E システムは,E サーバ,待機サーバ,データベースサーバ(以下,DB サーバという)などから成る。E サーバは,E サーバ1と E サーバ2から成る冗長構成であり,ロードバランサ(以下,LB という)によって負荷分散を行っている。待機サーバは,E サーバ1及び E サーバ2がともに停止した際に,E システムの利用者に停止を告知するためのものである。Q 社の社外向け情報システムのネットワーク構成を図1に示す。
図1 社外向け情報システムのネットワーク構成
E サーバでは,HTTP サーバ,Web アプリケーションサーバ(以下,WAS という)及び Web アプリケーションソフトウェア(以下,Web アプリ E という)が稼働している。Web アプリ E は,オープンソースソフトウェアの Web アプリケーションフレームワーク(以下,WF という)を使用して開発された。Web アプリ E と WF は,WAS と同じ権限で動作する。また,HTTP サーバにはオープンソースソフトウェアの WAF が付属しており,HTTP サーバの一部として動作する。WAF にはルールを設定することができるが,現在は何も設定していない。Web アプリ E は,商品情報,購入者情報,購入履歴情報などが格納された DB サーバにアクセスする。E サーバのソフトウェア構成を表1に示す。
表1 E サーバのソフトウェア構成
F システムは,F サーバ1台から成る。F サーバは HTTP サーバを搭載しており,静的な HTML コンテンツを公開している。F サーバには,WF,WAF を導入していない。Q 社では,社外向け情報システムの開発検証用に図1中の E システム,F システムと同一構成のシステムをそれぞれ別に用意している。
WAF のルールの記述形式を図2に,WAF の動作を図3に示す。
図2 WAF のルールの記述形式図3 WAF の動作
〔脆弱性の確認〕
ある日,システム開発担当の S 主任に別の部署の社員から WF の特定バージョン(以下,バージョン Z という)の脆弱性(以下,脆弱性 X という)が公表されたという連絡があった。S 主任が,Q 社での WF のバージョン Z の使用の有無を調査したところ,E サーバの WF が該当していた。早速,脆弱性 X への対応を S 主任と部下の T さんとで行うことになった。
T さんが確認したところ,次のことが分かった。
脆弱性 X は,HTTP リクエストが適切に処理されないバグを突いて,ClassLoader を不正に操作できるというものである。
S 主任は脆弱性 X の確認結果を経営陣に報告し,E サーバ1及び E サーバ2を停止させるとともに,LB の設定を変えて待機サーバに切り替えた。次は,その後の S 主任と T さんの会話である。
S 主任:E サーバに対して,攻撃者が脆弱性 X をどのように悪用できるのか具体的に説明してくれるかな。
T さん:表2の攻撃コードの例を使って説明します。攻撃者は攻撃コードを表2の項番の順に E サーバに送ることで,任意のコマンド“XXXX”を実行できます。表2の攻撃コードの送信後,WAS のアクセスログ(以下,WAS ログという)のファイルが a に作成されます。今回の脆弱性情報によると,GET メソッドに限らず POST メソッド,Multipart/form-data の POST メソッド,Cookie による攻撃の可能性もあります。さらに,攻撃者が WAS ログを細工する可能性もあります。
S 主任:それでは,攻撃の有無を確認するには,WAS ログだけでなく,社外向け情報システムの全サーバと FW のログも調査する必要があるね。
表2 攻撃コードの例
S 主任と T さんは念のため,Q 社の社外向け情報システムの全サーバと FW のログを調査したが,不審な内容は見つからなかった。
〔脆弱性への対策〕
S 主任と T さんは,脆弱性 X への対策として,修正モジュールによる方法と WAF による方法の二つを比較検討した。Q 社では,ビジネス上の理由から,E システムを5日以内に再稼働させる必要がある。しかし,修正モジュール適用後の Web アプリ E の動作検証に 10 日間を要することが分かった。一方,WAF による対策は,脆弱性 X を悪用した攻撃を防ぐ効果があり,動作検証を含めて2日間で実施可能と分かった。そこで,WAF による対策について,更に検討することにした。次は,WAF のルールについての S 主任と T さんの会話である。
S 主任:WAF では,どのようにルールを記述するのかな。
T さん:表3のように記述します。表3の[パターン]列には,正規表現で示された文字列を指定します。当初,①“^class¥..*”という[パターン]がセキュリティ専門家によって公表されましたが,これでは遮断されない攻撃が見つかりました。その後,表3に示す正しい[パターン]が別のセキュリティ専門家によって公表されました。
表3 WAF のルール例
S 主任:では,表3どおりに記述することにしよう。他に注意することはあるかな。
T さん:攻撃ではない HTTP リクエストを遮断してしまう h に注意する必要があります。例えば,表3のルールでは,“class.abc”を含む HTTP リクエストが遮断されてしまいます。さらに,WAF による対策に加えて,攻撃時のリスク軽減対策として,②現在の WAS の動作権限設定を見直します。
S 主任は,修正モジュールが提供されている場合は,一般的には修正モジュール適用による対策が望ましいが,本ケースでは WAF による対策を選択すべきと判断し,経営陣に説明して了承を得た。開発検証用のシステムで③動作検証を実施し,問題ないことを確認後,本番環境のシステムで設定を行い,E システムを再稼働させた。
本文の“販売チャネルの大部分”“常時稼働”と“投資家”“財務情報・会社情報”がそれぞれの根拠である。F システムは静的な HTML コンテンツを公開しているだけで,公開情報なので機密性は問題になりにくい。講評は,3要素の意味を誤解している解答が散見されたとしている。“止まっては困る”が可用性,“正しくなければ困る”が完全性,“漏れては困る”が機密性と結び付けて覚えるとよい。
要素は5字以内で,解答例は“可用性”(3字)と“完全性”(3字)。理由は 25 字以内で,解答例は E システムが“販売チャネルの大部分を担い,常時稼働が必要なため”(24字),F システムが“投資家に正確な財務情報,会社情報を提供するため”(23字)。E は“常時稼働”,F は“正確な”という語を入れて,要素との結び付きを示す。
脆弱性 X を突かれると,攻撃コードは WAS の動作権限で実行される。表1によると WAS は管理者権限で動作しているので,攻撃が成功すれば E サーバ上で何でもできてしまう。WAS を業務に必要な最小限の権限で動作させれば,WAF をすり抜ける攻撃があっても,攻撃者ができることはその権限の範囲に限られる。これが下線②の“攻撃時のリスク軽減対策”である。
Web アプリ E と WF も WAS と同じ権限で動作する(表1 備考)ので,WAS の権限を下げればまとめて被害を小さくできる。最小権限の原則と呼ばれる考え方で,攻撃そのものを防ぐのではなく,侵入されたときの影響を抑える対策である。
WAF にルールを追加したときに確かめるべきことは二つある。一つは,追加したルールで脆弱性 X を突く攻撃を実際に防げること(表2のような攻撃コードが遮断されること)。もう一つは,E システムを利用するための正常な通信が遮断されずに許可されること(設問3(3)のフォールスポジティブが起きないこと)である。
E システムは Q 社の販売チャネルの大部分を担うので,攻撃を防げても正常な注文まで止めてしまえば再稼働の意味が無い。講評は,正答率は高かったが,WAF ではなく修正モジュール適用に関する検証内容を解答した例も散見されたとしている。設問は“WAF に関して”検証すべきことを問うており,Web アプリ E の動作検証(10日間を要する方)を書くのは誤りである。
Y 社は,従業員数 1,000 名の食品製造販売会社であり,一般消費者に食品を通信販売している。Y 社では,顧客情報管理システム(以下,Y システムという)を利用し,顧客情報を管理している。Y システムの保守作業は,開発元であるソフトウェア開発会社の S 社に委託している。保守作業のために,Y 社は S 社に対して,特権 ID の一部(以下,委託用特権 ID という)について使用を許可している。S 社に使用を許可した委託用特権 ID には,OS のシステム管理権限をもつ ID,DBMS の管理権限をもつ ID,及び DBMS 上のデータに対する操作権限をもつ ID(以下,それぞれ,システム管理 ID,DBMS 管理 ID,DBMS 操作 ID という)の3種類がある。
Y システムは,4台の業務サーバ,1台のデータベースサーバ(以下,DB サーバという)及び Y 社と S 社の PC から構成されており,業務サーバでは Y システムのサービスを提供するためのアプリケーションソフトウェア(以下,業務アプリという)が稼働している。各業務アプリは,DBMS 操作 ID を用いて,DB サーバから顧客情報を取得して Y 社の従業員にサービスを提供している。Y システムのサーバは,Y 社のグループ会社が運営するデータセンタ(以下,YDC という)に設置している。Y システムの構成を図1に示す。
図1 Y システムの構成
S 社に委託している保守作業は,機能追加などに際しての業務アプリの更新,Y システムに障害が発生した場合の原因調査,Y システムの設定変更などである。保守作業は,次の手順で依頼している。
1. Y 社の管理者が作業依頼書を作成し,S 社へ送付する。
2. S 社では,作業依頼書を受け取ると,S 社の保守チーム責任者(以下,保守責任者という)が,保守チームメンバから作業担当者(以下,作業者という)を選任する。
4. 作業計画書が承認されて作業期間になると,Y システム保守用 LAN からサーバ LAN への接続が可能となるよう,YDC に常駐している Y 社のグループ会社の作業員(以下,YDC 作業員という)が,FW1 と接続しているネットワークケーブル(以下,ケーブル A という)を FW3 に結線し,S 社に通知する。ケーブル A は,保守作業時以外は結線されていない。
5. 作業者は,共用の ID を用いて S 社 PC にログインした後に,委託用特権 ID とパスワードを用いて,S 社 PC から作業対象サーバにアクセスし,作業する。システム管理 ID は,作業対象サーバごとに異なっている。
6. 作業終了後,保守責任者が,作業の完了を Y 社の管理者に連絡し,作業報告書を提出する。
7. 作業完了の連絡を受けて,Y 社の管理者は,ケーブル A を FW3 から取り外すよう YDC 作業員に依頼し,作業報告書によって作業内容を確認する。
システム管理 ID と DBMS 管理 ID のパスワードは Y 社が半年ごとに変更し,S 社に通知している。S 社 PC と FW1 は,S 社の資産である。Y システム保守用 LAN からサーバ LAN へのアクセスは,FW3 で保守作業に必要となるプロトコルだけに限定しているが,送信元 IP アドレスは限定していない。
〔調査の実施と対策方針の策定〕
Y 社と同業の C 社で,C 社の保守作業委託先の従業員が個人情報を不正に持ち出して名簿業者に売却するという情報漏えい事件が起きた。持出しに特権 ID が不正に使用されたが,それを検知できなかったという C 社の委託先管理の不備が連日報道された。Y 社の経営幹部は,C 社の事件をきっかけに,自社においても同様の問題が起きる可能性がないか早急に調査をするよう,情報システム部長に指示した。表1に示す調査結果にあるように,Y システムにおいても委託用特権 ID を用いた保守作業に問題があることが判明し,情報システム部の L 主任がリーダとなって対策を検討することになった。
表1 調査結果(概要)
〔要件と実現方式の検討〕
L 主任は部下の N 君に次の要件を示した上で,対策を実現する方式の検討を指示した。
要件1:委託用特権 ID の使用を作業者だけに限定すること
要件2:委託用特権 ID を使用した者を特定可能にすること
要件3:作業対象サーバだけにアクセス可能とすること
要件4:許可された作業内容と実際に実施された作業内容を突き合わせ,不正な作業を検知可能にすること
N 君は,要件を満たすためには,委託用特権 ID のパスワードの S 社への通知の停止,個人ごとに付与され特権をもたない ID(以下,個人 ID という)の作業者への付与,及び特権 ID を管理するソフトウェアパッケージの導入から成る対策案を考えた。そこで,ソフトウェアパッケージとして製品 P 及び製品 Q を候補に選び,次の案を検討した。
案1:製品 P を利用する。製品 P は,管理用サーバにインストールするプログラム(以下,プログラム H という)と,PC にインストールするプログラム(以下,プログラム J という)で構成される。管理用サーバはサーバ LAN 上に設置する。作業者は,プログラム J に個人 ID でログインし,プログラム J から作業対象サーバにアクセスし,操作する。作業対象サーバへアクセスする際に使用する委託用特権 ID とパスワードは,プログラム H からプログラム J に転送され,ログインに際して自動入力される。
案2:製品 Q を利用する。製品 Q は,管理用サーバにインストールするプログラム(以下,プログラム K という)だけで構成される。管理用サーバはサーバ LAN 上に設置する。作業者は,S 社 PC から個人 ID でプログラム K にログインした後に,プログラム K から作業対象サーバへ自動ログインによってアクセスし,操作する。
作業完了の連絡を受けて,Y 社の管理者は,ケーブル A を FW3 から取り外すよう YDC 作業員に依頼し,作業報告書によって作業内容を確認する。
表2 作業計画の入力と特権 ID の使用申請
保守責任者が,作業者の個人 ID,作業者氏名,作業期間,作業対象サーバ及び作業内容を入力し,委託用特権 ID の使用を申請する。
表2の a は,委託用特権 ID と個人 ID の登録,使用申請の確認と使用許可,作業完了報告の確認と使用解除,作業内容のレポートの確認を行う者である。申請するのは S 社の保守責任者なので,それを確認して許可し,結果をチェックするのは委託元の Y 社の側でなければならない。現行の手順でも,作業を依頼し,作業報告書で作業内容を確認しているのは Y 社の管理者である。したがって a は Y 社の管理者である。
申請する者と許可・確認する者を分けるのは,特権 ID の管理の基本である。S 社の保守責任者や作業者が自分で許可や確認をすると,表1 項番3 のモニタリングの不備が解消しない。講評は,この設問の正答率は高かったとしている。
本文中の下線①について,DB サーバへアクセスした者を特定することができない委託用特権 ID を 10 字以内で答えよ。また,特定することができない理由を 35 字以内で述べよ。
〔委託用特権ID〕解答例
DBMS操作ID
〔理由〕解答例
業務アプリがDBサーバにアクセスするIDと同じIDであるから
解説
本文の根拠
冒頭
各業務アプリは,DBMS 操作 ID を用いて,DB サーバから顧客情報を取得して Y 社の従業員にサービスを提供している。
冒頭
DBMS 上のデータに対する操作権限をもつ ID(以下,それぞれ,システム管理 ID,DBMS 管理 ID,DBMS 操作 ID という)
指摘2(下線①)
①使用される委託用特権 ID によっては,DB サーバへアクセスした者を DB サーバ上のアクセスログから特定することができない。
委託用特権 ID のうち DBMS 操作 ID は,4台の業務サーバの業務アプリが DB サーバにアクセスするときにも使っている ID である。作業者が DBMS 操作 ID で DB サーバにアクセスしても,DB サーバ上のアクセスログには業務アプリのアクセスと同じ ID で記録されるので,そのアクセスが業務アプリによるものか作業者によるものかを区別できない。
システム管理 ID は作業対象サーバごとに異なり,DBMS 管理 ID も業務アプリは使わないので,製品 Q で個人 ID と結び付ければ使用者をたどれる。DBMS 操作 ID だけが業務アプリと共用になっている点が指摘2の中身である。講評は,この設問の正答率は低く,特権 ID の利用状況の違いによって,利用者の特定ができない場合があることを理解してほしいとしている。
委託用特権 ID は 10 字以内,理由は 35 字以内。解答例は“DBMS操作ID”(8字)と“業務アプリがDBサーバにアクセスするIDと同じIDであるから”(30字)。“共用されているから”だけでは表1 項番1 と同じになるので,“業務アプリと同じ ID”であることを書く。
案2では,作業者は S 社 PC から管理用サーバ上のプログラム K にログインし,作業対象サーバへはプログラム K が自動ログインでアクセスする。作業者の通信が FW3 を通るのは“S 社 PC から管理用サーバへ”の部分だけになる。そこで FW3 で S 社 PC(b)からは管理用サーバ(c)へのアクセスだけを許可すれば,作業者は作業対象サーバに直接アクセスできず,プログラム K を経由するしかなくなる。プログラム K は使用が許可された作業対象サーバにしか自動ログインしないので,アクセス先を作業対象サーバに限定できる。
これで表1 項番2 の“作業計画書に記載された作業対象サーバ以外のサーバにもアクセスできてしまう”が解消される。FW3 は今は送信元 IP アドレスを限定していないので,送信元も宛先も機器単位で絞ることになる。
字数制限は無く,機器名で答える。解答例は b が“S社PC”(4字),c が“管理用サーバ”(6字)。c に“作業対象サーバ”を書くと,作業者が直接アクセスできてプログラム K の操作履歴を経由しなくなるので誤りである。
プログラム K の機能によって,操作履歴と委託用特権 ID の使用申請で入力された作業内容を突き合わせ,その結果をレポートに出力する。
作業者が作業対象サーバ上のアクセスログを書き換えても,プログラム K は委託用特権 ID による操作履歴を管理用サーバにも保存している。管理用サーバの操作履歴へのアクセスにはそのシステム管理権限が要り,Y 社内の限られた者しかアクセスできないので,作業者は書き換えられない。プログラム K はこの操作履歴と使用申請の作業内容を突き合わせるので,不正操作の記録が管理用サーバの操作履歴に残り,検知できる。
作業者は,共用の ID を用いて S 社 PC にログインした後に,委託用特権 ID とパスワードを用いて,S 社 PC から作業対象サーバにアクセスし,作業する。
製品 Q は,委託用特権 ID の使用をプログラム K にログインした個人 ID と結び付けて記録する。しかし個人 ID のパスワードが他人に教えられていたり,共用されていたりすれば,記録上の個人 ID の持ち主が実際に操作した者とは限らない。要件2の“使用した者を特定可能にすること”を満たすには,個人 ID が本人以外に使われるおそれがないように S 社で管理されていることを,Y 社が確認する必要がある。これが指摘1の“製品 Q の導入だけでは不十分”の中身である。
S 社では現に S 社 PC へのログインに共用の ID を使っており,ID を共用する運用があることが本文から読み取れる。講評は,この設問の正答率は低く,特権 ID を管理するシステムを導入しても不適切な利用を放置すれば効果が期待できず,システムによる管理に加えて,人的,組織的な管理策が必要であることを理解してほしいとしている。
製品 P は,管理用サーバにインストールするプログラム(以下,プログラム H という)と,PC にインストールするプログラム(以下,プログラム J という)で構成される。
案2
製品 Q は,管理用サーバにインストールするプログラム(以下,プログラム K という)だけで構成される。
冒頭
S 社 PC と FW1 は,S 社の資産である。
〔追加対策の検討〕(下線⑤)
⑤案1に比べて案2の方が必要な資産管理を実施しやすい
案1では,作業者が使う PC,つまり S 社 PC にプログラム J をインストールしなければならない。S 社 PC は S 社の資産なので,Y 社は委託先の PC に入れたプログラムのバージョンや設定を管理する必要が生じ,それは自社の資産のようには管理できない。案2のプログラム K は Y 社がサーバ LAN 上に置く管理用サーバにだけインストールするので,委託先の PC にプログラムを入れずに済み,資産管理は自社のサーバだけで完結する。
“Y 社の状況においては”とあるのは,作業者の PC が委託先 S 社の資産であることを指している。委託先の PC にインストールしたプログラムが改変されたり,古いまま放置されたりしても,Y 社からは把握しにくい。
W 社は,精密機器を製造している従業員数 500 名の会社である。W 社では,取引先との間で設計データを共有するために Web サイト(以下,サイト X という)を利用している。サイト X は,W 社の情報システム部が開発,運用しており,W 社の従業員と取引先の従業員が利用している。サイト X のネットワーク構成を図1に,システム概要を図2に示す。
図1 サイト X のネットワーク構成図2 サイト X のシステム概要
〔セキュリティインシデントの発生〕
ある日,DMZ に設置している3台のサーバで,同様のタスク実行失敗を示すイベントが出力されたので,サイト X の運用を担当している B 氏は,システム障害として調査を行った。DMZ の各サーバのイベントログを表1に示す。
B 氏は,DMZ のサーバ3台をネットワークから切り離し,取引先にサイト X の停止を通知した後,セキュリティ担当 A 氏の協力を得て,侵入経路の調査を開始した。
〔侵入経路の調査〕
A 氏は,DMZ に設置しているサーバの OS へのログイン履歴を基に,タスク実行失敗を示すイベントが出力された日時の前後のログを調査して,どのサーバが最初に侵入されたかを特定した。Web サーバ,WebAP サーバ1及び WebAP サーバ2の3台の 2015 年1月1日以降のログイン履歴は,表2~4のとおりである。
表2 Web サーバのログイン履歴表3 WebAP サーバ1のログイン履歴表4 WebAP サーバ2のログイン履歴
次は,侵入経路の調査の過程における A 氏と B 氏の会話である。
A 氏:ログイン履歴には,複数の利用者 ID のログインが記録されています。利用者 ID はどのように使い分けているのですか。
B 氏:運用では,“unyou”を使用しており,“administrator”は使用していません。
A 氏:そうだとすると,“administrator”という利用者 ID を使ってサーバにログインした者が攻撃者であると推測できます。aから bに,bから cにという順番でログインしていますね。
B 氏:それでは,最初に侵入されたサーバは,aということでしょうか。
A 氏:その可能性が高いですね。侵入された原因を特定するためには,aのアクセスログを調査する必要があります。
B 氏:ところで,ログイン履歴を見ると,失敗することなく短時間で他のサーバへのログインが成功しています。攻撃者は,どのような方法で他のサーバにログインしたのでしょうか。
A 氏:DMZ の各サーバには,“unyou”,“administrator”という利用者 ID が,全サーバに同じパスワードで設定されているようです。そうした設定では,あるサーバから他のサーバにアクセスする際,自動的にログインが行われます。攻撃者は,そのような OS の仕様を利用して,他のサーバにもログインしたようです。
〔侵入された原因の特定〕
A 氏は,インターネットから侵入された原因を特定するために,aのアクセスログを調査した。担当者にヒアリングしたところ,設定に誤りがあり,インターネットから管理画面にアクセスできるようになっていたことが分かった。aのアクセスログのうち,攻撃者の IP アドレスからのものを表5に示す。調査の結果,①サーブレットコンテナの管理画面に対して,よく使われる利用者 ID とパスワードでログインが試行され,その結果,ログインが成功したものと推測された。管理画面から,バッチファイルを aにアップロードされた後,タスクが登録されたり,バッチファイルが実行されたりしたと推測された。
A 氏:index.jsp を調査したところ,攻撃ツールであることが分かりました。指定したファイルをインターネット上のサーバにアップロードする機能,OS のファイル共有機能を使って他のサーバにファイルを転送する機能,OS のファイル共有機能を使って他のサーバ上で OS コマンドを実行する機能,及び DBMS に対して SQL を発行する機能をもっています。
〔影響範囲の特定〕
A 氏は,内部 LAN 及び管理 LAN への影響を特定するために,FW のフィルタリングルールを確認して,侵入されたサーバからどの範囲がアクセス可能だったかを調査することにした。FW のフィルタリングルールを表6に示す。W 社のポリシでは,業務上必要なサービスだけを FW で許可することになっているが,②FW のフィルタリングルールにはポリシを満たしていないものがあることが判明した。
表6 FW のフィルタリングルール
次に,A 氏は,タスク実行失敗を示すイベントが発生した日以降の,FW のログを調査し,内部 LAN 及び管理 LAN への影響がないことを確認した。
〔対策とシステム再稼働〕
A 氏と B 氏は,影響範囲が DMZ のサーバ3台だけであったことから,それらのサーバの再構築を行った後,次の対策を実施した。
(a) WebAP サーバ1と WebAP サーバ2に,図4のアクセス制御の設定を行うことで,送信元の IP アドレスが 127.0.0.1 である場合だけ,サーブレットコンテナの管理画面へのアクセスを許可する。
図4 アクセス制御の設定
(b) 各サーバの利用者 ID“administrator”を無効化し,利用者 ID“unyou”は,サーバごとに異なる利用者 ID に変更し,さらに,パスワードもサーバごとに異なるものに変更する。
W 社では,B 氏が経営幹部に不正アクセスの調査結果を報告し,承認を得てシステムを再稼働させた後,取引先に通知し,インシデント対応を完了した。
今回の侵入の入口は,設定の誤りによってインターネットからサーブレットコンテナの管理画面にアクセスでき,よく使われる利用者 ID とパスワードでログインされたことである。(a)は管理画面へのアクセスを送信元 127.0.0.1(そのサーバ自身)に限るので,インターネットからの管理画面への不正アクセスを防ぐ。
(b) 各サーバの利用者 ID“administrator”を無効化し,利用者 ID“unyou”は,サーバごとに異なる利用者 ID に変更し,さらに,パスワードもサーバごとに異なるものに変更する。
A 氏の発言
そうした設定では,あるサーバから他のサーバにアクセスする際,自動的にログインが行われます。攻撃者は,そのような OS の仕様を利用して,他のサーバにもログインしたようです。
A 氏の説明のとおり,DMZ の各サーバは“unyou”“administrator”を全サーバに同じパスワードで設定していたので,あるサーバから他のサーバにアクセスすると自動的にログインが行われた。攻撃者はこの OS の仕様を利用して,WebAP サーバ2 から WebAP サーバ1,Web サーバへと侵入を広げた。(b)で利用者 ID とパスワードをサーバごとに異なるものにすれば自動的なログインが起きなくなり,この他のサーバへの侵入を防げる。