ITストラテジスト試験の午後Ⅱは,自分の経験をもとに2時間で答案を書く論述式です。 このページでは,当サイトが収録している16年度分・46問の出題テーマと採点講評を読み比べて, 出題の傾向,くり返し指摘されていること,設問ア〜ウの書き方をまとめます。 最後に,令和7年度の2問について骨子(答案の設計図)の例を載せます。
午後Ⅱの形
- 試験時間は120分。令和6年度からは2問出題・1問選択です(令和5年度までは組込みシステムの問3を含む3問から1問)
- 設問はア・イ・ウの3つ。字数はアが800字以内(令和7年度からは400字以上800字以内),イが800字以上1,600字以内,ウが600字以上1,200字以内です
- 答案用紙の冒頭には,設問とは別に「論述の対象とする構想,計画策定,システム開発などの概要」を記入する欄があります。後で述べるとおり,ST ではこの欄がほぼ毎年講評で取り上げられています
時間配分や練習の進め方など,区分によらない進め方は高度試験の勉強方法にまとめています。
出題テーマの傾向
平成21年度から令和7年度までの問題名(組込みシステムの問3を除く)を並べると,問われる場面は次のように分けられます。 どの場面でも,経営や事業の課題から出発して,IT で何をどう変えるかを問う点は共通しています。
| 場面 | 問題名の例 |
|---|---|
| 事業戦略・ビジネスモデル | ITを活用した事業戦略の策定(平成24年度),事業目標の達成を目指すIT戦略の策定(平成30年度),ITを活用したビジネスモデル策定の支援(令和元年度),新しいビジネスモデルの策定(令和6年度) |
| DX・業務の改革 | ITを活用した業務改革(平成26年度),デジタルトランスフォーメーションを実現するための新サービスの企画(令和3年度),DX(デジタルトランスフォーメーション)の実現に向けた新たな情報技術の採用(令和6年度),DXの企画策定(令和7年度) |
| 新サービス・データ活用 | 経営戦略実現に向けた戦略的なデータ活用(平成25年度),ビッグデータを活用した革新的な新サービスの提案(平成28年度),ITを活用した顧客満足度を向上させる新商品や新サービスの企画(令和4年度) |
| システム化構想・計画 | 事業環境の変化を考慮した個別システム化構想の策定(平成22年度),個別システム化構想におけるステークホルダの意見調整(令和3年度),基幹システムの再構築における開発の優先順位付け(令和4年度),基幹システムの刷新方針の策定(令和7年度) |
| 投資効果・評価・分析 | IT導入の企画における業務分析(平成28年度),IT導入の企画における投資効果の検討(平成29年度),情報システムの目標達成の評価(平成29年度),ITシステムに関わる改修要望の分析と対応方針の立案(令和5年度) |
令和3年度以降は,DX(令和3・6・7年度)や新しいビジネスモデル(令和6年度)を扱う問題が目立ちます。 一方で,基幹システムの再構築・刷新のようなシステム化構想・計画の問題もくり返し出ています。 題材は,新しい事業やサービスを企画した経験と,既存システムの構想・計画に関わった経験の両方を用意しておくと安心です。
令和5年度までの問3(組込みシステム)は,令和6年度から出題されていません。
採点講評でくり返し指摘されていること
IPA は毎年,採点講評で答案の傾向を公表しています。年度をまたいで読み比べると,同じ指摘が何度も出てきます。 裏を返せば,ここを避けるだけで答案の評価は上がりやすいということです。
1. 答案用紙の「概要」の欄が不十分,または本文と食い違う
平成24年度から令和7年度までの13回のうち12回,全問に共通する講評で指摘されています。 令和7年度の講評は「“論述の対象とする構想,計画策定,システム開発などの概要”が適切に記述されていないものやシステム規模,総額などの整合性がとれないものが散見された」としています。
概要の欄は評価の対象です。本文で書く金額・期間・人数・システムの規模と,欄に書いた数字が一致しているかを,見直しの時間に必ず確かめます。 題材を用意するときに,概要の欄に書く項目まで決めておくと食い違いが起きにくくなります。
2. 経営の話ではなく,システム導入の話になっている
ST の講評で特に多い指摘です。業務改善やシステム導入に終始している,使った技術を挙げるだけで経営課題とのつながりがない,といった答案が多くの年度で挙げられています。 令和元年度の講評は「ディジタル技術を活用したシステム導入に終始している論述も少なくなかった」, 令和6年度の講評は「デジタル技術の導入に終始している論述も散見された」と書いています。 令和4年度の講評は,クラウドやマイクロサービスの活用だけを書いた論述を挙げたうえで「ITストラテジストとして,それらがどのように経営課題を解決するかを具体的に論述してほしい。」としています。
技術や仕組みを書いたら,必ず「それで経営・事業の何が変わるのか」を続けて書きます。 「クラウドに移した」ではなく,「保守費を〇割減らし,その分を新サービスの投資に回せるようにした」の形です。
3. 投資効果や AI の中身が具体的でない
平成30年度の講評は「投資効果について,前提条件,算出根拠や実現可能性などを具体的かつ定量的に記述できていない論述も少なくなかった」としています。 最近では AI についての指摘が増え,令和6年度は全問に共通して「活用したAIについて具体性に乏しい論述が散見された」, 令和7年度は「AIは万能という論調で論述して,AIの中身に具体性のない論述などが散見された」とされています。
投資効果は,金額と,その金額を出した前提(件数・単価・削減時間など)をセットで書きます。 AI を使うなら,何のデータで何を予測・判定し,その結果を業務の誰がどう使うのかまで書きます。
4. 経営層や事業部門とのやり取りが書かれていない
ST の設問ウは,経営層や事業部門への提案・説明と,その評価を問うことがほとんどです(組込みの問3を除く32問のうち24問)。 令和7年度の講評は,対応策について「ITストラテジストの考えだけを論述し,経営層や事業部門との協議内容が論述されていないものが見受けられた」としています。
「誰に,何を説明し,どんな指摘を受け,それを受けて何を直したか」を,相手の立場が分かるように書きます。 指摘を受けて直したことは,評価のどの点を受けて,計画のどこを変えたのかが対応して見えるようにします。
5. 字数が足りない
平成27・28年度は「解答字数の不足した答案」,令和4・5年度は「字数が少なくて経験や考えを十分に表現できていない論述も目立った」と,全問に共通する講評で指摘されています。 設問イ・ウは字数の下限(800字・600字)があるので,時間配分を決めて書き切る練習をしておきます。
設問ア〜ウの書き方
設問ア:事業の概要・特性と課題(400〜800字)
ST の設問アは,事業の概要と事業特性を問うことが多いのが特徴です(組込みの問3を除く32問のうち25問)。 システムの説明から入らず,まず「どんな事業で,何が強みで,どんな経営課題を抱えているか」を書きます。
- 事業の概要(業種・規模・顧客)と事業特性(収益の構造,競争のポイント,季節性など)を書く
- 経営課題は,設問イの施策で解決するものにする。課題と施策がつながらないと,答案全体の筋が通らない
- 規模や金額は,答案用紙冒頭の概要の欄と一致させる
設問イ:何を企画・策定したか(800〜1,600字)
答案の中心です。「経営課題 → 検討した案 → 選んだ案と理由 → 経営上の効果」の流れで書きます。
- 「現行の延長」と「大きく変える案」など,複数の案を比べた経緯を入れると,ST らしい判断が見える
- 効果は,売上・利益・コスト・期間など経営の言葉で,できるだけ数字で書く
- 設問に「特に重要と考えて工夫したこと」があれば,独立した段落にして見出しを付ける
設問ウ:経営層・事業部門への説明と評価(600〜1,200字)
- 相手ごとに関心事が違う(経営層は投資と効果,事業部門は業務への影響)ことを踏まえ,何をどう説明したかを書く
- 受けた評価や指摘は具体的に書き,それを受けて改善したことを対応させる
- 令和7年度の問2のように,説明ではなく「阻害要因と対応策」を問う年もある。設問文の項目に合わせる
骨子の例:令和7年度
骨子は,書き始める前に作る答案の設計図です。本番では構成に15分ほどかけ, 設問ごとに「何を,どの順で書くか」をメモしてから書き始めます。
ここに載せる骨子は,書き方を示すために運営者が作った架空の事例です。 IPA の解答例ではありません(IPA は午後Ⅱの解答例を公表していません)。 実際の答案は,自分が関わった事業とシステムで組み立ててください。
問1 基幹システムの刷新方針の策定について
題材の例:住宅設備機器のメーカ(売上約300億円)で,20年以上改修を重ねてきた販売・生産の基幹システムの刷新方針を策定した。
| 設問 | 書くこと(字数の目安) |
|---|---|
| ア |
|
| イ |
|
| ウ |
|
ポイント:講評が挙げた「基幹システムの技術的な課題の解決だけを目指して,古いIT基盤をクラウド基盤に更改するなどの論述」を避けるため, アの課題を経営上の課題(人材・投資余力)として書き,イの有効性をその課題の解決として書いています。
問2 DXの企画策定について
題材の例:首都圏の中小スーパー約300店に日配品を卸す食品卸で,配送の仕組みを変える DX の企画を策定した。
| 設問 | 書くこと(字数の目安) |
|---|---|
| ア |
|
| イ |
|
| ウ |
|
ポイント:講評が挙げた「デジタル技術の導入,データ活用について終始し,変革については曖昧な論述」を避けるため, アで「何を,どう変えるか」(取引の仕組みと営業の役割)をはっきり書いています。 ウは,講評の指摘を受けて,経営層・営業部門それぞれの意思を対応策のどこに取り入れたかを書いています。
過去の出題テーマ
当サイトに収録している ST の午後Ⅱの問題名です。年度を選ぶと,問題文・出題趣旨・採点講評を読めます。
- 令和7年度 春期
問1 基幹システムの刷新方針の策定について
問2 DXの企画策定について - 令和6年度 春期
問1 DX(デジタルトランスフォーメーション)の実現に向けた新たな情報技術の採用について
問2 新しいビジネスモデルの策定について - 令和5年度 春期
問1 ITシステムに関わる改修要望の分析と対応方針の立案について
問2 個別システム化計画におけるシステムリスク対応方針の立案について
問3 組込みシステム・IoT製品の社会環境の急変に勝ち抜くための革新的な製品戦略について - 令和4年度 春期
問1 ITを活用した顧客満足度を向上させる新商品や新サービスの企画について
問2 基幹システムの再構築における開発の優先順位付けについて
問3 経営環境の急激な変化に伴う組込みシステム事業の成長戦略の意思決定について - 令和3年度 春期
問1 デジタルトランスフォーメーションを実現するための新サービスの企画について
問2 個別システム化構想におけるステークホルダの意見調整について
問3 異業種メーカとの協業による組込みシステムの製品企画戦略について - 令和元年度 秋期
問1 ディジタル技術を活用した業務プロセスによる事業課題の解決について
問2 ITを活用したビジネスモデル策定の支援について
問3 組込みシステムの製品企画における調達戦略について - 平成30年度 秋期
問1 事業目標の達成を目指すIT戦略の策定について
問2 新しい情報技術や情報機器と業務システムを連携させた新サービスの企画について
問3 組込みシステムの製品企画戦略における市場分析について - 平成29年度 秋期
問1 IT導入の企画における投資効果の検討について
問2 情報システムの目標達成の評価について
問3 組込みシステムにおける事業環境条件の多様性を考慮した製品企画戦略について - 平成28年度 秋期
問1 ビッグデータを活用した革新的な新サービスの提案について
問2 IT導入の企画における業務分析について
問3 IoTに対応する組込みシステムの製品企画戦略について - 平成27年度 秋期
問1 ITを活用したグローバルな事業について
問2 緊急性が高いシステム化要求に対応するための優先順位・スケジュールの策定について
問3 多様な顧客要求に応えられる組込みシステムの製品企画について - 平成26年度 秋期
問1 ITを活用した業務改革について
問2 情報システム基盤構成方針の策定の一環として行うクラウドコンピューティング導入方針の策定について
問3 組込みシステムの非機能要件について - 平成25年度 秋期
問1 経営戦略実現に向けた戦略的なデータ活用について
問2 新たな収益源の獲得又は売上拡大を実現するビジネスモデルの立案について
問3 組込みシステムの製品戦略におけるプロモーションの支援について - 平成24年度 秋期
問1 ITを活用した事業戦略の策定について
問2 事業継続計画の策定について
問3 技術動向の分析に基づいた組込みシステムの企画について - 平成23年度 秋期
問1 情報通信技術を活用した非定型業務の改革について
問2 事業の急激な変化に対応するためのシステム選定方針の策定について
問3 組込みシステムの企画・開発計画におけるリスク管理について - 平成22年度 秋期
問1 事業環境の変化を考慮した個別システム化構想の策定について
問2 情報システムの追加開発における業務の見直しについて
問3 既存製品の性能向上,機能追加を目的とした組込みシステムの製品企画について - 平成21年度 秋期
問1 事業施策に対応した個別情報システム化構想の立案について
問2 情報システム活用の促進策の立案について
問3 開発工程の遅延に対処するための組込み製品の企画の変更について