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情報処理安全確保支援士試験

平成25年度 春期 午後Ⅰ(旧試験)

平成25年度 春期に実施された情報処理安全確保支援士試験 午後Ⅰの全4問(記述式)の全設問に,運営者が独自に書いた解説を付けています。事例本文のどこが根拠になるかを示し,IPA の解答例・採点講評と並べています。

この試験について:情報処理安全確保支援士試験について

この年度を解いてみる

問1 マルウェア解析

マルウェア解析に関する次の記述を読んで,設問1~3に答えよ。

J 社は,新薬の研究開発を行っている従業員数 100 名の研究所であり,ある特殊な分野の研究開発で世界的に高い評価を受けている。J 社のネットワークは,研究開発事業で利用するネットワーク(以下,RD-LAN という),外部との情報交換に利用するネットワーク(以下,OA-LAN という)及び DMZ の三つで構成されている。J 社のネットワーク構成を図1に示す。

J 社のネットワーク構成図。インターネットは FW(ファイアウォール)に接続される。FW は OA-LAN と DMZ に接続されている。OA-LAN には PC(複数台)が接続されている。DMZ には公開 Web サーバ,プロキシサーバ,メールサーバ,DNS サーバが接続されている。RD-LAN には PC(複数台)と RD サーバが接続されているが,RD-LAN は FW を含め他のどのネットワークにも接続されていない。注記 OA-LAN と RD-LAN のネットワークアドレスは異なる。
図1 J 社のネットワーク構成

全ての PC,RD サーバ,DMZ の各サーバ及びネットワーク機器には固定の IP アドレスが設定されており,RD-LAN の PC と RD サーバを除いて,デフォルトゲートウェイが設定されている。また,全ての PC,RD サーバ及び DMZ の各サーバにはウイルス対策ソフトがインストールされており,OA-LAN の PC には,Web を閲覧する際に利用する Z ブラウザがインストールされている。現在,最新の Z ブラウザはバージョン 3 であるが,従業員の中には,操作しやすいという理由で,古いバージョン 2 の Z ブラウザを利用している者もいる。また,各サーバではサーバへのアクセスのログを取得している。FW では許可及び拒否する全ての通信のログを取得している。J 社の FW のフィルタリングルールを表1に示す。

FW のフィルタリングルールの表(項番,送信元,宛先,サービス,動作)。1:プロキシサーバ,インターネット,HTTP,HTTPS,許可。2:メールサーバ,インターネット,SMTP,許可。3:DNS サーバ,インターネット,DNS,許可。4:インターネット,公開 Web サーバ,HTTP,HTTPS,許可。5:インターネット,メールサーバ,SMTP,許可。6:インターネット,DNS サーバ,DNS,許可。7:PC,プロキシサーバ,代替 HTTP,許可。8:PC,メールサーバ,SMTP,POP3,許可。9:PC,DNS サーバ,DNS,許可。10:全て,全て,全て,拒否。注記1 J 社で利用する主要なサービスのポート番号は,次のとおりである。HTTP:80,HTTPS:443,代替 HTTP:8080,DNS:53,SMTP:25,POP3:110。注記2 項番が小さいものから順に,最初に一致したルールが適用される。注記3 項番 7~9 の送信元の PC には,RD-LAN 上の PC は含まない。
表1 FW のフィルタリングルール

〔過去のウイルス感染事例〕

J 社では数年前に,公開 Web サーバの情報が愉快犯と思われる攻撃者によって改ざんされるという事件があった。原因は,公開 Web サーバに利用していたミドルウェアが脆弱性のあるバージョンのままとなっていたことにあった。しかも,それだけでなく,公開 Web サーバのウイルス定義ファイルが古かったことから,ウイルスにも感染していた。この時には,J 社のセキュリティ管理者である Y 主任が,セキュリティベンダ X 社の S 氏に協力を仰ぎ,公開 Web サーバのミドルウェアのバージョンを更新するとともにウイルスを駆除した上で,念のため DMZ の全サーバと OA-LAN の全 PC について最新のウイルス定義ファイルでフルスキャンを行い,ウイルスに感染していないことを確認している。

〔マルウェアの検出〕

今年になって,マルウェアの攻撃による情報漏えい事件の発生が相次いで報道されていることから,S 氏は Y 主任に,マルウェアの感染の有無を確認する検査サービスを提案した。S 氏によると,検査サービスは,専門のアナリストが専用ツールで PC を調査し,疑わしい検体が発見された場合,解析を行うことで,ウイルス対策ソフトでは検出できないマルウェアを検出できるという。Y 主任は,RD-LAN は重要度の高い機密情報が保管されているが,インターネットとは接続されていないので,検査サービスを受けるまでもないと考えた。一方,OA-LAN はインターネットと接続されていることから,念のため OA-LAN の PC のうち 50 台について,検査サービスを受けることにした。検査の結果,5 種類のマルウェアが発見された。Y 主任はマルウェアの影響などを明らかにするために,S 氏にマルウェアの詳細な解析を依頼した。

〔マルウェアの解析結果〕

S 氏は,発見したマルウェア ML1~ML5 の検体を X 社の解析センタに持ち帰り,詳細に解析した。その解析結果の概要を表2に示す。

マルウェアの解析結果の概要の表(マルウェア名,特徴)。ML1:電子メールに添付された,ML1 が埋め込まれているファイルを PDF 閲覧ソフトで開くと,電子メールの本文の内容に関連する PDF ファイルを表示するとともに,PDF 閲覧ソフトの脆弱性を利用して OS の管理者権限を獲得し,ML2,ML3 を OS のシステムフォルダに配置する。ML2:利用者が Z ブラウザのバージョン 2 を利用している場合,Z ブラウザを起動するとその脆弱性を利用して,Z ブラウザのプロセスで動作する。Z ブラウザを終了すると動作を停止する。Z ブラウザがバージョン 3 の場合は,ML2 は動作しない。/Z ブラウザで設定されているプロキシサーバの IP アドレス,ポート番号,及びプロキシサーバでの認証の際に利用者が入力した認証情報を窃取し,OS のシステム情報格納領域に保持する。/攻撃者が用意しておいた数十の Web サーバ(以下,攻撃者のサーバという)に対して,プロキシサーバ経由で HTTP 通信を試みる。通信に成功すると,ML4 をダウンロードして OS のシステムフォルダに配置する。ML3:OS のシステムフォルダに配置されると,攻撃者のサーバに対して,HTTP 通信を試みる。通信に成功すると,ML4 をダウンロードして OS のシステムフォルダに配置する。(表は次ページに続く)
表2 マルウェアの解析結果の概要
マルウェアの解析結果の概要(続き)の表(マルウェア名,特徴)。ML4:OS のシステムフォルダに配置されると,攻撃者のサーバに,自身をダウンロードしたマルウェアと同じ方法で HTTP 通信を行い,OS の全てのコマンドを,攻撃者のサーバから HTTP 通信を介して遠隔操作可能な状態にする。/ML4 に感染した PC と同じネットワークセグメント(以下,セグメントという)内の他の PC,サーバ,ネットワーク機器の存在,空きポート,アプリケーションのバージョンなどの情報を収集し,結果を攻撃者のサーバに送信する。/様々なミドルウェアの脆弱性を利用した数百の攻撃用コードをもち,攻撃者の指示によって,ネットワーク上の他の PC,サーバ及びネットワーク機器を攻撃する。攻撃が成功すると,攻撃対象に ML4 自身を感染させる。それと同時に,ML5 を感染させることもできる。ML5:ML5 に感染した PC に USB メモリが接続されると,ML5 が自身を USB メモリに感染させる。/感染した USB メモリを,未感染の PC に接続したとき,ML5 が自身を感染させ,新たに感染した PC が接続されているセグメント内の PC,サーバ,ネットワーク機器の存在,空きポート,アプリケーションのバージョンなどの情報を収集し,保持する。/新たに感染した PC が接続されているセグメント内の PC,サーバなどに ML4 が存在していた場合は,保持している情報を ML4 経由で攻撃者のサーバに送信する。共通:ML1~ML5 はパック処理されている。パック処理とは,マルウェア本体をエンコードし,それをデコードするための展開コードを付加して一つのファイルにすることである。ファイル実行時に,展開コードがマルウェア本体をデコードし,実行する。/ML3~ML5 は,OS 起動時に自身を自動的に起動するように設定する。/ML2~ML5 は,OS のシステムフォルダに配置される際に,ファイルのタイムスタンプを特定のシステムファイルと同じものに書き換える。/ML2~ML5 は,感染した PC のパーソナルファイアウォール及び J 社が利用するウイルス対策ソフトのファイアウォール機能を無効にする。
表2 マルウェアの解析結果の概要(続き)

引き続き,S 氏は,OA-LAN の構成機器の情報を調査した。その結果,次の見解に達した。

〔マルウェア解析後の暫定対策〕

解析結果から,S 氏は直ちに対処が必要である旨を,Y 主任に報告した。Y 主任は S 氏の助言を受けて,ML2~ML4 と外部との通信を遮断する設定変更をプロキシサーバで行った。あわせて,②ML2 の活動を阻止するための対策も実施した。Y 主任は,過去のウイルス感染時の対策を参考に,DMZ の全サーバと,OA-LAN の PC のうち検査未実施の 50 台について,マルウェアの検査サービスを依頼したが,S 氏は,“今回はその他に,FW,RD-LAN の PC と RD サーバ及び a についても検査すべきである”と助言した。

J 社は S 氏の助言に従ってマルウェアの検査サービスを受けた。その結果,OA-LAN の PC にだけ ML1~ML5 の存在又は感染の痕跡が確認された。

次は,検査の結果に関する Y 主任と S 氏の会話である。

S 氏は更にマルウェアの解析を進め,マルウェアの駆除手順を J 社に提供した。それによって,J 社では OA-LAN の PC からマルウェアを駆除することができた。その後,Y 主任は S 氏の協力を得て,今回のマルウェア感染の根本原因を分析した。その分析結果を基に,PDF 閲覧ソフトのセキュリティパッチ適用,USB メモリへの書出し制限ソフトウェアの導入,従業員教育など,予防的な対策を実施した。

出題趣旨(IPA)

近年,日本でも被害が報告されている標的型サイバー攻撃に対しては,従来のウイルスや愉快犯によるサイバー攻撃と比べて,攻撃者の攻撃手法やその目的が異なることを念頭において対策することが重要である。本問では,具体的なマルウェア感染の事例をもとに,マルウェア解析の知識と,標的型サイバー攻撃を受けた際に適切に状況を把握する能力を問う。

採点講評(問全体・IPA)

問1では,マルウェア解析を題材に,マルウェアや標的型攻撃へのセキュリティ対策について出題した。全体として正答率は高かった。

設問と解答例

設問1(1)

ML4 をダウンロードしたマルウェア名を答えよ。

解答例

  • ML2
解説

本文の根拠

表2 ML2

攻撃者が用意しておいた数十の Web サーバ(以下,攻撃者のサーバという)に対して,プロキシサーバ経由で HTTP 通信を試みる。通信に成功すると,ML4 をダウンロードして OS のシステムフォルダに配置する。

表2 ML3

攻撃者のサーバに対して,HTTP 通信を試みる。通信に成功すると,ML4 をダウンロードして OS のシステムフォルダに配置する。

表1 注記3

項番 7~9 の送信元の PC には,RD-LAN 上の PC は含まない。

表2で ML4 をダウンロードする機能をもつのは ML2 と ML3 の二つである。両者の違いは通信経路で,ML2 は“プロキシサーバ経由で”HTTP 通信を試みるのに対し,ML3 は単に攻撃者のサーバへ HTTP 通信を試みるだけである。

表1の FW のルールでは,インターネットへ HTTP,HTTPS を許可するのは項番1のプロキシサーバだけで,PC から出ていく HTTP は項番7(宛先はプロキシサーバ,代替 HTTP)以外に許可が無く,項番10で全て拒否される。つまり PC から攻撃者のサーバへ直接行う ML3 の HTTP 通信は FW で遮断され,通信に成功してダウンロードできるのは,プロキシサーバを経由する ML2 だけである。

字数制限の無い設問で,答えはマルウェア名の“ML2”の3字。ML3 と書くと,FW が直接の通信を拒否することを見落としたことになる。

採点講評(IPA)

設問1は,J社のFWのフィルタリングルールと,ML2,ML3の特徴を理解すれば,論理的に解が得られる設問である。本文の内容を丁寧に読んだ上で,解答してほしい。

設問1(2) 解答欄2つ

攻撃者が ML3 の活動を隠蔽するためにログの改ざんを試みた機器はどれか。マルウェアの特徴と J 社のネットワーク環境を基に答えよ。また,本文中の下線①について,どのような内容のログか。25 字以内で具体的に述べよ。

〔機器〕解答例

  • FW

〔ログ〕解答例

  • PCから攻撃者のサーバへのHTTP通信のログ
解説

本文の根拠

〔過去のウイルス感染事例〕の前の段落

FW では許可及び拒否する全ての通信のログを取得している。

表2 ML3

OS のシステムフォルダに配置されると,攻撃者のサーバに対して,HTTP 通信を試みる。

表2 共通

ML3~ML5 は,OS 起動時に自身を自動的に起動するように設定する。

ML3 の活動を示すログは,設問1(1)のとおり,PC から攻撃者のサーバへの直接の HTTP 通信である。この通信は FW の項番10で拒否されるが,FW は“許可及び拒否する全ての通信のログ”を取得しているので,拒否された通信の記録として FW に残る。攻撃者は,この記録から ML3 の活動が分かることを恐れて,FW のログの改ざんを試みたと考えられる。

機器を絞るうえで,各サーバは“サーバへのアクセスのログ”しか取っておらず,PC 発の直接の通信の記録が残るのは両ネットワークの境にある FW であることが決め手になる。ログの内容は“PCから攻撃者のサーバへのHTTP通信のログ”で,通信元(PC),宛先(攻撃者のサーバ),サービス(HTTP)の三つを入れる。

ログの内容は25字以内に対し解答例が22字。“拒否されたログ”のように結果だけを書くのではなく,誰から誰への何の通信かを書く。

採点講評(IPA)

設問1は,J社のFWのフィルタリングルールと,ML2,ML3の特徴を理解すれば,論理的に解が得られる設問である。本文の内容を丁寧に読んだ上で,解答してほしい。

設問2(1) 解答欄1つ

本文中の a に入れる適切な字句を,本文中の用語を用いて 10 字以内で答えよ。

〔a〕解答例

  • USBメモリ
解説

本文の根拠

(1) RD-LAN

RD-LAN と他のネットワーク間のデータの受渡しは,J 社の情報セキュリティポリシに従って J 社所有の USB メモリを介して行われ,必要最小限にとどめられている。

表2 ML5

ML5 に感染した PC に USB メモリが接続されると,ML5 が自身を USB メモリに感染させる。

〔マルウェアの解析結果〕の見解

ML4 経由で J 社のネットワーク環境を知った攻撃者によって,ML5 がここ数日の間に送り込まれた。

S 氏が検査の対象に挙げたのは,検査未実施の機器のうち,感染の疑いが残るものである。FW,RD-LAN の PC と RD サーバ,の次に挙げるべきなのは,RD-LAN と他のネットワークの間でデータを運んでいる USB メモリである。ML5 は PC に接続された USB メモリに自身を感染させ,その USB メモリを別のセグメントの PC に接続すると感染を広げる。

RD-LAN は他のネットワークと物理的に隔離されているが,データの受渡しだけは J 社所有の USB メモリを介して行われている。つまり,隔離された RD-LAN に入り込む唯一の経路が USB メモリであり,ML5 に感染した USB メモリがその経路になりうるので,検査すべきである。

10字以内で“本文中の用語を用いて”とあるため,“J 社所有の USB メモリ”ではなく,用語どおりの“USBメモリ”(6字)で答える。

採点講評(IPA)

設問2は,全体的に正答率が高かった。マルウェア解析後の暫定対策についての設問であったが,定石とされている対策内容であり,解答できた受験者が多かったようだ。

設問2(2) 40字以内

ML2~ML4 と外部との通信を遮断するために,Y 主任が行った設定変更を,40 字以内で具体的に述べよ。

解答例

  • 攻撃者のサーバのURLを,プロキシサーバのブラックリストに登録する。
解説

本文の根拠

(3) DMZ

プロキシサーバは,ブラックリストに登録した URL への Web アクセスを遮断するフィルタリング機能をもっているが,J 社では何も登録していない。

表2 ML2

攻撃者が用意しておいた数十の Web サーバ(以下,攻撃者のサーバという)に対して,プロキシサーバ経由で HTTP 通信を試みる。

ML2~ML4 はいずれも,攻撃者のサーバと HTTP で通信する。表1の FW は PC からインターネットへの直接の HTTP を許可していないので,OA-LAN の PC からの通信はプロキシサーバを通る。したがって外部との通信を断つ設定変更は,プロキシサーバで行うことになる。

プロキシサーバには,ブラックリストに登録した URL への Web アクセスを遮断する機能があるが,J 社では何も登録していない。S 氏の解析で,攻撃者のサーバが数十ある中の通信先の URL が分かったので,その URL をブラックリストに登録すれば,ML2~ML4 の通信が遮断される。

40字以内に対し解答例が34字。“何を”(攻撃者のサーバの URL)と“どこに”(プロキシサーバのブラックリスト)の両方を入れる。“通信を遮断する”とだけ書くと,設定変更の具体的な内容にならない。

採点講評(IPA)

設問2は,全体的に正答率が高かった。マルウェア解析後の暫定対策についての設問であったが,定石とされている対策内容であり,解答できた受験者が多かったようだ。

設問2(3) 25字以内

本文中の下線②の対策とはどのようなものか。本文中の記載内容を基に 25 字以内で述べよ。

解答例

  • PCのZブラウザのバージョンを全て3にする。
解説

本文の根拠

表2 ML2

利用者が Z ブラウザのバージョン 2 を利用している場合,Z ブラウザを起動するとその脆弱性を利用して,Z ブラウザのプロセスで動作する。Z ブラウザを終了すると動作を停止する。Z ブラウザがバージョン 3 の場合は,ML2 は動作しない。

全ての PC,RD サーバ… の段落

従業員の中には,操作しやすいという理由で,古いバージョン 2 の Z ブラウザを利用している者もいる。

下線②は“ML2 の活動を阻止するための対策”である。表2によれば,ML2 が動作するのは Z ブラウザがバージョン 2 の場合だけで,バージョン 3 なら動作しない。J 社には操作しやすいという理由でバージョン 2 を使い続けている従業員がいる。

したがって,ML2 の活動を阻止するには,Z ブラウザのバージョン 2 を使えなくし,全ての PC の Z ブラウザをバージョン 3 にそろえる。ウイルス対策ソフトの更新や ML2 の削除は ML2 の“動作条件”を断つ策ではなく,設問の“本文中の記載内容を基に”という条件にも合わない。

25字以内に対し解答例が22字。“Z ブラウザのバージョンを全て 3 にする”の形で,対象(全て)と目標のバージョン(3)を入れる。

採点講評(IPA)

設問2は,全体的に正答率が高かった。マルウェア解析後の暫定対策についての設問であったが,定石とされている対策内容であり,解答できた受験者が多かったようだ。

設問3(1) 解答欄2つ

本文中の下線③の工夫を,マルウェアの機能の観点から二つ挙げ,それぞれ 20 字以内で具体的に述べよ。

〔①〕解答例

  • パック処理されていること

〔②〕解答例

  • タイムスタンプを変更していること
解説

本文の根拠

表2 共通

ML1~ML5 はパック処理されている。パック処理とは,マルウェア本体をエンコードし,それをデコードするための展開コードを付加して一つのファイルにすることである。

表2 共通

ML2~ML5 は,OS のシステムフォルダに配置される際に,ファイルのタイムスタンプを特定のシステムファイルと同じものに書き換える。

〔マルウェアの検出〕

ウイルス対策ソフトでは検出できないマルウェアを検出できるという。

下線③は“マルウェアを発見されにくくする工夫”で,設問は“マルウェアの機能の観点から”二つ挙げることを求める。表2の“共通”の欄に,発見を避ける機能が二つ書かれている。

一つはパック処理である。マルウェア本体をエンコードして展開コードを付けるので,中身が変わって見え,ウイルス定義ファイルとの照合で検出されにくい。もう一つはタイムスタンプの書換えで,OS のシステムフォルダに置いたファイルの更新日時を特定のシステムファイルと同じにして,新しく置かれたファイルだと目立たなくする。

字数は各20字以内で,解答例は12字と16字。“パック処理されていること”“タイムスタンプを変更していること”のように,機能そのものを書く。ML2~ML5 が PC のファイアウォール機能を無効にするのは通信を通すための機能で,マルウェアを見つかりにくくする工夫ではない。

採点講評(IPA)

設問3(1)は,正答率が低かった。マルウェアがもつ機能だけでなく,その機能の目的も考察した上で,解答してほしい。

設問3(2) 30字以内

本文中の下線④について,攻撃者が突破を試みた J 社のセキュリティ対策とは何か。30 字以内で具体的に述べよ。

解答例

  • RD-LANと他のネットワークとの物理的な隔離
解説

本文の根拠

(1) RD-LAN

機密保護の観点から,RD-LAN は,他のネットワークと物理的に隔離されている。

S 氏の発言

攻撃者は,ML1~ML4 によって得た情報を基に④J 社のネットワーク構成上のセキュリティ対策を知り,それを突破できるように ML5 を送り込んだのではないかと考えています。

表2 ML5

ML5 に感染した PC に USB メモリが接続されると,ML5 が自身を USB メモリに感染させる。

下線④は“J 社のネットワーク構成上のセキュリティ対策”である。ML4 は同じセグメント内の機器の情報を集めて攻撃者に送るが,その結果から分かるのは,最も機密度の高い新薬の研究報告書を置く RD サーバが,RD-LAN に物理的に隔離されていることである。インターネットから ML4 では届かないので,攻撃者は USB メモリで感染を広げる ML5 を送り込んだと説明できる。

突破を試みた対策が“ネットワーク構成上の”ものであり,30字以内で“具体的に”とあるので,“RD-LANと他のネットワークとの物理的な隔離”(23字)のように,どのネットワーク同士をどうしているかまで書く。“USB メモリの利用制限”は,構成上の対策ではなく運用上の対策である。

解答例は23字。“隔離”だけでは足りず,隔離の対象(RD-LAN と他のネットワーク)と“物理的”を入れる。

採点講評(IPA)

設問3(2),(3)は,正答率が高かった。本文中から最も機密度が高い情報が何であるかを見極め,それを守るためにJ社はどのようなネットワーク構成上のセキュリティ対策を実施しているかについて,Y主任とS氏との会話を通して出題したが,おおむね理解されているようであった。

設問3(3) 解答欄1つ

本文中の b に入れる,想定される J 社の被害を 15 字以内で答えよ。

〔b〕解答例

  • 新薬の研究報告書を窃取
解説

本文の根拠

(1) RD-LAN

RD サーバには,J 社において最も機密度が高い情報である新薬の研究報告書が,電子ファイルとして保管されている。

S 氏の発言

今回の攻撃者は目的を達成するために,時間を掛けてでも攻撃を継続するのではないかと考えられます。

S 氏の発言は,過去の同様の攻撃事例,リスク評価の結果を踏まえた情報資産の価値,ML5 が送り込まれたことを合わせて考えるものである。J 社で最も価値が高いのは,RD サーバの新薬の研究報告書で,ML5 は隔離された RD-LAN へ入り込む手段(USB メモリ)である。時間を掛けて攻撃を続ける攻撃者の目的は,この報告書を手に入れることだと考えられる。

空欄の後ろは“されることが想定されます”なので,受け身で終わる形に合わせて“新薬の研究報告書を窃取”(11字)と,名詞止めで答える。“情報が漏えい”では何の情報か分からず,“RD サーバが破壊”は,目的を達成するために時間を掛けるという話と合わない。

15字以内に対し解答例が11字。“新薬の研究報告書”という対象を落とさない。

採点講評(IPA)

設問3(2),(3)は,正答率が高かった。本文中から最も機密度が高い情報が何であるかを見極め,それを守るためにJ社はどのようなネットワーク構成上のセキュリティ対策を実施しているかについて,Y主任とS氏との会話を通して出題したが,おおむね理解されているようであった。

出典:平成25年度 春期 情報処理安全確保支援士試験 午後Ⅰ 問1(表記を一部改変)

問2 IP アドレス詐称対策

IP アドレス詐称対策に関する次の記述を読んで,設問1,2に答えよ。

A 社は,従業員数 4,000 名の化学メーカである。東京に本社,大阪に支社,国内の 3 か所に工場がある。A 社では,電子メール(以下,メールという)の利用などのために,インターネット接続システム(以下,X システムという)を導入している。X システムは本社に設置され,B 社のインターネット接続サービス(以下,B 社サービスという)を利用している。また,本社,支社及び工場の LAN は IP-VPN で接続されている。

X システムの運用は,責任者である情報システム部の D 部長の下で,E 主任と F さんが担当している。X システムの各サーバでは,サーバへのアクセス及びプログラムの動作状況のログを記録している。

A 社のドメイン名は,B 社の DNS-B サーバで管理している。DNS-B サーバは DNS コンテンツサーバであり,リゾルバ機能(インターネット上のサーバ名の名前解決を行う機能)及び DNS キャッシュ機能(名前解決結果を一時的に保持する機能)をもたない。

現在の A 社及び B 社サービスのネットワーク構成を図1に,X システムの主な機器と機能を表1に示す。

A 社及び B 社サービスのネットワーク構成図。B 社側:(a) インターネットは (b) B 社基幹ネットワークに接続され,(b) は FW-B を介して (c) B 社サーバネットワークに接続される。(c) は L2SW と DNS-B サーバで構成される。A 社側:(b) B 社基幹ネットワークは,接続点(α)を経由して,X システム内の FW-A のインタフェース IF-1 に接続される。FW-A は IF-4 で (d) DMZ1 に接続され,DMZ1 は L2SW に C-DNS サーバとプロキシサーバが接続された構成である。FW-A は IF-3 で (e) DMZ2 に接続され,DMZ2 は L2SW に外部メールサーバと Web サーバが接続された構成である。FW-A は IF-2 で (f) 内部ネットワークの L3SW に接続される。(f) 内部ネットワークは,L3SW に本社 LAN,IP-VPN(支社 LAN と工場 LAN に接続),L2SW(内部メールサーバが接続)が接続された構成である。X システムは (d) DMZ1,(e) DMZ2 及び FW-A を含み,(f) 内部ネットワークは X システムの外にある。C-DNS:キャッシュ DNS,FW:ファイアウォール,IF:FW-A のネットワークインタフェース,L2SW:レイヤ2スイッチ,L3SW:レイヤ3スイッチ。注記1 A 社の PC は全て本社 LAN,支社 LAN 又は工場 LAN に接続されている。注記2 PC の記載は省略している。
図1 A 社及び B 社サービスのネットワーク構成
X システムの主な機器と機能の表(機器名称,機能)。FW-A:ステートフルパケットフィルタリング型 FW であり,IP アドレス詐称対策機能及びパケットフィルタリング機能がある。IP アドレス詐称対策機能,パケットフィルタリング機能の順に処理する。また,通信の許可及び拒否のログを記録する機能がある。C-DNS サーバ:リゾルバ機能及び DNS キャッシュ機能がある。プロキシサーバ:プロキシ機能,Web コンテンツキャッシュ機能及びウイルススキャン機能がある。外部メールサーバ:インターネットとの間及び内部メールサーバとの間のメール転送機能,SPF(Sender Policy Framework)検証機能並びにウイルススキャン機能がある。Web サーバ:コンテンツ公開機能及びコンテンツ更新機能がある。
表1 X システムの主な機器と機能

〔攻撃の検出〕

ある週の月曜日,F さんが前週の FW-A のログを分析したところ,C-DNS サーバを宛先とする DNS パケットが約 10 万件も通過を拒否されており,その全てが名前解決応答パケット(以下,応答 PT という)であった。しかし,これらの拒否された応答 PT に対応する名前解決問合せパケット(以下,問合せ PT という)を C-DNS サーバから送信した記録は,FW-A のログになかった。報告を受けた E 主任は,次のことを F さんに説明した。

そこで,E 主任と F さんが,C-DNS サーバの設定を調べたところ,CP 攻撃を成功しにくくする設定がなされていることを確認した。さらに,再帰的な名前解決の問合せ PT の送信元を限定する設定が行われていることも確認した。

しかし,なおも拒否される応答 PT が多い状況が続いていることから,E 主任は,F さんに対し,図1中の接続点(α)にパケットモニタを接続した上で,FW-A 及び C-DNS サーバを調査するよう指示した。F さんが行った調査の結果を図2に示す。

F さんが行った調査の結果。(1) 送信元を詐称した問合せ PT:C-DNS サーバは次のような問合せ PT を 10 分ごとに 1 個受信していた。送信元が外部メールサーバであり,かつ,宛先が C-DNS サーバであり,かつ,FW-A が通過を許可した問合せ PT。内容は,国内の取引先の G 社が取得したドメイン名の TXT レコードの問合せであった。(2) C-DNS サーバに向けた応答 PT:(1)の問合せ PT が届いた直後の 1 秒間に,送信元が G 社の DNS サーバであり,かつ,宛先が C-DNS サーバである応答 PT が 100 個届き,FW-A が通過を拒否した。100 個の応答 PT の宛先ポート番号は,到着順に連番であった。応答内容は G 社のドメイン名の TXT レコードであった。TXT レコードには,SPF レコードが設定されていた。SPF レコードに設定されていた IP アドレスは,G 社に割り当てられたものではなかった。C-DNS サーバが(1)の問合せ PT の名前解決を行うための問合せ PT は,インターネット上の DNS サーバに送信されてはいなかった。(3) C-DNS サーバのキャッシュ:C-DNS サーバのキャッシュには,G 社のドメイン名の TXT レコードが保存されていた。TXT レコードには,SPF レコードが設定されており,G 社に割り当てられた IP アドレスのうち,G 社がメールを送信するサーバの IP アドレスが設定されていた。
図2 F さんが行った調査の結果

この結果から,E 主任は,図2の(2)は G 社のドメイン名の TXT レコードに対する CP 攻撃であると判断した。

そこで,E 主任と F さんは,FW-A の設定を更に調べることにした。まず,送信元,宛先及びサービスの組合せによってパケットの許可又は拒否の動作を指定するフィルタリングルールを確認し,誤りがないことを確認した。

続いて,表2に示す IP アドレス詐称対策ルールを確認したところ,①表2の項番1の送信元に誤りがあることに気が付き,直ちに設定を修正した。

IP アドレス詐称対策ルールの表(項番,FW-A の IF,送信元,動作)。1:IF-1,DMZ1,内部ネットワーク,拒否。2:IF-1,全て,許可。3:IF-2,内部ネットワーク,許可。4:IF-2,全て,拒否。5:IF-3,DMZ2,許可。6:IF-3,全て,拒否。7:IF-4,DMZ1,許可。8:IF-4,全て,拒否。注記1 パケットが受信された“FW-A の IF”,及びパケットの“送信元”の組合せで,パケットの通過を許可するか又は拒否するかの“動作”を指定する。注記2 項番が小さいものから順に,最初に一致したルールが適用される。
表2 IP アドレス詐称対策ルール

E 主任は,図2の(2)の攻撃は偶然に成功する可能性があることを F さんに説明した。E 主任は,②図2の(2)の攻撃に続いて行われる可能性が高い,TXT レコードを利用する機能への攻撃が発生していると考えた。そこで,X システムの各サーバのログを,過去 1 か月分にわたって調査するよう F さんに指示した。調査の結果,攻撃はあったものの,各サーバの設定が正しく行われていたので失敗に終わっていたことが確認された。

〔支社システムの検討と導入〕

A 社では,インターネット及び IP-VPN のトラフィックの増加に対処するために,支社に新たなインターネット接続システム(以下,支社システムという)の導入を計画していた。E 主任と F さんは,支社システムとして,支社に新たな FW を導入し,インターネット,新たな DMZ 及び支社 LAN を接続することにした。新たな DMZ には X システムのプロキシサーバと同じ機能の支社プロキシサーバを導入し,インターネットとの接続には,B 社サービスを利用することにした。

続いて,支社プロキシサーバでの名前解決に C-DNS サーバを利用し,支社プロキシサーバと C-DNS サーバとの間の通信を B 社サービス経由にする前提で,FW-A と C-DNS サーバの設定の見直しを検討した。検討の結果,送信元が支社プロキシサーバに詐称された問合せ PT を拒否する設定は不可能であり,FW-A の IP アドレス詐称対策機能が有効に機能しないことが分かった。そこで再検討した結果,③支社システムに機能を追加することで対応することにした。この対応策によって,支社プロキシサーバと C-DNS サーバ間の通信が不要になることも確認した。支社システムへの c の導入は,X システムも併せて支社システムの完成後に検討することとし,今回は見送ることとした。

E 主任と F さんは,検討結果を支社システム導入計画としてまとめ,D 部長に報告した。D 部長は,支社システム導入計画を経営陣に説明し,了承を得た。E 主任と F さんは,支社システム導入計画の遂行に着手した。

出題趣旨(IPA)

DNSの名前解決通信は,主にUDPを用いる。UDPは,TCPと比べると送信元IPアドレスの詐称の検知が難しく,キャッシュポイズニング攻撃の原因ともなっている。ファイアウォールの方式設計においてはIPアドレス詐称対策を考慮する必要がある。さらに,インターネットに公開されているサーバの名前解決の方式設計においてはキャッシュポイズニング対策を考慮する必要がある。本問では,送信元IPアドレスを詐称した攻撃とその対応を題材にして,ファイアウォール,DNSサーバ及びメールサーバに関する技術要素への理解,設計能力について問う。

採点講評(問全体・IPA)

問2では,DNSキャッシュポイズニング攻撃やSPF(Sender Policy Framework)を題材に,IPアドレス詐称対策について出題した。全体として正答率は低かった。

現在の電子メールシステムはDNSと密接に関係している。電子メールのセキュリティ対策と関連付けて,DNSのセキュリティ対策についても理解を深めてほしい。

設問と解答例

設問1(1) 解答欄3つ

本文中の a ~ c に入れる適切な字句を,a については英字 5 字以内,b については 6 字以内,c については英字 8 字以内で答えよ。

〔a〕解答例

  • UDP

〔b〕解答例

  • 3way

〔c〕解答例

  • DNSSEC
解説

本文の根拠

〔攻撃の検出〕の説明

DNS の名前解決通信は,主に a を用いる。a は,b ハンドシェイクを用いてコネクションを確立する TCP と比べて,送信元 IP アドレスの詐称の検知が困難である。

〔攻撃の検出〕の説明

CP 攻撃への根本的な対策は,公開鍵暗号によるディジタル署名の仕組みを応用した c という DNS セキュリティ拡張方式を導入することだが

a は,DNS の名前解決に主に使われ,TCP と対比されているトランスポートプロトコルなので UDP である。TCP は SYN,SYN+ACK,ACK の3回のやり取りでコネクションを確立する(RFC 9293 の三方向ハンドシェイク)ので,b は“3way”となる。UDP にはコネクションの確立が無く,送信元アドレスを偽ったパケットでも受け取られてしまい,詐称を検知しにくい。

c は,公開鍵暗号によるディジタル署名を DNS に応用した“DNS セキュリティ拡張方式”で,DNSSEC である。RFC 4033 は,DNSSEC が DNS データの出所の認証とデータの完全性の保護を与えると説明している。署名を検証すれば,偽の応答を信じてしまうキャッシュポイズニングを根本から防げる。ただし鍵の管理などが必要で,本文も“今までにない運用手順が必要になる”としている。

a は英字5字以内,b は6字以内,c は英字8字以内。解答例は UDP(3字),3way(4字),DNSSEC(6字)。b は“3 ウェイ”のようにカナ交じりにせず,英数字の“3way”とするのが解答例の表記である。

採点講評(IPA)

設問1(1)は,正答率が高かった。基本的な用語については受験者の理解度が高いことがうかがえる。

設問1(2) 30字以内

E 主任と F さんが確認した,C-DNS サーバにおいて CP 攻撃を成功しにくくする対策とは何か。“ポート番号”という字句を用いて,対策の内容を 30 字以内で述べよ。

解答例

  • 問合せPTの送信元ポート番号をランダムに変えること
解説

本文の根拠

〔攻撃の検出〕

C-DNS サーバの設定を調べたところ,CP 攻撃を成功しにくくする設定がなされていることを確認した。

図2 (2)

100 個の応答 PT の宛先ポート番号は,到着順に連番であった。

図2(2)の攻撃では,C-DNS サーバに向けて,宛先ポート番号が連番の応答 PT が1秒間に100個届いた。これは,C-DNS サーバが問合せ PT を送るときの送信元ポート番号を予想して,それを宛先ポート番号とする応答を手当たり次第に送り込む攻撃である。問合せの送信元ポート番号が固定,または連番のように予測できると,応答 PT の宛先ポート番号を合わせやすい。

そこで,キャッシュ DNS サーバの側では,問合せ PT の送信元ポート番号を毎回ランダムに変える。RFC 5452 は,リゾルバが外向きの問合せに予測できない送信元ポートを使うこと(9.2節)を求め,これによって偽の応答を当てる難しさが大幅に増すと説明している。

30字以内に対し解答例が25字。“ポート番号”という字句を使う指定なので,“送信元ポート番号を”と書き,“ランダムに変える”という対策の中身まで入れる。“ポートを限定する”“不要なポートを遮断する”は,講評が挙げる誤答の例である。

採点講評(IPA)

設問1(2)は,正答率が低かった。“送信元ポートを限定する”,“不要なポートを遮断する”などの誤った解答が多かった。根本的な対策であるDNSSECの導入が進んでいない状況下では,DNSキャッシュポイズニング対策として,DNSサーバからの問合せの送信元ポートを予測不能なものとすることが有効であり,そのためのパッチがDNSサーバベンダから提供されている。

設問1(3) 40字以内

C-DNS サーバにおいて,図2中の(1)の問合せ PT を拒否しない設定にしている理由を,40 字以内で述べよ。

解答例

  • 送信元が外部メールサーバの場合,再帰的な名前解決を許可する必要があるから
解説

本文の根拠

図2 (1)

送信元が外部メールサーバであり,かつ,宛先が C-DNS サーバであり,かつ,FW-A が通過を許可した問合せ PT。内容は,国内の取引先の G 社が取得したドメイン名の TXT レコードの問合せであった。

表1 外部メールサーバ

インターネットとの間及び内部メールサーバとの間のメール転送機能,SPF(Sender Policy Framework)検証機能並びにウイルススキャン機能がある。

〔攻撃の検出〕

再帰的な名前解決の問合せ PT の送信元を限定する設定が行われていることも確認した。

図2(1)の問合せ PT は,外部メールサーバから C-DNS サーバへ届いた G 社ドメインの TXT レコードの問合せである。外部メールサーバには SPF 検証機能がある。SPF は,送信元ドメインの TXT レコードに書かれた,メールを送ってよい IP アドレスの情報(RFC 7208 では TXT レコードで公開する)を引いて,受け取ったメールの送信元を確かめる仕組みである。

つまり外部メールサーバは,メールを受け取るたびに,送信元ドメインの TXT レコードを C-DNS サーバに問い合わせる。C-DNS サーバがこの問合せを拒否すると,SPF 検証ができなくなる。そのため,送信元を限定する設定を行いながらも,外部メールサーバからの再帰的な名前解決は許可する必要がある。

40字以内に対し解答例が36字。“送信元が外部メールサーバの場合”という条件と,“再帰的な名前解決を許可する必要がある”という理由の二つを入れる。

設問1(4)

本文中の下線①について,表2の項番1の送信元として設定すべき全てのネットワークを,図1中の(a)~(f)から選び,記号で答えよ。

解答例

  • (d),(e),(f)
解説

本文の根拠

表2 項番1

1:IF-1,DMZ1,内部ネットワーク,拒否。

〔攻撃の検出〕

続いて,表2に示す IP アドレス詐称対策ルールを確認したところ,①表2の項番1の送信元に誤りがあることに気が付き,直ちに設定を修正した。

表2は,FW-A の各インタフェースに届いたパケットの送信元が,そのインタフェースの先にあるはずのアドレスかを確かめるルールである。IF-1 は B 社基幹ネットワーク,つまりインターネットの側に向いているので,ここから入ってくるパケットの送信元が自社のネットワーク(DMZ1,DMZ2,内部ネットワーク)であれば詐称である。項番1の拒否は DMZ1 と内部ネットワークだけを挙げていて,DMZ2 が漏れている。

そのため,図2(1)のように外部メールサーバ(DMZ2)になりすました問合せ PT が,IF-1 から入ってきて項番2(全て許可)に当たり,通過してしまった。直すには,項番1の送信元に DMZ2 を加える。図1の記号では,DMZ1 が(d),DMZ2 が(e),内部ネットワークが(f)で,答えは(d),(e),(f)の全てになる。

字数の制限は無く,“全てのネットワーク”と問われているので,(e)を落とさない。(a)~(c)はインターネット側や B 社のネットワークで,自社側ではない。

設問1(5) 40字以内

本文中の下線②の攻撃の内容を,40 字以内で述べよ。

解答例

  • G社のドメイン名になりすましたメールを外部メールサーバに送信すること
解説

本文の根拠

図2 (2)

TXT レコードには,SPF レコードが設定されていた。SPF レコードに設定されていた IP アドレスは,G 社に割り当てられたものではなかった。

表1 外部メールサーバ

SPF(Sender Policy Framework)検証機能

〔攻撃の検出〕

②図2の(2)の攻撃に続いて行われる可能性が高い,TXT レコードを利用する機能への攻撃

図2(2)のとおり,攻撃者は G 社のドメイン名の TXT レコードを偽造し,G 社に割り当てられていない IP アドレスを SPF レコードに設定して,C-DNS サーバのキャッシュに入れようとした。この偽の TXT レコードがキャッシュに残ると,外部メールサーバの SPF 検証は,偽の SPF レコードに従って行われる。

そのため,攻撃者がその偽の IP アドレスのサーバから,G 社のドメイン名の差出人のメールを外部メールサーバに送ると,SPF 検証に合格して受信されてしまう。TXT レコードを利用する機能は SPF 検証機能であり,下線②の攻撃は,G 社になりすましたメールの送信である。

40字以内に対し解答例が34字。“G 社のドメイン名になりすましたメールを外部メールサーバに送信する”と,誰になりすまして何をどこへ送るかを書く。講評も,TXT レコードの偽装により不正な発信元からのメールを受け入れるおそれがあることに気づいてほしいとしている。

採点講評(IPA)

設問1(5)は,正答率が低かった。TXTレコードに関するキャッシュポイズニングが成功した場合には,SPF検証機能の仕組上,偽装されたSPFレコードに従って不正な発信元からメールを受信してしまうおそれがあることに気づいてほしかった。

設問2(1) 60字以内

送信元を支社プロキシサーバに詐称した問合せ PT に対し,FW-A の IP アドレス詐称対策機能が有効に機能しない理由を,60 字以内で述べよ。

解答例

  • IF-1経由で届く支社プロキシサーバからの正規の問合せPTと,詐称された問合せPTとを識別できないから
解説

本文の根拠

〔支社システムの検討と導入〕

支社プロキシサーバと C-DNS サーバとの間の通信を B 社サービス経由にする前提で,FW-A と C-DNS サーバの設定の見直しを検討した。検討の結果,送信元が支社プロキシサーバに詐称された問合せ PT を拒否する設定は不可能であり,FW-A の IP アドレス詐称対策機能が有効に機能しないことが分かった。

表2 項番2

2:IF-1,全て,許可。

支社プロキシサーバと C-DNS サーバの通信を B 社サービス経由にすると,支社プロキシサーバの正規の問合せ PT も,インターネットの側にある IF-1 から FW-A に届く。FW-A の IP アドレス詐称対策は,受信したインタフェースと送信元の組合せで判断するので,IF-1 から来て送信元が支社プロキシサーバのパケットを,正規のものとして許可せざるをえない。

ところが,攻撃者が送信元を支社プロキシサーバに詐称した問合せ PT も,同じ IF-1 から,同じ送信元アドレスで届く。FW-A は,この二つを区別するための手掛かりを持たないので,詐称された問合せ PT だけを拒否する設定は不可能で,詐称対策が機能しない。

60字以内に対し解答例が51字。“IF-1 経由で届く”正規の問合せ PT と詐称された問合せ PT の二つを並べて,識別できないことを書く。

設問2(2) 20字以内

本文中の下線③について,支社システムに追加する機能を,20 字以内で述べよ。

解答例

  • リゾルバ機能及びDNSキャッシュ機能
解説

本文の根拠

〔支社システムの検討と導入〕

この対応策によって,支社プロキシサーバと C-DNS サーバ間の通信が不要になることも確認した。

表1 C-DNS サーバ

リゾルバ機能及び DNS キャッシュ機能がある。

支社プロキシサーバが C-DNS サーバに問い合わせるのは,名前解決をしてもらうためである。この通信が不要になるのは,支社システムの内部に,C-DNS サーバと同じ名前解決の機能が加わるからである。表1で C-DNS サーバの機能は,リゾルバ機能(インターネット上のサーバ名の名前解決を行う機能)と DNS キャッシュ機能(名前解決結果を一時的に保持する機能)の二つである。

支社システムに,この二つの機能を追加すれば,支社プロキシサーバは支社システムの中で名前解決でき,B 社サービス経由で本社の C-DNS サーバへ問い合わせる必要が無くなり,詐称された問合せ PT の問題も生じない。

20字以内に対し解答例が18字。“リゾルバ機能”と“DNS キャッシュ機能”の両方を入れる。DNS-B サーバは,リゾルバ機能も DNS キャッシュ機能ももたないので,追加する機能の候補にならない。

出典:平成25年度 春期 情報処理安全確保支援士試験 午後Ⅰ 問2(表記を一部改変)

問3 リモートアクセス環境の情報セキュリティ対策

リモートアクセス環境の情報セキュリティ対策に関する次の記述を読んで,設問1~4に答えよ。

H 社は,従業員数 600 名の産業用機械製造・販売会社であり,本社と 8 か所の支店がある。H 社では,全従業員に 1 台ずつデスクトップ PC を貸与している。他拠点への出張が多い従業員と,外出が多い営業部員には,社外持出し用 PC も貸与している。社外持出し用 PC は,出張先で業務システムから業務データを取り出せるように,拠点の社内 LAN に接続して業務システムを使うことが許可されている。

また,営業部員にはリモートアクセス環境が提供されている。H 社には 20 の業務システムがあり,全てデータセンタ(以下,DC という)に設置されているが,現在リモートアクセス環境で利用できる業務システムは,営業支援システムだけである。

現在 H 社では,PC 管理の効率化,及び従業員の利便性向上を目的として,デスクトップ仮想化によるシンクライアント環境(以下,VDI という)の導入の準備をしており,社内で利用しているデスクトップ PC を VDI に置き換えることが,既に決定している。H 社の VDI の概要を図1に示す。

VDI の概要。(a) 仮想化ソフトウェアが動作するサーバ(以下,VDI サーバという)が DC に設置されており,その上で最大 50 台まで稼働する仮想化された PC(以下,V-PC という)に,利用者がクライアント端末から接続する。(b) 社内で利用しているデスクトップ PC は全て回収し,デスクトップ PC 型のシンクライアント端末(以下,DT という)を全従業員に貸与する。また,本社及び支店に,共用端末として数台の DT を設置し,他拠点から出張中の従業員が利用できるようにするとともに,出張時の PC 利用に関するルールを設ける。(この「本社及び支店に,…ルールを設ける。」に下線①が付いている)(c) DT から V-PC にキーボード及びマウスの入力が送信され,V-PC から DT に画面情報が送信される。(d) 管理者は,ウイルス対策ソフトがインストールされ,ウイルス定義ファイルの自動更新が有効にされたマスタイメージを作成する。(e) 利用者は,管理者が最新のマスタイメージから複製する V-PC を利用する。(f) V-PC を利用するには,DT から V-PC 接続ソフトを使って,VDI 接続サーバに接続する。VDI 接続サーバは利用者を認証した後で,DT と V-PC を接続する。(g) VDI 接続サーバでの利用者認証後,シングルサインオンによって,利用者は自動的に V-PC にログオンするとともに,追加の利用者認証なしで全ての業務システムを利用できる。(h) 利用者が V-PC をログオフすると,その V-PC は解放され,複製時の状態に初期化される。次回のログオン時には初期化された V-PC に接続される。(i) 利用者が V-PC をログオフせずに,V-PC 接続ソフトを終了するか,又は DT の電源を切ると,V-PC の状態は維持され,次回の接続時にはその V-PC に接続される。(以下,省略)
図1 VDI の概要

〔リモートアクセス環境改善の要望〕

営業部では以前から,リモートアクセス環境で利用できる業務システムが限られていることに対する不満が挙がっていた。VDI 導入の決定を受けて,営業部長は情報システム部の K 部長に対して,“VDI の導入に合わせてリモートアクセス環境も強化し,勤怠管理・経費精算を行う業務管理システムと,電子メール(以下,メールという)も社外から利用できるようにしてほしい”という要望を出した。

K 部長は,営業部の要望を受け入れて,情報システム部の N 主任に,リモートアクセス環境の改善を検討するように指示した。改善案には,リモートアクセス特有のセキュリティ上のリスクへの対策も含めるように指示した。

〔リモートアクセス環境改善の検討〕

N 主任は,改善案として,VPN を利用してリモートアクセスを行う案(以下,案 1 という)と,VDI を利用してリモートアクセスを行う案(以下,案 2 という)を検討した。それぞれの案の概要を図2及び図3に示す。

案1の概要。社外持出し用 PC に VPN 接続ソフトをインストールし,DC に設置した VPN 装置に接続する。VPN 装置での ID とパスワードによる利用者認証後,社外持出し用 PC から直接業務システムにアクセスする。社外持出し用 PC から VPN を利用して,営業支援システムのほか,業務管理システムとメールサーバにアクセスできる。VPN 接続後,業務システムごとの利用者認証に成功すると,業務システムを利用できる。社外持出し用 PC では,修正パッチの自動適用と,ウイルス対策ソフトのウイルス定義ファイルの自動更新を有効にする。
図2 案1の概要
案2の概要。社外持出し用 PC の代わりに,ノート型のシンクライアント端末(以下,NT という)を使用し,DC に設置したゲートウェイサーバ(以下,GW サーバという)に接続する。GW サーバでの ID とパスワードによる利用者認証後,シングルサインオンによって VDI 接続サーバの利用者認証が自動的に行われ,NT から V-PC に接続する。NT から,V-PC を使って間接的に業務システムを利用する。NT と GW サーバの間の通信は暗号化する。
図3 案2の概要

N 主任はさらに,案 1 と案 2 について,リモートアクセス特有のリスクに対するリスク評価を行い,対策案を検討した。リスク評価の結果を表 1 に,リスクへの対策案を表 2 に示す。

案1と案2それぞれのリスク評価の結果の表(リスク,リスク評価:案1,案2)。(ア) リモートアクセス通信経路での盗聴による情報漏えい:案1は,社外持出し用 PC と VPN 装置との間の通信が暗号化されているので,リスクは小さい。案2は,NT と GW サーバとの間の通信が暗号化されているので,リスクは小さい。(イ) なりすましによるリモートアクセス環境への不正接続:案1は,VPN 装置がインターネットに公開されるので,リスクが大きい。案2は,GW サーバがインターネットに公開されるので,リスクが大きい。(ウ) 社外持出し用 PC 又は NT の盗難・紛失による情報漏えい:案1は,[ a ] が社外持出し用 PC に保存される可能性があるので,リスクが大きい。案2は,V-PC 利用時は [ a ] が NT に残らないが,V-PC 以外の利用によって保存される可能性があるので,リスクが大きい。(エ) ウイルスの感染:案1は,社外持出し用 PC が長期間使用されていない場合,リスクが大きい。案2は,図1の(e)の運用が確実でない場合,リスクが大きい。
表1 案1と案2それぞれのリスク評価の結果
リスクへの対策案の表(リスク,リスクへの対策案:案1,案2)。(ア):案1は「-」,案2は「-」。(イ):案1は,VPN 装置での利用者認証を強化する。案2は,GW サーバでの利用者認証を強化する。(ウ):案1は,社外持出し用 PC で [ b ] の対策を行う。案2は,NT で案 1 と同様の対策を行う,又は,[ a ] の保存を制限できる機能をもつ NT を利用する。(エ):案1は,利用者が,社外持出し用 PC 起動時に未適用の修正パッチがないことを確認する。案2は,管理者が修正パッチの公開を確認した後で,直ちに実施すべき作業を定める。(この「直ちに実施すべき作業を定める。」に下線②が付いている)注記 リスク(ア)は,リスクが小さいので対策しない。
表2 リスクへの対策案

〔検討結果に対する指摘〕

N 主任はこれらの検討結果とシステム構成図を K 部長に提出した。K 部長は案 1 と案 2 とを比較して,次の 2 点を理由に案 2 を採用すべきであると N 主任に伝えた。

N 主任が作成した,案 2 のシステム構成図を図4に示す。

案2のシステム構成図。DC の内部に,DMZ(GW サーバが接続),VDI-LAN(VDI 接続サーバ,VDI サーバ複数台が接続),業務システム LAN(営業支援システム,業務管理システム,メールサーバ,ファイルサーバ,その他システム複数が接続)があり,FW が DMZ,VDI-LAN,業務システム LAN をつなぐ。FW は R(ルータ)を介してインターネットに接続され,インターネットは携帯電話網を経由して複数の NT に接続される。DC の FW 側の別の R は IP-VPN に接続され,IP-VPN は本社及び複数の支店に接続される。本社及び各支店は,R,FW,オフィス LAN(DT 複数台が接続)の順に構成される。R:ルータ,FW:ファイアウォール。
図4 案2のシステム構成図

また,K 部長は N 主任に,案 2 のリスクへの対策案は,次の点で不十分であると指摘した。

〔指摘への対応〕

N 主任は,指摘(1)への対応として,様々な利用者認証の手法を調査した結果,GW サーバの利用者認証に,ワンタイムパスワードの導入を提案することにした。次に,指摘(2)への対応に先立って NT の製品選定を行うために,市場シェアの高い V 社製の NT の仕様を確認した。V 社製の NT の仕様の抜粋を図5に示す。

V 社製の NT の仕様(抜粋)。(ⅰ) H 社が現在の PC で使用しているものと同じ OS が稼働し,V-PC 接続ソフトがインストールされている。(ⅱ) ファイルシステムをもっており,データの保存ができるが,書込み制限機能を有効にすることによって,NT の電源を切ったときに,NT は初期状態に戻る。(ⅲ) 管理者が設定することによって,修正パッチの適用及びファイルの配信を自動で行うことができる。利用者が NT をオフィス LAN に接続すると,自動的に書込み制限機能が解除され,修正パッチの適用及びファイルの配信が行われる。管理者による設定は,修正パッチの適用及びファイルの配信ごとに行う必要がある。(ⅳ) 管理者が設定することによって,利用者によるアプリケーションのインストールを禁止できる。
図5 V 社製の NT の仕様(抜粋)

図5の仕様を調べた N 主任は,V 社製の NT を採用候補とした。その上で,指摘(2)への対応を検討した。

仕様(ⅱ)の機能が,リスク(ウ)への対策として効果があると考えた N 主任は,この機能を有効にするとともに,NT の利用終了時に必ず NT の電源を切ることをルール化することにした。

リスク(エ)については,NT がウイルスに感染するリスクに対する考慮が漏れていたので,このリスクに対して次の四つの対策を考えた。

このうち,対策(B)については,リスク(ウ)への対策として仕様(ⅱ)の機能を利用することを前提とした場合,高い頻度で行われるウイルス定義ファイルの更新のたびに,④管理者の作業と利用者の操作が発生してしまうので,現実的には難しいと考えた。そこで,対策(A),対策(C)及び対策(D)をリスク(エ)への対策とすることにした。

最後に N 主任は,指摘(3)への対応として,⑤図4中の各 FW の設定を変更し,オフィス LAN からアクセスできるネットワークを VDI-LAN に限定することにした。

N 主任は,以上の検討結果をまとめ,K 部長に報告した。

〔改善案の承認〕

報告を受けた K 部長は,N 主任の案は,十分なセキュリティを確保し,かつリモートアクセス環境に対する営業部の要望を満たしていると判断し,採用を決定した。その後 H 社は,VDI 導入と合わせてリモートアクセス環境の強化を行うことを決定した。

出題趣旨(IPA)

仮想化技術の進歩によって,デスクトップ仮想化を導入し,リモートアクセス環境を実現する企業が増えている。本問では,リモートアクセス環境特有のセキュリティリスクとその対策に関する基本的な理解力を問う。また,デスクトップ仮想化の特徴とリスクを理解し,最適なリモートアクセス環境を検討する能力を問う。

採点講評(問全体・IPA)

問3では,デスクトップ仮想化を題材に,リモートアクセス環境の情報セキュリティ対策について出題した。全体として正答率は低かった。

デスクトップ仮想化は,デスクトップ環境のセキュリティに効果がある技術であるが,リモートアクセス環境においては,仮想化されたPCとそれに接続する端末の,両方のセキュリティを考慮しなければならないことを,是非理解してほしい。

設問と解答例

設問1 40字以内

図1中の下線①によって得られるセキュリティ上の効果を,40 字以内で具体的に述べよ。

解答例

  • 社外持出し用PCの紛失や盗難による情報漏えいリスクを低減する効果
解説

本文の根拠

図1 (b)

本社及び支店に,共用端末として数台の DT を設置し,他拠点から出張中の従業員が利用できるようにするとともに,出張時の PC 利用に関するルールを設ける。

冒頭

他拠点への出張が多い従業員と,外出が多い営業部員には,社外持出し用 PC も貸与している。

表1 (ウ)

社外持出し用 PC 又は NT の盗難・紛失による情報漏えい

現状は,他拠点への出張が多い従業員に社外持出し用 PC を貸与し,出張先の社内 LAN に接続して使わせている。下線①は,各拠点に共用の DT を置いて,出張中の従業員がそれを使えるようにする対策である。

出張者が出張先の共用 DT で V-PC を使えるなら,社外持出し用 PC を持ち歩く必要が無くなる。持ち歩く PC が減れば,紛失や盗難で PC ごと情報が漏れるリスクも小さくなる。図1(b)は共用端末の設置とルール作りまでが対策で,社外持出し用 PC に当たる端末を持ち出す前提を取り除いている点が効果の根拠である。

40字以内に対し解答例が32字。“紛失や盗難”と“情報漏えいリスクを低減する”の二つの要素を入れる。“利便性が向上する”のようにセキュリティ以外の効果を書かない。

採点講評(IPA)

設問1は,正答率が高く,デスクトップ仮想化によって得られる基本的なセキュリティリスクの低減効果に対する理解は進んでいるようだ。

設問2(1) 解答欄1つ

表1中及び表2中の a に入れる適切な字句を 10 字以内で答えよ。

〔a〕解答例

  • 業務データ
解説

本文の根拠

表1 (ウ) 案2

V-PC 利用時は a が NT に残らないが,V-PC 以外の利用によって保存される可能性があるので,リスクが大きい。

冒頭

出張先で業務システムから業務データを取り出せるように

表1(ウ)は,社外持出し用 PC や NT の盗難・紛失による情報漏えいのリスクである。案1では社外持出し用 PC から業務システムに直接アクセスするので,PC に“何か”が保存される可能性がある。案2では V-PC を使う間は“何か”が NT に残らない。社外持出し用 PC が許可されている目的は,出張先で業務システムから業務データを取り出すことなので,その“何か”は業務データである。

NT は V-PC に画面を映す端末なので,V-PC の中にある業務データは NT 側には残らない。ただし,V-PC 以外の用途(NT のファイルシステムへの保存)では残りうる,というのが本文の指摘である。

10字以内に対し解答例は“業務データ”の5字。表2の案2にも同じ a が入り,“業務データの保存を制限できる機能をもつ NT”という文に合うことで確かめられる。

設問2(2) 解答欄1つ

表2中の b に入れる適切な字句を 15 字以内で答えよ。

〔b〕解答例

  • ハードディスク暗号化
解説

本文の根拠

表2 (ウ) 案1

社外持出し用 PC で b の対策を行う。

表1 (ウ) 案1

a が社外持出し用 PC に保存される可能性があるので,リスクが大きい。

案1では,業務データが社外持出し用 PC に保存されうる(表1(ウ))ので,PC を盗まれたり紛失したりしても,保存された業務データを読まれないようにする対策が要る。表2の案2は“NT で案1と同様の対策を行う”と書いており,PC やノート端末の中身を保護する,PC 本体に対する対策である。

盗まれた PC のディスクを取り出されても,暗号化されていれば中身は読めない。そのため,b には“ハードディスク暗号化”が入る。ウイルス対策や VPN の認証強化は,別のリスク(エ)や(イ)に対する対策であり,(ウ)には当たらない。

15字以内に対し解答例が10字。対策の名前を答えればよく,“HDD 暗号化”のような略記でなく,解答例の“ハードディスク暗号化”に合わせておくと間違いがない。

設問2(3) 解答欄3つ

表2中の下線②について,管理者が実施すべき作業を三つ,それぞれ 20 字以内で述べよ。

〔①〕解答例

  • マスタイメージを再作成する。

〔②〕解答例

  • V-PCの複製を行う。

〔③〕解答例

  • 利用者にログオンし直すように周知する。
解説

本文の根拠

表2 (エ) 案2

管理者が修正パッチの公開を確認した後で,直ちに実施すべき作業を定める。

図1 (e)

利用者は,管理者が最新のマスタイメージから複製する V-PC を利用する。

図1 (h)

利用者が V-PC をログオフすると,その V-PC は解放され,複製時の状態に初期化される。次回のログオン時には初期化された V-PC に接続される。

図1 (i)

利用者が V-PC をログオフせずに,V-PC 接続ソフトを終了するか,又は DT の電源を切ると,V-PC の状態は維持され,次回の接続時にはその V-PC に接続される。

表1(エ)の案2のリスクは,“図1の(e)の運用が確実でない場合”,つまり,管理者が最新のマスタイメージから V-PC を複製する運用が行われず,古い V-PC が使われる場合である。修正パッチが公開されたら,その修正パッチを適用した状態を V-PC に反映させる作業が必要になる。

作業は三つ。まずマスタイメージに修正パッチを適用して再作成し,そのマスタイメージから V-PC を複製する。V-PC は,ログオフすると複製時の状態に初期化される(図1(h))が,ログオフしないで接続を終えた V-PC は状態が維持される(図1(i))ので,古いままの V-PC が残らないよう,利用者に“ログオンし直す”ことを周知する作業が要る。

各20字以内で,解答例は14字,11字,19字。“管理者が実施すべき作業”と問われているが,三つめだけ利用者への周知(管理者が行う作業)で,周知の中身を“ログオンし直す”と書く。順不同。

設問3 35字以内

本文中の下線③について,K 部長が指摘した理由を,35 字以内で述べよ。

解答例

  • なりすましに成功すると,全ての業務システムを利用できるから
解説

本文の根拠

図3

GW サーバでの ID とパスワードによる利用者認証後,シングルサインオンによって VDI 接続サーバの利用者認証が自動的に行われ,NT から V-PC に接続する。

図1 (g)

VDI 接続サーバでの利用者認証後,シングルサインオンによって,利用者は自動的に V-PC にログオンするとともに,追加の利用者認証なしで全ての業務システムを利用できる。

図2

VPN 接続後,業務システムごとの利用者認証に成功すると,業務システムを利用できる。

リスク(イ)のなりすましによる不正接続は,案1も案2もインターネットに公開される装置(VPN 装置,GW サーバ)の認証が破られる場合である。案1では VPN 接続できても,業務システムごとの利用者認証があるので,それぞれの業務システムの認証も破らないと使えない。

案2では,GW サーバでの認証に成功すると,シングルサインオンで VDI 接続サーバの認証,V-PC へのログオンへと自動的に進み,V-PC では追加の利用者認証なしで全ての業務システムを利用できる(図1(g))。なりすましに成功した攻撃者は,一回の認証突破で全ての業務システムを使える。これが影響範囲が大きい理由である。

35字以内に対し解答例が29字。講評は“ゲートウェイサーバへの攻撃に言及する解答が散見された”と述べているので,GW サーバへの攻撃の話ではなく,“なりすましに成功すると,全ての業務システムを利用できる”という成功後の影響範囲を書く。

採点講評(IPA)

設問3は,リモートアクセス環境が不正接続された場合の,影響範囲が二つの案で違う理由を問う問題であったが,ゲートウェイサーバへの攻撃に言及する解答が散見された。図表をよく読んで二つの案の違いを理解した上で解答することを心がけてほしい。

設問4(1) 解答欄2つ

本文中の下線④について,ウイルス定義ファイルの更新のたびに発生する管理者の作業と利用者の操作を,それぞれ 25 字以内で述べよ。

〔管理者〕解答例

  • ウイルス定義ファイルの自動配信を設定する。

〔利用者〕解答例

  • NTをオフィスLANに接続する。
解説

本文の根拠

図5 (ⅲ)

管理者が設定することによって,修正パッチの適用及びファイルの配信を自動で行うことができる。利用者が NT をオフィス LAN に接続すると,自動的に書込み制限機能が解除され,修正パッチの適用及びファイルの配信が行われる。管理者による設定は,修正パッチの適用及びファイルの配信ごとに行う必要がある。

図5 (ⅱ)

書込み制限機能を有効にすることによって,NT の電源を切ったときに,NT は初期状態に戻る。

〔指摘への対応〕

高い頻度で行われるウイルス定義ファイルの更新のたびに,④管理者の作業と利用者の操作が発生してしまうので,現実的には難しいと考えた。

リスク(ウ)への対策として,書込み制限機能(図5(ⅱ))を有効にすると,NT の電源を切るたびに初期状態に戻り,NT にインストールしたウイルス対策ソフトのウイルス定義ファイルも消えてしまう。そこで,NT を最新の状態にするには,図5(ⅲ)のファイル配信の仕組みを使う。

(ⅲ)によれば,管理者が配信を設定しておき,利用者が NT をオフィス LAN に接続すると,書込み制限が自動的に解除されて配信が行われる。そして管理者の設定は“ファイルの配信ごとに”必要である。したがって,更新のたびに,管理者はウイルス定義ファイルの自動配信を設定し,利用者は NT をオフィス LAN に接続する。

各25字以内で,解答例は21字と16字。管理者の側は“ウイルス定義ファイルの自動配信を設定する”と,対象のファイルと設定の内容を,利用者の側は“NT をオフィス LAN に接続する”という操作を書く。

採点講評(IPA)

設問4(1)は,仮想化されたPCへ接続する端末側のセキュリティ対策について問う問題であったが,仮想化されたPCのセキュリティ対策と混同している解答が目立ち,正答率は低かった。

設問4(2) 解答欄2つ

本文中の下線⑤について,N 主任が考えたセキュリティリスク低減の効果を,30 字以内で具体的に述べよ。また,そのような効果がある理由を 30 字以内で述べよ。

〔効果〕解答例

  • 業務データを端末に保存して社外へ持ち出すことを防ぐ効果

〔理由〕解答例

  • V-PCを経由しないと業務システムに接続できないから
解説

本文の根拠

〔指摘への対応〕

⑤図4中の各 FW の設定を変更し,オフィス LAN からアクセスできるネットワークを VDI-LAN に限定することにした。

図1 (a)

その上で最大 50 台まで稼働する仮想化された PC(以下,V-PC という)に,利用者がクライアント端末から接続する。

表1 (ウ) 案2

V-PC 利用時は a が NT に残らないが

下線⑤は,オフィス LAN の DT からアクセスできるネットワークを VDI-LAN に限る設定である。VDI-LAN には VDI 接続サーバと VDI サーバがあり,業務システム LAN にある業務システムへは,V-PC(VDI サーバ上の仮想 PC)だけがアクセスする形になる。

DT や NT のオフィス LAN 上の端末は,V-PC を経由しなければ業務システムに接続できない。業務システムの業務データは V-PC の中だけで扱われ,端末へ直接ダウンロードしたり,端末に保存して社外へ持ち出したりすることができなくなる。それが“業務データを端末に保存して社外へ持ち出すことを防ぐ効果”であり,その理由は“V-PCを経由しないと業務システムに接続できないから”である。

効果も理由も30字以内で,解答例は27字と26字。効果と理由を別々に書く設問なので,“V-PC を経由する”という手段は理由の側に入れ,効果の側には“端末への保存と持出しを防ぐ”と書く。

出典:平成25年度 春期 情報処理安全確保支援士試験 午後Ⅰ 問3(表記を一部改変)

問4 情報漏えい対策

情報漏えい対策に関する次の記述を読んで,設問1~4に答えよ。

L 社は,従業員数 200 名のソフトウェアパッケージ開発会社である。L 社では,自社で開発したソフトウェアパッケージを,顧客ごとの要件に合わせてカスタマイズする業務を行っている。商談の早い段階から,開発部門,営業部門など各部門の関係するメンバ(以下,プロジェクトメンバという)でプロジェクトを編成し,プロジェクトマネージャの下で業務を行っている。

〔L 社の情報システムの構成〕

L 社の情報システムの構成を図1に示す。

L 社の情報システムの構成図。インターネットは R(ルータ)を介して FW に接続される。FW は DMZ と社内 LAN の二つに接続される。DMZ には Web サーバ,メールサーバ,VPN 装置,DNS サーバ,プロキシサーバが接続されている。社内 LAN にはファイルサーバと PC(複数台)が接続されている。R:ルータ,FW:ファイアウォール。
図1 L 社の情報システムの構成

社内 LAN 上の PC からのインターネットの利用は,DMZ 上のプロキシサーバ経由での Web へのアクセスと,DMZ 上のメールサーバ経由での電子メール(以下,メールという)の送受信の二つだけが許可されている。社内業務の多くは,社内 LAN 上のファイルサーバでファイルを共有して行われている。

〔機密情報の管理〕

L 社内で扱う情報は,企業戦略上極めて重要で,かつ,ごく一部の関係者だけに開示される“厳秘”情報,関係者だけに開示される“秘”情報(以下,“厳秘”情報と“秘”情報を合わせて,機密情報という),通常の業務で使用する社内情報及び公知の情報に分類される。

L 社では,①不正競争防止法に定められた営業秘密の 3 要件を文書管理規程に明示して,これを踏まえた分類と管理を従業員に求めている。また,機密情報にアクセスできる者を制限するとともに,客観的認識可能性に配慮して,アクセスした情報が機密情報であるということを認識できるように管理することを求めている。

電子媒体の機密情報は,アクセス権を付与して管理している。紙媒体の機密情報は,表紙に“厳秘”又は“秘”の秘密区分を明記し,鍵が掛かるキャビネットで管理するという運用ルールを定めている。

〔情報システムのセキュリティ対策〕

L 社の情報システムでは,社内情報の保護のために図2に示す技術的セキュリティ対策が実施されている。人的セキュリティ対策としては,特に機密情報の管理に関して,入社時及び定期的な教育で周知徹底している。また,入社時に,セキュリティポリシ遵守の誓約書を提出させている。

L 社の情報システムの技術的セキュリティ対策。1. 不正アクセス対策(省略)。2. アクセス制御:(1) VPN 装置などの利用者 ID の管理(省略),(2) ファイルサーバのアクセス権管理(省略)。3. マルウェア対策(省略)。4. ログ管理(省略)。5. メールセキュリティ:(1) 送受信メールのログ記録(省略),(2) 送受信メールのマルウェア検査(省略),(3) 送信メールの情報漏えい対策と誤送信対策(省略)。6. Web フィルタリング:(1) プロキシサーバ上でのフィルタリング。インターネット上の Web メール,Web ストレージサービス,SNS などの Web サイトへの情報の書込みを全て遮断。(以下,省略)
図2 L 社の情報システムの技術的セキュリティ対策

〔アクセス制御とログ管理〕

図2の 2.(1)及び 2.(2)は,情報システム部の社内情報基盤の運用担当者(以下,運用担当者という)が行う。機密情報を含むプロジェクトの全ての情報は,一つの専用フォルダで管理する。専用フォルダの使用開始・終了及びアクセス権の付与・解除は,プロジェクトマネージャが運用担当者に申請する。運用担当者は,プロジェクト開始時に専用フォルダを作成し,申請されたプロジェクトメンバにアクセス権を付与する。プロジェクトメンバは,専用フォルダ内にサブフォルダを作成することができる。

プロジェクト終了時は,運用担当者が専用フォルダ内のファイルのバックアップを保管し,専用フォルダを削除する。また,従業員の退職時の運用ルールを図3に示す。従業員の退職時を含め,専用フォルダ内のファイルへのアクセスが不要になったときは,退職時の運用ルールなどに従って利用者 ID,アクセス権の管理を行う。

退職時の運用ルール。1. 退職する従業員は,所定の退職届用紙に記入・署名・押印した後,所属部門長が確認・押印して人事部に提出する。(人事規程から転載)2. 所属部門長は,人事部から退職届受理の通知を受けると,退職する従業員のプロジェクト参画状況を確認した上で,該当する各プロジェクトマネージャに通知する。3. 各プロジェクトマネージャは,速やかに“利用者 ID 停止・アクセス権解除申請書”を作成・押印し,運用担当者に送付する。4. 運用担当者は,“利用者 ID 停止・アクセス権解除申請書”に従って,退職日終業時刻以降に,利用者 ID を停止し,アクセス権を解除する。
図3 退職時の運用ルール

ファイルサーバの各フォルダへのアクセスログは,情報システム部の P 君が週 1 回分析している。例えば,短時間に大量のデータにアクセスするような不審なアクセスが見つかった場合には,上司の Q 主任,又は必要に応じて情報セキュリティ責任者である R 部長に報告し,指示を仰いでいる。

〔社外作業におけるセキュリティ対策〕

専用フォルダ内の情報は,顧客先でも必要になるので,社外持出し用 PC で社外からもアクセスできるようにしている。また,社外持出し用 PC でインターネットにアクセスして情報を収集できるようにしている。

社外からファイルサーバにアクセスする場合は,社外持出し用 PC を携帯電話網経由で L 社の VPN 装置に接続する。VPN 装置は利用者 ID とパスワードで認証を行い,社内 LAN への接続に対してリバースプロキシサーバとして動作する。

従業員が専用フォルダ内の情報をファイルサーバから社外持出し用 PC にダウンロードして使用する場合の情報漏えい対策としては,USB メモリなどの外部記録媒体への書込みを禁止し,無線 LAN 機能を停止している。さらに,PC の管理権限を与えていない。また,社外持出し用 PC には,ウイルス対策ソフトを導入している。

〔インシデントの発生〕

ある日 P 君は,あるプロジェクトの専用フォルダが,その 4 日前の夜間に,外部から大量にアクセスされていたことに気付き,Q 主任に連絡した。Q 主任が確認したところ,1 週間前に退職した元従業員の利用者 ID が用いられていたことが分かった。

その利用者 ID はまだ有効であったので,Q 主任は,即座にその利用者 ID を停止することで VPN 接続ができないようにした上,②証拠を保存するために必要な措置を取り,調査を行った。当該プロジェクトのプロジェクトマネージャは 1 か月間の海外出張中で,利用者 ID の停止申請処理をしていなかった。

〔社内情報の保護対策〕

今回のインシデントの調査としてアクセスログを分析したが,機密情報への不正なアクセスは発見されなかった。しかし,事態を重く見た経営陣は,以前からセキュリティ上の懸念があった社外持出し用 PC も含め,機密情報保護の観点で,情報セキュリティ対策を見直し,速やかに改善するよう R 部長に指示し,Q 主任が対策をまとめることになった。Q 主任の検討結果の抜粋を図4に示す。

Q 主任の検討結果(抜粋)。1. 退職者の利用者 ID の停止及びアクセス権の解除漏れ対策:退職者などの人事情報を情報システムと連動させることで,確実に利用者 ID の停止とアクセス権の解除は可能になるが,情報システムの改修に時間が掛かるので,当面は運用改善による次の緊急対策を行うこととする。対策:[ a ] からの連絡を受け,運用担当者が利用者 ID の停止とアクセス権の解除を,[ b ] 後,速やかに行う。2. インターネットアクセスの情報漏えい対策:社内からのインターネットアクセスと比較して,社外での社外持出し用 PC からのインターネットアクセスはセキュリティ上のリスクが大きいので,社内からのインターネットアクセスと同様の制限を課すために,次の対策を追加する。対策:社外での社外持出し用 PC からのインターネットへのアクセスは,[ c ] 。
図4 Q 主任の検討結果(抜粋)

Q 主任の検討結果をレビューした R 部長は,検討結果の対策を速やかに実施するよう指示した。さらに,R 部長は,これまでの L 社の電子媒体の機密情報に対する管理は,客観的認識可能性の点から不十分であると考え,Q 主任に,③運用上のルールを策定し,全従業員に周知徹底するよう指示した。

出題趣旨(IPA)

機密情報保護対策の立案においては,対象となる情報を明確に識別した上で適切な対応を具体化していくことが求められる。本問では,不正競争防止法の営業秘密の漏えいに関する知識,及び情報漏えいのリスクを識別し漏えい防止策を立案する能力を問う。

採点講評(問全体・IPA)

問4では,不正競争防止法を題材に,機密情報の保護管理を行う上で情報セキュリティ対策をどのように進める必要があるかという視点から出題した。全体として正答率は低かった。

設問と解答例

設問1 解答欄3つ

本文中の下線①の営業秘密の 3 要件を,それぞれ 15 字以内で答えよ。

〔要件①〕解答例

  • 秘密として管理されていること

〔要件②〕解答例

  • 有用な情報であること

〔要件③〕解答例

  • 公然と知られていないこと

〔備考〕要件①〜③は順不同

解説

本文の根拠

〔機密情報の管理〕

L 社では,①不正競争防止法に定められた営業秘密の 3 要件を文書管理規程に明示して,これを踏まえた分類と管理を従業員に求めている。

〔機密情報の管理〕

機密情報にアクセスできる者を制限するとともに,客観的認識可能性に配慮して,アクセスした情報が機密情報であるということを認識できるように管理することを求めている。

不正競争防止法 2条6項は,営業秘密を“秘密として管理されている生産方法,販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって,公然と知られていないもの”と定めている。ここから,3要件は,秘密として管理されていること(秘密管理性),事業活動に有用な情報であること(有用性),公然と知られていないこと(非公知性)の三つになる。

本文の“アクセスできる者を制限する”“客観的認識可能性に配慮して”は,このうち秘密管理性を満たすための管理である。講評は,2要件以上を正答できた受験者が少なく,営業秘密の要件は企業が守るべき情報を明確にするために必要な知識であると述べている。

各15字以内で,解答例は14字,10字,12字。順不同。“有用な情報であること”は,条文の“事業活動に有用な技術上又は営業上の情報”を縮めた形である。

採点講評(IPA)

設問1は営業秘密の3要件について出題した。正答率は低く,2要件以上を正答できた受験者は少なかった。営業秘密の要件は企業が守るべき情報を明確化するために必要となる知識であり,理解しておいてほしい。

設問2 15字以内

本文中の下線②で利用する手法や技術のことを何というか。適切な用語を 15 字以内で答えよ。

解答例

  • ディジタルフォレンジックス
解説

本文の根拠

〔インシデントの発生〕

②証拠を保存するために必要な措置を取り,調査を行った

〔インシデントの発生〕

1 週間前に退職した元従業員の利用者 ID が用いられていたことが分かった。

Q 主任は,退職者の利用者 ID を停止して不正な VPN 接続を断ったあと,“証拠を保存するために必要な措置を取り,調査を行った”。ログなどの電子的な証拠を,改変されない形で保全し,分析して,何が起きたかを明らかにする手法や技術を,ディジタルフォレンジックスという。

設問は,下線②で利用する“手法や技術”の名前を問う。アクセスログの保全と分析,不正アクセスの経路の調査という本文の行為が,まさにこれに当たる。“インシデント対応”や“ログ分析”のような広い言い方では,証拠を保全するという下線②の要点が表れない。

15字以内に対し解答例は13字。“ディジタル”の表記(“デジタル”ではない)と,“フォレンジックス”の“ッ”と“ク”に注意して書く。

設問3(1) 解答欄2つ

1.の対策について,a,b に入れる適切な字句を,それぞれ答えよ。

〔a〕解答例

  • 人事部

〔b〕解答例

  • 退職日終業時刻
解説

本文の根拠

図3

所属部門長は,人事部から退職届受理の通知を受けると,退職する従業員のプロジェクト参画状況を確認した上で,該当する各プロジェクトマネージャに通知する。

図3

運用担当者は,“利用者 ID 停止・アクセス権解除申請書”に従って,退職日終業時刻以降に,利用者 ID を停止し,アクセス権を解除する。

〔インシデントの発生〕

当該プロジェクトのプロジェクトマネージャは 1 か月間の海外出張中で,利用者 ID の停止申請処理をしていなかった。

図3の手順では,退職の情報は,人事部→所属部門長→プロジェクトマネージャ→運用担当者と順に伝わり,プロジェクトマネージャが申請書を作らないと運用担当者は動けない。今回のインシデントは,プロジェクトマネージャが海外出張中で,申請処理がされなかったために,退職者の利用者 ID が有効なまま残ったことが原因である。

緊急対策は,この途中の経路を省き,退職届を受理した人事部から運用担当者へ直接連絡させるものである。a は人事部となる。そして,利用者 ID の停止とアクセス権の解除の時刻は,図3の4.にあるとおり,“退職日終業時刻以降”である。b は退職日終業時刻で,その時刻になった“後,速やかに”行う。

字数制限は無い。a は“人事部”(3字),b は“退職日終業時刻”(7字)。b の“退職日”だけでは,当日の業務が終わる前に ID を止めてしまう扱いになり,図3の4.の“終業時刻以降”が抜ける。

設問3(2) 解答欄2つ

2.の対策で想定しているセキュリティ上のリスクを,40 字以内で述べよ。また,c に入れる具体的な対策を,20 字以内で述べよ。

〔リスク〕解答例

  • インターネットを利用して機密情報を社外持出し用PCの外部に送信できる。

〔c〕解答例

  • VPN装置経由だけを許可する
解説

本文の根拠

図2 6.(1)

インターネット上の Web メール,Web ストレージサービス,SNS などの Web サイトへの情報の書込みを全て遮断

〔社外作業におけるセキュリティ対策〕

また,社外持出し用 PC でインターネットにアクセスして情報を収集できるようにしている。

図4 2.

社内からのインターネットアクセスと比較して,社外での社外持出し用 PC からのインターネットアクセスはセキュリティ上のリスクが大きいので,社内からのインターネットアクセスと同様の制限を課すために,次の対策を追加する。

〔社外作業におけるセキュリティ対策〕

社外からファイルサーバにアクセスする場合は,社外持出し用 PC を携帯電話網経由で L 社の VPN 装置に接続する。

社内の PC は,インターネットの利用がプロキシサーバ経由に限られ,プロキシサーバが,Web メールや Web ストレージ,SNS への情報の書込みを全て遮断している(図2 6.(1))。ところが社外持出し用 PC は,社外で携帯電話網から直接インターネットにアクセスでき,このプロキシサーバを通らないので,同じ遮断が効かない。

そのため,インターネット上の Web メールなどを利用して,専用フォルダから持ち出した機密情報を社外持出し用 PC の外部に送信できる,というリスクがある(解答例は“インターネットを利用して機密情報を社外持出し用 PC の外部に送信できる”)。c の対策は,社内と同じ制限を社外でも課すために,社外からのインターネットアクセスを L 社の VPN 装置経由だけにして,社内のプロキシサーバとフィルタリングを通す,というものである。

リスクは40字以内に対し解答例が35字,c は20字以内に対し14字。講評は,不正アクセス,盗聴やウイルス感染のようなインシデントそのものを書いた解答が目立つとしており,リスクとインシデントを区別して,“機密情報が社外へ送信できてしまう”という起こりうる事態として書く。

採点講評(IPA)

設問3(2)は,不正アクセス,盗聴やウイルス感染のような,リスクではなくセキュリティインシデントそのものを解答している例もあり不十分な解答が多かった。リスクとセキュリティインシデントを明確に区別して答えられるようにしてほしい。

設問4 40字以内

本文中の下線③の運用上のルールの内容を,40 字以内で述べよ。

解答例

  • ファイルの中身に紙媒体と同様に,“厳秘”,“秘”を明示する。
解説

本文の根拠

〔機密情報の管理〕

紙媒体の機密情報は,表紙に“厳秘”又は“秘”の秘密区分を明記し,鍵が掛かるキャビネットで管理するという運用ルールを定めている。

〔社内情報の保護対策〕

これまでの L 社の電子媒体の機密情報に対する管理は,客観的認識可能性の点から不十分であると考え

客観的認識可能性とは,その情報が機密情報であると,アクセスした者が客観的に認識できることである。L 社では,紙媒体の機密情報は表紙に“厳秘”又は“秘”と書くので,見ればすぐ機密情報と分かる。一方,電子媒体はアクセス権を付与して管理しているだけで,ファイルを開いても機密情報かどうかが分からず,客観的認識可能性が不十分である。

そこで,電子媒体にも紙媒体と同様に,ファイルの中身に“厳秘”“秘”を明示するというルールを策定して周知する。解答例は,紙媒体の“表紙に明記する”に当たる場所を,電子媒体では“ファイルの中身”としている。

40字以内に対し解答例が30字。“紙媒体と同様に”“ファイルの中身に”“厳秘,秘を明示する”の三つを入れる。講評は,電子媒体の機密情報の管理は基本的なことなので知っておいてほしいと述べている。

採点講評(IPA)

設問4は,電子媒体の機密情報に対する管理策について問うたが,正答率が低かった。電子媒体の機密情報に対する管理は基本的なことなので,知っておいてほしい。

出典:平成25年度 春期 情報処理安全確保支援士試験 午後Ⅰ 問4(表記を一部改変)