行するように設定されていた。・9 月 25 日 14:10 に,N さんの PC から次の二つの URL にアクセスしていた(D.D.D.D は IP アドレス)。-http://D.D.D.D/javarhino/exploit.jar-http://D.D.D.D/javarhino/exploit.class・9 月 25 日 14:11 に,http://C.C.C.C/config.bin に GET リクエストを送信していた。・9 月 25 日 14:11 以降,http://C.C.C.C/gate.php に5分おきに POST リクエストを送信していた。・10 月 1 日にウイルス対策ソフト V がマルウェア P を駆除して以降,IP アドレス C.C.C.C にはアクセスしていない。
図10 N さんの PC の状況の調査結果

X 氏はこれらの内容から,N さんの PC がマルウェア P に感染したのは IP アドレス D.D.D.D へのアクセスが原因ではないかと考え,検証用の PC からブラウザで http://D.D.D.D/javarhino/ へのアクセスを試行した。取得したレスポンスからは,JRE の脆弱性を突く Exploit コードを受信していることが分かった。その際のリクエスト及びレスポンスは,図11のとおりである。

リクエスト1:GET /javarhino/ HTTP/1.1/Accept: image/gif, image/x-xbitmap, image/jpeg, image/pjpeg, application/x-shockwave-flash, */*/Accept-Language: ja/Accept-Encoding: gzip, deflate/User-Agent: Mozilla/4.0 (compatible; MSIE 6.0; Windows NT 5.1; SV1)/Host: D.D.D.D/Connection: Keep-Alive。レスポンス1:HTTP/1.1 200 OK/Content-Type: text/html/Connection: Keep-Alive/Server: Apache/Content-Length: 120/(空行)/<html><head></head><body><applet archive="exploit.jar" code="exploit.class" width="1" height="1"></applet></body></html>
図11 IP アドレス D.D.D.D にアクセスした際のリクエスト及びレスポンス
リクエスト2:GET /javarhino/exploit.jar HTTP/1.1/Accept-Encoding: pack200-gzip, gzip/Content-Type: application/x-java-archive/User-Agent: Mozilla/4.0 (Windows XP 5.1) Java/1.6.0_21/Host: D.D.D.D/Accept: text/html, image/gif, image/jpeg, *; q=.2, */*; q=.2/Connection: Keep-Alive/(省略)。レスポンス2:HTTP/1.1 200 OK/Content-Type: application/octet-stream/Connection: Keep-Alive/Server: Apache/Content-Length: 50578/(空行)/PK........uSkB........(省略)。リクエスト3:GET /javarhino/exploit.class HTTP/1.1/User-Agent: Mozilla/4.0 (Windows XP 5.1) Java/1.6.0_21/Host: D.D.D.D/Accept: text/html, image/gif, image/jpeg, *; q=.2, */*; q=.2/Connection: Keep-Alive。レスポンス3:HTTP/1.1 200 OK/(省略)
図11 IP アドレス D.D.D.D にアクセスした際のリクエスト及びレスポンス(続き)

X 氏は,N さんの PC 上でタイムスタンプが c 以降のファイルを調査したところ,M さんからのメールが圧縮された状態で保存されていた。次は,この点に関する X 氏と K 主任の会話である。

X 氏は,図12の拠点6のネットワーク構成及び図13の盗聴時の L さんの PC の ARP テーブルを用いて,K 主任に盗聴の手口を説明した。

拠点6のネットワーク構成図。拠点6の中に,UTM(IP:192.168.20.254,MAC:xx:xx:xx:aa:ee:55)がインターネットに接続されている。UTM は L3SW に接続される。L3SW は,OA-LAN 2(192.168.2.0/24)側のインタフェースが IP:192.168.2.254,MAC:xx:xx:xx:aa:cc:99,OA-LAN 1(192.168.1.0/24)側のインタフェースが IP:192.168.1.254,MAC:xx:xx:xx:aa:bb:99,サーバ LAN(192.168.10.0/24)側に L2SW を介して拠点メールサーバ(IP:192.168.10.1,MAC:xx:xx:xx:aa:dd:44)が接続されている。OA-LAN 1 は L2SW で構成されており,PC(IP:192.168.1.3,MAC:xx:xx:xx:aa:bb:33)〜PC(IP:192.168.1.253,MAC:xx:xx:xx:aa:bb:55),N さんの PC(IP:192.168.1.2,MAC:xx:xx:xx:aa:bb:22),L さんの PC(IP:192.168.1.1,MAC:xx:xx:xx:aa:bb:11)が接続されている。OA-LAN 2 は L2SW で構成されており,PC(IP:192.168.2.1,MAC:xx:xx:xx:aa:cc:11)〜PC(IP:192.168.2.253,MAC:xx:xx:xx:aa:cc:22)が接続されている。L2SW:レイヤ2スイッチ。
図12 拠点6のネットワーク構成
盗聴時の L さんの PC の ARP テーブル(抜粋)。IP:192.168.1.254 MAC:[ e ]/IP:192.168.1.2 MAC:(略)
図13 盗聴時の L さんの PC の ARP テーブル(抜粋)

X 氏は N さんの PC 上に保存されているメールが他にもないか,社内で他にもマルウェア P の感染や不審なメールの受信がないかなどを調査し,今回の事象をまとめて報告書を作成した。

〔対策の検討〕

X 氏は報告書を基に,O 部長と K 主任に調査結果を報告した。X 氏は A 社に対し,図14に示す四つの攻撃への対応を推奨した。また,PC 利用ルールの改定が望ましいことも付け加えた。

A 社で対処すべき四つの攻撃。(1) JRE の脆弱性の悪用によるマルウェア感染。(2) C&C サーバからの PC の操作。(3) [ d ] によるネットワーク上の通信の盗聴。(4) PDF 閲覧ソフト W の脆弱性の悪用によるマルウェア感染。
図14 A 社で対処すべき四つの攻撃

O 部長は K 主任に対し,各攻撃への対策について検討するよう指示し,K 主任は Z 社の協力を得て対策を検討した。次は,図14に関する K 主任と O 部長の会話である。

K 主任は他の検討結果も報告し,O 部長の承認を得た。その後,K 主任は検討結果に基づき,対策を進めた。

出題趣旨(IPA)

企業においてPC端末のマルウェア感染に起因する被害を最小限に抑えるためには,マルウェア感染自体を防ぐ対策だけでは不十分である。仮にPC端末がマルウェアに感染してしまったとしても,影響範囲を限定する,感染を早期に発見し,適切な対応を行う仕組みや体制を整えることが重要となる。本問では,企業においてPC端末がマルウェアに感染した事例を題材に,マルウェア感染時の調査能力,及び調査結果に基づいてマルウェアに対抗するセキュリティ対策を立案する能力について問う。

採点講評(問全体・IPA)

問1では,マルウェア感染事例を題材に,調査と調査結果に基づく対策立案について出題した。本問では,事実を正確に把握した解答を求めており,問題文中に記載された各事象を時系列で整理することを期待した。問全体としての正答率は高かったが,解答内容から,マルウェア感染事例やその調査手法における,受験者の具体的な知識や経験の差が感じられた。

設問と解答例

設問1(1) 解答欄3つ

マルウェア P の駆除を確認した後の M さんの行動は,その後の X 氏によるマルウェア感染の調査を困難にする可能性がある。どの行動がマルウェア感染の調査を困難にするか。その行動を二つ挙げ,それぞれ 35 字以内で述べよ。また,それらの行動がマルウェア感染の調査を困難にする理由を 30 字以内で述べよ。

〔行動①〕解答例

  • 不審と判断したファイルを削除した。

〔行動②〕解答例

  • OS上で稼働するアプリケーションの自動起動設定を変更した。

〔理由〕解答例

  • 調査に必要な証跡が消えてしまう可能性があるから

〔備考〕行動①と行動②は順不同

解説

本文の根拠

〔マルウェアの検出〕

不審と判断したファイルを削除したり,OS 上で稼働するアプリケーションの自動起動設定を変更したりした。

表1 注1

各アプリケーションの実行履歴は取得していない。

図3

OS 起動時にマルウェア P が自動実行されるような設定が,9 月 26 日 12:28 に追加されていた。

M さんは,マルウェア P の駆除を確認した後,不審と判断したファイルを削除し,OS 上で稼働するアプリケーションの自動起動設定を変更した。この二つが解答例の行動①・行動②である(順不同)。

X 氏の調査は,コピーしたハードディスクに残る痕跡を手掛かりに進められた。図3のとおり,マルウェア P の自動実行設定が追加された日時や,PDF ファイルを開いた日時が痕跡として使われている。ところが表1の注1のとおり,PC はアプリケーションの実行履歴を取得していないので,ファイルや設定に残る情報が数少ない手掛かりになる。それを削除したり変更したりすると,感染経路や感染時刻を示す証跡が消えてしまう。これが理由である。

字数は,行動①が 17 字,行動②が 29 字(制限は各 35 字),理由が 23 字(制限 30 字)である。行動は“何を(ファイル/自動起動設定)どうした”を,理由は“調査に必要な証跡が消える”点を書く。“新たなソフトウェアのインストールを確認した”など,調査を妨げない行動を挙げないこと。

設問1(2) 30字以内

本文中の下線①について,被害の拡大を懸念して LAN ケーブルを抜くように K 主任が指示した理由を,30 字以内で述べよ。

解答例

  • 未検出のマルウェアが動作している可能性があるから
解説

本文の根拠

〔マルウェアの検出〕

ウイルス対策ソフト V がマルウェア P を検出し,正常に駆除したことを示すメッセージが表示されていた。

〔マルウェアの検出〕

K 主任は,M さんの PC は以前からマルウェア P に感染していた可能性があり,このまま放置すれば被害が拡大する可能性があると判断した。

図2

C&C サーバから指令を受けて,任意のシェルコマンドを実行できる。

マルウェア P そのものは,ウイルス対策ソフト V がすでに検出して駆除している。それでも LAN ケーブルを抜く理由は,ウイルス対策ソフト V がまだ検出できていない別のマルウェアが PC で動作している可能性があるからである。解答例は“未検出のマルウェアが動作している可能性があるから”である。

M さんの PC は以前から感染していた可能性があり,その間の挙動を本人も把握できていない。図2のように,マルウェア P の仲間は C&C サーバから指令を受けて任意のシェルコマンドを実行できるので,駆除の確認だけでは他のマルウェアが入っていないとは言い切れない。ケーブルを抜けば,こうした未検出のマルウェアが C&C サーバと通信したり,社内の他の機器へ被害を広げたりすることを止められる。

字数は 24 字で,制限の 30 字に収まる。“マルウェア P が動作しているから”と書くと,駆除済みという本文の事実と食い違う(採点講評も,この点を指摘している)。“未検出”の語を入れ,P とは別のものであることを示す。

採点講評(IPA)

設問1(2)は,正答率が低かった。マルウェアPについて解答した受験者が多かったが,本設問で問うている時点では,マルウェアP自体は検出・駆除済であることを把握してほしかった。

設問2(1) 30字以内

本文中の下線②について,X 氏がバックアップの有無を確認した目的を,30 字以内で述べよ。

解答例

  • マルウェア感染前後におけるOSの状態の差分を確認するため
解説

本文の根拠

〔本社に対する調査〕

M さんの PC における設定が,バックアップされているかどうかを確認した

図3

OS 起動時にマルウェア P が自動実行されるような設定が,9 月 26 日 12:28 に追加されていた。

表1 注1

各アプリケーションの実行履歴は取得していない。

設定のバックアップがあれば,それは感染前の OS の状態を表す。X 氏は,感染後の PC とそのバックアップを比べることで,何が変更されたのかを知ろうとした。解答例は“マルウェア感染前後におけるOSの状態の差分を確認するため”である。

図3のとおり,マルウェア P が OS 起動時に自動実行されるように追加した設定のような変更は,感染前の状態が分かれば差分として見つけやすい。PC にはアプリケーションの実行履歴がなく,感染後の状態だけから変更点を判断するしかない状況だったので,バックアップの有無が重要になる。A 社では設定のバックアップを取得していなかった。

字数は 28 字で,制限の 30 字に収まる。“バックアップがあるか確認する”のような行為の言い換えではなく,“感染前後の OS の状態を比べる(差分)”という目的を書く。

設問2(2)

本文中の下線③について,X 氏がそのように判断したのは,図6の何行目を基に確認したからか。最も適切な行を一つ選び,行番号で答えよ。

解答例

  • 8
解説

本文の根拠

図6 8行目

Received: from [IP アドレス B.B.B.B] by gateway.freefree-web-mail.com via HTTP;

図6 2行目

with SMTP id r1K879qP001459 for <M-san@honsha.A-sha.co.jp>;

下線③

Web メールを利用してメールを送信した

答えは 8 行目である。Received ヘッダは,メールを中継するサーバが受け取るたびに,既存の行の上に付け足していく(RFC 5321 の 3.7.2 は,中継する側が Received 行を先頭に付け足し,既存の行は変更しないと定めている)。したがって図6では,行番号の大きい8行目が最初の経路,1行目が最後の経路にあたる。

1〜2行目と4〜6行目は,サーバ間が SMTP(with SMTP)で受け渡された記録である。これに対し8行目は,IP アドレス B.B.B.B のクライアントから gateway.freefree-web-mail.com へ via HTTP で受け取った記録であり,メールサーバに SMTP で届けたのではなく,ブラウザなどから HTTP で送信したことを示す。これが“Web メールを利用してメールを送信した”と判断する根拠である。

10行目の From 行は L さんの名前を騙った差出人の表示にすぎず,送信手段の根拠にはならない。12行目の Date 行や,17〜18行目の Content-Type などの行も,送信手段を示さない。行番号で答える設問なので,“8”とだけ書く。

設問2(3) 解答欄2つ

図7中の a に入れる適切な数字を答えよ。また,図7中の下線④について,ブラウザでアクセスを試行した際の最も適切なレスポンスを解答群から選び,記号で答えよ。解答群 ア 204 No Content イ 404 Not Found ウ 503 Service Unavailable エ レスポンスなし

〔a〕解答例

  • 80

〔レスポンス〕解答例

  • エ
解説

本文の根拠

図7

http://C.C.C.C/config.bin への GET リクエスト

図7

当該サーバは稼働していないようであった。

a は 80 である。図7のログに現れる C.C.C.C への通信は,どれも http:// で始まる URL への GET・POST リクエストである。http の URL でポート番号が書かれていないときの既定のポートは TCP の 80 番である(RFC 9110 の 4.2.1)。上記の URL と同じ IP アドレスの 80 番ポートに,ブラウザで接続を試みたことになる。

下線④は,そのアクセスで得られるレスポンスを問う。本文は“当該サーバは稼働していないようであった”と書いている。解答群のうち 404 Not Found(RFC 9110 の 15.5.5)と 503 Service Unavailable(同 15.6.4)は,どちらも HTTP サーバが動作して返すステータスコードであり,204 No Content も同様にサーバが返す応答である。サーバが稼働していなければ HTTP の応答自体が返らないので,エの“レスポンスなし”が最も適切である。

記号を選ぶ設問である。ウの 503 を選びがちだが,503 は“サーバが今は要求を処理できない”ことを示すサーバからの応答であり,稼働していないサーバからは届かない。

設問2(4) 解答欄1つ

本文中の b に入れる適切な字句を,10 字以内で答えよ。

〔b〕解答例

  • HTTPレスポンス
解説

本文の根拠

会話

PC から C&C サーバへの方向だけで HTTP リクエストが発生します。

図2

C&C サーバから指令を受けて,任意のシェルコマンドを実行できる。

会話

FW やプロキシを導入していても,インターネットから社内の PC を操作されてしまいますね。

HTTP は,クライアントがリクエストを送り,サーバがそれに対するレスポンスを返す仕組みである。マルウェア P は PC から C&C サーバへ HTTP リクエストを送る(図7の POST リクエストが5分おきに出る)だけで,C&C サーバは PC へ接続を始めない。それでも C&C サーバは,リクエストに対するレスポンスの中に指令を入れて返せば,PC に指令を届けられる。解答例は“HTTPレスポンス”である。

この方式では,FW が“社内から外へ”の通信を許可し,プロキシが PC からのリクエストを中継する限り,指令を含むレスポンスが戻ってくる。だから,インターネットからの通信を FW で制限していても,攻撃者は PC を操作できる。

字数は 9 字で,制限の 10 字に収まる。“HTTP リクエスト”と答えない(本文がすでに“HTTP リクエストが発生します”と書いていて,指令は逆向きの流れにある)。

設問3(1) 解答欄1つ

本文中の c に入れる適切な日時を答えよ。

〔c〕解答例

  • 9月25日14:10
解説

本文の根拠

図10

9 月 25 日 14:10 に,N さんの PC から次の二つの URL にアクセスしていた

図10

9 月 25 日 14:11 に,http://C.C.C.C/config.bin に GET リクエストを送信していた。

図11 レスポンス1

<html><head></head><body><applet archive="exploit.jar" code="exploit.class" width="1" height="1"></applet></body></html>

X 氏は,N さんの PC 上で,感染のきっかけになった操作以降のファイルを調べたかった。図10では,9月25日14:10 に D.D.D.D の exploit.jar と exploit.class にアクセスし,その1分後の14:11 から C.C.C.C への通信(config.bin の GET,gate.php の POST)が始まっている。図11のとおり,D.D.D.D のページは Java アプレットとして exploit.jar と exploit.class を読み込ませる内容である。感染の起点はこの 14:10 の D.D.D.D へのアクセスである。解答例は“9月25日14:10”である。

14:11 としないのは,C.C.C.C への通信はすでに感染した後の動作であり,14:10 のアクセスの分のファイルが調査の範囲から外れてしまうからである。

日時なので字数制限は無い。“9月25日14:10”と,月日と時刻の両方を書く。

設問3(2) 解答欄2つ

本文及び図14中の d,本文中の f に入れる最も適切な字句を解答群の中から選び,記号で答えよ。解答群 ア ARP スプーフィング イ IP スプーフィング ウ L2SW エ MITB オ P2P ポイズニング カ SDN キ SEO ポイズニング ク タップ ケ ミラーリング コ リピータ

〔d〕解答例

  • ア

〔f〕解答例

  • ウ
解説

本文の根拠

図13

IP:192.168.1.254 MAC:e

会話

このような手口だと,f を利用してネットワークを構築していても盗聴されてしまいますね。

図12

OA-LAN 1 は L2SW で構成されており

d はア(ARP スプーフィング)である。図13は,L さんの PC の ARP テーブルで IP アドレス 192.168.1.254 に対応する MAC アドレスが e になっていることを示す。192.168.1.254 は L3SW の OA-LAN 1 側のインタフェースの IP アドレスで,通常は L3SW の MAC アドレスが入る。ARP は IP アドレスをイーサネットの MAC アドレスに対応づける仕組みで(RFC 826),受信した ARP パケットの送信元情報で,すでにある表の項目を上書きする。偽の ARP 応答で 192.168.1.254 の MAC アドレスを書き換えれば,L さんの PC は L3SW 宛ての通信を別の機器に送ってしまう。

f は,K 主任の言う“このような手口でも盗聴されてしまう”機器で,ウの L2SW である。図12の OA-LAN 1 は L2SW でできており,L2SW は宛先の MAC アドレスを見てフレームを転送するので,宛先 MAC アドレスを偽って自分宛てに送らせるこの手口なら,L2SW のネットワークでも盗聴できる。リピータやタップは,盗聴自体は容易な機器であって,この手口を要さない。

記号で答える設問である。IP スプーフィング(イ)は送信元 IP アドレスを偽る別の手口であり,MITB(エ)はブラウザ内で動作するマルウェアによる攻撃である。

設問3(3) 解答欄1つ

図13中の e に入れる適切な MAC アドレスを答えよ。

〔e〕解答例

  • xx:xx:xx:aa:bb:22
解説

本文の根拠

図12

N さんの PC(IP:192.168.1.2,MAC:xx:xx:xx:aa:bb:22)

図12

IP:192.168.1.254,MAC:xx:xx:xx:aa:bb:99

図13

IP:192.168.1.254 MAC:e

盗聴が成立しているときの L さんの PC の ARP テーブルでは,192.168.1.254 に,本来の L3SW の MAC アドレス(xx:xx:xx:aa:bb:99)ではなく,盗聴者である N さんの PC の MAC アドレスが入っている。図12から N さんの PC の MAC アドレスは xx:xx:xx:aa:bb:22 と読み取れるので,これが e の答えである。

図13の2行目に IP アドレス 192.168.1.2(N さんの PC 自身)の行が(略)として並んでいる点も,N さんの PC の MAC アドレスを答えると見当づける手掛かりになる。

17 字の英数字の MAC アドレスで,字数制限は無い。bb:22 と bb:99 の取り違えに注意する。N さんの PC は IP が 192.168.1.2,MAC の末尾が 22 である。

設問3(4)

本文及び図14中の d の手口を用いて N さんの PC による盗聴が成立するパケットの送信元 IP アドレスの範囲を具体的に答えよ。

解答例

  • 192.168.1.1,192.168.1.3~192.168.1.253
解説

本文の根拠

図12

OA-LAN 1(192.168.1.0/24)

図12

L さんの PC(IP:192.168.1.1,MAC:xx:xx:xx:aa:bb:11)

図12

PC(IP:192.168.1.3,MAC:xx:xx:xx:aa:bb:33)〜PC(IP:192.168.1.253,MAC:xx:xx:xx:aa:bb:55)

ARP スプーフィングで盗聴できるのは,偽の ARP 応答を受け取る,同じ OA-LAN 1(192.168.1.0/24)に接続された PC の通信である。図12の OA-LAN 1 には,L さんの PC(192.168.1.1),N さんの PC(192.168.1.2),192.168.1.3〜192.168.1.253 の PC,L3SW のインタフェース(192.168.1.254)が接続されている。

このうち N さんの PC は盗聴する側なので,除く。L3SW の 192.168.1.254 も,N さんの PC が成りすます相手なので,除く。残る 192.168.1.1 と 192.168.1.3〜192.168.1.253 が,盗聴が成立するパケットの送信元である。解答例は“192.168.1.1,192.168.1.3~192.168.1.253”である。

ネットワークアドレスやブロードキャストアドレスを範囲に含めないこと。また,192.168.2.0/24 の OA-LAN 2 の PC は,L3SW を介して別のネットワークにいるので範囲に含まれない。

設問4(1) 40字以内

本文中の下線⑤について,必要となる準備を 40 字以内で述べよ。

解答例

  • JREの最新バージョンにおけるシステムBの正常動作を確認すること
解説

本文の根拠

表2 項番3

システム B を利用するとき,ブラウザで Java アプレットを実行するために利用

〔対策の検討〕

JRE はアップデート前に準備が必要です

JRE は,システム B を利用するときにブラウザで Java アプレットを実行するために使われている。新しいバージョンに更新したとたんに,システム B のアプレットが動かなくなる可能性がある。K 主任は“すぐに最新バージョンにアップデートできない”と O 部長に確認されている。更新の前に,最新バージョンの JRE でシステム B が正常に動作するかを確かめておく準備が必要である。解答例は“JREの最新バージョンにおけるシステムBの正常動作を確認すること”である。

PDF 閲覧ソフト W は,更新しても業務への影響が小さいと K 主任が述べているので,すぐに更新できる。JRE だけが,利用する業務システムとの組合せが問題になる。

字数は 32 字で,制限の 40 字に収まる。“更新する”や“バックアップをとる”ではなく,“最新バージョンの JRE で,システム B が正常に動作することを確認する”ことを書く。

設問4(2) 55字以内

本文中の下線⑥について,HTTP 通信を対象に可能な対策を 55 字以内で具体的に述べよ。

解答例

  • User-Agentヘッダの内容に文字列“Java”が含まれるリクエストをフィルタリングする。
解説

本文の根拠

表3 項番1

HTTP リクエストの任意のヘッダのフィルタリング(現状は無効)

図11 リクエスト2

User-Agent: Mozilla/4.0 (Windows XP 5.1) Java/1.6.0_21

図11 リクエスト1

User-Agent: Mozilla/4.0 (compatible; MSIE 6.0; Windows NT 5.1; SV1)

〔対策の検討〕

Java を必要とするケースは限られていますので

プロキシと UTM には,HTTP リクエストの任意のヘッダをフィルタリングする機能があるが,現状は無効である。User-Agent ヘッダはリクエストを送るクライアントに関する情報を示す(RFC 9110 の 10.1.5)。図11で,ブラウザが送ったリクエスト1の User-Agent は“MSIE 6.0”だが,JRE(Java)が exploit.jar を取りにいったリクエスト2と3の User-Agent には“Java/1.6.0_21”が付いている。そこで User-Agent の内容に“Java”が含まれるリクエストを,プロキシと UTM でフィルタリングすれば,JRE から外部へ出る Java の通信を止められる。解答例は“User-Agentヘッダの内容に文字列“Java”が含まれるリクエストをフィルタリングする。”である。

Java を必要とするのはシステム B などに限られるので,この対策による影響は小さい。表3のブラックリスト方式では,D.D.D.D のような新しい不正サイトの IP アドレスや URL が載っていなければ止められないが,ヘッダの内容によるフィルタリングなら,未知のサイトからの攻撃にも効く。

字数は 47 字で,制限の 55 字に収まる。ヘッダの名前(User-Agent)と,条件(文字列 Java を含む),動作(フィルタリング)の三つを入れる。

設問4(3) 25字以内

本文中の下線⑦について,有効な対策の内容を 25 字以内で具体的に述べよ。

解答例

  • プロキシで利用者の認証を有効にする。
解説

本文の根拠

表3 項番1

利用者認証機能(現状は無効)

図2

ブラウザのプロキシ設定を参照する。

〔対策の検討〕

マルウェア P も含め,多くのマルウェアと C&C サーバ間の通信には,HTTP が利用されています。

プロキシには利用者認証機能があるが,現状は無効である。これを有効にすると,利用者の認証を通らないリクエストはインターネットへ出られなくなる。マルウェア P はブラウザのプロキシ設定を参照してプロキシ経由で C&C サーバへ接続するので,利用者の認証情報を持たない状態で,プロキシに阻まれる。解答例は“プロキシで利用者の認証を有効にする。”である。

採点講評が述べるように,認証の方式やプロキシ製品の実装によって,マルウェアがブラウザの保存した認証情報を使うなどして通り抜けることもあり,万全の対策ではない。O 部長の“マルウェアがその対策をすり抜けてくる可能性も否定しきれない”という発言も,この点に当たる。

字数は 18 字で,制限の 25 字に収まる。“プロキシ”と“利用者の認証”の二つの語を入れる。“ホワイトリストにする”など,C&C サーバの宛先の側からの対策とは区別して答える。

採点講評(IPA)

設問4(3)は,正答率が低かった。プロキシサーバでの認証機能を用いる対策は,IPAが公開している“『標的型メール攻撃』対策に向けたシステム設計ガイド”内でも述べられている対策である。問題文中では,対策が万全ではない場合があることを記載しているが,実際のマルウェア対策を検討する上でも,各認証方式の違い,プロキシ製品やUTM製品における認証機能の実装の違い,また対策が有効なマルウェアの範囲についても理解して検討を進めてほしい。

設問4(4) 解答欄2つ

本文中の下線⑧について,N さんの PC が L さんの PC の通信を盗聴することを防ぐには,N さんの PC と L さんの PC のどちらかのパーソナルファイアウォールで,インバウンド通信とアウトバウンド通信のどちらかを禁止する設定を行えばよい。設定を行う PC 及び禁止する通信をそれぞれ答えよ。

〔設定を行うPC〕解答例

  • NさんのPC

〔禁止する通信〕解答例

  • インバウンド通信
解説

本文の根拠

図12

N さんの PC(IP:192.168.1.2,MAC:xx:xx:xx:aa:bb:22)

図13

IP:192.168.1.254 MAC:e

〔対策の検討〕

PC 上のパーソナルファイアウォール機能を活用して,各 PC から他の機器への通信と,他の機器から各 PC への通信を,必要最小限に制限する

解答例は,設定を行う PC が N さんの PC,禁止する通信がインバウンド通信である。盗聴では,ARP スプーフィングにより L さんの PC が,192.168.1.254 宛てのフレームを N さんの PC の MAC アドレス宛てに送る。このフレームを受け取るのは N さんの PC であり,N さんの PC の側から見れば受信(インバウンド)の通信である。そこで N さんの PC のパーソナルファイアウォールでインバウンド通信を禁止すれば,L さんの PC から届く通信を受け取れなくなる。

L さんの PC で通信を禁止する方法もあり得るが,L さんの PC が行うべき通常のメールの送受信まで止めてしまうので,被害を受ける側の PC では適切でない。N さんの PC で禁止するのは,盗聴する側の通信に絞って止める方法である。アウトバウンドの禁止は,盗聴した内容を外へ送る通信を止める対策であって,盗聴そのものを止めない。

設定を行う PC と禁止する通信の二つの欄を,“NさんのPC”,“インバウンド通信”とそれぞれ答える。

出典:平成25年度 秋期 情報処理安全確保支援士試験 午後Ⅱ 問1(表記を一部改変)

問2 スマートフォンを利用したリモートアクセス環境

スマートフォンを利用したリモートアクセス環境に関する次の記述を読んで,設問1〜3に答えよ。

D 社は,従業員数 5,000 名の情報システム会社である。D 社は,東京に本社とデータセンタをもち,全国 8 か所に支店をもっている。D 社従業員の多くは,他社との共同プロジェクトに参画する技術者,顧客訪問をする営業員などであり,主に社外で業務を行っている。

D 社では,このような業務形態を踏まえて,従業員が社外でも効率よく業務を行えるよう,全従業員にモバイル PC を1台ずつ貸与している。

従業員は,インターネット接続環境があれば,モバイル PC を VPN 経由で社内ネットワークに接続し,社内にいるときと同じように,メールサーバ及び社内 Web サーバにアクセスできる(以下,社外からのメールサーバ及び社内 Web サーバへのアクセスをリモートアクセスという)。モバイル PC とリモートアクセス環境は,業務を行うのに十分なものである。

モバイル PC を VPN 経由で社内ネットワークに接続する際は,まず,VPN サーバに登録された利用者 ID とパスワード(以下,VPN 認証情報という)による利用者認証が行われる。さらに,モバイル PC からメールサーバにアクセスする際は,メールサーバに登録された利用者 ID とパスワード(以下,メールサーバ認証情報という)による利用者認証が行われる。社内 Web サーバにアクセスする際は,利用者認証は行われない。メールサーバ認証情報と VPN 認証情報は異なるものを使用し,また,電子メール(以下,メールという)を他のメールアドレスに自動転送することがないよう,従業員がメールボックスの設定を変更できないようにしている。

モバイル PC に業務データを保存することは認められているが,情報漏えい対策としてハードディスク全体の暗号化が行われている。業務データを暗号化している場合でも,D 社の管理及び規程が及ばないサービス又はシステム,例えば,クラウドコンピューティングサービス(以下,クラウドサービスという)によって提供されるサービス,オンラインストレージサービス,ファイル共有システムなどを利用して保管することは禁止されている。また,業務上必要な場合を除き,利用者がメールを社外のメールアドレスに転送することは禁止されている。

〔スマートフォンを利用したリモートアクセス環境の構築〕

D 社は,従業員の利便性を更に向上させるために,移動中でもメールで社内及び顧客への連絡が行えるよう,モバイル PC に加えて個人所有のスマートフォンからリモートアクセスできる環境を構築することにした。ただし,社内 Web サーバには機密情報が保管されているので,スマートフォンから社内 Web サーバへのアクセスは認めないことにした。

情報システム部の X 部長は,D 社におけるスマートフォンからのリモートアクセス環境について,希望した従業員だけに利用させる前提で実現方法を検討し,情報セキュリティスペシャリストの Z 主任のレビューを受けるよう,情報システム部の Y 氏に指示した。

Y 氏は,従業員の多くが所有している,スマートフォン A,B の仕様を調査した。Y 氏が整理した,スマートフォン A,B の環境を表1に,機能を表2に,それぞれ示す。

スマートフォン A,B の環境(抜粋)の表(環境,スマートフォン A,スマートフォン B)。OS:A はスマートフォンベンダ H 社が提供している。内部仕様は非公開である。B は IT 企業 T 社が提供しているオープンソースソフトウェアをスマートフォンメーカ各社が搭載している。アプリケーションインタフェース(A,B 共通):仕様が公開されている。アプリケーションの提供形態:A は,アプリケーション開発ベンダが H 社とアプリケーション提供の契約を締結すると,H 社からアプリケーション開発ベンダのディジタル証明書が発行される。ディジタル署名が付与されたアプリケーションは,H 社の安全性審査を受けることができる。H 社の安全性審査に合格したアプリケーションは,インターネット上の H 社ストアから提供される。スマートフォンの利用者が H 社ストアからアプリケーションを導入する際,アプリケーションのディジタル署名が検証される。ディジタル署名の検証に失敗した場合はエラーとなり,アプリケーションを導入できない。B は,アプリケーションは,インターネット上の T 社ストア及び携帯電話事業者の Web サイトから提供されている。また,独自に開発したアプリケーションを公開している Web サイトもある。アプリケーションの安全性審査及び導入時のディジタル署名の検証は行われない。導入するアプリケーションの選択は,利用者に任されている。OS 及びアプリケーションの更新方法:A は,OS 又はアプリケーションの更新があった場合は,通知メッセージが表示され,更新ボタンに触れると更新される。B は,OS 又はアプリケーションの更新があった場合は,通知メッセージが表示され,更新ボタンに触れると更新が行われる。OS 及び各アプリケーションに自動更新を設定できる。自動更新が設定されている場合は,通知メッセージが表示されることなく更新される。
表1 スマートフォン A,B の環境(抜粋)
スマートフォン A,B の機能(抜粋)の表(機能,スマートフォン A,スマートフォン B)。デバイス保護機能(A,B 共通):デバイスパスワードが設定されている場合,電源を入れるとスマートフォンがロック状態になる。ロック解除には,デバイスパスワードの入力が必要である。一定時間,スマートフォンを操作しなかった場合,スマートフォンを自動ロックさせる設定ができる。ネットワーク接続機能(A,B 共通):無線 LAN を利用して,インターネットにアクセスできる。VPN クライアント機能をもち,L2TP over IPsec 又は PPTP で VPN に接続できる。電話帳機能(A,B 共通):氏名,電話番号,メールアドレス,住所,画像データ,URL を登録したり検索したりすることができる。電話の発着信履歴から電話番号を登録したり,登録済みの電話番号に電話を掛けたりすることができる。受信したメールのメールアドレスを登録したり,メールクライアントからメールを送信する際に,登録されたメールアドレスを呼び出したりすることができる。メールクライアント(A,B 共通):メールクライアントが導入されており,POP3 によるメール受信及び SMTP によるメール送信ができる。メール受信においては POP3 over TLS を,メール送信においては SMTP over TLS を,それぞれ使用できる。添付ファイル付き受信メールを閲覧するとファイル名が表示され,ファイル名を選択すると添付ファイルがメールサーバからスマートフォンにダウンロードされる。ブラウザ(A,B 共通):ブラウザが導入されており,Web サイトを閲覧できる。Web サイトからファイルをダウンロードして,スマートフォンに保存できる。メディアプレーヤ及びドキュメントビューア(A,B 共通):メディアプレーヤ及びドキュメントビューアが導入されており,音声及び動画の再生並びに画像及び文書ファイルの表示ができる。外部記憶媒体の利用:A は利用できない。B はマイクロ SDHC カードが利用できる。PC との接続及びファイルコピー機能:A は,専用ケーブル又は無線 LAN を利用して,専用ソフトウェアが導入済みの PC と接続し,PC から音声,動画,画像及び文書ファイルをコピーしたり,スマートフォン上のデータのバックアップを PC 上に保管したりすることができる。B は,USB ケーブルを利用して PC と接続し,スマートフォンの内蔵ストレージ及びスマートフォンのマイクロ SDHC カードを PC の外部記憶媒体として利用できる。クラウドサービスの利用:A は,アプリケーションを導入・設定することなく,H 社が提供するクラウドサービスに接続し,スマートフォンに保存されている電話帳,メール,音声,動画,画像及び文書ファイルを,利用者が意識することなく,クラウドサービスのサーバに定期的にコピーする自動同期機能を利用できる。一部の機種は,デフォルトの状態で自動同期機能が有効になっている。B は,アプリケーションを導入・設定することでクラウドサービスに接続し,スマートフォンに保存されている電話帳,メール,音声,動画,画像及び文書ファイルを,利用者が意識することなく,クラウドサービスのサーバに定期的にコピーする自動同期機能を利用できる。一部の機種では,デフォルトの状態で,アプリケーションが導入・設定済みであり,自動同期機能が有効になっている。
表2 スマートフォン A,B の機能(抜粋)

Y 氏は,スマートフォンからのリモートアクセス環境の案として,スマートフォンにメール及びメールアドレスを保存せずにメールを送受信できるようにする案1をまとめた。

案1は,ネットワーク構成,実現方式,セキュリティ対策,スマートフォン利用手続及びセキュリティ規程から成っている。案1におけるネットワーク構成を図1に示す。以下,ネットワーク構成及びファイアウォール(以下,FW という)の設定において,各機器の冗長化,負荷分散装置,DNS に関する記載は省略する。

案1におけるネットワーク構成図。D 社データセンタ内に DMZ1 があり,DMZ1 には VPN サーバ1,メールゲートウェイ,プロキシ,Web メールサーバが接続されている。DMZ1 は IPS1 と FW1 を介してルータ R に接続され,R はインターネットに接続されている。DMZ1 の FW2 を介してサーバ LAN(社内 Web サーバ,メールサーバが接続)につながる。サーバ LAN のルータ R は広域イーサネットを介して本社及び支店(拠点 LAN にモバイル PC が複数台接続,ルータ R を介して広域イーサネットに接続)とつながる。インターネットと携帯電話網がつながり,インターネット側にモバイル PC とスマートフォン,携帯電話網側にスマートフォンが接続されている。IPS:侵入防止システム,R:ルータ。
図1 案1におけるネットワーク構成

案1における実現方式は次のとおりである。

案1におけるセキュリティ対策を図2に,FW1 及び FW2 で許可する通信を表3及び表4に,スマートフォン利用手続を図3に,セキュリティ規程を図4に示す。

案1におけるセキュリティ対策。1. FW1 及び FW2 の設定によって,インターネットと DMZ1 間の通信及び DMZ1 とサーバ LAN 間の通信は,業務上必要な通信に限定する。2. スマートフォンから VPN サーバ1への接続においては,VPN 認証情報による利用者認証を行う。3. スマートフォンから Web メールサーバへのアクセスにおいては,メールサーバ認証情報による利用者認証を行う。4. Web メールサーバの設定によって,メールの添付ファイルをスマートフォンに保存できないようにする。5. ウイルス対策と FW の機能をもつ製品 F を,スマートフォンに導入・設定する。6. スマートフォンの盗難及び紛失に備え,次の対策を行う。・第三者に推測されにくいデバイスパスワードを設定する。・盗難又は紛失の届出があった場合,VPN サーバ1の設定において当該利用者の VPN アカウントを停止する。
図2 案1におけるセキュリティ対策
案1において FW1 で許可する通信の表(送信元,宛先,プロトコル)。Any → VPN サーバ1:L2TP over IPsec。Any → メールゲートウェイ:SMTP。メールゲートウェイ → Any:SMTP。プロキシ → Any:HTTP。プロキシ → Any:HTTP over TLS。
表3 案1において FW1 で許可する通信
案1において FW2 で許可する通信の表(送信元,宛先,プロトコル)。DMZ1 → メールサーバ:POP3。DMZ1 → メールサーバ:SMTP。メールサーバ → メールゲートウェイ:SMTP。DMZ1 → 社内 Web サーバ:HTTP。DMZ1 → 社内 Web サーバ:HTTP over TLS。拠点 LAN → プロキシ:HTTP。拠点 LAN → プロキシ:HTTP over TLS。
表4 案1において FW2 で許可する通信
案1におけるスマートフォン利用手続。1. 利用申請:個人所有のスマートフォン A 又は B を業務に利用することを選択した従業員は,スマートフォンを特定する次の項目を機器登録申請書に記入して所属長から承認を得た後,情報システム部に提出する。(1) スマートフォンの種別(A 又は B を選択)(2) 携帯電話事業者名 (3) 機種名 (4) シリアル番号(スマートフォン A の場合)又は MAC アドレス(スマートフォン B の場合)。2. スマートフォンの設定:スマートフォンの業務利用が承認された従業員は,次の設定を行う。(1) H 社ストア又は T 社ストアから,製品 F をスマートフォンに導入し,ウイルス定義ファイルの自動更新を有効にする。(2) スマートフォンの VPN クライアント機能に接続方法,接続先,VPN 認証情報などを設定する。(3) デバイス保護機能を次のように設定する。(a) スマートフォンを操作しなかった場合は 15 分以内にロックが掛かり,デバイスパスワードを入力しないとロックを解除できないようにする。(b) デバイスパスワードには,英字と数字の両方を含む 8 桁以上の文字列を設定する。
図3 案1におけるスマートフォン利用手続
案1におけるセキュリティ規程。1. スマートフォンの業務利用は,Web メールサーバを利用したメールの送受信に限定する。2. 業務利用の必要性がなくなった場合は,スマートフォンから接続方法,接続先,VPN 認証情報などを消去する。3. メールを社外のメールアドレスに自動転送することを禁止する。4. Jailbreak(脱獄)や root 化など,スマートフォンに設けられた制限を取り外す行為(以下,改造という)を禁止する。5. アプリケーションは,H 社ストア,T 社ストア又は携帯電話事業者の Web サイトから導入する。6. OS 又はアプリケーションの更新通知があった場合は,速やかに更新する。7. 情報システム部が配布するのぞき見防止フィルタを画面に貼り,第三者に画面を見られないよう注意する。8. スマートフォンを盗まれたり,紛失したりした場合,速やかに所属長及び情報システム部に届け出る。
図4 案1におけるセキュリティ規程

Y 氏は,案1について,Z 主任のレビューを受けた。Z 主任は,①D 社が認めていないアクセスが技術的に可能になっている問題と,②スマートフォンの盗難又は紛失の届出があったときにとられる対策によって引き起こされる問題を指摘し,解決策をアドバイスした。また,Z 主任は,セキュリティ規程に,“従業員はスマートフォンを業務に利用するか否かを自由に選択できる”と追記すること,及びスマートフォンを利用したリモートアクセス環境において想定されるセキュリティリスクと対策をまとめることをアドバイスした。

Y 氏は,案1に Z 主任のアドバイスを反映させた案2をまとめた。案2におけるネットワーク構成を図5に,想定されるセキュリティリスクと対策を表5に,それぞれ示す。なお,FW1 及び FW2 の設定は表3,4と同じである。

案2におけるネットワーク構成図。D 社データセンタ内に DMZ1 があり,DMZ1 には VPN サーバ1,メールゲートウェイ,プロキシが接続され,IPS1 と FW1 を介してルータ R からインターネットに接続されている。DMZ1 は FW2 を介してサーバ LAN(社内 Web サーバ,メールサーバ)につながる。新たに DMZ2 があり,DMZ2 には VPN サーバ2,Web メールサーバが接続され,IPS2 と FW3 を介して別のルータ R からインターネットに接続されている。DMZ2 は FW4 を介してサーバ LAN につながる。サーバ LAN のルータ R は広域イーサネットを介して本社及び支店(拠点 LAN にモバイル PC が複数台接続)とつながる。インターネットと携帯電話網がつながり,モバイル PC とスマートフォンが接続されている。
図5 案2におけるネットワーク構成
案2において想定されるセキュリティリスクと対策の表(セキュリティリスク,対策)。R1. インターネットから DMZ,サーバ LAN 及び拠点 LAN への侵入:C1. FW 及び IPS の設置。C2. DMZ 上のサーバの要塞化(不要なサービスの停止,最新のセキュリティパッチの適用,デフォルト設定の管理者アカウントの変更)。C3. 情報システム部による,定期的な脆弱性診断。R2. インターネットにおける通信の盗聴:C4. VPN による暗号化通信。R3. 正規利用者へのなりすまし(盗難及び紛失時を含む):C5. デバイス保護機能の設定。C6. VPN サーバにおける利用者認証。C7. メールサーバにおける利用者認証。C8. 盗難及び紛失時の VPN アカウントの停止。R4. スマートフォンからの情報漏えい:C9. 業務メール及びメールアドレスのスマートフォンへの保存の禁止。R5. 画面からの情報漏えい:C10. のぞき見防止フィルタの利用。R6. メールサーバからの情報漏えい:C11. 業務目的以外でのメール転送の禁止。R7. スマートフォンの脆弱性の悪用:C12. 最新の OS の利用。C13. 最新のアプリケーションの利用。C14. 改造の禁止。R8. スマートフォンにおける不正コード:C15. アプリケーションの安全性審査。C16. H 社ストア,T 社ストア及び携帯電話事業者の Web サイト以外からのアプリケーション導入の禁止。C17. ウイルス対策ソフトの導入・設定。
表5 案2において想定されるセキュリティリスクと対策

Y 氏は,案2について,Z 主任のレビューを受けた後,X 部長の承認を得た。

D 社は,案2に基づいたリモートアクセス環境を構築し,運用を開始した。

〔リモートアクセス環境の改善〕

スマートフォンを利用したリモートアクセス環境の運用開始から1年後,D 社では約半数の従業員がスマートフォンを業務に利用するようになった。情報システム部は,スマートフォンを業務に利用している従業員に対してアンケートを行い,満足度及び利用状況を調査した。調査の結果,次のことが分かった。

一方,スマートフォンのアプリケーションの中には,利用者の位置情報,電話番号及び電話帳の情報をインターネット上のサーバに送信するものがあることが報道されている。

情報システム部はこれらの状況を踏まえ,リモートアクセス環境の改善に向けた検討を開始した。

X 部長は,メールの添付ファイルをスマートフォンに保存することを認めた場合,スマートフォンに導入したアプリケーションが利用者の意図しない動作をし,情報漏えいが起きるリスクがあると考えた。そこで,必要となるセキュリティ対策を調査した上で,リモートアクセス環境の改善を検討するよう,Y 氏に指示した。

Y 氏が調査した結果,スマートフォン A,B の設定,OS 及びアプリケーションをサーバから一元管理する製品 E が販売されていることが分かった。製品 E は,スマートフォンに導入する E エージェントと,スマートフォンを管理したり通信を中継したりする E サーバから成る。E エージェントと E サーバは,互いに TCP/IP のプロトコルで通信することによって,次の機能を提供する。

Y 氏は,従業員の利便性を更に向上させるために,案3をまとめた。案3では,スマートフォン及び外部記憶媒体にメールの添付ファイルを保存することを認める一方,現在のリモートアクセス環境に製品 E を適用してスマートフォンのセキュリティ管理を強化する。Y 氏は,スマートフォンを管理する E サーバ1をサーバ LAN に,E サーバ1と E エージェント間の通信を中継する E サーバ2を DMZ2 に,それぞれ配置し,FW3 及び FW4 で必要な通信を許可することにした。案3において追加したセキュリティ対策を図6に示す。

案3において追加したセキュリティ対策。1. 製品 F が導入・設定されていることを,製品 E によって監視する。製品 F が導入されていない又は正しく設定されていないスマートフォンが検知された場合,情報システム部は,当該従業員(所有者)とその所属長に通知する。当該従業員は,一定期間内に製品 F を導入・設定する。2. 古い OS 又はアプリケーションを利用しているスマートフォン,若しくは安全性が疑わしいアプリケーションを導入しているスマートフォンを,製品 E によって検知する。情報システム部は,必要と判断した場合,当該従業員とその所属長に通知する。当該従業員は,一定期間内に最新の OS 又はアプリケーションを導入したり,安全性が疑わしいアプリケーションを削除したりする。3. スマートフォン及び外部記憶媒体に保管した業務データを保護するために,製品 E の機能を利用してスマートフォン及び外部記憶媒体上の全データの暗号化を行う。4. スマートフォン中の業務データをバックアップする場合,所有者はバックアップデータを暗号化する。バックアップデータの保管先として利用できるのは,D 社の規程に基づいて管理されている機器だけとし,D 社の管理及び規程が及ばないサービス又はシステムを利用することを禁止する。5. スマートフォンの盗難又は紛失の届出があった場合,情報システム部は,当該従業員に,モバイル PC のブラウザから E サーバ1にアクセスしてスマートフォン及び外部記憶媒体に保管された全データを消去する方法を伝える。当該従業員は,スマートフォン及び外部記憶媒体に保管された全データを消去する。
図6 案3において追加したセキュリティ対策

Y 氏は,案3をまとめた後に,スマートフォンの盗難又は紛失時のデータ消去手段として,製品 E を利用する方法以外に,携帯電話事業者のデータ消去サービスがあることを知った。そこで,どちらの方法を採用すべきかを,Z 主任に相談した。携帯電話事業者のデータ消去サービスには,製品 E と同等の機能を提供するサービスと,③携帯電話網を介したデータ通信を用いて,スマートフォン及び外部記憶媒体に保存したデータを消去するサービスの2種類があり,携帯電話網を介したデータ通信を用いるサービスだけを提供している携帯電話事業者もあることが分かった。Z 主任は,図5を示しながら,スマートフォンの状態によっては,携帯電話網を介したデータ通信を用いる方法ではデータ消去が行えないので,製品 E を利用する方法で統一すべきであることを Y 氏に説明した。Y 氏は,Z 主任の説明を受けて案3を具体化し,Z 主任のレビューを受けた。

案3のレビューにおいて,Z 主任は,スマートフォンの仕様の一部が,D 社の業務データ取扱事項違反の原因となり,セキュリティリスクがあることを指摘した。また,その対策として,スマートフォン利用手続にスマートフォンの設定について項目を追加することと,正しく設定されているかを製品 E の機能によって情報システム部が監視することをアドバイスし,それがどのような場合に効果があるかを説明した。

Y 氏は,案3に Z 主任のアドバイスを反映させた案4をまとめた。

〔同意書の検討〕

Y 氏が案4について X 部長に説明したところ,“スマートフォンの盗難又は紛失時における製品 E によるデータ消去は,業務データをスマートフォンに保存する場合のリスクに対する対策であるが,D 社として,消去されるデータを具体的に示した上で従業員から事前に同意を得ておく必要がある”との指摘が X 部長からあった。

X 部長の指摘を受けて,Y 氏は,製品 E によるセキュリティ対策の内容をセキュリティ規程に追記するとともに,スマートフォンの利用手続に同意書の提出を義務付ける項目を新たに設け,案5とし,X 部長の承認を得た。

D 社は,案5に基づいて,リモートアクセス環境の運用を開始した。

X 部長は,今後,スマートフォンの高機能化に伴い,新しい脆弱性が発見されたり,対策技術が変化したりする可能性があると考え,Y 氏に,スマートフォンの利用におけるセキュリティリスク及び対策技術の動向について,定期的に調査し,報告することを指示した。

出題趣旨(IPA)

スマートフォンを利用したリモートアクセスにおいては,想定する利用形態,利用対象のスマートフォンの技術仕様及び利用可能なセキュリティ技術を踏まえた上で,総合的なセキュリティ対策を検討する必要がある。スマートフォンは今後も高機能化が進み,それに伴って新しい脆弱性が発見されたり,新しいセキュリティ対策技術が開発されると考えられる。そこで,常に技術動向を注視し,セキュリティ対策を見直していく必要がある。本問では,スマートフォンの技術仕様及びアプリケーションの提供形態を踏まえた上で,総合的なセキュリティ対策を立案する能力を問う。

採点講評(問全体・IPA)

問2では,会社貸与のモバイルPCを利用した既存のリモートアクセス環境を拡張し,個人所有のスマートフォンを利用したリモートアクセス環境を構築する際の設計について出題した。実務経験をもつ受験者にとっては,正解を導きやすい問題であったと思われる。

設問と解答例

設問1(1) 解答欄4つ

本文中の下線①について,D 社が認めていないアクセスとは何から何へのアクセスか。二つ挙げ,それぞれ 25 字以内で述べよ。また,下線①で述べた問題に対して,案2において講じられている対策を二つ挙げ,それぞれ 50 字以内で述べよ。

〔アクセス①〕解答例

  • スマートフォンから社内Webサーバへのアクセス

〔アクセス②〕解答例

  • スマートフォンからメールサーバへのアクセス

〔対策①〕解答例

  • スマートフォン用のDMZ2を追加し,スマートフォンとモバイルPCの通信経路を分離する。

〔対策②〕解答例

  • FW4でスマートフォンから社内Webサーバ及びメールサーバへの通信を禁止する。
解説

本文の根拠

冒頭

スマートフォンから社内 Web サーバへのアクセスは認めないことにした。

案1 実現方式(2)

スマートフォンのメールクライアントからメールサーバにアクセスすることは禁止する。

案1 実現方式(1)

DMZ1 のネットワークセグメントの IP アドレスが割り当てられ,DMZ1 に接続されているのと同じように通信できる。

表4

DMZ1 → 社内 Web サーバ:HTTP。

表4

DMZ1 → メールサーバ:POP3。

案1では,スマートフォンもモバイル PC も VPN サーバ1に接続され,DMZ1 の IP アドレスが割り当てられて DMZ1 にいるのと同じように通信できる。表4のとおり FW2 は DMZ1 から社内 Web サーバ(HTTP,HTTP over TLS)とメールサーバ(POP3,SMTP)への通信を許可している。このため,スマートフォンから社内 Web サーバへのアクセス(機密情報があるので認めない)と,スマートフォンからメールサーバへのアクセス(メールクライアントでの利用は禁止,Web メールサーバ経由に限定)が技術的に可能になっている。これがアクセスの二つで,解答例は“スマートフォンから社内Webサーバへのアクセス”と“スマートフォンからメールサーバへのアクセス”である。

案2の対策は,図5と表5以降の記述から,二つに分かれる。一つは,DMZ2 を追加して VPN サーバ2と Web メールサーバを置き,スマートフォンとモバイル PC の通信経路を分離することである。もう一つは,FW4 でスマートフォンから社内 Web サーバ及びメールサーバへの通信を禁止することである。採点講評も,ファイアウォールのルールからスマートフォンとモバイル PC の用途ごとの通信経路を分離する必要があることを導いてほしかったと述べている。

字数は,アクセスが 23 字と 21 字(制限は各 25 字),対策が 43 字と 39 字(制限は各 50 字)である。アクセスは“何から何へ”を,対策は“経路の分離”と“FW4 での禁止”の二つを,一つずつ分けて書く。どちらか一方だけの解答にならないよう,二つの対策に分けて書き出す。

採点講評(IPA)

設問1(1)では,D社が認めていないアクセスを正しく識別できているのに,それを防ぐ対策を正確に記述できていない解答が多かった。ファイアウォールのルールから,モバイルPCとスマートフォンという二つの用途ごとに通信経路を分離する必要があることを導き出してほしかったが,どちらか一方の記述にとどまっている解答が多かった。また,ファイアウォールのルールとして,問題文中に記載されているWebメールサーバ及びVPNに関する条件を十分に理解していないと思われる解答も多かった。問題解決においては,対策が,与えられた条件を満たしているか,論理的な観点から検証する必要があることに注意してほしい。

設問1(2) 解答欄3つ

FW3 及び FW4 において許可する通信を,表3及び表4の記述形式に倣って FW3 については一つ,FW4 については二つ答えよ。

〔FW3〕解答例

  • 送信元 Any,宛先 VPNサーバ2,プロトコル L2TP over IPsec

〔FW4①〕解答例

  • 送信元 Webメールサーバ,宛先 メールサーバ,プロトコル POP3

〔FW4②〕解答例

  • 送信元 Webメールサーバ,宛先 メールサーバ,プロトコル SMTP
解説

本文の根拠

表3

Any → VPN サーバ1:L2TP over IPsec。

案1 実現方式(2)

Web メールサーバは,メールサーバに対してはメールクライアントとして動作し,スマートフォンに対してはアドレス帳とメールクライアントの機能を Web で提供する。

表4

DMZ1 → メールサーバ:POP3。

表4

DMZ1 → メールサーバ:SMTP。

FW3 は,図5でインターネットと DMZ2 の間にある。DMZ2 に置いた VPN サーバ2へスマートフォンが L2TP over IPsec で接続できるように,FW1 の表3の1行目(Any → VPN サーバ1)にならって,送信元 Any,宛先 VPN サーバ2,プロトコル L2TP over IPsec を許可する。解答例のとおり1つである。

FW4 は DMZ2 とサーバ LAN の間にある。スマートフォンは Web メールサーバにだけ接続でき,Web メールサーバがメールサーバに対してメールクライアントとして動作する。表4の DMZ1 → メールサーバの POP3・SMTP にならい,送信元 Web メールサーバ,宛先メールサーバで,プロトコル POP3 と SMTP の二つを許可する。

送信元を DMZ2 全体にすると,VPN サーバ2などからもメールサーバへの通信が通ってしまうので,送信元は Web メールサーバに絞る。採点講評は,ファイアウォールのルールとして Web メールサーバ及び VPN に関する条件の理解が不十分な解答が多かったと述べている。表4の記述形式(送信元・宛先・プロトコル)に合わせて書く。

設問1(3) 解答欄2つ

本文中の下線②の問題を,50 字以内で述べよ。また,この問題に対して,案2において講じられている対策を,50 字以内で述べよ。

〔問題〕解答例

  • VPNアカウントを停止すると,モバイルPCから社内ネットワークに接続できなくなる。

〔対策〕解答例

  • スマートフォンで利用するVPNアカウントを,モバイルPCで利用するものと別に作成する。
解説

本文の根拠

図2 6

盗難又は紛失の届出があった場合,VPN サーバ1の設定において当該利用者の VPN アカウントを停止する。

冒頭

VPN サーバに登録された利用者 ID とパスワード(以下,VPN 認証情報という)による利用者認証が行われる。

冒頭

全従業員にモバイル PC を1台ずつ貸与している。

案1では,スマートフォンの盗難・紛失のときに,VPN サーバ1でその利用者の VPN アカウントを停止する。ところが,従業員はモバイル PC でも同じ VPN サーバに,同じ VPN 認証情報でログインしている。そのため,アカウントを停止するとモバイル PC からも社内ネットワークに接続できなくなり,業務に支障が出る。これが問題である。

解決策は,スマートフォンとモバイル PC で別々の VPN アカウント(VPN 認証情報)を使うことである。スマートフォンのアカウントだけを停止すればよく,案2では VPN サーバ2をスマートフォン用に追加したことで,これを実現している。解答例は“スマートフォンで利用するVPNアカウントを,モバイルPCで利用するものと別に作成する。”である。

字数は,問題が 41 字,対策が 43 字で,どちらも制限の 50 字に収まる。問題は“アカウントを停止すると,モバイル PC が接続できなくなる”こと,対策は“アカウントを分ける”ことを書く。

設問1(4)

表5中の対策 C1〜C17 の中から,対策の内容及び実施について D 社の管理が及ばないものを一つ選び,記号で答えよ。

解答例

  • C15
解説

本文の根拠

表1

ディジタル署名が付与されたアプリケーションは,H 社の安全性審査を受けることができる。

表1

アプリケーションの安全性審査及び導入時のディジタル署名の検証は行われない。

表5

C15. アプリケーションの安全性審査。

表5の対策のうち,C15(アプリケーションの安全性審査)だけは,D 社の管理が及ばない。表1のとおり,スマートフォン A のアプリケーションの安全性審査は H 社が行い,審査に合格したものだけが H 社ストアから提供される。スマートフォン B のアプリケーションには,安全性審査自体が行われない。いずれも,審査を行うかどうか,内容と実施は D 社ではなく,H 社や提供元が決める。

C1〜C4(FW・IPS・要塞化・診断・VPN),C5〜C8(デバイス保護・認証・アカウント停止),C9〜C14(保存禁止・フィルタ・転送禁止・更新・改造禁止),C16(導入元の限定),C17(ウイルス対策ソフト)は,D 社の設定や規程,従業員への手続で実施できる。

記号で答える設問である。“C15”と書く。C16 は“導入できる場所を限定する”D 社の規程であり,審査は行わないので,混同しないこと。

設問2(1) 30字以内

本文中の下線③のサービスについて,製品 E を利用すればデータを消去できるが,下線③のサービスではデータを消去できないのは,スマートフォンがどのような状態のときか。30 字以内で述べよ。

解答例

  • 携帯電話網を介さずにインターネットに接続されている状態
解説

本文の根拠

〔リモートアクセス環境の改善〕

スマートフォンの通信料金を節約するために,携帯電話網を介したデータ通信を無効化して,無線 LAN 経由でリモートアクセスを行っている従業員が多い。

下線③

携帯電話網を介したデータ通信を用いて,スマートフォン及び外部記憶媒体に保存したデータを消去するサービス

〔リモートアクセス環境の改善〕

E エージェントと E サーバは,互いに TCP/IP のプロトコルで通信することによって,次の機能を提供する。

下線③のサービスは,携帯電話網を介したデータ通信で消去の指示を届ける。スマートフォンが携帯電話網のデータ通信を無効にし,無線 LAN だけでインターネットに接続している状態では,その指示を受け取れず,データを消去できない。一方,製品 E の E エージェントと E サーバは TCP/IP で通信するので,無線 LAN 経由でインターネットに接続していても消去できる。解答例は“携帯電話網を介さずにインターネットに接続されている状態”である。

アンケートで,通信料金を節約するために携帯電話網のデータ通信を無効にして無線 LAN だけを使う従業員が多いと分かっている。これが,製品 E で統一すべき理由として Z 主任が図5を示しながら説明した内容に当たる。

字数は 27 字で,制限の 30 字に収まる。採点講評がいう“二つの条件”は,携帯電話網を介さないことと,インターネットに接続されていることで,解答例の一文が両方を含んでいる。“携帯電話網を使っていない”だけでは,インターネットにつながっていない場合も含んでしまう。

採点講評(IPA)

設問2(1)は,正答率が低かった。製品E,携帯電話事業者のサービスのそれぞれでのデータ消去に必要な条件の違いから,製品Eでないとデータ消去が行えない二つの条件を導き出してほしかったが,一方の条件の記述にとどまっている解答や,条件を正確に記述できていない解答が多かった。解答においては,与えられた条件を理解し,論理的に考えて解答を記述してほしい。

設問2(2) 解答欄2つ

Z 主任が,“D 社の業務データ取扱事項違反の原因となる”と指摘したスマートフォンの仕様を,40 字以内で述べよ。また,Z 主任がアドバイスした,スマートフォン利用手続に追加する項目の内容を,20 字以内で述べよ。

〔仕様〕解答例

  • 一部の機種では,デフォルト設定の状態で自動同期機能が有効になっている。

〔内容〕解答例

  • 自動同期機能を無効にする。
解説

本文の根拠

表2 クラウドサービスの利用

一部の機種は,デフォルトの状態で自動同期機能が有効になっている。

冒頭

D 社の管理及び規程が及ばないサービス又はシステム,例えば,クラウドコンピューティングサービス(以下,クラウドサービスという)によって提供されるサービス,オンラインストレージサービス,ファイル共有システムなどを利用して保管することは禁止されている。

〔リモートアクセス環境の改善〕

スマートフォン利用手続にスマートフォンの設定について項目を追加すること

D 社は,業務データをクラウドサービスなど D 社の管理及び規程が及ばないものに保管することを禁止している。表2のとおり,スマートフォンには,電話帳・メール・文書ファイルなどを,利用者が意識しないままクラウドサービスのサーバへ定期的にコピーする自動同期機能がある。一部の機種ではこれが初期状態で有効なので,従業員が何もしなくても業務データが社外のクラウドサービスに送られ,業務データ取扱事項に違反してしまう。これが“仕様”である。解答例は“一部の機種では,デフォルト設定の状態で自動同期機能が有効になっている。”である(表2の文は“デフォルトの状態で”と書かれている)。

そこで,スマートフォン利用手続に追加する項目は,自動同期機能を無効にする設定を行うことである。その設定を製品 E の機能で監視する,というのが Z 主任のアドバイスである。解答例は“自動同期機能を無効にする。”である。

字数は,仕様が 35 字(制限 40 字),内容が 13 字(制限 20 字)である。“自動同期機能が”“デフォルトで有効”の二つを入れる。表2の機能そのものの説明にとどめず,違反の原因になる“初期状態で有効”の点を書く。

採点講評(IPA)

設問2(2)は,正答率が低かった。問題文中に記載されている条件から,原因となるスマートフォンの仕様を識別してほしかったが,原因となる仕様を,正しく識別できていない又は正確に記載できていない解答が多かった。要件や制約を抽出及び整理し,正確に記述する必要があることを再認識してほしい。

設問2(3)

案2において従業員が行っていた対策のうち,案4においては情報システム部が製品 E を利用して監視するとしているものを,表5中の対策 C1〜C17 の中から全て選び,記号で答えよ。

解答例

  • C5,C12,C13,C14,C16,C17
解説

本文の根拠

〔リモートアクセス環境の改善〕

デバイス保護機能の設定及びスマートフォンの設定の監視と強制

〔リモートアクセス環境の改善〕

改造されたスマートフォンの検知

図6 1

製品 F が導入・設定されていることを,製品 E によって監視する。

図6 2

古い OS 又はアプリケーションを利用しているスマートフォン,若しくは安全性が疑わしいアプリケーションを導入しているスマートフォンを,製品 E によって検知する。

案2で従業員が行う対策は,次の六つである。C5(デバイス保護機能の設定),C12(最新の OS の利用),C13(最新のアプリケーションの利用),C14(改造の禁止),C16(H 社ストア・T 社ストア・携帯電話事業者の Web サイト以外からの導入の禁止),C17(ウイルス対策ソフトの導入・設定)。それぞれ製品 E の機能で情報システム部が監視できる。C5 はデバイス保護機能の設定の監視と強制,C14 は改造されたスマートフォンの検知,C12・C13 は OS・アプリケーションの名称とバージョンの取得,C16 は導入しているアプリケーションの取得,C17 は図6の1の製品 F の導入・設定の監視である。

C10(のぞき見防止フィルタ)は従業員が画面に貼るもので,製品 E の機能では確認できない。C9 は Web メールサーバの設定で,C8 は情報システム部が VPN アカウントを停止する対策であり,従業員の行う対策ではない。C11 の転送の禁止は従業員への規程であり,製品 E が監視する機能は挙げられていない。

全て選ぶ設問なので,“C5,C12,C13,C14,C16,C17”のように並べる。1つでも欠けると誤りになる。

設問3 50字以内

〔同意書の検討〕について,X 部長が考えた,従業員から事前に得ておく同意とはどのような内容か。50 字以内で具体的に述べよ。

解答例

  • スマートフォンの盗難又は紛失の届出があったときに,従業員個人のデータも消去されること
解説

本文の根拠

図6 5

当該従業員は,スマートフォン及び外部記憶媒体に保管された全データを消去する。

〔同意書の検討〕

D 社として,消去されるデータを具体的に示した上で従業員から事前に同意を得ておく必要がある

案1 利用手続

個人所有のスマートフォン A 又は B を業務に利用することを選択した従業員は

スマートフォンは従業員の個人所有で,電話帳・メール・画像などの個人のデータも入っている。製品 E によるデータ消去は,図6の5のとおり盗難又は紛失の届出があったときに,スマートフォン及び外部記憶媒体に保管された“全データ”を消去する。業務データだけでなく個人のデータも消えるので,D 社として,消去されるデータを具体的に示した上で,従業員の事前の同意を得ておく必要がある。解答例は“スマートフォンの盗難又は紛失の届出があったときに,従業員個人のデータも消去されること”である。

同意の対象は,いつ(盗難又は紛失の届出があったとき)と,何が(従業員個人のデータも)消去されるかの二つである。

字数は 42 字で,制限の 50 字に収まる。“全データが消去される”とだけ書かず,“個人のデータも消える”点,及び“盗難・紛失の届出があったとき”という条件を入れる。

出典:平成25年度 秋期 情報処理安全確保支援士試験 午後Ⅱ 問2(表記を一部改変)