デジタルツインは,工場の設備や建物,都市といった現実のものを,センサで集めたデータを使ってコンピュータの中(仮想空間)にそっくり再現したものです。 「デジタルの双子」という意味で,現実の変化に合わせて仮想の側も更新し続けます。 現実では試せないこと(設備を壊してみる,災害を起こしてみる,何年も先まで時間を進めてみる)を,仮想の側で安全にシミュレーションできます。
シラバスでの扱い
デジタルツインは,応用情報技術者試験シラバス Ver.6.3 の時点で, 「大分類8:経営戦略」の「中分類21:ビジネスインダストリ」にある「ビジネスシステム」の用語例に,IoT やブロックチェーンの活用と並んで載っています。 2023年12月25日に公開された Ver.7.0 では,そのすぐ後に「サイバーフィジカルシステム(CPS)」が加わりました。
ただし CPS は,シラバスに加わる前から午前で出題されていました(令和2年度10月・令和4年度春期・令和4年度秋期)。 シラバスの用語例は出題の範囲を限るものではない,ということがよく分かる例です。 当サイトが収録している過去問(令和7年度秋期まで)では,デジタルツインが1問,CPS が4問出題されています。
出典:応用情報技術者試験 シラバス Ver.7.0, 同 Ver.6.3(いずれも2026年10月4日に確認)
デジタルツインと CPS の関係
2つはよく似た説明で出題されるので,どこまでを指すかで区別します。
| 指すもの | 過去問の正解の文言 | |
|---|---|---|
| デジタルツイン | 現実を仮想空間に再現したものと,そこで行うシミュレーション | 「ディジタル空間に現実世界と同等な世界を,様々なセンサで収集したデータを用いて構築し,現実世界では実施できないようなシミュレーションを行うこと」 |
| CPS | データを集め,仮想空間で分析し,結果を現実に返すまでの仕組み全体 | 「現実世界のデータを収集し,仮想世界で分析・加工して,現実世界側にリアルタイムにフィードバックすることによって,付加価値を創造する仕組み」 |
つまり CPS は「集める → 分析する → 現実に返す」の輪で,デジタルツインはその輪の中の「分析する」場所にあたります。 令和2年度10月の問題では,都市のデータで仮想世界を作って災害のシミュレーションを行う例が,CPS を活用している事例として正解になっています。
CPS は,ドイツが掲げた製造業の変革「インダストリー4.0」の中心の考え方で, 日本が目指す「Society 5.0」(サイバー空間とフィジカル空間を高度に融合させた超スマート社会)も同じ考え方に立っています。
見分けたいほかの技術
CPS の問題の誤りの選択肢には,次のものが繰り返し並びます。
- サーバの仮想化:「1台のサーバ上で複数の OS を動かし,複数のサーバとして運用する仕組み」。仮想の側に作るのはサーバで,現実の再現ではありません
- VR(仮想現実):仮想世界への没入感を与える技術。人が体験するためのもので,現実のデータを分析して返す仕組みではありません
- 暗号資産:国家による強制通用力をもたない電子的な通貨
- メタバース(選択肢には出ていません):人が集まって交流する仮想空間で,現実をそっくり再現することは目的にしていません
試験での問われ方
当サイトが収録している午前の問題のうち,デジタルツインか CPS が出てくるのは5問です。 CPS の説明を選ぶ問題が3問(ITストラテジストの午前Ⅱ 令和4年度春期・令和7年度春期,午前Ⅰ 令和4年度秋期), CPS の活用事例を選ぶ問題が1問,デジタルツインの説明を選ぶ問題が1問です。
これから問われそうなところ(予想):
- デジタルツインと CPS の見分け:再現したものか,現実に返す仕組み全体か
- 活用事例を選ぶ形:製造設備の故障の予兆を仮想空間で調べて保守の時期を決める,都市の人の流れを再現して避難計画を立てる,など
- ITストラテジスト・システムアーキテクトの午後:工場や施設のデータを集めて仮想空間で最適な運転条件を探し,現場の設備に反映する事例
出題された過去問(5問)
リンク先の年度ページで,問題と解説を読めます。
午前Ⅰ(高度試験 共通)(3問)
- 令和4年度 秋期 問28サイバーフィジカルシステム(CPS)の説明として,適切なものはどれか。
- 令和2年度 10月 問27CPS(サイバーフィジカルシステム)を活用している事例はどれか。
- 平成31年度 春期 問28IoT 活用におけるディジタルツインの説明はどれか。
ITストラテジスト 午前Ⅱ(2問)
- 令和7年度 春期 問17サイバーフィジカルシステム(CPS)の説明として,適切なものはどれか。
- 令和4年度 春期 問17インダストリー4.0 の重要な概念であるサイバーフィジカルシステム(CPS)の説明はどれか。
近い論点で出題された過去問
IoT の効果の段階と,Society 5.0 の問題です。
- 午前Ⅰ(高度試験 共通) 平成30年度 秋期 問27IoT がもたらす効果を“監視”,“制御”,“最適化”,“自律化”の4段階に分類すると,IoT …
- 午前Ⅰ(高度試験 共通) 令和3年度 春期 問27政府は,IoT を始めとする様々な ICT が最大限に活用され,サイバー空間とフィジカル空間とが…
予想問題(オリジナル)
当サイトが作ったオリジナルの問題です。IPA の過去問ではありません。ほかの用語の予想問題の一覧
問1製造業におけるデジタルツインの活用例として,最も適切なものはどれか。
- ア生産ラインの設備にセンサを付けて稼働データを集め,仮想空間に同じ生産ラインを再現して,部品の摩耗が進んだときの影響を試算し,保守の時期を決める。
- イ製品の設計データを社外の 3D プリンタに送り,試作品を短時間で製作する。
- ウ工場の基幹システムを正副の二重に用意し,災害時にも生産管理を継続できるようにする。
- エ作業者がヘッドマウントディスプレイを装着し,仮想の工場の中で組立ての手順を体験して訓練する。
正解と解説
正解:ア
現実の設備のデータで仮想空間に同じものを作り,現実では試せないシミュレーションをして,その結果を現実の判断に使っています。
- イ:3D プリンタによる試作で,現実を仮想空間に再現するものではありません(平成31年度春期の誤りの選択肢と同じ考え方)。
- ウ:システムの冗長化です。
- エ:VR を使った訓練です。現実の工場のデータを取り込んで同期させているわけではありません。
問2デジタルツインとサイバーフィジカルシステム(CPS)の関係に関する記述として,最も適切なものはどれか。
- アデジタルツインは仮想世界だけで完結する技術であり,現実世界のデータは用いない。
- イCPS は,現実世界のデータを収集し,仮想世界で分析して,現実世界にフィードバックする仕組み全体を指し,デジタルツインはその分析に用いる,現実を再現した仮想のモデルにあたる。
- ウCPS は,サイバー攻撃から制御システムを守るためのセキュリティ製品の総称であり,デジタルツインとは関係がない。
- エデジタルツインは,一つの物理サーバ上に同じ構成の仮想サーバを二つ作り,片方が故障したら他方に切り替える冗長化の技術である。
正解と解説
正解:イ
CPS は「集める・分析する・現実に返す」の輪全体,デジタルツインはその中で現実をそっくり再現した仮想のモデルです。
- ア:デジタルツインは,センサなどで集めた現実のデータで仮想の側を作り,更新し続けます。
- ウ:CPS はセキュリティ製品の総称ではありません。令和4年度春期では,制御ネットワークの機器を安全に維持管理するシステムが誤りの選択肢でした。
- エ:サーバの仮想化と冗長化の説明で,名前の「ツイン(双子)」から連想させる誤りです。